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  • 特許-光重合性組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-25
(45)【発行日】2025-03-05
(54)【発明の名称】光重合性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/28 20060101AFI20250226BHJP
   C08G 65/28 20060101ALI20250226BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20250226BHJP
【FI】
C08F220/28
C08G65/28
C08F290/06
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021029139
(22)【出願日】2021-02-25
(65)【公開番号】P2022130140
(43)【公開日】2022-09-06
【審査請求日】2023-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122345
【弁理士】
【氏名又は名称】高山 繁久
(72)【発明者】
【氏名】河野 瑞貴
(72)【発明者】
【氏名】吉川 文隆
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-514280(JP,A)
【文献】特開2008-106272(JP,A)
【文献】特開2020-172075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C 19/00 - 19/44
C08F 6/00 -246/00
C08F301/00
C08F283/01
C08F290/00 -290/14
C08F299/00 -299/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下に示す成分(A)と成分(B)を成分(A)/成分(B)=30/70~90/10の質量比で含有する光重合性組成物:
(成分(A))
式(1):
CH=CR-COO-(AO)-H (1)
(式(1)中、Rは、水素原子またはメチル基を示し、AOは、炭素数2~4のオキシアルキレン基の少なくとも1種を示し、2種以上のAOが存在する場合、(AO)の付加形態は、ブロックまたはランダムのいずれでもよく、およびnは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を示し、5~100の数である。)
で表され、且つゲル浸透クロマトグラフィー測定により求められるクロマトグラムから算出されるwとwの比率w/wが、式(2):
0.25≦w/w≦0.90 (2)
(式(2)中、前記クロマトグラムのピークにおいて、最大ピーク高さ(h)における保持時間をtとし、最大ピーク高さの1/10の高さ(h1/10)における二つの保持時間をtおよびt(但し、t<t)とした場合、wはtとtとの差(t-t)を示し、およびwはtとtとの差(t-t)を示す。)
の関係を満たすポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、および
(成分(B))
ホモポリマーのガラス転移温度が50℃以上であり、且つ(メタ)アクリロイル基を有する、成分(A)と重合可能なモノマー。
【請求項2】
成分(B)が、4-アクリロイルモルホリンおよび/またはイソボルニルアクリレートである請求項1に記載の光重合性組成物。
【請求項3】
光重合によって立体の造形物を形成するために用いられる請求項1または2に記載の光重合性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光重合性組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物を含む光重合性組成物は、一般に光重合開始剤を使用して光重合を行うことによって、短時間に固化または硬化することができるため、塗料、コーティング材、粘着剤、接着剤、インクジェットインク、シーリング用材料、封止剤、歯科衛生材料、光学材料等の幅広い分野に使用されている。特に近年、立体の造形物を得る技術として、3次元デザインシステム(CAD)によりコンピュータで薄い断面の形状を計算し、この計算結果をもとに液状の光重合性組成物にレーザー光や紫外線を照射して重合させることにより、造形物を作製する光学的立体造形法が用いられている。この光学的立体造形法は、今までの手法では実現できなかった形状を作製することができ、製品試作、建築・建設模型や医療モデルなどの製造に幅広く用いられるようになってきている。また、開発期間とコストの削減、設計品質の向上などにも繋がることも期待されている。
