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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-25
(45)【発行日】2025-03-05
(54)【発明の名称】構築方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20250226BHJP
   C04B 24/16 20060101ALI20250226BHJP
   B28B 1/32 20060101ALI20250226BHJP
   E04G 21/02 20060101ALI20250226BHJP
   E04G 13/02 20060101ALI20250226BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B24/16
B28B1/32 B
B28B1/32 A
B28B1/32 C
E04G21/02 103B
E04G13/02 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020148508
(22)【出願日】2020-09-03
(65)【公開番号】P2022042864
(43)【公開日】2022-03-15
【審査請求日】2023-02-02
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100182006
【弁理士】
【氏名又は名称】湯本 譲司
(72)【発明者】
【氏名】小林 聖
(72)【発明者】
【氏名】中村 真人
(72)【発明者】
【氏名】曽我部 直樹
(72)【発明者】
【氏名】松田 有加
(72)【発明者】
【氏名】デヴィン グナワン
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-207639(JP,A)
【文献】特開2020-094401(JP,A)
【文献】特開平08-184099(JP,A)
【文献】特開2012-006813(JP,A)
【文献】特開2008-239384(JP,A)
【文献】特開平06-191967(JP,A)
【文献】東海国立大学機構 岐阜大学ほか,On-Site Shot Printerの開発,2020年04月13日
【文献】渡邉晋也ほか,吹付けコンクリートとICT建設機械を組み合わせた3Dプリンティングシステムに関する検討,令和2年度土木学会全国大会第75回年次学術講演会講演概要集(CD-ROM),Vol.75,2020年08月01日,ROMBUNNO.VI-611
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/00
B28B 1/32
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に吹き付けられるセメント系吹付材料を用いてコンクリート構造物を構築する構築方法であって、
前記セメント系吹付材料は、
セメントと、
前記セメント100重量部に対して80重量部以上且つ200重量部以下の細骨材と、
前記セメント100重量部に対して30重量部以下の水と、
前記セメント、前記細骨材及び前記水の練り上がり時における全体の体積に対する体積比が40%以下の空気と、
を有し、
平面視において枠状に形成される芯材の外周部に一定の厚さの前記セメント系吹付材料が吹き付けられ、硬化した前記セメント系吹付材料が構造物の外殻となり、
前記芯材は、鋼材と、エアチューブとを含み、前記鋼材はH鋼とL鋼を含み、
複数の前記鋼材が第1方向、及び前記第1方向に交差する第2方向のそれぞれに沿って並ぶように配置され、
前記エアチューブは、前記H鋼のウェブと前記L鋼の内面との間、及び、前記第1方向に沿って並ぶ一対の前記H鋼の前記ウェブ同士の間、のそれぞれに配置され、
前記芯材に前記セメント系吹付材料を吹き付けて前記コンクリート構造物の被り部を構築する工程を備える、
構築方法。
【請求項2】
前記被り部を構築する工程の前に、前記セメント、前記細骨材及び前記水を練り上げて前記セメント、前記細骨材及び前記水の全体の体積に対する空気の体積が40%以下となるように前記セメント系吹付材料を作製する工程を備え、
