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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-25
(45)【発行日】2025-03-05
(54)【発明の名称】塗布装置及び塗布方法
(51)【国際特許分類】
   B05C 3/10 20060101AFI20250226BHJP
   B05D 1/18 20060101ALI20250226BHJP
   G03G 5/05 20060101ALI20250226BHJP
【FI】
B05C3/10
B05D1/18
G03G5/05 102
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021050775
(22)【出願日】2021-03-24
(65)【公開番号】P2022148912
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2024-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】我妻 優
【審査官】吉田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-115641(JP,A)
【文献】特開2010-075828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 3/10
B05D 1/18
G03G 5/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布液で満たされていると共に該塗布液が上部から溢流される筒状部を有し、基材が前記筒状部に上方側から浸漬される塗布槽と、
前記筒状部を径方向外側から囲う筒状に形成された被覆筒状部を有し、前記塗布液の蒸発を抑制する蒸発抑制部材と、
前記塗布槽の上方側に設けられていると共に該塗布槽を上方側から覆い、前記基材を径方向外側から覆う筒状のフード部を有するフード部材と、
前記フード部内に位置している前記基材の表面に付着した前記塗布液から蒸発する溶剤蒸気を排出するガス排出部と、
前記塗布液が流入する流入部と、前記塗布液が流出すると共に複数の前記塗布槽にそれぞれ接続された複数の流出部と、互いに対向して配置された第1対向部及び第2対向部と、を有し、前記第1対向部と前記第2対向部との間が前記流入部と複数の前記流出部とをつなぐスリット流路となっている分流器と、
を備えた塗布装置。
【請求項2】
前記フード部材は、前記フード部を有し前記塗布槽に対して移動不能に設けられた固定フードと、前記フード部を有し前記固定フードに対して上下方向に移動可能に設けられた可動フードと、を含んで構成され、
前記基材が前記塗布槽から引き上げられる際に、前記可動フードが前記固定フードに対して上昇する請求項1に記載の塗布装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された塗布装置を用い、
前記基材を下降させることにより、該基材を前記筒状部内に挿入する第1工程と、
前記基材を上昇させることにより、該基材を前記筒状部内から引き上げる第2工程と、
を含み、
前記第2工程で、前記ガス排出部により、前記フード部内に位置している前記基材の表面に付着した前記塗布液から蒸発する溶剤蒸気を吸引して排出し、
さらに前記第2工程で、前記基材を前記筒状部から引き上げる際の引き上げ後期における前記基材の引き上げ速度を引き上げ初期における前記基材の引き上げ速度よりも遅くする、
塗布方法。
【請求項4】
請求項2に記載の塗布装置を用い、
前記第2工程で、前記可動フードを上昇させて、前記基材において前記固定フードの前記フード部から抜け出す部分を前記可動フードの前記フード部で覆いながら、前記基材を引き上げる請求項3に記載の塗布方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載された塗布装置を用い、
前記基材を下降させることにより、該基材を前記筒状部内に挿入する第1工程と、
前記基材を上昇させることにより、該基材を前記筒状部内から引き上げる第2工程と、
を含み、
前記第2工程で、前記ガス排出部により、前記フード部内に位置している前記基材の表面に付着した前記塗布液から蒸発する溶剤蒸気を吸引して排出し、
前記第1工程で、複数の前記基材を複数の前記筒状部内にそれぞれ挿入し、
前記第2工程で、複数の前記基材を複数の前記筒状部内からそれぞれ引き上げる、
塗布方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布装置及び塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、円筒状の基材に塗布液を塗布する際に用いられる塗布装置が開示されている。この文献に記載された塗布装置は、塗布液が充填される塗布槽と、塗布層の上方に設けられていると共に塗布液が溢流する筒状部と、を備えている。また、塗布装置は、筒状部をその外周側から覆う溶剤蒸発抑制筒状部を有する溶剤蒸発抑制部材(蒸発抑制部材)と、筒状部及び溶剤蒸発抑制部材の上方に設けられたフードを有する蓋と、を備えている。そして、基材を筒状部に挿入して、当該基材を筒状部から引き上げることによって、基材の外周面に塗布液が塗布されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5194558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
塗布装置では、基材の表面に塗布された塗布液から蒸発する溶剤蒸気の影響により、基材の表面の塗装にムラが生じることが懸念される。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、筒状部からの塗付液の蒸発を抑制する蒸発抑制部材のみを設けた構成と比較して、基材の表面の塗装にムラが生じることを抑制することができる塗布装置及び塗布方法を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様の塗布装置は、塗布液で満たされていると共に該塗布液が上部から溢流される筒状部を有し、基材が前記筒状部に上方側から浸漬される塗布槽と、前記筒状部を径方向外側から囲う筒状に形成された被覆筒状部を有し、前記塗布液の蒸発を抑制する蒸発抑制部材と、前記塗布槽の上方側に設けられていると共に該塗布槽を上方側から覆い、前記基材を径方向外側から覆う筒状のフード部を有するフード部材と、前記フード部内に位置している前記基材の表面に付着した前記塗布液から蒸発する溶剤蒸気を排出するガス排出部と、を備えている。
