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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-25
(45)【発行日】2025-03-05
(54)【発明の名称】ポリエステルエラストマー樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20250226BHJP
   C08G 63/189 20060101ALI20250226BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20250226BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20250226BHJP
   B32B 1/08 20060101ALI20250226BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20250226BHJP
   F16L 11/04 20060101ALI20250226BHJP
【FI】
C08L67/02
C08G63/189
C08L63/00 A
C08L79/08 Z
B32B1/08 B
B32B27/36
F16L11/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024522617
(86)(22)【出願日】2024-03-21
(86)【国際出願番号】 JP2024011085
【審査請求日】2024-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2023057165
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤石 卓也
(72)【発明者】
【氏名】鮎澤 佳孝
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-241265(JP,A)
【文献】国際公開第2007/072748(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/138548(WO,A1)
【文献】特開2000-154890(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08G
B32B
F16L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジカルボン酸と脂肪族及び/又は脂環族ジオールとを構成成分とするポリエステルからなるハードセグメントと、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル、及び脂肪族ポリカーボネートから選ばれる少なくとも1種のソフトセグメントが結合した熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)を含有するポリエステルエラストマー樹脂組成物であって、
前記ハードセグメントが、芳香族ジカルボン酸成分としてナフタレンジカルボン酸成分を含有し、
前記ハードセグメントを構成するポリエステル中、ブチレンナフタレート単位の含有率が50~100質量%であり、
前記ソフトセグメントの含有量は、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)中5~22質量%であり、
測定温度:250℃、荷重:2.16kgで測定した際のメルトフローレート(MFR)が、15g/10分以下である、ポリエステルエラストマー樹脂組成物。
【請求項2】
前記ハードセグメントが、芳香族ジカルボン酸成分として、2,6-ナフタレンジカルボン酸成分を含有し、
前記2,6-ナフタレンジカルボン酸成分の量が、ハードセグメントを構成する全ジカルボン酸成分の合計100モル%中、85モル%以上である、請求項1に記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)を50質量%以上含む、請求項1に記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物。
【請求項4】
前記樹脂組成物が増粘剤(B)を含み、
前記増粘剤(B)が、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)の末端基と反応し得る官能基を少なくとも一つ有する、請求項1に記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物。
【請求項5】
前記官能基が、エポキシ基、酸無水物基、カルボジイミド基およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも一種である、請求項に記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~のいずれかに記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物から形成される層を少なくとも1層有する管状成形体。
【請求項7】
請求項1~のいずれかに記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物から形成される層を少なくとも1層有する燃料チューブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料バリア性、耐熱老化性、耐油性、及び柔軟性に優れた熱可塑性ポリエステルエラストマーおよび、その成形体に関するものであり、チューブ、ホース等の管状成形体に用いられる熱可塑性ポリエステルエラストマーに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルエラストマーは、優れた柔軟性、耐熱性、耐油性、耐薬品性、機械的特性、電気的特性等を備えていることから、電気・電子部品、自動車及び他の機械部品、OA、家電製品及びその他の製品・部品等種々の用途に幅広く利用されている。特に、チューブ、ホース等の管状成形体の用途においては、上記特性に加えて、熱可塑の特徴を生かした成形容易性を有することから、ポリエステルエラストマーが使用されている。
【0003】
例えば、内層、補強層及び外層等からなる管状に積層してなるホース・チューブや単層からなる管状のホース・チューブ等は、これらの内層、外層又は、単層を加硫ゴムや熱可塑樹脂で構成し、補強層は繊維、スチール又はステンレス等の鋼線をブレード状又はスパイラル状に編組し、必要に応じてゴム引き等の接着処理を施したもの等が用いられている。しかしながら、内外層にゴムを使用した場合には、加硫工程が必要になり製造工程が煩雑となる。また、内外層に熱可塑性樹脂を用いた場合には、柔軟性に乏しく、樹脂によっては融点が低く耐熱性が劣る問題があった。かかる問題を解決する提案として、ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、ポリテトラメチレングリコールおよび/またはポリカプロラクトンをソフトセグメントとする共重合エラストマー中にアクリル基含有ゴムの加硫組成物が分散した熱可塑性エラストマーで内層を構成したホース(特許文献1)や、ポリアミドエラストマーやポリエステルエラストマー内層/補強層/ウレタンエラストマー外層からなる油圧配管用ホース等が知られている。
【0004】
しかしながら、従来のポリエステルエラストマーでは耐水性、耐熱老化性が乏しく、表面硬度60A~60Dの硬さのポリエステルエラストマーでは、高温の油・薬品による膨潤や劣化が著しい。ポリアミドエラストマーでは、柔軟性に乏しく、高温の油・薬品による膨潤も著しい。またポリウレタンエラストマーの場合には、油による膨潤は他のエラストマーと比較してやや低いものの、軟化温度が低いといった問題があり、従来の熱可塑性エラストマーでは、近年の市場の要求を満足することは出来なかった。
【0005】
かかる問題の解決策として、ハードセグメントにおける酸成分としてナフタレンジカルボン酸を含有するポリエステルエラストマーを用いたホースが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平6-64102号公報
【文献】特開2000-95848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、近年のVOC排出規制の強化に伴い、燃料ホース材料には、燃料蒸発ガスの透過抑制がより一層求められると同時に、劣化したホースからの燃料流出を防止するために耐熱老化性への要求もより厳しくなっている。さらに、燃料による膨潤の抑制等も含め、更なる性能向上が求められている。しかしながら、上記のポリエステルエラストマーは、これら問題について検討が不十分であった。
【0008】
本発明は、上記従来技術の現状に鑑みなされたものであり、その目的は、燃料蒸発ガスの透過を抑制し、耐熱老化性、耐油性及び柔軟性(特に低温柔軟性)にも優れる管状成形体を形成可能なポリエステルエラストマー樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ハードセグメントにナフタレンジカルボン酸成分を含有するポリエステルエラストマー樹脂組成物において、ソフトセグメント比率、及びMFRを所定の範囲に調整することで、上記課題を全て解決することを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は以下の構成を有するものである。
[1] 芳香族ジカルボン酸と脂肪族及び/又は脂環族ジオールとを構成成分とするポリエステルからなるハードセグメントと、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル、及び脂肪族ポリカーボネートから選ばれる少なくとも1種のソフトセグメントが結合した熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)を含有するポリエステルエラストマー樹脂組成物であって、
前記ハードセグメントが、芳香族ジカルボン酸成分としてナフタレンジカルボン酸成分を含有し、
