(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-25
(45)【発行日】2025-03-05
(54)【発明の名称】大豆由来食材の異臭低減用組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20250226BHJP
A23L 27/20 20160101ALI20250226BHJP
A23L 11/00 20250101ALI20250226BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20250226BHJP
A23L 29/00 20160101ALI20250226BHJP
A23J 3/16 20060101ALN20250226BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L27/20 G
A23L27/20 D
A23L11/00 A
A23L5/00 H
A23L29/00
A23J3/16
(21)【出願番号】P 2024146492
(22)【出願日】2024-08-28
【審査請求日】2024-08-28
(31)【優先権主張番号】P 2024019791
(32)【優先日】2024-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【氏名又は名称】森本 敏明
(72)【発明者】
【氏名】小松崎 愛里
(72)【発明者】
【氏名】池田 円香
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 良知
【審査官】三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-120819(JP,A)
【文献】特開昭55-003753(JP,A)
【文献】特許第7431364(JP,B1)
【文献】特許第7431376(JP,B1)
【文献】Food Chemistry,2022年,374 131652
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A23J
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下(1)
及び(3)のいずれかの有効成分を含む、大豆由来食材の異臭低減用組成物。
(1)5-ヘキセン酸メチ
ル
(3)5-ヘキセン酸メチル及び2-ビニルピラジン
【請求項2】
前記組成物が前記有効成分(1)を含む場合、前記有効成分(1)における5-ヘキセン酸メチルの含有量は、前記組成物の全量に対して、5ppb~10,000ppbである、及び/又は
前記組成物が前記有効成分(3)を含む場合、前記有効成分(3)における5-ヘキセン酸メチルの含有量は、前記組成物の全量に対して、3ppb~10,000ppbであり、かつ2-ビニルピラジンの含有量は、前記組成物の全量に対して、5ppb以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が前記有効成分(1)を含む場合、前記組成物は、前記有効成分(1)における5-ヘキセン酸メチルの含有量
が使用される大豆由来食材の全量に対し
て75ppb~150,000ppbになるような量で
使用される、及び/又は
前記組成物が前記有効成分(3)を含む場合、前記組成物は、前記有効成分(3)における5-ヘキセン酸メチルの含有量
が使用される大豆由来食材の全量に対し
て45ppb~150,000ppbになるような量
で、かつ2-ビニルピラジンの含有量
が使用される大豆由来食材の全量に対し
て75ppb以上になるような量で
使用される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記大豆由来食材は、大豆及び大豆加工品からなる群から選択される少なくとも1種の大豆由来食材である、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
大豆由来食材と、5-ヘキセン酸メチ
ル又は5-ヘキセン酸メチル及び2-ビニルピラジンとを接触させて、大豆由来食材の異臭を低減する工程を含む、大豆由来食材の異臭低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大豆由来食材の異臭を低減するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
