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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-25
(45)【発行日】2025-03-05
(54)【発明の名称】切削工具および光ファイバ母材製造方法
(51)【国際特許分類】
   B24D 7/14 20060101AFI20250226BHJP
   B24D 3/00 20060101ALI20250226BHJP
   B24D 5/14 20060101ALI20250226BHJP
   B24B 5/40 20060101ALI20250226BHJP
   C03B 37/012 20060101ALI20250226BHJP
【FI】
B24D7/14
B24D3/00 320B
B24D5/14
B24B5/40 E
C03B37/012 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021509129
(86)(22)【出願日】2020-03-17
(86)【国際出願番号】 JP2020011788
(87)【国際公開番号】W WO2020196104
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2019062449
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度 国立研究開発法人情報通信研究機構「高度通信・放送研究開発委託研究/マルチコアファイバの実用化加速に向けた研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】弁理士法人 東和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中西 哲也
(72)【発明者】
【氏名】永島 拓志
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】実公昭56-041953(JP,Y2)
【文献】特開2014-159348(JP,A)
【文献】実開平02-117861(JP,U)
【文献】仏国特許出願公開第02975027(FR,A1)
【文献】特開昭63-002826(JP,A)
【文献】特開平02-117861(JP,A)
【文献】特開2015-006725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D 7/14
B24D 3/00
B24D 5/14
B24B 5/40
C03B 37/012
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に延びた軸線回りの回転力が付与されるシャンク部と、
前記シャンク部の前方に位置してガラス体の内部に挿入されて前記ガラス体に孔を形成する切削部と、を備える切削工具であって、
前記切削部は、前記切削部の先端を含み前記長手方向に外径が一定の第1領域と、前記第1領域よりも前記シャンク部に近い領域に位置する第2領域とを有し、
前記第2領域の外径が、前記第1領域の外径よりも大きく、
前記第1領域および前記第2領域には、砥粒が固着され、
前記第2領域における砥粒の平均粒径が、前記第1領域における砥粒の平均粒径よりも小さい、切削工具。
【請求項2】
前記砥粒がダイヤモンド粒である、請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記第1領域における前記砥粒の平均粒径が100μm以上であり、前記第2領域における前記砥粒の平均粒径が100μm未満である、請求項1または請求項2に記載の切削工具。
【請求項4】
前記第2領域の外径と前記第1領域の外径との差が、10μm以上300μm以下の範囲である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項5】
前記第2領域は、前記長手方向に外径が一定である、請求項1から請求項のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項6】
中空丸棒状である、請求項1から請求項のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項7】
長手方向に延在するコアを有した光ファイバ母材を製造する方法であって、
ガラス体の軸方向の一端から他端へ向かって、請求項1から請求項のいずれか一項に記載の切削工具を使って孔を形成することによりジャケット材を作製する工程と、
前記孔にコアロッドを挿入する工程と、
前記ジャケット材を加熱して該ジャケット材と前記コアロッドとを一体化する工程とを含む、光ファイバ母材製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、切削工具および光ファイバ母材製造方法に関する。
