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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-26
(45)【発行日】2025-03-06
(54)【発明の名称】硫酸化ヒアルロン酸
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/728 20060101AFI20250227BHJP
   A61K 38/18 20060101ALI20250227BHJP
   A61P 39/00 20060101ALI20250227BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20250227BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20250227BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250227BHJP
【FI】
A61K31/728
A61K38/18
A61P39/00
A61P7/04
A61K45/00
A61P43/00 121
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2021537403
(86)(22)【出願日】2020-08-07
(86)【国際出願番号】 JP2020030349
(87)【国際公開番号】W WO2021025147
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2019145672
(32)【優先日】2019-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591105993
【氏名又は名称】東京化成工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598123138
【氏名又は名称】学校法人 創価大学
(73)【特許権者】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100102015
【弁理士】
【氏名又は名称】大澤 健一
(72)【発明者】
【氏名】三浦 太一
(72)【発明者】
【氏名】中山 文明
(72)【発明者】
【氏名】高橋 慶子
(72)【発明者】
【氏名】川野 光子
(72)【発明者】
【氏名】松▲崎▼ 祐二
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 徳行
(72)【発明者】
【氏名】羽生 正人
(72)【発明者】
【氏名】岩城 隼
(72)【発明者】
【氏名】西原 祥子
【審査官】池田 百合香
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0209606(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104399087(CN,A)
【文献】特開平09-040581(JP,A)
【文献】特開2016-128394(JP,A)
【文献】KITAMURA, M et al.,Periodontal Tissue Regeneration Using Fibroblast Growth Factor -2: Randomized Controlled Phase II Clinical Trial,PLOS ONE,2008, Vol.3, No.7, e2611,pp.1-11,ISSN 1932-6203
【文献】SMISSEN, AVD et al.,Growth promoting substrates for human dermal fibroblasts provided by artificial extracellular matrices composed of collagen I and sulfated glycosaminoglycans,Biomaterials,2011, Vol.32, No.34,pp.8938-8946,ISSN 0142-9612
【文献】MULLER, SA et al.,Quantitative proteomics reveals altered expression of extracellular matrix related proteins of human primary dermal fibroblasts in response to sulfated hyaluronan and collagen applied as artificial extracellular matrix,Journal of Materials Science: Materials in Medicine,2012, Vol.23, No.12,pp.3053-3065,ISSN 1573-4838
【文献】KOHLING, S et al.,Syntheses of defined sulfated oligohyaluronans reveal structural effects, diversity and thermodynamics of GAG-protein binding,Chemical Science,2019, Vol.10, No.3,pp.866-878,ISSN 2041-6539
