(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-25
(45)【発行日】2025-03-05
(54)【発明の名称】熱硬化性ペースト
(51)【国際特許分類】
C08L 63/00 20060101AFI20250226BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20250226BHJP
C08K 5/548 20060101ALI20250226BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20250226BHJP
H01B 1/00 20060101ALI20250226BHJP
【FI】
C08L63/00 C
C08K3/08
C08K5/548
C08L63/00 B
H01B1/22 A
H01B1/00 K
H01B1/00 L
H01B1/00 H
(21)【出願番号】P 2022057098
(22)【出願日】2022-03-30
【審査請求日】2023-11-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】ノリタケ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】青山 貴征
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 夕子
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-081269(JP,A)
【文献】特開2008-106160(JP,A)
【文献】特開2014-196437(JP,A)
【文献】特開2022-106752(JP,A)
【文献】特開2013-196954(JP,A)
【文献】特開2017-084587(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
H01B 1/00- 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、(A)鱗片状Ag粒子と、(B)球状Ag粒子と、(C)熱硬化成分と、(D)シランカップリング剤と、(E)有機溶剤とを含み、
前記(A)鱗片状Ag粒子は、
レーザ回折・散乱法に基づいた体積基準の粒度分布において、粒径の小さい方から累積50%に相当するD
50粒径が4μm以上10μm以下であり、かつ、
Ag粒子の総重量を100重量部としたときの含有量が30重量部以上80重量部以下であり、
前記(B)球状Ag粒子は、
前記D
50粒径が1.5μm以上2.5μm以下であり、かつ、
BET比表面積が0.5m
2/g以下であり、
前記(C)熱硬化成分は、
25℃で固体のノボラック型エポキシ樹脂と、硬化剤と、硬化促進剤とを含み、かつ、
前記Ag粒子の総重量を100重量部としたときの含有量が10重量部以上15重量部以下であり、
前記(D)シランカップリング剤は、
ポリスルフィド基を有するシランカップリング剤であり、かつ、
前記Ag粒子の総重量を100重量部としたときの含有量が0.1重量部以上0.6重量部以下である、
ことを特徴とする、熱硬化性ペースト。
【請求項2】
前記(A)鱗片状Ag粒子は、平均アスペクト比が1.5超10以下である、請求項1に記載の熱硬化性ペースト。
【請求項3】
前記(A)鱗片状Ag粒子は、室温から600℃まで加熱したときの強熱減量(Ig-loss)が0.5wt%以下である、請求項1または2に記載の熱硬化性ペースト。
【請求項4】
前記(A)鱗片状Ag粒子は、タップ密度が4g/ml以上7g/ml以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱硬化性ペースト。
【請求項5】
前記(B)球状Ag粒子は、平均アスペクト比が1以上1.5以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の熱硬化性ペースト。
【請求項6】
前記(B)球状Ag粒子は、タップ密度が5g/ml以上7g/ml以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の熱硬化性ペースト。
【請求項7】
前記ノボラック型エポキシ樹脂は、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトール-フェノール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、ナフトール-クレゾール共縮ノボラック型エポキシ樹脂から選択される1種以上を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の熱硬化性ペースト。
【請求項8】
前記(D)シランカップリング剤は、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2
-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィドから選択される少なくとも一種を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の熱硬化性ペースト。
【請求項9】
25℃におけるCasson降伏値が120Pa以下である、請求項1~8のいずれか一項に記載の熱硬化性ペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示される技術は、熱硬化性ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の電極(太陽電池セルの端子電極など)は、例えば、導電性ペーストを基板上に印刷した後に、当該ペーストを硬化させることによって形成される。この種の導電性ペーストの一例として、熱硬化性ペーストが挙げられる。この熱硬化性ペーストは、銀粒子(Ag粒子)等の導電性粒子と、エポキシ樹脂等の熱硬化成分とを含有する。この熱硬化性ペーストは、比較的に低温(例えば400℃以下)の加熱処理で硬化し、高温の焼成処理を必要としない。このため、熱硬化性ペーストは、耐熱性が低い基板(樹脂基板など)を用いる電子部品の製造に好適に使用される。この熱硬化性ペーストの一例として、特許文献1~2が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5281529号
【文献】特許第6092754号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、熱硬化性ペーストを硬化させた電極には様々な性能が要求される。まず、電子部品の電気的性能の観点から、ペースト硬化後の電極は、電気抵抗が低いことが求められる。また、高温環境に晒されても変形・変性しないように、電極は、高温信頼性に優れていることが要求される。次に、電子部品の耐久性を考慮すると、電極は、基板に対する接着性に優れていることが求められる。ここに開示される技術は、これらの性能を改善し、高品質の電極を形成できる熱硬化性ペーストを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するため、ここに開示される技術によって、以下の構成の熱硬化性ペーストが提供される。
【0006】
