(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-26
(45)【発行日】2025-03-06
(54)【発明の名称】シリコン酸窒化膜の成膜方法及び薄膜トランジスタの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/318 20060101AFI20250227BHJP
C23C 16/42 20060101ALI20250227BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20250227BHJP
H10D 30/01 20250101ALI20250227BHJP
H10D 30/67 20250101ALI20250227BHJP
【FI】
H01L21/318 C
C23C16/42
H01L21/31 C
H10D30/01 203V
H10D30/01 204
H10D30/67 103B
H10D30/67 104A
(21)【出願番号】P 2021048568
(22)【出願日】2021-03-23
【審査請求日】2024-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【氏名又は名称】上村 喜永
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】酒井 敏彦
(72)【発明者】
【氏名】安東 靖典
【審査官】宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-030002(JP,A)
【文献】特開2014-039019(JP,A)
【文献】特開2016-213452(JP,A)
【文献】特開2014-007396(JP,A)
【文献】特開2014-225651(JP,A)
【文献】特開2012-094757(JP,A)
【文献】特開2007-299913(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/318
H01L 21/31
H10D 30/01
H10D 30/67
C23C 16/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物半導体の上に酸窒化シリコン膜を成膜する成膜方法であって、
前記酸窒化シリコン膜を、SiF
4ガス、窒素ガス、酸素ガス及び水素ガスをプロセスガスとして供給して行うプラズマCVD法により成膜し、
前記供給するプロセスガスにおいて、窒素ガスと酸素ガスの合計流量に対する窒素ガスの流量の割合が93%以上であることを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
前記供給するプロセスガスにおいて、窒素ガスと酸素ガスの合計流量に対する窒素ガスの流量の割合が96%以上である請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
前記酸窒化シリコン膜が、リーク電流密度が1×10
-5A/cm
2以下であり、絶縁破壊電界強度が3MV/cm以上のものである請求項1又は2に記載の成膜方法。
【請求項4】
酸化物半導体がIn-Ga-Zn-Oにより構成されている請求項1~3のいずれか一項に記載の成膜方法。
【請求項5】
前記プラズマCVD法による前記酸窒化シリコン膜の成膜を300℃以下で行う請求項1~4のいずれか一項に記載の成膜方法。
【請求項6】
In-Ga-Zn-Oからなる酸化物半導体をチャネル層とする薄膜トランジスタの製造方法であって、
スパッタリングにより前記酸化物半導体を形成する半導体層形成工程と、
