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特許7640065医薬組成物を調製する方法及び医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-25
(45)【発行日】2025-03-05
(54)【発明の名称】医薬組成物を調製する方法及び医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/38 20060101AFI20250226BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20250226BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20250226BHJP
【FI】
A61K47/38
A61K9/10
A61K9/19
【請求項の数】 24
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020153558
(22)【出願日】2020-09-14
(65)【公開番号】P2021046392
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2023-08-02
(31)【優先権主張番号】19397527
(32)【優先日】2019-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】514158855
【氏名又は名称】ユー ピー エム キュンメネ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】ヌオッポネン マルクス
(72)【発明者】
【氏名】シアン ホアン
(72)【発明者】
【氏名】ソン ハイチウ
(72)【発明者】
【氏名】ワン ユーロン
(72)【発明者】
【氏名】リウ ヤンシン
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-533296(JP,A)
【文献】特開2017-155195(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0335753(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00- 47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬組成物を調製する方法であって、
医薬化合物を少なくとも部分的に可溶化できる、有機溶媒を含む溶媒中に、25℃で1mg/ml以下の水への溶解度を有する前記医薬化合物を用意すること、
ナノ構造化セルロースの水性分散液を用意すること、及び
貧溶媒再結晶プロセスで、前記溶媒中の前記医薬化合物を貧溶媒として作用するナノ構造化セルロースの前記水性分散液に添加して、前記医薬化合物の過飽和濃度を得ること、前記医薬化合物が前記過飽和濃度で核を形成し、次いで核形成によりナノ粒子に成長し続けることにより、50nm以下の平均径を有するナノサイズ医薬粒子を用意すること、
を含
前記医薬組成物が、92~99.95%(w/w)の水を含む、方法
【請求項2】
前記ナノ構造化セルロースが、200nm以下の平均フィブリル径を有するナノフィブリル状セルロースを含む、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記ナノフィブリル状セルロースが、水に分散されると、22℃±1℃の水性媒体中、0.5%(w/w)の濃度で回転レオメーターによって決定される、ゼロせん断粘度が5000~50000Pa・sであり、降伏応力が3~15Paである、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記ナノ構造化セルロースがナノ結晶セルロースを含む、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記ナノ結晶セルロースが、2~20nmの平均フィブリル径及び100~400nmの平均フィブリル長を有する、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記医薬組成物における前記ナノ構造化セルロースの含有量が0.05~8%(w/w)である、請求項1~請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記医薬組成物における前記ナノ構造化セルロースの含有量が0.05~0.5%(w/w)であるか、又は1~8%(w/w)である、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記医薬化合物が、25℃で0.6mg/ml以下の水への溶解度、及び/又は低いバイオアベイラビリティを有する、請求項1~請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記医薬化合物の含有量が、前記医薬組成物100μl当たり0.05~1mgである、請求項1~請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記溶媒がエタノールを含む、請求項1~請求項9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
得られた医薬組成物を凍結乾燥することを含む、請求項1~請求項10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1~請求項11のいずれか一項に記載の方法で医薬組成物を調製することを含む、1mg/ml以下の水への低い溶解度を有する前記医薬化合物を安定化させる方法。
【請求項13】
ナノ構造化セルロースマトリックス中、25℃で1mg/ml以下の水への溶解度を有する医薬化合物のナノサイズ医薬粒子を含み、前記ナノサイズ医薬粒子は、50nm以下の平均径を有
92~99.95%(w/w)の水を含む、
請求項1~請求項11のいずれか一項に記載の方法により得られる、医薬組成物。
【請求項14】
前記ナノ構造化セルロースが、200nm以下の平均フィブリル径を有するナノフィブリル状セルロースを含む、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記ナノフィブリル状セルロースが、水に分散されると、22℃±1℃の水性媒体中、0.5%(w/w)の濃度で回転レオメーターによって決定される、ゼロせん断粘度が5000~50000Pa・sであり、降伏応力(せん断減粘が始まるせん断応力)が3~15Paである、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記ナノ構造化セルロースがナノ結晶セルロースを含む、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記ナノ結晶セルロースが、2~20nmの平均フィブリル径及び100~400nmの平均フィブリル長を有する、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記医薬組成物における前記ナノ構造化セルロースの含有量が0.05~8%(w/w)である、請求項13~請求項17のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記医薬組成物における前記ナノ構造化セルロースの含有量が0.05~0.5%(w/w)であるか、又は1~8%(w/w)である、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記医薬化合物が、25℃で0.6mg/ml以下の水への溶解度、及び/又は低いバイオアベイラビリティを有する、請求項13~請求項19のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記医薬化合物の含有量が、医薬組成物100μl当たり0.05~1mgである、請求項13~請求項20のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記医薬化合物の前記ナノ構造化セルロースマトリックスからの溶解率が、10分で50%以上である、請求項13~請求項21のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項23】
25℃で1mg/ml以下の水への溶解度を有する医薬化合物のバイオアベイラビリティを増強するための医薬として使用するための請求項13~請求項22のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項24】
請求項1~請求項11のいずれか一項に記載の方法で、25℃で1mg/ml以下の水への溶解度を有する医薬化合物を安定化させるための、ナノ構造化セルロースの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、医薬組成物を調製する方法、及び医薬組成物に関する。本出願はまた、水への溶解度が低い医薬化合物を安定化させる方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
現在、水不溶性薬物が、発売中の薬物市場で約40%を占めている。薬物の水不溶性は、低いバイオアベイラビリティ、過剰な薬物使用及び薬物の浪費などの身体における一連の問題を引き起こす。このような薬物の溶解及びバイオアベイラビリティを改善することが望ましい。
【発明の概要】
【0003】
難水溶性医薬品の溶解及びバイオアベイラビリティを改善する方法が発見された。ナノ構造化セルロースを医薬化合物のマトリックスとして使用した場合、これは化合物を安定化させ、化合物の沈殿を防ぐことができ、結果として化合物が分散液中に残った。分散液を使用することにより、医薬品の重力による凝集、凝結、凝固及び/又は付着が防止又は大幅に低減された。医薬化合物の溶解率が増加し、それにより、標的への化合物の送達を増強することができる。
【0004】
これにより、経口、局所又は注射用組成物などの様々な用途のための様々な種類の医薬組成物を提供することが可能になる。
【0005】
本出願は、医薬化合物を少なくとも部分的に可溶化できる溶媒中に、25℃で1mg/ml以下の水への溶解度を有する前記医薬化合物を用意すること、
ナノ構造化セルロースの水性分散液を用意すること、及び
前記医薬化合物を貧溶媒プロセスでナノ構造化セルロースの前記水性分散液と組み合わせて、50nm以下の平均径を有するナノサイズ医薬粒子を用意すること、
を含む、好ましくは、92~99.95%(w/w)の水を含む、医薬組成物を調製する方法を提供する。
【0006】
本出願はまた、水への溶解度が低い医薬化合物を安定化させる方法を提供する。
【0007】
本出願はまた、ナノ構造化セルロースマトリックス中、25℃で1mg/ml以下の水への溶解度を有する医薬化合物のナノサイズ医薬粒子を含み、前記ナノサイズ医薬粒子は、50nm以下の平均径を有する、医薬組成物を提供し、該医薬組成物は、好ましくは92~99.95%(w/w)の水を含む。
【0008】
本出願はまた、好ましくは25℃で1mg/ml以下の水への溶解度を有する医薬化合物を安定化させるための医薬として使用するための医薬組成物を提供する。
【0009】
本出願はまた、好ましくは25℃で1mg/ml以下の水への溶解度を有する医薬化合物のバイオアベイラビリティを増強するための医薬として使用するための医薬組成物を提供する。
【0010】
本出願はまた、水への溶解度が低い医薬化合物を安定化させるためのナノ構造化セルロースの使用を提供する。
【0011】
本出願はまた、水への溶解度が低い医薬化合物のバイオアベイラビリティを増強するためのナノ構造化セルロースの使用を提供する。
【0012】
主な実施形態は、独立請求項で特徴付けられる。様々な実施形態が従属請求項に開示される。特許請求の範囲及び明細書に列挙される実施形態及び実施例は、特に明記されていない限り、相互に自由に組み合わせることができる。
【0013】
特定の理論に拘束されるものではないが、本発明者らは、ナノ構造セルロースの大きな比表面積及びネットワーク構造が、難溶性薬物化合物核により多くの部位を提供し、薬物化合物粒子が過成長するのを防ぎ、薬物化合物ナノ粒子を水溶液中でより安定にすると考えている。薬物化合物間の相互作用は、静電吸着及び水素結合であり得る。調製プロセスが、最初は大きな粒子として存在していたナノ化薬物粒子のナノ化及び分散を促進して、いくつかの小さなナノ粒子にし、それらをナノコンポジット形態と見なすことができるような形態に維持した。
【0014】
実施形態で使用されるナノ構造化セルロースはまた、ヒドロキシルラジカル捕捉活性を提供し、医薬化合物を保護し、それらを安定で活性な形態に維持するのを助ける。
【0015】
したがって、薬物のより優れた安定性、バイオアベイラビリティ及び溶解率を提供する薬物製剤を得ることが可能である。新たな投与経路、用量及び体制を使用することができる、新たな種類の薬物製剤を調製することができる。
【0016】
得られた医薬組成物は、最大99.95%の極めて高い含水量を有することができ、これは、難水溶性化合物のための様々な異なる種類の医薬製剤を提供することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、貧溶媒再結晶プロセスによるCNC/薬物ナノコンポジットの形成の概略図である。
図2図2は、ナリンゲニンの化学構造を示す図である。
図3図3は、CNC/NGナノコンポジット及びCNC/CTAB/NGナノコンポジットの調製の概念を示す図である。
図4図4は、CNF/AZIナノコンポジットの調製の概念を示す図である。
図5図5は、CNC、元のNG、CNC/NGナノコンポジット及びCNC/CTAB/NGナノコンポジットのFTIRスペクトルを示す図である。
図6図6は、CNC、元のNG、CNC/NGナノコンポジット及びCNC/CTAB/NGナノコンポジットのXRDパターンを示す図である。
図7図7(a)及び図7(b)は、伝統的な貧溶媒再結晶プロセスによるNG粒子のTEM像を示す図である。図7(c)は、CNC/NGナノコンポジットのTEM像を示す図である。図7(d)は、CNC/CTAB/NGナノコンポジットのTEM像を示す図である。
図8図8は、元のNG、NG粒子(伝統的な貧溶媒再結晶プロセス)、CNC/NGナノコンポジット及びCNC/CTAB/NGナノコンポジットの溶解率を示す図である。
図9図9は、元のNG、NG粒子(伝統的な貧溶媒再結晶プロセス)、CNC、CNC/NGナノコンポジット及びCNC/CTAB/NGナノコンポジットのOH・捕捉活性を示す図である。
図10図10は、アジスロマイシンの化学構造を示す図である。
図11図11(a)は、水性系におけるCNF及びCNCの分散及び安定性を示す図であり、左側が0.1%CNC、右側が0.1%CNFである。図11(b)は、水性系におけるCNF及びCNCの分散及び安定性を示す図であり、左側が1.5%CNC(液体)、右側が1.5%CNF(ゲル)である。
図12図12(a)は、CNF、バー20μmのTEM像を示す図である。図12(b)は、CNF、バー0.5μmのTEM像を示す図である。図12(c)は、CNC、バー0.5μmのTEM像を示す図である。
図13図13は、CNC及びCNFのFTIRスペクトルを示す図である。
図14図14は、CNC及びCNFのXRDパターンを示す図である。
図15図15は、CNF、元のAZI及びCNF/AZIナノコンポジットのFTIRスペクトルを示す図である。
図16図16は、AZI及びCNF/AZIナノコンポジットのXRDパターンを示す図である。
図17図17(a)は、元のAZIのTEM像を示す図である。図17(b)は、AZI粒子(貧溶媒再結晶プロセス)のTEM像を示す図である。図17(c)は、純粋なCNFのTEM像を示す図である。図17(d)は、CNF/AZIナノコンポジットのTEM像を示す図である。
図18図18は、CNF及びCNCのOH・捕捉率を示す図である。
