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特許7639688ポリマー、感光性樹脂組成物、樹脂膜、および電子装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-25
(45)【発行日】2025-03-05
(54)【発明の名称】ポリマー、感光性樹脂組成物、樹脂膜、および電子装置
(51)【国際特許分類】
   C08F 232/00 20060101AFI20250226BHJP
   C08F 222/06 20060101ALI20250226BHJP
   C08F 8/00 20060101ALI20250226BHJP
   C08F 290/12 20060101ALI20250226BHJP
   G03F 7/038 20060101ALI20250226BHJP
【FI】
C08F232/00
C08F222/06
C08F8/00
C08F290/12
G03F7/038 501
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021548837
(86)(22)【出願日】2020-09-15
(86)【国際出願番号】 JP2020034961
(87)【国際公開番号】W WO2021060080
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2019175111
(32)【優先日】2019-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】池田 陽雄
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-520935(JP,A)
【文献】国際公開第2016/194619(WO,A1)
【文献】特表2019-503415(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
G03F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(1)および(2a)で示される構造単位を含むポリマー。
【化1】
(式(1)中、
、R、RおよびR の少なくとも1つは、炭素数1~30のパーフルオロアルキル基であり、残りが水素原子であり、nは0、1または2であり、
式(2a)中、
は、(メタ)アクリロイル基を有する炭素数1~30の有機基である。)。
【請求項2】
前記ポリマーが、式(B2)~(B6)で示される構造単位の少なくとも1つをさらに含む、請求項1に記載のポリマー。
【化2】
(式(B2)中、RおよびRは、それぞれ独立して炭素数1~30の有機基である。)
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
(式(B6)中、Rは、炭素数1~30の有機基である。)。
【請求項3】
重量平均分子量が1500以上30000以下である、請求項1または2に記載のポリマー。
【請求項4】
以下の式(1)および(2a)で示される構造単位を含むポリマーと、
架橋剤と、
感光剤と、を含む感光性樹脂組成物。
【化7】
(式(1)中、
、R、RおよびR の少なくとも1つは、炭素数1~30のパーフルオロアルキル基であり、残りが水素原子であり、nは0、1または2であり、
式(2a)中、
は、(メタ)アクリロイル基を有する炭素数1~30の有機基である。)。
【請求項5】
前記ポリマーが、式(B2)~(B6)で示される構造単位の少なくとも1つをさらに含む、請求項4に記載の感光性樹脂組成物。
【化8】
(式(B2)中、RおよびRは、それぞれ独立して炭素数1~30の有機基である。)
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
(式(B6)中、Rは、炭素数1~30の有機基である。)。
【請求項6】
前記ポリマーの重量平均分子量が1500以上30000以下である、請求項4または5に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項4~6のいずれかに記載の感光性樹脂組成物の硬化膜からなる樹脂膜。
【請求項8】
請求項に記載の樹脂膜を備える電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー、感光性樹脂組成物、樹脂膜、および電子装置に関する。より詳細には、本発明は、ポリマー、当該ポリマーを含む感光性樹脂組成物、当該感光性樹脂組成物の硬化物からなる樹脂膜、および当該樹脂膜を備える電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでのネガ型感光性樹脂組成物の分野においては、パターンの微細化に伴うレジストパターン高精度化を目的として様々な技術が開発されている。この種の技術としては、例えば、特許文献1に記載の技術が挙げられる。同文献によれば、[A]重合体および[B]酸発生体を含有する感放射線性樹脂組成物が記載されている。そして、[A]重合体が、構造単位(I)と構造単位(II)とを有することで、線幅のガタつきの小ささを示すLWR(Line Width Roughness)性能および欠陥抑制性に優れる、と記載されている(特許文献1の段落0012)。ここで、構造単位(I)はN-(t-ブチルオキシカルボニルメチル)マレイミド、N-(1-メチル-1-シクロペンチルオキシカルボニルメチル)マレイミド、または、N-(2-エチル-2-アダマンチルオキシカルボニルメチル)マレイミドに由来する構造単位であることが記載されている。また、構造単位(II)は、2-ノルボルネンに由来する構造単位であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-184458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、ネガ型感光性樹脂組成物の耐久性について検討した。その結果、上記特許文献1に記載の感放射線性樹脂組成物は、耐久性や低誘電性の点で、更なる改善の余地があることが判明した。本発明は、耐久性および低誘電性のバランスに優れた感光性樹脂組成物、およびこのような感光性樹脂組成物に用いるためのポリマー提供するものである。
【0005】
本発明者は、特定の構造を有する構造単位を有するポリマーを用いることにより、これを含む感光性樹脂組成物の硬化物が、向上した耐熱性、向上した耐溶剤性および低い誘電率を有することを見出し、本発明を完成させた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討の結果、特定の含フッ素有機基を有するポリマーを用いることにより、上記課題を解決できることを見出した。
【0007】
本発明によれば、以下の式(1)および(2a)で示される構造単位を含むポリマーが提供される。
【0008】
【化1】
(式(1)中、
、R、RおよびR の少なくとも1つは、炭素数1~30のパーフルオロアルキル基であり、残りが水素原子であり、nは0、1または2であり、
式(2a)中、
は、(メタ)アクリロイル基を有する炭素数1~30の有機基である。)。
【0009】
また、本発明によれば、
以下の式(1)および(2a)で示される構造単位を含むポリマーと、
架橋剤と、
感光剤と、を含む感光性樹脂組成物が提供される。
【0010】
【化7】
(式(1)中、
、R、RおよびR の少なくとも1つは、炭素数1~30のパーフルオロアルキル基であり、残りが水素原子であり、nは0、1または2であり、
式(2a)中、
は、(メタ)アクリロイル基を有する炭素数1~30の有機基である。)。
【0011】
また、本発明によれば、上記感光性樹脂組成物の硬化膜からなる樹脂膜が提供される。
【0012】
また、本発明によれば、上記樹脂膜を備える電子装置が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、耐熱性および耐溶剤性に優れるとともに、低誘電性の樹脂膜を製造するために好適に用いることができるポリマーが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
(ポリマーP)
本実施形態のポリマー(以下、「ポリマーP」と称する)は、以下の式(1)および(2a)で示される構造単位を含む。
【0016】
【化3】
ここで、式(1)中、
、R、RおよびRはそれぞれ独立して水素または炭素数1~30の有機基であり、nは0、1または2であり、
式(2a)中、
は、炭素数1~30の有機基であり、
、R、R、RおよびRの少なくとも1つは、炭素数1~30の含フッ素有機基である。
【0017】
ポリマーPは、上述の構造単位を含むことにより、その硬化物は、耐熱性および耐溶剤性に優れるとともに、低誘電性を備える。そのため、電子装置の樹脂膜を作製するための材料として好適に使用できる。
【0018】