請求項1~5のいずれか一項に記載の成膜方法により、前記酸化物半導体の上に酸窒化シリコン膜から成る絶縁層を成膜する絶縁層形成工程と、を有することを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン酸窒化膜の成膜方法及び当該成膜方法を用いた薄膜トランジスタの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、In-Ga-Zn-O系(IGZO)の酸化物半導体を半導体層(チャネル層)に用いた薄膜トランジスタの開発が活発に行われている。このような薄膜トランジスタとしては、フッ素含有酸化シリコン膜からなる保護層やゲート絶縁層等の絶縁層を酸化物半導体に隣接させるように形成するものが知られている。例えば、特許文献1には、SiCl4ガスとSiF4ガスと酸素ガスとをプロセスガスとして用いたプラズマCVD法により、フッ素含有酸化シリコン膜からなる絶縁層を酸化物半導体の上に形成するものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示される製造方法は、比較的高価なSiCl4ガスをプロセスガスとして用いるため製造コストが高くつくという問題がある。そこでプロセスガスとして高価なSiCl4を用いず、SiF4ガスと酸素ガスのみを用いて絶縁層を成膜することにより製造コストを低減することも考えられるが、この場合には、酸化物半導体上への酸窒化シリコン膜の成膜が不安定になる(すなわち膜付きが悪い)という問題がある。
【0005】
本発明は上記した課題を一挙に解決すべくなされたものであり、酸化物半導体の上に酸窒化シリコン膜を成膜する成膜方法において、低コスト化を図るとともに、成膜安定性を向上させることを主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明の成膜方法は、酸化物半導体の上に酸窒化シリコン膜を成膜する成膜方法であって、前記酸窒化シリコン膜を、SiF4ガス、窒素ガス、酸素ガス及び水素ガスをプロセスガスとして供給して行うプラズマCVD法により成膜し、前記供給するプロセスガスにおいて、窒素ガスと酸素ガスの合計流量に対する窒素ガスの流量の割合が93%以上であることを特徴とする。
このような成膜方法であれば、プラズマCVD法におけるプロセスガスとして、高価なSiCl4を用いることなく比較的な安価なガスを用いるので、材料コストを低減できる。さらに、プロセスガスとして供給する窒素ガスと酸素ガスの合計流量に対する窒素ガスの流量の割合を93%以上とし、その割合を非常に高くすることにより、絶縁性の良好な酸窒化シリコン膜を酸化物半導体上に安定して成膜することができる。これにより歩留まりが向上し、製造コストをより一層低減させることができる。
【0007】
本発明の成膜方法により酸化物半導体膜上に酸窒化シリコン膜を安定して成膜できる理由については未だ不明な点もあるが、現在までに得られている知見を基に、本発明者らが考えるメカニズムについて説明する。すなわち、本発明の成膜方法では、プロセスガスとして供給する窒素ガスと酸素ガスの合計流量に対する窒素ガスの流量の割合を93%以上とすることにより、酸素ガス(結合エネルギー:5.16eV)より結合エネルギーが大きく、分解されにくいSi-F(結合エネルギー:5.72eV)の分解が促進され、シリコン原子を起点とした酸窒化シリコン膜の成膜が進みやすくなると考えられる。また、酸素ガスは電気陰性度が高く、フッ素(F)を含むガスの添加ガスとして作用し、基板の最表面がエッチングされやすくなると考えられる。CVDプロセスにおいては、成膜およびエッチングの両表面反応が並行して進行するが、窒素ガスの比率を高めることによって相対的にエッチングが進みにくくなるため、絶縁性の良好な酸窒化シリコン膜を酸化物半導体上に安定して成膜することができると考えられる。なお、このメカニズムについての説明は本発明の技術的範囲を制限することを目的とするものではないことに留意されたい。
【0008】
また前記成膜方法は、前記供給するプロセスガスにおいて、窒素ガスと酸素ガスの合計流量に対する窒素ガスの流量の割合が96%以上であることが好ましい。
このようにすれば、酸窒化シリコン膜の絶縁性能をより一層向上することができる。
【0009】
また前記成膜方法により成膜される酸窒化シリコン膜の具体的態様として、リーク電流密度が1×10-5A/cm2以下であり、絶縁破壊電界強度(最大電界強度)が3MV/cm以上のものが挙げられる。
【0010】
本発明の成膜方法の効果をより顕著に奏する前記酸化物半導体の具体的態様として、In-Ga-Zn-Oにより構成されているものが挙げられる。