図19図19は、元のAZI、AZI粒子(伝統的な貧溶媒再結晶プロセス)、CNF/AZIナノコンポジット、及びCNC/AZIナノコンポジットの溶解率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書では、特に明記しない限り、パーセンテージ値は重量(w/w)に基づく。数値範囲が提供されている場合、範囲には上限値と下限値も含まれる。「含む(comprise)」という開いた用語には、「からなる(consisting of)」という閉じた用語も1つの選択肢として含まれる。
【0019】
難溶性薬物に関連する主な課題の1つは、バイオアベイラビリティが極めて低いことである。難水溶性薬物は、しばしば治療血漿濃度に到達するために高用量を必要とする。油性担体を使用することが常に可能であるとは限らない。例えば、融点が高いために油にも難溶性の化合物があり、その場合これらは脂質ベースの送達にはあまり適用されない。
【0020】
腸管腔で薬物過飽和がしばしば発生し、製剤の分散及び消化の過程で進展する可能性がある。これは薬物の沈殿につながる可能性がある。医薬化合物が結晶形態で沈殿すると、通常は吸収が不完全になる。
【0021】
製剤の溶解度は、量的と質的の両方として定義することができる。定量的溶解度は、飽和溶液を調製するために必要な溶質粒子のミリグラムとして定義される。定性的溶解度は、2つの相が混合されて均質な溶液を形成する状況として定義される。
【0022】
コンビナトリアルケミストリー及びハイスループットスクリーニングなどの新たな方法の導入により、新たに開発された活性剤の分子量が大きくなり、親油性が高まるため、活性剤の水溶性が低下する。
【0023】
活性化合物が5個以上の炭素原子を有する場合、log Pの値が2以上である場合、又は化合物の分子量が500ダルトンより大きい場合などの、活性化合物が低溶解度を示すいくつかの例がある。これらの上記の例は、リピンスキーの法則と呼ばれ、非水溶性又は難水溶性としての活性化合物を示す。
【0024】
溶解度が1mg/ml未満の化合物は重大な障害に直面し、しばしば10mg/ml未満の化合物でさえ、溶解に関連する製剤化の困難を呈する。市場に出回っている難水溶性のこれらの化合物は、低レベルの吸収及び経口送達された場合の食物摂取の効果のために、最適以下の性能を示す傾向が頻繁にある。
【0025】
生物薬剤学薬物分類は、薬物吸収の速度及び程度を制御する基本的なパラメータとしての薬物溶解及び胃腸透過性の認識に基づき得る。
【0026】
米国薬局方(USP 23)及びBPは、定量化に関してのみ、使用される溶媒に関係なく溶解性を分類する。
【0027】
【表1】
【0028】
本方法及び組成物に適した医薬化合物は、溶質(医薬化合物)1部当たり少なくとも1000部の溶媒、例えば溶質1部当たり少なくとも5000部の溶媒、又は溶質1部当たり少なくとも10000部の溶媒を必要とするなどの極めてわずかに可溶性及び/又は実質的に不溶性として分類され得る。また、わずかに可溶性の化合物を適用することもできる。
【0029】
別の分類は、薬物をBCS-I~BCS-IVとして分類する生物薬剤学分類システム(BCS)である。BCSは、溶解性、透過性、及び溶解基準に基づいて原薬を分類するための科学的フレームワークである。BCSによると、原薬は以下の通り分類される:
・クラスI:高い透過性と溶解性
・クラスII:高い透過性と低い溶解性
・クラスIII:低い透過性と高い溶解性
・クラスIV:低い透過性と低い溶解性。
【0030】
本方法及び組成物に適した医薬化合物は、BCS分類によりクラスIV化合物として、任意にクラスII化合物としても分類され得る。一般に、BCS-IVに属する薬物のパラメータを改善することは極めて困難な課題であると考えられてきた。
【0031】
分類の目的で、米国規制機関である食品医薬品局(FDA)は、最高有効性成分含量がpH1~7.5の範囲にわたって250ml未満の水に可溶性である場合の極めて可溶性の薬物を考慮する。原薬は、物質収支に基づいて、又は静脈内参照用量と比較して、ヒトでの吸収の程度が投与用量の90%超であると判断された場合に、FDAによって透過性が高いと見なされる。
【0032】
ナノ構造化セルロースをマトリックス、ビヒクル及び/又は担体材料として使用することによって、医薬化合物を含む特定のナノコンポジット構造、好ましくはナノ粒子状の医薬化合物を含むナノコンポジットがナノ構造化セルロースマトリックス中に形成することが分かった。これらのナノコンポジットは、元々難水溶性及び/又は低バイオアベイラビリティの化合物を使用した場合でさえ、医薬化合物の溶解率及びバイオアベイラビリティを増加させることができた。溶解率は、対応する非複合薬物粒子と比較して10分で50%速く、さらには90%速くなることができた。溶解率は、10分で少なくとも50%、少なくとも70%、少なくとも80%又は少なくとも85%、120分で少なくとも90%、少なくとも95%又はさらには少なくとも99%となり得ることが示された。非複合薬物を含むマトリックスと比較して、溶解率は50%以上速く、さらには90%以上速くなった。一実施形態では、医薬化合物が、10分で50~90%の範囲内など、10分で50%以上のナノ構造化セルロースマトリックスからの溶解率を有する。
【0033】
本出願は、医薬化合物を安定化させるため、又は医薬化合物のバイオアベイラビリティを増強するための方法及び組成物を提供する。さらに特に、本出願は、水への溶解度が低い、好ましくは1mg/ml以下の医薬化合物を安定化させる方法であって、本明細書に記載される方法で医薬組成物を調製して、医薬化合物を安定化させることを含む方法を提供する。
【0034】
本出願はまた、水への溶解度が低い、好ましくは1mg/ml以下の医薬化合物のバイオアベイラビリティを増強する方法であって、本明細書に記載される方法で医薬組成物を調製することを含む方法を提供する。
【0035】
本出願はまた、医薬化合物を安定化させるためのナノ構造化セルロースの使用を提供する。本出願はまた、医薬化合物のバイオアベイラビリティを増強するためのナノ構造化セルロースの使用を提供する。
【0036】
本出願は、医薬化合物を少なくとも部分的に可溶化できる溶媒中に、25℃で1mg/ml以下の水への溶解度を有する前記医薬化合物を用意すること、
ナノ構造化セルロースの水性分散液を用意すること、及び
前記医薬化合物を貧溶媒プロセスでナノ構造化セルロースの前記水性分散液と組み合わせて、50nm以下の平均径を有するナノサイズ医薬粒子を用意すること、
を含む、医薬組成物又は医薬製品を調製する方法を提供する。
【0037】
本出願はまた、前記方法で得られた医薬組成物又は医薬製品を提供する。医薬製品は単離された製品であり、包装される、担体若しくはビヒクルに組み込まれる、及び/又は使用されるように他の方法で調製されるなど、すぐに使用できる状態で提供され得る。プロセスの中間製品は定義から除外される。
【0038】
製品は、極めて高い含水量である92~99.95%(w/w)の含水量を有する形態であり得るので、得られた組成物又は製品は、様々な投与型に適している。組成物は流動分散液として存在することができるが、ヒドロゲルとして存在することもできる。一例では、ナノ構造化セルロースの分散液がヒドロゲルを含む。
【0039】
例えば、注射可能な組成物は、92~99.95%(w/w)の含水量及び/又は0.05~8%(w/w)のナノ構造化セルロースの含有量を有し得る。ナノ構造化セルロースの含有量は、特に組成物がヒドロゲルの形態であることが望ましい場合、1~7%(w/w)又は1~6%(w/w)などの1~8%(w/w)の範囲であり得る。
【0040】
ナノ構造化セルロースが主に分散剤として提供される具体的な実施形態では、ナノ構造化セルロースの含有量が、ゲルを形成しない0.05~0.4%(w/w)又は0.1~0.5%(w/w)などの0.05~0.5%(w/w)の範囲であり得る。これらの場合、含水量が、99.5~99.95%(w/w)などの99.4~99.95%(w/w)の範囲であり得る。ナノ構造化セルロースの含有量はまた、例えば0.05~1.4%(w/w)、0.1~1.4%(w/w)、0.05~3%(w/w)、0.1~3%(w/w)、0.5~3%(w/w)又は1~5%(w/w)の範囲であり得る。意図した用途に応じて適切な濃度を選択することができる。組成物は、組成物中の唯一のポリマー材料としてナノ構造化セルロースを含有することができ、組成物は、実質的に医薬化合物、ナノ構造化セルロース及び水のみを含有することができる、又は医薬化合物、ナノ構造化セルロース及び水からなることができる。場合によっては、好ましくは組成物の構造に対する効果を有さない、着色剤、保存剤又は同様の薬剤などの当技術分野で通例の添加剤少量を、好ましくは0.2%(w/w)以下又は0.1%(w/w)以下などの0.5%(w/w)以下の量で含めることができる。
【0041】
含水量を、それに応じて、例えば、残りが水であってもよい、ナノフィブリル状セルロース及び医薬成分、及びおそらく任意の添加剤のパーセンテージを合計することによって計算又は調整することができる。
【0042】
医薬化合物は、水への溶解度が低い、及び/又はバイオアベイラビリティが低い可能性がある。低溶解度は、25℃で1mg/ml以下、0.6mg/ml以下、又は0.3mg/ml以下の溶解度などの、本明細書に開示される低溶解度のいずれかを指し得る。医薬化合物は、25℃で水中0.1mg/ml以下の溶解度を有する可能性があり、これは、極めて低い溶解度が、水性環境を含むほとんどの用途で問題を引き起こすことを意味する。溶解度は、極めて難溶性の化合物の場合、25℃で0.05mg/ml以下又は0.02mg/ml以下など、さらに低くなる可能性がある。溶解度は、回転ディスク法であるUSP 25などのいずれかの適切な方法又は標準を使用することによって決定することができる。多くの場合、化合物の溶解度は、ALOGPSソフトウェア(例えば、ALOGPS 2.1)を使用することなどによって、計算的に決定される。
【0043】
難水溶性医薬化合物の例としては、水への溶解度が0.214mg/ml(ALOGPS)のナリンゲニン、水への溶解度が25℃で0.514mg/mlのアジスロマイシン(BCS-II、ALOGPS)、37mg/lと難水溶性の双性イオン薬の一例であるレパグリニド、遊離塩基として水に実質的に不溶性(1mg/l未満)であり、前臨床動物モデルで低い経口バイオアベイラビリティを示しているアタゼナビルが挙げられる。さらに、カルプロフェンは、中性pHで水への溶解度が0.00379mg/ml(3.79μg/ml)と極めて低く、同じくイトラコナゾールは溶解度が1μg/l(0.001μg/ml)である。難水溶性及び/又はバイオアベイラビリティが低い薬物の他の例としては、カルバマゼピン、ガバペンチニン、モダフィニル、ピロキシカム、カフェイン、カンプトテシン、ビンポセチン、フェノフィブラート、タクロリムス、ロピナビル/リトナビル、ナビロン、ニモジピン、フェノフィブラート、エトラビリン、ポルフィリン、ミノキシジル、ペプチド及びアントラサイクリン、シクロスポリンA、ジアゼパム、デキサメタゾンパルミチン酸エステル、エトミデート、フルルビプロフェン、プロスタグランジン-E1、プロポフォール、ペルフルオロデカリン及びペルフルオロトリプロピルアミン(perflurotripropylamine)、ビタミンA、D、E及びK、シクロスポリン、カルシトロール、クロファジミン、ドキセルカルシフェロール、ドロナビノール、デュタステリド、イソトレチノイン(Isotretionoin)、リトナビル、パリカルシトール、プロゲステロン、サキナビル、シロリムス、トレチノイン(Tritionoin)、チプラナビル、バルプロ酸などの胃腸管でエマルジョン又はマイクロエマルジョンを生成する経口製品、並びにパクリタキセル(pactitaxel)などの制がん剤が挙げられる。
【0044】
1又は複数の上記の及び/又は他の医薬化合物を、本明細書に記載される医薬組成物に含めることができる。医薬化合物は、1又は複数の抗腫瘍剤、抗がん剤、抗生物質などの抗菌剤、抗ウイルス剤、抗炎症剤、抗アレルギー剤、及びオピオイド若しくは非ステロイド性抗炎症薬などの鎮痛(痛み止め)剤、及び/又は本明細書に開示される他の薬剤を含んでも含まなくてもよい。一例では、特に医薬組成物が注射可能な形態である場合、医薬化合物が鎮痛化合物ではない。医薬化合物は、医薬、すなわち薬物化合物であり得るが、この用語はまた、植物由来の生物活性剤、例えばフラボノイドなどの他の適用可能な生物活性物質又は薬剤も含み得る。
【0045】
ナノ結晶セルロース又はナノフィブリル状セルロースなどのナノ構造化セルロースは、図1に概略的に示される貧溶媒再結晶プロセスを使用することによって、医薬化合物を含むナノコンポジット構造を形成するために使用され得る。
【0046】
本明細書で論じられる難水溶性であり得る医薬化合物は、最初に乾燥形態などの粉末形態又は粒子形態で提供することができる。医薬化合物はまた、溶液若しくは分散液で提供することができる、又は乾燥形態を、好ましくは、水を含有し得る若しくは有機溶媒などの水以外であり得る適切な溶媒を含む溶液若しくは分散液、若しくは水溶液、有機溶媒を含有する分散液若しくはエマルジョンに形成することができる。溶媒は、医薬化合物を少なくとも部分的に溶媒に可溶化することを可能にし得る。医薬化合物は、溶媒中の方法に提供され得る。有機溶媒の例としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、1-オクタノール、プロピレングリコール、トルエン、アセトン、1,4-ジオキサン、酢酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、アセトニトリル、クロロホルム、n-ヘキサン、シクロヘキサン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DFM)及びこれらの混合物が挙げられる。溶媒は、例えば、無水エタノールなどのエタノールであり得る。溶媒は、使用する化合物に応じて、例えば化合物の溶解度に応じて選択することができる。エタノール、特に無水エタノールは、ほとんどの化合物に適した溶媒であり得る。医薬化合物、一般的には薬物の溶媒中溶液が得られる。
【0047】
貧溶媒再結晶プロセスは、貧溶媒を添加して過飽和を作り出すことを伴う。適切な担体がないと、例えば、溶媒中の薬物が水と組み合わされた場合に、薬物粒子が凝結して、通常はバイオアベイラビリティも低い難溶性形態をもたらす。しかしながら、本願の場合、プロセスを制御することができ、ナノサイズ薬物粒子が得られ、これが、最終製品において改善された安定性及びバイオアベイラビリティを示す。本明細書に記載されるナノ構造化セルロースが担体として提供される場合、薬物-ナノ構造化セルロースナノコンポジットが形成及び維持される。薬物が、この構造では沈殿及び/又は凝結しないが、安定化され、効率的に放出されて、優れたバイオアベイラビリティにつながることが分かった。このようなナノコンポジットは、様々な投与のための医薬組成物及び剤形として使用され得る。このプロセスは、例示的な薬物化合物としてナリンゲニンを使用して図3に、及び例示的な薬物化合物としてアジスロマイシンを使用して図4に記載される。図3のプロセスはCNCを担体として使用し、図4のプロセスはCNFを担体として使用する。
【0048】
この方法では、適切な溶媒中の医薬化合物が、例に記載されるものなどの貧溶媒プロセスでナノ構造化セルロースに添加される。化合物の過飽和濃度が得られる。水性ナノ構造化セルロース分散液が、貧溶媒として作用する。このプロセスでは、医薬化合物が過飽和濃度で核を形成し、次いで、平均径が40nm以下、30nm以下、若しくは20nm以下などの50nm以下のナノ粒子に成長し続ける。さらに特に、ナノ粒子が核形成プロセスで得られる。得られたナノ粒子は、凝結体として存在するのではなく、むしろ分離している。医薬化合物は、高度結晶性形態ではなくむしろ、アモルファス状態でナノ粒子中に存在する。ナノ粒子のサイズ及び形状は、例えば、図7図12及び図17に示されるように、電子顕微鏡法を使用することなどによって、最終製品から微視的に検出することができる。
【0049】
溶媒中の医薬化合物は、ナノ構造化セルロースの処理にも使用することができるミキサー、撹拌機、分散機、ホモジナイザー又は同様の装置を使用することなどによって、混合でナノ構造化セルロースの水性分散液と組み合わせることができる。