【0007】
第2の態様の塗布装置は、第1の態様の塗布装置において、前記フード部材は、前記フード部を有し前記塗布槽に対して移動不能に設けられた固定フードと、前記フード部を有し前記固定フードに対して上下方向に移動可能に設けられた可動フードと、を含んで構成され、前記基材が前記塗布槽から引き上げられる際に、前記可動フードが前記固定フードに対して上昇する。
【0008】
第3の態様の塗布装置は、第1の態様又は第2の態様の塗布装置において、前記塗布液が流入する流入部と、前記塗布液が流出すると共に複数の前記塗布槽にそれぞれ接続された複数の流出部と、互いに対向して配置された第1対向部及び第2対向部と、を有し、前記第1対向部と前記第2対向部との間が前記流入部と複数の前記流出部とをつなぐスリット流路となっている分流器をさらに備えている。
【0009】
第4の態様の塗布方法は、第1の態様~第3の態様のいずれか1つの態様の塗布装置を用い、前記基材を下降させることにより、該基材を前記筒状部内に挿入する第1工程と、前記基材を上昇させることにより、該基材を前記筒状部内から引き上げる第2工程と、を含み、前記第2工程で、前記ガス排出部により、前記フード部内に位置している前記基材の表面に付着した前記塗布液から蒸発する溶剤蒸気を吸引して排出する。
【0010】
第5の態様の塗布方法は、第4の態様の塗布方法において、前記フード部内から吸引されて排出される前記溶剤蒸気を含むガスの量を0.1~0.6m/hにする。
【0011】
第6の態様の塗布方法は、第4の態様又は第5の態様の塗布方法の前記第2工程で、前記基材を前記筒状部から引き上げる際の引き上げ後期における前記基材の引き上げ速度を引き上げ初期における前記基材の引き上げ速度よりも遅くする。
【0012】
第7の態様の塗布方法は、第4の態様~第6の態様のいずれか1つの態様の塗布方法において、第2の態様の塗布装置を用い、前記第2工程で、前記可動フードを上昇させて、前記基材において前記固定フードの前記フード部から抜け出す部分を前記可動フードの前記フード部で覆いながら、前記基材を引き上げる。
【0013】
第8の態様の塗布方法は、第4の態様~第7の態様のいずれか1つの態様の塗布方法において、第3の態様の塗布装置を用い、前記第1工程で、複数の前記基材を複数の前記筒状部内にそれぞれ挿入し、前記第2工程で、複数の前記基材を複数の前記筒状部内からそれぞれ引き上げる。
【発明の効果】
【0014】
第1の態様の塗布装置によれば、蒸発抑制部材のみを設けた構成と比較して、基材の表面の塗装にムラが生じることを抑制できる。
【0015】
第2の態様の塗布装置によれば、フード部材が固定フードのみ備えた構成と比較して基材の表面の塗装にムラが生じることを抑制できる。
【0016】
第3の態様の塗布装置によれば、分流器の流路が断面円形である構成と比較して塗布液を均一化させることができる。
【0017】
第4の態様の塗布方法によれば、第2工程で基材を筒状部から引き揚げるだけの方法と比較して、基材の表面の塗装にムラが生じることを抑制できる。
【0018】
第5の態様の塗布方法によれば、吸引ガス量が0.1m/h未満の場合、0.6m/hを超える数値範囲外の場合と比較して、基材の表面の塗装にムラが生じることを抑制できる。
【0019】
第6の態様の塗布方法によれば、基材を筒状部から等速で引き上げる場合と比較して、塗装のムラを効果的に抑制できる。
【0020】
第7の態様の塗布方法によれば、フード部材として固定フードのみ備えた用いる構成と比較して基材の表面の塗装にムラが生じることを抑制できる。
【0021】
第8の態様の塗布方法によれば、断面円形の流路を有する分流器を用いる場合と比較して複数の基材の表面の塗装の品質を均一化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】塗布装置を模式的に示す側断面図である。
図2】複数の筒状部へ供給される塗布液の配管経路を模式的に示す平面図である。
図3】第1分流器を示す斜視図である。
図4】基材が筒状部内に挿入される前の状態を示す図1に対応する側断面図である。
図5】基材の筒状部内への挿入完了時の状態を示す図1に対応する側断面図である。
図6】基材の筒状部からの引き上げ完了時の状態を示す図1に対応する側断面図である。
図7】上昇した可動フードが元の位置に戻った状態を示す図1に対応する側断面図である。
図8】他の形態の塗布層を示す側断面図である。
図9】基材の表面に塗布された塗膜の各層を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本開示の技術を実施するための形態について説明する。以下の説明では、図面において適宜示される矢印Xで示す方向を装置幅方向、矢印Yで示す方向を装置高さ方向とする。また、装置幅方向及び装置高さ方向のそれぞれに直交する方向(矢印Z方向)を装置奥行き方向とする。
【0024】
図1に示されるように、本実施形態の塗布装置10は、円筒状の基材12の外周面に塗布液14を塗布するために用いられる装置である。この塗布装置10は、基材12の上端部12Aを把持するチャック部16と、塗布液14が供給される塗布槽18と、塗布槽18から溢流した塗布液14を受ける液受け部20と、を備えている。また、塗布装置10は、塗布液14の蒸発を抑制する蒸発抑制部材22と、塗布槽18を上方側から覆うフード部材としての固定フード24及び可動フード26と、を備えている。さらに、塗布装置10は、固定フード24及び可動フード26内に位置している基材12の表面に付着した塗布液14から蒸発する溶剤蒸気を排出するガス排出部28を備えている。
【0025】
チャック部16は、一例として圧縮空気や電動アクチュエータが作動することによって基材12の上端部12Aを把持することができるように構成されている。本実施形態では、24個のチャック部16が、装置幅方向に4列でかつ装置奥行き方向に6列で配列されている。また、装置幅方向に隣り合うチャック部16の間隔と装置奥行き方向に隣り合うチャック部16の間隔とは、同じ間隔に設定されている。また、24個のチャック部16は、チャック保持部材30に保持されている。なお、チャック部16の数は、同時に処理される基材12の数を考慮して適宜設定すればよい。
【0026】