ポリマーPは、式(1)で表されるノルボルネン型モノマーに由来する構造単位と、式(2a)で表される無水マレイン酸に由来する構造単位を有する。
【0019】
【化4】
【0020】
式(1)において、nは0、1または2であり、好ましくは0である。
、R、RおよびRはそれぞれ独立して水素または炭素数1~30の有機基である。
式(2a)において、Rは、炭素数1~30の有機基である。
、R、R、RおよびRの少なくとも1つは、炭素数1~30の含フッ素有機基である。
【0021】
ポリマーPの全構造単位中の、式(1)で表される構造単位の割合は、好ましくは、35モル%以上70モル%以下、より好ましくは40モル%以上60モル%以下である。
【0022】
式(1)および式(2a)におけるR、R、RおよびR、ならびにRのいずれかを構成し得る炭素数1~30の有機基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキリデン基、アリール基、アラルキル基、アルカリル基、シクロアルキル基、およびヘテロ環基が挙げられる。
アルキル基としては、たとえばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、およびデシル基が挙げられる。
アルケニル基としては、たとえばアリル基、ペンテニル基、およびビニル基が挙げられる。アルキニル基としては、エチニル基が挙げられる。
アルキリデン基としては、たとえばメチリデン基、およびエチリデン基が挙げられる。
アリール基としては、たとえばフェニル基、ナフチル基、およびアントラセニル基が挙げられる。アラルキル基としては、たとえばベンジル基、およびフェネチル基が挙げられる。
アルカリル基としては、たとえばトリル基、キシリル基が挙げられる。シクロアルキル基としては、たとえばアダマンチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、およびシクロオクチル基が挙げられる。
ヘテロ環基としては、たとえばエポキシ基、およびオキセタニル基が挙げられる。
【0023】
炭素数1~30の有機基は、その構造中に、O、N、S、PおよびSiから選択される少なくとも1つの原子を含んでいてもよい。
【0024】
一実施形態において、上記炭素数1~30の有機基は、炭素数1~15の有機基であることが好ましく、炭素数1~10の有機基であることがより好ましい。また、炭素数1~30の有機基は、炭素数1~30のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~15のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1~10のアルキル基であることがさらにより好ましい。
【0025】
ポリマーPにおいて、R、R、R、R4、およびRのうち少なくとも1つは、炭素数1~30の含フッ素有機基である。炭素数1~30の含フッ素有機基としては、炭素数1~30のフルオロアルキル基、およびエーテル性酸素原子を有する炭素数1~30のフルオロアルキル基が挙げられる。炭素数1~30のフルオロアルキル基としては、アルキル基中の1以上の水素原子が、フッ素原子により置換された有機基をいう。このようなフルオロアルキル基としては、フッ化アルキル基、およびパーフルオロアルキル基を含む。
【0026】
一実施形態において、R、R、RおよびRのいずれか1つが、炭素数1~30の含フッ素有機基、残りが水素原子である。好ましくは、R、R、RおよびRのいずれか1つが、炭素数1~30のフルオロアルキル基であり、残りが水素原子である。より好ましくは、R、R、RおよびRのいずれか1つが、炭素数1~30のパーフルオロアルキル基であり、残りが水素原子である。R、R、RおよびRのいずれか1つが、炭素数1~30の含フッ素有機基であり、残りが水素原子であることにより、このポリマーPを含む感光性樹脂組成物の成膜性を向上させることができるとともに、得られる硬化膜を低誘電性とすることができる。
【0027】
一実施形態において、Rは、炭素数1~30のフルオロアルキル基またはエーテル性酸素原子を有する炭素数1~30のフルオロアルキル基であることが好ましい。
【0028】
一実施形態において、R、R、RおよびRを構成する有機基は、酸性官能基を有さない有機基であることが好ましい。酸性有機基を有さないことにより、このポリマーPの酸価の制御を容易とすることができる。
【0029】
本実施形態のポリマーPは、式(B2)~(B6)で示される構造単位の少なくとも1つをさらに含んでもよい。
【0030】
【化5】
【0031】
【化6】
【0032】
【化7】
【0033】
【化8】
【0034】
【化9】
【0035】
ここで、式(B2)中、RおよびRは、それぞれ独立して炭素数1~30の有機基である。
式(B6)中、Rは、炭素数1~30の有機基である。
炭素数1~30の有機基は、上述の定義と同義である。
、R、Rのいずれかには光ラジカル重合開始剤により架橋する炭素-炭素二重結合を有していることが好ましい。例えば、ビニル基、ビニリデン基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基が挙げられる。
【0036】
中でも、式(B5)または式(B6)で表されるマレイミド由来の構造単位を含むことが、得られる硬化膜の耐熱性が向上されることから好ましい。R~Rを構成する有機基は、いずれもカルボキシル基などの酸性官能基を有しないものとすることが好ましい。これにより、ポリマーPにおける酸価の制御を容易にすることができる。
【0037】
本実施形態のポリマーPは、式(3)で表されるノルボルネン型モノマー(モノマーA)と、式(4)で表される無水マレイン酸(モノマーB)とを付加重合して調製することができる。本実施形態のポリマーPが、式(B5)および/または式(B6)で表される構造単位をさらに含む場合、ノルボルネン型モノマー(モノマーA)と、無水マレイン酸ならびに式(5)で表されるマレイミドおよび/またはマレイミド誘導体(モノマーB)とを付加重合して、目的のポリマーを調製することができる。
【0038】
【化10】
【0039】
【化11】
【0040】
【化12】
式(3)中、nは0、1または2であり、R、R、RおよびRはそれぞれ独立して水素または炭素数1~30の有機基である。
式(5)中、Rは、上記の定義と同様である。
【0041】
用いることができるノルボルネン型モノマーとしては、例えば、以下のノルボルネンが挙げられる。
【0042】
【化13】
【0043】
【化14】
【0044】
【化15】
【0045】
【化16】
【0046】
【化17】
【0047】
【化18】
【0048】
【化19】
【0049】
上記式(5)で示されるマレイミド誘導体としては、例えば、N-メチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-(4-アミノフェニル)マレイミド、N-ベンジルマレイミド、N-tert-ブチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N―(2―ヒドロキシエチル)マレイミド、N-メトキシカルボニルマレイミド、3-マレイミドプロピオン酸、4-マレイミド酪酸および6-マレイミドヘキサン酸が挙げられる。これらのなかでも、N-シクロヘキシルマレイミドを用いるのが好ましい。これにより、ポリマーPの硬化物の耐熱性、耐薬品性を向上させることができる。
【0050】
ポリマーPは、モノマーAと、モノマーBとの付加重合反応により合成することができる。
なお、モノマーAおよびモノマーBとして、それぞれ1種または2種以上の種類のモノマーを用いることを制限するものではない。
付加重合の方法としては限定されないが、本実施形態においては、ラジカル重合開始剤を用いたラジカル重合により共重合体を合成する。
ラジカル重合開始剤を用いた付加重合することにより、モノマーAに由来する構造単位と、モノマーBに由来する構造単位とを備え、ラジカル重合開始剤に由来する末端を備える共重合体を合成することができる。
【0051】
共重合体中のモノマーAと、モノマーBとのモル比は、1:0.5~1:2であることが好ましい。なお、上記1:0.5~1:2とは、1:0.5および1:2を含む。これらの中でも、分子構造制御性向上の観点から、モル比は1:1であることが好ましい。
【0052】
モノマーAと、モノマーBと、ラジカル重合開始剤とを溶媒に溶解し、その後、所定時間加熱することで、付加重合を進行させる。加熱温度は、例えば、50℃以上80℃以下であり、加熱時間は3時間以上20時間以下である。
【0053】
なお、付加重合においては、連鎖移動剤などの添加剤を使用してもよい。連鎖移動剤を添加することで、共重合体の末端構造を制御し、架橋剤と反応する官能基を共重合体末端に導入することが好ましい。
【0054】
ラジカル重合開始剤としては、共重合体末端の一方であるXに、架橋剤と反応する官能基を導入するものであれば限定されず、アゾ化合物または過酸化物を用いることができる。これらの中でも、アゾ化合物を用いることが好ましい。
