(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-25
(45)【発行日】2025-03-05
(54)【発明の名称】通信ケーブル
(51)【国際特許分類】
H01B 11/04 20060101AFI20250226BHJP
H01B 7/18 20060101ALI20250226BHJP
H01B 7/04 20060101ALI20250226BHJP
【FI】
H01B11/04
H01B7/18 E
H01B7/04
(21)【出願番号】P 2021516080
(86)(22)【出願日】2020-04-17
(86)【国際出願番号】 JP2020016907
(87)【国際公開番号】W WO2020218203
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2019085722
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226932
【氏名又は名称】日星電気株式会社
(72)【発明者】
【氏名】望月 大輔
(72)【発明者】
【氏名】東 征臣
(72)【発明者】
【氏名】石川 将大
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-025355(JP,A)
【文献】特開2003-132743(JP,A)
【文献】特開2005-259385(JP,A)
【文献】特開2006-032193(JP,A)
【文献】特開平11-297130(JP,A)
【文献】特開平05-120926(JP,A)
【文献】特開2016-072196(JP,A)
【文献】特開2018-077943(JP,A)
【文献】米国特許第3433890(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 11/04
H01B 7/18
H01B 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体を被覆する絶縁層を備えた信号線を撚り合わせた対撚り線を有し、該対撚り線を複数本撚り合わせた集合線を外被で被覆した通信ケーブルであって、
該対撚り線は、一対の該信号線と一対の介在線を有し、該信号線と該介在線とが交互に並ぶように撚り合わされており、
該対撚り線を長さ方向に直交する面で断面視した際に、該対撚り線を構成する一対の信号線が互いに接触した状態となっているとともに、
該介在線はモノフィラメントであ
り、該介在線の外径をR1、該信号線の外径をR2と定義した際、式2の関係を満たすことを特徴とする通信ケーブル。
【請求項2】
該集合線と該外被の間に、シールド層が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の通信ケーブル。
【請求項3】
該介在線の外径をR1、該信号線の外径をR2と定義した際、式3の関係を満たすことを特徴とする請求項1
または2に記載の通信ケーブル。
【請求項4】
該介在線の伸びが、該信号線の伸び以上であることを特徴とする請求項1~
3の何れか一項に記載の通信ケーブル。
【請求項5】
該介在線の伸びが、該信号線の伸びの10倍以上であることを特徴とする請求項1~
4の何れか一項に記載の通信ケーブル。
【請求項6】
該介在線は、動摩擦係数が0.3以下の材料で構成されていることを特徴とする請求項1~
5の何れか一項に記載の通信ケーブル。
【請求項7】
該介在線は、静摩擦係数が動摩擦係数以下の材料で構成されていることを特徴とする請求項1~
6の何れか一項に記載の通信ケーブル。
【請求項8】
可動部で屈曲されることを特徴とする、請求項1~
7の何れか一項に記載の通信ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は通信ケーブルに関するものであり、特にカテゴリー6及びカテゴリー6Aの規格値を満たすLAN用の信号伝送路に用いられると共に、産業用ロボットやヒューマノイド等の各種サービスロボットをはじめとするロボット類、半導体製造装置等の各種産業用装置の可動部に好適に用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
対撚り線を複数本集合した集合体の外周に外被を設けた構造を有するLANケーブルは、代表的な通信ケーブルとして幅広く使用されている。通信機器の普及と、これに伴う通信データ量の増大に伴い、通信ケーブルには高速・大容量のデータ伝送機能が求められている。
【0003】
LANケーブルの性能を示す規格として「カテゴリー」という規格が使用されている。一般的に普及しているLANケーブルは、性能の低いものから順にカテゴリー5、カテゴリー5e、カテゴリー6、カテゴリー6A、カテゴリー7であり、昨今の通信環境ではカテゴリー6以上のLANケーブルを使用することが推奨されている。
【0004】
加えて、IoT(Internet оf Thing)の普及により、産業用ロボットや半導体装置に代表される各種の産業用装置などにデータ通信機能が搭載される場面が増えてきており、これらの装置に用いられる通信ケーブルとしてLANケーブルが使用される場面も多い。
【0005】
一般的なカテゴリー6のLANケーブル(通信ケーブル)の構造を
図8に示す。通常、通信ケーブル50は信号線52を2本撚り合わせた対撚り線55を4対集合させた集合体の外周に外被57を設けた構造をしており、カテゴリー6の通信ケーブル50では4対の対撚り線55を断面が十字状の介在(十字介在58)を介して集合させた構造が多い。十字介在58によって対撚り線55間の距離が一定値以上に保たれることで、対撚り線55が接近した際に発生する漏話減衰が抑制され、通信特性の向上に寄与している。
