(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-25
(45)【発行日】2025-03-05
(54)【発明の名称】方向性電磁鋼板
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20250226BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20250226BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20250226BHJP
C21D 8/12 20060101ALN20250226BHJP
C21D 9/46 20060101ALN20250226BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C22C38/60
H01F1/147 175
C21D8/12 D
C21D9/46 501A
(21)【出願番号】P 2022189574
(22)【出願日】2022-11-28
【審査請求日】2023-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2022024305
(32)【優先日】2022-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100179589
【氏名又は名称】酒匂 健吾
(72)【発明者】
【氏名】市原 義悠
(72)【発明者】
【氏名】大村 健
(72)【発明者】
【氏名】今村 猛
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-059014(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0087144(KR,A)
【文献】特表2016-532776(JP,A)
【文献】特表2020-509215(JP,A)
【文献】特開2007-002334(JP,A)
【文献】特開2004-056090(JP,A)
【文献】特開平06-212275(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/12, 9/46
H01F 1/12- 1/38, 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
方向性電磁鋼板であって、
該方向性電磁鋼板は、その一方の表面に、圧延方向を横切る線状の溶融凝固部を周期的に有し、
該方向性電磁鋼板の圧延方向断面での該溶融凝固部の表面から板厚方向への異方性エネルギーの分布において、ΔE(KJ/m
3)が負となる領域の最深位置が、該溶融凝固部の表面からの距離で4μm以上
150μm以下である、方向性電磁鋼板。
ここで、ΔEは、次式(1)により定義される。
ΔE=E
sub-E
RD ・・・(1)
式(1)中、E
RD(KJ/m
3)およびE
sub(KJ/m
3)はそれぞれ、圧延方向における異方性エネルギー、および、結晶の[001]方位を圧延方向としたときの結晶の[010]方位または[100]方位における異方性エネルギーであり、次式(2)~(4)により求める。
【数1】
【数2】
【数3】
式(2)~(4)中、σ
RD、σ
TDおよびσ
NDはそれぞれ、圧延方向、板幅方向および板厚方向の残留応力である。ε
RD、ε
TDおよびε
NDはそれぞれ、圧延方向、板幅方向および板厚方向の歪みである。
【請求項2】
前記異方性エネルギーの分布において、前記ΔE(KJ/m
3)が-2KJ/m
3以下となる領域の最深位置が、前記溶融凝固部の表面からの距離で4μm~40μmである、請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項3】
前記溶融凝固部によって画定される溝部を有する、請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項4】
前記溶融凝固部によって画定される溝部を有する、請求項2に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項5】
前記溝部の深度プロファイルにおいて、前記溝部の最深点の深さdが8.0μm未満である、請求項3に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項6】
前記溝部の深度プロファイルにおいて、前記溝部の最深点の深さdが8.0μm未満である、請求項4に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項7】
前記溝部の深度プロファイルにおいて、極小値が2つ以上存在し、
前記溝部の幅Wに対する前記溝部の最深点の深さdの比率であるd/W×100(%)が、5%以上20%未満である、請求項3~6のいずれかに記載の方向性電磁鋼板。
【請求項8】
前記溶融凝固部の圧延方向における間隔が1.0mm以上5.0mm未満である、請求項1~6のいずれかに記載の方向性電磁鋼板。
【請求項9】
前記溶融凝固部の圧延方向における間隔が1.0mm以上5.0mm未満である、請求項7に記載の方向性電磁鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向性電磁鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は、例えば、変圧器の鉄心用材料として用いられている。変圧器では、エネルギー損失を抑制することが要求される。このうち、エネルギー損失には、方向性電磁鋼板の鉄損が影響している。
【0003】
ここで、方向性電磁鋼板の鉄損は、主としてヒステリシス損と渦電流損とからなる。このうち、ヒステリシス損を改善する手法としては、GOSS方位と呼ばれる(110)[001]方位を鋼板の圧延方向に高度に配向させる手法や、鋼板中の不純物を低減する手法などが開発されている。また、渦電流損を改善する手法としては、Siの添加により鋼板の電気抵抗を増大させる手法や、鋼板の圧延方向に被膜張力を付与する手法などが開発されている。しかしながら、これらの手法では、方向性電磁鋼板の製造上の限界がある。
【0004】
そこで、方向性電磁鋼板のさらなる低鉄損化を実現するために、磁区細分化技術が開発されている。磁区細分化技術とは、以下のようにして方向性電磁鋼板の鉄損、特に渦電流損を低減させる技術である。すなわち、仕上げ焼鈍(以下、最終焼鈍ともいう)後、または、絶縁被膜の焼き付け後などに、鋼板に対して溝の形成や局所的な歪みの導入といった物理的な手段で磁束の不均一性を導入する。これにより、鋼板の圧延方向に沿って形成される180°磁区(主磁区)の幅を細分化し、方向性電磁鋼板の鉄損、特に渦電流損を低減させる。
【0005】
例えば、特許文献1には、
「片表面に線状の溝を、溝巾300μm以下、溝深さ100μm以下、圧延方向における溝中心線間間隔1mm以上とし、圧延方向との角度30゜以上として形成した一方向性電磁鋼板を巻き重ねて成る巻き鉄心にして、該線状の溝が内巻き側に面し、かつ最内側の曲げ加工部の曲率半径が30mm以下であることを特徴とする鉄損の低い変圧器用巻き鉄心。」
が開示されている。
なお、特許文献1に記載されるような鋼板の表面に溝を形成して磁区を細分化する技術は、歪み取り焼鈍を行っても磁区細分化効果が消失しないため、耐熱型磁区細分化技術とも称される。ここで、歪み取り焼鈍とは、例えば、方向性電磁鋼板を巻鉄心とするための曲げ加工などにより、当該方向性電磁鋼板に不可避的に導入されてしまう歪みを開放するための熱処理である。なお、当該歪みは、磁区細分化処理により導入される歪みとは異なり、鉄損に悪影響を及ぼすものである。
【0006】
また、特許文献2には、
「最終仕上焼鈍済の方向性けい素鋼板の表面に、収束性の高いシート状のプラズマ炎を放射して磁区の細分化を図ることを特徴とする低鉄損方向性けい素鋼板の製造方法。」
が開示されている。
なお、特許文献2に記載されるような鋼板に熱歪みを導入して磁区を細分化する技術は、歪み取り焼鈍により磁区細分化効果が消失するため、非耐熱型磁区細分化技術とも称される。
【0007】
さらに、上記した鋼板の表面に溝を形成して磁区を細分化する技術(耐熱型磁区細分化技術)として、特許文献3には、電解エッチングによって鋼板の表面に溝を形成する電解エッチング法が提案されている。特許文献4には、高出力のレーザーによって鋼板を局所的に溶解・蒸発させるレーザー法が提案されている。特許文献5には、歯車上のロールを鋼板に押し付けることで圧痕を与える歯車プレス法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特公平6-022179号
【文献】特開平7-192891号公報
【文献】特開2012-77380号公報
【文献】特開2003-129135号公報
【文献】特開昭62-086121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、近年、省エネ・環境規制の観点から、変圧器のエネルギー損失の低減に加え、変圧器の動作時の騒音を低減することも求められている。ここで、変圧器の動作時の騒音には方向性電磁鋼板の磁歪特性が影響している。そのため、さらなる低鉄損化と良好な磁歪特性とを両立した方向性電磁鋼板の開発が、極めて重要となっている。