前記ソフトセグメントの含有量は、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)中5~22質量%である、ポリエステルエラストマー樹脂組成物。
[2] 測定温度:250℃、荷重:2.16kgで測定した際のメルトフローレート(MFR)が、15g/10分以下である、[1]に記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物。
[3] 前記ハードセグメントが、芳香族ジカルボン酸成分として、2,6-ナフタレンジカルボン酸成分を含有し、
前記2,6-ナフタレンジカルボン酸成分の量が、ハードセグメントを構成する全ジカルボン酸成分の合計100モル%中、85モル%以上である、[1]又は[2]に記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物。
[4] 前記ハードセグメントを構成する脂肪族及び/又は脂環族ジオール成分が、脂肪族ジオール成分であり、
前記脂肪族ジオール成分が、炭素数2~8のアルキレングリコール類成分である、[1]~[3]のいずれかに記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物。
[5] 前記ハードセグメントが、ブチレンナフタレート単位を有し、
前記ブチレンナフタレート単位の含有率が、ハードセグメントを構成するポリエステル中、80質量%以上である、[1]~[4]のいずれかに記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物。
[6] 前記ソフトセグメントが脂肪族ポリエーテルである、[1]~[5]のいずれかに記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物。
[7] 前記脂肪族ポリエーテルが、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール及びポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物から選択される少なくとも1種である、[6]に記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物。
[8] 前記樹脂組成物が増粘剤(B)を含み、
前記増粘剤(B)が、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)の末端基と反応し得る官能基を少なくとも一つ有する、[1]~[7]のいずれかに記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物。
[9] 前記官能基が、エポキシ基、酸無水物基、カルボジイミド基およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも一種である、[8]に記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物。
[10] 前記増粘剤(B)が、多官能エポキシ化合物及び/又はポリカルボジイミド化合物である、[8]に記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物。
[11] 前記増粘剤(B)が、2官能のエポキシ化合物、3官能のエポキシ化合物、及び1分子あたり5~30個のカルボジイミド基を含有するポリカルボジイミド化合物からなる群より選択される少なくとも1種である、[8]に記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物。
[12] [1]~[11]のいずれかに記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物から形成される層を少なくとも1層有する管状成形体。
[13] 前記管状成形体が、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)以外の熱可塑性ポリエステルエラストマー(C)から形成される層をさらに有し、
前記熱可塑性ポリエステルエラストマー(C)が、テレフタル酸と脂肪族及び/又は脂環族ジオールとを構成成分とするポリエステルからなるハードセグメントと、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル、及び脂肪族ポリカーボネートから選ばれる少なくとも1種のソフトセグメントが結合した熱可塑性ポリエステルエラストマーである、[12]に記載の管状成形体。
[14] [1]~[11]のいずれかに記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物から形成される層を少なくとも1層有するホース。
[15] [1]~[11]のいずれかに記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物から形成される層を少なくとも1層有する燃料チューブ。
[16] [1]~[11]のいずれかに記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物からなるホース。
[17] [1]~[11]のいずれかに記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物からなる燃料チューブ。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物は、燃料蒸発ガスのバリア性(以下、単に「燃料バリア性」という場合がある)、耐熱老化性、耐油性、及び柔軟性(特に低温柔軟性)が高められているため、燃料チューブをはじめとする管状成形体用途に適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物について詳述する。
【0013】
[熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)]
前記熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)は、ハードセグメントとソフトセグメントが結合してなる。ハードセグメントは、芳香族ジカルボン酸と脂肪族及び/又は脂環族ジオールとを構成成分とするポリエステルからなる。
【0014】
前記ハードセグメントは、芳香族ジカルボン酸成分として、ナフタレンジカルボン酸成分を含有する。これにより、燃料バリア性が高められ、また、耐熱性、耐水性、耐熱老化性、耐油性、及び耐薬品性も高められる。前記構成成分となるナフタレンジカルボン酸としては、具体的に、2,3-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等が挙げられるが、中でも2,6-ナフタレンジカルボン酸が好ましい。
【0015】
ナフタレンジカルボン酸(好ましくは、2,6-ナフタレンジカルボン酸)成分の含有量は、ハードセグメントのポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分の合計100モル%中、例えば50モル%以上であり、70モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、85モル%以上であることがさらに好ましく、90モル%以上であることが特に好ましい。
【0016】
なお前記ナフタレンジカルボン酸成分は、例えば、ナフタレンジカルボン酸、その塩、又はナフタレンジカルボン酸エステルを原料とするエステル合成によって導入されるものである。前記原料としてはナフタレンジカルボン酸エステルを用いることが好ましく、該ナフタレンジカルボン酸エステルとしては、ナフタレンジカルボン酸のモノアルキルエステル、ナフタレンジカルボン酸のジアルキルエステルが挙げられ、ナフタレンジカルボン酸と炭素数1~4のアルキルアルコールとのジエステルが好ましく、より好ましくはナフタレンジカルボン酸ジメチルエステルである。
【0017】
前記ハードセグメントは、ナフタレンジカルボン酸以外のジカルボン酸(以下、その他のジカルボン酸)成分を有していてもよい。前記構成成分となるその他のジカルボン酸としては、テレフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、イソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸等のナフタレンジカルボン酸以外の芳香族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキセンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸;コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸;等が挙げられる。これらは、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)の融点を大きく低下させない範囲で用いられることができる。なお、ポリエステルを構成するジカルボン酸(成分)は、単独でもよく、2種以上を組み合わせてもよい。前記その他のジカルボン酸成分は、例えば、その他のジカルボン酸、その他のジカルボン酸エステル、その他のジカルボン酸の塩、又はその他のジカルボン酸の無水物を原料とするエステル合成によって導入すればよい。
【0018】
また、前記熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)において、ハードセグメントのポリエステルを構成する成分となる脂肪族又は脂環族ジオールとしては、一般の脂肪族又は脂環族ジオールが広く用いられる。前記構成成分となる脂肪族ジオールとしては、特に限定されないが、アルキレングリコール類(例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール)等の脂肪族グリコールが挙げられる。また、前記構成成分となる脂環族ジオールとしては、特に限定されないが、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジオール等の脂環族グリコールが挙げられる。これらジオール(成分)は、単独でもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0019】
