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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-25
(45)【発行日】2025-03-05
(54)【発明の名称】エステル系可塑剤組成物およびその用途
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20250226BHJP
   C08K 5/12 20060101ALI20250226BHJP
   C08L 27/06 20060101ALI20250226BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20250226BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K5/12
C08L27/06
C07B61/00 300
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023539869
(86)(22)【出願日】2021-12-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-23
(86)【国際出願番号】 KR2021020237
(87)【国際公開番号】W WO2022146062
(87)【国際公開日】2022-07-07
【審査請求日】2023-08-03
(31)【優先権主張番号】10-2020-0187681
(32)【優先日】2020-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520161344
【氏名又は名称】ハンファ ソリューションズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】カン ポール
(72)【発明者】
【氏名】キム ヤンジュン
(72)【発明者】
【氏名】キム ミンジョン
(72)【発明者】
【氏名】キム キドン
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-015436(JP,A)
【文献】特表2012-502138(JP,A)
【文献】特表2023-508511(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2023/0054163(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記関係式1を満たす下記化学式1のエステル系可塑剤組成物。
【化1】
前記化学式1中、
nは、0~10の整数であり、
およびRは、それぞれ独立して、C4-15アルキルであり、
およびLは、それぞれ独立して、エチレンまたはプロピレンである。
[関係式1]
0.05≦|(A-A1~3)/A|≦0.45
前記関係式1中、
は、前記エステル系可塑剤組成物の全重量100重量%であり、
は、前記化学式1のn=0である化合物の重量%であり、
1~3は、前記化学式1のn=1~3である混合物の重量%である。
【請求項2】
下記関係式2を満たす、請求項1に記載のエステル系可塑剤組成物。
[関係式2]
0≦A4~10/A1~3≦0.2
前記関係式2中、
前記エステル系可塑剤組成物の全重量に対して、
1~3は、前記化学式1のn=1~3である混合物の重量%であり、
4~10は、前記化学式1のn=4~10である混合物の重量%である。
【請求項3】
前記エステル系可塑剤組成物の全重量に対して、前記Aが30~80重量%の範囲である、請求項1に記載のエステル系可塑剤組成物。
【請求項4】
前記化学式1の前記RおよびRは、それぞれ独立して、C7-13分岐鎖アルキルである、請求項1に記載のエステル系可塑剤組成物。
【請求項5】
前記化学式1の前記RおよびRは、それぞれ独立して、C4-6直鎖アルキルである、請求項1に記載のエステル系可塑剤組成物。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のエステル系可塑剤組成物を含む、ポリ塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項7】
ポリ塩化ビニル樹脂100重量部に対して、前記エステル系可塑剤組成物を5~100重量部含む、請求項6に記載のポリ塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項8】
熱安定剤、充填剤またはこれらの組み合わせをさらに含む、請求項6に記載のポリ塩化ビニル樹脂組成物。
【請求項9】
請求項6に記載のポリ塩化ビニル樹脂組成物から製造される成形物。
【請求項10】
前記成形物は、電線被覆材、床材、自動車内装材、フィルム、シート、壁紙またはチューブである、請求項9に記載の成形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エステル系可塑剤組成物およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
日常の中で使用される高分子樹脂は、それぞれの特性に合わせて、生活および家電用品、衣類、自動車、建設資材または包装材など、各分野において様々に適用され使用されている。一般的に、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリウレタン(PU)およびポリ塩化ビニル(PVC)などから選択される高分子樹脂が汎用的に使用されている。特に、ポリ塩化ビニルは、硬質、軟質の特性を有し、様々な成形方法に有利に適用することができ、価格競争力に優れて汎用的な効用性を備えることから、生活用品から産業資材に至るまで様々な応用分野に適用されている。
