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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-26
(45)【発行日】2025-03-06
(54)【発明の名称】包装材料および包装体
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/02 20060101AFI20250227BHJP
   D21H 19/10 20060101ALI20250227BHJP
   D21H 27/10 20060101ALI20250227BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20250227BHJP
【FI】
B32B9/02
D21H19/10 B
D21H27/10
B65D65/40 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021203696
(22)【出願日】2021-12-15
(65)【公開番号】P2023088764
(43)【公開日】2023-06-27
【審査請求日】2023-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】萬道 律雄
(72)【発明者】
【氏名】久保 直樹
(72)【発明者】
【氏名】小口 幸子
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/107025(WO,A1)
【文献】特開平02-312555(JP,A)
【文献】特開2009-061108(JP,A)
【文献】特開昭63-258976(JP,A)
【文献】特開2005-247338(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112210317(CN,A)
【文献】英国特許出願公開第00741500(GB,A)
【文献】特開昭48-026268(JP,A)
【文献】米国特許第02555266(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 9/02
B65D 65/40
D21H 19/10
D21H 27/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも片面に塗工層を有する包装材料において、前記塗工層がカゼインおよび/またはその塩を30~100質量%含有し、且つ前記包装材料のJAPAN TAPPI 18-2に準拠して測定される内部結合強さが200J/m2以上であり、
前記基材は、繊維材料を水に分散したスラリーを含む抄紙原料を抄紙することにより得られるものであり、
前記包装材料のJIS P 8117:2009に準じて測定した王研式透気度が3360秒以上であることを特徴とする包装材料。
【請求項2】
前記塗工層がワックスを含有する請求項1に記載の包装材料 。
【請求項3】
前記基材の原材料として木材パルプが用いられている請求項1または2に記載の包装材料。
【請求項4】
前記木材パルプのカナダ標準ろ水度による叩解度が150mLCSF以上500mLCSF以下である請求項3に記載の包装材料。
【請求項5】
前記基材は塗工層が設けられる側の面にスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体化合物、および/またはスチレン-無水マレイン酸共重合体化合物を0.01~2.0g/m2 塗布されている請求項1~4のいずれか1項に記載の包装材料。
【請求項6】
前記基材のJIS P 8122:2004に準拠して測定されるステキヒトサイズ度が20秒以上である請求項1~5のいずれか1項に記載の包装材料。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の包装材料の塗工層面の少なくとも一部が熱接着されてなる包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートシール方式を利用した包装材料、それを使用した包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医薬品、工業製品等の包装材料として、ヒートシールシートが広く使用されている。使用形態としては、ヒートシールシートを自己接着させて袋状にしたもの、ヒートシールシートを他の基材と貼り合わせたもの、カップ、ブリスターパック等の成形容器の蓋材等が挙げられる。
【0003】
