IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セイコーエプソン株式会社の特許一覧

特許7639272マグネシウムチクソモールディング射出成形用材料
<>
  • 特許-マグネシウムチクソモールディング射出成形用材料 図1
  • 特許-マグネシウムチクソモールディング射出成形用材料 図2
  • 特許-マグネシウムチクソモールディング射出成形用材料 図3
  • 特許-マグネシウムチクソモールディング射出成形用材料 図4
  • 特許-マグネシウムチクソモールディング射出成形用材料 図5
  • 特許-マグネシウムチクソモールディング射出成形用材料 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-25
(45)【発行日】2025-03-05
(54)【発明の名称】マグネシウムチクソモールディング射出成形用材料
(51)【国際特許分類】
   C22C 23/02 20060101AFI20250226BHJP
   B22D 17/00 20060101ALI20250226BHJP
【FI】
C22C23/02
B22D17/00 540
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020050632
(22)【出願日】2020-03-23
(65)【公開番号】P2021147681
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 公一
(72)【発明者】
【氏名】福田 忠生
(72)【発明者】
【氏名】秀嶋 保利
(72)【発明者】
【氏名】中村 英文
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-044227(JP,A)
【文献】特開平10-317077(JP,A)
【文献】特開2005-256133(JP,A)
【文献】特表平08-501128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 23/00-23/06
B22D 15/00-17/32
B22F 1/00- 9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウムチクソモールディング射出成形用材料であって、
含有される物質のうち含有率が最も高い物質がMgである粉末と、
含有される物質のうち含有率が最も高い物質がMgであるチップと、を含み、
前記マグネシウムチクソモールディング射出成形用材料における前記粉末の割合は5質
量%以上45質量%以下であり、
前記粉末のタップ密度は0.15g/cm3以上である、
マグネシウムチクソモールディング射出成形用材料。
【請求項2】
請求項1に記載のマグネシウムチクソモールディング射出成形用材料であって、
前記粉末はCaを含有する、マグネシウムチクソモールディング射出成形用材料。
【請求項3】
請求項2に記載のマグネシウムチクソモールディング射出成形用材料であって、
前記粉末におけるCaの含有量は、0.2質量%以上である、マグネシウムチクソモー
ルディング射出成形用材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はマグネシウムチクソモールディング射出成形用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マグネシウム合金製の部品が、自動車、航空機、携帯電話、ノートパソコン等の製品に使用されている。マグネシウムは鉄やアルミニウム等と比較して比強度が高いため、マグネシウム合金を用いて製造された部品は、軽量かつ高強度となり得る。また、マグネシウムは、地表付近に豊富に存在するため、資源の入手の点でも利点を有する。
【0003】
マグネシウム製の部品を製造する方法の1つとして、チクソモールディングが知られている。チクソモールディングでは、材料が、加熱と剪断とによって流動性を高められ、金型内に射出されるため、ダイカスト法に比べ薄肉な部品や複雑な形状の部品を成形できる。また、材料が大気に触れることなく金型内に射出されるため、SF等の防燃ガスを用いることなく、成形物を成形できるという利点もある。
