(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-25
(45)【発行日】2025-03-05
(54)【発明の名称】二元置換リン酸バナジウム電極材料
(51)【国際特許分類】
H01M 4/58 20100101AFI20250226BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20250226BHJP
H01M 4/1397 20100101ALI20250226BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20250226BHJP
C01B 25/455 20060101ALI20250226BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/62 Z
H01M4/1397
H01M10/054
C01B25/455
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023080776
(22)【出願日】2023-05-16
【審査請求日】2023-05-30
(31)【優先権主張番号】202341003812
(32)【優先日】2023-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】519421190
【氏名又は名称】ヒンドゥスタン ペトロリアム コーポレーション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ナラヤナン,クリシュナムルシー
(72)【発明者】
【氏名】カナカラジ,ラージクマール
(72)【発明者】
【氏名】ラマチャンドラオ,ボージャ
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-510631(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110556518(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式
(1
)を有する電極活物質:
A
(3+x)V
(2-x)B
x(PO
4)
(3-(y/3))C
y (1)
ここで、
Aは、Li、Na、Kから選択され、
Bは、
バナジウムを除く遷移金属、ポスト遷移金属、またはアルカリ土類金属のいずれかであり、
Cは、F、Cl、Br、Iから選択され、
Vは、バナジウムであり、
PO4は、リン酸塩であり、
xは、0.001~1.0の実数であり、
yは、0.001~1.0の実数である。
【請求項2】
Bは、Mg、Ti、Cr
、Fe
、Sr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、
およびSnから選択される、請求項1に記載の電極活物質。
【請求項3】
xは0.01~0.5である、請求項1または2に記載の電極活物質。
【請求項4】
yは0.01~0.2である、請求項1または2に記載の電極活物質。
【請求項5】
請求項1に記載の電極活物質の製造方法であって、以下のステップを含む方法。
(a)請求項1で定義するA、B、C、V、およびPO
4の各前駆体を含む溶液を得るステップと、
(b)60℃~120℃で溶液を混合してゲルを得るステップと、
(c)凍結乾燥により
-55℃~-30℃でゲルを乾燥させるステップと、および、
(d)乾燥したゲルを焼成して電極活物質を得るステップ。
【請求項6】
溶液がさらに、クエン酸、グルコース、スクロース、フルクトース、アスコルビン酸、リグニン、多糖類、加水分解デンプン、デキストリン、及び糖蜜から
なる群から選択される炭素源を含む、
請求項5に記載の方法。
【請求項7】
乾燥ゲルを焼成するステップの前に、乾燥ゲルを粉砕するステップをさらに含む、
請求項5に記載の方法。
【請求項8】
請求項1に記載の電極活物質を含む
、金属イオン電池用電極材料。
【請求項9】
さらにバインダーを含む、
請求項8に記載の電極材料。
【請求項10】
さらに、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、還元型酸化グラフェン、およびカーボンナノチューブから
なる群から選択される導電材料を含む、
請求項8に記載の電極材料。
【請求項11】
請求項8に記載の電極材料の製造方法であって、さらに以下のステップを含む方法。
(a)請求項1の電極活物質と、バインダーと、導電性カーボン、貴金属、および金属からなる群から選択される1つ以上
の物質と、を含むスラリーを得るステップであって、
スラリーの総重量を基準として、電極活物質の量は50重量%~90重量%であり、バインダーの量は1重量%~20重量%であるステップと、
(b)導電性材料上にスラリーを被覆し、次いで乾燥させて電極材料を得るステップ。
【請求項12】
請求項8に記載の電極材料と、電解質とを含む金属イオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極材料に関する。より詳細には、本発明は、二元置換リン酸バナジウム電極活物質およびこれを含む電池に関する。
【背景技術】
【0002】
典型的には、電気化学的エネルギーの変換および貯蔵に一般的に使用される二次電池では、2つの電極および電解質が一般的に使用され、電解質の組成が多かれ少なかれ変化しながら両電極で電気化学反応が進行する。セル内の電気化学反応中に、電解質溶液の成分が消費されたり、新しい成分が生成されたりすることがよくある。電解液の性質に関連する変化は、例えばイオン伝導率の低下やデバイスの内部抵抗の上昇を引き起こす可能性があるため、たいていの場合好ましくない。セルの性能を持続させるためには、一定の最小量の電解質が不可欠である。
【0003】
様々な研究で報告されている金属イオン電池の代表例としては、ナトリウムイオン電池、リチウムイオン電池、カリウムイオン電池、マグネシウムイオン電池、カルシウムイオン電池、フッ素イオン電池が挙げられる。近年、リチウムの代わりにナトリウムを用いたナトリウム系二次電池の研究が再注目されている。ナトリウム資源の埋蔵量は豊富であり、リチウムの代わりにナトリウムを用いた二次電池を製造することができれば、低コストで二次電池を製造することができる可能性がある。また、ナトリウムイオン電池では、基本的に正極材料としてニッケルやコバルトを使用するリチウムイオン電池とは異なり、高価なニッケルやコバルトを正極材料として使用しなくてもよい。しかし、ナトリウム二次電池は、既存のリチウム二次電池とは物性が異なるため、出力電力やエネルギー密度の面で低い特性を示す。効率的な運転のためには、エネルギーや電力密度の高い蓄電システムよりも、比較的低コストで大容量の蓄電システムを構築することが重要である。
