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特許7640942プリント回路用基材、プリント回路、及びプリント回路用基材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-26
(45)【発行日】2025-03-06
(54)【発明の名称】プリント回路用基材、プリント回路、及びプリント回路用基材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/38 20060101AFI20250227BHJP
   H05K 3/18 20060101ALI20250227BHJP
   H05K 3/24 20060101ALI20250227BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20250227BHJP
【FI】
H05K3/38 A
H05K3/18 B
H05K3/18 H
H05K3/24 A
H05K1/03 670A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022555452
(86)(22)【出願日】2021-10-04
(86)【国際出願番号】 JP2021036551
(87)【国際公開番号】W WO2022075239
(87)【国際公開日】2022-04-14
【審査請求日】2023-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2020171170
(32)【優先日】2020-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【弁理士】
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】部谷 拓斗
(72)【発明者】
【氏名】三浦 宏介
【審査官】鹿野 博司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/216012(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/095723(WO,A1)
【文献】特開2020-057799(JP,A)
【文献】特開2003-124214(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/38
H05K 3/18
H05K 3/24
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミドを主成分とするベースフィルムと、
前記ベースフィルムの少なくとも一方の面側に形成された導体層と、
を備え、
前記導体層は、前記ベースフィルム上に形成された金属焼結層と、前記金属焼結層上に形成された無電解めっき層と、を有し、
前記ベースフィルム内において、平面視において最大幅5μm以上のボイドの数が、前記ベースフィルムの表面における0.25mmの基準単位面積あたり10個以下であり、
前記ベースフィルムにおいて前記ボイドが存在しない箇所におけるベースフィルム表面に対する、前記ボイドが存在する箇所におけるベースフィルム表面の高さが、1.5μm以上である
プリント回路用基材。
【請求項2】
前記導体層は、前記無電解めっき層上に電気めっき層又は金属箔層をさらに有する
請求項1に記載のプリント回路用基材。
【請求項3】
前記ボイドの数は、前記基準単位面積あたり5個以下である
請求項1又は請求項2に記載のプリント回路用基材。
【請求項4】
前記ベースフィルムはパラジウムを含まない
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のプリント回路用基材。
【請求項5】
ポリイミドを主成分とするベースフィルムと、
前記ベースフィルムの少なくとも一方の面側に形成された導電パターンを備え、
前記導電パターンは、最小導体幅及び最小導体間隔を有し、
前記最小導体幅及び前記最小導体間隔のいずれか一方又は両方が20μm以下であり、
前記導電パターンは、前記ベースフィルム上に形成された金属焼結層と、前記金属焼結層上に形成された無電解めっき層を含み、
前記ベースフィルム内において、平面視において最大幅5μm以上のボイドの数が、前記ベースフィルムの表面における0.25mmの基準単位面積あたり10個以下であり、
前記ベースフィルムにおいて前記ボイドが存在しない箇所におけるベースフィルム表面に対する、前記ボイドが存在する箇所におけるベースフィルム表面の高さが、1.5μm以上である
プリント回路。
【請求項6】
前記最小導体幅及び前記最小導体間隔のいずれか一方又は両方が15μm以下である
請求項に記載のプリント回路。
【請求項7】
前記ベースフィルムは、厚さ方向に貫通するスルーホールを備える
請求項又は請求項に記載のプリント回路。
【請求項8】
ポリイミドを主成分とするベースフィルムの一方の面側に、金属焼結層である第1導体層を形成する工程と、
前記第1導体層上に、触媒を用いた無電解めっきにより第2導体層を形成する工程と、
を備え、
前記第2導体層を形成する工程は、無電解めっき液中の前記第1導体層に電位を印加する電解アシストによって前記無電解めっき液から前記触媒となる導体を前記第1導体層上に析出させることを含む
プリント回路用基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プリント回路用基材、プリント回路、及びプリント回路用基材の製造方法に関する。本出願は、2020年10月09日出願の日本出願第2020‐171170号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ポリイミドを主成分とするベースフィルムと導電層とを備えたプリント回路用基材を開示している。
【0003】
特許文献1の導電層は、金属粒子を含む導電性インクの塗布及び焼成により形成される第1導電層と、第1導電層の一方の面側に無電解めっきにより形成される第2導電層と、を有する。
【0004】
特許文献1のプリント回路用基材の製造方法は、ベースフィルム上の一方の面側への導電性インクの塗布及び焼成により第1導電層を形成する工程と、第1導電層形成後に、パラジウムを触媒として無電解めっきを施すことにより、第1導電層の表面に第2導電層を形成する工程と、無電解めっき後に、熱処理によりベースフィルム中にパラジウム分散させる工程と、を備える。
【0005】
特許文献1において、無電解めっきにより第2導電層を形成する工程は、第1導電層にパラジウムを吸着させる工程と、第1導電層が形成された積層体を無電解めっき液に浸漬することで、第1導電層の表面に、第2導電層となる銅などの金属を析出させる工程と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-119424号公報
【発明の概要】
【0007】
本開示のある側面は、プリント回路用の基材である。開示の基材は、ポリイミドを主成分とするベースフィルムと、前記ベースフィルムの少なくとも一方の面側に形成された導体層とを備え、前記導体層は、前記ベースフィルム上に形成された金属焼結層と、前記金属焼結層上に形成された無電解めっき層と、を有し、前記ベースフィルム内において、平面視において最大幅5μm以上のボイドの数が、前記ベースフィルムの表面における0.25mmの基準単位面積あたり10個以下である。
【0008】
本開示の他の側面は、プリント回路である。開示のプリント回路は、ポリイミドを主成分とするベースフィルムと、前記ベースフィルムの少なくとも一方の面側に形成された導電パターンを備え、前記導電パターンは最小導体幅及び最小導体間隔を有し、前記最小導体幅及び前記最小導体間隔のいずれか一方又は両方が20μm以下であり、前記導電パターンは、前記ベースフィルム上に形成された金属焼結層と、前記金属焼結層上に形成された無電解めっき層を含み、前記ベースフィルム内において、平面視において最大幅5μm以上のボイドの数が、前記ベースフィルムの表面における0.25mmの基準単位面積あたり10個以下である。