【0004】
チクソモールディング用の材料としては、チップやペレット、粉末等が用いられる。例えば、特許文献1には、チクソモールディング用材料として用いられるマグネシウム基合金粉末が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-44227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、上記の材料を用いて成形された成形物は、高い強度を有することが示されている。しかしながら、特許文献1に示されているような粉末状のマグネシウム材料を用いてチクソモールディングを行う場合、成形物の強度にばらつきが生じる可能性があることを、本願発明者らは見出した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の形態によれば、マグネシウムチクソモールディング射出成形用材料が提供される。このマグネシウムチクソモールディング射出成形用材料は、主成分としてMgを含有する粉末と、主成分としてMgを含有するチップと、を含む。前記マグネシウムチクソモールディング射出成形用材料における前記粉末の割合は5質量%以上45質量%以下であり、前記粉末のタップ密度は0.15g/cm以上である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】射出成形機の構成の一例を示す概略図である。
図2】混合材料の製造方法の一例を示す工程図である。
図3】成形物の製造方法の一例を示す工程図である。
図4】実験結果を示す図である。
図5】実験結果を示す図である。
図6】各サンプルの成形に使用された金型のキャビティーの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.実施形態:
図1は、チクソモールディングに用いられる射出成形機1の構成の一例を示す概略図である。チクソモールディングとは、加熱と剪断とによって、チップや粉末等の材料をスラリー化し、スラリーを大気に触れさせることなく射出し、所望の形状の成形物を得る方法である。チクソモールディングでは、一般的に、ダイカスト法等に比べて低温で成形物が成形され、成形物の組織が均一化されやすい。そのため、チクソモールディングで成形物を成形することによって、成形物の機械的強度および寸法精度が向上し得る。なお、本明細書中で、単に「成形物」と言った場合、チクソモールディングによって成形されたものを指す。
【0010】
チクソモールディングによる成形物は、種々の製品を構成する部品等に用いられる。成形物は、例えば、自動車用部品、鉄道車両用部品、船舶用部品、航空機用部品のような輸送機器用部品の他、パソコン用部品、携帯電話端末用部品、スマートフォン用部品、タブレット端末用部品、ウェアラブルデバイス用部品、カメラ用部品のような電子機器用部品、装飾品、人工骨、人工歯根等の各種構造体に用いられる。
【0011】
図1に示したように、射出成形機1は、キャビティーCvを形成する金型2と、ホッパー5と、ヒーター6を有する加熱シリンダー7と、スクリュー8と、ノズル9とを、備える。射出成形機1でチクソモールディングが行われる際には、まず、材料がホッパー5へと投入される。投入された材料はホッパー5から加熱シリンダー7へと供給される。加熱シリンダー7へと供給された材料は、ヒーター6によって、加熱シリンダー7内で加熱されながら、スクリュー8によって移送されつつ剪断されてスラリー化する。スラリーは、ノズル9を介して、大気に触れることなく、金型2内のキャビティーCvへと射出される。
【0012】
本実施形態のマグネシウムチクソモールディング射出成形用材料は、主成分としてマグネシウム(Mg)を含有する粉末と、主成分としてMgを含有するチップとを、含む。マグネシウムチクソモールディング射出成形用材料における粉末の割合は5質量%以上45質量%以下である。粉末のタップ密度は0.15g/cm以上である。なお、主成分とは、粉末またはチップに含有される物質のうち、含有率が最も高い物質のことをいう。また、マグネシウムチクソモールディング射出成形用材料のことを、単に「混合材料」と呼ぶこともある。