【0003】
このようなポリ塩化ビニルは、樹脂単独で使用されるよりは、様々な物性の実現のために、可塑剤を添加して使用される。可塑剤は、樹脂に柔軟性を付与して、加工性および成形性などの物性を向上させる役割をする。しかし、産業の発展に伴い、可塑剤の役割も柔軟性だけでなく、耐揮発性、耐移行性、耐老化性、耐寒性、耐油性、耐水性、耐熱性など、その適用分野に応じて求められる特性を強化するために多様化している。
【0004】
可塑剤として汎用的に使用されるエステル系化合物の一例としては、ジ-(2-エチルヘキシル)フタレート(DEHP)、ジ-イソノニルフタレート(DINP)、ジ-2-プロピルヘプチルフタレート(DPHP)またはジイソデシルフタレート(DIDP)などが挙げられる。しかし、これらは、フタレート可塑剤であり、環境ホルモンの問題があるため使用が制限される傾向にある。また、非フタレート系可塑剤に代表されるジオクチルテレフタレート(DOTP)は、移行性、揮発性(加熱減量)などの熱安定性において製品物性を改善するには限界があった。
【0005】
したがって、従来、可塑剤として使用されているエステル系化合物の問題点を解決し、ポリ塩化ビニル樹脂との加工性は言うまでもなく、様々な物性の面で既存製品の物性を十分に改善できる可塑剤を提供するための研究は依然として必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】KR10-2008-0105341A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、熱安定性が改善したエステル系可塑剤組成物およびその用途を提供することを目的とする。
【0008】
詳細には、耐移行性および加熱減量などの熱安定性が改善し、相溶性に優れたエステル系可塑剤組成物、これを含むポリ塩化ビニル樹脂組成物およびそれにより製造される成形物を提供することを目的とする。
【0009】
詳細には、熱安定性が改善することは言うまでもなく、優れた引張強度、伸び率および硬度の実現と、これらの物性に対する耐老化性を付与することができるエステル系可塑剤組成物、これを含むポリ塩化ビニル樹脂組成物およびそれにより製造される成形物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するために、本発明では、下記関係式1を満たす下記化学式1のエステル系可塑剤組成物が提供される。
【化1】
[前記化学式1中、
nは、0~10の整数であり、
およびRは、それぞれ独立して、C4-15アルキルであり、
およびLは、それぞれ独立して、エチレンまたはプロピレンである。]
[関係式1]
0.05≦|(A-A1~3)/A|≦0.45
[前記関係式1中、
は、前記エステル系可塑剤組成物の全重量100重量%であり、
は、前記化学式1のn=0である化合物の重量%であり、
1~3は、前記化学式1のn=1~3である混合物の重量%である。]
【0011】
本発明の一実施形態によるエステル系可塑剤組成物は、下記関係式2を満たすことができる。
[関係式2]
0≦A4~10/A1~3≦0.2
[前記関係式2中、
前記エステル系可塑剤組成物の全重量に対して、
1~3は、前記化学式1のn=1~3である混合物の重量%であり、
4~10は、前記化学式1のn=4~10である混合物の重量%である。]
【0012】
本発明の一実施形態によるエステル系可塑剤組成物は、全重量に対して、前記Aが30~80重量%の範囲であることができる。
【0013】
本発明の一実施形態によるエステル系可塑剤組成物において、前記化学式1の前記RおよびRは、それぞれ独立して、C7-13分岐鎖アルキルであることができる。
【0014】
本発明の一実施形態によるエステル系可塑剤組成物において、前記化学式1の前記RおよびRは、それぞれ独立して、C4-6直鎖アルキルであることができる。
【0015】
また、本発明では、上述のエステル系可塑剤組成物を含む、ポリ塩化ビニル樹脂組成物が提供される。
【0016】
本発明の一実施形態によるポリ塩化ビニル樹脂組成物は、前記ポリ塩化ビニル樹脂100重量部に対して、前記エステル系可塑剤組成物を5~100重量部含むことができる。
【0017】
本発明の一実施形態によるポリ塩化ビニル樹脂組成物は、熱安定剤、充填剤またはこれらの組み合わせをさらに含むことができる。
【0018】
また、本発明では、上述のポリ塩化ビニル樹脂組成物から製造される成形物が提供される。
【0019】
また、本発明の一実施形態による成形物は、電線被覆材、床材、自動車内装材、フィルム、シート、壁紙またはチューブなどであることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、ポリ塩化ビニル樹脂などの耐熱樹脂組成物で求められる耐熱性および相溶性などの物性を十分に満たすことができる、2種以上のエステル系化合物を含むエステル系可塑剤組成物を提供することができる。特に、本発明によるエステル系可塑剤組成物は、特定の関係式を満たすことから可塑剤として汎用的に使用される従来の可塑剤の限界を改善できる面で注目される。
【0021】
本発明によると、耐移行性および加熱減量などの熱安定性に関する特性の面で特に優れる。このような相乗効果により、本発明によると、相溶性、すなわち、可塑化効率を高め、成形物の物性の向上により役立つことができる。さらに、本発明によるエステル系可塑剤組成物は、ポリ塩化ビニル樹脂との組み合わせにより、機械的物性にも優れた成形物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明によるエステル系可塑剤組成物およびその用途について詳細に説明する。ここで、使用される技術用語および科学用語において他の定義がなければ、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が通常理解している意味を有し、下記の説明および添付の図面において本発明の要旨を不明瞭にし得る公知の機能および構成に関する説明は省略する。