【0009】
本開示の他の側面は、プリント回路用基材の製造方法である。開示の製造方法は、ポリイミドを主成分とするベースフィルムの一方の面側に、金属焼結層である第1導体層を形成する工程と、前記第1導体層上に、触媒を用いた無電解めっきにより第2導体層を形成する工程と、を備え、前記第2導体層を形成する工程は、無電解めっき液中の前記第1導体層に電位を印加する電解アシストによって前記無電解めっき液から前記触媒となる導体を前記第1導体層上に析出させることを含む。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態に係るプリント回路用基材の概略断面図である。
図2図2は、実施形態に係るプリント回路用基材の製造方法を示すフローチャートである。
図3図3は、無電解めっき装置を示す概略平面図である。
図4図4は、プリント回路の概略断面図である。
図5図5は、ベースフィルムに含まれるスルーホールの内壁と周囲を示す概略断面図である。
図6図6は、参考例に係るプリント回路用基材の製造方法を示すフローチャートである。
図7図7は、参考例に係るプリント回路用基材の概略断面図である。
図8図8は、参考例に係るプリント回路用基材におけるボイド発生箇所の拡大断面図である。
図9図9は、図8に示す回路用基材からエッチングによって導体層を除去した後のベースフィルムの拡大断面図である。
図10図10は、ベースフィルム表面におけるボイド発生箇所の拡大画像(模式図)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示が解決しようとする課題]
特許文献1のように無電解めっきにより導電層を形成すると、ポリイミドを主成分とするベースフィルム内にボイドが発生する。ボイドは、ベースフィルムの内部に生じる空洞である。ボイドは、ベースフィルムと導電層との界面近傍に形成され、ベースフィルム表面を局所的に膨張させる。
【0012】
本発明者らは、ベースフィルムに存在するボイドが、ファインパターンを有するプリント回路における回路不良の原因になることを見出した。ボイドは、数μm程度であって比較的小さい。このため、導電パターンの導体幅又は導体間隔がボイドに比べて十分に大きい通常のプリント回路の場合には、ボイドの存在はほとんど問題にならない。しかし、ファインパターンの場合、導体幅又は導体間隔が微細であるため、ボイドの存在によって回路不良が生じる。例えば、ボイドの大きさが、狭い導体幅と同程度かそれ以上である場合、ボイドにより膨張したベースフィルム表面上に導体が存在すると、導体が剥離し、導通不良が生じるおそれがある。また、導体の剥離により導体間の絶縁不良が生じるおそれもある。
【0013】
したがって、ポリイミドを主成分とするベースフィルムと無電解めっき層とを備えるファインパターンのプリント回路用の基材において、回路不良を抑制することが望まれる。
[本開示の効果]
【0014】
本開示によれば、ファインパターンを有するプリント回路の回路不良を抑制できる。
【0015】
[本開示の実施形態の説明]
【0016】
(1)実施形態に係るプリント回路用基材は、ポリイミドを主成分とするベースフィルムと、前記ベースフィルムの少なくとも一方の面側に形成された導体層とを備え、前記導体層は、前記ベースフィルム上に形成された金属焼結層と、前記金属焼結層上に形成された無電解めっき層と、を有し、前記ベースフィルム内において、平面視において最大幅5μm以上のボイドの数が、前記ベースフィルムの表面における0.25mmの基準単位面積あたり10個以下である。特に、実施形態に係るプリント回路用基材が、ファインパターン(たとえば、最小導体幅及び最小導体間隔のいずれか一方又は両方が20μm以下)のプリント回路に用いられたときに、回路不良を生じさせるおそれのあるボイドの数が少ないことで、ファインパターンのプリント回路における回路不良を抑制できる。ここでファインパターンとは、20μm以下の最小導体幅と20μm以下の最小導体間隔のうち両方又はいずれか一方を備える。
以下、本明細書で記載する「ボイド」は、特に記載がない限り、ベースフィルム内における、ベースフィルムと導体層との界面近傍に形成されるボイドである。
【0017】
(2)前記導体層は、前記無電解めっき層上に電気めっき層又は金属箔層をさらに有してもよい。前記無電解めっき層上に電気めっき層又は金属箔層をさらに有する。前記電気めっき層又は金属箔層を形成することにより、導体層全体の厚さの調整が容易かつ正確に行える。金属箔層は極薄金属箔層であってもよく、例えば、極薄銅箔層である。
【0018】
(3)前記ボイドの数は、前記基準単位面積あたり5個以下であってもよい。ボイドの数がより少ないことにより、回路不良をより抑制できる。
【0019】
(4)前記ベースフィルムはパラジウムを含まない。「ベースフィルムはパラジウムを含まない」とは、ベースフィルムにパラジウムを全く含まない、又はベースフィルムにパラジウムを実質的に含んでいないことをいう。「ベースフィルムにパラジウムを実質的に含んでいない」とは、ベースフィルムは、パラジウムが不可避的に含まれる含有量を除いて含んでいない。不可避的に含まれる含有量とは、例えば、導体層側のベースフィルム表面のポリイミドを切り出しICP分析した結果である0.05ppm以上10ppm以下の含有量である。パラジウムを含まないことにより、ベースフィルムにおけるボイドの発生を抑制できる。
【0020】
(5)前記ベースフィルムにおいて前記ボイドが存在しない箇所におけるベースフィルム表面に対する、前記ボイドが存在する箇所におけるベースフィルム表面の高さが、1.5μm以上であってもよい。ボイドの高さが1.5μm以上であると、ボイドによって回路不良が生じ易いが、前述のようにボイドの数が少ないことで、回路不良が適切に抑制される。ここで、ボイドの高さは、導体層が除去されたベースフィルムの表面をレーザ顕微鏡観察することによって計測される。
【0021】
(6)実施形態に係るプリント回路は、ポリイミドを主成分とするベースフィルムと、前記ベースフィルムの少なくとも一方の面側に形成された導電パターンを備え、前記導電パターンは最小導体幅及び最小導体間隔を有し、前記最小導体幅及び前記最小導体間隔のいずれか一方又は両方が20μm以下であり、前記導電パターンは、前記ベースフィルム上に形成された金属焼結層と、前記金属焼結層上に形成された無電解めっき層を含み、前記ベースフィルム内にいて、平面視の最大幅5μm以上のボイドの数が、前記ベースフィルムの表面における0.25mmの基準単位面積あたり10個以下である。回路不良を生じさせるおそれのあるボイドの数が少ないことで、ファインパターンプリント回路における回路不良を抑制できる。
【0022】
(7)実施形態に係るプリント回路は、前記最小導体幅及び前記最小導体間隔のいずれか一方又は両方が15μm以下である。回路不良を生じさせるおそれのあるボイドの数が少ないことで、ファインパターンプリント回路における回路不良を抑制できる。
【0023】
(8)前記ベースフィルムは、厚さ方向に貫通するスルーホールを備える。
【0024】
(9)実施形態に係るプリント回路用基材の製造方法は、ポリイミドを主成分とするベースフィルムの一方の面側に、金属焼結層である第1導体層を形成する工程と、前記第1導体層上に、触媒を用いた無電解めっきにより第2導体層を形成する工程とを備え、前記第2導体層を形成する工程は、無電解めっき液中の前記第1導体層に電位を印加する電解アシストによって前記無電解めっき液から前記触媒となる導体を前記第1導体層上に析出させることを含む。
【0025】
[本開示の実施形態の詳細]
【0026】
以下、本開示の実施形態の詳細を、図面を参照しつつ説明する。
【0027】
[プリント回路用基材]
【0028】
図1に示すプリント回路用基材200は、絶縁性を有するベースフィルム1と、このベースフィルム1の少なくとも一方の面側に積層される導体層2とを備える。プリント回路用基材200の導体層2に、回路の導電パターンを形成することで、プリント回路300が製造される。プリント回路300は、例えば、フレキシブルプリント回路(FPC)である。