【0013】
チップとは、鋳型等で鋳込みされたMg合金を、切削または切断することで得られる切片のことを指す。なお、チップは、Mgを主成分とするチップであれば、別の組成や形状を有していてもよい。なお、チップのことをペレットと呼ぶこともある。
【0014】
粉末とは、略球状または鱗片状を有する、Mg合金の金属粒を指す。粉末は、アトマイズ法により製造されると好ましく、高速回転水流アトマイズ法により製造されるとより好ましい。なお、アトマイズ法としては、高速回転水流アトマイズ法の他、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法等が挙げられる。また、粉末は、アトマイズ法以外で製造されてもよく、例えば、還元法、カルボニル法等により製造されてもよい。
【0015】
高速回転水流アトマイズ法では、まず、冷却用筒体の内周面に沿って冷却液を噴出供給し、冷却用筒体内周面に沿って旋回させることにより、内周面に冷却液層を形成する。さらに、Mg合金の原材料を溶融し、得られた溶融金属を自然落下させつつ、これに液体または気体のジェットを吹き付ける。これによって、溶融金属が飛散して微小化するとともに、冷却液層へと吹き飛ばされ、冷却液層に取り込まれる。その結果、飛散して微小化した溶融金属が急速冷却されて固化し、Mg合金粉末が得られる。高速回転水流アトマイズ法では、溶融状態にある原材料が短時間で急速に冷却されるため、材料の結晶組織がより微細化される。その結果、機械的特性に優れた成形物を成形可能な粉末が得られる。
【0016】
冷却用筒体に供給される冷却液の噴出時の圧力は、50MPa以上200MPa以下であると好ましい。また、冷却液の温度は-10℃以上40℃以下であると好ましい。これによって、飛散した溶融金属が、冷却液層において、適度に、かつ、ムラなく冷却される。
【0017】
Mg合金の原材料を溶融する溶融温度は、Mg合金の融点Tmに対し、Tm+20℃以上Tm+200℃以下に設定されるのが好ましく、Tm+50℃以上Tm+150℃以下に設定されるのがより好ましい。これにより、Mg合金粉末を構成する粒子間の特性のばらつきが特に小さく抑えられる。
【0018】
高速回転水流アトマイズ法では、各種条件を調整することによって、例えば、製造されるMg合金粉末の粒径、タップ密度、平均DAS等を調整することができる。「平均DAS」とは、平均デンドライト二次アーム間隔のことを指す。例えば、冷却液の流速や流量を高めることによって、平均DASを小さくすることができる。また、溶融金属の流下量、液体または気体のジェットの流速、または、冷却液の流速や流量を調整することによって、Mg合金粉末の粒径、形状、酸化物層の厚さ並びに、タップ密度を調整することができる。
【0019】
なお、高速回転水流アトマイズ法において、液体または気体のジェットを用いることなく、溶融金属を直接、冷却層へと到達させてもよい。この場合、例えば、冷却用筐体は、溶融金属の自然落下の方向に対して傾いて配置される。これによって、溶融金属は、自然落下によって冷却液層へと到達し、冷却液層に取り込まれる。このような構成の場合、冷却液層の流れによって溶融金属が微小化されるとともに冷却固化され、比較的大きな粒径を有するMg合金粉末が得られる。
【0020】
粉末はチップと比べて微細な組織を有し、成分偏析が少ないため、チクソモールディングに粉末状の材料を用いることによって、成形物の強度を高めることができる。一方で、チクソモールディングに、粉末状の材料のみで構成された材料が用いられた場合、成形物の強度にばらつきが生じる可能性がある。成形物の強度のばらつきは、例えば、成形物中の気泡の有無によって生じる。成形物中の気泡は、例えば、材料が金型へと射出される際に、空気を巻き込むことによって生じる。市販されているチクソモールディング成型機のスクリューは、材料としてチップを用いる場合に適した形状であるため、材料として粉末を用いる場合、この空気の巻き込みが生じやすい。特に、粉末のタップ密度が0.15g/cm未満である場合、粉末は、金型へと射出される際に、より空気を巻き込みやすい。なお、成形物中の気泡のことを、「ボイド」と呼ぶこともある。
【0021】