【0010】
上記した磁区細分化技術のうち、特許文献2のような非耐熱型磁区細分化技術では、鋼板に局所的な歪みを導入することにより、渦電流損を大きく低減することができる。しかし、その反面、非耐熱型磁区細分化はかかる歪みの導入に起因したヒステリシス損の増大や、磁歪特性の劣化を招く。また、上述したように、非耐熱型磁区細分化技術を施した方向性電磁鋼板では、歪み取り焼鈍により磁区細分化効果が消失するため、その用途が制限されてしまう。
【0011】
一方、特許文献1、3~5のような耐熱型磁区細分化技術では、鋼板の圧延方向断面における溝部の面積が大きくなるほど、その効果が高くなる。しかしながら、溝を鋼板の板厚方向に深くまで形成すると、透磁率の低下などの鋼板の磁気特性の劣化を招く。また、鋼板の破断などの製造上の不利益も生じる。このように、耐熱型磁区細分化技術では、鋼板の溝の深さが制限されることとなるため、高い透磁率を維持しながら、さらなる低鉄損化を図ることが求められているのが現状である。
【0012】
本発明は、上記の現状に鑑み開発されたものであって、低鉄損であり、かつ、高い透磁率と良好な磁歪特性とを有する方向性電磁鋼板を、提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
さて、発明者らは、上記の目的を達成すべく、鋭意検討を重ねたところ、以下の知見を得た。
(a)磁区細分化技術では、圧延方向に透磁率が異なる領域を形成することにより、その領域の界面に磁極を形成する。この磁極によって増加する静磁エネルギーを低減するために、鋼板の主磁区幅が細分化される。
(b)耐熱型磁区細分化技術では、透磁率の異なる領域として溝の空隙部を利用している。この空隙部は歪み取り焼鈍を施しても変化しないため、磁区細分化効果が維持される。しかしながら、この溝の空隙部によって、鋼板全体の透磁率が低下する。
(c)一方、非耐熱磁区細分化技術では、エネルギービームの照射によって鋼板に熱歪みを導入する。この熱歪みによって発生する残留応力により、(結晶の[001]方位を圧延方向としたときの)結晶の[010]方位または[100]方位の磁化成分を有する新しい磁区(還流磁区)が形成される。ここで、結晶の[010]方位または[100]方位はそれぞれ、板幅方向と板厚方向の中間の方向(板幅方向から板厚方向側へ45°の方向)に相当する。そして、主磁区と還流磁区とでは、磁化の向きが異なるため、圧延方向の透磁率の変化が生じ、磁区細分化が起こる。この熱歪みは、歪み取り焼鈍によって解消されるため、磁区細分化効果も歪み取り焼鈍によって消失する。しかしながら、主磁区および還流磁区が、ともに方向性電磁鋼板内部に形成されるために、鋼板全体としての透磁率はほとんど変化しない。
【0014】
そこで、発明者らは、耐熱型磁区細分化技術において、歪み取り焼鈍後にも鋼板内部に残留応力を維持して還流磁区を形成することができれば、溝を鋼板の板厚方向に深くまで形成しなくとも、極めて高い鉄損の低減効果が得られ、透磁率の低下も抑制できるのではないかと考えた。
【0015】
上記の考えに基づき、発明者らがさらに検討を重ねたところ、エネルギービームによって鋼板を局所的に溶融―凝固させて、鋼板の一方の表面に圧延方向を横切る線状の溶融凝固部を形成することにより、歪み取り焼鈍後にも鋼板内部に残留応力が維持されることを知見した。
【0016】
また、発明者らは、種々の条件で、方向性電磁鋼板の一方の表面に圧延方向を横切る線状の溶融凝固部を形成した。
その結果、発明者らは、方向性電磁鋼板の圧延方向断面での溶融凝固部の表面から板厚方向への異方性エネルギーの分布において、ΔE(KJ/m
3)が負となる領域の最深位置を、溶融凝固部の表面からの距離で4μm以上とすることにより、歪み取り焼鈍に対しても、鋼板全体としての高い透磁率と良好な磁歪特性とを確保しながら、高い鉄損改善効果が得られることを見出した。
ここで、ΔEは、次式(1)により定義される。
ΔE=E
sub-E
RD ・・・(1)
式(1)中、E
RD(KJ/m
3)およびE
sub(KJ/m
3)はそれぞれ、圧延方向における異方性エネルギー、および、結晶の[001]方位を圧延方向としたときの結晶の[010]方位または[100]方位における異方性エネルギーであり、次式(2)~(4)により求める。
【数1】
【数2】
【数3】
式(2)~(4)中、σ
RD、σ
TDおよびσ
NDはそれぞれ、圧延方向、板幅方向および板厚方向の残留応力である。ε
RD、ε
TDおよびε
NDはそれぞれ、圧延方向、板幅方向および板厚方向の歪みである。
【0017】
また、発明者らはさらに検討を重ね、さらに以下の点を満足させることによって、より高い効果が得られることを知見した。
・方向性電磁鋼板の圧延方向断面での溶融凝固部の表面から板厚方向への異方性エネルギーの分布において、ΔE(KJ/m
3)が-2KJ/m
3以下となる領域の最深位置を、溶融凝固部の表面からの距離で4μm~40μmとする。
・方向性電磁鋼板の一方の表面に、溶融凝固部によって画定される溝部を形成する。
・
図1に示すような溝部の深度プロファイル(溝部の断面形状)において、溝部の最深点の深さdを8.0μm未満とする。
・上記の溝部の深度プロファイルにおいて、少なくとも2つの極小値を設け、溝部の幅Wに対する溝部の最深点の深さdの比率であるd/W×100(%)を5%以上20%未満とする。
・溶融凝固部の圧延方向における間隔を1.0mm以上5.0mm未満とする。
本発明は、上記の知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。
【0018】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.方向性電磁鋼板であって、
該方向性電磁鋼板は、その一方の表面に、圧延方向を横切る線状の溶融凝固部を周期的に有し、
該方向性電磁鋼板の圧延方向断面での該溶融凝固部の表面から板厚方向への異方性エネルギーの分布において、ΔE(KJ/m
3)が負となる領域の最深位置が、該溶融凝固部の表面からの距離で4μm以上である、方向性電磁鋼板。
ここで、ΔEは、次式(1)により定義される。
ΔE=E
sub-E
RD ・・・(1)
式(1)中、E
RD(KJ/m
3)およびE
sub(KJ/m
3)はそれぞれ、圧延方向における異方性エネルギー、および、結晶の[001]方位を圧延方向としたときの結晶の[010]方位または[100]方位における異方性エネルギーであり、次式(2)~(4)により求める。
【数4】
【数5】
【数6】
式(2)~(4)中、σ
RD、σ
TDおよびσ
NDはそれぞれ、圧延方向、板幅方向および板厚方向の残留応力である。ε
RD、ε
TDおよびε
NDはそれぞれ、圧延方向、板幅方向および板厚方向の歪みである。
【0019】
2.前記異方性エネルギーの分布において、前記ΔE(KJ/m3)が-2KJ/m3以下となる領域の最深位置が、前記溶融凝固部の表面からの距離で4μm~40μmである、前記1に記載の方向性電磁鋼板。
【0020】
3.前記溶融凝固部によって画定される溝部を有する、前記1または2に記載の方向性電磁鋼板。
【0021】
4.前記溝部の深度プロファイルにおいて、前記溝部の最深点の深さdが8.0μm未満である、前記3に記載の方向性電磁鋼板。
【0022】
5.前記溝部の深度プロファイルにおいて、極小値が2つ以上存在し、
前記溝部の幅Wに対する前記溝部の最深点の深さdの比率であるd/W×100(%)が、5%以上20%未満である、前記3または4に記載の方向性電磁鋼板。
【0023】
6.前記溶融凝固部の圧延方向における間隔が1.0mm以上5.0mm未満である、前記1~5のいずれかに記載の方向性電磁鋼板。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、低鉄損であり、かつ、高い透磁率と良好な磁歪特性とを有する方向性電磁鋼板を得ることができる。また、本発明の方向性電磁鋼板は、歪み取り焼鈍後にも低鉄損であり、かつ、高い透磁率と良好な磁歪特性とを有するので、変圧器、特に、巻鉄心変圧器などの鉄心材料として、極めて有利に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】溝部の深度プロファイル(溝部の断面形状)の一例を示す模式図である。
【
図2】異方性エネルギーの分布の一例を示す模式図である。
【
図3】ΔE<0の最深位置と鉄損W
17/50との関係を示す図である。
【
図5】ΔE≦-2の最深位置と鉄損W
17/50との関係を示す図である。
【
図7】ΔE<0の最深位置と磁歪高調波MHL
15/50との関係を示す図である。
【
図8】ΔE≦-2の最深位置と磁歪高調波MHL
15/50との関係を示す図である。
【
図9】ΔE<0の最深位置とΔB
8との関係を示す図である。
【
図10】ΔE≦-2の最深位置とΔB
8との関係を示す図である。
【
図11】溝部の最深点の深さdと鉄損W
17/50との関係を示す図である。
【
図12】溝部の最深点の深さdと磁歪高調波MHL
15/50との関係を示す図である。
【
図13】溝部の最深点の深さdとΔB
8との関係を示す図である。
【
図14】d/W×100と鉄損W
17/50との関係を示す図である。
【
図15】d/W×100と磁歪高調波MHL
15/50との関係を示す図である。
【
図16】d/W×100とΔB