【0029】
[ベースフィルム]
【0030】
ベースフィルム1は、シート状の部材である。このベースフィルム1は、プリント回路用基材200を用いて形成されるプリント回路300において、導電パターンを支持する。
【0031】
実施形態において、ベースフィルム1の材料は、ポリイミドである。ベースフィルム1は、主成分がポリイミドであれば足り、他の成分を含んでいてもよい。ここでいう「主成分」とは、含有量が50wt%以上である成分をいう。または「主成分」とは、含有されている成分のうち最も含有量が大きい成分をいう。導体層2の表面に形成される金属酸化物等との結合力が大きいという理由で、ポリイミドを用いてもよい。
【0032】
ベースフィルム1の厚さは、プリント回路用基材200を利用するプリント回路300によって設定されるものであり特に限定されないが、例えばベースフィルム1の平均厚さの下限としては、5μmであってもよく、12μmであってもよい。一方、ベースフィルム1の平均厚さの上限としては、2mmであってもよく、1.6mmであってもよい。ベースフィルム1の平均厚さが5μmに満たない場合、ベースフィルム1の強度が不十分となるおそれがある。逆に、ベースフィルム1の平均厚さが2mmを超える場合、プリント回路300の薄板化が困難となるおそれがある。
【0033】
上記ベースフィルム1には、導体層2を積層する側の表面に親水化処理を施してもよい。上記親水化処理は、例えばプラズマを照射して表面を親水化するプラズマ処理であってもよいし、アルカリ溶液で表面を親水化するアルカリ処理であってもよい。ベースフィルム1に親水化処理を施すことにより、導電性インクのベースフィルム1に対する表面張力が小さくなるので、導電性インクをベースフィルム1に均一に塗り易くなる。
【0034】
[導体層]
【0035】
導体層2は、少なくとも、第1導体層4と、第2導体層5とを有する。導体層2は、第1導体層4と、第2導体層5と、この第2導体層5上に形成された第3導体層6をさらに有してもよい。第1導体層4は、金属粒子などの導体粒子を含む導電性インクの塗布及び焼成により形成される導体焼成層である。第1導体層4は、ベースフィルム1上に形成される。第2導体層5は、第1導体層4の一方の面側(ベースフィルム1と反対側)に無電解めっきにより形成される無電解めっき層である。第3導体層6は、例えば、第2導体層5の一方の面側(ベースフィルム1と反対側)に電気めっきにより形成される電気めっき層である。
【0036】
導体層2の厚さは、プリント回路用基材200を用いてどのようなプリント回路300を作成するかによって定められる。導体層2の平均厚さの下限としては、特に限定されないが、1μmであってもよく、2μmであってもよい。一方、導体層2の平均厚さの上限としては、特に限定されないが、100μmであってもよく、50μmであってもよい。導体層2の平均厚さが1μmに満たない場合、導体層2が損傷し易くなるおそれがある。逆に、導体層2の平均厚さが100μmを超える場合、プリント回路300の薄板化が困難となるおそれがある。
【0037】
[第1導体層]
【0038】
第1導体層4は、金属焼結層である。金属焼結層は、例えば、金属粒子の焼結層である。第1導体層4は、例えば、金属粒子を含む導電性インクの塗布及び焼成により形成される。第1導体層4は、ベースフィルム1の一方の面に積層されている。プリント回路用基材200では、導電性インクの塗布及び焼成により第1導体層4が形成されているので、ベースフィルム1の一方の面を容易に導電性の皮膜で覆うことができる。なお、導電性インク中の不要な有機物等を除去して金属粒子を確実にベースフィルム1の一方の面に固着させるため、第1導体層4は導電性インクの塗布後に焼成されることにより形成される。
【0039】
第1導体層4を形成する導電性インクは、導電性をもたらす導電性物質として金属粒子を含んでいる。本実施形態では、導電性インクとして、金属粒子と、その金属粒子を分散させる分散剤と、分散媒とを含むものを用いる。このような導電性インクを用いて塗布することで、微細な金属粒子による第1導体層4がベースフィルム1の一方の面に積層される。
【0040】
導電性インクに含まれる金属粒子を構成する金属は、特に限定されるものではないが、第1導体層4とベースフィルム1との間の密着力向上の観点より、その金属に基づく金属酸化物又はその金属酸化物に由来する基並びにその金属に基づく金属水酸化物又はその金属水酸化物に由来する基が生成されるものであるものであってよく、例えば銅、ニッケル、アルミニウム、金又は銀を用いることができる。この中でも、導電性がよく、ベースフィルム1との密着性に優れるため、銅を用いてもよい。
【0041】
導電性インクに含まれる金属粒子の平均粒子径の下限としては、1nmであってもよく、30nmであってもよい。一方、上記金属粒子の平均粒子径の上限としては、500nmであってもよく、100nmであってもよい。上記金属粒子の平均粒子径が1nmに満たない場合、導電性インク中での金属粒子の分散性及び安定性が低下するおそれがある。逆に、上記金属粒子の平均粒子径が500nmを超える場合、金属粒子が沈殿し易くなるおそれや、導電性インクを塗布した際に金属粒子の密度が均一になり難くなるおそれがある。
【0042】
第1導体層4の平均厚さの下限としては、0.05μmであってもよく、0.1μmであってもよい。一方、上記第1導体層4の平均厚さの上限としては、2μmであってもよく、1.5μmであってもよい。上記第1導体層4の平均厚さが0.05μmに満たない場合、第1導体層4に切れ目が生じて導電性が低下するおそれがある。逆に、上記第1導体層4の平均厚さが2μmを超える場合、導体層2の薄膜化が困難となるおそれや、第1導体層4の空孔に後述する第2導体層5形成時に金属を充填できず、第1導体層4ひいては導体層2の導電性及び強度が不十分となるおそれがある。
【0043】
[第2導体層]
【0044】
第2導体層5は、無電解めっきにより第1導体層4の表面、つまりベースフィルム1と反対側の面に積層されている。このように第2導体層5が無電解めっきにより形成されているので、第1導体層4を形成する金属粒子間の空隙には第2導体層5の金属が充填されている。第1導体層4に空隙が残存していると、この空隙部分が破壊起点となって第1導体層4がベースフィルム1から剥離し易くなるが、この空隙部分に第2導体層5を構成する金属が充填されていることにより第1導体層4の剥離が抑制される。
【0045】
無電解めっきに用いる金属として、導通性のよい銅、ニッケル、銀等を用いることができるが、第1導体層4を形成する金属粒子に銅を使用する場合には、第1導体層4との密着性を考慮して、銅又はニッケルを用いてもよい。なお、無電解めっきに用いるめっき液は、ニッケル以外の金属を無電解めっきに用いる場合、めっき金属に加えてニッケル又はニッケル化合物を含有させたものを用いてもよい。
【0046】
無電解めっきにより形成する第2導体層5の平均厚さの下限としては、0.2μmであってもよく、0.3μmであってもよい。一方、無電解めっきにより形成する第2導体層5の平均厚さの上限としては、1μmであってもよく、0.5μmであってもよい。無電解めっきにより形成する第2導体層5の平均厚さが0.2μmに満たない場合、第2導体層5が第1導体層4の空隙部分に十分に充填されず導電性が低下するおそれがある。逆に、無電解めっきにより形成する第2導体層5の平均厚さが1μmを超える場合、無電解めっきに要する時間が長くなり生産性が低下するおそれがある。
【0047】
[第3導体層]
【0048】
第3導体層6は、例えば、無電解めっきにより形成される第2導体層5の表面に、電気めっきにより積層して形成される。この場合の第3導体層6は、電気めっきにより形成される電気めっき層である。また、第3導体層6は、第2導体層5の表面に設けられた金属箔層であってもよい。金属箔層は極薄金属箔層であってもよく、例えば、極薄銅箔層である。金属箔層の厚さは、例えば、0.5μm以上10μm以下である。このように、第2導体層5の表面に第3導体層6を積層することによって、導体層2の厚さの調整が容易かつ正確に行え、また比較的短時間でプリント回路300を形成するのに必要な厚さの導体層を形成することができる。
