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特許7640725ダイナミックブレーキ回路を有するモータ駆動装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-25
(45)【発行日】2025-03-05
(54)【発明の名称】ダイナミックブレーキ回路を有するモータ駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/00 20160101AFI20250226BHJP
【FI】
H02P29/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023549201
(86)(22)【出願日】2021-09-21
(86)【国際出願番号】 JP2021034637
(87)【国際公開番号】W WO2023047468
(87)【国際公開日】2023-03-30
【審査請求日】2024-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 総
(72)【発明者】
【氏名】鹿川 力
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-022940(JP,A)
【文献】特開2020-048283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
登録モータに関して予め規定されたパラメータを記憶する記憶部と、
駆動中モータの入力端子間をダイナミックブレーキ抵抗を介して短絡することで前記駆動中モータに減速トルクを発生させて前記駆動中モータを制動するダイナミックブレーキ回路と、
前記ダイナミックブレーキ回路による制動開始時の前記駆動中モータの単位時間当たりの回転数と前記記憶部に記憶されている前記パラメータとを用いて、前記ダイナミックブレーキ回路による制動中に前記駆動中モータと前記ダイナミックブレーキ回路との間を流れるダイナミックブレーキ電流の推定値に関する情報を計算する計算部と、
前記ダイナミックブレーキ回路による制動中に前記駆動中モータと前記ダイナミックブレーキ回路との間を流れるダイナミックブレーキ電流の測定値に関する情報を取得する測定部と、
前記ダイナミックブレーキ電流の推定値に関する情報と前記ダイナミックブレーキ電流の測定値に関する情報との比較結果に基づいて、前記駆動中モータが前記登録モータと一致するか否かを判定する判定部と、
を備える、モータ駆動装置。
【請求項2】
前記測定部は、前記ダイナミックブレーキ回路による制動開始時から、前記駆動中モータと前記ダイナミックブレーキ回路との間を流れるダイナミックブレーキ電流の測定値の振幅が所定の振幅閾値以下になるまでの間、前記ダイナミックブレーキ電流の測定値に関する情報を取得する、請求項1に記載のモータ駆動装置。
【請求項3】
前記計算部は、前記ダイナミックブレーキ電流の推定値に関する情報として、前記推定値の電流ピーク値を計算し、
前記測定部は、前記ダイナミックブレーキ電流の測定値に関する情報として、前記測定値の電流ピーク値を取得し、
前記判定部は、前記推定値の電流ピーク値と前記測定値の電流ピーク値との差が所定の範囲外である場合、前記駆動中モータは前記登録モータと一致しないと判定する、請求項1または2に記載のモータ駆動装置。
【請求項4】
前記計算部は、前記ダイナミックブレーキ電流の推定値に関する情報として、前記ダイナミックブレーキ回路による制動開始時から前記駆動中モータの単位時間当たりの回転数が所定の閾値以下になるまでに要する時間である静定時間推定値を計算し、
前記測定部は、前記ダイナミックブレーキ電流の測定値に関する情報として、前記ダイナミックブレーキ回路による制動開始時から前記駆動中モータの単位時間当たりの回転数が所定の閾値以下になるまでに要する時間である静定時間測定値を取得し、
前記判定部は、前記静定時間推定値と前記静定時間測定値との差が所定の範囲外である場合、前記駆動中モータは前記登録モータと一致しないと判定する、請求項1または2に記載のモータ駆動装置。
【請求項5】
前記計算部は、前記ダイナミックブレーキ電流の推定値に関する情報として、前記推定値の電流波形を計算し、
前記測定部は、前記ダイナミックブレーキ電流の測定値に関する情報として、前記測定値の電流波形を取得し、
前記判定部は、前記推定値の電流波形と前記測定値の電流波形との差が所定の範囲外である場合、前記駆動中モータは前記登録モータと一致しないと判定する、請求項1または2に記載のモータ駆動装置。
【請求項6】
前記パラメータは、前記登録モータに関する機械摩擦、逆起電力係数、モータ抵抗の値、モータ極数、モータインダクタンス、及びロータ慣性モーメントのうちの少なくとも1つを含む請求項1~5のいずれか一項に記載のモータ駆動装置。
【請求項7】
前記登録モータは、当該モータ駆動装置との接続が許可されるものとして予め登録されたモータである、請求項1~6のいずれか一項に記載のモータ駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイナミックブレーキ回路を有するモータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械やロボットなどの機械の動力になるモータを駆動するモータ駆動装置では、モータの入力端子間を短絡させ発電制動をかけるダイナミックブレーキが広く用いられている。