前記脂肪族及び/又は脂環族ジオール(成分)としては、脂肪族ジオールが好ましく、炭素数2~8のアルキレングリコール類であることがより好ましく、炭素数2~4のアルキレングリコール類であることがさらに好ましい。より具体的には、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、及び1,4-シクロヘキサンジメタノールからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、及び1,4-シクロヘキサンジメタノールからなる群から選択される少なくとも1種がより好ましく、エチレングリコール及び/又は1,4-ブタンジオールがさらに好ましい。
【0020】
上記のハードセグメントのポリエステルを構成する単位としては、ブチレンナフタレート単位(例えば、2,6-ナフタレンジカルボン酸と1,4-ブタンジオールからなる単位)よりなるものが、物性、成形性、コストパフォーマンスの点から特に好ましい。前記ブチレンナフタレート単位の含有率は、ハードセグメントを構成するポリエステル中、50~100質量%であることが好ましく、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。
【0021】
前記熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)は、ハードセグメントを構成するポリエステルとして好適な芳香族ポリエステルを事前に製造し、その後ソフトセグメント成分と共重合させることにより製造してもよい。この場合、芳香族ポリエステルは、通常のポリエステルの製造法に従って容易に得ることができる。かかる芳香族ポリエステルは、数平均分子量4,000~100,000を有しているものが望ましい。
【0022】
前記熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)のソフトセグメントは、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル、及び脂肪族ポリカーボネートから選ばれる少なくとも1種である。
【0023】
前記ソフトセグメントを構成する脂肪族ポリエーテルとしては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール(ポリテトラメチレングリコールという場合もある)、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体等の、炭素数2~10のアルカンジオールの1種または2種以上を構成単位とするポリエーテルが挙げられる。これらの中でも、弾性特性の点から、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール及びポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0024】
前記ソフトセグメントを構成する脂肪族ポリエーテル(好ましくは、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール)の数平均分子量は、良好なエラストマー特性を付与する観点から、500以上が好ましく、より好ましくは800以上、さらに好ましくは1000以上である。また、ハードセグメント成分との相溶性が低下すると、ブロック状に共重合することが難しくなる場合がある。そこで、ハードセグメント成分との相溶性を高める観点から、前記脂肪族ポリエーテル(好ましくは、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール)の数平均分子量は、4000以下が好ましく、より好ましくは3000以下、さらに好ましくは2500以下である。すなわち、前記脂肪族ポリエーテル(好ましくは、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール)の数平均分子量は、500~4000が好ましく、より好ましくは800~3000、さらに好ましくは1000~2500である。
【0025】
前記ソフトセグメントを構成する脂肪族ポリエステルとしては、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、ポリブチレンアジペート等の、エステル基と炭素数2~12のアルキレン基とが繰り返す脂肪族ポリエステルが挙げられる。これらの中でも、弾性特性の点から、ポリ(ε-カプロラクトン)及びポリブチレンアジペートから選択される少なくとも1種が好ましい。
【0026】
前記脂肪族ポリエステルの数平均分子量は、良好なエラストマー特性を付与する観点から、300以上が好ましく、より好ましくは500以上、さらに好ましくは700以上である。また、ハードセグメント成分との相溶性を高める観点から、前記脂肪族ポリエステルの数平均分子量は、5000以下が好ましく、より好ましくは4000以下、さらに好ましくは2000以下である。すなわち前記脂肪族ポリエステルの数平均分子量は、300~5000が好ましく、より好ましくは500~4000以上、さらに好ましくは700~2000である。
【0027】
前記ソフトセグメントを構成する脂肪族ポリカーボネートとしては、炭酸単位と脂肪族ジオール単位とから構成される樹脂が挙げられ、主として炭素数2~12の脂肪族ジオール残基を含むものであることが好ましい。これらの脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール等が挙げられる。特に、得られる熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)の柔軟性や低温特性をより高める点から、炭素数5~12の脂肪族ジオールが好ましい。これらの成分は、単独で用いてもよいし、必要に応じて2種以上を併用してもよい。
【0028】
前記脂肪族ポリカーボネートの数平均分子量は、5000以上が好ましく、7000以上がより好ましく、10000以上がさらに好ましい。該脂肪族ポリカーボネートの数平均分子量の上限は、ハードセグメントとソフトセグメントの相溶性の観点より80000以下が好ましく、70000以下がより好ましく、60000以下がさらに好ましい。該脂肪族ポリカーボネートの分子量が大きすぎると相溶性が低下し、相分離を起こし、成形品の機械的性質に大きく影響を及ぼし、成形品の強度、伸度を低下させる場合がある。すなわち、前記脂肪族ポリカーボネートの数平均分子量は、5000~80000が好ましく、7000~70000がより好ましく、10000~60000がさらに好ましい。
【0029】
低温特性をより高める観点からは、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)のソフトセグメントを構成する脂肪族ポリカーボネートとしては、融点が低く(例えば、70℃以下)かつ、ガラス転移温度が低い(例えば、-40℃以下)ものが好ましい。一般に、熱可塑性ポリエステルエラストマーのソフトセグメントを形成するのに用いられる、炭酸単位と1,6-ヘキサンジオール単位とから構成される脂肪族ポリカーボネートは、ガラス転移温度が-60℃前後と低く、融点も50℃前後となるため、低温特性が良好なものとなる。その他にも、上記脂肪族ポリカーボネートに、例えば、3-メチル-1,5-ペンタンジオールを適当量共重合して得られる脂肪族ポリカーボネートは、元の脂肪族ポリカーボネートに対してガラス転移点が若干高くなるものの、融点が低下もしくは非晶性となるため、低温特性が良好である。また、例えば、炭酸単位と1,9-ノナンジオール単位と2-メチル-1,8-オクタンジオール単位からなる脂肪族ポリカーボネートは、融点が30℃程度、ガラス転移温度が-70℃前後と十分に低いため、低温特性が良好である。
【0030】
前記熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)のソフトセグメントとしては、燃料バリア性、耐熱老化性、耐油性及び柔軟性をより高める観点から、脂肪族ポリエーテルが好ましい。
【0031】
前記熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)において、ソフトセグメントの含有量は、5質量%以上であり、好ましくは10質量%以上である。ソフトセグメントの含有量を上記範囲に調整することで、結晶性が高くなりすぎることを抑制し、柔軟性(特に低温柔軟性)をより高めることができ、永久変形が生じにくくなる。またソフトセグメントの含有量は、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)中、22質量%以下であり、好ましくは20質量%以下、より好ましくは18質量%以下であり、17.0質量%以下であってもよい。ソフトセグメントの含有量を上記範囲に調整することで、燃料バリア性及び耐油性をより高めることができ、さらに適切な結晶性を付与することができる。すなわち前記熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)において、ソフトセグメントの含有量は、5~22質量%であり、好ましくは10~20質量%、より好ましくは10~18質量%であり、10~17.0質量%であってもよい。
【0032】
一方、耐熱性、引裂き強度を特に優れたものにするためには、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)において、ハードセグメントの含有量は、78~95質量%が好ましく、より好ましくは80~90質量%、さらに好ましくは82~90質量%であり、83.0~90質量%であってもよい。
【0033】
熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0034】