【0006】
しかしながら、十字介在58を用いた一般的な通信ケーブル50を産業用ロボットや半導体装置に使用する際は、以下に示す問題が存在する。
【0007】
産業用ロボットや半導体装置には回転部、屈曲部、U字屈曲部といった可動部が存在することが一般的であり、これらの装置に使用された通信ケーブルには装置の可動に伴って屈曲などの負荷が発生する。
【0008】
十字介在58はその形状の関係上、可撓性に乏しいため、屈曲に追従することが困難であり、屈曲量に制限が発生することが多いと共に、屈曲による負荷で破壊されやすい。十字介在58が破壊された場合、通信ケーブル50内の対撚り線55が接近して漏話減衰が増大し、カテゴリーに見合った通信特性が得られなくなる事態も発する。
【0009】
十字介在以外の手法を用いてカテゴリー6に対応したLANケーブルとしては、特許文献1、2に記載のものが存在する。特許文献1に記載のLANケーブルでは、LANケーブルを構成する対撚り線の撚りピッチを対撚り線毎に変えることで、介在を使用することなくカテゴリー6の規格値を満たしている。特許文献2に記載のLANケーブルでは、LANケーブルを構成する対撚り線の撚り角度を所定の値に設定することで、介在を使用することなくカテゴリー6の規格値を満たしている。
【0010】
しかしながら、特許文献1、2に記載のLANケーブルは、屈曲が発生する場面における通信特性の維持に関しては言及されていない。特に、介在を使用しないLANケーブルにおいては、LANケーブルを構成する対撚り線が常時接近しており、屈曲によって対撚り線が異常近接した際の通信特性の低下が懸念される。
【0011】
加えて、LANケーブルを構成する対撚り線の挙動に注目した場合、屈曲による負荷で対撚り線を構成する信号線の被覆が圧縮され、屈曲部において信号線間の距離、特に信号線を構成する導体間の距離が変動する場合がある。この距離の変動によって、対撚り線が有する電磁誘導ノイズの輻射抑制効果及び外部電磁誘導ノイズの遮蔽効果が変動することがあり、この現象も通信特性の低下の一因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2014-2837号公報
【文献】特開2001-155559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このように、従来の通信ケーブルは、耐屈曲性に劣り、屈曲が繰り返されることで通信特性を維持することが困難になってしまう。
【0014】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、耐屈曲性に優れ、屈曲が繰り返されても通信特性が維持される通信ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1記載の通信ケーブルは、導体を被覆する絶縁層を備えた信号線を撚り合わせた対撚り線を有し、対撚り線は、一対の信号線と一対の介在線を有し、信号線と介在線とが交互に並ぶように撚り合わされていることを特徴とする。
【0016】
請求項1記載の通信ケーブルは、対撚り線を複数本撚り合わせた集合線を、外被で被覆したことを特徴とする。
【0017】
請求項1記載の通信ケーブルは、対撚り線を長さ方向に直交する面で断面視した際に、対撚り線を構成する一対の信号線が互いに接触した状態となっていることを特徴とする。
【0018】
請求項1記載の通信ケーブルは、介在線がモノフィラメントであることを特徴とする。
【0019】
請求項2記載の通信ケーブルは、集合線と外被の間に、シールド層が設けられていることを特徴とする。
【0020】
請求項1記載の通信ケーブルは、介在線の外径は、信号線の外径よりも小さいことを特徴とする。
【0021】
請求項3記載の通信ケーブルは、介在線の外径をR1、信号線の外径をR2と定義した際、式1の関係を満たすことを特徴とする。
【0022】
請求項1記載の通信ケーブルは、介在線の外径をR1、信号線の外径をR2と定義した際、式2の関係を満たすことを特徴とする。
【0023】
請求項3記載の通信ケーブルは、介在線の外径をR1、信号線の外径をR2と定義した際、式3の関係を満たすことを特徴とする。
【0024】
請求項4記載の通信ケーブルは、介在線の伸びが、信号線の伸び以上であることを特徴とする。
【0025】
請求項5記載の通信ケーブルは、介在線の伸びが、信号線の伸びの10倍以上であることを特徴とする。
【0026】
請求項6記載の通信ケーブルは、介在線は、動摩擦係数が0.3以下の材料で構成されていることを特徴とする。
【0027】
請求項7記載の通信ケーブルは、介在線は、静摩擦係数が動摩擦係数以下の材料で構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本願の発明によれば、対撚り線を構成する信号線の被覆の圧縮が抑制され、屈曲しても所定の導体間距離が維持されるため、所定の通信特性が維持される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明に係る通信ケーブルの構成の
参考例を示す説明図である。
【
図2】本発明に係る通信ケーブルの構成の
一例を示す説明図である。
【
図3】
図1及び
図2の通信ケーブルの対撚り線を説明する説明図である。
【
図4】
図2の通信ケーブルの対撚り線の近接の様子を示す説明図である。
【
図5】耐屈曲性試験の試験方法を示す説明図である。
【
図6A】実施例1の通信ケーブル伝搬特性を示す説明図である。
【
