(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-25
(45)【発行日】2025-03-05
(54)【発明の名称】電流制限ヒューズ用のアーク消去ヒューズフィラー
(51)【国際特許分類】
H01H 85/18 20060101AFI20250226BHJP
【FI】
H01H85/18
(21)【出願番号】P 2023522930
(86)(22)【出願日】2020-10-26
(86)【国際出願番号】 US2020057351
(87)【国際公開番号】W WO2022093173
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】519226506
【氏名又は名称】リテルフューズ、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ツァン、チュン-クワン
(72)【発明者】
【氏名】ディーチュ、ゴードン トッド
(72)【発明者】
【氏名】サントス、イルマ、ヴァレリアーノ
【審査官】荒木 崇志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2002/0004547(US,A1)
【文献】特開平07-254350(JP,A)
【文献】特開昭48-072656(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0362925(US,A1)
【文献】特開2011-003350(JP,A)
【文献】特開2006-237008(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0066435(US,A1)
【文献】特開平07-105827(JP,A)
【文献】特公昭62-035215(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 37/76
69/02
85/00-87/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーク消去ヒューズフィラーを生成するための方法であって、
従来のヒューズフィラー材料を準備する段階;
前記従来のヒューズフィラー材料と結合剤を混合する段階;
前記従来のヒューズフィラー材料及び前記結合剤とアーク消去促進剤を混合する段階;及び
前記結合剤を硬化させ、それにより前記アーク消去促進剤の細粒を前記従来のヒューズフィラー材料の細粒に結合する段階
を備え、
前記結合剤は、シリコーンベースの結合剤であ
り、
前記アーク消去ヒューズフィラーが、従来の砂充填機を使用して前記アーク消去ヒューズフィラーをヒューズに分注するのを容易にする流動性を有する、アーク消去ヒューズフィラーを生成するための方法。
【請求項2】
前記従来のヒューズフィラー材料が、シリカ、ケイ砂、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム二水和物、フラー土、及びステアタイトのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アーク消去促進剤が、メラミン、グアニジン、グアニン、ヒダントイン、アラントイン、尿素、メラミンホルムアルデヒド、メラミンシアヌレートポリマー、ホウ酸、アルミニウム三水和物、及びその派生物のうちの少なくとも1つを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記アーク消去促進剤の前記細粒が5umから60umの範囲の長さ又は直径を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記アーク消去促進剤の前記細粒が、前記従来のヒューズフィラー材料の前記細粒のサイズの0.3%~10%である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記結合剤を硬化させる段階が、前記従来のヒューズフィラー材料、前記結合剤、及び前記アーク消去促進剤の混合物を熱硬化、湿気硬化、及びUV硬化のうちの1つにさらす段階を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
アーク消去ヒューズフィラーであって、
従来のヒューズフィラー材料;
アーク消去促進剤;及び