【0003】
例えば、筐体内部の絶縁基板上に電子部品が搭載され、前記筐体外部に備えられた三相交流電動機を制御するパワー半導体モジュールであって、前記絶縁基板上に、互いに直列接続された上段側素子と下段側素子のペアを有する複数組のスイッチング素子と、該スイッチング素子に逆並列に接続されたダイオード素子と、前記三相交流電動機のうちいずれか二相間に設けられたダイナミックブレーキ用スイッチング素子と、を備えることを特徴とするパワー半導体モジュールが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
例えば、直流電力を3相の交流電力に変換する電力変換手段と、上記電力変換手段の出力線に流れる電流を相別に検出する電流検出手段と、上記出力線に流れる電流により駆動されるモータと、上記モータの回転速度を検出する速度検出手段と、上記モータが駆動外状態にあるときにバック接点により上記出力線のそれぞれを直接または電流制限手段を介して短絡するリレーと、上記モータが回転している状態で上記モータが駆動外状態にあるときにおける上記電流検出手段の検出出力と上記速度検出手段の検出出力とにより、上記リレーまたは上記電流制限手段の故障を検出する故障検出手段と、を備えたサーボ装置が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
例えば、モータに減速トルクを発生させるダイナミックブレーキ回路を有するモータ駆動装置であって、モータ回転数と、モータおよび前記ダイナミックブレーキ回路について予め規定されたパラメータと、に基づいて、前記ダイナミックブレーキ回路に流れるダイナミックブレーキ電流の値を計算するダイナミックブレーキ電流計算部と、前記ダイナミックブレーキ電流計算部により得られたダイナミックブレーキ電流の値に基づいて、ダイナミックブレーキ期間中に前記リレーの接点に印加されるダイナミックブレーキ電流によるジュール熱を計算するジュール熱計算部と、ダイナミックブレーキ開始時のダイナミックブレーキ電流の値と前記ダイナミックブレーキ開始時のダイナミックブレーキ電流の値に応じて前記リレーの接点近傍に発生するアークによるジュール熱との関係が規定されたテーブルが予め記憶された記憶部と、ダイナミックブレーキを実行するごとに、当該ダイナミックブレーキ開始時に前記ダイナミックブレーキ電流計算部により得られたダイナミックブレーキ電流の値に対応するものとして前記テーブルから取得されたアークによるジュール熱、当該ダイナミックブレーキ期間中に前記ジュール熱計算部により得られたダイナミックブレーキ電流によるジュール熱、または、これらアークによるジュール熱とダイナミックブレーキ電流によるジュール熱との合算値、を積算する積算部と、前記積算部により得られた積算値と予め設定された基準値とを比較し、比較結果を出力する比較部と、を備えることを特徴とするモータ駆動装置が知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-098919号公報
【文献】特開2000-253687号公報
【文献】特開2017-022940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
工作機械やロボットなどの機械においては、当該機械の動作に合わせて最適なモータが選定され、選定されたモータに合わせてモータ駆動装置が設計される。工作機械やロボットなどの機械は修理しながら長年にわたり使われる。機械の修理の際、機械の動力になるモータが、当初選定されていたモータとは異なるモータ、例えばメーカ純正のモータではなくサードパーティ製のモータやメーカ純正のモータであってもその機械の使用に適さないモータに交換されてしまうことがある。選定されたモータとは異なる仕様を有するモータに交換されてそのモータをモータ駆動装置に接続して動作させると、モータは想定外の動作をして当該機械、当該機械に組み込まれたモータ、及びそのモータを駆動するモータ駆動装置が故障したり、あるいは当該機械の周囲に悪影響を及ぼす。例えばモータに付与されたID情報に基づき機械の使用に適したメーカ純正のモータであるか否かを判定する方法が考えられるが、ID情報を記憶するための記憶部をモータに設ける必要があり、コスト高の要因となる。また、モータとモータ駆動装置との間でID情報を受け渡す処理など複雑な設計が必要であり、さらには、ID情報を記憶部に書き込む手間もかかる。したがって、想定通りのモータがついているか否かを要否に判定することができる低コストで製造容易なモータ駆動装置の実現が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様によれば、モータ駆動装置は、登録モータに関して予め規定されたパラメータを記憶する記憶部と、駆動中モータの入力端子間をダイナミックブレーキ抵抗を介して短絡することで駆動中モータに減速トルクを発生させて駆動中モータを制動するダイナミックブレーキ回路と、ダイナミックブレーキ回路による制動開始時の駆動中モータの単位時間当たりの回転数と記憶部に記憶されているパラメータとを用いて、ダイナミックブレーキ回路による制動中に駆動中モータとダイナミックブレーキ回路との間を流れるダイナミックブレーキ電流の推定値に関する情報を計算する計算部と、ダイナミックブレーキ回路による制動中に駆動中モータとダイナミックブレーキ回路との間を流れるダイナミックブレーキ電流の測定値に関する情報を取得する測定部と、ダイナミックブレーキ電流の推定値に関する情報とダイナミックブレーキ電流の測定値に関する情報との比較結果に基づいて、駆動中モータが登録モータと一致するか否かを判定する判定部とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一態様によれば、想定通りのモータがついているか否かを要否に判定することができる低コストで製造容易なモータ駆動装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の一実施形態によるモータ駆動装置を示す図である。
