(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-25
(45)【発行日】2025-03-05
(54)【発明の名称】水系インクジェットインク組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/38 20140101AFI20250226BHJP
C09D 11/322 20140101ALI20250226BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20250226BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20250226BHJP
【FI】
C09D11/38
C09D11/322
B41M5/00 120
B41J2/01 501
(21)【出願番号】P 2021029957
(22)【出願日】2021-02-26
【審査請求日】2024-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100148323
【氏名又は名称】川▲崎▼ 通
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】谷口 学
(72)【発明者】
【氏名】中野 智仁
(72)【発明者】
【氏名】丸山 友暉
(72)【発明者】
【氏名】隈本 聖観
(72)【発明者】
【氏名】伊東 淳
(72)【発明者】
【氏名】青山 哲也
(72)【発明者】
【氏名】鍔本 智史
(72)【発明者】
【氏名】矢竹 正弘
(72)【発明者】
【氏名】井伊 由希子
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-188605(JP,A)
【文献】特表2019-504123(JP,A)
【文献】特開2020-199717(JP,A)
【文献】国際公開第2019/203792(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/156145(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/516929(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/38
C09D 11/322
B41M 5/00
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と、水と、
樹脂粒子と、
1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドンと、
トリメチルグリシンと、を含有し、
前記樹脂粒子の質量基準含有量が前記顔料の質量基準含有量よりも少ない、水系インクジェットインク組成物。
【請求項2】
前記樹脂粒子の含有量が、インク組成物の総量に対して、0.5~5.0質量%である、請求項1に記載の水系インクジェットインク組成物。
【請求項3】
溶剤として、グリコールエーテルを含有する、請求項1または請求項2に記載の水系インクジェットインク組成物。
【請求項4】
前記グリコールエーテルの含有量が、インク組成物の総量に対して、0.5~5.0質量%である、請求項3に記載の水系インクジェットインク組成物。
【請求項5】
前記グリコールエーテルとして下記式(1)で表される化合物を含有する、請求項3または請求項4に記載の水系インクジェットインク組成物。
R
1O-(R
2O)
n-H ・・・(1)
(R
1:炭素数が1~8のアルキル基、R
2:炭素数が2~4のアルキレン基、n:1~10の整数)
【請求項6】
さらに、有機アミンを含有する、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の水系インクジェットインク組成物。
【請求項7】
ラインヘッドを搭載したインクジェット記録装置に用いられる、請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の水系インクジェットインク組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系インクジェットインク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、微細なノズルからインクの小滴を吐出して、記録媒体に付着させて記録を行う方法である。この方法は、比較的安価な装置で高解像度かつ高品位な画像を高速で記録できるという特徴を有し、これに用いられる水系インクジェットインク組成物についても種々の検討がされている。
【0003】
従来、インクの着色剤としての顔料における記録媒体への定着性を改善するため、水系インクジェットインク組成物に樹脂粒子を添加する提案がなされている。例えば、特許文献1には、顔料と、樹脂粒子と、を含有する水系インクジェットインク組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、良好な定着性を得るためには、一般に樹脂粒子の含有量を増やす必要がある。その一方で、樹脂粒子の含有量を増やすと、樹脂粒子がノズル内で乾固等しやすくなり、クリーニングを行ってもノズルの目詰まりが回復しにくい問題、すなわち目詰まり回復性に劣る問題がある。そのため、良好な定着性と、良好な目詰まり回復性を両立できるようにすることが要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る水系インクジェットインク組成物の一態様は、
顔料と、水と、
樹脂粒子と、
1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドンと、
トリメチルグリシンと、を含有し、
前記樹脂粒子の質量基準含有量が前記顔料の質量基準含有量よりも少ないものである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】ラインヘッドを搭載したインクジェット記録装置を模式的に示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の例を説明するものである。本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお、以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
【0009】
1.水系インクジェットインク組成物
本発明の一実施形態に係る水系インクジェットインク組成物は、顔料と、水と、樹脂粒子と、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドンと、トリメチルグリシンと、を含
有し、樹脂粒子の質量基準含有量が顔料の質量基準含有量よりも少ないものである。
【0010】