本出願は、2019年3月28日出願の日本出願第2019-062449号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
長手方向に延在するコアを有した光ファイバ母材は、ロッドインコラプス法で製造されることがある。ロッドインコラプス法では、例えば円柱形状のガラス体に、長手方向に延在する孔を形成してジャケット材が作製される。次に、この孔にコアロッドを挿入した後、ジャケット材の外部から加熱してコアロッドとジャケット材を一体化して光ファイバ母材が製造される。
【0003】
例えば、特許文献1は、長手方向に延在する1本のコアを有する光ファイバ母材(以下、シングルコア光ファイバ母材と称する)を製造する技術を開示している。特許文献2は、複数本のコアを有する光ファイバ母材(以下、マルチコア光ファイバ母材と称する)を製造する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特開昭63-2826号公報
【文献】日本国特開昭61-201633号公報
【発明の概要】
【0005】
本開示の一態様に係る切削工具は、長手方向に延びた軸線回りの回転力が付与されるシャンク部と、前記シャンク部の前方に位置してガラス体の内部に挿入されて前記ガラス体に孔を形成する切削部と、を備える切削工具であって、前記切削部は、前記切削部の先端を含み前記長手方向に外径が一定の第1領域と、前記第1領域よりも前記シャンク部に近い領域に位置する第2領域とを有し、前記第2領域の外径が、前記第1領域の外径よりも大きく、前記第1領域および前記第2領域には、砥粒が固着され、前記第2領域における砥粒の平均粒径が、前記第1領域における砥粒の平均粒径よりも小さい。
【0006】
本開示の一態様に係る光ファイバ母材製造方法は、長手方向に延在するコアを有した光ファイバ母材を製造する方法であって、ガラス体の軸方向の一端から他端へ向かって、本開示の切削工具を使って孔を形成することによりジャケット材を作製する工程と、前記孔にコアロッドを挿入する工程と、前記ジャケット材を加熱して該ジャケット材と前記コアロッドとを一体化する工程とを含む
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、マルチコア光ファイバの一例を示す断面図である。
図2A図2Aは、本開示の一態様に係る光ファイバ母材製造方法で使用するガラス体を示す正面図である。
図2B図2Bは、本開示の一態様に係る光ファイバ母材製造方法で使用するガラス体を示す断面図である。
図3A図3Aは、本開示の一態様に係る切削工具の一例を示す側面図である。
図3B図3Bは、本開示の一態様に係る切削工具の一例を示す正面図である。
図3C図3Cは、図3Aおよび図3Bの切削工具の、砥粒が固着している切削部を拡大した斜視図である。
図4図4は、本開示の実施形態に係るジャケット材を作製する工程における、ガラス体の中心軸を含む断面図である。
図5図5は、本開示の実施形態に係る、ジャケット材の中心軸を含む断面図である。
図6図6は、本開示の実施形態に係るコアロッドを挿入する工程における、コアロッドを挿入したジャケット材の中心軸を含む断面図である。
図7図7は、本開示の実施形態の変形例に係るジャケット材を作製する工程における、ガラス体の中心軸を含む断面図である。
図8図8は、本開示の実施形態の変形例に係る、ジャケット材の中心軸を含む断面図である。
図9図9は、本開示の実施形態の変形例に係るコアロッドを挿入する工程における、コアロッドを挿入したジャケット材の中心軸を含む断面図である。
図10図10は、本開示の実施形態に係る一体化する工程を示す概念図である。
図11図11は、ジャケット材の一例を示す断面図である。
図12A図12Aは、切削工具の他の一例を示す正面図である。
図12B図12Bは、切削工具のさらに他の一例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
シングルコア光ファイバ母材を製造するためのジャケットパイプでは、孔はジャケットパイプの中心に設けられる。ジャケットパイプが外部から加熱された場合、ジャケットパイプはジャケットパイプの中心軸に対して対称な状態を保ったまま変形する。つまり、孔の内周は孔の中心軸に向かって一様に縮小し、孔の内壁がコアロッドに接触する。この孔の内周の縮小と同時に孔の内壁が平滑になる。しかし、仮に孔の内壁の粗さが十分に小さくなる前に孔の内壁がコアロッドに接触すると、孔の内壁とコアロッドとの境界部分に気泡が残ることがある。気泡が存在する光ファイバ母材を線引きすると、光ファイバの外径変動が大きくなり、光ファイバの機械強度が低下する。
【0009】