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00 ~ 33/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線に曝露された又は放射線曝露の危険性がある被験体において、少なくとも出血を伴う副作用を含む、放射線への曝露に関連する1つ又は複数の副作用を軽減及び/又は予防するための組成物であって、該組成物は、硫酸化ヒアルロン酸を含むことを特徴とする組成物(ただし、該組成物が、in situ ゲル化ポリマーを含む場合を除く。)
【請求項2】
放射線に全身曝露された又は放射線全身曝露の危険性がある被験体において放射線への曝露に関連する1つ又は複数の副作用を軽減及び/又は予防するための組成物であって、該組成物は、硫酸化ヒアルロン酸を含むことを特徴とする組成物。
【請求項3】
前記硫酸化ヒアルロン酸は、ヒアルロン酸2糖単位当たりの硫酸基数(「硫酸化度(硫酸基数/2糖単位)」)が1.3以上である請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記硫酸化ヒアルロン酸は、硫酸化度(硫酸基数/2糖単位)が3.0以上である請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
前記硫酸化ヒアルロン酸の分子量が万以上である請求項1~のいずれか一つに記載の組成物。
【請求項6】
さらに増殖因子を含むことを特徴とする請求項1~のいずれか一つに記載の組成物。
【請求項7】
前記増殖因子が、線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝臓増殖因子(HGF)、ヘパリン結合性上皮成長因子(HBEGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、神経成長因子(例えば、NFG-2)、サイトカイン、及び骨形成因子(BMP)からなる群より選ばれる少なくとも一つの増殖因子である請求項に記載の組成物。
【請求項8】
前記増殖因子が、繊維芽細胞増殖因子であるFGF1、FGF2、FGF3、FGF4、FGF5、FGF6、FGF7、FGF8、及びFGF9からなる群より選ばれる少なくとも一つの増殖因子である請求項に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物が、血管内投与、腹腔内投与、及び経口投与からなる群より選ばれるいずれか一つに記載の投与形態用の組成物である請求項1~のいずれか一つに記載の組成物。
【請求項10】
前記放射線が、γ放射線、エックス線放射線、太陽放射線、宇宙放射線、電磁放射線、制動放射線、紫外放射線及び微粒子放射線からなる群より選ばれる少なくとも1つ放射線である請求項1~のいずれか一つに記載の組成物。
【請求項11】
前記放射線への暴露に関連する副作用が急性悪心、嘔吐、腹痛、下痢、眩暈、頭痛、発熱、皮膚放射線症候群、低血球数、白血球減少による感染、血小板減少による出血、赤血球減少による貧血、及び死亡からなる群より選ばれる少なくとも一つの副作用を含む請求項1~10のいずれか一つに記載の組成物。
【請求項12】
前記被験体の内臓器官の放射線からの防護のための請求項1~11のいずれか一つに記載の組成物の使用。
【請求項13】
前記防護される器官が、骨髄、肝臓、脾臓、腎臓、肺及び胃腸管からなる群から選択される少なくとも1つである請求項12に記載の使用。
【請求項14】
1つ又は複数の抗生物質と組み合わせて使用される請求項1~11のいずれか一つに記載の組成物。
【請求項15】
血液凝固能の維持が必要とされる患部に使用されるための組成物であって、増殖因子を有効成分として含有し、さらに該増殖因子を保護するために硫酸化ヒアルロン酸を含有する組成物
ここで、前記血液凝固能の維持が必要とされる患部は、創傷の患部、歯周病の患部、及びPlatelet Rich Plasma(PRP)育毛療法の患部からなる群より選ばれる患部である
【請求項16】
前記血液凝固能の維持が必要とされる患部は創傷の患部である請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記血液凝固能の維持が必要とされる患部は歯周病の患部である請求項15に記載の組成物。
【請求項18】
前記血液凝固能の維持が必要とされる患部はPlatelet Rich Plasma(PRP)育毛療法の患部である請求項15に記載の組成物
【請求項19】
前記硫酸化ヒアルロン酸は、硫酸化度(硫酸基数/2糖単位)が1.3以上である請求項15~18のいずれか一つに記載の組成物。
【請求項20】
前記硫酸化ヒアルロン酸の分子量が万以上である請求項15~19のいずれか一つに記載の組成物。
【請求項21】
前記増殖因子が、線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝臓増殖因子(HGF)、ヘパリン結合性上皮成長因子(HBEGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、神経成長因子(NFG)、サイトカイン、及び骨形成因子(BMP)からなる群より選ばれる少なくとも一つの増殖因子である請求項15~20のいずれか一つに記載の組成物。
【請求項22】
