(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-25
(45)【発行日】2025-03-05
(54)【発明の名称】水系インクジェットインク組成物および記録方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/328 20140101AFI20250226BHJP
C09B 67/20 20060101ALI20250226BHJP
C09B 62/024 20060101ALI20250226BHJP
D06P 5/30 20060101ALI20250226BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20250226BHJP
【FI】
C09D11/328
C09B67/20 F
C09B62/024
D06P5/30
B41J2/01 501
(21)【出願番号】P 2020218880
(22)【出願日】2020-12-28
【審査請求日】2023-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】岡村 久史
(72)【発明者】
【氏名】小松 英彦
(72)【発明者】
【氏名】黄木 康弘
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-053236(JP,A)
【文献】特開2018-053166(JP,A)
【文献】特開2020-203999(JP,A)
【文献】特開2014-062142(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-54
C09B 67/20
C09B 62/024
D06P 5/30
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される色材と、水溶性有機溶剤と、水とを含有し、
下記式(1)で示される色材は、カウンターイオンとして、2種以上のアルカリ金属イ
オンを含有し、
前記カウンターイオンは、少なくとも、ナトリウムイオンを含むものであ
り、
下記式(1)で示される前記色材は、下記式(2)で示される化合物および下記式(3
)で示される化合物を含んでおり、
前記水系インクジェットインク組成物中における下記式(2)で示される化合物の含有
率をX2[質量%]、下記式(3)で示される化合物の含有率をX3[質量%]としたと
き、0.50≦X2/X3≦2.0の関係を満たす、水系インクジェットインク組成物。
【化1】
(式(1)中、Mは、カウンターイオンを示す。)
【化2】
(式(2)中、Mは、カウンターイオンを示す。)
【化3】
(式(3)中、Mは、カウンターイオンを示す。)
【請求項2】
前記カウンターイオンは、カリウムイオンおよびリチウムイオンのうち少なくとも一方
を含む、請求項1に記載の水系インクジェットインク組成物。
【請求項3】
前記水系インクジェットインク組成物中における前記ナトリウムイオンの含有量をXA
[質量%]、前記水系インクジェットインク組成物中における前記ナトリウムイオン以外
のアルカリ金属イオンの含有量をXB[質量%]としたとき、30≦XA/XB≦800
の関係を満たす、請求項1または2に記載の水系インクジェットインク組成物。
【請求項4】
前記水系インクジェットインク組成物は、布帛に適用して用いられるものである、請求
項1ないし
3のいずれか1項に記載の水系インクジェットインク組成物。
【請求項5】
請求項1ないし
4のいずれか1項に記載の水系インクジェットインク組成物をインクジ
ェット法により吐出し、記録媒体に付着させる工程を有する、記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系インクジェットインク組成物および記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、微細なノズルからインクの小滴を吐出して、記録媒体に付着させて記録を行う方法である。この方法は、比較的安価な装置で高解像度かつ高品位な画像を、高速で記録できるという特徴を有する。インクジェット記録方法においては、用いるインクの性質、記録における安定性、得られる画像の品質をはじめとして、非常に多くの検討要素があり、インクジェット記録装置のみならず、用いるインクに対する研究も盛んである。
【0003】
また、インクジェット記録方法を用いて、布帛等を染色することも行われている。従来、織布や不織布等の布帛に対する捺染方法としては、スクリーン捺染法、ローラー捺染法等が用いられてきたが、多種少量生産性ならびに即時プリント性等の観点から、インクジェット記録方法を適用することが有利であるため種々検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、好適な光学濃度と高い耐光性とを両立するインクジェットインクとして、下記式(4)で示されるC.I.レアクティブブルー49を所定の含有率で含むインクジェットインクが提案されている。
【0005】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、C.I.レアクティブブルー49を含む水系のインクジェット用インクでは、インクジェット法による吐出安定性に劣り、また、インクジェットノズルの目詰まり回復性に劣る、すなわち、インクジェット用インクを吐出するインクジェットノズルにおいて、いったん目詰まりが生じると、クリーニングを行っても、目詰まりを解消することが困難であるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の適用例として実現することができる。
【0009】
本発明の適用例に係る水系インクジェットインク組成物は、下記式(1)で示される色材と、水溶性有機溶剤と、水とを含有し、
下記式(1)で示される色材は、カウンターイオンとして、2種以上のアルカリ金属イオンを含有し、
前記カウンターイオンは、少なくとも、ナトリウムイオンを含むものである。
【化2】
(式(1)中、Mは、カウンターイオンを示す。)
【0010】
また、本発明の他の適用例に係る水系インクジェットインク組成物では、前記カウンターイオンは、カリウムイオンおよびリチウムイオンのうち少なくとも一方を含む。
【0011】
また、本発明の他の適用例に係る水系インクジェットインク組成物では、前記水系インクジェットインク組成物中における前記ナトリウムイオンの含有量をXA[質量%]、前記水系インクジェットインク組成物中における前記ナトリウムイオン以外のアルカリ金属イオンの含有量をXB[質量%]としたとき、30≦XA/XB≦800の関係を満たす。
【0012】
また、本発明の他の適用例に係る水系インクジェットインク組成物では、上記式(1)で示される前記色材は、下記式(2)および下記式(3)のうちの少なくとも一方の化合物を含んでいる。
【化3】
(式(2)中、Mは、カウンターイオンを示す。)
【化4】
(式(3)中、Mは、カウンターイオンを示す。)
【0013】
また、本発明の他の適用例に係る水系インクジェットインク組成物では、上記式(1)で示される前記色材は、上記式(2)で示される化合物および上記式(3)で示される化合物を含んでおり、
前記水系インクジェットインク組成物中における上記式(2)で示される化合物の含有率をX2[質量%]、上記式(3)で示される化合物の含有率をX3[質量%]としたとき、0.50≦X2/X3≦2.0の関係を満たす。
【0014】
また、本発明の他の適用例に係る水系インクジェットインク組成物は、布帛に適用して用いられるものである。
【0015】
また、本発明の適用例に係る記録方法は、本発明の適用例に係る水系インクジェットインク組成物をインクジェット法により吐出し、記録媒体に付着させる工程を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、第1実施形態のインクジェット装置の構成図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すインクジェット装置が有するインクジェットヘッドの断面図である。
【
図3】
図3は、
図2に示すインクジェットヘッドの部分的な分解斜視図である。
【
図4】
図4は、
図2に示すインクジェットヘッドが有する圧電素子の断面図である。
【
図5】
図5は、
図2に示すインクジェットヘッドにおけるインクの循環の説明図である。
【
図6】
図6は、
図2に示すインクジェットヘッドのうち循環インク室の近傍の平面図および断面図である。
【
図7】
図7は、第2実施形態のインクジェット装置の斜視図である。
【
図8】
図8は、は、
図7に示すインクジェット装置が有するメインタンクの斜視図である。
【
図9】
図9は、
図7に示すインクジェット装置が有するインクジェットヘッドの外観斜視図である。
【
図10】
図10は、
図9に示すインクジェットヘッドのノズル配列方向と直交する方向の断面図である。
【
図11】
図11は、
図9に示すインクジェットヘッドのノズル配列方向と平行な方向の断面図である。
【
図14A】
図14Aは、
図9に示すインクジェットヘッドの共通インク室部材を構成する各部材の平面図である。
【
図14B】
図14Bは、
図9に示すインクジェットヘッドの共通インク室部材を構成する各部材の平面図である。
【
図15】
図15は、第2実施形態のインクジェット装置でのインク循環システムの一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
[1]水系インクジェットインク組成物
まず、本発明の水系インクジェットインク組成物について説明する。
【0018】
本発明の水系インクジェットインク組成物は、下記式(1)で示される色材と、水溶性有機溶剤と、水とを含有している。そして、下記式(1)で示される色材は、カウンターイオンとして、2種以上のアルカリ金属イオンを含有し、前記カウンターイオンは、少なくとも、ナトリウムイオンを含むものである。言い換えると、下記式(1)で示される色材は、前記カウンターイオンとして、ナトリウムイオン、および、ナトリウムイオン以外の少なくとも1種のアルカリ金属イオンを含有するものである。
【0019】
【化5】
(式(1)中、Mは、カウンターイオンを示す。)
【0020】
これにより、水系インクジェットインク組成物を用いて形成される記録部において、好適な光学濃度と高い耐光性とを両立することができるとともに、インクジェット法による吐出安定性、インクジェットノズルの目詰まり回復性にも優れる水系インクジェットインク組成物を提供することができる。
【0021】
これに対し、上記のような条件を満たさない場合には、満足のいく結果が得られない。