前記熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)の融点の下限は特に限定はないが、高温度領域での特性(例えば、引張破断強度、引裂き強度、突き刺し強度等)を高める観点から、一般的には150℃以上が好ましく、180℃以上がより好ましい。また、前記熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)の融点の上限も特に限定はないが、成形性の観点から、260℃以下が好ましく、240℃以下がより好ましい。すなわち、前記熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)の融点は、150~260℃が好ましく、180~240℃がより好ましい。なお前記融点は、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0035】
なお、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)が2種以上の熱可塑性ポリエステルエラストマーを含む場合、融点が複数観察される場合がある。その際、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)の融点は、以下のように定めればよい。
すなわち、2種以上の熱可塑性ポリエステルエラストマーを含み、融点が複数存在しており、複数の融点の最大値と最小値の差が15℃以内の場合、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)の融点はその加重平均値とすればよい。
また、2種以上の熱可塑性ポリエステルエラストマーを含み、融点が複数存在しており、複数の融点の最大値と最小値の差が15℃超えである場合、最も高い融点を熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)の融点とすればよい。
【0036】
前記熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)の還元粘度は、耐熱老化性等の耐久性を高める観点から、1.0dl/g以上が好ましく、より好ましくは1.2dl/g以上である。また、加工性の観点からは、4.0dl/g以下が好ましく、より好ましくは3.7dl/g以下である。すなわち、前記熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)の還元粘度は、1.0~4.0dl/gが好ましく、より好ましくは1.2~3.7dl/gである。なお前記還元粘度は、後述の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0037】
本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物は、前記熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)を主成分として含むことが好ましい。ポリエステルエラストマー樹脂組成物中、前記熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)の含有量は、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上が特に好ましい。前記含有量の上限は特に限定されないが、100質量%であってもよく、99質量%以下であってもよい。
【0038】
ポリエステルエラストマー樹脂組成物の組成、及び組成比を決定する方法としては、原料の使用量から算出してもよいし、試料を重クロロホルム等の溶剤に溶解して測定する1H-NMRのプロトン積分比から算出することも可能である。
【0039】
前記熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)は、公知の方法で製造することができる。例えば、ジカルボン酸と低級アルコールとのジエステル、ジオール、およびソフトセグメント成分を触媒の存在下エステル交換反応させ、得られる反応生成物を重縮合する方法、ジカルボン酸とジオールおよびソフトセグメント成分を触媒の存在下でエステル化反応させ、得られる反応生成物を重縮合する方法、あらかじめハードセグメントのポリエステルを作っておき、これにソフトセグメント成分を添加してエステル交換反応によりランダム化させる方法、ハードセグメントとソフトセグメントを鎖連結剤でつなぐ方法、さらにポリ(ε-カプロラクトン)をソフトセグメントに用いる場合は、ハードセグメントにε-カプロラクトンモノマーを付加反応させる方法等のいずれの方法をとってもよい。
【0040】
前記熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)の反応に用いる触媒としては、アンチモン触媒、ゲルマニウム触媒、及びチタン触媒から選択される少なくとも1種が良好である。特にチタン触媒、詳しくはテトラブチルチタネ-ト、テトラメチルチタネート等のテトラアルキルチタネート、シュウ酸チタンカリ等のシュウ酸金属塩等が好ましい。またその他の触媒としては公知の触媒であれば特に限定されないが、ジブチルスズオキサイド、ジブチルスズジラウリレート等のスズ化合物、酢酸鉛等の鉛化合物が挙げられる。
【0041】
本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物は、前記熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)とは異なる樹脂(以下、他の樹脂という場合がある)を1種又は2種以上含んでいてもよい。前記他の樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)以外の熱可塑性エラストマー樹脂等が挙げられ、中でもポリエステル系樹脂が好ましい。
【0042】
ポリエステル系樹脂としては、芳香族ジカルボン酸と脂肪族及び/又は脂環族ジオールとを構成成分とするポリエステルであることが好ましい。
【0043】
前記芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、イソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸等が挙げられ、なかでも、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸が好ましく、ナフタレンジカルボン酸がより好ましい。
前記ポリエステル系樹脂は、芳香族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分を有していてもよく、前記構成成分となるジカルボン酸としては、シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキセンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸;コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸;等が挙げられる。
芳香族ジカルボン酸成分の含有量は、前記ポリエステル系樹脂を構成する全ジカルボン酸成分の合計100モル%中、例えば50モル%以上であり、70モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、85モル%以上であることがさらに好ましく、90モル%以上であることが特に好ましい。
【0044】
前記脂肪族又は脂環族ジオールとしては、前記熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)において、ハードセグメントのポリエステルを構成する成分となる脂肪族又は脂環族ジオールとして説明したものと同様であり、その好ましい態様も同様である。
前記脂肪族及び脂環族ジオール成分の含有量は、前記ポリエステル系樹脂を構成する全ジオール成分の合計100モル%中、例えば50モル%以上であり、70モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、85モル%以上であることがさらに好ましく、90モル%以上であることが特に好ましい。
【0045】
特に、前記ポリエステル系樹脂は、ブチレンテレフタレート単位(例えば、テレフタル酸と1,4-ブタンジオールからなる単位)及び/又はブチレンナフタレート単位(例えば、ナフタレンジカルボン酸と1,4-ブタンジオールからなる単位)を含むことが好ましく、ブチレンナフタレート単位を含むことがより好ましい。
【0046】
本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物が他の樹脂を含有する場合、その含有量は、前記熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)100質量部に対し、1~50質量部であることが好ましく、より好ましくは5~35質量部である。
【0047】
[増粘剤(B)]
本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物は、さらに増粘剤(B)を有していてもよい。前記増粘剤(B)は、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)の持つヒドロキシ基あるいはカルボキシ基と反応し得る官能基を有する反応性化合物である。増粘剤(B)がヒドロキシ基あるいはカルボキシ基と反応し得る官能基を有することにより、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)の分子鎖を延長させ、ポリエステルエラストマー樹脂組成物のメルトフローレートを小さくすることができる。
【0048】
前記官能基としては、エポキシ基(好ましくはグリシジル基)、酸無水物基、カルボジイミド基およびイソシアネート基から選ばれる少なくとも一種であることが好ましく、エポキシ基(好ましくはグリシジル基)及びカルボジイミド基から選ばれる少なくとも一種であることがより好ましく、エポキシ基(好ましくはグリシジル基)がさらに好ましい。該官能基は、増粘剤(B)1分子あたり2個以上含有することが好ましく、より好ましくは2~50個、さらに好ましくは2~20個である。
【0049】