【0023】
本明細書で使用される単数形態は、文脈で特別な指示がない限り、複数形態も含むものと意図することができる。
【0024】
また、本明細書で特別な言及なしに使用された単位は、重量を基準とし、一例として、%または比の単位は、重量%または重量比を意味し、重量%は、他に定義されない限り、全体の組成物のいずれか一つの成分が組成物内で占める重量%を意味する。
【0025】
また、本明細書で使用される数値範囲は、下限値と上限値とその範囲内でのすべての値、定義される範囲の形態と幅から論理的に誘導される増分、二重限定されたすべての値および互いに異なる形態に限定された数値範囲の上限および下限のすべての可能な組み合わせを含む。本発明の明細書において特別な定義がない限り、実験誤差または値の四捨五入によって発生する可能性がある数値範囲外の値も定義された数値範囲に含まれる。
【0026】
本明細書の用語、「含む」は、「備える」、「含有する」、「有する」または「特徴とする」などの表現と等価の意味を有する開放型記載であり、さらに挙げられていない要素、材料または工程を排除しない。
【0027】
本明細書の用語、「アルキル」は、直鎖または分岐鎖形態の脂肪炭化水素から誘導された1価ラジカルを意味する。また、「エチレン」は、-CHCH-の構造式を有し、「プロピレン」は、-CHCHCH-または-CH(CH)CH-の構造式を有することができる。
【0028】
可塑剤の移行(migration)とは、耐熱樹脂と混合された可塑剤の一部が耐熱樹脂の外部に流出する現象を意味する。従来の可塑剤のうち、一部のフタレート系可塑剤の場合、流出した可塑剤が体内に流入されると、生命活動に直接関与する内分泌系の正常な活動を阻害するか、非正常な反応を引き起こして致命的なダメージを与える可能性があり、できるだけ可塑剤の移行を抑制する必要があった。一方、一般的に知られている従来の非フタレート系可塑剤は、体内に流入して内分泌系の問題を引き起こしてはいないが、熱安定性が低くて可塑剤の移行の問題を解消することができない状況である。
【0029】
したがって、本発明者らは、ポリ塩化ビニル樹脂などの耐熱樹脂との加工性は言うまでもなく、可塑剤の移行を効果的に抑制するための可塑剤について鋭意研究を重ねたところ、互いに相違する構造的特徴を有するアルコールを介して誘導されたエステル基を有するエステル系可塑剤組成物を考案した。本発明によるエステル系可塑剤組成物は、繰り返し単位の比率を調節し、従来の可塑剤の限界点として指摘された可塑剤の移行は言うまでもなく、加熱減量のような熱安定性を改善することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0030】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0031】
本発明は、下記関係式1を満たす下記化学式1のエステル系可塑剤組成物を提供する。
【0032】
【化2】
【0033】
[前記化学式1中、
nは、0~10の整数であり、
およびRは、それぞれ独立して、C4-15アルキルであり、
およびLは、それぞれ独立して、エチレンまたはプロピレンである。]
【0034】
[関係式1]
0.05≦|(A-A1~3)/A|≦0.45
【0035】
[前記関係式1中、
は、前記エステル系可塑剤組成物の全重量100重量%であり、
は、前記化学式1のn=0である化合物の重量%であり、
1~3は、前記化学式1のn=1~3である混合物の重量%である。]
【0036】
本発明の一実施形態によるエステル系可塑剤組成物は、前記関係式1を満たし、耐移行性は言うまでもなく、加熱減量などの特性の面において優れ、且つこれを採用した耐熱樹脂の硬度、伸び率、引張強度などの機械的物性に不都合を引き起こさない。また、高分子型のエステル系化合物を含むにも関わらず、改善した可塑化効率を有し、ポリ塩化ビニル樹脂などの耐熱樹脂との相溶性にも優れる。一方、前記関係式1を満たしていない場合、向上した移行性と加熱減量を同時に実現することが困難である。
【0037】
本発明の一実施形態によるエステル系可塑剤組成物において、前記関係式1は、0.05超であることができ、好ましくは0.07以上、より好ましくは0.08以上、最も好ましくは0.09以上~0.45未満であることができる。
【0038】
これと同時に、本発明の一実施形態によるエステル系可塑剤組成物は、下記関係式2を満たすことができる。
【0039】
[関係式2]
0≦A4~10/A1~3≦0.2
【0040】
[前記関係式2中、
前記エステル系可塑剤組成物の全重量に対して、
1~3は、前記化学式1のn=1~3である混合物の重量%であり、
4~10は、前記化学式1のn=4~10である混合物の重量%である。]
【0041】
このような関係式1と関係式2は、2価連結基であるC2-3ポリアルキレングリコールの使用量、すなわち、その比率に応じて適切に調節されることができ、本発明の一実施形態によるエステル系可塑剤組成物が上述の関係式1と関係式2を満たす場合、組成物内の各エステル系化合物の相互作用により、目的とする効果にさらに相乗効果を付与することができる。
【0042】
具体的には、上述の組成による組成物内の混在によって、本発明によるエステル系可塑剤組成物は、移行性と加熱減量などの物性のバランスを取ることができ、引張強度と伸び率のような機械的物性を向上させることができる。また、これらの相互作用により、耐老化性において著しい改善を図ることができる。すなわち、上述の数式を満たす本発明によるエステル系可塑剤組成物は、従来のフタレート系可塑剤の環境的な問題を除去し、且つ移行性および加熱減量をさらに改善した可塑剤組成物を提供することができる。