【0003】
光重合性組成物については、光による重合感度が高くて短縮された造形時間で立体の造形物を製造できること、および低粘度で造形時の取り扱い性に優れることが求められている。また、光造形して得られる立体の造形物はより複雑なものや高品質なものが求められており、高い透明性、黄変のない優れた色調、水分や湿分の吸収が少なくて寸法安定性に優れることが要望される。さらに、用途に応じて硬質なものから軟質なものまで幅広い物性が要求される。
【0004】
近年、インクジェット方式による光学的立体造形法を用いて、柔らかい造形物を作製したいという要望があり、種々の組成物が提案されている。例えば、特許文献1には、着色剤、ホモポリマーのガラス転移温度が25℃以上120℃以下のアクリレートモノマーAC、およびホモポリマーのガラス転移温度が-60℃以上25℃未満のアクリレートモノマーBCを含有するカラーインク組成物であって、カラーインク組成物の全質量に対する、アクリレートモノマーACの含有量が、5重量%以上50重量%未満であり、且つアクリレートモノマーBCの含有量が20重量%以上80重量%未満であるカラーインク組成物を使用して、柔らかい3次元造形物を作製することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2016/199611
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、製造途中の造形物を支持する造形台を移動させながら、組成物を吐出する方法で柔らかい造形物を製造する場合に、製造途中の造形物に外力がかかった時には造形物が大きく変形し、且つ外力が除かれても変化した形状が元に戻らないことがあった。
【0007】
本発明は上記のような事情に鑑みなされたものであり、その目的は、柔らかく且つ耐せん断性に優れた造形物(重合体)を得ることが可能な光重合性組成物を提供することである。ここで、「耐せん断性」とは、物体に外力を加えることにより変化した形状が、外力を除いたときに元の形状に戻る性質を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記事項に鑑みて鋭意検討した結果、ゲル浸透クロマトグラフィー測定で求められるクロマトグラムにおける溶出ピークが左右非対称であり、分子量分布が高分子量側に偏ったポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートと、ホモポリマーのガラス転移温度が50℃以上である、成分(A)と重合可能なモノマーとを含む組成物から、柔らかく且つ耐せん断性に優れた造形物(重合体)が得られることを見出した。
【0009】
上記知見に基づく本発明は、以下の通りである。
[1] 以下に示す成分(A)と成分(B)を成分(A)/成分(B)=30/70~90/10の質量比で含有する光重合性組成物:
(成分(A))
式(1):
CH=CR-COO-(AO)-H (1)
(式(1)中、Rは、水素原子またはメチル基を示し、AOは、炭素数2~4のオキシアルキレン基の少なくとも1種を示し、2種以上のAOが存在する場合、(AO)の付加形態は、ブロックまたはランダムのいずれでもよく、およびnは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を示し、5~100の数である。)
で表され、且つゲル浸透クロマトグラフィー測定により求められるクロマトグラムから算出されるwとwの比率w/wが、式(2):
0.25≦w/w≦0.90 (2)
(式(2)中、前記クロマトグラムのピークにおいて、最大ピーク高さ(h)における保持時間をtとし、最大ピーク高さの1/10(h1/10)における二つの保持時間をtおよびt(但し、t<t)とした場合、wはtとtとの差(t-t)を示し、およびwはtとtとの差(t-t)を示す。)
の関係を満たすポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、および
(成分(B))
ホモポリマーのガラス転移温度が50℃以上である、成分(A)と重合可能なモノマー。
【発明の効果】
【0010】