【0049】
第3導体層6を形成する電気めっきに用いる金属として、導通性のよい銅、ニッケル、銀等を用いることができる。第3導体層6が極薄銅箔層である場合は、熱圧着等で接合させることで積層させることができる。
【0050】
第3導体層6の厚さは、必要とされる導体層2全体の厚さに応じて定められる。
【0051】
[プリント回路用基材の製造方法]
【0052】
図2は、図1に示すプリント回路用基材の製造方法の手順を示している。
【0053】
実施形態において、プリント回路用基材の製造方法は、導電性インク調製工程(ステップS11)と、導電性インク塗布焼成工程(ステップS12)と、無電解めっき工程(ステップS14)と、熱処理工程(ステップS15)と、電気めっき工程(ステップS16)と、を備える。
【0054】
[調製工程(ステップS11)]
【0055】
ステップS11の調製工程では、金属粒子を含む導電性インクが調製される。調製工程では、分散媒に分散剤を溶解し、上述の金属粒子を分散媒中に分散させる。つまり、分散剤が金属粒子を取り囲むことで凝集を抑制して金属粒子を分散媒中に良好に分散させる。
なお、分散剤は、水又は水溶性有機溶媒に溶解した溶液の状態で反応系に添加することもできる。
【0056】
導電性インクの分散媒としては、水、高極性溶媒、又はこれらの2種若しくは3種以上を混合したものを使用することができ、中でも水を主成分とし、水と相溶する高極性溶媒を混合したものが好適に使用される。
【0057】
導電性インクに含まれる分散剤としては、当該プリント回路用基材の劣化防止の観点より、硫黄、リン、ホウ素、ハロゲン及びアルカリを含まないものであるとよい。このような分散剤としては、ポリエチレンイミン、ポリビニルピロリドン等のアミン系の高分子分散剤、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース等の分子中にカルボン酸基を有する炭化水素系の高分子分散剤、ポバール(ポリビニルアルコール)、スチレン-マレイン酸共重合体、オレフィン-マレイン酸共重合体、1分子中にポリエチレンイミン部分とポリエチレンオキサイド部分とを有する共重合体等の極性基を有する高分子分散剤等を挙げることができる。
【0058】
[塗布焼成工程(ステップS12)]
【0059】
ステップS12の塗布焼成工程では、絶縁性を有するベースフィルム1の一方の面側への導電性インクの塗布及び焼成により第1導体層4が形成される。塗布焼成工程では、ステップS11で調製した導電性インクをベースフィルム1の表面に塗布し、乾燥した後、加熱して焼成する。なお、導電性インクが塗布されるベースフィルム1の表面は、前述のアルカリ処理などの親水化処理が予め施されており、改質されている。
【0060】
金属粒子を分散させた導電性インクをベースフィルム1の一方の面に塗布する方法としては、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ダイコート法、スリットコート法、ロールコート法、ディップコート法等の従来公知の塗布法を用いることができる。
またスクリーン印刷、ディスペンサ等によりベースフィルム1の一方の面の一部のみに導電性インクを塗布するようにしてもよい。
【0061】
続いて、ベースフィルム1に塗布した導電性インク中の分散媒を蒸発させて、この導電性インクを乾燥する。
【0062】
導電性インクの乾燥方法としては、自然乾燥、加熱による乾燥、温風による乾燥等を適用することができる。但し、乾燥前の導電性インクにその表面を荒らすような強い風を当てないような方法とされる。
【0063】
さらに、乾燥した導電性インクを加熱することによって導電性インク中の分散媒を熱分解すると共に金属粒子を焼成し、第1導体層4を形成する。この焼成により、金属粒子が焼結状態又は焼結に至る前段階にあって相互に密着して固体接合したような状態となる。
このため、この導電性インク塗布焼成工程後の第1導体層4は、上記金属粒子の粒子間の隙間に相当する空孔を有するものとなり得る。
【0064】
上記焼成は、一定量の酸素が含まれる雰囲気下で行う。焼成時の雰囲気の酸素濃度の下限は、1体積ppmであり、10体積ppmであってもよい。また、上記酸素濃度の上限としては、10,000体積ppmであり、1,000体積ppmであってもよい。上記酸素濃度が1体積ppmに満たない場合、第1導体層4の界面近傍における金属酸化物の生成量が少なくなり、金属酸化物による第1導体層4とベースフィルム1との密着力の向上効果が十分に得られないおそれがある。一方、上記酸素濃度が10,000体積ppmを超える場合、金属粒子が過剰に酸化してしまい第1導体層4の導電性が低下するおそれがある。
【0065】
上記焼成の温度の下限としては、150℃であってもよく、200℃であってもよい。また、上記焼成の温度の上限としては、500℃であってもよく、400℃であってもよい。上記焼成の温度が150℃未満になると、第1導体層4の界面近傍における金属酸化物の生成量が少なくなり、金属酸化物による第1導体層4とベースフィルム1との密着力の向上効果が十分に得られないおそれがある。一方、上記焼成の温度が500℃を超えると、ベースフィルム1がポリイミド等の有機樹脂の場合にベースフィルム1が変形するおそれがある。
【0066】
[無電解めっき工程(ステップS14)]
【0067】
ステップS14の無電解めっき工程では、無電解めっき液を用いて、無電解めっきを施すことにより、第1導体層4の表面及び第1導体層4の内部の空孔に金属を析出させることにより第2導体層5を形成する。なお、ステップS14の無電解めっき工程の前に、第1導体層4が表面に形成されたベースフィルム1に対して、脱脂洗浄および酸洗処理がなされてもよい。
【0068】
無電解めっき液は、金属を析出させる。析出する金属としては、上述したように、銅、ニッケル、銀等が挙げられる。例えば銅を析出させる場合、無電解めっきで用いる銅めっき液として、微量のニッケルを含有する銅めっき液を用いる。ニッケル又はニッケル化合物を含有させた銅めっき液を用いることにより、低応力の第2導体層5を形成することができる。銅めっき液として、例えば100モルの銅に対し0.1モル以上60モル以下のニッケルを含有するものであってもよい。また、銅めっき液に、錯化剤、還元剤、pH調整剤等の他の成分を適宜配合させてもよい。
【0069】
ステップS14の無電解めっき工程は、電解アシストによって無電解めっき液から触媒となる金属(導体)を第1導体層4上に析出させる工程(ステップS14-1)を有する。ステップS14の無電解めっき工程では、ステップS14-1の電解アシストによって析出した金属(導体)を触媒として、無電解めっきによって第1導体層4の表面及び内部に金属(導体)を析出させる。一般的な無電解めっき工程ではパラジウムなどの触媒を付着させる前処理が必要であるが、ステップS14の無電解めっき工程では無電解めっきから析出される金属を触媒として利用するため、パラジウムなどの触媒を付着させる前処理が不要である。一般的な無電解めっき工程で使用され得る触媒として、パラジウム以外では、例えば、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、銀(Ag),金(Au)がある。本開示のプリント回路用基材の製造方法により製造されプリント回路用基材200は、ベースフィルム1において、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、銀(Ag),金(Au)のうち少なくとも一種が全く含有されていない、又は実質的に含有されていない。
【0070】
電解アシストは、無電解めっきの初期析出の際に、無電解めっき液による処理品(被めっき物)に電位を印加してめっきする手法である。電解アシストを行うことで、無電解めっき液を用いつつも、電気めっき(電解めっき)のように電気エネルギーを利用して、無電解めっき液から第1導体層4上に金属が析出する。つまり、電解アシストでは、無電解めっき液を用いて、通電によって、補助的に、めっきが行われる。実施形態に係る製造方法では、ステップS14の無電解めっき工程の前に、無電解めっき液による処理品であるベースフィルム110は、その表面に第1導体層4が形成されており、導電性を有する。