【0050】
一実施形態では、ナノ構造化セルロースが、1~200nmの範囲内などの200nm以下の平均フィブリル径を有し得るナノフィブリル状セルロースを含む。
【0051】
一実施形態では、ナノフィブリル状セルロースが、水に分散されると、22℃±1℃の水性媒体中、0.5重量%(w/w)の濃度で回転レオメーターによって決定される、ゼロせん断粘度は5000~50000Pa・sの範囲内などの1000~100000Pa・sであり、降伏応力は3~15Paの範囲内などの1~50Paである。
【0052】
一実施形態では、ナノ構造化セルロースがナノ結晶セルロースを含む。ナノ結晶セルロースは、2~20nmなどの2~40nmの範囲の平均フィブリル径、及び100~400nmの範囲などの100nm以上、最大数マイクロメートルの平均フィブリル長を有し得る。通常、材料の10%以下は、粒径が5μm未満である。ナノ結晶セルロースは、アモルファス領域を除去してセルロースの結晶領域を得る酸加水分解によってセルロースから生成され得る。したがって、ナノ結晶セルロースは、結晶セルロースから実質的になり、セルロースのアモルファス領域が欠如している。一方、ナノフィブリル状セルロースは、直線部分としての結晶部分と、フィブリルのよじれを提供するアモルファス部分の両方を含む。両ナノ構造化セルロース材料には共通の特徴及び特性があるが、構造上の違いにより、2つの材料はいくつかの異なる特性を示し得る。
【0053】
分散液/組成物中医薬化合物100μl当たり最大1%(w/w)又は最大1mgの量の希分散液でさえも、ナノ構造化セルロース分散液で、難溶性医薬化合物が安定化され、そのバイオアベイラビリティが増加され得ることが分かった。
【0054】
医薬化合物の含有量は、医薬組成物100μl当たり0.05~1mgの範囲であり得る。一例では、医薬化合物の含有量は、医薬組成物100μl当たり0.1~0.5mgの範囲などの、医薬組成物100μl当たり0.1~0.7mgの範囲である。
【0055】
医薬化合物の含有量は、0.1~1%(w/w)などの、医薬組成物の0.05~1%(w/w)の範囲であり得る。一例では、医薬化合物の含有量は、0.1~0.5%(w/w)の範囲などの、0.1~0.7%(w/w)の範囲である。
【0056】
医薬組成物は、分散液として又はヒドロゲルとして存在し得る、医薬製品又は医薬製剤として提供され得る。一例では、本方法は、得られた医薬組成物を凍結乾燥することを含む。
【0057】
この方法は、得られた医薬組成物をバイアル、カプセル又はシリンジに充填することを含み得る。医薬組成物は、例えば、経口剤形、坐剤、包帯、注射用剤形若しくはインプラントの形態で又はその一部として、提供され得る又は存在し得る。
【0058】
経口剤形は、例えば、ナノ構造化セルロース、好ましくはヒドロゲルの水性分散液をカプセル化する、又は被覆することによって提供され得る。ナノ構造化セルロース分散液又はヒドロゲルは、そのままで提供又は使用することができる形態ではない場合があるため、これが必要になる場合がある。しかしながら、医薬組成物をゲル又は分散液形態で提供することが可能であり、これは、シリンジなどのアプリケーター、膜、シート、又はプラスチック、紙若しくはこれらのラミネートの可撓性構造から形成され得る引き裂き可能なパッケージなどのパッケージを使用することによって経口施用され得る。
【0059】
カプセル化は、医薬品を、例えば経口摂取、又は坐剤として使用できるようにするカプセルとして知られている比較的安なシェルに封入するために使用される一連の剤形及び技術を指す。カプセルの2つの主要なタイプには、ハードシェルカプセル及びソフトシェルカプセルが含まれる。ハードシェルカプセルは通常、乾燥した粉末状の成分又は、例えば押出若しくは球状化(spheronization)のプロセスによって作成され得る小型ペレットを含有する。これらは二等分される:充填され、次いで、大径の「キャップ」を使用して密封される小径の「本体」。ソフトシェルカプセルは、油及び油に溶解又は懸濁される有効成分に主に使用される。本組成物は、両タイプのカプセルに含まれ得る。
【0060】
両形態のカプセルは、動物性タンパク質、例えばゼラチン、又はカラギーナン並びにデンプン及びセルロースの加工形態などの植物多糖類若しくはその誘導体などのゲル化剤の水溶液から作製され得る。カプセルの硬度を低下させるためのグリセリン又はソルビトールなどの可塑剤、着色剤、保存剤、崩壊剤、潤滑剤、及び表面処理剤を含む他の成分をゲル化剤溶液に添加することができる。
【0061】
ナノフィブリル状セルロース
ヒドロゲルを形成するための出発材料は、単離セルロースフィブリル又はセルロース原料に由来するフィブリル束を指す、ナノセルロースとも呼ばれるナノフィブリル状セルロースであり得る。ナノフィブリル状セルロースは、天然に豊富にある天然ポリマーに基づく。ナノフィブリル状セルロースは、水中で粘着性ヒドロゲルを形成する能力を有する。ナノフィブリル状セルロース製造技術は、パルプ繊維の水性分散液を粉砕してナノフィブリル化セルロースを得ることなどの、繊維状原料の分解に基づき得る。粉砕又は均質化プロセスの後、得られたナノフィブリル状セルロース材料は、希粘弾性ヒドロゲルである。
【0062】
得られた材料は通常、分解条件のために水中に均質に分布した比較的低濃度で存在する。出発材料は、0.2~10%(w/w)、例えば0.2~5%(w/w)の濃度の水性ゲルであり得る。ナノフィブリル状セルロースは、繊維状原料の分解から直接得ることができる。市販のナノフィブリル状セルロースヒドロゲルの例は、UPM製のGrowDex(登録商標)である。
【0063】
そのナノスケール構造のため、ナノフィブリル状セルロースは、従来の非ナノフィブリル状セルロースによっては提供できない機能を可能にする独特の特性を有する。従来製品又は従来のセルロース系材料を使用した製品とは異なる特性を示す材料及び製品を調製することが可能である。しかしながら、ナノスケールの構造のため、ナノフィブリル状セルロースは困難な材料でもある。例えば、ナノフィブリル状セルロースの脱水又は取扱いは困難となり得る。
【0064】
ナノフィブリル状セルロースは、植物起源のセルロース原料から調製されてもよいし、又は一定の細菌発酵プロセスから誘導されてもよい。ナノフィブリル状セルロースは、好ましくは植物材料でできている。原料は、セルロースを含有する任意の植物材料に基づくことができる。一例では、フィブリルが非柔組織植物材料から得られる。このような場合、フィブリルを二次細胞壁から得ることができる。このようなセルロースフィブリルの豊富な供給源の1つは、木質繊維である。ナノフィブリル状セルロースは、化学パルプであり得る木材由来の繊維状原料を均質化することによって製造され得る。セルロース繊維は分解されて、ほとんどの場合、200nm以下であり得るほんの数ナノメートルの平均径を有するフィブリルを生成し、フィブリルの水中分散液をもたらす。二次細胞壁に由来するフィブリルは本質的に結晶性であり、結晶化度が少なくとも55%である。このようなフィブリルは、一次細胞壁に由来するフィブリルとは異なる特性を有する可能性があり、例えば、二次細胞壁に由来するフィブリルの脱水は、より困難となり得る。一般に、テンサイ、ジャガイモ塊茎及びバナナ花軸などの一次細胞壁からのセルロース源では、ミクロフィブリルが木材からのフィブリルよりも繊維マトリックスから遊離しやすく、分解に必要なエネルギーが少なくなる。しかしながら、これらの材料はまだいくらか不均質であり、大きなフィブリル束からなる。
【0065】
非木材材料は、農業廃棄物、牧草、又は綿、トウモロコシ、小麦、エンバク、ライ麦、大麦、イネ、亜麻、麻、マニラ麻、サイザル麻、ジュート、ラミー、ケナフ、バガス、竹若しくはリード由来のわら、葉、樹皮、種子、外皮、花、野菜若しくは果実などの他の植物物質に由来し得る。セルロース原料は、セルロース産生微生物からも誘導され得る。微生物は、アセトバクター(Acetobacter)属、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、リゾビウム(Rhizobium)属、シュードモナス(Pseudomonas)属又はアルカリゲネス(Alcaligenes)属、好ましくはアセトバクター(Acetobacter)属、より好ましくはアセトバクター・キシリナム(Acetobacter xylinumor)種又はアセトバクター・パスツリアヌス(Acetobacter pasteurianus)種のものであり得る。
【0066】
木材セルロースから得られたナノフィブリル状セルロースが、本明細書に記載される医療製品又は科学製品に好ましいことが分かった。木材セルロースは大量に入手可能であり、木材セルロース用に開発された調製方法により、製品に適したナノフィブリル状材料を製造できる。植物繊維、特に木質繊維をフィブリル化して得られるナノフィブリル状セルロースは、微生物から得られるナノフィブリル状セルロースとは構造的に異なり、異なる特性を有する。例えば、バクテリアセルロースと比較すると、ナノフィブリル化木材セルロースは均質で、より多孔性で、ばらばらの材料であり、医療用途に有利である。バクテリアセルロースは通常、植物セルロースと同様のフィブリル化なしでそのまま使用されるので、この点でも材料が異なる。バクテリアセルロースは、小型球状体を容易に形成する緻密材料であり、したがって材料の構造が不連続であり、特に材料の均質性が必要な場合、医療用途でこのような材料を使用することは望ましくない。
【0067】
木材は、トウヒ、マツ、モミ、カラマツ、ベイマツ若しくはヘムロックなどの針葉樹由来、又はカバノキ、ヤマナラシ、ポプラ、ハンノキ、ユーカリ、オーク、ブナ若しくはアカシアなどの広葉樹由来、又は針葉樹と広葉樹の混合由来であり得る。一例では、ナノフィブリル状セルロースが木材パルプから得られる。ナノフィブリル状セルロースは、広葉樹パルプから得ることができる。一例では、広葉樹はカバノキである。ナノフィブリル状セルロースは、針葉樹パルプから得ることができる。一例では、前記木材パルプは化学パルプである。本明細書に開示される製品には化学パルプが望ましい場合がある。化学パルプは純粋な材料であり、多種多様な用途で使用できる。例えば、化学パルプは、機械パルプに存在するピッチ及び樹脂酸を欠いており、より無菌性である、又は容易に滅菌可能である。さらに、化学パルプはより可撓性であり、例えば医療材料及び科学材料で有利な特性を提供する。例えば、極めて均質なナノフィブリル状セルロース材料が、過剰な処理又は特定の設備若しくは面倒な処理工程の必要性なしに調製され得る。
【0068】
セルロースフィブリル及び/又はフィブリル束を含むナノフィブリル状セルロースは、高いアスペクト比(長さ/直径)を特徴とする。ナノフィブリル状セルロースの平均長(フィブリル又はフィブリル束などの粒子の中央長)は、1μmを超える場合があり、ほとんどの場合50μm以下である。エレメンタリーフィブリル(elementary fibril)が互いに完全に分離されていない場合、絡み合ったフィブリルは、例えば1~100μm、1~50μm又は1~20μmの範囲の平均全長を有し得る。しかしながら、ナノフィブリル状材料が高度にフィブリル化されている場合、エレメンタリーフィブリルは完全に又はほぼ完全に分離されている可能性があり、平均フィブリル長が1~10μm又は1~5μmの範囲などより短くなる。これは特に、例えば化学的、酵素的又は機械的に、短縮又は消化されていない天然グレードのフィブリルに当てはまる。しかしながら、強く誘導体化されたナノフィブリル状セルロースは、0.3~20μm、例えば0.5~10μm又は1~10μmなどの0.3~50μmの範囲などのより短い平均フィブリル長を有し得る。酵素的若しくは化学的に消化されたフィブリル又は機械的に処理された材料などの特に短縮されたフィブリルは、0.1~1μm、0.2~0.8μm又は0.4~0.6μmなどの1μm未満の平均フィブリル長を有し得る。フィブリル長及び/又は直径は、例えば、CRYO-TEM、SEM又はAFM像を使用して微視的に推定され得る。
【0069】
ナノフィブリル状セルロースの平均径(幅)は、1μm未満、又は1~500nmの範囲などの500nm以下であるが、好ましくは1~200nm、2~200nm、2~100nm又は2~50nmの範囲などの200nm以下、さらには100nm以下又は50nm以下、高度にフィブリル化された材料の場合はさらには2~20である。本明細書に開示される直径は、フィブリル及び/又はフィブリル束を指し得る。最も小さいフィブリルはエレメンタリーフィブリルのスケールであり、平均径は、典型的には2~12nmの範囲内である。エレメンタリーナノフィブリルは、約100~200nmの長さの直線部分、引き続いてフィブリルに沿った鋭いよじれを有し得る。これらの直線部分は、高度結晶性セルロースドメインで構成されており、屈曲部位はアモルファス部分によって形成されている。
【0070】
フィブリルの寸法及びサイズ分布は、叩解(refining)方法及び効率に依存する。高度に叩解された天然ナノフィブリル状セルロースの場合、フィブリル束を含む平均フィブリル径は、2~200nm又は5~100nmの範囲、例えば10~50nmの範囲となり得る。ナノフィブリル状セルロースは、比表面積が大きく、水素結合を形成する能力が強いことを特徴とする。水分散液では、ナノフィブリル状セルロースは、典型的には、軽い又は混濁したゲル状材料のように見える。繊維原料によって、植物、特に木材から得られたナノフィブリル状セルロースが、少量の他の植物成分、特にヘミセルロース又はリグニンなどの木材成分を含有する場合もある。量は植物源に依存する。
【0071】
一般に、セルロースナノ材料は、セルロースナノ材料の標準的な用語を提供するTAPPI W13021に従ってカテゴリーに分類され得る。これらの材料の全てがナノフィブリル状セルロースであるわけではない。2つの主なカテゴリーは「ナノ物体(Nano object)」及び「ナノ構造化材料」である。ナノ構造化材料には、直径10~12μm及び長さ:直径比(L/D)<2の「セルロースミクロクリスタル」(CMCとも呼ばれる)、並びに直径10~100nm及び長さ0.5~50μmの「セルロースミクロフィブリル」が含まれる。ナノ物体には、「セルロースナノファイバー」が含まれ、「セルロースナノファイバー」は直径3~10nm及びL/D>5の「セルロースナノクリスタル」(CNC)、並びに直径5~30nm及びL/D>50の「セルロースナノフィブリル」(CNF又はNFC)に分類できる。
【0072】
異なるグレードのナノフィブリル状セルロースは、3つの主要な特性:(i)サイズ分布、長さ及び/又は直径(ii)化学組成、並びに(iii)レオロジー特性に基づいて分類され得る。これらの特性は、必ずしも互いに直接依存しているわけではない。グレードを完全に説明するために、特性を並行して使用することができる。異なるグレードの例としては、天然(化学的及び/又は酵素的未変性)NFC、酸化NFC(高粘度)、酸化NFC(低粘度)、カルボキシメチル化NFC及びカチオン化NFCが挙げられる。これらの主要なグレード内には、サブグレード、例えば:極めてよくフィブリル化されたもの対中程度にフィブリル化されたもの、高置換度対低置換度、低粘度対高粘度等も存在する。フィブリル化技術及び化学的前変性は、フィブリルサイズ分布に影響を及ぼす。典型的には、非イオングレードは平均フィブリル径が広く(例えば、10~100nm又は10~50nmの範囲)、化学変性グレードはずっと薄い(例えば、2~20nmの範囲)。変性グレードについても分布が狭い。一定の変性、特にTEMPO酸化により、フィブリルが短くなる。
【0073】
原料供給源、例えば広葉樹パルプ対針葉樹パルプに応じて、最終的なナノフィブリル状セルロース製品に異なる多糖組成が存在する。一般的に、非イオングレードは、高キシレン含有量(25重量%)をもたらす漂白カバノキパルプから調製される。変性グレードは、広葉樹パルプ又は針葉樹パルプから調製される。これらの変性グレードでは、ヘミセルロースもセルロースドメインと共に変性される。おそらく、変性は均質ではない、すなわち、ある部分が他の部分よりも変性されている。したがって、変性された製品は異なる多糖構造の複雑な混合物であるので、詳細な化学分析は通常不可能である。