本実施形態に係る水系インクジェットインク組成によれば、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドン(本明細書では「HEP」と略記することがある。)を含有することで、顔料に対する樹脂粒子の含有量が少なくとも、良好な定着性を得ることができる。換言すれば、HEPを含有することで良好な定着性を有しつつも、ノズルの目詰まりの原因となる樹脂粒子の含有量比を少なくすることができる。また、HEPには乾固したインク組成物を解して再分散させることで、クリーニングしやすくさせる作用もあると推定される。さらに、保湿性に優れるトリメチルグリシンを含有することで、インク組成物が乾固することを低減させていると推定される。これら相互作用によって、良好な目詰まり回復性と、良好な定着性との両立を実現できている。
【0011】
以下、本実施形態に係る水系インクジェットインク組成物(以下、「インク組成物」ともいう。)に含有される各成分について説明する。
【0012】
1.1.顔料
本実施形態に係る水系インクジェットインク組成物は、顔料を含有する。顔料としては、無機顔料、有機顔料等が挙げられる。また顔料の色相も限定されず、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック等のいわゆるプロセスカラーや、白色、蛍光色、光輝色等のいわゆる特色であってもよい。
【0013】
無機顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.Pigment ブラック7)類、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ等を用いることができる。
【0014】
カーボンブラックとしては、三菱化学株式会社製のNo.2300、900、MCF88、No.20B、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No2200B等が挙げられる。また、カーボンブラックとしてはデグサ社製のカラーブラックFW1、FW2、FW2V、FW18、FW200、S150、S160、S170、プリテックス35、U、V、140U、スペシャルブラック6、5、4A、4、250等を例示できる。また、カーボンブラックとしてはコロンビアカーボン社製のコンダクテックスSC、ラーベン1255、5750、5250、5000、3500、1255、700等を例示できる。また、カーボンブラックとしてはキャボット社製のリガール400R、330R、660R、モグルL、モナーク700、800、880、900、1000、1100、1300、1400、エルフテックス12等を例示できる。さらに、カーボンブラックとしてはオリヱント化学工業株式会社製のBONJET
BLACK CW-1、CW-1S、CW-2、CW-3、M-800等を例示できる。
【0015】
有機顔料としては、キナクリドン系顔料、キナクリドンキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラピリミジン系顔料、アンサンスロン系顔料、インダンスロン系顔料、フラバンスロン系顔料、ペリレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリノン系顔料、キノフタロン系顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、ベンツイミダゾロン系顔料、イソインドリノン系顔料、アゾメチン系顔料又はアゾ系顔料等を例示できる。
【0016】
シアン顔料としては、C.I.Pigment Blue 1、2、3、15:3、15:4、15:34、16、22、60等;C.I.Vat Blue 4、60等が挙げられ、好ましくは、C.I.Pigment Blue 15:3、15:4、及び60からなる群から選択される一種又は二種以上の混合物を例示できる。
【0017】
マゼンタ顔料としては、C.I.Pigment Red 5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、168、184、202、C.I.Pigment Violet 19等が挙げられ、好ましくはC.I.Pigment Red122、202、及び209、C.I.Pigment Violet 19からなる群から選択される一種又は二種以上の混合物を例示できる。
【0018】
イエロー顔料としては、C.I.Pigment Yellow1、2、3、12、13、14C、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、119、110、114、128、129、138、150、151、154、155、180、185、等が挙げられ、好ましくはC.I.Pigment Yellow74、109、110、128、及び138からなる群から選択される一種又は二種以上の混合物を例示できる。
【0019】
オレンジ顔料としては、C.I.Pigment Orange 36若しくは43又はこれらの混合物を例示できる。グリーン顔料としては、C.I.Pigment Green 7若しくは36又はこれらの混合物を例示できる。
【0020】
光輝性顔料としては、媒体に付着させたときに光輝性を呈しうるものであれば特に限定されないが、例えば、アルミニウム、銀、金、白金、ニッケル、クロム、錫、亜鉛、インジウム、チタン、及び銅からなる群より選択される1種又は2種以上の合金(金属顔料ともいう)の金属粒子や、パール光沢を有するパール顔料を挙げることができる。パール顔料の代表例としては、二酸化チタン被覆雲母、魚鱗箔、酸塩化ビスマス等の真珠光沢や干渉光沢を有する顔料が挙げられる。また、光輝性顔料は、水との反応を抑制するための表面処理が施されていてもよい。
【0021】
また、白色顔料としては、金属酸化物、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の金属化合物が挙げられる。金属酸化物としては、例えば二酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム等が挙げられる。また、白色顔料には、中空構造を有する粒子を用いてもよい。
【0022】
上記顔料は、樹脂や界面活性剤等の分散剤により水に分散させて得られる顔料分散液として、あるいは、自己分散型顔料として、インク組成物に添加されることが好ましい。
【0023】
<自己分散型顔料>
自己分散型顔料とは、樹脂あるいは界面活性剤などの分散剤なしに水性媒体中に分散および/または溶解することが可能な顔料である。ここで、「分散剤なしに水性媒体中に分散および/または溶解」とは、顔料を分散させるための分散剤を用いなくても、その表面の親水基により、顔料が水性媒体中に安定に存在している状態を言う。
【0024】
自己分散型顔料を含有するインク組成物は、顔料を分散させるための分散剤を含有させる必要が無く、分散剤に起因する消泡性の低下による発泡がほとんど無く、吐出安定性に優れるインク組成物を調製し易い。また、分散剤に起因する気液界面での乾燥による異物の発生が抑えられることから吐出信頼性に優れる。また、分散剤に起因する大幅な粘度上昇が抑えられるため、顔料をより多く含有することが可能となり、印字濃度を十分に高めることが可能となる。