【0055】
アゾ化合物としては、具体的には、4,4'-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、2,2'-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチル]などのカルボキシル基を有するラジカル重合開始剤;2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]などのアミノ基を有するラジカル重合開始剤;2,2'-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]などのヒドロキシ基を有するラジカル重合開始剤が挙げられる。これらの中でも、カルボキシル基を有するラジカル重合開始剤を用いることが好ましく、その中でも、4,4'-アゾビス(4-シアノ吉草酸)を用いることがさらに好ましい。これにより、得られるポリマーPの耐熱性および耐薬品性を向上することができる。
【0056】
ラジカル重合開始剤の添加量(モル数)は、モノマーAおよびモノマーBの合計モル数の1%以上10%以下とすることが好ましい。ラジカル重合開始剤の量を前記範囲内で適宜設定し、かつ、反応温度、反応時間を適宜設定することで、得られる共重合体の重量平均分子量(Mw)を調整することができる。
【0057】
モノマーAとモノマーBの付加重合反応により得られた共重合体(「ポリマー前駆体」または「開環前のポリマー」と称する)は、開環工程により、ポリマーPとなる。開環工程では、上述のようにして得られたポリマー前駆体において、無水マレイン酸に由来する構造単位のうち、一部の繰り返し単位を閉環した状態としながら、残りの繰り返し単位を開環する。これにより、共重合体中におけるカルボキシル基の量を調整することができる。すなわち、作製される共重合体における酸価の制御が可能となる。そして、酸価の制御をすることによって、ポリマーPを含む感光性樹脂組成物のアルカリ可溶性を調整することができる。
【0058】
本実施形態においては、ポリマー前駆体の無水マレイン酸由来の繰り返し単位のうち、例えば50%以上の繰り返し単位を開環せずに、前記残りの繰り返し単位の環状構造(無水環)を開環する。すなわち、共重合体の開環率は、例えば50%未満である。なかでも、共重合体の無水マレイン酸由来の環状構造の繰り返し単位の全個数のうち、10%以上30%以下の繰り返し単位を開環することが好ましい。
【0059】
ここで、無水マレイン酸由来の繰り返し単位の開環率は以下のようにして計測することができる。
開環前のポリマー(ポリマー前駆体)の酸無水物構造における(C=O)のIR吸収強度(Abs1)を測定し、開環後の酸無水物構造における(C=O)のIR吸収強度(Abs2)より以下式にて開環率を算出する。
開環率(%)=(((Abs1)-(Abs2))/(Abs1))×100
なお、内部標準物質としてアセトニトリルを用いる。
【0060】
ポリマー前駆体は、(i)塩基としての金属アルコキシド、(ii)アルコールおよび塩基としてのアルカリ金属の水酸化物、(iii)アルコールおよび第3級アミン等の有機塩基、のいずれかで処理することにより、無水マレイン酸構造単位が開環されたポリマーPとなる。具体的には、前記重合工程において、前記モノマーA、Bが重合された反応液に、上記試薬(i)または試薬(ii)を添加するとともに、メチルエチルケトン(MEK)等の有機溶媒をさらに添加し、40℃以上50℃以下で1時間以上5時間以下攪拌して、反応液L1を得る。反応液L1中では、共重合体の無水マレイン酸由来の繰り返し単位の一部の無水環が開環するとともに、開環することで形成された一部の末端がエステル化される。なお、残りの末端はエステル化されずに、金属塩構造となる。
【0061】
本実施形態において、金属アルコキシドあるいはアルカリ金属の水酸化物のモル数は、重合工程で使用した無水マレイン酸のモル数の50%以下とすることが好ましい。なかでも、金属アルコキシドあるいはアルカリ金属の水酸化物のモル数は、重合工程で使用した無水マレイン酸のモル数の40%以下、10%以上とすることが好ましく、さらには、30%以下とすることが好ましい。このようにすることで、金属アルコキシドあるいはアルカリ金属の水酸化物の量を少なくすることができ、最終的に得られるポリマーP中のアルカリ金属濃度を低減することができる。ポリマーP中のアルカリ金属濃度を低減することで、このポリマーPを使用した樹脂組成物を用いたデバイスにおける、金属イオンのマイグレートを抑制することができる。
【0062】
前述した金属アルコキシドとしては、M(OR)で示されるもの(Mは1価の金属、Rは炭素数1以上30以下の有機基である。)が好ましい。金属Mとしては、アルカリ金属が挙げられ、なかでも、取り扱い性の観点からナトリウムが好ましい。Rとしては、例えば上記式(2a)におけるRと同様のものが挙げられる。
なお、金属アルコキシドとしては、異なるものを2種以上使用してもよい。ただし、製造安定性の観点からは、1種の金属アルコキシドを使用することが好ましい。
【0063】
一方で、前述したように、ポリマー前駆体の無水マレイン酸由来の構造体を(ii)アルコールおよび塩基としてのアルカリ金属の水酸化物の存在下で開環してもよい。
アルカリ金属の水酸化物としては、取り扱い性の観点から水酸化ナトリウムが好ましい。
アルコールとしては、1価のアルコール(ROH)が好ましい。有機基であるRは、前述したものを使用できる。なお、Rは炭素数1以上30以下であることが好ましい。
【0064】
本実施形態において好ましく用いられる1価のアルコール(ROH)としては、アリルアルコール、メタリルアルコール、3-ブテン-1-オール、3-メチル-3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール、6-ヘプテン-1-オール、7-オクテン-1-オール、8-ノネン-1-オール、9-デセン-1-オール、10-ウンデセン-1-オール、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート、および1,4-シクロヘキサンジメタノールモノメタクリレート、1H,1H-トリフルオロエテノール、1H,1H-ペンタフルオロプロパノール、6-(パーフルオロエチル)ヘキサノール、1H,1H-ヘプタフルオロブタノール、2-(パーフルオロブチル)エタノール、3-パーフルオロブチル)プロパノール、6-(パーフルオロブチル)ヘキサノール、2-パーフルオロプロポキシー2,2,3,3-テトラフルオロプロパノール、2-(ペーフルオロヘキシル)エタノール、3-(パーフルオロヘキシル)プロパノール、6-(パーフルオロヘキシル)ヘキサノール、1H,1H-2,5-ジ(トリフルオロメチル)3,6-ジオキサウンデカフルオロノナノール、6-(パーフルオロ-1-メチルエチル)ヘキサノール、1H,1H,3H-テトラフルオロプロパノール、1H,1H,5H-オクタフルオロペンタノール、1H,1H,7H-ドデカフルオロヘプタノール、2H-ヘキサフルオロー2-プロパノール、1H,1H,3H-ヘキサフルオロブタノール、2,2-ビス(トリフルオロメチル)プロパノール等が挙げられるが、これらに限定されない。これらのアルコールは、1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
この開環工程で開環した無水マレイン酸由来の繰り返し単位は、以下の式(5a)で示す構造となり、カルボキシル基の塩部分を有する構造となる。
【0066】
【化20】
(式(5a)中、Rは炭素数1以上30以下の有機基である。)
【0067】
なお、(i)塩基としての金属アルコキシド、または、(ii)アルコールおよび塩基としてのアルカリ金属の水酸化物で共重合体を開環した場合、わずかではあるが下記一般式(B2)、下記式(5b)で示す構造体が形成されることがある。なお、下記一般式(B2)において、R、Rは上記Rと同じでもよい。
【0068】
【化21】
(式(B2)中、R、およびRは、それぞれ独立して炭素数1以上30以下の有機基である。)
【0069】
【化22】
【0070】
上記開環反応の後、さらにエポキシ基と二重結合基を有するモノマーを反応させて架橋性二重結合含有基を導入したポリマーPを得ることができる。本実施形態においては、エポキシ基と二重結合基を有するモノマーとして、入手容易性を鑑み、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートまたは3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタアクリレートを用いることが好ましい。また、エポキシ基とフッ素官能基を有するモノマーを同様の方法で反応させることでフッ素官能基を導入することも可能である。例えば、3-パーフルオロブチル-1,2-エポキシプロパン、3-パーフルオロヘキシル-1,2-エポキシプロパン、3-パーフルオロオクチル-1,2-エポキシプロパン等を用いることができる。ポリマーPが二重結合を有する基を備えることにより、光ラジカル重合開始剤による架橋性を向上することができ、結果として、ポリマーPの感度を向上することができる。