【0011】
また本発明の成膜方法の効果をより顕著に奏する態様としては、プラズマCVD法による前記酸窒化シリコン膜の成膜を300℃以下で行うものが挙げられる。
このような低温であれば、本発明の成膜方法を、樹脂等の融点が低い基板を用いた薄膜トランジスタの製造に利用することができる。本発明の成膜方法を用いれば、このような低温処理においても良好な絶縁性能を発揮する絶縁層を備える薄膜トランジスタを製造できる。
【0012】
また本発明の薄膜トランジスタの製造方法は、In-Ga-Zn-Oからなる酸化物半導体をチャネル層とする薄膜トランジスタの製造方法であって、スパッタリングにより前記酸化物半導体を形成する半導体層形成工程と、前記した成膜方法により前記酸化物半導体の上に酸窒化シリコン膜から成る絶縁層を成膜する絶縁層形成工程とを有することを特徴とする。
このような薄膜トランジスタの製造方法によれば、前記した本発明の成膜方法と同様の作用効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0013】
このように構成した本発明によれば、酸化物半導体の上に酸窒化シリコン膜を成膜する成膜方法において、低コスト化を図るとともに、成膜安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態のボトムゲート型の薄膜トランジスタの構成を模式的に示す図。
【
図2】同実施形態の薄膜トランジスタの製造工程を模式的に示す図。
【
図3】同実施形態の薄膜トランジスタのプラズマ処理工程で用いられるプラズマ処理装置の構成を模式的に示す図。
【
図4】他の実施形態のトップゲート型の薄膜トランジスタの構成を模式的に示す図。
【
図5】実験例における、窒素ガス流量の割合と成膜の安定性との関係を示すグラフ。
【
図6】実験例における、窒素ガス流量の割合と成膜レート及び屈折率との関係を示すグラフ。
【
図7】実験例における、窒素ガス流量の割合と絶縁性との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の一実施形態に係る薄膜トランジスタ及びその製造方法について説明する。
【0016】
<1.薄膜トランジスタ>
本実施形態の薄膜トランジスタ1は所謂ボトムゲート型のTFTであり、酸化物半導体をチャネルに用いたものである。具体的には
図1に示すように、基板2と、ゲート電極3と、ゲート絶縁層4と、半導体層5と、ソース電極6及びドレイン電極7と、保護層8とを有しており、基板2側からこの順に形成されている。なおこの実施形態では、保護層8が特許請求の範囲でいう“絶縁層”に相当する。以下、各部について詳述する。
【0017】
基板2は光を透過できるような任意の材料から構成されており、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレナフタレート(PEN)、ポリエーテルサルフォン(PES)、アクリル、ポリイミド等のプラスチック(合成樹脂)等の樹脂材料やガラス材料によって構成されてよい。
【0018】
ゲート電極3は、薄膜トランジスタ1に印加されるゲート電圧によって半導体層5中のキャリア密度を制御するものである。このゲート電極3は、高い導電性を有する任意の材料から構成されており、例えばSi、Al、Mo、Cr、Ta、Ti、Pt、Au、Ag等から選択される1種以上の金属から構成されてよい。また、Al-Nd、Ag合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)、In-Ga-Zn-O(IGZO)等の金属酸化物の導電性膜から構成されてよい。ゲート電極3は、これらの導電性膜の単層構造又は2層以上の積層構造から構成されてもよい。
【0019】
ゲート絶縁層4は高い絶縁性を有する任意の絶縁材料から構成されており、例えば、SiOx、SiNx、SiON、Al2O3、Y2O3、Ta2O5、Hf2等から選択される1つ以上の酸化物を含む絶縁膜であってよい。ゲート絶縁層4は、これらの導電性膜を単層構造又は2層以上の積層構造としたものであってよい。
【0020】