【0004】
ナトリウムイオン電池において、電極材料は、他の材料と比較して、電池の性能およびコストに影響を与える重要な要素である。現在研究されている電極材料である新規なNASICONタイプのリン酸バナジウムナトリウム材料は、優れた安定性と比較的高い比容量を有する。しかしながら、化学合成によって直接合成されたリン酸バナジウムナトリウム正極材料の電気化学的特性、特に伝導率および高速長サイクル性能には限界がある。さらにこれに関連して、層状遷移金属酸化物、トンネル型酸化物材料、硫酸塩、ポリアニオン化合物、リン酸塩、ピロリン酸塩、プルシアンブルー類似体などの材料も報告されている。ポリアニオン化合物、特にP-O結合を有するリン酸塩はより強力で、充電および放電中に構造変化を受けない非常に堅牢な構造を持つことが知られている。そのため、リン酸塩電極材料自体を最適化することで、特性を向上させるだけでなく、さまざまな金属イオン電池で使用できるようにするためのさまざまな研究が行われている。
【0005】
例えば、中国特許公開第114256446号には、ポリアニオン型正極材料が開示されている。ここに開示されている電極材料は一般式:A3V2-mBm(PO4)3-nDn/Cを有する。この電極材料は、金属イオン電池の正極材料として適用されることが開示されている。
【0006】
中国特許公開第114538400号は、マルチカチオン置換リン酸塩電極材料に関するものである。ここに開示されている元素ドープされたリン酸バナジウムナトリウム電極材料は、他の金属よりもナトリウムの割合が高い。
【0007】
中国特許公開第114156470号には、ナトリウムリッチ相のリン酸バナジウム亜鉛ナトリウム複合材料が開示されている。この材料は、一般式:Na3+xV2-xZnx(PO4)3/C(NVZP)で表され、ナトリウムイオン電池の正極(positive electrode)(または正極(cathode))として使用される。特に、バナジウム源、ナトリウム源、リン源、および亜鉛源を一定のモル比で混合し、磁気攪拌下で反応させる調製方法が開示されている。この電極材料は、ナトリウムイオン電池に使用される。
【0008】
上記のような電極材料の技術状況にもかかわらず、ナトリウムイオン電池技術の開発はまだ未熟である。なぜなら、Naの固有のサイズ(1.02Å)はLi(0.72Å)よりも大きいためである。バッテリーのすべての構成要素(正極、負極、集電体、電解質、セパレータなど)は電池全体の性能に寄与するが、正極は依然として重要であり、バッテリー全体に高電圧、高容量、サイクル安定性を与えるために非常に望ましいものである。
【0009】
概括すれば、Na3V2(PO4)2F3(NVPF)、Na3V2O2(PO4)F(NVOPF)、Na3V2(PO4)3(NVP)など、電圧、エネルギー密度、電力密度が高く、かつサイクル安定性に優れた各種ポリアニオン系材料が豊富に存在する。しかし、これらの材料にはバナジウムが多量に含まれており、バナジウムの価格が高いことが実用化の大きな障害となっている。バナジウムの価格はニッケルと同程度である。そのため、製品化にはバナジウム含有量を低減することが不可欠である。さらに、それにより電極材料の電気化学的特性が損なわれないようにすることも重要である。したがって、バナジウム含有量を低減するだけでなく、改善された放電容量を有し、商業レベルにまで拡張可能でありながら、許容可能なまたは改善された充放電サイクル特性をもたらす、適切な電極材料を提供することが常に求められている。
【0010】
したがって、本発明の目的は、先行技術における課題の1つ以上を軽減するのに効果的な金属イオン電池用の電極材料を提供することである。
【発明の概要】
【0011】
驚くべきことに、本明細書に開示される電極活物質を提供することによって、上記目的が達成されることが見出された。
【0012】
本発明は、下記の一般式1の電極活物質を提供する。
A(3+x)V(2-x)Bx(PO4)(3-(y/3))Cy (1)
ここで、
Aは、Li、Na、Kから選択され、
Bは、遷移金属、ポスト遷移金属、またはアルカリ土類金属のいずれかであり、
Cは、F、Cl、Br、Iから選択され、
Vは、バナジウムであり、
PO4は、リン酸塩であり、
xは、0.001~1.0の実数であり、
yは、0.001~1.0の実数である。
【0013】
一実施形態では、Bは、Mg、Ti、Cr、Al、Fe、Bi、Sr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Sc、Tc、Pd、Mo、Sn、およびWから選択される。
【0014】
他の実施形態では、xは0.01~0.5である。さらに他の実施形態では、yは0.01~0.2である。
【0015】
さらに他の実施形態では、電極活物質は、導電性カーボン、貴金属、および金属からなる群から選択される1つ以上で被覆される。
【0016】
別の態様では、本発明は、電極活物質の製造方法に関するものである。当該方法は、以下のステップを含む。A、B、C、V、およびPO4の各々の前駆体を含む溶液を得るステップ(ここで、A、B、C、V、およびPO4は上記定義の通りである)、この溶液を60℃~120℃で混合してゲルを得るステップ、凍結乾燥によってゲルを乾燥するステップ、および乾燥ゲルを焼成して電極活物質を得るステップ。
【0017】
一実施形態において、乾燥ステップは、-55℃~-30℃で行われる。溶液はさらに、クエン酸、グルコース、スクロース、フルクトース、アスコルビン酸、リグニン、多糖類、加水分解デンプン、デキストリン、及び糖蜜から選択される炭素源(carbon source)を含む。本方法は、乾燥ゲルを焼成するステップの前に、乾燥ゲルを粉砕するステップをさらに含む。
【0018】
他の実施形態では、Aの前駆体は、水酸化リチウム、炭酸リチウム、過塩素酸リチウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、シュウ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、塩化ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、過塩素酸カリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、硝酸カリウムからなる群から選ばれる。
【0019】