ここに開示される熱硬化性ペーストは、少なくとも、(A)鱗片状Ag粒子と、(B)球状Ag粒子と、(C)熱硬化成分と、(D)シランカップリング剤と、(E)有機溶剤とを含む。この熱硬化性ペーストの(A)鱗片状Ag粒子は、レーザ回折・散乱法に基づいた体積基準の粒度分布において、粒径の小さい方から累積50%に相当するD50粒径が4μm以上10μm以下であり、かつ、Ag粒子の総重量を100重量部としたときの含有量が30重量部以上80重量部以下である。また、(B)球状Ag粒子は、D50粒径が1.5μm以上2.5μm以下であり、かつ、BET比表面積が0.5m2/g以下である。さらに、(C)熱硬化成分は、25℃で固体のノボラック型エポキシ樹脂と、硬化剤と、硬化促進剤とを含み、かつ、Ag粒子の総重量を100重量部としたときの含有量が10重量部以上15重量部以下である。そして、(D)シランカップリング剤は、ポリスルフィド基を有するシランカップリング剤であり、かつ、Ag粒子の総重量を100重量部としたときの含有量が0.1重量部以上0.6重量部以下である。
【0007】
先ず、ここに開示される熱硬化性ペーストは、鱗片状Ag粒子と球状Ag粒子の2種類のAg粒子を含んでいる。この熱硬化性ペーストを熱硬化させると、硬化後の電極の表面側に鱗片状Ag粒子が密に配置されると共に、硬化後の電極内でAg粒子同士が接触しやすくなる。そして、ここに開示される熱硬化性ペーストでは、鱗片状Ag粒子のD50粒径を4μm以上10μm以下に設定している。このような粒子径の鱗片状Ag粒子は、硬化後の電極内でAg粒子同士の接点を形成しやすいため、電極内で好適な導電パスを形成し、電気抵抗の低減に貢献できる。そして、ここに開示される熱硬化性ペーストでは、Ag粒子の総重量を100重量部としたときの鱗片状Ag粒子の含有量を30重量部以上に設定している。これによって、鱗片状Ag粒子による抵抗低減効果が適切に発揮される。
【0008】
一方、硬化後の電極の底面側では、球状Ag粒子と熱硬化成分との混合物が主成分となる。これによって、基板に対する電極の接着性を向上することができる。さらに、ここに開示される熱硬化性ペーストでは、球状Ag粒子のD50粒径を1.5μm以上に設定し、かつ、BET比表面積を0.5m2/g以下に設定している。これによって、複数の球状Ag粒子同士が凝集し、球状Ag粒子と熱硬化成分との接触面積が低下することを防止できる。この結果、電極の接着性をさらに向上することができる。また、ここに開示される熱硬化性ペーストでは、Ag粒子の総重量に対する鱗片状Ag粒子の含有量が80重量部以下に設定される。これによって、球状Ag粒子の含有量を20重量部以上とすることができるため、球状Ag粒子による接着性向上効果が適切に発揮される。
【0009】
次に、ここに開示される熱硬化性ペーストの熱硬化成分は、25℃で固体のノボラック型エポキシ樹脂を含む。かかる構成のエポキシ樹脂を含むペーストは、熱硬化後に高いガラス転移点を示すことが実験で確認されている。これによって、高温環境における電極の変形が抑制されるため、電極の高温信頼性が向上する。また、ここに開示される熱硬化性ペーストでは、Ag粒子の総重量に対する熱硬化成分の含有量(エポキシ樹脂と硬化剤と硬化促進剤の合計含有量)が10重量部以上に設定されている。これによって、熱硬化成分の不足による接着性の低下を防止できる。一方、ここに開示される熱硬化性ペーストでは、上記熱硬化成分の含有量が15重量部以下に設定されている。これによって、熱硬化成分の過剰添加による電気抵抗の増大を抑制できる。
【0010】
また、ここに開示される熱硬化性ペーストは、ポリスルフィド基を有するシランカップリング剤(スルフィド系シランカップリング剤)を使用する。一般的なシランカップリング剤は、無機粒子(Ag粒子)と熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂)の両方に結合し、硬化後の電極の接着性の改善に貢献する。しかし、本発明者の実験によると、スルフィド系シランカップリング剤は、硬化後の電極の抵抗低減という他のシランカップリング剤にはない異質な効果を有することが確認されている。ここに開示される技術を限定することを意図するものではないが、このスルフィド系シランカップリング剤による抵抗低減効果は、硬化過程におけるAg粒子同士の接触点の増大という作用によるものと予想される。そして、ここに開示される熱硬化性ペーストでは、シランカップリング剤の含有量が0.1重量部以上に設定されている。これによって、スルフィド系シランカップリング剤が有する抵抗低減効果と接着性向上効果を適切に発揮することができる。一方で、Ag粒子の含有量が相対的に低下することによる抵抗増大を抑制するという観点から、ここに開示される熱硬化性ペーストでは、シランカップリング剤の含有量が0.6重量部以下に設定されている。
【0011】
以上の通り、ここに開示される熱硬化性ペーストによると、電気抵抗と高温信頼性と接着性の各々に優れた高性能の電極を形成することができる。
【0012】
ここに開示される熱硬化性ペーストの一態様では、(A)鱗片状Ag粒子は、平均アスペクト比が1.5超10以下である。かかる構成の鱗片状Ag粒子は、硬化後の電極の表面側に配置されやすいため、電極の電気抵抗をより好適に低減できる。
【0013】
ここに開示される熱硬化性ペーストの一態様では、(A)鱗片状Ag粒子は、室温から600℃まで加熱したときの強熱減量(Ig-loss)が0.5wt%以下である。これによって、ペーストの成形性が向上するため、表面が平滑な電極を容易に形成することができる。
【0014】
ここに開示される熱硬化性ペーストの一態様では、(A)鱗片状Ag粒子は、タップ密度が4g/ml以上7g/ml以下である。これによって、ペーストの成形性が向上するため、表面が平滑な電極を容易に形成することができる。
【0015】
ここに開示される熱硬化性ペーストの一態様では、(B)球状Ag粒子は、平均アスペクト比が1以上1.5以下である。かかる構成の球状Ag粒子は、硬化後の電極の底面側に配置されやすいため、電極の接着性をより好適に低減できる。
【0016】
ここに開示される熱硬化性ペーストの一態様では、(B)球状Ag粒子は、タップ密度が5g/ml以上7g/ml以下である。これによって、硬化後の電極の接着性をさらに好適に向上できる。
【0017】
ここに開示される熱硬化性ペーストの一態様では、ノボラック型エポキシ樹脂は、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトール-フェノール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、ナフトール-クレゾール共縮ノボラック型エポキシ樹脂から選択される1種以上を含む。これによって、高温信頼性にさらに優れた電極を形成することができる。
【0018】
ここに開示される熱硬化性ペーストの一態様では、(D)シランカップリング剤は、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィドから選択される少なくとも一種を含む。これらのスルフィド系シランカップリング剤は、抵抗低減効果と接着性向上効果の各々を好適に発揮することができる。
【0019】