図2】本開示の一実施形態によるモータ駆動装置の動作フローを示すフローチャートである。
図3】本開示の一実施形態によるモータ駆動装置における計算部で計算されたダイナミックブレーキ電流の推定値の電流波形を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下図面を参照して、ダイナミックブレーキ回路を有するモータ駆動装置について説明する。各図面において、同様の部材には同様の参照符号が付けられている。また、理解を容易にするために、これらの図面は縮尺を適宜変更している。図示される形態は実施をするための1つの例であり、これらの形態に限定されるものではない。
【0012】
図1は、本開示の一実施形態によるモータ駆動装置を示す図である。
【0013】
本開示の一実施形態によるモータ駆動装置1により駆動されるモータを「駆動中モータ」と称する。また、モータ駆動装置1との接続が許可されるものとして予め登録されたモータを「登録モータ」を称する。駆動中モータ及び登録モータは、例えば誘導モータであっても同期モータであってもよい。例えば、登録モータは、設計時に工作機械やロボットなどの機械の動力として選定され当該機械に設けられたモータ駆動装置1との接続が許可されたモータとすることができ、あるいは純正メーカ製のモータとすることができる。登録モータとは異なるモータとしては、例えば純正メーカ製であっても設計当初の仕様とは異なるモータや、サードパーティ製のモータなどがある。
【0014】
本開示の一実施形態では、モータ駆動装置1との接続が許可されるモータを登録モータとしてあらかじめ登録しておき、駆動中モータに対するダイナミックブレーキ回路12による制動時に、駆動中モータが登録モータであるか否かを判定する。駆動中モータは登録モータと一致しないと判定された場合は、駆動中モータが、登録モータ(例えば、設計時に工作機械やロボットなどの機械の動力として予め選定されていたモータや純正メーカ製のモータなど)とは異なる想定外のモータ(例えば、純正メーカ製であっても設計当初の仕様とは異なるモータや、サードパーティ製のモータなど)であることから、作業者に対してその旨を報知する。
【0015】
本開示の一実施形態によるモータ駆動装置1は、コンバータ101と、インバータ102と、DCリンクコンデンサ103と、モータ制御部10と、記憶部11と、ダイナミックブレーキ回路12と、計算部13と、測定部14と、判定部15と、位置検出器16と、ブレーキ制御部17とを備える。
【0016】
コンバータ101は、交流電源2から供給される交流電力を直流電力に変換してDCリンクへ出力する。コンバータ101の例としては、ダイオード整流回路、120度通電型整流回路、及びPWMスイッチング制御方式の整流回路などがある。例えば、コンバータ101がPWMスイッチング制御方式の整流回路である場合は、スイッチング素子及びこれに逆並列に接続されたダイオードのブリッジ回路からなり、上位制御装置(図示せず)から受信した駆動指令に応じて各スイッチング素子がオンオフ制御されて交直双方向に電力変換を行う。半導体スイッチング素子の例としては、FETなどのユニポーラトランジスタ、バイポーラトランジスタ、IGBT、サイリスタ、GTOなどがあるが、半導体スイッチング素子の種類自体は本実施形態を限定するものではなく、その他の半導体スイッチング素子であってもよい。
【0017】
「DCリンク」とは、コンバータ101の直流出力側とインバータ102の直流入力側とを電気的に接続する回路部分のことを指し、「DCリンク部」、「直流リンク」、「直流リンク部」、「直流母線」あるいは「直流中間回路」などとも別称されることもある。DCリンクには、DCリンクコンデンサ103が設けられる。DCリンクコンデンサ103は、DCリンクにおいてエネルギー(直流電力)を蓄積する機能及びコンバータ101の直流側の出力の脈動分を抑える機能を有する。DCリンクコンデンサ103に電荷が充電されることにより、DCリンクに直流電力が蓄積されることになる。
【0018】
インバータ102は、DCリンクにおける直流電力と駆動中モータ3の駆動電力または回生電力である交流電力との間で電力変換を行う。インバータ102の例としては、内部に半導体スイッチング素子を備えるPWMインバータなどがある。半導体スイッチング素子は、例えば、FETなどのユニポーラトランジスタ、バイポーラトランジスタ、IGBT、サイリスタ、GTOなどで構成されるが、半導体スイッチング素子の種類自体は本実施形態を限定するものではなく、その他の半導体スイッチング素子であってもよい。
【0019】