【0025】
自己分散型顔料の表面が有する親水基としては、-OM、-COOM、-CO-、-SO3M、-SO2M、-SO2NH2、-RSO2M、-PO3HM、-PO3M2、-SO2NHCOR、-NH3、および-NR3などが挙げられる。式中のMは、水素原子
、アルカリ金属、アンモニウム、または有機アンモニウムを表し、Rは、炭素原子数1~12のアルキル基または置換基を有していてもよいナフチル基を表す。
【0026】
カーボンブラックを自己分散型顔料とする場合、例えば、カーボンブラックに物理的処理または化学的処理を施すことで、親水基をカーボンブラックの表面に結合(グラフト)させることにより製造される。このような物理的処理としては、例えば、真空プラズマ処理などが挙げられる。また化学的処理としては、例えば、次亜ハロゲン酸および/または次亜ハロゲン酸塩による酸化処理、オゾンによる酸化処理、または過硫酸および/または過硫酸塩による酸化処理などが挙げられる。
【0027】
また、自己分散型顔料としたカーボンブラックとしては、市販品を用いることもでき、例えば、CAB-O-JET(登録商標)300(キャボット・スペシャリティ・ケミカルズ・インク社製)などが挙げられる。
【0028】
一方、カーボンブラック以外のカラー顔料の自己分散型顔料は、顔料表面にフェニル基を介して親水基を結合させることにより製造される。親水基である上記官能基あるいはその塩を顔料表面にフェニル基を介して、結合させる表面処理手段としては、種々の公知の表面処理手段を適用することができ、スルファニル酸、p-アミノ安息香酸、4-アミノサリチル酸などを顔料表面に結合させることによりフェニル基を介して親水基を結合させる方法などが挙げられる。なお、カーボンブラック以外のカラー顔料としては、カラーインデックスに記載されているピグメントイエロー、ピグメントレッド、ピグメントバイオレット、ピグメントブルーなどの顔料の他、フタロシアニン系、アゾ系、アントラキノン系、アゾメチン系、縮合環系などの顔料が挙げられる。また、黄色4号、5号、205号、401号;橙色228号、405号;青色1号、404号などの有機顔料や、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化鉄、群青、紺青、酸化クロームなどの無機顔料が挙げられる。
【0029】
このようなカラー顔料の自己分散顔料としては、市販品を用いることもでき、例えば、CAB-O-JET(登録商標)250C、CAB-O-JET(登録商標)260M、CAB-O-JET(登録商標)470Y(以上、キャボット・スペシャリティ・ケミカルズ・インク社製)などが挙げられる。
【0030】
顔料(固形分)の含有量は、インク組成物の総量(100質量)に対して、好ましくは3質量%以上であり、より好ましくは4質量%以上である。また、顔料(固形分)の含有量は、インク組成物の総量(100質量)に対して、好ましくは8質量%以下であり、より好ましくは7質量%以下であり、特に好ましくは6質量%以下である。顔料(固形分)の含有量が上記範囲内にあると、目詰まり回復性により優れる場合がある。
【0031】
なお、本実施形態に係る水系インクジェットインク組成物は、後述する樹脂粒子の質量基準含有量が顔料の質量基準含有量よりも少ないものである。本実施形態に係る水系インクジェットインク組成物は、このような樹脂粒子と顔料に係る量比関係を満たすことにより、良好な定着性と良好な目詰まり回復性を両立させることができる。
【0032】
1.2.水
本実施形態に係る水系インクジェットインク組成物は、水を含有する。また、「水系」の組成物とは、水を主要な溶媒の1つとする組成物のことである。水としては、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、及び蒸留水等の純水、並びに超純水のような、イオン性不純物を低減したものが挙げられる。また、紫外線照射又は過酸化水素の添加等によって滅菌した水を用いると、水系インクジェットインク組成物を長期保存する場合に細菌類や真菌類の発生を抑制することができる。
【0033】
水の含有量は、インク組成物の総量(100質量)に対して、30質量%以上、好ましくは40質量%以上であり、より好ましくは45質量%以上であり、さらに好ましくは50質量%以上である。また、水の含有量の上限は、インク組成物の総量(100質量)に対して、好ましくは90質量%以下であり、より好ましくは85質量%以下であり、さらに好ましくは80質量%以下である。
【0034】
1.3.樹脂粒子
本実施形態に係る水系インクジェットインク組成物は、樹脂粒子を含有する。
【0035】
樹脂粒子としては、例えば、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂(スチレンアクリル系樹脂を含む)、フルオレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ロジン変性樹脂、テルペン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、エチレン酢酸ビニル系樹脂等からなる樹脂粒子が挙げられる。なかでも、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオフレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂が好ましい。これらの樹脂粒子は、エマルジョン形態で取り扱われることが多いが、粉体の性状であってもよい。また、樹脂粒子は1種単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0036】
ウレタン系樹脂とは、ウレタン結合を有する樹脂の総称である。ウレタン系樹脂には、ウレタン結合以外に、主鎖にエーテル結合を含むポリエーテル型ウレタン樹脂、主鎖にエステル結合を含むポリエステル型ウレタン樹脂、主鎖にカーボネート結合を含むポリカーボネート型ウレタン樹脂等を使用してもよい。また、ウレタン系樹脂として、市販品を用いてもよく、例えば、スーパーフレックス 420、460、460s、840、E-4000(商品名、第一工業製薬株式会社製)、レザミン D-1060、D-2020、D-4080、D-4200、D-6300、D-6455(商品名、大日精化工業株式会社製)、タケラック WS-5100、WS-6021、W-512-A-6(商品名、三井化学ポリウレタン株式会社製)、サンキュアー2710(商品名、LUBRIZOL社製)、パーマリンUA-150(商品名、三洋化成工業社製)などの市販品を用いてもよい。
【0037】
アクリル系樹脂は、少なくとも(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステルなどのアクリル系単量体を1成分として重合して得られる重合体の総称であって、例えば、アクリル系単量体から得られる樹脂や、アクリル系単量体とこれ以外の単量体との共重合体などが挙げられる。例えばアクリル系単量体とビニル系単量体との共重合体であるアクリル-ビニル系樹脂などが挙げられる。また例えば、ビニル系単量体としては、スチレンなどが挙げられる。