ここに開示される熱硬化性ペーストの一態様では、25℃におけるCasson降伏値が120Pa以下である。これによって、熱硬化性ペーストの成形性を向上させることができるため、表面が平滑な電極を容易に形成できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、ここに開示される技術の一実施形態について説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、ここに開示される技術の実施に必要な事柄(例えば、ペーストの調製手段、基板にペーストを印刷する手段等)は、本明細書により教示されている技術内容と、当該分野における当業者の一般的な技術常識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書において数値範囲を示す「A~B」との表記は、A以上B以下を意味するものとする。
【0021】
1.熱硬化性ペースト
熱硬化性ペーストは、加熱処理によって硬化し、導電性を示す膜状体(電極)を形成する。ここに開示される熱硬化性ペーストは、少なくとも、(A)鱗片状Ag粒子と、(B)球状Ag粒子と、(C)熱硬化成分と、(D)シランカップリング剤と、(E)有機溶剤とを含む。以下、熱硬化性ペーストの成分について説明する。
【0022】
(A)鱗片Ag粒子
ここに開示される熱硬化性ペーストは、少なくとも、鱗片状Ag粒子と球状Ag粒子の2種類のAg粒子を含有する。このAg粒子は、ペースト硬化後の電極における導電成分となる。なお、本明細書における「Ag粒子」は、銀(Ag)元素を主成分として含む粒子である。すなわち、Ag粒子は、ここに開示される技術を著しく阻害しない限りにおいて、銀以外の金属元素を微量に含有していてもよい。ここでの「銀以外の金属元素」は、Ag粒子の生成過程などにおいて混入し得る不可避的不純物であり、特定の金属元素に限定されない。例えば、Ag粒子の純度(銀元素の含有量)は、95%以上が好ましく、97%以上がより好ましく、99%以上が特に好ましい。Ag粒子の純度が高くなるにつれて硬化後の電極の電気抵抗が低くなる傾向がある。
【0023】
そして、鱗片状Ag粒子は、全体として厚みの薄い平板状のAg粒子である。この鱗片状Ag粒子を含む熱硬化性ペーストを加熱すると、熱硬化後の電極の表面側に鱗片状Ag粒子が密に配置される。この表面側に鱗片状Ag粒子が密に配置された電極は、表面における銀露出率が高くなるため、電極表面へのメッキ処理が容易になるという利点を有している。また、鱗片状Ag粒子を使用すると、硬化後の電極内でAg粒子同士が接触しやすくなる。これによって、電極内で導電パスが形成されやすくなるため、電気抵抗の低減に貢献することができる。なお、鱗片状Ag粒子の平均アスペクト比は、1.5超が好ましく、2以上がさらに好ましく、2.5以上がさらに好ましく、3以上が特に好ましい。このようなアスペクト比が大きな鱗片状Ag粒子は、熱硬化後の電極の表面側に特に配置されやすいため、電気抵抗をより好適に低減することができる。一方、鱗片状Ag粒子の平均アスペクト比の上限値は、10が好ましく、7.5以下がより好ましい。なお、ここでの「平均アスペクト比」は、複数個のAg粒子の厚みと長径との比率の平均値である。この平均アスペクト比は、以下の手順に従って測定できる。まず、測定対象のAg粒子の走査型電子顕微鏡写真(SEM写真)において、Ag粒子に外接する直方体を描く。次に、この直方体の長辺を厚み(最も短い辺)で除した値(長辺/厚み)をアスペクト比として算出する。そして、50個のAg粒子のアスペクト比の平均値を平均アスペクト比とする。なお、この平均アスペクト比は、従来公知の画像解析ソフト(三谷商事株式会社製のWinROOFなど)を用いて算出することができる。
【0024】
次に、ここに開示される熱硬化性ペーストでは、鱗片状Ag粒子のD50粒径が4μm以上に設定されている。D50粒径が小さな鱗片状Ag粒子は、Ag粒子同士の接点を得にくく、さらに加熱中に電極表面に浮上しにくいため、抵抗低減効果を発揮しにくい傾向がある。なお、電極の電気抵抗をより好適に低減するという観点から、鱗片状Ag粒子のD50粒径は、4.2μm以上が好ましく、4.5μm以上がより好ましく、4.7μm以上がさらに好ましく、4.9μm以上が特に好ましい。一方、過剰に大きなD50粒径を有する鱗片状Ag粒子も、電極表面に浮上しにくいため、抵抗低減効果を発揮しにくい傾向がある。このため、ここに開示される熱硬化性ペーストでは、鱗片状Ag粒子のD50粒径が10μm以下に設定されている。なお、極の電気抵抗をより好適に低減するという観点から、鱗片状Ag粒子のD50粒径は、9.7μm以下が好ましく、9.5μm以下がより好ましく、9μm以下がさらに好ましく、8.9μm以下が特に好ましい。なお、本明細書における「D50粒径」は、レーザ回折・散乱法に基づいた体積基準の粒度分布において、粒径の小さい方から累積50%に相当する粒子径である。
【0025】
また、ここに開示される熱硬化性ペーストでは、Ag粒子の総重量を100重量部としたときの鱗片状Ag粒子の含有量が30重量部以上に設定されている。これによって、鱗片状Ag粒子による抵抗低減効果を適切に発揮させることができる。なお、硬化後の電極の電気抵抗をさらに低減させるという観点から、鱗片状Ag粒子の含有量は、32重量部以上が好ましく、35重量部以上がより好ましく、37重量部以上がさらに好ましく、40重量部以上が特に好ましい。一方、ここに開示される熱硬化性ペーストでは、Ag粒子の総重量に対する鱗片状Ag粒子の含有量が80重量部以下(好ましくは79重量部以下、より好ましくは77重量部以下、さらに好ましくは76重量部以下、特に好ましくは75重量部以下)に設定される。詳しくは後述するが、これによって、球状Ag粒子が有する接着性向上効果を適切に発揮させることができる。
【0026】
また、鱗片状Ag粒子は、強熱減量(Ig-loss)が0.5wt%以下であることが好ましい。この強熱減量は、Ag粒子を室温から600℃まで加熱したときの質量の減少割合(%)であり、JIS K 0067:1992にて規定される化学製品の減量及び残分試験方法に準じて測定できる。この強熱減量は、Ag粒子の表面に付着している有機成分量を示す指標である。例えば、鱗片状Ag粒子は、粒子同士の凝集を抑制するために、粒子表面に有機分散剤が付与されていることがある。しかし、この有機分散剤は、エポキシ樹脂との相溶性を悪化させる要因になり得る。この場合、ペーストの成形性が低下するため、硬化後の電極の表面平滑性が低下するおそれがある。かかる観点から、鱗片状Ag粒子の強熱減量は、0.5wt%以下(より好ましくは0.48wt%以下、さらに好ましくは0.44wt%以下、特に好ましくは0.42wt%以下)であることが好ましい。一方、鱗片状Ag粒子の強熱減量の下限値は、特に限定されず、0.1wt%以上でもよく、0.12wt%以上でもよく、0.15wt%以上でもよく、0.17wt%以上でもよい。
【0027】
また、鱗片状Ag粒子のタップ密度は、3.6g/ml以上が好ましく、3.8g/ml以上がより好ましく、4g/ml以上がさらに好ましく、4.2g/ml以上が特に好ましい。タップ密度とは、容器に自然充填された粉体に形成された空隙をタッピング(軽い衝撃)で解消した状態における嵩密度を示す指標である。鱗片状Ag粒子のタップ密度が大きくなると、Ag粒子と熱硬化成分との濡れ性が向上してペーストの成形性が向上することが確認されている。一方、鱗片状Ag粒子のタップ密度の上限値は、特に限定されず、7g/ml以下でもよく、6g/ml以下でもよく、5.7g/ml以下でもよい。なお、本明細書における「タップ密度」は、タッピングの条件を、タップ高さ:5cm、タップ速度:100回/分、タッピング回数:1000回としたときの測定値である。このタップ密度は、JIS Z 2512:2012に規定される金属粉-タップ密度測定方法に準じて測定することができる。