前記アーク消去促進剤の細粒を前記従来のヒューズフィラー材料の細粒に結合する結合剤
を備え、
前記結合剤は、シリコーンベースの結合剤であり、
前記アーク消去ヒューズフィラーが、従来の砂充填機を使用して前記アーク消去ヒューズフィラーをヒューズに分注するのを容易にする流動性を有する、アーク消去ヒューズフィラー。
【請求項8】
前記従来のヒューズフィラー材料が、シリカ、ケイ砂、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム二水和物、フラー土、及びステアタイトのうちの少なくとも1つを含む、請求項7に記載のアーク消去ヒューズフィラー。
【請求項9】
前記アーク消去促進剤が、メラミン、グアニジン、グアニン、ヒダントイン、アラントイン、尿素、メラミンホルムアルデヒド、メラミンシアヌレートポリマー、ホウ酸、アルミニウム三水和物、及びその派生物のうちの少なくとも1つを含む、請求項7又は8に記載のアーク消去ヒューズフィラー。
【請求項10】
前記アーク消去促進剤の前記細粒が、前記従来のヒューズフィラー材料の前記細粒のサイズの0.3%~10%である、請求項7から9のいずれか一項に記載のアーク消去ヒューズフィラー。
【請求項11】
ヒューズであって、
電気絶縁性の管状のヒューズ本体;
前記ヒューズ本体の両端部を覆って配置された導電性の第1及び第2の端部キャップ;
前記ヒューズ本体を通って延在し、前記第1の端部キャップを前記第2の端部キャップに接続する可溶性要素であって、前記ヒューズ内での過電流状態に際して溶融及び分離するように適合された中央部分を有する可溶性要素;及び
前記ヒューズ本体内に配置され、前記可溶性要素の前記中央部分を少なくとも部分的に囲むアーク消去ヒューズフィラーを備え、
前記アーク消去ヒューズフィラーは、
従来のヒューズフィラー材料;
アーク消去促進剤;及び
前記アーク消去促進剤の細粒を前記従来のヒューズフィラー材料の細粒に結合する結合剤を有し、
前記結合剤は、シリコーンベースの結合剤であ
り、
前記アーク消去ヒューズフィラーが、従来の砂充填機を使用して前記アーク消去ヒューズフィラーをヒューズに分注するのを容易にする流動性を有する、ヒューズ。
【請求項12】
前記従来のヒューズフィラー材料が、シリカ、ケイ砂、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム二水和物、フラー土、及びステアタイトのうちの少なくとも1つを含む、請求項
11に記載のヒューズ。
【請求項13】
前記アーク消去促進剤が、メラミン、グアニジン、グアニン、ヒダントイン、アラントイン、尿素、メラミンホルムアルデヒド、メラミンシアヌレートポリマー、ホウ酸、アルミニウム三水和物、及びその派生物のうちの少なくとも1つを含む、請求項
11又は
12に記載のヒューズ。
【請求項14】
前記アーク消去促進剤の前記細粒が、前記従来のヒューズフィラー材料の前記細粒のサイズの0.3%~10%である、請求項
11から
13のいずれか一項に記載のヒューズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して回路保護デバイスの分野に関する。より具体的には、本開示は、実質的に一様な組成物を可能にするための結合剤を含むアーク消去ヒューズフィラーに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒューズは、回路保護デバイスとして一般に使用されており、通常は電源及び電気回路内の保護すべき構成要素の間に設置されている。従来のヒューズは、中空の電気絶縁性のヒューズ本体の中に配置された可溶性要素を含む。過電流状態などの障害状態の発生時、可溶性要素は溶融するか又は他の方法で分離して、ヒューズを通る電流の流れを遮断する。
【0003】
過電流状態の結果としてヒューズの可溶性要素が分離したとき、可溶性要素の分離した部分の間を電気アークが(例えば可溶性要素の分離した部分の間の残留気化粒子を通じて)伝搬することが可能な場合がある。消去されていない場合、電気アークは、電源から回路内の保護された構成要素へと著しい後続電流が流れることを可能にし得、可溶性要素が物理的に開いているにもかかわらず、保護された構成要素に損傷を与える結果となる。さらに、電気アークは周囲の空気及び環境の粒子を急速に熱する場合があり、ヒューズ内で小爆発を生じさせることがある。いくつかの場合には、爆発によりヒューズ本体が燃焼及び/又は破断され、場合によっては周囲の構成要素を損傷させることがある。破断の可能性は、概して過電流状態の重さに比例する。チップヒューズが破断せずに抑制することができる最大電流は、ヒューズの「遮断容量」と呼ばれている。ヒューズのサイズ又はフォームファクタを著しく拡大することなしに、ヒューズの遮断容量を最大化することが概して望ましい。このことは、空間が限定されており電圧要件が非常に高い現代の電気車両用途では特に当てはまる。