【0038】
なお、本明細書において、アクリル系樹脂は、後述するスチレン・アクリル系樹脂であってもよい。また、本明細書において、(メタ)アクリルとの表記は、アクリル及びメタクリルの少なくとも一方を意味する。
【0039】
スチレン・アクリル系樹脂は、スチレン単量体と(メタ)アクリル系単量体とから得られる共重合体であり、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体等が挙げられる。スチレン・アクリル系樹脂には、市販品を用いても良く、例えば、ジョンクリル62J、7100、390、711、511、7001、632、741、450、840、74J、HRC-1645J、734、852、7600、775、537J、1535、PDX-7630A、352J、352D、PDX-714
5、538J、7640、7641、631、790、780、7610(商品名、BASF社製)、モビニール966A、975N(商品名、日本合成化学工業社製)、ビニブラン2586(日信化学工業社製)等を用いてもよい。
【0040】
ポリオレフィン系樹脂は、エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィンを構造骨格に有するものであり、公知のものを適宜選択して用いることができる。オレフィン樹脂としては、市販品を用いることができ、例えばアローベースCB-1200、CD-1200(商品名、ユニチカ株式会社製)等を用いてもよい。
【0041】
また、樹脂粒子は、エマルジョンの形態で供給されてもよく、そのような樹脂エマルジョンの市販品の例としては、マイクロジェルE-1002、E-5002(日本ペイント社製商品名、スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン)、ボンコート4001(DIC社製商品名、アクリル系樹脂エマルジョン)、ボンコート5454(DIC社製商品名、スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン)、ポリゾールAM-710、AM-920、AM-2300、AP-4735、AT-860、PSASE-4210E(アクリル系樹脂エマルジョン)、ポリゾールAP-7020(スチレン・アクリル樹脂エマルジョン)、ポリゾールSH-502(酢酸ビニル樹脂エマルジョン)、ポリゾールAD-13、AD-2、AD-10、AD-96、AD-17、AD-70(エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン)、ポリゾールPSASE-6010(エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン)(昭和電工社製商品名)、ポリゾールSAE1014(商品名、スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン、日本ゼオン社製)、サイビノールSK-200(商品名、アクリル系樹脂エマルジョン、サイデン化学社製)、AE-120A(JSR社製商品名、アクリル樹脂エマルジョン)、AE373D(イーテック社製商品名、カルボキシ変性スチレン・アクリル樹脂エマルジョン)、セイカダイン1900W(大日精化工業社製商品名、エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン)、ビニブラン2682(アクリル樹脂エマルジョン)、ビニブラン2886(酢酸ビニル・アクリル樹脂エマルジョン)、ビニブラン5202(酢酸アクリル樹脂エマルジョン)(日信化学工業社製商品名)、エリーテルKA-5071S、KT-8803、KT-9204、KT-8701、KT-8904、KT-0507(ユニチカ社製商品名、ポリエステル樹脂エマルジョン)、ハイテックSN-2002(東邦化学社製商品名、ポリエステル樹脂エマルジョン)、タケラックW-6020、W-635、W-6061、W-605、W-635、W-6021(三井化学ポリウレタン社製商品名、ウレタン系樹脂エマルジョン)、スーパーフレックス870、800、150、420、460、470、610、700(第一工業製薬社製商品名、ウレタン系樹脂エマルジョン)、パーマリンUA-150(三洋化成工業株式会社製、ウレタン系樹脂エマルジョン)、サンキュアー2710(日本ルーブリゾール社製、ウレタン系樹脂エマルジョン)、NeoRez R-9660、R-9637、R-940(楠本化成株式会社製、ウレタン系樹脂エマルジョン)、アデカボンタイター HUX-380,290K(株式会社ADEKA製、ウレタン系樹脂エマルジョン)、モビニール966A、モビニール7320(日本合成化学株式会社製)、ジョンクリル7100、390、711、511、7001、632、741、450、840、74J、HRC-1645J、734、852、7600、775、537J、1535、PDX-7630A、352J、352D、PDX-7145、538J、7640、7641、631、790、780、7610(以上、BASF社製)、NKバインダーR-5HN(新中村化学工業株式会社製)、ハイドランWLS-210(非架橋性ポリウレタン:DIC株式会社製)、ジョンクリル7610(BASF社製)、X-436(星光ポリマー社製、スチレン・アクリルエマルジョン)等が挙げられる。
【0042】
樹脂粒子の含有量は、インク組成物の総量(100質量%)に対して、0.5~5.0質量%であることが好ましく、0.5~4.7質量%であることがより好ましく、0.5~4.5質量%であることがさらに好ましく、0.5~4.2質量%であることが特に好
ましい。樹脂粒子の含有量が上記範囲内にあると、定着性に優れるとともに、より目詰まり回復性に優れる傾向にある。
【0043】
なお、上述したように、本実施形態に係る水系インクジェットインク組成物は、樹脂粒子の質量基準含有量が顔料の質量基準含有量よりも少ないものである。本実施形態に係る水系インクジェットインク組成物は、このような樹脂粒子と顔料に係る量比関係を満たすことにより、良好な定着性と良好な目詰まり回復性を両立させることができる。
【0044】
1.4.HEP
本実施形態に係る水系インクジェットインク組成物は、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドン(HEP)を含有する。従来、インク組成物の溶剤としては、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドンではなく、2-ピロリドンが用いられることが多かった。しかしながら、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドンを含有させることで少ない樹脂粒子の量であっても、優れた定着性を得られることが判明した。
【0045】