【0028】
また、鱗片状Ag粒子の比表面積は、0.3m2/g以上が好ましく、0.34m2/g以上がより好ましく、0.38m2/g以上がさらに好ましく、0.4m2/g以上が特に好ましい。鱗片状Ag粒子の比表面積が大きくなるにつれて、鱗片状Ag粒子同士の接触面積が大きくなるため、熱硬化後の電極の電気抵抗が低減する傾向がある。一方、鱗片状Ag粒子の比表面積は、0.65m2/g以下が好ましく、0.6m2/g以下がより好ましく、0.55m2/g以下が特に好ましい。鱗片状Ag粒子の比表面積が小さくなると、熱硬化前のペースト中で鱗片状Ag粒子同士が凝集することを抑制できる。これによって、ペーストの成形性を向上させることができる。なお、本明細書における「BET比表面積」は、JIS Z 8830:2013(ISO9277:2010)に規定される「ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」に準じ、BET法に基づいて算出された値である。
【0029】
(B)球状Ag粒子
球状Ag粒子は、球形又は略球形のAg粒子である。上述した通り、ここに開示される熱硬化性ペーストを加熱すると、電極の表面側に鱗片状Ag粒子が浮上される。このとき、電極の底面側(基板に近接する側の領域)では、球状Ag粒子と熱硬化成分との混合物が主成分となる。これによって、エポキシ樹脂を介してAg粒子と基板とが接着されやすくなるため、電極の接着性が向上する。なお、球状Ag粒子の平均アスペクト比は、1.5以下が好ましく、1.2以下がより好ましく、1.1以下がさらに好ましい。これによって、電極の接着性をさらに向上できる。一方、球状Ag粒子の平均アスペクト比の下限値は、特に限定されず、1以上でもよい。
【0030】
次に、ここに開示される熱硬化性ペーストでは、球状Ag粒子のD50粒径が1.5μm以上に設定されている。これによって、複数の球状Ag粒子同士が凝集することを防止し、凝集粒子の形成による球状Ag粒子と熱硬化成分との接触面積の低下を防止できる。この結果、基板に対する電極の接着性をさらに向上できる。なお、電極の接着性をさらに向上させるという観点から、球状Ag粒子のD50粒径は、1.6μm以上が好ましく、1.7μm以上がより好ましく、1.8μm以上がさらに好ましく、1.9μm以上が特に好ましい。一方、球状Ag粒子のD50粒径の上限値は、特に限定されず、2.5μm以下でもよく、2.4μm以下でもよく、2.3μm以下でもよく、2.2μm以下でもよく、2.1μm以下でもよい。
【0031】
また、ここに開示される熱硬化性ペーストでは、球状Ag粒子のBET比表面積が0.5m2/g以下に設定されている。球状Ag粒子のBET比表面積が大きくなりすぎた場合も、球状Ag粒子の凝集が促進され、電極の定着性が低下するおそれがあるためである。なお、球状Ag粒子の凝集を抑制するという観点から、球状Ag粒子のBET比表面積は、0.48m2/g以下が好ましく、0.46m2/g以下がより好ましく、0.44m2/g以下が特に好ましい。なお、球状Ag粒子のBET比表面積の下限値は、特に限定されない。例えば、球状Ag粒子のBET比表面積は、0.05m2/g以上でもよく、0.1m2/g以上でもよく、0.15m2/g以上でもよく、0.2m2/g以上でもよく、0.25m2/g以上でもよく、0.3m2/g以上でもよい。
【0032】
そして、ここに開示される熱硬化性ペーストでは、上述した通り、Ag粒子の総重量に対する鱗片状Ag粒子の含有量が80重量部以下に設定されている。すなわち、ここに開示される熱硬化性ペーストでは、Ag粒子の総重量に対する球状Ag粒子の含有量が20重量部以上となる。これによって、上述した球状Ag粒子による接着性向上効果が適切に発揮される。なお、球状Ag粒子の含有量は、21重量部以上が好ましく、23重量部以上がより好ましく、24重量部以上がさらに好ましく、25重量部以上が特に好ましい。これによって、球状Ag粒子による接着性向上効果がより適切に発揮される。
【0033】
また、球状Ag粒子のタップ密度は、5g/ml以上が好ましく、5.2g/ml以上がより好ましく、5.4g/ml以上がさらに好ましく、5.6g/ml以上が特に好ましい。球状Ag粒子のタップ密度が大きくなると、電極の定着性が向上することが確認されている。一方、球状Ag粒子のタップ密度の上限値は、特に限定されず、7g/ml以下でもよく、6g/ml以下でもよく、5.6g/ml以下でもよい。
【0034】
また、球状Ag粒子の強熱減量(Ig-loss)は、0.7wt%以下が好ましく、0.68wt%以下がより好ましく、0.67wt%以下がさらに好ましく、0.66wt%以下が特に好ましい。上述した鱗片状Ag粒子と同様に、強熱減量(有機成分の付着量)が少なくなるにつれて、ペーストの成形性が向上する傾向がある。一方、球状Ag粒子の強熱減量の下限値は、特に限定されず、0.1wt%以上でもよく、0.12wt%以上でもよく、0.15wt%以上でもよく、0.17wt%以上でもよい。
【0035】
(C)熱硬化成分
本明細書における「熱硬化成分」とは、熱硬化性樹脂と硬化剤と硬化促進剤とを包括する概念である。この熱硬化成分は、熱硬化性ペーストの熱硬化に寄与し、硬化後の電極に残留する有機化合物(後述するシランカップリング剤を除く)である。以下、ここに開示される熱硬化性ペーストの熱硬化成分について説明する。
【0036】
(C-1)熱硬化性樹脂
ここに開示される熱硬化性ペーストでは、熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂を含む。エポキシ樹脂は、エポキシ基を有する樹脂である。このエポキシ樹脂を所定の温度(例えば200℃以上)で加熱することによって、エポキシ基同士が結合した架橋ネットワークが生じる。これによって、熱硬化性ペーストが熱硬化するため、基板上に電極を形成することができる。ここに開示される熱硬化性ペーストでは、ノボラック型エポキシ樹脂が用いられる。まず、ノボラック型エポキシ樹脂としては、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトール-フェノール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、ナフトール-クレゾール共縮ノボラック型エポキシ樹脂などが挙げられる。なお、熱硬化性ペーストは、これらのノボラック型エポキシ樹脂を2種以上含有していてもよい。また、エポキシ樹脂には、25℃で液体であるエポキシ樹脂(液状エポキシ樹脂)と、25℃で固体であるエポキシ樹脂(固体状エポキシ樹脂)とがある。本発明者の実験によると、上述したノボラック型エポキシ樹脂の中でも、25℃で固体であるノボラック型エポキシ樹脂は、熱硬化後の電極のガラス転移点を向上させることが確認されている。これによって、高温環境における電極の変形を抑制できるため、電極の高温信頼性を向上できる。なお、ノボラック型エポキシ樹脂の含有量は、当該ノボラック型エポキシ樹脂が有するエポキシ基の数と、後述する硬化剤と硬化促進剤の含有量に基づいて決定することができる。
【0037】
