(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-25
(45)【発行日】2025-03-05
(54)【発明の名称】プリプレグ、成形体および一体化成形体
(51)【国際特許分類】
B29B 11/16 20060101AFI20250226BHJP
B32B 27/04 20060101ALI20250226BHJP
B29K 101/10 20060101ALN20250226BHJP
B29K 101/12 20060101ALN20250226BHJP
B29K 105/10 20060101ALN20250226BHJP
【FI】
B29B11/16
B32B27/04 Z
B29K101:10
B29K101:12
B29K105:10
(21)【出願番号】P 2020564012
(86)(22)【出願日】2020-11-06
(86)【国際出願番号】 JP2020041509
(87)【国際公開番号】W WO2021131347
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2019231593
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 美穂
(72)【発明者】
【氏名】武部 佳樹
(72)【発明者】
【氏名】小西 大典
(72)【発明者】
【氏名】内藤 悠太
(72)【発明者】
【氏名】中山 義文
(72)【発明者】
【氏名】本間 雅登
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/011487(WO,A1)
【文献】特開2007-092072(JP,A)
【文献】特開2006-049878(JP,A)
【文献】国際公開第2005/082982(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/208586(WO,A1)
【文献】特開2004-315743(JP,A)
【文献】特開2008-007618(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16;15/08-15/14
C08J 5/04-5/10;5/24
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)強化繊維、(B)熱硬化性樹脂、および、(C)熱可塑性樹脂を含むプリプレグであって、(B)熱硬化性樹脂は(A)強化繊維に含浸されており、かつ、プリプレグの表面の少なくとも一部に(C)熱可塑性樹脂が存在しており、かつ、
(B)熱硬化性樹脂は、動的粘弾性測定法(DMA法)により測定した損失正接tanδ曲線において30℃以上100℃以下にピークを有
し、かつ、
(B)熱硬化性樹脂を含む樹脂領域と(C)熱可塑性樹脂を含む樹脂領域との境界面をまたいで存在する(A)強化繊維を有していることを特徴とするプリプレグ。
【請求項2】
ドレープ性が3°以上である請求項
1に記載のプリプレグ。
【請求項3】
(A)強化繊維に(B)熱硬化性樹脂が含浸された領域は、動的粘弾性測定法(DMA法)により求めた損失角δ曲線において、当該損失角δ曲線は極大値を示す点を有し、かつ、当該極大値を示す点よりも短時間側に当該極大値より損失角δが5°以上小さな値を示す点を有する、請求項1
または2に記載のプリプレグ。
【請求項4】
(A)強化繊維に(B)熱硬化性樹脂が含浸された領域は、動的粘弾性測定法(DMA法)により求めた損失角δ曲線において、当該損失角δ曲線は、極大値を示す点を持たないか、極大値を有したとしても当該極大値を示す点よりも短時間側に当該極大値より損失角δが5°以上小さな値を示す点を持たない請求項1
または2に記載のプリプレグ。
【請求項5】
プリプレグは、平均厚みが50μm以上400μm以下であり、前記平均厚みを100%としたとき、(C)熱可塑性樹脂を含む樹脂領域の平均厚みが2%以上55%以下である請求項1から
4のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項6】
(A)強化繊維として、ウィルへルミー法によって測定される表面自由エネルギーが10~50mJ/m
2である強化繊維を用いてなる、請求項1から
5のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項7】
(A)強化繊維が一方向に配列されている請求項1から
6のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項8】
(A)強化繊維の配列する方向に対して直交し、シート表面に平行な方向における引張強度が0.3MPa以上である請求項
7に記載のプリプレグ。
【請求項9】
請求項1から
8のいずれかに記載のプリプレグを用い、(B)熱硬化性樹脂を加熱硬化させた成形体。
【請求項10】
請求項1から
8のいずれかに記載のプリプレグの(C)熱可塑性樹脂が存在する側の面に、熱可塑性樹脂が射出成形によって一体化され、または、熱可塑性樹脂がプレス成形によって一体化された成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維に熱硬化性樹脂が含浸され、かつ、熱可塑性樹脂がその表面の少なくとも一部に存在したプリプレグに関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性樹脂をマトリックスとして用い、炭素繊維やガラス繊維などの強化繊維と組み合わせた繊維強化複合材料は、軽量でありながら、強度や剛性などの力学特性や耐熱性、また耐食性に優れているため、航空・宇宙、自動車、鉄道車両、船舶、土木建築およびスポーツ用品などの数多くの分野に応用されてきた。しかしながら、これらの繊維強化複合材料は、複雑な形状を有する部品や構造体を単一の成形工程で製造するには不向きである。また、上記した用途においては、繊維強化複合材料からなる部材を作製し、次いで、同種または異種の部材と一体化することが必要とされることが多い。強化繊維と熱硬化性樹脂からなる繊維強化複合材料と同種または異種の部材を一体化する手法として、ボルト、リベット、ビスなどの機械的接合方法や、接着剤を使用する接合方法が用いられている。機械的接合方法では、穴あけなど接合部分をあらかじめ加工する工程を必要とするため、製造工程の長時間化および製造コストの増加につながり、また、穴をあけるために材料強度が低下するという問題があった。接着剤を使用する接合方法では、接着剤の準備や接着剤の塗布作業を含む接着工程および硬化工程を必要とするため、製造工程の長時間化につながり、接着強度においても、信頼性に十分な満足が得られないという課題があった。
【0003】
ここで、特許文献1には、強化繊維と熱硬化性樹脂からなる繊維強化複合材料を、接着剤を介して接合する方法が開示されている。特許文献2には、強化繊維と熱硬化性樹脂からなる繊維強化複合材料の表面に熱可塑性樹脂を備え、熱可塑性樹脂で形成される部材を射出成形で一体化する手法が開示されている。特許文献3には、炭素繊維と半硬化状エポキシ樹脂からなる層の表面にポリオレフィンフィルムを配置したプリプレグが開示されている。特許文献4には、強化繊維と熱硬化性樹脂からなるプリプレグの表面に、熱可塑性樹脂からなる粒子、繊維、またはフィルムを配置したプリプレグおよびその繊維強化複合材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-161801号公報
【文献】特開平10-138354号公報
【文献】特開平4-4107号公報
【文献】特開平8-259713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、強化繊維と熱硬化性樹脂からなる繊維強化複合材料同士を接着剤により接合するものである。一般的に、接着剤により部材同士を接着する方法は、接着剤の硬化に時間を要する他、接合強度も接着剤自体の強度に依存する場合があった。
【0006】
特許文献2では、強化繊維と熱硬化性樹脂からなるプリプレグの表面に熱可塑性樹脂フィルムを積層し、加熱・加圧硬化によりプリプレグと熱可塑性樹脂層を一体化させた繊維強化複合材料を得た後、繊維強化複合材料表面の熱可塑性樹脂層へ射出成形により熱可塑性樹脂を含む部材を一体化成形させる手法が開示されている。しかしながら、繊維強化複合材料は熱硬化性樹脂が硬化しているため剛直で、複雑な表面形状を有する金型内へ賦形することは困難であった。このため、簡単な平面形状を有する金型内への適用に限定されてきた。また、繊維強化複合材料は熱硬化性樹脂が硬化しているため表面の粘着性を失い、金型内への正確な配置が難しく、目的箇所へ効率良く補強・補剛することが困難であった。
【0007】
特許文献3では、炭素繊維と半硬化状エポキシ樹脂からなる層の表面にポリオレフィンフィルムを積層したプリプレグを複数枚積層した後、オートクレーブで硬化させ、ポリオレフィンフィルム層と炭素繊維/硬化エポキシ層が交互に積層した繊維強化複合材料が開示されている。目的は、層間に存在する靱性の高い熱可塑性樹脂により、層間破壊靱性を向上させることであり、本発明のプリプレグのように、熱可塑性樹脂層の他部材との熱溶着性を目的としたものではない。また、半硬化状エポキシの硬化度などの定量記載はなく、硬化度による選択性については触れられていない。
【0008】
特許文献4では、強化繊維と熱硬化性樹脂からなるプリプレグの表面に、熱可塑性樹脂からなる粒子、繊維、またはフィルムを配置したプリプレグおよびその繊維強化複合材料が開示されている。目的は、特許文献3と同様に、靭性の高い熱可塑性樹脂により層間破壊靭性を向上させることであり、本発明のプリプレグのように熱溶着を目的としたものではない。