ヒートシールシートには、ヒートシール性に加えて、包装される内容物に応じて各種のバリア性が求められる場合がある。特に食品包装の場合は耐油性が求められることが多い。
紙基材のヒートシール性、耐油性を有する包装材料として例えば特開2015-155582号公報(特許文献1)や特開2020-183593号公報(特許文献2)が提案されている。
これらはヒートシール性や耐油性を得るためにスチレン-タジエン共重合体ラテックス、オレフィン系樹脂、アクリル系樹脂エマルション等の石油化学材料を使用するものであり、環境負荷への考慮が不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-183593号公報
【文献】特開2015-155582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、石油化学材料の使用量を抑えながら優れたヒートシール性と耐油性を有する包装材料を提供し、海洋汚染等の環境問題を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは原材料に環境負荷が小さい非石油化学材料の使用を鋭意検討した結果、カゼインまたはその塩を含有したヒートシール層に使用し、且つ包装材料の内部結合強さを特定の範囲とすることにより、良好なヒートシール性、耐油性等の性能を有するヒートシールシートが得られることを見出し、本発明に至った。
【0007】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]基材の少なくとも片面に塗工層を有する包装材料において、前記塗工層がカゼインおよび/またはその塩を30~100質量%含有し、且つ前記包装材料のJAPAN TAPPI 18-2に準拠して測定される内部結合強さが200J/m2以上であることを特徴とする包装材料。
[2]前記塗工層がワックスを含有する[1]に記載の包装材料。
[3]前記基材の原材料として木材パルプが用いられている[1]または[2]に記載の包装材料。
]前記木材パルプのカナダ標準ろ水度による叩解度が150mLCSF以上500mLCSF以下である[3]に記載の包装材料。
]前記基材がスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体化合物、および/またはスチレン-無水マレイン酸共重合体化合物を0.01~2.0g/m2含有する[1]~[]のいずれかに記載の包装材料。
]前記基材のJIS P 8122:2004に準拠して測定されるステキヒトサイズ度が20秒以上である[1]~[]のいずれかに記載の包装材料。
][1]~[]のいずれかに記載の包装材料の塗工層面の少なくとも一部が熱接着されてなる包装体。
[発明の効果]

【発明の効果】
【0008】
本発明の包装材料は、良好な熱接着性を有し、且つ耐油性に優れ、さらに環境負荷が小さい。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において「透気度」は、JIS P 8117:2009に準じて測定される値である。本発明において「ステキヒトサイズ度」は、JIS P 8122:2004に準じて測定される値である。本発明において「剥離強度」は、JIS P 8113:2006に準じて測定される値である。本発明において「耐油度」は、TAPPI UM-557に準じて測定される値である。数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0010】
本発明の包装材料の一実施形態は、基材と、基材の少なくとも一方の面に設けられた塗工層とを備える包装材料である。塗工層と基材の間には下塗り層が設けられていてもよい。また、基材は表面にザイズ剤が塗布されていてもよい。
【0011】
また、塗工層は、基材の一方の面のみに設けられていてもよく、一方の面及びその反対側の他方の面に設けられていてもよい。塗工層が基材の一方の面のみに設けられている場合、基材の他方の面に他の層が設けられていてもよい。
【0012】
本発明の包装材料のJAPAN TAPPI 18-2に準じて測定される内部結合強さは、200J/m2以上であり、好ましくは300J/m2以上であり、より好ましくは500J/m2以上、最も好ましくは1000J/m2以上である。
包装材料の内部結合強さを前記の値とすることで、ヒートシールされた部分の十分な剥離強度が得られるものである。
【0013】
包装材料の内部結合強さの制御方法としては、基材の原材料がパルプを含む場合は、そのパルプスラリーの叩解度を特定の範囲にすることや内添薬品、外添薬品に紙力増強剤を使用することが挙げられる。本発明の目的においては、石油化学材料由来の紙力増強剤を使用するよりもパルプスラリーの叩解処理による内部結合強さを制御する方がより好ましい。