例えば、水系インクジェットインク組成物が上記式(1)で示される色材を含有していても、当該色材がカウンターイオンとして2種以上のアルカリ金属イオンを含有していない場合には、インクジェット法による吐出安定性、インクジェットノズルの目詰まり回復性に劣ったものとなる。
【0022】
特に、前記色材がカウンターイオンとしてアルカリ金属イオン以外のイオンのみを含有している場合には、インクジェット法による吐出安定性、インクジェットノズルの目詰まり回復性が特に劣ったものとなる。
【0023】
また、前記色材がアルカリ金属イオンとして1種のイオンのみを含有している場合にも、インクジェット法による吐出安定性、インクジェットノズルの目詰まり回復性を十分に優れたものとすることができない。
【0024】
また、水系インクジェットインク組成物が上記式(1)で示される色材を含有し、当該色材がカウンターイオンとして2種以上のアルカリ金属イオンを含有していても、当該カウンターイオンがナトリウムイオンを含まないものであると、インクジェット法による吐出安定性、インクジェットノズルの目詰まり回復性が特に劣ったものとなる。
【0025】
なお、本発明において、水系インクジェットインク組成物とは、インクジェット法による吐出に供される、水を含むインクのことを言う。水の含有量は、インク組成物の総量に対して30質量%以上であることが好ましい。
【0026】
また、本明細書では、各アルカリ金属イオンについて、水系インクジェットインク組成物中における含有率が十分に低い場合、例えば、水系インクジェットインク組成物中における含有率が0.01ppm以下の場合には、当該アルカリ金属イオンを含んでいないものとして取り扱う。
【0027】
[1-1]色材
本発明の水系インクジェットインク組成物は、色材として、少なくとも、上記式(1)で示される色材を含んでいる。そして、上記式(1)で示される色材は、カウンターイオンとして、2種以上のアルカリ金属イオンを含有し、前記カウンターイオンは、少なくとも、ナトリウムイオンを含むものである。
【0028】
上記式(1)で示される色材のカウンターイオンは、ナトリウムイオンに加えて、ナトリウムイオン以外の少なくとも1種のアルカリ金属イオンを含有していればよいが、ナトリウムイオンに加えて、カリウムイオンおよびリチウムイオンのうち少なくとも一方を含むものであるのが好ましい。
【0029】
これにより、水系インクジェットインク組成物の保存安定性、インクジェット法による吐出安定性、インクジェットノズルの目詰まり回復性等をより優れたものとすることができる。
【0030】
本発明の水系インクジェットインク組成物中におけるナトリウムイオンの含有量をXA[質量%]、本発明の水系インクジェットインク組成物中におけるナトリウムイオン以外のアルカリ金属イオンの含有量をXB[質量%]としたとき、30≦XA/XB≦1000の関係を満たすのが好ましく、30≦XA/XB≦800の関係を満たすのがより好ましく、32≦XA/XB≦600の関係を満たすのがさらに好ましく、34≦XA/XB≦500の関係を満たすのがもっとも好ましい。
【0031】
これにより、水系インクジェットインク組成物の保存安定性、インクジェット法による吐出安定性、インクジェットノズルの目詰まり回復性等をより優れたものとすることができる。
【0032】
上記式(1)で示される色材は、下記式(2)および下記式(3)のうちの少なくとも一方の化合物を含んでいるのが好ましい。
【0033】
【化6】
(式(2)中、Mは、カウンターイオンを示す。)
【0034】
【化7】
(式(3)中、Mは、カウンターイオンを示す。)
【0035】
これにより、水系インクジェットインク組成物の保存安定性、インクジェット法による吐出安定性、インクジェットノズルの目詰まり回復性等をより優れたものとすることができる。
【0036】
本発明の水系インクジェットインク組成物を構成する上記式(1)で示される色材が、上記式(2)で示される化合物および上記式(3)で示される化合物を含んでいる場合、水系インクジェットインク組成物中における上記式(2)で示される化合物の含有率X2[質量%]と、水系インクジェットインク組成物中における上記式(3)で示される化合物の含有率X3[質量%]との間で、以下の関係を満たすのが好ましい。すなわち、0.50≦X2/X3≦2.0の関係を満たすのが好ましく、0.70≦X2/X3≦1.6の関係を満たすのがより好ましく、0.90≦X2/X3≦1.3の関係を満たすのがさらに好ましい。
【0037】
これにより、水系インクジェットインク組成物の保存安定性、インクジェット法による吐出安定性、インクジェットノズルの目詰まり回復性等をより優れたものとすることができる。
【0038】
本発明の水系インクジェットインク組成物中における上記式(1)で示される色材の含有率は、5.0質量%以上35質量%以下であるのが好ましく、7.0質量%以上30質量%以下であるのがより好ましく、10質量%以上25質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0039】
これにより、水系インクジェットインク組成物を用いて形成される記録部において、十分な光学濃度を確保しやすくなるとともに、水系インクジェットインク組成物の保存安定性、吐出安定性、目詰まり回復性等をさらに優れたものとすることができる。
【0040】
[1-2]水溶性有機溶剤
本発明の水系インクジェットインク組成物は、水溶性有機溶剤を含んでいる。
【0041】
これにより、水系インクジェットインク組成物の保湿性を向上させることができ、インクジェットヘッド等での乾燥等により、水系インクジェットインク組成物の固形分が不本意に析出してしまうこと等をより効果的に防止することができる。また、水系インクジェットインク組成物の粘度をより好適に調整することができる。このようなことから、インクジェット法による水系インクジェットインク組成物の吐出安定性をさらに優れたものとすることができる。
【0042】
水溶性有機溶剤は、水に対して溶解性を示す有機溶媒であればよいが、例えば、20℃における水への溶解度が10g/100g水以上の有機溶媒を好適に用いることができる。
【0043】
水溶性有機溶剤の1気圧下での沸点は、150℃以上350℃以下であるのが好ましい。
【0044】
これにより、水系インクジェットインク組成物の保湿性をさらに向上させることができ、インクジェットヘッド等での乾燥等により、水系インクジェットインク組成物の固形分が不本意に析出してしまうこと等をさらに効果的に防止することができる。このようなことから、インクジェット法による水系インクジェットインク組成物の吐出安定性をさらに優れたものとすることができる。また、水系インクジェットインク組成物を吐出した後、必要時においては、比較的容易に揮発させることができ、製造される染色物中に、水溶性有機溶剤が不本意に残存することをより効果的に防止することができる。
【0045】
このような水溶性有機溶剤としては、例えば、アルキルモノアルコール類;アルキルジオール類;グリセリン;グリコール類;グリコールモノエーテル類;ラクタム類等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
グリコール類としては、例えば、トリエタノールアミン;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。また、グリコールモノエーテル類としては、例えば、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。また、ラクタム類としては、例えば、2-ピロリドン等が挙げられる。
【0047】
本発明の水系インクジェットインク組成物中における水溶性有機溶剤の含有率は、4.0質量%以上40質量%以下であるのが好ましく、9.0質量%以上35質量%以下であるのがより好ましく、11質量%以上30質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0048】
これにより、水系インクジェットインク組成物の粘度をより好適なものとしつつ、水系インクジェットインク組成物の保湿性をより好適に向上させることができる。その結果、インクジェット法による水系インクジェットインク組成物の吐出安定性をさらに優れたものとすることができる。
【0049】
[1-3]水
本発明の水系インクジェットインク組成物は、水を含んでいる。
水は、通常、水系インクジェットインク組成物の主成分であり、前述した色材の溶媒として機能する。このような水を含むことにより、水系インクジェットインク組成物は、好適な流動性、粘度を有するものとなり、インクジェット法による吐出を好適に行うことができる。また、水系インクジェットインク組成物が付与される記録媒体、特に、布帛へのダメージをより効果的に抑制できる。また、VOC(揮発性有機化合物)の問題を抑制する観点からも好ましい。
【0050】
水系インクジェットインク組成物中における水の含有率は、特に限定されないが、40質量%以上80質量%以下であるのが好ましく、45質量%以上75質量%以下であるのがより好ましく、50質量%以上70質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0051】
これにより、色材等の含有率を十分に高いものとしつつ、水系インクジェットインク組成物の吐出安定性等をより優れたものとすることができる。
【0052】
また、水系インクジェットインク組成物中における水の含有率をXW[質量%]、水系インクジェットインク組成物中における水溶性有機溶剤の含有率をXH[質量%]としたとき、XH/XWは、0.050以上0.50以下であるのが好ましく、0.10以上0.45以下であるのがより好ましく、0.15以上0.43以下であるのがさらに好ましい。
【0053】
これにより、水系インクジェットインク組成物の粘度をより好適なものとしつつ、水系インクジェットインク組成物の保湿性をより好適に向上させることができる。その結果、インクジェット法による水系インクジェットインク組成物の吐出安定性等をさらに優れたものとすることができる。
【0054】
[1-4]その他の色材
本発明の水系インクジェットインク組成物は、上記(1)で示される色材に加えて、さらに、他の色材を含んでいてもよい。以下、上記(1)で示される色材以外の色材を「その他の色材」ともいう。
【0055】
その他の色材としては、例えば、Reactive Red 245、Reactive Orange 12、Reactive Black 39等が挙げられる。
【0056】
本発明の水系インクジェットインク組成物中におけるその他の色材の含有率は、5.0質量%以下であるのが好ましく、3.0質量%以下であるのがより好ましく、1.0量%以下であるのがさらに好ましい。
【0057】
なお、本発明の水系インクジェットインク組成物がその他の色材として複数種の成分を含む場合には、これらの成分の含有率の和が前記範囲内の値であるのが好ましい。