増粘剤(B)が、エポキシ基を持つ化合物の場合、増粘剤(B)は2つ以上のエポキシ基を持つ多官能エポキシ化合物であることが好ましい。前記多官能エポキシ化合物としては、具体的に、1,6-ジハイドロキシナフタレンジグリシジルエーテル、1,3-ビス(オキシラニルメトキシ)ベンゼン等の1分子中に2つのエポキシ基を持つ2官能のエポキシ化合物;1,3,5-トリス(2,3-エポキシプロピル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、ジグリセロールトリグリシジルエーテル等の1分子中に3つのエポキシ基を持つ3官能のエポキシ化合物;1-クロロ-2,3-エポキシプロパン・ホルムアルデヒド・2,7-ナフタレンジオール重縮合物、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル等の1分子中に4つのエポキシ基を持つ4官能のエポキシ化合物;等が挙げられる。中でも、耐熱性の観点から、ナフタレン構造を骨格に持つ2官能又は4官能のエポキシ化合物、或いはトリアジン構造を骨格に持つ3官能のエポキシ化合物が好ましい。熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)の溶液粘度をゲル化しない程度に適切に高める効果や、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)の酸価を効率良く低下させる効果や、エポキシ自身の凝集・固化によるゲル発生を抑制する効果を考慮すると、2官能または3官能のエポキシ化合物が好ましい。
【0050】
その他にも、エポキシ基を有する増粘剤(B)としては、グリシジル基を1分子あたり2個以上含有し、重量平均分子量が4000~25000であり、かつ(X)20~99質量%のビニル芳香族モノマー、(Y)1~80質量%エポキシ基含有(メタ)アクリレート、および(Z)0~79質量%のエポキシ基を含有していない(X)以外のビニル基含有モノマーからなる共重合体を挙げることができる。
【0051】
前記共重合体としては、好ましくは(X)が20~99質量%、(Y)が1~80質量%、(Z)が0~79質量%からなる共重合体であり、より好ましくは(X)が20~99質量%、(Y)が1~80質量%、(Z)が0~40質量%からなる共重合体であり、さらに好ましくは(X)が25~90質量%、(Y)が10~75質量%、(Z)が0~35質量%からなる共重合体である。これらの組成は、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)との反応に寄与する官能基濃度に影響するため、前記範囲に適切に制御することが好ましい。
【0052】
前記(X)ビニル芳香族モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン等のスチレン系モノマー;(メタ)アクリル酸フェニル等の(メタ)アクリル酸アリールエステル;(メタ)アクリル酸ベンジル等の(メタ)アクリル酸アラルキルエステル;(メタ)アクリル酸フェノキシエチル等の(メタ)アクリル酸フェノキシアルキルエステル等が挙げられる。(X)ビニル芳香族モノマーとしてスチレン系モノマーを用いることにより、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)との相溶性が良好となり、得られるポリエステルエラストマー樹脂組成物の分子量分布がより広くなる点で好ましい。
前記(Y)エポキシ基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジルやシクロヘキセンオキシド構造を有する(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルグリシジルエーテル等が挙げられ、これらの中でも、反応性の高い点で(メタ)アクリル酸グリシジルが好ましい。
前記(Z)その他のビニル基含有モノマーとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル等の炭素数が1~22のアルキル基(アルキル基は直鎖、分岐鎖でもよい)を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ポリアルキレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルエステル、(メタ)アクリル酸イソボルニルエステル、(メタ)アクリル酸アルコキシシリルアルキルエステル等が挙げられる。また(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルジアルキルアミド、酢酸ビニル等のビニルエステル類、ビニルエーテル類、エチレン、プロピレン等のα-オレフィンモノマー等も前記(Z)その他のビニル基含有モノマーとして使用可能である。
【0053】
前記共重合体の重量平均分子量は、4000~25000であることが好ましく、より好ましくは5000~15000である。重量平均分子量を4000以上に調整することで、未反応の共重合体が成形工程で揮発し、もしくは成形体表面にブリードアウトし、成形体表面の汚染を引き起こすことを抑制できる。一方、重量平均分子量を25000以下に調整することで、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)との反応が良好となり分子量増大効果が高められるだけでなく、共重合体と熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)との相溶性が向上するため、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)が本来持つ耐熱性等の特性が低下することを抑制できる。
【0054】
前記共重合体のエポキシ価は、400~2500当量/1×106gであることが好ましく、より好ましくは500~1500当量/1×106g、さらに好ましくは600~1000当量/1×106gである。エポキシ価を400当量/1×106g以上に調整することで、増粘の効果をより高めることができ、一方、2500当量/1×106g以下に調整することで、増粘効果が過剰となり成形性に悪影響を与えることを抑制できる。
【0055】
増粘剤(B)が、カルボジイミド基を持つ化合物の場合、ポリカルボジイミド化合物を好適に使用することができる。ポリカルボジイミド化合物は、効率良く酸価を低減させる点で有利である。
【0056】
前記ポリカルボジイミド化合物とは、1分子内にカルボジイミド基(-N=C=N-の構造)を2つ以上有するポリカルボジイミドであればよく、例えば、脂肪族ジイソシアネート由来の脂肪族ポリカルボジイミド、脂環族ジイソシアネート由来の脂環族ポリカルボジイミド、芳香族ジイソシアネート由来の芳香族ポリカルボジイミドや、これらの共重合体等が挙げられる。好ましくは脂肪族ポリカルボジイミド又は脂環族ポリカルボジイミドである。
【0057】
ポリカルボジイミド化合物としては、例えば、ジイソシアネート化合物の脱二酸化炭素反応により得ることができる。ここで使用できるジイソシアネート化合物としては、例えば、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、1,3,5-トリイソプロピルフェニレン-2,4-ジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート;等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよいし、2種以上を共重合させて用いることもできる。また、分岐構造を導入したり、カルボジイミド基やイソシアネート基以外の官能基を共重合により導入したりしてもよい。さらに、末端のイソシアネートはそのままでも使用可能であるが、末端のイソシアネートを反応させることにより重合度を制御してもよいし、末端イソシアネートの一部を封鎖してもよい。
【0058】
前記ポリカルボジイミド化合物としては、特に、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等に由来する脂環族ポリカルボジイミドが好ましく、特に、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートやイソホロンジイソシアネートに由来するポリカルボジイミドが好ましい。
【0059】
前記ポリカルボジイミド化合物は、安定性と取り扱い性の観点から、1分子あたり2~50個のカルボジイミド基を含有することが好ましく、1分子あたり5~30個のカルボジイミド基を含有することがより好ましい。ポリカルボジイミド化合物1分子中のカルボジイミドの個数(すなわちカルボジイミド基数)は、ジイソシアネート化合物から得られたポリカルボジイミド化合物であれば、重合度に相当する。例えば、21個のジイソシアネート化合物が鎖状につながって得られたポリカルボジイミド化合物の重合度は20であり、分子鎖中のカルボジイミド基数は20である。通常、ポリカルボジイミド化合物は、種々の長さの分子の混合物であり、カルボジイミド基数は、平均値で表される。前記範囲のカルボジイミド基数を有することにより、室温付近で固形となりやすくなり、その結果粉末化できるので、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)との混合時の作業性や相溶性に優れ、均一反応性、耐ブリードアウト性の点でも好ましい。なお、カルボジイミド基数は、例えば、常法(アミンで溶解して塩酸で逆滴定を行う方法)を用いて測定できる。
【0060】
ポリカルボジイミド化合物は、安定性と取り扱い性の観点から、末端にイソシアネート基を有することが好ましく、イソシアネート基含有率が0.5~4質量%であるポリカルボジイミド化合物であることがより好ましく、イソシアネート基含有率が1~3質量%であるポリカルボジイミド化合物であることがさらに好ましい。特に、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートやイソホロンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネートに由来するポリカルボジイミドであって、前記範囲のイソシアネート基含有率を有する化合物が好ましい。なお、イソシアネート基含有率は常法(アミンで溶解して塩酸で逆滴定を行う方法)を用いて測定できる。
【0061】