食事の主菜としては、肉料理及び魚料理が嗜まれるのが一般的である。しかし、近年では、ベジタリアンと呼ばれる菜食主義者に加えて、肉類及び魚類だけでなく、乳製品及び卵を含む動物由来食材を一切食さないヴィーガン(Vegan)と呼ばれる完全菜食主義者の人口が増加している。ヴィーガンが食するのは、植物由来食材が用いられ、かつ動物由来食材が用いられていない植物性食品である。植物由来食材の一種として大豆に由来する大豆由来食材がある。大豆由来食材は、肉を代替する食材としても注目を浴びている。
【0003】
しかし、大豆は、特有の臭いを有し、加工態様によってその臭いは際立つことがある。このような大豆臭は、大豆由来食材又は大豆由来食材を用いた食品の嗜好性を低下させるという問題がある。大豆臭が発生しやすい大豆由来食材としては、大豆たんぱくなどの大豆加工品がある。大豆たんぱくを含みながら、大豆たんぱくの加熱劣化臭を低減した食品としては、茶類より抽出されたポリフェノール類を添加して得られる食品、フェネチルアセテート又はγ-ラクトン類を含む食品などが知られている(例えば、特許文献1~3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3432614号
【文献】特許第7024054号
【文献】特開2022-127549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の食品で使用している茶抽出物は、苦味といった異味及び着色を食品へもたらし得るという問題がある。
【0006】
特許文献2及び3に記載の食品で使用しているフェネチルアセテート及びγ-ラクトン類は、これらの特有の香りを感じる閾値が数千ppbと比較的低い。そこで、レトルトパウチに充填して加熱殺菌する食品のように、密閉された空間内で加熱された容器詰の食品に使用する場合は、フェネチルアセテート及びγ-ラクトン類の使用量が限定されるという問題がある。
【0007】
一方、食品へ異味及び着色を付与せず、かつ香りの閾値が比較的高い、大豆由来食材に起因する異臭を低減し得る物質はほとんど知られていない。
【0008】
そこで、本発明は、食品へ異味及び着色を付与せず、かつ香りの閾値が比較的高い成分を有効成分とする、大豆由来食材の異臭低減用組成物を提供することを、本発明が解決しようとする課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を積み重ね、数多くの成分を単独で、又は適宜組み合せて、そのままで、又は様々な加工処理に供することにより、大豆由来食材の異臭を低減し得る成分を得ようと試行錯誤した。
【0010】
そして、数々の検討を重ねた結果、驚くべきことに、食品へ異味及び着色を付与せず、かつ香りの閾値が比較的高い5-ヘキセン酸メチル及び2-ビニルピラジンが大豆由来食材の異臭を低減できることを本発明者らは見出した。さらに驚くべきことに、5-ヘキセン酸メチル及び2-ビニルピラジンの組合せは、それらの単独の作用と比較すると、相加的ではなく、相乗的に大豆由来食材の異臭を低減できるという驚くべき予想外の知見を本発明者らは見出した。
【0011】
このような知見の下で、本発明者らは、本発明の課題を解決するものとして、5-ヘキセン酸メチル及び/又は2-ビニルピラジンを有効成分として含む、大豆由来食材の異臭低減用組成物を創作することに成功した。本発明はこのような本発明者らによって初めて得られた知見及び成功例に基づいて完成するに至った発明である。
【0012】
したがって、本発明の一側面によれば、以下の各態様が提供される:
[1]以下(1)~(3)のいずれかの有効成分を含む、大豆由来食材の異臭低減用組成物。
(1)5-ヘキセン酸メチル
(2)2-ビニルピラジン
(3)5-ヘキセン酸メチル及び2-ビニルピラジン
[2]前記有効成分(1)における5-ヘキセン酸メチルの含有量は、前記組成物の全量に対して、5ppb~10,000ppbである、及び/又は
前記有効成分(2)における2-ビニルピラジンの含有量は、前記組成物の全量に対して、80,000以上である、及び/又は
前記有効成分(3)における5-ヘキセン酸メチルの含有量は、前記組成物の全量に対して、3ppb~10,000ppbであり、かつ2-ビニルピラジンの含有量は、前記組成物の全量に対して、5ppb以上である、項目[1]に記載の組成物。
[3]前記有効成分(1)における5-ヘキセン酸メチルの含有量は、使用される大豆由来食材の全量に対して、75ppb~150,000ppbになるような量である、及び/又は
