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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-25
(45)【発行日】2025-03-05
(54)【発明の名称】走査型プローブ顕微鏡およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01Q 10/06 20100101AFI20250226BHJP
【FI】
G01Q10/06
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023551042
(86)(22)【出願日】2022-03-23
(86)【国際出願番号】 JP2022013493
(87)【国際公開番号】W WO2023053522
(87)【国際公開日】2023-04-06
【審査請求日】2024-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2021158201
(32)【優先日】2021-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新井 浩
(72)【発明者】
【氏名】中島 秀郎
(72)【発明者】
【氏名】森口 志穂
(72)【発明者】
【氏名】中野 智陽
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-249682(JP,A)
【文献】国際公開第2018/42535(WO,A1)
【文献】特開平8-94644(JP,A)
【文献】特開平7-29536(JP,A)
【文献】特開平10-90284(JP,A)
【文献】特開2000-275159(JP,A)
【文献】米国特許第5365072(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/127722(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01Q 10/00ー90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の表面に対向して配置される探針と、
前記試料と前記探針との相対位置を移動させるスキャナと、
前記試料の観察対象領域を複数の領域に分けて、前記スキャナを駆動して領域ごとに前記試料の表面を走査するように構成された駆動部と、
前記観察対象領域の観察画像として、前記複数の領域にそれぞれ対応する複数の画像データを取得するデータ処理部と、
前記複数の画像データを取得するための条件に関するユーザ入力を受け付ける入力手段とを備え、
前記データ処理部は、ユーザ入力に基づいて前記条件を設定するように構成され、前記条件は、前記スキャナの走査条件を含み、
前記データ処理部は、前記入力手段が、画像データごとの前記スキャナの走査範囲、隣接する2つの前記走査範囲の間隔、および前記スキャナの最大走査範囲から取得可能な最大視野数の3つの変数のうちのいずれか2つの変数についてのユーザ入力を受け付けたときには、前記3つの変数の関係を用いた演算処理を実行することにより、受け付けた前記2つの変数に基づいて、前記3つの変数の残りの1つの変数を算出する、走査型プローブ顕微鏡。
【請求項2】
前記試料は、粉体を含む試料であり、
前記データ処理部は、前記走査範囲の間隔に対応する変数の下限値を、前記粉体の標準粒子径に設定する、請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項3】
前記試料は、粉体を含む試料であり、
前記データ処理部は、
前記走査範囲の間隔を、前記粉体の標準粒子径以上の所定値に設定し、
前記走査範囲および前記最大視野数の2つの変数のうちのいずれか1つの変数のユーザ入力を受け付けると、受け付けた前記1つの変数に基づいて、前記2つの変数の残りの1つの変数を算出する、請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項4】
前記データ処理部は、前記最大走査範囲の中心に前記走査範囲を配置した状態で、前記最大走査範囲内に、互いに前記間隔をあけて配置することができる前記走査範囲の数を、前記最大視野数として算出する、請求項1から3のいずれか1項に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項5】
前記データ処理部は、前記最大視野数に基づいた前記複数の画像データの取得枚数に対するユーザ入力を受け付けたときに、前記取得枚数の前記画像データの取得順序を設定するように構成され、
前記データ処理部は、1番目に取得する前記画像データの走査範囲を指定するユーザ入力を受け付けると、前記1番目の画像データの走査範囲の位置に基づいて、2番目以降の画像データの取得順序を設定する、請求項1から4のいずれか1項に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項6】
前記データ処理部は、前記2番目以降の画像データの取得順序を設定するとき、前記取得枚数の前記画像データを取得するための前記スキャナの水平方向における移動距離が最短になるように、前記取得順序を設定する、請求項5に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のデータ処理部を有するコンピュータを用いて、前記試料の前記観察対象領域の前記観察画像を取得するためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、走査型プローブ顕微鏡およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2000-275159号公報(特許文献1)には、カンチレバーの先端に探針を設け、試料に対して探針を接近させて試料表面の情報を取得する走査型プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)が開示される。この走査型プローブ顕微鏡は、取得した情報に基づいて画像データを生成し、試料表面の観察画像を該画像データに基づいて表示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-275159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
試料表面の観察対象領域が、走査型プローブ顕微鏡の観察視野(走査範囲)よりも広域である場合、観察対象領域を複数の領域に分けて、領域ごとにその表面形状を観察することが行なわれる。この場合、複数の領域にそれぞれ対応する複数の画像データを取得するためには、画像データごとに試料表面の走査範囲を設定しておく必要がある。具体的には、観察対象領域内に複数の走査範囲を並べて配置するために、ユーザは、各走査範囲を位置決めする作業および、1つの走査範囲から他の走査範囲へ遷移するために試料を載置する試料台を移動させる量を設定する作業を行なうことが必要となる。これによると、取得する画像データの数が増えるに従って、ユーザによる作業の負担が増大することが懸念される。