図6B】実施例1の通信ケーブル伝搬特性を示す説明図である。
【
図7A】実施例2の通信ケーブル伝搬特性を示す説明図である。
【
図7B】実施例2の通信ケーブル伝搬特性を示す説明図である。
【
図8】従来の十字介在を有する通信ケーブルの基本的構造を示す説明図である。
【
図9】従来の2本の信号線のみを撚り合わせた構造の対撚り線にシールド層を設けた場合の説明図である。
【
図10】従来の介在線を有しない通信ケーブルの基本的構造を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の通信ケーブルの例として、基本構成について、図面を参照しながら説明する。
なお、図1における通信ケーブル1、及び実施例3の通信ケーブル1は本発明の参考例である。
【0031】
図1における通信ケーブル1は、導体3に絶縁層4を被覆した構造を有する一対の信号線2と一対の介在線6とを撚り合わせた対撚り線5からなり、対撚り線5が外被7に収容されている。通信ケーブル1は、特に、外被7に収容される信号線2や介在線6を一括して覆うシールド層8が設けられている例である(但し、通信ケーブルにおいて、シールド層は、必須ではない)。
【0032】
また、
図2における通信ケーブル10は、導体13に絶縁層14を被覆した構造を有する一対の信号線12と一対の介在線16とを撚り合わせた対撚り線15からなり、対撚り線15を複数本撚り合わせた集合線が外被17に収容されている。通信ケーブル10は、特に、外被17に収容される通信線を覆うシールド層18が設けられている例である(但し、通信ケーブルにおいて、シールド層は、必須ではない)。また、通信ケーブル10は、特に、シールド層18と集合線との間にテープ層19が設けられている例である(但し、通信ケーブルにおいて、テープ層は、必須ではない)。
【0033】
本発明で特徴的なことは、通信ケーブル1,10を構成する対撚り線5,15が、
図3に示すように、一対の信号線2,12と一対の介在線6,16を有し、信号線2,12と介在線6,16とが交互に並ぶように撚り合わされた構造を有していることである。
【0034】
信号線2,12と介在線6,16とが交互に並ぶように撚り合されていることで、通信ケーブル1,10の屈曲に伴って対撚り線5,15が屈曲する際、特に
図3中の線分Lに沿って屈曲する際に、絶縁層4,14を圧縮しようとする負荷の一部が、介在線6,16に吸収される。このため屈曲時に絶縁層4,14に与えられる負荷が減少し、絶縁層4,14の圧縮が抑制される。
【0035】
絶縁層4,14の圧縮が抑制されることで、対撚り線5,15を構成する信号線2,12の導体3,13間の距離の変動が少なくなり、対撚り線5,15が有する電磁誘導ノイズの輻射抑制効果及び外部電磁誘導ノイズの遮蔽効果の変動が少なくなる。この結果、対撚り線5,15を使用した通信ケーブル1,10の屈曲による通信特性の変動が抑制され、所定の通信特性の維持に寄与する。
【0036】
また、通信ケーブル1,10を屈曲させた際に発生する負荷を介在線6,16が吸収するため、信号線2,12への負荷が低減し、屈曲による導体3,13の断線を抑制することもできる。
【0037】
加えて、介在線6,16を撚り合わせることで、以下に示すようにシールド層8,18への耐屈曲性の向上効果も得られる。
【0038】
通常、通信ケーブル1,10を構成する際は、
図1及び
図2に示したように、外被7,17に収容される信号線類を一括して覆うシールド層8,18が設けられることが多い。
【0039】
図9に示すように、一般的に、2本の信号線62のみを撚り合わせた構造の対撚り線65にシールド層68を設けた場合、シールド層68が略楕円形状に設けられた部分が存在し、この部分では長軸と短軸が存在する断面形状となる。
【0040】
このような長軸と短軸が存在する断面形状のシールド層68を有する通信ケーブルを屈曲させる場合、長軸と短軸の間に寸法の違いがあるため、シールド層68に発生する負荷に偏りが生じ、特定の場所に負荷が集中する傾向にある。このため、負荷が集中する場所を起点としてシールド層68の破断が発生しやすい。
【0041】
一方、本発明に使用する対撚り線5は、シールド層8を設けた際に、その形状が
図1に示したように正方形に近くなり、長軸と短軸の間の寸法の違いが概ね解消される。このため、通信ケーブル1を屈曲させた際にシールド層8に発生する負荷が均一に分散し、シールド層8の破断が抑制される。結果として、通信ケーブル1の耐屈曲性の向上に寄与する。
【0042】
さらに、介在線6の存在は、以下に示すように通信ケーブル1の細径化にも寄与する。
【0043】
信号線62のみを撚り合わせた対撚り線65にシールド層68を設けた場合、
図9に示すようにシールド層68は信号線62に近接した状態となり、2本の信号線62とシールド層68によって包囲された空間が2つ形成される。一方、介在線6も撚り合わされた対撚り線5にシールド層8を設けた場合、介在線6の存在によって、2本の信号線2と介在線6によって包囲された2つの空間に加えて、信号線2、介在線6、シールド層8によって包囲された空間が4つ形成される。
【0044】
形成された空間により、シールド層8に囲まれた対撚り線5の実効誘電率を低下させる作用を奏し、形成された空間が多いほど実効比誘電率は大きく低下する。
【0045】
対撚り線5の特性インピーダンスを設定する際、対撚り線5の実効誘電率に応じて導体間距離を調節する必要があるが、実効誘電率が低下した際、所定の特性インピーダンスに設定するための導体間距離が短くなるため、信号線2の外径を細くでき、結果として対撚り線5の外径を細くできる。
【0046】