【0074】
水性環境では、セルロースナノフィブリルの分散液が粘弾性ヒドロゲルネットワークを形成する。ゲルは、分散及び水和した絡み合ったフィブリルによって、例えば0.05~0.2%(w/w)の比較的低い濃度で既に形成されている。NFCヒドロゲルの粘弾性は、例えば動的振動レオロジー測定で特徴付けられ得る。
【0075】
ナノフィブリル状セルロースヒドロゲルは、特徴的なレオロジー特性を示す。例えば、これらは、その粘度が、材料が変形する速度又は力に依存することを意味する、チキソトロピー挙動の特殊なケースと見なすことができる、せん断減粘又は擬塑性材料である。回転レオメーターで粘度を測定する場合、せん断減粘挙動は、せん断速度の増加に伴う粘度の減少として見られる。ヒドロゲルは、材料が容易に流動し始める前に、一定のせん断応力(力)が必要であることを意味する、塑性挙動を示す。この臨界せん断応力は、しばしば降伏応力と呼ばれる。降伏応力は、応力制御レオメーターで測定された定常状態流動曲線から決定することができる。印加されたせん断応力の関数として粘度をプロットすると、臨界せん断応力を超えた後、粘度の劇的な減少が見られる。ゼロせん断粘度及び降伏応力は、材料の懸濁力を説明する最も重要なレオロジーパラメータである。これらの2つのパラメータは、異なるグレードを極めて明確に分離し、よって、グレードの分類を可能にする。
【0076】
フィブリル又はフィブリル束の寸法は、例えば、原料、分解方法、及び分解の実行回数に依存する。セルロース原料の機械的分解は、リファイナー、砕木機、分散機、ホモジナイザー、コロイド、摩擦グラインダー、ピンミル、ローター-ローター分散機、超音波処理機、マイクロフルイダイザー、マクロフルイダイザーなどのフルイダイザー、又はフルイダイザー型ホモジナイザーなどの任意の適切な設備で行うことができる。分解処理は、繊維間の結合の形成を防ぐために水が十分存在する条件で実施される。当業者であれば、例えば、適切な分解設備、適切な出発材料、適切な化学的処理、物理的処理及び/又は酵素的処理、プロセスで使用される通過回数及び/又はエネルギー、並びに得られた製品の濃度及び化学物質含有量を選択することによって、過度の実験なしに、所望のレオロジー特性及びフィブリル化の程度を有するナノフィブリル状セルロースを調製するための条件を調整することができる。
【0077】
一例では、分解が、少なくとも2つのローターを有するローター-ローター分散機などの、少なくとも1つのローター、ブレード又は同様の移動機械部材を有する分散機を使用することによって行われる。分散機では、分散している繊維材料が、ブレードが、回転速度及び半径(回転軸までの距離)によって決定される周速で反対方向に回転すると、ブレード又はローターのリブが反対方向から衝突することによって繰り返し衝撃を受ける。繊維材料は半径方向の外側に運ばれるため、反対方向から高い周速で次々と来るブレードの広い表面、すなわち、リブに衝突する;換言すれば、繊維材料は反対方向から複数の連続した衝撃を受ける。また、次のローターブレードの反対側のエッジとブレードギャップを形成する、ブレードの広い表面のエッジ、すなわちリブで、せん断力が発生し、これが繊維の分解及びフィブリルの剥離に寄与する。衝撃頻度は、ローターの回転速度、ローターの数、各ローターのブレードの数、及び装置を通る分散液の流量によって決定される。
【0078】
ローター-ローター分散機では、材料が、異なる逆回転ローターの効果によってせん断力及び衝撃力に繰り返し供され、それによって同時にフィブリル化されるように、繊維材料が逆回転ローターを通して、ローターの回転軸に対して半径方向の外向きに導入される。ローター-ローター分散機の一例は、Atrex装置である。
【0079】
分解に適した装置の別の例は、マルチペリフェラルピンミル(multi-peripheral pin mill)などのピンミルである。このような装置の一例は、ハウジングと、その中に衝突面を備えた第1のローター;第1のローターと同心であり、衝突面を備え、第1のローターと反対方向に回転するように配置されている第2のローター;又は第1のローターと同心であり、衝突面を備えたステーターとを備える。この装置は、ハウジング内にあり、ローター又はローターとステーターの中心に向かって開口している供給オリフィスと、ハウジング壁にあり、最も外側のローター又はステーターの周囲に向かって開口している排出オリフィスとを備える。
【0080】
一例では、分解が、ホモジナイザーを使用することによって行われる。ホモジナイザーでは、繊維材料が、圧力の効果による均質化に供される。ナノフィブリル状セルロースへの繊維材料分散液の均質化は、材料をフィブリルに分解する、分散液の強制的貫通流によって引き起こされる。繊維材料分散液が、分散液の線速度の増加により分散液に対するせん断力及び衝撃力が引き起こされ、繊維材料からフィブリルが除去される狭い貫通流ギャップに所定の圧力で通過させられる。繊維片は、フィブリル化工程でフィブリルに分解される。
【0081】
本明細書で使用される場合、「フィブリル化」という用語は、一般に、粒子に印加される仕事によって機械的に繊維材料を分解することを指し、セルロースフィブリルは繊維又は繊維片から剥離される。仕事は、粉砕、破砕若しくはせん断、若しくはこれらの組み合わせ、又は粒径を小さくする別の対応する作用などの様々な効果に基づき得る。「分解」又は「分解処理」という表現は、「フィブリル化」と互換的に使用され得る。
【0082】
フィブリル化に供される繊維材料分散液は、本明細書では「パルプ」とも呼ばれる、繊維材料と水の混合物である。繊維材料分散液は、一般に、繊維全体、繊維から分離された部分(片)、フィブリル束、又は水と混合されたフィブリルを指すことがあり、典型的には、水性繊維材料分散液は、これらの要素の混合物であり、ここでは成分間の比が処理の程度又は処理段階、例えば同じバッチの繊維材料の処理の実行又は「通過」の数に依存する。
【0083】
ナノフィブリル状セルロースを特徴付ける1つの方法は、前記ナノフィブリル状セルロースを含有する水溶液の粘度を使用することである。粘度は、例えば、ブルックフィールド粘度又はゼロせん断粘度であり得る。本明細書に記載される比粘度は、ナノフィブリル状セルロースを非ナノフィブリル状セルロースと区別する。
【0084】
一例では、ナノフィブリル状セルロースの見かけの粘度が、ブルックフィールド粘度計(ブルックフィールド粘度)又は別の対応する装置で測定される。適切には、ベーンスピンドル(73番)が使用される。見かけの粘度を測定するために利用可能ないくつかの市販のブルックフィールド粘度計があり、これらは全て同じ原理に基づく。適切には、RVDVスプリング(ブルックフィールドRVDV-III)が装置で使用される。ナノフィブリル状セルロースの試料を水中0.8重量%の濃度に希釈し、10分間混合する。希釈した試料塊を250mlビーカーに添加し、温度を20℃±1℃に調整し、必要に応じて加熱し、混合する。低い回転速度10rpmが使用される。一般に、ブルックフィールド粘度は、20℃±1℃、0.8%(w/w)の濃度及び10rpmで測定され得る。
【0085】
例えば本方法で出発材料として用意されるナノフィブリル状セルロースは、それが水溶液中で提供する粘度によって特徴付けられ得る。粘度は、例えば、ナノフィブリル状セルロースのフィブリル化の程度を説明する。一例では、ナノフィブリル状セルロースが、水に分散されると、0.8%(w/w)の濃度及び10rpmで、20℃±1℃で測定される、少なくとも3000mPa・sなどの少なくとも2000mPa・sのブルックフィールド粘度を提供する。一例では、ナノフィブリル状セルロースが、水に分散されると、0.8%(w/w)の濃度及び10rpmで、20℃±1℃で測定される、少なくとも10000mPa・sのブルックフィールド粘度を提供する。一例では、ナノフィブリル状セルロースが、水に分散されると、0.8%(w/w)の濃度及び10rpmで、20℃±1℃で測定される、少なくとも15000mPa・sのブルックフィールド粘度を提供する。水に分散された場合の前記ナノフィブリル状セルロースのブルックフィールド粘度範囲の例としては、0.8%(w/w)の濃度及び10rpmで、20℃±1℃で測定される、2000~20000mPa・s、3000~20000mPa・s、10000~20000mPa・s、15000~20000mPa・s、2000~25000mPa・s、3000~25000mPa・s、10000~25000mPa・s、15000~25000mPa・s、2000~30000mPa・s、3000~30000mPa・s、10000~30000mPa・s、及び15000~30000mPa・sが挙げられる。
【0086】
ナノフィブリル状セルロースはまた、平均径(若しくは幅)によって、又はブルックフィールド粘度若しくはゼロせん断粘度などの粘度と共に平均径によって特徴付けられ得る。一例では、本明細書に記載される製品での使用に適したナノフィブリル状セルロースが、1~200nm又は1~100nmの範囲の平均フィブリル径を有する。一例では、前記ナノフィブリル状セルロースが、2~20nm又は5~30nmなどの1~50nmの範囲の平均フィブリル径を有する。一例では、前記ナノフィブリル状セルロースが、TEMPO酸化ナノフィブリル状セルロースの場合などの2~15nmの範囲の平均フィブリル径を有する。
【0087】
フィブリルの直径は、顕微鏡法などのいくつかの技法で決定され得る。フィブリルの厚さ及び幅の分布は、電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)、極低温透過型電子顕微鏡(cryo-TEM)などの透過型電子顕微鏡(TEM)、又は原子間力顕微鏡(AFM)の像の像分析によって測定され得る。一般に、AFM及びTEMは、フィブリル径分布が狭いナノフィブリル状セルロースグレードに最適である。
【0088】
ナノフィブリル状セルロース分散液のレオメーター粘度は、直径30mmの円筒形試料カップ中狭いギャップのベーン幾何学(直径28mm、長さ42mm)を備えた応力制御回転レオメーター(AR-G2、TA Instruments、英国)を使用して、22℃で一例に従って測定され得る。試料をレオメーターに充填した後、測定を開始する前に試料を5分間静止させる。定常状態粘度を、徐々に増加するせん断応力(印加されるトルクに比例)で測定し、せん断速度(角速度に比例)を測定する。一定のせん断応力で報告された粘度(=せん断応力/せん断速度)を、一定のせん断速度に達した後、又は最大2分後に記録する。1000s-1のせん断速度を超えたら、測定を停止する。この方法は、ゼロせん断粘度を決定するために使用され得る。
【0089】
別の例では、ヒドロゲル試料のレオロジー測定を、20mmのプレート幾何学を備えた応力制御回転レオメーター(AR-G2、TA機器、英国)を使用して行った。試料を、希釈せずにレオメーター、1mmギャップに充填した後、測定を開始する前に試料を5分間静置させた。25℃で、周波数10rad/s、ひずみ2%で、せん断応力を0,001~100Paの範囲で徐々に増加させて応力スイープ粘度を測定した。貯蔵弾性率、損失弾性率及び降伏応力/破壊強度を決定することができる。
【0090】
ヒドロゲルが注射後にその形状を保持するために必要な最小粘度レベルがあることが分かった。これは、25℃で、周波数10rad/s、ひずみ2%で、せん断応力を0.001~100Paの範囲で徐々に増加させて応力制御回転レオメーターによって決定される、貯蔵弾性率が350Pa以上であり、及び降伏応力/破壊強度が25Pa以上であることによって特徴付けることができる。当業者は、化学変性セルロース又は化学的未変性セルロースなどの異なるタイプの出発材料を使用する場合でも、このような特徴を得るために適切な調製方法及びパラメータを選択することができる。
【0091】
ナノフィブリル状セルロースは、所望の特性及び効果が得られるように、十分なフィブリル化の程度を有するべきである。一実施形態では、ナノフィブリル状セルロースが、1~200nmの範囲のフィブリルの平均径を有する、並びに/又は、ナノフィブリル状セルロース若しくは医薬組成物が、水に分散されると、25℃で、周波数10rad/s、ひずみ2%で、せん断応力を0.001~100Paの範囲で徐々に増加させて応力制御回転レオメーターによって決定される、貯蔵弾性率が350~5000Pa、若しくは好ましくは350~1000Paの範囲などの350Pa以上であり、及び降伏応力が25~300Pa、好ましくは25~75Paの範囲などの25Pa以上である。
【0092】
一例では、例えば本方法で出発材料として用意されるナノフィブリル状セルロースが、水に分散されると、22℃±1℃の水性媒体中、0.5重量%(w/w)の濃度で回転レオメーターによって決定される、ゼロせん断粘度(小さなせん断応力での一定の粘度の「プラトー」)は5000~50000Pa・sの範囲などの1000~100000Pa・sであり、及び降伏応力(せん断減粘が始まるせん断応力)は3~15Paの範囲などの1~50Paである。このようなナノフィブリル状セルロースはまた、1~200nmの範囲などの200nm以下の平均フィブリル径を有し得る。
【0093】
濁度とは、一般に肉眼では見えない個々の粒子(完全に懸濁又は溶解した固体)によって引き起こされる流体の曇り又はかすみである。濁度を測定するいくつかの実用的な方法があり、最も直接的なのは、光が水の試料柱を通過する際の光の減衰(すなわち、強度の低下)の測定である。代わりに使用されるジャクソンキャンドル法(単位:ジャクソン濁度単位又はJTU)は、本質的に、水の柱を通して見られるキャンドルの炎を完全に隠すのに必要な水の柱の長さの逆尺度である。
【0094】
濁度は、光学濁度測定器を使用して定量的に測定され得る。濁度を定量的に測定するために利用可能な市販の濁度計がいくつかある。この場合、比濁法に基づく方法が使用される。校正された比濁計からの濁度の単位は、比濁法濁度単位(NTU)と呼ばれる。測定装置(濁度計)を標準校正試料で校正及び制御し、引き続いて希釈されたNFC試料の濁度を測定する。
【0095】
1つの濁度測定法では、ナノフィブリル状セルロース試料を水に希釈して、前記ナノフィブリル状セルロースのゲル化点未満の濃度にし、希釈された試料の濁度を測定する。ナノフィブリル状セルロース試料の濁度が測定される前記濃度は、0.1%である。50ml測定容器を備えたHACH P2100濁度計が濁度測定に使用される。ナノフィブリル状セルロース試料の乾物を測定し、乾物として計算された試料0.5gを測定容器に充填し、測定容器に水道水を500gまで満たし、約30秒間振盪することによって激しく混合する。水性混合物を遅滞なく5つの測定容器に分け、濁度計に挿入する。各容器で3回の測定を行う。得られた結果から平均値及び標準偏差を計算し、最終結果をNTU単位で与える。
【0096】
ナノフィブリル状セルロースを特徴付ける1つの方法は、粘度と濁度の両方を定義することである。小さなフィブリルは光をほとんど散乱させないため、低濁度は、小さな直径などの小さなサイズのフィブリルを指す。一般に、フィブリル化の程度が増加するにつれて、粘度が増加し、同時に濁度が減少する。しかしながら、これは一定の点まで起こる。フィブリル化をさらに続けると、フィブリルは最終的に壊れ始め、強固なネットワークをもはや形成できなくなる。したがって、この点以降、濁度と粘度の両方が減少し始める。
【0097】
一例では、アニオン性ナノフィブリル状セルロースの濁度が、水性媒体中0.1%(w/w)の濃度で測定され、比濁法によって測定される、90NTU未満、例えば5~60NTU、例えば8~40NTUなどの3~90NTUである。一例では、天然ナノフィブリルの濁度が、水性媒体中0.1%(w/w)の濃度で、20℃±1℃で測定され、比濁法によって測定される、200NTU超、例えば20~200NTU、例えば50~200NTUなどの10~220NTUであり得る。ナノフィブリル状セルロースを特徴付けるために、これらの範囲を、ゼロせん断粘度、貯蔵弾性率及び/又は降伏応力などのナノフィブリル状セルロースの粘度範囲と組み合わせることができる。
【0098】