塗布槽18は、塗布液14が下方側から供給されることで当該塗布液14で満たされていると共に当該塗布液14が上部から溢流される筒状部19を備えている。この筒状部19の内径は、基材12の外径よりも大きな内径に設定されていると共に、筒状部19の深さは、基材12の長さよりも深く設定されている。これにより、基材を筒状部19に上方側から浸漬させることが可能となっている。図1及び図2に示されるように、本実施形態では、24個の筒状部19が、装置幅方向に4列でかつ装置奥行き方向に6列で配列されている。また、装置幅方向に隣り合う筒状部19の間隔と装置奥行き方向に隣り合う筒状部19の間隔とは、同じ間隔に設定されている。なお、筒状部19の数は、同時に処理される基材12の数を考慮して適宜設定すればよい。
【0027】
ここで、本実施形態では、塗布液14が、24個の筒状部19へ分流器としての6つの第1分流器32及び単一の第2分流器34を介して供給されるようになっている。
【0028】
図3に示されるように、第1分流器32は、円筒状に形成された第1対向部としての外壁部32Aと、外壁部32Aの下端部に接続されていると共に下方側へ向かうにつれて窄まる漏斗状に形成された第1下壁部32Bと、第1下壁部32Bの下端部に接続された筒状の流入部32Cと、を備えている。また、第1分流器32は、外壁部32Aの内側に配置されていると共に外壁部32Aと径方向に対向して配置された円筒状の第2対向部としての内壁部32Dと、内壁部32Dの下端部を閉止する第2下壁部32Eと、外壁部32A及び内壁部32Dの上端部を閉止する上壁部32Fと、を備えている。さらに、第1分流器32は、外壁部32Aの上端側に接続されていると共に外壁部32Aの周方向に沿って等間隔に配置された4個の流出部32Gを備えている。ここで、第1分流器32の内部における第1下壁部32Bと第2下壁部32Eとの間は、円錐状の空間とされた円錐状流路32Hとなっている。また、第1分流器32の内部における外壁部32Aと内壁部32Dとの間は、円筒状の空間とされたスリット流路32Jとなっている。このスリット流路32Jの流路幅は、液流れが層流となるように設定されている。これにより、流入部32Cから円錐状流路32Hへ流入した塗布液14をスリット流路32Jを介して4個の流出部32Gから吐出させることが可能となっている。なお、図2に示された第2分流器34の構成は、6個の流出部32Gを備えていること及び6個の第1分流器32に分配する流量に応じた寸法となっていることを除いては、第1分流器32と同様に構成されている。なお、第2分流器34の流出部32Gにも第1分流器32の流出部32Gと同じ符号を付している。
【0029】
図2に示されるように、第1分流器32のそれぞれの流出部32Gは、装置幅方向及び装置奥行き方向に並んで配置された4つの筒状部19にそれぞれ接続されている。また、第2分流器34のそれぞれの流出部32Gは、6個の第1分流器32のそれぞれの流入部32C(図3参照)に接続されている。
【0030】
図1に示されるように、液受け部20は、筒状部19の上下方向の中間部において装置幅方向及び装置奥行き方向に広がる板状の底面部20Aと、底面部20Aにおける装置幅方向及び装置奥行き方向の端から上方側へ向けて立ち上がる側面部20Bと、を含んで構成されている。底面部20Aには、複数の筒状部19がそれぞれ挿通される複数の貫通孔20Cが形成されていると共に、後述する複数の吸引管40がそれぞれ挿通される複数の貫通孔20Dが形成されている。なお、筒状部19の外周面と貫通孔20Cとの間の隙間は塞がれていると共に、吸引管40の外周面と貫通孔20Dとの間の隙間は塞がれている。また、底面部20Aは、装置幅方向一方側へ向かうにつれて下方側へ傾斜している。また、装置幅方向一方側の側面部20Bには、戻り配管36が接続されている。そして、筒状部19の上端から溢流して底面部20Aに到達した塗布液14は、底面部20Aに沿って装置幅方向一方側へ向けて流れて、戻り配管36から図示しない液保持タンクに回収されるようになっている。なお、戻り配管36から液保持タンクに回収された塗布液14は、再び塗布槽18の各々の筒状部19へ向けて送られる。すなわち、塗布槽18の筒状部19と液保持タンク間を塗布液14が循環する。
【0031】
蒸発抑制部材22は、複数の筒状部19をそれぞれ径方向外側から囲う筒状に形成された複数の被覆筒状部22Aと、複数の被覆筒状部22Aをつなぐと共に装置幅方向及び装置奥行き方向に広がる底面部22Bと、を備えている。底面部22Bは、液受け部20を上方側から覆っている。また、底面部22Bには、後述する複数の吸引管40がそれぞれ挿通される複数の貫通孔22Cが形成されている。なお、吸引管40の外周面と貫通孔22Cとの間の隙間は塞がれている。そして、筒状部19の上端から溢流した塗布液14が、被覆筒状部22Aと筒状部19との間の隙間を流れることにより、塗布液14から蒸発した溶剤蒸気が被覆筒状部22Aと筒状部19との間の隙間から下方側へ向けて吸引されるようになっている。また、被覆筒状部22Aと筒状部19との間の隙間から下方側へ向けて吸引された溶剤蒸気は、戻り配管36を通じて回収されて、塗布液14の溶剤として再度使用される。
【0032】
固定フード24は、複数の筒状部19の上方側において当該複数の筒状部19とそれぞれ定められた公差の範囲内で軸が一致するように配置された複数のフード部24Aと、複数のフード部24Aをつなぐと共に蒸発抑制部材22及び複数の筒状部19を上方側から覆う蓋部24Bと、を備えている。固定フード24のフード部24Aは、筒状に形成されている。このフード部24Aの内径は、基材12の外径よりも大きな内径に設定されている。
【0033】
可動フード26は、固定フード24の複数のフード部24Aの径方向外側にそれぞれ配置される複数のフード部26Aと、複数のフード部26Aをつなぐ接続部26Bと、を備えている。可動フード26のフード部26Aは、筒状に形成されている。また、可動フード26のフード部26Aの内径は、固定フード24のフード部24Aの外径よりもやや大きな外径に設定されている。さらに、可動フード26は、図示しない移動機構によって上下方向に移動させることが可能となっている。
【0034】
ガス排出部28は、固定フード24及び可動フード26の下方側に設けられている。このガス排出部28は、液受け部20の下方側に設けられた減圧部38と、この減圧部38内の空間と固定フード24と蒸発抑制部材22との間の空間とを接続する複数の吸引管40と、を備えている。また、ガス排出部28は、減圧部38内の気体を吸い出すポンプ42を備えている。このポンプを作動させることにより、減圧部38内の空間の圧力が固定フード24と蒸発抑制部材22との間の空間の圧力よりも低くなる。これにより、固定フード24及び可動フード26内に位置している基材12の表面に付着した塗布液14から蒸発する溶剤蒸気を複数の吸引管40及び減圧部38を介して吸引して排出することが可能となっている。