1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドンの含有量は、インク組成物の総量(100質量%)に対して、0.1~5.0質量%であることが好ましく、0.3~4.0質量%であることがより好ましく、0.5~3.0質量%であることがさらに好ましく、1.0~2.0質量%であることが特に好ましい。1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドンの含有量が上記範囲内にあると、定着性及び目詰まり回復性により優れる場合がある。
【0046】
1.5.トリメチルグリシン
本実施形態に係る水系インクジェットインク組成物は、トリメチルグリシンを含有する。トリメチルグリシンは、正電荷および負電荷を同一分子内に持ち、分子全体としては電荷を持たない化合物であり、4級アンモニウム基とカルボキシル基が、メチレン基を介して結合している構造を有する。
【0047】
トリメチルグリシンは、常温で固体であって揮発性が小さいため、保湿性が高い。そのため、保湿剤としての効果が高く、インク組成物に配合されると、インク組成物からの水分の蒸発を抑制する効果を期待することができる。これにより、本実施形態に係る水系インクジェットインク組成物が奏する、良好な目詰まり回復性の効果に寄与していると推定される。
【0048】
トリメチルグリシンの含有量は、インク組成物の総量(100質量%)に対して、0.1~5.0質量%であることが好ましく、0.3~4.0質量%であることがより好ましく、0.5~3.0質量%であることがさらに好ましく、1.0~2.0質量%であることが特に好ましい。トリメチルグリシンの含有量が上記範囲内にあると、目詰まり回復性により優れる場合がある。
【0049】
1.6.溶剤
本実施形態に係る水系インクジェットインク組成物は、定着性をより向上させ、また本発明の奏する効果をより享受できる観点から、溶剤として浸透剤であるグリコールエーテルを含有することが好ましい。すなわち、浸透剤を含有する場合にはインクの乾燥性向上に伴い定着性に優れる傾向にあるが、インク成分の分散性を不安定にして目詰まり回復性に劣りやすい場合がある。しかしながら、本実施形態に係る水系インクジェットインク組成物によれば、このような浸透剤を含有する場合であっても、良好な目詰まり回復性を維持することが可能であり、加えてより優れる定着性を得ることができる。
【0050】
1.6.1.グリコールエーテル
本実施形態に係る水系インクジェットインク組成物は、グリコールエーテルを含有することが好ましい。グリコールエーテルとしては、特に限定されないが、例えば、グリコールジエーテル類及びグリコールモノエーテル類が挙げられる。
【0051】
グリコールジエーテル類としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等から選択されるグリコールのジアルキルエーテルを挙げることができる。より具体的には、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、及び、ジプロピレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
【0052】
グリコールモノエーテル類としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等から選択されるグリコールのモノアルキルエーテルを挙げることができる。より具体的には、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn-プロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、及びジプロピレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。
【0053】
これらグリコールエーテルの中でも、水系インクジェットインク組成物は、グリコールエーテルとして、下記式(1)で表される化合物を含有することが好ましい。このような化合物を含有する場合には、定着性がより向上する傾向にある。
R1O-(R2O)n-H ・・・(1)
(R1:炭素数が1~8のアルキル基、R2:炭素数が2~4のアルキレン基、n:1~10の整数)
【0054】
式(1)で表されるグリコールエーテルとしては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(TEGmME)、トリエチレングリコールモノエチルエーテル(TEGmEE)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(TEGmBE)、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等を例示できる。式(1)で表されるグリコールエーテルとしては、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(TEGmME)、トリエチレングリコールモノエチルエーテル(TEGmEE)、及びトリエチレングリコールモノブチルエーテル(TEGmBE)のいずれかであることがより好ましく、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(TEGmME)
、又はトリエチレングリコールモノエチルエーテル(TEGmEE)であることがさらに好ましく、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(TEGmME)であることが特に好ましい。グリコールエーテルとして、上記化合物を含有すると、より定着性に優れる傾向にある。
【0055】
上記グリコールエーテルは、1種又は2種以上を含有してもよい。
【0056】
グリコールエーテルの含有量は、インク組成物の総量(100質量%)に対して、0.5~5.0質量%であることが好ましく、1.0~4.0質量%であることがより好ましく、1.5~3.5質量%であることがさらに好ましく、2.0~3.0質量%であることが特に好ましい。グリコールエーテルの含有量が上記範囲内にあると、定着性により優れる傾向にある。
【0057】
1.6.2.その他の溶剤
本実施形態に係る水系インクジェットインク組成物は、グリコールエーテル以外の溶剤を含有していてもよい。このような溶剤としては、例えば、1,2-アルカンジオール類、多価アルコール類、環状アミド類などが挙げられる。これらは、1種単独又は2種以上を用いることが可能である。
【0058】
1,2-アルカンジオール類としては、例えば、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオールなどが挙げられる。1,2-アルカンジオール類は、記録媒体に対するインクの濡れ性を高めて、均一に濡らす作用に優れている。そのため、定着性をより向上させることができる場合がある。1,2-アルカンジオール類を添加する場合の含有量は、インク組成物の総量に対して、1質量%以上5質量%以下であることが好ましい。
【0059】