8との関係を示す図である。
【
図17】溶融凝固部の間隔と鉄損W
17/50との関係を示す図である。
【
図18】溶融凝固部の間隔と磁歪高調波MHL
15/50との関係を示す図である。
【
図19】溶融凝固部の間隔とΔB
8との関係を示す図である。
【
図20】溝部の幅Wの測定方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
まず、本発明を完成させるに至った実験結果について説明する。
(実験1)
一般的な製造工程にて製造した方向性電磁鋼板(鋼帯)から、複数の同一形状の試料を切り出し、JIS C2550に記載のエプスタイン法により、磁気特性、具体的には、B8およびW17/50を測定した。B8およびW17/50の測定値はそれぞれ、1.9350Tおよび0.880W/kgであった。ここで、B8とは、磁化力:800A/mで圧延方向に磁化した時の磁束密度を意味する。W17/50とは、圧延方向に1.7T、50Hzの交番磁化を与えたときの鉄損値を意味する。ついで、試料ごとに、圧延方向を横切るように、レーザーの出力密度:0.1~1.0(J/mm2)の範囲の種々の条件でレーザーを照射し、試料を局所的に溶融―凝固させて、試料の表面に線状の溶融凝固部を形成した。なお、レーザーの出力密度は、走査速度(以下、偏向速度ともいう)v、走査直交方向のスポット径Φ、レーザー出力Pを用いて、P/(v・Φ)として表される。レーザー源としてはシングルモードファイバーレーザーを使用し、アシストガスなどは使用しなかった。また、レーザー照射は圧延方向に4.0mm間隔で行った。
【0027】
レーザー照射後、各試料に、窒素雰囲気下で800℃、3時間の条件で歪み取り焼鈍を施した。ついで、各試料について、JIS C2550に記載のエプスタイン法により、B8およびW17/50を測定した。また、各試料について、透磁率変化の指標としてΔB8(=[レーザー照射後の試料(以下、照射後試料ともいう)で測定したB8]-[レーザー照射前の試料(以下、照射前試料ともいう)で測定したB8])を算出した。
【0028】
ついで、各照射後試料について、レーザードップラー式の磁歪振動計により、1.5T、50Hzの正弦波交流磁化したときの磁歪振動波形を測定した。そして、測定した磁歪振動波形を、100Hz毎の周波数の振動加速度成分にフーリエ分解した。ついで、各周波数成分にAスケールで聴感補正した値を0~1000Hzまで積算し、その積算した値を、磁歪特性の指標となる磁歪高調波MHL15/50とした。
【0029】
ついで、各照射後試料をモールドに埋め込み、鏡面化研磨を施した後、EBSD Wilkinson法により試料の圧延方向断面での歪み分布を求めた。そして、得られた歪み分布から、上掲式(1)~(4)を用いてΔEを算出し、試料の圧延方向断面での溶融凝固部の表面から板厚方向への異方性エネルギーの分布を求めた。参考のため、
図2に、当該異方性エネルギーの分布の一例の模式図を示す。なお、
図2で例示した異方性エネルギーの分布を有する方向性電磁鋼板は、溶融凝固部によって画定される溝部を有さない、つまり、当該方向性電磁鋼板の表面は平たんとなっている。
【0030】
かくして求めた各試料の異方性エネルギーの分布から、ΔE(KJ/m3)が負となる領域の最深位置(以下、ΔE<0の最深位置ともいう)およびΔE(KJ/m3)が-2KJ/m3以下となる領域の最深位置(以下、ΔE≦-2の最深位置ともいう)を求めた。
【0031】
図3~
図10に、上記の測定結果を、ΔE<0の最深位置、および、ΔE≦-2の最深位置に対してプロットして示す。
ここで、
図3は、ΔE<0の最深位置と(照射後試料の)鉄損W
17/50との関係を示すものであり、
図4は、
図3の一部を拡大したものである。
図5は、ΔE≦-2の最深位置と(照射後試料の)鉄損W
17/50との関係を示すものであり、
図6は、
図5の一部を拡大したものである。
図7は、ΔE<0の最深位置と磁歪高調波MHL
15/50との関係を示すものである。
図8は、ΔE≦-2の最深位置と磁歪高調波MHL
15/50との関係を示すものである。
図9は、ΔE<0の最深位置とΔB
8との関係を示すものである。
図10は、ΔE≦-2の最深位置とΔB
8との関係を示すものである。
【0032】
図3および4より、ΔE<0の最深位置が4μm以上である場合に、高い鉄損改善効果が得られることがわかる。また、ΔE<0の最深位置が6μm以上である場合に、特に高い鉄損改善効果が得られることがわかる。この理由について、発明者らは、歪み取り焼鈍を施した後も、溶融凝固部の存在によって鋼板内部に応力が残留し、還流磁区が生成したためと考えている。一方、ΔE<0の最深位置が4μm未満のもの(ΔE<0の最深位置が0μm、つまり、ΔEが全て正となるものを含む)では、十分な鉄損改善効果が得られなかった。この理由について、発明者らは、還流磁区が十分には生成しなかったためと考えている。
【0033】
図5および6より、ΔE≦-2の最深位置が4μm以上である場合に、特に高い鉄損改善効果が得られることがわかる。この理由について、発明者らは、還流磁区の磁気異方性が増加したことで、励磁中の高磁場まで還流磁区が存在できるようになり、その結果、より高い磁区細分化効果を発現したものと考えている。
【0034】
図7より、ΔE<0の最深位置が深くなることに伴って、磁歪高調波MHL
15/50が増加する傾向にあることがわかる。この理由について、発明者らは、交流磁化過程において還流磁区の生成消滅が発生し、磁歪振動が複雑化したためと考えている。特に、ΔE<0の最深位置が120μmになると、急激に、磁歪高調波MHL
15/50が増加する。そのため、ΔE<0の最深位置は好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下である。
【0035】
図8より、ΔE<0の最深位置と同様、ΔE≦-2の最深位置が深くなることに伴って、磁歪高調波MHL
15/50が増加する傾向にあることがわかる。そのため、ΔE≦-2の最深位置は好ましくは80μm以下、より好ましくは40μm以下である。
【0036】
図9および10より、ΔE<0の最深位置およびΔE≦-2の最深位置が深くなっても、ΔB
8は-0.0010T未満であり、殆ど透磁率の劣化は見られなかった。この理由について、発明者らは、溶融凝固部が周辺のGOSS方位粒からエピタキシャル成長するため、溶融凝固部もGOSS方位を維持するためと考えている。
【0037】
以上の結果から、歪み取り焼鈍を施した後にも高い低鉄損、低磁歪、高透磁率を実現するためには、ΔE<0の最深位置を4μm以上とすることが必要である。また、ΔE<0の最深位置を6μm以上とすることが好適である。さらに、ΔE<0の最深位置を100μm以下とすることが好適であり、50μm以下とすることがより好適である。
さらに、より高い効果を得るためには、ΔE≦-2の最深位置を4μm以上80μm以下とすることが好適であり、4μm以上40μm以下とすることがさらに好適である。
【0038】
(実験2)
一般的な製造工程にて製造した方向性電磁鋼板(鋼帯)から、複数の同一形状の試料を切り出し、JIS C2550に記載のエプスタイン法により、B8およびW17/50を測定した。B8およびW17/50の測定値はそれぞれ、1.9350Tおよび0.880W/kgであった。ついで、試料ごとに、圧延方向を横切るように電子ビームを照射し、試料を局所的に溶融―凝固させて試料の表面に線状の溶融凝固部および溶融凝固部によって画定される溝部を形成した。電子ビームの出力密度は、ΔE≦-2の最深位置が15μmとなるように調整した。なお、電子ビームの出力密度は、偏向速度v、走査直交方向のスポット径Φ、電子ビーム出力Pを用いて、P/(v・Φ)として表される。電子銃としては、LaB6チップを陰極とした熱電子銃を使用した。電子ビーム照射は圧延方向に4.0mm間隔で行った。また、電子ビームについて、収束コイルを用いてビームスポットの形状を走査方向に長軸を持つ楕円形状とし、試料ごとに楕円率を1.1~12の範囲で種々変化させて照射を行った。
【0039】
電子ビーム照射後、各試料に、窒素雰囲気下で800℃、3時間の条件で歪み取り焼鈍を施した。ついで、各試料について、JIS C2550に記載のエプスタイン法により、B8およびW17/50を測定した。また、各試料について、透磁率変化の指標としてΔB8(=[レーザー照射後の試料(以下、照射後試料ともいう)で測定したB8]-[レーザー照射前の試料(以下、照射前試料ともいう)で測定したB8])を算出した。また、実験1と同じ要領で、各照射後試料について、磁歪特性の指標となる磁歪高調波MHL15/50を求めた。
【0040】
ついで、各照射後試料について、その表面からレーザー顕微鏡を用いて溝部の深度プロファイルを作成し、溝部の最深点の深さd(溝部の最深点と方向性電磁鋼板の表面との板厚方向における距離)を測定した。
【0041】
図11~
図13に、上記の測定結果を、溝部の最深点の深さdに対してプロットして示す。
ここで、
図11は、溝部の最深点の深さdと(照射後試料の)鉄損W
17/50との関係を示すものである。
図12は、溝部の最深点の深さdと磁歪高調波MHL
15/50との関係を示すものである。
図13は、溝部の最深点の深さdとΔB
8との関係を示すものである。
【0042】