【0043】
本発明の一実施形態によるエステル系可塑剤組成物は、全重量に対して、前記Aが30~80重量%の範囲であることができる。また、移行性においてより向上した相乗効果を示す面で、前記Aが30超~80未満の重量%の範囲を満たすことができる。また、31~78重量%、また、31~75重量%を満たすことができる。
【0044】
一例として、前記エステル系可塑剤組成物は、前記化学式1での前記nが0~8を満たすエステル系化合物の混合物であることができる。
【0045】
一例として、前記エステル系可塑剤組成物は、前記化学式1での前記nが0~6を満たすエステル系化合物の混合物であることができる。
【0046】
一例として、前記エステル系可塑剤組成物は、前記化学式1での前記nが0~5を満たすエステル系化合物の混合物であることができる。ここで、前記エステル系可塑剤組成物は、2個以上の環状基を含むエステル系化合物が5~40重量%含まれることができる。
【0047】
本発明の一実施形態によるエステル系可塑剤組成物において、前記化学式1の前記RおよびRは、それぞれ独立して、C7-13分岐鎖アルキルであることができ、好ましくはC8-13分岐鎖アルキルであることができ、より好ましくはC8-10分岐鎖アルキルであることができる。
【0048】
一例として、前記化学式1の前記RおよびRは、それぞれ独立して、2-エチルヘキサノール、イソノニルアルコール、イソデシルアルコール、2-プロピルヘプタノールまたはイソトリデシルアルコールなどの1価脂肪アルコールから誘導されたエステル基の一部であることができる。
【0049】
本発明の一実施形態によるエステル系可塑剤組成物において、前記化学式1の前記RおよびRは、それぞれ独立して、C4-6直鎖アルキルであることができ、好ましくはC4-5直鎖アルキルであることができる。
【0050】
一例として、前記化学式1の前記RおよびRは、n-ブタノールなどから誘導された置換基であることができる。
【0051】
一例として、前記エステル系可塑剤組成物は、重量平均分子量が1000g/mol以上である高分子型のエステル系可塑剤を含み、これを全重量に対して10重量%以下で含むことができる。または9.5重量%以下、または0~9.5重量%未満で含むことができる。
【0052】
一例として、前記エステル系可塑剤組成物は、重量平均分子量が1000g/mol未満である低分子型のエステル系可塑剤を含み、これを全重量に対して80重量%以上で含むことができる。
【0053】
本発明の一実施形態によると、一般的に知られている可塑剤の一つである、非-フタレート系可塑剤は、前記フタレート系可塑剤に比べて、移行性が相対的に非常に高い値を有し、その適用分野に限界があった。しかし、本発明によるエステル系可塑剤組成物は、耐移行性は言うまでもなく、加熱減量などの熱安定性を著しく向上させることができる点、このような効果は、単一化合物または上述の関係式を満たしていない場合に比べて顕著性を示す点で、注目すべきである。
【0054】
上述の本発明の一実施形態によるエステル系可塑剤組成物は、下記化学式2で表される化合物とC2-3ポリアルキレングリコールを触媒の存在下でトランスエステル化反応させるステップにより製造されることができる。
【0055】
【化3】
【0056】
[前記化学式2中、
およびRは、それぞれ独立して、C4-15アルキルである。]
【0057】
前記トランスエステル化反応は、C2-3ポリアルキレングリコールと前記化学式2で表される化合物が反応して、置換体が互いに相互交換される反応を意味する。前記トランスエステル化反応が行われると、前記C2-3ポリアルキレングリコールのアルコキシドが2分子の前記化学式2のエステル基の炭素をそれぞれ攻撃し、前記化学式1の化合物を形成する。また、反応が行われていない未反応の部分として前記化学式2の化合物が残っている可能性がある。
【0058】
本発明の一実施形態によるエステル系可塑剤組成物の製造方法において、前記ステップは、Sn系またはTi系を含む有機金属触媒、スルホン酸系または硫酸系を含む酸触媒、またはこれらの混合触媒下で行われることができる。ここで、前記触媒の使用量は、制限されず、通常の触媒使用量で使用することができる。また、前記ステップにおいてZn系を含む有機金属触媒を使用する場合、低い反応効率によって本発明において目的とする関係式を満たすことができず、好ましくなかった。
【0059】
一例として、前記有機金属触媒において、Ti系有機金属触媒は、テトラメチルチタネート、テトラエチルチタネート、テトラプロピルチタネート、テトラ-イソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラペンチルチタネート、テトラヘキシルチタネート、テトラ-オクチルチタネート、テトラノニルチタネート、テトラドデシルチタネート、テトラヘキサデシルチタネート、テトラ-オクタデシルチタネート、テトラデシルチタネートおよびテトラヘプチルチタネートなどのテトラアルキルチタネート;およびテトラフェニルチタネートなどのテトラアリールチタネート;から選択されることができる。
【0060】
一例として、前記酸触媒は、硫酸パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸およびブタンスルホン酸などから選択されることができる。
【0061】
一例として、前記触媒は、通常の使用量で使用可能であることは言うまでもなく、具体的には、前記化学式2で表される化合物の全重量100重量部に対して、0.01~1重量部、または0.01~0.5重量部、または0.02~0.1重量部使用されることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0062】