本発明の光重合性組成物(以下「本発明の組成物」と記載することがある)は、光重合によって、柔らかく且つ耐せん断性に優れた造形物(重合体)を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、wおよびwを説明するための、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートのゲル浸透クロマトグラフィー測定により求められるクロマトグラムのモデルである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本明細書において記号「~」を用いて規定された数値範囲は、「~」の両端(上限および下限)の数値を含むものとする。例えば「2~4」は、2以上、4以下を表す。また、本明細書において「(メタ)アクリレート」は、アクリレートまたはメタクリレートを表す。ここで、(メタ)アクリレートは、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。「(メタ)アクリロイル基」等の用語も、「(メタ)アクリレート」と同様の意味である。
【0013】
<成分(A)>
本発明の成分(A)は、式(1):
CH=CR-COO-(AO)-H (1)
(式(1)中、Rは、水素原子またはメチル基を示し、AOは、炭素数2~4のオキシアルキレン基の少なくとも1種を示し、2種以上のAOが存在する場合、(AO)の付加形態は、ブロックまたはランダムのいずれでもよく、およびnは、オキシアルキレン基の平均付加モル数を示し、5~100の数である。)で表されるポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートである。成分(A)は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
AOは、炭素数2~4のオキシアルキレン基の少なくとも1種である。即ち、AOは、オキシエチレン基、オキシプロピレン基およびオキシブチレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種である。AOは、好ましくはオキシプロピレン基である。nは、オキシアルキレン基の平均付加モル数である。そのため、nは、小数であってもよい。nは、好ましくは5~60、より好ましくは5~50、さらに好ましくは5~40、特に好ましくは15~40である。
【0015】
本発明の成分(A)は、示差屈折率計を用いるゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定により求められるクロマトグラム(縦軸:屈折率強度、横軸:保持時間)から算出されるwとwの比率w/wが、式(2):
0.25≦w/w≦0.90 (2)
(式(2)中、前記クロマトグラムのピークにおいて、最大ピーク高さ(h)における保持時間をtとし、最大ピーク高さの1/10(h1/10)における二つの保持時間をtおよびt(但し、t<t)とした場合、wはtとtとの差(t-t)を示し、およびwはtとtとの差(t-t)を示す。)の関係を満たすことを特徴とする(図1参照)。
【0016】
/wが0.25より小さくなると、成分(A)の分子量分布における高分子量側の偏りが大きいため、組成物の粘度が高くハンドリング性が低下する。ハンドリング性の観点から、w/wが、0.30以上であることが好ましく、0.35以上であることがより好ましい。
【0017】
一方、w/wが0.90より大きくなると、本発明の組成物の光重合時にゲル化が起こりやすくなる。また、w/wが0.90より大きくなると、本発明の組成物を光重合して得られる造形物(重合体)の耐せん断性が不十分となる。ゲル化抑制および耐せん断性の観点から、w/wが、0.80以下であることが好ましく、0.60以下であることがより好ましい。
【0018】
本発明において、w/wを算出するためのクロマトグラム(縦軸:屈折率強度、横軸:保持時間)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)のシステムとしてHLC-8320GPC(登録商標)、ガードカラムとしてSHODEX KF-G、カラムとしてSHODEX KF804Lを3本連続装着し、カラム温度40℃、展開溶剤としてテトラヒドロフランを1mL/分の流速で流し、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートの0.1重量%テトラヒドロフラン溶液0.1mLを注入し、EcoSEC GPC計算プログラムを用いて得られるものである。
【0019】
本発明の組成物中の成分(A)/成分(B)の質量比は、30/70~90/10である。前記質量比は、耐せん断性に優れた造形物(重合体)を得るために30/70以上であることが必要であり、得られる造形物が過度に柔らかくなることを防ぐために90/10以下であることが必要である。前記質量比は、好ましくは40/60~80/20であり、より好ましくは50/50~80/20である。
【0020】