図11より、溝部の最深点の深さdが大きくなる、つまり、溝が深くなるほど、鉄損が改善する傾向にある。特に、溝部の最深点の深さdが1.0μm以上になると高い鉄損改善効果が得られることがわかる。この理由について、発明者らは、溝部最深点の周辺の壁面に形成する自由磁極によって磁区細分化が促進されるためと考えている。
【0043】
図12より、磁歪高調波MHL
15/50は、溝部の最深点の深さdに殆ど影響を受けないことがわかる。
【0044】
図13より、溝部の最深点の深さdが大きくなる、つまり、溝が深くなるほど、透磁率変化の指標となるΔB
8が増加する傾向にある。特に、溝部の最深点の深さdが8.0μmを超えると、ΔB
8が大幅に増加する傾向にある。この理由について、発明者らは、溝が深くなって空隙部である溝部の体積が増加したことにより、透磁率が劣化したためと考えている。
【0045】
以上の結果から、歪み取り焼鈍を施した後にも高い低鉄損、低磁歪、高透磁率を実現するためには、溝部の最深点の深さdは8.0μm未満とすることが好ましい。溝部の最深点の深さdは、より好ましくは7.0μm未満である。また、溝部の最深点の深さdは、より好ましくは1.0μm以上である。
【0046】
(実験3)
一般的な製造工程にて製造した方向性電磁鋼板(鋼帯)から、複数の同一形状の試料を切り出し、JIS C2550に記載のエプスタイン法により、B8およびW17/50を測定した。B8およびW17/50の測定値はそれぞれ、1.9350Tおよび0.880W/kgであった。ついで、試料ごとに、圧延方向を横切るようにレーザーを照射し、試料を局所的に溶融―凝固させて試料の表面に線状の溶融凝固部および溶融凝固部によって画定される溝部を形成した。レーザーの出力密度は、ΔE≦-2の最深位置が15μmとなるように調整した。なお、レーザーの出力密度は、偏向速度v、走査直交方向のスポット径Φ、レーザー出力Pを用いて、P/(v・Φ)として表される。レーザー源としてはシングルモードファイバーレーザーを使用し、アシストガスなどは使用しなかった。また、レーザー照射は圧延方向に4.0mm間隔で行った。また、レーザーについて、シリンドリカルレンズを用いてレーザースポットの形状を走査方向に長軸を持つ楕円形状とし、試料ごとに楕円率を1.1~12の範囲で種々変化させて照射を行った。
【0047】
レーザー照射後、各試料に、窒素雰囲気下で800℃、3時間の条件で歪み取り焼鈍を施した。ついで、各試料について、JIS C2550に記載のエプスタイン法により、B8およびW17/50を測定した。また、各試料について、透磁率変化の指標としてΔB8(=[レーザー照射後の試料(以下、照射後試料ともいう)で測定したB8]-[レーザー照射前の試料(以下、照射前試料ともいう)で測定したB8])を算出した。また、実験1と同じ要領で、各照射後試料について、磁歪特性の指標となる磁歪高調波MHL15/50を求めた。
【0048】
ついで、各照射後試料について、その表面からレーザー顕微鏡を用いて溝部の深度プロファイルを作成し、溝部の幅W、溝部の最深点の深さd、および、極小値の数Nを測定した。なお、極大値の数はN-1となる。なお、溝部がない、つまり、鋼板の表面が平たんである場合、溝部の極小値および極大値の数はいずれも0となる。溝部の深度プロファイルの測定方法は後述する。
【0049】
図14~
図16に、上記の測定結果を、極小値の数Nごとに、d/W×100(%)に対してプロットして示す。
ここで、
図14は、d/W×100と(照射後試料の)鉄損W
17/50との関係を示すものである。
図15は、d/W×100と磁歪高調波MHL
15/50との関係を示すものである。
図16は、d/W×100とΔB
8との関係を示すものである。
【0050】
図14より、d/W×100が5%以上になると、高い鉄損改善効果が得られる傾向にある。この理由について、発明者らは、溶融凝固部によって画定される溝部の傾斜が垂直に近づく、または、深くまで溝部が形成されることにより、壁面に生成する磁極が増加するためと考えている。また、極小値の数Nが増えるほど、特には2以上になると、高い鉄損改善効果が得られることがわかる。この理由について、発明者らは、溶融部凝固部の形状が複雑化することによって、鋼板内部により大きな応力が残留し、より高磁場まで還流磁区を維持できるためと考えている。
【0051】
図15より、d/W×100が20%以上になると、磁歪高調波MHL
15/50が増加する傾向にある。特に、極小値の数Nが増えるほど、その傾向が顕著となる。この理由について、発明者らは、溶融凝固部の形状が複雑化するほど、鋼板内部により大きな応力が残留し、還流磁区がより多く生成するためと考えている。
【0052】
図16より、透磁率変化の指標となるΔB
8は、d/W×100および極小値の数Nに殆ど影響を受けないことがわかる。
【0053】
以上の結果から、歪み取り焼鈍を施した後にも高い低鉄損、低磁歪、高透磁率を実現するためには、d/W×100を5%以上20%未満とし、かつ、極小値の数Nを2つ以上とすることが好ましい。d/W×100は、より好ましくは7%以上である。d/W×100は、より好ましくは18%以下である。
【0054】
(実験4)
一般的な製造工程にて製造した方向性電磁鋼板(鋼帯)から、複数の同一形状の試料を切り出し、JIS C2550に記載のエプスタイン法により、B8およびW17/50を測定した。B8およびW17/50の測定値はそれぞれ、1.9350Tおよび0.880W/kgであった。ついで、試料ごとに、圧延方向を横切るようにレーザーを照射し、試料を局所的に溶融―凝固させて試料の表面に線状の溶融凝固部および溶融凝固部によって画定される溝部を形成した。レーザーの出力密度は、ΔE≦-2の最深位置が20μm、溝部の深度プロファイルにおける極小値の数Nが2つ、d/W×100が10%となるように調整した。なお、レーザーの出力密度は、偏向速度v、走査直交方向のスポット径Φ、レーザー出力Pを用いて、P/(v・Φ)として表される。レーザー源としてはシングルモードファイバーレーザーを使用し、アシストガスなどは使用しなかった。また、レーザー照射の圧延方向の間隔は、試料ごとに、0.5~7.0mmの範囲で種々変化させて行った。また、レーザーについて、回折光学素子を用いてレーザースポットの形状を走査方向が延伸方向となる線分形状として、圧延方向のスポット幅Lwに対する線分長さLlの比であるLl/Lwを1.1~6の範囲で種々変化させて照射を行った。
【0055】
レーザー照射後、各試料に、窒素雰囲気下で800℃、3時間の条件で歪み取り焼鈍を施した。ついで、各試料について、JIS C2550に記載のエプスタイン法により、B8およびW17/50を測定した。また、各試料について、透磁率変化の指標としてΔB8(=[レーザー照射後の試料(以下、照射後試料ともいう)で測定したB8]-[レーザー照射前の試料(以下、照射前試料ともいう)で測定したB8])を算出した。また、実験1と同じ要領で、各照射後試料について、磁歪特性の指標となる磁歪高調波MHL15/50を求めた。
【0056】
図17~
図19に、上記の測定結果を、レーザー照射の圧延方向の間隔、つまり、溶融凝固部の圧延方向における間隔(以下、溶融凝固部の間隔ともいう)に対してプロットして示す。
ここで、
図17は、溶融凝固部の間隔と(照射後試料の)鉄損W
17/50との関係を示すものである。
図18は、溶融凝固部の間隔と磁歪高調波MHL
15/50との関係を示すものである。
図19は、溶融凝固部の間隔とΔB
8との関係を示すものである。
【0057】
図17より、溶融凝固部の間隔が小さくなるほど、高い鉄損改善効果が得られる傾向にある。この理由について、発明者らは、溶融凝固部の間隔が小さくなることによって溶融凝固部、ひいては、還流磁区と主磁区の界面の面積が増加し、磁極の総量が増加するためと考えている。
【0058】
図18より、溶融凝固部の間隔が小さくなるほど、磁歪高調波MHL
15/50が増加する傾向にある。この理由について、発明者らは、還流磁区の総量が増加することによって、磁歪振動がより複雑化するためと考えている。
【0059】
図19より、透磁率変化の指標となるΔB
8は、溶融凝固部の間隔に殆ど影響を受けないことがわかる。
【0060】
以上の結果から、歪み取り焼鈍を施した後にも高い低鉄損、低磁歪、高透磁率を実現するためには、溶融凝固部の間隔を1.0mm以上5.0mm未満とすることが好ましい。溶融凝固部の間隔は、より好ましくは2.0mm以上である。溶融凝固部の間隔は、より好ましくは4.0mm以下である。
【0061】
つぎに、上記の実験結果の基づき完成させた本発明の一実施形態に従う方向性電磁鋼板について説明する。
本発明の一実施形態に従う方向性電磁鋼板は、その一方の表面に周期的に圧延方向を横切る線状の溶融凝固部を有し、
該方向性電磁鋼板の圧延方向断面での該溶融凝固部の表面から板厚方向への異方性エネルギーの分布において、ΔE(KJ/m
3)が負となる領域の最深位置が、該溶融凝固部の表面からの距離で4μm以上である、というものである。
ここで、ΔEは、次式(1)により定義される。
ΔE=E
sub-E
RD ・・・(1)
式(1)中、E
RD(KJ/m
3)およびE
sub(KJ/m
3)はそれぞれ、圧延方向における異方性エネルギー、および、結晶の[001]方位を圧延方向としたときの結晶の[010]方位または[100]方位における異方性エネルギーであり、次式(2)~(4)により求める。
【数7】
【数8】
【数9】