前記増殖因子が、線維芽細胞増殖因子であるFGF1、FGF2、FGF3、FGF4、FGF5、FGF6、FGF7、FGF8、及びFGF9からなる群より選ばれる少なくとも一つの増殖因子である請求項15~20のいずれか一つに記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸化ヒアルロン酸の新規用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸は、β-D-N-アセチルグルコサミンとβ-D-グルクロン酸が交互に結合してできた直鎖状の高分子多糖である。ヒアルロン酸は、ムコ多糖類の中でも比較的容易に入手でき、特異な物理化学的性質及び生理的性質を示すことから、それ自体又はその各種誘導体が医薬品や化粧品として使用されている。
【0003】
ヒアルロン酸は、その機械的性質の改善や医学用材料に適した性質への改善のために誘導体合成が行われてきた。そのひとつが硫酸化である。ヒアルロン酸は、生体内において硫酸化を受けていないので、硫酸化することにより抗凝血活性付与が検討されてきた。一般的には、ヒアルロン酸中の多くの水酸基が硫酸化される程活性が高くなることが知られている。その他に、多硫酸化ヒアルロン酸は、カリクレイン-キニン系の阻害活性(特許文献1:特開平11-147901)及びホスホリパーゼA2の阻害活性(特許文献2:特開平11-269077)があり、アレルギー性疾患の治療薬として使用できること(特許文献3:特開平11-335288)、接着因子の一つであるセレクチン介在性の炎症に対する強い抗炎症作用を示すこと(特許文献4:特開平8-277224)等が知られている。
【0004】
また、粘度平均分子量が10000以下のような、低分子量のオリゴ多硫酸化ヒアルロン酸が皮膚透過性に優れた化粧料の有効成分として使用できること(特許文献5:特開平10-195107)、及び4~20糖の多硫酸化ヒアルロン酸オリゴ糖が、抗血液凝固活性及び抗ヒアルロニダーゼ活性を有し、抗癌剤となり得る可能性があることが報告されている(非特許文献1:Glycobiology, vol.11, No.1, pp.57-64, 2001)。
【0005】
線維芽細胞増殖因子(FGF)は、血管新生、創傷治癒、胚発生に関係する成長因子の一つである。FGFは、ヘパリン結合性タンパク質で、細胞表面のプロテオグリカンの一種であるヘパラン硫酸と相互作用を持ち、これによりFGFのシグナル伝達が形成されている。また、FGFは、毛母細胞の増殖、分裂を促すFGF-7をはじめとして広範囲な細胞や組織の増殖や分化の過程において重要な役割を果たしている。(特許文献6:特表2002-526026)
【0006】
bFGF(FGF2)は、発生、器官形成、生体の恒常性維持等、非常に幅広い生理活性を有するため、各分野において、bFGFに着目した疾患の治療方法が提案されている。例えば、皮膚分野において、創傷治癒を目的とした皮膚再生や皮膚潰瘍の治療に、bFGFを有効成分として配合した治療剤が発売されている(科研製薬株式会社:フィブラストスプレー)。また、骨疾患治療剤としての利用も提案されている(特許文献7:特開平05-124975号)。
【0007】
また、口腔分野においては、歯周病患者に対して、手術時にbFGFを歯肉に直接投与する臨床治験が試みられ、歯周組織再生誘導薬として、その効果性が明らかになりつつある(非特許文献2:村上,日歯周誌,54,38-45,2012)。(非特許文献3:M. Kitamura et al. PLoS One. 2008 Jul 2;3(7):e2611. )。
【0008】
これまでに、ある種の硫酸化多糖類がFGFを分解、変性、失活等から保護する作用を有することが報告されている。例えば、特許文献8(WO92/13526号)には、カラギーナンがbFGFを安定化することが開示されている。特許文献9(特開平02-138223号)には、FGFもしくはそのムテインと硫酸化グルカンとを水性媒体中で接触させることを特徴とするFGFもしくはそのムテインの安定化方法等が開示されている。非特許文献4(J. Cell. Physiol., 1986, 128, 475-484)には、ヘパリン又はヘキシウロニルヘキソサミノグリカン硫酸(HHS-4)がbFGFを不活性化から保護しその生理活性を増強することが記載されている。
【0009】
その他、硫酸化ヒアルロン酸を用いて細胞を活性化させ、神経細胞への分化・成熟を促進することができる培地及び培養方法が報告されている(特許文献10:特開2009-278873号)。そこでは、硫酸化度が、0.4又は1.0の硫酸化ヒアルロン酸が用いられており、硫酸化ヒアルロン酸とFGF-2とを組み合わせて添加することにより、細胞を活性化させ、神経細胞への分化・成熟を促進することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平11-147901
【文献】特開平11-269077
【文献】特開平11-335288
【文献】特開平8-277224
【文献】特開平10-195107
【文献】特表2002-526026
【文献】特開平05-124975号
【文献】WO92/13526号
【文献】特開平02-138223号
【文献】特開2009-278873号
【非特許文献】
【0011】
【文献】Glycobiology, vol.11, No.1, pp.57-64, 2001
【文献】村上,日歯周誌,54,38-45,2012
【文献】M. Kitamura et al. PLoS One. 2008 Jul 2;3(7):e2611.