すなわち、介在線6を撚り合わせた対撚り線5は、介在線6の存在によって多くの空間が形成されるため、実効比誘電率は大きく低下し、介在線6を撚り合わせない場合と比較して外径を細く設定できるため、対撚り線5を使用した通信ケーブル1の細径化に寄与する。
【0047】
併せて、実効比誘電率の低下に伴い、誘電損失による信号減衰も抑制されるため、介在線6の存在は通信特性の向上にも寄与する。
【0048】
上述のように、信号線12と介在線16とが交互に撚り合された対撚り線15は、
図2に示したような、対撚り線15を複数本撚り合わせた集合線を使用して通信ケーブル10を構成する場合でも、通信特性の維持に寄与する。
【0049】
図2に示す複数の対撚り線15を有する通信ケーブル10は、対撚り線15同士が近接してしまうと、一方の対撚り線15を構成する信号線12を伝送する信号が、他方の対撚り線15を構成する信号線12へと伝わる漏話減衰が発生しやすくなり、漏話減衰によって通信ケーブル10の通信特性が低下する。
【0050】
通信ケーブル10を構成する各対撚り線15の撚りピッチを、各対撚り線15で異なる値に設定した際は、
図4に示すように対撚り線15の外径円が接触する程度で近接する分には、通信特性を著しく低下させるような漏話減衰が確認されず、通信ケーブル10の通信特性が維持される。
【0051】
しかしながら、
図10に示すように、介在線を有しない通信ケーブル70では、対撚り線75の外径円が重なる程度に対撚り線75が近接すると、漏話減衰が増大し、特に一方の対撚り線75を構成する信号線72の片方が、他方の対撚り線75を構成する2つの信号線72の間の隙間に入り込み、他方の対撚り線75を構成する2つの信号線72に接触してしまうと、通信特性が低下することが確認できた。
【0052】
本発明においては、対撚り線15に介在線16を撚り合わせることで、対撚り線15を構成する信号線12の異常近接を制限し、漏話減衰を抑制することで、通信ケーブル10の通信特性が維持される。
【0053】
本発明に用いられる通信ケーブル10の対撚り線15は、一対の信号線12と一対の介在線16を有し、信号線12と介在線16とが交互に並ぶように撚り合された構造を有しているため、
図10に示すような他方の対撚り線75を構成する2本の信号線72の間の隙間に入り込み、他方の対撚り線75を構成する2本の信号線72に接触することがなくなり、所定の通信特性を維持することができる。
【0054】
図10に示した対撚り線75の異常接近は、通信ケーブル70を屈曲させた時に発生しやすいため、対撚り線15に介在線16を撚り合わせることで、屈曲による通信特性の悪化が抑制される。
【0055】
加えて、介在線16は信号線12と撚り合わされた状態で外被17の中に存在するため、本発明の通信ケーブル10は十字介在を使用した通信ケーブル50と比較して耐屈曲性に優れる。
【0056】
また、本発明においては、
図3に示したように、対撚り線5,15を構成する一対の信号線2,12を断面視した際に、信号線2,12が互いに接触した状態になるよう、一対の信号線2,12が撚り合されていることが好ましい。
【0057】
対撚り線5,15を構成する一対の信号線2,12が互いに接触していることで、対撚り線5,15の構造に起因して対撚り線5,15が有する、電磁誘導ノイズの輻射抑制効果及び外部電磁誘導ノイズの遮蔽効果が安定し、通信特性の維持に寄与する。
【0058】
加えて、本発明において、介在線6,16の外径は信号線2,12の外径よりも小さいことが好ましい。介在線6,16の外径が信号線2,12の外径より小さいことによって、介在線6,16が対撚り線5,15を構成する信号線2,12の接触を妨げることが抑制されるとともに、対撚り線5,15の外径も抑制され、通信ケーブル1,10の細径化に寄与する。
【0059】
介在線6,16の外径をR1、信号線2,12の外径をR2と定義した際、介在線6,16の外径R1は以下の式1に示した範囲になっていることが好ましい。
【0060】
【0061】
介在線16の外径R1が式1の範囲となっていることで、対撚り線15を複数本撚り合わせた通信ケーブル10において対撚り線15が近接した場合でも、対撚り線15を構成する信号線12が通信特性に影響を及ぼす程度近接してしまうことを抑制でき、通信特性の維持に寄与する。
【0062】
さらに、R1は以下の式2に示した範囲になっていることが好ましい。
【0063】
【0064】
介在線6,16の外径R1が式2の範囲となっていることで、介在線6,16の存在による対撚り線5,15の外径の上昇が抑制され、通信ケーブル1,10の細径化に寄与する。また、介在線16の外径R1が式2の上限値付近にある場合は、対撚り線15が全体として円形状となり、対撚り線15を複数本撚り合わせた通信ケーブル10において外被17を設けた際の対撚り線15間の隙間が減少するため、通信ケーブル10を屈曲させた際に対撚り線15の位置関係が崩れにくく、通信特性の維持に寄与する。
【0065】
以上をまとめると、本発明において特に好ましいR1の範囲は以下の式3に示した範囲である。
【0066】
【0067】
介在線6,16の外径R1が式3の範囲となっていることで、通信特性に影響を及ぼす程度の信号線2,12同士の近接を抑制できると共に、介在線6,16の存在による対撚り線5,15の外径の上昇も抑制され、通信特性の維持と細径化の両立に寄与する。
【0068】
本発明に使用する介在線6,16は、摺動性に優れる材料を使用することが好ましい。摺動性に優れた介在線6,16を使用することで、対撚り線5と外被7の内周面との間、及び対撚り線15を複数本使用した場合は対撚り線15同士の間でも、摩擦抵抗が低減し、通信ケーブル1,10を屈曲させた際に発生する対撚り線5,15の摺動が滑らかになる。この結果、対撚り線5,15に発生する負荷が低減し、屈曲による信号線2,12の断線を抑制することができ、通信ケーブル1,10の耐屈曲性の向上に寄与する。