式(2)~(4)中、σ
RD、σ
TDおよびσ
NDはそれぞれ、圧延方向、板幅方向および板厚方向の残留応力である。ε
RD、ε
TDおよびε
NDはそれぞれ、圧延方向、板幅方向および板厚方向の歪みである。
なお、方向性電磁鋼板の圧延方向断面における異方性エネルギーの分布などの測定、および、後述する溝部の形状(深度プロファイル)に係る測定は、板幅中心位置で行えばよく、特に断りがなければ、板幅中心位置で測定したものである。
【0062】
まず、本発明の一実施形態に従う方向性電磁鋼板は、その一方の表面に圧延方向を横切る線状の溶融凝固部を有することが重要である。ここで、溶融凝固部とは、方向性電磁鋼板の母材が、熱により溶融したのち、冷却されて凝固した領域である。また、通常、溶融凝固部に隣接して熱影響部が形成される。なお、溶融凝固部は、以下のようにして画定する。すなわち、方向性電磁鋼板の圧延方向断面が切断面となるように、方向性電磁鋼板を切断する。ついで、切断面に無歪み研磨を施す。ついで、当該研磨面について、EBSD(Electron BackScatter Diffractoin)により結晶方位差を解析し、KAM(Karnel Average Misorientation)値の測定を行う。そして、KAM値が3.0°以上の領域を溶融凝固部、後述するEBSD Wilkinson法で解析したひずみ分布において弾性ひずみが残留する領域でかつKAM値が3.0°未満の領域を熱影響部、その他の領域(弾性ひずみが残留しない領域でかつKAM値が3.0°未満の領域)を母材部とする。
【0063】
なお、特許文献2に記載されるよう非耐熱型磁区細分化技術では、歪み取り焼鈍によって非耐熱型磁区細分化により鋼板内部に導入された熱歪み、ひいては当該熱歪みによる鋼板内部の残留応力が解放される。これに対し、本発明の一実施形態に従う方向性電磁鋼板では、歪み取り焼鈍を行っても、溶融凝固部により生じる鋼板内部の残留応力が維持される。
この理由について、発明者らは次のように考えている。
すなわち、鋼板を局所的に加熱して溶融させた場合、溶融金属の状態から急激に冷却されて凝固する。この過程を経ることによって、溶融部の相変態によるひずみが十分に解消される前に凝固が完了したためと推定している。特に、溶融凝固部が、該溶融凝固部によって画定される溝部の深度プロファイルにおいて複数の極小値を持つような複雑な形状を取ることにより、こうした残留ひずみが大きくなるものと考えている。
【0064】
そして、本発明の一実施形態に従う方向性電磁鋼板では、ΔE<0の最深位置を、溶融凝固部の表面からの(板厚方向での)距離で4μm以上とする、換言すれば、ΔEが負となる領域が、溶融凝固部の表面から4μm以上の深さまで延在することが必要である。
【0065】
ΔE<0の最深位置:溶融凝固部の表面からの距離で4μm以上
上述した実験結果より、ΔE<0の最深位置は、溶融凝固部の表面からの距離で4μm以上とすることが必要である。ΔE<0の最深位置の好適範囲は、上述した実験結果に示したとおりである。
【0066】
また、ΔE≦-2の最深位置の好適範囲も、上述した実験結果に示したとおりである。なお、ΔE≦-2の最深位置は、溶融凝固部の表面からの(板厚方向での)距離で4μm~40μmとすることが最も好ましい。
【0067】
ここで、ΔE<0の最深位置およびΔE≦-2の最深位置は、方向性電磁鋼板の圧延方向断面での溶融凝固部の表面から板厚方向への異方性エネルギーの分布から求める。異方性エネルギーの分布における各位置での異方性エネルギーは、基本的に1μmピッチで算出する。ただし、一定の傾向が把握できる領域についてはより大きなピッチ、例えば、5~10μmピッチで、異方性エネルギー算出してもよい。
【0068】
例えば、異方性エネルギーの分布において、溶融凝固部の表面から深さ10μmの位置までのΔEがいずれも負で、深さ11μmの位置でのΔEが正である場合、ΔE<0の最深位置は10μmとなる。同様に、溶融凝固部の表面から深さ10μmの位置までのΔEがいずれも-2KJ/m3以下で、深さ11μmの位置でのΔEが-1KJ/m3である場合、ΔE≦-2の最深位置は10μmとなる。
【0069】
また、方向性電磁鋼板の圧延方向断面での該溶融凝固部の表面から板厚方向への異方性エネルギーの分布(種々の深さ位置でのΔE)は、方向性電磁鋼板の圧延方向断面での溶融凝固部の表面から板厚方向への歪み分布(種々の深さ位置でのεRD、εTDおよびεND)から上掲式(1)~(4)を用いて作成する。また、方向性電磁鋼板の圧延方向断面での溶融凝固部の表面から板厚方向への歪み分布(種々の深さ位置でのεRD、εTDおよびεND)は、EBSD Wilkinson法により求める。EBSD Wilkinson法では、方向性電磁鋼板の圧延方向断面に電子線を照射し、測定点毎に菊池パターンを取得する。そして、無歪み点を参照点として、CrossCourtなどの解析ソフトを使用して、各測定点における菊池パターンの変形量から歪み量を算出する。なお、溶融凝固部によって画定される溝部が存在する場合には、圧延方向断面での溝部の最深点から板厚方向への歪み分布を測定し、異方性エネルギーの分布を作成すればよい。溝部が存在しない(鋼板表面が平たんである)場合には、圧延方向断面での溶融凝固部の表面の幅中心部から板厚方向への歪み分布を測定し、異方性エネルギーの分布を作成すればよい。
【0070】
また、本発明の一実施形態に従う方向性電磁鋼板は、上記の溶融凝固部によって画定される溝部を有することが好ましい。なお、
図1のように、溝部の深度プロファイルにおいて、2つの極小値が存在する場合にも、1の溶融凝固部によって溝が画定される(溝の壁面、底部(谷部)および山部が1の溶融凝固部によって構成される)場合には、1つの溝部として捉えるものとする。
【0071】
ここで、溝部の形状は、溝部の深度プロファイルにおいて、溝部の最深点の深さdが8μm未満であることが好ましい。その理由は、上述した実験結果に示したとおりである。また、溝部の最深点の深さdのより好適な範囲も、上述した実験結果に示したとおりである。
【0072】
また、溝部の深度プロファイルにおいて、極小値が2つ以上存在し、溝部の幅Wに対する溝部の最深点の深さdの比率であるd/W×100(%)が5%以上20%未満であることが好ましい。その理由は、上述した実験結果に示したとおりである。また、極小値の数Nおよびd/W×100(%)のより好適な範囲も、上述した実験結果に示したとおりである。
【0073】
ここで、溝部の深度プロファイルは、以下のようにして作成する。
すなわち、レーザー顕微鏡を用いて、方向性電磁鋼板の鋼板表面を観察し、溶融凝固部の延伸方向に垂直な方向に沿って溝部の深さを1μmピッチで連続的に測定する。そして、板厚方向において、溝部(溶融凝固部)が存在する側を+、反対側を-、鋼板表面レベルを0として、測定した溝部の深さを3点移動平均法により平滑化(スムージング)してからプロットし、溝部の深度プロファイルを作成する。そして、作成した溝部の深度プロファイルから、極小値および極大値を取る点を確定し、極小値および極大値を取る点の数を求める。また、溝部の深度プロファイルにおいて、最小値を取る点の鋼板表面からの距離を、溝部の最深点の深さdとする。
【0074】
加えて、溝部の幅Wは、
図20に示すように、鋼板表面の位置レベルにおける溶融凝固部の延伸垂直方向での溝端部間の距離として、測定する。なお、
図20は、溶融凝固部(溝部)の断面形状の一例を示す模式図であり、紙面に垂直な方向は溶融凝固部(溝部)の延伸方向である。
【0075】
なお、溝部の深度プロファイルの極大値は、溶融凝固部が鋼板表面から突出しない、つまり、0μm未満であることが好ましい。この理由は、溶融凝固部が鋼板表面よりも板厚方向の外側へ突出すると、変圧器鉄心として方向性電磁鋼板を積層した際に、占積率の低下や、積層時の上面にある鋼板に対して歪みが導入され、鉄損・騒音の劣化を招くためである。また、溝部の深度プロファイルの極大値は、好ましくは-d(μm)超、より好ましくは-d/2(μm)以上である。
【0076】
さらに、溶融凝固部の間隔は、1.0mm以上5.0mm未満が好適である。その理由は、上述した実験結果に示したとおりである。また、溶融凝固部の間隔のより好適な範囲も、上述した実験結果に示したとおりである。
【0077】
ここで、溶融凝固部の間隔とは、圧延方向における溶融凝固部の中心間距離である。
【0078】
また、溶融凝固部の延伸方向は、板幅方向(圧延直角な方向)から傾くほど、還流磁区と主磁区の界面に生じる磁極が減少し、磁区細分化効果は劣化する傾向にある。したがって、溶融凝固部の延伸方向と板幅方向の成す角は±30°以内とすることが好ましい。
【0079】
また、本発明の一実施形態に従う方向性電磁鋼板の成分組成は特に限定されるものではないが、例えば、好適成分組成として、
C:50質量ppm以下、
Si:2.0~8.0質量%、
Mn:0.005~1.0質量%、
Al:0.065質量%以下、
N:0.0120質量%以下、
S:0.030質量%以下および
Se:0.030質量%以下
であり、
任意に、
Ni:1.50質量%以下、Sn:1.50質量%以下、Sb:1.50質量%以下、Cu:3.0質量%以下、P:0.50質量%以下、Mo:0.10質量%以下、および、Cr:1.50質量%以下のうちから選ばれる1種以上を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物である成分組成を例示できる。以下、それぞれの元素の好適な含有量について、説明する。