ナノフィブリル状セルロースは、非変性ナノフィブリル状セルロースであり得る、又は非変性ナノフィブリル状セルロースを含み得る。非変性ナノフィブリル状セルロースの排水は、例えばアニオングレードよりも有意に速い。非変性ナノフィブリル状セルロースは、一般に0.8%(w/w)の濃度及び10rpmで、20℃±1℃で測定される、2000~10000mPa・sの範囲のブルックフィールド粘度を有する。ナノフィブリル状セルロースが、電気伝導度滴定によって決定される、0.6~1.4mmol COOH/gの範囲、例えば、0.7~1.2mmol COOH/gの範囲、又は0.7~1.0mmol COOH/g若しくは0.8~1.2mmol COOH/gの範囲などの、適切なカルボン酸含有量を有することが好ましい。
【0099】
分解された繊維状セルロース原料は、変性繊維状原料であってもよい。変性繊維状原料とは、セルロースナノフィブリルが繊維からより容易に剥離できるように、繊維が処理によって影響を受けている原料を意味する。変性は通常、液体、すなわちパルプ中に懸濁液として存在する繊維状セルロース原料に対して実施される。
【0100】
繊維の変性処理は、化学的、酵素的又は物理的であり得る。化学的変性では、好ましくは、セルロース分子の長さは影響を受けないが、ポリマーのβ-D-グルコピラノース単位に官能基が付加されるように、セルロース分子の化学構造が化学反応(セルロースの「誘導体化」)によって変更される。セルロースの化学的変性は、反応物質の投与量及び反応条件に依存する一定の転換度で行われ、原則としてセルロースがフィブリルとして固体形態に留まり、水に溶解しないように、完全ではない。物理的変性では、アニオン性、カチオン性、又は非イオン性の物質又はこれらの任意の組み合わせがセルロース表面に物理的に吸着される。
【0101】
繊維中のセルロースは、変性後に特にイオン的に帯電することがある。セルロースのイオン電荷は繊維の内部結合を弱め、後でナノフィブリル状セルロースへの分解を促進する。イオン電荷は、セルロースの化学的変性又は物理的変性によって達成され得る。繊維は、出発原料と比較して、変性後、より高いアニオン性電荷又はカチオン性電荷を有し得る。アニオン性電荷を生成するために最も一般的に使用される化学的変性方法は、ヒドロキシル基をアルデヒド基及びカルボキシル基に酸化する酸化、スルホン化並びにカルボキシメチル化である。ナノフィブリル状セルロースと生物活性分子との間の共有結合の形成に関与し得るカルボキシル基などの基を導入する化学的変性が望ましい場合がある。同様に、カチオン性電荷は、第四級アンモニウム基などのカチオン性基をセルロースに結合することによるカチオン化によって化学的に生成され得る。
【0102】
ナノフィブリル状セルロースは、アニオン変性ナノフィブリル状セルロース又はカチオン変性ナノフィブリル状セルロースなどの化学変性ナノフィブリル状セルロースを含み得る。一例では、ナノフィブリル状セルロースが、アニオン変性ナノフィブリル状セルロースである。一例では、アニオン変性ナノフィブリル状セルロースが、酸化ナノフィブリル状セルロースである。一例では、アニオン変性ナノフィブリル状セルロースが、スルホン化ナノフィブリル状セルロースである。一例では、アニオン変性ナノフィブリル状セルロースが、カルボキシメチル化ナノフィブリル状セルロースである。セルロースのアニオン性変性で得られる材料は、非変性材料と比較した場合、カルボキシル基などのアニオン性基の量又は割合が変性により増加している材料を指す、アニオン性セルロースと呼ばれ得る。カルボキシル基の代わりに、又はカルボキシル基に加えて、リン酸基又は硫酸基などの他のアニオン性基をセルロースに導入することも可能である。これらの基の含有量は、本明細書でカルボン酸について開示されているのと同じ範囲内であり得る。
【0103】
セルロースが酸化されていてもよい。セルロースの酸化では、セルロースの第一級ヒドロキシル基が、N-オキシル媒介触媒酸化を通して、例えば、一般に「TEMPO」と呼ばれる、2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシフリーラジカルなどの複素環式ニトロキシル化合物によって触媒的に酸化され得る。セルロース系β-D-グルコピラノース単位の第一級ヒドロキシル基(C6-ヒドロキシル基)が、カルボキシル基に選択的に酸化される。いくつかのアルデヒド基も、第一級ヒドロキシル基から形成される。酸化度が低いと十分なフィブリル化が効率的に行えず、酸化度が高いと機械的破壊処理後にセルロースが分解されるという所見に関して、セルロースは、電気伝導度滴定によって決定される、0.5~2.0mmol COOH/gパルプ、0.6~1.4mmol COOH/gパルプ、又は0.8~1.2mmol COOH/gパルプ、好ましくは1.0~1.2mmol COOH/gパルプの範囲の酸化セルロース中カルボン酸含有量を有するレベルまで酸化され得る。このようにして得られた酸化セルロースの繊維が水中で分解すると、これらは、例えば幅が3~5nmであり得る個別のセルロースフィブリルの安定な透明分散液を与える。開始媒体として酸化パルプを使用すると、0.8%(w/w)の濃度で測定されるブルックフィールド粘度が少なくとも10000mPa・s、例えば10000~30000mPa・sの範囲であるナノフィブリル状セルロースを得ることが可能である。
【0104】
本開示で触媒「TEMPO」が言及されている場合は常に、「TEMPO」が関与する全ての測定及び操作が、TEMPOの任意の誘導体又はセルロース中のC6炭素のヒドロキシル基の酸化を選択的に触媒することができる任意の複素環式ニトロキシルラジカルに等しく同様に適用されることが自明である。
【0105】
本明細書に開示されるナノフィブリル状セルロースの変性は、本明細書に記載される他のフィブリル状セルロースグレードにも適用され得る。例えば、高度に叩解されたセルロース又はミクロフィブリル状セルロースも、同様に化学的又は酵素的に変性され得る。しかしながら、例えば、材料の最終的なフィブリル化の程度には差がある。
【0106】
一例では、このような化学変性ナノフィブリル状セルロースが、水に分散されると、0.8%(w/w)の濃度及び10rpmで、20℃±1℃で測定される、少なくとも10000mPa・sのブルックフィールド粘度を提供する。一例では、このような化学変性ナノフィブリル状セルロースが、水に分散されると、0.8%(w/w)の濃度及び10rpmで、20℃±1℃で測定される、少なくとも15000mPa・sのブルックフィールド粘度を提供する。一例では、このような化学変性ナノフィブリル状セルロースが、水に分散されると、0.8%(w/w)の濃度及び10rpmで、20℃±1℃で測定される、少なくとも18000mPa・sのブルックフィールド粘度を提供する。使用されるアニオン性ナノフィブリル状セルロースの例は、フィブリル化の程度に応じて、13000~15000mPa・s、又は18000~20000mPa・s、又はさらには最大25000mPa・sのブルックフィールド粘度を有する。
【0107】
一例では、ナノフィブリル状セルロースが、TEMPO酸化ナノフィブリル状セルロースである。これは、低濃度で高い粘度、例えば0.8%(w/w)の濃度及び10rpmで、20℃±1℃で測定される、少なくとも20000mPa・s、さらには少なくとも25000mPa・sのブルックフィールド粘度を提供する。一例では、TEMPO酸化ナノフィブリル状セルロースのブルックフィールド粘度が、0.8%(w/w)の濃度及び10rpmで、20℃±1℃で測定される、25000~30000mPa・sなどの20000~30000mPa・sの範囲である。
【0108】
一例では、ナノフィブリル状セルロースが、化学的未変性ナノフィブリル状セルロースを含む。一例では、このような化学的未変性ナノフィブリル状セルロースが、水に分散されると、0.8%(w/w)の濃度及び10rpmで、20℃±1℃で測定される、少なくとも2000mPa・s又は少なくとも3000mPa・sのブルックフィールド粘度を提供する。
【0109】
製造プロセスを増強するため、又は製品の特性を改善若しくは調整するための補助剤をナノフィブリル状セルロース分散液に含めることができる。このような補助剤は、分散液の液相に可溶であってもよいし、これらはエマルジョンを形成してもよいし、又はこれらは固体であってもよい。補助剤をナノフィブリル状セルロース分散液の製造中に原料に既に添加してもよいし、又は補助剤を形成されたナノフィブリル状セルロース分散液若しくはゲルに添加してもよい。補助剤を、例えば、含浸、噴霧、液浸、浸漬又は同様の方法によって、最終製品に添加してもよい。補助剤は通常、ナノフィブリル状セルロースに共有結合されていないため、ナノセルロースマトリックスから放出可能であり得る。このような薬剤の制御放出及び/又は徐放は、NFCをマトリックスとして使用すると得ることができる。補助剤の例としては、治療(薬学)剤、及び緩衝剤、界面活性剤、可塑剤、乳化剤などの、製品の特性又は活性剤の特性に影響を及ぼす他の薬剤が挙げられる。一例では、分散液が、最終製品の特性を増強するため、又は製造プロセスで製品からの水の除去を容易にするために添加することができる、1又は複数の塩を含有する。塩の例としては、塩化ナトリウム、塩化カルシウム及び塩化カリウムなどの塩化物塩が挙げられる。塩は、分散液中の乾物の0.01~1.0%(w/w)の範囲の量で含まれ得る。最終製品を、約0.9%塩化ナトリウムの水溶液などの塩化ナトリウムの溶液に液浸又は浸漬してもよい。最終製品中の望ましい塩含有量は、湿潤製品の体積の約0.9%などの約0.5~1%の範囲であり得る。塩、緩衝剤及び同様の薬剤は、生理学的条件を得るために提供され得る。
【0110】
ナノフィブリル状セルロースの非共有結合架橋を得るために、多価カチオンを含めてもよい。一例は、ナノフィブリル状セルロース、特にアニオン変性ナノフィブリル状セルロース、並びに例えばカルシウム、バリウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウム、金、プラチナ及びチタンのカチオンから選択される多価金属カチオンなどの多価カチオンを含むナノフィブリル状セルロース製品を提供し、ここではナノフィブリル状セルロースが、多価カチオンによって架橋されている。特にバリウム及びカルシウムが生物医学的用途に有用であり得、特にバリウムが標識に使用され得、注射されたヒドロゲルの検出に使用することができる。多価カチオンの量は、ヒドロゲルの乾燥含有量から計算される、0.1~3%(w/w)、例えば0.1~2%(w/w)の範囲であり得る。
【0111】
一例は、このようなヒドロゲルを調製する方法であって、パルプを用意すること、ナノフィブリル状セルロースが得られるまでパルプを分解すること、ナノフィブリル状セルロースをヒドロゲルに形成することを含む方法を提供する。
【0112】
ナノフィブリル状セルロースは、所望のフィブリル化の程度にフィブリル化され、所望の含水量に調整され得る、又は本明細書に記載される所望の特性を有するゲルを形成するように変性され得る。一例では、ヒドロゲル中のナノフィブリル状セルロースが、アニオン変性ナノフィブリル状セルロースである。
【0113】
医療ヒドロゲル又は科学ヒドロゲルとして使用されるヒドロゲルは、均質である必要がある。したがって、ヒドロゲルを調製する方法は、ナノフィブリル状セルロースを含むヒドロゲルを、好ましくは本明細書に記載される装置などの均質化装置で均質化することを含み得る。この好ましくは非フィブリル化均質化工程により、不連続領域をゲルから除去することが可能である。適用のためのより優れた特性を有する均質なゲルが得られる。ヒドロゲルは、更に、例えば、熱及び/若しくは放射線を使用することによって、並びに/又は抗微生物剤などの殺菌剤を添加することによって、殺菌(sterilized)され得る。
【0114】
組成物の使用
本明細書に開示されるナノ構造化セルロースヒドロゲル中に医薬化合物を含む組成物は、組成物をヒト又は動物対象などの対象に送達、注射、移植及び/又は他の方法で投与することを含む様々な方法で使用され得る。対象は、患者、特に組成物に含まれる医薬化合物を伴う療法を必要とする患者であり得る。処置を必要とする対象を認識又は検出することが必要となり得る。医薬品が標的化される、例えば注射される対象には特定の標的が存在し得る。本方法は、ナノフィブリル状セルロースヒドロゲル中に医薬化合物を含む組成物を、注射可能な形態又は移植可能な形態などの適切な形態で用意することを含む。また、例えば、ソフトカプセルなどの生分解性カプセルに封入された、経口剤形が提供されてもよい。治療であり得る処置は、徐放又は制御放出投与などの1又は複数の医薬化合物の持続放出投与を含み得る。同様に、投与される医薬製剤は、徐放性又は制御放出性の組成物又は剤形などの持続放出組成物又は剤形であり得る。処置は、長期処置、又は1若しくは複数の他の適切な医薬化合物による処置などの任意の適切な治療的処置を含み得る。医薬組成物は、一般に、適切な経路及び/又は適切な投与手段によって対象に投与することによって、対象を処置するための医薬として使用するために提供され得る。
【0115】
一例は、例えば貯蔵中及び/又は対象に投与されると、25℃で1mg/ml以下の水への溶解度を有する医薬化合物を安定化させるための医薬として使用するための医薬組成物を提供する。
【0116】
一例は、例えば対象に投与されると、25℃で1mg/ml以下の水への溶解度を有する医薬化合物のバイオアベイラビリティを増強するための医薬として使用するための医薬組成物を提供する。
【0117】
一例は、治療を必要とする対象を処置する方法であって、
好ましくは、治療又は処置を必要とする対象を認識すること、
本明細書に開示されるナノ構造化セルロースヒドロゲル中に医薬化合物を含む組成物を用意すること、及び
組成物を対象に送達又は投与すること
を含む方法を提供する。
【実施例
【0118】
この研究では、ナノセルロース(ナノ結晶セルロースCNC及びナノフィブリル状セルロースNFC)分散液を、ナリンゲニン(NG)及びアジスロマイシン(Azi)のための担体として使用して、溶解率及び抗酸化活性を増強した。CNF/Aziナノコンポジットの形成に基づいて、Aziの溶解は、水溶液中の元のAziと対照的に有意に増強された。CNC/NGナノコンポジット及びCNC/CTAB/NGナノコンポジットを、CNC担体及び貧溶媒再結晶プロセスに基づいてうまく調製した。
【0119】
純粋なCNCも、セルロースの還元末端が大量にあるため、優れたヒドロキシルラジカル(OH・)捕捉能力を有する。また、NFCヒドロゲルが非水溶性又は限定水溶性薬物粉末(カルプロフェン若しくはメロキシカム)のマトリックスとして機能し、凝集及び凝結を防ぐことも確認された。ナノセルロース分散液又はヒドロゲルは、水性系での疎水性薬物のバイオアベイラビリティを改善することができる。
【0120】
パートI:溶解及びバイオアベイラビリティを増強するためのナリンゲニンのためのナノ担体としてのセルロースナノクリスタル(CNC)
【0121】
1.背景
ナリンゲニン(NG、4,5,7-トリヒドロキシフラバノン、図2)は、天然ジヒドロフラボノイド化合物である。NGは、グレープフルーツ、トマト、ブドウ及び柑橘類などの多くの種類の天然生成物から抽出される。多くの研究により、NGが、インビボでのフリーラジカル捕捉、抗腫瘍、抗菌、抗ウイルス、抗炎症、抗アレルギー及び血栓阻害を含む多くの薬理活性を有することが明らかになった。しかしながら、NGの医薬用途は、水への溶解度が低く、脂質溶解度が低いため、極めて限られている。
【0122】
この研究では、溶解率及び抗酸化活性を増強するために、CNCをNGの担体として使用した。NGを、最初に貧溶媒再結晶を通してナノ化し、次いで、CNCに充填して、CNC/NGナノコンポジットを形成した。さらに、CNC/CTAB/NGナノコンポジットの調製中に、CNCを臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)でコーティングして疎水性を増加させた。得られたCNC/NGナノコンポジット及びCNC/CTAB/NGナノコンポジットを、フーリエ変換赤外(FTIR)分光法、透過型電子顕微鏡(TEM)、及びX線回折(XRD)分析によって特徴付けた。溶解率及びインビトロ抗酸化活性(OH・フリーラジカル捕捉)も調べた。