【0069】
加えて、後述するテープ層19やノイズ対策用のシールド層8,18を対撚り線5,15と外被7,17の間に設けた態様の場合、介在線6,16に摺動性に優れる材料を使用することで、テープ層19やシールド層8,18の摩耗による損傷が抑制されるため、通信特性の維持にも寄与する。
【0070】
具体的には、介在線6,16として動摩擦係数が0.3以下の材料を使用するのが好ましい。動摩擦係数が0.3以下の材料としてはふっ素樹脂、ポリエチレン、ナイロン66などが挙げられる。
【0071】
さらに好ましくは、静摩擦係数が動摩擦係数以下の材料を介在線6,16として使用するのが好ましい。一般的な材料は、静摩擦係数が動摩擦係数より大きいが、一部の摺動性材料には静摩擦係数が動摩擦係数以下のものが存在する。そのような材料を介在線6,16として使用することで、通信ケーブル1,10を屈曲させた際に発生する対撚り線5,15の摺動がより滑らかとなり、通信ケーブル1,10の耐屈曲性の向上に寄与する。
【0072】
なお、本発明で「静摩擦係数が動摩擦係数以下の材料」とは、同じ材料同士を接触・摺動させた際に、静摩擦係数が動摩擦係数以下となる性質を示す材料のことを指す。また、本発明における動摩擦係数、静摩擦係数はJIS K 7125に準拠して測定される値である。
【0073】
加えて介在線6,16の伸びが、信号線2,12の伸び以上であることが好ましい。介在線6,16の伸びが信号線2,12の伸び以上であることで、屈曲時における介在線6,16の断線が抑制され、通信ケーブル1,10を屈曲させた際の通信特性の維持に寄与する。
【0074】
より好ましくは、介在線6,16の伸びは信号線2,12の伸びの10倍以上であることが好ましい。介在線6,16の伸びが信号線2,12の伸びと比較して十分高いことで、屈曲時における介在線6,16の断線抑制効果、及び通信特性維持効果が向上する。
【0075】
本発明に使用する介在線6,16は、モノフィラメントのもの、マルチフィラメントのものを適宜選択して使用することができる。
【0076】
通信特性の維持の観点では、屈曲時に変形しにくいモノフィラメントの介在線6,16が好ましい。変形しにくいモノフィラメントの介在線6,16を使用することで、対撚り線5,15内における絶縁層4,14の圧縮、対撚り線15を複数本使用した場合は対撚り線15の接近も抑制され、通信特性の維持に寄与すると共に、モノフィラメントの介在線16は表面の凹凸が少なく、摺動性にも優れる点で好ましい。
【0077】
本発明で特に好ましく使用される介在線6,16の具体的な材料は、ふっ素樹脂の一種であるPTFEである。PTFEは静摩擦係数が動摩擦係数以下であるとともに、高い伸びなど、優れた機械的強度を有する。加えて、誘電率が小さいため、信号線2,12と撚り合わせた際の伝送損失が抑えられ、通信特性の維持にも寄与する。
【0078】
他のふっ素樹脂であるPFA、FEP、ETFEも静摩擦係数が動摩擦係数以下であるとともに、高い伸び、低い誘電率を有するため、本発明に好ましく使用できる。
【0079】
また、通信特性の維持の観点では、介在線6,16を多孔質構造や中空構造としても良い。多孔質構造、中空構造は空気を含んでいるため、充実構造と比較して低い誘電率を示し、通信特性の維持に寄与するともに、柔軟性にも優れるため、耐屈曲性の向上にも寄与する。
【0080】
多孔質構造を有する介在線6,16としては、製造過程で延伸処理がなされることで、ノードとフィブリルによる多孔質構造が形成された延伸PTFEが好ましく利用できる。延伸処理されたPTFEは伸びに対する機械的強度に優れるため、耐屈曲性の向上の観点においても好ましく使用できる。
【0081】
中空構造の介在線6,16としては、ふっ素樹脂をチューブ状に押出したものが使用できる。
【0082】
加えて、誘電率が低い介在線6,16は、通信ケーブル1,10の細径化の観点でも好ましく使用できる。
【0083】
通信ケーブルの一例として対撚り線を4本使用したLANケーブル(通信ケーブル10)が存在するが、従来のLANケーブルは外径が5~7mm程度であり、外径5mm以下のものが細径ケーブルとして扱われる傾向にある。
【0084】
LANケーブルの外径を5mm以下とする場合、対撚り線15の外径を1mm以下とするのが好ましく、対撚り線15の外径を小さくするには実効比誘電率を十分に小さくする必要がある。誘電率の低い介在線16を使用し、介在線16によって形成される空間の存在に起因する実効比誘電率の低下作用も併用することで、対撚り線15の実効比誘電率を十分に小さくすることができる。
【0085】
対撚り線15の外径を1mm以下とするには、誘電率が2.4以下の材料で構成された介在線16を使用すれば良く、各種のふっ素樹脂が好ましく利用できる。ふっ素樹脂の中ではPTFEが特に好ましく利用できる。
【0086】
対撚り線15を複数本使用して通信ケーブル10を構成する場合、対撚り線15の撚り方向は、撚り方向を揃えた対撚り線15を使用しても良いし、撚り方向が異なる対撚り線15を組み合わせて使用しても良い。
【0087】
通信特性維持の観点では、撚り方向が異なる対撚り線15を組み合わせるのが好ましい。対撚り線15の撚り方向を異ならせることで、対撚り線15の表面に存在する凹凸の向きが異なり、対撚り線15の外径円が重なるような接近を抑制することができる。
【0088】
本発明においては、介在線16の存在によって、対撚り線15の外径円が重なるような接近を抑制することができるため、本発明は対撚り線15の撚り方向を揃える場合に特に好適に利用できる。