基材のパルプスラリーのカナダ標準ろ水度による叩解度は特に限定するものではないが、例えば150mLCSF以上500mLCSF以下となるように行うことが好ましく、200mLCSF以上450mLCSF以下となるように行うことがより好ましく、200mLCSF以上400mLCSF以下となるように行うことが特に好ましい。
【0014】
パルプの叩解方法、叩解装置は特に限定されるものではないが、例えば叩解効率が高いダブルディスクリファイナー(DDR)が好適に使用される。
本発明の包装材料に使用される紙力増強剤としては、例えばポリアクリルアミド樹脂、カチオン化デンプン、ポリビニルアルコール、スチレン-ブタジエンラテックス等が挙げられる。これらの紙力増強剤はいずれか一種を単独で用いてもよく二種以上を併用してもよい。
なかでもポリアクリルアミド樹脂紙力増強剤を使用する場合は、その使用量は特に限定するものではないが例えば包装材料の0.1質量%~5.0質量%程度含有することが好ましく、より好ましくは、0.2質量%~3.0質量%、さらに好ましくは0.2~1.0質量%である。
【0015】
基材を紙で構成する場合は、包装材料のJIS P 8117:2009に準拠して王研式透気度測定装置で、塗工層を上側にして測定された透気度が10~100000秒であることが好ましく、50~100000秒がより好ましく、100~50000秒が特に好ましい。前記測定方法による透気度を上記範囲とすることによって、高温(170°C以上)で包装材料同士を接着した場合でも紙基材が含有する水分の気化による接着界面のシール阻害が発生しにくいため好ましい。また、鮮度保持剤や携帯カイロの包材のように内包する気化材料の徐放や包装体内外の空気や水分の出入りの制御が必要な用途にも利用できる。一方、前記測定方法による透気度が100000秒を超える基材を用いることは、は、耐油性が得られやすいため好ましい。
【0016】
なお、包装材料の前記測定方法による透気度は、後述する包装材料の製造方法において、基材の前記測定方法による透気度、塗工層用塗料の塗工量(単位面積当たりの塗工層の質量)、塗工層の層構成、塗工・乾燥条件、基材のパルプの叩解度、基材の坪量、密度等をそれぞれ適切に選択することによって制御することが可能である。
【0017】
(基材)
基材に用いられる原材料は特に限定されないが、パルプ、再生セルロース繊維、生分解性樹脂、植物由来樹脂などを用いることが環境負荷低減のため好ましい。パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ等が挙げられる。木材パルプとしては、針葉樹パルプ、広葉樹パルプ等が挙げられ、いずれを用いてもよい。また、木材パルプの蒸解方法や漂白方法は、特に限定されない。非木材パルプとしては、麻パルプ、ケナフパルプ、竹パルプ、コットンパルプ等が挙げられる。これらのパルプは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。再生セルロース繊維としては、レーヨン繊維、リヨセル繊維、ベンベルグ繊維等が挙げられる。
【0018】
生分解性樹脂としては、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート・アジペート、ポリブチレンサクシネート・ラクタイド等が挙げられる。
植物由来樹脂としては、バイオエタノールから製造されたエチレングリコール、植物由来の単糖類等を原料として製造されたポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリエチレンフラノエート等が挙げられる。
生分解性樹脂および植物由来樹脂はフィルム状に成形して基材として用いてもよく、繊維状に成形して基材に含まれていてもよい。
【0019】
基材は、例えば、パルプ、樹脂繊維などの繊維材料を水に分散したスラリーを含む抄紙原料を抄紙することにより得られる。
【0020】
基材は、例えば、パルプスラリーを含む抄紙原料を抄紙することにより得られる。
【0021】
必要に応じて、叩解により得られたパルプスラリーには、前記の紙力増強剤以外にも各種製紙用内添薬品を添加し、抄紙原料を調成することができる。パルプスラリーに前記繊維材料を配合することも可能である。
内添薬品としては、例えばサイズ剤、湿潤紙力増強剤、硫酸バンド、カチオン化デンプン等の各種の定着剤が挙げられる。また、これらの他にも内添薬品として保水剤、歩留向上剤、消泡剤、填料、着色剤等を、抄紙原料に対して任意に配合可能である。これらの内添薬品はそれぞれ公知のものを使用できる。
【0022】
