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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-25
(45)【発行日】2025-03-05
(54)【発明の名称】三次元造形装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/209 20170101AFI20250226BHJP
   B29C 64/295 20170101ALI20250226BHJP
   B29C 64/321 20170101ALI20250226BHJP
   B29C 64/393 20170101ALI20250226BHJP
   B29C 64/314 20170101ALI20250226BHJP
   B29C 64/343 20170101ALI20250226BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20250226BHJP
   B33Y 40/00 20200101ALI20250226BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20250226BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20250226BHJP
   B29C 64/165 20170101ALN20250226BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALN20250226BHJP
【FI】
B29C64/209
B29C64/295
B29C64/321
B29C64/393
B29C64/314
B29C64/343
B33Y30/00
B33Y40/00
B33Y70/00
B33Y50/02
B29C64/165
B33Y10/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021031033
(22)【出願日】2021-02-26
(65)【公開番号】P2022131850
(43)【公開日】2022-09-07
【審査請求日】2024-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】岡本 英司
(72)【発明者】
【氏名】平井 利充
(72)【発明者】
【氏名】百瀬 薫
(72)【発明者】
【氏名】横山 孝幸
【審査官】家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-102527(JP,A)
【文献】特開2020-082703(JP,A)
【文献】特開2016-175326(JP,A)
【文献】特開2019-001000(JP,A)
【文献】特開2018-144262(JP,A)
【文献】特開2019-181790(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、水溶性樹脂と、湿潤剤と、を含むバインダーを吐出するノズルと、前記ノズルに連通する個別液室と、前記バインダーを前記個別液室に流入させる流入流路と、前記バインダーを前記個別液室から流出させる流出流路と、を有する吐出ヘッドと、
前記流出流路から流出した前記バインダーを前記流入流路に循環させる循環流路と、を備え
前記循環流路の途中に、減圧された減圧サブタンクと、前記バインダー中の気体を除去する脱気装置と、加圧された加圧サブタンクとが、前記循環流路の流れ方向に沿って、前記減圧サブタンク、前記脱気装置、前記加圧サブタンクの順序で配置されており、
前記バインダーを貯留し、前記減圧サブタンクに前記バインダーを供給するメインタンクを有し、
前記ノズルから吐出される前記バインダーの単位時間当たりの流量R1と、前記ノズルから吐出されずに、前記個別液室から前記流出流路に流出し、循環する前記バインダーの単位時間当たりの流量R2との比R1/R2は、0.1以上1以下であることを特徴とする三次元造形装置。
【請求項2】
前記バインダーにおける前記湿潤剤の含有率は、前記バインダーの重量に対し、5重量%以下である請求項1に記載の三次元造形装置。
【請求項3】
前記湿潤は、脂肪族ジオールを含む請求項1または2に記載の三次元造形装置。
【請求項4】
前記水溶性樹脂は、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアクリル酸樹脂、セルロース樹脂、デンプン、ゼラチン、ビニル樹脂、アミド樹脂、イミド樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレングリコールから成る群から選択される少なくとも1種である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の三次元造形装置。
【請求項5】
前記吐出ヘッドと、前記バインダーを乾燥させるヒーターと、を支持するキャリッジを備える請求項1ないし4のいずれか1項に記載の三次元造形装置。
【請求項6】
前記個別液室、前記流入流路、前記流出流路および前記循環流路のうちの少なくとも1つの圧力を検出する圧力センサーと、
前記圧力センサーの検出結果に基づいて、前記バインダーの循環速度を調整する制御部と、を備える請求項1ないし5のいずれか1項に記載の三次元造形装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記圧力が閾値より小さい場合、前記バインダーの循環速度を速くする請求項6に記載の三次元造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に示すように、粉末床にバインダーを吐出するバインダー方式で、立体的な造形物を製造する三次元造形装置が知られている。特許文献1に記載されている三次元造形装置では、バインダーに含まれるポリビニルアルコールを、バインダーに対して3質量%~7質量%とすることにより、造形材料の結着性を維持しつつ、炭素含有量を低減した造形物を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国2020/0017699明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されている三次元造形装置で用いられているバインダーは、バインダーに対して3質量%~7質量%の湿潤剤であるグリコールエーテルを含んでいる。このため、結合剤の割合を低くするだけでは、造形物の炭素含有量を十分に低減することができない。一方、バインダーにおける湿潤剤の含有量を低くすると、バインダーと吐出安定性が低下してしまうおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の三次元造形装置は、水と、水溶性樹脂と、湿潤剤と、を含むバインダーを吐出するノズルと、前記ノズルに連通する個別液室と、前記バインダーを前記個別液室に流入させる流入流路と、前記バインダーを前記個別液室から流出させる流出流路と、を有する吐出ヘッドと、
前記流出流路から流出した前記バインダーを前記流入流路に循環させる循環流路と、を備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、本発明の三次元造形装置の概略構成図である。
図2図2は、図1に示す吐出ヘッドの平面図である。
図3図3は、図1に示す吐出ヘッドの断面図である。