【0123】
2.研究目的
2.1 CNC/NGナノコンポジット及びCNC/CTAB/NGナノコンポジットの調製及び特性評価;
2.2 CNC/NGナノコンポジット及びCNC/CTAB/NGナノコンポジットにおけるNGの水性系での溶解及び抗酸化活性の評価.
【0124】
3.材料及び方法
3.1 実験材料及び機器
セルロースナノクリスタル(CNC)は、Cellulose Lab Inc.(フレデリクトン、カナダ)から98%の凍結乾燥粉末として入手した。ナリンゲニン(NG)は、Aifa Biotechnology Co.,Ltd(成都市、中国)から98%純度として入手した。
【0125】
主な実験装置には、Xinzhi Biotechnology Co.,Ltd.(浙江省、中国)製の超音波細胞破砕装置D&DN JY99-IIDN、Beijing Puhua General Instrument Co.,Ltd.(北京、中国)製のUV-vis分光光度計TU-1810PC、Thermo Fisher Company(ウォルサム、米国)製のフーリエ変換赤外分光計Nicolet iS5、Electronics Corporation(東京、日本)製の透過型電子顕微鏡JEM-2010、Bruker Company(カールスルーエ、ドイツ)製のX線回折計Bruker D8 Advance、及びMarin Christ社(オステローデ、ドイツ)製の凍結乾燥機ALPHA1-2LDPLUSが含まれていた。
【0126】
3.3 実験方法
3.3.1 CNC/NGナノコンポジットの調製
元のNG粉末を、室温での超音波分散下で、無水エタノールに溶解して、濃度25μg/mlの溶液を形成した。その後、氷水浴中で磁気攪拌しながら、様々な体積のNGエタノール溶液を、十分に分散したCNC水溶液(60ml及び0.2wt.%)に滴加し、これを10分間維持した。最後に、得られたCNC/NGナノコンポジット懸濁液を、将来の使用のために凍結乾燥した。
【0127】
比較のために、様々な体積のNGエタノール溶液(25μg/ml)を同じ条件下で脱イオン水(60ml)に滴加して、CNCなしでNG粒子を調製した(伝統的な貧溶媒再結晶プロセス)。
【0128】
3.3.2 CNC/CTAB/NGナノコンポジットの調製
一定のCTAB粉末を脱イオン水に溶解することによって、1mmol/lの濃度のCTAB溶液を調製した。室温で磁気攪拌しながら、CTAB溶液10mlをCNC水溶液(0.2wt.%)100mlに滴加した。得られたCNC/CTAB混合物を60℃に加熱し、振動台で30分間維持し、次いで、室温まで冷却した。得られた反応生成物はCTAB変性CNC沈殿を形成し、これは後で使用するためのものであった。
【0129】
氷水浴中で激しく攪拌しながら、一定のNGエタノール溶液(25μg/ml)を、CTAB変性CNC水性懸濁液(60ml及び0.2wt.%)に滴加し、これを10分間維持した。得られたCNC/CTAB/NGナノコンポジット懸濁液を、さらなる使用のために凍結乾燥した。
【0130】
3.3.3 フーリエ変換赤外分光法(FTIR)分析
CNC、元のNG粉末、CNC/NGナノコンポジット及びCNC/CTAB/NGナノコンポジットの試料を、Nicolet iS5 FTIR分光計(Thermo Fisher、ウォルサム、米国)で分析及び記録し、400cm-1~4000cm-1の範囲にわたってスキャンを収集した。
【0131】
3.3.4 透過型電子顕微鏡(TEM)観察
CNC、元のNG粉末、CNC/NGナノコンポジット及びCNC/CTAB/NGナノコンポジットの試料を脱イオン水で0.01wt.%に希釈し、希釈した分散液1滴を、炭素コーティングした銅グリッドに移した。次いで、グリッドを室温で一晩風乾した。加速電圧200keVで動作するJEM 2010(S)TEM装置(日本)を使用して、TEM観察を行った。
【0132】
3.3.5 X線回折(XRD)分析
CNC、元のNG粉末、CNC/NGナノコンポジット及びCNC/CTAB/NGナノコンポジットの試料を、加速電圧40 kVで動作するBruker D8 Advance粉末X線回折計(ドイツ)で得て、CuKα放射線の回折強度を、1ステップ当たり0.02°/秒で3°~50°の2θスキャン範囲にわたって測定した。
【0133】
3.3.6 NGのインビトロ溶解率
(1)標準NG曲線
元のNG粉末を無水エタノールに溶解して、一連の濃度のNG溶液(2.4mg/ml、3.6mg/ml、4.8mg/ml、6.0mg/ml、7.2mg/ml及び8.4mg/ml)を形成した。次いで、波長290nmでの紫外線(UV)吸収測定を行って、NG溶液の濃度を決定し、標準NG曲線を取得した。
【0134】
(2)インビトロ溶解率
溶解率を、2015年中国薬局方(XC II)の方法に従って決定した。最初に、NGの試料2mgを脱イオン水100mlに入れ、100rpm及び37℃で攪拌した。次いで、事前に予定された時間(1分、5分、10分、20分、40分、60分、80分、100分、120分)に、各試料5mlを取り出し、波長290nmでのUV吸収測定のために0.22μm膜を通して濾過して、NG濃度を決定した;その間、脱イオン水5mlを溶解媒体にすぐに添加して、一定の体積を維持した。NGの溶解率は、式1を使用して計算した:
溶解率(%)=(C×V+C×V+C×V+…+Cn-1×V)×100%/m(1)
(式中、C、C、Cn-1、Cは事前に予定された時間でのNG濃度、mg/mlであり;mはNGの合計インプット、mgであり;Vは固定サンプリング体積、mlであり;Vは溶解媒体の総体積、mlである)。
【0135】
3.3.7 インビトロ抗酸化活性
試料のインビトロ抗酸化活性を、サリチル酸ヒドロキシル化法に従って、OH・捕捉活性を測定することによって評価した。この方法では、フェントン反応を使用してOH・を生成し、次いで、これをサリチル酸によって捕捉した。この系は、1.8mMフェリサルフェート(ferrisulphate)(2ml)、1.8mMサリチル酸(1.5ml)、及び試料溶液1mlからなっていた。最後に、H(0.03wt.%)0.1mlを混合溶液に添加して反応を開始し、混合物を37℃で30分間インキュベートした。インキュベーション後、波長510nmでUV吸収を測定した。OH・捕捉率は、式2を使用して計算した:
OH・捕捉率(%)=(A-A)×100%/A(2)
(式中、Aは生成されたOH・の総量を表す対照のUV吸光度であり、Aiは試料のUV吸光度である)。
【0136】
4.結果及び考察
4.1 CNC/NGナノコンポジット及びCNC/CTAB/NGナノコンポジットの調製の概念
CNC/NGナノコンポジット及びCNC/CTAB/NGナノコンポジットを調製するためのフローチャートを図3に示す。伝統的な貧溶媒再結晶プロセス(図3、a)では、NGエタノール溶液を、様々な条件下で脱イオン水に滴加した。貧溶媒中のNG投与量の増加に伴い、NG核が過飽和濃度で形成し、その後NGナノ粒子に成長し続けた。その疎水性の性質のため、NGナノ粒子は凝集し、水溶液に分散することが困難なNG凝結体を形成した。
【0137】
担体として、CNCは、表面積が大きく、水素結合が豊富なため、NG核により多くの部位を提供し、結果としてより小さく、均一なNGナノ粒子が形成された(図3、b)。さらに、CNCの優れた親水性が、CNC/NG系が極めて安定であることを可能にし、得られたNGナノ粒子の凝集及び凝結を低下させた。ポリ(ビニルピロリドン)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、Tween 80、及びドデシル硫酸ナトリウムなどのポリマー及び界面活性剤を安定剤として使用することにより、疎水性グリセオフルビンの粒子成長を阻害する/低下させることができる。
【0138】
CTAB変性後、CTABの長い炭素鎖が存在するため、CNCはより疎水性になり、NG分子とのより優れた適合性を有した。静電相互作用及び疎水性相互作用を介してNGナノ粒子をCNCに充填することがより容易であり(図3、c)、これにより、粒径をさらに低下させ、NGナノ粒子の安定性を改善することができる。
【0139】
4.2 CNC/NGナノコンポジット調製の最適化
4.2.1 直交実験の因子及びレベル
以前の実験に基づいて、本発明者らは、CNC/NGナノコンポジットの場合、pH値、溶媒と貧溶媒の体積比、温度、及びNGの濃度を含む4つの因子が、ヒドロキシルラジカル(OH・)捕捉率に重要な影響を及ぼすことを見出した。以下の研究で、これら4つの因子及びその様々なレベルを、表2に示される直交実験について決定する。
【0140】
【表2】
【0141】
4.2.2 直交実験の結果及び分析
L16(4^5)表を直交実験に使用し、CNC/NGナノコンポジットの評価指標としてOH・捕捉率を使用した。直交実験の結果及び分析を表3に示した。
【0142】
【表3】
【0143】
直交実験の結果及び分析に基づいて、Bの組み合わせが最適な選択であり、CNC/NGを調製するための詳細な条件は以下の通りである:溶媒/貧溶媒体積比、1:20;pH、10;温度、0℃;NGの濃度、10μg/ml。
【0144】
しかしながら、pH値10が人体の正常なpHよりも高いことを考慮して、OH・捕捉率に対するpHの影響の傾向に従って、pH7.0~8.5がCNC/NGナノコンポジットの以下の調製に使用される。
【0145】
4.3 特性評価
4.3.1 FTIR分析
CNC、元のNG、CNC/NGナノコンポジット及びCNC/CTAB/NGナノコンポジットのFTIRスペクトルを図5に示す。3267cm-1及び1600cm-1の吸収ピークは、元のNGの典型的なピークであり、それぞれC-H伸縮及びC=O伸縮を表す。CNCは、3333cm-1(O-H伸縮)、1060cm-1(第二級ヒドロキシル)、1030cm-1(第一級ヒドロキシル)の典型的なピークを示し、これはセルロースの特徴と一致している。
【0146】
対照的に、CNC/NGナノコンポジットでは、3333cm-1、1060cm-1、及び1030cm-1の吸収ピークが増加し、CNCとNGとの間の水素結合の形成を示している。さらに、NGの典型的な吸収ピークがCNC/NGナノコンポジットで見られた。
【0147】
CNC/CTAB/NGナノコンポジットの場合、1030cm-1及び1060cm-1の吸収ピークが、CNC/NGナノコンポジットと比較してさらに増加し、これは、CTABからの長いアルキル鎖のCNCへの結合に起因するものであり得る。また、NGの典型的な吸収ピークがCNC/CTAB/NGナノコンポジットで見られ、NGがCNCにうまく充填されたことを示している。
【0148】
図5は、CNC、元のNG、CNC/NGナノコンポジット及びCNC/CTAB/NGナノコンポジットのFTIRスペクトルを示す。
【0149】
図6は、CNC、元のNG、CNC/NGナノコンポジット及びCNC/CTAB/NGナノコンポジットのXRDパターンを示す。
【0150】
CNC、元のNG、CNC/NGナノコンポジット及びCNC/CTAB/NGナノコンポジットのXRDパターンを図6に示す。示されるように、元のNGは2θ=10.76°、15.92°、17.24°、18.15°、19.90°、20.52°、22.20°、23.80°、24.43°、25.34°、及び27.71°に強い回折ピークを示し、NGが結晶状態であることを示している。
【0151】
対照的に、CNC/NGナノコンポジット及びCNC/CTAB/NGナノコンポジットでは、NGの強い回折ピークが消失し、NGが高結晶状態からアモルファス状態に変換したことを示している。CNC/NGナノコンポジット及びCNC/CTAB/NGナノコンポジットの形成に基づくNGの有効なナノ化が、NGの結晶状態の変換を担っている可能性がある。
【0152】
4.3.3 TEM分析
伝統的な貧溶媒再結晶法によって調製されたNG粒子は、長さ0.8~1.0μmの針状であったことが分かる(図7a及び図7b)。
【0153】
図7は、(a)、(b)伝統的な貧溶媒再結晶プロセスによるNG粒子、(c)CNC/NGナノコンポジット、(d)CNC/CTAB/NGナノコンポジットのTEM像を示す。
【0154】
対照的に、NG粒子は、CNC/NGナノコンポジットの形成に基づいていくつかの小さなナノ粒子に変換された(図7c)。CNCは、表面積が大きく、水素結合が豊富なため、NG核により多くの部位を提供し、結果としてより小さく、均一なNGナノ粒子が形成されたと考えられる。
【0155】
さらに、NG粒子は、CNC/CTAB/NGナノコンポジットの形成に基づいてさらに分散され、ナノ化され(図7d)、これはCTAB変性後のCNCの疎水性増加に起因し得る。疎水性薬物のナノ化は、比表面積の増加により、溶解率及びバイオアベイラビリティを増強するのに役立ち得る。
【0156】
4.4 インビトロ溶解率
4.4.1 標準NG曲線
様々な濃度のNGエタノール溶液(2.4~8.4μg/ml)を調製し、290nmでのUV吸収を測定した。NGの標準曲線をプロットした。
【0157】
NG吸光度と濃度との間の方程式がY=0.00761X-0.0225、R=0.9955であることが示された。NGの濃度及び吸光度は、NG濃度の決定に使用できる優れた線形関係を示した。
【0158】
4.4.2 インビトロ溶解率
元のNG、NG粒子(伝統的な貧溶媒再結晶プロセス)、CNC/NGナノコンポジット及びCNC/CTAB/NGナノコンポジットの溶解率を図8に示す。元のNGの溶解率は極めて限られており、120分でわずか1.87%であった。NG粒子の溶解率(伝統的な貧溶媒再結晶プロセス)は増加し、10分及び120分でそれぞれ25.1%及び35.2%に達した。