【0009】
このように、何れの先行技術においてもプリプレグのハンドリング性について着眼されてはいなかった。そこで、本発明の課題は、適度な柔軟性と粘着性を発現し、複雑な金型表面への賦形性と、金型表面への密着性に優れ、プリプレグの位置ズレがなく、目的箇所へ効率良く補強・補剛することが可能なプリプレグ、成形体および一体化成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記した課題は、(A)強化繊維、(B)熱硬化性樹脂、および、(C)熱可塑性樹脂を含むプリプレグであって、(B)熱硬化性樹脂は(A)強化繊維に含浸されており、かつ、プリプレグの表面の少なくとも一部に(C)熱可塑性樹脂が存在しており、かつ、(B)熱硬化性樹脂は、動的粘弾性測定法(DMA法)により測定した損失正接tanδ曲線において30℃以上100℃以下にピークを有するプリプレグによって解決することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、適度な柔軟性と粘着性を発現し、複雑な金型表面への賦形性と、金型表面への密着性に優れ、プリプレグの位置ズレが生じ難く、目的箇所へ効率良く補強・補剛することが可能なプリプレグを得ることができる。また、本発明のプリプレグが用いられた成形体および一体化成形体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係るプリプレグの一例で、(A)強化繊維に(B)熱硬化性樹脂が含浸された層の全面に(C)熱可塑性樹脂の層が設けられた模式図(透視図)である。
【
図2】本発明に係るプリプレグの一例における、断面模式図である。
【
図3】ドレープ性の評価方法を説明するための模式図である。
【
図4】(A)強化繊維に(B)熱硬化性樹脂が含浸された領域を対象として測定される損失角δ曲線の模式図である。
【
図5】実施例の項で用いた、接合強度評価用サンプルの作製手順を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、(A)強化繊維、(B)熱硬化性樹脂及び(C)熱可塑性樹脂を含むプリプレグであって、(B)熱硬化性樹脂は(A)強化繊維に含浸されており、かつ、プリプレグの表面の少なくとも一部に(C)熱可塑性樹脂が存在しており、かつ、(B)熱硬化性樹脂は、動的粘弾性測定法(DMA法)により測定した損失正接tanδ曲線において30℃以上100℃以下にピークを有し、かつ、(B)熱硬化性樹脂を含む樹脂領域と(C)熱可塑性樹脂を含む樹脂領域との境界面をまたいで存在する(A)強化繊維を有している。
【0014】
以下に本発明について具体的に例を挙げつつ、詳細に説明する。
【0015】
図1は本発明のプリプレグの一例を示している。
図1に示すプリプレグにあっては、(B)熱硬化性樹脂は(A)強化繊維に含浸されており、また、シート状の形状をしたプリプレグの一方の表面には(C)熱可塑性樹脂の層が設けられている。(C)熱可塑性樹脂は熱溶着性を有するので、表面に存在させることによって、他の部材、特に熱可塑性樹脂を表面に存在する部材との間で短時間かつ良好に溶着接合が可能となる。ここで、(C)熱可塑性樹脂の存在する形態には特に制限は無く、シート状プリプレグの表面の全てを覆っていても、一部を覆っていても構わない。また、複数の領域を島状に設けるような態様であっても構わない。(C)熱可塑性樹脂が表面に存在する割合としては、安定的な熱溶着性を確保する観点から、(C)熱可塑性樹脂が付与される側のプリプレグ表面の面積を100%としたとき、50%以上とすることが好ましく、80%以上とすることがさらに好ましい。なお、
図1の描画においては、発明の理解を助けるため、(A)強化繊維は実線で記載されているが、実際はプリプレグ中に存在する。また、斜視からでは実際見えていない辺も実線で記載されている。
【0016】
また、
図1に示すプリプレグは、(C)熱可塑性樹脂が存在する面とは反対側の表面においては、(C)熱可塑性樹脂は存在しない。すなわち、(A)強化繊維に(B)熱硬化性樹脂が含浸された層によって当該表面は形成されている。このような態様とすることで、射出成形やプレス成形の一般的な金型温度(60~160℃)で適度な粘着性を発現し、プリプレグの金型内の位置ズレを抑制することができる。
【0017】
本発明のプリプレグを構成する(B)熱硬化性樹脂は、動的粘弾性測定法(DMA法)により測定した損失正接tanδ曲線として30℃以上100℃以下にピークを有する。本発明において、動的粘弾性測定法(DMA法)により測定される(B)熱硬化性樹脂の損失正接tanδ曲線は、次のとおりの方法によって求められるものである。すなわち、
i)プリプレグ表面に熱可塑性樹脂が存在する場合には、その部分を取り除き、熱硬化性樹脂と強化繊維のみからなる一片の試料を調製する。サンプル量は1g程度とする。
【0018】
ii)動的粘弾性分析装置(ARESレオメーター:TAインスツルメント社製)を用い、JIS C6481に準拠して、等速昇温測定によりtanδ曲線のピーク温度を求める。ピーク温度は、横軸に温度、縦軸にプリプレグの貯蔵弾性率G’および損失弾性率G”の比(G”/G’)として求められるtanδをおき、曲線を描く。
測定条件は、次のとおりである。
【0019】
昇温速度:5℃/分
周波数 :1Hz 。
【0020】
温度とtanδの関係から得られるtanδ曲線のピーク温度を30℃以上とすることで、熱硬化性樹脂の粘着性を抑制して取り扱い性が良好となり、射出成形やプレス成形の金型内でプリプレグの配置が容易となる。一方、30℃未満であると、室温環境下(23℃)において粘着性を発現するため、取り扱い性が不良となり、射出成形やプレス成形の金型内へプリプレグの配置が困難となる。また、tanδ曲線のピーク温度を100℃以下とすることで、射出成形やプレス成形の一般的な金型温度(60~160℃)で適度な柔軟性と粘着性を発現し、複雑な金型表面への賦形性が容易で、且つ、プリプレグの金型内の位置ズレを抑制することができる。一方、100℃を超えると、一般的な金型の表面温度(60~160℃)で適度な柔軟性と粘着性を発現せず、複雑形状の金型表面への賦形性が困難、且つ、プリプレグの金型内配置において、位置ズレを発生させる。すなわち、熱硬化性樹脂のtanδ曲線のピーク温度が30℃以上100℃以下を外れる場合は、プリプレグを用いて熱可塑性樹脂を含む部材を効率良く補強・補剛し、且つ、優れた外観特性を有する一体化成形体を得ることができない。熱硬化性樹脂のtanδ曲線のピーク温度の好ましい範囲は、40℃以上90℃以下、さらに好ましくは50℃以上80℃以下である。
【0021】
なお、熱硬化性樹脂のtanδ曲線のピーク温度は熱硬化性樹脂の硬化度に依存することが知られている。本発明のプリプレグにおける(B)熱硬化性樹脂の硬化度においては、前記tanδ曲線のピーク温度の範囲となるように制御されて、例えば、熱硬化性樹脂の硬化温度と時間とを調整することによって上記説明したtanδ曲線のピーク温度の範囲となるよう硬化度を調整する方法が例示できる。
【0022】
また、本発明のプリプレグは、
図2に示すように、(B)熱硬化性樹脂を含む樹脂領域と(C)熱可塑性樹脂を含む樹脂領域との境界面をまたいで存在する(A)強化繊維を有していることが好ましい。ここで、「(B)熱硬化性樹脂を含む樹脂領域と(C)熱可塑性樹脂を含む樹脂領域との境界面をまたいで存在する(A)強化繊維」とは、繊維断面のある部分において全周に(B)熱硬化性樹脂と(C)熱可塑性樹脂の両方が接している状態、および/または、繊維断面のある部分では全周の全てが(B)熱硬化性樹脂に接し、且つ、繊維断面の別の部分では全周の全てが(C)熱可塑性樹脂に接している状態の(A)強化繊維をいう。このようなプリプレグとすることによって、強固な接合強度を得ることができる。すなわち、(B)熱硬化性樹脂を含む樹脂領域と(C)熱可塑性樹脂を含む樹脂領域との両方に(A)強化繊維がまたがって存在することよって両樹脂領域は(A)強化繊維を介しての結合がされるので、(B)熱硬化性樹脂を含む樹脂領域と(C)熱可塑性樹脂を含む樹脂領域との接合力が向上する。
【0023】
(A)強化繊維が(B)熱硬化性樹脂を含む樹脂領域と(C)熱可塑性樹脂を含む樹脂領域との境界面をまたいで存在する状態を形成する方法として、(A)強化繊維に(C)熱可塑性樹脂を溶融させて片側の面から被覆させた後、その反対面から(B)熱硬化性樹脂を含浸させる方法と、(A)強化繊維に(B)熱硬化性樹脂を含浸させた後、その表面に(C)熱可塑性樹脂をシート状、不織布状、あるいは、粒子状の形態で付着させ、(C)熱可塑性樹脂が結晶性の場合にはその融点+30℃以上の温度で、非晶性の場合には(B)熱硬化性樹脂のガラス転移温度+30℃以上の温度で加熱・加圧成形することによって、(B)熱硬化性樹脂と(C)熱可塑性樹脂の境界面において、両樹脂を共に流動せしめて前記状態を形成する方法が例示できる。(C)熱可塑性樹脂として耐湿熱性に優れる樹脂を用いる場合には、熱可塑性樹脂の融点が高いため、先に(C)熱可塑性樹脂を片側の面から被覆させる方法が好ましい。
【0024】
本発明のプリプレグは、以下に定義するドレープ性が3°以上であることが好ましい。これにより、射出成形やプレス成形の湾曲面や角部を有する複雑な形状を有する金型へ配置する際の良好な賦形性が得られる。ドレープ性は、より好ましくは10°以上である。上限値については特に制限はないが、湾曲の度が大きくても取り扱い性には劣ることがあるため、90°以下とすることが好ましい。
【0025】
以下に本発明におけるドレープ性について説明する。
【0026】
ドレープ性とは、プリプレグの柔軟性、すなわち、金型への賦形のしやすさを表す一つの指標である。測定方法は、幅25mm、長さ300mmに切り出し、評価用サンプルを得る。これを室温環境下(23℃)において、