(C-2)硬化剤
硬化剤は、熱硬化性樹脂と反応する反応性基を有する有機化合物である。ここに開示される熱硬化性ペーストでは、熱硬化成分に硬化剤が含まれている。これによって、硬化不良による接着性の低下を防止することができる。なお、上述した通り、ここに開示される熱硬化性ペーストでは、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂が含まれているため、当該エポキシ樹脂のエポキシ基と反応する硬化剤が用いられる。このエポキシ基と反応する硬化剤の一例として、フェノール系硬化剤が挙げられる。かかるフェノール系硬化剤の具体例として、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールノボラック樹脂、フェノール-ビフェニルノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂が挙げられる。また、硬化剤の他の例として、尿素系硬化剤が挙げられる。かかる尿素系硬化剤の具体例として、ジメチル尿素、トリメチル尿素、エチルジメチル尿素、シクロヘキシルジメチル尿素、ジクロロフェニルジメチル尿素、クロロメチルフェニルジメチル尿素、メチルフェニルジメチル尿素、メチルフェニルジメチル尿素、ジメチルフェニルジメチル尿素などが挙げられる。なお、硬化剤は、上述した成分を2種以上含有していてもよい。
【0038】
また、硬化剤の含有量は、エポキシ樹脂のエポキシ基の数と、硬化剤の反応性基の数との関係で調節されることが好ましい。例えば、フェノール系硬化剤の場合には、分子中の水酸基が反応性基となり、エポキシ樹脂のエポキシ基と反応する。このため、フェノール系硬化剤は、エポキシ樹脂のエポキシ当量(100エポキシ基)に対して、30水酸基当量部以上(より好適には40水酸基当量部以上)添加されることが好ましい。これによって、エポキシ樹脂をより容易に熱硬化させることができる。一方、硬化反応に寄与しない硬化剤が残存するという弊害を考慮すると、エポキシ樹脂のエポキシ当量に対して、フェノール系硬化剤は、100水酸基当量部以下の割合で添加されることが好ましい。
【0039】
(C-3)硬化促進剤
硬化促進剤は、硬化剤と熱硬化性樹脂との反応を促進させる添加剤である。ここに開示される熱硬化性ペーストでは、熱硬化成分に硬化促進剤が含まれているため、硬化不良による接着性の低下を確実に防止できる。なお、硬化促進剤の具体例として、グアニジン系硬化促進剤、アミン系硬化促進剤等が挙げられる。例えば、グアニジン系硬化促進剤としては、ジシアンジアミド、1-メチルグアニジン、1-エチルグアニジン、1-シクロヘキシルグアニジン、1-フェニルグアニジン、1-(o-トリル)グアニジン、ジメチルグアニジン、ジフェニルグアニジン、トリメチルグアニジン、テトラメチルグアニジン、ペンタメチルグアニジン、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン、7-メチル-1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン、1-メチルビグアニド、1-エチルビグアニド、1-n-ブチルビグアニド、1-n-オクタデシルビグアニド、1,1-ジメチルビグアニド、1,1-ジエチルビグアニド、1-シクロヘキシルビグアニド、1-アリルビグアニド、1-フェニルビグアニド、1-(o-トリル)ビグアニド等が挙げられる。また、アミン系硬化促進剤等としては、トリエチルアミン、トリブチルアミン等のトリアルキルアミン、4-ジメチルアミノピリジン、ベンジルジメチルアミン、2,4,6,-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセン等が挙げられる。なお、硬化促進剤は、上述した成分を2種以上含有していてもよい。また、硬化促進剤の含有量は、エポキシ樹脂の総量(100重量部)に対して、0.14重量部~0.8重量部が好ましく、0.2重量部~0.5重量部がより好ましい。
【0040】
(C-4)熱硬化成分の総量
そして、ここに開示される熱硬化性ペーストは、Ag粒子の総重量(100重量部)に対して、上記(C)熱硬化成分を10重量部以上含有する。これによって、熱硬化成分の不足による接着性の低下を防止できる。なお、電極の定着性をさらに向上させるという観点から、Ag粒子に対する熱硬化成分の含有量は、10.5重量部以上が好ましく、11重量部以上がより好ましい。一方、Ag粒子に対する熱硬化成分の含有量を増加させ過ぎると、Ag粒子同士の接点が少なくなり、電極内で導電パスが形成されにくくなる。かかる観点から、ここに開示される熱硬化性ペーストでは、Ag粒子に対する熱硬化成分の含有量が15重量部以下に設定されている。また、電極の電気抵抗をさらに低減するという観点から、熱硬化成分の含有量は、14.5重量部以下が好ましく、14重量部以下が特に好ましい。
【0041】
(D)シランカップリング剤
シランカップリング剤は、Ag粒子とエポキシ樹脂の両方に結合し、電極の接着性を改善する添加剤である。具体的には、シランカップリング剤は、Ag粒子と反応結合する官能基Xと、エポキシ樹脂と反応結合する官能基Yを有する有機ケイ素化合物である。なお、Ag粒子と結合する官能基Xとしては、アルコキシ基、アセトキシ基などが挙げられる。これらの官能基Xは、加水分解によってシラノールを生成し、Ag粒子と反応結合する。一方、ここに開示される熱硬化性ペーストでは、スルフィド系シランカップリング剤が使用されている。このスルフィド系シランカップリング剤は、エポキシ樹脂と反応結合する官能基Yとしてポリスルフィド基を有している。本発明者の実験によると、このスルフィド系シランカップリング剤は、接着性の向上という一般的な効果に加えて、硬化後の電極の抵抗を低減するという異質な効果を有することが確認されている。この抵抗低減効果は、スルフィド系シランカップリング剤がAg粒子同士の接触点を増大させることによって生じると予想される。
【0042】
なお、スルフィド系シランカップリング剤としては、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィドなどが挙げられる。また、これらのスルフィド系シランカップリング剤の1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合してもよい。なお、シランカップリング剤は、ここに開示される技術の効果(特に電位抵抗の低減)を著しく含有しない限りにおいて、スルフィド系シランカップリング剤以外のシランカップリング剤を含有していてもよい。
【0043】
そして、ここに開示される熱硬化性ペーストは、Ag粒子の総重量(100重量部)に対して、スルフィド系シランカップリング剤を0.1重量部以上含有する。これによって、スルフィド系シランカップリング剤による抵抗低減効果と定着性向上効果を適切に生じさせることができる。なお、Ag粒子の総重量に対するスルフィド系シランカップリング剤の含有量は、0.11重量部以上が好ましく、0.12重量部以上がより好ましく、0.13重量部以上がさらに好ましく、0.15重量部以上が特に好ましい。これによって、電気抵抗がさらに低く、かつ、基板に対する接着性により優れた電極を形成できる。一方、スルフィド系シランカップリング剤の含有量を増加させ過ぎると、Ag粒子の含有量が相対的に低下するため、電気抵抗が却って増大するおそれがある。かかる観点から、ここに開示される熱硬化性ペーストでは、Ag粒子に対するスルフィド系シランカップリング剤の含有量が0.6重量部以下に設定されている。また、電極の電気抵抗をより低減するという観点から、スルフィド系シランカップリング剤の含有量は、0.5重量部以下が好ましく、0.45重量部以下がより好ましく、0.4重量部以下がさらに好ましく、0.38重量部以下が特に好ましい。
