(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-25
(45)【発行日】2025-03-05
(54)【発明の名称】タンク保持構造
(51)【国際特許分類】
B60K 15/07 20060101AFI20250226BHJP
F17C 13/08 20060101ALI20250226BHJP
【FI】
B60K15/07
F17C13/08 301A
(21)【出願番号】P 2021119067
(22)【出願日】2021-07-19
【審査請求日】2024-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三好 新二
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 典彦
(72)【発明者】
【氏名】今井 貴司
(72)【発明者】
【氏名】矢橋 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】神谷 敏彦
【審査官】熊谷 健治
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-087875(JP,A)
【文献】特開2011-126443(JP,A)
【文献】特開2016-070468(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 15/07
F17C 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のタンクを保持するためのタンク保持構造であって、
前記タンクを支持する凹部を有し、前記凹部の側壁に係合孔が設けられたフレーム部材と、
前記フレーム部材と対向して配置され、前記タンクを前記フレーム部材側に押圧可能に形成されたタンクバンドと、
前記タンクへの押圧力を前記タンクバンドに付与する付勢部材と、
前記タンクと前記フレーム部材との間に配置され、前記係合孔と係合されるクッション材と、
を備え、
前記タンクと前記クッション材との間には、滑性部材が介在されていることを特徴とするタンク保持構造。
【請求項2】
前記クッション材は、ブロック状のクッション材本体と、前記クッション材本体から突出して前記係合孔と係合可能な一対の係合爪とを有し、
前記タンクの軸方向に沿う方向を前記クッション材の長さ方向、前記タンクの周方向に沿う方向を前記クッション材の幅方向、前記タンクの径方向に沿う方向を前記クッション材の厚さ方向とした場合において、
前記クッション材本体のうち前記係合爪同士の間の部分の厚さをh、前記クッション材本体のうち前記係合爪同士の間の部分の幅をb、前記クッション材のうち前記係合爪同士の間の部分の長さをl、前記クッション材の縦弾性係数をE、前記タンクと前記
滑性部材との間の摩擦係数をμ、円周率をπ、前記タンクの満タン時に前記タンクから
前記滑性部材を介して前記クッション材に作用する最大圧縮力をN
maxとし、
前記滑性部材が介在された前記タンクと前記クッション材との間に生じる最大摩擦力F
fmaxがF
fmax=μN
maxにより求められたとき、
前記滑性部材は、F
fmax<(h
3bEπ
2/6l
2)の関係を満たすように設定されている請求項1に記載のタンク保持構造。
【請求項3】
前記滑性部材は、ポリ四フッ化エチレン又はポリエチレンテレフタラートによって形成されるシートである請求項1又は2に記載のタンク保持構造。
【請求項4】
前記滑性部材は、前記クッション材の表面に形成され、低摩擦係数の樹脂粒子又は低摩擦係数の繊維を含むゴム層である請求項1又は2に記載のタンク保持構造。
【請求項5】
前記滑性部材は、前記クッション材の表面に高密度化処理又は高硬度化処理を施すことにより形成された層である請求項1又は2に記載のタンク保持構造。
【請求項6】
前記滑性部材は、マトリクス樹脂が含浸された低摩擦係数の樹脂繊維を前記タンクの外周面に巻回することにより形成された繊維強化樹脂層である請求項1又は2に記載のタンク保持構造。
【請求項7】
前記滑性部材は、前記タンクと前記クッション材との間に配置され、前記タンクの軸方向に沿って回転可能なローラである請求項1又は2に記載のタンク保持構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンク保持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタンクを車両などに取り付ける場合、堅牢性及び静粛性の観点から保持部材とクッション材とを用いてタンクを保持することが多い。例えば特許文献1には、タンクの両端部を挟持する2枚の固定板とこれらの固定板を連結する連結部材とからなる保持部材と、保持部材とタンクの端部との間に介在されるクッション材とを備えるタンク保持構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