図3に示すように、当該サンプルの端部から100mmを水平な試験台の上面に粘着テープで固定し、更にその上からセロハンテープで固定する。残りの200mmの部分は試験台から空中に突き出るように配し、水平になるようにサンプルを保持した後、保持を外して垂下させ、サンプルの保持を開放してから5分後における、自重で撓んだサンプルの先端と試験台の水平面とを基にドレープ角度として評価する。このとき、ドレープ角度は、
図3に示すように自重で撓んだサンプル先端の最下点を点a、空中に突き出した根元を点bとして、点aから鉛直方向に、点bから水平方向に伸ばした際の交点を点cとすると、ドレープ角度(θ。16)は以下の式によって示される。この測定を5点行い、その算術平均値をトレープ性とする。なお、
図3ではサンプルの撓みが点bでのみ生じているが、実際のサンプルではサンプルは弧を描くことが通常である。
【0027】
ドレープ角度θ(°)= {tan-1(lac/lbc)}・(180/π)
ここで、lacは点aと点c間の距離、lbcは点bと点c間の距離である。
【0028】
なお、プリプレグには表面に離型フィルムなどの他の構成が付加されている場合があるが、プリプレグを評価することはいうまでもない。
【0029】
本発明のプリプレグは、(A)強化繊維に(B)熱硬化性樹脂が含浸された領域が、以下に定義する動的粘弾性測定法(DMA法)から得られる損失角δ曲線において、当該損失角δ曲線は極大値を示す点を有し、かつ、当該極大値を示す点よりも短時間側に当該極大値より損失角δが5°以上小さな値を示す点を有すること、すなわち短時間側からみて高さが5°以上あるピークを有すること、が好ましい。本発明において、前記した損失角δ曲線は、次のとおりの方法によって求められるものである。すなわち、
i)プリプレグ表面に存在する熱可塑性樹脂は取り除き、熱硬化性樹脂と強化繊維のみからなる一片の試料を調製する。さらに、厚みが0.5~3mm程度、典型的には厚み1mm程度、となるように積層してサンプルとする。なお、サンプルが一方向材の場合は対称積層とする。
【0030】
ii)動的粘弾性分析装置(ARESレオメーター:TAインスツルメント社製)を用い、JIS K7244-10に準拠して、等温条件で測定する。横軸に経過時間、縦軸にプリプレグの貯蔵弾性率G’および損失弾性率G”を用いて求められる損失角δ(°)=tan-1(G”/G’)をおき、曲線を描く。
測定条件は、次のとおりである。なお、測定温度としては下記する3つの測定温度で測定を行い、得られた損失角δ曲線の何れか1つが前記した、あるいは、後述する好ましい損失角δ曲線の条件を充足していれば良い。なお、成形時に採用する金型温度はこの条件が充足される温度あるいはその近傍の温度が選択されるべきである。ちなみに、実施例に用いた熱硬化性樹脂では、射出成形用金型温度80℃での一体化成形できることから、測定温度を80℃として求めた結果を示している。また、金型温度は低い方がエネルギー効率的に好ましいことから、測定温度80℃で前記したあるいは後述する好ましい損失角δ曲線を与えるプリプレグであることが好ましい。
【0031】
昇温速度:5℃/分
開始速度:30℃
測定温度:80℃、110℃、または、140℃
周波数 :10Hz 。
【0032】
損失角δ曲線において、短時間側からみて高さ、すなわち正の損失角の変化量、が5°以上あるピークを一つ有することにより、一般的な金型の表面温度(60~160℃)で適度な柔軟性と粘着性を発現するため、曲率半径の小さな金型曲面に対しても賦形し易い。また、横型射出成形装置を用いる成形では、垂直に立つ金型面に対してもプリプレグが容易に貼り付けることができるため、型閉時の振動や樹脂充填時の圧力の影響による位置ズレなく一体化成形が可能となる。ピークを有する損失角δ曲線の形状としては、傾きが緩くて起伏のない領域17から極大点が発現する
図4(a)に示す形状(形状1)、および、正の傾きの曲線から極大点が発現する
図4(b)に示す形状(形状2)があり、その中では、短時間でピークが発現する形状2であることがより好ましい。これにより、室温環境下(23℃)におけるプリプレグ表面の粘着性がないため、一層取り扱い性に優れる。
【0033】
本発明のプリプレグは、(A)強化繊維に(B)熱硬化性樹脂が含浸された領域が、上記した動的粘弾性測定法(DMA法)から得られる損失角δ曲線において、ピークを有していない
図4(c)に示されるような、時間側からみて高さが5°以上あるピークを有していないことも好ましい。これにより、室温環境下(23℃)における取り扱い性に優れ、且つ、一般的な金型の表面温度(60~160℃)で柔軟性と粘着性を発現するため、平板や曲率半径の大きな金型曲面への賦形が可能である。特に、大面積の高圧成形時には、高い圧力でも耐え得る形状保持性に優れる。
【0034】
すなわち、損失角δ曲線において、短時間側からみて高さが5°以上あるピークを有するプリプレグは、曲率半径の小さい金型曲面に対して好適に用いられ、ピークのないプリプレグは平板や曲率半径の大きな金型曲面に対して好適に用いられる。
【0035】
本発明のプリプレグは、プリプレグ全体の平均厚みが50μm以上400μm以下であって、前記平均厚みを100%としたとき、(C)熱可塑性樹脂を含む樹脂領域の平均厚みが2%以上55%以下であることが好ましい。プリプレグ全体の平均厚みに占める(C)熱可塑性樹脂を含む樹脂領域の平均厚みの割合を前記範囲とすることにより、ドレープ性が良好となり、金型への賦形が容易となる。この割合は、より好ましくは5%以上30%以下であり、この範囲とすることでさらに、賦形性に加えて、プリプレグの巻取り性、及び、解舒性に優れたプリプレグを得ることができる。なお、プリプレグ全体の平均厚み、および、(C)熱可塑性樹脂を含む樹脂領域の平均厚みは、光学顕微鏡を用いたプリプレグの断面観察によって以下のとおり測定することができる。
【0036】
すなわち、プリプレグから縦20mm×横25mmを採取してサンプルとし、以下のように各部の厚みを測定した。前記サンプルの断面をレーザー顕微鏡(キーエンス(株)製、VKー9510)で200倍に拡大し、無作為に選定し、且つ、互いの視野が重複しない10カ所について、撮影をおこなった(例えば、
図2に示されるように観察される)。撮影した各画像において、等間隔となるように10点の測定位置を定め、プリプレグ全体の厚み、熱可塑性樹脂の厚みを測定した。計100点分の測定データの平均値を代表的なプリプレグ全体の平均厚みT、熱可塑性樹脂を含む樹脂領域の平均厚みTpとして求めた。なお、その差は熱硬化性樹脂の平均厚みTsとした。
【0037】
本発明のプリプレグにおいては、(A)強化繊維として、ウィルへルミー法によって測定される表面自由エネルギーが10m~50mJ/m2であるものを用いることが好ましい。これにより、(A)強化繊維は(B)熱硬化性樹脂および(C)熱可塑性樹脂と高い親和性を発現し、(A)強化繊維がまたいで存在する(B)熱硬化性樹脂と(C)熱可塑性樹脂の接合面において、高い接合強度を発現する。好ましくは、10~40mJ/m2、より好ましくは、20~40mJ/m2である。10mJ/m2未満の場合、(A)強化繊維と、(B)熱硬化性樹脂または(C)熱可塑性樹脂との親和性が低くなり、接合強度の点で不利となる。また、50mJ/m2を超える場合、(A)強化繊維同士が凝集し、成形品中で分散不良となり、接合強度のばらつきが大きくなる。
【0038】
(A)強化繊維表面の表面自由エネルギーを制御する方法としては、表面を酸化処理し、カルボキシル基や水酸基といった酸素含有官能基の量を調整して制御する方法や、単体または複数の化合物を表面に付着させて制御する方法がある。複数の化合物を表面に付着させる場合、表面自由エネルギーの高いものと低いものを混合して付着させてもよい。次に、強化繊維の表面自由エネルギーの算出方法について説明する。
【0039】
前記した表面自由エネルギーは、(A)強化繊維と3種類の溶媒(精製水、エチレングリコール、リン酸トリクレジル)に対する接触角をそれぞれ測定した後、オーエンスの近似式を用いて求めることができる。以下に手順を示す。
【0040】
<接触角の測定>
i)接触角計(DCAT11:DataPhysics社製)を用いて、まず(A)強化繊維の束から1本の単繊維を取り出し、長さ12±2mmに8本にカットした後、専用ホルダーFH12(表面が粘着物質でコーティングされた平板)に単繊維間を2~3mmとして平行に貼り付ける。
【0041】
ii)単繊維の先端を切り揃えてホルダーの接触角計にセットする。測定は、各溶媒の入ったセルを8本の単繊維の下端に0.2mm/sの速度で近づけ、単繊維の先端から5mmまで浸漬させる。その後、0.2mm/sの速度で単繊維を引き上げ、この操作を4回以上繰り返す。
【0042】
iii)液中に浸漬している時の単繊維の受ける力Fを電子天秤で測定し、この値を用いて次式で接触角θを算出する。
【0043】
COSθ=(8本の単繊維が受ける力F(mN))/((8(単繊維の数)×単繊維の円周(m)×溶媒の表面張力(mJ/m2))
なお、測定は、3箇所の強化繊維束の異なる場所から抜き出した単繊維について実施しており、すなわち、一つの強化繊維束に対して合計24本の単繊維についての接触角の平均値を求めた。
【0044】
<表面自由エネルギーの算出>
強化繊維の表面自由エネルギーγfは、表面自由エネルギーの極性成分γp
f、および表面自由エネルギーの非極性成分γd
fの和として算出される。表面自由エネルギーの極性成分は、次式で示されるオーエンスの近似式(各溶媒固有の表面張力の極性成分と非極性成分、さらに接触角θにより構成させる式)に各液体の表面張力の成分、接触角を代入しX、Yにプロットした後、最小自乗法により直線近似したときの傾きaの自乗により求められる。
Y=a・X+b