【0035】
次に、以上説明した塗布装置10を用いた塗布方法について説明する。
【0036】
図4に示されるように、先ず、複数のチャック部16に把持された複数の基材12を各々の筒状部19の上方側に移動させる。
【0037】
次に、図5に示されるように、複数のチャック部16を下降させることにより、複数のチャック部16にそれぞれ把持された複数の基材12を下降させて、複数の基材12を各々の筒状部19に挿入する。この工程が、第1工程としての挿入工程である。
【0038】
次に、図6に示されるように、複数のチャック部16を上昇させることにより、複数のチャック部16にそれぞれ把持された複数の基材12を上昇させて、複数の基材12を各々の筒状部19から引き上げる。この工程が、第2工程としての引き上げ工程である。
【0039】
ここで、引き上げ工程では、可動フード26を上昇させることにより、基材12において固定フード24のフード部24Aから抜け出す部分を可動フード26のフード部26Aで覆いながら、基材12を引き上げるようにしている。
【0040】
また、この引き上げ工程を経る際においては、ポンプ42(図1参照)を作動させることにより、固定フード24のフード部24A及び可動フード26のフード部26A内に位置している基材12の表面に付着した塗布液14から蒸発する溶剤蒸気を複数の吸引管40及び減圧部38を介して吸引して排出している。この時、1つのフード部(フード部24A及びフード部26A)から吸引されて排出される溶剤蒸気を含むガスの量が0.1~0.6m/hの範囲内の定められた量となるように、ポンプ42の出力を調節している。なお、挿入工程時から引き上げ工程にかけてポンプ42を作動させておいてもよい。
【0041】
また、引き上げ工程においては、基材12を筒状部19から引き上げる際の引き上げ後期における基材12の引き上げ速度が引き上げ初期における基材12の引き上げ速度よりも遅くなるように、複数のチャック部16の上昇速度を調節している。
【0042】
以上の工程を経ることにより、複数の基材12の外周面に塗布液14が塗布される。なお、図7に示されるように、上昇した固定フード24は下降して元の位置に戻る。
【0043】
(本実施形態の効果)
次に、本実施形態の効果について説明する。
【0044】
以上説明した本実施形態では、引き上げ工程を経る際に、固定フード24のフード部24A及び可動フード26のフード部26A内に位置している基材12の表面に付着した塗布液14から蒸発する溶剤蒸気を複数の吸引管40及び減圧部38を介して吸引して排出している。これにより、蒸発抑制部材22のみを設けた構成と比較して、基材12の表面の塗装にムラが生じることを抑制できる。特に、基材12の表面の周方向に沿って生じる塗装のムラを抑制することができる。また、1つのフード部(フード部24A及びフード部26A)から吸引されて排出される溶剤蒸気を含むガスの量が0.1~0.6m/hの範囲となるようにすることで、当該範囲外とした場合と比べて、基材12の表面の周方向に沿って生じる塗装のムラを効果的に抑制することができる。
【0045】
また、本実施形態では、引き上げ工程で可動フード26を上昇させることにより、基材12において固定フード24のフード部24Aから抜け出す部分を可動フード26のフード部26Aで覆うようにしている。これにより、固定フード24のみを設けた場合と比べて、塗布液14が付着した基材12の外周面をフード部24A、26Aによって径方向外側から覆う時間を長くすることができる。これにより、固定フード24のみを設けた場合と比べて、基材12の表面の周方向に沿って生じる塗装のムラを効果的に抑制することができる。
【0046】
さらに、本実施形態では、基材12を筒状部19から引き上げる際の引き上げ後期における基材12の引き上げ速度を引き上げ初期における基材12の引き上げ速度よりも遅くしている。これにより、基材12を筒状部19から一定速度で引き上げる場合と比べて、基材12の表面の軸方向に沿って生じる塗装のムラを効果的に抑制することができる。
【0047】
また、本実施形態では、塗布液14が、24個の筒状部19へスリット流路32Jを有する6つの第1分流器32及び単一の第2分流器34を介して供給されるようになっている。これにより、24個の筒状部19へ塗布液14を供給する際に、第1分流器32及び第2分流器34内において塗布液14の一部が滞留することが抑制される。これにより、24個の筒状部19内の塗布液14の均一化を図ることができる。その結果、本実施形態のように、複数個の基材12の表面に塗布液14を同時に塗布する場合であっても、各々の基材12の表面に塗布される塗布液14の膜厚のバラツキを抑制することができる。すなわち、複数の基材12の表面の塗装の品質を均一化させることができる。また、第1分流器32及び第2分流器34内において塗布液14の一部が滞留することが抑制されることにより、塗布液14内に凝集微粒子が生じることを抑制することができる。これにより、この凝集微粒子が基材12の表面に付着することによる欠陥を抑制することができる。特に後述する「電荷輸送層」のように揮発性の分散媒に微粒子を分散させた塗布液も用いる場合に有効である。
【0048】
本実施形態の塗布装置10によれば、蒸発抑制部材22のみを設けた構成と比較して、基材12の表面の塗装にムラが生じることを抑制できる。
【0049】
本実施形態の塗布装置10によれば、フード部材が固定フード24のみ備えた構成と比較して基材12の表面の塗装にムラが生じることを抑制できる。
【0050】
本実施形態の塗布装置10によれば、分流器の流路が断面円形である構成と比較して塗布液14を均一化させることができる。
【0051】
本実施形態の塗布方法によれば、第2工程で基材12を筒状部19から引き揚げるだけの方法と比較して、基材12の表面の塗装にムラが生じることを抑制できる。
【0052】
本実施形態の塗布方法によれば、吸引ガス量が0.1m/h未満の場合、0.6m/hを超える数値範囲外の場合と比較して、基材12の表面の塗装にムラが生じることを抑制できる。
【0053】
本実施形態の塗布方法によれば、基材12を筒状部19から等速で引き上げる場合と比較して、塗装のムラを効果的に抑制できる。
【0054】
本実施形の塗布方法によれば、フード部材として固定フード24のみ備えた用いる構成と比較して基材12の表面の塗装にムラが生じることを抑制できる。
【0055】
本実施形態の塗布方法によれば、断面円形の流路を有する分流器を用いる場合と比較して複数の基材12の表面の塗装の品質を均一化させることができる。
【0056】