さらに他の実施形態では、Bの前駆体は、Mg、Ti、Cr、Al、Fe、Bi、Sr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Sc、Tc、Pd、Mo、Sn、およびWからなる群から選ばれる1つ以上の水酸化物塩または硝酸塩もしくは硫酸塩である。
【0020】
さらに他の実施形態では、Vの前駆体は、メタバナジン酸アンモニウム、五酸化バナジウム、バナジルアセチルアセトナート、硫酸バナジル、二酸化バナジウム、および三酸化バナジウムからなる群から選択される。
【0021】
他の実施形態では、PO4の前駆体は、リン酸一アンモニウム、リン酸二アンモニウム、リン酸、リン酸一ナトリウム、リン酸アンモニウム、リン酸二ナトリウム、およびリン酸二水素アンモニウムからなる群から選択される。
【0022】
他の実施形態では、Cの前駆体は、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化アンモニウム、フッ化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、塩化マグネシウム、塩化リチウム、臭化カリウム、臭化ナトリウム、臭化アンモニウム、臭化リチウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化アンモニウム、ヨウ化リチウムからなる群から選択される。
【0023】
さらに別の態様において、本発明は、上記電極活物質を含む金属イオン電池用電極材料に関する。
【0024】
一実施形態において、電極材料は、さらにバインダーを含む。バインダーは、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム、およびフッ化ゴムからなる群から選ばれる。
【0025】
他の実施形態では、電極材料はさらに、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、還元型酸化グラフェン、およびカーボンナノチューブから選択される導電材料を含む。
【0026】
別の態様において、本発明は、電極材料の製造方法に関する。当該方法は、電極活物質と、バインダーと、導電性カーボン、貴金属、および金属からなる群から選択される1つ以上と、を含むスラリーを得るステップを含む。スラリーの総重量に基づいて、電極活物質の量は50重量%~90重量%であり、バインダーの量は1重量%~20重量%である。当該方法はさらに、導電性材料上にスラリーを被覆し、次いで乾燥して電極材料を得るステップを含む。
【0027】
さらに別の態様において、本発明は、上記電極材料を含む金属イオン電池に関する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1(a)】
図1(a)は、本発明の一実施形態にかかるNVZPF材料の走査電子顕微鏡(SEM)画像である。
【
図1(b)】
図1(b)は、最新のNVP材料の走査電子顕微鏡(SEM)画像である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態によるNVZPF材料および最新のNVP材料のX線回折(XRD)画像である。
【
図3(a)】
図3(a)は、本発明の一実施形態によるNVZPF材料の、電流密度0.1Cでの充電特性および放電特性を示す。
【
図3(b)】
図3(b)は、本発明の一実施形態によるNVZPF材料の、電流密度0.1Cでの充電特性および放電特性を示す。
【
図3(c)】
図3(c)は、本発明の一実施形態によるNVZPF材料の、電流密度0.1Cでの充電特性および放電特性を示す。
【
図4】
図4は、様々な電流密度(0.1C、0.2C、0.5C、1C、2C、3C、5C、10C、20C、30C、40C、および50C)における、本発明の一実施形態によるNVZPF材料と最新のNVP材料との充放電容量の変化を示す。
【
図5(a)】
図5(a)は、様々な電流密度(0.1C、0.2C、0.5C、1C、2C、3C、5C、10C、20C、30C、40C、および50C)における、本発明の一実施形態によるNVZPF材料、最新のNVP材料、およびNVZP材料の充放電容量の変化を示す。
【
図5(b)】
図5(b)は、様々な電流密度(0.1C、0.2C、0.5C、1C、2C、3C、5C、10C、20C、30C、40C、および50C)における、本発明の一実施形態による充放電容量の変化を示す。
【
図5(c)】
図5(c)は、様々な電流密度(0.1C、0.2C、0.5C、1C、2C、3C、5C、10C、20C、30C、40C、および50C)における、本発明の一実施形態による充放電容量の変化を示す。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態によるNVZPF材料の1Cレートでのレート性能およびサイクル性能を示す。
【
図7(a)】
図7(a)は、本発明の一実施形態による、電流密度1CでのNVZPF材料のサイクル性能を示す。
【
図7(b)】
図7(b)は、本発明の一実施形態による、電流密度5CでのNVZPF材料のサイクル性能を示す。
【
図7(c)】
図7(c)は、本発明の一実施形態による、電流密度10CでのNVZPF材料のサイクル性能を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明を説明する前に、本発明の範囲は特許請求の範囲によってのみ限定され、本明細書で使用される用語は限定を意図するものではないことを理解されたい。
【0030】
本明細書で使用される用語「含む(comprising)」、「含む(comprises)」、および「含む(comprised of)」は、「含む(including)」、「含む(includes)」、または「含む(containing)」、「含む(contains)」と同義であり、包括的またはオープンな意味で使用され、追加の部品、要素または方法ステップを除外するものではない。本明細書で使用される用語「含む(comprising)」、「含む(comprises)」、および「含む(comprised of)」は、「からなる(consisting of)」、「からなる(consists)」、および「からなる(consists of)」という用語を含むことが理解されたい。
【0031】