サイズ剤としては、例えばアルケニル無水コハク酸、アルキルケテンダイマー、ロジン化合物等が挙げられる。これらのサイズ剤はいずれか一種を単独で用いてもよく二種以上を併用してもよい。なかでも天然物由来のロジン化合物を使用することにより包装材料中の非石油化学材料の使用比率が高くなるため好ましい。
【0023】
湿潤紙力増強剤としては、例えばポリアミドエポキシ樹脂、エピクロル樹脂、メラミン樹脂が挙げられる。これらの湿潤紙力増強剤はいずれか一種を単独で用いてもよく二種以上を併用してもよい。
保水剤としては、例えばカルボキシメチルセルロースが挙げられる。填料としては、例えばタルク、炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0024】
基材は塗工層が設けられる側の面にスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体化合物、および/またはスチレン-無水マレイン酸共重合体化合物を0.01~2.0g/m2の範囲で塗布することが好ましい。
【0025】
下塗り層の塗布方法としては、抄紙工程で得られた基材用原紙に対し、抄紙工程の後工程であるサイズプレスやゲートロール等で上記のスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体化合物やスチレン-無水マレイン酸共重合体化合物単体もしくはデンプン等のバインダーとの混合物として塗布することが可能である。あるいは、基材の少なくとも一方の面にスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体化合物やスチレン-無水マレイン酸共重合体化合物を含む下塗り剤を塗布して基材を形成することもできる。
【0026】
基材のサイズ性については、JIS P 8122:2004に準じて測定されるステキヒトサイズ度で20秒以上であることが包装材料のヒートシール性、耐油性が高まるため好ましい。より好ましくは50秒以上、さらに好ましくは100秒以上である。
【0027】
基材の坪量は、包装材料の強度を保つため、例えば30g/m以上が好ましく、40g/m以上がより好ましく、45g/m以上がさらに好ましい。
基材の坪量の上限は、特に限定するものではないが、袋状の自己接着包装材料として使用する場合は、例えば300g/m以下が好ましく、250g/m以下がより好ましく、200g/m以下がさらに好ましい。
【0028】
基材の密度は、例えば0.50~1.20g/cmが好ましく、0.65~1.10g/cmがより好ましい。基材の密度が上記下限値以上であると、ヒートシール部分の高い接着強度が得られやすい。また、基材の密度が上記上限値以下であると、十分な通気性を保つことができる。
【0029】
(塗工層)
本発明の塗工層はカゼインおよび/またはその塩を30~100質量%含有するものである。カゼインおよび/またはその塩を30~100質量%含有することで、優れたヒートシール強度と耐油性が得られるものである。より好ましくはカゼインおよび/またはその塩を50~100質量%含有するものであり、さらに好ましくは70~100質量%である。
【0030】
本発明で使用できるカゼイン塩としては特に限定されるものではなく、ミルクなどの可溶性カゼイン(カゼインミセル)を含む液体から酸沈殿し、水酸化物(例えばNaOH,KOH,Mg(OH)2,Ca(OH)2,NH4OH又は塩基性塩、例えば、CaCO3,Na2CO3又はK2CO3及びそれらの混合物)のような塩基で中和されることで得られる。また、カゼイン塩の用語は、修飾されたもの(例えば、糖化カゼイン塩又は脱アミドカゼイン塩)を包含する。
【0031】
脱アミドカゼイン塩は、例えば、カゼイン塩を酵素(例えば、脱アミド酵素又はグルタミン転移酵素)の脱アミド活性に付すことにより、得ることができる。その時、グルタミン及び/又はアスパラギンの側鎖の一部又は全部のアミド基は、カルボキシル基を形成する為に、脱アミド化される。カゼインのように、カゼイン塩は、4つの主なカゼインのタイプ(alpha S1,alpha S2,bata及びkappa カゼイン)の混合物から構成される。
【0032】
しかしながら、(ミセルの)カゼインは、タンパク質構造に結合したカルシウム及びリン酸塩を含み、ミセル構造を安定化させる。カゼイン塩の調製物にカルシウム又はリン酸塩が含まれても良いが、カゼイン塩はカルシウムもリン酸塩も含む必要はない。カゼイン塩のなかでは流通量が多いナトリウム塩が好ましい。
【0033】
前記塗工層は、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分をさらに含んでいてもよい。その他の成分としては、特に限定されず、包装材料のヒートシール性、耐油性を発現させる上で一般的に使用され得るものを用いることができる。