増粘剤(B)が、イソシアネート基を持つ化合物の場合、上記した末端にイソシアネート基を含有するポリカルボジイミド化合物や、上記したポリカルボジイミド化合物の原料となる脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネート等のイソシアネート化合物を挙げることができる。
【0062】
増粘剤(B)が、酸無水物基を持つ化合物の場合、1分子あたり、2~4個の無水物を含有する化合物が、安定性と取り扱い性の点で好ましい。このような化合物として例えば、フタル酸無水物や、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸無水物等が挙げられる。
【0063】
増粘剤(B)は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0064】
増粘剤(B)の含有量は、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上である。増粘剤(B)の量を上記範囲に調整することで、目標とした分子鎖延長効果を奏することができる。なお、ポリエステルエラストマー樹脂組成物のメルトフローレートが所定の範囲であれば、増粘剤(B)の含有量は0質量部であってもよい。
また、増粘剤(B)の含有量は、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)100質量部に対して、好ましくは4.5質量部以下であり、より好ましくは4質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下、特に好ましくは2質量部以下である。増粘剤(B)の量を上記範囲に調整することで、増粘効果が過剰となることを抑制でき、成形性や機械的特性が向上する。また増粘剤(B)がエポキシ基を有する化合物の場合、増粘剤(B)の量を上記範囲に調整することで、エポキシ基を有する化合物の凝集硬化によって成形体表面に凸凹が生じることを抑制できる。また増粘剤(B)がカルボジイミド基を有する化合物の場合、増粘剤(B)の量を上記範囲に調整することで、カルボジイミド基を有する化合物の塩基性により熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)の加水分解が生じ機械的特性に悪影響を与えることを抑制できる。すなわち、増粘剤(B)の含有量は、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)100質量部に対して、0~4.5質量部であることが好ましく、より好ましくは0.1~4質量部、さらに好ましくは0.1~3質量部、特に好ましくは0.1~2質量部である。
【0065】
[添加剤]
本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲において、公知の添加剤を一種類以上添加することができる。前記添加剤としては、ヒンダードフェノール系、硫黄系、燐系等の酸化防止剤;ヒンダートアミン系、トリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、ニッケル系、サリチル系等の光安定剤;離型剤;帯電防止剤;滑剤;過酸化物等の分子量調整剤、金属不活性剤;有機及び無機系の核剤;中和剤;制酸剤;防菌剤;蛍光増白剤;ガラス繊維、カーボン繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維等の無機質繊維状物質;カーボンブラック、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、ケイ酸塩(例えば、ケイ酸カルシウム、カオリン、タルク、クレー、珪藻土、ウォラストナイト)、金属の酸化物(例えば、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ)、金属の炭酸塩(例えば、炭酸カルシウム、炭酸バリウム)、その他の各種金属粉等の粉粒状充填剤;マイカ、ガラスフレーク、各種の金属粉末等の板状充填剤;難燃剤;難燃助剤;有機・無機の顔料;等が挙げられる。
前記添加剤の量は、添加剤の種類により適宜調整すればよいが、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)100質量部に対して、例えば0.01質量部以上又は0.5質量部以上であり、また、例えば10質量部以下、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。すなわち、前記添加剤の量は、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)100質量部に対して、0.01~10質量部であってもよく、0.5~5質量部であってもよく、0.5~3質量部であってもよい。
【0066】
本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物は、測定温度:250℃、荷重:2.16kgで測定した際のメルトフローレート(MFR)が、15g/10分以下であり、好ましくは12g/10分以下、さらに好ましくは10g/10分以下である。ポリエステルエラストマー樹脂組成物のMFRを上記範囲に調整することにより、耐熱老化性を高めることができ、また、管状成形体への成型性も高めることができる。なお、ポリエステルエラストマー樹脂組成物のMFRは、含有される熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)の分子量や還元粘度を高めたり、該樹脂組成物に増粘剤(B)を添加すること等により、その値を小さくすることができる。
また、本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物のMFRの下限は特に限定されないが、小さすぎると押出し成形が困難になる傾向にあることから、1g/10分以上とすることが好ましい。
【0067】
本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物は、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)、並びに、必要に応じて用いられる増粘剤(B)、添加剤、及び他の樹脂を混合することにより得られる。混合の際、二軸スクリュー式押出機を用いて、溶融混練することが好ましい。混合後は、ペレット化してもよい。
【0068】
本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物は、ホースやチューブ等の管状成形体用途に好適に用いることができる。本発明の管状成形体は、前述のポリエステルエラストマー樹脂組成物から形成される層を少なくとも1層有するものであればよく、単層構造であっても複層構造であってもよい。
【0069】
例えば、ポリエステルエラストマー樹脂組成物を、押出成形機を用いて押出成形し、得られた溶融チューブをサイジングダイスに通すことにより、単層構造の管状成形体を作製することができる。
【0070】
また、内層用材料及び外層用材料をそれぞれ準備し、その各層の材料を、例えば、押出成形機を用いて共押出成形し、得られた溶融チューブをサイジングダイスに通すことにより、内層の外周面に外層が形成されてなる、二層構造の管状成形体を作製することができる。また、内層用材料及び外層用材料と共に、中間層用材料を1種又は2種以上用いて、上記と同様に共押出成形し、得られた溶融チューブをサイジングダイスに通すことにより、内層の外周面に1以上の中間層が形成され、さらにその中間層の外周面に外層が形成されてなる、三層以上の複層構造を有する管状成形体を作製することができる。このように溶融押出(共押出)成形することによって、層間が良好に接着されるようになる。
【0071】
複層構造を有する管状成形体の場合、本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物は、管状成形体の内層、外層、中間層のいずれを形成する材料として用いてもよいが、内層及び/又は外層を形成する材料として用いることが好ましく、少なくとも内層を形成する材料として用いることがより好ましい。複層構造を有する管状成形体の場合、本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物から形成される層のみを有していてもよく、本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物から形成される層及び他の層を有していてもよい。なお、複数の層が本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物から形成される層である場合、それぞれのポリエステルエラストマー樹脂組成物は同じであっても、互いに異なってもよく、例えばそれぞれの樹脂組成物に含まれる熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)として、ソフトセグメント比の異なるものや、ソフトセグメント及び/又はハードセグメントを構成する成分が異なるものを用いてもよい。
【0072】
本発明の管状成形体が、前述のポリエステルエラストマー樹脂組成物から形成される層以外の層を有する場合、該層は、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)以外の熱可塑性エラストマー樹脂等の樹脂を含む樹脂組成物(以下、他の樹脂組成物という場合がある)を用いて形成することができる。特に、ガスバリア性及び低温柔軟性をより高める観点から、内層が本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物から形成され、外層が熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)以外の熱可塑性エラストマー樹脂(特に、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)以外の熱可塑性ポリエステルエラストマー)を含む樹脂組成物から形成される複層構造を有する管状成形体であることが好ましい。
【0073】