図4図4は、図1に示す吐出ヘッドを支持するキャリッジの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<実施形態>
図1は、本発明の三次元造形装置の概略構成図である。図2は、図1に示す吐出ヘッドの平面図である。図3は、図1に示す吐出ヘッドの断面図である。図4は、図1に示す吐出ヘッドを支持するキャリッジの模式図である。
【0008】
以下、三次元造形装置を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。なお、図2および図3では、互いに直交するX軸、Y軸およびZ軸を図示しており、各軸の矢印の先端側を「+」側とし、各軸の矢印の基端側を「-」側としている。
【0009】
三次元造形装置1は、図示しない粉末床にバインダーを吐出する複数の吐出ヘッド100と、吐出ヘッド100から吐出するバインダーを貯留するメインタンク201と、減圧サブタンク210と、加圧サブタンク220と、第1送液ポンプ202と、第2送液ポンプ203と、第1マニホールド230および第2マニホールド240と、ヘッドタンク251と、ヘッドタンク252と、脱気装置260と、を備えている。
【0010】
第1送液ポンプ202は、減圧サブタンク210から、バインダー経路284を介して加圧サブタンク220にバインダーを送液する。バインダー経路284には、脱気装置260と、フィルター261とが配置されている。脱気装置260は、バインダー中の溶存気体を除去するものである。フィルター261は、バインダー中の異物を捕捉し、除去するものである。
【0011】
また、第2送液ポンプ203は、メインタンク201からバインダー経路289を介して減圧サブタンク210にバインダーを送液する。バインダー経路289には、バインダー中の異物を捕捉し、除去するフィルターが配置されている。
【0012】
減圧サブタンク210は、バインダーと気体が共存する気体室210aを有する。減圧サブタンク210には、液面を検知する液面検知手段211と、気体室210aを大気開放する電磁弁212が設けられている。
【0013】
また、減圧サブタンク210には、減圧サブタンク210内を減圧する第2調整装置207が接続されている。第2調整装置207は、レギュレーター213、減圧バッファタンク214、気体ポンプである真空ポンプ215を有している。また、レギュレーター213と減圧バッファタンク214との間には、電磁弁216が設けられている。また、減圧バッファタンク214には、電磁弁217が設けられている。
【0014】
加圧サブタンク220は、バインダーと気体が共存する気体室220aを有する。加圧サブタンク220には、液面を検知する液面検知手段221と、内部を大気開放する大気開放機構となる電磁弁222が設けられている。
【0015】
加圧サブタンク220には、加圧サブタンク220内を加圧する第1調整装置206が接続されている。第1調整装置206は、レギュレーター223と、加圧バッファタンク224と、コンプレッサ225とを有する。また、レギュレーター223と加圧バッファタンク224との間には、電磁弁226が設けられている。また、加圧バッファタンク224には電磁弁227が設けられている。
【0016】
加圧サブタンク220は、バインダー経路281を介して第1マニホールド230に接続されている。
【0017】
第1マニホールド230は、供給流路231を介して吐出ヘッド100の供給ポート側に接続されている。供給流路231は、ヘッドタンク251を介して吐出ヘッド100の供給ポートに接続されている。供給流路231には、ヘッドタンク251より上流側に経路を開閉する電磁弁232が設けられている。また、第1マニホールド230には、圧力センサー233が設けられている。
【0018】
減圧サブタンク210は、バインダー経路282を介して第2マニホールド240に接続されている。
【0019】
第2マニホールド240は、排出流路241を介して吐出ヘッド100の排出ポートに接続されている。排出流路241は、ヘッドタンク252を介して吐出ヘッド100の排出ポートに接続されている。排出流路241には、ヘッドタンク252より下流側に経路を開閉する電磁弁242が設けられている。また、第2マニホールド240には圧力センサ243が設けられている。
【0020】
ここで、減圧サブタンク210、バインダー経路284、脱気装置260、加圧サブタンク220、バインダー経路281、第1マニホールド230、吐出ヘッド100、第2マニホールド240、減圧サブタンク210を経て、加圧サブタンク220に戻る経路が、循環経路301を構成する。循環経路301内の循環液量が所定量より減少すると、メインタンク201から減圧サブタンク210にバインダーが補充される。
【0021】
そして、本実施形態において、第1マニホールド230は、第2マニホールド240よりも高い位置に配置している。
【0022】
また、加圧サブタンク220は、吐出ヘッド100の供給口である供給ポートが配置される位置よりも高い位置に配置している。具体的には、加圧サブタンク220は、その内底面が、吐出ヘッド100の供給ポートよりも高い位置になるように配置されている。
【0023】
一方、減圧サブタンク210は、吐出ヘッド100の排出口である排出ポートが配置される位置よりも低い位置に配置している。具体的には、減圧サブタンク210は、減圧サブタンク210に収容されるバインダーの液面が吐出ヘッド100の排出ポートよりも低い位置になるように配置されている。
【0024】
次に、三次元造形装置1おけるバインダーの循環方法について説明する。
【0025】
(1)メインタンク201~減圧サブタンク210へのバインダーフロー
液面検知手段211で減圧サブタンク210のバインダー不足を検知すると、第2送液ポンプ203を駆動して、メインタンク201からバインダー経路289を介して、液面検知手段211の検知結果で液面が満タンとなるまで減圧サブタンク210にバインダー供給を行う。
【0026】
(2)減圧サブタンク210~加圧サブタンク220へのバインダーフロー
第1送液ポンプ202を駆動して、減圧サブタンク210からバインダー経路284を介して加圧サブタンク220にバインダーを送液することができる。
【0027】
(3)加圧サブタンク220~吐出ヘッド100~減圧サブタンク210のバインダーフロー
第1調整装置206によって加圧サブタンク220を目標圧力(例えば、加圧となる圧力)とする。一方、第2調整装置207によって減圧サブタンク210を目標圧力(例えば負圧となる圧力)とする。
【0028】
これにより、加圧サブタンク220と減圧サブタンク210との間に差圧が発生する。この差圧に応じて、加圧サブタンク220から、バインダー経路281を介して、第1マニホールド230、複数の供給流路231、複数のヘッドタンク251、複数の吐出ヘッド100、複数のヘッドタンク252、複数の排出流路241、第2マニホールド240、バインダー経路282を介して、減圧サブタンク210までバインダーが循環可能となる。
【0029】
なお、液面検知手段211、221には、フロート式によるバインダーの検知、少なくとも2本以上の電極ピンを用いて検出した電圧の出力に応じてバインダーの有無を検知する方式、その他レーザーによる液面検知方式などを使用することができる。
【0030】
また、電磁弁222、212を駆動することで加圧サブタンク220、減圧サブタンク210の内部を大気と連通させることもできる。
【0031】