マルチコア光ファイバ母材がロッドインコラプス法で製造される場合、孔の内径とコアロッドの外径とのクリアランスが小さいと、コアの位置精度が高くなる。しかし、クリアランスが小さいと、孔の内壁の粗さが十分に小さくなる前に孔の内壁がコアロッドに接触しやすくなるので、気泡が残りやすくなる。
【0010】
マルチコア光ファイバ母材には、孔を、ジャケットパイプの中心以外に設けたものがある。ジャケットパイプが外部から加熱された場合、ジャケットパイプの中心よりもジャケットパイプの外周近傍が強く加熱される。このため、ジャケットパイプの一断面において、ジャケットパイプの中心以外にある孔の内壁の粗さを内壁全周で等しく保つのは難しい。特に、ジャケットパイプの外周近傍に設けた孔では、孔の内壁のうちジャケットパイプの中心に近い部分の内壁の粗さが十分に小さくなる前に孔の内壁がコアロッドに接触し得るので、気泡が残りやすくなる。
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
(1)長手方向に延びた軸線回りの回転力が付与されるシャンク部と、前記シャンク部の前方に位置してガラス体の内部に挿入されて前記ガラス体に孔を形成する切削部と、を備える切削工具であって、前記切削部は、前記切削部の先端を含み前記長手方向に外径が一定の第1領域と、前記第1領域よりも前記シャンク部に近い領域に位置する第2領域とを有し、前記第2領域の外径が、前記第1領域の外径よりも大きく、前記第1領域および前記第2領域には、砥粒が固着され、前記第2領域における砥粒の平均粒径が、前記第1領域における砥粒の平均粒径よりも小さい。第2領域における砥粒の粒径が、第1領域における砥粒の粒径よりも小さいので、本開示は、第1領域では孔開けの生産性を確保しつつ、第2領域では孔の内壁の粗さを小さくすることができる。よって本開示は、孔開けの生産性を損なうことなく、孔の内壁とコアロッドとの境界部分に気泡が残りにくい光ファイバ母材を得ることができる。
また、第2領域の外径が第1領域の外径よりも大きいので、第1領域が孔を加工した後に、第2領域が孔の内壁を確実に加工できる。よって本開示は、平滑な内壁を有した孔を確実に得ることができる。
【0012】
(2)本開示の切削工具の一態様では、前記砥粒がダイヤモンド粒である。ダイヤモンド粒を用いれば、平滑な内壁を有した孔がガラス体に容易に形成される。
【0013】
(3)本開示の切削工具の一態様では、前記第1領域における前記砥粒の平均粒径が100μm以上であり、前記第2領域における前記砥粒の平均粒径が100μm未満である。第1領域における砥粒の平均粒径が100μm以上であるので、本開示は、孔開けの加工速度を高速に維持できる。さらに、第2領域における砥粒の平均粒径が100μm未満なので、本開示は上記加工速度でも平滑な内壁を得られる。
【0015】
)本開示の切削工具の一態様では、前記第2領域の外径と前記第1領域の外径との差が、10μm以上300μm以下の範囲である。第2領域の外径と第1領域の外径との差が10μm以上であるので、仮に第2領域の砥粒が摩耗しても、第2領域は孔の内壁の加工を続けることができる。さらに、第2領域の外径と第1領域の外径との差が300μm以下であるので、加工時における第2領域への負荷が大きくならず、第2領域の砥粒の摩耗が低減する。
)本開示の切削工具の一態様では、前記第2領域は、前記長手方向に外径が一定である。
)本開示の切削工具の一態様では、中空丸棒状である。
【0016】
)本開示の一態様に係る光ファイバ母材製造方法は、長手方向に延在するコアを有した光ファイバ母材を製造する方法であって、当該方法は、ガラス体の軸方向の一端から他端へ向かって、本開示の切削工具を使って孔を形成することによりジャケット材を作製する工程と、前記孔にコアロッドを挿入する工程と、前記ジャケット材を加熱して該ジャケット材と前記コアロッドとを一体化する工程とを含む。第2領域における砥粒の平均粒径が、第1領域における砥粒の平均粒径よりも小さいので、本開示は、第1領域では孔開けの生産性を確保しつつ、第2領域では孔の内壁の粗さを小さくすることができる。よって本開示は、孔開けの生産性を損なうことなく、孔の内壁とコアロッドとの境界部分に気泡が残りにくい光ファイバ母材を得ることができる。そして本開示は、このように製造された光ファイバ母材を線引きすれば、光ファイバの外径変動が少なく、かつ機械強度の低下のない光ファイバを製造することができる。
【0017】
[本開示の効果]
本開示は、孔開けの生産性を損なうことなく、孔の内壁とコアロッドとの境界部分に気泡が残りにくい光ファイバ母材製造方法、切削工具を提供することを目的とする。
[本開示の実施形態の詳細]
【0018】
以下、添付図面を参照しながら、本開示による光ファイバ母材製造方法、切削工具の好適な実施の形態について説明する。
【0019】