前記被り部を構築する工程では、吹き付けられた前記セメント系吹付材料の体積に対する空気の体積が7%以下となるように前記セメント系吹付材料を吹き付ける、
請求項に記載の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セメント系吹付材料、及びセメント系吹付材料を用いて構造物を構築する構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、セメント系材料としては種々のものが知られている。特開2008-239384号公報には、吹き付け用厚付けモルタルが記載されている。吹き付け用厚付けモルタルは、コンクリート構造物を補強又は補修するために用いられる。例えば、吹き付け用厚付けモルタルは、コンクリート構造物の劣化に対する補修若しくは補強工法に用いられ、具体的には、鉄道若しくは道路等の高架橋、又はトンネル等の補修補強工法に用いられる。
【0003】
吹き付け用厚付けモルタルは、アニオン系界面活性剤及び収縮低減剤が組み合わされて構成されている。これにより、増粘剤及び/又は消泡剤の配合が不要とされている。吹き付け用厚付けモルタルは、セメント100重量部に対し、細骨材100~300重量部、アニオン系界面活性剤であるスルホン酸塩0.1~10重量部、及び収縮低減剤1.0~5.0重量部を含有し、増粘剤及び消泡剤を含有しない。これにより、モルタル練り上がり直後から1時間以内は、単位容積重量が1.5g/cm以下となる。その結果、吹き付け用厚付けモルタルの長距離圧送を可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-239384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した吹き付け用厚付けモルタルは、収縮低減剤等の特殊な材料を用いる必要がある。また、セメント系吹付材料は、芯材等に吹き付けられるものであるため、吹き付けられた後に自立することが必要な場合がある。更に、セメント系吹付材料は、ノズル等から吹き付けられるものであるため、ホース又はノズル等において効率よく圧送できることが求められる。
【0006】
本開示は、吹き付けられた後の自立性を高めると共に、圧送を効率よく行うことができるセメント系吹付材料及び構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係るセメント系吹付材料は、対象物に吹き付けられるセメント系吹付材料であって、セメントと、セメント100重量部に対して80重量部以上且つ200重量部以下の細骨材と、セメント100重量部に対して30重量部以下の水と、セメント、細骨材及び水の練り上がり時における全体の体積に対する体積比が40%以下の空気と、を有し、平面視において枠状に形成される芯材の外周部に一定の厚さのセメント系吹付材料が吹き付けられ、硬化したセメント系吹付材料がコンクリート構造物の外殻となり、芯材は、鋼材と、エアチューブとを含み、鋼材はH鋼とL鋼を含み、複数の鋼材が第1方向、及び第1方向に交差する第2方向のそれぞれに沿って並ぶように配置され、エアチューブは、H鋼のウェブとL鋼の内面との間、及び、第1方向に沿って並ぶ一対のH鋼のウェブ同士の間、のそれぞれに配置される
【0008】
このセメント系吹付材料は、セメント100重量部に対して80重量部以上且つ200重量部以下の細骨材と30重量部以下の水とを含む。よって、80重量部以上の細骨材、及び30重量部以下の水を含むことにより、セメント系吹付材料の流動性を適度に維持することができると共に、吹き付けられた後に形状を維持することができる。また、200重量部以下の細骨材を含むことにより、セメント系吹付材料が硬くなりすぎないようにすることができるので、セメント系吹付材料の圧送を効率よく行うことができる。更に、このセメント系吹付材料では、練り上がり時における全体の体積に対する40%以下の体積の空気が含まれている。40%以下の体積比の空気を含むことにより、セメント系吹付材料の圧送性及び流動性を維持することができると共に、セメント系吹付材料が柔らかくなりすぎることを抑制して吹き付けられた後の自立性を高めることができる。