最近では、ガス貯留量の増加に伴うタンクの長尺化に対応し、主止弁が装着されたタンクの端部をネックマウント式で保持しつつ、フレーム部材とタンクバンドとを用いてタンクを保持する構造が採用されている。そして、主止弁の開弁時に発生する異音や振動を防止するため、フレーム部材とタンクとの間にはクッション材が配置されている。クッション材は、フレーム部材に設けられた係合孔と係合する係合爪を有し、該係合爪を係合孔と係合させることでフレーム部材と固定されている。
【0005】
しかし、ガス充填によってタンクがその軸方向に膨張し伸長するため、フレーム部材に対するクッション材の位置ずれが生じる。この位置ずれが大きくなると、クッション材が座屈してフレーム部材の係合孔から抜け出す可能性がある。
【0006】
本発明は、このような技術課題を解決するためになされたものであって、クッション材がフレーム部材の係合孔から抜け出すことを防止できるタンク保持構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るタンク保持構造は、円筒状のタンクを保持するためのタンク保持構造であって、前記タンクを支持する凹部を有し、前記凹部の側壁に係合孔が設けられたフレーム部材と、前記フレーム部材と対向して配置され、前記タンクを前記フレーム部材側に押圧可能に形成されたタンクバンドと、前記タンクへの押圧力を前記タンクバンドに付与する付勢部材と、前記タンクと前記フレーム部材との間に配置され、前記係合孔と係合されるクッション材と、を備え、前記タンクと前記クッション材との間には、滑性部材が介在されていることを特徴としている。
【0008】
本発明に係るタンク保持構造では、タンクとクッション材との間には滑性部材が介在されているので、該滑性部材を用いてタンクとクッション材との間に生じる摩擦力を低減することができる。その結果、クッション材がフレーム部材の係合孔から抜け出すことを防止することができる。
【0009】
本発明に係るタンク保持構造において、前記クッション材は、ブロック状のクッション材本体と、前記クッション材本体から突出して前記係合孔と係合可能な一対の係合爪とを有し、前記タンクの軸方向に沿う方向を前記クッション材の長さ方向、前記タンクの周方向に沿う方向を前記クッション材の幅方向、前記タンクの径方向に沿う方向を前記クッション材の厚さ方向とした場合において、前記クッション材本体のうち前記係合爪同士の間の部分の厚さをh、前記クッション材本体のうち前記係合爪同士の間の部分の幅をb、前記クッション材のうち前記係合爪同士の間の部分の長さをl、前記クッション材の縦弾性係数をE、前記タンクと前記クッション材との間の摩擦係数をμ、円周率をπ、前記タンクの満タン時に前記タンクから前記クッション材に作用する最大圧縮力をNmaxとし、前記タンクと前記クッション材との間に生じる最大摩擦力FfmaxがFfmax=μNmaxにより求められたとき、前記滑性部材は、Ffmax<(h3bEπ2/6l2)の関係を満たすように設定されていることが好ましい。このようにすれば、タンクとクッション材との間に生じる摩擦力を低減することができるので、クッション材がフレーム部材の係合孔から抜け出すことを防止することができる。
【0010】
本発明に係るタンク保持装置において、前記滑性部材は、ポリ四フッ化エチレン又はポリエチレンテレフタラートによって形成されるシートであることが好ましい。ポリ四フッ化エチレン又はポリエチレンテレフタラートは、比較的に低い摩擦係数を有する材料であるので、タンクとクッション材との間に生じる摩擦力を低減することができる。従って、クッション材がフレーム部材の係合孔から抜け出すことを防止することができる。
【0011】
また、本発明に係るタンク保持構造において、前記滑性部材は、前記クッション材の表面に形成され、低摩擦係数の樹脂粒子又は低摩擦係数の繊維を含むゴム層であることが好ましい。このようにすれば、タンクとクッション材との間に生じる摩擦力を低減することができるので、クッション材がフレーム部材の係合孔から抜け出すことを防止することができる。
【0012】
また、本発明に係るタンク保持構造において、前記滑性部材は、前記クッション材の表面に高密度化処理又は高硬度化処理を施すことにより形成された層であることが好ましい。このようにすれば、タンクとクッション材との間に生じる摩擦力を低減することができるので、クッション材がフレーム部材の係合孔から抜け出すことを防止することができる。
【0013】