X=√(溶媒の表面張力の極性成分(mJ/m2))/√(溶媒の表面張力の非極性成分(mJ/m2)
Y=(1+COSθ)・(溶媒の表面張力の極性成分(mJ/m2))/(2×√(溶媒の表面張力の非極性成分(mJ/m2))
γp
f=a2
γd
f=b2
γf=γp
f+γd
f=a2+b2 。
【0045】
各溶媒の表面張力の極性成分および非極性成分は、次のとおりである。
・精製水
表面張力72.8mJ/m2、極性成分51.0mJ/m2、非極性成分21.8(mJ/m2)
・エチレングリコール
表面張力48.0mJ/m2、極性成分19.0mJ/m2、非極性成分29.0(mJ/m2)
・燐酸トリクレゾール
表面張力40.9mJ/m2、極性成分1.7mJ/m2、非極性成分39.2(mJ/m2) 。
【0046】
本発明のプリプレグは、(A)強化繊維が一方向に配列されていることが好ましい。(A)強化繊維を一方向に配列させることで、熱可塑性樹脂を含む部位を効率良く補強・補剛できる。
【0047】
本発明のプリプレグは、(A)強化繊維の配列する方向に対して直交し、シート表面に平行な方向における引張強度(繊維直角方向引張強度)が0.3MPa以上であることが好ましい。この範囲にすることで、後の工程で熱可塑性樹脂の部材を積層あるいは接合する方法として、射出成形やプレス成形を採用したとき、射出圧力及びプレス圧力による繊維乱れを抑制することができる。前記の引張強度は、より好ましくは1.2MPa以上であり、この範囲とすることで、とりわけ樹脂の流動性を伴い、高い圧力を発生する射出成形時の射出圧に耐え得ることができる。なお、上限としては特に制限は無く、高いほど好ましいが、1.5MPa程度とすることが好ましい。
【0048】
なおここで、繊維直角方向引張強度は以下に記載の方法で測定される。
(A)強化繊維が一方向に配列されたプリプレグを、繊維直角方向を長手方向として幅50mm、長さ150mmに切り出し、評価用サンプルとする。評価用サンプルを、つかみ治具間の距離が100mmになるように卓上型精密万能試験機(オートグラフAGS:島津製作所製)にセットし、室温環境下(23℃)で100mm/分の速度で引張試験を行う。サンプルが破断するまでの最大荷重をPmax、サンプルの長手方向に垂直に交わる水平断面積をAとして、以下の式から繊維直角方向引張強度(MPa)を計算することで、得ることができる。なお、評価サンプル数は5以上とし、その算術平均値を採用する。なお、引張強度は、引張試験時の降伏応力として求められる値である。
【0049】
繊維直角方向引張強度(MPa)= Pmax/A 。
【0050】
本発明の成形体は、前記したプリプレグを金型上で加熱硬化して得た成形体である。既存パーツに対して、所望の補強・補剛箇所と等しい形状となるように金型上で加熱硬化させた成形体は、既存パーツ表面から剥離することなく、優れた補強・補剛効果を発揮する。特に、金型へ再挿入困難な大型パーツに対して効率的に補強・補剛することができる成形体である。なお、得られた成形体のtanδ曲線のピーク温度は100℃以上を有する。
【0051】
本発明の一体化成形体は、前記プリプレグに、熱可塑性樹脂を射出成形またはプレス成形して一体化させた成形体である。前記プリプレグを用いることで熱可塑性樹脂部材の目的箇所へ効率良く補強・補剛とすることができる。
【0052】
次に、本発明に好適に用いることができる、(A)強化繊維、(B)熱硬化性樹脂、及び、(C)熱可塑性樹脂の各々について説明する。
【0053】
<(A)強化繊維>
(A)強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、金属繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリアラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、玄武岩繊維などがある。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上併用して用いてもよい。これらの強化繊維は、表面処理が施されているものであっても良い。表面処理としては、金属の被着処理、カップリング剤による処理、サイジング剤による処理、添加剤の付着処理などがある。これらの強化繊維の中には、導電性を有する強化繊維も含まれている。強化繊維としては、炭素繊維が、比重が小さく、高強度、高弾性率であることから、好ましく使用される。
【0054】
(A)強化繊維の形態としては、
図1では、(A)強化繊維は一方向に配列しているが、補強効果が得られる形態であれば特に制限は無く、強化繊維が一方向に引き揃えた長繊維(繊維束)や織物など連続繊維でも良く、マットや不織布のような不連続繊維でも良い。
【0055】
さらに、(A)強化繊維は、同一の形態の複数本の繊維から構成されていても、あるいは、異なる形態の複数本の繊維から構成されていても良い。一つの強化繊維束を構成する強化繊維の単糸数は、通常、300~60,000であるが、基材の製造を考慮すると、好ましくは、300~48,000であり、より好ましくは、1,000~24,000である。上記の上限のいずれかと下限のいずれかとの組み合わせによる範囲であってもよい。
【0056】
炭素繊維の市販品としては、“トレカ(登録商標)”T800G-24K、“トレカ(登録商標)”T800S-24K、“トレカ(登録商標)”T700G-24K、“トレカ(登録商標)”T700S-24K、“トレカ(登録商標)”T300-3K、および“トレカ(登録商標)”T1100G-24K(以上、東レ(株)製)などが挙げられる。
【0057】
<(B)熱硬化性樹脂>
(B)熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、シアネートエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、またはこれらの共重合体、変性体、および、これらの少なくとも2種類をブレンドした樹脂がある。耐衝撃性向上のために、熱硬化性樹脂には、エラストマーもしくはゴム成分が添加されていても良い。中でも、エポキシ樹脂は、力学特性、耐熱性および強化繊維との接着性に優れ、好ましい。エポキシ樹脂の主剤としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールAジグリシジルエーテルなどの臭素化エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格を有するエポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂、N,N,O-トリグリシジル-m-アミノフェノール、N,N,O-トリグリシジル-p-アミノフェノール、N,N,O-トリグリシジル-4-アミノ-3-メチルフェノール、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-メチレンジアニリン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-2,2’-ジエチル-4,4’-メチレンジアニリン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン、N,N-ジグリシジルアニリン、N,N-ジグリシジル-o-トルイジンなどのグリシジルアミン型エポキシ樹脂、レゾルシンジグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレートなどを挙げることができる。
【0058】
エポキシ樹脂の硬化剤としては、例えば、ジシアンジアミド、芳香族ウレア化合物、芳香族アミン化合物、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ポリフェノール化合物、イミダゾール誘導体、テトラメチルグアニジン、チオ尿素付加アミン、カルボン酸ヒドラジド、カルボン酸アミド、ポリメルカプタンなどが挙げられる。
【0059】
<(C)熱可塑性樹脂>
(C)熱可塑性樹脂としては、加熱することにより溶融できる樹脂であれば、特に制限はなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、液晶ポリエステル等のポリエステル系樹脂や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン等のポリオレフィンや、スチレン系樹脂、ウレタン樹脂の他や、ポリオキシメチレン、ポリアミド6やポリアミド66等のポリアミド、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、変性ポリスルホン、ポリエーテルスルホンや、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン等のポリアリーレンエーテルケトン、ポリアリレート、ポリエーテルニトリル、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂などが挙げられる。また、これら熱可塑性樹脂は、上述の樹脂の共重合体や変性体であっても良く、また、上述の樹脂およびその共重合体や変性体から選ばれる2種類以上がブレンドされたものであってもよい。これらの中でも、耐熱性の観点から、ポリアリーレンエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィドまたはポリエーテルイミドから選ばれる1種または2種以上が、(C)熱可塑性樹脂中に60重量%以上含まれた樹脂あるいは樹脂組成物とすることが好ましい。耐衝撃性向上のために、エラストマーもしくはゴム成分が添加されていても良い。さらに、用途等に応じ、本発明の目的を損なわない範囲で適宜、他の充填材や添加剤を含有しても良い。例えば、無機充填材、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、カップリング剤などが挙げられる。