半導体層(チャネル層)5は、ソース電極6とドレイン電極7間を流れる電流を通過させるものである。本実施形態の半導体層5は、酸化物半導体からなるものであり、例えばIn、Ga、Zn、Sn、Al、Ti等から選択される少なくとも1種の元素の酸化物を主成分として含んでいる。半導体層5を構成する材料の具体例としては、例えば、In-Ga-Zn-O(IGZO)、In-Al-Mg-O、In-Al-Zn-O又はIn-Hf-Zn-O等が挙げられる。この半導体層5は非晶質(アモルファス)の酸化物半導体膜により構成されている。本実施形態の半導体層5は単層構造であるが、これに限らず、組成や結晶性が互いに異なる複数の層を重ねて構成した積層構造であってもよい。
【0021】
ソース電極6及びドレイン電極7は、半導体層5の表面を部分的に覆うように、互いに離間して形成されている。ソース電極6及びドレイン電極7は、ゲート電極3と同様に、電極として機能するように高い導電性を有する材料から構成されている。ソース電極6及びドレイン電極7は、単一の材料からなる単層構造でよく、互いに異なる材料からなる複数の層を重ねた積層構造であってもよい。
【0022】
保護層(パッシベーション層)8は、ソース電極6とドレイン電極7の間から露出する半導体層5の表面(チャネル領域)を覆って保護するものであり、絶縁性の材料により構成されたものである。保護層8は、少なくとも半導体層5の表面に接触して設けられている。本実施形態の保護層8は、ソース電極6及びドレイン電極7の表面を更に覆うように設けられている。
【0023】
具体的にこの保護層8は、フッ素含有酸窒化シリコン膜(SiON:F)により構成されている。このフッ素含有酸窒化シリコン膜は、リーク電流密度が1×10-5A/cm2以下であり、絶縁破壊電界強度が3MV/cm以上のものであることが好ましく、リーク電流密度が1×10-7A/cm2以下であり、絶縁破壊電界強度が8MV/cm以上のものであることがより好ましい。
【0024】
なお保護層8の上には、例えばフッ素含有シリコン酸化膜(SiN:F)、フッ素含有シリコン酸化膜(SiO:F)、シリコン窒化膜(SiNx)、シリコン酸化膜(SiOx)等からなる第2の保護層が、必要に応じて更に設けられてもよい。
【0025】
<2.薄膜トランジスタの製造方法>
次に、上述した構造の薄膜トランジスタ1の製造方法を、
図2を参照して説明する。
本実施形態の薄膜トランジスタ1の製造方法は、ゲート電極形成工程、ゲート絶縁層形成工程、半導体層形成工程、ソース・ドレイン電極形成工程、プラズマ処理工程及び保護層形成工程を含む。なおこの実施形態では、保護層形成工程が特許請求の範囲でいう“絶縁層形成工程”に相当する。以下、各工程について説明する。
【0026】
(1)ゲート電極形成工程
まず
図2の(a)に示すように、例えばPET等の樹脂材料からなる基板2を準備し、基板2の表面にゲート電極3を形成する。ゲート電極3の形成方法は特に制限されず、例えば真空蒸着法等の既知の方法により形成してよい。
【0027】
(2)ゲート絶縁層形成工程
次に、
図2の(b)に示すように、基板2及びゲート電極3の表面を覆うようにゲート絶縁層4を形成する。ゲート絶縁層4の形成方法は特に限定されず、既知の方法により形成してよい。
【0028】
(3)半導体層形成工程
次に、
図2の(c)に示すように、ゲート絶縁層4上に半導体層5を形成する。この半導体層5は、既知の方法により形成してよい。例えば、誘導結合型のプラズマを用いて、InGaZnO等の導電性酸化物焼結体をターゲットとしてスパッタリングすることにより半導体層5を形成してよい。なおこれに限らず、他の方法により酸化物半導体からなる半導体層5を形成してもよい。
【0029】
(4)ソース・ドレイン電極形成工程
次に、
図2の(d)に示すように、半導体層5上にソース電極6及びドレイン電極7を形成する。ソース電極6およびドレイン電極7の形成は、例えば、RFマグネトロンスパッタリング等を用いた既知の方法により形成することができる。ソース電極6及びドレイン電極7は、半導体層5の表面上で互いに離間し、半導体層5の表面の一部を露出させるように形成される。
【0030】
(5)プラズマ処理工程