成分(A)は、複合金属シアン化物錯体触媒(以下「DMC触媒」と略称することがある)の存在下で、出発原料(例えば、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート)にエチレンオキシド、プロピレンオキシドおよびブチレンオキシドからなる群から選ばれる少なくとも1種(好ましくはプロピレンオキシド)を付加させることによって製造することができる。具体的には、反応容器内に、出発原料とDMC触媒を加え、不活性ガス雰囲気の攪拌下、エチレンオキシド、プロピレンオキシドおよびブチレンオキシドからなる群から選ばれる少なくとも1種(以下、これらをまとめて「炭素数2~4のアルキレンオキシド」と記載する)を連続または断続的に添加し付加重合する。炭素数2~4のアルキレンオキシドは加圧して添加しても良く、大気圧下で添加しても良い。
【0021】
炭素数2~4のアルキレンオキシドの平均供給速度、炭素数2~4のアルキレンオキシドの仕込み量によって変化させる。炭素数2~4のアルキレンオキシドの全供給量の5重量%以上20重量%以下を供給する間の速度(単位時間あたりの供給量)をV、炭素数2~4のアルキレンオキシドの全供給量の20重量%超50重量%以下を供給する間の速度をV、炭素数2~4のアルキレンオキシドの全供給量の50重量%超100重量%以下を供給する間の速度をVとしたとき、成分(A)を製造するための一態様では、V/V=1.1~2.0、V/V=1.1~1.5となるように炭素数2~4のアルキレンオキシドの平均供給速度を制御する。また、成分(A)を製造するための別の一態様では、V/V=0.4~0.9、V/V=0.5~0.95となるように炭素数2~4のアルキレンオキシドの平均供給速度を制御する。
【0022】
また、出発原料に炭素数2~4のアルキレンオキシドを付加させるための反応温度は、50℃~120℃が好ましく、70℃~90℃がより好ましい。この反応温度が50℃より低いと反応速度が非常に小さく、120℃より高いと、出発原料における重合性基の重合や、着色の問題が生じる。
【0023】
出発原料および炭素数2~4のアルキレンオキシドに含まれる微量の水分量については特に制限はないが、出発原料に含まれる水分量は、0.5重量%以下、炭素数2~4のアルキレンオキシドに含まれる水分量は、0.01重量%以下であることが望ましい。
【0024】
DMC触媒の使用量は、特に制限されるものではないが、生成するアルキレンオキシド誘導体(即ち、成分(A))100重量部に対して、0.0001~0.1重量部が好ましく、0.001~0.05重量部がより好ましい。DMC触媒の反応系への投入は初めに一括して行ってもよいし、順次分割して行ってもよい。重合反応終了後、DMC触媒の除去を行う。触媒の除去は、ろ別や遠心分離、合成吸着剤による処理など公知の方法により行うことが出来る。
成分(A)の製造において、DMC触媒は公知のものを用いることができる。
【0025】
DMC触媒は、例えば、式(3):
[M’(CN)(HO)・(L) (3)
(式(3)中、MおよびM’は、金属原子を示し、Lは、有機配位子を示し、a、b、c、d、xおよびyは、正の整数を示す。)で表されるものを使用することができる。
【0026】
金属原子(金属カチオン)Mとしては、例えば、Zn(II)、Fe(II)、Fe(III)、Co(II)、Ni(II)、Al(III)、Sr(II)、Mn(II)、Cr(III)、Cu(II)、Sn(II)、Pb(II)、Mo(IV)、Mo(VI)、W(IV)、W(VI)などが挙げられる。なかでもZn(II)が好ましく用いられる。
【0027】
金属原子(金属カチオン)M’としては、例えば、Fe(II)、Fe(III)、Co(II)、Co(III)、Cr(II)、Cr(III)、Mn(II)、Mn(III)、Ni(II)、V(IV)、V(V)などが挙げられる。なかでもFe(II)、Fe(III)、Co(II)、Co(III)が好ましく用いられる。
【0028】
有機配位子Lとしては、例えば、アルコール、エーテル、ケトン、エステルなどが使用でき、アルコールがより好ましい。好ましい有機配位子は、水溶性のものであり、具体例としては、tert-ブチルアルコール、n-ブチルアルコール、iso-ブチルアルコール、N,N-ジメチルアセトアミド、エチレングリコールジメチルエーテル(グライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)などが挙げられる。特に好ましいDMC触媒は、tert-ブチルアルコールが配位したZn(II)[Co(III)(CN)(HO)(tert-ブチルアルコール)である。
【0029】