【0009】
前述したセメント系吹付材料は、空気の形成を促す起泡剤が混入されていてもよい。この場合、起泡剤の混入によってセメント系吹付材料の空気量を確保できるので、自立性を高めつつ、起泡剤によって空気を生成することでセメント系吹付材料の圧送性を高めることができる。
【0010】
起泡剤は、アルキルサルフェート系界面活性剤、アルキルアリルスルホン酸系界面活性剤、及びアルキルエーテル系化合物複合体のいずれかを含んでいてもよい。この場合、少量の起泡剤の添加によってセメント系吹付材料の空気量を高めることができると共に、空気量の調整を容易に行うことができる。
【0011】
本開示に係る構築方法は、前述したセメント系吹付材料を用いてコンクリート構造物を構築する構築方法であって、芯材にセメント系吹付材料を吹き付けてコンクリート構造物の被り部を構築する工程を備える。この構築方法では、前述したセメント系吹付材料を芯材に吹き付けてコンクリ-ト構造物の被り部を構築する。よって、圧送性及び自立性が高いセメント系吹付材料が芯材に吹き付けられるので、セメント系吹付材料をある程度の厚みを持つように効率的に吹き付けることができる。従って、芯材へのセメント系吹付材料の吹付、及びコンクリート構造物の構築を効率よく行うことができる。
【0012】
前述した構築方法は、被り部を構築する工程の前に、セメント、細骨材及び水を練り上げてセメント、細骨材及び水の全体の体積に対する空気の体積が40%以下となるようにセメント系吹付材料を作製する工程を備え、被り部を構築する工程では、吹き付けられた前記セメント系吹付材料の体積に対する空気の体積が7%以下となるようにセメント系吹付材料を吹き付けてもよい。この場合、体積比が40%以下の空気が混入されたセメント系吹付材料を作製することにより、セメント系吹付材料を効率よく圧送することができる。また、セメント系吹付材料の空気の体積比が7%以下となるようにセメント系吹付材料を吹き付けることにより、吹き付けられた後のセメント系吹付材料の自立性を一層高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、吹き付けられた後の自立性を高めると共に、圧送を効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1(a)は、コンクリート構造物の鋼材の例を示す斜視図である。図1(b)は、コンクリート構造物の芯材の例を示す斜視図である。
図2図2(a)は、図1(b)の芯材にセメント系吹付材料が吹き付けられて外殻が形成される状態を示す斜視図である。図2(b)は、構築された外殻から芯材が撤去される状態を示す斜視図である。
図3図3は、完成したコンクリート構造物の例を示す斜視図である。
図4図4は、セメント系吹付材料の例を模式的に示す斜視図である。
図5図5(a)は、実施形態に係るセメント系吹付材料の吹付の様子を示す側面図である。図5(b)は、比較例に係る3Dプリンタを用いた構造物の構築の様子を模式的に示す側面図である。
図6図6(a)は、芯材にセメント系吹付材料を吹き付けて被り部を構築する工程を模式的に示す断面図である。図6(b)は、構築された被り部から芯材を撤去した後に配筋を行う工程を模式的に示す断面図である。図6(c)は、構築された被り部に充填材を打設する工程を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、図面を参照しながら、本開示に係るセメント系吹付材料及び構築方法の実施形態について説明する。図面の説明において、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、図面は、理解の容易のため、一部を簡略化又は誇張して描いている場合があり、寸法比率等は図面に記載のものに限定されない。
【0016】
本実施形態に係るセメント系吹付材料及び構築方法では、構造物が構築される。構造物は、一例として、コンクリート構造物である。一般的に、コンクリート構造物を構築するときには、鉄筋を組み立てた後に鉄筋を囲むように型枠を配置し、型枠の内部にコンクリートを打設し、一定期間養生した後に脱枠を行って構造物が構築される。このように、構造物の構築では、型枠の配置を含む複数の工種が混在しており、作業が煩雑であるという現状がある。また、近年は、建設技能者が不足しており、例えば型枠大工等、大工作業員の減少が生じており、今後は大工作業員の人員確保が困難となることが懸念される。