また、前記トランスエステル化反応は、酸-アルコール間のエステル化反応と比較して、廃水の問題が生じないという利点があり、無触媒下でも行われることができる。
【0063】
上述の製造方法により製造された本発明によるエステル系可塑剤組成物は、耐移行性と耐揮発性などにおいて驚くほど向上した相乗効果を実現することができる。このような相乗効果は、前記化学式1のエステル基と前記化学式2のエステル基との水素結合などの相互作用によって可塑剤が塩化ビニル樹脂の外部に流出しないようにすることによると予想されるが、このような特徴によって本発明によるエステル系可塑剤組成物の相乗効果が依存されるものではない。さらに、本発明によるエステル系可塑剤組成物は、上述の関係式を満たすことから卓越した耐移行性を示す。
【0064】
本発明の一実施形態によるエステル系可塑剤組成物の製造方法において、前記ステップは、80℃以上の反応温度下でトランスエステル化反応が開始されることができる。
【0065】
一例として、前記ステップの反応温度は、135℃以上であることができる。
【0066】
一例として、前記ステップの反応温度は、150℃以上であることができる。
【0067】
一例として、前記ステップの反応温度は、170~270℃であることができる。
【0068】
一例として、前記ステップは、上述の反応温度下で、10分~24時間行われることができ、目的に応じて、反応時間は適切に調節可能であることは言うまでもない。反応時間は、下記式1により得られた酸価を介して適切に調節されることができる。前記酸価は、低いほど好ましいが、5以下の値であれば、制限されない。ここで、前記酸価が高いということは、未反応の芳香族化合物が可塑剤内に残っていることを意味するため、可塑剤の純度に良くない影響を及ぼし得る。
【0069】
[式1]
酸価(acid value)=(滴定量×5.6×factor)/試料量
【0070】
[前記式1中、
滴定に使用されたアルカリ溶液が0.1N KOH水溶液である場合は、前記factorが1である。]
【0071】
また、前記ステップは、不活性雰囲気下で行われることができる。前記不活性雰囲気は、窒素およびアルゴンなどから選択される不活性気体雰囲気を意味する。
【0072】
本発明の一実施形態によるエステル系可塑剤組成物の製造方法は、前記ステップの後、未反応アルコール、反応副生成物またはこれらを回収するステップなどを含む精製ステップをさらに含むことができる。このような精製ステップを経て回収された未反応アルコールは、再使用可能であり、これにより、継続して反応ステップに使用され、より経済的な工程を提供することができる点で利点を提供する。ここで、未反応アルコールは、C2-3ポリアルキレングリコールを意味することができる。
【0073】
前記中和するステップは、通常のアルカリ溶液を使用して行われることができる。
【0074】
前記未反応アルコールを回収するステップは、未反応で存在するアルコールは言うまでもなく、反応副生成物であるアルコールを除去するステップであることができ、沸点の差を用いる蒸留ステップであることができる。このような蒸留ステップを経る場合、分離しようとする物質の沸点の差が、好ましくは10℃以上の差を有することが好適である。また、前記蒸留は、多段蒸留または混合蒸留であることができる。前記多段蒸留の場合、分離しようとする物質それぞれの沸点の差に応じて別に分離する方法であることができ、前記混合蒸留の場合、分離しようとする物質を同時に蒸留する方法であることができる。
【0075】
具体的には、本発明の一実施形態によるエステル系可塑剤組成物の製造方法において、前記化学式2で表される化合物1モルに対して、前記C2-3ポリアルキレングリコールは、0.1~5モル含むことができ、または0.3~3モル、または0.5~1.5モル含むことができる。
【0076】
上述の本発明によるエステル系可塑剤組成物の製造方法によると、可塑剤の分子量が向上し、樹脂との相互作用が可能な官能基、すなわち、エステル基の数を増加させる。一般的に、可塑剤は、分子量、構造的特徴などに応じて耐老化物性などが左右され、可塑剤の分子量が大きいほど耐老化物性には優れるが、樹脂との相溶性が低下する傾向がある。しかし、本発明によると、耐老化物性は言うまでもなく、樹脂との相溶性を同時に向上させることができる点で、従来技術の傾向によらない。
【0077】
上述のような製造方法により、前記関係式1および関係式2を満たすように、各繰り返し単位の比率を調節して、目的とする本発明によるエステル系可塑剤組成物を製造することができる。各組成の比率の調節は言うまでもなく、各組成の投入条件などを調節して、これを満たすこともできる。
【0078】
一様態である、本発明の一実施形態によるエステル系可塑剤組成物は、テレフタレートを基本構造とする下記化学式3の化合物を水素化反応して、製造されることができる。
【0079】
【化4】
【0080】
[前記化学式3中、
nは、0~10の整数であり、
およびRは、それぞれ独立して、C4-15アルキルであり、
およびLは、それぞれ独立して、エチレンまたはプロピレンである。]
【0081】
前記水素化反応は、金属触媒の存在下で、水素化反応させることで行われることができ、その反応は、一種の還元反応であることができる。ここで、前記金属触媒は、水素化反応が可能なものであれば、制限なく使用可能であり、その非限定的な一例としては、Rh/C触媒、Pt触媒、Pd触媒などが挙げられる。
【0082】
上述の本発明によるエステル系可塑剤組成物の製造方法によると、可塑剤組成物の重量平均分子量を向上させることができ、耐熱樹脂との相互作用が可能な官能基、すなわち、エステル基の数が増加したエステル系化合物およびその組成を調節することができる。一般的に、可塑剤は、分子量、構造的特徴などに応じて耐老化物性などが左右され、可塑剤の分子量が大きいほど耐老化物性には優れるが、耐熱樹脂との相溶性が低下する傾向がある。しかし、本発明によると、組成物内のこれらの相互作用により、耐老化物性は言うまでもなく、耐熱樹脂との相溶性を同時に向上させることができる点で、従来技術と差がある。