【文献】J. Cell. Physiol., 1986, 128, 475-484
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、硫酸化ヒアルロン酸の新たな用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは鋭意研究をした結果、硫酸化ヒアルロン酸がヘパリンと同様に栄養因子や増殖因子、例えば線維芽細胞増殖因子(FGF)の保護作用を持つが、ヘパリンに比べて抗血液凝固作用が極めて低いこと、その結果、ヘパリンが使用できない用途でも硫酸化ヒアルロン酸が有用であることを見いだし、本発明を完成した。
より具体的には本発明は以下を含むものである。
[1]放射線に曝露された又は放射線曝露の危険性がある被験体において放射線への曝露に関連する1つ又は複数の副作用を軽減及び/又は予防するための組成物であって、該組成物は、硫酸化ヒアルロン酸を含むことを特徴とする組成物。
[2]前記硫酸化ヒアルロン酸は、ヒアルロン酸2糖単位当たりの硫酸基数(以下、「硫酸化度(硫酸基数/2糖単位)」という表現を用いる場合がある)で、約1.3以上である上記[1]に記載の組成物。
[3]前記硫酸化ヒアルロン酸は、硫酸化度(硫酸基数/2糖単位)で、約3.0以上である上記[1]に記載の組成物。
[4]前記硫酸化ヒアルロン酸の分子量が約3万以上である上記[1]~[3]のいずれか一つに記載の組成物。
[5]さらに増殖因子を含むことを特徴とする上記[1]~[4]にいずれか一つに記載の組成物。
[6]前記増殖因子が、線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝臓増殖因子(HGF)、ヘパリン結合性上皮成長因子(HBEGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、ミッドカイン、サイトカイン、及び骨形成因子(BMP)からなる群より選ばれる少なくとも一つの増殖因子である上記[5]に記載の組成物。
[7]前記増殖因子が、線維芽細胞増殖因子であるFGF1、FGF2、FGF3、FGF4、FGF5、FGF6、FGF7、FGF8、及びFGF9からなる群より選ばれる少なくとも一つの増殖因子である上記[5]に記載の組成物。
[8]前記組成物が、血管内投与、腹腔内投与、及び経口投与からなる群より選ばれるいずれか一つに記載の投与形態用の組成物である上記[1]~[7]のいずれか一つに記載の組成物。
[9]前記放射線が、γ放射線、エックス線放射線、太陽放射線、宇宙放射線、電磁放射線、制動放射線、紫外放射線及び微粒子放射線からなる群より選ばれる少なくとも1つの放射線である上記[1]~[8]のいずれか一つに記載の組成物。
[10]前記放射線への暴露に関連する副作用が急性悪心、嘔吐、腹痛、下痢、眩暈、頭痛、発熱、皮膚放射線症候群、低血球数、白血球減少による感染、血小板減少による出血、赤血球減少による貧血、及び死亡からなる群より選ばれる少なくとも一つの副作用である上記[1]~[9]のいずれか一つに記載の組成物。
[11]前記被験体の内臓器官の放射線からの防護のための上記[1]~[10]のいずれか一つに記載の組成物の使用。
[12]前記防護される器官が、骨髄、肝臓、脾臓、腎臓、肺及び胃腸管からなる群から選択される少なくとも1つである上記[11]に記載の使用。
[13]1つ又は複数の抗生物質と組み合わせて使用される上記[1]~[10]のいずれか一つに記載の組成物。
[14]血液凝固能の維持が必要とされる患部に使用されるための組成物であって、増殖因子を有効成分として含有し、さらに該増殖因子を保護するために硫酸化ヒアルロン酸を含有する組成物。
[15]前記血液凝固能の維持が必要とされる患部は創傷の患部である上記[14]に記載の組成物。
[16]前記血液凝固能の維持が必要とされる患部は歯周病の患部である上記[14]に記載の組成物。
[17]前記血液凝固能の維持が必要とされる患部はPlatelet Rich Plasma(PRP)育毛療法の患部である上記[14]に記載の組成物。
[18]前記硫酸化ヒアルロン酸は、硫酸化度(硫酸基数/2糖単位)が、約1.3以上である上記[14]~[17]のいずれか一つに記載の組成物。
[19]前記硫酸化ヒアルロン酸の分子量が約3万以上である上記[14]~[18]のいずれか一つに記載の組成物。