さらに、本明細書及び特許請求の範囲における用語「第1(first)」、「第2(second)」、「第3(third)」、または「(a)」、「(b)」、「(c)」、「(d)」等は、同様の要素を区別するために用いられるものであり、必ずしも順番または時系列を説明するために用いられるものではない。このように使用される用語は、適切な状況下で交換可能であり、本明細書に記載される本発明の実施形態は、本明細書に記載または図示される順序以外でも実施可能である。用語「第1(first)」、「第2(second)」、「第3(third)」、または「(A)」、「(B)」、「(C)」、あるいは「(a)」、「(b)」、「(c)」、「(d)」、「I」、「ii」等が方法、使用、またはアッセイのステップに関する場合、ステップ間に時間または時間の間隔の一貫性はない。すなわち、本明細書に記載されるように、本願において別段示されない限り、ステップは同時に実施されてもよく、またはかかるステップ間に秒、分、時間、日、週、月または年の間隔が存在してもよい。
【0032】
以下の文章では、本発明の異なる態様をより詳細に定義する。各態様は、反対のことが明確に示されない限り、任意の他の態様と組み合わせることができる。特に、好ましいまたは有利であると示された任意の特徴は、好ましいまたは有利であると示された任意の他の特徴または機能と組み合わせることができる。
【0033】
本明細書全体を通じて「一実施形態(one embodiment)」または「一実施形態(an embodiment)」への言及は、その実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造または特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体の様々な箇所に現れる「一実施形態において(in one embodiment)」または「一実施形態において(in an embodiment)」という語句は、必ずしもすべてが同じ実施形態を指すわけではないが、そうである場合もある。さらに、本開示から当業者には明らかなように、特定の特徴、構造、または特性は、1つまたは複数の実施形態において任意の適切な方法で組み合わせることができる。さらに、本明細書に記載されるいくつかの実施形態は、他の実施形態に含まれるいくつかの特徴を含むが、他の特徴は含まない。しかしながら、当業者によって理解されるように、異なる実施形態の特徴の組み合わせは本発明の範囲内にあり、異なる実施形態を形成することを意味する。例えば、特許請求の範囲において、請求された実施形態のいずかを任意の組み合わせで使用することができる。
【0034】
さらに、本明細書全体を通じて定義される範囲は、端値も含む。すなわち、1~10には、1と10の両方が範囲に含まれる。疑義を避けるために付記すると、出願人は、適用される法律に従って、あらゆる等価物を得る権利を有するものとする。
【0035】
本明細書で用いられる場合、用語「ナトリウム塩(sodiate)」および「ナトリウム化(sodiation)」は、電極活物質にナトリウムを添加する工程を指す場合がある。
【0036】
本明細書で用いられる場合、用語「脱ナトリウム(desodiate)」及び「脱ナトリウム(desodiation)」は、電極活物質からナトリウムを除去する工程を指す場合がある。
【0037】
本明細書で用いられる場合、用語「充電(charge)」および「充電(charging)」は、電気化学的エネルギーをセルに提供する工程を指す場合がある。
【0038】
本明細書で用いられる場合、用語「放電(discharge)」および「放電(discharging)」は、例えば、所望の作業を行うためにセルを使用する場合に、セルから電気化学的エネルギーを除去するための工程を指す場合がある。
【0039】
本明細書で用いられる場合、用語「正極(positive electrode)」は、放電プロセス中に電気化学的還元/ナトリウム化が起こる電極(しばしば正極(cathode)と呼ばれる)を指す場合がある。
【0040】
本明細書で用いられる場合、用語「負極(negative electrode)」は、放電プロセス中に電気化学的酸化/脱ナトリウムが起こる電極(しばしば負極(anode)と呼ばれる)を指す場合がある。
【0041】
本発明は、電極活物質を対象とする。
【0042】
電極活物質は、一般式1で表される:
A(3+x)V(2-x)Bx(PO4)(3-(y/3))Cy (1)
ここで、
Aは、Li、Na、Kから選択され、
Bは、遷移金属、ポスト遷移金属、またはアルカリ土類金属のいずれかであり、
Cは、F、Cl、Br、Iから選択され、
Vは、バナジウムであり、
PO4は、リン酸塩であり、
xは、0.001~1.0の実数であり、
yは、0.001~1.0の実数である。
【0043】
最新技術では、金属イオン電池、特にナトリウムイオン電池に最も広く使用されている材料の1つとして、NVPとしても知られているNa3V2(PO4)3、およびNVZPとしても知られているNa3.2V1.8Zn0.2(PO4)3が検討されている。NVPは、本明細書において互換的に「基材(base material)」という場合がある。
【0044】
NVPに周期表の特定の元素をドープすると、ベース材料よりも電気化学的特性が改善されることが、本発明を通じて観察されている。ここで、A、B、およびCはそれぞれ周期表の元素を表す。これらの元素を基材にドープすることにより、一般式1の電極活物質が得られる。
【0045】
一実施形態では、置換(substitution)Aは、周期表のLi、Na、およびKから選択される。好ましくは、置換AはNaまたはナトリウムである。したがって、AがNaである電極活物質は、リン酸バナジウムナトリウム電極活物質と呼ばれる。リン酸バナジウムナトリウム電極活物質は、さらにBおよびCで置換されているため、二元置換リン酸バナジウムナトリウム電極活物質と呼ばれることがある。
【0046】
従って、一実施形態では、電極活物質は一般式1aで表される。
Na(3+x)V(2-x)Bx(PO4)(3-(y/3))Cy (1a)
ここで、
Bは遷移金属、ポスト遷移金属、またはアルカリ土類金属のいずれかであり、
CはF、Cl、Br、Iから選択され、
Vはバナジウムであり、
PO4はリン酸塩であり、
xは0.001~1.0の実数であり、
yは0.001~1.0の実数である。
【0047】
他の実施形態では、置換Bは、周期表の遷移金属、ポスト遷移金属、またはアルカリ土類金属のうちの1つである。好ましい遷移金属の例としては、周期表の第3族~第12族で表される、Ti、Cr、Fe、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Sc、Tc、Pd、Mo、およびWが挙げられる。好ましいポスト遷移金属の例としては、周期表の第13族~第15族で表される、Al、Sn、およびBiが挙げられる。好ましいアルカリ土類金属の例としては、周期表の第2族で表される、Mg、Sr、およびCaが挙げられる。
【0048】