前記有効成分(2)における2-ビニルピラジンの含有量は、使用される大豆由来食材の全量に対して、1,200,000ppb以上になるような量である、及び/又は
前記有効成分(3)における5-ヘキセン酸メチルの含有量は、使用される大豆由来食材の全量に対して、45ppb~150,000ppbになるような量であり、かつ2-ビニルピラジンの含有量は、使用される大豆由来食材の全量に対して、75ppb以上になるような量である、項目[1]に記載の組成物。
[4]前記大豆由来食材は、大豆及び大豆加工品からなる群から選択される少なくとも1種の大豆由来食材である、項目[1]~[3]のいずれか1項に記載の組成物。
[5]大豆由来食材と、5-ヘキセン酸メチル、2-ビニルピラジン又は5-ヘキセン酸メチル及び2-ビニルピラジンとを接触させて、大豆由来食材の異臭を低減する工程を含む、大豆由来食材の異臭低減方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、レトルト臭、大豆臭などの大豆由来食材に起因する異臭を低減することにより、所望の優れた風味を有する大豆由来食材を含む食品を製造することが可能である。また、本発明によれば、ベジタリアン及びヴィーガンの食事の用に供される、嗜好性の高い植物性食品を製造することができる。
【0014】
本発明の一態様の組成物は、簡便な製造方法によって得られるものであることから、工業的規模で大量に生産することができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の各態様の詳細について説明するが、本発明は、本項目の事項によってのみに限定されず、本発明の目的を達成する限りにおいて種々の態様をとり得る。
【0016】
本明細書における各用語は、別段の定めがない限り、調味料を含む食品の分野の当業者により通常用いられている意味で使用され、不当に限定的な意味を有するものとして解釈されるべきではない。また、本明細書においてなされている推測及び理論は、本発明者らのこれまでの知見及び経験によってなされたものであることから、本発明はこのような推測及び理論のみによって拘泥されるものではない。
【0017】
「組成物」は、通常用いられている意味のものとして特に限定されないが、例えば、2種以上の成分が組み合わさってなる物が挙げられる。「食材」及び「(原)材料」は、組成物を製造する際に使用(添加)される物を意味し、成分と同意義である。「食材」及び「(原)材料」は、組成物においては使用前と比べて質的及び/若しくは量的に維持又は変化した状態で存在し得る。
「含有量」は、濃度及び添加量(使用量)と同義であり、組成物の全体量に対する成分の量の割合を意味する。ただし、成分の含有量の総量は、100%を超えることはない。「w/v%」は「%(w/v)」と同義である質量体積パーセント濃度を表し、「vol%」は「%(v/v)」と同義である体積パーセント濃度を表し、「wt%」は「%(w/w)」と同義である質量パーセント濃度を表す。なお、成分の含有量は、市販品を用いる場合は、市販品に含まれる成分の量であることが好ましいが、市販品自体の量であってもよい。
「食品」は、食料品、飲料品又はその両方を意味する。食品は、食材を調理して得られる加工食品を包含する。「植物性食品」は主として植物由来食材が用いられ、かつ動物由来食材が用いられていない食品を意味する。
「容器詰」は、シーリング可能な気密容器若しくは密封容器の中に充填又は収容されることを意味する。気密容器は、通常の取扱い、運搬又は保存状態において、固形又は液状の異物が侵入せず、内容物の損失又は蒸発を防ぐことができる容器をいう。密封容器は、通常の取扱い、運搬又は保存状態において、気体の侵入しない容器をいう。
「含む」は、含まれるものとして明示されている要素以外の要素を付加できることを意味する(「少なくとも含む」と同義である)が、「からなる」及び「から本質的になる」を包含する。すなわち、「含む」は、明示されている要素及び任意の1種若しくは2種以上の要素を含み、明示されている要素からなり、又は明示されている要素から本質的になることを意味し得る。要素としては、成分、工程、条件、パラメーターなどの制限事項などが挙げられる。
「及び/又は」との用語は、列記した複数の関連項目のいずれか1つ、又は2つ以上の任意の組み合わせ若しくは全ての組み合わせを意味する。
「ppb」は、通常知られている意味のとおりの単位であり、具体的には1ppbは1/109であり、グラム換算では1ng/gである。