【0004】
電気アークの有害な影響を最小限に抑えるために、ヒューズは、可溶性要素を囲むいわゆる「ヒューズフィラー」で充填されることが多い。通常、ヒューズフィラーとして使用される材料は砂である。砂は、電気アークによって発生する熱に露出されたときにその相が固体から液体へと変化するので、熱吸収剤として機能する。したがって、砂は、電気アークから熱を迅速に抜き取ることによってアークを冷却し、最終的に消去する。砂及び他の従来のヒューズフィラー材料(例えば炭酸カルシウム、ステアタイトなど)は、いくつかの用途ではアーク消去を提供するのに効果的であるが、現代の高電圧用途(例えば電気車両)に必要とされる大きい遮断容量及び迅速な消去時間をヒューズに提供するには、それらは一般に不十分である。
【0005】
本改善が有用になり得るのは、これら及び他の考慮事項に対してである。
【発明の概要】
【0006】
この概要は、以下の発明を実施するための形態においてさらに説明される特定の概念を簡略化した形態で紹介するために提供される。この概要は、特許請求される主題の重要な特徴又は本質的な特徴を特定することを意図しておらず、特許請求される主題の範囲を決定するにあたっての助けであることも意図されていない。
【0007】
本開示によるアーク消去ヒューズフィラーを生成するための方法は、従来のヒューズフィラー材料を準備する段階、従来のヒューズフィラー材料と結合剤を混合する段階、従来のヒューズフィラー材料及び結合剤とアーク消去促進剤を混合する段階、及び結合剤を硬化させる段階、それによってアーク消去促進剤の細粒が従来のヒューズフィラー材料の細粒に結合される、を含むことができる。
【0008】
本開示によるアーク消去ヒューズフィラーは、従来のヒューズフィラー材料、アーク消去促進剤、及びアーク消去促進剤の細粒を従来のヒューズフィラー材料の細粒に結合する結合剤を含むことができる。
【0009】
本開示によるヒューズは、電気絶縁性の管状のヒューズ本体、ヒューズ本体の両端部を覆って配置された導電性の第1及び第2の端部キャップ、ヒューズ本体を通って延在し、第1の端部キャップを第2の端部キャップに接続する可溶性要素、可溶性要素がヒューズ内での過電流状態に際して溶融及び分離するように適合された中央部分を有する、及びヒューズ本体内に配置され、可溶性要素の中央部分を少なくとも部分的に囲むアーク消去ヒューズフィラー、ここでアーク消去ヒューズフィラーが、従来のヒューズフィラー材料、アーク消去促進剤、及びアーク消去促進剤の細粒を従来のヒューズフィラー材料の細粒に結合する結合剤を含む、を含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】本開示の例示的な実施形態によるアーク消去ヒューズフィラーを製造する方法を示す図である。
【
図1B】本開示の例示的な実施形態によるアーク消去ヒューズフィラーを製造する方法を示す図である。
【
図1C】本開示の例示的な実施形態によるアーク消去ヒューズフィラーを製造する方法を示す図である。
【
図1D】本開示の例示的な実施形態によるアーク消去ヒューズフィラーを製造する方法を示す図である。
【0011】
【
図2A】通常の動作状態における本開示の例示的な実施形態によるヒューズを示す側断面図である。
【0012】
【
図2B】過電流状態の発生時の
図2Aのヒューズを示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本開示によるアーク消去ヒューズフィラー、及びそれを作成する方法の例示的な実施形態について、添付図面を参照して以下により詳細に説明する。しかし、ヒューズフィラー及び方法は多くの様々な形態で具体化することができ、本明細書に記載の実施形態に限定されると解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、本開示がアーク消去ヒューズフィラー及び方法の特定の例示的な態様を当業者に伝達するように提供される。
【0014】