図1は、マルチコア光ファイバ1の一例を示す断面図である。マルチコア光ファイバ1は、クラッド10内に例えば7個のコア11を有する。コア11は、マルチコア光ファイバ1の長手方向に延在する。コア11は、光ファイバ中心軸上に配置された中心コアと、光ファイバ中心軸の周囲の六角形の頂点上に配置された外周コアを含む。各コア11は、クラッド10の屈折率よりも高い屈折率を有する領域を含んでおり、光を伝搬するよう構成されている。
【0020】
光ファイバ母材製造方法の一つとしてロッドインコラプス法がある。ロッドインコラプス法は、例えば円柱形状のガラス体の軸方向の一端から他端へ向かって、孔を形成することによりジャケット材を作製する工程と、ジャケット材の孔にコアロッドを挿入する工程と、ジャケット材を加熱してジャケット材とコアロッドとを一体化する工程と、を有する。
【0021】
図2Aは、本開示の一態様に係る光ファイバ母材製造方法で使用するガラス体20の一端21から見た正面図である。図2Bは、図2AのX-X線矢視断面図である。ガラス体20は、例えばフッ素が添加されたシリカガラス、あるいは純シリカガラスであり、円柱形状である。マルチコア光ファイバ1を得るために、ロッドインコラプス法で光ファイバ母材が製造される場合、ガラス体20には、軸方向の一端21から他端22に向かう7個の孔が、ドリル状の工具で設けられる。
【0022】
図3Aから図3Cは、本開示の一態様に係る光ファイバ母材製造方法に使用される切削工具40を説明する図である。図3Aは、切削工具40の一例を示す側面図である。図3Bは、切削工具40の一例を示す正面図である。図3Cは、切削工具40の、砥粒が固着している切削部を拡大した斜視図である。切削工具40は、シャンク部41と、切削部42とを備える。シャンク部41は、例えば金属製の中空丸棒であり、長手方向に延びた軸線回りの回転力がシャンク部41に付与されるように構成されている。切削部42は、シャンク部41の前方(切削工具40の一端であって、図3Aにおいては右側)に位置しており、シャンク部41とともに回転するよう構成されている。
【0023】
切削部42は、例えば中空丸棒であり、切削部42の断面上において中心に、シャンク部41と同心の排出路50aが設けられている。切削部42の外周面は、切削工具40の一端に設けられた第1領域51と、第1領域51よりも切削工具40の中央寄りに位置する第2領域52とを有する。具体的には、第2領域52は、第1領域51よりも後方(図3Aにおいて左側)に位置する。第2領域52の前端は、例えば第1領域51の後端に連結している。第1領域51の長さL1および第2領域52の長さL2はいずれも例えば5mmである。第1領域51(先端面50を含む)および第2領域52には、砥粒(例えばダイヤモンド粒)が例えば多層の電着構造によって固着されている。
【0024】
砥粒の平均粒径は、JIS_B_4130で規定されている粒度により評価される。第1領域51におけるダイヤモンド粒の平均粒径は100μm以上(JIS_B_4130における粒度表示で#140以下)、好ましくは、150μm以上(JIS_B_4130における粒度表示で#100以下)である。第2領域52におけるダイヤモンド粒の平均粒径は、第1領域51におけるダイヤモンド粒の平均粒径よりも小さい。詳しくは、第2領域52におけるダイヤモンド粒の平均粒径は100μm未満、好ましくは、50μm以下(JIS_B_4130における粒度表示で#270以上)である。平均粒径は、例えば複数種類のふるいによって粒子を選別する方法で一般的に定められる。平均粒径105μmが粒度表示#140に、平均粒径149μmが#100に、平均粒径53μmが#270にそれぞれ相当する。
【0025】
このように、第1領域51におけるダイヤモンド粒の平均粒径が100μm以上であるので、本実施形態は、孔開けの加工速度を高速に維持できる。第1領域51におけるダイヤモンド粒の平均粒径が150μm以上であれば、本実施形態は、孔開けの加工速度をより一層大きくすることができる。さらに、第2領域52におけるダイヤモンド粒の平均粒径が100μm未満なので、本実施形態は、上記加工速度でも平滑な孔の内壁を得られる。第2領域52におけるダイヤモンド粒の平均粒径が50μm以下であれば、本実施形態は、孔の内壁をより一層滑らかにすることができる。
【0026】
切削部42に固着された砥粒は、ドレッシングによって突き出し量が調整されて切れ刃が形成される。ダイヤモンドは、合成ダイヤモンドでもよいし天然ダイヤモンドでもよい。ダイヤモンドはガラスの加工に好適であるが、本開示の砥粒には、CBN(Cubic Boron Nitride:立方晶窒化ホウ素)を用いてもよい。
【0027】
図示の例では、第1領域51と第2領域52とが連結した例を挙げて説明した。しかし、砥粒が固着しない領域を第1領域51と第2領域52の間に設けて、第1領域51と第2領域52とが互いに離して配置されてもよい。本実施形態は第1領域51と第2領域52の2つの領域には限定されず、砥粒を固着した領域が3つ以上設けられてもよい。この場合、最も後方に位置する領域における砥粒の平均粒径が最も小さい。