モータ制御部10は、インバータ102の各半導体スイッチング素子をオンオフ制御するための駆動指令を生成し、これをインバータ102へ出力する。モータ制御部10は、位置検出器16により検出された駆動中モータ3の回転速度(速度フィードバック)、測定部14により検出されたインバータ102と駆動中モータ3との間の動力線に流れる電流(電流フィードバック)、所定のトルク指令、及び駆動中モータ3の動作プログラムなどに基づいて、インバータ102の電力変換動作を制御する。駆動中モータ3は、インバータ102から供給される交流電力に基づいて、速度、トルクまたは回転子の位置が制御される。なお、ここで説明したモータ制御部10の構成はあくまでも一例であって、例えば、位置指令生成部、位置制御部、速度制御部、電流制御部、トルク指令作成部などの用語を含めてモータ制御部10の構成を規定してもよい。
【0020】
記憶部11は、登録モータに関して予め規定されたパラメータを記憶する。記憶部11は、例えばEEPROM(登録商標)などのような電気的に消去・記録可能な不揮発性メモリ、または、例えばDRAM、SRAMなどのような高速で読み書きのできるランダムアクセスメモリなどで構成されてもよい。記憶部11にパラメータを記憶した後であっても必要に応じてパラメータを書き換えてもよい。パラメータには、登録モータに関するモータパラメータとして、機械摩擦Tf[kgm2]、逆起電力係数Kv[Vsec/rad]、モータ巻線抵抗の値Rm[Ω]、モータ極数p、モータインダクタンスLm[H]、及びロータ慣性モーメントJ[kgm2]のうちの少なくとも1つが含まれる。また、記憶部11には、ダイナミックブレーキ回路12に関するダイナミックブレーキ回路パラメータとして、ダイナミックブレーキ抵抗21の値RDB[Ω]も記憶される。
【0021】
ダイナミックブレーキ(DB)回路12は、ダイナミックブレーキ抵抗21と、このダイナミックブレーキ抵抗21に直列に接続されるスイッチ22とを有する。図示のように、ダイナミックブレーキ抵抗21とスイッチ22とからなる直列回路は、駆動中モータ3の入力端子間(駆動中モータ3の巻線の相間)に設けられる。スイッチ22は、リレーや半導体スイッチング素子などで構成され、後述するブレーキ制御部17により生成されるブレーキ指令(オン/オフ指令)によりオンオフが制御される。ダイナミックブレーキ回路12により駆動中モータ3を制動する際は、インバータ102による駆動中モータ3への駆動電力の供給を遮断した上で、ブレーキ制御部17はブレーキ指令としてオン指令を出力し、ダイナミックブレーキ回路12においてスイッチ22をオンして駆動中モータ3の入力端子間をダイナミックブレーキ抵抗21を介して短絡する。その際、駆動中モータ3は電源から電気的に切り離されても界磁磁束が存在し、惰性により回転している駆動中モータ3は発電機として働くため、これにより発生したダイナミックブレーキ電流はオンしたスイッチ22を介してダイナミックブレーキ抵抗21に流れ込み、ダイナミックブレーキ抵抗21でジュール熱に変換されて消費され、その結果、駆動中モータ3に減速トルクが発生する。この減速トルクにより駆動中モータ3を制動し、最終的に駆動中モータ3は停止する。
【0022】
計算部13は、ダイナミックブレーキ回路12による制動開始時に位置検出器16により検出された駆動中モータ3の単位時間当たりの回転数と記憶部11に記憶されているパラメータとを用いて、ダイナミックブレーキ回路12による制動中に駆動中モータ3とダイナミックブレーキ回路12との間を流れるダイナミックブレーキ電流の推定値に関する情報を計算する。
【0023】
ダイナミックブレーキ電流の推定値に関する情報を計算する際に用いられる計算式としては、例えば以下のようにして導出された式を用いることができる。
【0024】
駆動中モータ3に対してダイナミックブレーキ回路12による制動をかけるためにスイッチ22をオンしたとき、駆動中モータ3の制動のためのエネルギー消費に寄与するエネルギー消費寄与抵抗の値R[Ω]は、モータ巻線抵抗の値をRm[Ω]、ダイナミックブレーキ抵抗21の値をRDB[Ω]としたとき、式1のように表される。
【0025】
【数1】
【0026】
駆動中モータ3の逆起電力定数をKv[Vsec/rad]、回転角速度をω[rad/sec]、モータ極数をpとして、駆動中モータ3の三相のうち1相目のステータ電圧をeI[V]を式2のように表す。
【0027】
【数2】
【0028】
駆動中モータ3の三相のうち1相目の電流をiI[A]としたとき、式3の回路方程式が成り立つ。
【0029】
【数3】
【0030】
Dを微分演算子とすると、式3は式4のように表すことができる。
【0031】
【数4】
【0032】
Cを定数とする余関数として式5を定義する。
【0033】
【数5】
【0034】
しかし、式6が成立することからiIは周期関数であり、C=0である。
【0035】
【数6】
【0036】
X及びYを定数として式7で表される特殊解が得られる。
【0037】
【数7】
【0038】
上記特殊解を式3に代入した式を式2と比較することで、式8及び式9が得られる。
【数8】
【0039】
【数9】
【0040】
ここで、X及びYは、式10及び式11のように表される。
【0041】
【数10】
【0042】
【数11】
【0043】
上記格式を整理すると、1相目の電流をiI[A]は、式12のように表すことができる。
【0044】
【数12】
【0045】
ここで、θαは式13のように表される。
【0046】
【数13】
【0047】
2相目のステータ電圧eII及び電流iII、3相目のステータ電圧eIII及び電流iIIIは1相目のステータ電圧eI及び電流iIと位相が2/3π、-2/3πずつずれているので、ステータ電力P[W]は式14のように表すことができる。