次に、吐出ヘッド100の構成について詳細に説明する。なお、各吐出ヘッド100の構成は、同じ構成であるため、1つの吐出ヘッド100について代表的に説明する。
【0032】
図3に示すように、吐出ヘッド100は、流路基板として流路形成基板10、連通板15、ノズルプレート20、保護基板30、ケース部材40およびコンプライアンス基板49等の複数の部材を備える。
【0033】
流路形成基板10は、シリコン単結晶基板で構成され、その一方の面には振動板が形成されている。振動板は、二酸化シリコン層や酸化ジルコニウム層から選択される単一層または積層で構成される。
【0034】
流路形成基板10には、個別液室である圧力室12が、複数の隔壁によって区画されて複数設けられている。複数の圧力室12は、バインダーを吐出する複数のノズル21が並設されるX軸方向に沿って所定のピッチで並設されている。また、圧力室12がX軸方向に並設された列が、本実施形態では1列設けられている。また、流路形成基板10は面内方向がX軸方向およびY軸方向を含む方向となるように配置されている。なお、本実施形態では、流路形成基板10のX軸方向に並設された圧力室12の間の部分を隔壁と言う。この隔壁は、Y軸方向に沿って形成されている。すなわち、隔壁は、流路形成基板10のY軸方向における圧力室12に重なる部分のことを言う。
【0035】
なお、本実施形態では、流路形成基板10に圧力室12のみを設けるようにしたが、圧力室12に供給されるバインダーに流路抵抗を付与するように圧力室12よりも流路を横断する断面積を絞った流路抵抗付与部を設けるようにしてもよい。
【0036】
このような流路形成基板10の-Z軸方向の一方面側には、振動板が形成され、この振動板上には、第1電極60と圧電体層70と第2電極80とが成膜およびリソグラフィー法によって積層されて圧電アクチュエーター300を構成している。本実施形態では、圧電アクチュエーター300が、圧力室12内のバインダーに圧力変化を生じさせるエネルギー発生素子となっている。ここで、圧電アクチュエーター300は、圧電素子とも言い、第1電極60、圧電体層70および第2電極80を含む部分を言う。一般的には、圧電アクチュエーター300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極および圧電体層70を圧力室12毎にパターニングして構成する。本実施形態では、第1電極60を圧電アクチュエーター300の共通電極とし、第2電極80を圧電アクチュエーター300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。なお、上述した例では、振動板、第1電極60が、振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、振動板を設けずに、第1電極60のみが振動板として作用するようにしてもよい。また、圧電アクチュエーター300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0037】
また、このような各圧電アクチュエーター300の第2電極80には、リード電極90がそれぞれ接続され、このリード電極90を介して各圧電アクチュエーター300に選択的に電圧が印加されるようになっている。また、流路形成基板10の-Z軸方向の面には、保護基板30が接合されている。
【0038】
保護基板30の圧電アクチュエーター300に対向する領域には、圧電アクチュエーター300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電アクチュエーター保持部31が設けられている。圧電アクチュエーター保持部31は、圧電アクチュエーター300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。また、圧電アクチュエーター保持部31は、X軸方向に並設された複数の圧電アクチュエーター300の列を一体的に覆う大きさで形成されている。もちろん、圧電アクチュエーター保持部31は、特にこれに限定されず、圧電アクチュエーター300を個別に覆うものであってもよく、X軸方向で並設された2以上の圧電アクチュエーター300で構成される群毎に覆うものであってもよい。
【0039】
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0040】
また、保護基板30には、保護基板30をZ軸方向に貫通する貫通孔32が設けられている。そして、各圧電アクチュエーター300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔32内に露出するよう延設されており、貫通孔32内でフレキシブルケーブル120と電気的に接続されている。フレキシブルケーブル120は、可撓性を有する配線基板であって、本実施形態では、半導体素子である駆動回路121が実装されている。なお、フレキシブルケーブル120を介さずに、リード電極90と駆動回路121とを電気的に接続してもよい。また、保護基板30に流路を設けてもよい。
【0041】
また、保護基板30上には、複数の圧力室12に連通する供給流路を保護基板30と共に画成するケース部材40が固定されている。ケース部材40は、保護基板30の流路形成基板10とは反対面側が接合されると共に、後述する連通板15にも接合して設けられている。
【0042】
このようなケース部材40には、第1共通液室101の一部を構成する第1液室部41と、第2共通液室102の一部を構成する第2液室部42とが設けられている。第1液室部41と第2液室部42とは、Y軸方向において、1列の圧力室12を挟んだ両側にそれぞ
れ設けられている。
【0043】
第1液室部41および第2液室部42のそれぞれは、ケース部材40の-Z側の面に開口する凹形状を有し、X軸方向に並設された複数の圧力室12に亘って連続して設けられている。
【0044】
また、ケース部材40には、第1液室部41に連通して第1液室部41にバインダーを供給する供給口43と、第2液室部42に連通して第2液室部42からのバインダーを排出する排出口44とが設けられている。
【0045】
さらに、ケース部材40には、保護基板30の貫通孔32に連通して、フレキシブルケーブル120が挿通される接続口45が設けられている。
【0046】
一方、流路形成基板10の保護基板30とは反対面側である+Z側には、連通板15とノズルプレート20とコンプライアンス基板49とが設けられている。
【0047】
ノズルプレート20には、+Z軸方向に向かってバインダーを噴射するノズル21が複数形成されている。本実施形態では、図2に示すように、複数のノズル21はX軸方向に沿った直線上に配置されることで、1列のノズル列22が形成されている。
【0048】
ノズル21は、ノズルプレート20の板厚方向であるZ軸方向に並んで配置された内径の異なる第1ノズル21aと第2ノズル21bとを有する。第1ノズル21aは、第2ノズル21bよりも内径が小さい。そして、第1ノズル21aは、ノズルプレート20の外部側、すなわち、+Z側に配置され、第1ノズル21aから+Z軸方向に向かってバインダーがバインダー滴として外部に噴射される。すなわち、本実施形態のバインダーが吐出される第2軸方向は、本実施形態では、Z軸方向となっている。
【0049】
また、第2ノズル21bは、ノズルプレート20の-Z側に配置され、Y軸方向に延伸する第1流路201Aに連通する。すなわち、第1流路201Aの延伸方向である第1軸方向は、本実施形態では、Y軸方向となっている。これら第1軸方向であるY軸方向と第2軸方向であるZ軸方向とは互いに直交する。