また、本発明に係るタンク保持構造において、前記滑性部材は、マトリクス樹脂が含浸された低摩擦係数の樹脂繊維を前記タンクの外周面に巻回することにより形成された繊維強化樹脂層であることが好ましい。このようにすれば、タンクとクッション材との間に生じる摩擦力を低減することができるので、クッション材がフレーム部材の係合孔から抜け出すことを防止することができる。
【0014】
更に、本発明に係るタンク保持構造において、前記滑性部材は、前記タンクと前記クッション材との間に配置され、前記タンクの軸方向に沿って回転可能なローラであることが好ましい。このようにすれば、滑性部材がタンクの伸長に追従して回転することにより、タンクとクッション材との間の摩擦力を低減することができるので、クッション材がフレーム部材の係合孔から抜け出すことを防止することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、クッション材がフレーム部材の係合孔から抜け出すことを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1実施形態に係るタンク保持構造を示す正面図である。
【
図4】従来のタンク保持構造の問題点を説明するための断面図である。
【
図7】第2実施形態に係るタンク保持構造を示す部分断面図である。
【
図8】第3実施形態に係るタンク保持構造を示す部分断面図である。
【
図9】第4実施形態に係るタンク保持構造を示す部分断面図である。
【
図10】第5実施形態に係るタンク保持構造を示す正面図である。
【
図12】第6実施形態に係るタンク保持構造を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明に係るタンク保持構造の実施形態について説明する。図面の説明において同一の要素には同一符号を付し、その重複説明を省略する。また、以下の説明において、上下、左右の各方向は、図面に表示された状態に対応する便宜的な方向であって、タンク保持構造の姿勢や配置を限定するものではない。
【0018】
[第1実施形態]
図1は第1実施形態に係るタンク保持構造を示す正面図であり、
図2は
図1のA-A線に沿う断面図であり、
図3は
図2のB-B線に沿う断面図である。本実施形態のタンク保持構造1は、例えば燃料電池自動車(図示せず)に搭載されたタンク2を保持するとともに、該タンク2を燃料電池自動車の車体に固定するためのものである。
【0019】
タンク2は、例えば高圧水素を貯留する水素タンクであり、左右両端がドーム状に丸みを帯びた円筒状の容器である。このタンク2は、水素ガスを貯留するための貯留空間を有するライナー3と、該ライナー3の外周面に密着して設けられた補強層4と、ライナー3の左右両端部に取り付けられた口金5とを備えている。
【0020】
ライナー3は、例えば水素ガスに対してガスバリア性を有する樹脂材料により形成されている。ここでの樹脂材料として、例えばポリアミド、ポリエチレン、及びエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)、ポリエステル等の熱可塑性樹脂や、エポキシ等の熱硬化性樹脂が挙げられる。補強層4は、例えば熱硬化性樹脂が含浸された繊維をライナー3の外周面に複数巻回することにより形成されている。繊維は、例えばカーボン繊維、ガラス繊維やアラミド繊維などをプラスチックの中に入れて強度を向上させた複合材料で形成されている。
【0021】
口金5は、例えばアルミニウムなどの金属材料によって形成されている。
図1に示すように、ライナー3の左右両端部にそれぞれ取り付けられた口金5のうち、片方には主止弁6が装着されている。主止弁6が開弁すると、タンク2内に貯留された高圧水素が、図示しない減圧弁により減圧され、図示しない燃料電池スタックに供給される。
【0022】
このような構造を有するタンク2は、主止弁6が装着された口金5においてネックマウント式の保持構造7により保持され、主止弁6が装着されていない口金5の近傍においてタンク保持構造1により保持されている。
【0023】
タンク保持構造1は、タンク2を支持するフレーム部材10と、フレーム部材10と対向して配置されてタンク2をフレーム部材10側に押圧するタンクバンド20と、タンク2への押圧力をタンクバンド20に付与する付勢部材30と、タンク2とフレーム部材10との間に配置されるクッション材40と、を備えている。
【0024】
フレーム部材10は、例えば燃料電池車の車体の一部を構成する部材であり、金属材料によって形成されている。
図2に示すように、フレーム部材10は、例えば下方からタンク2を支持するようにタンク2の下部に配置されており、上方に開放する断面ハット状になっている。
【0025】