なお、以上説明した実施形態では、塗布液14を複数の筒状部19に第1分流器32及び第2分流器34を介して供給した例について説明したが、本開示の実施の形態はこれに限定されない。例えば、図8に示されるように、複数の筒状部19の下端部が単一の流路44に開放されている構成においては、この流路44に整流板46を設けると良い。整流板46は、上下方向を厚み方向とする板状に形成されている。この整流板46には、当該整流板46を上下方向に貫通する複数の開口46Aが形成されている。また、複数の開口46Aは、装置幅方向及び装置奥行き方向に一定の間隔で配列されている。尚、整流板46の開口率は3%~15%が好ましい。この整流板46を設けることにより、塗布液14の一部が流路44内に滞留することが抑制され、各々の筒状部19内の塗布液14の均一化を図ることができる。特に後述する「電荷輸送層」のように揮発性の分散媒に微粒子を分散させた塗布液も用いる場合に有効である。
【0057】
(電子写真感光体に適用した例)
次に、前述の塗布装置10及び塗布方法を電子写真感光体48(図9参照)の製造に適用した例について説明する。
【0058】
図9に示されるように、導電性の基材12としては、従来から使用されているものであれば、如何なるものを使用してもよい。例えば、アルミニウム、ニッケル、クロム、ステンレス鋼等の金属類、およびアルミニウム、チタニウム、ニッケル、クロム、ステンレス鋼、金、バナジウム、酸化錫、酸化インジウム、ITO等の薄膜を設けたプラスチックフィルム等、あるいは導電性付与剤を塗布、または含浸させた紙、およびプラスチックフィルム等が挙げられる。基材12の形状はドラム状(円筒状)に限られず、シート状、プレート状としてもよい。
【0059】
基材12として金属パイプを用いる場合、表面は素管のままであってもよいし、予め鏡面切削、エッチング、陽極酸化、粗切削、センタレス研削、サンドブラスト、ウエットホーニングなどの処理が行われていてもよい。
【0060】
下引き層50は、基材12の表面における光反射の防止、基材12から感光層52への不要なキャリアの流入防止などの目的で、必要に応じて設けられる。下引き層50の材料としては、アルミニウム、銅、ニッケル、銀などの金属粉体や、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛などの導電性金属酸化物や、カーボンファイバ、カーボンブラック、グラファイト粉末などの導電性物質等を結着樹脂に分散し、基体上に塗布したものが挙げられる。また、金属酸化物粒子は2種以上混合して用いることもできる。さらに、金属酸化物粒子へカップリング剤による表面処理を行うことで、粉体抵抗を制御して用いてもよい。
【0061】
下引き層50に含まれる結着樹脂としては、ポリビニルブチラールなどのアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、カゼイン、ポリアミド樹脂、セルロース樹脂、ゼラチン、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル-無水マレイン酸樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン-アルキッド樹脂、フェノール樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂などの公知の高分子樹脂化合物、また電荷輸送性基を有する電荷輸送性樹脂やポリアニリン等の導電性樹脂などを用いることができる。中でも上層の塗布溶剤に不溶な樹脂が好ましく用いられ、特にフェノール樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂などが好ましく用いられる。
【0062】
下引き層50中の金属酸化物粒子と結着樹脂との比率は特に制限されず、所望する電子写真感光体特性を得られる範囲で任意に設定できる。
【0063】
下引き層50の形成の際には、上記成分を所定の溶媒に加えた塗布液が使用される。かかる溶媒としては、例えば、トルエン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素系溶剤、メタノール、エタノール、n-プロパノール、iso-プロパノール、n―ブタノール等の脂肪族アルコール系溶剤、アセトン、シクロヘキサノン、2-ブタノン等のケトン系溶剤、塩化メチレン、クロロホルム、塩化エチレン等のハロゲン化脂肪族炭化水素溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコール、ジエチルエーテル等の環状あるいは直鎖状エーテル系溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル等のエステル系溶剤、などの有機溶剤が挙げられる。これらの溶剤は単独又は2種以上混合して用いることができる。混合する際、使用される溶剤としては、混合溶剤として結着樹脂を溶解可能であれば、いかなるものでも使用することが可能である。
【0064】
また、下引き層形成用塗布液中に金属酸化物粒子を分散させる方法としては、ボールミル、振動ボールミル、アトライター、サンドミル、横型サンドミル等のメディア分散機や、攪拌、超音波分散機、ロールミル、高圧ホモジナイザー等のメディアレス分散機が利用できる。さらに、高圧ホモジナイザーとして、高圧状態で分散液を液-液衝突や液-壁衝突させて分散する衝突方式や、高圧状態で微細な流路を貫通させて分散する貫通方式などが挙げられる。
【0065】
このようにして得られる下引き層形成用塗布液を基材12上に塗布する方法としては、本実施形態の塗布装置10を用いた漬塗布法、突き上げ塗布法、ワイヤーバー塗布法、スプレー塗布法、ブレード塗布法、ナイフ塗布法、カーテン塗布法等が挙げられる。下引き層50の膜厚は15μm以上が好ましく、20~50μmがより好ましい。下引き層50には、表面粗さ調整のために下引き層中に樹脂粒子を添加することもできる。樹脂粒子としては、シリコーン樹脂粒子、架橋型PMMA樹脂粒子等を用いることができる。
【0066】