【0017】
本実施形態に係るセメント系吹付材料及び構築方法では、例えば、当該セメント系吹付材料の吹付によって構造物の外殻構造を構築する。よって、型枠の配置を不要とすることができ、作業を効率よく行うことができる。その結果、大工作業員等の作業者が不足する状況下であっても、構造物の構築作業を効率よく行うことができる。
【0018】
最初に構造物の構築の例について説明する。本実施形態では、コンクリート構造物を構築する。まず、図1(a)及び図1(b)に示されるように、芯材1を設置する。芯材1は、セメント系吹付材料M(図2参照)が吹き付けられる対象物の例に相当する。芯材1は、例えば、鋼材2と、エアチューブ3とを含む。一例として、鋼材2は、H鋼2bとL鋼2cを含む。しかしながら、鋼材の種類は特に限定されない。また、芯材は、エアチューブ3に代えて、エキスパンドメタルを含んでいてもよく、芯材の種類も特に限定されない。
【0019】
まず、長手方向が鉛直方向D1に沿うように立てた複数の鋼材2を第1方向D2及び第2方向D3のそれぞれに沿って並ぶように配置する。このとき、平面視において複数の鋼材2が枠状となるように複数の鋼材2を配置する。第1方向D2は平面視における複数の鋼材2の長手方向を示しており、第2方向D3は平面視における複数の鋼材2の短手方向を示している。
【0020】
平面視において、複数の鋼材2は矩形枠状を成すように配置されてもよい。この場合、4本のL鋼2cが平面視における鋼材2の隅部を構成し、複数のH鋼2bが平面視における鋼材2の辺部を構成する。例えば、各H鋼2bはフランジ部が平面視における鋼材2の外側を向くように配置され、各L鋼2cはL字の外側の面が平面視における鋼材2の外側を向くように配置される。
【0021】
例えば、第1方向D2に沿って並ぶ複数本(3本)のH鋼2bからなる2つの組C1を第2方向D3に沿って並べた後に、各組C1の一端及び他端のそれぞれにL鋼2cを配置する。そして、第2方向D3に沿って並ぶ一対のL鋼2cの間にH鋼2bを配置する。一例として以上のように鋼材2を配置するが、鋼材2の種類、本数及び配置態様は上記の例に限られず適宜変更可能である。
【0022】
鋼材2を配置した後にはエアチューブ3を配置する。エアチューブ3は、例えば、柱状を呈する。長手方向に直交する方向に切断したエアチューブ3の断面は、例えば、角丸長方形状とされている。エアチューブ3は一対の鋼材2の間に配置される。具体例として、エアチューブ3は、H鋼2bのウェブとL鋼2cの内面との間、及び、第1方向D2に沿って並ぶ一対のH鋼2bのウェブ同士の間、のそれぞれに配置される。
【0023】
例えば、エアチューブ3は、長手方向に直交する平面で切断した断面の断面積が大きい第1エアチューブ3bと、当該断面の断面積が小さい第2エアチューブ3cとを含んでいてもよい。一例として、第1エアチューブ3bは当該断面の長辺が第1方向D2に沿って延びるように配置され、第2エアチューブ3cは当該断面の長辺が第2方向D3に沿って延びるように配置される。
【0024】
例えば、第1方向D2に沿って並ぶ複数本(一例として4本)の第1エアチューブ3bからなる2つの組C2を第2方向D3に沿って並べた後に、一対の組C2の間のそれぞれに複数本(一例として2本)の第2エアチューブ3cを配置する。一例として以上のようにエアチューブ3を配置するが、エアチューブ3の形状、大きさ、数及び配置態様は上記の例に限られず適宜変更可能である。
【0025】
芯材1(鋼材2及びエアチューブ3)を配置した後には、図2(a)及び図2(b)に示されるように、平面視における芯材1の外周部1bに一定の厚さTのセメント系吹付材料Mを吹き付けて構造物Sの外殻S1を形成する。本実施形態に係るセメント系吹付材料Mは、時間の経過と共に硬化する材料である。
【0026】