【0071】
次いで、反応液L1に、塩酸あるいは蟻酸等の酸性水溶液を加えることで、共重合体を酸処理して、金属イオン(Na)をプロトン(H)と置換する。
上記式(6)で示される構造単位は、それぞれ、プロトン置換によって以下の(2a)、(B4)で示される構造単位になる。
【0072】
【化23】
(式(2a)中、Rは炭素数1以上30以下の有機基である。)
【0073】
【化24】
【0074】
この開環工程(S3)では、ポリマー前駆体の無水マレイン酸由来の繰り返し単位のうち、50%以上の繰り返し単位を開環しないことが好ましい。ポリマーPでは、前述したように、無水マレイン環が開環して形成された一方の末端に、例えば、Naなどの金属が結合しているが、50%以上の繰り返し単位を開環しないことで、生成物であるポリマーP中に含まれる金属量を少なくすることができる。これにより、本実施形態で最終的に得られるポリマーP中のアルカリ金属の量を低減することができ、このポリマーPを含む感光性樹脂組成物において所望の特性を発揮させることができる。
【0075】
上記開環工程の後、得られたポリマーPを含む溶液を、水と有機溶媒(例えば、メチルエチルケトン)との混合液で洗浄して、残留した金属成分を除去してもよい。なお、ポリマーP中のアルカリ金属濃度が10ppm以下、好ましくは5ppm以下となるように洗浄工程を行うことが好ましい。
【0076】
本実施形態のポリマーPの重量平均分子量(Mw)は、適切な架橋構造を形成する観点から、1000以上20000以下の範囲であることが好ましく、1500以上15000以下であることがより好ましく、2000以上10000以下であることがさらにより好ましい。また、本実施形態のポリマーPの数平均分子量(Mn)は、適切な架橋構造を形成する観点から、500以上10000以下であることが好ましく、1000以上8000以下であることがより好ましい。さらに、ポリマーPの分子鎖毎の物性を均一にし、硬化して得られる樹脂膜の形状を良好なものにする観点から、ポリマーPの分子量分布(Mw/Mn)は、1.0以上2.5以下であることが好ましく、1.2以上2.0以下であることがより好ましい。ポリマーPの分子量は、ポリマーPの調製に用いられる上述のモノマーの種類およびその配合量、調整条件等を調整することにより制御することができる。
【0077】
本実施形態のポリマーPの二重結合当量は、500g/mol以上2500g/mol以下であることが好ましく、500g/mol以上2000g/mol以下であることがより好ましい。二重結合当量が上記範囲内であることにより、ポリマーPは、露光現像処理に供される感光性樹脂組成物に好適に用いられる。
【0078】
本実施形態のポリマーPのフッ素含有量は、25wt%以上45wt%以下であることが好ましく、30wt%以上40wt%以下であることがより好ましい。フッ素含有量が上記範囲であることにより、ポリマーPの硬化物は、優れた耐熱性と耐溶剤性を有する。ポリマーPのフッ素含有量は、ポリマーPの調製に用いられる上述のモノマーの種類およびその配合量を調整することにより制御することができる。
【0079】
本実施形態のポリマーPは、優れたアルカリ溶解性を有し、よってアルカリ水溶液を現像液として用いる露光現像処理において優れた加工性を有する。ポリマーPのアルカリ溶解速度は、例えば、10Å/秒以上2500Å/秒以下とすることができ、より好ましくは、50Å/秒以上2000Å/秒以下とすることができる。こで、アルカリ溶解速度は、ポリマーPのプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液(固形分35質量%)を、シリコンウェハ上にスピン方式で塗布し、100℃で120秒間ソフトベークして得られるポリマー膜を、23℃で2.38%のテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液に含浸させ、視覚的に当該ポリマー膜が消去するまでの時間を測定することにより算出される。
【0080】
本実施形態のポリマーPは、例えば、1.38以上1.48以下の屈折率を有し、より好ましくは、1.40以上1.46以下の屈折率を有する。上記範囲内の屈折率を有するポリマーPは、露光現像による加工性に優れるとともに、その硬化物が、電子装置の永久膜として所望の特性を備える。
【0081】
(感光性樹脂組成物)
本実施形態のポリマーPは、電子装置の樹脂膜を形成するための感光性樹脂組成物に用いられる。
本実施形態の感光性樹脂組成物は、
上記ポリマーPと、
架橋剤と、
感光剤と、を含む。
【0082】
本実施形態の感光性樹脂組成物は、上述のポリマーPを含むことにより、その硬化物が優れた耐熱性および耐溶剤性を有すると共に、低誘電性を有する。そのため、本実施形態の感光性樹脂組成物は、電子装置の永久膜を作製するための材料として好適に用いることができる。
【0083】
以下、感光性樹脂組成物に用いられる各成分について詳述する。ポリマーPについては、上述の通りである。
(架橋剤)
本実施形態の感光性樹脂組成物は、架橋剤を含む。架橋剤は、ポリマーPの活性水素と反応し得る官能基を含む化合物であれば、限定されない。このような架橋剤としては、例えば、グリシジル基、オキセタニル基およびブロックイソシアネート基から選択される少なくとも1つの官能基を有する化合物が挙げられる。架橋剤としては、グリシジル基またはオキセタニル基を有する化合物がより好ましく、グリシジル基を有する化合物がさらにより好ましい。このような架橋剤を用いることにより、適切な架橋構造を形成することができる。また、架橋剤として、ブロックイソシアネート基を有する化合物、エポキシ化合物およびオキセタン化合物から選択される1種または2種以上を併用することもできる。
【0084】
架橋剤として用いられるグリシジル基を有する化合物としては、例えば、アリルグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ビスフェノールA(又はF)のグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル、アジピン酸ジグリシジルエステル、o-フタル酸ジグリシジルエステル等のグリシジルエステル、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(3,4-エポキシシクロヘキサン)カルボキシレート、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル(3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキサン)カルボキシレート、ビス(3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、ジシクロペンタンジエンオキサイド、ビス(2,3-エポキシシクロペンチル)エーテルや、ダイセル社製のセロキサイド2021、セロキサイド2081、セロキサイド2083、セロキサイド2085、セロキサイド8000、エポリードGT401などの脂環式エポキシ、2,2'-(((((1-(4-(2-(4-(オキシラン-2-イルメトキシ)フェニル)プロパン-2-イル)フェニル)エタン-1,1-ジイル)ビス(4,1-フェニレン))ビス(オキシ))ビス(メチレン))ビス(オキシラン)(たとえば、Techmore VG3101L(プリンテック社製))、エポライト100MF(共栄社化学工業社製)、エピオールTMP(日油社製)、1,4-シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル(新日本理化社製、昭和電工社製等)などの脂肪族グリシジルエーテル、3,3',5,5'-テトラメチル-4,4'-ビス(グリシジルオキシ)-1,1'-ビフェニルなどの芳香族グリシジルエーテル、1,1,3,3,5,5-ヘキサメチル-1,5-ビス(3-(オキシラン-2-イル・メトキシ)プロピル)トリ・シロキサン(たとえば、DMS-E09(ゲレスト社製))等のエポキシ樹脂を用いることができる。
【0085】