【0083】
また、本発明の一実施形態による製造方法により製造されたエステル系可塑剤組成物は、前記関係式1を満たす前記化学式1のエステル系可塑剤組成物であり、前記化学式1で表される少なくとも二つ以上のエステル系化合物が混合された様態である。このような組成により、本発明によるエステル系可塑剤組成物は、耐移行性と耐揮発性において卓越な相乗効果を発揮する。
【0084】
本発明の一実施形態による製造方法により製造されたエステル系可塑剤組成物は、前記化学式1のn=0である化合物を30~75重量%含むことができ、好ましくは30重量%超、より好ましくは31~65重量%の範囲で含むことができる。特に、前記化学式1のn=0である化合物を31~60重量%の範囲で含む場合、著しく減少した移行性を示すことができる。
【0085】
一方、本発明による製造方法により製造されたエステル系可塑剤組成物において、前記化学式1のn=0である化合物を55重量%超で含む場合、加熱前の伸び率においてより好ましいことができる。
【0086】
本発明の一実施形態によるエステル系可塑剤組成物は、従来の可塑剤、すなわち、シクロヘキサンジエステル(DEHCH)などの可塑剤を含み、より向上した移行性、揮発性(加熱減量)などを実現することができる。また、それにより製造された試験片の揮発性に卓越した利点を提供する。このような結果として、本発明によるエステル系可塑剤組成物は、可塑剤としての優れた物性を提供することができ、好ましい。
【0087】
すなわち、本発明の一実施形態によるエステル系可塑剤組成物は、上述の低分子型の可塑剤の問題は言うまでもなく、既存の高分子型の可塑剤が有している問題まで解決することができる。具体的には、本発明によるエーテル系可塑剤組成物は、1000以上の重量平均分子量を有する高分子型のエーテル系化合物を含むにもかかわらず、向上した可塑化効率で上述の低分子型の可塑剤と同等水準の硬度を実現することができる。これにより、ポリ塩化ビニル樹脂などの耐熱樹脂との加工性に不都合を与えず、且つ高い可塑化効率でそれにより製造された成形物の物性の向上に役立つことができる。
【0088】
また、本発明は、上述のエステル系可塑剤組成物を含むポリ塩化ビニル樹脂組成物およびそれにより製造された成形物を提供する。
【0089】
上述のように、本発明によると、耐移行性および加熱減量が改善し、且つ引張強度、伸び率および耐老化性(例:加熱後の引張強度の変化率、伸び率の変化率など)に優れた成形物を提供することができる。
【0090】
前記ポリ塩化ビニル樹脂は、塩化ビニル系単量体単独、または塩化ビニル系単量体およびこれと共重合可能な共単量体が共重合された共重合体であり得る。その他に、懸濁剤、緩衝剤、および重合開始剤などを混合して、懸濁重合、微細懸濁重合、乳化重合、またはミニエマルション重合などの重合方法により製造された共重合体であり得る。
【0091】
上述の塩化ビニル単量体との共重合が可能な他の単量体は、通常のものであれば、制限なく使用可能であり、その非限定的な一例としては、エチレンビニルアセテート単量体およびプロピオン酸ビニル単量体を含むビニルエステル系単量体;エチレン、プロピレン、イソブチルビニルエーテル、およびハロゲン化オレフィンを含むオレフィン系単量体;メタクリル酸アルキルエステルを含むメタクリル酸エステル系単量体;無水マレイン酸単量体;アクリロニトリル単量体;スチレン単量体;およびハロゲン化ポリビニリデン;などが挙げられ、これらを1種以上混合して塩化ビニル単量体との共重合体を製造することができる。しかし、本発明が上述の単量体に限定されるものではなく、製造時に、求められる塩化ビニル系樹脂組成物の物性や用途などに応じて、本発明が属する技術分野において、一般的に、塩化ビニル単量体と重合反応により共重合体を形成するために使用される単量体は、特に制限なく使用可能である。
【0092】
本発明の一実施形態によるポリ塩化ビニル樹脂組成物において、前記ポリ塩化ビニル樹脂は、重合度300~3,000であることができ、好ましくは500~2,000、より好ましくは700~1,200であるものを使用することができる。
【0093】
本発明の一実施形態によるポリ塩化ビニル樹脂組成物において、前記ポリ塩化ビニル樹脂100重量部に対して、前記エステル系可塑剤組成物は、5~100重量部含むことができ、具体的には10~80重量部、より具体的には30~60重量部含むことができる。
【0094】
また、本発明の一実施形態によるポリ塩化ビニル樹脂組成物は、熱安定剤および充填剤などから選択される添加剤をさらに含むことができる。
【0095】
一例として、前記熱安定剤は、Ca、Zn、Al、Mgなどから選択される二つ以上を含む複合熱安定剤であることができる。
【0096】
一例として、前記熱安定剤は、前記ポリ塩化ビニル樹脂100重量部に対して、1~15重量部含むことができる。具体的には3~12重量部、より具体的には5~10重量部含むことができる。上述の含量で使用される場合、熱安定性の向上に役立つ。また、本発明によるエステル系可塑剤組成物およびポリ塩化ビニル樹脂との相溶性および相乗効果に優れることから他の安定剤より越等した効果を示す。また、ベンゾフェノール、トリアゾールおよびアクリロニトリルなどから選択される非金属安定剤をさらに含むこともできる。
【0097】
一例として、前記充填剤は、ポリ塩化ビニル樹脂組成物の生産性、乾燥状態の感触(Dry touch感)を向上させることができる。このような充填剤は、炭酸カルシウム、クレイ、タルク(Talc)および珪藻土などから選択されることができる。