【0058】
本発明の水系インクジェットインク組成物中に含まれる色材全体に対するその他の色材の割合は、質量比で、50%以下であるのが好ましく、30%以下であるのがより好ましく、9%以下であるのがさらに好ましい。
【0059】
[1-5]尿素類
本発明の水系インクジェットインク組成物は、尿素類を含んでいてもよい。
【0060】
尿素類は、水系インクジェットインク組成物の保湿剤として機能したり、色材、特に、反応性染料の染着性を向上させる染着助剤として機能したりする。
【0061】
尿素類としては、例えば、尿素、エチレン尿素、テトラメチル尿素、チオ尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等が挙げられる。
【0062】
水系インクジェットインク組成物が尿素類を含む場合、水系インクジェットインク組成物中における尿素類の含有率は、0.50質量%以上10質量%以下であるのが好ましく、1.0質量%以上8.0質量%以下であるのがより好ましく、1.5質量%以上6.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0063】
これにより、水系インクジェットインク組成物中における色材等の含有率が低くなることを防止し、これらの機能を十分に発揮させつつ、前述したような尿素類を含むことによる効果をより顕著に発揮させることができる。
【0064】
[1-6]その他の成分
本発明の水系インクジェットインク組成物は、前述した成分以外の成分を含んでいてもよい。以下、このような成分を「その他の成分」ともいう。
【0065】
その他の成分としては、例えば、pH調整剤;キレート化剤;防腐剤・防かび剤;防錆剤;防炎剤;各種分散剤;界面活性剤;酸化防止剤;紫外線吸収剤;酸素吸収剤;溶解助剤;浸透剤等が挙げられる。
【0066】
キレート化剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸塩等が挙げられる。また、防腐剤・防かび剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2-ピリジンチオール-1-オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2-ジベンゾイソチアゾリン-3-オン、4-クロロ-3-メチルフェノール等が挙げられる。また、防錆剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0067】
防腐剤・防かび剤としては、例えば、分子内にイソチアゾリン環構造を有する化合物を好適に用いることができる。
【0068】
界面活性剤としては、例えば、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等の各種界面活性剤を用いることができる。
【0069】
その他の成分の含有率は、6.0質量%以下であるのが好ましく、5.0質量%以下であるのがより好ましい。
なお、その他の成分の含有率の下限は、0質量%である。
【0070】
[1-7]その他
本発明の水系インクジェットインク組成物の25℃における表面張力は、特に限定されないが、20mN/m以上50mN/m以下であるのが好ましく、21mN/m以上45mN/m以下であるのがより好ましく、23mN/m以上40mN/m以下であるのがさらに好ましい。
【0071】
これにより、インクジェットヘッドのノズルの目詰まり等がより生じにくくなり、水系インクジェットインク組成物の吐出安定性がより向上する。また、ノズルの詰まりが生じた場合でも、ノズルにキャップをすることによる回復性をより優れたものとすることができる。
【0072】
なお、表面張力としては、ウィルヘルミー法により測定した値を採用することができる。表面張力の測定は、表面張力計(例えば、協和界面科学社製、CBVP-7等)を用いることができる。
【0073】
本発明の水系インクジェットインク組成物の25℃における粘度は、2mPa・s以上10mPa・s以下であるのが好ましく、2.5mPa・s以上8mPa・s以下であるのがより好ましく、3mPa・s以上6mPa・s以下であるのがさらに好ましい。
【0074】
これにより、水系インクジェットインク組成物のインクジェット法による吐出安定性がより優れたものとなる。
【0075】
なお、粘度は、振動式粘度計を用いたJIS Z8809に準拠した測定により求めることができる。
【0076】
本発明の水系インクジェットインク組成物は、インクジェット法による吐出に供されるものであればよく、インクジェット法としては、例えば、荷電偏向方式、コンティニュアス方式、ピエゾ式、バブルジェット(登録商標)式等のオンデマンド方式等が挙げられるが、本発明の水系インクジェットインク組成物は、特に、ピエゾ振動子を用いたインクジェットヘッドより吐出されるものであるのが好ましい。
【0077】
これにより、インクジェットヘッド内での色材の変性をより効果的に防止し、インクジェット法による吐出安定性をより優れたものとすることができる。
【0078】
また、本発明の水系インクジェットインク組成物は、インクジェットヘッドの圧力室内の水系インクジェットインク組成物を循環させる循環路を備えたインクジェット装置により吐出されるものであるのが好ましい。
【0079】
これにより、ノズル近傍のインクの局所的な乾燥を効果的に防止できるので、水系インクジェットインク組成物の固形分が不本意に析出してしまうこと等をより効果的に防止することができる。このようなことから、インクジェット法による水系インクジェットインク組成物の吐出安定性等をより優れたものとすることができる。
【0080】
前記インクジェットヘッドの最大吐出量に対する水系インクジェットインク組成物の循環流量の比率は、特に限定されないが、0.05以上20以下であるのが好ましく、0.07以上15以下であるのがより好ましく、0.10以上10以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0081】
なお、本発明の水系インクジェットインク組成物を吐出するインクジェット装置については、後に詳述する。
【0082】
本発明の水系インクジェットインク組成物は、いかなる記録媒体に適用されるものであってもよいが、布帛に適用して用いられるものであるのが好ましい。
【0083】
水系インクジェットインク組成物が布帛に適用して用いられるもの、すなわち、捺染用のインクである場合、記録媒体上における上記式(1)で示される色材の発色性をより優れたものとすることができる。
なお、布帛については、後に詳述する。
【0084】
[2]水系インクジェットインク組成物セット
次に、本発明に係る水系インクジェットインク組成物セットについて説明する。
【0085】
本発明に係る水系インクジェットインク組成物セットは、複数の水系インクジェットインク組成物を備えている。そして、水系インクジェットインク組成物セットを構成する少なくとも1つの水系インクジェットインク組成物が、前述した本発明の水系インクジェットインク組成物である。
【0086】
本発明に係る水系インクジェットインク組成物セットを構成する複数の水系インクジェットインク組成物のうち、少なくとも1つが前述した本発明の水系インクジェットインク組成物であればよく、本発明に係る水系インクジェットインク組成物セットは、前述した本発明の水系インクジェットインク組成物ではない水系インクジェットインク組成物を備えていてもよい。
【0087】
本発明に係る水系インクジェットインク組成物セットは、色の三原色、すなわち、シアン、マゼンタおよびイエローに対応する3種の水系インクジェットインク組成物を備えているのが好ましい。なお、色の三原色については、その色濃度によって、さらに細分化されていてもよい。例えば、シアン、マゼンタおよびイエローに加え、ライトシアン、ライトマゼンタおよびライトイエローを備えていてもよい。
【0088】
また、本発明に係る水系インクジェットインク組成物セットは、上記の有彩色のインクに加えて、無彩色のインク、より具体的には、黒色のインクを、さらに備えているのが好ましい。
【0089】
[3]記録方法
次に、本発明の記録方法について説明する。
【0090】
本発明の記録方法は、本発明の水系インクジェットインク組成物をインクジェット法により吐出し、記録媒体に付着させる工程を有する。
【0091】
これにより、好適な光学濃度と高い耐光性とを両立する記録部を形成することができ、インクジェット法による吐出安定性、インクジェットノズルの目詰まり回復性にも優れ、安定的に記録物を製造することができる記録方法を提供することができる。
【0092】
特に、本実施形態の記録方法は、記録媒体に対し、本発明の水系インクジェットインク組成物をインクジェット方式により付与する吐出工程と、前記記録媒体に対し、付与された水系インクジェットインク組成物の染着処理をする染着処理工程とを有する。また、以下の説明では、記録媒体として、布帛を用いる場合について代表的に説明する。
【0093】
[3-1]吐出工程
吐出工程では、インクジェット法により本発明の水系インクジェットインク組成物を液滴として吐出し、記録媒体である布帛に、当該液滴を付着させる。これにより、所望の像を形成する。像の形成には、複数種の水系インクジェットインク組成物、例えば、本発明の水系インクジェットインク組成物を用いてもよい。
【0094】
水系インクジェットインク組成物を吐出するインクジェット法は、いずれの方式でもよく、例えば、荷電偏向方式、コンティニュアス方式、ピエゾ式、バブルジェット(登録商標)式等のオンデマンド方式等が挙げられる。
【0095】
なお、水系インクジェットインク組成物の吐出に用いるインクジェット装置については、後に詳述する。
【0096】
[3-2]染着処理工程
染着処理工程では、記録媒体である布帛に付着した色材を定着させる。
染着処理工程は、通常、高温加湿の条件で行う。
【0097】
染着処理工程での処理温度は、特に限定されないが、90℃以上150℃以下であるのが好ましく、95℃以上130℃以下であるのがより好ましく、98℃以上120℃以下であるのがさらに好ましい。
【0098】
これにより、記録媒体である布帛や水系インクジェットインク組成物の構成成分等の不本意な変性、劣化等をより効果的に防止しつつ、より効率よく色材を定着させることができる。
【0099】
染着処理工程の処理時間は、特に限定されないが、1分間以上120分間以下であるのが好ましく、2分間以上90分間以下であるのがより好ましく、3分間以上60分間以下であるのがさらに好ましい。
【0100】
これにより、記録媒体である布帛に対する色材の染着性をより優れたものとしつつ、染色物の生産性をより優れたものとすることができる。
【0101】
染着処理工程での高温加湿処理には、各種のスチーマー、例えば、マチス社製、スチーマーDHe型等を用いることができる。