出発原料に炭素数2~4のアルキレンオキシドを付加させる反応においては、その他の添加剤を使用してもよい。例えば、重合禁止剤としてヒドロキノン(HQ)、ヒドロキノンモノメチルエーテル(MQ)、2,6-ジ-tert-ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ジ-tert-ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロールなどを反応系に添加することができる。重合禁止剤は、好ましくはMQおよび/またはBHTであり、より好ましくはBHTである。重合禁止剤の添加量としては、出発原料(例えば、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート)と炭素数2~4のアルキレンオキシドとの合計100重量部に対し、0.001~0.3重量部が好ましい。この添加量が0.001重量部より少ないと、重合禁止剤の機能が不十分となり、炭素数2~4のアルキレンオキシドの付加中にゲル化が生じる可能性がある。一方、この添加量が0.3重量部より多いと、得られるポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートの純度が低くなる場合がある。
【0030】
<成分(B)>
本発明の成分(B)は、ホモポリマーのガラス転移温度が50℃以上である、成分(A)と重合可能なモノマー(但し、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートを除く)である。成分(B)は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。以下、成分(B)の「ホモポリマーのガラス転移点温度」を「Tg」と略称することがある。
【0031】
成分(B)は、好ましくはTgが50℃以上である(メタ)アクリロイル基を有する化合物であり、より好ましくはTgが50℃以上である1分子中に1個の(メタ)アクリロイル基を有するである。成分(B)の具体例としては、4-アクリロイルモルホリン(Tg:145℃)、イソボルニルアクリレート(Tg:97℃)、N,N-ジメチルアクリルアミド(Tg:119℃)、2-アクリロイルオキシエチルフタレート(Tg:130℃)、2-アクリロイルオキシプロピルフタレート(Tg:158℃)、ジシクロペンタニルアクリレート(Tg:120℃)、ジシクロペンタニルメタクリレート(Tg:175℃)、ジシクロペンテニルアクリレート(Tg:120℃)、イソボルニルメタクリレート(Tg:180℃)、アダマンチルアクリレート(Tg:153℃)、アダマンチルメタクリレート(Tg:250℃)、tert-ブチルメタクリレート(Tg:107℃)、シクロヘキシルメタクリレート(Tg:66℃)、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(Tg:55℃)、メチルメタクリレート(Tg:105℃)等が挙げられる。成分(B)は、さらに好ましくは4-アクリロイルモルホリン(Tg:145℃)および/またはイソボルニルアクリレート(Tg:97℃)である。なお、Tgは、成分(B)のホモポリマーを合成し、得られたホモポリマーの示差走査熱分析(DSC)によって算出することができる。DSCのためには、例えば、TAインスツルメント社製の示差走査熱量計を使用することができる。
【0032】
成分(B)のホモポリマーのガラス転移温度は50℃以上であることが必要である。このような成分(B)を使用することによって、本発明の組成物から得られる造形物が過度に柔らかくなることを防ぐことができる。成分(B)のホモポリマーのガラス転移温度は、好ましくは60℃以上、より好ましくは80℃以上であり、好ましくは180℃以下、より好ましくは150℃以下である。なお、2種以上の成分(B)を使用する場合、各成分(B)のホモポリマーのガラス転移温度は、50℃以上であることが必要であり、好ましくは60℃以上、より好ましくは80℃以上であり、好ましくは180℃以下、より好ましくは150℃以下である。
【0033】
<光重合開始剤>
本発明の組成物は、好ましくは光重合開始剤を含有する。光重合開始剤は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。光重合開始剤は、公知のものを使用することができる。光重合開始剤としては、例えば、光の作用によりラジカルを発生するラジカル重合開始剤(以下「光ラジカル重合開始剤」と記載することがある)、光の作用により酸またはカチオンを生成する開始剤(即ち、酸発生剤またはカチオン発生剤)が挙げられる。光重合開始剤は、好ましくは光ラジカル重合開始剤である。
【0034】
本発明の組成物の光重合は、通常行われている光の波長範囲および照射時間で行うことができる。光重合開始剤の使用量は、本発明の組成物中に含まれる重合性官能基(メタ(アクリロイル)基)1モルに対して、好ましくは0.0001モル以上0.1モル以下である。
【0035】
<他の成分>
本発明の組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、上述の成分(A)、成分(B)および光重合開始剤とは異なる他の成分を含有していてもよい。他の成分は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