【0005】
本開示はこのような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、試料の観察対象領域内を走査することによって、当該観察対象領域の表面形状を示す複数の画像データを取得する走査型プローブ顕微鏡において、ユーザの作業負担を軽減することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る走査型プローブ顕微鏡は、試料の表面に対向して配置される探針と、試料と探針との相対位置を移動させるスキャナと、試料の観察対象領域を複数の領域に分けて、スキャナを駆動して領域ごとに試料の表面を走査するように構成された駆動部と、観察対象領域の観察画像として、複数の領域にそれぞれ対応する複数の画像データを取得するデータ処理部と、複数の画像データを取得するための条件に関するユーザ入力を受け付ける入力手段とを備える。データ処理部は、ユーザ入力に基づいて条件を設定するように構成される。条件は、スキャナの走査条件を含む。データ処理部は、入力手段が、画像データごとのスキャナの走査範囲、隣接する2つの走査範囲の間隔、およびスキャナの最大走査範囲から取得可能な最大視野数の3つの変数のうちのいずれか2つの変数についてのユーザ入力を受け付けたときには、受け付けた2つの変数に基づいて、3つの変数の残りの1つの変数を算出する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、試料の観察対象領域内を走査することによって、当該観察対象領域の表面形状を示す複数の画像データを取得する走査型プローブ顕微鏡において、ユーザの作業負担を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態に係る走査型プローブ顕微鏡の構成を概略的に示す図である。
図2】情報処理装置のハードウェア構成例を示す図である。
図3】走査型プローブ顕微鏡にて実行される画像データの取得処理の手順を説明するためのフローチャートである。
図4】複数の走査範囲の設定方法を説明するための図である。
図5】スキャナの走査条件を設定するための設定画面の第1例を模式的に示す図である。
図6】スキャナの走査条件の設定の処理手順を説明するためのフローチャートである。
図7】スキャナの走査画面を設定するための設定画面の第2例を模式的に示す図である。
図8】スキャナの走査画面を設定するための設定画面の第3例を模式的に示す図である。
図9】スキャナの走査条件の設定の処理手順を説明するためのフローチャートである。
図10】画像データの取得順序を設定するための設定画面の例を模式的に示す図である。
図11】画像データの取得順序を説明するための図である。
図12】画像データの取得順序の基本的な概念を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0010】
[走査型プローブ顕微鏡の構成]
図1は、実施の形態に係る走査型プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)の構成を概略的に示す図である。本実施の形態に係る走査型プローブ顕微鏡100は、代表的には、プローブ(探針)3と試料Sの表面との間に働く原子間力(引力または斥力)を利用して試料Sの表面の形状を観察する原子間力顕微鏡(AFM:Automatic Force Microscope)である。その他の走査型プローブ顕微鏡、例えば走査型トンネル顕微鏡(STM:Scanning Tunneling Microscope)にも本開示を同様に適用することができる。
【0011】
図1を参照して、試料Sは、硬くて平らな基板15の表面に固定されている。本実施の形態では、試料Sを、微粒子から構成される粉体試料であるとする。なお、試料Sは、粉体を含む試料であればよく、例えば粉体を含有する液体試料であってもよい。基板15は、ガラス、マイカ(雲母)、シリコンウェハなどで形成されている。本実施の形態に係る走査型プローブ顕微鏡100は、粉体試料の粒子解析などに用いることができる。
【0012】
走査型プローブ顕微鏡100は、主たる構成要素として、観察装置10と、情報処理装置20と、表示装置30と、入力装置40とを備える。観察装置10は、主たる構成要素として、光学系1と、カンチレバー2と、スキャナ12と、試料保持部14と、XY方向駆動部16と、Z方向駆動部18と、フィードバック信号発生部22と、走査信号発生部24とを有する。
【0013】
スキャナ12は、円筒形状を有しており、試料Sと探針3との相対的な位置関係を変化させるための移動装置である。試料Sを載置した基板15は、スキャナ12上に設けられた試料保持部14によって保持される。スキャナ12は、試料Sを、試料保持部14の上面に平行な面内で互いに直交するX,Yの2軸方向に移動させるXYスキャナ12xyと、試料SをX軸およびY軸に対して直交するZ軸方向に微動させるZスキャナ12zとを有する。XYスキャナ12xyは、XY方向駆動部16から印加される電圧によって変形する圧電素子を有する。Zスキャナ12zは、Z方向駆動部18から印加される電圧によって変形する圧電素子を有する。なお、XYスキャナ12xyおよびZスキャナ12zは、圧電素子に限定されるものではない。
【0014】
カンチレバー2は、板ばね状に形成されており、その一方端がホルダ4によって支持されている。カンチレバー2の他方端は自由端であり、試料SのZ軸方向の上方に配置されている。カンチレバー2は、試料Sと対向する表面と、表面と反対側の裏面とを有する。カンチレバー2の自由端の先端部の表面には、試料Sに対向するように探針3が配置されている。当該先端部の裏面には、光を反射する反射面が設けられている。探針3の反対側探針3と試料Sとの間に働く原子間力によって、カンチレバー2の先端部がZ軸方向に変位する。
【0015】
カンチレバー2のZ軸方向の上方には、カンチレバー2の撓み量(すなわち、先端部の変位量)を検出するための光学系1が設けられている。光学系1は、試料Sの観察時にレーザ光をカンチレバー2の裏面(反射面)に照射し、当該反射面で反射されたレーザ光を検出する。具体的には、光学系1は、レーザ光源6と、ビームスプリッタ5と、反射鏡7と、光検出器8とを有する。
【0016】
レーザ光源6は、レーザ光を発射するレーザ発振器を有する。光検出器8は、入射されたレーザ光を検出するフォトダイオードを有する。レーザ光源6から発射されたレーザ光LAは、ビームスプリッタ5で反射され、カンチレバー2の裏面(反射面)に照射される。カンチレバー2の裏面で反射されたレーザ光は、さらに反射鏡7によって反射されて光検出器8に入射する。
【0017】
光検出器8は、カンチレバー2のZ軸方向(変位方向)に複数(通常2つ)に分割された受光面を有する。あるいは、光検出器8は、Z軸方向およびY軸方向に4分割された受光面を有する。カンチレバー2の先端部がZ軸方向に変位すると、複数の受光面に照射される光量の割合が変化することから、その複数の受光光量に基づいて、カンチレバー2の撓み量(変位量)を検出することができる。
【0018】