【0102】
本発明に係る記録方法では、必要に応じて、吐出工程、染着処理工程以外の工程を有していてもよい。
【0103】
例えば、吐出工程に先立って、記録媒体としての布帛に対して前処理を施す前処理工程を有していてもよい。
【0104】
前処理には、例えば、公知の前処理剤を用いることができるが、前処理剤は、一般に、糊剤、pH調整剤およびヒドロトロピー剤を含んでいる。
【0105】
糊剤としては、例えば、天然ガム類、澱粉類、海草類、植物皮類、繊維素誘導体、加工澱粉、加工天然ガム、アルギン酸ナトリウム、アルギン誘導体、合成糊、エマルジョン等を好適に用いることができる。
【0106】
天然ガム類としては、例えば、グア、ローカストビーン等が挙げられる。また、海草類としては、例えば、ふのり等が挙げられる。また、植物皮類としては、例えば、ペクチン酸等が挙げられる。また、繊維素誘導体としては、例えば、メチル繊維素、エチル繊維素、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。また、加工澱粉としては、例えば、焙焼澱粉、アルファ澱粉、カルボキシメチル澱粉、カルボキシエチル澱粉、ヒドロキシエチル澱粉等が挙げられる。また、加工天然ガムとしては、例えば、シラツガム系、ローストビーンガム系等のものが挙げられる。また、合成糊としては、例えば、ポリビニールアルコール、ポリアクリル酸エステル等が挙げられる。
【0107】
また、pH調整剤としては、例えば、硫酸アンモニウム、酒石酸アンモニウム等の酸アンモニウム塩等を好適に用いることができる。
【0108】
また、ヒドロトロピー剤としては、例えば、尿素、ジメチル尿素、チオ尿素、モノメチルチオ尿素、ジメチルチオ尿素等のアルキル尿素等の各種の尿素類を用いることができる。
なお、前処理剤は、例えば、さらに、シリカを含んでいてもよい。
【0109】
また、例えば、染着処理工程の後、必要に応じて、染料が定着された布帛に対する洗浄処理を行う洗浄工程を有していてもよい。
【0110】
洗浄工程は、例えば、染料が定着された布帛を水道水で揉み洗いした後に、40℃以上70℃以下の温水にノニオン性ソーピング剤を添加した洗浄液中に、適宜撹拌しながら浸漬することにより行うことができる。洗浄液中への浸漬時間は、例えば、5分間以上60分間以下とすることができる。その後、洗浄液中に水道水を入れながら手揉み洗いをすることにより洗浄剤を除去することができる。
【0111】
[3-3]布帛
次に、水系インクジェットインク組成物が付与される記録媒体としての布帛について説明する。
【0112】
布帛としては、例えば、平織、斜文織、朱子織、変化平織、変化斜文織、変化朱子織、変わり織、紋織、片重ね織、二重組織、多重組織、経パイル織、緯パイル織、絡み織等の各種織物を用いることができる。
【0113】
また、布帛を構成する繊維の太さは、例えば、10d以上100d以下とすることができる。
【0114】
布帛を構成する繊維としては、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、トリアセテート繊維、ジアセテート繊維、ポリアミド繊維、セルロース繊維およびこれらの繊維を2種以上用いた混紡品等が挙げられる。また、これらとレーヨン等の再生繊維あるいは木綿、絹、羊毛等の天然繊維との混紡品を用いてもよいが、布帛は、セルロース繊維を含有するものであるのが好ましい。
これにより、前述した色材の染着性をより優れたものとすることができる。
【0115】
[4]インクジェット装置
前述したように、本発明の水系インクジェットインク組成物は、インクジェット法により吐出されるものである。
【0116】
以下、本発明に係るインクジェット装置、すなわち、本発明の水系インクジェットインク組成物の吐出に用いられるインクジェット装置について説明する。
【0117】
本発明に係るインクジェット装置は、本発明の水系インクジェットインク組成物を吐出するインクジェットヘッドを備える。
【0118】
インクジェットヘッドは、ピエゾ振動子を用いたものであるのが好ましい。
これにより、インクジェットヘッド内での色材等の変性をより効果的に防止し、インクジェット法による吐出安定性をより優れたものとすることができる。
【0119】
インクジェット装置は、圧力室内の水系インクジェットインク組成物を循環させる循環路を備えているのが好ましい。
【0120】
これにより、ノズル近傍のインクの局所的な乾燥を効果的に防止できるので、水系インクジェットインク組成物の固形分が不本意に析出してしまうこと等をより効果的に防止することができる。このようなことから、インクジェット法による水系インクジェットインク組成物の吐出安定性等をより優れたものとすることができる。
【0121】
インクジェットヘッドの最大吐出量に対する水系インクジェットインク組成物の循環流量の比率は、特に限定されないが、0.05以上20以下であるのが好ましく、0.07以上15以下であるのがより好ましく、0.10以上10以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0122】
以下、本発明に係るインクジェット装置について、好適な実施形態である第1実施形態および第2実施形態について、添付図面を参照しつつより詳細に説明する。
【0123】
[4-1]第1実施形態
図1は、第1実施形態のインクジェット装置の構成図である。
図2は、
図1に示すインクジェット装置が有するインクジェットヘッドの断面図である。
図3は、
図2に示すインクジェットヘッドの部分的な分解斜視図である。
図4は、
図2に示すインクジェットヘッドが有する圧電素子の断面図である。
図5は、
図2に示すインクジェットヘッドにおけるインクの循環の説明図である。
図6は、
図2に示すインクジェットヘッドのうち循環インク室の近傍の平面図および断面図である。
【0124】
本実施形態のインクジェット装置100は、水系インクジェットインク組成物を記録媒体である布帛12に吐出するインクジェット方式の印刷装置である。インクジェット装置100には、水系インクジェットインク組成物を貯留するインク容器14が設置される。例えば、インクジェット装置100に着脱可能なカートリッジ、可撓性のフィルムで形成された袋状のインクパック、または水系インクジェットインク組成物を補充可能なインクタンクがインク容器14として利用される。インクジェット装置100は、例えば、複数種の水系インクジェットインク組成物に対応する複数個のインク容器14を備えていてもよい。
【0125】
インクジェット装置100は、制御ユニット20と搬送機構22と移動機構24とインクジェットヘッド26とを備えている。制御ユニット20は、例えば、CPU(Central Processing Unit)またはFPGA(Field Programmable Gate Array)等の処理回路と半導体メモリー等の記憶回路とを含み、インクジェット装置100の各要素を統括的に制御する。搬送機構22は、制御ユニット20による制御のもとで布帛12をY方向に搬送する。
【0126】
移動機構24は、制御ユニット20による制御のもとでインクジェットヘッド26をX方向に往復させる。X方向は、布帛12が搬送されるY方向に交差する方向であり、典型的には、Y方向に直交する方向である。移動機構24は、インクジェットヘッド26を収容する箱型の搬送体242と、搬送体242が固定された搬送ベルト244とを備えている。なお、複数のインクジェットヘッド26を搬送体242に搭載した構成や、インク容器14をインクジェットヘッド26とともに搬送体242に搭載した構成であってもよい。
【0127】
インクジェットヘッド26は、インク容器14から供給される水系インクジェットインク組成物を、制御ユニット20による制御のもとで複数のノズルNから布帛12に吐出する。搬送機構22による布帛12の搬送と搬送体242の反復的な往復とに並行して、各インクジェットヘッド26が布帛12に水系インクジェットインク組成物を吐出することで、布帛12の表面に所望の画像が形成される。なお、X-Y平面に垂直な方向を以下ではZ方向と表記する。各インクジェットヘッド26による水系インクジェットインク組成物の吐出方向、典型的には鉛直方向が、Z方向に相当する。
【0128】
インクジェットヘッド26の複数のノズルNはY方向に配列されている。複数のノズルNは、X方向に相互に間隔をあけて並設された第1列L1と第2列L2とに区分される。第1列L1および第2列L2の各々は、Y方向に直線状に配列された複数のノズルNの集合である。なお、第1列L1と第2列L2との間で各ノズルNのY方向の位置を相違させること、例えば、千鳥配置やスタガ配置とすること等も可能であるが、以下、第1列L1と第2列L2とで各ノズルNのY方向の位置を一致させた構成である場合について説明する。インクジェットヘッド26においてY方向に平行な中心軸を通過するとともにZ方向に平行な平面、すなわち、Y-Z平面を以下の説明では「中心面O」と表記する。
【0129】
図2、
図3に示すように、インクジェットヘッド26は、第1ノズルとしての第1列L1の各ノズルNに関連する要素と、第2ノズルとしての第2列L2の各ノズルNに関連する要素とが中心面Oを挟んで面対称に配置された構造である。すなわち、インクジェットヘッド26のうち中心面Oを挟んでX方向の正側の部分である第1部分P1と、X方向の負側の部分である第2部分P2とで、構造は実質的に共通する。第1列L1の複数のノズルNは第1部分P1に形成され、第2列L2の複数のノズルNは第2部分P2に形成されている。中心面Oは、第1部分P1と第2部分P2との境界面に相当する。
【0130】
図2、
図3に示すように、インクジェットヘッド26は、流路形成部30を備えている。流路形成部30は、複数のノズルNに水系インクジェットインク組成物を供給するための流路を形成する構造体である。流路形成部30は、連通板である第1流路基板32と圧力室形成板である第2流路基板34とが積層して構成されている。第1流路基板32および第2流路基板34の各々は、Y方向に長尺な板状部材である。第1流路基板32のうちZ方向の負側の表面Faに、例えば、接着剤を利用して第2流路基板34が設置される。
【0131】
図2に示すように、第1流路基板32の表面Faの面上には、第2流路基板34のほか、振動部42と複数の圧電素子44と保護部材46と筐体部48とが設置されている。他方、第1流路基板32のうちZ方向の正側、すなわち、表面Faとは反対側の表面Fbにはノズルプレート52と吸振体54とが設置されている。インクジェットヘッド26の各要素は、概略的には第1流路基板32や第2流路基板34と同様にY方向に長尺な板状部材であり、例えば、接着剤により相互に接合される。第1流路基板32と第2流路基板34とが積層される方向や第1流路基板32とノズルプレート52とが積層される方向を、Z方向として把握することも可能である。
【0132】