【0089】
本発明に使用される導体3,13は、電線・ケーブル用導体として公知のものを適宜選択して利用できる。耐屈曲・耐捻回の観点から、耐屈曲・耐捻回に優れた構成のものを選択するのが好ましい。
【0090】
本発明に使用される絶縁層4,14は電線・ケーブル用の絶縁材料として公知のものを適宜選択して利用できる。耐屈曲の観点から、介在線6,16と同様、PTFE、PFA、FEP、ETFEといったふっ素樹脂が好ましく利用できる。
【0091】
加えて、本発明の通信ケーブル1,10は、対撚り線5,15を構成する介在線6,16の材料と、信号線2,12に使用される絶縁層4,14の材料との組み合わせによって、耐屈曲性をより一層向上させることができる。
【0092】
一例として、絶縁層4,14に、介在線6,16よりも曲げ弾性率が大きい材料を使用した態様が挙げられる。絶縁層4,14の曲げ弾性率が介在線6,16よりも大きいことで、通信ケーブル1,10が屈曲した際に、絶縁層4,14と比較して介在線6,16の変形が大きくなる。この結果、屈曲による負荷を主に介在線6,16が吸収することになり、絶縁層4,14の破損や導体3,13の断線の抑制に寄与する。
【0093】
他の例として、絶縁層4,14に、介在線6,16よりも引張弾性率が小さい材料を使用した態様が挙げられる。通信ケーブル1,10が屈曲した際に、屈曲部の両側に向かって対撚り線5,15を引張る力が発生する。この時、絶縁層4,14の引張弾性率が介在線6,16よりも小さいことで、介在線6,16が引張り変形を開始するまでは、介在線6,16と共に撚られた信号線2,12を構成する絶縁層4,14の引張り変形が起こりにくい状態となる。すなわち、引張りによる負荷を主に介在線6,16が吸収する状態となり、絶縁層4,14の破損や導体3,13の断線の抑制に寄与する。
【0094】
本発明で特に好ましく使用されるPTFE製の介在線6,16を使用する場合、好ましく利用できる絶縁層4,14の材料は、PTFEよりも曲げ弾性率が大きく、引張弾性率が小さい傾向を示すFEPである。
【0095】
加えて、絶縁層4,14と介在線6,16とを同種の材料で構成した態様も好ましく利用できる。絶縁層4,14と介在線6,16とを同種の材料で構成した場合は、通信ケーブル1,10が屈曲した際に、信号線2,12と介在線6,16に発生する負荷が、信号線2,12と介在線6,16とに概ね均等に分散するため、信号線2,12への負荷の集中が抑制されるため、絶縁層4,14の破損や導体3,13の断線の抑制に寄与する。
【0096】
絶縁層4,14と介在線6,16とを同種の材料で構成した態様としては、共にFEPを使用した態様、共にPFAを使用した態様などが挙げられる。
【0097】
なお、上記の説明では、導体3,13に絶縁層4,14を被覆した絶縁電線を信号線2,12として採用したが、信号線2,12の構造はこれに限定されるものではなく、公知の同軸ケーブルを信号線2,12として使用することもできる。
【0098】
外被7,17は、PVC、シリコーンゴムなど、ケーブルの外被用材料として公知のものを適宜選択して利用できる。
【0099】
対撚り線15と外被17の間には、
図2に示すように、対撚り線15を被覆するテープ層19や、ノイズ対策用のシールド層18を設けても良い。また、本発明は十字介在を使用せずに優れた通信特性を有した通信ケーブルを得ることを主眼にしたものであるが、必要に応じて十字介在を使用した変形例を採用しても良い。
【0100】
以下、本発明の実施例として、対撚り線5,15を4本もしくは1本使用して構成された通信ケーブル1,10を示す。
【実施例1】
【0101】
実施例1の通信ケーブル10は、
図2に示すように、対撚り線15を4本使用し、対撚り線15に使用する信号線12と介在線16は、各対撚り線15で共通設計とした。
【0102】
信号線12として、直径0.26mmのスズメッキ軟銅線で構成された導体13の外周に、押出成型機を用いて絶縁層14となるFEPを肉厚0.16mmで被覆し、外径0.58mmとしたものを準備した。信号線12の伸びは10%未満であった。
【0103】
介在線16として、直径0.38mmのPTFE繊維を準備した。この介在線16の直径は、上記式2で示された範囲の上限値に略等しい。また、介在線16の伸びは200%以上であった。
【0104】
2本の信号線12と2本の介在線16とを有し、信号線12と介在線16とが交互に並ぶように撚り合わせ、対撚り線15を形成した。対撚り線15によってピッチを変更し、4種類の対撚り線15を準備した。
【0105】
対撚り線15の撚り方向は全て同じ方向に統一した。また、各対撚り線15は、撚り合わせが完了した段階で、断面視した際に信号線12が互いに接触した状態となっており、外径は1.2mmであった。
【0106】
準備した4種類の対撚り線15を総撚りし、集合線とした。撚り方向は対撚り線15の撚り方向と逆にした。総撚りされた対撚り線15の直径は2.8mmであった。
【0107】
総撚りされた対撚り線15の外周に、アルミニウム積層PET(ポリエチレンテレフタラート)テープをテープ層19として横巻きした。
【0108】
次いで、テープ層19の外周にシールド層18を設ける。シールド層18は、8本のシールド素線を互いに平行に引き揃えてなる素線束を1組として、16組の素線束で構成された編組シールドとし、シールド素線には、外径0.08mmの銅箔糸を使用した。
【0109】
最後に、押出成型機を用いて、シールド層18の外周に、外被17となるPVC(ポリ塩化ビニル)を肉厚0.4mmで被覆し、実施例1の通信ケーブル10が完成した。通信ケーブル10の外径は最終的に4mmとなった。
【実施例2】