また、たとえばLX-01(ダイソー社製)、jER1001、同1002、同1003、同1004、同1007、同1009、同1010、同828、jER825(商品名;三菱化学社製)などのビスフェノールA型エポキシ樹脂、jER807(商品名;三菱化学社製)などのビスフェノールF型エポキシ樹脂、jER152、同154(商品名;三菱化学社製)、EPPN201、同202(商品名;日本化薬社製)などのフェノールノボラック型エポキシ樹脂、EOCN102、同103S、同104S、1020、1025、1027(商品名;日本化薬社製)、jER157S70(商品名;三菱化学社製)などのクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、アラルダイトCY179、同184(商品名;ハンツマンアドバンスドマテリアル社製)、ERL-4206、4221、4234、4299(商品名;ダウケミカル社製)、エピクロン200、同400(商品名;DIC社製)、jER871、同872(商品名;三菱化学社製)などの環状脂肪族エポキシ樹脂、ポリ[(2-オキシラニル)-1,2-シクロヘキサンジオール]2-エチル-2-(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオールエーテル (3:1)等の多官能脂環式エポキシ樹脂、EHPE-3150(ダイセル社製)を使用することもできる。
【0086】
架橋剤として用いられるオキセタニル基を有する化合物としては、例えば、1,4-ビス{[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン、ビス[1-エチル(3-オキセタニル)]メチルエーテル、4,4'-ビス[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシメチル]ビフェニル、4,4'-ビス(3-エチル-3-オキセタニルメトキシ)ビフェニル、エチレングリコールビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ジエチレングリコールビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ビス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)ジフェノエート、トリメチロールプロパントリス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ペンタエリスリトールテトラキス(3-エチル-3-オキセタニルメチル)エーテル、ポリ[[3-[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ]プロピル]シラセスキオキサン]誘導体、オキセタニルシリケート、フェノールノボラック型オキセタン、1,3-ビス[(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ]ベンゼン等のオキセタン化合物が挙げられる。
【0087】
架橋剤として用いられるブロックイソシアネート基を有する化合物としては、限定されないが、例えば、多官能イソシアネートのイソシアネート基を、ブロック剤により保護した化合物である。
【0088】
上記多官能イソシアネートは、一分子中に複数個のイソシアネート基を有する有機化合物である。上記多官能イソシアネートとしては、例えば1,4-テトラメチレンジイソシアネ-ト、1,5-ペンタメチレンジイソシアネ-ト、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネ-ト、2,2,4-トリメチル-1,6-へキサメチレンジイソシアネ-ト、リジンジイソシアネ-ト、3-イソシアネ-トメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネ-ト(イソホロンジイソシアネ-ト)、1,3-ビス(イソシアネ-トメチル)-シクロヘキサン、4,4'-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネ-ト、トリレンジイソシアネ-ト、4,4'-ジフェニルメタンジイソシアネ-ト、1,5-ナフタレンジイソシアネ-ト、トリジンジイソシアネ-ト、キシリレンジイソシアネ-ト等のジイソシアネート化合物;イソシアヌレ-ト変性多官能イソシアネ-ト、ビュレット変性多官能イソシアネ-ト、ウレタン変性多官能イソシアネ-ト等の上記ジイソシアネート化合物の誘導体等から選択される1種または2種以上が挙げられる。
【0089】
上記ブロック剤としては、例えば、アルコ-ル系化合物、フェノ-ル系化合物、活性メチレン系化合物、メルカプタン系化合物、酸アミド系化合物、酸イミド系化合物、イミダゾ-ル系化合物、尿素系化合物、オキシム系化合物、アミン系化合物、イミン系化合物、重亜硫酸塩、ピリジン系化合物等から選択される一種または二種以上が挙げられる。
【0090】
具体的なブロック剤としては、メタノ-ル、エタノ-ル、プロパノ-ル、ブタノ-ル、2-エチルヘキサノ-ル、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルカルピト-ル、ベンジルアルコ-ル、シクロヘキサノ-ル等のアルコ-ル系化合物;フェノ-ル、クレゾ-ル、エチルフェノ-ル、ブチルフェノ-ル、ノニルフェノ-ル、ジノニルフェノ-ル、スチレン化フェノ-ル、ヒドロキシ安息香酸エステル等のフェノ-ル系化合物;マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン等の活性メチレン系化合物;ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン等のメルカプタン系化合物;アセトアニリド、酢酸アミド、ε-カプロラクタム、δ-バレロラクタム、γ-ブチロラクタム等の酸アミド系化合物;コハク酸イミド、マレイン酸イミド等の酸イミド系化合物;イミダゾ-ル、2-メチルイミダゾ-ル等のイミダゾ-ル系化合物;尿素、チオ尿素、エチレン尿素等の尿素系化合物;ホルムアルドオキシム、アセトアルドオキシム、アセトオキシム、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム系化合物;ジフェニルアミン、アニリン、カルバゾール等のアミン系化合物;エチレンイミン、ポリエチレンイミン等のイミン系化合物;重亜硫酸ソ-ダ等の重亜硫酸塩;2-ヒドロキシピリジン、2-ヒドロキシキノリン等のピリジン系化合物が挙げられる。
【0091】
このような架橋剤として用いられるブロックイソシアネート基を有する化合物としては、具体的には、大日本インキ化学工業社製のバーノックD-500(トリレンジイソシアネ-トブロック化体)、バーノックD-550(1,6-ヘキサメチレンジイソシアネ-トブロック化体)、バーノックD-980K(1,6-ヘキサメチレンジイソシアネ-トブロック化体);三井武田ケミカル社製のタケネートB-830(トリレンジイソシアネ-トブロック化体)、タケネートB-815N(4,4'-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)ブロック化体)、タケネートB-842N(1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンブロック化体)、タケネートB-846N(1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンブロック化体)、タケネートB-874N(イソホロンンジイソシアネ-トブロック化体)、タケネートB-882N(1,6-ヘキサメチレンジイソシアネ-トブロック化体)、タケネートB-890(キシリレンジイソシアネ-トブロック化体);タケネートB-820NP(1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンブロック化体),タケネートB-885N(1,6-ヘキサメチレンジイソシアネ-トブロック化体);旭化成社製のデュラネートMF-B60X(1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートブロック化体)、デュラネートMF-K60X(1,6-ヘキサメチレンジイソシアネートブロック化体)等が挙げられる。
【0092】
(感光剤)
感光性樹脂組成物がポジ型である場合には、感光剤として、光活性化合物を使用でき、たとえば、ジアゾキノン化合物を使用することができる。
たとえば、以下のいずれか1種以上の化合物を使用することができる。
【0093】
【化25】
【0094】
【化26】
【0095】
【化27】
(n2は、1以上、5以下の整数である。)
【0096】
【化28】
【0097】
【化29】
【0098】
【化30】
【0099】
以上の各化合物において、Qは、以下に示す構造のいずれか、あるいは、水素原子である。ただし、各化合物のQのうち、少なくとも1つは以下のいずれかである。
なかでも、感光性樹脂組成物の透明性、誘電率の観点から、Qが(a)あるいは(b)であるo-ナフトキノンジアジドスルホン酸誘導体が好ましい。
【0100】
【化31】
【0101】
なお、ポジ型の感光性樹脂組成物には、上述した光活性化合物に加えて、光あるいは熱で酸を発生する酸発生剤が含まれていてもよい。このような酸発生剤を含むことで、感光性樹脂組成物を露光現像した後、光を照射あるいは加熱することで、架橋剤の架橋反応を促進させることができる。
