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  • 特許-LPS懸濁オイル及びLPS配合製品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-25
(45)【発行日】2025-03-05
(54)【発明の名称】LPS懸濁オイル及びLPS配合製品
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/09 20060101AFI20250226BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20250226BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20250226BHJP
   A61Q 19/10 20060101ALI20250226BHJP
   A61Q 5/02 20060101ALI20250226BHJP
   A61Q 5/06 20060101ALI20250226BHJP
   A61K 8/92 20060101ALI20250226BHJP
   C08B 37/00 20060101ALI20250226BHJP
【FI】
C08J3/09
A61K8/73
A61Q19/00
A61Q19/10
A61Q5/02
A61Q5/06
A61K8/92
C08B37/00 P
C08B37/00 G
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021000472
(22)【出願日】2021-01-05
(65)【公開番号】P2022105873
(43)【公開日】2022-07-15
【審査請求日】2023-11-06
(73)【特許権者】
【識別番号】500315024
【氏名又は名称】有限会社バイオメディカルリサーチグループ
(73)【特許権者】
【識別番号】390025210
【氏名又は名称】杣 源一郎
(73)【特許権者】
【識別番号】508098394
【氏名又は名称】自然免疫応用技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110191
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和男
(72)【発明者】
【氏名】河内 千恵
(72)【発明者】
【氏名】新田 久美子
(72)【発明者】
【氏名】杣 源一郎
(72)【発明者】
【氏名】稲川 裕之
【審査官】石田 傑
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-212062(JP,A)
【文献】特開2008-290951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61Q
A61K
C08B
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粉末状LPSの最大粒子径が20μm以上75μm以下であるLPS微粉末がオイルに懸濁されていることを特徴とする(ただし、乳化剤を含む場合を除く。)LPS懸濁オイル
【請求項2】
請求項1記載のLPS懸濁オイルが配合されていることを特徴とするLPS配合製品。
【請求項3】
請求項2記載のLPS配合製品は、化粧品、洗浄剤又は整髪剤であることを特徴とするLPS配合製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LPS懸濁オイル及びLPS懸濁オイルを原料として配合した製品である、リップクリーム、オリーブオイルなどの油性化粧品、バーム状又はオイル状のクレンジング剤、椿油等の油性整髪剤に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧品や整髪剤(合わせて化粧品等と呼ぶ)は、肌を清潔に保ち、外部刺激から保護し、乾燥を防いで潤いを与えるために使用される。そのため、化粧品等には、保湿成分、肌を健康に保つ機能性成分、香料、防腐剤などの原料が配合される。配合される原料の形状としては、水溶液、油溶液、水又は油に溶解して使う粉体があり、水溶液と油溶液を混合する場合には乳化剤が用いられる。ただし、オイル本来の透明性を保つため乳化剤を使用しない製品や、固形で水溶液を入れる余地がない油分主体化粧品等では、水溶液の原料を配合することができない。
【0003】
ところで、リポポリサッカライド(LPS)は、肌の自然治癒力を高める作用があり、近年、機能性成分として化粧品にも配合されている。LPSは、脂質と糖から成る物質であるが、水溶性の糖の割合が大きいので、LPS全体としては水溶性であり油には溶けない。したがって、化粧品用LPS原料は、水溶液(Somacy-CL001:パントエア・アグロメランス/コムギ粉発酵エキス、SomacyN-CL001:パントエア・アグロメランスエキス、RiB-CL001:パントエア/コメヌカ発酵エキス、APV-CL001:パントエアバガンス培養液エキス)として提供されている(非特許文献1)。水溶液であるため、固形の油分主体化粧品であるリップクリームやクレンジングバームなどには、全く配合することができないか、配合されても微量添加となり機能性を示すための適量を配合することができない。また、オリーブオイルなどでは、乳化剤を使わない限り、加えたLPS水溶液は玉となって、オイルと融合できない。