[20]前記増殖因子が、線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝臓増殖因子(HGF)、ヘパリン結合性上皮成長因子(HBEGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、ミッドカイン、サイトカイン、及び骨形成因子(BMP)からなる群より選ばれる少なくとも一つの増殖因子である上記[14]~[19]のいずれか一つに記載の組成物。
[21]前記増殖因子が、線維芽細胞増殖因子であるFGF1、FGF2、FGF3、FGF4、FGF5、FGF6、FGF7、FGF8、及びFGF9からなる群より選ばれる少なくとも一つの増殖因子である上記[14]~[19]のいずれか一つに記載の組成物。
[22]増殖因子の安定化のための硫酸化度(硫酸基数/2糖単位)が約1.3以上であ硫酸化ヒアルロン酸の使用。
[23]前記増殖因子が、線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝臓増殖因子(HGF)、ヘパリン結合性上皮成長因子(HBEGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、ミッドカイン、サイトカイン、及び骨形成因子(BMP)からなる群より選ばれる少なくとも一つの増殖因子である上記[22]に記載の使用。
[24]前記増殖因子が、線維芽細胞増殖因子であるFGF1、FGF2、FGF3、FGF4、FGF5、FGF6、FGF7、FGF8、及びFGF9からなる群より選ばれる少なくとも一つの増殖因子である上記[22]に記載の使用。
[25]前記硫酸化ヒアルロン酸の分子量が3万以上である上記[22]~[24]のいずれか一つに記載の使用。
【発明の効果】
【0014】
本発明によって、硫酸化ヒアルロン酸の新たな用途が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は本発明で用いる硫酸化ヒアルロン酸の構造を示した図である。
図2図2は、C2C12細胞(マウス横紋筋細胞由来線維芽細胞)を用い、硫酸化ヒアルロン酸による線維芽細胞成長因子の生物利用性を確認した結果である。
図3図3は、硫酸化ヒアルロン酸による線維芽細胞成長因子(FGF2)の保護効果を確認した結果である。
図4図4は、硫酸化ヒアルロン酸による線維芽細胞成長因子(FGF1)の保護効果を確認した結果である。
図5図5は、硫酸化ヒアルロン酸による線維芽細胞成長因子(FGF7)の保護効果を確認した結果である。
図6図6は、硫酸化ヒアルロン酸による皮膚刺激性を確認した結果である。
図7図7は、各濃度の糖鎖を加えて血液凝固時間を測定した結果である。HAはヒアルロン酸であり、HA-LSは低硫酸化ヒアルロン酸であり、HA-HSは高硫酸化ヒアルロン酸である。右図は、各糖鎖を10μg/mL加えた場合の血液凝固時間の結果を示した。各数値は平均値± 標準偏差(n=3~6)である。ns非有意; *P<0.05; **P<0.01; ***P<0.001
図8図8は、硫酸化ヒアルロン酸の抗トロンビン活性を確認した結果である。HAはヒアルロン酸であり、HA-LSは低硫酸化ヒアルロン酸であり、HA-HSは高硫酸化ヒアルロン酸である。各数値は平均値±標準偏差(n=3)である。ns非有意; *P < 0.05; **P < 0.01; ***P < 0.001
図9図9は、γ線のマウス全身照射の24時間前に高硫酸化ヒアルロン酸(HA-HS)のみ投与しクリプトアッセイを行った結果である。各数値は平均値±標準偏差(n=3)である。*P < 0.05
図10図10は、γ線のマウス全身照射の24時間前に各糖鎖を投与しクリプトアッセイを行った結果である。HPはヘパリン、HAはヒアルロン酸であり、HA-LSは低硫酸化ヒアルロン酸であり、HA-HSは高硫酸化ヒアルロン酸である。各数値は平均値± 標準偏差(n=3~9)である。ns非有意; *P < 0.05; **P < 0.01; ***P < 0.001。
図11図11は、γ線のマウス全身照射の24時間後に各糖鎖を投与しクリプトアッセイを行った結果である。各数値は平均値±標準偏差(n=6~12)である。ns非有意; *P < 0.05; **P < 0.01; ***P < 0.001。