本発明の組成物は、成分(A)および成分(B)とは異なる他の重合性成分を含んでいてもよい。他の重合性成分としては、例えば、酢酸ビニル等が挙げられる。他の重合性成分は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。他の重合性成分を使用する場合、その量は、成分(A)および成分(B)の合計100重量部に対して、好ましくは1~40重量部、より好ましくは5~30重量部である。
【0037】
本発明の組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、成分(A)、成分(B)および他の重合性成分とは異なる他の添加剤を含有していてもよい。他の添加剤は、1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。他の添加剤としては、例えば、熱重合禁止剤、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線増感剤、防腐剤、難燃剤(例えば、リン酸エステル系難燃剤)、界面活性剤、湿潤分散剤、帯電防止剤、着色剤、可塑剤、表面潤滑剤、レベリング剤、軟化剤、顔料、有機フィラー、無機フィラーが挙げられる。他の添加剤を使用する場合、その量は、成分(A)および成分(B)の合計100重量部に対して、好ましくは1~10重量部、より好ましくは1~5重量部である。
【実施例
【0038】
以下に、実施例等を挙げて本発明を詳細に説明する。
【0039】
複合金属シアン化物錯体(DMC)触媒の合成
塩化亜鉛2.1gを含む2.0mLの水溶液中に、カリウムヘキサシアノコバルテートKCo(CN) 0.84gを含む15mLの水溶液を、40℃にて攪拌しながら15分間かけて滴下した。滴下終了後、水16mL、およびtert-ブチルアルコール16gを加え、70℃に昇温し、1時間攪拌した。室温まで冷却後、濾過操作(1回目)を行い、固体を得た。この固体に、水14mL、およびtert-ブチルアルコール8.0gを加え、30分間攪拌したのち、濾過操作(2回目)を行い、固体を得た。得られた固体にtert-ブチルアルコール18.6g、およびメタノール1.2gを加え、30分間攪拌したのち、濾過操作(3回目)を行い、得られた固体を40℃、減圧下で3時間乾燥し、DMC触媒(Zn(II)[Co(III)(CN)(HO)(tert-ブチルアルコール))0.7gを得た。
【0040】
成分(A1)の合成
温度計、圧力計、安全弁、窒素ガス吹き込み管、撹拌機、真空排気管、冷却コイルおよび蒸気ジャケットを装備したステンレス製5リットル(内容積4,890mL)の耐圧反応装置に2-ヒドロキシプロピルアクリレート651g(水分量0.02重量%)、合成例1と同様にして得られたDMC触媒1.0g、および2,6-ジ-tert-ブチルヒドロキシトルエン(BHT)1.2gを仕込んだ。窒素置換後、80℃へと昇温し、0.3MPa以下の条件で、攪拌しながら、窒素ガス吹き込み管より、プロピレンオキシド(メチルオキシラン、水分量0.005重量%)581gを滴下し、反応槽内の圧力と温度の経時的変化を観察したところ、プロピレンオキシド581gの滴下終了後から5時間後、反応槽内の圧力が急激に減少した。その後、反応槽内を80℃に保ちながら、0.5MPa以下の条件で、窒素ガス吹き込み管より、徐々にプロピレンオキシド1130gを滴下した。なお、平均供給速度については、Vが260g/時間、Vが290g/時間、Vが350g/時間であった(V/V=0.9、V/V=0.8)。滴下終了後、80℃で0.5時間反応させた後、反応層から反応混合物を抜き取り、反応混合物の濾過操作を行って、固体を除去し、液状の成分(A1)を得た。得られた成分(A1)について、上述のHLC-8320GPC(登録商標)を使用したゲル浸透クロマトグラフィー測定を行った。
【0041】
成分(A2)および成分(A3)の合成
下記表1に示すようにアルキレンオキシドの付加モル数、またはアルキレンオキシドの種類およびその付加モル数を変更したこと以外は成分(A1)の合成と同様の方法で、成分(A2)および成分(A3)を合成した。得られた成分(A2)および成分(A3)について、上記と同様にして、ゲル浸透クロマトグラフィーによる測定を行った。
【0042】
成分(A’)の合成