一態様では、また以下にさらに詳細に説明するように、本開示は、アーク消去促進剤(例えばメラミン)と混合された従来のヒューズフィラー材料(例えば砂)で形成されて、ヒューズ内での過電流状態の発生時にヒューズ内での迅速で頑強なアーク消去応答を提供する、アーク消去ヒューズフィラー組成物を対象とする。組成物内の従来のヒューズフィラー材料の細粒は、組成物内の粘着促進剤の細粒のサイズ及び密度とは異なるサイズ及び密度を概して有することになるので、組成物がヒューズへと分注されたとき、又は(例えば電気車両に設置されたヒューズにおいて)組成物が野外にあるときなど、組成物が振動(「ブラジルナッツ効果」と呼ばれる現象)にさらされたとき、2つの材料は互いから分離する傾向をもつことになる。こうした分離は、組成物の有効性にとって有害な場合がある。したがって、本開示は、粘着促進剤を導入する前に従来のヒューズフィラー材料の細粒を結合剤でコーティングすることを含む、アーク消去ヒューズフィラーを準備する新規な方法をさらに対象とする。したがって、粘着促進剤が従来のヒューズフィラー材料に混合されると、粘着促進剤の細粒は従来のヒューズフィラー材料の細粒に結合することになる。以下にさらに詳細に説明するように、この結合により、従来のヒューズフィラー材料の流動性を維持しながら、粘着促進剤が従来のヒューズフィラー材料から分離することが防止される。
【0015】
図1A~
図1Dには、本開示によるアーク消去ヒューズフィラーを形成する例示的な方法の一連の段階が示してある。
図1A~
図1Dに示されている図は、以下でさらに説明するアーク消去ヒューズフィラーの個々の細粒及びその構成部分を示す、詳細なクローズアップ図である。
【0016】
図1Aに示されている例示的な方法の第1の段階では、ある量の従来のヒューズフィラー材料10(以下では「従来のフィラー10」)が提供され得る。本明細書において、用語「従来のフィラー10」は、シリカ、ケイ砂、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム二水和物、フラー土、又はステアタイトのうちの1つ又は複数を意味すると定義されるものとし、これらすべては、従来からヒューズフィラーとして使用されている材料として当業者に認識されるものである。従来のフィラー10の細粒は、サイズ及び形状が実質的に均一であってもよく、又は
図1Aに示されているように、サイズ及び形状が異なっていてもよい。本開示は、この点に関して限定されることはない。非限定的な例では、従来のフィラー10の細粒は、150umから600umの範囲のサイズ(例えば長さ又は直径)を有することができる。
【0017】
図1Bに示されている例示的な方法のさらなる段階では、結合剤12が従来のフィラー10に混合され得る。結合剤12はシリコーンベースの結合剤、炭素ベースの結合剤(例えばポリビニルアルコール、エポキシ、セルロースなど)、又は無機結合剤(例えばアルミン酸カルシウム、アルミナシリケート、ケイ酸ナトリウムなど)でもよく、又はこれらを含んでもよい。本開示は、この点に関して限定されることはない。結合剤12は、液体又は半液体の形態で提供されてもよい。
図1Bに示されているように、従来のフィラー10と混合されたとき、結合剤12は実質的に均一な形で従来のフィラー10の細粒をコーティングすることができる。
【0018】
図1Cに示されている例示的な方法のさらなる段階では、アーク消去促進剤14が従来のフィラー10及び結合剤12と混合され得る。アーク消去促進剤14は、粉末又は細粒の形態の、メラミン、グアニジン、グアニン、ヒダントイン、アラントイン、尿素、メラミンホルムアルデヒド、メラミンシアヌレートポリマー、ホウ酸、アルミニウム三水和物、及びこれらの派生物及び混合物のうちの1つ又は複数でもよく、又はこれらを含んでもよい。アーク消去促進剤14の細粒は、サイズ及び形状が実質的に均一でもよく、又は
図1Cに示されているように、サイズ及び形状が異なっていてもよい。本開示は、この点に関して限定されることはない。非限定的な例では、アーク消去促進剤14の細粒は、5umから60umの範囲のサイズ(例えば長さ又は直径)を有することができる。概して、アーク消去促進剤14の細粒は従来のフィラー10の細粒よりも小さいことになる。例えば、様々な実施形態では、アーク消去促進剤14の細粒は従来のフィラー10の細粒のサイズの0.3%~10%でもよい。本開示は、この点に関して限定されることはない。アーク消去促進剤14が従来のフィラー10及び結合剤12と混合されたとき、アーク消去促進剤14の細粒は、結合剤12を介して従来のフィラー10の細粒に粘着することができる。例えば、