【0044】
(E)有機溶剤
有機溶剤は、Ag粒子を分散し、かつ、熱硬化成分とシランカップリング剤を溶解する液状媒体である。有機溶剤は、導電性ペースト(典型的には熱硬化性ペースト)に使用され得る従来公知の有機溶剤を特に制限なく使用でき、ここに開示される技術を限定する要素ではない。この有機溶剤の一例として、ターピネオール、テキサノール、ジヒドロターピネオール、ベンジルアルコール等のアルコール系溶剤;エチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール系溶剤;ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ブチルカルビトール(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)等のグリコールエーテル系溶剤;イソボルニルアセテート、エチルジグリコールアセテート、ブチルグリコールアセテート、ブチルジグリコールアセテート、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート(ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート)等のエステル系溶剤;トルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤;ミネラルスピリット等が挙げられる。なお、導電性ペーストの保存安定性などを考慮すると、有機溶剤の沸点は、200℃以上程度が好ましい。
【0045】
上述した通り、有機溶剤は、加熱処理によって除去される成分である。このため、熱硬化後の電極の性能(電気抵抗、接着性、高温信頼性など)を改善するという観点では、熱硬化性ペースト中の有機溶剤の含有割合は限定されない。なお、有機溶剤の含有割合は、ペーストを印刷(塗布)する手段などを考慮し、所望の形状の電極が形成されるように適宜調節されていることが好ましい。例えば、ペーストの総重量を100重量部としたときの有機溶剤の含有量は、2重量部~30重量部が好ましく、4重量部~20重量部がより好ましい。
【0046】
また、ここに開示される熱硬化性ペーストは、ペースト成形性の観点でCasson降伏値が制御されていることが好ましい。Casson降伏値は、B型粘度計における粘度測定において、せん断速度をゼロにした際のせん断応力である。このCasson降伏値が大きくなるにつれて、ペーストの形状が変化し始める際に必要となる応力が大きくなる。このCasson降伏値が小さいペーストは、印刷(塗布)後のレベリング性に優れているため、寸法性のよい電極を形成することができる。かかる観点から、熱硬化性ペーストのCasson降伏値は、120Pa以下が好ましく、100Pa以下がより好ましく、80Pa以下がさらに好ましい。一方、Casson降伏値の下限値は、特に限定されず、10Pa以上でもよく、20Pa以上でもよい。なお、Casson降伏値(ペースト成形性)は、Ag粒子の強熱減量、鱗片状Ag粒子のタップ密度、熱硬化成分の含有量、熱硬化成分(例えばエポキシ樹脂)の構造(種類)、有機溶剤の粘度、有機溶剤の含有量などによって調節することができる。
【0047】
以上、ここに開示される熱硬化性ペーストについて説明した。なお、ここに開示される熱硬化性ペーストは、上述した成分のみを含むものに限定されない。すなわち、熱硬化性ペーストは、ここに開示される技術の効果を著しく損なわない範囲において、導電ペースト(典型的には、熱硬化性ペースト)に用いられ得る従来公知の添加剤をさらに含有してもよい。
【0048】
2.熱硬化性ペーストの用途
次に、ここに開示される熱硬化性ペーストを用いた電子部品の製造方法について説明する。この電子部品の製造方法では、例えば、下記の工程S1~工程S4が実施される。
工程S1:基板の準備
工程S2:熱硬化性ペーストの準備
工程S3:印刷工程
工程S4:加熱工程
【0049】
(1)基板の準備
本工程では、熱硬化性ペーストの印刷対象である基板を準備する。なお、基板の種類は、特に限定されず、従来公知の電子部品用基板を特に制限なく使用できる。なお、ここに開示される熱硬化性ペーストは、低温(200℃以下)の熱処理で硬化して電極を形成する。かかる点を考慮すると、ここに開示される製造方法は、耐熱性が低い基板を使用する電子部品の製造に特に好適に適用できる。このような基板の一例として、樹脂、紙、布などからなる基板が挙げられる。
【0050】
(2)熱硬化性ペーストの準備
本工程では、上記構成の熱硬化性ペーストを準備する。なお、熱硬化性ペーストの詳細な構成については、記載が重複するため、再度の説明を省略する。なお、本工程は、所望の成分の熱硬化性ペーストを準備することができれば特に限定されない。すなわち、上述した各成分を混合して熱硬化性ペーストを調製してもよいし、別途調製された熱硬化性ペーストを購入してもよい。
【0051】
(3)印刷工程
本工程では、ここに開示される熱硬化性ペーストを基板上に印刷する。なお、本工程における具体的な印刷方法は特に限定されない。例えば、スクリーン印刷、ディップ印刷などの従来公知の印刷方法を特に制限なく採用できる。また、本工程において印刷するペースト厚みは、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、15μm以上がさらに好ましく、20μm以上が特に好ましい。このように一定以上の厚みのペーストを印刷することによって、導電性に優れた電極を形成することができる。また、ペーストの印刷厚みは、150μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、75μm以下がさらに好ましく、50μm以下が特に好ましい。これによって、後述の加熱工程において有機溶剤を揮発させてペーストから除去することが容易になるため、電極の成形不良を抑制できる。
【0052】
(4)加熱工程
本工程では、基板上に印刷された熱硬化性ペーストを加熱する。これによって、熱硬化性ペーストが熱硬化し、所望の形状の電極が基板上に形成される。なお、本工程では、有機溶剤が揮発し、かつ、エポキシ樹脂が熱硬化しない温度の第1加熱処理(乾燥処理)と、エポキシ樹脂が熱硬化する温度の第2加熱処理(熱硬化処理)を段階的に実施することが好ましい。これによって、有機溶剤を充分に揮発させた高密度の乾燥膜を形成した後に、エポキシ樹脂を熱硬化させることができる。この結果、Ag粒子同士の接触点がさらに増加するため、硬化後の電極の電気抵抗をさらに低減できる。具体的には、上記第1加熱処理(乾燥処理)における加熱温度は、80℃~180℃が好ましく、100℃~150℃がより好ましい。そして、第1加熱処理(乾燥処理)における加熱時間は、5分~60分が好ましく、10分~30分がより好ましい。一方、第2加熱処理(熱硬化処理)における加熱温度は、150℃~250℃が好ましく、180℃~230℃がより好ましい。また、第2加熱処理(熱硬化処理)における加熱時間は、15分~90分が好ましく、30分~60分がより好ましい。