【0060】
また、(C)熱可塑性樹脂を、予め(A)強化繊維に(B)熱硬化性樹脂を含浸したシート状物に付与するに際しては、様々な付与形態を採用することができる。例えば、(C)熱可塑性樹脂をシート状あるいは不織布状に成形して積層する方法や、粒子状の(C)熱可塑性樹脂を前記のシート状物上に散布し、熱を印可して一体化させる方法などの方法を挙げることができる。
【0061】
<用途>
本発明の一体化成形体は、プリプレグを射出成形またはプレス成形の金型内に配置して、インサート成形により熱可塑性樹脂を含む部材と一体化することによって得ることができる。本発明の一体化成形体は、航空機構造部材、風車羽、自動車外板やシート、ICトレイやノートパソコンの筐体などのコンピューター用途さらにはゴルフシャフトやテニスラケットなどスポーツ用途に好ましく用いられる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明の範囲はこれらの実施例に限定して解釈されるものではない。
【0063】
(1)使用材料
(A)強化繊維
・A-1:炭素繊維(“トレカ(登録商標)”T700S-24K、東レ(株)製、ストランド引張強度:4.9GPa)。
・A-2:炭素繊維(目付193g/m2)を平織りした織物。
【0064】
以下、表面に下記A-3~A-8に記載の各種の化合物が付与された強化繊維を説明する。これらは、次のとおりの方法で原料となる共通の炭素繊維束を得た後、下記A-3~A-8に記載の各種の化合物を塗布することで得た。すなわち、まず、イタコン酸を共重合した共重合したアクリロニトリル共重合体を紡糸し、焼成することで、総フィラメント数24,000本、比重1.8g/cm3、ストランド引張強度4.9GPa、ストランド引張弾性率230GPaの炭素繊維束を得た。その後、各種それぞれの化合物をアセトンと混合し、化合物が均一に溶解した約1質量%の溶液を得た。浸漬法により各化合物を上記炭素繊維束に塗布した後、210℃で90秒間熱処理をし、各化合物の付着量が、各化合物が付着した炭素繊維100質量部に対して、0.5質量部となるように調整した。・A-3:ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(エチレンオキサイドの数13、ナガセケムテックス(株)社製)が付与された炭素繊維
表面自由エネルギー:20mJ/m2
・A-4:ビスフェノールAプロピレンオキシド24モル付加物が付与された炭素繊維
表面自由エネルギー:18mJ/m2
・A-5:ソルビトールポリグリシジルエーテル(EX614B、ナガセケムテックス(株)社製)が付与された炭素繊維
表面自由エネルギー:32mJ/m2
・A-6:ポリアリルアミン(PAA-01、(株)日本触媒社製)が付与された炭素繊維
表面自由エネルギー:32mJ/m2
・A-7:ポリエチレンイミン(SP-012、(株)日本触媒社製)
表面自由エネルギー:33mJ/m2
が付与された炭素繊維
・A-8:ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル(jER828、三菱ケミカル(株)社製)が付与された炭素繊維
表面自由エネルギー:9mJ/m2
・A-9:A-5を平織りした織物。
【0065】
表面自由エネルギー:32mJ/m2
(B)熱硬化性樹脂
次の材料を用いて調製した。
・エポキシ樹脂の主剤:
“jER(登録商標)”828、1001、154(以上、三菱ケミカル(株)製)。
・エポキシ樹脂の硬化剤:
DICY7(ジシアンジアミド、三菱ケミカル(株)製)、“Omicure(登録商標)”24(ピィ・ティ・アイ・ジャパン(株)製)、3,3’DAS(3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、三井化学ファイン(株)製)。
【0066】
前記材料を用い、下記方法に従って熱硬化性樹脂B-1およびB-2を作製した。
・B-1:ステンレスビーカーに、jER828、jER1001、およびjER154を、それぞれ、300g、400g、300g入れ、150℃まで昇温し、各成分が相溶するまで混練した。60℃まで降温した後、DICY7Tを54g、Omicure24を20g添加し、60℃において30分間混練することにより、熱硬化性樹脂B-1を得た。
・B-2:ステンレスビーカーに、jER828、jER1001、およびjER154を、それぞれ、300g、400g、300g入れ、150℃まで昇温し、各成分が相溶するまで混練した。80℃まで降温した後、3,3’DASを260g添加し、80℃において30分間混練することにより、熱硬化性樹脂B-2を得た。
(C)熱可塑性樹脂
・C-1:ポリアミド6(“アミラン”(登録商標)CM1007(東レ(株)製、融点225℃))からなる目付10g/m2のフィルムを用いた。
・C-2:ポリアミド6(“アミラン”(登録商標)CM1007(東レ(株)製、融点225℃))からなる目付30g/m2のフィルムを用いた。
・C-3:ポリアミド6(“アミラン”(登録商標)CM1007(東レ(株)製、融点225℃))からなる目付85g/m2のフィルムを用いた。
・C-4:酸変性ポリプロピレン(“アドマー”(登録商標)QB510(三井化学(株)性、融点165℃))からなる目付30g/m2のフィルムを用いた。
・C-5:ポリエーテルケトンケトン(“KEPSTAN”(登録商標)7002(アルケマ社製、融点331℃))からなる目付30g/m2のフィルムを用いた。
(D)射出成形材料
・D-1:二軸押出機中に、ポリアミド6を80部および前記T700Sを20部投入し、250℃の加熱混練を行い、射出成形用のペレットを得た。ペレット中のT700Sの平均繊維長は0.1mmであった。
・D-2:二軸押出機中に、酸変性ポリプロピレンを80部および前記T700Sを20部投入し、250℃の加熱混練を行い、射出成形用のペレットを得た。ペレット中のT700Sの平均繊維長は0.1mmであった。
・D-3:二軸押出機中に、ポリエーテルケトンケトンを80部および前記T700Sを20部投入し、360℃の加熱混練を行い、射出成形用のペレットを得た。ペレット中のT700Sの平均繊維長は0.1mmであった。
(E)熱可塑性板材
・E-1:ポリアミド6を80部および前記T700Sを20部からなるランダム配向繊維強化熱可塑性樹脂を用いた。板厚は5mmであった。
・E-2:酸変性ポリプロピレンを80部および前記T700Sを20部からなるランダム配向繊維強化熱可塑性樹脂を用いた。板厚は5mmであった。
・E-3:ポリエーテルケトンケトンを80部および前記T700Sを20部からなるランダム配向繊維強化熱可塑性樹脂を用いた。板厚は5mmであった。
【0067】
(2)プリプレグの作製方法
以下に、本実施例の項で用いたプリプレグの作製方法を示す。
【0068】
[第Iの方法]
(A)強化繊維(各実施例・比較例の項に記載。第II、第IIIの方法において同様)からなる目付193g/m2の強化繊維シートを引き出し、該強化繊維シートを走行させつつ、所定の(C)熱可塑性樹脂のフィルム(各実施例・比較例の項に記載。第II、第IIIの方法において同様)を連続強化繊維シート上に配置して、IRヒータで加熱して(C)熱可塑性樹脂を溶融し、前記強化繊維シート片面の全面に付着させ、(C)熱可塑性樹脂の溶融温度以下に保たれたニップロールで加圧して、強化繊維シートに含浸したものを冷却させて繊維強化樹脂中間体を得た。次いで、所定の(B)熱硬化性樹脂(各実施例・比較例の項に記載。第II、第IIIの方法において同様)を、ナイフコーターを用いて樹脂目付100g/m2で離型紙上にコーティングし、熱硬化性樹脂フィルムを作製した後、上記中間体の(C)熱可塑性樹脂の含浸を行った面とは反対側の表面に上記熱硬化性樹脂フィルムを重ね、ヒートロールにより加熱加圧しながら繊維強化樹脂中間体に含浸させ、プリプレグを得た。このとき、当該プリプレグのtanδ曲線のピーク温度は、ヒートロールを通る繊維束/ロール間の接触時間とロール温度によって調整される。なお、繊維束/ロール間の接触時間は、ロール段数ならびに繊維束の通過速度によって調整を行った。なお、含浸時の強化繊維シートの走行方向は、強化繊維が一方向に配列されているプリプレグの場合は強化繊維に対して長手方向であり、強化繊維織物によるプリプレグの場合は織物の長尺方向である。
【0069】
[第IIの方法]
(B)熱硬化性樹脂を、ナイフコーターを用いて樹脂目付50g/m2で離型紙上にコーティングし、熱硬化性樹脂のフィルムを作製した。この樹脂フィルムを、(A)強化繊維からなる目付193g/m2の強化繊維シートの両側に重ね合せてヒートロールを用い、加熱加圧しながら熱硬化性樹脂を強化繊維シートに含浸させて繊維強化樹脂中間体を得た。前記繊維強化樹脂中間体の表面に(C)熱可塑性樹脂のフィルムを配置して、加熱加圧しながら(C)熱可塑性樹脂を含浸させ、プリプレグを得た。当該プリプレグのtanδ曲線のピーク温度は、上記記載の方法と同様にして、ヒートロールを通る繊維束/ロール間の接触時間とロール温度によって調整した。
【0070】
[第IIIの方法]
(B)熱硬化性樹脂を、ナイフコーターを用いて樹脂目付50g/m2で離型紙上にコーティングし、熱硬化性樹脂のフィルムを作製した。この樹脂フィルムを、(A)強化繊維からなる目付193g/m2の強化繊維シートの両側に重ね合せてヒートロールを用い、加熱加圧しながら熱硬化性樹脂を強化繊維シートに含浸させ、プリプレグを得た。当該プリプレグのtanδ曲線のピーク温度は、上記記載の方法と同様にして、ヒートロールを通る繊維束/ロール間の接触時間とロール温度によって調整した。
【0071】