ノズルプレート52は、複数のノズルNが形成された板状部材であり、例えば、接着剤を利用して第1流路基板32の表面Fbに設置されている。複数のノズルNの各々は、水系インクジェットインク組成物を通過させる円形状の貫通孔である。ノズルプレート52には、第1列L1を構成する複数のノズルNと第2列L2を構成する複数のノズルNとが形成されている。具体的には、ノズルプレート52のうち中心面OからみてX方向の正側の領域に、第1列L1の複数のノズルNがY方向に沿って形成され、X方向の負側の領域に、第2列L2の複数のノズルNがY方向に沿って形成されている。ノズルプレート52は、第1列L1の複数のノズルNが形成された部分と第2列L2の複数のノズルNが形成された部分とにわたり連続する単体の板状部材である。
【0133】
図2、
図3に示すように、第1流路基板32には、第1部分P1および第2部分P2の各々について、空間Raと複数の供給路61と複数の連通路63とが形成される。空間Raは、平面視で、すなわちZ方向からみて、Y方向に沿う長尺状に形成された開口であり、供給路61および連通路63はノズルN毎に形成された貫通孔である。複数の連通路63は平面視でY方向に配列し、複数の供給路61は、複数の連通路63の配列と空間Raとの間でY方向に配列している。複数の供給路61は、空間Raに共通に連通している。また、任意の1個の連通路63は、当該連通路63に対応するノズルNに平面視で重なっている。具体的には、第1部分P1の任意の1個の連通路63は、第1列L1のうち当該連通路63に対応する1個のノズルNに連通している。同様に、第2部分P2の任意の1個の連通路63は、第2列L2のうち当該連通路63に対応する1個のノズルNに連通している。
【0134】
図2、
図3に示すように、第2流路基板34は、第1部分P1および第2部分P2の各々について複数の圧力室Cが形成された板状部材である。複数の圧力室Cは、Y方向に配列している。各圧力室Cは、ノズルN毎に形成されて平面視でX方向に沿う長尺状の空間である。
【0135】
図2に示すように、第2流路基板34のうち第1流路基板32とは反対側の表面には振動部42が設置されている。振動部42は、弾性的に振動可能な板状部材、すなわち、振動板である。なお、所定の板厚の板状部材のうち圧力室Cに対応する領域について板厚方向の一部を選択的に除去することで、第2流路基板34と振動部42とを一体に形成することも可能である。
【0136】
図2に示すように、第1流路基板32の表面Faと振動部42とは、各圧力室Cの内側で相互に間隔をあけて対向している。圧力室Cは、第1流路基板32の表面Faと振動部42との間に位置する空間であり、当該空間に充填された水系インクジェットインク組成物に圧力変化を発生させる。各圧力室Cは、例えば、X方向を長手方向とする空間であり、ノズルN毎に個別に形成されている。第1列L1および第2列L2の各々について、複数の圧力室CがY方向に配列している。
図2、
図3に示すように、任意の1個の圧力室Cのうち中心面O側の端部は、平面視で連通路63に重なり、中心面Oとは反対側の端部は平面視で供給路61に重なる。したがって、第1部分P1および第2部分P2の各々において、圧力室Cは、連通路63を介してノズルNに連通するとともに、供給路61を介して空間Raに連通している。
【0137】
図2に示すように、振動部42のうち圧力室Cとは反対側の面上には、第1部分P1および第2部分P2の各々について、相異なるノズルNに対応する複数の圧電素子44が設置されている。圧電素子44は、駆動信号の供給により変形する受動素子である。複数の圧電素子44は、各圧力室Cに対応するようにY方向に配列している。任意の1個の圧電素子44は、
図4に示すように、相互に対向する第1電極441と第2電極442との間に圧電体層443を介在させた積層体である。なお、第1電極441および第2電極442の一方を、複数の圧電素子44にわたり連続する電極、すなわち、共通電極とすることもできる。第1電極441と第2電極442と圧電体層443とが平面視で重なる部分が圧電素子44として機能する。なお、駆動信号の供給により変形する部分、すなわち、振動部42を振動させる能動部を圧電素子44として画定することもできる。このように、本実施形態に係るインクジェットヘッド26は第1圧電素子と第2圧電素子とを備えている。例えば、第1圧電素子は、中心面OからみてX方向の一方側の圧電素子44であり、第2圧電素子は、中心面OからみてX方向の他方側の圧電素子44である。圧電素子44の変形に連動して振動部42が振動すると、圧力室C内の圧力が変動することで、圧力室Cに充填された水系インクジェットインク組成物が連通路63とノズルNとを通過して吐出される。
【0138】
保護部材46は、複数の圧電素子44を保護するための板状部材であり、振動部42の表面に設置される。保護部材46のうち振動部42側の表面に形成された凹部に複数の圧電素子44が収容されている。
【0139】
振動部42のうち流路形成部30とは反対側の表面には配線基板28の端部が接合されている。配線基板28は、制御ユニット20とインクジェットヘッド26とを電気的に接続する複数の図示しない配線が形成された可撓性の実装部品である。配線基板28のうち、保護部材46に形成された開口部と筐体部48に形成された開口部とを通過して外部に延出した端部が制御ユニット20に接続されている。例えば、FPC(Flexible Printed Circuit)やFFC(Flexible Flat Cable)等の可撓性の配線基板28が好適に採用される。
【0140】
筐体部48は、複数の圧力室Cに供給される水系インクジェットインク組成物を貯留するためのケースである。筐体部48のうちZ方向の正側の表面が、例えば、接着剤で第1流路基板32の表面Faに接合されている。
【0141】
図2に示すように、筐体部48には、第1部分P1および第2部分P2の各々について空間Rbが形成されている。筐体部48の空間Rbと第1流路基板32の空間Raとは、相互に連通する。空間Raと空間Rbとで構成される空間は、複数の圧力室Cに供給される水系インクジェットインク組成物を貯留するインク貯留室Rとして機能する。インク貯留室Rは、複数のノズルNについて共用される共通インク室である。第1部分P1および第2部分P2の各々にインク貯留室Rが形成される。第1部分P1のインク貯留室Rは、中心面OからみてX方向の正側に位置し、第2部分P2のインク貯留室Rは、中心面OからみてX方向の負側に位置する。筐体部48のうち第1流路基板32とは反対側の表面には、インク容器14から供給される水系インクジェットインク組成物をインク貯留室Rに導入するための導入口482が形成されている。
【0142】
図2に示すように、第1流路基板32の表面Fbには、第1部分P1および第2部分P2の各々について吸振体54が設置されている。吸振体54は、インク貯留室R内の水系インクジェットインク組成物の圧力変動を吸収する可撓性のフィルムである。
図3に示すように、吸振体54は、第1流路基板32の空間Raと複数の供給路61とを閉塞するように第1流路基板32の表面Fbに設置されてインク貯留室Rの壁面を構成する。
【0143】
図2に示すように、第1流路基板32のうちノズルプレート52に対向する表面Fbには循環インク室65が形成されている。循環インク室65は、平面視でY方向に延在する長尺状の有底孔である。第1流路基板32の表面Fbに接合されたノズルプレート52により、循環インク室65の開口は閉塞される。
【0144】
図5に示すように、循環インク室65は、第1列L1および第2列L2に沿って複数のノズルNにわたり連続する。具体的には、第1列L1の複数のノズルNの配列と第2列L2の複数のノズルNの配列との間に循環インク室65が形成されている。したがって、
図2に示すように、循環インク室65は、第1部分P1の連通路63と第2部分P2の連通路63との間に位置する。以上のように、本実施形態の流路形成部30は、第1部分P1における圧力室Cである第1圧力室および連通路63である第1連通路と、第2部分P2における圧力室Cである第2圧力室および連通路63である第2連通路と、第1部分P1の連通路63と第2部分P2の連通路63との間に位置する循環インク室65とが形成された構造体である。
図2に示すように、第1実施形態の流路形成部30は、循環インク室65と各連通路63との間を仕切る隔壁部69を含む。
【0145】
なお、前述の通り、第1部分P1および第2部分P2の各々において複数の圧力室Cおよび複数の圧電素子44がY方向に配列している。したがって、第1部分P1および第2部分P2の各々における複数の圧力室Cまたは複数の圧電素子44にわたり連続するように、循環インク室65がY方向に延在すると換言することができる。また、
図2、
図5に示すように、循環インク室65とインク貯留室Rとが相互に間隔をあけてY方向に延在し、当該間隔内に圧力室Cと連通路63とノズルNとが位置するということもできる。
【0146】
図6に示すように、1個のノズルNは、第1区間n1と第2区間n2とを含んでいる。第1区間n1と第2区間n2とは、同軸に形成されて相互に連通する円形状の空間である。第2区間n2は、第1区間n1からみて流路形成部30側に位置する。第2区間n2の内径d2は、第1区間n1の内径d1よりも大きい。以上のように各ノズルNを階段状に形成した構成によれば、各ノズルNの流路抵抗を所望の特性に設定し易いという利点がある。また、
図6に示すように、各ノズルNの中心軸Qaは、連通路63の中心軸Qbからみて循環インク室65とは反対側に位置する。
【0147】
ノズルプレート52のうち流路形成部30に対向する表面には、第1部分P1および第2部分P2の各々について複数の循環路72が形成されている。第1循環路である第1部分P1の複数の循環路72は、第1列L1の複数のノズルNに1対1で対応する。また、第2循環路である第2部分P2の複数の循環路72は、第2列L2の複数のノズルNに1対1で対応する。
【0148】
各循環路72は、X方向に延在する長尺状の有底孔であり、水系インクジェットインク組成物を流通させる流路として機能する。循環路72は、ノズルNから離間した位置、具体的には、当該循環路72に対応するノズルNからみて循環インク室65側に形成されている。
【0149】
図6に示すように、各循環路72は、ノズルNのうち第2区間n2の内径d2と同等の流路幅Waで直線状に形成されている。また、循環路72のY方向の寸法である流路幅Waは、圧力室CのY方向の寸法である流路幅Wbよりも小さい。したがって、循環路72の流路幅Waが圧力室Cの流路幅Wbよりも大きい構成と比較して循環路72の流路抵抗を大きくすることができる。他方、ノズルプレート52の表面に対する循環路72の深さDaは、全長にわたり一定である。具体的には、各循環路72は、ノズルNの第2区間n2と同等の深さに形成されている。以上の構成によれば、循環路72と第2区間n2とを相異なる深さに形成する構成と比較して、循環路72および第2区間n2を形成し易いという利点がある。なお、流路の「深さ」とは、Z方向における流路の深さを意味する。