【0080】
C:50質量ppm以下
Cは、熱延板組織の改善のためにスラブに含有させることができる。ただし、製造工程中に磁気時効の発生を回避するため、脱炭焼鈍により、スラブに含有させたC含有量は好ましくは50質量ppm以下にまで低減され、最終製品である方向性電磁鋼板のC含有量もこれと同等となる。よって、C含有量は50質量ppm以下が好ましい。なお、C含有量の下限は特に限定されず、0質量ppmであってもよい。
【0081】
Si:2.0~8.0質量%
Siは、鋼の電気抵抗を増大させ鉄損を改善するのに有効な元素である。そのため、Si含有量が2.0質量%以上とすることが好ましい。ただし、Si含有量が8.0質量%を超えると、加工性および通板性の劣化や、磁束密度の低下を招くおそれがある。そのため、Si含有量は2.0~8.0質量%の範囲とすることが好ましい。
【0082】
Mn:0.005~1.0質量%
Mnは、熱間加工性を向上させるうえで有用な元素である。そのため、Mn含有量は0.005質量%以上とすることが好ましい。一方、Mn含有量が1.0質量%を超えると、磁束密度の低下を招くおそれがある。そのため、Mn含有量は0.005~1.0質量%の範囲とすることが好ましい。
【0083】
Al:0.065質量%以下、N:0.0120質量%以下、S:0.030質量%以下およびSe:0.030質量%以下
後述するように、方向性電磁鋼板のスラブの成分組成は、インヒビターを利用する成分組成であっても、インヒビターを利用しない成分組成であってもよいが、いずれの成分組成であっても、最終製品である方向性電磁鋼板では、Al:0.065質量%以下、N:0.0120質量%以下、S:0.030質量%以下およびSe:0.030質量%以下とすることが好ましい。また、インヒビターを利用する成分組成であっても、最終焼鈍において純化が行われる場合、インヒビター成分は除去される。よって、これらの元素の含有量はそれぞれ、より好適にはAl:0.010質量%以下、N:0.0050質量%以下、S:0.0050質量%以下およびSe:0.0050質量%以下である。なお、これらの元素の含有量の下限は特に限定されず、0質量%であってもよい。
【0084】
任意添加成分として、Ni:1.50質量%以下、Sn:1.50質量%以下、Sb:1.50質量%以下、Cu:3.0質量%以下、P:0.50質量%以下、Mo:0.10質量%以下、および、Cr:1.50質量%以下のうちから選ばれる1種以上
Niは、熱延板組織を改善して磁気特性を向上させるために有効な元素である。そのため、Niを含有させる場合には、その含有量を0.03質量%以上とすることが好ましい。ただし、Ni含有量が1.50質量%を超えると、二次再結晶が不安定となり磁気特性が劣化するおそれがある。そのため、Niを含有させる場合、その含有量は1.50質量%以下が好ましい。
【0085】
また、Sn、Sb、Cu、P、MoおよびCrも磁気特性を向上させる元素である。そのため、これらの元素を含有させる場合には、Sn:0.01質量%以上、Sb:0.005質量%以上、Cu:0.03質量%以上、P:0.03質量%以上、Mo:0.005質量%以上、および、Cr:0.03質量%以上とすることが好ましい。ただし、Sn:1.50質量%超、Sb:1.50質量%超、Cu:3.0質量%超、P:0.50質量%超、Mo:0.10質量%超、および、Cr:1.50質量%超になると、二次再結晶粒の成長が抑制されるため、磁気特性が劣化するおそれがある。そのため、これらの元素を含有させる場合、Sn:1.50質量%以下、Sb:1.50質量%以下、Cu:3.0質量%以下、P:0.50質量%以下、Mo:0.10質量%以下、および、Cr:1.50質量%以下が好ましい。
【0086】
上記以外の元素は、Fe(鉄)および不可避的不純物である。
【0087】
なお、本発明の一実施形態に従う方向性電磁鋼板の板厚は、特に限定されないが、好ましくは0.15mm以上0.30mm以下である。
【0088】
また、本発明の一実施形態に従う方向性電磁鋼板でいう「低鉄損であり、かつ、高い透磁率と良好な磁歪特性とを有する」とは、W17/50、ΔB8およびMHL15/50がそれぞれ、後述する実施例の合格基準を同時に満足することを意味する。
【0089】
つぎに、本発明の一実施形態に従う方向性電磁鋼板を製造するための方法の例を、説明する。
【0090】
方向性電磁鋼板の鋼素材(スラブ)に、熱間圧延を施して熱延鋼帯とする。ついで、熱延鋼帯に、熱延板焼鈍を施す。ついで、熱延鋼帯に1回または2回以上の冷間圧延を施して、最終板厚の冷延鋼帯(以下、鋼帯ともいう)に仕上げる。ついで、鋼帯に、脱炭焼鈍を施し、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布する。ついで、鋼帯をコイル状に巻き取り、二次再結晶およびフォルステライト被膜の形成を目的とした最終焼鈍を施す。最終焼鈍後の鋼帯に、平坦化焼鈍を施した後、リン酸マグネシウム系の張力被膜を形成して製品となる鋼帯、さらには方向性電磁鋼板とする。なお、熱間圧延、熱延板焼鈍、冷間圧延、脱炭焼鈍、最終焼鈍および平坦化焼鈍などの条件については特に限定されず、常法に従えばよい。
【0091】
また、方向性電磁鋼板の鋼素材(スラブ)の成分組成は二次再結晶が生じる成分組成であれば、特に限定されるものではないが、上述した方向性電磁鋼板の好適成分組成が得られる成分組成とすることが好適である。
例えば、
C:0.08質量%以下、
Si:2.0~8.0質量%、
Mn:0.005~1.0質量%
Al:0.065質量%以下、
N:0.0120質量%以下、
S:0.030質量%以下および
Se:0.030質量%以下
であり、
任意に、
Ni:1.50質量%以下、Sn:1.50質量%以下、Sb:1.50質量%以下、Cu:3.0質量%以下、P:0.50質量%以下、Mo:0.10質量%以下、および、Cr:1.50質量%以下のうちから選ばれる1種以上を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物である成分組成を例示できる。
【0092】
また、上記の成分組成において、インヒビターを利用する場合、例えば、AlN系インヒビターを利用する場合であればAlおよびNを含有させればよく、AlおよびNの好適含有量はそれぞれ以下のとおりである。
Al:0.010~0.065質量%
N:0.0050~0.0120質量%
また、MnS・MnSe系インヒビターを利用する場合であれば、上記のMnに加え、Seおよび/またはSを含有させればよく、SおよびSeの好適含有量はそれぞれ以下のとおりである。
S:0.005~0.030質量%
Se:0.005~0.030質量%
なお、AlN系インヒビターおよびMnS・MnSe系インヒビターの両方を併用してもよい。
【0093】
また、インヒビターを利用しない場合、Al、N、SおよびSeの好適含有量はそれぞれ以下のとおりである。
Al:0.010質量%以下
N:0.0050質量%以下
S:0.0050質量%以下
Se:0.0050質量%以下
【0094】
また、Cは、熱延板組織の改善のためにスラブに含有させることができる。ただし、製造工程中に磁気時効の発生を回避するため、脱炭焼鈍により、スラブに含有させたC含有量を50質量ppm以下にまで低減することが好ましい。そのため、C含有量は0.08質量%以下が好ましい。なお、Cを含有させなくとも二次再結晶するので、C含有量の下限は特に限定されず、0質量%であってもよい。
【0095】
上記以外の元素の限定理由は、基本的に、前述した方向性電磁鋼板の成分組成と同じなので、ここでは説明を省略する。
【0096】
そして、上記した冷間圧延以降のいずれかの工程、または、いずれかの工程の間に、方向性電磁鋼板(または鋼帯)の表面に溶融凝固部を形成する処理を施す。溶融凝固部の形成方法は、上述した溶融凝固部を形成できるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、エネルギービームとして電子ビームまたはレーザーを照射する方法が挙げられる。以下、(A)電子ビームを照射する際の好適条件、および、(B)レーザーを照射する際の好適条件について説明する。
【0097】
(A)電子ビームを照射する際の好適条件
方向性電磁鋼板の表面に溶融凝固部を形成するには、例えば、透過能の高い電子ビームを利用することが有効である。特に、エネルギービームの照射部において母材の温度をその溶融温度よりも高めて母材を一定の深さまで溶融させる一方、溶融した金属の蒸発を防止、または、一定量に抑制するように、照射条件を制御することが必要である。このような制御は、例えば、方向性電磁鋼板の鋼種や板厚などに応じて、ビームの出力密度を0.1~1.0(J/mm2)の範囲で調整し、以下に示す各条件を以下の示す各範囲で調整することにより、実施することができる。なお、電子ビームの場合、ビームの出力密度は、偏向速度v、走査直交方向のスポット径Φ、電子ビーム出力Pを用いて、P/(v・Φ)として算出する。また、電子ビーム出力Pは、加速電圧×ビーム電流として算出する。なお、後述する実施例で使用した成分組成を有する方向性電磁鋼板では、0.1≦P(J/mm2)≦0.5の範囲で溶融凝固部を形成でき、0.5<P≦1.0(J/mm2)の範囲で溶融凝固部および該溶融凝固部によって画定される溝部が形成できた。ただし、電子ビーム出力Pが上記の範囲内であっても、偏向速度vや電子ビーム出力P、さらには方向性電磁鋼板の鋼種や板厚などによって、入熱量や温度履歴などが変わるため、熱歪みのみが導入されて溶融凝固部が形成されなかったり、溶融した金属が蒸発して溶融凝固部が形成されない場合がある。そのため、例えば、予備照射試験などを行って、方向性電磁鋼板の鋼種や板厚などに応じた適切な照射条件を事前に求めておくことが好ましい(後述するレーザー照射の場合も同様である)。