一実施形態では、Bは、Mg、Ti、Cr、Al、Fe、Bi、Sr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Sc、Tc、Pd、Mo、Sn、およびWから選択される。好ましくは、Bは、Mn、Co、Ni、Cu、Znから選択される。より好ましくは、BはZnまたは亜鉛(zinc)である。
【0049】
従って、一実施形態では、電極活物質は一般式1bで表される。
A(3+x)V(2-x)Znx(PO4)(3-(y/3))Cy (1b)
ここで、
Aは、Li、Na、Kから選択され、
Cは、F、Cl、Br、Iから選択され、
Vは、バナジウムであり、
PO4は、リン酸塩であり、
xは、0.001~1.0の実数であり、
yは、0.001~1.0の実数である。
【0050】
さらに他の実施形態では、置換Cは、周期表のハロゲンである、F、Cl、BrおよびIから選択される。好ましくは、CはFまたはフッ素(fluorine)である。
【0051】
従って、一実施形態では、電極活物質は一般式1cで表される。
A(3+x)V(2-x)Bx(PO4)(3-(y/3))Fy (1c)
ここで、
Aは、Li、Na、Kから選択され、
Bは遷移金属、ポスト遷移金属、またはアルカリ土類金属のいずれかであり、
Vは、バナジウムであり、
PO4は、リン酸塩であり、
xは、0.001~1.0の実数であり、
yは、0.001~1.0の実数である。
【0052】
他の実施形態では、xは、0.005~1.0の実数、または0.005~0.8の実数、または0.01~0.8の実数である。さらに他の実施形態では、xは、0.01~0.5の実数、または0.05~0.6の実数、または0.05~0.4の実数である。さらに他の実施形態では、xは、0.1~0.4の実数、または0.1~0.3の実数である。
【0053】
さらに他の実施形態では、yは、0.001~1.0の実数、または0.001~0.8の実数、または0.001~0.6の実数である。他の実施形態では、yは、0.001~0.4の実数、または0.001~0.2の実数、または0.005~0.2の実数である。さらに他の実施形態では、yは、0.01~0.2の実数、または0.03~0.1の実数、または0.05~0.07の実数である。
【0054】
一実施形態では、電極活物質は、導電性カーボン、貴金属、および金属からなる群から選択される1つ以上で被覆されている。これにより、材料の導電性がさらに向上する。好ましい実施形態の1つでは、貴金属は、Au、Ag、およびPtから選択され、さらに他の好ましい実施形態では、金属は、CuおよびAlから選択される。
【0055】
製造コストおよび重量を大幅に増加させることなく導電性を増加させるため、電極活物質は導電性カーボンで被覆されることが好ましい。導電性カーボンの好ましい例としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェンなどが挙げられる。
【0056】
他の実施形態では、電極活物質は炭素で被覆される。このために、材料を合成する際に炭素源を添加する。炭素源の好適な例としては、クエン酸、グルコース、スクロース、フルクトース、アスコルビン酸、リグニン、多糖類、加水分解デンプン、デキストリン、および糖蜜が挙げられる。
【0057】
本発明の他の態様は、上記の電極活物質の製造方法に関する。したがって、電極活物質に関して本明細書に記載した実施形態は、製造方法においても適用可能である。
【0058】
一実施形態において、電極活物質の製造方法は、以下のステップを含む。
(a)本明細書で定義するA、B、C、V、およびPO4の各前駆体を含む溶液を得るステップと、
(b)60℃~120℃で溶液を混合してゲルを得るステップと、
(c)凍結乾燥によりゲルを乾燥させるステップと、および、
(d)乾燥したゲルを焼成して電極活物質を得るステップ。
【0059】
一実施形態において、Aの前駆体は、水酸化リチウム、炭酸リチウム、過塩素酸リチウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、シュウ酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、塩化ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、過塩素酸カリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、硝酸カリウムからなる群から選ばれる。他の実施形態では、Aの前駆体は、水酸化リチウム、炭酸リチウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、過塩素酸カリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム及び硝酸カリウムからなる群から選択される。さらに他の実施形態では、Aの前駆体は、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、および硝酸ナトリウムからなる群から選択される。さらなる実施形態では、Aの前駆体は、硝酸ナトリウムである。
【0060】
他の実施形態では、Bの前駆体は、Mg、Ti、Cr、Al、Fe、Bi、Sr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Sc、Tc、Pd、Mo、Sn、およびWからなる群より選択される1つ以上の水酸化物塩もしくは硝酸塩または硫酸塩である。さらに他の実施形態では、Bの前駆体は、Mg、Ti、Cr、Al、Fe、Bi、Sr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Sc、Tc、Pd、Mo、Sn、およびWからなる群から選択される1つ以上の硝酸塩である。好ましくは、Bの前駆体は、硝酸亜鉛である。
【0061】
他の実施形態では、Vまたはバナジウムの前駆体は、メタバナジン酸アンモニウム、五酸化バナジウム、バナジルアセチルアセトナート、硫酸バナジル、二酸化バナジウム、および三酸化バナジウムからなる群から選ばれる。好ましくは、Vの前駆体は、メタバナジン酸アンモニウムである。
【0062】
さらに他の実施形態では、PO4またはリン酸塩の前駆体は、リン酸一アンモニウム、リン酸二アンモニウム、リン酸、リン酸一ナトリウム、リン酸アンモニウム、リン酸二ナトリウムおよびリン酸二水素アンモニウムからなる群から選択される。好ましくは、PO4の前駆体は、リン酸二水素アンモニウムである。
【0063】