ここで、半導体層5の表面に保護層8を形成する前に、半導体層5の表面に対してプラズマ処理(成膜前処理)を行ってもよい。具体的にこのプラズマ処理は、
図3に例示するような誘導結合型のプラズマ処理装置100を用いて行ってよい。具体的にプラズマ処理装置100は、真空排気され且つプロセスガスGが導入される処理室10が内側に形成された真空容器20と、処理室10の外部に設けられたアンテナ30と、アンテナ30に高周波(13.56MHz)を印加する高周波電源40とを備えている。高周波電源40からアンテナ30に高周波を印加すると、アンテナ30から発生した高周波磁場が処理室10内に形成されることで誘導電界が発生し、これにより誘導結合型のプラズマPが生成される。
【0031】
具体的にこの工程では、少なくとも窒素ガスと酸素ガスとをプロセスガスとして処理室10内に供給し、この状態でアンテナ30に高周波を印加して誘導結合型のプラズマを生じさせる。ここで供給するプロセスガスは、窒素ガスと酸素ガスの合計流量に対する窒素ガスの流量の割合(N2/N2+O2)が、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。窒素ガスの流量割合が大きいほど、後で形成する保護層8中の固定電荷密度を小さくできるので好ましい。またこの工程は、基板温度を150℃以上300℃以下の低温で行うことが好ましい。プラズマ処理を行う処理時間は特に限定されないが、保護層8中の固定電荷密度をより小さくする観点から15秒以上45秒以下が好ましい。その他、RFパワー、成膜時圧力、プロセスガスの絶対量等は適宜設定されてよい。なお、処理室10内に供給される各ガスの流量は、ガス流路に設けたマスフローコントローラにより制御される。すなわち、ここでいう「流量」とは、マスフローコント―ラ等の流量制御機器における設定値を意味する(他の工程でも同じである。)。
【0032】
(6)保護層形成工程
プラズマ処理工程の後、
図2の(e)に示すように、ソース電極6及びドレイン電極7の間から露出する半導体層5の表面を覆うように保護層8を形成する。この保護層8の形成は、例えば前記したプラズマ処理装置(以下、プラズマCVD装置ともいう)100を用いてプラズマCVD法(化学気相成長法)を用いて行われる。ここでは、プラズマ処理工程においてプラズマCVD装置100の処理室10内に生成したプラズマを維持した状態で保護層形成工程に移行するようにしている。
【0033】
具体的にこの保護層形成工程では、プロセスガスとして、SiF4(四フッ化シリコン)ガス、窒素ガス、酸素ガス及び水素ガスを処理室10内に供給し、この状態でアンテナ30に高周波を印加して誘導結合型のプラズマを生じさせる。ここで本実施形態では、供給するプロセスガスにおいて、窒素ガスと酸素ガスの合計流量に対する窒素ガスの流量の割合(N2/N2+O2)が93%以上であり、96%以上であることが好ましい。また当該割合の上限は特に限らないが100%であることが好ましい。なお、流量割合が100%である場合、処理室10内に意図的に供給する酸素ガスの流量は0ccmとなるが、この場合でも、プロセスガス中には酸素ガスが不可避的に含まれており、そのためフッ素含有シリコン酸窒化膜を成膜することができる。またこの工程は、基板温度を150℃以上300℃以下の低温で行うことが好ましい。その他、RFパワー、成膜時圧力、プロセスガスの絶対量等は適宜設定されてよい。
【0034】
必要に応じて、保護層8の上に、例えばフッ素含有シリコン酸化膜(SiN:F)、フッ素含有シリコン酸化膜(SiO:F)、シリコン窒化膜(SiNx)、シリコン酸化膜(SiOx)等からなる第2の保護層を成膜してもよい。この保護層の成膜は、保護層8と同様に、プラズマCVD装置100を用いて行うことができる。
【0035】
(7)熱処理工程
必要に応じて酸素を含む大気圧下の雰囲気中で熱処理を行ってもよい。熱処理における炉内温度は特に限定されず、例えば150℃以上300℃以下である。また熱処理時間は特に限定されず、例えば1時間以上3時間以下である。
【0036】
以上により、本実施形態の薄膜トランジスタ1を得ることができる。
【0037】