この場合には、酸発生剤は、架橋剤100質量部に対して、3質量部以下であることが好ましい。
光により酸を発生する光酸発生剤としては、後述するものを使用できる。
熱により酸を発生する熱酸発生剤としては、SI-45L、SI-60L、SI-80L、SI-100L、SI-110L、SI-150L(三新化学工業社製)等の芳香族スルホニウム塩が使用できる。
熱酸発生剤の含有量は、たとえば、感光性樹脂組成物の全固形分を100質量%としたとき、0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましい。
なお、本実施形態において、感光性樹脂組成物の全固形分とは、溶媒を除く成分のことを示す。
【0102】
また、感光性樹脂組成物がネガ型の場合には、感光剤として、光酸発生剤を用いることができる。光酸発生剤としては、光のエネルギーを吸収してブレンステッド酸あるいはルイス酸を生成するものであればよく、例えば、トリフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネート、トリス(4-t-ブチルフェニル)スルホニウム-トリフルオロメタンスルホネートなどのスルホニウム塩類;p-ニトロフェニルジアゾニウムヘキサフルオロホスフェートなどのジアゾニウム塩類;アンモニウム塩類;ホスホニウム塩類;ジフェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート、(トリクミル)ヨードニウム-テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートなどのヨードニウム塩類;キノンジアジド類、ビス(フェニルスルホニル)ジアゾメタンなどのジアゾメタン類;1-フェニル-1-(4-メチルフェニル)スルホニルオキシ-1-ベンゾイルメタン、N-ヒドロキシナフタルイミド-トリフルオロメタンスルホネートなどのスルホン酸エステル類;ジフェニルジスルホンなどのジスルホン類;トリス(2,4,6-トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(3,4-メチレンジオキシフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジンなどのトリアジン類などの化合物を挙げることができる。これらの光酸発生剤は、単独、または複数を組み合わせて使用することができる。
【0103】
また、感光性樹脂組成物がネガ型の場合には、第二架橋剤として、酸の作用により共重合体を架橋させるものを含んでいてもよい。この第二架橋剤は、上記光酸発生剤より発生した酸を触媒として上記共重合体を架橋するものであって、前記架橋剤に用いる化合物とは異なるものである。
たとえば、メラミン系架橋剤、尿素系架橋剤などが挙げられる。
メラミン系架橋剤としては、たとえば、ヘキサメトキシメチルメラミン、ヘキサエトキシメチルメラミン、ヘキサプロポキシメチルメラミン、ヘキサブトキシブチルメラミン等が挙げられ、なかでもヘキサメトキシメチルメラミンが好ましい。
尿素系架橋剤としては、たとえば、メチル化尿素樹脂、ビスメトキシメチル尿素、ビスエトキシメチル尿素、ビスプロポキシメチル尿素、ビスブトキシメチル尿素等が挙げられ、なかでもメチル化尿素樹脂が好ましい。
メチル化尿素樹脂の市販品として、例えば、MX-270、MX-280、MX-290(三和ケミカル社製)などが挙げられる。
【0104】
ネガ型の感光性樹脂組成物中の第二架橋剤の割合は、樹脂組成物の全固形分を100質量%としたとき、好ましくは5質量%以上40質量%以下であり、解像性の観点から、より好ましくは5質量%以上30質量%以下であり、更に好ましくは10~25質量%である。
【0105】
以上の感光性樹脂組成物において、感光性樹脂組成物がポジ型である場合には、各成分の割合はたとえば、以下のようである。
感光性樹脂組成物の全固形分を100質量%としたとき、前述した共重合体を、例えば、30質量%以上70質量%以下含有することが好ましく、なかでも、40質量%以上60質量%以下含有することが好ましい。
また、感光性樹脂組成物の全固形分を100質量%としたとき架橋剤を、例えば、15質量%以上50質量%以下含有することが好ましく、なかでも、20質量%以上50質量%以下含有することが好ましい。
さらには、感光性樹脂組成物の全固形分を100質量%としたとき、感光剤である光活性化合物を、例えば、5質量%以上40質量%以下含有することが好ましく、10質量%以上30質量%以下含有することがさらに好ましい。
【0106】
また、感光性樹脂組成物がネガ型である場合には、各成分の割合はたとえば、以下のようである。
感光性樹脂組成物の全固形分を100質量%としたとき、前述した共重合体を、例えば、30質量%以上70質量%含有することが好ましく、なかでも、40質量%以上60質量%以下含有することが好ましい。
また、感光性樹脂組成物の全固形分100質量%としたとき架橋剤(第二の架橋剤をのぞく。)を、例えば、15質量%以上50質量%以下含有することが好ましく、なかでも、20質量%以上50質量%以下含有することが好ましい。
さらには、感光性樹脂組成物の全固形分を100質量%としたとき、光酸発生剤の量は、例えば、0.1質量%以上40質量%以下であり、高解像度のパターン膜を形成することができる点から、より好ましくは1質量%以上30質量%以下である。
【0107】
感光性樹脂組成物には、さらに、溶媒、酸化防止剤、界面活性剤、密着助剤、溶解促進剤、フィラー、増感剤、ポリフェノール類等の添加剤を添加してもよい。
【0108】
(樹脂膜)
本実施形態に係る樹脂膜は、上述の感光性樹脂組成物の硬化物からなる。この樹脂膜は、優れた耐熱性を有するため、電子装置におけるレジストや永久膜として用いられる。
【0109】
本実施形態の樹脂膜をレジストとして用いる場合、レジストは、本実施形態の感光性樹脂組成物をスピンコート、ロールコート、フローコート、ディップコート、スプレーコート、ドクターコート等の方法で塗布し塗布膜を得、溶媒を除去することにより作製される。
【0110】
本実施形態の樹脂膜を永久膜として用いる場合、上述のようにして得た感光性樹脂組成物の塗布膜に対して露光および現像を行い、所望の形状にパターニングした後、熱処理等によって硬化させることにより得られる。永久膜は、例えば、電子装置の保護膜、層間膜等に用いることができる。
【0111】
本実施形態に係る電子装置は、上記樹脂膜を備える。
【0112】
本実施形態の電子装置は、上記の樹脂膜を備える。
例えば、電子装置が、半導体チップである場合、半導体チップを構成するパッシベーション膜や絶縁層が、本実施形態の感光性樹脂組成物の硬化物により形成される。
【0113】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例
【0114】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0115】
(合成例1:前駆体ポリマーAの合成)
適切な反応容器内に、5-ノナフルオロブチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エン(NBC4F9、22.9g、72.8mmol)、無水マレイン酸(MAN、7.1g、72.8mmol)、開始剤としての2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル(和光純薬工業製、商品名:V-601、3.4g、14.6mmol)およびメチルエチルケトン(MEK)9.5gを加え、撹拌・溶解させた。次いで、窒素バブリングにより系内の溶存酸素を除去したのち、加温し、内温60℃で16時間反応させた。次いで、反応混合物を室温まで冷却し、MEK32.1gを添加し希釈した。希釈後の溶液を大量のメタノールに注ぎ、ポリマーを析出させた。次いでポリマーを濾取し、さらにメタノールで洗浄した後、120℃、16時間真空乾燥させた。ポリマーの収量は25.0g、収率は83%であった。また、ポリマーは、重量平均分子量Mwが2,400であり、分散度(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)が1.69であった。
【0116】
(合成例2:前駆体ポリマーBの合成)
適切な反応容器内に、NBC4F9(22.9g、72.8mmol)、MAN(7.1g、72.8mmol)、V-601(1.7g、7.3mmol)およびMEK11.2gを加え、撹拌・溶解させた。次いで、窒素バブリングにより系内の溶存酸素を除去したのち、加温し、内温60℃で5時間反応させた。次いで、内温を80℃まで昇温し、さらに3時間反応させた。反応混合物を室温まで冷却し、大量のメタノールに注ぎ、ポリマーを析出させた。次いでポリマーを濾取し、さらにメタノールで洗浄した後、120℃、16時間真空乾燥させた。ポリマーの収量は14.9g、収率は50%であった。また、ポリマーは、Mwが4,000であり、Mw/Mnが1.50であった。