【0050】
このようにノズル21に比較的内径が小さな第1ノズル21aを設けることでバインダーの流速を向上して、当該ノズル21から噴射されるバインダー滴の飛翔速度を向上することができる。また、ノズル21に比較的内径が大きな第2ノズル21bを設けることで、詳しくは後述する第1共通液室101から第2共通液室102に向かって個別流路200A内のバインダーを流す循環を行った際に、ノズル21内で循環の流れの影響を受けない部分を減少させることができる。すなわち、循環時に第2ノズル21b内でバインダーの流れを生じさせることができ、ノズル21内の速度勾配を大きくして、ノズル21内のバインダーを上流から供給された新しいバインダーで置換することができる。ただし、第2ノズル21bの内径を第1ノズル21aに比べて大きくし過ぎると、第2ノズル21bと第1ノズル21aとのイナータンスの比が大きくなり、バインダー滴を連続して吐出させた際のノズル21内でのバインダーのメニスカスの位置が安定しない。すなわち、第2ノズル21bと第1ノズル21aとのイナータンスの比が大きくなると、バインダーのメニスカスが第1ノズル21a内に留まらずに第2ノズル21b内に移動し、安定したバインダー滴の吐出を連続して行うことができなくなってしまう。
【0051】
また、第2ノズル21bの内径を小さくしすぎると、循環時に第2ノズル21b内にバインダーの流れが生じ難くなる。また、第2ノズル21bの内径を小さくしすぎると、圧力室12からノズル21までの流路抵抗が大きくなり、圧力損失が大きくなるため、ノズル21から吐出するバインダー滴の重量が小さくなる。このため、圧電アクチュエーター300をより高い駆動電圧で駆動しなくてはならず、吐出効率が低下する。したがって、第1ノズル21aおよび第2ノズル21bの大きさは、循環時のバインダーの置換性能、吐出安定性、吐出効率、および、バインダーの飛翔速度等を考慮して適宜決定される。
【0052】
このような第1ノズル21aおよび第2ノズル21bは、それぞれ開口形状がZ軸方向に亘って略同じ形状となるように設けられている。これにより、第1ノズル21aと第2ノズル21bとの間には段差が形成されている。もちろん、第1ノズル21aと第2ノズル21bの形状はこれに限定されず、例えば、第2ノズル21bの内面がZ軸方向に対して傾斜した傾斜面となるようにしてもよい。つまり、第2ノズル21bの内径は、第1ノズル21aに向かって徐々に漸小するように設けられていてもよい。これにより、例えば、第1ノズル21aと第2ノズル21bとの間に段差が形成されておらず、連続した内面となっていてもよい。このように第1ノズル21aと第2ノズル21bとの内面が連続している場合には、第1ノズル21aとは、開口形状がZ軸方向に亘って略同じ形状である部分を言う。
【0053】
また、ノズル21をZ軸方向から平面視した際の形状は、特に限定されず、円形、楕円形、矩形、多角形状、だるま型等であってもよい。
【0054】
このようなノズルプレート20は、例えば、ステンレス鋼(SUS)等の金属、ポリイミド樹脂のような有機物、または、シリコン等の平板状の部材で形成することができる。また、ノズルプレート20の板厚は、60μm以上100μm以下であることが好ましい。このような板厚のノズルプレート20を用いることで、ノズルプレート20のハンドリング性を向上して、吐出ヘッド100の組み立て性を向上することができる。ちなみに、ノズル21のZ軸方向の長さを短くすることで、バインダーを循環させた際に、ノズル21内で循環の流れの影響を受けない部分を小さくすることができるが、ノズル21のZ軸方向の長さを短くするには、ノズルプレート20のZ軸方向の厚みを薄くする必要がある。このようにノズルプレート20の厚みを薄くすると、ノズルプレート20の剛性が低下し、ノズルプレート20の変形によってバインダー滴の吐出方向にばらつきが生じることや、ノズルプレート20のハンドリング性の低下による組み立て性の低下が生じ易い。つまり、上記のようにある程度の厚みのあるノズルプレート20を用いることで、ノズルプレート20の剛性の低下を抑制して、ノズルプレート20の変形による吐出方向にばらつきが生じることや、ハンドリング性の低下による組み立て性の低下を抑制することができる。
【0055】
連通板15は、本実施形態では、第1連通板151と第2連通板152とを有する。第1連通板151と第2連通板152とは、-Z側が第1連通板151、+Z側が第2連通板152となるようにZ軸方向に積層されている。
【0056】
このような連通板15を構成する第1連通板151および第2連通板152は、ステンレス鋼等の金属、ガラス、セラミック材料等によって製造することができる。なお、連通板15は、流路形成基板10と熱膨張率が略同一の材料を用いるのが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0057】
連通板15には、ケース部材40の第1液室部41と連通して第1共通液室101の一部を構成する第1連通部16と、ケース部材40の第2液室部42と連通して第2共通液室102の一部を構成する第2連通部17および第3連通部18とが設けられている。また、連通板15には、詳しくは後述するが、第1共通液室101と圧力室12とを連通する流路と、圧力室12とノズル21とを連通する流路と、ノズル21と第2共通液室102とを連通する流路と、が設けられている。連通板15に設けられたこれらの流路は、個別流路200Aの一部を構成する。
【0058】
第1連通部16は、Z軸方向において、ケース部材40の第1液室部41に重なる位置に設けられており、連通板15の+Z側の面およびZ側の面の両方に開口するように、連通板15をZ軸方向に貫通して設けられている。第1連通部16は、-Z側において第1液室部41と連通することで第1共通液室101を構成する。すなわち、第1共通液室101は、ケース部材40の第1液室部41と連通板15の第1連通部16とによって構成されている。また、第1連通部16は、+Z側において圧力室12にZ軸方向で重なる位置まで-Y軸方向に延設されている。なお、連通板15に第1連通部16を設けずに、第1共通液室101をケース部材40の第1液室部41によって構成してもよい。
【0059】
第2連通部17は、Z軸方向において、ケース部材40の第2液室部42に重なる位置に設けられており、第1連通板151の-Z側の面に開口して設けられている。また、第2連通部17は、+Z側において+Y軸方向のノズル21に向かって拡幅されて設けられている。
【0060】
第3連通部18は、一端が、第2連通部17の+Y軸方向に向かって拡幅された部分に連通するように、第2連通板152をZ軸方向に貫通して設けられている。第3連通部18の+Z側の開口は、ノズルプレート20によって蓋をされている。すなわち、第2連通部17を第1連通板151に設けることで、第3連通部18の+Z側の開口のみをノズルプレート20で蓋をすることができるため、ノズルプレート20を比較的狭い面積で設けることができ、コストを低減することができる。
【0061】
このような連通板15に設けられた第2連通部17および第3連通部18とケース部材40に設けられた第2液室部42とによって第2共通液室102が構成されている。なお、連通板15に第2連通部17および第3連通部18を設けずに、第2共通液室102をケース部材40の第2液室部42によって構成してもよい。
【0062】
連通板15の第1連通部16が開口する+Z側の面には、コンプライアンス部494を有するコンプライアンス基板49が設けられている。このコンプライアンス基板49が、第1共通液室101のノズル面20a側の開口を封止している。