本実施形態の混合材料は、上述した割合で混合されたチップと粉末とによって構成されている。また、混合材料を構成する粉末のタップ密度は0.15g/cm以上である。そのため、この混合材料がチクソモールディング用の材料として用いられることによって、粉末の材料のみで構成された材料が用いられる場合と比較して、成形物の強度のばらつきが抑制される。さらに、チップのみで構成された材料が用いられる場合と比較して、成形物の強度が向上する。
【0022】
粉末は、主成分であるMgに加え、添加成分としてカルシウム(Ca)を含有していると好ましい。粉末にCaが含まれることによって、粉末の発火温度が上昇する。粉末やチップの発火温度が上昇することによって、混合材料は、より安全かつ効率的に加工されやすくなる。さらに、粉末におけるCaの含有量は、0.2質量%以上であると、より好ましい。粉末におけるCaの含有量が0.2質量%以上であることによって、粉末の発火温度が上昇するとともに、成形物の強度がより高くなる。なお、例えば、チップがCaを含有していてもよい。Caは、例えば、粉末やチップにおいて、単体、酸化物、金属間化合物等の状態で存在し得る。また、例えば、Caは粉末において、MgやMg合金等の金属組織中の結晶粒界に偏析していてもよいし、均一に分散していてもよい。
【0023】
粉末およびチップは、例えば、添加成分としてアルミニウム(Al)を含有していてもよい。粉末にAlが添加されることによって、粉末の融点が低下する。同様に、チップにAlが添加されることによって、チップの融点が低下する。粉末やチップの融点が低下することによって、混合材料は、より安全かつ効率的に加工されやすくなる。Alは、例えば、粉末やチップにおいて、単体、酸化物、金属間化合物等の状態で存在し得る。また、例えば、Alは、粉末やチップにおいて、MgやMg合金等の金属組織中の結晶粒界に偏析していてもよいし、均一に分散していてもよい。更に、粉末およびチップは、上述のMg、Ca、およびAl以外の、その他の成分を含んでいてもよい。
【0024】
粉末やチップにおけるCa等の添加成分の含有量は、例えば、電子線マイクロ分析(EPMA)によって測定できる。添加成分の含有量は、例えば、スパーク放電発光分析(OES)、X線光電子分光分析(XPS)、2次イオン質量分析(SIMS)、オージェ電子分光分析(AES)、ラザフォード後方散乱分析(RBS)等によって測定されてもよい。
【0025】
粉末のタップ密度は、JIS規格Z2512に従って測定できる。具体的には、0.1g単位ではかりとった試料を100cmの測定容器に入れ、測定容器をタッピング装置に取り付ける。その後、タッピングを行い、測定容器の目盛から試料の体積を読み取る。タップ密度は、試料の質量を、試料の体積で除すことによって求められる。なお、測定容器は、JIS規格Z2512に示されているように、25cmの測定容器であってもよい。
【0026】
図2は、本実施形態に係る混合材料の製造方法の一例を示す工程図である。上述したように、混合材料は、チップと粉末とが混合されることによって製造される。
【0027】
まず、ステップS110において、チップと粉末とを用意する。次に、ステップS120において、チップと粉末とを混合する。ステップS120では、例えば、チップと粉末とを蓋付きの1リットル容器に入れ、震盪する。これによって、混合材料が製造される。
【0028】
図3は、混合材料を用いた、チクソモールディングによる成形物の製造方法の一例を示す工程図である。成形物を製造するには、まず、ステップS210において、図2に示した製造方法で製造された混合材料を用意する。次に、ステップS220において、チクソモールディングによって成形を行う。これによって、混合材料を用いた成形物が製造される。
【0029】
チクソモールディングにおけるスラリーの温度は、材料の組成やキャビティーCvの形状等に応じて適宜設定される。本実施形態では、スラリーの温度は、500℃以上650℃以下に設定されると好ましく、550℃以上630℃以下に設定されるとより好ましい。スラリーの温度が上記の範囲に設定されることによって、スラリーの粘度が適正となる。これによって、成形物の寸法精度が高まる。
【0030】