(3)動的粘弾性測定法(DMA法)によるtanδピーク温度の測定
プリプレグから(B)熱硬化性樹脂が(A)強化繊維に含浸された領域のみの一片を1g程度採取してサンプルとし、同サンプルに対して、JIS C6481に準拠し、動的粘弾性分析装置(ARESレオメーター:TAインスツルメント社製)を用いてDMA法により、tanδ曲線のピーク温度を求めた。各プリプレグの貯蔵弾性率G‘および損失弾性率G”の比から得られるtanδ=G”/G’曲線において、そのピークに対応する温度を評価した。昇温速度は5℃/分、周波数fは1Hzで測定した。
【0072】
(4)境界面の繊維の確認方法
プリプレグから縦10mm×横10mmを採取してサンプルとし、以下の手順で(B)熱硬化性樹脂の樹脂領域と(C)熱可塑性樹脂の樹脂領域の境界面をまたぐ(A)強化繊維の存在を確認した。前記サンプルは無作為に選定した10カ所から採取し、各サンプルをメチルアルコールで30分間超音波洗浄を行い、(C)熱可塑性樹脂を除去した。得られたサンプルを走査型電子顕微鏡(VKー9510:キーエンス(株)製)にて観察した。10カ所分のサンプル表面全てにおいて、各1本以上の繊維がむき出されている状態が観察された場合には、(B)熱硬化性樹脂と(B)熱硬化性樹脂の境界面をまたぐ(A)強化繊維が存在すると判定した。
【0073】
(5)ドレープ性
図3に示すように、プリプレグを、幅25mm、長さ300mmに切り出し、評価用サンプルとした。なお、強化繊維が一方向に配列されているプリプレグの場合は繊維長手方向を試料の長さ方向とし、強化繊維織物によるプリプレグの場合は織物の長尺を試料の長手方向とした。室内環境下(23℃)において、当該サンプルの端部から100mmを水平な試験台の上面に粘着テープで固定し、更にその上からセロハンテープで固定する。残りの200mmの部分を空中に突き出し、水平になるようにサンプルを保持した後、保持を外して垂下させてから5分後における、サンプルの先端が自重で撓んだ角度をドレープ性として評価した。このとき、自重で撓んだサンプル先端の最下点を点a、空中に突き出した根元を点bとして、点aから鉛直方向に、点bから水平方向に伸ばした際の交点を点cとし、ドレープ角度θは以下の式によって示される。この測定を5点行い、その算術平均値をトレープ性とする。
ドレープ角度θ(°)= {tan
-1(lac/lbc)}・(180/π)
ここで、lacは点aと点c間の距離、lbcは点bと点c間の距離である。
【0074】
(6)動的粘弾性測定法(DMA法)による損失角δ曲線の測定
プリプレグから(B)熱硬化性樹脂が(A)強化繊維に含浸された領域のみを採取し、測定に供した。ただし、試料の厚みが1mmに充たないときは、1mm程度の厚みとなるよう積層を行い、また、一軸方向材にあっては(A)強化繊維の繊維方向を0°とし、繊維直角方向を90°と定義して、[0°/90°]S(記号Sは鏡面対象を示す)で積層してサンプルとした。同サンプルに対して、JIS K7244-10に準拠し、動的粘弾性分析装置(ARESレオメーター:TAインスツルメント社製)を用いてDMA法により、損失角δ(=tan-1(G”/G’))を測定した。30℃から80℃まで昇温速度5℃/分で等速昇温した後、80℃で等温測定を開始した。周波数は10Hzで測定した。ちなみに、80℃は一体化成形において良く用いられる金型温度として採用している。
【0075】
(7)プリプレグ、熱可塑性樹脂の領域、熱硬化性樹脂の領域の厚み
プリプレグから縦20mm×横25mmを採取してサンプルとし、以下のように各部の厚みを測定した。前記サンプルの断面をレーザー顕微鏡(VKー9510:キーエンス(株)製)で200倍に拡大し、無作為に選定し、且つ、互いの視野が重複しない10カ所について、撮影をおこなった(例えば、
図2に示されるように観察される)。撮影した各画像において、等間隔となるように10点の測定位置(厚み測定用垂基線。10)を定め、プリプレグの全体厚み、熱可塑性樹脂の領域の厚みを測定した。計100点分の測定データの平均値を代表的なプリプレグ厚みT、熱可塑性樹脂の領域の厚みTpとし、その差を熱硬化性樹脂の領域の厚みTsとした。
【0076】
(8)繊維直角方向引張強度
強化繊維が一方向に配列されているプリプレグについて、強化繊維の配向する方向に対して直角の方向を長手方向として幅50mm、長さ150mmに切り出し、評価用サンプルとした。評価用サンプルを、つかみ治具間の距離が100mmになるように卓上型精密万能試験機(オートグラフAGS:島津製作所製)にセットし、室温環境下(23℃)で100mm/分の速度で引張試験を行った。サンプルが破断するまでの最大荷重をPmax、サンプルの長手方向に垂直に交わる水平断面積をAとして、以下の式から繊維直角方向引張強度(MPa)を計算した。
【0077】
繊維直角方向引張強度(MPa)= Pmax/A 。
【0078】
(9)取り扱い性
本発明のプリプレグを室温環境下(23℃)で取り扱った際の作業手袋への貼り付き性の観点から、扱い易さについて以下の4段階で相対的に評価した。
◎ :プリプレグを手に取った際に、作業手袋に貼り付かず、樹脂も付着しない。
〇:プリプレグを手に取った際に、作業手袋に貼り付かないが、わずかに樹脂が付着する。
△:プリプレグを手に取った際に、作業手袋に貼り付くが、プリプレグに含まれる(A)強化繊維の配向は乱れない。
×:プリプレグを手に取った際に、作業手袋に貼り付き、プリプレグに含まれる(A)強化繊維の配向が乱れる。
【0079】
(10)成形体の成形
プリプレグを(C)熱可塑性樹脂が存在しない面と射出成形の金型面とが接するようにして、80℃に予備加熱された金型上に置き、完全硬化するまで保持することで、金型形状に即した成形体を得た。
【0080】
(11)一体化成形体の成形
以下に、射出成形およびプレス成形による方法をそれぞれ示す。
【0081】
[射出成形による一体化]
プリプレグを(C)熱可塑性樹脂が存在しない面と射出成形の金型面とが接するようにして、80℃に予備加熱された金型内に挿入し、(D)射出成形材料を金型内に射出充填することによって、プリプレグによって補強・補剛された一体化成形体を得た。ここで、(D)射出成形材料は加熱シリンダー内で射出成形材料の融点+30℃に加熱溶融し、スクリュー回転数60rpm、射出速度90mm/秒、射出圧力200MPa、背圧0.5MPaで射出成形した。
【0082】
一体化成形に用いた射出成形用金型は、縦300mm×横300mmの平面に、半径225mm×高さ280mmの円柱における弧の長さ302mmの曲面を有するものである。
【0083】
[プレス成形による一体化]
プリプレグの(C)熱可塑性樹脂が存在する面と(E)熱可塑性板材を重ねた後、(C)熱可塑性樹脂が存在しない面と80℃に予備加熱された平板金型面とが接するように配置し、プレス機で圧力を加え、(E)熱可塑性板材の融点+30℃まで昇温後、1分間保持して、一体化成形体を得た。なお、プレス機で加える圧力として、低圧力(0.5MPa)の場合と、高圧力(5.0MPa)の場合との2条件で評価を行った。
【0084】
(12)金型との密着性
上記一体化成形体の成形時において、プリプレグを射出成形用金型内に配置した際の金型への密着性について、以下の4段階で相対的に評価した。
◎ :プリプレグを金型に押し当ててから3秒未満で金型と密着し、金型上で位置ズレが発生しなかった。
〇:プリプレグを金型に押し当ててから3秒以上10秒未満で金型と密着し、かつ、成形回数5回において5回とも金型上で位置ズレが発生しなかった。
△:プリプレグを金型に押し当ててから3秒以上10秒未満で金型と密着したが、密着性は不安定であり、成形回数5回において2~4回の範囲で金型上での位置ズレが発生しなかった。
×:プリプレグを金型に押し当ててから10秒以上経過しても金型と密着しにくく、成形回数5回において0~1回の範囲で金型上での位置ズレが発生しなかった。
【0085】
(13)金型曲面への賦形性
上記一体化成形体の成形時において、プリプレグを射出成形用金型へ配置した際の金型曲面への賦形性について、以下の4段階で相対的に評価した。
◎ :プリプレグを金型に押し当ててから3秒未満で柔軟性を発現し、プリプレグが湾曲した金型表面に沿って賦形できた。
〇 :プリプレグを金型に押し当ててから3秒以上10秒未満で柔軟性を発現し、かつ、成形回数5回において5回とも湾曲した金型表面に沿って賦形できた。
△ :プリプレグを金型に押し当ててから3秒以上10秒未満で柔軟性を発現したが、柔軟性は不安定であり、成形回数5回において2~4回の範囲で湾曲した金型表面に沿った賦形ができた。
× :プリプレグを金型に押し当ててから10秒以上経過しても柔軟性が低いために、成形回数5回において0~1回の範囲で湾曲した金型表面に沿った賦形ができた。
【0086】
なお、金型との密着性ならびに金型曲面への賦形性を合わせて相対的に評価することで、本発明のプリプレグにおける成形性を表す。
【0087】
(14)一体化成形体の外観評価
上記一体化成形体の成形後において、プリプレグの成形品内部方向へのズレ、成形品側面方向へのズレ、繊維直進性の維持、および、プリプレグ内部に発生した隙間の有無の観点に基づき、次の4段階で評価した。
◎ :いずれも良好なもの
〇 :いずれか1点で劣るもの
△ :いずれか2点で劣るもの
× :いずれか3点以上で劣るもの。
【0088】
(15)接合強度評価
以下に、接合強度評価用サンプルの作製手順および評価方法を示す。
【0089】
対応する実施例または比較例で用いた(B)熱硬化性樹脂を用い、ナイフコーターを用いて樹脂目付50g/m2で離型紙上にコーティングし、熱硬化性樹脂のフィルムを作製した。この樹脂フィルムを、対応する実施例または比較例で用いた(A)強化繊維からなる目付193g/m2の強化繊維シートの両側に重ね合せてヒートロールを用い、加熱加圧しながら熱硬化性樹脂を強化繊維に含浸させ、幅200mm×長さ150mmの大きさにカットし、プリプレグ(便宜上、下層プリプレグという)を得た。なお、当該下層プリプレグのtanδ曲線のピーク温度は30℃未満となるようヒートロールを通る繊維束/ロール間の接触時間とロール温度によって調整した。