図1Cに示されているように、アーク消去促進剤14の1つ又は複数の細粒は、従来のフィラー10のそれぞれの細粒に結合することができる。
【0019】
図1Dに示されている例示的な方法のさらなる段階では、混合物を熱硬化、湿気硬化、UV硬化などにさらすことなどにより、上に説明した混合物内の結合剤12が乾燥又は硬化され得る。結合剤12がこのように硬化されると、アーク消去促進剤14の細粒を従来のフィラー10の細粒にしっかりと粘着させることができ、本開示のアーク消去ヒューズフィラー16が完成し、以下にさらに説明するようにヒューズ内に実装される準備を完了することができる。重要なことに、アーク消去ヒューズフィラー16の流動性は、従来のフィラー(例えばシリカ、ケイ砂など)の流動性と同じであるか又は同様になり得る。したがって、アーク消去ヒューズフィラー16は、(例えば従来の砂充填機を用いて)従来のフィラーを分注するのに使用される従来の振動技法を使用して、ヒューズ本体へと注がれ、流され、又はその他の方法で分注され得る。アーク消去促進剤14の細粒は従来のフィラー10の細粒に結合されているので、アーク消去促進剤14の細粒を従来のフィラー10の細粒から分離させることなしにこうした分注を実現することができ、したがって組成物の有効性が維持される。同様に、運転されたときに振動を経験するか又は発生させる車両内に設置されたヒューズにアーク消去ヒューズフィラー16が実装されたときなど、組成物が野外で振動に露出されたときに、アーク消去ヒューズフィラー16の均質性及び有効性を維持することができる。
【0020】
図2Aを参照すると、上述のアーク消去ヒューズフィラーを組み込む例示的なヒューズ100を示す側断面図が示されている。様々な実施形態において、ヒューズ100は管状のヒューズ本体112を有するカートリッジヒューズでもよい。本開示は、この点について限定されない。様々な代替的実施形態では、ヒューズ100は表面実装ヒューズでもよく、又は概して中空のヒューズ本体を通って延在する可溶性要素を有する他のタイプのヒューズでもよい。ヒューズ本体112は、電気絶縁性であり好ましくは耐熱性である材料から形成され得る。こうした材料の例には、セラミック、ガラス、及びガラス繊維充填メラミンホルムアルデヒド樹脂が含まれるが、これらに限定されない。
【0021】
一対の導電性端部キャップ118、120がヒューズ本体112の両端部に配置されてもよく、回路内でヒューズ100の電気的な接続を容易にするように適合されてもよい。可溶性要素124がヒューズ本体112の中空内部を通って延在することができ、はんだなどにより、端部キャップ118、120にそれらと電気的に連絡するよう接続されてもよい。端部キャップ118、120は、銅又はその合金の1つを含むがこれらに限定されない導電性材料で形成されてもよく、ニッケル又は他の導電性の耐食性コーティングでめっきされてもよい。可溶性要素124は、錫又は銅を含むがこれらに限定されない導電性材料から形成されてもよく、予め定められた最大値を超える電流量が可溶性要素124に流れる過電流状態などの、予め定められた障害状態の発生時に、溶融及び分離するように構成されてもよい。この最大値は通常、ヒューズ100の「定格」と呼ばれる。
【0022】
可溶性要素124は、ワイヤ、波形ストリップ、絶縁性コアの周囲に巻かれたワイヤなどを含むがこれらに限定されない、所望の用途に適した任意のタイプの可溶性要素でもよい。可溶性要素124の中央部分125は、可溶性要素124が中央部分125で分離することを確実にするために、可溶性要素124の他の部分に比べて薄くされ、狭くされ、穿孔され、又はその他の方法で脆弱化させられてもよい。様々な実施形態では、場合により「メトカーフスポット」と呼ばれるある量の異種金属126(以下「金属スポット126」)が、可溶性要素124の中央部分125に塗布されてもよい。金属スポット126は、ニッケル、インジウム、銀、錫、又は可溶性要素124が形成される卑金属(例えば銅)より低い溶融温度を有する他の金属のうちの1つ又は複数で形成されてもよい。したがって、金属スポット126は、過電流状態の発生時に可溶性要素124の卑金属よりも容易に溶融することができ、卑金属へと拡散することができる。可溶性要素124の卑金属、及び金属スポット126の異種金属は、一方が他方に拡散することによって卑金属単独のものよりも低い溶融温度及び高い抵抗を備えた金属間相を生じさせ、それによって可溶性要素124の中央部分125を可溶性要素124の他の部分に比べてより容易に溶融させるように選択される。ヒューズ100の様々な実施形態では、金属スポット126は完全に省略されてもよい。