【0063】
このようなコンプライアンス基板49は、本実施形態では、可撓性を有する薄膜からなる封止膜491と、金属等の硬質の材料からなる固定基板492と、を具備する。固定基板492の第1共通液室101に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部493となっているため、第1共通液室101の壁面の一部は可撓性を有する封止膜491のみで封止された可撓部であるコンプライアンス部494となっている。このように第1共通液室101の壁面の一部にコンプライアンス部494を設けることで、第1共通液室101内のバインダーの圧力変動をコンプライアンス部494が変形することによって吸収することができる。
【0064】
また、コンプライアンス部494の-Z軸側には、第1共通液室101内の圧力を検出する圧力センサー400が設けられている。この圧力センサー400は、制御部700と電気的に接続されており、圧力センサー400が検出した第1共通液室101内の圧力に関する情報は、制御部700に送信される。
【0065】
また、流路基板を構成する流路形成基板10、連通板15、ノズルプレート20、コンプライアンス基板49等には、第1共通液室101と第2共通液室102とに連通して、第1共通液室101のバインダーを第2共通液室102に送る複数の個別流路200Aが設けられている。ここで、本実施形態の各個別流路200Aは、第1共通液室101と第2共通液室102とに連通して、ノズル21毎に設けられたものであり、ノズル21を含むものである。このような複数の個別流路200Aは、ノズル21の並設方向であるX軸方向に沿って複数並設されている。そして、ノズル21の並設方向であるX軸方向において隣接する2つの個別流路200Aは、それぞれ第1共通液室101および第2共通液室102に連通して設けられている。すなわち、ノズル21毎に設けられた複数の個別流路200Aは、それぞれ第1共通液室101および第2共通液室102のみで連通して設けられており、複数の個別流路200Aは、第1共通液室101および第2共通液室102以外で互いに連通することがない。つまり、本実施形態では、1つのノズル21および1つの圧力室12が設けられた流路を個別流路200Aと称し、各個別流路200A同士は、第1共通液室101および第2共通液室102のみで連通するように設けられている。
【0066】
図3に示すように、個別流路200Aは、ノズル21と圧力室12と第1流路201Aと第2流路202Aと供給路203Aとにより構成される。
【0067】
圧力室12は、上述のように流路形成基板10に設けられた凹部と連通板15との間に設けられたものであり、Y軸方向に延伸している。すなわち、圧力室12は、Y軸方向の一端部に供給路203Aが接続され、Y軸方向の他端部に第2流路202Aが接続されており、圧力室12内をバインダーがY軸方向に流れるように設けられている。つまり、圧力室12の延伸する方向とは、圧力室12内をバインダーが流れる方向のことである。
【0068】
なお、本実施形態では、流路形成基板10に圧力室12のみを形成するようにしたが、これに限定されず、圧力室12の上流側の端部、すなわち、+Y軸方向の端部に流路抵抗を付与するように圧力室12よりも断面積を絞った流路抵抗付与部を設けるようにしてもよい。
【0069】
供給路203Aは、圧力室12と第1共通液室101とを接続するものであり、第1連通板151をZ軸方向に貫通して設けられている。供給路203Aは、+Z側の端部で第1共通液室101と連通し、-Z側の端部で圧力室12と連通する。つまり、供給路203Aは、Z軸方向に延伸している。ここで、供給路203Aが延伸する方向とは、供給路203A内をバインダーが流れる方向のことである。
【0070】
第1流路201Aは、供給口43と排出口44との間でY軸方向に延伸して設けられている。なお、第1流路201Aが延伸する方向とは、第1流路201A内をバインダーが流れる方向のことである。すなわち、第1流路201Aが延伸する第1軸方向は、本実施形態では、Y軸方向となっている。このような第1流路201Aは、+Y軸方向の端で第2流路202Aと連通し、-Y軸方向の端部で第2共通液室102の第3連通部18と連通している。
【0071】
本実施形態の第1流路201Aは、第2連通板152とノズルプレート20との間に、Y軸方向に沿って延伸して設けられている。具体的には、第1流路201Aは、第2連通板152に凹部を設け、この凹部の開口をノズルプレート20で蓋をすることで形成されている。なお、第1流路201Aは特にこれに限定されず、ノズルプレート20に凹部を設け、ノズルプレート20の凹部を第2連通板152によって蓋をするようにしてもよく、第2連通板152とノズルプレート20との両方に凹部を設けて形成してもよい。
【0072】
第1流路201Aは、本実施形態では、流路を流れるバインダーを横断する断面積、すなわち、X軸方向およびZ軸方向を含む面方向の断面積がY軸方向に亘って同じ面積となるように設けられている。なお、第1流路201Aは、横断する断面積がY軸方向で異なる面積となるように設けられていてもよい。第1流路201Aを横断する面積が異なるとは、Z軸方向の高さが異なる場合も、X軸方向の幅が異なる場合も、その両方が異なる場合も含むものである。
【0073】
また、第1流路201Aの流路を横断する断面形状、すなわち、X軸方向およびZ軸方向を含む面方向の断面形状は、矩形となっている。なお、第1流路201Aの流路を横断する断面形状は、特に限定されず、台形、半円形、半楕円等であってもよい。
【0074】
第2流路202Aは、圧力室12と第1流路201Aとの間にZ軸方向に延伸して設けられている。なお、第2流路202Aが延伸する方向とは、第2流路202A内をバインダーが流れる方向のことである。すなわち、第2流路202Aが延伸する方向は、本実施形態では、第2軸方向と同じZ軸方向となっている。このような第2流路202Aは、本実施形態では、連通板15をZ軸方向に貫通して設けられており、-Z軸方向の端部で圧力室12と連通し、+Z軸方向の端部で第1流路201Aと連通している。
【0075】
また、第2流路202Aは、連通板15に形成された部分を言う。すなわち、第2流路202Aは、圧力室12の+Z軸方向の底面からノズルプレート20で蓋をされている部分までである。
【0076】
ノズル21は、第1流路201Aの途中に連通する位置に配置されている。すなわち、ノズル21は、Y軸方向に延伸する第1流路201Aから+Z軸方向に分岐して設けられている。これにより、ノズル21から+Z軸方向に向かってバインダー滴を噴射する。つまり、ノズル21は、-Z軸方向の端部が第1流路201Aの途中に連通し、+Z軸方向の端部がノズルプレート20のノズル面20aに開口するようにノズルプレート20をZ軸方向に貫通して設けられている。このため、ノズル21がバインダー滴を噴射する第2軸方向とは、Z軸方向である。
【0077】
ここで、ノズル21が第1流路201Aから分岐して設けられているとは、ノズル21が第1流路201Aの途中に連通していることを言う。そして、ノズル21が第1流路201Aの途中に連通しているとは、Z軸方向から平面視した際に、ノズル21が第1流路201Aと重なる位置に配置されていることを言う。ちなみに、Z軸方向から平面視した際に、ノズル21が第2流路202Aと重なる位置に配置されているものは、第1流路201Aの途中に連通するように設けられているとは言わない。つまり、本実施形態の第1流路201Aは、Z軸方向から平面視した際に第2流路202Aに重ならない部分である。