【0048】
【数14】
【0049】
ここで、トルク定数Kt[N・m/Ap]は式15のように表される。
【0050】
【数15】
【0051】
cosθαは式16のように表すことができる。
【0052】
【数16】
【0053】
式14に式15及び式16を代入すると、式17で表すような駆動中モータ3のステータの電力P[W]が得られる。
【0054】
【数17】
【0055】
駆動中モータ3のステータに加えられたエネルギーとロータのエネルギーは等しいので(トルク×角度=電力×時間)、式18が成り立つ。式18において、駆動中モータ3のロータのトルクをT[N]とし、ロータの回転角をθ[rad]とする。
【0056】
【数18】
【0057】
式18に式17を代入して整理すると式19が得られる。ロータの回転角速度をω[rad/sec]とする。
【0058】
【数19】
【0059】
駆動中モータ3のロータの運動方程式は式20で表される。
【0060】
【数20】
【0061】
式20に式19で表されるトルクT[N]を代入して解くと、式21が得られる。
【0062】
【数21】
【0063】
ここで、A、B、α、β、δ、及びγは式22のように表される。
【0064】
【数22】
【0065】
以上より、式23の方程式が得られる。
【0066】
【数23】
【0067】
1を積分定数として式23の両辺を積分すると式24が得られる。
【0068】
【数24】
【0069】
式24において、ダイナミックブレーキ回路12による制動開始時の時刻をt=0とし、このときの回転角速度をω0[rad/sec]としたとき、数初期条件t=0でω=ω0より積分定数C1は式25のように表される。
【0070】
【数25】
【0071】
ダイナミックブレーキ回路12による制動開始時の駆動中モータ3の回転角速度ω0[rad/sec]は、ダイナミックブレーキ回路12による制動開始時の駆動中モータ3の単位時間当たりの回転数N0[rotation/sec]を用いて式26のように表される。
【0072】
【数26】
【0073】
式24に式25を代入して整理すると、式27が得られる。
【0074】
【数27】
【0075】
以上まとめると、ダイナミックブレーキ回路12による制動開始時の時刻をt=0としたとき、駆動中モータ3とダイナミックブレーキ回路12との間を流れる各時刻tにおけるダイナミックブレーキ電流の推定値iDB(ωt)[A]は、式12に基づいて、式28のように表すことができる。式28において、θαは式29で表される。
【0076】
【数28】
【0077】
【数29】
【0078】
また、ダイナミックブレーキ回路12による制動開始後の駆動中モータ3の回転角速度ω[rad/sec]と時刻tとの関係は、式27に基づいて、式30のように表すことができる。
【0079】
【数30】
【0080】
式30において、各定数は式31で表される。
【0081】
【数31】
【0082】
式28に基づき、式32に示すダイナミックブレーキ電流の推定値の電流ピーク値iDBpeak[A]が得られる。
【0083】
【数32】
【0084】
また、ダイナミックブレーキ回路12による制動開始時(t=0)から駆動中モータ3の単位時間当たりの回転数が所定の閾値以下になるまでに要する時間である静定時間推定値tset[sec]は、式30においてω=0を代入することで、式33のように表すことができる。ここで、所定の閾値は、0に近い微小値に設定される。駆動中モータ3の単位時間当たりの回転数が所定の閾値以下になる(0に近い値になる)ことは、すなわちダイナミックブレーキ電流が0に近い値になったことと等価とみなしてもよい。
【0085】
【数33】
【0086】
計算部13は、ダイナミックブレーキ回路12による制動開始時に位置検出器16により検出された駆動中モータ3の単位時間当たりの回転数と記憶部11に記憶されているパラメータとを用いて、ダイナミックブレーキ回路12による制動の際に発生するダイナミックブレーキ電流の推定値に関する情報として、式32に示す推定値の電流ピーク値iDBpeak[A]、式33に示す静定時間推定値tset[sec]、または、各時刻tにおけるダイナミックブレーキ電流の推定値の電流波形を示す式28に示すダイナミックブレーキ電流の推定値iDB(ωt)[A]のいずれかを計算する。図3は、本開示の一実施形態によるモータ駆動装置における計算部で計算されたダイナミックブレーキ電流の推定値の電流波形を例示する図である。図示の例では、ダイナミックブレーキ回路12による制動開始時である時刻t=0から0.668[sec]後にダイナミックブレーキ電流の推定値がゼロになっているので、静定時間推定値tset[sec]は0.668[sec]である。
【0087】
なお、上述したダイナミックブレーキ電流の推定値に関する情報を計算する際に用いられる計算式は一例であって、これ以外の計算式を用いてダイナミックブレーキ電流の推定値に関する情報を計算してもよい。
【0088】