フィードバック信号発生部22は、光検出器8から与えられる検出信号を演算処理することによって、カンチレバー2の撓み量を算出する。フィードバック信号発生部22は、探針3と試料Sとの間の原子間力が常に一定になるように試料SのZ方向位置を制御する。具体的には、フィードバック信号発生部22は、算出したカンチレバー2の撓み量と目標値との偏差Sdを算出し、偏差SdがゼロになるようにZスキャナ12zを駆動するための制御量を算出する。フィードバック信号発生部22は、この制御量に対応してZスキャナ12zを変位させるための電圧値Vzを算出する。フィードバック信号発生部22は、電圧値Vzを示す信号をZ方向駆動部18に出力する。Z方向駆動部18は、電圧値VzをZスキャナ12zに印加する。
【0019】
走査信号発生部24は、予め設定された走査条件に従って、試料Sが探針3に対してX軸およびY軸方向に相対移動するように、X軸方向の電圧値VxおよびY軸方向の電圧値Vyを算出する。走査信号発生部24は、算出した電圧値Vx,Vyを示す信号をXY方向駆動部16に出力する。XY方向駆動部16は、電圧値VxおよびVyをXYスキャナ12xyに印加する。なお、走査条件は、XY平面における走査範囲(すなわち、観察視野)、走査方向および走査速度に関する情報を含んでいる。走査条件の詳細については後述する。
【0020】
情報処理装置20は、主として観察装置10の動作を制御するものであり、データ処理部26と、記憶部28とを有する。
【0021】
Z軸方向のフィードバック量(Zスキャナ12zへの印加電圧Vzおよび偏差Sd)を示す信号はZ軸方向駆動部18からデータ処理部26に送られるとともに、記憶部28に記憶される。データ処理部26は、予め記憶部28に記憶されている電圧Vzとそれに対応した試料SのZ軸方向の変位量との関係を示す相関情報に基づいて、電圧Vzから試料SのZ軸方向の変位量を算出する。算出された変位量は、試料SのZ軸方向の位置を示す値(以下、「Z値」とも称する)を反映したものとなる。データ処理部26は、走査範囲におけるX軸およびY軸方向の各位置において、試料SのZ軸方向の変位量を算出することにより、試料Sの表面の形状を表す3次元の画像データを作成する。
【0022】
この画像データは、XY平面上の各位置におけるZ軸方向の位置を示す値(Z値)を含んでいる。なお、Z値は、基板15上の各位置における表面の高さに対応し、そのうち試料Sが存在する位置では試料Sを含む高さに対応している。データ処理部26は、作成した画像データを表示装置30に表示するとともに、記憶部28に記憶する。
【0023】
[情報処理装置のハードウェア構成]
図2は、情報処理装置20のハードウェア構成例を示す図である。図2を参照して、情報処理装置20は、主たる構成要素として、CPU(Central Processing Unit)160と、ROM(Read Only Memory)162と、RAM(Random Access Memory)164と、HDD(Hard Disk Drive)166と、通信I/F(Interface)168と、表示I/F170と、入力I/F172とを有する。各構成要素はデータバスによって相互に接続されている。なお、情報処理装置20のハードウェア構成のうち少なくとも一部分は、観察装置10の内部にあってもよい。あるいは、情報処理装置20は、走査型プローブ顕微鏡100とは別体として構成し、走査型プローブ顕微鏡100との間で双方向に通信を行なうように構成してもよい。
【0024】
通信I/F168は、観察装置10と通信するためのインターフェイスである。表示I/F170は、表示装置30と通信するためのインターフェイスである。入力I/F172は、入力装置40と通信するためのインターフェイスである。
【0025】
ROM162は、CPU160にて実行されるプログラムを格納する。RAM164は、CPU160におけるプログラムの実行により生成されるデータ、および通信I/F168を経由して入力されるデータを一時的に格納することができる。RAM164は、作業領域として利用される一時的なデータメモリとして機能し得る。HDD166は、不揮発性の記憶装置である。HDD166に代えて、フラッシュメモリなどの半導体記憶装置を採用してもよい。
【0026】
ROM162に格納されているプログラムは、記憶媒体に格納されて、プログラムプロダクトとして流通されてもよい。または、プログラムは、情報提供事業者によって、いわゆるインターネットなどによりダウンロード可能なプロダクトプログラムとして提供されてもよい。情報処理装置20は、記憶媒体またはインターネットなどにより提供されたプログラムを読み取る。情報処理装置20は、読み取ったプログラムを所定の記憶領域(例えばROM162)に記憶する。CPU160は、当該プログラムを実行することにより、後述する画像データの取得処理を実行することができる。
【0027】
表示装置30は、画像データの取得条件を設定するための設定画面を表示することができる。また、画像データの取得中、表示装置30は、情報処理装置20にて作成された画像データおよび、この画像データを処理して得られたデータを表示することができる。
【0028】
入力装置40は、ユーザ(例えば、分析者)からの情報処理装置20に対する指示を含む入力を受け付ける。入力装置40は、キーボード、マウスおよび、表示装置30の表示画面と一体的に構成されたタッチパネルなどを含み、画像の取得条件などを受け付ける。
【0029】
[走査型プローブ顕微鏡の動作]
次に、図1に示した走査型プローブ顕微鏡100の動作について説明する。
【0030】
本実施の形態では、試料S(粉体試料)の粒径評価を行なうために、走査型プローブ顕微鏡100を用いて試料Sの表面形状の観察画像である画像データを取得するものとする。
【0031】
ここで、走査型プローブ顕微鏡100において、XY平面上の走査範囲(撮像視野)は、XYスキャナ12xyに含まれる圧電素子の可動範囲によって制限される。そのため、試料Sの表面の観察対象領域が、走査型プローブ顕微鏡100の走査範囲に比べて広い場合には、観察対象領域を複数の領域に分けて、領域ごとにその表面形状を観察することが行なわれる。この場合、走査型プローブ顕微鏡100は、複数の領域を順番に連続して観察するために、1つの走査範囲(撮像視野)についての画像データが取得されるごとに、走査範囲をX軸および/またはY軸方向に移動(オフセット)させるように構成される。これによると、複数の領域にそれぞれ対応する複数の画像データが1つずつ順番に作成されることになる。
【0032】
このような複数の画像データを自動的に連続して取得するために、走査型プローブ顕微鏡100では、最初に、複数の画像データを取得するための条件が設定される。この複数の画像データの取得条件には、スキャナ12の走査に関する条件、複数の画像データの取得順序に関する条件、取得した画像データの処理に関する条件、および画像データの表示に関する条件などが含まれる。設定された条件に従って情報処理装置20が観察装置10の動作を制御することにより、観察対象領域について複数の画像データを取得することができる。
【0033】