【0117】
(合成例3:前駆体ポリマーCの合成)
撹拌機,冷却管を備えた適切なサイズの反応容器に、無水マレイン酸(日本触媒株式会社製、24.3g、247.8mmol)、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-5-エン-2-カルボン酸-3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチル(NBCOOC2H4C6F13、120.0g、247.8mmol)およびジメチル2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオネート)(V-601、富士フィルム和光純薬株式会社製、7.61g、30.6mmol)を計量し、メチルエチルケトン(MEK、28.5g)に溶解させた。この溶解液に対して10分間窒素を通気して酸素を除去した後、撹拌しつつ60℃まで昇温して、2時間保持した。引き続き80℃まで昇温して3時間保持したのち、V-601(3.81g、15.3mmol)を追加してさらに3時間反応させた。この反応混合物をMEKで希釈したのち、大量のメタノールに滴下し、ポリマーを析出させた。ヌッチェを用いてろ過した後、さらにメタノールにて固体を洗浄し、真空乾燥した。得られたポリマーの重量平均分子量(Mw)は5,400、分散度(Mw/Mn)は1.72であった。
【0118】
(合成例4:前駆体ポリマーDの合成)
撹拌機、冷却管を備えた適切なサイズの反応容器に、無水マレイン酸(4.76g、48.5mmol)、5-トリデカフルオロヘキシル-2-ノルボルネン(NBC6F13、20.0g、48.5mmol)およびV-601(1.5g、6.0mmol)を計量し、MEK(4.7g)に溶解させた。この溶解液に対して10分間窒素を通気して酸素を除去した後、撹拌しつつ60℃まで昇温して、2時間保持した。引き続き80℃まで昇温して3時間保持したのち、V-601(0.74g、3.0mmol)を追加してさらに3時間反応させた。この反応混合物をMEKで希釈したのち、大量のメタノールに滴下し、ポリマーを析出させた。ヌッチェを用いてろ過した後、さらにメタノールにて固体を洗浄し、真空乾燥した。得られたポリマーの重量平均分子量(Mw)は3,700、分散度(Mw/Mn)は1.64であった。
【0119】
合成例1~4で使用した成分の配合量、ならびに得られた前駆体ポリマーの重量平均分子量および分散度を、表1に示す。
【0120】
【表1】
【0121】
(合成例5:フッ素含有ポリマーA-1の合成)
合成例1で合成した前駆体ポリマーA15.0gをMEK27.9gに溶解させた。さらに2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)3.0gとトリエチルアミン(TEA)1.5gを添加し、70℃に昇温した後6時間反応させた。次いで、メタクリル酸グリシジル(GMA)1.6gを添加し、さらに4時間反応させた。反応混合液を室温に冷却し、ギ酸にて中和した。溶液を大量の純水に注ぎ、ポリマーを析出させた。得られたポリマーを濾取し、さらに純水で洗浄した後、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)に溶解させ、減圧下で残留水分の除去・濃縮を行って固形分約35%のポリマー溶液を得た。
このようにして得られたポリマーの重量平均分子量(Mw)は2,100であり、分子量分布1.55であった。また、二重結合当量は1,700g/molであった。ポリマー固形分中のフッ素含有量は30wt%であった。
【0122】
(合成例6:フッ素含有ポリマーB-1の合成)
合成例2で合成した前駆体ポリマーB5.0gをMEK27.9gに溶解させた。さらに2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)1.0gとトリエチルアミン(TEA)0.75gを添加し、70℃に昇温した後6時間反応させた。次いで、メタクリル酸グリシジル(GMA)0.5gと3-パーフルオロブチル-1,2-エポキシプロパン(PFBEp)1.0gを添加し、さらに70℃で4時間反応させた。反応混合液を室温に冷却し、ギ酸にて中和した。溶液を大量の純水に注ぎ、ポリマーを析出させた。得られたポリマーを濾取し、さらに純水で洗浄した後、PGMEAに溶解させ、減圧下で残留水分の除去・濃縮を行って固形分約35%のポリマー溶液を得た。
このようにして得られたポリマーの重量平均分子量(Mw)は4,000であり、分子量分布1.50であった。また、二重結合当量は1,100g/molであった。ポリマー固形分中のフッ素含有量は33wt%であった。
【0123】
(合成例7:フッ素含有ポリマーC-1の合成)
撹拌機、冷却管を備えた適切なサイズの反応容器に、合成例3で合成した前駆体ポリマーC(10.0g)を計量し、MEK(10g)に溶解させた。さらにアクリル酸4-ヒドロキシブチル(4HBA、三菱ケミカル株式会社製、2.48g、17.2mmol)、トリエチルアミン(2.0g)を添加し、70℃で6時間加熱した。反応液にギ酸を加えて酸処理した後、大量の純水に滴下しポリマーを析出させた。濾取した固体にPGMEAを加えて濃縮し、ポリマーのPGMEA溶液を得た。Mwは4,900、Mw/Mnは1.81、二重結合当量は1,600g/molであった。また、ポリマー中のフッ素含有量は34wt%であった。
【0124】
(合成例8:フッ素含有ポリマーD-1の合成)
撹拌機、冷却管を備えた適切なサイズの反応容器に、合成例4で合成した前駆体ポリマーD(10.0g)を計量し、MEK(10g)に溶解させた。さらに4HBA(2.83g, 17.2mmol)、トリエチルアミン(2.0g)を添加し、70℃で6時間加熱した。反応液にギ酸を加えて酸処理した後、大量の純水に滴下しポリマーを析出させた。濾取した固体にPGMEAを加えて濃縮し、ポリマーのPGMEA溶液を得た。Mwは3,900、Mw/Mnは1.60、二重結合当量は1,400g/molであった。また、ポリマー中のフッ素含有量は39wt%であった。
【0125】
(合成例9:ポリマー1の合成)
撹拌機、冷却管を備えた適切なサイズの反応容器に、2-ノルボルネン(75wt%トルエン溶液、丸善石油化学製、125.5g、1.00mol)およびジメチル2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオネート)(V-601、和光純薬工業製、9.2g、40mmol)を計量し、メチルエチルケトン(MEK,196.1g)に溶解させた。この溶解液に対して10分間窒素を通気して酸素を除去した後、撹拌しつつ80℃まで加熱した。溶液を80℃に保持しつつ、あらかじめ調製しておいた無水マレイン酸(日本触媒製、98.1g、1.00mol)をMEK119.9gに溶解した溶液を1.5時間で滴下し、その温度でさらに8時間反応させた。この反応混合物を大量のメタノールに滴下し、ポリマーを析出させた。ヌッチェを用いてろ過した後、さらにメタノールにて固体を洗浄し、70℃で真空乾燥した。得られたポリマーの重量平均分子量(Mw)は6,900、分散度(Mw/Mn)は1.76であった。
【0126】
撹拌機,冷却管を備えた適切なサイズの反応容器に、上述の前駆体ポリマー(50.0g)を計量しMEK(90g)に溶解させた。さらにメタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA、日本触媒株式会社製、21.2g、163mmol)、トリエチルアミン(5.0g)を添加し、70℃で6時間加熱した。この反応液に対して、メタクリル酸グリシジル(GMA、11.1g、78mmol)を添加し、さらに70℃で4時間撹拌した。反応液にギ酸を加えて酸処理した後、大量の純水に滴下しポリマーを析出させた。濾取した固体を真空乾燥機にて40℃で16時間乾燥させ、ポリマーを得た。Mwは7,800、Mw/Mnは1.70であった。また、二重結合当量は540g/molであった。
【0127】
(重量平均分子量・分子量分布)
なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、および分子量分布(Mw/Mn)は、GPC測定により得られる標準ポリスチレン(PS)の検量線から求めた、ポリスチレン換算値を用いる。測定条件は、以下の通りである。
東ソー社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー装置HLC-8320GPC
カラム:東ソー社製TSK-GEL Supermultipore HZ-M
検出器:液体クロマトグラム用RI検出器
測定温度:40℃
溶媒:THF
試料濃度:2.0mg/ミリリットル
【0128】
(二重結合当量)
