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  • 特許-吸遮音構造の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-25
(45)【発行日】2025-03-05
(54)【発明の名称】吸遮音構造の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/16 20060101AFI20250226BHJP
   G10K 11/162 20060101ALI20250226BHJP
【FI】
G10K11/16 110
G10K11/16 160
G10K11/162
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020085064
(22)【出願日】2020-05-14
(65)【公開番号】P2021179534
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2022-10-28
【審判番号】
【審判請求日】2024-03-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中尾 浩
【合議体】
【審判長】千葉 輝久
【審判官】樫本 剛
【審判官】木方 庸輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-183806(JP,A)
【文献】特開2019-117298(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/00 - 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の部材間の空隙内に挿入される空隙充填材を用いた吸遮音構造の製造方法であって、
前記空隙充填材は、包装材と、前記包装材で包装された弾性体とよりなり、
前記弾性体は、非圧縮状態の大きさが前記空隙の大きさと等しいあるいはそれより大きいものであり、
前記包装材は、前記弾性体が前記空隙よりも小に圧縮された状態で、密封されている空隙充填材を、
前記空隙内に挿入した後、
前記包装材の密封を解除して前記弾性体を復元させ、前記空隙充填材で前記空隙を満たして、
前記包装材を溶融することなく、吸遮音構造とすることを特徴とする吸遮音構造の製造方法。
【請求項2】
前記空隙が、自動車におけるフェンダー周辺、インストルメントパネル周辺、または、カウル周辺に存在する請求項1に記載の吸遮音構造の製造方法。
【請求項3】
前記弾性体が、連通気泡構造を有し、密度(JIS K7222)が15~40kg/m3であり、25%硬さ(JIS K6400-2 6.7D法)が30~150Nである軟質ポリウレタンフォームである請求項1又は2に記載の吸遮音構造の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空隙内に挿入後、空隙内で膨張して空隙内を満たす充填材の吸遮音構造の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車におけるフェンダー、インストルメントパネル、カウル周辺等における音の伝達経路の空隙内に、ポリウレタンフォームを充填して遮音性や吸音性を高めることが行われている。
空隙内に挿入されるポリウレタンフォームは、空隙と等しいあるいは所定量大きいサイズで形成され、空隙の内面と接触しながら圧縮気味に空隙内へ挿入されて、挿入後に空隙内面に密着するようにされる。ポリウレタンフォームは、空隙内への挿入を容易にするため、空隙内面と接触する表面に動摩擦抵抗を低減する被膜層が設けられている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-246182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、空隙の内面が凹凸形状の場合、空隙と等しいあるいは所定量大きいサイズのポリウレタンフォームを、空隙内の凹凸面と接触しながら空隙内の奥までスムーズに挿入するのに苦労する場合がある。
【0005】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであって、空隙内への挿入が容易な空隙充填材とその充填方法の提供を目的とする。
特に、自動車等の組付け後の複雑・極少な隙間、または空間充填の作業しい隙間等への挿入に使用される空間充填材とその充填方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様は、空隙内に挿入される空隙充填材において、包装材と、前記包装材で
包装された弾性体とよりなり、前記弾性体は、非圧縮状態の大きさが前記空隙の大きさと等しいあるいはそれより大きいものであることを特徴とする。
【0007】
第2の態様は、第1の態様において、前記弾性体は、前記空隙よりも小に圧縮された状態で前記包装材が密封されていることを特徴とする。
【0008】