【0053】
ここで、ここに開示される熱硬化性ペーストを使用すると、加熱工程において鱗片状Ag粒子がペーストの表面側に浮上する。これによって、熱硬化後の電極の表面側に鱗片状Ag粒子を密に配置して電気抵抗を低減することができる。また、ここに開示される熱硬化性ペーストでは、鱗片状Ag粒子のD50粒径が4μm以上であるため、鱗片状Ag粒子の浮上がさらに生じやすい。これによって、硬化後の電極の電気抵抗をさらに低減することができる。また、鱗片状Ag粒子の浮上が生じた結果、電極の底面側では、球状Ag粒子と熱硬化成分との混合物が主成分となる。これによって、基板に対する電極の接着性を向上することができる。また、ここに開示される熱硬化性ペーストの球状Ag粒子は、D50粒径が1.5μm以上であり、かつ、BET比表面積が0.5m2/g以下である。これによって、球状Ag粒子の凝集を抑制できるため、基板に対する電極の接着性をより適切に向上できる。そして、ここに開示される熱硬化性ペーストでは、Ag粒子の総重量に対する鱗片状Ag粒子の含有量が30重量部以上80重量部以下に設定されている。これによって、鱗片状銀粒による抵抗低減効果と、球状Ag粒子による接着性向上効果とを高いレベルで両立することができる。
【0054】
また、ここに開示される熱硬化性ペーストでは、25℃で固体のノボラック型エポキシ樹脂を熱硬化性樹脂として使用している。かかる構成のエポキシ樹脂を含む電極は、熱硬化後に高いガラス転移点を示すため、優れた高温信頼性を有する。そして、ここに開示される熱硬化性ペーストでは、Ag粒子の総重量に対する熱硬化成分の含有量が10重量部以上15重量部以下に設定されている。これによって、電気抵抗の上昇を抑制した上で、接着性を充分に改善できる。そして、ここに開示される熱硬化性ペーストには、スルフィド系シランカップリング剤が含まれている。スルフィド系シランカップリング剤は、硬化後の電極の接着性を向上させるだけでなく、電気抵抗の低減にも貢献できる。ここに開示される熱硬化性ペーストでは、Ag粒子の総重量に対するスルフィド系シランカップリング剤の含有量が0.1重量部以上0.6重量部以下に設定されている。これによって、スルフィド系シランカップリング剤による抵抗低減効果と接着性向上効果をバランス良く発揮することができる。
【0055】
以上の通り、ここに開示される熱硬化性ペーストによると、電気抵抗と高温信頼性と接着性の各性能に優れた高性能の電子部品を製造することができる。
【0056】
[試験例]
以下、ここに開示される技術に関する試験例を説明する。なお、ここに開示される技術は、以下で説明される試験例に限定されるものではない。
【0057】
<第1の試験>
1.熱硬化性ペーストの成分
本試験例では、29種類の熱硬化性ペースト(実施例1~12及び比較例1~17)を準備した。本試験で準備した熱硬化性ペーストは、いずれも、鱗片状Ag粒子と、球状Ag粒子と、熱硬化成分と、シランカップリング剤と、有機溶剤と、硬化剤と、硬化促進剤とを含有する。以下、具体的な成分を説明する。
【0058】
(1)鱗片状Ag粒子
本試験では、鱗片状Ag粒子として、以下の表1に示す7種類のAg粒子のいずれかを使用した。なお、各例で使用した鱗片状Ag粒子の種類及び含有量は、後述の表3~表5に示す。
【0059】
【0060】
(2)球状Ag粒子
本試験では、球状Ag粒子として、以下の表2に示す2種類のAg粒子のいずれかを使用した。なお、各例で使用した球状Ag粒子の種類及び含有量は、後述の表3~表5に示す。
【0061】
【0062】
(3)熱硬化成分
(3-1)エポキシ樹脂
本試験では、熱硬化性樹脂として、以下に列挙する8種類のエポキシ樹脂を用いた。なお、各例で使用したエポキシ樹脂の種類は、後述の表3~表5に示す。
[エポキシ樹脂の種類]
樹脂1:クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(25℃下で固体)
エポキシ当量:214g/eq.
樹脂2:フェノールノボラック型エポキシ樹脂(25℃下で固体)
エポキシ当量:175g/eq.
樹脂3:フェノールノボラック型エポキシ樹脂(25℃下で液体)
エポキシ当量:175g/eq.
樹脂4:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(25℃下で液体)
エポキシ当量:170g/eq.
樹脂5:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(25℃下で固体)
エポキシ当量:2100g/eq.
樹脂6:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(25℃下で固体)
エポキシ当量:2145g/eq.
樹脂7:ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(25℃下で固体)
エポキシ当量:259g/eq.
樹脂8:ナフタレン型エポキシ樹脂(25℃下で固体)
エポキシ当量:165g/eq.
【0063】
(3-2)他の熱硬化成分
また、本試験では、エポキシ樹脂以外の熱硬化成分として硬化剤と硬化促進剤を使用した。硬化剤には、ノボラック型フェノール樹脂とジクロロフェニルジメチル尿素を使用した。Ag粒子の総量を100重量部としたときのノボラック型フェノール樹脂の添加量は、3.2重量部に設定し、ジクロロフェニルジメチル尿素の添加量は、0.18重量部に設定した。そして、硬化促進剤には、ジシアンジアミドを使用した。Ag粒子の総量を100重量部としたときの硬化促進剤(ジシアンジアミド)の添加量は、0.28重量部に設定した。なお、各例における熱硬化成分の含有量(エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤の合計含有量)は、後述の表3~表5に示す。
【0064】
(4)シランカップリング剤
本試験では、シランカップリング剤として、以下に列挙する4種類のシランカップリング剤を準備した。なお、各例で使用したシランカップリング剤の種類及び含有量は、後述の表3~表5に示す。
[シランカップリング剤の種類]
SC1:ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド
SC2:ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド
SC3:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
SC4:3-アミノプロピルトリエトキシシラン
【0065】
(5)有機溶剤
本試験では、有機溶剤としてブチルカルビトールを使用した。なお、Ag粒子の総量を100重量部としたときの有機溶剤(ブチルカルビトール)の含有量は、7.8重量部に設定した。
【0066】
2.ペーストの調製手順
本試験では、まず、有機溶剤とエポキシ樹脂とノボラック型フェノール樹脂(硬化剤)とを混合した。そして、この混合物を100℃で24時間加熱した後に室温まで冷却した。これによって、エポキシ樹脂とノボラック型フェノール樹脂が有機溶剤に溶解した有機ビヒクルを得た。次に、この有機ビヒクルに、鱗片状Ag粒子と、球状Ag粒子と、シランカップリング剤と、ジクロロフェニルジメチル尿素(硬化剤)と、ジシアンジアミド(硬化促進剤)を添加し、三本ロールミルで混錬した。これによって、各例の熱硬化性ペーストを調製した。