さらなる実施形態において、Cの前駆体は、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化アンモニウム、フッ化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、塩化マグネシウム、塩化リチウム、臭化カリウム、臭化ナトリウム、臭化アンモニウム、臭化リチウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化アンモニウム、およびヨウ化リチウムからなる群から選択される。他の実施形態では、Cの前駆体は、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化アンモニウム、フッ化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、臭化アンモニウム、臭化リチウム、およびヨウ化リチウムからなる群から選択される。好ましくは、Cの前駆体は、フッ化アンモニウムである。
【0064】
従って、一実施形態において、電極活物質の製造方法は、以下のステップを含む。
(a)硝酸ナトリウム、硝酸亜鉛、メタバナジン酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、およびフッ化アンモニウムを含む溶液を得るステップと、
(b)60℃~120℃で溶液を混合してゲルを得るステップと、
(c)凍結乾燥によりゲルを乾燥させるステップと、および、
(d)乾燥したゲルを焼成して電極活物質を得るステップ。
【0065】
一般式1の化合物を得るために、A、B、C、V、およびPO4の各前駆体の適切な量を適宜選択することができる。一実施形態では、Aの前駆体は、溶液の総重量に基づいて、1重量%~30重量%である。
【0066】
他の実施形態では、Bの前駆体は、溶液の総重量に基づいて、0.1重量%~10重量%である。
【0067】
さらに他の実施形態では、Cの前駆体は、溶液の総重量に基づいて、0.005重量%~5重量%である。
【0068】
さらに他の実施形態では、Vの前駆体は、溶液の総重量に基づいて、1.0重量%~20重量%である。
【0069】
他の実施形態では、PO4の前駆体は、溶液の総重量に基づいて、5重量%~30重量%である。
【0070】
他の実施形態では、溶液は、さらに炭素源を含む。炭素源は、溶液中のバナジウムイオンを還元する。焼成後、溶液中の炭素源は、電極活物質の表面上に均一な厚さを有する炭素に変換される。この炭素被覆により、材料の導電性が向上する。炭素源の好ましい例としては、クエン酸、グルコース、スクロース、フルクトース、アスコルビン酸、リグニン、多糖類、加水分解デンプン、デキストリン、および糖蜜が挙げられる。好ましくは、炭素源はクエン酸である。
【0071】
炭素源の好ましい量は、当業者に知られている。しかし、一実施形態では、炭素源は、溶液の総重量に基づいて、10重量%~50重量%で添加される。
【0072】
従って、一実施形態において、電極活物質の製造方法は、以下のステップを含む。
(a)本明細書で定義するA、B、C、V、およびPO4の各前駆体と炭素源とを含む溶液を得るステップと、
(b)60℃~120℃で溶液を混合してゲルを得るステップと、
(c)凍結乾燥によりゲルを乾燥させるステップと、および、
(d)乾燥したゲルを焼成して電極活物質を得るステップ。
【0073】
本方法は、ゾル-ゲル技術に基づくものであり、上記溶液を60℃~120℃で混合してゲルを得る。一実施形態では、温度範囲は60℃~110℃、60℃~100℃、または60℃~90℃である。他の実施形態では、温度が維持される時間は、1時間~12時間、2時間~10時間、または3時間~8時間である。
【0074】
本明細書における好適な混合手段は、当業者に知られている。例えば、溶液を混合するために、攪拌機を使用することができる。さらに、電極材料の調製で使用される適切な溶媒、界面活性剤および他の添加剤も、当業者に知られており、本発明で使用することができる。したがって、本発明は、これによって限定されるものではない。
【0075】
ゲルが得られたら、凍結乾燥させる。乾燥に適した温度は、-55℃~-30℃である。その後、凍結乾燥されたゲルを微粉砕し、焼成して電極活物質を得る。
【0076】
焼成は一般的に、例えば窒素、ヘリウム、アルゴン、またはそれらの混合物中などの不活性雰囲気下で微粉末を加熱することを含む。焼成に適した温度範囲は、300℃~1000℃、300℃~950℃、または300℃~900℃で、焼成時間は2時間~12時間、2時間~10時間、または4時間~10時間である。
【0077】
本発明の他の態様は、上記の電極活物質を含む金属イオン電池用電極材料に関する。したがって、電極活物質に関して本明細書に記載した実施形態は、金属イオン電池用電極材料においても適用可能である。
【0078】
一実施形態において、電極材料はバインダーを含む。本開示において、バインダーは、電極活物質間の接着を促進し、電極活物質の集電体への結合を改善する役割を果たす。適切なバインダーは、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム、およびフッ化ゴムからなる群から選ばれる。
【0079】
他の実施形態では、バインダー用の溶媒も含まれる。溶媒の好適な例としては、N-メチルピロリドン(NMP)、アセトン、エタノールおよび水などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0080】
さらに他の実施形態では、電極材料は導電性材料を含む。導電性材料としては、金属イオン電池に一般的に用いられる材料であればよい。例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、還元酸化グラフェン、カーボンナノチューブなどの炭素系材料、銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属粉や金属繊維などの金属系材料、ポリフェニレン誘導体などの導電性ポリマー、またはそれらの混合物が挙げられる。使用する導電性材料の含有量は適宜調整することができる。
【0081】
一実施形態では、導電性材料は、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、還元酸化グラフェン、およびカーボンナノチューブから選択される。導電性材料の好適な粒径は、当業者に知られている。ただし、スラリーの調製に影響を与えないようにサイズを選択する必要がある。
【0082】
本発明のさらに他の態様は、上記の電極材料の製造方法に関する。したがって、電極材料および電極活物質に関して本明細書に記載した実施形態は、電極材料の製造方法においても適用可能である。
【0083】