【0028】
ガラス体20に孔を設ける切削部42において、第2領域52の外径と第1領域51の外径は同じ大きさであってもよい。しかし、図3Cに示すように好ましくは、第2領域52の外径D2が第1領域51の外径D1よりも大きい。第1領域51が孔をガラス体20に設けた後に、第2領域がこの孔の内壁を確実に加工できるからである。これにより本実施形態は、平滑な内壁を有した孔を得ることができる。
【0029】
具体的には、第2領域52の外径D2と第1領域51の外径D1との差(D2-D1)は、10μm以上300μm以下の範囲である。第2領域52の外径D2と第1領域51の外径D1との差が10μm以上であるので、切削工具40の複数回の使用によって、仮に第2領域52のダイヤモンド粒が摩耗しても、第2領域52は孔の内壁の加工を続けることができる。加えて、第2領域52の外径D2と第1領域51の外径D1との差が300μm以下であるので、加工時における第2領域52への負荷が大きくならず、第2領域52のダイヤモンド粒の摩耗が低減する。
【0030】
ガラス体20に、図1で説明した7個のコア11と同じ位置に計7個の孔が形成される場合、切削工具40は回転駆動され、前方に配置された切削部42を先頭にして、ガラス体20の一端21から他端22へ向かってガラス体20の内部に切削工具40が挿入される。切削部42で切削されたガラス材は例えば排出路50aから後方に送られて排出される。
【0031】
図4から図6は、光ファイバ母材の製造方法における、ガラス体20およびジャケット材27の中心軸を含む断面図である。中空丸棒状の切削工具40により、ガラス体20に計7個のリング状孔28が形成される。図4は、計7個のうち、断面上の3個のリング状孔28が形成される中間工程を示す。各リング状孔28の中心には、削り残しの棒24が残っている。リング状孔28が他端22に到達すると、棒24は脱落し、リング状孔28は貫通孔29となる(図5)。貫通孔29が本開示の孔に相当する。フッ素系のガス等を用いて貫通孔29の内表面が洗浄される。
【0032】
次いで、計7本のコアロッド26が貫通孔29にそれぞれ挿入される。図6は断面上の3本のコアロッド26を示す。この場合、例えば、マルチコア光ファイバ1の中心に位置するコアロッド26は、ジャケット材27の中心軸上に配置された貫通孔29と同心に配置される。また、マルチコア光ファイバ1の外周コアに位置する複数のコアロッド26は、それぞれ対応する貫通孔29においてジャケット材27の中心軸寄りに配置される。
【0033】
なお、本開示の孔は貫通していなくてもよい。この場合、ガラス体20に、計7個のリング状有底孔23が形成される。図7は、断面上の3個のリング状有底孔23を示す。リング状有底孔23が本開示の孔に相当する。リング状有底孔23は、長手方向に沿って延びており、他端22から所定厚みを残した位置まで達している。ガラス体20内には、リング状有底孔23で囲まれた、削り残しの棒24が残っている。
【0034】
次に、ガラス体20を外部から加熱すると、棒24の底部分が軟化・溶融するので、棒24の底部分を切断すれば、ガラス体20内には、円状有底孔25が形成される(図8)。続いて、例えば揉み付けツールが用いられ、あるいは二酸化炭素レーザが照射されて、円状有底孔25の底部分の残渣が取り除かれる。その後、フッ素系のガス等を用いて円状有底孔25内が洗浄されてジャケット材27が形成される。
【0035】
次いで、計7本のコアロッド26が円状有底孔25にそれぞれ挿入される。図9は、断面上の3本のコアロッド26を示す。この場合、例えば、マルチコア光ファイバ1の中心に位置するコアロッド26は、ジャケット材27の中心軸上に配置された円状有底孔25と同心に配置される。また、マルチコア光ファイバ1の外周コアに位置する複数のコアロッド26は、それぞれ対応する円状有底孔25においてジャケット材27の中心軸寄りに配置される。
【0036】
コアロッド26は、ジャケット材27よりも屈折率が高いガラス棒であり、VAD(Vapor Phase Axial Deposition)法等の気相ガラス合成法により作製される。ジャケット材27が、フッ素が添加されたシリカガラスである場合、コアロッド26には、純シリカガラス(塩素を含んでもよい)を含む中心コアと、この中心コアの周囲を取り囲み、フッ素が添加されたシリカガラスを含む光学クラッドを含むコアロッドが用いられる。一方、ジャケット材27が純シリカガラスの場合、コアロッド26には、GeO2が添加されたシリカガラスを含む中心コアと、この中心コアの周囲を取り囲み、GeO2が添加されていない純シリカガラスを含む光学クラッドを含むコアロッドが用いられる。
【0037】