具体的には、フレーム部材10は、底板部11と、該底板部11の両端からそれぞれ斜め上方に延びる一対の側壁12,13と、側壁12,13の上端から底板部11と平行になるように折り曲げられた一対のフランジ部14,15とを有する。側壁12には係合孔16、側壁13には係合孔17がそれぞれ設けられている。そして、側壁12、底板部11及び側壁13は、タンク2を支持するための凹部を構成する。このような構造を有するフレーム部材10は、例えば金属板を所定の位置に孔を開けた後、断面ハット状になるようにプレス加工することにより形成されている。
【0026】
タンクバンド20は、例えば強度及び弾性変形に優れたステンレスによって帯状に形成され、タンク2の上側を押えるように、フレーム部材10の反対側に配置されている。このタンクバンド20は、フレーム部材10のフランジ部14に固定される基端部21と、基端部21から延設してタンク2の外周形状に倣って湾曲した湾曲部22と、一端部が湾曲部22と固定され他端部が付勢部材30と連結されるとともに断面L字状の付勢部材連結部23と、を有する。タンクバンド20の基端部21は、ボルト8によってフレーム部材10のフランジ部14と固定されている。付勢部材連結部23には、貫通孔24が形成されている。なお、タンクバンド20に用いる材料は、ステンレスのほかに、強度及び弾性変形に優れた他の金属材料であっても良い。
【0027】
付勢部材30は、ボルト31と、受け部材32と、コイルばね33と、ナット34とを有する。ボルト31は、タンクバンド20の付勢部材連結部23に形成された貫通孔24を挿通し、フレーム部材10のフランジ部15に形成されたネジ孔に螺合し、更にナット34に螺合する。受け部材32は、ボルト31の頭部35と付勢部材連結部23との間に配置されている。受け部材32の内径は、ボルト31の頭部35の外径よりも小さくなっている。このようにすれば、受け部材32がボルト31から抜け出すことを防止できる。なお、タンクバンド20の付勢部材連結部23に形成された貫通孔24の直径は、付勢部材連結部23がボルト31の軸方向に摺動可能な程度になっている。
【0028】
コイルばね33は、その内部にボルト31が挿通された状態で、受け部材32とタンクバンド20の付勢部材連結部23との間に配置されている。コイルばね33は、付勢部材連結部23をフレーム部材10側に付勢している。これによって、タンクバンド20は、タンク2をフレーム部材10側に押圧する押圧力が生じる。
【0029】
クッション材40は、異音防止、振動抑制及び衝撃吸収を図るための部材である。より詳細には、主止弁6の開弁時、タンク2内の高圧水素が主止弁6内の流路を一挙に流れるため、衝撃波を伴う異音と振動が発生する。この異音と振動がタンク2とフレーム部材10とを介して車体に伝達すると、大きな音を生じることがある。異音防止と振動抑制を図るためには、タンク2とフレーム部材10との間にクッション材40を配置する必要がある。また、燃料電池自動車が悪路を走行する際に、タンク2に大きな衝撃を作用する場合がある。このような衝撃からタンク2を守るため、タンク2とフレーム部材10との間にクッション材40を配置することも求められている。
【0030】
クッション材40は、ブロック状のクッション材本体41と、クッション材本体41から突出してフレーム部材10の係合孔16,17と係合可能な一対の係合爪42とを有する。クッション材40は、その係合爪42が係合孔16,17と係合することで、フレーム部材10に固定されている。クッション材40は、ゴム又はエラストマなどの耐振材料により形成されることが好ましい。本実施形態では、クッション材40はゴムによって形成されている。
【0031】
ここで、本発明に至った経緯を説明する。
【0032】
タンク内に水素ガスを充填すると、タンクはその軸方向及び径方向にそれぞれ膨張する。軸方向及び径方向のうち、軸方向上の膨張量が最も大きい。この軸方向上の膨張によって、
図4に示すように、タンク2が軸方向に沿って伸長する(
図4では、左側に伸長する)。また、燃料電池自動車の場合、その航続距離を内燃機関車と同等の800km以上確保することが求められている。水素ガスの貯留量を増やすため、例えばタンク2を長くし、いわゆる長尺化する方法がある。しかし、タンク2の長尺化に伴い、ガス充填によるタンク2の膨張量も大きく、タンク2の伸長も大きくなる。例えば長さ1.5mのタンク2に水素ガスを満タンになるまで充填すると、タンク2が約5mm伸長することになる。
【0033】
また、タンク2の伸長に伴い、タンク2とクッション材40との間に位置ずれが生じるため、タンク2とクッション材40との間には摩擦力Ffが発生する。摩擦力Ffは下記式(1)により算出される。
【0034】
Ff=μN (1)