【0150】
第1部分P1における任意の1個の循環路72は、第1列L1のうち当該循環路72に対応するノズルNからみて循環インク室65側に位置する。また、第2部分P2における任意の1個の循環路72は、第2列L2のうち当該循環路72に対応するノズルNからみて循環インク室65側に位置する。そして、各循環路72のうち中心面Oとは反対側、すなわち、連通路63側の端部は、当該循環路72に対応する1個の連通路63に平面視で重なる。すなわち、循環路72は、連通路63に連通する。他方、各循環路72のうち中心面O側、すなわち、循環インク室65側の端部は、循環インク室65に平面視で重なる。すなわち、循環路72は、循環インク室65に連通する。以上のように、複数の連通路63の各々が循環路72を介して循環インク室65に連通する。したがって、
図6に破線の矢印で図示される通り、各連通路63内の水系インクジェットインク組成物は循環路72を介して循環インク室65に供給される。すなわち、第1列L1に対応する複数の連通路63と第2列L2に対応する複数の連通路63とが1個の循環インク室65に対して共通に連通する。
【0151】
図6には、任意の1個の循環路72のうち循環インク室65に重なる部分の流路長Laと、循環路72のうち連通路63に重なる部分の流路長Lbと、循環路72のうち流路形成部30の隔壁部69に重なる部分の流路長Lcとが図示されている。流路長Lcは、隔壁部69の厚さに相当する。隔壁部69は、循環路72の絞り部分として機能する。したがって、隔壁部69の厚さに相当する流路長Lcが長いほど、循環路72の流路抵抗が増大する。本実施形態では、流路長Laが流路長Lbよりも長く、流路長Laが流路長Lcよりも長いという関係が成立する。さらに、本実施形態では、流路長Lbが流路長Lcよりも長いという関係が成立する。以上の構成によれば、流路長Laや流路長Lbが流路長Lcよりも短い構成と比較して、連通路63から循環路72を介して循環インク室65に水系インクジェットインク組成物が流入し易いという利点がある。
【0152】
以上のように、本実施形態では、圧力室Cが連通路63と循環路72とを介して間接的に循環インク室65に連通する。すなわち、圧力室Cと循環インク室65とは直接的には連通しない。以上の構成において、圧電素子44の動作により圧力室C内の圧力が変動すると、連通路63内を流動する水系インクジェットインク組成物のうちの一部がノズルNから外部に吐出され、残りの一部が連通路63から循環路72を経由して循環インク室65に流入する。本実施形態では、圧電素子44の1回の駆動により連通路63を流通する水系インクジェットインク組成物のうち、ノズルNを介して吐出されるものの量である吐出量が、連通路63を流通する水系インクジェットインク組成物のうち循環路72を介して循環インク室65に流入する水系インクジェットインク組成物の量である循環量を上回るように、連通路63とノズルNと循環路72とのイナータンスが選定される。全部の圧電素子44を一斉に駆動した場合を想定すると、複数のノズルNによる吐出量の合計よりも、複数の連通路63から循環インク室65に流入する循環量の合計のほうが多い、と換言することができる。
【0153】
具体的には、例えば、連通路63を流通する水系インクジェットインク組成物のうち循環量の比率が70%以上、すなわち、吐出量の比率が30%以下となるように、連通路63とノズルNと循環路72との各々の流路抵抗が決定される。以上の構成によれば、水系インクジェットインク組成物の吐出量を確保しながら、ノズルNの近傍の水系インクジェットインク組成物を効果的に循環インク室65に循環させることが可能である。概略的には、循環路72の流路抵抗が大きいほど、循環量が減少する一方で吐出量が増加し、循環路72の流路抵抗が小さいほど、循環量が増加する一方で吐出量が減少する、という傾向がある。
【0154】
図5に示すように、インクジェット装置100は、循環機構75を備えている。循環機構75は、循環インク室65内の水系インクジェットインク組成物をインク貯留室Rに供給、すなわち循環するための機構である。図示を省略するが、循環機構75は、例えば、循環インク室65から水系インクジェットインク組成物を吸引するポンプ等の吸引機構と、水系インクジェットインク組成物に混在する気泡や異物を捕集するフィルター機構と、水系インクジェットインク組成物の加熱により増粘を低減する加温機構とを備えている。循環機構75により気泡や異物が除去されるとともに増粘が低減された水系インクジェットインク組成物が、循環機構75から導入口482を介してインク貯留室Rに供給される。以上のように、インク貯留室R→供給路61→圧力室C→連通路63→循環路72→循環インク室65→循環機構75→インク貯留室Rという経路で水系インクジェットインク組成物が循環する。
【0155】
図5に示すように、循環機構75は、Y方向における循環インク室65の両側から水系インクジェットインク組成物を吸引する。すなわち、循環機構75は、循環インク室65のうちY方向の負側の端部の近傍と循環インク室65のうちY方向の正側の端部の近傍とから水系インクジェットインク組成物を吸引する。なお、Y方向における循環インク室65の一方の端部のみから水系インクジェットインク組成物を吸引する構成では、循環インク室65の両端部間で水系インクジェットインク組成物の圧力に差異が発生し、循環インク室65内の圧力差に起因して連通路63内の水系インクジェットインク組成物の圧力がY方向の位置に応じて相違し得る。したがって、各ノズルNからの水系インクジェットインク組成物の吐出特性、例えば、吐出量や吐出速度等がY方向の位置に応じて相違する可能性がある。以上の構成とは対照的に、本実施形態では、循環インク室65の両側から水系インクジェットインク組成物が吸引されるため、循環インク室65の内部における圧力差が低減される。したがって、Y方向に配列する複数のノズルNにわたり水系インクジェットインク組成物の吐出特性を高精度に近似させることが可能である。ただし、循環インク室65内でのY方向における圧力差が特段の問題とならない場合には、循環インク室65の一方の端部から水系インクジェットインク組成物を吸引する構成も採用され得る。
【0156】
以上のように、本実施形態のインクジェット装置100は、第1ノズルおよび第2ノズルが設けられたノズルプレート52と、水系インクジェットインク組成物が供給される第1圧力室および第2圧力室と、第1ノズルと第1圧力室とを連通させる第1連通路と、第2ノズルと第2圧力室とを連通させる第2連通路と、第1連通路と第2連通路との間に位置する循環インク室65とが設けられた流路形成部30と、第1圧力室および第2圧力室の各々に圧力変化を発生させる圧力発生部とを有するインクジェットヘッド26を備えている。そして、ノズルプレート52には、第1連通路と循環インク室65とを連通させる第1循環路、および、第2連通路と循環インク室とを連通させる第2循環路が設けられている。
【0157】
[4-2]第2実施形態
図7は、第2実施形態のインクジェット装置の斜視図である。
図8は、
図7に示すインクジェット装置が有するメインタンクの斜視図である。
図9は、
図7に示すインクジェット装置が有するインクジェットヘッドの外観斜視図である。
図10は、
図9に示すインクジェットヘッドのノズル配列方向と直交する方向の断面図である。
図11は、
図9に示すインクジェットヘッドのノズル配列方向と平行な方向の断面図である。
図12は、
図9に示すインクジェットヘッドのノズル板の平面図である。
図13Aから
図13Fは、
図9に示すインクジェットヘッドの流路部材を構成する各部材の平面図である。
図14Aおよび
図14Bは、
図9に示すインクジェットヘッドの共通インク室部材を構成する各部材の平面図である。
図15は、本実施形態のインクジェット装置でのインク循環システムの一例を示すブロック図である。
図16は、
図10のA-A’断面図である。
図17は、
図10のB-B’断面図である。
【0158】
インクジェット装置B400の外装B401内に機構部B420が設けられている。ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの各色用のメインタンクB410であるメインタンクB410k、メインタンクB410c、メインタンクB410m、メインタンクB410yの各インク収容部B411は、例えば、アルミニウムラミネートフィルム等の包装部材により形成されている。インク収容部B411は、例えば、プラスチックス製の収容容器ケースB414内に収容される。これにより、メインタンクB410は、各色のインクカートリッジとして用いられる。
【0159】
一方、装置本体のカバーB401cを開いたときの開口の奥側にはカートリッジホルダーB404が設けられている。カートリッジホルダーB404には、メインタンクB410が着脱自在に装着される。これにより、各色用の供給チューブB436を介して、メインタンクB410の各インク排出口B413と各色用のインクジェットヘッドB424とが連通し、インクジェットヘッドB424から記録媒体である布帛に対して水系インクジェットインク組成物を吐出することができる。
【0160】
インクジェットヘッドB424は、ノズル板B1と、流路板B2と、壁面部材としての振動板部材B3とを積層接合している。そして、振動板部材B3を変位させる圧電アクチュエーターB11と、共通インク室部材B20と、カバーB29とを備えている。
ノズル板B1は、水系インクジェットインク組成物を吐出する複数のノズルB4を有している。
【0161】
流路板B2は、ノズルB4に通じる個別インク室B6、個別インク室B6に通じる流体抵抗部B7、流体抵抗部B7に通じるインク導入部B8を形成している。また、流路板B2は、ノズル板B1側から複数枚の板状部材B41、B42、B43、B44、B45を積層接合して形成され、これらの板状部材B41、B42、B43、B44、B45と振動板部材B3を積層接合して流路部材B40が構成されている。
【0162】
振動板部材B3は、インク導入部B8と共通インク室部材B20で形成される共通インク室B10とを通じる開口としてのフィルター部B9を有している。
【0163】
振動板部材B3は、流路板B2の個別インク室B6の壁面を形成する壁面部材である。この振動板部材B3は、2層構造とし、流路板B2側から薄肉部を形成する第1層と、厚肉部を形成する第2層とで形成され、第1層で個別インク室B6に対応する部分に変形可能な振動領域B30を形成している。
【0164】
ここで、ノズル板B1には、
図12にも示すように、複数のノズルB4が千鳥状に配置されている。
【0165】
流路板B2を構成する板状部材B41には、
図13Aに示すように、個別インク室B6を構成する貫通溝部B6aと、流体抵抗部B51、循環路B52を構成する貫通溝部B51a、B52aとが形成されている。