本実施形態における成形物の製造方法では、粉末とチップとが予め混合された混合材料が、図1に示した射出成形機1のホッパー5へと投入される。そのため、材料として、粉末とチップとが別個に射出成形機1に投入される場合と比べ、材料が加熱シリンダー7内で均一に分散するため、金型2へと射出されるスラリーの状態が安定する。これによって、製造される成形物の強度が安定する。なお、例えば、混合材料は、射出成形機1に投入される直前に製造されてもよい。この場合、例えば、ホッパー5内に混合機構を設けることによって、予め混合した混合材料と同等な混合材料がホッパー5内で製造され、ホッパー5内で製造された混合材料が射出成形機1へと投入される構成としてもよい。
【0031】
以上で説明した本実施形態の混合材料によれば、混合材料における粉末の割合は5質量%以上45質量%以下であり、粉末のタップ密度は0.15g/cm以上である。そのため、粉末の材料のみで構成された材料を用いてチクソモールディングが行われる場合と比較して、成形物の強度のばらつきが抑制される。さらに、チップのみで構成された材料を用いてチクソモールディングが行われる場合と比較して、成形物の強度が向上する。
【0032】
また、本実施形態では、粉末は、Caを含有している。そのため、粉末の発火温度が上昇し、混合材料が、より安全かつ効率的に加工されやすくなる。
【0033】
また、本実施形態では、粉末におけるCaの含有量が0.2質量%以上である。そのため、粉末の発火温度が上昇するとともに、成形物の強度がより高くなる。
【0034】
B.実験結果:
実験用サンプルとして種々の混合材料を作成し、混合材料を用いて成形された成形物の耐力試験を行うことによって、上記実施形態の効果を検証した。
【0035】
図4および図5は、実験結果を示す図である。図4および図5には、各サンプルにおける、粉末の組成、粉末の割合、粉末のタップ密度調整の有無、粉末のタップ密度、耐力の平均値、および、耐力の平均値と最小値との差が、示されている。図4および図5における耐力とは、各サンプルを用いて成形された成形物の、0.2%耐力を指す。耐力は、3点曲げ試験によって測定された。
【0036】
各サンプルを、図2に示した製造方法に従って製造した。まず、ステップS110に従って、チップと粉末とを用意した。チップとしては、株式会社STU製のAZ91Dの4mm×2mm×2mmのチップを用いた。このチップは、9質量パーセントのAlおよび1質量パーセントのZnを含む、Mg合金チップである。
【0037】
粉末は、以下のように用意された。まず、原料を高周波誘導炉で溶融するとともに、高速回転水流アトマイズ法により粉末化して、Mg合金粉末を得た。冷却液の噴出圧力は、100MPaとした。冷却液の温度は30℃とした。溶融金属の温度は、原料の融点+20℃とした。
【0038】
本実験では、組成A、B、C、Dを、それぞれ有する粉末を用意した。「組成A」とは、粉末におけるAlの含有量が9.5質量%であり、Caの含有量が0.25%であることを表している。「組成B」とは、粉末におけるAlの含有量が7.8質量%であり、Caの含有量が0.25質量%であることを表している。「組成C」とは、粉末におけるAlの含有量が7.0質量%であり、Caの含有量が4.7質量%であることを表している。「組成D」とは、粉末におけるAlの含有量が9.3質量%であり、Caの含有量が0.15質量%であることを表している。
【0039】
本実験では、高速回転水流アトマイズ法により製造した粉末を、篩分することで粉末のタップ密度を調整した。図4及び図5では、粉末のタップ密度が調整されているサンプルが「a」と表され、粉末のタップ密度が調整されていないサンプルが「b」と表されている。
【0040】
図2に示したステップS120に従って、このチップと、上述した粉末とを、蓋付きの1リットル容器に入れ、震盪して混合することによって、以下の各サンプルを得た。なお、サンプル1は、チップのみによって構成されている。サンプル6は、粉末のみによって構成されている。従って、サンプル1の製造では、ステップS110において、チップのみが用意され、サンプル6の製造では、ステップS110において、粉末のみが用意された。さらに、サンプル1およびサンプル6の製造では、ステップS120は省略された。また、サンプル2からサンプル5において、粉末の残部は、チップにより構成されている。例えば、サンプル2における粉末の割合は5質量%であるため、サンプル2におけるチップの割合は95質量%である。