電解アシストでは、無電解めっきの処理品が、第1導体層4により通電可能であることを利用し、電気エネルギーによって、無電解めっき液から金属を第1導体層4に析出させる。
【0071】
図3は、電解アシスト工程(ステップS14-1)を含む電解めっき工程(ステップS14)を行える無電解めっき装置100の例を示している。無電解めっき装置100は、無電解めっき液が入れられた無電解めっき処理槽101を備える。無電解めっき装置100は、第1導体層4が形成されたベースフィルム110を、無電解めっき処理槽101へ搬送するローラ102を備える。第1導体層4が形成されたベースフィルム110は、ローラ102によって、無電解めっき処理槽101内へ搬送され、無電解めっき液に浸漬される。
【0072】
ローラ102は、導電性を有する材料、例えば、SUSによって構成されている。ローラ102は、直流電源105の負極に接続されており、第1導体層4が形成されたベースフィルム110に負電位を印加する。このようにローラ102は、無電解めっき処理槽101外において、第1導体層4に負電位を印加する第1電極として働く。また、無電解めっき処理槽101内には、対極103(第2電極)となるTi板が設けられている。対極103は、直流電源105の正極に接続されており、無電解めっき液に正電位が印加される。
【0073】
第1導体層4に、第1電極としてのローラ102から負電位が印加されることで、無電解めっき液に浸漬された第1導体層4の電位が下がる。これにより、無電解めっき液から銅などの金属が、無電解めっき液に浸漬された第1導体層4上に析出する。電解アシストにより析出した金属は、無電解めっきのための触媒となる。このように、電解アシスト工程は、無電解めっきのための触媒を、第1導体層4に付着させる工程でもある。
【0074】
無電解めっき処理槽101では、電解アシストによって析出した金属を触媒として、無電解めっきが行われる。この無電解めっきにより、第1導体層4表面に金属を析出させることによって第2導体層5が形成されると同時に、第1導体層4内部の空孔内にも金属が析出することによって、第1導体層4が緻密化される。この第1導体層4の緻密化によって、第1導体層4の導電性が向上するだけでなく、ベースフィルム1に対する第1導体層4の密着面積が増加することにより、この第1導体層4ひいては導体層2のベースフィルム1からの剥離強度が増大する。
【0075】
ステップS14の無電解めっき工程では、第1導体層4が形成されたベースフィルム110が無電解めっき液に浸漬されると、瞬時に、第1導体層4の表面に電解アシストによるめっきが形成され、その後、無電解めっき液による無電解めっきが形成される。このため、無電解めっき液が、ベースフィルム1に侵入することが抑制される。この結果、無電解めっき液がベースフィルム1に与えるダメージを抑制できる。ベースフィルム1に与えるダメージを抑制することでベースフィルム1の熱分解が抑制される。このように、ベースフィルム1に電解アシストによるめっきが形成されていることで、ベースフィルム1に無電解めっきが施されていても、無電解めっきによるダメージが抑制されて、熱分解が抑制されたベースフィルム1が得られる。
【0076】
なお、ステップS14の無電解めっき工程の後には、後酸洗処理が行われてもよい。
【0077】
[熱処理工程(ステップS15)]
【0078】
図2に戻り、無電解めっき工程後に、ステップS15の熱処理工程が行われる。熱処理工程における処理温度の下限としては、150℃であってもよく、200℃であってもよい。一方、熱処理工程における処理温度の上限としては、500℃であってもよく、400℃であってもよい。熱処理工程における熱処理時間の下限としては、15分であってもよく、30分であってもよい。一方、熱処理工程における熱処理時間の上限としては、720分であってもよく、360分であってもよい。
【0079】
[電気めっき工程(ステップS16)]
【0080】
ステップS16の電気めっき工程では、ステップS14の無電解めっき工程において形成した第2導体層5の表面に電気めっきにより金属をさらに積層することによって、第3導体層6を形成する。このとき、第1導体層4の内部に残る空孔に電気めっきにより金属を充填することで第1導体層4をより緻密化し、第1導体層4のベースフィルム1からの剥離強度をさらに増大させる。この電気めっき工程により、導体層2の厚さを所望の厚さまで、容易かつ確実に成長させられる。
【0081】
この電気めっき工程における電気めっきの具体的方法としては、公知の電気めっき方法を適用することができる。なお、電気めっき工程(ステップS16)の代わりに、極薄銅箔の熱圧着を実施することができる。この場合、第3導体層6として極薄銅箔層が形成される。
【0082】
[プリント回路]
【0083】
プリント回路300は、図1に示す上記プリント回路用基材200に導電パターンを形成する回路パターン形成加工を施すことにより製造される。
【0084】
図4はプリント回路300を示す。ベースフィルム1上に、導電パターン2A,2B,2Cが形成される。実施形態に係るプリント回路300における導電パターン2A,2B,2Cは、ファインパターンであり、非常に小さい最小導体幅Wと、同じく非常に小さい最小導体間隔Sと、を有する。ここで、最小導体幅Wは、導電パターン2A,2B,2Cに含まれる導体幅のうち、最小のものをいう。また、最小導体間隔は、導電パターン2A,2B,2Cで形成される導体間の間隔のうち、最小のものをいう。
【0085】
最小導体幅Wは、20μm以下であってもよく、15μm以下であってもよく、10μm以下であってもよい。また、最小導体間隔Sは、20μm以下であってよく、15μm以下であってもよく、10μm以下であってもよい。最小導体幅及び最小導体間隔のいずれか一方が、上記数値であれば足りるが、最小導体幅及び最小導体間隔の両方が、上記数値であってもよい。
【0086】
導電パターン2A,2B,2Cそれぞれは、ベースフィルム1の上に、導体層2を備える。導体層2は、第1導体層4、第1導体層の上に第2導体層5を備える。第2の導体層5の上にさらに第3の導体層6を備えてもよい。導電パターン2A,2B,2Cそれぞれは、導体層2の上にさらなる1又は複数の第4導体層7を備えてもよい。ベースフィルム1は、厚さ方向に貫通するスルーホールを備えてもよい。図5は、スルーホールを備えた場合の、スルーホール内壁と周囲を示す概略断面図である。
【0087】
[プリント回路の製造方法]
【0088】
回路パターン形成加工は、例えば、サブトラクティブ法又はセミアディティブ法である。
【0089】
サブトラクティブ法では、プリント回路用基材200の一方の面に、感光性のレジストを被覆形成し、露光、現像等によりレジストに対して導電パターンに対応するパターニングを行う。続いて、パターニングしたレジストをマスクとしてエッチングにより導電パターン以外の部分の導体層2を除去する。そして最後に、残ったレジストを除去することにより、図1の当該プリント回路用基材200の導体層2の残された部分から形成される導電パターンを有する当該プリント回路300が得られる。
【0090】
セミアディティブ法では、プリント回路用基材200の一方の面に、感光性のレジストを被覆形成し、露光、現像等によりレジストに対して導電パターンに対応する開口をパターニングする。続いて、パターニングしたレジストをマスクとしてめっきを行うことにより、このマスクの開口部に露出している導体層2に選択的に導体層を積層する。その後、レジストを剥離してからエッチングにより上記導体層の表面及び導体層が形成されていない導体層2を除去することにより、図1の当該プリント回路用基材200の導体層2の残された部分にさらなる導体層が積層されて形成される導電パターンを有する当該プリント回路が得られる。
【0091】