【0166】
同じく板状部材B42には、
図13Bに示すように、個別インク室B6を構成する貫通溝部B6bと、循環路B52を構成する貫通溝部B52bが形成されている。
【0167】
同じく板状部材B43には、
図13Cに示すように、個別インク室B6を構成する貫通溝部B6cと、循環路B53を構成するノズル配列方向を長手方向とする貫通溝部B53aが形成されている。
【0168】
同じく板状部材B44には、
図13Dに示すように、個別インク室B6を構成する貫通溝部B6dと、流体抵抗部B7なる貫通溝部B7aと、インク導入部B8を構成する貫通溝部B8aと、循環路B53を構成するノズル配列方向を長手方向とする貫通溝部B53bが形成されている。
【0169】
同じく板状部材B45には、
図13Eに示すように、個別インク室B6を構成する貫通溝部B6eと、インク導入部B8を構成するノズル配列方向を長手方向とする、フィルター下流側インク室となる貫通溝部B8bと、循環路B53を構成するノズル配列方向を長手方向とする貫通溝部B53cが形成されている。
【0170】
振動板部材B3には、
図13Fに示すように、振動領域B30と、フィルター部B9と、循環路B53を構成するノズル配列方向を長手方向とする貫通溝部B53dとが形成されている。
【0171】
このように、流路部材を複数の板状部材を積層接合して構成することで、簡単な構成で複雑な流路を形成することができる。
【0172】
以上の構成により、流路板B2および振動板部材B3からなる流路部材B40には、各個別インク室B6に通じる流路板B2の面方向に沿う流体抵抗部B51、循環路B52および循環路B52に通じる流路部材B40の厚み方向の循環路B53が形成される。なお、循環路B53は後述する循環共通インク室B50に通じている。
【0173】
一方、共通インク室部材B20には、共通インク室B10と循環共通インク室B50が形成されている。
【0174】
共通インク室部材B20を構成する第1共通インク室部材B21には、
図14Aに示すように、圧電アクチュエーター用貫通孔B25aと、下流側共通インク室B10Aとなる貫通溝部B10aと、循環共通インク室B50となる底のある溝部B50aが形成されている。
【0175】
同じく第2共通インク室部材B22には、
図14Bに示すように、圧電アクチュエーター用貫通孔B25bと、上流側共通インク室B10Bとなる溝部B10bとが設けられている。
【0176】
また、第2共通インク室部材B22には、共通インク室B10のノズル配列方向の一端部と供給ポートB71を通じる供給口部となる貫通孔B71aが設けられている。
【0177】
同様に、第1共通インク室部材B21および第2共通インク室部材B22には、循環共通インク室B50のノズル配列方向の他端部と循環ポートB81を通じる貫通孔B81a、B81bが設けられている。
【0178】
なお、
図14において、底のある溝部については面塗りを施して示している。以下の図についても同様である。
【0179】
このように、共通インク室部材B20は、第1共通インク室部材B21および第2共通インク室部材B22によって構成され、第1共通インク室部材B21を流路部材B40の振動板部材B3側に接合し、第1共通インク室部材B21に第2共通インク室部材B22を積層して接合している。
【0180】
ここで、第1共通インク室部材B21は、インク導入部B8に通じる共通インク室B10の一部である下流側共通インク室B10Aと、循環路B53に通じる循環共通インク室B50とを形成している。また、第2共通インク室部材B22は、共通インク室B10の残部である上流側共通インク室B10Bを形成している。
【0181】
このとき、共通インク室B10の一部である下流側共通インク室B10Aと循環共通インク室B50とはノズル配列方向と直交する方向に並べて配置されるとともに、循環共通インク室B50は共通インク室B10内に投影される位置に配置される。
【0182】
これにより、循環共通インク室B50の寸法が流路部材B40で形成される個別インク室B6、流体抵抗部B7およびインク導入部B8を含む流路に必要な寸法による制約を受けることがなくなる。
【0183】
そして、循環共通インク室B50と共通インク室B10の一部が並んで配置され、循環共通インク室B50は共通インク室B10内に投影される位置に配置されることで、ノズル配列方向と直交する方向のヘッドの幅を抑制することができ、ヘッドの大型化を抑制できる。共通インク室部材B20は、ヘッドタンクやインクカートリッジから水系インクジェットインク組成物が供給される共通インク室B10と循環共通インク室B50を形成する。
【0184】
一方、振動板部材B3の個別インク室B6とは反対側に、振動板部材B3の振動領域B30を変形させる駆動手段としての電気機械変換素子を含む圧電アクチュエーターB11を配置している。
【0185】
この圧電アクチュエーターB11は、
図11に示すように、ベース部材B13上に接合した圧電部材B12を有し、圧電部材B12にはハーフカットダイシングによって溝加工して1つの圧電部材B12に対して所要数の柱状の圧電素子B12A、B12Bを所定の間隔で櫛歯状に形成している。
【0186】
ここでは、圧電部材B12の圧電素子B12Aは駆動波形を与えて駆動させる圧電素子とし、圧電素子B12Bは駆動波形を与えないで単なる支柱として使用しているが、すべての圧電素子B12A、B12Bを駆動させる圧電素子として使用することもできる。
【0187】
そして、圧電素子B12Aを振動板部材B3の振動領域B30に形成した島状の厚肉部である凸部B30aに接合している。また、圧電素子B12Bを振動板部材B3の厚肉部である凸部B30bに接合している。
【0188】
この圧電部材B12は、圧電層と内部電極とを交互に積層したものであり、内部電極がそれぞれ端面に引き出されて外部電極が設けられ、外部電極にフレキシブル配線部材B15が接続されている。
【0189】
このように構成した循環型吐出ヘッドとしてのインクジェットヘッドB424においては、例えば、圧電素子B12Aに与える電圧を基準電位から下げることによって圧電素子B12Aが収縮し、振動板部材B3の振動領域B30が下降して個別インク室B6の容積が膨張することで、個別インク室B6内に水系インクジェットインク組成物が流入する。
【0190】
その後、圧電素子B12Aに印加する電圧を上げて圧電素子B12Aを積層方向に伸長させ、振動板部材B3の振動領域B30をノズルB4に向かう方向に変形させて個別インク室B6の容積を収縮させることにより、個別インク室B6内の水系インクジェットインク組成物が加圧され、ノズルB4から水系インクジェットインク組成物が吐出される。
【0191】
そして、圧電素子B12Aに与える電圧を基準電位に戻すことによって振動板部材B3の振動領域B30が初期位置に復元し、個別インク室B6が膨張して負圧が発生するので、このとき、共通インク室B10から個別インク室B6内に水系インクジェットインク組成物が充填される。そこで、ノズルB4のメニスカス面の振動が減衰して安定した後、次の吐出のための動作に移行する。
【0192】
なお、このヘッドの駆動方法については上記の例に限るものではなく、駆動波形の与えた方によって引き打ちや押し打ち等を行なうこともできる。また、上述した実施形態では、個別インク室B6に圧力変動を与える圧力発生手段として積層型圧電素子を用いて説明したが、これに限定されず、薄膜状の圧電素子を用いることも可能である。さらに、個別インク室B6内に発熱抵抗体を配し、発熱抵抗体の発熱によって気泡を生成して圧力変動を与えるものや、静電気力を用いて圧力変動を生じさせるものを使用することができる。
【0193】
次に、循環型吐出ヘッドとしてのインクジェットヘッドを用いたインク循環システムの一例を、
図15を用いて説明する。
【0194】
図15に示すように、インク循環システムは、メインタンクB410、インクジェットヘッドB424、供給タンクB417、循環タンクB415、コンプレッサーB422、真空ポンプB421、第1送液ポンプB416、第2送液ポンプB412、レギュレーターB419、供給側圧力センサーB418および循環側圧力センサーB423で構成されている。供給側圧力センサーB418は、供給タンクB417とインクジェットヘッドB424との間であって、インクジェットヘッドB424の供給ポートB71に繋がった供給流路側に接続されている。循環側圧力センサーB423は、インクジェットヘッドB424と循環タンクB415との間であって、インクジェットヘッドB424の循環ポートB81に繋がった循環路側に接続されている。
【0195】
循環タンクB415の一方は、第1送液ポンプB416を介して供給タンクB417と接続されており、循環タンクB415の他方は、第2送液ポンプB412を介してメインタンクB410と接続されている。これにより、供給タンクB417から供給ポートB71を通ってインクジェットヘッドB424内に水系インクジェットインク組成物が流入し、循環ポートB81から排出されて循環タンクB415へ排出され、さらに第1送液ポンプB416によって循環タンクB415から供給タンクB417へ水系インクジェットインク組成物が送られることによって水系インクジェットインク組成物が循環する。
【0196】
また、供給タンクB417にはコンプレッサーB422がつなげられていて、供給側圧力センサーB418で所定の正圧が検知されるように制御される。一方、循環タンクB415には真空ポンプB421がつなげられていて、循環側圧力センサーB423で所定の負圧が検知されるよう制御される。これにより、インクジェットヘッドB424内を通って水系インクジェットインク組成物を循環させつつ、メニスカスの負圧を一定に保つことができる。
【0197】
また、インクジェットヘッドB424のノズルB4から液滴を吐出すると、供給タンクB417および循環タンクB415内の水系インクジェットインク組成物量が減少していくため、適宜第2送液ポンプB412を用いて、メインタンクB410から循環タンクに水系インクジェットインク組成物を補充することが好ましい。メインタンクB410から循環タンクB415への水系インクジェットインク組成物の補充のタイミングは、循環タンクB415内の水系インクジェットインク組成物の液面高さが所定高さよりも下がったら水系インクジェットインク組成物の補充を行う等、循環タンクB415内に設けた液面センサー等の検知結果によって制御することができる。
【0198】
次に、インクジェットヘッドB424内における水系インクジェットインク組成物の循環について説明する。