電荷発生層54は、電荷発生材料を適当な結着樹脂中に分散して形成される。かかる電荷発生材料としては、無金属フタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン、ジクロロスズフタロシアニン、チタニルフタロシアニン等のフタロシアニン顔料が使用可能であり、特に、CuKα特性X線に対するブラッグ角(2θ±0.2゜)の少なくとも7.4゜、16.6゜、25.5゜及び28.3゜に強い回折ピークを有するクロロガリウムフタロシアニン結晶、CuKα特性X線に対するブラッグ角(2θ±0.2゜)の少なくとも7.7゜、9.3゜、16.9゜、17.5゜、22.4゜及び28.8゜に強い回折ピークを有する無金属フタロシアニン結晶、CuKα特性X線に対するブラッグ角(2θ±0.2゜)の少なくとも7.5゜、9.9゜、12.5゜、16.3゜、18.6゜、25.1゜及び28.3゜に強い回折ピークを有するヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶、CuKα特性X線に対するブラッグ角(2θ±0.2゜)の少なくとも9.6゜、24.1゜及び27.2゜に強い回折ピークを有するチタニルフタロシアニン結晶を使用することができる。その他、電荷発生材料としては、キノン顔料、ペリレン顔料、インジゴ顔料、ビスベンゾイミダゾール顔料、アントロン顔料、キナクリドン顔料等を使用することができる。また、これらの電荷発生材料は、単独または2種以上を混合して使用することができる。
【0067】
電荷発生層54における結着樹脂としては、例えば、ビスフェノールAタイプあるいはビスフェノールZタイプ等のポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合体樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ポリビニルアセテート樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリスルホン樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体樹脂、塩化ビニリデン-アクリルニトリル共重合体樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル-無水マレイン酸樹脂、シリコーン樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ-N-ビニルカルバゾール樹脂等を用いることができる。これ等の結着樹脂は、単独あるいは2種以上混合して用いることが可能である。電荷発生材料と結着樹脂の配合比は、10:1~1:10の範囲が望ましい。
【0068】
電荷発生層54の形成の際には、上記成分を所定溶剤に加えた塗布液が使用される。かかる溶剤としては、例えば、トルエン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素系溶剤、メタノール、エタノール、n-プロパノール、iso-プロパノール、n-ブタノール等の脂肪族アルコール系溶剤、アセトン、シクロヘキサノン、2-ブタノン等のケトン系溶剤、塩化メチレン、クロロホルム、塩化エチレン等のハロゲン化脂肪族炭化水素溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコール、ジエチルエーテル等の環状あるいは直鎖状エーテル系溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル等のエステル系溶剤、などの有機溶剤が挙げられる。これらの溶剤は単独あるいは2種以上混合して用いることができる。混合する際、使用される溶剤としては、混合溶剤として結着樹脂を溶解可能であれば、いかなるものでも使用することが可能である。
【0069】
電荷発生材料を樹脂中に分散させるために、塗布液には分散処理が施される。分散方法としては、ボールミル、振動ボールミル、アトライター、サンドミル、横型サンドミル等のメディア分散機や、攪拌、超音波分散機、ロールミル、高圧ホモジナイザー等のメディアレス分散機が利用できる。さらに、高圧ホモジナイザーとして、高圧状態で分散液を液-液衝突や液-壁衝突させて分散する衝突方式や、高圧状態で微細な流路を貫通させて分散する貫通方式などが挙げられる。
【0070】
このようにして得られる塗布液を下引き層50上に塗布する方法としては、本実施形態の塗布装置10を用いた浸漬塗布法、突き上げ塗布法、ワイヤーバー塗布法、スプレー塗布法、ブレード塗布法、ナイフ塗布法、カーテン塗布法等が挙げられる。電荷発生層54の膜厚は、好ましくは0.01~5μm、より好ましくは0.05~2.0μmの範囲に設定される。
【0071】
電荷輸送層56は、例えば、電荷輸送材料と結着樹脂とを含む層である。電荷輸送層は、高分子電荷輸送材料を含む層であってもよい。
【0072】
電荷輸送材料としては、p-ベンゾキノン、クロラニル、ブロマニル、アントラキノン等のキノン系化合物;テトラシアノキノジメタン系化合物;2,4,7-トリニトロフルオレノン等のフルオレノン化合物;キサントン系化合物;ベンゾフェノン系化合物;シアノビニル系化合物;エチレン系化合物等の電子輸送性化合物が挙げられる。電荷輸送材料としては、トリアリールアミン系化合物、ベンジジン系化合物、アリールアルカン系化合物、アリール置換エチレン系化合物、スチルベン系化合物、アントラセン系化合物、ヒドラゾン系化合物等の正孔輸送性化合物も挙げられる。これらの電荷輸送材料は1種を単独で又は2種以上で用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0073】
電荷輸送材料としては、電荷移動度の観点から、下記構造式(a-1)で示されるトリアリールアミン誘導体、及び下記構造式(a-2)で示されるベンジジン誘導体が好ましい。
【0074】
【化1】

【0075】
構造式(a-1)中、ArT1、ArT2、及びArT3は、各々独立に置換若しくは無置換のアリール基、-C-C(RT4)=C(RT5)(RT6)、又は-C-CH=CH-CH=C(RT7)(RT8)を示す。RT4、RT5、RT6、RT7、及びRT8は各々独立に水素原子、置換若しくは無置換のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。
上記各基の置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1以上5以下のアルキル基、炭素数1以上5以下のアルコキシ基が挙げられる。また、上記各基の置換基としては、炭素数1以上3以下のアルキル基で置換された置換アミノ基も挙げられる。
【0076】
【化2】
【0077】