【0110】
実施例2の通信ケーブルは、実施例1と同様の構造を有するので
図2を用いて説明する。実施例2としての通信ケーブル10は、対撚り線15を4本使用し、対撚り線15に使用する信号線12と介在線16は、各対撚り線15で共通設計とした。
【0111】
信号線12として、直径0.08mmのスズメッキ軟銅線を7本同心撚りして構成された外径0.24mmの導体13の外周に、押出成型機を用いて絶縁層14となるFEPを肉厚0.095mmで被覆し、外径0.43mmとしたものを準備した。信号線12の伸びは10%未満であった。
【0112】
介在線16として、直径0.42mmのPTFE繊維を準備した。この介在線16の直径は、信号線12の直径と同程度の値であり、上記式2で示された範囲の範囲外である。また、介在線16の伸びは200%以上であった。
【0113】
2本の信号線12と2本の介在線16とを有し、信号線12と介在線16とが交互に並ぶように撚り合わせ、対撚り線15を形成した。対撚り線15によってピッチを変更し、4種類の対撚り線15を準備した。
【0114】
対撚り線15の撚り方向は全て同じ方向に統一した。また、各対撚り線15は、撚り合わせが完了した段階で、断面視した際に信号線12が互いに接触した状態となっており、外径は0.9mmであった。
【0115】
準備した4種類の対撚り線15を総撚りし、集合線とした。撚り方向は対撚り線15の撚り方向と逆にした。総撚りされた対撚り線15の直径は2.8mmであった。
【0116】
総撚りされた対撚り線15の外周に、アルミニウム積層PET(ポリエチレンテレフタラート)テープをテープ層19として横巻きした。
【0117】
次いで、テープ層19の外周にシールド層18を設ける。シールド層18は、8本のシールド素線を互いに平行に引き揃えてなる素線束を1組として、16組の素線束で構成された編組シールドとし、シールド素線には、外径0.08mmの銅箔糸を使用した。
【0118】
最後に、押出成型機を用いて、シールド層18の外周に、外被17となるPVC(ポリ塩化ビニル)を肉厚0.4mmで被覆し、実施例2の通信ケーブル10が完成した。通信ケーブル10の外径は最終的に4mmとなった。
【実施例3】
【0119】
実施例3の通信ケーブル1は、
図1に示すように、対撚り線5を1本のみ使用した。
【0120】
信号線2として、直径0.05mmのスズメッキ銅合金線を7本撚り合わせた撚線を、3本撚り合わせた集合撚線で構成された導体3の外周に、押出成型機を用いて絶縁層4となるFEPを肉厚0.15mmで被覆し、外径0.58mmとしたものを準備した。信号線2の伸びは10%未満であった。
【0121】
介在線6として、直径0.38mmのPTFE繊維を準備した。この介在線6の直径は、上記式2で示された範囲の上限値に略等しい。また、介在線6の伸びは200%以上であった。
【0122】
2本の信号線2と、2本の介在線6とを、信号線2と介在線6とが交互に並ぶように撚り合わせ、対撚り線5を形成した。完成した対撚り線5は、撚り合わせが完了した段階で、断面視した際に信号線2が互いに接触した状態となっており、外径は1.2mmであった。
【0123】
次いで、信号線2及び介在線6の外周にシールド層8を設ける。シールド層8は、7本のシールド素線を互いに平行に引き揃えてなる素線束を1組として、24組の素線束で構成された編組シールドとし、シールド素線には、外径0.08mmの銅箔糸を使用した。
【0124】
最後に、押出成型機を用いて、シールド層8の外周に、外被7となるPVC(ポリ塩化ビニル)を肉厚0.4mmで被覆し、実施例3の通信ケーブル1が完成した。通信ケーブル1の外径は最終的に2.3mmとなった。
【0125】
[比較例]
実施例3に対する比較例の通信ケーブルとして、実施例3の通信ケーブル1から介在線6を割愛した以外は、実施例3の通信ケーブルと同様に作成した通信ケーブルを作成した。
【0126】
以上のように作成した実施例、比較例の通信ケーブルの伝送特性を耐屈曲試験の前後で比較した。なお、複数の対撚り線15で構成された実施例1,2の通信ケーブル10と、1本の対撚り線5で構成された実施例3、比較例の通信ケーブルとでは、寸法・構造の違いによる耐久性や評価可能項目の差が存在するため、これを考慮して試験条件や評価項目を一部変更しており、詳細は以下に示す。
【0127】
[実施例1,2に対する伝送特性評価方法]
通信ケーブル10のNEXT(Near End Cross Talk:近端漏話減衰量)を、TIA/EIA-568-B.2-1に準拠した方法で評価し、カテゴリー6Aの通信ケーブルに要求されるNEXTに対する最小マージンの大小で、伝送特性の良否を評価した。
【0128】
[実施例1,2に対する耐屈曲性試験方法]
図5に示す屈曲性試験装置100にて通信ケーブル10の耐屈曲性を評価した。試験条件は、上方を固定部101で固定して500gの荷重103を付けた長さ1000mmの通信ケーブル10を、R20mmのマンドレル102の間に軽く挟み、左右へ90度ずつ、60回/分の速度で屈曲させる。左右へ90度ずつ曲げて1回とし、10万回屈曲させた後のNEXTを調べ、屈曲前のNEXTと比較する。
【0129】
実施例1,2の通信ケーブル10の設計と評価結果を表1に、耐屈曲試験前後における実施例1,2のNEXTを
図6A、
図6B、
図7A及び
図7Bにそれぞれ示す。
【0130】
【0131】
実施例1の通信ケーブル10はカテゴリー6Aの規格値に対して+8.9dBの最小マージンを有し、この値は耐屈曲性試験後も変化が無かった。このことから、実施例1の通信ケーブル10は屈曲を繰り返しても通信特性が維持される、耐屈曲性に優れた通信ケーブルであると言える。