図10は、本開示の実施形態に係る一体化する工程を示す概念図である。次に、ジャケット材27が加熱されてコアロッド26とジャケット材27が一体化する。詳しくは、コアロッド26が挿入されたジャケット材27は、例えばジャケット材27の中心軸周りに回転しており、加熱源は、ジャケット材27の軸線方向に移動(図10では右から左へ移動)している。ジャケット材27が加熱されると、貫通孔29または円状有底孔25の内径は表面張力によって収縮し、ジャケット材27はコアロッド26に溶着する。
【0038】
図10のA-A’は、加熱源が通過する前の位置を示す。コアロッド26およびジャケット材27は未だ一体化していない。図10のB-B’は、加熱源の通過中の位置を示す。マルチコア光ファイバ1の外周コアに位置するコアロッド26は、ジャケット材27と既に一体化している。しかし、マルチコア光ファイバ1の中心に位置するコアロッド26は、ジャケット材27は未だ一体化していない。図10のC-C’は、加熱源が通過した後の位置を示す。すべてのコアロッド26およびジャケット材27が一体化している。つまり、図10のC-C’の位置では、図11に示すようなマルチコア光ファイバ母材3の断面構造となっており、クラッド部30とコア部31が一体になる。
【0039】
このように、ロッドインコラプス法では、ジャケット材27の外周が加熱源に近いので、ジャケット材27の外周がジャケット材27の中心よりも早く加熱されて変形が進む。このため、図10のB-B’の位置で説明したように、ジャケット材27の外周近傍に設けた貫通孔29または円状有底孔25が、ジャケット材27の中心に設けた貫通孔29または円状有底孔25よりも先に縮小する。一般的に、孔の内周の収縮とともに、穴の内壁が平滑になるが、ジャケット材27の外周近傍に設けた貫通孔29または円状有底孔25では、貫通孔29または円状有底孔25の内壁のうちジャケット材27の中心に近い部分の内壁の粗さが十分に小さくなる前に貫通孔29または円状有底孔25がコアロッド26に接触し得る。また、貫通孔29または円状有底孔25の内径とコアロッド26の外径とのクリアランスが小さい場合、図11で説明したコア部31の位置精度が高くなるが、貫通孔29または円状有底孔25の内壁の粗さが十分に小さくなる前にコアロッド26に接触しやすくなる。
【0040】
しかしながら、図3Aから図3Cで説明したように、切削工具40の第2領域52におけるダイヤモンド粒の粒径が、第1領域51におけるダイヤモンド粒の粒径よりも小さいので、第1領域51は孔開けの生産性を確保し、第2領域52は貫通孔29または円状有底孔25の内壁の粗さを小さくする。よって本実施形態は、孔開けの生産性を損なうことなく、貫通孔29または円状有底孔25の内壁とコアロッド26との境界部分に気泡が残りにくいマルチコア光ファイバ母材3を得ることができる。そして本実施形態は、このように製造されたマルチコア光ファイバ母材3を線引きすれば、外径変動が少なく、かつ機械強度の低下のないマルチコア光ファイバ1を製造することができる。
【0041】
上記実施例では、中空丸棒状の切削工具40の例を挙げて説明した。しかし、本開示はこの例に限定されない。例えば、図12A図12Bに示すような中実丸棒状の切削工具40であってもよい。図12Aに示した切削工具40は、切削部42の外周面に例えば5本の排出路50aを有している。切削部42の先端面50は例えば円錐状である。
【0042】
図12Bに示した切削工具40は、切削部42が貫通孔29または円状有底孔25よりも小径である。そして、切削部42と切削された孔とが同心ではなく、切削部42は孔の中心に対して偏心した位置を中心にして回転する。この場合、切削部42が孔よりも小径であるので、ガラス材の排出路は設けられなくてもよい。切削部42の先端面50は例えば円錐状であってもよく十字状にしてもよい。
【0043】
上記実施例では、マルチコア光ファイバ母材3の製造方法を説明したが、本開示はシングルコア光ファイバ母材を製造する場合にも適用可能である。
【0044】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した意味ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0045】
1…マルチコア光ファイバ、3…マルチコア光ファイバ母材、10…クラッド、11…コア、20…ガラス体、21…一端、22…他端、23…リング状有底孔、24…削り残しの棒、25…円状有底孔、26…コアロッド、27…ジャケット材、28…リング状孔、29…貫通孔、30…クラッド部、31…コア部、40…切削工具、41…シャンク部、42…切削部、50…先端面、50a…排出路、51…第1領域、52…第2領域。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B