図3は、走査型プローブ顕微鏡100にて実行される画像データの取得処理の手順を説明するためのフローチャートである。図3に示すように、画像データの取得処理は、画像データの取得条件を設定する工程(S01)、カンチレバー2をチューニングする工程(S02)、画像データを取得する工程(S03)、画像データを処理および抽出する工程(S04)、画像データを保存する工程(S05)および、画像データを表示する工程(S06)を備える。以下に、各工程の処理について説明する。
【0034】
(1)画像データの取得条件を設定する工程(図3のS01)
画像データを取得条件を設定する工程(図3のS01)では、カンチレバー2のチューニング条件(S10)、スキャナ12の走査条件(S11)、画像データの取得順序(S12)、画像データの処理条件(S13)、粒子解析の処理条件(S14)、および画像データおよびこれに基づくデータ(例えば、粒径分布データなど)の表示条件(S15)が設定される。なお、ステップS01にて設定される条件はこれらに限定されるものではない。また、これらの条件を設定する順序についても限定されるものではなく、ユーザが任意の順序で設定することができる。本実施の形態では、表示装置30は、画像データの取得条件を設定するための設定画面を表示可能に構成されている。ユーザは、入力装置40を操作することにより、当該設定画面上で各種条件を設定することができる。
【0035】
(1-1)カンチレバーのチューニング条件(S10)
カンチレバー2のチューニング条件(S10)は、走査型プローブ顕微鏡100の動作モードがダイナミックモードである場合に設定される条件である。チューニング条件は、カンチレバー2の種類、カンチレバー2を励振させる周波数範囲および振幅などの項目を含んでいる。ユーザは、入力装置40を用いて各項目を設定することができる。
【0036】
なお、ダイナミックモードでは、試料Sの表面に近づけたカンチレバー2をその共振点付近の周波数で励振させる。探針3と試料Sの表面との間に作用する原子間力によって、カンチレバー2の振動の振幅が変化する。フィードバック信号発生部22(図1参照)は、この振動の振幅が一定となるように試料SをZ軸方向に微動させるべくZスキャナ12zをフィードバック制御する。このフィードバック制御のための制御量をデータ処理部26で処理することによって、試料Sの表面形状の画像データを作成することができる。
【0037】
(1-2)スキャナの走査条件(S11)
スキャナ12の走査条件の設定(S11)においては、XYスキャナ12xyのX軸およびY軸方向の移動に関する条件が設定される。上述したように、試料Sの表面の観察対象領域が複数の領域に分割される場合、この複数の領域にそれぞれ対応して複数の走査範囲が設定される。図4は、複数の走査範囲の設定方法を説明するための図である。
【0038】
図4を参照して、XYスキャナ12xyは、X=0を中心としてX軸の正方向および負方向に変形することができるとともに、Y=0を中心としてY軸の正方向および負方向に変形することができる。これにより、XY平面の原点(0,0)を中心として、試料SをX軸の正方向および負方向、ならびにY軸の正方向および負方向に移動させることができる。なお、X,Yの各軸方向における移動量(変形量)は、XYスキャナ12xyに印加する電圧Vx,Vyによって制御することができる。原点(0,0)は、X軸方向の移動量(変形量)およびY軸方向の移動量(変形量)がともにゼロである状態(初期状態)を示している。
【0039】
図4には、XYスキャナ12xyの最大走査範囲Rmaxが示されている。最大走査範囲Rmaxは、原点(0,0)を中心とする正方形の形状を有している。この正方形の一辺の長さLmaxは、XYスキャナ12xyのXおよびYの各軸方向における可動範囲によって決まる。
【0040】
ステップS11では、最大走査範囲Rmax内に複数の走査範囲Rを設定することができる。1つの走査範囲Rは、1つの画像データを作成するためにXYスキャナ12xyが探針3と試料Sとを相対移動させる範囲に相当する。言い換えれば、1つの走査範囲Rは、1つの画像データを作成するために探針3が試料Sの表面を走査する範囲に相当する。走査範囲Rは、一辺の長さがLの正方形の形状を有している。
【0041】
図4に示すように、複数の走査範囲Rは、原点(0,0)を中心として、X,Yの各軸方向に等間隔に配置される。具体的には、複数の走査範囲Rのうちの1つの走査範囲R1が、その中心が原点(0,0)上に位置するように配置される。そして、この走査範囲R1を中心として、複数の走査範囲RがXおよびYの各軸方向に互いに間隔Dをあけて並べて配置される。図4の例では、走査範囲R1を中心として、合計9個の走査範囲Rが3×3のマトリクス状に配置されている。
【0042】
このように原点(0,0)を中心に走査範囲R1を配置し、この走査範囲R1を中心として複数の走査範囲Rを配置する構成とすることにより、最大走査範囲Rmax内には、X軸の正方向および負方向に対して均等に走査範囲Rが配置されるとともに、Y軸の正方向および負方向に対して均等に走査範囲Rが配置されることになる。これによると、試料Sの表面の観察対象領域を、複数の走査範囲R(観察視野)によって満遍なく観察することが可能となる。
【0043】
なお、図4中に点線で示すように、少なくとも一部が最大走査範囲Rmaxを超えている正方形については、走査範囲Rとして設定されない。本明細書では、最大走査範囲Rmaxから取得可能な走査範囲R(観察視野)の個数の最大値を「最大視野数Nmax」と定義する。図4の例では、最大視野数Nmax=9である。
【0044】
上述したように、最大走査範囲RmaxはXYスキャナ12xyの可動範囲に基づいた固定値であることから、最大視野数Nmaxは、走査範囲Rの長さLと、隣接する走査範囲Rの間隔Dとに応じて決まる。すなわち、最大視野数Nmax、走査範囲Rの長さLおよび、走査範囲Rの間隔Dは、これら3つの変数のうちのいずれか2つの変数の値が決まると、残りの1つの変数が一意に決まるという関係を有している。
【0045】
ステップS11では、この3つの変数の関係を利用することにより、ユーザによる入力作業を単純化する。具体的には、ユーザによる入力作業は、表示装置30に示される、走査条件を設定するための設定画面を用いて行なうことができる。図5は、スキャナ12の走査条件を設定するための設定画面の第1例を模式的に示す図である。
【0046】
図5に示すように、設定画面には、走査範囲R(長さL)の数値を設定するためのタブ50、走査範囲Rの間隔Dの数値を設定するためのタブ52、最大視野数Nmaxの数値を設定するためのタブ54、画像データの取得枚数Nの数値を設定するためのタブ56、および走査速度の数値を設定するためのタブ58が表示されている。なお、ユーザによる走査条件の設定を受け付けるための入力手段は、タブに限定されるものではなく、任意のインターフェイス(GUI(Graphical User Interface)など)を採用することができる。なお、走査速度は、走査1ラインの速度である。1秒間で1ラインを往復走査するときの走査速度が1[Hz]となる。
【0047】
図5の設定画面に示されるいずれのタブもユーザによる入力を受け付け可能に構成されている。なお、タブ50,52には、数値の単位(μm/nm)を切り替えるためのタブが付されている。
【0048】