構造式(a-2)中、RT91及びRT92は各々独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上5以下のアルキル基、又は炭素数1以上5以下のアルコキシ基を示す。RT101、RT102、RT111及びRT112は各々独立に、ハロゲン原子、炭素数1以上5以下のアルキル基、炭素数1以上5以下のアルコキシ基、炭素数1以上2以下のアルキル基で置換されたアミノ基、置換若しくは無置換のアリール基、-C(RT12)=C(RT13)(RT14)、又は-CH=CH-CH=C(RT15)(RT16)を示し、RT12、RT13、RT14、RT15及びRT16は各々独立に水素原子、置換若しくは無置換のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を表す。Tm1、Tm2、Tn1及びTn2は各々独立に0以上2以下の整数を示す。
上記各基の置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1以上5以下のアルキル基、炭素数1以上5以下のアルコキシ基が挙げられる。また、上記各基の置換基としては、炭素数1以上3以下のアルキル基で置換された置換アミノ基も挙げられる。
【0078】
ここで、構造式(a-1)で示されるトリアリールアミン誘導体、及び前記構造式(a-2)で示されるベンジジン誘導体のうち、特に、「-C-CH=CH-CH=C(RT7)(RT8)」を有するトリアリールアミン誘導体、及び「-CH=CH-CH=C(RT15)(RT16)」を有するベンジジン誘導体が、電荷移動度の観点で好ましい。
【0079】
高分子電荷輸送材料としては、ポリ-N-ビニルカルバゾール、ポリシラン等の電荷輸送性を有する公知のものが用いられる。特に、特開平8-176293号公報、特開平8-208820号公報等に開示されているポリエステル系の高分子電荷輸送材は特に好ましい。なお、高分子電荷輸送材料は、単独で使用してよいが、結着樹脂と併用してもよい。
【0080】
電荷輸送層56に用いる結着樹脂は、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル-無水マレイン酸共重合体、シリコーン樹脂、シリコーンアルキッド樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂、スチレン-アルキッド樹脂、ポリ-N-ビニルカルバゾール、ポリシラン等が挙げられる。これらの中でも、結着樹脂としては、ポリカーボネート樹脂又はポリアリレート樹脂が好適である。これらの結着樹脂は1種を単独で又は2種以上で用いる。
なお、電荷輸送材料と結着樹脂との配合比は、質量比で10:1から1:5までが好ましい。
【0081】
電荷輸送層56には、その他、周知の添加剤が含まれていてもよい。
【0082】
また、電荷輸送層56には、共重合体とフッ素系樹脂粒子とを含有していてもよい。本共重合体は構造式A及び構造式Bで表される繰り返し単位を含むフッ素系グラフトポリマーである。、具体的には、構造式Aは例えばアクリル酸エステル化合物、メタクリル酸エステル化合物、等からなるマクロモノマーであり、構造式Bは例えばパーフルオロアルキルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロアルキル(メタ)アクリレートであり、これらを用いて例えばグラフト重合により合成される樹脂である。ここで、(メタ)アクリレートはアクリレート又はメタクリレートを示す。
【0083】
共重合体において、構造式Aと構造式Bとの含有比即ちl:mは、(A)1:9~9:1が好ましく、3:7~7:3がさらに好ましい。l:mが(A)3:7~7:3の範囲であると、4フッ化エチレン樹脂を両行に分散することができる。
【0084】
表面層即ち電荷輸送層56における本実施形態に係る共重合体の含有量は、フッ素系樹脂粒子の表面層中の含有量(質量基準)に対して1質量%以上5質量%以下であることが好ましい。フッ素系グラフトポリマーの平均分子量は2万以上8万以下が好ましく、更に好ましくは5万以上7万以下が好ましい。本実施形態において、フッ素系樹脂粒子の平均分子量は、GPCにより測定された値をいう。
【0085】
表面層即ち電荷輸送層56の固形分全量に対するフッ素系樹脂粒子の含有量は1質量%以上15質量%以下%が好ましく、2質量%以上12質量%以下がさらに好ましい。フッ素系樹脂粒子の含有量が2質量%以上であれば、電荷輸送層56の表面エネルギーを低くすることができ、電子写真感光体の耐久性を向上することができる。また、フッ素系樹脂粒子の含有量が15質量%以下であれば、光透過性の低下及び膜強度の低下が起こりにくい。
【0086】
フッ素系樹脂粒子としては、4フッ化エチレン樹脂(PTFE)、3フッ化塩化エチレン樹脂、6フッ化プロピレン樹脂、フッ化ビニル樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、2フッ化2塩化エチレン樹脂およびそれらの共重合体の中から1種あるいは2種以上を適宜選択するのが望ましいが、さらに好ましくは4フッ化エチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂であり、特に好ましくは4フッ化エチレン樹脂である。本実施形態に係るフッ素系樹脂粒子が4フッ化エチレン樹脂を含むと、耐摩耗性の効果が得られる。
【0087】
このようにして得られる電荷輸送層形成用塗布液を電荷発生層上に塗布する方法としては、浸漬塗布法、突き上げ塗布法、ワイヤーバー塗布法、スプレー塗布法、ブレード塗布法、ナイフ塗布法、カーテン塗布法等が挙げられる。電荷輸送層56の膜厚は15μm以上が好ましく、20~50μmがより好ましい。
【0088】
工業的には塗布槽18と液保持タンク間を液が循環する本実施形態の塗布装置10を用いた浸漬塗布法にて複数の基材12を同時に塗布する場合が多い。生産性を高めるために基材12の下降速度である浸漬速度を速めると、筒状部19からオーバーフローする塗布液14の液量が急増することにより戻り配管36が詰まるため、基材12の浸漬時における塗布液14の循環流量を小さくする方法がとられる場合がある。特に高粘度液の電荷輸送層56の塗布においては、基材12の浸漬時の循環流量を30%以上小さくすることが好ましい。
【0089】
また、下引き層50など膜厚均一性の要求が厳しくない場合や、僅かな気流が塗布ムラや塗布欠陥の原因となる塗布液14を用いる場合は、メッシュ状のフード部24A、26Aを用いることが有効となる。この場合、フード部24A、26Aのメッシュサイズを50μm~1000μmに設定することが望ましい。また、例えば内側600μm~1000μm、外側50μm~100μmなど、異なるメッシュサイズを重ね合わせて使用してもよい。
【0090】
(具体例)
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0091】