【0023】
図2Aに示されているように、ヒューズ本体112は、本開示の上述のアーク消去ヒューズフィラー16で部分的に又は全体的に充填されてもよく、アーク消去ヒューズフィラー16は、可溶性要素124を部分的に又は全体的に囲んでもよい。様々な代替的実施形態では、ヒューズ本体112は、可溶性要素124の中央部分125を囲む密閉されたチャンバを画定する多数の内壁又は仕切りを含んでもよく、こうしたチャンバのみがアーク消去ヒューズフィラー16で充填されてもよい。本開示は、この点に関して限定されることはない。
【0024】
ヒューズ100での過電流状態の発生時、可溶性要素124の中央部分125が溶融及び分離することができ、
図2Bに示されているように、可溶性要素124の分離した端部の間に残されたギャップを横切って電気アーク136が伝搬する場合がある。電気アーク136からの熱により、アーク消去ヒューズフィラー16内の従来のフィラー10(例えばシリカ)が燃焼及び分解される場合がある。従来のフィラー10が溶融し、固体から液体へと変化するとき、それは電気アーク136から熱を吸収し、したがって電気アーク136を冷却することができる。電気アーク136からの熱は、アーク消去ヒューズフィラー16のアーク消去促進剤14(例えば上に列挙されたメラミン、グアニジン、グアニン、ヒダントインなど)も同時に燃焼及び分解する場合がある。アーク消去促進剤14が分解すると、それは熱を吸収する吸熱化学反応を経る。それにより、電気アーク136は急速に冷却される。さらに、アーク消去ヒューズフィラー16に実装される特定のアーク消去促進剤14次第で、吸熱化学反応のいくつかの副産物が、電気アーク136が持続する能力を妨げ得る非導電性ガス(例えばアンモニア)である場合がある。したがって、ヒューズ110内での過電流状態の発生時、アーク消去ヒューズフィラー16は熱を吸収して、電気アーク136が持続するのに好ましくないガスを放出することができ、それにより、従来のヒューズフィラー材料単独で実現され得るのよりも迅速で頑強なアーク消去に寄与することができる。したがって、ヒューズ100の遮断容量は従来のヒューズフィラー材料を単独で利用するヒューズと比較して著しく増大し、ヒューズ100に接続され且つ/又はヒューズ100に近接して位置付けられている構成要素は、電気アーク136の持続が許容されている場合に普通なら生じ得る損傷から保護される。
【0025】
本明細書において、単数形で記載され、「a」又は「an」という単語で始まる要素又は段階は、複数の要素又は段階を排除しないものと、そのような排除が明示的に記載されない限り理解されるべきである。さらに、本開示の「1つの実施形態」への言及は、記載された特徴をも組み込んだ追加の実施形態の存在を排除するものと解釈されることを意図してはいない。
【0026】
本開示は特定の実施形態に言及しているが、添付の特許請求の範囲で定義されるような本開示の領域及び範囲から逸脱することなく、説明した実施形態に対して多数の改変、修正、及び変更を行うことが可能である。したがって、本開示は、説明した実施形態に限定されることはなく、以下の特許請求の範囲の文言及びその等価物によって定義される全範囲を有することが意図されている。
(他の可能な項目)
[項目1]
従来のヒューズフィラー材料を準備する段階;
前記従来のヒューズフィラー材料と結合剤を混合する段階;
前記従来のヒューズフィラー材料及び前記結合剤とアーク消去促進剤を混合する段階;及び
前記結合剤を硬化させる段階、それによって前記アーク消去促進剤の細粒が前記従来のヒューズフィラー材料の細粒に結合される
を備える、アーク消去ヒューズフィラーを生成するための方法。
[項目2]
前記従来のヒューズフィラー材料が、シリカ、ケイ砂、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム二水和物、フラー土、及びステアタイトのうちの少なくとも1つを含む、項目1に記載の方法。
[項目3]