【0090】
次いで、(A)強化繊維が一方向に配列されているプリプレグである場合は、実施例または比較例で作製したプリプレグ1枚を幅200mm×長さ150mmの大きさにカットし、前記の下層プリプレグ7枚に、次いで、(A)強化繊維の繊維方向を0°とし、繊維直角方向を90°と定義して、(C)熱可塑性樹脂を含む面が外に面した面として表れるように[0°/90°]2S(記号Sは鏡面対象を示す)と積層し、積層体を得た。
【0091】
また、(A)強化繊維が平織りした織物からなる場合は、実施例または比較例で作製したプリプレグ1枚を幅200mm×長さ150mmの大きさにカットし、前記の下層プリプレグ7枚に、(C)熱可塑性樹脂を含む面が外に面した面として表れるように積層し、積層体を得た。
【0092】
なお、試料に(C)熱可塑性樹脂を含む面が存在しない場合には、(A)強化繊維が配向する方向を0°とし、当該方向に直交する方向を90°として、表裏面を区別することなく[0°/90°]2S(記号Sは鏡面対象を示す)と積層した。
【0093】
射出成形による一体化成形体の接合評価では、
図5に示す、接合強度評価用サンプルを作製するための射出成形用金型内に、実施例または比較例で作製したプリプレグが金型の側の面とは反対側の面となるように前記積層体を配置した。次いで、射出成形機(J150EII―P:JSW社製)を用いて、射出成形材料(各実施例・比較例の項に記載)を金型内に導入し、幅200mm×長さ12.5mmの領域において射出成形材料と前記積層体とが接合した接合強度評価用の一体化成形体を作製した。その後、該一体化成形体をオーブンの中に入れ、加熱処理により(B)熱硬化性樹脂を完全に硬化させた。ここで、(D)射出成形材料は加熱シリンダー内で融点+30℃に加熱溶融させ、スクリュー回転数60rpm、射出速度90mm/秒、射出圧力200MPa、背圧0.5MPaで射出成形した。得られた接合強度評価用の一体化成形体を、表面の繊維方向がサンプルの長手方向となるようにして、幅180mm×長さ172.5mmの大きさにカットした後、真空オーブン中で24時間乾燥させ、ISO4587:1995(JIS K6850(1994))に準拠してタブ接着し、幅25mmでカットすることで、接合強度評価用サンプルを得た。
【0094】
プレス成形による一体化成形体の接合評価では、
図5に示したと同じ凹凸形状を有する、接合強度評価用サンプルを作製するためのプレス成形用金型内に、実施例または比較例で作製したプリプレグが金型の側の面とは反対側の面となるように前記積層体を配置した。次いで、プレス成形用金型内に配置できるように融点+30℃で加熱加圧成形して厚みを調整後、幅200mm×長さ150mmにカットした熱可塑板材(各実施例・比較例の項に記載)を用意した。幅200mm×長さ12.5mmの領域において前記積層体と接合するように前記熱可塑板材をプレス成形用金型内に配置し、接合強度評価用の一体化成形体を作製した。ここで、金型温度は予め80℃に予熱しており、前記積層体および熱可塑板材を金型内に配置後、熱可塑板材の融点+30℃まで昇温してから低圧力(0.5MPa)の場合と、高圧力(5.0MPa)の場合との2条件でそれぞれ加熱加圧成形を行った。得られた接合強度評価用の一体化成形体を、表面の繊維方向がサンプルの長手方向となるようにして、幅180mm×長さ172.5mmの大きさにカットした後、真空オーブン中で24時間乾燥させ、ISO4587:1995(JIS K6850(1994))に準拠してタブ接着し、幅25mmでカットすることで、接合強度評価用サンプルを得た。
【0095】
得られた接合強度評価用サンプルを、ISO4587:1995(JIS K6850(1994))に基づき、室温環境下(23℃)で引張せん断接合強度を測定し、接合強度の評価とした。
【0096】
なお、この評価において、(A)強化繊維が一方向に配列されているプリプレグの場合は強化繊維の長手方向に沿うように実施例および比較例のプリプレグを調製し、強化繊維織物によるプリプレグの場合は織物の長尺方向に沿うように実施例および比較例のプリプレグを調製した。
【0097】
(16)変動係数
接合強度のばらつきは変動係数で表され、前記した接合強度評価を5回測定し、その標準偏差と平均値を算出し、以下の式を用いて変動係数を求めた。
変動係数(%)=標準偏差/平均値×100
(比較例1)
(A)強化繊維としてA-1、(B)熱硬化性樹脂としてB-1を用いて、第IIIの作製方法によって、表1に示すtanδ曲線のピーク温度を有したプリプレグを作製した。その後、該プリプレグを射出成形用金型内に挿入し、射出成形材料としてD-1を用いてインサート射出成形を実施した。また別に前記の第IIIの作製方法で作製したプリプレグをプレス成形用金型内に挿入し、熱可塑板材としてE-1を用いてプレス成形を実施した。プリプレグの特性、成形性、得られた射出成形後の一体化成形体およびプレス成形後の一体化成形体の評価結果を表1にまとめた。
【0098】
成形性は良好であったが、得られた一体化成形体の接合強度は何れも極めて低かった。
【0099】
(実施例1)
(A)強化繊維としてA-1、(B)熱硬化性樹脂としてB-1、(C)熱可塑性樹脂としてC-4を用いて、第IIの作製方法によって、表1に示すtanδ曲線のピーク温度を有したプリプレグを作製した。その後、該プリプレグを射出成形用金型内に挿入し、射出成形材料としてD-2を用いてインサート射出成形を実施した。また別に前記の第IIの作製方法で作製したプリプレグをプレス成形用金型内に挿入し、熱可塑板材としてE-2を用いてプレス成形を実施した。プリプレグの特性、成形性、得られた射出成形後の一体化成形体およびプレス成形後の一体化成形体の評価結果を表1にまとめた。
【0100】
成形性は良好で、何れも一体化成形体として満足する接合強度を発現した。
【0101】
(比較例2、比較例4、実施例2、実施例6~9)
表1に示す(A)強化繊維、(B)熱硬化性樹脂、(C)熱可塑性樹脂を用いて、第Iの作製方法によって、表1に示すtanδ曲線のピーク温度を有したプリプレグを作製した。その後、該プリプレグを射出成形用金型内に挿入し、射出成形材料としてD-1を用いてインサート射出成形を実施した。また別に前記の第Iの作製方法で作製したプリプレグをプレス成形用金型内に挿入し、熱可塑板材としてE-1を用いてプレス成形を実施した。プリプレグの特性、成形性、得られた射出成形後の一体化成形体およびプレス成形後の一体化成形体の評価結果を表1にまとめた。
【0102】
比較例2は一体化成形体の繊維直進性が大きく乱ており、比較例4はプリプレグが金型内で動き目的箇所へ配置することができなかった。一方で、実施例6~9は接合強度が高く、特に実施例7と8は、金型との密着性ならびに金型曲面への賦形性から表される成形性も良好でありながら極めて高い接合強度を発現した。また、実施例9は、室温環境下(23℃)での取扱い性に優れ、成形性は実施例6~8に対して劣ったが、高圧プレス成形による一体化成形体においても繊維直進性の乱れなく、外観は同条件でプレス成形した実施例7および実施例8よりも良好であった。
【0103】
(比較例3)
(A)強化繊維としてA-2、(B)熱硬化性樹脂としてB-1、(C)熱可塑性樹脂としてC-2を用いて、第Iの作製方法によってプリプレグを作製した。その後、該プリプレグを射出成形用金型内に挿入し、射出成形材料としてD-1を用いてインサート射出成形を実施した。また別に前記の第Iの作製方法で作製したプリプレグをプレス成形用金型内に挿入し、熱可塑板材としてE-1を用いてプレス成形を実施した。プリプレグの特性、成形性、得られた射出成形後の一体化成形体およびプレス成形後の一体化成形体の評価結果を表1にまとめた。
【0104】
一体化成形体は、何れも配置したプリプレグの端部から繊維が乱れるものだった。
【0105】
(実施例3~4)
表1に示す(A)強化繊維、(B)熱硬化性樹脂、(C)熱可塑性樹脂を用いて、第Iの作製方法によって、表1に示すtanδ曲線のピーク温度を有したプリプレグを作製した。その後、該プリプレグを射出成形用金型内に挿入し、射出成形材料としてD-1を用いてインサート射出成形を実施した。また別に前記の第Iの作製方法で作製したプリプレグをプレス成形用金型内に挿入し、熱可塑板材としてE-1を用いてプレス成形を実施した。プリプレグの特性、成形性、得られた射出成形後の一体化成形体およびプレス成形後一体化成形体の評価結果を表1にまとめた。
【0106】
実施例3は、プリプレグの剛性が高かったものの金型への密着性が良く、一体化成形することが可能であった。実施例3及び4は、それぞれ射出一体化成形体における繊維直進性はわずかに損なわれている箇所があったものの、優れた接合強度を発現した。一方で、高圧プレス成形による一体化成形体は、樹脂流れに伴って繊維直進性が大きく乱れて拡がり、形状保持できなかった。
【0107】
(実施例5)
(A)強化繊維としてA-2、(B)熱硬化性樹脂としてB-1、(C)熱可塑性樹脂としてC-2を用いて、第Iの作製方法によって、表1に示すtanδ曲線のピーク温度を有したプリプレグを作製した。その後、該プリプレグを射出成形用金型内に挿入し、射出成形材料としてD-1を用いてインサート射出成形を実施した。また別に前記の第Iの作製方法で作製したプリプレグをプレス成形用金型内に挿入し、熱可塑板材としてE-1を用いてプレス成形を実施した。プリプレグの特性、成形性、得られた射出成形後の一体化成形体およびプレス成形後の一体化成形体の評価結果を表1にまとめた。
【0108】