本実施形態では、硬化したセメント系吹付材料Mが外殻S1となるので型枠を不要とすることが可能である。また、セメント系吹付材料Mの吹付によって構造物Sの外殻S1を形成できるので、セメント系吹付材料Mの吹付を自動化すれば構造物Sの型枠に相当する外殻S1の構築を機械的に行うことが可能となる。更に、セメント系吹付材料Mによって外殻S1が構成されることにより、脱型作業を不要とすることができ、外殻S1の構造の耐久性が向上する。また、芯材1がH鋼2bを含む場合には、H鋼2bによって構造物Sの構造としての性能が向上する。
【0027】
セメント系吹付材料Mの吹付は、例えば、鋼材2の外周面2d、及びエアチューブ3の外周面3dに対して行われる。鋼材2の外周面2dは、例えば、H鋼2bのフランジの外面、及びL鋼2cの外側の面を含む。エアチューブ3の外周面3dは、一対の鋼材2(H鋼2b又はL鋼2c)の間から露出するエアチューブ3の外面である。
【0028】
セメント系吹付材料Mの吹付を行ってセメント系吹付材料Mが硬化した後には、エアチューブ3を取り出してエアチューブ3を撤去する。その後、図2(b)及び図3に示されるように、外殻S1の内部の中空部分S2に鉄筋かごを配置してコンクリートS3を打設した後に、コンクリート構造物である構造物Sの構築が完了する。
【0029】
図4に示されるように、本実施形態に係るセメント系吹付材料Mは、固練りの材料によって構成されている。ところで、セメント系吹付材料の吹付によって外殻等を構築する場合には、ダレが生じないように芯材へのセメント系吹付材料の付着を行う必要がある。ダレを生じないようにするためには、セメント系吹付材料に急結剤又は硬化促進剤を添加することが考えられる。しかしながら、急結剤又は硬化促進剤を添加する場合には、セメント系吹付材料の表面が直ちに硬化してしまうため、鏝仕上げが困難となりうる。従って、表面仕上げを適切に行えなくなる可能性があるという問題がある。
【0030】
そこで、本実施形態では、固練りのセメント系吹付材料Mを吹き付けることによって、ダレることなくセメント系吹付材料Mを鉛直面に付着させることが可能である。このセメント系吹付材料Mの鉛直面に対する付着は、急結剤又は硬化促進剤を添加しなくても、ダレないようにすることが可能である。そして、セメント系吹付材料Mの吹付後には、セメント系吹付材料Mの表面に対し、鏝仕上げをすることができる。
【0031】
例えば、セメント系吹付材料Mは、セメントと、細骨材と、水と、空気とを含む。セメント系吹付材料Mは、セメント100重量部に対して、80重量部以上且つ200重量部以下の細骨材と、30重量部以下の水と、を含む。この場合、セメント系吹付材料Mを固練りの材料とすることが可能となる。
【0032】
セメント系吹付材料Mにおける細骨材の量の下限は、セメント100重量部に対して、90重量部以上、100重量部以上、又は120重量部以上であってもよい。また、セメント系吹付材料Mにおける細骨材の量の上限は、セメント100重量部に対して、180重量部以下、160重量部以下、又は150重量部以下であってもよい。
【0033】
セメント系吹付材料Mにおける水の量の上限は、セメント100重量部に対して、25%以下、又は20%以下であってもよい。また、セメント系吹付材料Mにおける水の量の下限は、セメント100重量部に対して、10%以上、12%以上、13%以上、14%以上、又は15%以上であってもよい。
【0034】
セメント系吹付材料Mに対して、JIS R 5201:2015(セメントの物理試験方法)の「12 フロー試験 12.2フロー値の特性」に記載されているテーブルフロー試験を行った結果、0打フローで100+10mmであった。試験で用いる容器が100mmの大きさであることから、セメント系吹付材料Mの形状は殆ど変化しないことが分かった。
【0035】
なお、上記のテーブルフロー試験では、フローテーブルの上に配置したフローコーンにセメント系吹付材料Mを2層に詰めて突き棒でセメント系吹付材料Mを15回突き、セメント系吹付材料Mの表面を均した後にフローコーンを鉛直方向に取り外す。そして、15回の落下運動をセメント系吹付材料Mに与えてセメント系吹付材料Mが広がった後の最大の径と、その直角方向の径とを測定し、これらの平均値がテーブルフロー値となる。
【0036】