【0078】
なお、ノズル21が連通する第1流路201Aを流れるバインダーを横断する断面積は、第2流路202Aを流れるバインダーを横断する断面積よりも小さいことが好ましい。なお、第1流路201Aを横断する断面積とは、X軸方向およびZ軸方向を含む面方向の断面の面積である。また、第2流路202Aを横断する断面積とは、Y軸方向およびZ軸方向を含む面方向の断面の面積である。このように第1流路201Aの断面積を比較的小さくすることで、個別流路200AをX軸方向に高密度に配置して、ノズル21をX軸方向に高密度に配置することができると共に、吐出ヘッド100がZ軸方向に大型化するのを抑制することができる。また、第2流路202Aの断面積を比較的大きくすることで、圧力室12からノズル21までの流路抵抗が小さくなるのを抑制して、バインダーの吐出特性、特に吐出される液滴の重量が低下するのを抑制することができる。特に第2流路202AをY軸方向に広げて、第2流路202Aの断面積を大きくすることで、第2流路202Aの流路抵抗を低減することができると共に個別流路200Aが低密度に配置されるのを抑制して、個別流路200Aを高密度に配置することができる。
【0079】
このような個別流路200Aでは、第1共通液室101から個別流路200Aを通り第2共通液室102にバインダーが流れる。また、圧電アクチュエーター300を駆動することによって圧力室12内のバインダーに圧力変化を生じさせて、ノズル21内のバインダーの圧力を上昇させることでノズル21から外部に+Z軸方向に向かってバインダー滴が吐出される。第1共通液室101から個別流路200Aを通り第2共通液室102にバインダーが流れる時に、圧電アクチュエーター300を駆動してもよいし、第1共通液室101から個別流路200Aを通り第2共通液室102にバインダーが流れない時に、圧電アクチュエーター300を駆動してもよい。また、圧電アクチュエーター300の駆動による圧力変化により、第2共通液室102から第1共通液室101へのバインダーの流れが一時的に生じてもよい。
【0080】
このような三次元造形装置1の各部は、後述する制御部700と電気的に接続されており、その作動が制御される。
【0081】
前述したように、第1共通液室101および供給路203Aにより、流入流路300Aが構成され、第1流路201A、第2流路202Aおよび第2共通液室102により流出流路300Bが構成される。そして、三次元造形装置1は、流出流路300Bから流出したバインダーを300Aに循環させる循環流路300Cを備える。図1に示す構成では、循環流路300Cは、排出流路241、バインダー経路282、バインダー経路284、バインダー経路281、供給流路231を含んでいる。このような循環流路300Cを備えることにより、ノズル21から吐出されなかったバインダーは、圧力室12から、流出流路300B、循環流路300Cおよび流入流路300Aを順に介して循環し、再度、圧力室12に戻るよう構成されている。この構成により、次のような利点を得ることができる。
【0082】
バインダージェット方式では、造形物の密度が、その他の方式に比べ、比較的低くなってしまう傾向を示す。このため、バインダーに含まれる水溶性樹脂および湿潤剤の量を減らすことが好ましい。しかしながら、湿潤剤の量を単純に減らすだけでは、吐出安定性が低下してしまう。そこで、前述したように、バインダーを循環させることにより、湿潤剤の含有量を低減しても吐出安定性を高めることができ、造形物の密度を高めることができる。
【0083】
なお、上記では、循環流路300Cは、排出流路241、バインダー経路282、バインダー経路284、バインダー経路281、供給流路231を含む構成について説明したが、本発明ではこの構成に限定されず、例えば、第1マニホールド230と第2マニホールド240とが接続されている場合には、排出流路241と、供給流路231と、第1マニホールド230と第2マニホールド240を接続している流路とが循環流路300Cを構成する。
【0084】
また、ノズル21から吐出されるバインダーの単位時間当たりの流量R1と、ノズル21から吐出されずに循環する、すなわち、流出流路300Bに流出するバインダーの単位時間当たりの流量R2との比R1/R2は、0.05以上20以下であるのが好ましく、0.1以上1以下であるのがより好ましい。これにより、バインダーの吐出安定性をさらに高めることができる。
【0085】
このような吐出ヘッド100は、図4に示すように、複数設けられており、各吐出ヘッド100は、一括してキャリッジ500に支持されている。キャリッジ500は、X軸方向またはY軸方向に移動可能に構成されていてもよい。また。キャリッジ500には、吐出ヘッド100毎にヒーター600が設置されている。このヒーター600は、バインダーを乾燥させる機能を有する。ヒーター600は、制御部700と電気的に接続され、制御部700によって通電条件を制御されることにより、作動が制御される。例えば、図示しないテーブルにバインダーを吐出し、乾燥させるという動作を繰り返すことにより、複数の層を積層し、三次元造形物を得ることができる。
【0086】
このように、三次元造形装置1は、吐出ヘッド100と、バインダーを乾燥させるヒーター600と、を支持するキャリッジ500を備える。これにより、吐出ヘッド100が吐出したバインダーを良好に乾燥させることができる。よって、造形物の成形性を高めることができるとともに、装置構成を簡素にすることができる。また、吐出したバインダーのうち、必要な部分のみを乾燥させることができるため、乾燥させていないバインダーのリサイクルが可能となる。
【0087】
なお、上記構成に限定されず、ヒーター600は、テーブル側に設けられていてもよい。
【0088】
制御部700は、三次元造形装置1の各部を制御する機能を有する。制御部700は、例えば、コンピューターから構成され、情報を処理する少なくとも1つのプロセッサー(例えば、CPU)と、プロセッサーに通信可能に接続されたメモリー(例えば、ROM、RAM)と、外部装置との接続を行う外部インターフェースと、を有する。メモリーにはプロセッサーにより実行可能な各種プログラムが保存され、プロセッサーは、メモリーに記憶された各種プログラム等を読み込んで実行することができる。なお、制御部700の構成要素の一部または全部は、三次元造形装置1の筐体の外側に配置されてもよい。
【0089】
また、制御部700のメモリーには、圧力の閾値が記憶されている。造形中、プロセッサーは、圧力センサー400が検出した検出結果に基づいて第1共通液室101内の圧力の情報を取得し、その圧力が閾値を上回っているか否かの判断を行う。プロセッサーは、第1共通液室101内の圧力が閾値を上回っていると判断した場合、図1に示す真空ポンプ215の作動を調整して、第1共通液室101内の圧力を調整する。
【0090】
具体的には、プロセッサーは、通常時は、予め定められた条件で真空ポンプ215を作動させ、第1共通液室101内の圧力が閾値をより小さい場合、通常時よりも送液速度、すなわち、循環速度を下げるように真空ポンプ215への通電条件を変更する。なお、第1共通液室101内の圧力が閾値を超えた場合の通電条件も、予めメモリーに記憶されている。
【0091】
なお、圧力センサー400は、本実施形態では、流入流路300Aに配置されている構成について説明したが、本発明ではこれに限定されず、圧力室12、流出流路300Bおよび循環流路300Cのうちのいずれに配置されていてもよい。
【0092】