【0098】
一例として、前記充填剤は、前記ポリ塩化ビニル樹脂100重量部に対して、1~100重量部含むことができ、具体的には5~50重量部、より具体的には5~30重量部含むことができる。また、目的に応じて、前記充填剤は、前記ポリ塩化ビニル樹脂100重量部に対して、100重量部超の使用量で使用され得ることは言うまでもない。
【0099】
本発明の一実施形態によるポリ塩化ビニル樹脂組成物は、ポリ塩化ビニル樹脂に対する吸収速度と短い溶融時間を有し、ポリ塩化ビニル樹脂との加工性を高める。また、本発明によるポリ塩化ビニル樹脂組成物は、ポリ塩化ビニル樹脂をはじめ、アクリル樹脂、ABS樹脂、ウレタン樹脂およびポリエステル樹脂などから選択される耐熱樹脂を含むことができ、その他にも、様々な高分子樹脂を含むことができる。
【0100】
本発明の一実施形態によるポリ塩化ビニル樹脂組成物は、目的に応じて、様々な様態の処方に適用されることができ、その非限定的な一例としては、コンパウンド処方、シート処方およびプラスチゾル処方などが挙げられる。
【0101】
上述のポリ塩化ビニル樹脂組成物から製造された成形物は、用途および形態などに応じて様々な様態で適用可能であることは言うまでもない。具体的には、前記成形物は、電線被覆材などであることができる。また、床材、自動車内装材、フィルム、シート、壁紙またはチューブなどに適用可能である。
【0102】
上述のように、本発明によると、特に低い加熱減量および耐移行性を有する成形物を提供する。ここで、前記耐移行性および加熱減量の測定は、下記の評価方法による。
【0103】
一例として、本発明による成形物は、耐移行性が0.2%以下であることができる。
【0104】
一例として、本発明による成形物は、耐移行性が0.15%以下であることができる。
【0105】
一例として、本発明による成形物は、耐移行性が0.01~0.1%であることができる。
【0106】
一例として、本発明による成形物は、耐移行性が0.03~0.08%であることができる。
【0107】
一例として、本発明による成形物は、加熱減量(W)が1.0%以下であることができる。
【0108】
一例として、本発明による成形物は、加熱減量(W)が0.9%以下であることができる。
【0109】
一例として、本発明による成形物は、加熱減量(W)が0.1~0.8%であることができる。
【0110】
また、本発明の一実施形態による成形物は、上述の熱安定性を満たすことは言うまでもなく、優れた引張強度および伸び率を満たす。ここで、前記引張強度および伸び率の測定は、下記評価方法による。
【0111】
本発明の一実施形態による成形物は、ASTM D638に準じた引張強度が100~300kg/cmであり、伸び率が300~600%であることができる。具体的には引張強度が120~250kg/cmであり、伸び率が350~580%、より具体的には引張強度が150~200kg/cmであり、伸び率が400~560%であることができる。ここで、前記引張強度および伸び率は、常温で測定されることができる。
【0112】
また、本発明の一実施形態による成形物は、耐老化性に優れる。具体的には、本発明による成形物は、耐熱老化試験においても向上した効果を実現する。これに対して、前記成形物は、ASTM D638試験方法に準じて行われる加熱前・後による引張強度および伸び率に対する変化率が少ない。また、前記成形物は、優れた硬度を示す。さらに、本発明で目的とする利点である加熱減量および耐移行性において、耐熱老化試験でも変化率がほとんどない。
【0113】
したがって、本発明の一実施形態による成形物は、床材、壁紙、ターポリン、人造皮革、おもちゃ、または自動車下部コーティング材などとして使用されることができ、特に、現在最も一般的に使用されているDEHCHを使用した環境にやさしい可塑剤組成に比べて、可塑剤の移行性および揮発性などの物性が良好な効果がある。
【0114】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明する。ただし、下記の実施例は、本発明を詳細に説明するための一つの参照であって、本発明は、これに限定されず、様々な形態に実現されることができる。また、他に定義されない限り、すべての技術的用語および科学的用語は、本発明が属する技術分野における当業者の一人によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。また、本発明において説明に使用される用語は、単に特定の実施例を効果的に記述するためのものであって、本発明を制限することを意図しない。
【0115】
また、本発明において、特に断りがない限り、温度は、いずれも℃単位を意味し、常温は、25℃を意味する。
【0116】
(評価方法)
1)耐移行性:
それぞれの試験片を直径3cmの円形に切断した後、小数点4桁まで初期重量(Wi)および吸油前の油紙の重量(Wq1)を測定した。初期重量が測定された3M油紙(55mm×85mm)の間に試験片を入れた後、5kgの荷重を加えた状態で、70℃のオーブンで4日間放置した後、試験片を取り出して試験片の重量および吸油後の油紙の重量(Wq2)を測定し、耐移行性を確認した。移行性の計算は、(Wq2-Wq1)/Wi×100により行った。ここで、前記移行性は、可塑剤の流出量(%)を意味する。
【0117】
2)加熱減量:
それぞれの試験片に対して、小数点4桁まで初期重量(Wi)を測定した。120℃のオーブンにクランプを用いて試験片を固定し、72時間後、試験片を取り出して、恒温槽(常温、25℃)で4時間以上保管した後、試験片の重量(Wo)を測定し、加熱減量の比率(%、W)を確認した。加熱減量の比率の計算は、(Wi-Wo)/Wi×100により行った。
【0118】
3)硬度(ASTM D2240):