射出一体化成形体は、比較例3よりも繊維直進性が保持できた外観に優れるものだったが、高圧プレス成形を行った一体化成形体の外観は、プリプレグ端部から繊維直進性が大きく乱れた。
(実施例10~12)
(A)強化繊維としてA-1、(B)熱硬化性樹脂としてB-1、(C)熱可塑性樹脂としてC-4を用いて、第IIの作製方法によって、表2に示すtanδ曲線のピーク温度を調整したプリプレグを作製した。その後、該プリプレグを射出成形用金型内に挿入し、射出成形材料としてD-2を用いてインサート射出成形を実施した。また別に前記の第IIの作製方法で作製したプリプレグをプレス成形用金型内に挿入し、熱可塑板材としてE-2を用いてプレス成形を実施した。プリプレグの特性、成形性、得られた射出成形後の一体化成形体およびプレス成形後の一体化成形体の評価結果を表2にまとめた。
【0109】
何れの一体化成形体においても、金型との密着性ならびに金型曲面への賦形性から表される成形性は良好であり、良好な外観であった。特に、実施例11は、成形性と外観が良好でありながら極めて高い接合強度を発現した。一方で、高圧プレス成形においては、実施例12の外観の方が実施例11と対比して良好であった。
【0110】
(実施例13~19)
表2に示す(A)強化繊維、(B)熱硬化性樹脂、(C)熱可塑性樹脂を用いて、第Iの作製方法によって、表2に示すtanδ曲線のピーク温度を有したプリプレグを作製した。その後、該プリプレグを射出成形用金型内に挿入し、表2に示す射出成形材料を用いてインサート射出成形を実施した。また別に前記の第Iの作製方法で作製したプリプレグをプレス成形用金型内に挿入し、表2に示す熱可塑板材を用いてプレス成形を実施した。プリプレグの特性、成形性、得られた射出成形後の一体化成形体およびプレス成形後の一体化成形体の評価結果を表2にまとめた。
【0111】
何れのプリプレグにおいても、室温環境下(23℃)での取り扱い性は良好であり、特に実施例15~16、実施例18~19では一層取り扱い性が良好であった。また、何れの一体化成形体においても成形性と外観を両立でき、高い接合強度を発現した。高圧プレス成形においては、実施例13~14および実施例17は、プリプレグ端部において繊維直進性が大きく乱れた。一方で、同条件でプレス成形した実施例16および実施例19の外観は極めて良好で、形状保持性に優れるものであった。
【0112】
(実施例20~25)
表3に示す(A)強化繊維、(B)熱硬化性樹脂、(C)熱可塑性樹脂を用いて、第Iの作製方法によって、表3に示すtanδ曲線のピーク温度を有したプリプレグを作製した。その後、該プリプレグを射出金型内に挿入し、射出成形材料としてD-1を用いてインサート射出成形を実施した。また別に前記の第Iの作製方法で作製したプリプレグをプレス成形用金型内に挿入し、熱可塑板材としてE-1を用いてプレス成形を実施した。プリプレグの特性、成形性、得られた射出成形後の一体化成形体およびプレス成形後の一体化成形体の評価結果を表3にまとめた。
【0113】
実施例20~24の一体化成形体は、何れも成形性と外観を両立することができ、かつ高い接合強度を発現した。特に、実施例20および実施例22~24の接合強度は一層高かった。また、実施例21及び実施例22の一体化成形体における接合強度のばらつきは極めて低かった。実施例25の一体化成形体は、実施例20及び実施例22~24と対比して劣るが、一体化成形体として満足する接合強度を得るものであった。
【0114】
(実施例26~30)
表3に示す(A)強化繊維、(B)熱硬化性樹脂、(C)熱可塑性樹脂、作製方法を用いて、表3に示すtanδ曲線のピーク温度を有したプリプレグを作製した。その後、該プリプレグを射出金型内に挿入し、表3に示す射出成形材料を用いてインサート射出成形を実施した。また別に前記の第Iの作製方法で作製したプリプレグをプレス成形用金型内に挿入し、表3に示す熱可塑板材を用いてプレス成形を実施した。プリプレグの特性、成形性、得られた射出成形後の一体化成形体およびプレス成形後の一体化成形体の評価結果を表3にまとめた。
【0115】
材料の組み合わせが異なる何れの一体化成形体においても、成形性と外観を両立することができ、一層高い接合強度を発現した。
【0116】
(まとめ)
実施例1は比較例1対比、一体化成形体の接合強度に優れる結果となった。これは、実施例1のプリプレグの表面には熱溶着性を有する(C)熱可塑性樹脂が被覆するため、射出材料との一体化ができたためである。一方、(C)熱可塑性樹脂が被覆しない比較例1のプリプレグは、見かけ上は射出材料と一体化できたものの、人力によって容易に剥がせるような接合強度の極めて低いものであった。
【0117】
比較例2、4および実施例6~19との対比により、tanδ曲線のピーク温度が30℃以上100℃以下であることによって、射出成形用金型上との密着性ならびに賦形性が良好となり成形性に優れることが確認された。これは、金型上で適度な粘着性と柔軟性を発現するためであると考えられ、本効果によって外観ならびに接合強度に優れる一体化成形体が得られた。特に、実施例7、8、15、18は成形性と一体化成形体の外観のバランスに優れ、tanδ曲線のピーク温度が60℃以上80℃以下程度であることによって、(A)強化繊維の直進性を保持しながらも金型表面からの加熱によって良好な密着性と柔軟性を得ることができると考えられた。
【0118】
比較例2と3は概ね一致する結果であった。これは、当該プリプレグの(A)強化繊維が織物であっても一方向に配列されたもの同様に、tanδ曲線のピーク温度が30度未満であることから、インサート射出成形時の射出圧によってプリプレグ端部の繊維直線性が損なわれるためであると考えられた。なお、本傾向は、実施例4と5の対比によっても確認された。
【0119】
実施例5は比較例3と比較して、一体化成形体の外観に優れた。これは、(A)強化繊維が織物である場合にも、(B)熱硬化性樹脂が特定のtanδ曲線のピーク温度を有することによって繊維の直進性が保持されやすくなったためであると考えられた。
【0120】
実施例6、7、9と実施例10~12との対比により、プリプレグの製造方法が異なる場合においても、tanδ曲線のピーク温度を調整することによって同程度の成形性と一体化成形体の外観を得られることが確認された。
【0121】
実施例7は実施例1と比較して、一体化成形後の接合強度にさらに優れる結果であり、(A)強化繊維が(B)熱硬化性樹脂と(C)熱可塑性樹脂の境界面をまたぐことによって強固な接合力を発現できると考えられた。
【0122】
実施例2は実施例7よりも成形性が優れず、これは当該プリプレグの柔軟性が低く、剛直であることが起因すると考えられた。さらに、実施例3においても成形性は実施例7に対して劣り、これは(C)熱可塑性樹脂の厚みが厚く柔軟性が低いためであると考えられた。
実施例4は金型曲面での密着性ならびに賦形性に優れるものの、一体成形品の外観は実施例7に対してわずかに劣った。これは、当該プリプレグの繊維直角方向引張強度が低いために、加熱加圧成形時に射出圧によって繊維直進性が損なわれるためであると考えられた。
【0123】
実施例6~9と実施例13~16、実施例17~19それぞれの対比により、使用材料が異なる何れのプリプレグにおいても、tanδ曲線のピーク温度を調整することによって、同程度の成形性と一体化成形の外観を得られることが確認された。また、tanδのピーク温度が60℃を超えるプリプレグは、室温環境下(23℃)での取り扱い性に一層優れることも確認された。tanδ曲線のピーク温度が80℃を超えると、金型との密着性と金型曲面への賦形性から表される成形性が劣るものの、高圧プレス成形ときにも繊維直進性の乱れが少なく、形状保持性に優れることが示唆された。
【0124】
実施例20~25は実施例6~9対比、接合強度が一層向上した。すなわち、(A)強化繊維の表面に存在する化合物が、(B)熱硬化性樹脂及び(C)熱可塑性樹脂とより高い親和性を発現することに寄与しているために、(A)強化繊維がまたいで存在する(B)熱硬化性樹脂と(C)熱可塑性樹脂の境界面において、高い接合強度を発現したと考えられる。また、実施例20、実施例22~24の一体化成形体の接合強度は一段と高く、(A)強化繊維の表面自由エネルギーが20~40mJ/m2であることが好ましいことが確認された。
【0125】
実施例20~25と実施例26~30との対比により、(A)強化繊維や(B)熱硬化性樹脂、(C)熱可塑性樹脂が異なる場合においても、(A)強化繊維の表面に存在する化合物を介して、(B)熱硬化性樹脂及び(C)熱可塑性樹脂とがより高い親和性を発現し、高い接合強度が得られることを確認した。
【0126】
【0127】
【0128】
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明の一体化成形体は、航空機構造部材、風車羽、自動車外板やシート、ICトレイやノートパソコンの筐体などのコンピューター用途さらにはゴルフシャフトやテニスラケットなどスポーツ用途に好ましく用いられる。
【符号の説明】
【0130】
1 :プリプレグ
2 :(A)強化繊維
3 :(B)熱硬化性樹脂
4 :(C)熱可塑性樹脂
5 :(A)強化繊維に(B)熱硬化性樹脂が含浸した層
6 :(A)強化繊維
7 :(B)熱硬化性樹脂を含む樹脂領域
8 :(C)熱可塑性樹脂を含む樹脂領域
9 :境界面
10:厚み測定用垂基線
11:プリプレグ
12:試験台
13:点a
14:点b
15:点c
16:ドレープ角度(°)
17:傾きが緩くて起伏のない領域
18:ピークの位置
19:損失角δ曲線(ピーク有り、形状1)
20:損失角δ曲線(ピーク有り、形状2)
21:損失角δ曲線(ピーク無し)
22:積層体
23:金型(可動側)
24:金型(固定側)
25:射出成形機
26:射出成形材料
27:接合強度評価用サンプル