ユーザは、入力装置40を用いて各タブに対して数値を入力することができる。なお、走査範囲Rの長さLの設定可能範囲の上限値および下限値は、XYスキャナ12xyの可動範囲によって決まる。設定可能範囲の上限値は最大走査範囲Rmaxの一辺の長さLmaxとなる。走査範囲Rの間隔Dは0を下限値とすることができる。すなわち、隣接する2つの走査範囲Rを間隔をあけずに配置することができる。
【0049】
図5の設定画面において、走査範囲Rのタブ50、走査範囲Rの間隔Dのタブ52および、最大視野数Nmaxのタブ54については、ユーザがいずれか2つのタブに数値を入力すると、残りの1つのタブの数値が自動的に算出されるように構成されている。このような構成は、データ処理部26が、上述した3つの変数の関係を用いた演算処理を実行することによって実現することができる。
【0050】
具体的には、最大走査範囲Rmaxの長さLmax、走査範囲Rの長さL、走査範囲Rの間隔D、および最大視野数Nmaxの間には、次式(1)で示す関係が成立する。
Lmax≧L×Nmax1/2+D×(Nmax1/2-1) …(1)
上記式(1)の左辺のLmaxは固定値であるため、右辺においてL,DおよびNmaxの3つの変数のうちの2つの変数が設定されると、残りの1つの変数を算出することができる。上記式(1)に示す関係を示す関係式またはテーブルなどを予め用意しておくことにより、データ処理部26は、2つの変数が入力されると、関係式またはテーブルを用いて残りの1つの変数を求めることができる。
【0051】
図6は、スキャナ12の走査条件の設定(図3のS11)の処理手順を説明するためのフローチャートである。図6のフローチャートは、情報処理装置20のデータ処理部26により実行される。
【0052】
図6を参照して、ステップS20により、データ処理部26は、図5に示す走査条件の設定画面のタブ50に走査範囲Rの長さLが入力されたか否かを判定する。ステップS20および後述するステップS21,S23,S24,S26における判定は、入力装置40から入力I/F172に送信されるユーザ入力に基づいて判定することができる。
【0053】
タブ50に走査範囲Rの長さLが入力された場合(S20にてYES)、データ処理部26は、続いてステップS21により、設定画面のタブ52に走査範囲Rの間隔Dが入力されたか否かを判定する。タブ52に走査範囲Rの間隔Dが入力された場合(S21にてYES)、データ処理部26は、ステップS22において、予め設定されている最大走査範囲Rmaxと、ステップS20,S21にて入力された走査範囲Rの長さLおよび間隔Dとに基づいて、最大視野数Nmaxを算出する。最大視野数Nmaxは、上記式(1)の関係に基づいた関係式またはテーブルを用いることにより算出することができる。データ処理部26は、算出した最大視野数Nmaxの値を設定画面のタブ54に表示する。
【0054】
一方、ステップS20にて走査範囲Rの長さLがタブ50に入力されない場合(S20にてNO)、データ処理部26は、ステップS23により、設定画面のタブ54に最大視野数Nmaxの値が入力されたか否かを判定する。
【0055】
タブ54に最大視野数Nmaxが入力された場合(S23にてYES)、データ処理部26は、続いてステップS24により、設定画面のタブ52に走査範囲Rの間隔Dが入力されたか否かを判定する。タブ52に走査範囲Rの間隔Dが入力された場合(S24にてYES)、データ処理部26は、ステップS25において、予め設定されている最大走査範囲Rmaxと、ステップS23,S24にて入力された最大視野数Nmaxおよび走査範囲Rの間隔Dとに基づいて、走査範囲Rの長さLを算出する。走査範囲Rの長さLは、上記式(1)の関係に基づいた関係式またはテーブルを用いることにより算出することができる。データ処理部26は、算出した走査範囲Rの長さLの値を設定画面のタブ50に表示する。
【0056】
ステップS21にて走査範囲Rの間隔Dがタブ52に入力されない場合(S21にてNO)、データ処理部26は、ステップS26により、設定画面のタブ54に最大視野数Nmaxの値が入力されたか否かを判定する。
【0057】
タブ54に最大視野数Nmaxが入力された場合(S26にてYES)、データ処理部26は、ステップS27において、予め設定されている最大走査範囲Rmaxと、ステップS20,S26にて入力された走査範囲Rの長さLおよび最大視野数Nmaxとに基づいて、走査範囲Rの間隔Dを算出する。走査範囲Rの間隔Dは、上記式(1)の関係に基づいた関係式またはテーブルを用いることにより算出することができる。データ処理部26は、算出した走査範囲Rの間隔Dの値を設定画面のタブ52に表示する。
【0058】
ステップS20~S27によって最大視野数Nmax、走査範囲Rの長さLおよび走査範囲Rの間隔Dが設定されると、データ処理部26は、ステップS28に進み、設定画面のタブ56に画像データの取得枚数Nが入力されたか否かを判定する。画像データの取得枚数Nは、1以上Nmax以下の範囲で設定することができる。タブ56に取得枚数Nが入力された場合(S28にてYES)、データ処理部26は処理を終了する。
【0059】
なお、走査条件を設定する処理は、図5の設定画面および図6のフローチャートに限定されるものではない。例えば、走査条件として、フィードバック信号発生部22により実行されるフィードバック制御に関する条件、および画像データの画素数などを設定することができる。
【0060】
(第1変更例)
図7は、スキャナ12の走査画面を設定するための設定画面の第2例を模式的に示す図である。図7に示す設定画面は、図5に示す設定画面にタブ60を追加したものである。
【0061】
タブ60には、走査範囲Rの間隔Dの設定可能な範囲の下限値が予め入力されている。この間隔Dの下限値は、試料Sとなる粉体試料の標準粒子径に設定されている。粉体試料の標準粒子径は、粉体試料の既知の粒径分布に基づいて設定することができる。例えば、標準粒子径を、既知の粒径分布における平均粒子径に設定することができる。あるいは、標準粒子径を、既知の粒径分布に基づいて設定される粒子径の目標値に設定することができる。
【0062】
ここで、走査範囲Rの間隔Dが粉体試料の標準粒子径よりも小さいときには、間隔D上に位置する粒子が、間隔Dを挟んで隣接する2つの走査範囲Rに跨って存在する場合が生じ得る。この場合、当該粒子は2つの走査範囲Rにおいて重複して観察されることになる。その結果、各観察視野に存在する粒子数をカウントする場合、1つの粒子を2つの走査範囲Rにおいて重複してカウント(いわゆるダブルカウント)することになり、結果的に粒子数のカウント値の精度を低下させてしまうことが懸念される。
【0063】
第1変更例では、走査範囲Rの間隔Dの下限値を試料Sの標準粒子径に設定することにより、走査範囲Rの間隔Dを標準粒子径以上の値に設定することができる。これによると、間隔D上に位置する粒子は、間隔Dと隣接する2つの走査範囲Rのいずれか一方にのみ存在する、もしくは、2つの走査範囲Rのいずれにも存在しないことになり、1つの粒子が2つの走査範囲Rに跨って存在することを防ぐことができる。したがって、上述したダブルカウントを回避することができる。
【0064】
(第2変更例)