一実施形態において、電極材料の製造方法は、以下のステップを含む。
(a)電極活物質と、バインダーと、導電性カーボン、貴金属、および金属からなる群から選択される1つ以上と、を含むスラリーを得るステップであって、
スラリーの総重量を基準として、電極活物質の量は50重量%~90重量%であり、バインダーの量は1重量%~20重量%であるステップと、
(b)導電性材料上にスラリーを被覆し、次いで乾燥させて電極材料を得るステップ。
【0084】
好ましくは、スラリーは、電極活物質、バインダー、および導電性カーボンを含む。スラリー中の電極活物質の量は、スラリーの総重量に基づいて、50重量%~90重量%である。一実施形態では、電極活物質の量は、60重量%~90重量%、または70重量%~90重量%である。
【0085】
スラリー中のバインダーの量は、スラリーの総重量に基づいて、1重量%~20重量%である。一実施形態では、バインダーの量は、5重量%~20重量%、または5重量%~15重量%である。
【0086】
さらに、スラリーは、導電性カーボン、貴金属、および金属からなる群から選択される1つ以上のものも含む。これらの材料の好ましい量は、スラリーの総重量に基づいて、1重量%~20重量%である。一実施形態では、これらの材料の量は、5重量%~20重量%、または5重量%~15重量%である。好ましい実施形態の1つでは、貴金属は、Au、Ag、およびPtから選択される。さらに他の好ましい実施形態では、金属は、CuおよびAlから選択される。
【0087】
本開示では、スラリーは導電性材料の表面に塗布される。一実施形態では、スラリーは、導電性材料の表面を適切な厚さ、例えば300μm未満で被覆する。当業者は、適切な被覆の厚さを認識しており、したがって、本発明はこれによって限定されるものではない。さらに、乾燥するステップは60℃~130℃で行われる。
【0088】
本発明のさらに他の態様は、上記の電極材料と、電解質とを含む金属イオン電池に関するものである。したがって、電極材料に関して本明細書に記載した実施形態は、ここでも適用可能である。金属イオン電池の好ましい例としては、ナトリウムイオン電池、リチウムイオン電池、カリウムイオン電池、マグネシウムイオン電池、カルシウムイオン電池、フッ素イオン電池などが挙げられる。
【0089】
本発明の電極材料は、特に限定されるものではないが、集電体、電解質およびセパレータなどの典型的な構成要素とともに、任意の金属イオン電池に使用することができる。
【0090】
本発明において、集電体とは、電池内で化学変化を起こさずに導電性を有するものであれば特に限定されない。集電体は、例えば、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅、ステンレス鋼などであり、必要に応じて、炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理されていてもよい。あるいは、集電体はアルミニウム-カドミウム合金であってもよい。また、正極活物質の表面への結合力を高めるために、集電体の表面に微細な凹凸を形成されていてもよく、集電体は、フィルム、シート、箔、ネット、多孔質体、発泡体、不織布など、種々の形態で用いることができる。
【0091】
本開示において、電解質は、液体電解質、ゲルポリマー、固体電解質、またはそれらの組み合わせを含む。液体電解質は、ナトリウム塩、有機溶媒、またはそれらの組み合わせを含む。ゲル電解質は、高分子化合物を含む有機固体電解質、無機固体電解質、またはこれらの組み合わせを含む。固体電解質は、高分子化合物を含む有機固体電解質、無機固体電解質、またはこれらの組み合わせを含む。
【0092】
本開示において、電解質が液体電解質である場合、電解質は電解質塩および溶媒を含む。
【0093】
本発明で使用される電解質塩は、ナトリウム含有水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)など)、ホウ酸塩(例えば、メタホウ酸ナトリウム(NaBO2)、ホウ砂(Na2B4O7)、ホウ酸(H3BO3)など)、リン酸塩(例えば、リン酸三ナトリウム(Na3PO4)、ピロリン酸ナトリウム(Na2HPO4)など)、塩素酸(例えば、NaClO4など)、NaAlCl4、NaAsF6、NaBF4、NaPF6、NaSbF6、NaCF3SO3、NaN(SO2CF3)2、フッ化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、リグノスルホン酸ナトリウム、からなる群から選択される1つ以上を含む。
【0094】
また、本開示において、溶媒は、電池の電気化学反応に関与するイオンが移動する媒体となるものであれば、特に制限なく使用することができる。具体的には、溶媒としては、水、アルコール等の水性溶媒であってもよく、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、アルコキシアルカン系溶媒、カーボネート系溶媒等の非水系溶媒であってもよい。これらの溶媒は1つまたは2つ以上を混合して使用することができる。
【0095】
好適な溶媒は、リン酸トリメチル(TMP)、リン酸トリエチル(TEP)、炭酸メチルエチル、炭酸メチルプロピオネート、プロピオン酸エチル、酢酸エチル、炭酸エチルメチル、ギ酸メチル、炭酸プロピレン、炭酸エチレン、炭酸ビニレン、フルオロエチレンカーボネート、酢酸メチル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジメチルスルホン、ジメチルエーテル、エチレンサルファイト、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンオキシド、プロピレンサルファイト、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸プロピル、メチルブタノン、メチルイソブチルケトン、トルエンシクロヘキサノン、エチレングリコールジメチルエーテルおよびテトラエチレングリコールジメチルエーテルからなる群から選択することができる。
【0096】
本開示において、セパレータは、負極と正極とを互いに分離し、金属イオンが移動するためのチャネルを提供するためのものであり、任意の公知のセパレータを使用することができる。つまり、電解質イオンの移動に対する抵抗が小さく、電解質溶液の保湿性に優れたセパレータを用いることができる。例えば、セパレータは、ガラスマイクロファイバー、ポリエステル、テフロン(登録商標)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、またはそれらの組み合わせの中から選択することができ、不織布または織布の形態とすることができる。金属イオン二次電池には、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系高分子セパレータが主に使用されることが好ましいが、耐熱性や機械的強度を確保するためにセラミック成分や高分子材料を含むコーティングされたセパレータを使用することもできる。必要に応じて、セパレータは単層構造であっても多層構造であってもよい。