「ppm」は、通常知られている意味のとおりの単位であり、具体的には1ppmは1/106であり、質量換算では1μg/gであり、質量体積換算では概ね1mg/lである。
数値範囲の「~」は、その前後の数値を含む範囲であり、それらの含まれる限界値の一方を除いた範囲もまた含まれる。例えば、「0w/v%~100w/v%」は、0w/v%以上、100w/v%以下、及び0w/v%以上100w/v%以下のいずれであってもよい。「超過」及び「未満」は、その前の数値を含まずに、それぞれ下限及び上限を意味し、例えば、「1超過」は1より大きい数値であり、「100未満」は100より小さい数値を意味する。「約」は、その用語に続く数量の±10%以内の量を意味する。例えば、「約100」は、100±10%、すなわち、90~110を意味する。
整数値の桁数と有効数字の桁数とは一致する。例えば、1の有効数字は1桁であり、10の有効数字は2桁である。また、小数値は小数点以降の桁数と有効数字の桁数とは一致する。例えば、0.1の有効数字は1桁であり、0.10の有効数字は2桁である。
【0018】
「風味」は、口に含んだ際に口腔内から鼻へ抜ける香り(レトロネーザル)、口に含んだ際に舌で感じる味(呈味)又はその両方を意味する。
大豆由来食材の「異臭」は、大豆由来食材に起因する、好ましくない香り(臭い)を意味する。大豆由来食材の「異臭」は、「大豆臭」ということもできる。
「大豆由来食材の異臭低減作用」は、大豆由来食材の異臭を感じにくくすることをいうが、異臭が発生することを阻止する可能性を妨げない。
【0019】
[異臭低減用組成物の概要]
本発明の一側面は、大豆由来食材の異臭を低減することができる異臭低減用組成物である。本発明の異臭低減用組成物は、有効成分の内容によって3種に大別される。本発明の第1の態様の異臭低減用組成物は、5-ヘキセン酸メチルを含む異臭低減用組成物である。本発明の第2の態様の異臭低減用組成物は、2-ビニルピラジンを含む異臭低減用組成物である。本発明の第3の態様の異臭低減用組成物は、5-ヘキセン酸メチル及び2-ビニルピラジンを含む異臭低減用組成物である。
【0020】
本発明の一態様の異臭低減用組成物は、大豆由来食材に起因する異臭を低減することができる。本発明の一態様の異臭低減用組成物を使用した植物性食品は、本発明の一態様の異臭低減用組成物を使用していない植物性食品に比べて、植物由来食材に起因する異臭が低減されており、嗜好性が優れる。
【0021】
[有効成分]
5-ヘキセン酸メチル(Methyl 5-hexenoate)は、CAS登録番号が2396-80-7であり、下記式(I)
【化1】
(I)
で示される構造からなる化合物である。
【0022】
5-ヘキセン酸メチルの含有量は、異臭低減作用を発揮し得る量であればよい。後述する実施例における表1に記載があるとおり、本発明者らが調べたところによれば、異臭低減用組成物が5ppb以上の5-ヘキセン酸メチルを含むとき、大豆由来食材の異臭を感じにくくすることができる。一方、5-ヘキセン酸メチルの含有量が多い場合は、大豆由来食材の異臭と5-ヘキセン酸メチルの異風味とが相俟って、異臭低減用組成物は灯油様の異風味を発するおそれがある。
【0023】
そこで、5-ヘキセン酸メチルの含有量は、異臭低減用組成物の全量(内部添加量)に対して、5ppb~10,000ppbであることが好ましく、より優れた異臭低減作用を発揮するためには、20ppb~10,000ppbであることがより好ましく、40ppb~10,000ppbであることがなおさらに好ましい。
【0024】
また、5-ヘキセン酸メチルの含有量は、異臭低減用組成物が使用される大豆由来食材の全量(外部添加量)に対して、75ppb~150,000ppbになるような量であることが好ましく、より優れた異臭低減作用を発揮するためには、100ppb~150,000ppbになるような量であることがより好ましく、250ppb~150,000ppbになるような量であることがなおさらに好ましい。なお、「75ppb~150,000ppbになるような量」とは、例えば、大豆由来食材の全量 100gに供される5-ヘキセン酸メチルの量が7.5μg~15,000μg(15mg)になることを意味する。すなわち、この場合は、大豆由来食材の単位量に対する5-ヘキセン酸メチルの使用量が75ppb~150,000ppbであると言い換えられる。
【0025】