このように、三次元造形装置1は、個別液室である圧力室12、流入流路300A、流出流路300Bおよび循環流路300Cのうちの少なくとも1つの圧力を検出する圧力センサー400と、圧力センサー400の検出結果に基づいてバインダーの循環速度を調整する制御部700と、を備える。これにより、例えば、バインダーの循環速度を可及的に一定に保つことができ、バインダーの吐出安定性をさらに高めることができる。
【0093】
また、制御部700は、圧力が閾値より小さい場合、バインダーの循環速度を速くするよう、真空ポンプ215の作動を制御する。これにより、圧力が低下した場合であっても、循環速度を早くすることにより、圧力を可及的に一定に保つことができる。その結果、バインダーの吐出安定性をさらに高めることができる。
【0094】
次に、ノズル21から吐出されるバインダーについて説明する。
前述したように、バインダーは、水と、水溶性樹脂と、湿潤剤と、を含む。
【0095】
バインダーが水溶性樹脂を含むことにより、バインダーを吐出して得られた造形物を焼結させた際に、造形物の型崩れを防止または抑制することができる。
【0096】
前記水溶性樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアクリル酸樹脂、セルロース樹脂、デンプン、ゼラチン、ビニル樹脂、アミド樹脂、イミド樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレングリコール等が挙げられる。これらは、前記水溶性を示す限りにおいて、ホモポリマーであってもよいし、ヘテロポリマーであってもよく、また、変性されていてもよいし、公知の官能基が導入されていてもよく、また塩の形態であってもよい。このような水溶性樹脂を用いることにより、得られる造形物の型崩れを効果的に防止または抑制することができる。
【0097】
ポリビニルアルコール樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、アセトアセチル基、アセチル基、シリコーン等による変性ポリビニルアルコール、ブタンジオールビニルアルコール共重合体等が挙げられる。
【0098】
ポリアクリル酸樹脂としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム等の塩であってもよい。
【0099】
セルロース樹脂としては、例えば、セルロースであってもよいし、カルボキシメチルセルロース等であってもよい。
【0100】
アクリル樹脂としては、例えば、ポリアクリル酸、アクリル酸・無水マレイン酸共重合体等が挙げられる。
【0101】
次に、湿潤剤について説明する。
湿潤剤は、ノズル21内の乾燥を抑制する機能を有する。湿潤剤としては、bp200度以上の有機溶媒であることが好ましい。
【0102】
湿潤剤としては、上記機能を有していれば特に限定されないが、例えば、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール、エーテル、ケトンなどが挙げられる。具体的には、2-ブトキシエタノール、1,2,6-ヘキサントリオール、1,2-ブタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、2-ペンタンジオール、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ブタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,3-ブタンジオール、2,4-ペンタンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-ピロリドン、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ヘキサンジオール、N-メチル-2-ピロリドン、N-メチルピロリジノン、β-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、β-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、γ-ブチロラクトン、ε-カプロラクタム、エチレングリコール、エチレングリコール-n-ブチルエーテル、エチレングリコール-n-プロピルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、エチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、グリセリン、ジエチレングリコール、ジエチレングリコール-n-ヘキシルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジグリセリン、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールn-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジグリコール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコール、トリプロピレングリコール-n-プロピルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、プロピルプロピレンジグリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコール-n-ブチルエーテル、プロピレングリコール-t-ブチルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ヘキシレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0103】
これらの中でも、湿潤剤は、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-プロパンジオール、2-ブトキシエタノール、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、2-ピロリドン等の脂肪族ジオールであることが好ましい。これにより、より確実にノズル21内の乾燥を抑制することができるとともに、比較的少ない量で上記効果を発揮することができる。
【0104】
また、バインダーにおける湿潤剤の含有率は、バインダーの重量に対し、5重量%以下であるのが好ましく、4重量%以下であるのがより好ましい。これにより、バインダーの吐出安定性をより確実に高めつつ、造形物の密度を十分に高めることができる。
【0105】
以上説明したように、三次元造形装置1は、水と、水溶性樹脂と、湿潤剤と、を含むバインダーを吐出するノズル21と、ノズル21に連通する個別液室である圧力室12と、バインダーを圧力室12に流入させる流入流路300Aと、バインダーを圧力室12から流出させる流出流路300Bと、を有する吐出ヘッド100と、流出流路300Bから流出したバインダーを流入流路300Aに循環させる循環流路300Cと、を備える。ノズル21から吐出されなかったバインダーは、圧力室12から、流出流路300B、循環流路300Cおよび流入流路300Aを順に介して循環し、再度、圧力室12に戻すことができる。バインダージェット方式では、造形物の密度が、その他の方式に比べ、比較的低くなってしまう傾向を示す。このため、バインダーに含まれる水溶性樹脂および湿潤剤の量を減らすことが好ましい。しかしながら、湿潤剤の量を単純に減らすだけでは、吐出安定性が低下してしまう。そこで、前述したように、バインダーを循環させることにより、バインダー中の湿潤剤の含有量を低減しても吐出安定性を高めることができ、造形物の密度を高めることができる。