<3.本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態の薄膜トランジスタ1の製造方法であれば、保護層形成工程において、プロセスガスとして、高価なSiCl4を用いることなく比較的な安価なガスを用いてプラズマCVD法により保護層8を形成するので、材料コストを低減できる。そしてさらに、プロセスガスとして供給する窒素ガスと酸素ガスの合計流量に対する窒素ガスの流量の割合を93%以上とし、その割合を非常に高くしているので、絶縁性の良好な酸窒化シリコン膜から成る保護層8を酸化物半導体から成る半導体層5上に安定して成膜することができる。これにより歩留まりが向上し、製造コストをより一層低減させることができる。
【0038】
<4.その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0039】
前記実施形態の薄膜トランジスタ1は、ゲート電極3、ゲート絶縁層4及び半導体層5が基板2側から順に積層されたボトムゲート型のものであったがこれに限らない。他の実施形態では、
図4に示すように、薄膜トランジスタ1は、半導体層5、ゲート絶縁層4、及びゲート電極3が基板2側から順に積層されたトップゲート型のものであってもよい。この場合には、半導体層5上に積層されるゲート絶縁層4が特許請求の範囲でいう“絶縁層”に相当する。この場合、ゲート絶縁層4はフッ素含有酸窒化シリコン膜(SiON:F)により構成されており、リーク電流密度が1×10
-5A/cm
2以下であり、絶縁破壊電界強度が3MV/cm以上のものであることが好ましく、リーク電流密度が1×10
-7A/cm
2以下であり、絶縁破壊電界強度が8MV/cm以上のものであることがより好ましい。
【0040】
また薄膜トランジスタ1がトップゲート型である場合、その製造方法は、前記した半導体層形成工程、ソース・ドレイン電極形成工程、プラズマ処理工程、ゲート絶縁層形成工程及びゲート電極形成工程をこの順に行うことで行われる。この場合には、ゲート絶縁層形成工程が特許請求の範囲でいう“絶縁層形成工程”に相当する。
そのためこの実施形態では、ゲート絶縁層形成工程は、SiF4(四フッ化ケイ素)ガス、窒素ガス、酸素ガス及び水素ガスをプロセスガスとして用いて、プラズマCVD法により行われる。具体的な方法は、前記した保護層形成工程と同様である。
【0041】
前記実施形態では、酸化物半導体層5を形成した後、この上に絶縁層(保護層8)を形成する前に、酸化物半導体層5の表面にプラズマ処理を施していたがこれに限らない。他の実施形態では、酸化物半導体層5の表面にプラズマ処理を行うことなく、その表面に絶縁層(保護層8)を形成してもよい。
【0042】
前記実施形態では、半導体層5は酸化物半導体からなるものであったが、これに限らない。他の実施形態は、半導体層5は、例えばアモルファスSiや多結晶Si等、任意の半導体材料により構成されてもよい。
【0043】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することが勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0045】
<実験例1>プロセスガスにおける窒素ガス流量の割合と成膜の安定性との関係性
プラズマCVD法におけるプロセスガス中の窒素ガスと酸素ガスの合計流量に対する窒素ガスの流量の割合(N2/(N2+O2)とも記載する)と、酸化物半導体上への成膜の安定性との関係を評価した。
【0046】
具体的にこの実施例では、前記したプラズマCVD装置を用いて、供給するプロセスガスにおけるN2/(N2+O2)を変化させて(0%から100%まで)、シリコン基板とIGZO膜のそれぞれの表面にフッ素含有酸窒化シリコン膜を成膜した。そして、Si基板上の膜厚に対するIGZO膜上の膜厚の比率(以下、膜厚比ともいう)を測定した。
【0047】
具体的に各フッ素含有酸窒化シリコン膜の成膜は、プラズマCVD装置の処理室内に、SiF
4、N
2、O
2及びH
2をプロセスガスとして供給し、RFパワー:20kW(0.48W/cm
2)、成膜時の圧力:10Pa、設定温度:200℃の条件で行った。ここで、供給する各ガス流量は、SiF