フッ素含有ポリマーA-1~D-1の二重結合当量を以下の方法で測定した。まず、減圧乾燥して溶媒を除去したポリマー約50mgおよび内部標準物質としてテレフタル酸ジメチル約5mgを計量し、DMSO-d6に溶解させた。この溶液について、核磁気共鳴分光装置JNM-AL300(JEOL社製)を用いて1H-NMRの測定を行った。得られたスペクトルチャートの(メタ)アクリル基に由来するシグナル(5-7ppm)と内部標準物質のフェニル基のシグナル(4H、8.1ppm)の積分比から二重結合1モル当たりのポリマー重量(g/mol、二重結合当量)を算出した。
【0129】
(フッ素含有量の測定)
フッ素含有ポリマーA-1~D-1のフッ素含有量を以下の方法で測定した。まず、減圧乾燥して溶媒を除去したポリマー約10mgを酸素と置換した密封系のフラスコ内で完全燃焼させた。生成したガスをあらかじめ添加されている過酸化水素アルカリ吸収液に捕集し50mLに定容したものを検液とした。イオンクロマト分析装置(ダイオネクス社製ICS-3000型クロマトグラフ)に検液および標準液を導入し、検量線法によりフッ化物イオンの濃度を求め、試料中に含まれるフッ素量を算出した。
【0130】
(屈折率の測定)
フッ素含有ポリマーA-1~D-1の屈折率を以下の方法で測定した。ポリマーをPGMEAに35重量%の濃度で溶解させた。得られたポリマー溶液を3インチのシリコンウェハ上にスピン方式で塗布し、100℃、120秒の条件下で熱処理を施すことにより1.0~1.5μmの薄膜を得た。プリズムカプラ(メトリコン社製MODEL2010M)を用いて、波長632.8nmにおける屈折率を測定した。
【0131】
(アルカリ溶解速度)
フッ素含有ポリマーA-1~D-1について、アルカリ溶解速度を以下のように測定した。ポリマーをPGMEAに溶解させ、固形分濃度35%の溶液を調製した。このポリマー溶液を、シリコンウェハ上にスピン方式で塗布し、これを100℃で120秒間ソフトベークして、厚みHが約2.0μmのポリマー膜を形成した。このポリマー膜を形成したシリコンウェハを、2.38%、23℃のテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液に含浸させ、視覚的にポリマー膜が消去するまでの時間Tを測定した。HおよびTより、以下の式からアルカリ溶解速度を算出した。
(アルカリ溶解速度)[Å/秒]=(膜厚H)/(ポリマー膜が消去するまでの時間T)
【0132】
合成例5~8で使用した成分の配合量、ならびに得られたフッ素含有ポリマーの重量平均分子量分布、ならびに二重結合当量、フッ素含有量、屈折率、およびアルカリ溶解速度を、表2に示す。
【0133】
【表2】
【0134】
(感光性樹脂組成物の調製)
各実施例、各比較例について、表3に示される配合量で、合成例5~9で作製したポリマー、感光剤、架橋剤、密着改善剤および界面活性剤をPGMEAおよびシクロヘキサノンに溶解させ撹拌した。撹拌後、0.2μmのフィルターで濾過して、ネガ型感光性樹脂組成物を調製した。
【0135】
表3に記載の各成分は以下のものを使用した。
(フッ素含有ポリマー)
・ポリマーA-1:合成例5で調製したフッ素含有ポリマーA-1
・ポリマーB-1:合成例6で調製したフッ素含有ポリマーB-1
・ポリマーC-1:合成例7で調製したフッ素含有ポリマーC-1
・ポリマーD-1:合成例8で調製したフッ素含有ポリマーD-1
(その他のポリマー)
・ポリマー1:合成例9で調製したポリマー1
(架橋剤)
・架橋剤1:以下の式(12)で示されるアクリル系架橋剤(ダイセルサイテック社製 DPHA)。
【0136】
【化32】
【0137】
(感光剤)
・感光剤1:以下の式(11)で示される光ラジカル重合開始剤(BASF社製 Irgacure OXE02)を用いた。
【0138】
【化33】
【0139】
(密着助剤)
・密着助剤1:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製 KBM-403)
【0140】
(界面活性剤)
界面活性剤1:メガファックF-556(DIC株式会社製)
【0141】
(溶媒)
溶媒1:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)
溶媒2:シクロヘキサノン
【0142】
上述のようにして得られたネガ型感光性樹脂組成物を、以下の項目について評価した。
【0143】
(感度の評価)
調製されたネガ型感光性樹脂組成物を、それぞれ、3インチシリコンウェハ上にスピンコーターを用いて塗布した。塗布後、ホットプレートにて100℃で2分間プリベークし、膜厚約3.0μmの塗膜(薄膜A)を得た。
この薄膜に透過率1~100%の階調を有するフォトマスクを介してキヤノン社製g+h+i線マスクアライナー(PLA-501F)にて100mJ/cmの露光量でg+h+i線を露光した。
露光後、現像液として2.38%水酸化テトラメチルアンモニウムを用いて23℃、60秒間現像を行うことによって未露光部を溶解除去し、1~100mJ/cmの各露光量で露光された薄膜(薄膜B)を得た。
【0144】
上記の手法にて得られた薄膜A、薄膜Bの膜厚から、以下の式より残膜率を算出した。
現像後残膜率(%)={(各露光量における薄膜Bの膜厚(μm))/(薄膜Aの膜厚(μm))}×100
上記の計算式で得られた現像後残膜率が95%以上となる最低露光量をそのレジストの感度とした。
【0145】
(誘電率の測定)
低抵抗シリコンウェハー(Ω<)に感光性樹脂組成物を塗布した後、100℃、120秒の条件下で熱処理を施すことにより脱溶媒を行った。次いで、キヤノン社製g+h+i線マスクアライナー(PLA-501F)にて100mJ/cmの露光量でg+h+i線を全面露光した。得られた膜に対し、オーブンで大気中230℃、60分間熱処理を行い、感光性樹脂組成物を硬化させた。このようにして、各実施例および各比較例のそれぞれについて、硬化膜を得た。この薄膜上に金電極を形成し、室温、100kHzにおける条件で、Hewlett Packard社製LCRメータ(4282A)を用いて得られた静電容量から誘電率を算出した。
【0146】
(耐薬品性の評価)
3インチシリコンウェハに感光性樹脂組成物を塗布した後、100℃、120秒の条件下で熱処理を施すことにより脱溶媒を行った。次いで、キヤノン社製g+h+i線マスクアライナー(PLA-501F)にて100mJ/cmの露光量でg+h+i線を全面露光した。得られた膜に対し、オーブンで大気中230℃、60分間熱処理を行い、感光性樹脂組成物を硬化させた。このようにして、各実施例および各比較例のそれぞれについて、硬化膜を得た。得られた硬化膜付きシリコンウェハをTOK106(東京応化工業株式会社製)に室温で5分間浸漬した後、純水で30秒間リンスした。この時、以下の演算式で定義される膜厚変化率を求め、耐薬品性の指標とした。膜厚変化率が小さい方が耐薬品性に優れている。
膜厚変化率(%)=[{(薬液浸漬後の膜厚)-(薬液浸漬前の膜厚)}/(薬液浸漬前の膜厚)]×100
【0147】
(光透過率の評価)
縦100mm、横100mmサイズのコーニング社製1737ガラス基板に感光性樹脂組成物を塗布した後、100℃、120秒の条件下で熱処理を施すことにより脱溶媒を行った。次いで、キヤノン社製g+h+i線マスクアライナー(PLA-501F)にて100mJ/cmの露光量でg+h+i線を全面露光した。得られた膜に対し、オーブンで大気中230℃、60分間熱処理を行い、感光性樹脂組成物を硬化させた。このようにして、各実施例および各比較例のそれぞれについて、硬化膜を得た。この硬化膜について光の波長400nmにおける透過率(%)を、紫外-可視光分光光度計を用いて測定し、膜厚3μmに換算した数値を透過率とした。
【0148】
(耐熱性の評価)
各実施例について、得られた感光性樹脂組成物を用いて以下のように硬化膜の重量減少率の評価を行った。
まず、3インチウェハに感光性樹脂組成物を塗布した後、100℃、120秒の条件下で熱処理を施すことにより脱溶媒を行った。次いで、キヤノン社製g+h+i線マスクアライナー(PLA-501F)にて100mJ/cmの露光量でg+h+i線を全面露光した。得られた膜に対し、オーブンで大気中230℃、60分間熱処理を行い、感光性樹脂組成物を硬化させた。このようにして、各実施例および各比較例のそれぞれについて、硬化膜を得た。
次いで、上記サンプルの重量減少率を測定した。測定は、硬化膜を5mg秤量して得られた試料に対し、熱重量/示差熱測定装置(TG/DTA)を用いて、開始温度30℃、昇温速度10℃/min、N流量200mL/minの条件下において250℃まで昇温し、250℃で60分間保持した。250℃到達時点の重量から60分経過時点までの重量変化率を重量減少率とした。
上記項目の評価結果を、表3に示す。
【0149】
【表3】
【0150】
実施例の感光性樹脂組成物の硬化物は、誘電率が低く、耐熱性および耐薬品性において優れていた。
【0151】
この出願は、2019年9月26日に出願された日本出願特願2019-175111号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。