図8は、スキャナ12の走査画面を設定するための設定画面の第3例を模式的に示す図である。図8に示す設定画面は、図5に示す設定画面におけるタブ52を、タブ52Aに置き換えたものである。
【0065】
タブ52Aでは、走査範囲Rの間隔Dが、試料Sの標準粒子径以上の所定値に予め設定されている。図8の例では、間隔Dは試料Sの標準粒子径に設定されている。間隔Dは試料Sの標準粒子径以上であればよく、例えば、標準粒子径に所定値を加算した値、または標準粒子径を所定倍した値であってもよい。
【0066】
本変更例では、試料Sとなる粉体試料の種類ごとに標準粒子径を予め登録しておくことにより、図8の設定画面を表示装置30に表示させたときに、試料Sの標準粒子径がタブ52Aに自動的に入力されるように構成することができる。
【0067】
図8の設定画面ではタブ52Aの数値が予め設定されているため、ユーザは、入力装置40を用いて残りのタブ50,54,56に対して数値を入力することができる。このとき、走査範囲Rのタブ50および、最大視野数Nmaxのタブ54については、ユーザがいずれか1つのタブに数値を入力すると、残りの1つのタブの数値が自動的に算出されるように構成される。
【0068】
このような構成は、情報処理装置20が、上述した3つの変数の関係を用いた演算処理を実行することによって実現することができる。具体的には、次式(1)で示す関係においてLmaxおよびDが固定値であるため、データ処理部26は、LおよびNmaxの2つの変数のうちの1つの変数が設定されると、残り1つの変数を算出することができる。
【0069】
図9は、スキャナ12の走査条件の設定(図3のS11)の処理手順を説明するためのフローチャートである。図9のフローチャートは、情報処理装置20のデータ処理部26により実行される。
【0070】
図9を参照して、データ処理部26は、ステップS30において、図8に示す走査条件の設定画面のタブ52Aにおける走査範囲Rの間隔Dを、試料Sの粉体試料の標準粒子径以上の所定値(例えば、標準粒子径)に設定する。
【0071】
次に、データ処理部26は、ステップS31により、設定画面のタブ50に走査範囲Rの長さLが入力されたか否かを判定する。ステップS31および後述するステップS33における判定は、入力装置40から入力I/F172に送信されるユーザ入力に基づいて判定することができる。
【0072】
タブ50に走査範囲Rの長さLが入力された場合(S31にてYES)、データ処理部26は、ステップS32において、予め設定されている最大走査範囲Rmax、ステップS30にて設定された走査範囲Rの間隔およびステップS21にて入力された走査範囲Rの長さLに基づいて、最大視野数Nmaxを算出する。最大視野数Nmaxは、上記式(1)の関係に基づいた関係式またはテーブルを用いることにより算出することができる。データ処理部26は、算出した最大視野数Nmaxの値を設定画面のタブ54に表示する。
【0073】
一方、ステップS31にて走査範囲Rの長さLがタブ50に入力されない場合(S31にてNO)、データ処理部26は、ステップS33により、設定画面のタブ54に最大視野数Nmaxの値が入力されたか否かを判定する。
【0074】
タブ54に最大視野数Nmaxが入力された場合(S33にてYES)、データ処理部26は、ステップS34において、予め設定されている最大走査範囲Rmax、ステップS30にて設定された走査範囲Rの間隔Dおよび、ステップS33にて入力された最大視野数Nmaxに基づいて、走査範囲Rの長さLを算出する。走査範囲Rの長さLは、上記式(1)の関係に基づいた関係式またはテーブルを用いることにより算出することができる。データ処理部26は、算出した走査範囲Rの長さLの値を設定画面のタブ50に表示する。
【0075】
ステップS30~S34によって最大視野数Nmax、走査範囲Rの長さLおよび走査範囲Rの間隔Dが設定されると、データ処理部26は、ステップS35に進み、設定画面のタブ56に画像データの取得枚数Nが入力されたか否かを判定する。タブ56に取得枚数Nが入力された場合(S35にてYES)、データ処理部26は処理を終了する。
【0076】
なお、走査条件を設定する処理は、図8の設定画面および図9のフローチャートに限定されるものではない。例えば、走査条件として、さらに、フィードバック信号発生部22により実行されるフィードバック制御の条件、および画像データの画素数などを設定することができる。
【0077】
このように第2変更例では、隣接する2つの走査範囲Rの間隔Dが試料Sの標準粒子径以上の値に予め設定されているため、ユーザは走査範囲Rの長さLおよび最大視野数Nmaxのいずれか一方の数値を入力すれば足りる。これにより、ユーザの入力作業を単純化することができる。また、走査範囲Rの間隔Dは、試料Sの標準粒子径以上の値に設定されているため、上述したダブルカウントの問題を回避することができる。
【0078】
(1-3)画像データの取得順序(図3のS12)
画像データの取得順序を設定する工程(図3のS12)においては、ステップS11で設定された取得枚数Nの画像データを取得する順序が設定される。
【0079】
図10は、画像データの取得順序を設定するための設定画面の例を模式的に示す図である。図10の設定画面は、表示装置30の表示画面に表示することができる。
【0080】
図10に示すように、設定画面には、画像データの取得を開始したときに1番目に取得する画像データを指定するためのタブ70と、画像データの取得方向を設定するためのタブ72とが表示されている。
【0081】
図11は、画像データの取得順序を説明するための図である。図11には、画像データの取得枚数N=9である場合の画像データの取得順序が示されている。取得枚数N=9の場合、ステップS11で設定された走査範囲Rの長さLおよび間隔Dに従って配置される9個の走査範囲に対応して、9枚の画像データD1~D9が取得されることになる。
【0082】
ユーザは、図10の設定画面において、9枚の画像データD1~D9のうち1番目に取得する画像データを指定することができる。図11の例では、XY平面の原点(0,0)上に位置する画像データD5が1番目の画像データに指定されたものとする。
【0083】
ユーザによって1番目の画像データD5が指定されると、データ処理部26は、残り8枚の画像データの取得順序を設定する。具体的には、データ処理部26は、9枚の画像データD1~D9を取得するためのXYスキャナ12xyの移動距離が最短になるように取得順序を設定する。図11の例では、D5→D8→D7→D4→D1→D2→D2→D3→D6→D9の順に、時計回りに画像データが取得されるように取得順序が設定されている。
【0084】
後述する画像データを取得する工程(図3のS03)が開始されると、情報処理装置20の走査信号発生部24は、設定された取得順序に従って、XYスキャナ12xyの走査範囲Rを移動させる。具体的には、走査信号発生部24は、1つの走査範囲Rについて1枚の画像データが取得されると、次の画像データを取得するために走査範囲Rを移動させる。このように画像データの取得と、走査範囲Rの移動とを交互に繰り返すことにより、設定された取得順序に従って画像データが1つずつ順番に取得されることになる。