4:500sccm、H
2:900sccm、N
2+O
2:3000sccm、となるようにした。そして成膜後のフッ素含有酸窒化シリコン膜の膜厚は、分光エリプソメーター(大塚電子製、FE-5000S)により測定した。測定結果を
図5に示す。
【0048】
図5から分かるように、プロセスガス中のN
2/(N
2+O
2)を0%~50%の範囲で行ったものは、膜厚比が0.9未満、あるいは1.1超となり、成膜が不安定であった。
一方で、プロセスガス中のN
2/(N
2+O
2)を93%以上の範囲で行ったもの(93.3%、96.7%、100%)は、膜厚比が0.9以上1.1以下(すなわち、膜厚の差が10%以内)であり、IGZO膜上に安定してフッ素含有酸窒化シリコン膜を成膜できた。
【0049】
<実験例2>プロセスガスにおける窒素ガス流量の割合と成膜レート及び屈折率との関係性
次に、プラズマCVD法におけるプロセスガス中の窒素ガスと酸素ガスの合計流量に対する窒素ガスの流量の割合と、酸化物半導体上へのフッ素含有酸窒化シリコン膜の成膜レート及び屈折率との関係を評価した。
【0050】
具体的には、実験例1においてプロセスガス中のN
2/(N
2+O
2)を93%以上(具体的には、93.3%、96.7%、100%)にしてIGZO膜上に成膜を行った3つのサンプルについて、その成膜レートと屈折率とを測定した。具体的に、各サンプルの成膜レートは、分光エリプソメーターにより測定した膜厚を成膜時間で除することで算出した。各サンプルの屈折率も、上記分光エリプソメーターにより測定した。その結果を
図6に示す。
【0051】
図6に示すように、プロセスガス中のN
2/(N
2+O
2)を93%以上としても、成膜レートが25nm/min以上であり良好であることが分かった。また、プロセスガス中のN
2/(N
2+O
2)を93%以上の範囲で、窒素ガス流量の増加に伴い屈折率が顕著に増加しており、窒化が急激に進むことが分かった。
【0052】
<実験例3>プロセスガスにおける窒素ガス流量の割合と絶縁性との関係性
次に、プラズマCVD法におけるプロセスガス中の窒素ガスと酸素ガスの合計流量に対する窒素ガスの流量の割合と、酸化物半導体膜上に成膜したフッ素含有酸窒化シリコン膜の絶縁性との関係を評価した。
【0053】
具体的にこの実施例では、前記したプラズマCVD装置を用いてSi基板上にフッ素含有酸窒化シリコン膜を成膜し、このフッ素含有酸窒化シリコン膜上にアルミニウム電極を形成してサンプルを作成した。ここで、フッ素含有酸窒化シリコン膜を成膜する際に、供給するプロセスガスにおけるN
2/(N
2+O
2)を変化させた3種類(93.3%、96.7%、100%)のサンプルを作成した。また各種類のサンプルは、
図7に示すように、RFパワー、成膜時の圧力及び温度、プロセスガス流量等の条件を変えて、合計6つのサンプルを作成した。そして、抵抗加熱真空蒸着法により、成膜面上に約1mmφのAl含有電極を形成し、デジタル超高抵抗/微小電流計(アドバンテスト製、R8340A)によって、膜厚方向における電流電圧測定を行い、I-V曲線を得た。そのI-V曲線から、各サンプルのリーク電流密度(印加電界3MV/cmにおける電流密度)と絶縁破壊電界(リーク電流密度が1×10
-5A/cm
2となる電界強度)を求めた。その結果を
図7に示す。
【0054】
図7に示すように、プロセスガス中のN
2/(N
2+O
2)が93%以上であるフッ素含有酸窒化シリコン膜を有するサンプルはいずれも、絶縁破壊電界が3MV/cm以上、かつリーク電流密度が1×10
-5A/cm
2以下であり、優れた絶縁性が得られることを確認した。特にプロセスガス中のN
2/(N
2+O
2)が96%以上であるフッ素含有酸窒化シリコン膜を有するサンプルは、絶縁破壊電界が8MV/cm以上、かつリーク電流密度が1×10
-7A/cm
2以下であり、より優れた絶縁性が得られることを確認した。
【符号の説明】
【0055】
1 ・・・薄膜トランジスタ
2 ・・・基板
3 ・・・ゲート電極
4 ・・・ゲート絶縁層
5 ・・・半導体層
6 ・・・ソース電極
7 ・・・ドレイン電極
8 ・・・保護層