例えば、有機顔料、無機顔料、ワックス、金属石鹸、消泡剤、分散剤、防腐剤、保水剤、着色染料等が挙げられる。
前記塗工層にワックスを加えることは、塗料の塗工適性を上げて均一な塗工層を形成しやすくするため好ましい。
【0034】
脱アミドカゼイン塩は、例えば、カゼイン塩を酵素(例えば、脱アミド酵素又はグルタミン転移酵素)の脱アミド活性に付すことにより、得ることができる。その時、グルタミン及び/又はアスパラギンの側鎖の一部又は全部のアミド基は、カルボキシル基を形成する為に、脱アミド化される。カゼインのように、カゼイン塩は、4つの主なカゼインのタイプ(alpha S1,alpha S2,bata及びkappa カゼイン)の混合物から構成される。
【0035】
しかしながら、(ミセルの)カゼインは、タンパク質構造に結合したカルシウム及びリン酸塩を含み、ミセル構造を安定化させる。カゼイン塩の調製物にカルシウム又はリン酸塩が含まれても良いが、カゼイン塩はカルシウムもリン酸塩も含む必要はない。カゼイン塩のなかでは流通量が多いナトリウム塩が好ましい。
【0036】
ワックスとしては、動物ワックス、植物ワックス、鉱物ワックス、石油ワックス、合成ワックス等が挙げられるが、本発明の目的から動物ワックス、植物ワックス、鉱物ワックスの使用が好ましい。
【0037】
動物ワックスとしては、蜜ロウ、シェラック、鯨ロウ、いぼたロウが挙げられる。植物ワックスとしては、米ぬかロウ、大豆由来ワックス、パームワックス、木ロウ、ヒマワリワックスが挙げられる。鉱物ワックスとしては、モンタンワックス、オゾケライト、セレシン、 オイルシェル等が挙げられる。
【0038】
動物ワックスまたは植物ワックスは、前記塗工層に添加しても、得られる包装材料のヒートシール性、耐油性を保つことができることから、前記塗工層に加えるワックスは、動物ワックスまたは植物ワックスであることが好ましく、植物ワックスであることがより好ましく、大豆由来ワックスであることが特に好ましい。
【0039】
動物ワックスまたは植物ワックスの使用量については、特に限定するものではないが、たとえば前記塗工層の0質量%を超えて70質量%以下である。
或いは、前記塗工層においてカゼインとワックスとの含有質量比率が100:0~30:70の範囲であることが好ましい。
【0040】
単位面積当たりの塗工層の質量は、例えば0.1~30g/mであってよく、0.3~20g/mであってよく、1~10g/mであってよく、3~10g/mであってよい。
【0041】
(下塗り層)
下塗り層としては、前記のスチレン-(メタ)アクリル酸共重合体化合物、スチレン-無水マレイン酸共重合体化合物やポリアクリルアミド樹脂の他、各種バリア層、印刷塗被層、遮光層等が挙げられる。
【0042】
(裏面層)
本発明では必要に応じて裏面層を設けることができる。例えば各種バリア層、印刷塗被層、遮光層等が挙げられる。印刷加工を施すことができ、さらに印刷層上にオーバープリント層を有してもよい。
【0043】
(包装材料の製造方法)
包装材料は、基材の少なくとも一方の面に塗工層を形成することにより製造される。
包装材料の製造方法の一例として、下記の包装材料の製造方法Aが挙げられる。
【0044】
包装材料の製造方法A:
基材の少なくとも一方の面に塗工層用塗料を塗布し、乾燥する工程を有し、前記塗工層用塗料のカゼインおよび/またはその塩の含有量が塗工層の全固形分の50~100質量%である包装材料の製造方法。
【0045】
塗工層用塗料は、基材の一方の面のみに塗布してもよく、基材の一方の面及び他方の面に塗布してもよい。
必要に応じて、塗工層用塗料を塗布する前に、基材の表面を平滑化処理してもよい。熱接着層の形成後、得られたヒートシールシートの表面を平滑化処理してもよい。
基材の塗工層が設けられる面のJIS P 8155:2010に準拠して測定される王研式平滑度としては、30~5000秒が、ヒートシール時に良好な接着性が得られ、且つ透気度上昇による接着阻害が起こりにくいため好ましく、50~3000秒がより好ましい。
【0046】
塗工層用塗料の塗布方法は、特に限定されず、各種公知の湿式塗布法が適用される。
例えば抄紙機のオンマシンサイズプレス装置、トランスファーロールコーター(シムサイザー、ゲートロールコーター等)、スプレー装置等を用いて行うことができる。また、オフマシンでは、一般的な塗工装置、例えばブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、シムサイザー、ゲートロールコーター、バーコーター、カーテンコーター、スロットダイコーター、グラビアコーター、チャンプレックスコーター、ブラシコーター、ツーロールコーター、ビルブレードコーター、ショートドウェルコーター等を用いて塗布することができる。また、グラビア印刷機、フレキソ印刷機等の印刷機による塗布も可能である。