30mmφ×365mmLのアルミニウム性支持体を用意した。下引き層は、酸化亜鉛:(平均粒子径70nm:テイカ社製:比表面積値15m2/g)100質量部をトルエン500質量部と攪拌混合し、シランカップリング剤(KBM603:信越化学社製)1.25質量部を添加し、2時間攪拌した。その後トルエンを減圧蒸留にて留去し、120℃で3時間焼き付けを行い、シランカップリング剤で表面処理した酸化亜鉛顔料を得た。
【0092】
前記表面処理を施した酸化亜鉛顔料60質量部、アリザリン0.6質量部、硬化剤ブロック化イソシアネート(スミジュール3175、住友バイエルンウレタン社製)13.5質量部、及びブチラール樹脂(BM-1、積水化学社製)15質量部をメチルエチルケトン85質量部に溶解した溶液38質量部と、メチルエチルケトン25質量部とを混合し、直径1mmのガラスビーズを用いてサンドミルにて2時間の分散を行い分散液を得た。得られた分散液に、触媒としてジオクチルスズジラウレート0.005質量部、シリコーン樹脂粒子(トスパール145、GE東芝シリコーン社製)4.0質量部を添加し、下引層塗布用液を得た。
【0093】
この下引層用塗布液を前記アルミニウム基体上にメッシュサイズ850μmの金網の外側にメッシュサイズ87μmの金網を重ねて作製したフード部24A、26Aをセットした浸漬塗布用の本実施形態の塗布装置10を用いて塗布し、乾燥後の膜厚が19.0μmとなるように塗布速度を調節して塗布し、180℃で40分の乾燥硬化を行い下引き層50を形成した。
【0094】
まず、電荷発生物質としてのCukα線を用いたX線回折スペクトルのブラッグ角度(2θ±0.2°)が、少なくとも7.3゜,16.0゜,24.9゜,28.0゜の位置に回折ピークを有するヒドロキシガリウムフタロシアニン15部、結着樹脂としての塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体樹脂(VMCH、日本ユニカー社製)10部、及びn-酢酸ブチル200部からなる混合物を、直径1mmのガラスビーズを用いてサンドミルにて4時間分散した。得られた分散液にn-酢酸ブチル175質量部、メチルエチルケトン180質量部を添加し、攪拌して電荷発生層54用の塗布液を得た。この電荷発生層54用の塗布液を下引き層50上に浸漬塗布し、常温(25℃)で乾燥して、厚みが0.2μmの電荷発生層を形成した。
【0095】
次に、A:4フッ化エチレン樹脂粒子0.5質量部(平均一次粒径:0.2μm)及び下記構造式で表される繰り返し単位を含むフッ化アルキル基含有共重合体(重量平均分子量50,000、l:m=1:1、s=1、n=60)0.01質量部を、テトラヒドロフラン4質量部、トルエン1質量部とともに20℃の液温に保ち、30時間攪拌混合し、4フッ化エチレン樹脂粒子懸濁液を得た。次に、B:電荷輸送物質としてN,N′-ビス(3-メチルフェニル)-N,N′-ジフェニルベンジジン2質量部、N,N′-ビス(3,4-ジメチルフェニル)ビフェニル-4-アミン2質量部、ビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂(粘度平均分子量:50,000)6質量部、酸化防止剤として2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール0.1質量部を混合してテトラヒドロフラン24質量部及びトルエン11質量部を混合溶解した。このB液に前記A液を加えて攪拌混合した後、微細な流路を持つ貫通式チャンバーを装着した高圧ホモジナイザー(吉田機械興業株式会社製)を用いて、500kgf/cm2まで昇圧しての分散処理を1回行った液に、ジメチルシリコーンオイル(商品名:KP-340 信越シリコーン社製)を8ppm添加し、十分に撹拌して電荷輸送層56の形成用の塗布液を得た。
【0096】
<実施例1>
図1に示す塗布装置10を使用した。上記のようにして得られた電荷輸送層56用の塗布液14を塗布槽18に投入し、温度30.0℃、粘度520mPa・sに調整した。使用した塗布装置10には、内径Φ60mm、深さ500mmの円筒状の筒状部19を25個(5個×5個)、85mmピッチで設けた。円筒状の筒状部19のまわりには、筒状部19の外周部を所定の間隔を持って覆う円筒状の被覆筒状部22Aを有する蒸発抑制部材22を設置した。また、内径60mm、高さ200mmのフード部24Aを有する固定フード24、及び内径80mm、高さ200mmのフード部26Aを有する昇降可能な可動フード26を設けた。固定フード24のフード部24A及び上昇する前の状態の可動フード26のフード部26Aは、筒状部19の液面から30mmの高さに設けられている。
【0097】
基材12として外径30mm、長さ340mmのアルミパイプを使用した。図1の塗布装置10にて電荷輸送層56用の塗布液14を用い、1つのフード部(フード部24A及びフード部26A)内の気体をガス排出部28によって0.3m/hの流量で排出しながら、塗布速度150mm/minにて電荷発生層54の上に浸漬塗布を行った。基材12を筒状部19から引き上げる過程において、基材12の上端が固定フード24のフード部24Aの上端に達した時点で可動フード26を200mm上昇させた。塗布終了後、120℃で30分乾燥して膜厚40μmの電荷輸送層56を得た。
【0098】
(評価)
上記の実施例1で作製した基材12の表面の膜厚を渦電流膜厚測定装置(自社製)を用いて上端側の塗布開始位置より20mm以上300mm以下の間を10mm間隔、90°毎に測定し、その平均値を平均膜厚A(μm)とした。全測定点の膜厚の最大値と最小値の差を塗装ムラである膜厚ムラとした。その結果、実施例1では、塗装ムラを2.0μm以下に抑えることができた。
【0099】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、その主旨を逸脱しない範囲内において上記以外にも種々変形して実施することが可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0100】
10 塗布装置
12 基材
14 塗布液
18 塗布槽
19 筒状部
22 蒸発抑制部材
22A 被覆筒状部
24 固定フード(フード部材)
24A フード部
26 可動フード(フード部材)
26A フード部
28 ガス排出部
32 第1分流器(分流器)
32A 外壁部(第1対向部)
32C 流入部
32D 内壁部(第2対向部)
32G 流出部
32J スリット流路と
34 第2分流器(分流器)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9