第3の態様は、第1の態様または第2の態様において、前記弾性体が連続気泡構造を有する軟質ポリウレタンフォームからなることを特徴とする。
【0009】
第2の態様または第3の態様に記載の空隙充填材を空隙内に挿入した後、前記包装材の密封を解除して前記弾性体を復元させることにより、前記空隙充填材で前記空隙を満たすことを特徴とする空隙充填方法に係る。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、空隙充填材は、包装材内の弾性体が空隙よりも小に圧縮された状態で空隙内に挿入されるため、空隙内に空隙充填材をスムーズに挿入することができる。また、空気充填材の弾性体は、非圧縮状態の大きさが空隙の大きさと等しいあるいはそれより大きいものであるため、空隙内に空隙充填材を挿入した後、包装材に孔を開けるなどによって包装材の密封を解除し、弾性体を復元させることにより、空隙内を空隙充填材で容易に満たすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態の空隙充填材と空隙の断面図である。
図2】本発明の一実施形態の空隙充填材の斜視図である。
図3図2の3-3断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の空隙充填材の一実施形態について示す。図1乃至図3に示す一実施形態の空隙充填材10は、空隙50内にその開口部(挿入口)51から挿入されて空隙50を満たすものである。図1の(1-1)は、空隙50への空隙充填材10の挿入前、図1の(1-2)は空隙50への空隙充填材10の挿入後、図1の(1-3)は空隙50を空隙充填材10が満たした状態を示す。
空隙50は、例えば車両の部材間や隔壁間等に存在し、空隙50の内面53は凹凸や平面等からなる。
本実施形態の空隙50は、開口部(挿入口)51の対向内面間の間隔d1が、空隙50内部の対向内面間隔の最大間隔d2及び、空隙50内の途中に形成された括れ部分の最小間隔d3よりも小に形成されている。L1は空隙50の奥行きを示す。
空隙充填材10は、包装材11と、包装材11で包装されて圧縮されている弾性体21とよりなり、弾性体21が圧縮された状態で包装材11が密封されている。
【0013】
包装材11は、低通気性の素材からなる。低通気性とは、非通気あるいは通気性が極めて低いことをいい、通気性(JIS K6400-7 B法)が3ml/cm/sec未満のものである。包装材11としては、プラスチックフィルム(シートを含む)が好適である。プラスチックフィルムとしては、熱シール可能な熱可塑性プラスチックフィルムが好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン等のフィルムを挙げることができる。
【0014】
包装材11は、包装された圧縮状態の弾性体21が包装材11内で復元しないように、包装材11内の空気が抜かれ状態で包装材11がヒートシール等で密封されている。包装材11の形態は限定されず、例えば、両端が開口したプラスチックフィルムのチューブ(筒状体)や、2枚のプラスチックフィルムの外周をヒートシール等で接合して袋体としたものなどが挙げられる。なお、プラスチックフィルムのチューブや、2枚のプラスチックフィルムを用いて空隙充填材10を製造する方法については後述する。包装材11は、チューブや袋体の場合、密封解除時に弾性体21の復元を妨げないように、弾性体21の非圧縮状態の大きさとほぼ等しいものが好ましい。
【0015】
弾性体21は、非圧縮状態の大きさが空隙50と等しいあるいはそれより大きいものであり、空隙50よりも小に圧縮された状態で包装材11により包装されている。本実施形態の弾性体21は、非圧縮状態が、空隙50内の最大間隔d2以上の厚みとされる。
弾性体21は、圧縮と復元が可能な弾性を有するものであればよく、特に材質は限定されない。弾性体21として、例えば、ポリウレタンフォーム、オレフィンフォーム、ゴムスポンジ等の発泡体、あるは繊維クッション体等を挙げることができる。特にポリウレタンフォームは、復元性、歪特性に優れ、吸音、遮音性等もコントロールし易いため、好ましい材質である。
【0016】
弾性体21をポリウレタンフォームで構成する場合、ポリウレタンフォームは、圧縮性及び復元性を良好とするため、連通気泡構造を有する軟質ポリウレタンフォームが好ましい。連通気泡構造を有する軟質ポリウレタンフォームの密度(JIS K7222)については10~100kg/mが好ましく、より好ましくは15~40kg/mである。また、連通気泡構造を有する軟質ポリウレタンフォームの25%硬さ(JIS K6400-2 6.7D法)については、20~300Nが好ましく、より好ましくは30~150Nである。連通気泡構造を有する軟質ポリウレタンフォームが硬すぎると、復元した際に空隙50の内面53を押す力が強くなり過ぎて、空隙50の内面53の材質や厚みによっては内面53が変形するおそれがある。連通気泡構造を有する軟質ポリウレタンフォームの通気性(ASTM D 3574)は、低すぎると連通気泡構造を有する軟質ポリウレタンフォームの歪が大きくなって復元性が低下し、その逆に通気性が高すぎると、吸音、遮音で不利になるため、3~300L/minが好ましく、より好ましくは15~200L/minである。