図2の製造方法により製造されたプリント回路用基材200におけるベースフィルム1はパラジウムを含まない。これは、図2の製造方法では、ステップS14の無電解めっきのための触媒としてのパラジウムを付着させる工程がないためである。「ベースフィルムはパラジウムを含まない」とは、ベースフィルムにパラジウムを全く含まない、又はベースフィルムにパラジウムを実質的に含んでいないことをいう。「ベースフィルムにパラジウムを実質的に含んでいない」とは、ベースフィルムに、パラジウムは不可避的に含まれる含有量を除いて含まれていない。不可避的に含まれる含有量とは、例えば、導体層側のベースフィルム表面のポリイミドを切り出しICP分析した結果である0.05ppm以上10ppm以下の含有量である。
【0092】
ベースフィルム1においてパラジウムを含まないことにより、ベースフィルム1におけるボイド(図8から図10参照)の発生を抑制できる。ボイドの発生については、後述の参考例に係るプリント回路用基材の製造方法の説明において詳述する。
【0093】
図2の製造方法により製造されたプリント回路用基材200におけるベースフィルム1は、ベースフィルム1内に発生する、ボイドの数が、ベースフィルム表面における0.25mmの基準単位面積Dあたり10個以下である。基準単位面積Dあたりのボイドの数は、5個以下であってもよく、1個以下であってもよい。ボイドの数はゼロであるのが好適である。
【0094】
ボイドは、ベースフィルムの平面視におけるボイド最大幅L(図8及び図9参照)が、5μm以上10μm以下であってよい。最大幅Lが5μm以上10μm以下であるボイドは、上記のようなファインパターンにおいて回路不良を生じさせ易いが、上記ボイドが基準単位面積Dあたり10個以下であることで、回路不良の発生確率を十分に抑えることができる。
【0095】
なお、ボイドの最大幅Lは、最小導体幅Wの1/4倍以上であってもよく、最小導体間隔Sの1/4倍以上であってよい。また、ボイドの最大幅Lは、最小導体幅Wの1/2倍以下であってもよく、最小導体間隔Sの1/2倍以下であってよい。ボイドの最大幅Lがこの程度に大きいと、ファインパターンにおいて回路不良を生じさせ易いが、上記ボイドが基準単位面積Dあたり10個以下であることで、回路不良の発生確率を十分に抑えることができる。
【0096】
ボイドの面積は、20μm以上100μm以下であってよい。この程度に大きいと、ファインパターンにおいて回路不良を生じさせ易いが、上記ボイドが基準単位面積Dあたり10個以下であることで、回路不良の発生確率を十分に抑えることができる。
【0097】
また、ボイドは、高さH(図8及び図9参照)が、1.5μm以上で5μm以下あってよい。高さHが大きいボイドは、回路不良の原因になり易い。図9に示すように、高さHは、ベースフィルムにおいてボイドが存在しない箇所1Aにおけるベースフィルム表面に対する、ボイドが存在する箇所1Bにおけるベースフィルム表面の高さとして定義される。なお、図9は、図8のプリント回路用基材200から、エッチングによって導体層2を除去した後のベースフィルムの断面を示している。ベースフィルムにおいてボイドが存在しない箇所1Aとしては、ベースフィルム表面において最も高さが低い箇所を選択すればよい。高さHは、レーザ顕微鏡によってベースフィルム表面を走査することで求めることができる。
【0098】
[参考例に係るプリント回路用基材の製造方法]
【0099】
図6は、参考例に係るプリント回路用基材の製造方法の手順を示している。図6に示す製造方法が、図2に示す製造方法と異なる点は、無電解めっき工程の前に前処理工程(ステップS13)が行われることと、無電解めっき工程において電解アシストが行われない点である。なお、図6に示す製造方法において、導電性インク調製工程(ステップS11)、導電性インク塗布焼成工程(ステップS12)、電気めっき工程(ステップS16)は、図2に示す製造方法と同様である。以下では、図6に示す、前処理工程(ステップS13)、無電解めっき工程(ステップS14A)、熱処理工程(ステップS15)について説明する。
【0100】
[前処理工程(ステップS13)]
【0101】
ステップS13の前処理工程では、第1導体層4に、無電解めっきにおける触媒となる例えばパラジウムが吸着される。前処理工程では、第1導体層4を、パラジウムを含む触媒溶液に接触させることによりパラジウムイオンを吸着させ、このパラジウムイオンを金属パラジウムに還元する。この触媒溶液のパラジウム濃度としては、例えば20質量ppm以上1000質量ppm以下とすることができる。
【0102】
浸漬時の触媒溶液の温度の下限としては、浸漬時間にもよるが、30℃であってもよく、40℃であってもよい。一方、浸漬時の触媒溶液の温度の上限としては、70℃であってもよく、60℃であってもよい。
【0103】
触媒溶液への浸漬時間の下限としては、触媒溶液の温度にもよるが、1分であってもよく、2分であってもよく、3分であってもよい。一方、触媒溶液への浸漬時間の上限としては、10分であってもよく、7分であってもよく、5分であってもよい。
【0104】
[無電解めっき工程(ステップS14A:電解アシスト無)]
【0105】
ステップS14Aの無電解めっき工程では、ステップS13の前処理工程にて第1導体層4に吸着されたパラジウムを触媒として、第1導体層4の表面及び内部に金属を析出させる。参考例に係る製造方法では、パラジウムが触媒として用いられるため、電解アシストは行われない。
【0106】
ステップS14Aの無電解めっき工程では、無電解めっき液を用いて、無電解めっきを施すことにより、第1導体層4の表面及び第1導体層4の内部の空孔に金属を析出させることにより第2導体層5を形成する。なお、ステップS14Aの無電解めっき工程の前に、第1導体層4が表面に形成されたベースフィルム1に対して、脱脂洗浄および酸洗処理がなされてもよい。
【0107】
パラジウムは、無電解めっき時に、ベースフィルム1内に侵入する。また、無電解めっき液は、第1導体層4を通って、ベースフィルム1に侵入する。
【0108】
[熱処理工程(ステップS15)]
【0109】
図6に示すステップS15の熱処理工程は、図2に示す熱処理工程と同様に行われる。
ただし、熱処理によって、導体層2のベースフィルム1との界面近傍に存在するパラジウムのベースフィルム1内の侵入が促進される。
【0110】
図7は、ベースフィルム1の内部にパラジウムが分散したプリント回路用基材を示している。図7に示すベースフィルム1は、その中にパラジウムが分散して存在する分散部分3を有する。図6に示す参考例の製造方法の場合、分散部分3において、ICP質量分析によるベースフィルム1中のパラジウム含有量が290ppm以上になる。
【0111】
分散部分3は、ベースフィルム1の表面からベースフィルム1の内部にパラジウムが導入及び分散されて形成される。この分散部分3は、ベースフィルム1の導体層2との界面からパラジウムが略均等に導入及び分散され、導体層2との界面を基端として厚さ方向にベースフィルム1の一部又は全部を占めるよう、略一定の厚さを有する層状に形成される。つまり、分散部分3は、ベースフィルム1の導体層2との界面から一定の深さまでの領域を含んでもよい。
【0112】
参考例に係る製造方法によってプリント回路用基材を製造すると、図8から図10に示すように、ベースフィルム1内にボイド10が発生する。ボイド10は、ベースフィルム1の内部に生じる空洞である。ボイド10は、ベースフィルム1と導体層2との界面11近傍に形成され、ベースフィルム1表面を導体層2側へ局所的に膨張させる。ボイド10は、ベースフィルム1表面において散点的に発生する。ボイド10は、不定形であるが、概ね点状に形成される。
【0113】
本発明者らは、ボイド10の発生原因が、ポリイミドを主成分とするベースフィルム1内に侵入したパラジウムにあることを見出した。パラジウム触媒は、無電解めっき時にベースフィルム1に侵入する。ベースフィルム1内に侵入しパラジウムの触媒作用で還元反応が生じた際にベースフィルム1内でガスが発生する。ガスの発生により、ベースフィルム1内にボイド10が発生する。
【0114】