測定部14は、ダイナミックブレーキ回路12による制動中に駆動中モータ3とダイナミックブレーキ回路12との間を流れるダイナミックブレーキ電流の測定値に関する情報を取得する。駆動中モータ3とダイナミックブレーキ回路12との間を結ぶ動力線に設けられた電流センサによって、ダイナミックブレーキ電流の測定値はダイナミックブレーキ回路12による制動開始時から微小時間ごとに逐次測定され、電流波形としてメモリ(図示せず)に逐次記憶される。測定部14は、メモリに記憶された電流波形から、ダイナミックブレーキ電流の測定値の電流ピーク値、ダイナミックブレーキ回路12による制動開始時から駆動中モータ3の単位時間当たりの回転数が所定の閾値以下になるまでに要する時間である静定時間測定値、または、各時刻tにおけるダイナミックブレーキ電流の測定値(電流波形)のいずれかを取得する。測定部14によるダイナミックブレーキ電流の測定値に関する情報の取得は、ダイナミックブレーキ回路12による制動開始時t=0から、駆動中モータ3とダイナミックブレーキ回路12との間を流れるダイナミックブレーキ電流の測定値の振幅が所定の振幅閾値以下になるまでの間、実行される。振幅閾値は、0(ゼロ)に近い微小値に設定することで、ダイナミックブレーキ回路12による駆動中モータ3の制動により駆動中モータ3が停止してダイナミックブレーキ電流が0になったことを検知することができる。
【0089】
判定部15は、計算部13により計算されたダイナミックブレーキ電流の推定値に関する情報と測定部14により取得されたダイナミックブレーキ電流の測定値に関する情報との比較結果に基づいて、駆動中モータ3が登録モータと一致するか否かを判定する。すなわち、判定部15は、ダイナミックブレーキ電流の推定値に関する情報とダイナミックブレーキ電流の測定値に関する情報とが一致する場合は、駆動中モータ3が登録モータと一致すると判定し、ダイナミックブレーキ電流の推定値に関する情報とダイナミックブレーキ電流の測定値に関する情報とが一致しない場合は、駆動中モータ3が登録モータと一致しないと判定する。
【0090】
判定部15による判定結果は、表示部(図示せず)に送られ、表示部は、判定結果として、「駆動中モータは登録モータと一致しないこと」または「駆動中モータは登録モータと一致すること」を表示する。表示部の例としては、単体のディスプレイ装置、モータ駆動装置1に付属のディスプレイ装置、上位制御装置(図示せず)に付属のディスプレイ装置、並びに、パソコン及び携帯端末に付属のディスプレイ装置、LEDやランプなどの発光機器などがある。また例えば、表示部がLEDやランプなどの発光機器で構成される場合は、発光機器はアラーム受信時に発光することで、「駆動中モータは登録モータと一致しないこと」または「駆動中モータは登録モータと一致すること」を作業者に報知する。また例えば、判定部15による判定結果は、例えば音響機器(図示せず)に送られ、音響機器は例えば音声、スピーカ、ブザー、チャイムなどのような音を発することで、「駆動中モータは登録モータと一致しないこと」または「駆動中モータは登録モータと一致すること」を作業者に報知する。判定部15による判定結果により、作業者は、駆動中モータ3が登録モータと一致しているか否かを容易に把握することができる。
【0091】
また、判定部15による判定結果はモータ制御部10に送られ、モータ制御部10は、判定部15により駆動中モータ3が登録モータと一致しないと判定された場合は、インバータ102に対して停止するよう制御するようにしてもよい。
【0092】
このように、本開示の一実施形態によれば、駆動中モータ3が、登録モータ(例えば、設計時に工作機械やロボットなどの機械の動力として予め選定されていたモータや純正メーカ製のモータなど)とは異なる想定外のモータ(例えば、純正メーカ製であっても設計当初の仕様とは異なるモータや、サードパーティ製のモータなど)であるか否かを判定することができる。本開示の一実施形態によれば、駆動中モータ3を駆動するモータ駆動装置1内に設けられたダイナミックブレーキ回路12の機能に付随して、駆動中モータ3が登録モータと一致するか否かを判定するので、モータに付与されたID情報に基づき判定処理を行う場合に比べ、製造が容易であり、低コストである。
【0093】
ここで、判定部15による判定処理の形態について、いくつか列記する。
【0094】
第1の形態による判定処理は、ダイナミックブレーキ電流の電流ピーク値に基づいて、駆動中モータ3が登録モータと一致するか否かを判定するものである。計算部13は、ダイナミックブレーキ電流の推定値に関する情報として、例えば式32に従って、ダイナミックブレーキ電流の推定値の電流ピーク値を計算する。測定部14は、ダイナミックブレーキ電流の測定値に関する情報として、ダイナミックブレーキ電流の測定値の電流ピーク値を取得する。判定部15は、ダイナミックブレーキ電流の推定値の電流ピーク値とダイナミックブレーキ電流の測定値の電流ピーク値との差が、所定の範囲外である場合は駆動中モータ3は登録モータと一致しないと判定し、所定の範囲内である場合は駆動中モータ3は登録モータと一致すると判定する。ここで、上記所定の範囲は、ダイナミックブレーキ電流の電流ピーク値の例えば±30%程度に設定されてもよいが、ここで挙げた数値はあくまでも一例であってその他の数値であってもよい。なお、上記所定の範囲については、書き換え可能な記憶部(図示せず)に記憶されて外部機器によって書き換え可能であってもよく、上記所定の範囲を一旦設定した後であっても、必要に応じて適切な値に変更することができる。
【0095】