【0085】
このとき、走査信号発生部24は、次の走査範囲Rの開始位置を目標値としてX軸方向の電圧値VxおよびY軸方向の電圧値Vyを算出し、算出した電圧値Vx,VyをXY方向駆動部16に出力する。XY方向駆動部16によるXYスキャナ12xyの駆動にオープンループ制御を用いた場合には、現在位置を検知しながらXYスキャナ12xyの移動を制御するフィードバック制御と比較して、XYスキャナ12xyを高速に移動させることができる。その一方で、XYスキャナ12xyの移動量が大きくなると、目標位置と実際の位置との間にずれが生じてしまう可能性が懸念される。このずれを抑制するためには、XYスキャナ12xyの移動量を小さくする必要がある。
【0086】
そこで、情報処理装置20は、XYスキャナ12xyの移動距離が最短となるように、N枚の画像データの取得順序を設定する。図12は、画像データの取得順序の基本的な概念を説明するための図である。
【0087】
図12に示すように、1つの走査範囲Rについて画像データを取得した後に次の画像データを取得する場合、走査信号発生部24は、当該走査範囲に対してY軸方向に隣接する走査範囲またはX軸方向に隣接する走査範囲にXYスキャナ12xyを移動させるように構成されている。図12の例では、走査範囲の移動方向として、Y軸の負方向をP1、X軸の負方向をP2、Y軸の正方向をP3、X軸の正方向をP4とする。画像データの取得方向を時計回りに設定した場合には、走査範囲の移動方向に、P1,P2,P3,P4の順に優先度を設ける。
【0088】
1番目の画像データD1を取得すると、走査信号発生部24は、XYスキャナ12xyの走査範囲を方向P1に移動させる。移動後の走査範囲について2番目の画像データD2を取得すると、走査信号発生部24は、走査範囲をさらに方向P1に移動させる。図12のように、方向P1に隣接する走査範囲が存在しない場合、走査信号発生部24は、走査範囲を方向P2に移動させる。移動後の走査範囲について3番目の画像データD3を取得すると、走査信号発生部24は、走査範囲をさらに方向P2に移動させる。図12のように、方向P2に隣接する走査範囲が存在しない場合、走査信号発生部24は、走査範囲を方向P3に移動させる。移動後の走査範囲について4番目の画像データD3を取得すると、走査信号発生部24は、走査範囲をさらに方向P3に移動させる。図12のように、方向P3に隣接する走査範囲が存在しない場合、走査信号発生部24は、走査範囲を方向P4に移動させる。図12の例では、時計回りに4枚の画像データD1~D4が順番に取得される。なお、図示は省略するが、画像データの取得方向を反時計回りに設定した場合には、図12に示す4つの移動方向P1~P4に対して、P1,P4,P3,P2の順に優先度を設定すればよい。
【0089】
図10に示す設定画面において、ユーザは、取得開始を示すタブ70において、1番目に取得する画像データの走査範囲を設定し、取得方向を示すタブ72において、画像データの取得方向(時計回り/反時計回り)とを設定することができる。データ処理部26は、入力装置40からユーザ入力を受けると、図11および図12に説明した概念に基づいて、N枚の画像データの取得順序を設定する。
【0090】
(1-4)画像データの処理条件(図3のS13)
図3に戻って、画像データの処理条件を設定する工程(図3のS13)においては、ユーザは、取得した画像データの処理に関する条件を設定することができる。画像データの処理に関する条件として、ユーザは、画像処理の対象となる信号の種類を設定することができる。対象の信号には、Z値を示す信号(高さ信号)、偏差Sdを示す信号などが含まれている。また、データ処理内容として、画像データの傾き補正を行なうか否かなどを設定することができる。
【0091】
(1-5)粒子解析の処理条件(図3のS14)
粒子解析の処理条件を設定する工程(図3のS14)においては、ユーザは、取得した画像データの処理に関連する条件を設定することができる。画像データの処理に関する条件として、ユーザは、ステップS13による画像処理が施された画像データから抽出するデータのZ値の範囲(上限値および/または下限値)を設定することができる。
【0092】
1枚の画像データが示す観察画像のうち、粒子が存在する位置では、粒子が存在しない位置と高さが異なることから、Z値も異なることになる。そのため、Z値の範囲を適切に設定することにより、粒子が存在する位置を特定することができる。これにより、画像データ内に存在する粒子数を算出することができる。さらに、画像データの各位置のZ値(高さ)に基づいて各粒子の粒径を算出する処理を実行することにより、試料Sの粒度分布データを作成することができる。
【0093】
(1-6)表示条件(図3のS15)
表示条件を設定する工程(図3のS15)においては、ユーザは、画像データの表示に関する条件を設定することができる。本工程では、画像データおよび、粒子解析によって作成された粒度分布データの表示方法について設定することができる。
【0094】
(2)カンチレバーをチューニングする工程(図3のS02)
ステップS01によりデータ取得条件が設定されると、情報処理装置20は、画像データの取得開始を指示するユーザ入力に応答して、画像データの取得を開始する。情報処理装置20は、最初にステップS02により、カンチレバー2のチューニングを行なう。走査型プローブ顕微鏡100の動作モードがダイナミックモードである場合、ステップS10で設定されたカンチレバー2のチューニング条件に従って、カンチレバー2を励振させる。
【0095】
(3)画像データを取得する工程(図3のS03)
ステップS03では、情報処理装置20(走査信号発生部24)は、ステップS10により設定されたスキャナ12の走査条件および、ステップS12により設定された画像データの取得順序に従ってXYスキャナ12xyを駆動する。
【0096】
データ処理部26は、フィードバック信号発生部22から伝送されるZ軸方向のフィードバック量(Zスキャナ12zへの印加電圧Vzおよび偏差Sd)を示す信号に基づいて、走査範囲ごとに画像データを作成することにより、N枚の画像データを順番に取得する。
【0097】
(4)画像データを処理および抽出する工程(図3のS04)
情報処理装置20は、ステップS04では、ステップS13により設定された画像データの処理条件に従って、1枚の画像データが取得されるごとに、取得された画像データを処理する。情報処理装置20はさらに、処理された画像データから、ステップS14の粒子解析の処理条件で設定されたZ値の範囲のデータを抽出する。抽出されたデータに基づいて、1つの画像データに含まれる粒子数を算出することができる。
【0098】
(5)画像データを保存する工程(図3のS05)
情報処理装置20は、ステップS05において、画像処理されたN枚の画像データおよびこれに基づくデータを、試料Sの観察対象領域の表面形状を示すデータとして記憶部28に保存する。
【0099】
(6)画像データを表示する工程(図3のS06)
情報処理装置20は、ステップS06では、ステップS15により設定された表示条件にしたがって、画像データを表示装置30に表示させる。
【0100】