<サンプル1>
チップ。
<サンプル2からサンプル5>
組成Aを有しタップ密度が調整された粉末と、チップと、を混合して得られた混合材料。
<サンプル6>
組成Aを有しタップ密度が調整された粉末。
<サンプル7およびサンプル8>
組成Aを有しタップ密度が調整されていない粉末と、チップと、を混合して得られた混合材料。
<サンプル9からサンプル11>
組成Bを有しタップ密度が調整された粉末と、チップと、を混合して得られた混合材料。
<サンプル12>
組成Bを有しタップ密度が調整されていない粉末と、チップと、を混合して得られた混合材料。
<サンプル13>
組成Cを有しタップ密度が調整された粉末と、チップと、を混合して得られた混合材料。
<サンプル14>
組成Cを有しタップ密度が調整されていない粉末と、チップと、を混合して得られた混合材料。
<サンプル15>
組成Dを有しタップ密度が調整された粉末と、チップと、を混合して得られた混合材料。
【0041】
図3に示した成形物の製造方法に従って、各サンプルを用いてチクソモールディングを行い、成形物を製造した。成形物の製造には、株式会社日本製鋼所製のマグネシウム射出成形機JLM75MGを用いた。スラリーの温度は、625℃とした。金型温度は、220℃とした。
【0042】
図6は、本実験において、成形物の製造に使用された金型のキャビティー10を示す断面図である。すなわち、本実験では、成形物は、キャビティー10の形状に応じた形状に成形された。キャビティー10は、幅W=150mm、奥行きD=50mm、高さ1~3mmの、扁平な柱状を有している。なお、キャビティー10の奥行きDとは、図4の紙面の厚さ方向の長さを指す。奥行きDは、図6では省略されている。キャビティー10の高さは、第3領域13から第1領域11に向かって、段階的に低くなるように構成されている。具体的には、第1領域11は、高さh1=1mmを有し、第2領域12は高さh2=2mmを有し、第3領域13は高さh3=3mmを有している。それぞれの領域の幅は、すべて50mmである。第3領域13には、ゲート14が接続されている。成形工程において、スラリーは、ゲート14を介してキャビティー10へと射出される。
【0043】
粉末のタップ密度を、上述したように、JIS規格Z2512に従い、100cmの測定容器を用いて測定した。
【0044】
成形物の0.2%耐力を、以下のように測定した。まず、図6に示した第2領域12から、幅50mm×奥行き10mm×高さ2mmの試験片を切り出すことによって、20個の試験片を作成した。その後、各試験片について、標点間距離を40mmとして3点曲げ試験を実施した。さらに、3点曲げ試験の結果を用いて、成形物の0.2%耐力を測定した。
【0045】
図4に示したように、サンプル2からサンプル4では、耐力の平均値がサンプル1よりも大きく、かつ、耐力の平均値と最小値との差が、サンプル6よりも小さく、サンプル1と同程度であった。すなわち、粉末の割合が5質量%以上45質量%であり、粉末のタップ密度が0.15g/cm以上であるサンプルで成形された成形物では、チップのみで成形された成形物よりも、耐力の平均値が大きく、かつ、粉末のみで成形された成形物よりも、耐力の平均値と最小値との差が小さく、チップのみで成形された成形物と同程度であった。粉末はチップと比べて微細な組織を有するため、サンプル2からサンプル4では、耐力の平均値が向上したと推察される。また、サンプル2からサンプル4では、成形物中の気泡の発生が抑制され、耐力の平均値と最小値との差が小さくなったと推察される。
【0046】
一方で、サンプル5では、サンプル1及びサンプル6よりも耐力の平均値が大きかったが、耐力の平均値と最小値との差の減少は見られなかった。サンプル5においても、粉末がチップと比べて微細な組織を有するため、耐力が向上したと推察される。一方で、サンプル5では、サンプル2からサンプル4と比べて、サンプルに含まれる粉末の割合が多いため、成形物中の気泡の発生が効果的に抑制されなかったと推察される。また、サンプル7では、耐力の平均値と最小値との差の減少幅が小さかった。更に、サンプル8では、材料の射出不足による、いわゆるショートが発生し、成形物の0.2%耐力を測定するに至らなかった。サンプル7およびサンプル8では、サンプル2からサンプル4と比べて粉末のタップ密度が小さいため、成形物中の気泡の発生が効果的に抑制されなかったと推察される。