【0047】
塗布した塗工層用塗料を乾燥する装置は、塗布面と接触するシリンダードライヤーを用いてもよいが、装置の汚れを防止する観点から塗布面と接触しないエアードライヤー、赤外線ヒーター等が好ましい。操業性、生産性を考慮すると、塗工層用塗料の塗布及び乾燥は、オンマシン式で行われることが好ましい。
基材を抄紙する抄紙機のタイプは、特に限定されず、長網抄紙機、短網抄紙機、円網抄紙機、傾斜抄紙機等が挙げられる。塗布装置、乾燥機を装備するオンマシン型の抄紙機が好ましい。
【0048】
塗工層用塗料を塗布した後の乾燥条件としては、例えば60~160℃、20秒~5分の条件が挙げられる。
【0049】
(作用効果)
包装材料は、ヒートシール方式による自己接着または他の素材との接着により内包物を包装するものである。
ヒートシール部の接着強度の測定方法としては、包装材料の塗工層面同士が接触するようにして加熱・加圧を行ってヒートシールさせた試験片を幅15mmに断裁したものをJIS P 8113:2006に準じ、引張試験機を用いて、180度ピール法で剥離速度300mm/分で剥離することにより測定できる。もしくは、包装材料と他の素材との場合でも同様に測定できる。
好ましい剥離強度としては、0.5N/15mm以上、より好ましくは1.0N/15mm以上、さらに好ましくは2.0N/15mm以上、最も好ましいのは5.0N/15mm以上である。
【0050】
さらに、包装材料は耐油性を発現することもできる。耐油性の評価方法としては、塗工層の塗工面にTAPPI UM-557に準拠して調製された各等級のキット液を滴下し、15秒後に染みが発生するかどうかで評価できる。耐油度(kit)が2級以上であることが好ましく、より好ましいのは5級以上、さらに好ましいのは8級以上、最も好ましいのは10級以上である。
【実施例
【0051】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、%は質量%であり、部は質量部である。各例で用いた測定、評価方法を以下に示す。
【0052】
[内部結合強さの測定]
包装材料の内部結合強さは、JAPAN TAPPI 18-2に準じてI-BOND PREP STATION(型式80-01、テスティングマシンズ社製)にて測定した。
【0053】
[王研式透気度の測定]
基材及び包装材料の王研式透気度は、JIS P 8117:2009に準じて測定した。基材の透気度は塗工層を設ける面が上になるようにして、また包装材料の透気度は塗工層面が上になるようにして測定した。
【0054】
[剥離試験]
包装材料の塗工層面同士が接触するように重ね、熱プレス試験機を用いて150℃、0.2MPa、1.0秒間の熱圧着条件で熱圧着して熱圧着物を作製した。
上記の方法で作成した熱圧着物を幅15mmに断裁して、剥離強度測定用サンプルを作成した。得られた剥離強度測定用サンプルの剥離強度(N/15mm)を、JIS P 8113:2006に準じ、引張試験機(型式:テンシロンRTC-1250A、オリエンテック社製)を用いて、サンプルの複合フィルム、ヒートシールシートそれぞれの端部をチャッキングし、180度ピール法で剥離速度300mm/分で剥離することにより測定した。剥離強度が大きいほど、熱接着性に優れる。
【0055】
[塗工層塗工面の耐油度]
包装材料の塗工層塗工面にTAPPI UM-557に準拠して調製された各等級のキット液を滴下し、15秒後に染みが発生するかどうかで評価した。
【0056】
<実施例1>
(基材の製造)
広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)をDDRにてJIS P 8121-2:2012に記載されるカナダ標準ろ水度(フリーネス)が320mLになるように叩解し、パルプスラリーを得た。前記パルプスラリーに内添薬品として、パルプ質量に対し、絶乾で硫酸バンド1.0%、あらかじめカチオン化澱粉(ピラー3YK、ピラースターチ社製)で分散させたアルケニル無水コハク酸サイズ剤(ファイブラン81K、荒川化学工業社製)0.05%、両性ポリアクリルアミド系樹脂紙力増強剤(PAM)(商品名:ポリストロンOFT-3、荒川化学工業社製、質量平均分子量300万)0.7%、エピクロル樹脂湿潤紙力増強剤0.4%、を添加して抄紙原料を得た。前記抄紙原料を長網抄紙機で抄紙し、シリンダードライヤーで乾燥後、オンライン工程でサイズプレス装置にて、疎水化デンプン(商品名:GRS―T110、王子コーンスターチ社製)とスチレン-アクリル酸共重合体系表面サイズ剤(商品名:ポリマロンE-109、荒川化学工業社製)を固形比で95:5の割合で混合した濃度6.0質量%液を40g/m2塗工したのちシリンダードライヤーで乾燥して基材を得た。得られた基材の坪量は120g/m2、密度は0.74g/cm3、王研式透気度は23秒、王研式平滑度は、フェルト面(塗工層が設けられる面)が16秒、ワイヤー面は11秒、ステキヒトサイズ度は117秒であった。