図12図12は、γ線のマウス全身照射の24時間前に各糖鎖を投与し、γ線照射の24時間後にTUNEL染色によりアポトーシス測定した結果である。各数値は平均値±標準偏差(n=3~4)である。ns非有意; *P < 0.05; **P < 0.01; ***P < 0.001。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を、例示的な実施態様を例として、本発明の実施において使用することができる好ましい方法及び材料とともに説明する。なお、文中で特に断らない限り、本明細書で用いるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されるのと同じ意味をもつ。また、本明細書に記載されたものと同等又は同様の任意の材料及び方法は、本発明の実施において同様に使用することができる。また、本明細書に記載された発明に関連して本明細書中で引用されるすべての刊行物及び特許は、例えば、本発明で使用できる方法や材料その他を示すものとして、本明細書の一部を構成するものである。
【0017】
本明細書中で、「X~Y」という表現を用いた場合は、下限としてXを、上限としてYを含む意味で用いる。本明細書中で「約」とは、±10%を許容する意味で用いる。本明細書中で、増殖因子と成長因子はお互いに交換可能な同様の意味をもつ言葉である。
【0018】
本発明において「硫酸化ヒアルロン酸」とは、 β-D-N-アセチルグルコサミンとβ-D-グルクロン酸が交互に結合してできた直鎖状の高分子多糖であるヒアルロン酸の水酸基の一部又は全てが硫酸基で置換された物質をいう。硫酸化ヒアルロン酸の構造を図1に示す。硫酸化ヒアルロン酸は、ORの一部又は全部が硫酸基で置換されている。
硫酸化の程度は「硫酸化度」として表される。本明細書中では、硫酸化度は、硫酸化ヒアルロン酸分子中の硫酸含量(S含量)(%)、或いは、構成単位である2糖単位における硫酸基の導入数(0~4)で表される。
【0019】
硫酸含量(比濁法)は、Dogson-Priceの比濁法(Dogson, K. S. and Price, R.G., A note on the determination of the ester sulphate content of sulphated polysaccharides, Biochem J. vol 84(1),106-110, 1962)により、硫酸カリウムを標準として測定できる。また、硫酸含量(重量法)は、JIS JB. 2.17.3 硫酸塩-重量法に準じた方法を用いて測定できる。硫酸化度はまた、導入される硫酸基の平均個数で表すこともできる。硫酸基は、2糖単位で、0~4個導入され得る。平均個数で表す場合は、硫酸化ヒアルロン酸の分子量をもとに、2糖単位における硫酸基の平均個数をS含量より算出できる。本明細書中で、「硫酸化度(硫酸基数/2糖単位)が1.3」と記載された場合は、2糖単位あたり硫酸基が平均で1.3個導入されていることを意味する。
【0020】
本発明で用いる硫酸化ヒアルロン酸(以下、単に「硫酸化ヒアルロン酸」という場合がある)は、比較的高い硫酸化度を有するヒアルロン酸である。硫酸化ヒアルロン酸は、具体的な化合物としては、硫酸基数/2糖単位として、1.0又はそれ以下の硫酸化度のヒアルロン酸が報告されている(例えば、特開2009-278873号公報参照)。本発明において用いる硫酸化ヒアルロン酸は、そのS含量は比濁法にて約7%以上であり、ある観点においては、好ましくは約8%以上、より好ましくは約9%以上、さらに好ましくは約10%以上である。また、本発明において用いる硫酸化ヒアルロン酸は、硫酸基数/2糖単位は約1.3以上であり、ある観点では、好ましくは約1.5以上、より好ましくは約1.6以上、さらに好ましくは約1.8以上、よりさらに好ましくは約1.9以上である。
【0021】
本発明で用いる硫酸化ヒアルロン酸は、東京化成工業株式会社より入手でき、硫酸化度の異なる硫酸化ヒアルロン酸が入手可能である。
また、硫酸化ヒアルロン酸は、既知の硫酸化反応を用いて、ヒアルロン酸と硫酸化剤を適当な溶媒に溶解させ、加熱下に反応させることにより得ることができる。また、硫酸化度の調整は、公知の方法を参考にして、用いる硫酸化剤の使用量を適宜変更することにより行うことができる。硫酸化度の測定は、例えば、上記した方法により行うことができるが、他に、酸加水分解して生成する硫酸イオンをイオンクロマトグラフィーによって定量することにより行うこともできる。
【0022】
硫酸化反応において使用される溶媒としては、当該技術分野において一般に使用できる溶媒が制限なく使用できるが、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、ピリジン、N,N-ジメチルアクリルアミド、又はこれらの混合溶媒等をあげることができる。
【0023】