式(1)において、μはタンク2とクッション材40との間の摩擦係数であり、Nはタンク2がクッション材40に作用する圧縮力である。タンク2がクッション材40に作用する圧縮力Nは、主に、タンクバンド20からタンク2への押圧力、タンク2の重量、充填される水素ガスの重量、及びタンク2の径方向上の膨張量に左右されている。なお、タンクからクッション材に作用する圧縮力Nは、タンク2の満タン時(すなわち、タンク2が最も伸長した時)に最も大きい(最大圧縮力Nmaxになる)。そのとき、タンク2とクッション材40との間の摩擦力Ffも最大になる(最大摩擦力Ffmaxになる)。
【0035】
また、タンク2とクッション材40との間の位置ずれに伴って、フレーム部材10とクッション材40との間にも位置ずれが発生する。そして、摩擦力F
fが大きくなると、
図4に示すように、クッション材本体41が座屈し、係合爪42がフレーム部材10に設けられた係合孔16,17から抜け出す可能性がある。
【0036】
そこで、本願発明者らは、鋭意研究を重ねった結果、タンク2とクッション材40との間に滑性部材50を介在させることで、タンク2とクッション材40との滑り性を向上し、タンク2とクッション材40との間に生じる摩擦力Ffを低減し、これをもってクッション材40がフレーム部材10の係合孔16,17から抜け出すことを防止できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0037】
従って本実施形態において、タンク2とクッション材40との間には、滑性部材50が介在されている。そして、滑性部材50は、下記の関係式を満たすように設定されている。
【0038】
すなわち、タンク2の軸方向に沿う方向をクッション材40の長さ方向、タンク2の周方向に沿う方向をクッション材40の幅方向、タンク2の径方向に沿う方向をクッション材40の厚さ方向とした場合において、
図5に示すように、クッション材本体41のうち係合爪42,42同士の間の中央部分43の厚さをh、該中央部分43の幅をb、該中央部分43の長さをl、クッション材40の縦弾性係数をE、タンク2とクッション材40との間の摩擦係数をμ、円周率をπ、タンク2の満タン時にタンク2からクッション材40に作用する最大圧縮力をN
maxとし、タンク2とクッション材40との間に生じる最大摩擦力F
fmaxがF
fmax=μN
maxにより求められたとき、滑性部材50は、下記式(2)の関係を満たすように設定されている。なお、
図5において、左側の断面図は
図2のB-B線に沿う断面図であり、右側の断面図は左側の断面図中のC-C線に沿う断面図である。
【0039】
Ffmax<(h3bEπ2/6l2) (2)
【0040】
従って、式(2)の関係を満たすように、例えばタンク2とクッション材40との間に介在された滑性部材50の材料選定又は構成調整等を介し、タンク2とクッション材40との間に生じる摩擦力Ffを低減することにより、クッション材40がフレーム部材10の係合孔16,17から抜け出すことを防止できる。
【0041】
このため、本実施形態の滑性部材50は、摩擦力Ffを低減するための低摩擦係数を有する材料により形成されている。より具体的には、滑性部材50は、比較的に低い摩擦係数を有するポリ四フッ化エチレン(PTFE)又はポリエチレンテレフタラート(PET)によって形成され、例えばクッション材40のタンク2と接触する面積と同じ大きさを有するシート状に形成されている。
【0042】
このように構成されたタンク保持構造1では、タンク2とクッション材40との間に滑性部材50が介在されているので、該滑性部材50を用いて、タンク2の伸長時にタンク2とクッション材40との間に生じる摩擦力Ffを低減することができる。その結果、クッション材本体41の座屈を抑制し、クッション材40がフレーム部材10の係合孔16,17から抜け出すことを防止することができる。
【0043】
なお、本実施形態の滑性部材50は、上述したポリ四フッ化エチレン(PTFE)又はポリエチレンテレフタラート(PET)により形成されるものに限定されず、その他の低摩擦係数を有する材料により形成されても良い。
【0044】
また、上記式(2)に基づき、タンク2とクッション材40との間の摩擦力F
fを低減できる低摩擦係数の材料を選定するとともに、中央部分43の厚さhを大きくし(
図6参照)、又は中央部分43の幅bを大きくし、或いは中央部分43の長さlを小さくすることで、クッション材40がフレーム部材10の係合孔16,17から抜け出すことを防止できる。
【0045】
[第2実施形態]
第2実施形態のタンク保持構造1は、滑性部材の構成において上述の第1実施形態と相違している。以下では、その相違点のみを説明する。
【0046】
具体的には、
図7に示すように、滑性部材51は、クッション材40の一部であって、クッション材40の表面に形成されて低摩擦係数の樹脂粒子又は低摩擦係数の繊維を含むゴム層である。低摩擦係数の樹脂粒子として、例えば高密度ポリエチレン(HDPE)樹脂粒子などが挙げられる。一方、低摩擦係数の繊維として、例えばポリエステルやポリアミド、ポリオレフィン系繊維などが挙げられる。