第2の形態による判定処理は、ダイナミックブレーキ回路12による制動開始時(t=0)から駆動中モータ3の単位時間当たりの回転数が所定の閾値以下になるまでに要する時間である静定時間に基づいて、駆動中モータ3が登録モータと一致するか否かを判定するものである。計算部13は、ダイナミックブレーキ電流の推定値に関する情報として、例えば式33に従って、ダイナミックブレーキ回路12による制動開始時から駆動中モータ3の単位時間当たりの回転数が所定の閾値以下になるまでに要する時間である静定時間推定値を計算する。測定部14は、ダイナミックブレーキ電流の測定値に関する情報として、ダイナミックブレーキ回路12による制動開始時から駆動中モータ3の単位時間当たりの回転数が所定の閾値以下になるまでに要する時間である静定時間測定値を取得する。判定部15は、静定時間推定値と静定時間測定値との差が、所定の範囲外である場合は駆動中モータ3は登録モータと一致しないと判定し、所定の範囲内である場合は駆動中モータ3は登録モータと一致すると判定する。ここで、所定の範囲は、静定時間推定値の例えば±30%程度に設定されてもよいが、ここで挙げた数値はあくまでも一例であってその他の数値であってもよい。なお、上記所定の範囲については、書き換え可能な記憶部(図示せず)に記憶されて外部機器によって書き換え可能であってもよく、上記所定の範囲を一旦設定した後であっても、必要に応じて適切な値に変更することができる。
【0096】
第3の形態による判定処理は、ダイナミックブレーキ回路12による制動中のダイナミックブレーキ電流の電流波形に基づいて、駆動中モータ3が登録モータと一致するか否かを判定するものである。計算部13は、ダイナミックブレーキ電流の推定値に関する情報として、例えば式28に従って、ダイナミックブレーキ電流の推定値の電流波形を計算する。測定部14は、ダイナミックブレーキ電流の測定値に関する情報として、ダイナミックブレーキ電流の測定値の電流波形を取得する。判定部15は、ダイナミックブレーキ電流の推定値の電流波形とダイナミックブレーキ電流の測定値の電流波形との差を微小時間ごとに比較していき、例えば数ミリ秒にわたって所定の範囲外である場合は駆動中モータ3は登録モータと一致しないと判定し、例えば数ミリ秒にわたって所定の範囲内である場合は駆動中モータ3は登録モータと一致すると判定する。ここで、所定の範囲は、ダイナミックブレーキ電流の振幅の例えば±30%程度に設定されてもよいが、ここで挙げた数値はあくまでも一例であってその他の数値であってもよい。なお、上記所定の範囲については、書き換え可能な記憶部(図示せず)に記憶されて外部機器によって書き換え可能であってもよく、上記所定の範囲を一旦設定した後であっても、必要に応じて適切な値に変更することができる。
【0097】
図2は、本開示の一実施形態によるモータ駆動装置の動作フローを示すフローチャートである。
【0098】
モータ制御部10の制御によりインバータ102から供給される交流電流にて駆動中モータ3を駆動している状態において(ステップS101)、ステップS102において、計算部13及び測定部14は、ダイナミックブレーキ回路12により駆動中モータ3を制動が開始されたか否かを判定する。ダイナミックブレーキ回路12により駆動中モータ3を制動が開始されたことは、ブレーキ制御部から出力されるブレーキ指令がオフ指令からオン指令に切り替わったことをもって判定することができる。ダイナミックブレーキ回路12により駆動中モータ3を制動が開始されると、モータ制御部10はインバータ102に対して駆動中モータ3への駆動電力の供給を遮断するよう制御し、また、ダイナミックブレーキ回路12はスイッチ22をオンして駆動中モータ3の入力端子間をダイナミックブレーキ抵抗21を介して短絡する。これにより発生したダイナミックブレーキ電流はオンしたスイッチ22を介してダイナミックブレーキ抵抗21に流れ込み、ダイナミックブレーキ抵抗21でジュール熱に変換されて消費され、その結果、駆動中モータ3に減速トルクが発生する。この減速トルクにより駆動中モータ3を制動する。
【0099】
ステップS102において、ダイナミックブレーキ回路12により駆動中モータ3を制動が開始されたと判定された場合はステップS103及びS105へ進み、ダイナミックブレーキ回路12により駆動中モータ3を制動が開始されたと判定されなかった場合はステップS101へ戻る。
【0100】
計算部13は、ステップS103において、記憶部11に記憶されたパラメータを取得するとともに、位置検出器16からダイナミックブレーキ回路12による駆動中モータ3を制動開始時の単位時間当たりの回転数を取得する。次いで、計算部13は、ステップS104において、ダイナミックブレーキ回路12による制動開始時に位置検出器16により検出された駆動中モータ3の単位時間当たりの回転数と記憶部11に記憶されているパラメータとを用いて、ダイナミックブレーキ回路12による制動中に駆動中モータ3とダイナミックブレーキ回路12との間を流れるダイナミックブレーキ電流の推定値に関する情報を計算する。その後、ステップS107へ進む。
【0101】
一方、測定部14は、ステップS105において、ダイナミックブレーキ回路12による制動中に駆動中モータ3とダイナミックブレーキ回路12との間を流れるダイナミックブレーキ電流の測定値に関する情報を取得する。次いで、測定部14は、ステップS106において、ダイナミックブレーキ電流の測定値の振幅が所定の振幅閾値以下になったか否かを判定する。ダイナミックブレーキ電流の測定値の振幅が所定の振幅閾値以下になったと判定された場合はステップS107へ進み、ダイナミックブレーキ電流の測定値の振幅が所定の振幅閾値以下になったと判定されなかった場合はステップS105へ戻る。ステップS105及びS106を経ることで、ダイナミックブレーキ回路12による制動開始時t=0から、駆動中モータ3とダイナミックブレーキ回路12との間を流れるダイナミックブレーキ電流の測定値の振幅が所定の振幅閾値以下になるまでの間、測定部14によるダイナミックブレーキ電流の測定値に関する情報の取得が実行されることになる。