図8は、参考例に係るプリント回路用基材におけるボイド発生箇所の拡大断面図である。参考例において、ボイド10は、ベースフィルム平面視における最大幅Lが、概ね、1μmから10μm程度である。また、ボイド10は、高さHが、概ね、0.1μmから5μmである。参考例に係るプリント回路用基材のベースフィルム内においてボイド10が多数確認される。一方で、本開示のプリント回路用基材のベースフィルム1において、平面視において最大幅Lが5μm以上のボイド10が抑制されている。ここで、参考例にかかるボイド10及び本開示のプリント回路用基材において抑制されているボイドの最大幅Lは例えば、製造されたプリント回路用基材の導体層2をエッチングによって除去し、ベースフィルム1の表面を蛍光顕微鏡観察することによって計測される。また、ボイド10の高さHは、例えば、導体層2が除去されたベースフィルム1の表面をレーザ顕微鏡観察することによって計測される。
【0115】
ボイド10は、比較的小さい。このため、導体幅又は導体間隔がボイドに比べて十分に大きい通常のプリント回路であれば、ボイド10の存在はほとんど問題にならない。しかし、プリント回路がファインパターンを有する場合、導体幅又は導体間隔が微細であるため、ボイド10の存在によって回路不良が生じるおそれがある。例えば、図8から図10に示すボイド10の直上に、ボイド10の大きさと同程度又はそれ以下の導体幅の導電パターンが存在すると、導電パターンの導通不良が生じるおそれがある。このような回路不良は、ボイド10の最大幅Lが大きいほど生じ易く、ボイド10の高さHが大きいとより生じ易い。
【0116】
このように、図6に示す参考例に係る製造方法によってファインパターンプリント回路用基材を製造すると、ベースフィルム1にボイド10が発生し、ファインパターンプリント回路に回路不良を生じさせるおそれがある。これに対して、図2に示す製造方法によってファインパターンプリント回路用基材を製造すると、ボイド10の発生を抑制できる。
図2に示す製造方法では、無電解メッキ工程において、パラジウム等の金属触媒を用いずに、電解アシストにより生じた触媒を用いる。ボイド10の発生原因となるパラジウムが存在しないため、ベースフィルム1におけるボイド10の発生が抑制される。ボイド10がほとんど存在しないプリント回路用基材からファインパターンプリント回路を製造すると、回路不良の発生を抑えることができる。
【実施例
【0117】
以下、プリント回路用基材を試作した結果を説明する。
【0118】
[第1、第2、第3試作品(電解アシスト有:銅触媒)]
【0119】
プリント回路用基材の第1、第2、第3試作品は、図2に示すステップS11,S12,S14に従って製造された。具体的には、次の要領で製造された。まず、平均粒子径が60nmの銅粒子を溶媒の水に分散させ、銅濃度が26質量%の導電性インクを調製した。また、絶縁性を有するベースフィルムとして平均厚さ25μmのポリイミドフィルム(東レ・デュポン株式会社のカプトン「EN-S」)の両面をアルカリ処理により改質した。改質されたポリイミドフィルムの両面に上記導電性インクを塗布し、大気中で乾燥した後、酸素濃度が100体積ppmの窒素雰囲気中において350℃で2時間加熱することにより上記導電性インク中の銅粒子を焼成して平均厚さ0.15μmの焼結層である第1導体層を形成した。
【0120】
次に、図3に示す無電解めっき装置100を用いて、電解アシスト(ステップS14-1)を含む無電解めっき(ステップS14)を行った。第1、第2、第3試作品の製造では、無電解めっきのための触媒として、パラジウムは用いずに、電解アシストにより無電解銅めっき液から析出した銅を用いた。無電解銅めっき液としては、銅100モルに対してニッケル0.1モルを含有するものを用いた。無電解めっきによって、ベースフィルム両面の第1導体層上それぞれに、平均厚さ0.4μmの第2導体層を形成した。第3導体層の形成は省略し、ベースフィルム上に第1導体層及び第2導体層が形成されたプリント回路用基材を得た。第1、第2,第3試作品は、全て上記の製造方法により製造したが、それぞれ異なる製造ライン(めっき液槽)により製造した。
【0121】
[第4試作品(電解アシスト無:パラジウム触媒)]
【0122】
プリント回路用基材の第4試作品は、図6に示すステップS11,S12,S13,S14Aに従って製造された。第4試作品の製造において、金属粒子の焼結層である第1導体層を製造するところまでは、第1、第2,第3試作品と同様に行われた。
【0123】
第4試作品の製造においては、第1導体層の形成後、前処理(ステップS13)として、パラジウムを第1導体層に吸着させた。触媒溶液として、パラジウムを50質量ppm含有するものを用い、液温40℃で120秒間浸漬することにより、第1導体層にパラジウムを吸着させた。
【0124】
第4試作品の製造においては、図3に示す無電解めっき装置100を用いて、電解アシスト(ステップS14-1)を行うことなく、パラジウムを触媒とする無電解めっき(ステップS14A)を行った。無電解銅めっき液としては、第1、第2、第3試作品の製造に用いたものと同じものを用いた。無電解めっきによって、ベースフィルム両面の第1導体層上それぞれに、平均厚さ0.4μmの第2導体層を形成した。第3導体層の形成は省略し、ベースフィルム上に第1導体層及び第2導体層が形成されたプリント回路用基材の第試作品を得た。
【0125】
[第5試作品]
【0126】
プリント回路用基材の第5試作品は、第4試作品から第1導体層を省略したものである。その他の点において、第5試作品は、第4試作品と同様である。すなわち、第5試作品は、ベースフィルムと、ベースフィルム上に直接形成された第2導体層を備える。第5試作品の製造は、第4試作品の製造工程から、第4試作品の製造工程における導電インク調製工程(ステップS11)及び導電性インク塗布焼成工程(ステップS12)を、省略することによって行われた。なお、第2導体層の形成には、図3に示す無電解めっき装置100を用いて、パラジウムを触媒とする無電解めっき(ステップS14A)を行った。ただし、第5試作品の製造において、電解アシスト(ステップS14-1)は行っていない。
【0127】
[第6試作品]
【0128】
プリント回路用基材の第6試作品は、第1、第2、第3試作品における第1導体層を、金属粒子の焼結層に替えて、真空蒸着層によって構成したものである。真空蒸着は、SANVAC社製、高真空蒸着装置RD-1400を用いて、純度4Nの銅を真空度5×10-4Pa以下で行った。真空蒸着層は厚さ100nmとした。その他の点において、第6試作品は、第1、第2、第3試作品と同様である。すなわち、第6試作品は、ベースフィルムと、ベースフィルム上に形成された真空蒸着層である第1導体層と、電解アシスト工程(ステップS14-1)を含む無電解めっき工程(ステップS14)によって形成された第2導体層と、を備える。
【0129】
[パラジウム含有率の測定]
【0130】
試作品それぞれについて、ICP質量分析によりパラジウム含有量を測定した。ICPMS分析装置としてアジレントテクノロジー社製 ICPMS7700Xを使用した。前処理としては、ベースフィルムのポリイミド露出部分(導体層2との界面)を切り取り、切り出したポリイミドを濃硫酸8mL中でマイクロウェーブにて全分解した。全分解後の液に超純水を加え50mLに定容した。
【0131】
[二酸化炭素発生量の測定]
【0132】
電解アシストを用いた第1試作品は、熱分解が抑制されていることを評価するため、高温状態において第1試作品及び第4試作品から放出される二酸化炭素の量を測定した。測定に用いた第1試作品のサイズは、20×20mm(両面で8cm)とした。
【0133】
測定には、熱天秤-質量分析装置(TG-MS)を用いた。熱天秤-質量分析装置としては、NETZSCH製 STA449 F5 Jupiterと日本電子製JMS-Q1500GCとを用いた。測定雰囲気ガスとして、ヘリウムを用いた。発生ガス成分のイオン化法としては、電子イオン化法を用いた。温度条件としては、室温(R.T.)から、10℃/minの速度で100℃まで昇温し、その後、5℃/minの速度で350℃まで昇温し、350℃で90分保持した。350℃で90分保持したときに、第1試作品及び第4試作品それぞれから発生した二酸化炭素量を測定した。なお、二酸化炭素発生量の計算は、既知量の二酸化炭素を熱天秤-質量分析装置に導入し、その検出強度から検量線を作成した。そして、第1試作品及び第4試作品それぞれの測定時の検出強度から検量線を用いて二酸化炭素発生量に換算した。