【0004】
油分主体化粧品等において、水分が持ち込めないことが問題なのであるから、LPS水溶液から水分を蒸発させて粉として配合する方法が考えられる。しかし、化粧品等に混ぜるLPSの推奨量は、1μg/g程度と極めて微量であるため、正確に計り取ったり、均一に混合したりすることが処方上困難である。この問題を解決するため、食品用のLPS原料では、デキストリンを担体とするスプレードライ粉体も提供されている。この方法では、デキストリン水溶液中にLPSを溶解させ、この均一混合液をノズルから噴射しながら乾燥させる。水が蒸発する際に、デキストリンとLPSがくっついて粒子となる。スプレードライ粉体の大きさは噴射する時の水滴の大きさに依存する。デキストリンを担体としてスプレードライすることによって嵩が増えるので、LPSの一定量を正確に計り取ることが可能となる。ただし、スプレードライに使われる担体は水溶性であるから、嵩ましのためのスプレードライ品をオイルに加えると不溶物が増える結果となる。したがって、油分主体化粧品等にLPSを配合するには、油性溶媒中にLPSだけを適当な濃度に懸濁したオイルが最も適しているが、LPSが水溶性であって油性溶媒中に懸濁させることが困難であるために、従来、そのようなLPS懸濁オイルは存在しない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】“販売中のLPS原料”,[online],自然免疫応用技研株式会社,[令和2年12月28日検索],インターネット<https://www.macrophi.co.jp/seihin/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
油分主体化粧品等に乳化剤を使わずに配合できるLPS原料であるLPS微粉末が懸濁されているLPS懸濁オイルを提供する。さらに、そのLPS懸濁オイルが配合されているLPS配合製品を提供する。
【0007】
本発明者らは、水溶性であっても微粉末状LPSの粒子径を所定の大きさにすることによって、乳化剤を使わなくてもオイルに懸濁させることができることを見いだして、油分主体化粧品等に所定の必要な量のLPSを容易に配合させることができるようになった。
【0008】
・油分主体化粧品等に乳化剤を使わずに混合できる原料は、オイルであることが必要である。
・使用するオイルは、化粧品原料として登録されており、かつどのような化粧品にも配合できるよう無色透明無臭であることが望ましい。
・水分はオイルと混じらないので、LPSは凍結乾燥して水分を完全に蒸発させることが必要である。
・LPSはオイルに溶解しないので、オイルに懸濁状態で混ぜ込むことが必要である。
【0009】
・オイルに混ぜ込むLPSは、混ぜた後、均一に分散し、かつ容易に沈殿しない程度に微粉末化するのがよく、最大粒子径が20~75μm、より好ましくは20~45μmがよい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のLPS懸濁オイルは、微粉末状LPSの最大粒子径が20μm以上75μm以下であるLPS微粉末がオイルに懸濁されていることを特徴とする(ただし、乳化剤を含む場合を除く。)
【0012】
また、本発明は、上記LPS懸濁オイルが配合されていることを特徴とするLPS配合製品である。
【0013】
また、上記LPS配合製品は、化粧品、洗浄剤又は整髪剤であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のLPS懸濁オイルを原料として用いることで、これまで不可能であったLPS配合の油分主体化粧品、例えばリップクリーム、バーム化粧品、オイル化粧品又はオイル整髪剤等の製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】各種微粒子オイル懸濁液の沈殿の写真。
図2】3種のLPS懸濁オイル原料の写真。
図3】LPS懸濁オイルを配合したクレンジングバームの写真。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0016】
<オイルに懸濁するためのLPS破砕物の調整>
LPSを有するグラム陰性細菌パントエア・アグロメランスを培養し、培養液を加熱し、遠心分離上清を活性炭処理し、セライトろ過し、膜ろ過濃縮し、エタノール沈殿後、沈殿を凍結乾燥してLPS凍結乾燥品を得た。
【0017】
こうして得られたLPS凍結乾燥品6g程度を、1cm角以下となるように砕き、破砕機(Wonder Crusher WC-3:大阪ケミカル(株):処理容器サイズ108mmφ×51mmH、最大処理容量150mL)に入れて粉砕した。本破砕機の回転数は、ダイヤル0から10の範囲で調節する仕様であり、最高回転数は28000rpmである。一般に、数十gを処理する小型の粉砕機は、高速で長時間連続運転すると高温となる。LPS凍結乾燥品の粉砕では、発熱を制御できる運転手順として、速度7で50秒間の粉砕を2回、さらに速度9で20秒間の粉砕を8回繰り返すことが適当であった。
【実施例2】
【0018】
<オイルに懸濁するためのLPS微粉末の調整>