【0047】
このような滑性部材51を備えるタンク保持構造1によれば、上述の第1実施形態と同様に、タンク2とクッション材40との間に生じる摩擦力を低減でき、クッション材40がフレーム部材10の係合孔16,17から抜け出すことを防止できる。なお、本実施形態において、クッション材40全体を高密度ポリエチレン(HDPE)樹脂などで形成しても良い。
【0048】
[第3実施形態]
第3実施形態のタンク保持構造1は、滑性部材の構成において上述の第1実施形態と相違している。以下では、その相違点のみを説明する。
【0049】
具体的には、
図8に示すように、滑性部材52は、クッション材40の一部であって、クッション材40の表面に高密度化処理を施すことにより形成される層である。すなわち、滑性部材52は、クッション材40におけるタンク2との接触する表面であり、高密度層となっている。高密度化処理は、例えばカーボン比率とシリカなどの無機充填剤の比率とを増やすことで、クッション材40の表面の密度を高める。
【0050】
このような滑性部材52を備えるタンク保持構造1によれば、上述の第1実施形態と同様に、タンク2とクッション材40との間に生じる摩擦力を低減でき、クッション材40がフレーム部材10の係合孔16,17から抜け出すことを防止できる。
【0051】
[第4実施形態]
第4実施形態のタンク保持構造1は、滑性部材の構成において上述の第1実施形態と相違している。以下では、その相違点のみを説明する。
【0052】
具体的には、
図9に示すように、滑性部材53は、クッション材40の一部であって、クッション材40の表面に高硬度化処理を施すことにより形成される層である。すなわち、滑性部材53は、クッション材40におけるタンク2との接触する表面であり、高硬度層となっている。高硬度化処理は、例えば架橋密度を上げたり、ポリオレフィン樹脂やフェノール樹脂を添加したりすることで、クッション材40の表面の硬度を高める。
【0053】
このような滑性部材53を備えるタンク保持構造1によれば、上述の第1実施形態と同様に、タンク2とクッション材40との間に生じる摩擦力を低減でき、クッション材40がフレーム部材10の係合孔16,17から抜け出すことを防止できる。
【0054】
[第5実施形態]
第5実施形態のタンク保持構造1は、滑性部材の構成において上述の第1実施形態と相違している。以下では、その相違点のみを説明する。
【0055】
具体的には、
図10及び
図11に示すように、滑性部材54は、マトリクス樹脂が含浸された低摩擦係数の樹脂繊維をタンク2の外周面に巻回することにより形成された繊維強化樹脂層である。具体的には、例えばエポキシなどのマトリクス樹脂が含浸された高強度ポリエチレンなどの低摩擦係数の樹脂繊維を、タンク2のクッション材40と接触する部位に対応するタンク2の外周面にのみ巻回することで形成されている。
【0056】
このような滑性部材54を備えるタンク保持構造1によれば、上述の第1実施形態と同様に、タンク2とクッション材40との間に生じる摩擦力を低減でき、クッション材40がフレーム部材10の係合孔16,17から抜け出すことを防止できる。
【0057】
[第6実施形態]
第6実施形態のタンク保持構造1は、滑性部材の構成において上述の第1実施形態と相違している。以下では、その相違点のみを説明する。
【0058】
具体的には、
図12に示すように、滑性部材55は、タンク2とクッション材40との間に配置され、タンク2の軸方向に沿って回転可能なローラである。滑性部材55の材料は、例えばゴム又は樹脂などである。この場合、クッション材本体41の上面の両端部には、滑性部材55の離脱を防止するための突起部44がそれぞれ形成されている。
【0059】
このような滑性部材55を備えるタンク保持構造1によれば、滑性部材55がタンク2の伸長に追従して回転することにより、タンク2とクッション材40との間の摩擦力を低減することができるので、クッション材40がフレーム部材10の係合孔16,17から抜け出すことを防止することができる。
【0060】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【符号の説明】
【0061】
1:タンク保持構造、2:タンク、3:ライナー、4:補強層、5:口金、6:主止弁、7:ネックマウント式の保持構造、8:ボルト、10:フレーム部材、11:底板部、12,13:側壁、14,15:フランジ部、16,17:係合孔、20:タンクバンド、21:基端部、22:湾曲部、23:付勢部材連結部、24:貫通孔、30:付勢部材、31:ボルト、32:受け部材、33:コイルばね、34:ナット、35:頭部、40:クッション材、41:クッション材本体、42:係合爪、43:中央部分、44:突起部、50~55:滑性部材