セメント系吹付材料Mは、例えば、セメント、細骨材及び水の練り上がり時における全体の体積に対する体積比が40%以下の空気を含む。これにより、固練りのセメント系吹付材料Mの粘性を低下してセメント系吹付材料Mのポンプによる圧送を可能としている。なお、当該空気の体積比の上限は、35%以下又は30%以下であってもよい。また、当該空気の体積比の下限は10%以上、15%以上又は20%以上であってもよい。
【0037】
例えば、セメント系吹付材料Mが練り上がり時における全体の体積に対する体積比が20%以上且つ40%以下である空気を含む場合、セメント系吹付材料Mの性状がホイップクリームのようになり、セメント系吹付材料Mの粘性が低下してセメント系吹付材料Mの圧送性が向上する。このように、40%以下の体積比の空気を含むセメント系吹付材料Mを吹き付けた場合であっても、吹付後には発泡してセメント系吹付材料Mの空気量が7%以下(6.5%以下、又は6%以下であってもよい)となる。よって、吹付後のセメント系吹付材料Mの空気量を一般的なコンクリートの空気量と同程度にすることが可能となる。
【0038】
セメント系吹付材料Mには、例えば、起泡剤が混入されている。セメント系吹付材料Mに起泡剤が混入されていることにより、セメント系吹付材料Mの練り上がり時における空気量が高められている。セメント系吹付材料Mに混入される起泡剤は、合成界面活性剤、樹脂石鹸系起泡剤、及び蛋白質系起泡剤のいずれかであってもよい。
【0039】
合成界面活性剤の起泡剤としては、例えば、軽量盛土に用いられているアルキルサルフェート系界面活性剤が挙げられる。この場合、起泡剤を少量混入させるだけでセメント系吹付材料Mの空気量を一層多くすることが可能となる。
【0040】
しかしながら、セメント系吹付材料Mに混入される起泡剤は、アルキルサルフェート系界面活性剤に限られない。起泡剤は、例えば、脂肪酸石鹸型、アシル化ザルコシン塩、不均化ロジン酸石鹸、脂肪油硫酸エステル塩、アルキルエーテルサルフェート塩、アマイドエーテルサルフェート、アルキルアリルスルホン酸塩、アルキルエーテルスルホン酸塩、ナフタリンスルホン酸塩、スルホコハク酸ジエステル塩、スルホコハク酸エステル塩、アシル化メチルタウリン塩、アシル化タウリン塩、アルキルリン酸エステル、アルキルエーテルリン酸エステル、第4級アンモニウム塩、アルキルアミドアミン、両性界面活性剤、アルキルベタイン型、スルホベタイン型、アルキルアミドベタイン型、イミダゾリン型、アミンオキサイド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコールアルキルエステル、ポリオキシアルキレングリコールロジン酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルホウ酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステルホウ酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、脂肪酸モノエタノールアミド、脂肪酸ジエタノールアミド、ケラチン蛋白、カゼイン、又はアルブミンであってもよい。この場合もセメント系吹付材料Mの空気量を効果的に増加させることができる。
【0041】
起泡剤のセメント系吹付け材料への混入方法としては、例えば、練混ぜ時に水の一部として液体状の起泡剤を混入し、ミキサで練り混ぜることで空気を含ませる方法があげられる。また、事前に起泡剤を専用のミキサで泡立てておき、別に練混ぜたセメント系吹付け材料と混合することで、空気を含ませる方法があげられる。更に、粉体状の起泡剤を練混ぜ時にセメント及び細骨材と同時に投入し、ミキサで練り混ぜることで空気を含ませる方法があげられる。
【0042】
ところで、前述した外殻S1のようなセメント系吹付材料Mによる構造物Aを構築する場合には、図5(b)に示されるように、3Dプリンティングによって行う方法も考えられる。3Dプリンティングの場合、自由に軌跡を描くことができるため、曲面等を有する複雑な形状でも容易に構造物Aを形成することが可能となる。
【0043】
しかしながら、3Dプリンティングでは、セメント系吹付材料Mを層状に積み重ねて構造物Aを構築するため、層間部分における付着強度が層間部分以外よりも低くなる。よって、層間部分が構造物Aの構造的な弱部となる懸念があり、更に層間部分が水又は塩分等の劣化因子の侵入経路となりうるため構造物Aの耐久性の点において改善の余地がある。