硫酸化剤としては、当該技術分野において一般に使用できる硫酸化剤が制限なく使用できるが、例えば、無水硫酸とピリジン、ピコリン、2,6-ルチジン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジオキサン等の錯体、或いは、硫酸-ジシクロヘキシルカルボジイミド、クロロスルホン等をあげることができる。また、硫酸化反応においては反応系内に、トリフルオロ酢酸やトリフルオロメタンスルホン酸等の酸触媒を添加しても良い。
【0024】
硫酸化の反応温度及び反応時間は、特に限定されるものではないが、例えば、0~100℃で、5分~5日が挙げられる。
【0025】
本発明で用いる硫酸化ヒアルロン酸は高分子量のものであれば特に制限なく用いることができるが、具体的には、本発明で用いる硫酸化ヒアルロン酸の分子量は、例えば約2万以上、好ましくは約3万以上、より好ましくは約5万以上、さらに好ましくは約10万以上である。好ましくは、以下の実施例で示されるように、例えば、平均分子量が3-7万程度の硫酸化ヒアルロン酸が例示される。本発明において硫酸化ヒアルロン酸の分子量を言うときは、当該技術分野において一般に用いられる表示法の何れかで示される分子量を意味し、これに限定されないが、例えば、原料であるヒアルロン酸の動粘度から算出した分子量を用いることができる。
【0026】
本発明で用いることができる増殖因子は、好ましくは細胞増殖因子であり、例えば、線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝臓増殖因子(HGF)、ヘパリン結合性上皮成長因子(HBEGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、ミッドカイン、サイトカイン、及び骨形成因子(BMP)をあげることができる。本明細書では、前後の文脈から特定に増殖因子を意味していることが明らかな場合を除いて、これらをまとめて単に増殖因子という。
【0027】
本発明で用いることができる線維芽細胞増殖因子は特に制限がなくいずれの線維芽細胞増殖因子を用いることもできる。例えば、これに限定されないがFGF1、FGF2、FGF3、FGF4、FGF5、FGF6、FGF7、FGF8、及びFGF9をあげることができ、好ましくはFGF1,FGF2,及びFGF7、より好ましくはFGF1及びFGF2である。
FGFの調製は、公知の文献を参照して適宜行うことができる。FGFは天然のFGF及び組換え体FGFのいずれも用いることができるが、好ましくは組み換え体FGFであり、市販されている。
【0028】
本発明で用いることができる他の増殖因子も特に制限がなく用いることもできる。
サイトカインは、例えば、ケモカイン、インターフェロン、インターロイキン、リンホカイン、及び腫瘍壊死因子を挙げることができ、好ましくはIL-6である。
骨形成因子は、例えば、BMP-1、BMP-2、BMP-3、BMP-4、BMP-5、BMP-6、BMP-7、BMP-8a、BMP-8b、BMP-10、BMP-11、BMP-15、好ましくはBMP-2又はBMP-7を挙げることができる。
他の増殖因子であるHGF、HBEGF、VEGF、NFG、サイトカイン、及びBMPの調製は同様に、公知の文献を参照して適宜行うことができ、天然の又は組換え体のいずれも用いることができるが、好ましくは組み換え体であり、市販されている。
【0029】
本発明の一つの態様は、放射線に曝露された又は放射線曝露の危険性がある被験体において放射線への曝露に関連する1つ又は複数の副作用を軽減するための硫酸化ヒアルロン酸の使用であって、放射線に関連する副作用を軽減するのに有効な量の硫酸化ヒアルロン酸を含む、放射線防護のために被験体に投与される組成物である。硫酸化ヒアルロン酸は、ヘパリンのような血液抗凝固作用を示さないので、放射線障害による内臓器官、例えば胃腸管の損傷に対しても使用できる。
【0030】
本発明の別の一つの態様は、放射線に曝露された又は放射線曝露の危険性がある被験体において放射線への曝露に関連する1つ又は複数の副作用を軽減するための硫酸化ヒアルロン酸及び増殖因子の使用であって、放射線に関連する副作用を軽減するのに有効な量の硫酸化ヒアルロン酸及び増殖因子を含む、放射線防護のために被験体に投与される組成物である。線維芽細胞増殖因子などの増殖因子及び硫酸化ヒアルロン酸は、それぞれ放射線防護作用をもつものであるので、それらをあわせて用いることにより優れた放射線防護作用を発揮できる。加えて、硫酸化ヒアルロン酸は線維芽細胞増殖因子などの増殖因子の保護作用、例えば安定化作用を持つので、線維芽細胞増殖因子などの増殖因子の放射線防護作用を増強できる。