多価アルコール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,3-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、グリセリンなどが挙げられる。多価アルコール類をインクに添加することよって、インクジェットヘッドの吐出ノズル内におけるインクの乾燥固化を抑制して、吐出ノズルの目詰まりや吐出不良などを低減することができる傾向にある。多価アルコール類を添加する場合の含有量は、インク組成物の総量に対して、2質量%以上、20質量%以下であることが好ましい。なお、20℃では固体の多価アルコール類も、溶剤の多価アルコール類と同様な作用を有しており、同様に用いてもよい。20℃で固体の多価アルコール類としては、例えば、トリメチロールプロパンなどが挙げられる。
【0060】
環状アミド類としては、例えば、アミド基を含む環構造を有する化合物が挙げられる。そのような化合物としては、2-ピロリドン、1-メチル-2-ピロリドン(N-メチル-2-ピロリドン)、1-エチル-2-ピロリドン(N-エチル-2-ピロリドン)、1-プロピル-2-ピロリドン、1-ブチル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン(NVP)等のγ-ラクタム類、β-ラクタム類、δ-ラクタム類、ε-カプロラクタム等のε-ラクタム類等が挙げられる。
【0061】
1.7.pH調整剤
本実施形態に係る水系インクジェットインク組成物は、インク組成物の分散安定性向上
を目的として、pH調整剤を含有することが好ましい。pH調整剤としては、酸、塩基、弱酸、弱塩基の適宜の組み合わせが挙げられる。そのような組み合わせに用いる酸、塩基の例としては、無機酸、無機塩基、有機酸及び有機塩基などが挙げられる。
【0062】
無機酸としては、硫酸、塩酸、硝酸等が挙げられる。
【0063】
無機塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、アンモニア等が挙げられる。
【0064】
有機酸として、アジピン酸、クエン酸、コハク酸、乳酸、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸(BES)、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、モルホリノエタンスルホン酸(MES)、カルバモイルメチルイミノビス酢酸(ADA)、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)、N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸(ACES)、コラミン塩酸、N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸(TES)、アセトアミドグリシン、トリシン、グリシンアミド、ビシン等のグッドバッファー、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液等を用いてもよい。
【0065】
有機塩基としては、有機アミン等が挙げられる。有機アミンとしては、例えば、トリエタノールアミン(TEA)、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリスヒドロキシメチルアミノメタン等が挙げられる。
【0066】
これらの中でも、有機アミンを用いることがより好ましい。水酸化カリウムなどの無機塩基を用いる場合には、インク組成物の乾燥が進み濃縮していくと、顔料や樹脂などを凝集させてしまうことがある。特に、インクジェットヘッドのノズルなどの微小空間内においては、顕著に凝集が発生しやすい。これに対し、有機アミンを用いる場合には、このようなインク組成物の凝集を低減させ、より目詰まり回復性が優れる傾向にある。
【0067】
1.8.その他の成分
本実施形態に係る水系インクジェットインク組成物は、界面活性剤等を含有していてもよい。
【0068】
<界面活性剤>
本実施形態に係る水系インクジェットインク組成物は、界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤は、水系インクジェットインク組成物の表面張力を低下させ記録媒体との濡れ性、例えば布帛等への浸透性を調整、向上させるために用いることができる。界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤のいずれも使用することができ、さらにこれらは併用してもよい。また、界面活性剤の中でも、アセチレングリコール系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、及びフッ素系界面活性剤を好ましく用いることができる。
【0069】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、サーフィノール104、104E、104H、104A、104BC、104DPM、104PA、104PG-50、104S、420、440、465、485、SE、SE-F、504、61、DF37、CT111、CT121、CT131、CT136、TG、GA、DF110D(商品名、Air Products and Chemicals Inc.社製)、オルフィンB、Y、P、A、STG、SPC、E1004、E1010、
PD-001、PD-002W、PD-003、PD-004、PD-005、EXP.4001、EXP.4036、EXP.4051、EXP.4123、EXP.4300、AF-103、AF-104、AK-02、SK-14、AE-3(商品名、日信化学工業社製)、アセチレノールE00、E00P、E40、E100(商品名、川研ファインケミカル社製)が挙げられる。
【0070】
シリコーン系界面活性剤としては、特に限定されないが、ポリシロキサン系化合物が好ましく挙げられる。当該ポリシロキサン系化合物としては、特に限定されないが、例えばポリエーテル変性オルガノシロキサンが挙げられる。当該ポリエーテル変性オルガノシロキサンの市販品としては、例えば、BYK-306、BYK-307、BYK-333、BYK-341、BYK-345、BYK-346、BYK-348(商品名、BYK社製)、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-6020、X-22-4515、KF-6011、KF-6012、KF-6015、KF-6017(商品名、信越化学工業社製)が挙げられる。
【0071】
フッ素系界面活性剤としては、フッ素変性ポリマーを用いることが好ましく、具体例としては、BYK-340(商品名、ビックケミー・ジャパン社製)が挙げられる。
【0072】
水系インクジェットインク組成物に界面活性剤を配合する場合には、水系インクジェットインク組成物全体に対して、界面活性剤の合計で0.01質量%以上3質量%以下、好ましくは0.05質量%以上2質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以上1.5質量%以下、特に好ましくは0.2質量%以上1質量%以下配合することが好ましい。界面活性剤の含有量が上記範囲内であると、目詰まり回復性がより優れる場合がある。
【0073】
<その他>