以上説明したように、本実施の形態に従う走査型プローブ顕微鏡の制御方法によれば、複数の画像データを取得するための条件を設定する工程(図3のS01)において、複数の画像データにそれぞれ対応する複数の走査範囲を設定するためのユーザの入力作業を単純化することができるため、ユーザの作業負担を低減することができる。
【0101】
また、走査条件を設定する工程(図3のS11)において、隣接する2つの走査範囲の間隔を、試料となる粉体の標準粒子径以上の値となるように制限する構成としたことにより、隣接する2つの走査範囲において同一の粒子が重複して観察されることを防止できる。これによると、各観察視野内に存在する粒子数を正確に算出することができる。
【0102】
さらに、画像データ取得順序を設定する工程(図3のS12)において、複数の画像データを連続的に取得するためにXYスキャナ12xyが移動する距離が最短となるように、複数の画像データの取得順序を設定することにより、オープンループ制御によるXYスキャナ12の移動量が目標値に対してずれることを抑制することができる。これにより、観察視野の移動による影響を低減することができる。
【0103】
[態様]
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0104】
(第1項)一態様に係る走査型プローブ顕微鏡は、試料の表面に対向して配置される探針と、試料と探針との相対位置を移動させるスキャナと、試料の観察対象領域を複数の領域に分けて、スキャナを駆動して領域ごとに試料の表面を走査するように構成された駆動部と、観察対象領域の観察画像として、複数の領域にそれぞれ対応する複数の画像データを取得するデータ処理部と、複数の画像データを取得するための条件に関するユーザ入力を受け付ける入力手段とを備える。データ処理部は、ユーザ入力に基づいて条件を設定するように構成される。条件は、スキャナの走査条件を含む。データ処理部は、入力手段が、画像データごとのスキャナの走査範囲、隣接する2つの走査範囲の間隔、およびスキャナの最大走査範囲から取得可能な最大視野数の3つの変数のうちのいずれか2つの変数についてのユーザ入力を受け付けたときには、受け付けた2つの変数に基づいて、3つの変数の残りの1つの変数を算出する。
【0105】
第1項に記載の走査型プローブ顕微鏡によれば、複数の画像データにそれぞれ対応する複数の走査範囲を設定するためのユーザの入力作業を単純化することができるため、ユーザの作業負担を低減することができる。
【0106】
(第2項)第1項に記載の走査型プローブ顕微鏡において、試料は、粉体を含む試料である。データ処理部は、走査範囲の間隔に対応する変数の下限値を、粉体の標準粒子径に設定する。
【0107】
第2項に記載の走査型プローブ顕微鏡によれば、隣接する2つの走査範囲において同一の粒子が重複して観察されることを防止できる。これによると、各観察視野内に存在する粒子数を正確に算出することができる。
【0108】
(第3項)第1項に記載の走査型プローブ顕微鏡において、試料は、粉体を含む試料である。データ処理部は、走査範囲の間隔を、粉体の標準粒子径以上の所定値に設定する。データ処理部は、走査範囲および最大視野数の2つの変数のうちのいずれか1つの変数のユーザ入力を受け付けると、受け付けた1つの変数に基づいて、2つの変数の残りの1つの変数を算出する。
【0109】
第3項に記載の走査型プローブ顕微鏡によれば、複数の画像データにそれぞれ対応する複数の走査範囲を設定するためのユーザの入力作業を単純化することができるため、ユーザの作業負担を軽減することができる。さらに、隣接する2つの走査範囲において同一の粒子が重複して観察されることを防止できるため、各観察視野内に存在する粒子数を正確に算出することができる。
【0110】
(第4項)第1項から第3項のいずれかに記載の走査型プローブ顕微鏡において、データ処理部は、最大走査範囲の中心に走査範囲を配置した状態で、最大走査範囲内に、互いに前記間隔をあけて配置することができる走査範囲の数を、最大視野数として算出する。
【0111】
第4項に記載の走査型プローブ顕微鏡によれば、最大走査範囲内には、最大走査範囲の中心に対してX,Yの各軸方向に均等に走査範囲が配置されることになる。これにより、観察対象領域を、複数の走査範囲(観察視野)によって満遍なく観察することが可能となる。
【0112】
(第5項)第1項から第4項のいずれかに記載の走査型プローブ顕微鏡において、データ処理部は、最大視野数に基づいた複数の画像データの取得枚数に対するユーザ入力を受け付けたときに、取得枚数の画像データの取得順序を設定するように構成される。データ処理部は、1番目に取得する画像データの走査範囲を指定するユーザ入力を受け付けると、1番目の画像データの走査範囲の位置に基づいて、2番目以降の画像データの取得順序を設定する。
【0113】
第5項に記載の走査型プローブ顕微鏡によれば、複数の画像データの取得順序を設定するためのユーザの入力作業を単純化することができるため、ユーザの作業負担を軽減することができる。また、複数の試料を観察する場合において、1番目に取得する画像データの走査範囲を指定すると、複数の試料間で画像データの取得順序を統一させることができる。これによると、複数の試料間で観察する領域を統一させることができる。
【0114】
(第6項)第5項に記載の走査型プローブ顕微鏡において、データ処理部は、2番目以降の画像データの取得順序を設定するとき、取得枚数の画像データを取得するためのスキャナの水平方向における移動距離が最短になるように、取得順序を設定する。
【0115】
第6項に記載の走査型プローブ顕微鏡によれば、オープンループ制御によるスキャナの移動量が目標値に対してずれることを抑制できるため、観察視野の移動による影響を低減することができる。
【0116】
(第7項)一態様に係るプログラムは、第1項から第6項に記載のデータ処理部を有するコンピュータを用いて、試料の観察対象領域の前記観察画像を取得するためのプログラムである。
【0117】
第7項に記載のプログラムによれば、複数の画像データにそれぞれ対応する複数の走査範囲を設定するためのユーザの入力作業を単純化することができるため、ユーザの作業負担を低減することができる。
【0118】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0119】
1 光学系、2 カンチレバー、3 探針、4 ホルダ、5 ビームスプリッタ、6 レーザ光源、7 反射鏡、8 光検出器、10 観察装置、12 スキャナ、12xy XYスキャナ、12z Zスキャナ、14 試料保持部、15 基板、16 XY方向駆動部、18 Z方向駆動部、20 情報処理装置、22 フィードバック信号発生部、24 走査信号発生部 26 データ処理部、28 記憶部、30 表示装置、40 入力装置、50,52,52A,54,56,58,60,70,72 タブ、100 走査型プローブ顕微鏡、160 CPU,162 ROM、164 RAM、166 HDD、168 通信I/F、170 表示I/F、172 入力I/F、R 走査範囲、Rmax 最大走査範囲、D 間隔。
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