【0057】
(カゼインの溶解)
水550質量部を加熱し、45℃になったら25質量%のアンモニアを30質量部加えた。さらに50℃になるまで加熱を行った後、カゼインを125質量部加えて撹拌を行い、カゼインを溶解した。溶解後に調整水で希釈して、10質量%のカゼイン溶解液を得た。
【0058】
(塗工層用塗料の調製)
上記カゼインの溶解で得られた10質量%のカゼインを水で7.0質量%となるように希釈して塗工層用塗料を得た。得られた塗工層用塗料の7.0質量%におけるB型粘度計による粘度は45mPa・sであった。
【0059】
(包装材料の製造)
上記塗工層用塗料を上記で得られた基材のF面にバーコーターを用いて塗布し、送風乾燥機にて110℃、2分間の条件で乾燥して熱接着層を形成した。ここでは、乾燥後の熱接着層用塗料の塗布量が3.3g/m2となるように塗布した。これにより、包装材料を得た。
【0060】
<実施例2>
(カゼインナトリウムの溶解)
水850質量部にカゼインナトリウム(富士フィルム和光純薬社製)150質量部を分散して、撹拌しながら90℃まで加熱後、30分間90℃で保持したのち、冷却し、調整水で希釈して10質量%のカゼインナトリウム溶解液を得た。
【0061】
(塗工層用塗料の調製)
実施例1の塗工層用塗料の調製において、水160質量部、上記カゼインナトリウムの溶解で得られた10質量%のカゼインナトリウムを水で7.0質量%となるように希釈して塗工層用塗料を得た。得られた塗工層用塗料の7.0質量%におけるB型粘度計による粘度は50mPa・sであった。
【0062】
(包装材料の製造)
上記塗工層用塗料を基材のF面にバーコーターを用いて塗布し、送風乾燥機にて110℃、2分間の条件で乾燥して熱接着層を形成した。ここでは、乾燥後の熱接着層用塗料の塗布量が3.3g/m2となるように塗布した。これにより、包装材料を得た。
【0063】
<実施例3>
実施例1の基材の製造において、広葉樹晒パルプのカナダ標準ろ水度(フリーネス)が180mLになるように叩解し、且つあらかじめカチオン化澱粉で分散させたアルケニル無水コハク酸サイズ剤、両性ポリアクリルアミド樹脂系紙力増強剤、エピクロル樹脂湿潤紙力増強剤を添加せず、代わりにロジンサイズ剤(商品名:サイズパインN111-50、荒川化学工業社製)を0.9質量%使用した以外は実施例1と同様にして包装材料を得た。得られた基材の坪量は120g/m2、密度は0.74g/cm3、王研式透気度は116秒、王研式平滑度は、フェルト面(塗工層が設けられる面)が16秒、ワイヤー面は11秒、ステキヒトサイズ度は123秒であった。
【0064】
<実施例4>
実施例1の基材の製造において、サイズプレス装置による塗工を行わなかった以外は実施例1と同様にして包装材料を得た。なお、なお、前記で得られた基材の坪量は117.6g/m2、密度は0.74g/cm3、王研式透気度は23秒、王研式平滑度は、フェルト面が16秒、ワイヤー面は11秒、ステキヒトサイズ度は25秒であった。
【0065】
<実施例5>
実施例1の基材の代わりに、厚さ20μmのポリ乳酸製生分解性フィルム(パルグリーンBO、三井化学東セロ株式会社製)の片面に塗工層用塗料を乾燥後の質量で3.3g/m2を塗工・乾燥した以外は実施例1と同様にして包装材料を得た。
【0066】
<実施例6>
(基材の製造)
広葉樹晒クラフトパルプ(JIS P 8121-2:2012に規定されるフリーネス:420mLcsf)100質量部にロジン系エマルジョンサイズ剤(商品名:AL-1200、日本PMC社製)を0.09質量部、硫酸バンド3.5質量部、澱粉グラフトアクリルアミド系紙力剤(商品名:DG4204、日本PMC社製)0.2質量部、離型剤(商品名:メイカテックスHP-68C、明成化学工業社製)0.03質量部、カチオン化澱粉(商品名:エースK-100、王子コーンスターチ社製)0.6質量部を添加して、ヤンキードライヤーを備えた公知の長網抄紙機を用いて抄紙し、坪量65g/m2及び水分含有率5%の片艶紙を製造した。得られた片艶紙の密度は0.81g/cm3、艶面のJIS P 8155:2010に準拠して測定される王研式平滑度は艶面が320秒、更面が10秒であった。また、得られた片艶紙の8117:2009に準拠して測定される透気度は46秒であった。ステキヒトサイズ度は27秒であった。
【0067】
(包装材料の製造)