【0067】
3.評価試験
本試験では、各例の熱硬化性ペーストを用いて基板上に電極を形成した後に、電極の電気抵抗と接着性と高温信頼性を評価した。以下、具体的に説明する。
【0068】
(1)電気抵抗の評価
本評価では、先ず、上述した29種類の熱硬化性ペーストを、それぞれ、スクリーン印刷を用いて基板表面に印刷した。なお、本試験で使用した基板は、ガラス基板(松浪硝子工業株式会社)であり、上面の面積が20mm×20mmである。また、スクリーン印刷では、厚みが50μmで20mm×20mmの開口のメタルマスク用い、メタルスキージを用い、印刷スピード30mm/秒に設定した。そして、本試験では、ペーストの印刷厚みを約25μmに設定し、平面視において正方形状の印刷膜を形成した。
【0069】
次に、ペースト印刷後の基板に対して、130℃で15分間の第1加熱処理(乾燥処理)を実施した。これによって、ペーストから有機溶剤を除去した乾燥膜を形成した。そして、180℃で60分間の第2加熱処理(樹脂硬化処理)を実施し、乾燥膜中のエポキシ樹脂を熱硬化させた。
【0070】
そして、本評価では、熱硬化後の電極の電気抵抗を評価した。具体的な評価手順は以下の通りである。先ず、電極の膜厚を面粗さ計(株式会社東京精密製のサーフコム)で測定した。次に、株式会社三菱化学アナリテック製の抵抗率計(型式:ロレスタGX MCP-T700)を用いて、4探針法で熱硬化後の電極のシート抵抗を測定した。そして、膜厚とシート抵抗を乗算することによって、各例の電極の電気抵抗(Ω・cm)を測定した。そして、本試験では、電気抵抗が1×10-4Ω・cm以下であった例を「◎」と評価し、1×10-4Ωcm超5×10-4Ω・cm未満であった例を「○」と評価し、5×10-4Ω・cm以上であった例を「×」と評価した。
【0071】
(2)接着性の評価
本評価では、熱硬化後の電極の接着性を評価した。具体的な評価手順は以下の通りである。先ず、上述した29種類の熱硬化性ペーストを、それぞれ、スクリーン印刷を用いて基板表面に印刷した。このときの印刷条件は、上記「(1)電気抵抗の評価」と同じ条件に設定した。次に、ガラス基板上に印刷(塗布)されたペーストの上に、2mm×2mmの大きさのアルミナチップを置き、130℃で15分間の第1加熱処理(乾燥処理)を実施した。そして、180℃で60分間の第2加熱処理(樹脂硬化処理)を実施することで、上面にアルミナチップが接着した硬化膜(電極)を形成した。そして、Nordson DAGE社製の4000万能型ボンドテスターにて、アルミナチップに荷重を掛けてチップが剥離した時の強度(剥離強度)を測定した。これによって、各例の電極の剥離強度(N/mm2)を測定した。そして、本試験では、剥離強度が20N/mm2以上であった例を「◎」と評価し、20N/mm2未満10N/mm2超であった例を「○」と評価し、10N/mm2以下であった例を「×」と評価した。
【0072】
(3)ガラス転移温度の評価
本評価では、ガラス転移温度の測定を行った。具体的な評価手順は以下の通りである。先ず、ギャップを150μmに設定したアプリケーターを用いて、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製の樹脂シート上にペーストを塗布した。次に、130℃で15分間の第1加熱処理(乾燥処理)を実施した後に、180℃で60分間の第2加熱処理(樹脂硬化処理)を実施することで硬化膜を得た。次に、熱処理後の硬化膜を樹脂シートから剥がして1cm×4cmの大きさに裁断した。そして、株式会社日立ハイテクサイエンス製の粘弾性測定装置(DMA7100)を用いて、硬化膜のガラス転移温度を測定した。なお、ガラス転移温度の測定では、1℃/分の昇温速度で300℃まで昇温させた。そして、ガラス転移温度が200℃以上であった例は、電子部品の電極に用いたときに長期の環境変化に対する耐久性が向上していると解されるため「◎」と評価した。また、200℃未満150℃超であった例は「○」と評価し、150℃以下であった例は「×」と評価した。
【0073】
上述した各評価の結果を以下の表3~表5に示す。
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
表3~表5に示すように、実施例1~実施例12では、電気抵抗と接着性と高温信頼性の3つの性能が優れた電子部品が作製された。一方、比較例1~17では、電気抵抗と接着性と高温信頼性の少なくとも1つが悪化するという結果が確認された。そして、各例を対比検討した結果、硬化後の電極の電気抵抗には、鱗片状Ag粒子のD50粒径、鱗片状Ag粒子の含有量、シランカップリング剤の構造、シランカップリング剤の含有量および熱硬化成分の含有量などが影響していることが確認された。また、電極の接着性には、球状Ag粒子のD50粒径、球状Ag粒子の含有量、熱硬化成分の含有量、シランカップリング剤の構造およびシランカップリング剤の含有量が影響していることが確認された。そして、電子部品の高温信頼性には、エポキシ樹脂の構造と、常温におけるエポキシ樹脂の状態とが影響していることが確認された。
【0078】
<第2の試験>
本試験では、第1の試験において、優れた電極性能を示した実施例1~実施例12に対して、ペースト成形性と、熱硬化後の銀露出率を評価した。
【0079】
(1)レオロジー特性の評価
本評価では、実施例1~実施例12のペーストに対してCassonの降伏値を測定し、測定結果に基づいてペースト成形性を評価した。なお、本試験では、Cassonの降伏値が120Pa以下であった例を「◎」と評価し、120Pa超であった例を「×」と評価した。
【0080】
(2)銀露出率の評価
本評価では、第1の試験の「(1)電気抵抗の評価」と同じ手順に従って、実施例1~実施例12のペーストを使用した硬化膜(電極)を作製した。そして、作製後の電極の表面における銀露出率を測定した。具体的な評価手順は以下の通りである。先ず、熱硬化後の電極の表面を、電界放出型走査電子顕微鏡(FE―SEM)を用いて観察(例えば倍率2,000倍)して観察画像を取得した。次に、当該観察画像における銀粒子の面積を算出した。そして、観察範囲の面積で銀粒子の面積を除することによって、各例の電極の表面における銀露出率(%)を測定した。そして、本試験では、銀露出率が70%以上であった例を「◎」と評価し、70%未満60%超であった例を「○」と評価し、60%以下であった例を「×」と評価した。
【0081】
上述した各評価の評価結果を以下の表6に示す。
【0082】
【0083】
表6に示すように、実施例1~実施例10は、上述した3つの性能以外にも、ペースト成形性に優れていることが確認された。そして、実施例1~10と実施例11、12とを比較した結果、熱硬化性ペーストの成形性(Cassonの降伏値)は、鱗片状Ag粒子のタップ密度と強熱減量(Ig-loss)に影響を受けていることが分かった。また、実施例1~実施例12は、いずれも、優れた銀露出率を有していることが確認された。このことから、電極の銀露出率は、第1の試験で測定した電気抵抗と同様に、鱗片状Ag粒子のD50粒径、鱗片状Ag粒子の含有量、シランカップリング剤の構造、シランカップリング剤の含有量および熱硬化成分の含有量が影響していると予想される。
【0084】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。