【0098】
また、溶融凝固部によって画定される溝部の形成、および、当該溝部の形状の制御は、上記のように出力密度を調整し、さらに、走査方向に長軸を持つような楕円形状や線分形状、点列形状のビームエネルギー分布を有するようにしてスポット形状を調整することにより実施することができる。これによって、さらに高い効果が期待できる。
【0099】
・加速電圧:60kV以上300kV以下
加速電圧は高い方が、電子の直進性が増加し、ビーム照射部外側への熱影響が低下するので好ましい。かかる理由から、加速電圧は60kV以上とすることが好ましい。加速電圧は、より好ましくは90kV以上、さらに好ましくは120kV以上である。一方、加速電圧を高くしすぎると、電子ビーム照射に伴って発生するX線の遮蔽が困難になる。そのため、実用上の観点から、加速電圧は300kV以下にすることが好ましい。加速電圧は、より好ましくは200kV以下である。
【0100】
・ビーム電流:0.5~40mA
ビーム電流は、ビーム径の観点から小さい方が好ましい。これは、電流を大きくするとクーロン反発によってビーム径が広がりやすいためである。そのため、ビーム電流は40mA以下が好ましい。一方、ビーム電流が小さすぎると、歪みを形成するためのエネルギーが不足するおそれがある。そのため、ビーム電流は0.5mA以上が好ましい。
【0101】
・ビーム照射領域の真空度
電子ビームは、気体分子によって散乱を受け、ビーム径やハロー径の増大、エネルギーの減少等が発生する。そのため、ビーム照射領域の真空度が高い方が良く、圧力にして3Pa以下とすることが好ましい。下限については特に制限を設けないが、過度に低下させると、真空ポンプなどの真空系統にかかるコストが増大する。そのため、実用上は、1×10-5Pa以上の圧力とすることが好ましい。
【0102】
・走査直交方向のスポット径:300μm以下
スポット径は、小さいほど局所的に歪みを導入することができるために好ましい。そのため、エネルギービームの走査直交方向のスポット径は300μm以下が好ましい。エネルギービームの走査直交方向のスポット径は、より好ましくは280μm以下、さらに好ましくは260μm以下である。エネルギービームの走査直交方向のスポット径の下限は特に限定されるものではないが、エネルギービームの走査直交方向のスポット径は、例えば、50μm以上が好ましい。なお、スポット径とは、幅30μmのスリットを用いてスリット法で取得したビームプロファイルの半値全幅を指す。
【0103】
・走査直交方向のスポット径に対する走査方向のスポット径の比(=[走査方向のスポット径(μm)]÷[走査直交方向のスポット径(μm)]):1超20以下
走査直交方向のスポット径に対する走査方向のスポット径の比(以下、スポット径の比ともいう)が1に近くなるほど、スポットへの入熱量が増加し、母材となる鋼板の溶融が容易になる。ただし、入熱領域の集中によって、スパッタの飛散が起こりやすくなり、鉄心として積層した際の占積率が劣化するおそれがある。また、溝部の深さが過剰になるおそれもある。そのため、スポット径の比は、好ましくは1超、より好ましくは1.5以上、さらに好ましくは2以上である。一方、スポット径の比が増加するほど、入熱領域が増加する。そのため、スパッタの飛散は抑制できるが、鋼板の溶融のために必要な入熱エネルギーが増加する。この場合、レーザーであれば搬送系への負担の増加、電子ビームであれば電源容量の増加が懸念される。そのため、スポット径の比は20以下であることが好ましい。
【0104】
なお、このようなスポット形状の実現方法として、例えば、電子ビームであれば、収束コイル中で走査方向および走査直交方向にローレンツ力を及ぼす方向の磁場分布を調整することにより、異なるスポット径を持つスポット形状に収束させることができる。
また、レーザーであれば、ビーム経路上にシリンドリカルレンズを設置し、走査方向、走査直交方向にビームの広がりを調整することで楕円形状とする方法や回折光学素子(回折光学素子)をビーム経路上に設置し、楕円形状・線分形状・点列形状にビームを集光させる方法が挙げられる。
【0105】
・偏向速度:5~400m/sec
エネルギービームの偏向速度は遅いほど、鋼板の単位長さあたりに入射する熱量を増加させることができる。しかしながら、エネルギービームの偏向速度を過度に低速化すると、金属蒸気の飛散によって鋼板表面にスパッタが付着し、鉄心として積層した際の占積率が劣化するおそれがある。また、溝部の深さが過剰になるおそれもある。そのため、エネルギービームの偏向速度は5m/sec以上が好ましい。エネルギービームの偏向速度は、より好ましくは8m/sec以上、さらに好ましくは10m/sec以上である。一方、エネルギービームの偏向速度を過度に高速化すると、鋼板の溶融に必要な入熱を与えるための電源容量が必要となり設備の大型化を招く。そのため、エネルギービームの偏向速度は400m/sec以下が好ましい。
【0106】
(B)レーザーを照射する際の好適条件
方向性電磁鋼板の表面に溶融凝固部を形成するには、例えば、金属への吸収率の高い400nm~1200nmの波長をもつレーザーを用いることが有効である。特に、エネルギービームの照射部において母材の温度をその溶融温度よりも高めて母材を一定の深さまで溶融させる一方、溶融した金属の蒸発を防止、または、一定量に抑制するように、照射条件を制御することが必要である。このような制御は、例えば、方向性電磁鋼板の鋼種や板厚などに応じて、0.1~1.0(J/mm2)の範囲で調整し、以下に示す各条件を以下の示す各範囲で調整することにより、実施することができる。なお、レーザーの場合、ビームの出力密度は、走査速度(偏向速度)v、スポット径Φ、レーザー出力Pを用いて、P/(v・Φ)として表される。
【0107】
また、溶融凝固部によって画定される溝部の形成、および、当該溝部の形状の制御は、上記のように出力密度を調整し、さらに、走査方向に長軸を持つような楕円形状や線分形状、点列形状のビームエネルギー分布を有するようにしてスポット形状を調整することにより実施することができ、これによって、さらに高い効果が期待できる。
【0108】
・レーザー出力:50W以上5000W以下
レーザーの出力が低くなると、母材である鋼板を溶融させるために走査速度を低速化する必要がある。しかし、走査速度を過度に低速化すると、鋼板へのスパッタの飛散による占積率の低下や、製造効率の劣化を招く。また、溶融した金属の蒸発が生じ、溝部の深さが過剰になるおそれもある。一方、レーザー出力を高くすると、鋼板の溶融は容易になる。しかしながら、レーザー搬送系へのダメージが増加し、メンテナンス頻度の増加による製造効率の低下を招くおそれがある。そのため、レーザーの出力は50W以上5000W以下が好ましい。
【0109】
なお、走査直交方向のスポット径、スポット径の比、および、走査速度(偏向速度)の好適範囲については、(A)電子ビームを照射する際の好適条件と同じなので、ここでは説明を省略する。
【0110】
なお、方向性電磁鋼板に曲げ加工などを施した後に行う歪み取り焼鈍の条件としては、例えば、窒素雰囲気、処理温度:800℃、処理時間:3時間の条件を例示することができる。本発明の一実施形態に従う方向性電磁鋼板は、歪み取り焼鈍にも低鉄損であり、かつ、高い透磁率と良好な磁歪特性とを有するので、変圧器、特に、巻鉄心変圧器などの鉄心材料として、極めて有利に用いることができる。
【0111】
上記した以外の条件については特に限定されず、常法に従えばよい。
【0112】
つぎに、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。以下の実施例は、本発明の好適な一例を示すものであり、本実施例によって何ら限定を受けるものではない。本発明の趣旨に適合しうる範囲で変更を加えて実施することも可能であり、そのような様態でも本発明の技術範囲に含まれる。
【実施例】
【0113】
・実施例1
表1に示す成分組成(残部はFe及び不可避的不純物)を有する方向性電磁鋼板のスラブに熱間圧延を施して熱延鋼帯とした。ついで、熱延鋼帯に、熱延板焼鈍を施した。ついで、熱延鋼帯に、中間焼鈍を挟む2回の冷間圧延を施して、板厚0.23mmの冷延鋼帯(以下、鋼帯ともいう)とした。ついで、鋼帯に、脱炭焼鈍を施し、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布した。ついで、鋼帯をコイル状に巻き取り、二次再結晶およびフォルステライト被膜の形成を目的とする最終焼鈍を施した。
【0114】
【0115】
ついで、鋼帯に平坦化焼鈍を施した後、鋼帯の一方の面に、電子ビームまたはレーザーを照射して線状の溶融凝固部を形成した。この際、照射条件、具体的には、出力密度(加速電圧、ビーム電流、レーザー出力および偏向速度)を種々変化させた。また、スポット形状は楕円形状とし、スポット径の比を種々変化させた。なお、電子ビームおよびレーザー照射はいずれも、圧延方向に4mm間隔で行った。また、鋼帯の一部に、ビームの非照射領域を設けた。