それぞれの試験片に対して、ASTM D2240方法に準じて硬度計(ASKER CL-150、単位Shore A)を使用して、硬度試験機(「A」type)の針を完全に下げた後、10秒後に示された常温での硬度値を読み取る。硬度は、それぞれの試験片に対して5ヶ所を試験した後、平均値を計算した。
【0119】
4)引張強度、伸び率[ASTM D638]:
それぞれの試験片に対して、テスト機器であるU.T.Mを用いて、200mm/minのクロスヘッドスピード(cross head speed)で引っ張った後、試験片が切断される地点の引張強度と伸び率を測定した。引張強度(kgf/cm)の計算は、load値(kgf)/厚さ(cm)×幅(cm)で計算し、伸び率(%)は、伸び(extension)/初期長さ×100で計算した。前記測定は、加熱前(常温)および加熱後(120℃、100hr)にそれぞれ行われた。
【0120】
引張強度の変化率は、(加熱後の引張強度-加熱前の引張強度)/加熱前の引張強度×100で計算した。また、伸び率の変化率は、(加熱後の伸び率-加熱前の伸び率)/加熱前の伸び率×100で計算した。
【0121】
(実施例1)
温度センサ、機械式攪拌機、凝縮器、デカンタ(Decantor)および窒素注入装置が設置された2L反応器に、ジエチルヘキシルシクロヘキサン(Bis(2-ethylhexyl) cyclohexane-1,4-dicarboxylate、DEHCH)1400gおよびジエチレングリコール(diethylene glycol、DEG)146.2gを投入した。投入後、窒素条件下で攪拌して230℃まで昇温させた。昇温後、TNBT(Tetra N-butyl Titanate)0.5gを投入し、同一条件下で、トランスエステル化(trans-esterification)反応を行った(反応時間:8時間)。反応が完了すると、90℃まで冷却した後、アルカリ溶液(1M NaOH solution)を投入してから珪藻土を用いてフィルタリングした。その後、回転蒸発濃縮器を用いて、未反応アルコール、水および不純物を除去し、最終生成物である可塑剤組成物を取得した。
【0122】
取得した可塑剤組成物をGPC分析により、全重量に対するDEHCHの含量(重量%)など、組成物内のエステル系化合物の含量(重量%)を確認した。その結果は、下記表1に図示した。
【0123】
また、前記製造方法により製造されたエステル系可塑剤組成物を用いて試験片を作製した。試験片の作製は、PVC(重合度1000)400gに、可塑剤200g、複合熱安定剤(RUP-110)32gおよび炭酸カルシウム80gを配合し、ロールミルを170℃で3分間作業して1mmのシートを作製した。その後、プレス作業は、180℃で予熱3分、加熱10分、冷却3分間の作業後、厚さ3mmの試験片を作製した。
【0124】
前記試験片を使用して、前記評価方法により測定された物性結果を下記表1および表2に図示した。
【0125】
(実施例2)
前記実施例1の製造方法と同様に行うが、ジエチレングリコールを182.8gに増量して、最終生成物であるエステル可塑剤組成物を取得した。
【0126】
取得したエステル可塑剤組成物に対して、GPC分析により、全重量に対するDEHCHの含量(重量%)など、組成物内のエステル系化合物の含量(重量%)を確認した。その結果は、下記表1に図示した。また、前記実施例1と同じ方法で試験片を作製し、前記評価方法により測定された物性結果を下記表1および表2に図示した。
【0127】
(比較例1)
商用のシクロヘキサンジエステル(DEHCH、ハンファケミカル)を用いた。
【0128】
前記実施例1と同じ方法で試験片を作製し、前記評価方法により測定された物性結果を下記表1および表2に図示した。
【0129】
【表1】
【0130】
【表2】
【0131】
前記表1に図示したように、本発明によるエステル系可塑剤組成物を採用する場合、耐移行性および加熱減量に卓越した効果を発揮することが分かる。具体的には、本発明による全ての実施例において、0.08%以下の移行性および0.80%以下の加熱減量を満たすことを確認した。また、本発明によるすべての実施例では、商用の可塑剤であるシクロヘキサンジエステル(DEHCH、比較例1)に対して同等以上の硬度を示すことを確認した。
【0132】
前記表2に図示したように、本発明によるエステル系可塑剤組成物を採用する場合、商用の可塑剤であるシクロヘキサンジエステル(DEHCH、比較例1)に対して同等以上の引張強度および伸び率を実現できることは言うまでもなく、引張強度の変化率および伸び率の変化率においても相乗効果を提供した。また、耐熱老化試験でもその変化率が低かった。
【0133】
このような結果から、本発明による関係式を満たすエステル系可塑剤組成物は、耐移行性および加熱減量に卓越した効果を発揮できることは言うまでもなく、このような効果において、DEHCHの含量が減少するほど相乗効果を示すことを確認することができた。また、DEHCHの含量を減少させるために、反応条件(温度、圧力、時間など)を過酷に調節する場合、組成物内のDEHCHの含量を減少させるよりも、エステル系可塑剤の高分子化を誘導し、本発明による関係式を満たすことができず、これによる相乗効果を発揮することができない。
【0134】
以上、本発明は、特定の事項と限定された実施例および比較例により説明されているが、これは、本発明のより全般的な理解を容易にするために提供されたものであって、本発明は、前記の実施例に限定されるものではなく、本発明が属する分野において通常の知識を有する者であれば、このような記載から様々な修正および変形が可能である。
【0135】
したがって、本発明の思想は、上述の実施例に限定して定められてはならず、後述する特許請求の範囲だけでなく、本特許請求の範囲と均等もしくは等価的な変形があるすべてのものは、本発明の思想の範疇に属すると言える。