前記アーク消去促進剤が、メラミン、グアニジン、グアニン、ヒダントイン、アラントイン、尿素、メラミンホルムアルデヒド、メラミンシアヌレートポリマー、ホウ酸、アルミニウム三水和物、及びその派生物のうちの少なくとも1つを含む、項目1又は2に記載の方法。
[項目4]
前記結合剤が、シリコーン、ポリビニルアルコール、エポキシ、セルロース、アルミン酸カルシウム、アルミナシリケート、及びケイ酸ナトリウムのうちの少なくとも1つを含む、項目1から3のいずれか一項に記載の方法。
[項目5]
前記アーク消去促進剤の前記細粒が5umから60umの範囲の長さ又は直径を有する、項目1から4のいずれか一項に記載の方法。
[項目6]
前記アーク消去促進剤の前記細粒が、前記従来のヒューズフィラー材料の前記細粒のサイズの0.3%~10%である、項目1から5のいずれか一項に記載の方法。
[項目7]
前記結合剤を硬化させる段階が、前記混合された従来のヒューズフィラー材料、前記結合剤、及び前記アーク消去促進剤を熱硬化、湿気硬化、及びUV硬化のうちの1つにさらす段階を有する、項目1から6のいずれか一項に記載の方法。
[項目8]
従来のヒューズフィラー材料;
アーク消去促進剤;及び
前記アーク消去促進剤の細粒を前記従来のヒューズフィラー材料の細粒に結合する結合剤
を備える、アーク消去ヒューズフィラー。
[項目9]
前記従来のヒューズフィラー材料が、シリカ、ケイ砂、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム二水和物、フラー土、及びステアタイトのうちの少なくとも1つを含む、項目8に記載のアーク消去ヒューズフィラー。
[項目10]
前記アーク消去促進剤が、メラミン、グアニジン、グアニン、ヒダントイン、アラントイン、尿素、メラミンホルムアルデヒド、メラミンシアヌレートポリマー、ホウ酸、アルミニウム三水和物、及びその派生物のうちの少なくとも1つを含む、項目8又は9に記載のアーク消去ヒューズフィラー。
[項目11]
前記結合剤が、シリコーン、ポリビニルアルコール、エポキシ、セルロース、アルミン酸カルシウム、アルミナシリケート、及びケイ酸ナトリウムのうちの少なくとも1つを含む、項目8から10のいずれか一項に記載のアーク消去ヒューズフィラー。
[項目12]
前記アーク消去促進剤の前記細粒が、前記従来のヒューズフィラー材料の前記細粒のサイズの0.3%~10%である、項目8から11のいずれか一項に記載のアーク消去ヒューズフィラー。
[項目13]
前記アーク消去ヒューズフィラーが、従来の砂充填機を使用して前記アーク消去ヒューズフィラーをヒューズに分注するのを容易にする流動性を有する、項目8から12のいずれか一項に記載のアーク消去ヒューズフィラー。
[項目14]
ヒューズであって、
電気絶縁性の管状のヒューズ本体;
前記ヒューズ本体の両端部を覆って配置された導電性の第1及び第2の端部キャップ;
前記ヒューズ本体を通って延在し、前記第1の端部キャップを前記第2の端部キャップに接続する可溶性要素、前記可溶性要素が、前記ヒューズ内での過電流状態に際して溶融及び分離するように適合された中央部分を有する;及び
前記ヒューズ本体内に配置され、前記可溶性要素の前記中央部分を少なくとも部分的に囲むアーク消去ヒューズフィラー、前記アーク消去ヒューズフィラーが、
従来のヒューズフィラー材料;
アーク消去促進剤;及び
前記アーク消去促進剤の細粒を前記従来のヒューズフィラー材料の細粒に結合する結合剤を有する
を備える、ヒューズ。
[項目15]
前記従来のヒューズフィラー材料が、シリカ、ケイ砂、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム二水和物、フラー土、及びステアタイトのうちの少なくとも1つを含む、項目14に記載のヒューズ。
[項目16]
前記アーク消去促進剤が、メラミン、グアニジン、グアニン、ヒダントイン、アラントイン、尿素、メラミンホルムアルデヒド、メラミンシアヌレートポリマー、ホウ酸、アルミニウム三水和物、及びその派生物のうちの少なくとも1つを含む、項目14又は15に記載のヒューズ。
[項目17]
前記結合剤が、シリコーン、ポリビニルアルコール、エポキシ、セルロース、アルミン酸カルシウム、アルミナシリケート、及びケイ酸ナトリウムのうちの少なくとも1つを含む、項目14から16のいずれか一項に記載のヒューズ。
[項目18]
前記アーク消去促進剤の前記細粒が、前記従来のヒューズフィラー材料の前記細粒のサイズの0.3%~10%である、項目14から17のいずれか一項に記載のヒューズ。