温度計、圧力計、安全弁、窒素ガス吹き込み管、撹拌機、真空排気管、冷却コイルおよび蒸気ジャケットを装備したステンレス製5リットル(内容積4,890mL)の耐圧反応装置に2-ヒドロキシプロピルアクリレート500g、四塩化スズ14.5g、ヒドロキノンモノメチルエーテル(MQ)0.8g、2,6-ジ-tert-ブチルヒドロキシトルエン(BHT)0.2gを仕込んだ。窒素置換後、60℃へと昇温し、0.3MPa以下の条件で、攪拌しながら、窒素ガス吹き込み管より、プロピレンオキシド(メチルオキシラン)1025gを滴下した。滴下終了後、60℃で0.5時間反応させ、水およびヘキサンの添加後、水酸化ナトリウム水溶液で中和を行った。水層を除去後、ヘキサンおよび水を減圧下で留去し、濃縮物の濾過操作を行って、固体を除去し、液状の成分(A’)を得た。得られた成分(A’)について、上記と同様にして、ゲル浸透クロマトグラフィーによる測定を行った。
【0043】
上述の成分(A1)~成分(A’)の合成に使用した出発原料、成分(A1)~成分(A’)のw/w、成分(A1)~成分(A’)の式(1)中のR、AOおよびn、並びに成分(A1)~成分(A’)の分子量を下記表1に示す。なお、分子量は、JIS K-1557-1に準拠して測定した水酸基価より算出したものである。下記表1に示すように、成分(A1)~成分(A3)が、本発明のw/wの要件を満たし、成分(A’)が、本発明のw/wの要件を満たさない。
【0044】
【表1】
【0045】
実施例1~6並びに比較例1および2
50mLスクリュー管に、下記表2に示す成分(A1)~成分(A3)のいずれか、成分(B)、他の成分および光重合開始剤を、表2に示す量(単位:重量部)で仕込み、撹拌機器にて十分に撹拌を行い、実施例1~6および比較例2の組成物を得た。また、50mLスクリュー管に、成分(A’)、並びに下記表2に示す成分(B)および光重合開始剤を、表2に示す量(単位:重量部)で仕込み、撹拌機器にて十分に撹拌を行い、比較例1の組成物を得た。
【0046】
実施例1~6、比較例1および2で使用した成分(B)、その他の成分および光重合開始剤は以下の通りである。また、成分(B)および他の成分の「ホモポリマーのガラス転移点温度(Tg)」を以下に記載する。
(成分(B))
IBX:イソボルニルアクリレート(Tg:97℃)
ACMO:4-アクリロイルモルホリン(Tg:145℃)
(他の成分)
VA:酢酸ビニル(Tg:30℃)
(光重合開始剤)
HCPK:1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン
【0047】
【表2】
【0048】
組成物の評価
(ヤング率の測定)
バーコーターを用いてガラス板上に実施例1~6、比較例1または2の組成物を塗布し、80W/cmの無電極UVランプ(Hバルブ)を用いて積算光量500mJ/cmの光を照射することで、フィルム(長さ8cm、幅2cm、厚さ300μm)を得た。50mm/minの引張速度((株)島津製作所製、AGS-J)にて引張試験を行い、得られたフィルムのヤング率を算出し、下記基準でその柔らかさを評価した。結果を下記表3に記載する。
<柔らかさの評価基準>
◎:フィルムのヤング率が50MPa以上500MPa未満
〇:フィルムのヤング率が500MPa以上1500MPa未満
×:フィルムのヤング率が50MPa未満、1500MPa以上
【0049】
(耐せん断性の評価)
実施例1~6または比較例1の組成物5gをシャーレに投入し、80W/cmの無電極UVランプ(Hバルブ)を用いて積算光量500mJ/cm2の光を照射することで試験片を得た。得られた試験片を、アントンパール社製の粘弾性測定装置MCR302、測定プローブ(コーンプレート、PP25)で評価した。具体的には、試験片の20℃におけるせん断ひずみγを0.01から1000まで変化させたときの貯蔵弾性率G’を測定した。せん断ひずみγ=0.01のときの貯蔵弾性率G’γ=0.01、およびせん断ひずみγ=1000のときの貯蔵弾性率G’γ=1000から下記式:
貯蔵弾性変化率C=G’γ=1000/G’γ=0.01
によって、貯蔵弾性変化率Cを算出し、得られた貯蔵弾性変化率Cを用いて、下記基準によって耐せん断性を評価した。貯蔵弾性率G’は試験片に加えられた外力による変化に依存しており、貯蔵弾性変化率Cが大きいほど、耐せん断性が良好である。結果を下記表3に示す。
<耐せん断性の評価基準>
◎:貯蔵弾性変化率Cが0.80以上
〇:貯蔵弾性変化率Cが0.50以上0.80未満
×:貯蔵弾性変化率Cが0.50未満
【0050】
【表3】
【0051】
表2および3に示すように、本発明のw/wの要件を満たす成分(A1)~成分(A3)のいずれかを使用する実施例1~6の組成物の光重合によって得られた重合体は、本発明のw/wの要件を満たさない成分(A’)を使用する比較例1の組成物の光重合によって得られた重合体に比べて、優れた耐せん断性を示す。また、成分(B)の量が過剰である比較例2では、柔らかい重合体が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の光重合性組成物は、例えば、光重合によって立体の造形物を形成するために有用である。
図1