【0134】
第1試作品では、350℃で90分置いた際の二酸化炭素発生量は、0.5μg/cmであった。また、第4試作品では、350℃で90分置いた際の二酸化炭素発生量は、8.3μg/cmであった。このように、第1試作品では、350℃で90分置いた際の二酸化炭素発生量を1μg/cm以下にできており、無電解めっきによるダメージが抑制されて、熱分解が抑制されていることがわかる。
【0135】
[試作品の観察結果]
【0136】
第1から第6試作品それぞれの導体層にエッチングを施し、ベースフィルム表面を露出させた。エッチングは、塩化鉄含有エッチング液(比重1.33g/cm、遊離塩酸濃度0.2mol/L、温度45℃)に2分間浸漬することにより行われた。浸漬後、水洗及び乾燥をした。エッチングにより除去して現れたベースフィルム表面を観察した。ベースフィルム表面の観察には、OLYMPUS社製の金属顕微鏡BX51を用い、明視野にて撮像した。
【0137】
金属顕微鏡画像において、0.25mmの基準単位面積Dあたりのボイドの数Nを目視にて計測した。ここで、最大幅が5μm未満のボイドは計測対象としなかった。つまり、計測したボイドは、ベースフィルムを平面視した金属顕微鏡画像において、ボイド最大幅Lが、5μm以上であり、高さHが、1.5μm以上であるものとした。
【0138】
ボイドの最大幅Lは、ボイド領域を抽出する画像処理を金属顕微鏡画像に施し、抽出されたボイド領域の最大幅を計測することによって求めた。また、ボイドの面積は、抽出されたボイド領域の画素数をカウントすることによって求めた。高さHは、レーザ顕微鏡によってベースフィルム表面を走査することで求めた。
【0139】
基準単位面積Dあたりのボイドの数は、金属顕微鏡画像中に存在するボイドの総数Tを、基準単位面積Dあたりのボイドの数Nに換算することで求めた。具体的には、金属顕微鏡画像には、ベースフィルム表面の0.02mm分の広さXの領域が現れていることから、基準単位面積Dあたりのボイドの数Nを、T/(X/D)の演算によって求めた。
【0140】
第1試作品のベースフィルム表面には、最大幅が5μm以上のボイドは観察されなかった。つまり、第1試作品において、基準単位面積Dあたりのボイドの数Nは0であった。
【0141】
第2試作品において、基準単位面積Dあたりのボイドの数Nは3個であった。第2試作品において確認されたボイドのうち最大のボイドの最大幅Lは6μmであり、高さHは、3μmであった。
【0142】
第3試作品において基準単位面積Dあたりのボイドの数Nは9個であった。第3試作品において確認されたボイドのうち最大のボイドの最大幅Lは8μmであり、高さHは、4μmであった。
【0143】
第4試作品のベースフィルム表面には、ボイドが散点的に存在していた。第4試作品において、基準単位面積Dあたりのボイドの数Nは76個であった。第4試作品において確認されたボイドのうち最大のボイドの最大幅Lは8μmであり、高さHは、2μmであった。
【0144】
第5試作品において、基準単位面積Dあたりのボイドの数Nは135個であった。
第5試作品において確認されたボイドのうち最大のボイドの最大幅Lは、25μmであり、高さHは、2.5μmであった。
【0145】
第6試作品において、基準単位面積Dあたりのボイドの数Nはゼロであった。
【0146】
基準単位面積Dあたりのボイドの数NをA~Dの4段階で評価した。これら4段階のうち、評価結果としては、A又はBが良好である。評価結果を以下に示す。
【0147】
【表1】
【0148】
A:ボイド数Nが5個以下である
B:ボイド数Nが6個以上10個以下である
C:ボイド数Nが11個以上100個以下である
D:ボイド数Nが101個以上である
【0149】
第1、第2、第3試作品は、第4試作品及び第5試作品に比べて、ボイドの数が少ないため、ファインパターンを有するプリント回路における回路不良を抑制することができ好適である。特に、第5試作品は、ボイドの数が非常に多く、ボイドのサイズも大きいため、回路不良が多発し易く、不利である。
【0150】
[Pd量の評価]
Pd量は、電解アシストにより無電解めっきを実施した第1、第2,第3、第6試作品において、7ppm以下であった。これらは、各製造ライン(めっき液槽)に意図せず含まれるPdであり、不可避的に導入されたものである。一方、Pd触媒を使用して無電解めっきを実施した第4試作品、第5試作品は、それぞれ291ppm、1485ppmであった。
【0151】
[試作品の密着力の評価]
【0152】
第1から第6試作品それぞれの第2導体層上に、電気銅めっきにより、平均厚さ20μmの電気銅めっき層を形成したものを、密着力の評価のサンプルとした。密着力の評価は、JIS-K-6854-2(1999)「接着剤-はく離接着強さ試験方法-2部:180度はく離」に準拠してポリイミドからなるベースフィルム及び導体層間の剥離強度を測定した。具体的には、島津製作所製卓上精密試験機AGS―Xシリーズにおいてロードセル50Nを用いて評価した。測定条件は、ストローク長50mm、速度50mm/minで口出しをした銅箔側をつかんで180度ピールを実施した。測定結果を、ストローク長10~50mmの範囲の平均を剥離強度として算出した。得られた測定結果に基づいて、ベースフィルム及び導体層間の密着力を以下のA~Eの5段階で評価した。これら5段階のうち、評価結果としては、A又はBが良好である。評価結果を表1に示す。
【0153】
A:剥離強度が9N/cm以上である
B:剥離強度が7N/cm以上9N/cm未満である
C:剥離強度が5N/cm以上7N/cm未満である
D:剥離強度が3N/cm以上5N/cm未満である
E:剥離強度が3N/cm未満である
【0154】
[ボイド数と密着力の総合評価]
【0155】
ボイド数と密着力の総合評価を、A~Dの4段階で行った。Aが最もよく、B,C,Dの順で評価が低くなる。
【0156】
第1、第2試作品は、基準単位面積Dあたりのボイド数Nが少なく良好(評価:A)であるとともに、密着力も非常に良好(評価:A)であり、ボイド数と密着力の総合評価としても、評価:Aであると判定された(表1参照)。
【0157】
第3試作品は、基準単位面積Dあたりのボイド数Nが少なく良好(評価:)であるとともに、密着力も良好(評価:A)であり、ボイド数と密着力の総合評価としても、評価:Bであると判定された(表1参照)。
【0158】
第4試作品は、密着力が低く(評価:)、ボイド数が多い(評価:C)ため、総合評価としては、評価:Cであると判定された(表1参照)。
【0159】
第5試作品は、密着力が低く(評価:)、ボイド数が非常多い(評価:D)ため、総合評価としては、評価:Dであると判定された(表1参照)。
【0160】
第6試作品は、基準単位面積Dあたりのボイド数Nが少なく非常に良好(評価:A)であるものの、密着力が非常に低い(評価:E)ため、総合評価としては、評価:Dであると判定された(表1参照)。
【0161】
なお、今回開示された実施の形態及び実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0162】
1 ベースフィルム
1A ボイドが存在しない箇所
1B ボイドが存在する箇所
2 導体層
3 分散部分
4 第1導体層(金属粒子の焼結層、金属焼結層)
5 第2導体層(無電解めっき層)
6 第3導体層
7 第4導体層
8 スルーホール
10 ボイド
11 界面
100 無電解めっき装置
101 無電解めっき処理槽
102 ローラ(第1極)
103 対極(第2極)
105 電源
200 プリント回路用基材
300 プリント回路
110 第1導体層が形成されたベースフィルム
S11 導電性インク調製
S12 導電性インク塗布焼成
S13 前処理
S14 無電解めっき
S14-1 電アシスト
S14A 無電解めっき(電アシスト無)
S15 熱処理
S16 電気めっき
2A,2B,2C 導電パターン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10