図9に示すように、共通インク室部材B20の端部に、共通インク室B10に連通する供給ポートB71と、循環共通インク室B50に連通する循環ポートB81が形成されている。供給ポートB71および循環ポートB81は、それぞれ、チューブを介して水系インクジェットインク組成物を貯蔵する供給タンクB417、循環タンクB415につなげられている。そして、供給タンクB417に貯留されている水系インクジェットインク組成物は、供給ポートB71、共通インク室B10、インク導入部B8、流体抵抗部B7を経て、個別インク室B6へ供給される。
【0199】
さらに、個別インク室B6内の水系インクジェットインク組成物が圧電部材B12の駆動によりノズルB4から吐出される一方で、吐出されずに個別インク室B6内に留まった水系インクジェットインク組成物の一部もしくは全ては流体抵抗部B51、循環路B52、B53、循環共通インク室B50、循環ポートB81を経て、循環タンクB415へと循環される。
【0200】
なお、水系インクジェットインク組成物の循環は、インクジェットヘッドB424の動作時のみならず、動作休止時においても実施することができる。動作休止時に循環することによって、個別インク室B6内の水系インクジェットインク組成物は常にリフレッシュされるとともに、水系インクジェットインク組成物に含まれる成分の凝集や沈降を抑制できるので好ましい。
【0201】
[5]染色物
本発明に係る記録物である染色物は、前述した本発明の水系インクジェットインク組成物を用いて製造されたものであり、前述した記録方法を用いて製造することができる。
【0202】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0203】
例えば、本発明が適用されるインクジェット装置は、前述した物に限定されない。より具体的には、本発明が適用されるインクジェット装置は、例えば、インク循環システムを有さない物であってもよい。
【0204】
また、前述した実施形態では、インクジェット法により本発明の水系インクジェットインク組成物が付与される記録媒体が布帛である場合について中心的に説明したが、インクジェット法により本発明の水系インクジェットインク組成物が付与される記録媒体は、いかなるものであってもよい。例えば、インクジェット法により本発明の水系インクジェットインク組成物が付与される記録媒体は、普通紙等の紙や、インクジェット用専用紙、コート紙等で呼称されるインク受容層が設けられた記録媒体等の中間転写媒体であってもよい。
【実施例】
【0205】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
[6]水系インクジェットインク組成物の調製
(実施例1)
まず、上記式(2)で示される化合物および上記式(3)で示される化合物からなる色材を用意した。なお、この色材は、塩置換により、カウンターイオンとして、ナトリウムイオン:14500ppm、カリウムイオン:400ppmを含むものとなるように調製したものである。
【0206】
次に、この色材と、トリエチレングリコールモノブチルエーテルと、プロピレングリコールと、2-ピロリドンと、オルフィンPD002W(日信化学工業社製)と、Proxel XL-2(Lonza社製)と、超純水とを所定の比率で混合することにより、表1に示す組成の水系インクジェットインク組成物を調製した。
【0207】
(実施例2~11)
まず、色材として、表1に示す条件のものを用いた以外は、前記実施例1と同様にして水系インクジェットインク組成物を調製した。
【0208】
(比較例1~5)
まず、色材として、表1に示す条件のものを用いた以外は、前記実施例1と同様にして水系インクジェットインク組成物を調製した。
【0209】
前記各実施例および各比較例の水系インクジェットインク組成物の条件を表1にまとめて示す。なお、表1中、トリエチレングリコールモノブチルエーテルを「BTG」、プロピレングリコールを「PG」、2-ピロリドンを「2-Py」、オルフィンPD002W(日信化学工業社製)を「PD002W」、Proxel XL-2(Lonza社製)を「XL-2」と示した。また、表1中には、水系インクジェットインク組成物中におけるナトリウムイオンの含有量をXA[質量%]、水系インクジェットインク組成物中における前記ナトリウムイオン以外のアルカリ金属イオンの含有量をXB[質量%]としたときのXA/XBの値を示した。また、表1中には、水系インクジェットインク組成物中における上記式(2)で示される化合物の含有率をX2[質量%]、上記式(3)で示される化合物の含有率をX3[質量%]として示した。また、前記各実施例の水系インクジェットインク組成物は、いずれも、表面張力が23mN/m以上40mN/m以下の範囲内の値であった。なお、表面張力は、表面張力計(協和界面科学社製、CBVP-7)を用いて、25℃にて、ウィルヘルミー法により測定した。また、前記各実施例の水系インクジェットインク組成物の25℃における粘度は、いずれも、3mPa・s以上6mPa・s以下の範囲内の値であった。なお、水系インクジェットインク組成物の粘度は、振動式粘度計(セニコック社製、VM-100)を用いたJIS Z8809に準拠した測定により求めた。
【0210】
【0211】
[7]評価
前記各実施例および各比較例の水系インクジェットインク組成物について、以下のような評価を行った。
【0212】
[7-1]吐出安定性
図1~
図6に示すようなインクジェット装置に水系インクジェットインク組成物を充填した。評価機の全てのノズルが抜け・曲り等なく正常吐出していることを確認した後、水系インクジェットインク組成物を10時間連続吐出し、以下の基準に従い評価した。C以上を良好なレベルとした。
【0213】
A:全ノズルが正常に吐出。
B:全ノズル数に対して、10%未満のノズルで抜け・曲りが発生。
C:全ノズル数に対して、10%以上20%未満のノズルで抜け・曲りが発生。
D:全ノズル数に対して、20%以上40%未満のノズルで抜け・曲りが発生。
E:全ノズル数に対して、40%以上のノズルで抜け・曲りが発生。
【0214】
[7-2]目詰まり回復性試験
図1~
図6に示すようなインクジェット装置の各色のインクカートリッジに同一の水系インクジェットインク組成物を充填した。評価機の全てのノズルが抜け・曲り等なく正常吐出していることを確認した後、インクジェット装置を正常な状態で電源OFFし、これを40℃環境で1ヵ月、放置した。これらについて全色同時吸引による回復動作で正常吐出に至るまでに要した回数を色毎に測定し、以下の基準に従い評価した。B以上を良好なレベルとした。
【0215】
A:電源ON直後より正常吐出、または、回復動作1~4回で正常化。
B:回復動作5~7で正常化。
C:回復動作8~10回で正常化。
D:回復動作11~15回で正常化。
E:回復動作15回までで回復せず。
【0216】
[7-3]異物評価
10mLの水系インクジェットインク組成物を、ガラス瓶にて気液界面が存在する状態で、60℃、5日間放置した。
【0217】
その後、水系インクジェットインク組成物を、孔径10μmの金属メッシュフィルターで濾過し、金属メッシュフィルターに残留した異物の1mm四方あたりの個数を数え、以下の基準に従い評価した。C以上を良好なレベルとした。
【0218】
A:1mm四方あたりの異物個数が5個未満であった。
B:1mm四方あたりの異物個数が5個以上10個未満であった。
C:1mm四方あたりの異物個数が10個以上30個未満であった。
D:1mm四方あたりの異物個数が30個以上50個未満であった。
E:1mm四方あたりの異物個数が50個以上であった。
これらの結果を表2にまとめて示す。
【0219】
【0220】
表2から明らかなように、本発明では優れた結果が得られた。これに対し、比較例では、満足のいく結果が得られなかった。
【0221】
また、
図1~
図6に示す構成のインクジェット装置の代わりに、
図7~
図17に示す構成のインクジェット装置を用いた以外は、前記と同様に染色物を製造し、前記と同様の評価を行ったところ、前記と同様の結果が得られた。
【符号の説明】
【0222】
100…インクジェット装置、12…布帛、14…インク容器、20…制御ユニット、22…搬送機構、24…移動機構、242…搬送体、244…搬送ベルト、26…インクジェットヘッド、28…配線基板、30…流路形成部、32…第1流路基板、34…第2流路基板、42…振動部、44…圧電素子、441…第1電極、442…第2電極、443…圧電体層、46…保護部材、48…筐体部、482…導入口、52…ノズルプレート、54…吸振体、61…供給路、63…連通路、65…循環インク室、69…隔壁部、72…循環路、75…循環機構、C…圧力室、d1…内径、d2…内径、Da…深さ、Fa…表面、Fb…表面、L1…第1列、L2…第2列、La…流路長、Lb…流路長、Lc…流路長、N…ノズル、n1…第1区間、n2…第2区間、O…中心面、P1…第1部分、P2…第2部分、Qa…中心軸、Qb…中心軸、R…インク貯留室、Ra…空間、Rb…空間、Wa…流路幅、Wb…流路幅、B1…ノズル板、B2…流路板、B3…振動板部材、B4…ノズル、B6…個別インク室、B6a…貫通溝部、B6b…貫通溝部、B6c…貫通溝部、B6d…貫通溝部、B6e…貫通溝部、B7…流体抵抗部、B7a…貫通溝部、B8…インク導入部、B8a…貫通溝部、B8b…貫通溝部、B9…フィルター部、B10…共通インク室、B10a…貫通溝部、B10A…下流側共通インク室、B10b…溝部、B10B…上流側共通インク室、B11…圧電アクチュエーター、B12…圧電部材、B12A…圧電素子、B12B…圧電素子、B13…ベース部材、B15…フレキシブル配線部材、B20…共通インク室部材、B21…第1共通インク室部材、B22…第2共通インク室部材、B25a…圧電アクチュエーター用貫通孔、B25b…圧電アクチュエーター用貫通孔、B29…カバー、B30…振動領域、B30a…凸部、B30b…凸部、B40…流路部材、B41…板状部材、B42…板状部材、B43…板状部材、B44…板状部材、B45…板状部材、B50…循環共通インク室、B50a…溝部、B51…流体抵抗部、B51a…貫通溝部、B52…循環路、B52a…貫通溝部、B52b…貫通溝部、B53…循環路、B53a…貫通溝部、B53b…貫通溝部、B53c…貫通溝部、B53d…貫通溝部、B71…供給ポート、B71a…貫通孔、B81…循環ポート、B81a…貫通孔、B81b…貫通孔、B400…インクジェット装置、B401…外装、B401c…装置本体のカバー、B404…カートリッジホルダー、B410…メインタンク、B410k…ブラック用のメインタンク、B410c…シアン用のメインタンク、B410m…マゼンタ用のメインタンク、B410y…イエロー用のメインタンク、B411…インク収容部、B412…第2送液ポンプ、B413…インク排出口、B414…収容容器ケース、B415…循環タンク、B416…第1送液ポンプ、B417…供給タンク、B418…供給側圧力センサー、B419…レギュレーター、B420…機構部、B421…真空ポンプ、B422…コンプレッサー、B423…循環側圧力センサー、B424…インクジェットヘッド、B436…供給チューブ