実施例1で用いた基材の代わりに上記「基材の製造」で得られた基材の艶面に塗工層用塗料をバーコーターを用いて塗布し、送風乾燥機にて110℃、2分間の条件で乾燥して熱接着層を形成した。ここでは、乾燥後の熱接着層用塗料の塗布量が3.3g/m2となるように塗布した。これにより、包装材料を得た。
【0068】
<実施例7>
(塗工層用塗料の調製)
10.0質量%のカゼイン水溶液800質量部、30.0質量%の大豆由来ワックス(Eurika Coat SW166N、EURIKAS社製)67質量部、水562質量部を混合撹拌して塗工層用塗料を得た。得られた塗工層用塗料の7.0質量%におけるB型粘度計による粘度は25mPa・sであった。
【0069】
(包装材料の製造)
実施例6で用いた塗工層用塗料の代わりに上記「塗工層用塗料の調製」で得られた塗工層用塗料を基材の艶面に塗布量が3.3g/m2となるように塗布した以外は実施例6と同様にして包装材料を得た。
【0070】
<実施例8>
(塗工層用塗料の調製)
10.0質量%のカゼイン水溶液400質量部、30.0質量%の大豆由来ワックス(Eurika Coat SW166N、EURIKAS社製)200質量部、水829質量部を混合撹拌して塗工層用塗料を得た。得られた塗工層用塗料の7.0質量%におけるB型粘度計による粘度は16mPa・sであった。
【0071】
(包装材料の製造)
実施例7で用いた塗工層用塗料の代わりに上記「塗工層用塗料の調製」で得られた塗工層用塗料を基材の艶面に塗布量が3.3g/m2となるように塗布した以外は実施例7と同様にして包装材料を得た。
【0072】
<比較例1>
(塗工層用塗料の調製)
10.0質量%のカゼイン水溶液200質量部、30.0質量%の大豆由来ワックス(Eurika Coat SW166N、EURIKAS社製)267質量部、水962質量部を混合撹拌して塗工層用塗料を得た。得られた塗工層用塗料の7.0質量%におけるB型粘度計による粘度は8mPa・sであった。
【0073】
(包装材料の製造)
実施例7で用いた塗工層用塗料の代わりに上記「塗工層用塗料の調製」で得られた塗工層用塗料を基材の艶面に塗布量が3.3g/m2となるように塗布した以外は実施例7と同様にして包装材料を得た。
【0074】
<比較例2>
(基材の製造)
未叩解の広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP、JIS P 8121-2:2012に記載されるカナダ標準ろ水度(フリーネス)は520mL)のパルプスラリーに内添薬品として、パルプ質量に対し、絶乾で硫酸バンド1.0%、あらかじめカチオン化澱粉(ピラー3YK、ピラースターチ社製)で分散させたアルケニル無水コハク酸サイズ剤(ファイブラン81K、荒川化学工業社製)0.05%を添加して抄紙原料を得た。前記抄紙原料を長網抄紙機で抄紙し、シリンダードライヤーで乾燥後、オンライン工程でサイズプレス装置にて、疎水化デンプン(商品名:GRS―T110、王子コーンスターチ社製)とスチレン-アクリル酸共重合体系表面サイズ剤(商品名:ポリマロンE-109、荒川化学工業社製)を固形比で95:5の割合で混合した濃度6.0質量%液を40g/m2塗工したのちシリンダードライヤーで乾燥して基材を得た。得られた基材の坪量は120g/m2、密度は0.74g/cm3、王研式透気度は15秒、王研式平滑度は、フェルト面(塗工層が設けられる面)が16秒、ワイヤー面は11秒、ステキヒトサイズ度は102秒であった。
【0075】
(包装材料の製造)
実施例1で用いた基材の代わりに上記「基材の製造」で得られた基材のF面に塗工層用塗料をバーコーターを用いて塗布し、送風乾燥機にて110℃、2分間の条件で乾燥して熱接着層を形成した。ここでは、乾燥後の熱接着層用塗料の塗布量が3.3g/m2となるように塗布した。これにより、包装材料を得た。
【0076】
<評価>
実施例1~8、および比較例1~2の各包装材料について以下の評価を行い、結果を表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
上記結果に示す通り、実施例1~8の包装材料は、剥離試験でのヒートシール強度が1.20N/15mm以上であり、且つKit耐油度も5級以上であった。一方で、比較例1の包装材料はヒートシール強度は十分得られたがKit耐油度が2級であり、使用上の問題発生が懸念された。比較例2のヒートシール強度は0.30N/15mmであり、不慮の開口等使用上の問題を来すおそれが考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の包装材料は、十分なヒートシール性と耐油性とを備え、且つ非石油化学材料を主体とする環境負荷の小さい優れた包装材料である。