本実施形態に係る水系インクジェットインク組成物は、その他の成分として、キレート化剤、尿素類、防腐・防かび剤、防錆剤、糖類、酸化防止剤、紫外線吸収剤、酸素吸収剤など、インクジェット用の水系インクジェットインク組成物において通常用いることができる添加剤を含有してもよい。
【0074】
1.9.物性等
本実施形態に係る水系インクジェットインク組成物は、上述の成分を任意の順序で混合し、必要に応じて濾過などを行い、不純物を除去することにより得ることができる。混合方法としては、メカニカルスターラーやマグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合する方法が好適に用いられる。濾過方法として、例えば、遠心濾過やフィルター濾過などを必要に応じて行うことができる。
【0075】
水系インクジェットインク組成物は、インクジェット用インクとしての信頼性の観点から、20℃における表面張力が20mN/m以上40mN/m以下であることが好ましく、22mN/m以上35mN/m以下であることがより好ましい。また、同様の観点から、インクの20℃における粘度は、1.5mPa・s以上10mPa・s以下であることが好ましく、2mPa・s以上8mPa・s以下であることがより好ましい。表面張力及び粘度を前記範囲内とする、一つの手法としては、上述した溶剤や界面活性剤の種類、及びこれらと水の添加量等を調整することが挙げられる。
【0076】
1.10.用途
本実施形態に係る水系インクジェットインク組成物は、ラインヘッドを搭載したインクジェット記録装置に好適に用いることができる。ラインヘッドは、ノズル数が比較的多いため目詰まりが発生しやすく、より高い目詰まり回復性が要求されるものである。本実施
形態に係る水系インクジェットインク組成物は、このようなラインヘッドを搭載するインクジェット記録装置に用いられる場合であっても、良好な目詰まり回復性を担保でき、良好な定着性及び目詰まり回復性の両立が可能である。
【0077】
以下、本実施形態に係る水系インクジェットインク組成物に用いることができる、ラインヘッドを搭載したインクジェット記録装置の一例について図面を参照しながら説明する。
図1はラインヘッドを搭載したインクジェット記録装置の構成を模式的に示す説明図である。
【0078】
図1に示すように、インクジェット記録装置200は、記録媒体111をプラテン112上に搬送する搬送ローラー113と、搬送ローラー113を回転駆動するステップモーター114と、ガイドレール115により記録媒体111の搬送方向(
図1の矢印方向)に対して直角方向に移動可能に取り付けられ搬送された記録媒体111にインク滴を吐出するラインヘッド120と、記録媒体111の搬送方向に対して直角方向にラインヘッド120を振動させる振動素子(図示せず)と、インクカートリッジ135と、装置全体をコントロールするコントローラー140とを備える。
【0079】
振動素子は、例えば、PZTなどの圧電素子(電歪振動子)により形成されており、ラインヘッド120に取り付けられている。したがって、振動素子を振動させることにより、ラインヘッド120をガイドレール115に沿って記録媒体111の搬送方向に対して直角方向に振動させることができる。ただしこの直角方向に振動させることは必須ではない。
【0080】
コントローラー140は、CPU141を中心としたマイクロプロセッサーとして構成されており、CPU141の他に、各種処理プログラムを記憶するROM142と、データを一時的に記憶するRAM143と、データを書き込み消去可能なフラッシュメモリー144と、外部機器と情報のやり取りを行なうインターフェイス(I/F)145と、図示しない入出力ポートと、を備える。
【0081】
RAM143には、印刷バッファー領域が設けられており、この印刷バッファー領域には、ユーザーPC146からインターフェイス(I/F)145を介して受信した印刷用データを記憶することができるようになっている。コントローラー140には、操作パネル147からの各種操作信号などが入力ポートを介して入力されており、コントローラー140からは、ラインヘッド120への駆動信号やステップモーター114への駆動信号、操作パネル147への出力信号などが出力ポートを介して出力されている。
【0082】
なお、操作パネル147は、ユーザーからの各種の指示を入力すると共に状態を表示出力するためのデバイスであり、図示しないが、各種の指示に対応する文字や図形または記号が表示されるディスプレイやユーザーが各種操作を行なうためのボタン類が設けられている。
【0083】
図2は、ラインヘッドの構造を模式的に示す平面図である。ラインヘッド120は、
図2に示すように、搬送方向と直交する方向に複数のノズルが配列されたノズル列121a、121b、121c、121dを備え、搬送される記録媒体111の幅以上の記録領域を有しており、搬送される記録媒体111に対して、一括して1行分の画像を記録できるようになっている。また、記録媒体を搬送させて行う走査を1回行った後、記録媒体を搬送方向の逆方向に戻して再度搬送させて再度走査を行うことで2回以上の走査を行う記録を行うこともできる。この場合、走査と走査の間に、搬送方向に対する直角方向のラインヘッドの位置を異ならせ、異なる位置で2回目以降の走査を行うことで、直角方向の記録解像度を高めることも可能である。この場合、特に上述のラインヘッドの振動は行わなく
てもよい。また上述のラインヘッドの振動も直角方向のラインヘッドの位置を異ならせることも行わない場合も、2回以上の走査を行うことで、記録媒体に対するインク組成物の付着量を増やすことができる。さらに、走査は、ラインヘッドと記録媒体の相対的な位置を変化させながら行うものであればよく、プラテン領域に固定された記録媒体に対してラインヘッドが移動しつつ走査が行われるものでもよい。このような記録方法としては例えば、特開2009-90635公報に記載されたものなどがあげられる。なお、記録媒体の搬送やヘッドを搭載したキャリッジの移動などが、ラインヘッドと記録媒体の相対的な位置の変化である。
【0084】
また、ラインヘッド120のインクの吐出方式としては、
図1の例では、図示しない振動素子を用いてラインヘッドのインク圧力室内に生じる圧力を利用してインク組成物の液滴を吐出する方式を採用しているが、これに限定されず、発熱体によって気泡を発生させ、圧力をかけてインク組成物を吐出するサーマルインクジェット方式等の各種方式を適用することができる。
【0085】
インクジェット記録装置200では、例えばノズル列121a、121b、121c、121dを順次用いて記録媒体上に各インク組成物を吐出して付着させる。なお、ラインヘッド120は、この構成に限らず、1つのノズル列を有するライン型のヘッドを複数並設して構成されてもよい。この場合において、ライン型のヘッド間の間隔を空ける構成としてもよい。また、
図2においては、ラインヘッド120のノズル列は搬送方向と直交する方向に配列されているが、搬送方向と交差する方向に配列されていてもよい。
【0086】
2.実施例
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。以下「%」は、特に記載のない限り、質量基準である。