【実施例
【0106】
次に、本発明の具体的実施例について説明する
【0107】
(実施例2)
図1図4に示す三次元造形装置にバインダー装填し、バインダーの吐出を行い、造形物を得た。なお、用いたバインダーは、水と、水溶性樹脂と、湿潤剤と、を含んでおり、水溶性樹脂は、ポリビニルアルコール(PVA)を用い、湿潤剤は、2-ブトキシエタノールを用いた。バインダー中の水の含有量は、98.7質量%であり、バインダー中の水溶性樹脂の含有量は、0.8質量%であり、バインダー中の湿潤剤の含有量は、0.5質量%であった。
【0108】
(実施例3~実施例6、実施例8~実施例18)
水、水溶性樹脂および湿潤剤の含有量を表1に示すようにしたこと以外は、実施例2と同様にしてバインダーの吐出を行った。
【0109】
(比較例1)
循環流路が省略された従来の三次元造形装置にバインダー装填し、バインダーの吐出を行い、造形物を得た。なお、用いたバインダーは、水と、水溶性樹脂と、を含んでおり、水溶性樹脂は、ポリビニルアルコールを用いた。バインダー中の水の含有量は、99.2質量%であり、バインダー中の水溶性樹脂の含有量は、0.8質量%であった。
【0110】
(比較例2)
循環流路が省略された従来の三次元造形装置にバインダー装填し、バインダーの吐出を行い、造形物を得た。なお、用いたバインダーは、水と、水溶性樹脂と、湿潤剤と、を含んでおり、水溶性樹脂は、ポリビニルアルコールを用い、湿潤剤は、2-ブトキシエタノールを用いた。バインダー中の水の含有量は、98.7質量%であり、バインダー中の水溶性樹脂の含有量は、0.8質量%であり、バインダー中の湿潤剤の含有量は、0.5質量%であった。
【0111】
(比較例3~比較例18)
水、水溶性樹脂および湿潤剤の含有量を表2に示すようにしたこと以外は、比較例2と同様にしてバインダーの吐出を行った。
【0112】
(実施例19)
表3に示すように、図1図4に示す三次元造形装置にバインダー装填し、バインダーの吐出を行い、造形物を得た。なお、用いたバインダーは、水と、水溶性樹脂と、湿潤剤と、を含んでおり、水溶性樹脂は、ポリビニルピロリドンを用い、湿潤剤は、2-ブトキシエタノールを用いた。バインダー中の水の含有量は、97.8質量%であり、バインダー中の水溶性樹脂の含有量は、0.2質量%であり、バインダー中の湿潤剤の含有量は、2.0質量%であった。
【0113】
(実施例20~実施例24)
水、水溶性樹脂および湿潤剤の含有量を表3に示すようにしたこと以外は、実施例2と同様にしてバインダーの吐出を行った。
【0114】
(比較例19)
循環流路が省略された従来の三次元造形装置にバインダー装填し、バインダーの吐出を行い、造形物を得た。なお、用いたバインダーは、水と、水溶性樹脂と、湿潤剤と、を含んでおり、水溶性樹脂は、ポリビニルピロリドンを用い、湿潤剤は、2-ブトキシエタノールを用いた。バインダー中の水の含有量は、97.8質量%であり、バインダー中の水溶性樹脂の含有量は、0.2質量%であり、バインダー中の湿潤剤の含有量は、2.0質量%であった。
【0115】
(比較例20~比較例24)
水、水溶性樹脂および湿潤剤の含有量を表4に示すようにしたこと以外は、比較例19と同様にしてバインダーの吐出を行った。
【0116】
<評価>
1.吐出安定性
吐出ノズルから吐出されるバインダーの単位時間当たりの吐出量を測定し、以下のように評価を行った。
A:吐出重量が目標値の98%以上である
B:吐出重量が目標値の95%以上98%未満である
C:吐出重量が目標値の90%以上95%未満である
D:吐出重量が目標値の90%未満である
E:目視で確認して吐出ノズルからバインダーが吐出されていない
【0117】
2.造形物の密度
A:焼結後の造形物の重量が焼結前の造形物の重量の60%以上である
B:焼結後の造形物の重量が焼結前の造形物の重量の55%以上60%未満である
C:焼結後の造形物の重量が焼結前の造形物の重量の50%以上55%未満である
D:焼結後の造形物の重量が焼結前の造形物の重量の45%以上50%未満である
E:焼結後の造形物の重量が焼結前の造形物の重量の45%未満である
【0118】
以下、各実施例および各比較例で得られた造形物の構成および評価結果を表1~表4に示す。なお、表中の「-」は、造形物が崩れてしまい、生成することができなかったことを示している。
【0119】
【表1】
【0120】
【表2】
【0121】
【表3】
【0122】
【表4】
【0123】
表1~表4より明らかなように、循環流路300Cを備えていない三次元造形装置(各比較例)では、バインダーの吐出安定性が乏しい。また、循環流路300Cを備えていない三次元造形装置(各比較例)により製造された造形物は、密度が低いか、または、造形物が崩れてしまい、密度を測定することができなかった。これに対し、循環流路300Cを備える三次元造形装置(各実施例)では、バインダーの吐出安定性に優れていた。また、造形物の密度も高く、満足のいく結果となった。
【0124】
以上、本発明の三次元造形装置を図示の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。また、三次元造形装置を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
【符号の説明】
【0125】
1…三次元造形装置、10…流路形成基板、12…圧力室、15…連通板、16…第1連通部、17…第2連通部、18…第3連通部、20…ノズルプレート、20a…ノズル面、21…ノズル、21a…第1ノズル、21b…第2ノズル、22…ノズル列、30…保護基板、31…圧電アクチュエーター保持部、32…貫通孔、40…ケース部材、41…第1液室部、42…第2液室部、43…供給口、44…排出口、45…接続口、60…第1電極、70…圧電体層、80…第2電極、90…リード電極、100…吐出ヘッド、101…第1共通液室、102…第2共通液室、120…フレキシブルケーブル、121…駆動回路、151…第1連通板、152…第2連通板、200A…個別流路、201…メインタンク、201A…第1流路、202…第1送液ポンプ、202A…第2流路、203…第2送液ポンプ、203A…供給路、206…第1調整装置、207…第2調整装置、210…減圧サブタンク、210a…気体室、211…液面検知手段、212…電磁弁、213…レギュレーター、214…減圧バッファタンク、215…真空ポンプ、216…電磁弁、217…電磁弁、220…加圧サブタンク、220a…気体室、221…液面検知手段、222…電磁弁、223…レギュレーター、224…加圧バッファタンク、225…コンプレッサ、226…電磁弁、227…電磁弁、230…第1マニホールド、231…供給流路、232…電磁弁、233…圧力センサー、240…第2マニホールド、241…排出流路、242…電磁弁、243…圧力センサー、251…ヘッドタンク、252…ヘッドタンク、260…脱気装置、261…フィルター、281…バインダー経路、282…バインダー経路、284…バインダー経路、289…バインダー経路、300…圧電アクチュエーター、300A…流入流路、300B…流出流路、300C…循環流路、301…循環経路、400…圧力センサー、491…封止膜、492…固定基板、493…開口部、494(49)…コンプライアンス部、500…キャリッジ、600…ヒーター、700…制御部
図1
図2
図3
図4