【0044】
そこで、本実施形態に係る構築方法では、セメント系吹付材料Mの吹付によって構造物Aを構築する。セメント系吹付材料Mの吹付によって構造物Aを構築する場合、前述した層間部分が存在しないので、構造物Aの耐久性を向上させることができる。以下では、本実施形態に係る構築方法の例について図5(a)、図6(a)、図6(b)及び図6(c)を参照しながら説明する。
【0045】
まず、芯材を構築する(芯材を構築する工程)。例えば、平面視において枠状に形成される芯材11を構築する。芯材11は、一例として、前述したエアチューブ3であってもよいし、エキスパンドメタルであってもよく、芯材11の種類は適宜変更可能である。例えば、芯材11がエアチューブ3である場合には後述するコンクリートの被り部B1の構築後に除去されるが、芯材11がエキスパンドメタルである場合には被り部B1の構築後に埋め殺しされる。
【0046】
一方、セメント、細骨材及び水を練り混ぜてセメント系吹付材料Mを作製する(セメント系吹付材料を作製する工程)。このとき、セメントと、セメント100重量部に対して80重量部以上且つ200重量部以下の細骨材と、セメント100重量部に対して30重量部以下の水と、を練り混ぜる。
【0047】
そして、セメント系吹付材料Mの空気量を、例えば、セメント、細骨材及び水の練り上げ時における全体の体積に対する体積比が40%となるまで高める。このとき、例えば起泡剤をセメント系吹付材料Mに混入させて、セメント系吹付材料Mの空気量を増加させてもよい(起泡剤を混入する工程、空気量を増加させる工程)。
【0048】
次に、例えばホースH1及びノズルH2を備える材料吹付装置から芯材11の外面11bにセメント系吹付材料Mを吹き付ける(セメント系吹付材料を吹き付ける工程)。前述したように、セメント系吹付材料Mは固練り材料であるため厚付けすることが可能であり、例えば、厚さFが10cm以上となるようにセメント系吹付材料Mが芯材11の外面11bに吹き付けられる。
【0049】
セメント系吹付材料Mの吹付を連続的に行うことによって構造物Bの被り部B1を構築する(被り部を構築する工程)。そして、セメント系吹付材料Mの表面を鏝均しする(セメント系吹付材料を鏝仕上げする工程)。その後、セメント系吹付材料Mを硬化させて、コンクリートの被り部B1を完成する(セメント系吹付材料を硬化させる工程)。
【0050】
このとき、セメント系吹付材料Mの吹付によってセメント系吹付材料Mに含まれていた空気を拡散させ、吹付後のセメント系吹付材料Mの空気量の体積比をセメント系吹付材料Mの全体の体積比の7%以下にする(空気量を低減させる工程)。そして、芯材11がエアチューブ3である場合には芯材11を除去し、図6(b)に示されるように、鉄筋かごGを配置する(鉄筋を配置する工程)。
【0051】
このとき、例えば、鉛直方向に延びる複数の主筋G1と、複数の主筋G1を囲むように設けられる複数の帯筋G2とを含む鉄筋かごGが被り部B1の内側に配置される。その後、図6(c)に示されるように、コンクリートJを被り部B1の内側に打設してコンクリートJを硬化させた後に、コンクリート構造物である構造物Bが完成する。
【0052】
次に、本実施形態に係るセメント系吹付材料M及び構築方法から得られる作用効果について詳細に説明する。セメント系吹付材料Mは、セメント100重量部に対して80重量部以上且つ200重量部以下の細骨材と30重量部以下の水とを含む。よって、80重量部以上の細骨材、及び30重量部以下の水を含むことにより、セメント系吹付材料Mの流動性を適度に維持することができる。
【0053】
また、200重量部以下の細骨材を含むことにより、セメント系吹付材料Mが硬くなりすぎないようにすることができるので、セメント系吹付材料Mの圧送を効率よく行うことができる。更に、セメント系吹付材料Mでは、練り上がり時における全体の体積に対する40%以下の体積の空気が含まれている。40%以下の体積比の空気を含むことにより、セメント系吹付材料Mの圧送性及び流動性を維持することができると共に、セメント系吹付材料Mが柔らかくなりすぎることを抑制して吹き付けられた後の自立性を高めることができる。