【0132】
実施例2の通信ケーブル10はカテゴリー6Aの規格値に対して+4.3dBの最小マージンを有し、この値は耐屈曲性試験後に+3.8dBまで低下した。このことから、実施例2の通信ケーブル10は屈曲を繰り返すと通信特性の低下が発生するもの、カテゴリー6Aの要求特性に対するマージンは依然として存在するため、実用的な耐屈曲性を有するカテゴリー6A向け通信ケーブルであると言え、同時にカテゴリー6向け通信ケーブルとしては十分な性能を有した通信ケーブルであると言える。
【0133】
実施例1,2の結果から、対撚り線15を構成する介在線16の直径は信号線12の直径と同程度とするよりも、上記式2に基づいて、信号線12の直径よりも小さくする方が、通信特性の面と耐屈曲性の面で好ましい態様と言える。
【0134】
[実施例3、比較例に対する伝送特性評価方法]
通信ケーブル1を構成する信号線2の導体抵抗値の大小で、伝送特性の良否を評価した。導体抵抗値の測定は、所定の長さに切断した通信ケーブル1の一端において、通信ケーブル1を構成する2本の信号線2の導体3を接触させ、通信ケーブル1の他端において、テスターのプラス側のテストリードを一方の信号線2の導体3、マイナス側のテストリードを他方の信号線2の導体3に接続して行った。測定は常温で行い、伝送特性の良否を評価した。なお、導体抵抗値が高いほど、伝送特性が悪化する。
【0135】
[実施例3、比較例に対する耐屈曲性試験方法]
実施例3に対しても、
図5に示す耐屈曲性試験装置100にて通信ケーブル1の耐屈曲性を評価した。試験条件は、上方を固定部101で固定して100gの荷重103を付けた長さ1000mmの通信ケーブル1を、R3mmのマンドレル102の間に軽く挟み、左右へ90度ずつ、90回/分の速度で屈曲させる。左右へ90度ずつ曲げて1回とし、屈曲回数の増加に伴う導体抵抗値の変化を調べ、屈曲前の導体抵抗値と比較する。
【0136】
実施例3、比較例の通信ケーブル1の設計と評価結果を表2に示す。
【0137】
【0138】
実施例3の通信ケーブル1の導体抵抗値は600mΩと、通信ケーブルとして使用されるにあたり不都合が無い程度の値を示し、屈曲回数が1万6000回に達した時点では変化がなく、屈曲回数が16万回に達した時点で612mΩに上昇した。上昇量は2%で、通信ケーブルと使用するにあたり特段の不都合は無い程度の上昇である。加えて、信号線2を構成する導体3の断線は確認されなかった。
【0139】
一方、比較例の通信ケーブルの導体抵抗値は、耐屈曲試験前は実施例3と同じく600mΩであったが、屈曲回数が1万6000回に達した時点で690mΩと10%以上上昇し、同時に導体の断線も確認された。比較例の通信ケーブルは屈曲による負荷で導体の断線が進行し、導体抵抗値が上昇したと推測され、実施例3の通信ケーブル1は介在線6が屈曲による負荷を吸収し、導体3への負荷が低減されることで断線の進行が抑制されたものと推測される。
【0140】
このことから、実施例3の通信ケーブル1は屈曲を繰り返しても通信特性が維持される、耐屈曲性に優れた通信ケーブルであると言える。
【0141】
以上のように、本発明者は、通信ケーブルの構造を鋭意検討した結果、通信ケーブルを構成する対撚り線に存在する信号線の被覆の圧縮を抑制するとともに、信号線間の隙間に隣接する対撚り線を構成する信号線が落ち込まなければ、実使用上十分な通信特性が得られることを突き止め、被覆の圧縮、信号線の落ち込みが抑制されるとともに、屈曲に対する耐久性も向上した通信ケーブルを得るに至ったものである。
【0142】
そして、本発明の通信ケーブルにあっては、以下に記載した優れた効果が期待できる。
(1)対撚り線を構成する信号線の被覆の圧縮が抑制され、屈曲しても所定の導体間距離が維持されるため、所定の通信特性が維持される。
(2)対撚り線の外径変化を最小限に抑えながら所定の通信特性を得ることができるため、通信ケーブルの細径化に寄与する。
(3)対撚り線を複数本使用して通信ケーブルを構成した場合は、十字介在を使用しなくても優れた通信特性を有し、十字介在がないため、十字介在を使用した通信ケーブルと比較して耐屈曲性が向上する。
(4)対撚り線を複数本使用して通信ケーブルを構成した場合は、対撚り線の異常近接が抑制され、通信ケーブルを屈曲させても所定の通信特性が維持される。
【0143】
本出願は、2019年4月26日に出願された日本国特許出願特願2019-085722号に基づく。本明細書中に日本国特許出願特願2019-085722号の明細書、特許請求の範囲、図面全体を参照として取り込むものとする。
【0144】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、請求の範囲によって示される。そして、請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【産業上の利用可能性】
【0145】
以上のように、本発明の通信ケーブルは、産業用ロボットやヒューマノイド等の各種サービスロボットをはじめとするロボット類、半導体製造装置等の各種産業用装置の可動部に好適に用いられるものであるが、用途はこれらに限定されるものでは無く、可動部以外に使用される通信ケーブルや、通信を伴わない、可動部用の電源ケーブルとしても好適に利用できる。
【符号の説明】
【0146】
1・・・・通信ケーブル
2・・・・信号線
3・・・・導体
4・・・・絶縁層
5・・・・対撚り線
6・・・・介在線
7・・・・外被
8・・・・シールド層
10・・・通信ケーブル
12・・・信号線
13・・・導体
14・・・絶縁層
15・・・対撚り線
16・・・介在線
17・・・外被
18・・・シールド層
19・・・テープ層