例えば、本発明の一態様の異臭低減用組成物が5ppb~10,000ppbの5-ヘキセン酸メチルを含む場合、本発明の一態様の異臭低減用組成物 60gが大豆由来食材 4gに使用されると、5-ヘキセン酸メチルの使用量は大豆由来食材の全量に対して75ppb~150,000ppbである。
【0026】
2-ビニルピラジン(2-Vinylpyrazine)は、CAS登録番号が4177-16-6であり、下記式(II)
【化2】
(II)
で示される構造からなる化合物である。
【0027】
2-ビニルピラジンの含有量は、異臭低減作用を発揮し得る量であればよい。後述する実施例における表2に記載があるとおり、本発明者らが調べたところによれば、異臭低減用組成物が80,000ppb以上の2-ビニルピラジンを含むとき、大豆由来食材の異臭を感じにくくすることができる。一方、2-ビニルピラジンの含有量が多い場合は、人によっては、甘い匂いが感じられ、植物性食品に本来感じられない風味(異風味)を感じるおそれがある。
【0028】
そこで、2-ビニルピラジンの含有量は、異臭低減用組成物の全量(内部添加量)に対して、80,000ppb~100,000ppbであることが好ましい。また、2-ビニルピラジンの含有量は、異臭低減用組成物が使用される大豆由来食材の全量(外部添加量)に対して、1,200,000ppb~1,500,000ppbになるような量であることが好ましい。
【0029】
後述する実施例における表3に記載があるとおり、5-ヘキセン酸メチル及び2-ビニルピラジンを併用する場合は、それぞれの含有量をより少ない量にしても、異臭低減作用を発揮し得る。結果として、5-ヘキセン酸メチル及び2-ビニルピラジンの併用は、相加的ではなく、相乗的に異臭低減作用を高めることができる。
【0030】
5-ヘキセン酸メチル及び2-ビニルピラジンを併用する場合は、異臭低減用組成物の全量(内部添加量)に対して、5-ヘキセン酸メチルの含有量は、3ppb~10,000ppbであることが好ましく、5ppb~10,000ppbであることがより好ましく、10ppb~10,000ppbであることがさらに好ましく、100ppb~10,000ppbであることがなおさらに好ましく;及び、2-ビニルピラジンの含有量は、5ppb~100,000ppbであることが好ましく、10ppb~10,000ppbであることがより好ましく、100ppb~10,000ppbであることがさらに好ましい。
【0031】
5-ヘキセン酸メチル及び2-ビニルピラジンを併用する場合は、異臭低減用組成物が使用される大豆由来食材の全量(外部添加量)に対して、5-ヘキセン酸メチルの含有量は、45ppb~150,000ppbになるような量であることが好ましく、65ppb~150,000ppbになるような量であることがより好ましく、100ppb~150,000ppbになるような量であることがさらに好ましく、1,000ppb~150,000ppbになるような量であることがなおさらに好ましく;及び、2-ビニルピラジンの含有量は、75ppb~1,500,000ppbになるような量であることが好ましく、100ppb~1,500,000ppbになるような量であることがより好ましく、1,000ppb~1,500,000ppbになるような量であることがさらに好ましい。
【0032】
有効成分は、有効成分自体を使用してもよいし、有効成分を含む有効成分含有物を用いてもよい。有効成分自体を使用する場合は、市販されているものを使用することができる。
【0033】
[異臭低減用組成物]
本発明の一態様の異臭低減用組成物に使用する大豆由来食材は、一般に食材として使用される大豆に由来するものであればよく、大豆の加工食品であってもよい。すなわち、大豆由来食材は、大豆をペースト状にすること、粉砕すること、細切りすること、ダイス状、短冊状などの形状にカットすること、焼くこと、炒めることなどの加工処理に供されたものであってもよい。
【0034】
本発明の一態様の異臭低減用組成物は、有効成分に加えて、その他の成分を含むことができる。その他の成分は特に限定されないが、例えば、食品及び調味料に使用される成分などが挙げられ、具体的には、液体成分としては、水、しょうゆ、アルコール、甘味成分(みりん、液糖、水飴など)、酸味成分(食酢など)、油脂成分、酒類成分(ワイン、清酒など)、果汁(りんご果汁など)などが挙げられ;固形成分としては、食塩、糖類(砂糖、ぶどう糖、果糖、水飴、異性化液糖など)、増粘剤(カラギーナンなどの増粘多糖類、でん粉、加工でん粉、ガム類など)、化学調味料(グルタミン酸、グルタミン酸ナトリウム、グリシン、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウムなど)、フレーバー、味噌、カレー粉などが挙げられる。本発明の一態様の異臭低減用組成物が有する異臭低減作用の発揮を妨げないのであれば、大豆以外の植物由来食材を含んでもよい。