【0102】
ステップS107において、判定部15は、計算部13により計算されたダイナミックブレーキ電流の推定値に関する情報と測定部14により取得されたダイナミックブレーキ電流の測定値に関する情報とが一致するか否かを判定する。ステップS107においてダイナミックブレーキ電流の推定値に関する情報とダイナミックブレーキ電流の測定値に関する情報とが一致すると判定された場合は、ステップS108において、判定部15は、駆動中モータは登録モータと一致すると判定する。ステップS107においてダイナミックブレーキ電流の推定値に関する情報とダイナミックブレーキ電流の測定値に関する情報とが一致しないと判定された場合は、ステップS108において、判定部15は、駆動中モータは登録モータと一致しないと判定する。判定部15による判定結果は、表示部(図示せず)に送られ、表示部は、判定結果として、「駆動中モータは登録モータと一致しないこと」または「駆動中モータは登録モータと一致すること」を表示する。また例えば、表示部がLEDやランプなどの発光機器で構成される場合は、発光機器はアラーム受信時に発光することで、「駆動中モータは登録モータと一致しないこと」または「駆動中モータは登録モータと一致すること」を作業者に報知する。また例えば、判定部15による判定結果は、例えば音響機器(図示せず)に送られ、音響機器は例えば音声、スピーカ、ブザー、チャイムなどのような音を発することで、「駆動中モータは登録モータと一致しないこと」または「駆動中モータは登録モータと一致すること」を作業者に報知する。これにより、作業者は、駆動中モータ3が登録モータと一致しているか否かを容易に把握することができる。
【0103】
なお、ダイナミックブレーキ回路12による制動開始時の駆動中モータ3の単位時間あたりの回転数が低い場合は、ダイナミックブレーキ電流の推定値及び測定値の振幅が小さくなり、静定時間推定値及び静定時間測定値も短くなるため、判定部15による判定処理の精度が低下する可能性がある。そこで、ステップS102においてダイナミックブレーキ回路12により駆動中モータ3の制動が開始されたと判定された後に、ダイナミックブレーキ回路12による制動開始時の駆動中モータの回転数が所定の回転数閾値以上であるか否かを判定する処理を設け、ダイナミックブレーキ回路12による制動開始時の駆動中モータの回転数が所定の回転数閾値以上であると判定された場合にステップS103及びS105へ進み、ダイナミックブレーキ回路12による制動開始時の駆動中モータの回転数が所定の回転数閾値以上であると判定されなかった場合はそのままダイナミックブレーキ回路12による制動処理のみを実行して処理を終了するようにしてもよい。
【0104】
また、モータパラメータのうち、ロータ慣性モーメントJ[kgm2]は、モータにかかる負荷によって値が異なるので、判定部15による判定処理の精度に影響を与える可能性がある。そこで、ステップS102においてダイナミックブレーキ回路12により駆動中モータ3の制動が開始されたと判定された後に、作業者に対して、表示部(図示せず)を介してロータ慣性モーメントJ[kgm2]の入力を要求する処理を設けてもよい。作業者は、ロータ慣性モーメントJ[kgm2]の入力が要求されたとき、ロータ慣性モーメントJ[kgm2]を入力部(図示せず)を介して入力して記憶部11に書き込み、その後、ステップS103及びS105へ進むようにする。これにより、判定部15による判定精度をより一層向上させることができる。
【0105】
以上説明したモータ駆動装置1内には、演算処理装置(プロセッサ)が設けられる。演算処理装置としては、例えばIC、LSI、CPU、MPU、DSPなどがある。この演算処理装置は、モータ制御部10と、計算部13と、測定部14と、判定部15と、ブレーキ制御部17とを有する。演算処理装置が有するこれらの各部は、例えば、プロセッサ上で実行されるコンピュータプログラムにより実現される機能モジュールである。例えば、モータ制御部10、計算部13、測定部14、判定部15、及びブレーキ制御部17をコンピュータプログラム形式で構築する場合は、演算処理装置をこのコンピュータプログラムに従って動作させることで、各部の機能を実現することができる。モータ制御部10、計算部13、測定部14、判定部15、及びブレーキ制御部17の各処理を実行するためのコンピュータプログラムは、半導体メモリ、磁気記録媒体または光記録媒体といった、コンピュータ読取可能な記録媒体に記録された形で提供されてもよい。またあるいは、モータ制御部10、計算部13、測定部14、判定部15、及びブレーキ制御部17を、各部の機能を実現するコンピュータプログラムを書き込んだ半導体集積回路として実現してもよい。また、記憶部11は、例えばEEPROM(登録商標)などのような電気的に消去可能及び記録可能な不揮発性メモリ、または、例えばDRAM、SRAMなどのような高速で読み書きのできるランダムアクセスメモリなどで構成されてもよい。
【符号の説明】
【0106】
1 モータ駆動装置
2 交流電源
3 駆動中モータ
10 モータ制御部
11 記憶部
12 ダイナミックブレーキ回路
13 計算部
14 測定部
15 判定部
16 位置検出器
17 ブレーキ制御部
21 ダイナミックブレーキ抵抗
22 スイッチ
101 コンバータ
102 インバータ
103 DCリンクコンデンサ
図1
図2
図3