【0047】
図5に示したように、サンプル9、サンプル10、及び、サンプル13についても、サンプル2からサンプル4と同様に、耐力の平均値が向上し、耐力の平均値と最小値との差が小さくなった。サンプル15では、サンプル2からサンプル4と同様に、耐力の平均値と最小値との差が小さくなったが、「実施例」と表された他のサンプルと比べて耐力の平均値が小さかった。これは、サンプル15では、Caの含有量が0.2質量%を下回っているためであると推察される。すなわち、混合材料において、Caの含有量が0.2質量%以上であることが好ましい。一方で、サンプル15における耐力の平均値は、サンプル1における耐力の平均値と同程度であるため、同様の組成を有するチップのみで構成されたチップと比較して高い耐力を有すると推察される。なお、サンプル11では、「実施例」と表されたサンプルと比べて、サンプルに含まれる粉末の割合が多いため、耐力の平均値と最小値との差の減少幅が小さかった。サンプル12及びサンプル14では、「実施例」と表されたサンプルと比べて、サンプルに含まれる粉末のタップ密度が小さいため、耐力の平均値と最小値との差の減少幅が小さかった。
【0048】
以上で説明した実験結果によれば、混合材料における粉末の割合が5質量%以上45質量%以下であり、粉末のタップ密度が0.15g/cm以上である場合、成形物の強度のばらつきが抑制されることが確認された。また、粉末は、Caを含有していると好ましいことが確認された。更に、粉末におけるCaの含有量が0.2質量%以上であると好ましいことが確認された。
【0049】
C.他の形態:
本開示は、上述した実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実現することができる。例えば、本開示は、以下の形態によっても実現可能である。以下に記載した各形態中の技術的特徴に対応する上記実施形態中の技術的特徴は、本開示の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、本開示の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0050】
(1)本開示の第1の形態によれば、マグネシウムチクソモールディング射出成形用材料が提供される。このマグネシウムチクソモールディング射出成形用材料は、主成分としてMgを含有する粉末と、主成分としてMgを含有するチップと、を含む。前記マグネシウムチクソモールディング射出成形用材料における前記粉末の割合は5質量%以上45質量%以下であり、前記粉末のタップ密度は0.15g/cm以上である。
このような形態によれば、粉末の材料のみで構成された材料がチクソモールディングに用いられる場合と比較して、成形物の強度のばらつきが抑制される。さらに、チップのみで構成された材料がチクソモールディングに用いられる場合と比較して、成形物の強度が向上する。
【0051】
(2)上記形態のマグネシウムチクソモールディング射出成形用材料において、前記粉末はCaを含有していてもよい。このような形態によれば、粉末の発火温度が上昇するため、マグネシウムチクソモールディング射出成形用材料が、より安全かつ効率的に加工されやすくなる。
【0052】
(3)上記形態のマグネシウムチクソモールディング射出成形用材料において、前記粉末におけるCaの含有量は、0.2質量%以上であってもよい。このような形態によれば、粉末の発火温度が上昇するとともに、成形物の強度がより高くなる。
【0053】
本開示は、上述したマグネシウムチクソモールディング射出成形用材料に限らず、種々の態様で実現可能である。例えば、マグネシウムチクソモールディング射出成形用材料を含む成形物の形態で実現することができる。
【符号の説明】
【0054】
1…射出成形機、2…金型、5…ホッパー、6…ヒーター、7…加熱シリンダー、8…スクリュー、9…ノズル、10…キャビティー、11…第1領域、12…第2領域、13…第3領域、14…ゲート
図1
図2
図3
図4
図5
図6