【0035】
本発明の一態様の異臭低減用組成物は、植物性食品に適用される場合は、肉、卵、乳製品などの動物由来食材及び酵母エキスを含まないことが好ましい。「動物由来食材及び酵母エキスを含まない」とは、動物由来食材及び酵母エキス(これらを合わせて動物由来食材等ともよぶ。)以外の成分とともに動物由来食材等を含む原料や製造工程などによって不可避的に動物由来食材等が混入される場合を除き、意図的に含有させないことを意味する。したがって、「動物由来食材及び酵母エキスを含まない」場合は、仮に動物由来食材等が含まれていても極微量であることを意味し、例えば、この場合は動物由来食材等の含有量は0質量%~0.1質量%であることが好ましい。
【0036】
その他の成分は、上記したものの1種の単独でもよく、2種以上の組み合わせでもよい。その他の成分の含有量は、本発明の課題を解決し得る限り、適宜設定することができる。
【0037】
本発明の一態様の異臭低減用組成物は、その形態については特に限定されないが、例えば、食材によく混ざり合うことから、液体状、懸濁状、ペースト状などの液性の組成物であることが好ましい。液性の異臭低減用組成物は、大部分が水であり、例えば、水の含有量は、該組成物の全量に対して、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上、80質量%以上又は90質量%以上である。水の含有量の上限は典型的には99質量%である。
【0038】
本発明の一態様の異臭低減用組成物は、シーリング可能な気密容器又は密封容器に充填した容器詰組成物であってもよい。容器は、気密容器又は密封容器であれば特に限定されないが、例えば、アルミ、スチールなどの金属、紙、PETなどのプラスチック、ガラスなどを素材とする、1層又は積層(ラミネート)のフィルム袋、レトルトパウチ、真空パック、成形容器、瓶、缶などの包装容器が挙げられる。容器詰組成物は、それ自体で独立して、流通におかれて市販され得るものである。なお、家庭内で食品を保存する目的で使用される蓋付き容器は密閉容器であり、気密容器及び密封容器、特に密封容器とは厳に区別される。
【0039】
本発明の一態様の異臭低減用組成物が有する、異臭低減作用は、該組成物を使用した大豆由来食材が、同一条件下で該組成物を使用しない大豆由来食材(コントロール)と比べて、異臭である大豆臭が弱く感じられる作用であればよい。
【0040】
異臭低減作用は、後述する実施例に記載の方法により確認できる。例えば、本発明の一態様の異臭低減用組成物を使用した大豆たんぱくについて、評価項目「大豆臭」に対する官能評価を実施して、コントロールと比べて、「大豆臭」を感じる程度が弱まるとの評価結果が得られる作用であればよい。この観点から、異臭低減作用は、例えば、同様の官能評価を実施して、「大豆臭」に対する評価が「◎」又は「○」となる作用であることが好ましく、「◎」となる作用であることがより好ましい。
【0041】
本発明の一態様の異臭低減用組成物の使用量は、本発明の一態様の異臭低減用組成物における有効成分の含有量、本発明の一態様の異臭低減用組成物が供すべき大豆由来食材及び作製される加工食品の種類及び量などに応じて適宜設定でき、特に限定されない。例えば、本発明の一態様の異臭低減用組成物は、大豆由来食材 100質量部に対して、好ましくは10質量部~10,000質量部で使用され、より好ましくは50質量部~5,000質量部で使用され、さらに好ましくは100質量部~3,000質量部で使用される。
【0042】
本発明の一態様の異臭低減用組成物を製造する方法は特に限定されず、例えば、通常知られているとおりの各成分を混ぜ合わせて調味料を製造する方法などが挙げられ、具体的には有効成分と、水、アルコール、砂糖、食塩といった調味料成分などのその他の成分とを、室温下又は加温下で撹拌処理などの混合手段に供して混合することを含む方法などを挙げることができる。その他の成分は、細断すること、粉砕すること、膨潤すること、加熱することなどの処理に予め供して、前処理したものであってもよい。
【0043】