【0087】
2.1.水系インクジェットインク組成物の調製
下表1の組成になるように各成分を容器に入れて、マグネチックスターラーで2時間混合及び攪拌した後、孔径5μmのメンブランフィルターで濾過することで、実施例及び比較例に係る水系インクジェットインク組成物を得た。なお、顔料、樹脂粒子及び界面活性剤の表中の数値は、それらの固形分換算量を表す。
【0088】
【0089】
上表1に示す各成分について、説明を補足する。
<顔料>
・ブラック顔料:(商品名「CAB-O-JET(登録商標) 300」、キャボット・スペシャリティ・ケミカルズ・インク社製、自己分散型カーボンブラック分散液)
・シアン顔料:(商品名「CAB-O-JET(登録商標) 250C」、キャボット・スペシャリティ・ケミカルズ・インク社製、自己分散型シアン顔料分散液)
・マゼンタ顔料:(商品名「CAB-O-JET(登録商標) 260M」、キャボット・スペシャリティ・ケミカルズ・インク社製、自己分散型マゼンタ顔料分散液)
・イエロー顔料:(商品名「CAB-O-JET(登録商標) 470Y」、キャボット・スペシャリティ・ケミカルズ・インク社製、自己分散型イエロー顔料分散液)
<樹脂粒子>
・スーパーフレックス420:(商品名、第一工業製薬株式会社製、ウレタン系樹脂エマルジョン)
・X-436:(商品名、星光ポリマー社製、スチレン・アクリルエマルジョン)
<溶剤>
・HEP:1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドン
<溶剤(浸透剤)>
・TEGmBE:トリエチレングリコールモノブチルエーテル
・TEGmME:トリエチレングリコールモノメチルエーテル
・TEGmEE:トリエチレングリコールモノエチルエーテル
<界面活性剤>
・オルフィンE1010:(商品名、日信化学工業株式会社製、アセチレングリコール系界面活性剤)
<pH調整剤>
・TEA:トリエタノールアミン
【0090】
2.2.評価方法
2.2.1.定着性(耐ラインマーカ)の評価
上記で得られた各水系インクジェットインク組成物を、セイコーエプソン株式会社製プリンタ「PX-M860F」のインクカートリッジに充填し、記録媒体に温度25℃、相対湿度50%の環境下において、文字パターンを印刷した。なお、記録媒体としては、A4サイズ(210mm×297mm)コピー用紙「Xerox P紙」(富士ゼロックス株式会社製、坪量64g/m2、紙厚88μm)を用いた。印刷直後に、文字部分をラインマーカー「OPTEX CARE」(ゼブラ株式会社)で擦り、インクの滲み具合を、下記の基準で判定した。B以上を良好なレベルとした。
<判定基準>
A:こすり部に滲みなし
B:こすり部に滲みはあるが目立たない
C:こすり部に滲みがあり、やや目立つ
D:こすり部に滲みがあり、かなり目立つ
【0091】
2.2.2.目詰まり回復性の評価
上記で得られた各水系インクジェットインク組成物を、セイコーエプソン株式会社製プリンタ「PX-M860F」のインクカートリッジに充填し、印字を行った。そして、印字が行われている途中でプリンタの電源を切り、記録ヘッドがキャップから外れた状態にした。その後、40℃環境下で任意の日数プリンタを放置した。具体的には、40℃環境下で3日(40℃*3d)、40℃環境下で7日(40℃*7d)、又は40℃環境下で14日(40℃*14d)プリンタを放置した。放置後、任意の日数で放置された各々のプリンタに対し、ノズルが全て回復するまでクリーニングを繰り返し行い、以下の基準で
判定した。B以上を良好なレベルとした。
また、ラインヘッドを搭載したセイコーエプソン株式会社製プリンタ「LX-10050MF」を用いて同様に評価を行った場合においても、実施例1~17の水系インクジェットインク組成物を用いた場合には、B以上の評価となった。
<判定基準>
A:クリーニング回数3回未満で回復
B:クリーニング回数3回以上6回未満で回復
C:クリーニング回数6回以上9回未満で回復
D:クリーニング回数9回以上でも回復しない
【0092】
2.3.評価結果
評価結果を、上表1に示す。
【0093】
顔料と、水と、樹脂粒子と、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドン(HEP)と、トリメチルグリシンと、を含有し、樹脂粒子の質量基準含有量が顔料の質量基準含有量よりも少ないものである各実施例の水系インクジェットインク組成物は、定着性及び目詰まり回復性を共に良好なものとし両立させることができた。
【0094】
これに対し、各比較例では、特定成分の全てを含有していない、又は特定成分の量比関係を満たしていない、又はこの両方であるため、良好な定着性及び良好な目詰まり回復性を両立させることができなかった。
【0095】
上述した実施形態から以下の内容が導き出される。
【0096】
水系インクジェットインク組成物の一態様は、
顔料と、水と、
樹脂粒子と、
1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドンと、
トリメチルグリシンと、を含有し、
前記樹脂粒子の質量基準含有量が前記顔料の質量基準含有量よりも少ないものである。
【0097】
上記水系インクジェットインク組成物の態様において、
前記樹脂粒子の含有量が、インク組成物の総量に対して、0.5~5.0質量%であってもよい。
【0098】
上記水系インクジェットインク組成物の態様において、
溶剤として、グリコールエーテルを含有してもよい。
【0099】
上記水系インクジェットインク組成物の態様において、
前記グリコールエーテルの含有量が、インク組成物の総量に対して、0.5~5.0質量%であってもよい。
【0100】
上記水系インクジェットインク組成物の態様において、
前記グリコールエーテルとして下記式(1)で表される化合物を含有してもよい。
R1O-(R2O)n-H ・・・(1)
(R1:炭素数が1~8のアルキル基、R2:炭素数が2~4のアルキレン基、n:1~10の整数)
【0101】
上記水系インクジェットインク組成物の態様において、
さらに、有機アミンを含有してもよい。
【0102】
上記水系インクジェットインク組成物の態様において、
ラインヘッドを搭載したインクジェット記録装置に用いられるものであってよい。
【0103】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成、例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成、を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0104】
111…記録媒体、112…プラテン、113…搬送ローラー、114…ステップモーター、115…ガイドレール、120…ラインヘッド、121a・121b・121c・121d…ノズル列、135…インクカートリッジ、140…コントローラー、141…CPU、142…ROM、143…RAM、144…フラッシュメモリー、145…インターフェイス、146…ユーザーPC、147…操作パネル、200…インクジェット記録装置