【0159】
対照的に、CNC/NGナノコンポジット及びCNC/CTAB/NGナノコンポジットでは、NGの溶解率が明らかに増加した。例えば、CNC/NGナノコンポジット及びCNC/CTAB/NGナノコンポジットの溶解率は、それぞれ10分で53.6%及び78.5%に達した;その後、溶解率はゆっくりと増加し、それぞれ120分で92.6%及び99.5%に達した。溶解率は、疎水性薬物のバイオアベイラビリティとよく関連している。文献で、多くの研究者が、ケルセチン及びクルクミンなどの疎水性薬物のバイオアベイラビリティを、それらの溶解率を増加させることによって有効に増強することができることを報告している。
【0160】
図8は、元のNG、NG粒子(伝統的な貧溶媒再結晶プロセス)、CNC/NGナノコンポジット及びCNC/CTAB/NGナノコンポジットの溶解率を示す。
【0161】
4.5 インビトロヒドロキシルラジカル(OH・)捕捉活性
元のNG、NG粒子(伝統的な貧溶媒再結晶プロセス)、CNC、CNC/NGナノコンポジット及びCNC/CTAB/NGナノコンポジットのOH・捕捉活性を図9に示す。
【0162】
純粋なCNCが優れたOH・捕捉効率を示したことが認められ得る。例えば、OH・捕捉率は、10~50μg/mlの濃度で17.1%~21.6%であり、これは、CNCの大量の還元末端基に起因し得る。
【0163】
元のNGのOH・捕捉率は極めて低く、50μg/mlの濃度でわずか6.7%であり、これは、元のNGの疎水性の性質によるものである。NG粒子(貧溶媒再結晶プロセス)の場合、OH・の捕捉率は増加し、50μg/mlの濃度で11.2%に達した。
【0164】
図9は、元のNG、NG粒子(伝統的な貧溶媒再結晶プロセス)、CNC、CNC/NGナノコンポジット及びCNC/CTAB/NGナノコンポジットのOH・捕捉活性を示す。
【0165】
対照的に、CNC/NGナノコンポジット及びCNC/CTAB/NGナノコンポジットの場合、OH・捕捉率は、それぞれ50μg/mlの濃度で41.2%及び52.5%に明らかに増加した。これらの結果は、担体としてのCNC及びCNC/CTABがNGの溶解を有効に増強することができることを示した。さらに、CNC/CTAB/NGナノコンポジットは、CNC/NGナノコンポジットよりも優れたOH・捕捉率を示したが、これはCTAB変性CNCの増強された適合性に起因し得る。
【0166】
5.結論
5.1 CNC/NGナノコンポジット及びCNC/CTAB/NGナノコンポジットを、CNC担体及び貧溶媒再結晶プロセスに基づいてうまく調製した。TEM及びXRD分析は、NGが有効にナノ化され、十分に分散され、高度結晶状態からアモルファス状態に変換したことを示した。
【0167】
5.2 純粋なCNCは、セルロースの還元末端が大量にあるため、優れたヒドロキシルラジカル(OH・)捕捉能力を有する。
【0168】
5.3 CNC/NGナノコンポジット及びCNC/CTAB/NGナノコンポジットにおけるNGの溶解率は、元のNGの溶解率(1.87%)と比較して、それぞれ120分で92.6%及び99.5%に明らかに増加した。結果として、CNC/NGナノコンポジット及びCNC/CTAB/NGナノコンポジットのOH・捕捉率は、元のNGのOH・捕捉率と比較して明らかに増強された。
【0169】
これらの実験結果に基づいて、担体としてのCNCは、容易な調製方法及び優れた生物学的適合性により、NGのバイオアベイラビリティを増強するのに有望である。
【0170】
パートII:アジスロマイシンの溶解及びバイオアベイラビリティを増強するためのナノ担体としてのCNF
【0171】
1.背景
アジスロマイシン(AZI、図10)は、15員環を形成するための窒素原子の14員環への挿入を特徴とする15員環半合成マクロライド系抗生物質である。AZIは、グラム陽性菌及びグラム陰性菌に対するマクロライドの強力な抗菌活性を有する。臨床的には、AZIは、呼吸器感染症、皮膚及び軟部組織感染症、並びに泌尿器及び生殖器系感染症の処置に広く使用されている。しかしながら、他の水不溶性薬物と同様に、薬学におけるAZIの主な課題は、水溶液への不溶性及び疎水性の性質のために経口バイオアベイラビリティが低いことである。したがって、AZIの最も重要なことは、水性系での薬物放出及びバイオアベイラビリティを増強することである。
【0172】
この研究では、AZIをモデル薬物として選択し、UPMによって提供されたセルロースナノファイバー(CNF)を薬物担体として使用した。CNF/AZIナノコンポジットを、AZIの溶解及びバイオアベイラビリティを増強するために、貧溶媒再結晶プロセスを介して調製した。図10は、アジスロマイシンの化学構造を示す。
【0173】
2.研究目的
2.1 CNF/AZIナノコンポジットの調製及び特性評価;
2.2 CNF/AZIナノコンポジットにおけるAZIの水性系への溶解の評価
【0174】
3.材料及び方法
3.1 材料及び機器
セルロースナノファイバー(CNF)は、UPMから1.5%ゲルとして入手した。セルロースナノクリスタル(CNC)は、Cellulose Lab Inc.(フレデリクトン、カナダ)から98%の凍結乾燥粉末として入手した。アジスロマイシンは、Yuanzhi Biotechnology Co.,Ltd.(南京、中国)から98%純度として入手した。
【0175】
主な実験装置には、Xinzhi Biotechnology Co.,Ltd.(浙江省、中国)製の超音波細胞破砕装置D&DN JY99-IIDN、Beijing Puhua General Instrument Co.,Ltd.(北京、中国)製のUV-vis分光光度計TU-1810PC、Thermo Fisher Company(ウォルサム、米国)製のフーリエ変換赤外分光計Nicolet iS5、Electronics Corporation(東京、日本)製の透過型電子顕微鏡JEM-2010、Bruker Company(カールスルーエ、ドイツ)製のX線回折計Bruker D8 Advance、及びMarin Christ社(オステローデ、ドイツ)製の凍結乾燥機ALPHA1-2LDPLUSが含まれていた。
【0176】
3.2 実験方法
3.2.1 CNF/AZIナノコンポジットの調製
元のAZI粉末を、室温での超音波分散下で、無水エタノールに溶解して、濃度200μg/mlの溶液を形成した。その後、氷水浴中で磁気攪拌しながら、AZIエタノール溶液3mlを、十分に分散したCNF水溶液(60ml、0.05wt.%)に滴加し、これを10分間維持した。最後に、得られたCNF/AZIナノコンポジット懸濁液を、将来の使用のために凍結乾燥した。
【0177】
比較のために、AZIエタノール溶液(200μg/ml)3mlを同じ条件下で脱イオン水(60ml)に滴下して、AZI粒子を調製した(伝統的な貧溶媒再結晶プロセス)。
【0178】
3.2.2 特性評価
(1)フーリエ変換赤外分光法(FTIR)分析
CNF、元のAZI粉末、CNF/AZIナノコンポジットの試料を、Nicolet iS5 FTIR分光計(Thermo Fisher、ウォルサム、米国)で分析し、400cm-1~4000cm-1の範囲内でスキャンを収集した。
【0179】
(2)透過型電子顕微鏡(TEM)観察
CNF、元のAZI粉末、CNF/AZIナノコンポジットの試料を脱イオン水で0.01wt.%に希釈し、希釈した分散液1滴を、炭素コーティングした銅グリッドに移した。次いで、グリッドを室温で一晩風乾した。加速電圧200keVで動作するJEM 2010(S)TEM装置(日本)を使用して、TEM観察を行った。
【0180】
(3)X線回折(XRD)分析
CNF、元のAZI粉末、CNF/AZIナノコンポジットの試料を、40kVの加速電圧で動作するBruker D8 Advance粉末X線回折計(ドイツ)で分析した。CuKα放射線の回折強度を、1ステップあたり0.02°/秒で3°~50°の2θスキャン範囲内で測定した。
【0181】
3.2.3 インビトロヒドロキシルラジカル(OH・)捕捉活性
試料のインビトロ抗酸化活性を、サリチル酸ヒドロキシル化法に従って、OH・捕捉活性を測定することによって評価した。この方法では、フェントン反応を使用してOH・を生成し、次いで、これをサリチル酸によって捕捉した。この系は、1.8mMフェリサルフェート(ferrisulphate)(2ml)、1.8mMサリチル酸(1.5ml)、及び試料溶液1mlからなっていた。最後に、H(0.03wt.%)0.1mlを混合溶液に添加して反応を開始し、混合物を37℃で30分間インキュベートした。インキュベーション後、波長510nmでUV吸収を測定した。OH・捕捉率は、式1を使用して計算した:
OH・捕捉率(%)=(A-A)×100%/A(1)
(式中、Aは生成されたOH・の総量を表す対照のUV吸光度であり、Aiは試料のUV吸光度である)。
【0182】
3.2.4 AZIのインビトロ溶解
(1)標準AZI曲線
元のAZI粉末を、室温での超音波分散下で、無水エタノールに溶解して、濃度2mg/mlの溶液を形成した。その後、塩酸(0.1M)をAZI溶液に添加して、様々な濃度(16μg/ml、32μg/ml、48μg/ml、64μg/ml、80μg/ml、96μg/ml)の一連のAZI溶液を形成した。次いで、各AZI試料5ml及び硫酸(73.5%)5mlを試験管に添加して混合し、その後、得られた混合物を室温で30分間反応のために維持した。最後に、UV吸収を波長482nmで測定して、AZI溶液の濃度を決定し、標準のAZI曲線をプロットすることができる。
【0183】
(2)インビトロ溶解率
溶解率を、2015年中国薬局方(XC II)の方法に従って決定した。最初に、AZI 2mgを脱イオン水100mlに入れ、100rpm及び37℃で攪拌した。事前に予定された時間(1分、5分、10分、30分、60分、120分)に、各試料3mlを取り出し、0.45μm膜を通して濾過して濾液を得た;その間、脱イオン水3mlを溶解媒体にすぐに添加して、一定の体積を維持した。
【0184】
次いで、硫酸(73.5%)2ml及び得られた濾液2mlを試験管に添加して混合物を形成し、混合物を30分間維持した。最後に、UV吸収を波長482nmで測定して、AZI濃度を決定した。AZIの溶解率は、式2を使用して計算した:
溶解率(%)=(C×V+C×V+C×V+…+Cn-1×V)×100%/m(2)
(式中、C、C、Cn-1、Cは事前に予定された時間でのAZI濃度、mg/mlであり;mはAZIの合計インプット、mgであり;Vは固定サンプリング体積、mlであり;Vは溶解媒体の総体積、mlである)。
【0185】
4.結果及び考察
4.1 CNFの特性評価
水性系での分散及び安定性、FTIR分析、TEM観察、並びにXRD分析を含むこの研究では、UPM R&D Center製のCNFを分析し、CNCと比較した。結果は以下の通りである。
【0186】
4.1.1 水性系でのCNFの分散及び安定性
図11aに示されるように、CNFは0.1wt.%の濃度で脱イオン水に容易に分散するが、CNF懸濁液の分散性及び安定性は、CNC懸濁液(Cellulose Lab Inc.、フレデリクトン、カナダ、硫酸加水分解法により製造)のものよりも低い。図11bでは、CNFが、1.5wt.%の濃度でゲルになり、流動性を失っている;比較のために、CNCは、1.5wt.%の濃度で依然として優れた流動性及び安定性を示している。
【0187】
4.1.2 CNFのTEM分析
図12a及び図12bは、CNFが典型的なセルロースナノファイバーに特有であり、長さが長く直径が小さい(5~50nm)ことを示している。CNFは、長さが長く、可撓性が優れているので、凝集を形成しやすい。対照的に、CNCは、長さ100~400nm及び幅5~40nmの針状である(図12c)。CNCは、CNFと比較して、長さが短く、剛性が強いため、分散して安定な懸濁液を形成しやすい。
【0188】
4.1.3 CNFのFTIR分析
CNFとCNCのFTIRスペクトルを分析及び比較し、図13に示す。CNFとCNCは類似の化学構造(セルロース構造)を有することが分かる。例えば、3333cm-1、2890cm-1、1060cm-1、及び1030cm-1の吸収ピークは、それぞれO-H伸縮、C-H伸縮、第二級ヒドロキシル、第一級ヒドロキシルに起因していた。CNFとCNCは共に高純度の未加工セルロース繊維から調製されているため、類似のFTIR吸収を有する。
【0189】
4.1.4 CNFのXRD分析
CNFとCNCのXRDパターンを分析及び比較し、図14に示した。示されるように、2θ=15.5°、16.5°、及び22.8°でCNFの弱い回折ピークが観察された;比較のために、CNCは、2θ=12.5°、14.7°、及び22.7°に強い回折ピークを示し、CNCがCNFよりも結晶化度が高いことを示している。CNCの場合、セルロースのアモルファス領域が、酸加水分解を通して除去され、結晶領域が保持されると説明された;しかしながら、CNFの場合、セルロースの結晶領域を著しく破壊し得る押出及び引き裂きを含む厳しい機械的処理が導入された。
【0190】
4.2 CNF/AZIナノコンポジットの調製の概念
図4は、CNF/AZIナノコンポジットの調製の概念を示す。伝統的な貧溶媒再結晶プロセス(上の経路)では、元のAZIを溶媒(無水エタノール)に溶解し、次いで、AZIエタノール溶液を様々な条件(濃度、体積比、温度及び攪拌条件)下で貧溶媒(脱イオン水)に滴加する。脱イオン水中のAZIの投与量を増加させると、AZIは過飽和状態に達し、大量のAZI核を形成する。AZIの疎水性の性質により、これらのAZI核は成長し続け、最終的に、AZIナノ粒子及び凝結体を形成し、これらは水溶液にさらに分散させることが困難である。