本発明の一態様の異臭低減用組成物は、保存性を考慮すれば、加熱、ろ過などによる殺菌処理などの腐敗防止処理に供されたものであることが好ましい。本発明の一態様の異臭低減用組成物は、調味料などの食品を殺菌する際に通常採用されている条件での殺菌処理に供された組成物であることが好ましく、例えば、100℃以下にて数秒間~数分間で加熱殺菌した組成物であることが好ましい。本発明の一態様の異臭低減用組成物は、レトルト殺菌に供してもよい。レトルト殺菌は、長期保存が可能な状態に殺菌できる温度、圧力及び時間で行えばよく、特に限定されないが、例えば、常圧下又は加圧下で、100℃~130℃、好ましくは約120℃で、1分間~30分間、好ましくは約10分間で行う。
【0044】
本発明の非限定的な具体的態様は、以下の成分(A)を含む、異臭低減用組成物である。
成分(A)5ppb~10,000ppbの5-ヘキセン酸メチル(大豆由来食材に対する使用量として75ppb~150,000ppb)
【0045】
本発明の非限定的な具体的態様は、以下の成分(B)を含む、異臭低減用組成物である。
成分(B)80,000ppb~100,000ppbの2-ビニルピラジン(大豆由来食材に対する使用量として1,200,000ppb~1,500,000ppb)
【0046】
本発明の非限定的な具体的態様は、以下の成分(A)及び(B)を含む、異臭低減用組成物である。
成分(A)3ppb~10,000ppbの5-ヘキセン酸メチル(大豆由来食材に対する使用量として45ppb~150,000ppb)
成分(B)5ppb~100,000ppbの2-ビニルピラジン(大豆由来食材に対する使用量として75ppb~1,500,000ppb)
【0047】
本発明の非限定的な具体的態様は、以下の成分(A)及び(B)を含む、異臭低減用組成物である。
成分(A)5ppb~10,000ppbの5-ヘキセン酸メチル(大豆由来食材に対する使用量として75ppb~150,000ppb)
成分(B)10ppb~10,000ppbの2-ビニルピラジン(大豆由来食材に対する使用量として150ppb~150,000ppb)
【0048】
本発明の非限定的な具体的態様は、以下の成分(A)及び(B)を含む、異臭低減用組成物である。
成分(A)10ppb~10,000ppbの5-ヘキセン酸メチル(大豆由来食材に対する使用量として150ppb~150,000ppb)
成分(B)100ppb~10,000ppbの2-ビニルピラジン(大豆由来食材に対する使用量として1,500ppb~150,000ppb)
【0049】
本発明の一態様の異臭低減用組成物と大豆由来食材とを用いて、これらを常温にて、又は加熱して調理することにより、大豆由来食材の異臭が低減した、嗜好性の高い植物性食品が得られる。本発明の一態様の異臭低減用組成物は、調味料として用いることができる。
【0050】
本発明の一態様の異臭低減用組成物を調味料として用いて大豆由来食材を調理する方法は特に限定されず、使用する大豆由来食材の種類及び量、得られる植物性食品の種類などに応じて適宜設定することができる。例えば、調理方法としては、炒める、揚げる、焼く、蒸す、電子レンジを用いて加熱すること、熱風により加熱すること、熱水中で加熱することなどの通常の加熱調理方法などが挙げられる。
【0051】
[本発明の別の態様]
有効成分を用いることにより、大豆由来食材に対して、大豆臭を低減することができる。そこで、本発明の別の一態様は、植物由来食材と、5-ヘキセン酸メチル、2-ビニルピラジン又は5-ヘキセン酸メチル及び2-ビニルピラジンと接触させて、大豆由来食材の異臭を低減する工程を含む、大豆由来食材の異臭低減方法である。本発明の一態様の大豆由来食材の異臭低減方法では、大豆由来食材と有効成分と接触させた後、加熱すること、すなわち、有効成分を用いて大豆由来食材を加熱調理することが好ましい。
【0052】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
【実施例】
【0053】
[1.被験組成物の調製]
純度98.0%超過5-ヘキセン酸メチル(東京化成工業社製)を95%エタノールに溶解することにより、5-ヘキセン酸メチルを600ppm(6mg/g)で含む5-ヘキセン酸メチル(600ppm)溶液及び5-ヘキセン酸メチルを0.6ppm(0.006mg/g)で含む5-ヘキセン酸メチル(0.6ppm)溶液を調製した。また、純度97%超過2-ビニルピラジン(シグマアルドリッチ社製)を95%エタノールに溶解することにより、2-ビニルピラジンを600ppm(6mg/g)で含む2-ビニルピラジン(600ppm)溶液及び2-ビニルピラジンを0.6ppm(0.006mg/g)で含む2-ビニルピラジン(0.6ppm)溶液を調製した。