【0017】
連通気泡構造を有する軟質ポリウレタンフォームとしては、スラブ発泡された軟質スラブが好ましい。なお、スラブ発泡は、コンベア上にポリウレタンフォーム原料を供給して常温で発泡させる発泡方法である。スラブ発泡された軟質ポリウレタンフォームは、空隙に応じた厚みや形状に裁断されて弾性体21として使用される。
【0018】
空隙充填材10の製造は、包装材11で弾性体21を包装し、弾性体21を圧縮し、包装材11内の空気を抜いた状態で包装材11の開口部分をヒートシール等で密封することにより行うことができる。
例えば、包装材11がプラスチックフィルムのチューブの場合、チューブの一端の開口部から弾性体21を収納し、チューブの外側から弾性体21を加圧、圧縮してチューブ内の空気を抜き、その状態でチューブの両端の開口部をヒートシール等で密封し、弾性体21の圧縮状態を維持する。
一方、包装材11に2枚のプラスチックフィルムを用いる場合、2枚のプラスチックフィルム間に弾性体21を挟み、2枚のプラスチックフィルムの外側から弾性体を加圧、圧縮して2枚のプラスチックフィルム間の空気を抜き、その状態で、2枚のプラスチックフィルムを、弾性体21の縁から離れた外周でヒートシールして密封し、弾性体21の圧縮状態を維持する。
包装材11の密封シール位置は、弾性体21が非圧縮前の大きさに復元できるように、弾性体21の圧縮状態の外周から所定距離離れた位置とされる。
なお、包装材11から空気を抜く際に、包装材11の開口部分に吸引装置を接続して包装材11内の空気を外部に排出してもよい。
【0019】
空隙充填材10による空隙充填方法について説明する。例えば、図1に示すように、包装材11で包装された弾性体10が圧縮された状態となっている空隙充填材10を、空隙50の開口部51から空隙50内に挿入する。
その際、空隙充填材10は、包装材11で包装された弾性体21が空隙50よりも小に圧縮されているため、空隙充填材10の全体の大きさが空隙50よりも小さくなっており、かつ、開口部(挿入口)51よりも小に圧縮されているため、空隙50内への挿入時に、空隙50の開口部(挿入口)51及び空隙50の内面53との摩擦がない、あるいは摩擦が小さく、スムーズに挿入することができる。
【0020】
空隙50内に空隙充填材10を挿入した後、空隙充填材10の包装材11の密封を解除する。包装材11の密封解除は、包装材11に針などの穿孔具61で孔をあけたり、あるいは刃物等で包装材11の一部を切断したりすることにより行う。
包装材11の密封解除により、包装材11内に外部の空気が流入して弾性体21の圧縮維持が解除され、弾性体21が復元する。
【0021】
弾性体21は、圧縮前(非圧縮状態)の大きさ(例えば長さ、厚み)が、空隙50の大きさ(例えば空隙内面の奥行き、高さ)とほぼ等しい、あるいは所定量大のものであるため、包装材11の密封解除による弾性体21の復元によって、空隙50内が空隙充填材10で満たされる。
【実施例
【0022】
連続気泡構造を有する軟質ポリウレタンフォーム(スラブ発泡品)、密度25kg/m、通気性30L/min、株式会社イノアックコーポレーション製、品番:カームフレックスF-2を、厚み40mm×長さ750mm、幅50mmの直方体に裁断して弾性体を作製した。
包装材は、厚み50μmの汎用ポリエチレンフィルム製のチューブ(幅120mmで袋状になった長尺チューブシート)を用いた。
【0023】
チューブの一端からチューブ内に弾性体を挿入し、弾性体をチューブの外側から厚み10mmに加圧、圧縮し、チューブの一端に吸引装置を接続し、他端を閉じた状態で吸引装置によりチューブ内の空気を抜き、その状態でチューブの両端をヒートシールで密封し、不要部分を切除することにより、チューブ(包装材)に弾性体が厚み10mmの圧縮状態で維持された実施例の空隙充填材を作製した。
【0024】
作製した空隙充填材を、高さ(d2)40mm×奥行き(L1)750mm×幅50mm、開口部(挿入口)の高さ(d1)20mmの隙間における奥行き(L1)の中間部の一部に、高さ(d3)30mmの狭部が存在する図1に示した空隙50内に、図1の(1-1)及び(1-2)のように開口部(挿入口)から挿入し、挿入後に空隙充填材の包装材にキリ(穿孔具61)で孔を開け、包装材の密封を解除した。それによって、それまで圧縮されていた弾性体が復元し、弾性体が復元した空隙充填材によって空隙内を満たした。
【0025】
なお、包装材で包装されていない厚み40mm×長さ750mm、幅50mmの直方体に裁断した弾性体の基材のみでは、弾性体表面の摩擦抵抗により、同空隙内への挿入が極めて困難であり、無理やり挿入しても、中間部の高さ30mmの狭部以上奥に挿入することができなかった。
【0026】
このように,本発明の隙間充填材及び充填方法は、空隙内への挿入が容易であり、特に、自動車等の組付け後の複雑・極少な隙間、または空間充填の作業がし難い空間等の空隙への挿入・充填に好適である。
【符号の説明】
【0027】
10 空隙充填材
11 包装材
21 弾性体
50 空隙
51 空隙の開口部(挿入口)
53 空隙の内面
61 穿孔具
図1
図2
図3