【0191】
CNFを担体として使用する場合(下の経路)、CNFの大きな比表面積及びネットワーク構造が、AZI核により多くの部位を提供し、AZI粒子が過成長するのを防ぎ、AZIナノ粒子を水溶液中でより安定にする。CNFとAZIとの間の相互作用は、静電吸着及び水素結合であり得る。
【0192】
4.3 CNF/AZIナノコンポジットの特性評価
4.3.1 FTIR分析
元のAZI、CNF及びCNF/AZIナノコンポジットのFTIRスペクトルを図15に示す。結果は、元のAZIが、それぞれO-H伸縮、C-H伸縮、及びC=O伸縮を表す、3486cm-1、2969cm-1、及び1720cm-1の典型的なピークを有することを示した。CNF FTIRの結果で観察されたAZIの典型的な吸収ピークはない。
【0193】
CNF/AZIナノコンポジットの場合、(強度は低下するが)AZIに起因し得る、3486cm-1(O-H伸縮)、2969cm-1(C-H伸縮)及び1720cm-1(C=O伸縮)の吸収ピークを観察することができる。これらの結果は、AZIがCNFにうまく充填され、AZIの化学構造が変化しなかったことを示していた。
【0194】
4.3.2 XRD分析
CNF及びCNF/AZIナノコンポジットのXRDパターンを図16に示す。
元のAZIは、2θ=8.0°、9.8°、16.9°、18.9°、20.7°、27.3°及び42.3°に強い回折ピークを示し、これが結晶状態であったことを示している。しかしながら、AZIの特徴的な回折ピークはCNF/AZIナノコンポジットでは消失し、AZIが高度結晶状態からアモルファス状態に変換したことを示している。CNF/AZIナノコンポジットの形成に基づくAZIのナノ化及び十分な分散は、AZI状態の変換の原因である可能性がある。疎水性薬物の有効なナノ化により、水溶解度及びバイオアベイラビリティが増強する。
【0195】
4.3.3 TEM分析
図17は、元のAZI、CNF及びCNF/AZIナノコンポジットのTEM像を示す。バーはa)で2μm、b)、c)及びd)で0.5μmである。図17aは、元のAZIが結晶状態であり、大きな粒径(数マイクロメートル)を有していたことを示している。伝統的な貧溶媒沈殿プロセスによって調製されたAZI粒子は凝結体であり(図17b)、AZIの疎水性の性質のため、水溶液にさらに分散させることは困難であった。
【0196】
対照的に、CNF/AZIナノコンポジット(図17d)の形成に基づいて、AZI粒子の凝結体は、いくつかの小さく均一なサイズのナノ粒子によく分散され、これはCNFとAZI粒子との間静電相互作用及び水素結合相互作用に起因し得る。貧溶媒再結晶プロセスによって調製されたAZIナノ粒子は、CNFの表面上に容易に吸着され得る;さらに、CNFネットワークは、AZIナノ粒子の凝集を減らすのに役立ち得る。
【0197】
4.4 CNFのヒドロキシルラジカル(OH・)捕捉活性
本発明者らの以前の研究は、CNCが優れたOH・捕捉活性を有することを示した。本明細書では、CNFのOH・捕捉活性を調べ、CNCと比較し、図18に示した。
【0198】
同じ条件下では、CNFがCNCのOH・捕捉効率よりも低いOH・捕捉効率を有することが分かる。例えば、CNFのOH・捕捉効率は、10~30μg/mlの濃度で5.6~6.2%の範囲内であった;対照的に、CNCのOH・捕捉効率は、同じ濃度で18.4%~22.1%の範囲内であった。
【0199】
セルロース還元末端の量の違いがOH・捕捉効率の違いをもたらすと説明された。CNFの場合、その長さが長く、繊維断面積が小さいため、露出しているセルロース還元末端が少なかった。対照的に、CNCの場合、その長さが短く、繊維断面積が大きいため、大量のセルロース還元末端が露出した。
【0200】
4.5 インビトロ溶解率
4.5.1 標準AZI曲線
様々な濃度のAZIエタノール溶液(8~48μg/ml)を調製し、AZIの標準曲線をプロットするために、482nmでのUV吸収を測定した。AZIの標準曲線を計算した。方程式は以下の通りである:y=22.996x-0.0821、R=0.9991、AZIの濃度と吸光度が優れた線形関係を有することを示している。
【0201】
4.5.2 AZIのインビトロ溶解率
元のAZI、AZI粒子(伝統的な貧溶媒再結晶プロセス)、CNC/AZIナノコンポジット及びCNF/AZIナノコンポジットの溶解率を図19に示す。元のAZIの溶解率は極めて限られており、120分でわずか1.31%であることが分かる。貧溶媒再結晶プロセスを通して、AZIの溶解率は増加し、10分及び120分でそれぞれ38.8%及び52.2%に達した。
【0202】
対照的に、CNF/AZIナノコンポジット及びCNC/AZIナノコンポジットでは、AZIの溶解率が明らかに増加した。例えば、CNF/AZIナノコンポジット及びCNC/AZIナノコンポジットにおけるAZIの溶解率は、それぞれ10分で80.4%及び85.1%に達した;その後、溶解速度はゆっくりと増加し、それぞれ120分で91.2%及び96.3%に達した。これらの結果は、担体としてのCNF又はCNCがAZIの溶解を有効に増強することができることを示した。
【0203】
5.結論
5.1 CNF/AZIナノコンポジットを、CNF担体及び貧溶媒再結晶プロセスに基づいてうまく調製した。TEM及びXRD分析は、AZIが有効にナノ化され、十分に分散され、高度結晶状態からアモルファス状態に変換したことを示した。
【0204】
5.2 純粋なCNF(6.2%、30μg/ml)のOH・捕捉効率は、純粋なCNC(22.1%、30μg/ml)のOH・捕捉効率よりも低く、これは、CNF中のセルロース還元末端の量が少ないためである。
【0205】
5.3 CNF/Aziナノコンポジットの形成に基づいて、元のAZIの溶解率(1.31%)と比較して、CNF/AZIナノコンポジットにおけるAZIの溶解率は、120分で91.2%に明らかに増加した。
【0206】
5.4 調製されたCNF/AZIナノコンポジットは、容易な調製方法及び優れたバイオアベイラビリティにより、AZIのバイオアベイラビリティを増強するのに有望である。
【0207】
本願の実施形態は以下の態様を含む。
<1> 医薬化合物を少なくとも部分的に可溶化できる溶媒中に、25℃で1mg/ml以下の水への溶解度を有する前記医薬化合物を用意すること、
ナノ構造化セルロースの水性分散液を用意すること、及び
前記医薬化合物を貧溶媒プロセスでナノ構造化セルロースの前記水性分散液と組み合わせて、50nm以下の平均径を有するナノサイズ医薬粒子を用意すること、
を含む、医薬組成物を調製する方法。
<2> 前記医薬組成物が、92~99.95%(w/w)の水を含む、項1に記載の方法。
<3> 前記ナノ構造化セルロースが、200nm以下の平均フィブリル径を有するナノフィブリル状セルロースを含む、項1又は項2に記載の方法。
<4> 前記ナノフィブリル状セルロースが、水に分散されると、22℃±1℃の水性媒体中、0.5%(w/w)の濃度で回転レオメーターによって決定される、ゼロせん断粘度が1000~100000Pa・sであり、降伏応力が1~50Paである、項3に記載の方法。
<5> 前記ナノフィブリル状セルロースが、水に分散されると、22℃±1℃の水性媒体中、0.5%(w/w)の濃度で回転レオメーターによって決定される、ゼロせん断粘度が5000~50000Pa・sであり、降伏応力が3~15Paである、項3に記載の方法。
<6> 前記ナノ構造化セルロースがナノ結晶セルロースを含む、項1又は項2に記載の方法。
<7> 前記ナノ結晶セルロースが、2~40nmの平均フィブリル径及び100nm以上の平均フィブリル長を有する、項6に記載の方法。
<8> 前記ナノ結晶セルロースが、2~20nmの平均フィブリル径及び100~400nmの平均フィブリル長を有する、項6に記載の方法。
<9> 前記医薬組成物における前記ナノ構造化セルロースの含有量が0.05~8%(w/w)である、項1~項8のいずれか一項に記載の方法。
<10> 前記医薬組成物における前記ナノ構造化セルロースの含有量が0.05~0.5%(w/w)であるか、又は1~8%(w/w)である、項9に記載の方法。
<11> 前記医薬化合物が、25℃で0.6mg/ml以下の水への溶解度、及び/又は低いバイオアベイラビリティを有する、項1~項10のいずれか一項に記載の方法。
<12> 前記医薬化合物が、25℃で0.3mg/ml以下の水への溶解度、及び/又は低いバイオアベイラビリティを有する、項1~項11のいずれか一項に記載の方法。
<13> 前記医薬化合物が、25℃で0.1mg/ml以下の水への溶解度、及び/又は低いバイオアベイラビリティを有する、項1~項12のいずれか一項に記載の方法。
<14> 前記医薬化合物の含有量が、前記医薬組成物100μl当たり0.05~1mgである、項1~項13のいずれか一項に記載の方法。
<15> 前記医薬化合物の含有量が、前記医薬組成物100μl当たり0.1~0.7mgである、項1~項14のいずれか一項に記載の方法。
<16> 前記医薬化合物の含有量が、前記医薬組成物100μl当たり0.1~0.5mgである、項1~項15のいずれか一項に記載の方法。
<17> 項1~項16のいずれか一項に記載の方法で医薬組成物を調製することを含む、1mg/ml以下の水への低い溶解度を有する前記医薬化合物を安定化させる方法。
<18> ナノ構造化セルロースマトリックス中、25℃で1mg/ml以下の水への溶解度を有する医薬化合物のナノサイズ医薬粒子を含み、前記ナノサイズ医薬粒子は、50nm以下の平均径を有する、医薬組成物。
<19> 92~99.95%(w/w)の水を含む、項18に記載の医薬組成物。
<20> 前記ナノ構造化セルロースが、200nm以下の平均フィブリル径を有するナノフィブリル状セルロースを含む、項18又は項19に記載の医薬組成物。
<21> 前記ナノフィブリル状セルロースが、水に分散されると、22℃±1℃の水性媒体中、0.5%(w/w)の濃度で回転レオメーターによって決定される、ゼロせん断粘度が1000~100000Pa・sであり、降伏応力(せん断減粘が始まるせん断応力)が1~50Paである、項18~項20のいずれか一項に記載の医薬組成物。
<22> 前記ナノフィブリル状セルロースが、水に分散されると、22℃±1℃の水性媒体中、0.5%(w/w)の濃度で回転レオメーターによって決定される、ゼロせん断粘度が5000~50000Pa・sであり、降伏応力(せん断減粘が始まるせん断応力)が3~15Paである、項18~項21のいずれか一項に記載の医薬組成物。
<23> 前記ナノ構造化セルロースがナノ結晶セルロースを含む、項18又は項19に記載の医薬組成物。
<24> 前記ナノ結晶セルロースが、2~40nmの平均フィブリル径及び100nm以上の平均フィブリル長を有する、項23に記載の医薬組成物。
<25> 前記ナノ結晶セルロースが、2~20nmの平均フィブリル径及び100~400nmの平均フィブリル長を有する、項23に記載の医薬組成物。
<26> 前記医薬組成物における前記ナノ構造化セルロースの含有量が0.05~8%(w/w)である、項18~項25のいずれか一項に記載の医薬組成物。
<27> 前記医薬組成物における前記ナノ構造化セルロースの含有量が0.05~0.5%(w/w)であるか、又は1~8%(w/w)である、項26に記載の医薬組成物。
<28> 前記医薬化合物が、25℃で0.6mg/ml以下の水への溶解度、及び/又は低いバイオアベイラビリティを有する、項18~項27のいずれか一項に記載の医薬組成物。
<29> 前記医薬化合物が、25℃で0.3mg/ml以下の水への溶解度、及び/又は低いバイオアベイラビリティを有する、項18~項28のいずれか一項に記載の医薬組成物。
<30> 前記医薬化合物が、25℃で0.1mg/ml以下の水への溶解度、及び/又は低いバイオアベイラビリティを有する、項18~項29のいずれか一項に記載の医薬組成物。
<31> 前記医薬化合物の含有量が、医薬組成物100μl当たり0.05~1mgである、項18~項30のいずれか一項に記載の医薬組成物。
<32> 前記医薬化合物の含有量が、医薬組成物100μl当たり0.1~0.7mgである、項18~項31のいずれか一項に記載の医薬組成物。
<33> 前記医薬化合物の含有量が、医薬組成物100μl当たり0.1~0.5mgである、項18~項32のいずれか一項に記載の医薬組成物。
<34> 前記医薬化合物の前記ナノ構造化セルロースマトリックスからの溶解率が、10分で50%以上である、項18~項33のいずれか一項に記載の医薬組成物。
<35> 前記医薬化合物の前記ナノ構造化セルロースマトリックスからの溶解率が、10分で50~90%である、項18~項34のいずれか一項に記載の医薬組成物。
<36> 項1~項17のいずれか一項に記載の方法で得られた、項18~項35のいずれか一項に記載の医薬組成物。
<37> バイアル、カプセル又はシリンジに充填された、項18~項36のいずれか一項に記載の医薬組成物。
<38> 25℃で1mg/ml以下の水への溶解度を有する医薬化合物のバイオアベイラビリティを増強するための医薬として使用するための項18~項37のいずれか一項に記載の医薬組成物。
<39> 項1~項17のいずれか一項に記載の方法で、25℃で1mg/ml以下の水への溶解度を有する医薬化合物を安定化させるための、ナノ構造化セルロースの使用。
図1
図2
図3
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