【0054】
表1~3に示す量の砂糖、食塩、5-ヘキセン酸メチル(600ppm)溶液、5-ヘキセン酸メチル(0.6ppm)溶液、2-ビニルピラジン(600ppm)溶液、2-ビニルピラジン(0.6ppm)溶液及び水を室温で混合することにより、被験組成物1~38(60mg)を調製した。
【0055】
[2.被験組成物を用いた大豆由来食材の処理]
レトルトパウチに、粒状大豆たんぱく(「ニューフジニック59」、不二製油社製)4gを入れた後、各被験組成物を入れた。粒状大豆たんぱく及び被験組成物を含むレトルトパウチを、封をした後に軽く振ることにより内容物を混合し、次いで120℃、20分間の加熱処理に供した。加熱処理後のレトルトパウチを室温に戻すことにより、被験組成物で処理した粒状大豆たんぱくを得た。ただし、被験組成物39~44は、表4に示す各成分をステンレス製缶内に添加及び混合し、50℃又は90℃に達するまで加熱する加熱処理に供した。
【0056】
[3.官能評価方法]
食品の呈味の識別能力を有するパネル3名により、被験組成物で処理した粒状大豆たんぱくについて、「大豆臭」の強度を以下に示す基準により5点採点方法で評価した。パネルの採点から、3名の合計点数が3点~5点の場合は「×」、6点~8点の場合は「△」、9~11点の場合は「○」、12点以上は「◎」と評価した。
5:感じない
4:ほぼ感じない
3:やや感じる
2:感じる
1:非常に強く感じる
【0057】
「大豆臭」は、大豆の青臭さ、又はきな粉様の臭いであり、喫食時に口腔内から鼻へ抜ける際に感じるものを意味する。なお、これらの臭いは大豆を加熱することにより際立つ傾向がある。
【0058】
また、被験組成物について、5-ヘキセン酸メチル及び/又は2-ビニルピラジンに起因する異風味についても確認し、異風味を感じない場合には「○」、異風味を感じる場合には「×」と評価した。
【0059】
官能の総合評価は、「大豆臭」の評価が「◎」であり、かつ異風味の評価が「○」である場合には「◎」、「大豆臭」の評価が「○」であり、かつ異風味の評価が「○」である場合には「○」と評価し、及びそれ以外の場合には「×」と評価した。
【0060】
[4.官能評価結果]
官能評価の結果を表1~表4に示す。これらの表に示すとおり、5-ヘキセン酸メチルの含有量が5ppb~10,000ppbである組成物、2-ビニルピラジンの含有量が80,000ppb~100,000ppbである組成物、並びに5-ヘキセン酸メチルの含有量が3ppb~10,000ppbであり、かつ2-ビニルピラジンの含有量が10ppb~100,000ppbである組成物は、大豆たんぱくの大豆臭を低減する作用があった。
【0061】
さらに、5-ヘキセン酸メチルを単独で用いた場合の大豆たんぱくの大豆臭低減作用を示した含有量の下限は5ppbであり、かつ2-ビニルピラジンを単独で用いた場合の大豆たんぱくの大豆臭低減作用を示した含有量の下限は80,000ppbであったことに照らせば、これらを組み合わせて用いた場合に5-ヘキセン酸メチルの含有量の下限が3ppbであり、かつ2-ビニルピラジンの含有量の下限が10ppbであったときに大豆たんぱくの大豆臭低減作用を示したということは、5-ヘキセン酸メチル及び2-ビニルピラジンの組み合わせは相加的ではなく、相乗的に奏効して大豆たんぱくの大豆臭低減作用を示すということがわかった。
【0062】
また、表4に示すとおり、5-ヘキセン酸メチル及び/又は2-ビニルピラジンが有する大豆たんぱくの大豆臭低減作用は、大豆たんぱくの品温にかかわらずに発揮することがわかった。
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の一態様の異臭低減用組成物は大豆由来食材の異臭を低減することができるものとして、工業的生産が可能なものであり、かつ飲食店、家庭内での使用が可能なものであることから、様々なシーンで利用される調味料として有用なものである。
【要約】
【課題】
本発明の目的は、食品へ異味及び着色を付与せず、かつ香りの閾値が比較的高い成分を有効成分とする、大豆由来食材の異臭低減用組成物を提供することにある。
【解決手段】
上記目的は、以下(1)~(3)のいずれかの有効成分を含む、大豆由来食材の異臭低減用組成物及び大豆由来食材の異臭低減方法などにより解決される。
(1)5-ヘキセン酸メチル
(2)2-ビニルピラジン
(3)5-ヘキセン酸メチル及び2-ビニルピラジン
【選択図】なし