【0054】
本実施形態に係るセメント系吹付材料Mは、空気の形成を促す起泡剤が混入されている。従って、起泡剤の混入によってセメント系吹付材料Mの空気量を確保できるので、自立性を高めつつ、起泡剤によってセメント系吹付材料Mの空気量を高めることができると共に、空気量の調整を容易に行うことができる。
【0055】
本実施形態に係る起泡剤は、例えば、アルキルサルフェート系界面活性剤、アルキルアリルスルホン酸系界面活性剤、及びアルキルエーテル系化合物複合体のいずれかを含んでいる。従って、少量の起泡剤の添加によってセメント系吹付材料Mの空気量を高めることができると共に、空気量の調整を容易に行うことができる。
【0056】
本実施形態に係る構築方法では、セメント系吹付材料Mを吹き付けて構造物Bの被り部B1を構築する。よって、圧送性及び自立性が高いセメント系吹付材料Mが芯材11に吹き付けられるので、セメント系吹付材料Mをある程度の厚さFを持つように効率的に吹き付けることができる。従って、芯材11へのセメント系吹付材料Mの吹付、及び構造物Bの構築を効率よく行うことができる。
【0057】
本実施形態に係る構築方法は、被り部B1を構築する工程の前に、セメント、細骨材及び水を練り上げてセメント、細骨材及び水の全体の体積に対する空気の体積が40%以下となるようにセメント系吹付材料Mを作製する工程を備え、被り部B1を構築する工程では、吹き付けられたセメント系吹付材料Mの体積に対する空気の体積が7%以下となるようにセメント系吹付材料Mを吹き付ける。よって、体積比が40%以下の空気が混入されたセメント系吹付材料Mを作製することにより、セメント系吹付材料Mを効率よく圧送することができる。また、セメント系吹付材料Mの空気の体積比が7%以下となるようにセメント系吹付材料Mを吹き付けることにより、吹き付けられた後のセメント系吹付材料Mの自立性を一層高めることができる。
【0058】
また、本実施形態では、芯材1を設置する工程と、平面視における芯材1の外周部1bにセメント系吹付材料Mを吹き付ける工程と、吹き付けたセメント系吹付材料Mを硬化させて外殻S1を構築する工程と、を備えた構造物の外殻を形成する構築方法について説明した。この構築方法によれば、型枠の配置を不要とすることができるので、構造物の構築作業を効率よく行うことができる。その結果、大工作業員等の作業者が不足する状況下であっても、構造物の構築作業を効率よく行うことができる。
【0059】
以上、本開示に係るセメント系吹付材料及び構築方法の実施形態について説明した。しかしながら、本発明は、前述した実施形態の各例に限定されない。すなわち、本発明が特許請求の範囲に記載された要旨を変更しない範囲において種々の変形及び変更が可能であることは、当業者によって容易に認識される。例えば、セメント系吹付材料の配合、並びに、構築方法の工程の内容及び順序は、前述した内容に限られず適宜変更可能である。
【0060】
例えば、前述の実施形態では、被り部B1を構築した後にセメント系吹付材料Mの表面の鏝仕上げを行う例について説明した。しかしながら、被り部を構築した後にセメント系吹付材料の鏝仕上げを行わなくてもよい。また、前述した実施形態では、セメント系吹付材料Mの吹付で構造物Sの外殻S1を構築する例について説明した。しかしながら、本発明に係るセメント系吹付材料及び構築方法は、外殻構造の構築以外にも適用可能である。また、セメント系吹付材料及び構築方法は、前述したようにコンクリート構造物の構築にも適用可能であるし、コンクリート構造物以外の構造物の構築にも適用可能である。例えば、本発明は、材料の吹付による部材の補修工事にも適用可能であり、種々の現場に適用させることが可能である。
【符号の説明】
【0061】
1,11…芯材、1b…外周部、2…鋼材、2b…H鋼、2c…L鋼、2d…外周面、3…エアチューブ、3b…第1エアチューブ、3c…第2エアチューブ、3d…外周面、11b…外面、A,B,S…構造物、B1…被り部、C1,C2…組、D1…鉛直方向、D2…第1方向、D3…第2方向、G…鉄筋かご、G1…主筋、G2…帯筋、H1…ホース、H2…ノズル、J…コンクリート、M…セメント系吹付材料、S1…外殻、S2…中空部分、S3…コンクリート。
図1
図2
図3
図4
図5
図6