【0097】
本発明に係る電極材料は、他の部材とともに組み立てられ、金属イオン二次電池を得ることができる。
【0098】
有利なことに、本発明は、NVPおよびNVZPよりもレート能力およびサイクル性の点で良好な電気化学的性能を有する改良された電極活物質を提供する。さらに、本発明の電極活物質は、良好なサイクル性を備えた高速充放電能力を有する。さらに、本発明は、ゾル-ゲル技術を使用して、最小限の処理条件で電極材料を容易に製造する方法を提供する。
【0099】
上記の説明は本開示の種々の実施形態を開示しているが、本開示の基本的な範囲から逸脱することなく、本発明の他のさらなる実施形態が考案され得る。本発明は、記載された実施形態、バージョン、または実施例に限定されるものではなく、当業者が利用可能な情報および知識と組み合わせて、当業者が本発明を創作および使用できるようにするために含まれるものである。
【0100】
実施例
【0101】
本発明は、以下の非制限的な実施例によって説明される。
【0102】
化合物:
Aの前駆体 硝酸ナトリウム(NaNO3)
Bの前駆体 硝酸亜鉛(Zn(NO3)2)
Vの前駆体 メタバナジン酸アンモニウム(NH4VO3)
PO4の前駆体 リン酸二水素アンモニウム(NH4H2PO4)
Cの前駆体 フッ化アンモニウム(NH4F)
溶媒 N-メチル-2-ピロリドン(NMP)
界面活性剤 セチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)
バインダー ポリフッ化ビニリデン(PVDF)
炭素源 クエン酸
以上は、Sigma Aldrich社から入手した。
導電性材料 BET比表面積が57~67m2/gのカーボンブラック
Alfa Aesar社から入手した。
【0103】
適量のNH4VO3、Zn(NO3)2、NaNO3、NH4H2PO4、NH4F、クエン酸、およびCTABを完全に溶解するまで脱イオン水に添加し、溶液を得た。その後、この溶液を80℃で6時間攪拌し続けた。溶液はゲル化した。その後、このゲルを凍結乾燥し、微粉末にした。
【0104】
この微粉末をアルゴン雰囲気下において、350℃で5時間、および750/800/850℃で8時間焼成することにより、電極活物質を得た。下記の表1に各種成分の配合量をまとめた。
【0105】
【0106】
Na
3V
2(PO
4)
3(NVPと称する)およびNa
3.2V
1.8Zn
0.2(PO
4)
3(NVZPと称する)で表される比較材料を、上記の成分を用いて調製した。
図1(a)および
図1(b)は、本発明の材料(NVZPF)とNVPのSEM画像を比較したものである。ここで観察されるように、NVPとNVZPFはともに、不規則で多孔質である同様な形態を有している。粒子の大きさは、5~10μmである。
【0107】
図2に示すように、NVZPFおよびNVPのXRDパターンは、R3c空間群を有する標準JCPJDSカード番号62-0345と一致するNVPの菱面体晶構造を反映している。NVZPFのXRDパターンは、二次相の形成がなく、標準的なNVPと一致するため、ZnとFがバナジウムおよびリン酸のサイトにうまく置換されていることがわかる。このように、ZnとFを置換しても、結晶構造は変化しない。
【0108】
電極活物質、導電性材料、バインダーを80:10:10の重量比で混合してスラリーを調製した。その後、このスラリーを導電性材料に塗布し、80℃でカレンダー処理を行って電極(正極)を得た。その後、直径15mmの電極のサンプルをいくつか調整し、さらに試験を行った。
【0109】
ガラス繊維セパレータを直径19mmに切断した。電極サンプルとセパレータを、アルゴンで満たしたグローブボックスに移した。対極および参照電極として金属Naを使用してハーフセルを作製した。5%のフルオロエチレンカーボネートを含むプロピレンカーボネート中の1M NaClO4、または、5%のビニレンカーボネートを含むプロピレンカーボネート中の1M NaClO4を、電解質として使用した。
【0110】
NVZPF材料を用いたナトリウムイオン電池の充放電特性(実施例1~3)
【0111】
図3(a)~(c)は、NVZPF材料の0.1Cレートでのガルバノスタットの(galvanostatic)充放電特性を表す(実施例1~3)。
図3(a)から明らかなように、NVZPF材料の特性はNVP材料の特性と類似している。さらに、3.4Vでフラットな電位が観察される。これは、典型的なNVP材料における酸化還元反応の特徴である。
図3(a)で観察された放電容量は111mAh/gであった。
【0112】
NVZPF材料を用いたナトリウムイオン電池の充電容量および放電容量(実施例1~3)
【0113】
図4は、標準的なNVPとNVZPFとのレート性能の比較を示している。このプロットから、テストした各Cレートで、NVZPFがNVPよりも高い容量で優れたパフォーマンスを示していることがわかる。特に興味深いのは、50Cレートで観察された結果であり、NVZPF材料が74mAh/gの容量を示している。
【0114】
図5(a)は、NVP、NVZP、およびNVZPFのレート性能の比較を示している。
図5(a)に示すように、NVZPFは、テストした各Cレートにおいて容量が高く、NVPとNVZPの双方を上回っている。さらに、
図5(a)~(c)(実施例1~3に対応)に示されるNVZPF材料は、低いCレートおよび高いCレートの双方において高い容量を有している。
【0115】
図6は、1Cレートでサイクリングした後のレート性能を示したものである。NVZPFでは、500サイクル後でも90%の容量保持率を示し、容量が元の値に回復していることがわかる。
【0116】
図7(a)~(c)は、1C、5C、および10CレートでのNVZPFのサイクル寿命性能を表している。1Cでは、NVZPFは700サイクル後に87%の保持率を示す。5Cでは、375サイクル後も96.4%の保持率を示し、10Cという非常に高いCレートでは、1200サイクル後でも80%の容量を保持した。
【0117】
以上から、本発明による電極活物質および電極材料は、当該技術分野で知られているNVPおよび/またはNVZP材料と比較した場合、電気化学的特性の点で優れているということができる。