前記熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)以外の熱可塑性エラストマー樹脂としては、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)以外の熱可塑性ポリエステルエラストマー(以下、熱可塑性ポリエステルエラストマー(C)という場合がある)であることが好ましく、該熱可塑性ポリエステルエラストマー(C)としては、ナフタレンジカルボン酸以外の芳香族ジカルボン酸と脂肪族及び/又は脂環族ジオールとを構成成分とするポリエステルからなるハードセグメントと、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル、及び脂肪族ポリカーボネートから選ばれる少なくとも1種のソフトセグメントが結合した熱可塑性ポリエステルエラストマーであることが好ましい。
【0074】
前記熱可塑性ポリエステルエラストマー(C)のハードセグメントを構成する芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、イソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸等が挙げられ、なかでも、テレフタル酸が好ましい。
前記ハードセグメントは、芳香族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分を有していてもよく、前記構成成分となるジカルボン酸としては、シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキセンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸;コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸;等が挙げられる。
芳香族ジカルボン酸成分の含有量は、前記熱可塑性ポリエステルエラストマー(C)のハードセグメントのポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分の合計100モル%中、例えば50モル%以上であり、70モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、85モル%以上であることがさらに好ましく、90モル%以上であることが特に好ましい。
【0075】
前記熱可塑性ポリエステルエラストマー(C)において、ハードセグメントのポリエステルを構成する成分となる脂肪族又は脂環族ジオールとしては、前記熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)において、ハードセグメントのポリエステルを構成する成分となる脂肪族又は脂環族ジオールとして説明したものと同様であり、その好ましい態様も同様である。
【0076】
上記のハードセグメントのポリエステルを構成する単位としては、ブチレンテレフタレート単位(例えば、テレフタル酸と1,4-ブタンジオールからなる単位)よりなるものが、物性、成形性、コストパフォーマンスの点から特に好ましい。前記ブチレンナフタレート単位の含有率は、ハードセグメントを構成するポリエステル中、50~100質量%であることが好ましく、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。
【0077】
前記熱可塑性ポリエステルエラストマー(C)において、ソフトセグメントを構成する脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル、又は脂肪族ポリカーボネートとしては、前記熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)におけるソフトセグメントを構成する脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル、脂肪族ポリカーボネートと同様であり、その好ましい態様も同様である。
【0078】
前記他の樹脂組成物は、前記樹脂(好ましくは、熱可塑性ポリエステルエラストマー(C))を主成分として含むことが好ましい。ポリエステルエラストマー樹脂組成物中、前記樹脂の含有量は、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上が特に好ましい。前記含有量の上限は特に限定されないが、100質量%であってもよく、99質量%以下であってもよい。
【0079】
前記他の樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲において、公知の添加剤を一種類以上添加することができる。前記添加剤としては、増粘剤;ヒンダードフェノール系、硫黄系、燐系等の酸化防止剤;ヒンダートアミン系、トリアゾール系、ベンゾフェノン系、ベンゾエート系、ニッケル系、サリチル系等の光安定剤;離型剤;帯電防止剤;滑剤;過酸化物等の分子量調整剤、金属不活性剤;有機及び無機系の核剤;中和剤;制酸剤;防菌剤;蛍光増白剤;ガラス繊維、カーボン繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維等の無機質繊維状物質;カーボンブラック、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、ケイ酸塩(例えば、ケイ酸カルシウム、カオリン、タルク、クレー、珪藻土、ウォラストナイト)、金属の酸化物(例えば、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ)、金属の炭酸塩(例えば、炭酸カルシウム、炭酸バリウム)、その他の各種金属粉等の粉粒状充填剤;マイカ、ガラスフレーク、各種の金属粉末等の板状充填剤;難燃剤;難燃助剤;有機・無機の顔料;等が挙げられる。
前記添加剤の量は、添加剤の種類により適宜調整すればよいが、前記樹脂100質量部に対して、例えば0.01質量部以上又は0.5質量部以上であり、また、例えば10質量部以下、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。すなわち、前記添加剤の量は、前記樹脂100質量部に対して、0.01~10質量部であってもよく、0.5~5質量部であってもよく、0.5~3質量部であってもよい。
【0080】
内層と外層の接着性や、内層と中間層の接着性、中間層と外層の接着性等の改良を目的として、アロイ材やイソシアネート系、フェノール樹脂系、エポキシ樹脂系、ウレタン系等の接着剤を用いてもよい。また、管状成形体の寸法精度を厳密とする場合は、マンドレルを使用してもよいが、使用しなくてもよい。
【0081】
また、本発明の管状成形体は、さらに補強材から形成される補強層を必要に応じて有していてもよい。前記補強層は、内層と外層の間に形成されることが好ましい。すなわち、本発明の管状成形体が補強層を有する場合、内層の外周面に補強層が形成され、さらにその補強層の外周面に外層が形成されてなる管状成形体とすることが好ましい。
前記補強剤としては、ブレード状に形成されたものでもスパイラル状に形成されたものでもいずれでもよく、用いる材料は補強糸でも補強ワイヤでもよい。補強糸としては、ビニロン繊維、レーヨン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、芳香族ポリアミド繊維等から構成された糸が例示される。補強ワイヤとしては、硬鋼線が例示され、さらに具体的には防錆および接着性付与のため真鍮や亜鉛等のメッキを施した鋼線が挙げられる。また、これらの補強層の接着性を改良することを目的として、接着剤を用いても特に問題はなく、前記接着剤としては、イソシアネート系、フェノール樹脂系、エポキシ樹脂系、ウレタン系等の接着剤を挙げることができる。
【0082】
なお、管状成形体を蛇腹状に形成する場合には、上記共押出した溶融チューブをコルゲート成形機に通すことにより、所定寸法の蛇腹状の管状成形体を作製することが可能である。
【0083】
本発明の管状成形体は、薬液透過防止性に優れるため、薬液搬送チューブとして好適である。例えば、燃料チューブ(例えば、フィードチューブ、リターンチューブ、エバポチューブ、フューエルフィラーチューブ、ORVRチューブ、リザーブチューブ、ベントチューブ等)、オイルチューブ、石油掘削チューブ、ブレーキチューブ、ウインドウオッシャー液用チューブ、エンジン冷却液(LLC)チューブ、リザーバータンクチューブ、尿素溶液搬送チューブ、冷却水用クーラーチューブ、冷媒等用クーラーチューブ、エアコン冷媒用チューブ、ヒーターチューブ、ロードヒーティングチューブ、床暖房チューブ、インフラ供給用チューブ、消火器及び消火設備用チューブ、医療用冷却機材用チューブ、インク散布チューブ、塗料散布チューブ、その他薬液チューブが挙げられる。特に本発明の管状成形体は、燃料バリア性、耐熱老化性、耐油性、及び柔軟性が高められているため、燃料チューブとして好適である。
【0084】
本発明の管状成形体を、燃料チューブとして使用する場合、燃料噴射システム等の燃料チューブに使用することができる。そして、ガソリン、アルコール混合ガソリン、ディーゼル燃料、CNG(圧縮天然ガス)、LPG(液化石油ガス)等の自動車用燃料チューブとして好適に用いられるが、これに限定されるものではなく、メタノールや水素、ジメチルエーテル(DME)等の燃料電池自動車用の燃料チューブとしても使用可能である。
【0085】
本願は、2023年3月31日に出願された日本国特許出願第2023-057165号に基づく優先権の利益を主張するものである。2023年3月31日に出願された日本国特許出願第2023-057165号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例
【0086】
実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0087】
以下の実施例、比較例においては下記の原料を用いた。
【0088】
<熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)>
(ポリエステルエラストマー(A-1))