予備的に実施例1で調整したLPS粉末をオイルに懸濁したところ、短時間で沈殿する粒子があることが認められた。実施例1の条件で粉砕したLPS粉末の粒子径は、顕微鏡観察により10~100μmの範囲であった。そこで、LPS破砕物の粒子径分布をさらに小さい側にシフトさせるため篩にかけた。実施例1で得たLPS破砕物を薬さじでステンレス製篩(直径7cm)に2さじ移し、薬さじで篩全域に粉を広げつつ篩を通した。これを繰り返して篩を通過したものをLPS微粉末とした。ステンレス篩のメッシュは、20μm、45μm、75μmの3種を使用した。
3種類のメッシュサイズの篩を通過したLPS微粉末の回収率を表に示す。
【0019】
【表1】
【0020】
この結果から、20μmメッシュの篩を通した場合、回収率が著しく低くなることがわかった。したがって、破砕処理後の篩掛け操作では、20μmより大きいメッシュサイズの篩を使用することが適している。
【実施例3】
【0021】
<LPS微粉末を懸濁したLPS懸濁オイルの調整>
小型粉砕機にかけたLPS粉末から、実施例2の要領で、45μmメッシュ篩を通した微粉末、75μmメッシュ篩を通した微粉末、75μmメッシュ篩を通らなかった微粉末の3種類を調整し、それぞれの40mgに、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルを徐々に加えつつ、ボルテックスミキサー及びホモジネーターを使って撹拌し、最終的に100gにメスアップした。LPSを懸濁させるオイルは、化粧品用であれば無色無臭、酸化安定性に優れ、低粘度でさっぱりした感触の中鎖脂肪酸(MCT)オイルが適するが、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリルに限られるわけではなく、オリーブオイル等天然オイルであっても良い。
【0022】
調整した3種のLPS懸濁オイルを良く撹拌した後、2mLを測り取ってガラスシャーレに移し、室温に4時間静置し沈殿の状態を観察した。その結果、図1のように、75μmより大きい粒子のオイル懸濁液では目視で沈殿が観察された。75μm以下の粒子のオイル懸濁液では目視では沈殿が観察されなかった。ただし、拡大写真で見ると細かい沈殿が観察された。45μm以下の粒子のオイル懸濁液では目視でも拡大写真でも沈殿は観察されなかった。この結果から、安定したオイル懸濁液を得るためには、75μm以下の最大粒子径が良く、さらに望ましくは45μm以下の最大粒子径が良いことが示された。
【実施例4】
【0023】
<LPS懸濁オイル原料の製造>
45μmメッシュの篩にかけたLPS微粉末を使用し、下記の手順にて、最終濃度100μg/mLを製造した。
【0024】
LPS微粉末は、タンパク質、核酸等の夾雑物を含むため、LPS微粉末中のLPS含量をELISA法又はリムルス法によって正確に測定し、最終LPS濃度100μg/mLのLPS懸濁オイル原料を1Kg製造するために必要なLPS微粉末量(A)mgを計算して使用する。
【0025】
50mLコニカルチューブに、実施例1の方法に従い、45μmメッシュ篩で微粉末化したパントエア・アグロメランスLPS微粉末を(A)595mg入れ、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル(MCTオイル)を4mL加え、ボルテックスミキサーで1分×2回撹拌した。この撹拌操作を2回繰り返した。風袋を測定した3Lガラスビーカーに500g程度のMCTオイルを入れ、そこに50mLコニカルチューブ中のLPS懸濁オイルを加えた。空になった50mLコニカルチューブは、新しいMCTオイル40mLを加えボルテックスミキサーで1分×2回撹拌洗浄し、洗浄オイルを3Lビーカーに加えた。この洗浄操作を2回行なった。3Lガラスビーカーに、風袋を除く全重量が1kgになるように新しいMCTオイルを添加した。
【0026】
3LビーカーにはいったLPS微粉末とMCTオイルを、ホモジネーター(POLYTRON PT-MR3100、KINEMATICA AG)にセットし、回転数8000~8500rpmで3分間ホモジネートし2分間停止した。この操作を8回繰り返しLPS懸濁オイル原料とした。
【0027】
同様の方法にて、ロゼオモナス・ムコザLPS及びエンテロバクター・アスブリエLPSを用いて、LPS懸濁オイル原料を製造した(図2)。LPS微粉末中のLPS以外の固形分の含量が多いと、懸濁液の透明感が下がるが、いずれも、4℃冷蔵庫に1週間保存した後でも、目視で観察できる沈殿はなく、懸濁状態が維持されていることが示された。
【0028】
懸濁オイル原料に供するLPSの由来はパントエア・アグロメランス(Proteobacteria門>γ-proteobacteria綱)、エンテロバクター・アスブリエ(Proteobacteria門>γ-proteobacteria綱)ロゼオモナス・ムコザ(Proteobacteria門>α-proteobacteria綱)に限られるわけではなく、同じくLPSを有する、Proteobacteria門のβ-proteobacteria綱や、Bacteroides門やVerrucomicrobia門のグラム陰性細菌由来であっても構わない。
【実施例5】
【0029】
<LPS懸濁油性原料を使ったLPS配合クレンジングバームの試作>
実施例4で製造したパントエア・アグロメランスLPS懸濁オイルを用いて、下記の化粧品原料(表2)を配合して試作したクレンジングバームは、バームとしての適度な固形性を保ったうえで(図3)、肌に適用した際に、良好な感触、洗浄力、保湿力を有することが示された。
【0030】
【表2】
図1
図2
図3