【0116】
ついで、鋼帯にリン酸マグネシウム系の張力被膜を形成させ、最終製品となる鋼帯(方向性電磁鋼板)を得た。なお、上記各工程において明記した以外の条件は、常法に従い行った。また、最終製品となる鋼帯の成分組成はいずれも、上記した本発明の一実施形態に従う方向性電磁鋼板の好適成分組成を満足するものであった。
【0117】
かくして得られた鋼帯に、歪み取り焼鈍を模擬した熱処理(窒素雰囲気、処理温度:800℃、処理時間:3時間)を施した。ついで、鋼帯の線状の溶融凝固部を形成した領域から試料を切り出し、モールドに埋め込み、鏡面化研磨を施した後、EBSD Wilkinson法により試料の圧延方向断面での歪み分布を求めた。そして、得られた各試料の歪み分布から、上掲式(1)~(4)を用いてΔEを算出して異方性エネルギーの分布を作成し、各試料のΔE<0の最深位置、および、ΔE≦-2の最深位置を求めた。
【0118】
また、各試料について、JIS C2550に記載のエプスタイン法により、B8およびW17/50を測定した。さらに、鋼帯のビームの非照射領域から参照試料(磁区細分化処理を行っていない試料)を切り出し、JIS C2550に記載のエプスタイン法により、B8およびW17/50を測定した。そして、透磁率変化の指標としてΔB8(=[鋼帯に線状の溶融凝固部を形成した領域から切り出した試料で測定したB8]-[参照試料で測定したB8])を算出した。
【0119】
加えて、各試料について、レーザードップラー式の磁歪振動計により、1.5T、50Hzの正弦波交流磁化したときの磁歪振動波形を測定した。そして、測定した磁歪振動波形を、100Hz毎の周波数の振動加速度成分にフーリエ分解した。ついで、各周波数成分にAスケールで聴感補正した値を0~1000Hzまで積算し、その積算した値を、磁歪特性の指標となる磁歪高調波MHL15/50とした。
【0120】
ついで、各試料を用いて、3相巻き変圧器(鉄心重量500kg)のモデルトランスを製作し、周波数50Hzにて鉄心脚部分の磁束密度が1.7Tとなるときの変圧器鉄損を測定した。なお、この変圧器鉄損はワットメータを用いて無負荷損を測定した。同時に、このモデルトランスを、防音室内で、最大磁束密度Bm=1.7T、周波数50Hzの条件で励磁し、騒音計を用いて変圧器の騒音レベル(dBA)を測定した。以下、変圧器の騒音レベルを、変圧器騒音ともいう。
【0121】
また、比較のため、溶融凝固部を形成させずに(磁区細分化処理を行わずに)作成した鋼帯(No.33)、および、レーザー照射により深さ20μmの溝を形成した鋼帯(No.34)を準備し、上記と同様の要領で、W17/50、ΔB8、MHL15/50、変圧器鉄損および変圧器騒音を測定した。なお、No.34以外の鋼帯ではいずれも、溝部は形成されていなかった。
【0122】
上記の結果を表2にまとめて示す。なお、溶融凝固部の有無は上述の方法により、確認した。また、W17/50、ΔB8、MHL15/50、変圧器鉄損および変圧器騒音の評価基準は、以下のとおりである。
・W17/50
◎(合格、特に優れる):鉄損改善量ΔW17/50が0.08W/Kg以上
〇(合格、優れる):鉄損改善量ΔW17/50が0.05W/Kg以上(◎の場合を除く)
×(不合格):鉄損改善量ΔW17/50が0.05W/Kg未満
ここで、鉄損改善量ΔW17/50は、磁区細分化処理前後での鉄損改善量であり、[参照試料で測定したW17/50]-[当該試料で測定したW17/50]として求める。
・ΔB8
◎(合格、特に優れる):-0.0006T以上
〇(合格、優れる):-0.0010T超(◎の場合を除く)
×(不合格):-0.0010T以下
ここで、ΔB8は、磁区細分化処理前後でのB8変化量であり、[当該試料で測定したB8]-[参照試料で測定したB8]として求める。
・MHL15/50
◎(合格、特に優れる):26.0dBA以下
〇(合格、優れる):27.5dBA以下(◎の場合を除く)
×(不合格):27.5dBA超
・変圧器鉄損
◎(合格、特に優れる):変圧器鉄損の鉄損改善量が0.08W/Kg以上
〇(合格、優れる):変圧器鉄損の鉄損改善量が0.05W/Kg以上(◎の場合を除く)
×(不合格):変圧器鉄損の鉄損改善量が0.05W/Kg未満
ここで、変圧器鉄損の鉄損改善量は、磁区細分化処理前後での変圧器鉄損の鉄損改善量であり、[参照試料から作製したモデルトランスで測定したW17/50]-[当該試料から作製したモデルトランスで測定したW17/50]として求める。
・変圧器騒音
◎(合格、特に優れる):32.0dBA以下
〇(合格、優れる):33.5dBA以下(◎の場合を除く)
×(不合格):33.5dBA超
【0123】
【0124】
表2より、発明例ではいずれも、低鉄損であり、かつ、高い透磁率と良好な磁歪特性とが実現されている。また、発明例の試料から作製したモデルトランスで測定した変圧器鉄損および変圧器騒音はいずれも低く、目標とするレベルに達していた。また、ΔE≦-2の最深位置が4μm~40μmである発明例では、特に優れた特性が得られていた。
【0125】
一方、比較例ではいずれも、低鉄損であり、かつ、高い透磁率と良好な磁歪特性とを実現することができなかった。
【0126】
(実施例2)
表3に示す成分組成(残部はFe及び不可避的不純物)を有する方向性電磁鋼板のスラブから熱間圧延を施して熱延鋼帯とした。ついで、熱延鋼帯に、熱延板焼鈍を施した。ついで、熱延鋼帯に、中間焼鈍を挟む2回の冷間圧延を施して、板厚0.23mmの冷延鋼帯(以下、鋼帯ともいう)とした。ついで、鋼帯に、脱炭焼鈍を施し、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布した。ついで、鋼帯をコイル状に巻き取り、二次再結晶およびフォルステライト被膜の形成を目的とする最終焼鈍を施した。
【0127】
【0128】
ついで、鋼帯に平坦化焼鈍を施した後、鋼帯の一方の面に、レーザーを圧延方向に照射し、線状の溶融凝固部を形成した。この際、照射条件、具体的には、出力密度(加速電圧、ビーム電流、レーザー出力および偏向速度)を種々変化させた。また、スポット形状は、回折光学素子を用いて線分形状とし、線分長さを調整してスポット径の比を種々変化させた。なお、レーザー照射はいずれも、圧延方向に0.5~7.0mm間隔で行った。また、鋼帯の一部に、ビームの非照射領域を設けた。
【0129】
ついで、鋼帯にリン酸マグネシウム系の張力被膜を形成させ、最終製品となる鋼帯(方向性電磁鋼板)を得た。なお、上記各工程において明記した以外の条件は、常法に従い行った。また、最終製品となる鋼帯の成分組成はいずれも、上記した本発明の一実施形態に従う方向性電磁鋼板の好適成分組成を満足するものであった。
【0130】
かくして得られた鋼帯に、歪み取り焼鈍を模擬した熱処理(窒素雰囲気、処理温度:800℃、処理時間:3時間)を施した。ついで、実施例1と同じ要領で、異方性エネルギーの分布を作成し、各試料のΔE<0の最深位置、および、ΔE≦-2の最深位置を求めた。また、各試料について、実施例1と同様の要領で、W17/50、ΔB8、MHL15/50、変圧器鉄損および変圧器騒音を測定した。
【0131】
また、上述した要領で、各試料の溝部の深度プロファイルを作成し、溝部の最深点の深さd(μm)、極小値の数Nおよびd/W×100(%)を求めた。
【0132】
さらに、比較のため、溶融凝固部を形成させずに(磁区細分化処理を行わずに)作成した鋼帯(No.58)、および、レーザー照射により深さ20μmの溝を形成した鋼帯(No.59)を準備し、上記と同様の要領で、W17/50、ΔB8、MHL15/50、変圧器鉄損および変圧器騒音を測定した。
【0133】
上記の結果を表4にまとめて示す。なお、溶融凝固部の有無は上述の方法により、確認した。また、W17/50、ΔB8、MHL15/50、変圧器鉄損および変圧器騒音の評価基準は実施例1と同じであるが、鉄損変化量ΔW17/50、ΔB8、MHL15/50、変圧器鉄損変化量ΔW17/50および変圧器騒音が以下の範囲を同時に満足する場合には、極めて優れた特性が得られているといえる。
・ΔW17/50:0.14W/kg以上(特には、0.15W/kg以上)
・ΔB8:-0.0002T以上(特には、-0.0001T以上)
・MHL15/50:26.0dBA以下(特には、25.5dBA以下)
・変圧器鉄損ΔW17/50:0.16W/kg以上(特には、0.17W/kg以上)
・変圧器騒音:32.0dBA以下(特には、31.5dBA以下)
【0134】
【0135】
表4より、発明例ではいずれも、低鉄損であり、かつ、高い透磁率と良好な磁歪特性とが実現されている。また、発明例の試料から作製したモデルトランスで測定した変圧器鉄損および変圧器騒音はいずれも低く、目標とするレベルに達していた。さらに、ΔE(KJ/m3)が-2KJ/m3以下となる領域の最深位置が4μm~40μmであり、溶融凝固部によって画定される溝部を有し、溝部の最深点の深さdが8.0μm未満であり、極小値の数Nが2以上であり、d/W×100(%)が5%以上20%未満であり、溶融凝固部の間隔が1.0mm以上5.0mm未満である発明例では、極めて優れた特性が得られていた。
【0136】
一方、比較例ではいずれも、低鉄損であり、かつ、高い透磁率と良好な磁歪特性とを実現することができなかった。