ジメチルナフタレート(DMN)481質量部、1,4-ブタンジオール(BD)165質量部、ポリテトラメチレングリコール(数平均分子量1000)(PTMG)142質量部、イルガノックス1330(BASF社製)1.6質量部、テトラブチルチタネート(TBT)0.8質量部を4Lのオートクレーブに仕込み、室温から220℃まで3時間かけて昇温し、エステル交換反応を行った。次いで缶内を徐々に減圧すると共に昇温し、45分かけて250℃、1torr以下にして初期重合反応を行った。さらに、250℃、1torr以下の状態で、2時間重合反応を行い、得られた溶融ポリエステル樹脂を重合槽下部の抜き出し口からストランド状に抜き出し、水槽で冷却した後チップ状に切断し、ポリエステルエラストマー(A-1)を得た。ソフトセグメント含有量は18質量%、融点は232℃、還元粘度は1.21dl/gであった。
【0089】
(ポリエステルエラストマー(A-2))
ジメチルナフタレート495質量部、1,4-ブタンジオール172質量部、ポリテトラメチレングリコール(数平均分子量1000)118質量部を使用する以外はポリエステルエラストマー(A-1)と同様にして、ポリエステルエラストマー(A-2)を得た。ソフトセグメント含有量は15質量%、融点は236℃、還元粘度は1.15dl/gであった。
【0090】
(ポリエステルエラストマー(A-3))
ジメチルナフタレート513質量部、1,4-ブタンジオール181質量部、ポリテトラメチレングリコール(数平均分子量1000)94質量部を使用する以外はポリエステルエラストマー(A-1)と同様にして、ポリエステルエラストマー(A-3)を得た。ソフトセグメント含有量は12質量%、融点は239℃、還元粘度は1.11dl/gであった。
【0091】
(ポリエステルエラストマー(A-4))
ジメチルナフタレート533質量部、1,4-ブタンジオール191質量部、ポリテトラメチレングリコール(数平均分子量1000)63質量部を使用する以外はポリエステルエラストマー(A-1)と同様にして、ポリエステルエラストマー(A-4)を得た。ソフトセグメント含有量は8質量%、融点は243℃、還元粘度は1.06dl/gであった。
【0092】
(ポリエステルエラストマー(A-5))
ジメチルナフタレート452質量部、1,4-ブタンジオール151質量部、ポリテトラメチレングリコール(数平均分子量1000)180質量部を使用する以外はポリエステルエラストマー(A-1)と同様にして、ポリエステルエラストマー(A-5)を得た。ソフトセグメント含有量は23質量%、融点は228℃、還元粘度は1.26dl/gであった。
【0093】
(ポリエステルエラストマー(A-6))
ジメチルナフタレート556質量部、1,4-ブタンジオール203質量部、ポリテトラメチレングリコール(数平均分子量1000)23質量部を使用する以外はポリエステルエラストマー(A-1)と同様にして、ポリエステルエラストマー(A-6)を得た。ソフトセグメント含有量は3質量%、融点は249℃、還元粘度は1.00dl/gであった。
【0094】
<増粘剤(B)>
(増粘剤(B-1))
ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(「デナコール EX-850」、ナガセケムテックス株式会社製、エポキシ価数(1分子当りの平均エポキシ基の数):2)
【0095】
(増粘剤(B-2))
トリグリシジルイソシアヌレ-ト化合物(「TEPIC-S」、日産化学株式会社製、エポキシ価数(1分子当りの平均エポキシ基の数):3)
【0096】
(増粘剤(B-3))
ポリカルボジイミド(「カルボジライト HMV-8CA」、日清紡ケミカル株式会社製、カルボジイミド価数(1分子当たりの平均カルボジイミド基の数):11)
【0097】
<その他の添加剤>
(安定剤)
ヒンダードフェノール系酸化防止剤(「Irganox1010」、BASF社製)
(離型剤)
離型剤(「リコルブWE40」、クラリアントジャパン株式会社製)
【0098】
[実施例1~5、比較例1~4]
<ポリエステルエラストマー樹脂組成物の調製>
表1に記載の配合組成に従って各種成分を、二軸スクリュー式押出機を用いて溶融混練した後、ペレット化して、実施例1~5及び比較例1~3のペレットを得た。得られたポリエステルエラストマー樹脂組成物と、該樹脂組成物から得られた成形品について、下記の材料特性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0099】
<燃料チューブの作製>
実施例、比較例で得られたポリエステルエラストマー樹脂組成物を内層材、ペルプレンP-180BD(東洋紡株式会社製、ハードセグメントのポリエステルがポリブチレンレテフタレートから構成され、ソフトセグメントがPTMGから構成されるポリエステルエラストマー)を外層材として、押出成形機を用いて、ホース状に溶融押出成形(共押出成形)して、内径12mmの積層ホース(燃料チューブ)を作製した。なお、内層の厚みは0.2mm、外層の厚みは0.8mmとした。また、比較例4に関しては、内層と外層ともにP-180BDを使用した燃料チューブとした。得られた燃料チューブについて、下記の燃料チューブ特性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0100】
[融点]
セイコー電子工業株式会社製の示差走査熱量分析計「DSC220型」を使用した。具体的には、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)5mgをアルミパンに入れ、蓋を押さえて密封し、窒素中で250℃で2分間溶融した後、降温速度20℃/分で50℃まで降温し、さらに50℃から250℃まで20℃/分で昇温し、サーモグラム曲線を測定した。得られたサーモグラム曲線から、融解による、吸熱ピークを求め、これを融点とした。
【0101】
[還元粘度]
熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)0.05gを25mlの混合溶媒(フェノール/テトラクロロエタン=60/40(質量比))に溶かして、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。
【0102】
[MFR]
実施例、比較例で得られたポリエステルエラストマー樹脂組成物のペレットをJIS K7210記載の試験法(A法)に準拠し(ASTM D1238)、測定温度:250℃、荷重:2160gでのメルトフローレート(MFR、単位:g/10分)を測定した。測定には水分率0.1重量%以下のポリエステルエラストマー樹脂組成物を用いた。
【0103】
[引張破断強度]
JIS K6251:2010に準拠して引張破断強度を測定した。なお、試験片は、100℃で8時間減圧乾燥したポリエステルエラストマー樹脂組成物を、射出成形機(株式会社山城精機製作所製、model-SAV)を用いて、シリンダー温度(使用した熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)の融点+20℃)、金型温度30℃で、100mm×100mm×2mmの平板に射出成形した後、該平板よりダンベル状3号形の試験片を打ち抜いて製作した。
【0104】
[耐油性(重量増加率)]
評価試験用ガソリンとして、トルエン/イソオクタン/エタノールを40:40:20(体積比)の割合で混合した模擬アルコール添加ガソリンを準備した。上記ダンベル状3号形の試験片を、この評価試験用ガソリンに48時間浸漬した際の重量増加率を下記式に基づき算出した。
重量増加率(%)=(浸漬後の試験片の重量/浸漬前の試験片の重量)×100
【0105】
[燃料バリア性]
等圧式ホース透過率測定装置(GTRテック株式会社製、GTR-TUBE3-TG)を用いて、各燃料チューブ内に封入した上記評価試験用ガソリンの透過係数を、40℃で一か月間測定した(単位:mg/m/day)。評価は、この値が10(mg/m/day)未満のものを◎、10(mg/m/day)以上20(mg/m/day)未満のものを○、20(mg/m/day)以上のものを×とした。
【0106】
[低温柔軟性]
燃料チューブを、-40℃にて3時間冷却後および4時間冷却後、直ちに180°に折り曲げ、クラックの有無を確認した。3時間冷却後および4時間冷却後のいずれの場合もクラックが生じなかったチューブについては「○」、4時間冷却後のみクラックが生じたチューブは「△」、いずれの冷却時間でもクラックが生じたチューブは「×」とした。
【0107】
[耐熱老化性]
燃料チューブを、135℃の環境下で500時間放置し、180°に折り曲げた際、クラックや割れが何ら生じなかったチューブを「○」、クラックや割れが生じたチューブを「×」として耐熱老化性の評価を行った。
【0108】
【表1】
【0109】
表1から明らかなように、本発明の範囲内にある実施例1~5はいずれも、燃料バリア性、耐油性、耐熱老化性、及び低温柔軟性に優れる。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物は、燃料蒸発ガスのバリア性、耐熱老化性、耐油性、及び柔軟性が高められているため、燃料チューブをはじめとする管状成形体用途に適用することができる。従って、産業界への寄与は極めて大きい。
【要約】
本発明の課題は、燃料蒸発ガスの透過を抑制し、耐熱老化性、耐油性及び柔軟性にも優れる管状成形体を形成可能なポリエステルエラストマー樹脂組成物を提供することである。上記課題を解決した本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物は、芳香族ジカルボン酸と脂肪族及び/又は脂環族ジオールとを構成成分とするポリエステルからなるハードセグメントと、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリエステル、及び脂肪族ポリカーボネートから選ばれる少なくとも1種のソフトセグメントが結合した熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)を含有するポリエステルエラストマー樹脂組成物であって、前記ハードセグメントが、芳香族ジカルボン酸成分としてナフタレンジカルボン酸成分を含有し、前記ソフトセグメントの含有量は、熱可塑性ポリエステルエラストマー(A)中5~22質量%であり、メルトフローレートが15g/10分以下であることを特徴とする。