【0031】
本発明の上記態様で用いることができる上記増殖因子は、例えば、線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝臓増殖因子(HGF)、ヘパリン結合性上皮成長因子(HBEGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、ミッドカイン、サイトカイン(好ましくはIL-6)、及び骨形成因子(BMP)を挙げることができ、好ましくは、FGF、HGF、HBEGF、又はVEGF、より好ましくはFGFである。
【0032】
本発明の組成物は、被験体を死亡させる可能性が高い量の放射線に曝露された被験体の生存率を増大させるために使用でき、組成物中には、被験体を死亡させる可能性が高い量の放射線に曝露された被験体の生存率を増大させるのに有効な量の硫酸化ヒアルロン酸あるいは硫酸化ヒアルロン酸及び増殖因子(好ましくは、FGF、HGF、HBEGF、又はVEGF)が含まれる。本発明の組成物は好ましくは被験体の各々に血管内、腹腔内、もしくは経口内に投与される。被験体を死亡させる可能性が高い放射線の量は文献から知られており、例えば、急性全身放射線曝露によるヒトにおけるLD50/60d(すなわち、60日間の曝露で50%の死亡率を引き起こす線量)は、250ラド(2.5Gy)超、通常はおよそ400ラド~500ラド(4Gy~5Gy)である。
【0033】
本発明の組成物は、被験体に重度又は軽度の障害を与える可能性が高い量の放射線に曝露された被験体の障害を軽減させるために使用でき、組成物中には、被験体の障害を軽減できるのに有効な量の硫酸化ヒアルロン酸あるいは硫酸化ヒアルロン酸及び増殖因子が含まれる。該増殖因子は、好ましくは、FGF、HGF、HBEGF、VEGF、ミッドカイン、サイトカイン、又はBMP、より好ましくは、FGF、HGF、HBEGF、又はVEGF、さらに好ましくはFGFである。
【0034】
かかる実施態様における本発明の硫酸化ヒアルロン酸は、上記した入手先又は方法を用いて調製でき、硫酸化ヒアルロン酸の硫酸化度(硫酸基数/2糖単位)は、約1.3以上、好ましくは約1.5以上、より好ましくは約1.8以上、さらに好ましくは約3.0以上である。
【0035】
硫酸化ヒアルロン酸の被験体の投与量は、被験体の体重1kg当たり0.01mg~10mg、好ましくは0.1mg~1mgである。また、硫酸化ヒアルロン酸及び線維芽細胞成長因子を組み合わせて被験体に投与する場合の投与量は、被験体の体重1kg当たり、硫酸化ヒアルロン酸は0.01mg~10mg、好ましくは0.1mg~1mgであり、線維芽細胞成長因子は、0.01mg~100mg、好ましくは0.1mg~10mgである。
【0036】
本発明の組成物の被験体への投与は、被験体が放射線に被爆する前、被爆している時、または被爆した後のいずれでもよいが、被験体が放射線に被爆する前に投与されるのが好ましい。被験体の放射線被爆前の投与は、被験体が被爆する前であればよいが、好ましくは数時間前~約3日前、より好ましくは半日前~2日前、さらに好ましくは半日前~1日前である。このように放射線被爆の危険性のある被験体に、予め本発明の組成物を投与しておくのが好ましい。
【0037】
本発明の組成物を被験体へ投与する場合の組成物の形態は特に限定されず、錠剤、粉末剤、顆粒剤、液剤、注射剤、懸濁剤、その他のいずれの形態でもよく、また、用時調製であってもよい。用時調製の場合は、凍結乾燥あるいは粉末状の本発明の組成物を、水あるいは用時調製用の液体に溶解又は懸濁し、被験者に投与できる。本発明の組成物が、硫酸化ヒアルロン酸及び線維芽細胞成長因子を含み用時調製用の組成物の場合は、両者を混合した粉末剤(例えば凍結乾燥剤)であっても、あるいは、それぞれが別々の粉末剤(例えば凍結乾燥剤)であってもよい。
【0038】
本発明の組成物を被験体へ投与する場合の投与経路はいずれの投与経路を用いることもでき、例えば、血管内投与例えば静脈内投与、腹腔内投与、経口投与、経皮投与などをあげることができ、好ましくは血管内投与である。
【0039】
本発明の組成物により、被験体の1つ又は複数の内臓器官が放射線から防護されるのが好ましい。防護される器官は、好ましくは、骨髄、肝臓、脾臓、腎臓、肺及び胃腸管からなる群から選択される1つ又は複数の器官である。胃腸管は、特に好ましくは小腸である。
【0040】
放射線に関連する副作用は悪心、嘔吐、腹痛、下痢、眩暈、頭痛、発熱、皮膚放射線症候群、低血球数、白血球減少による感染、血小板減少による出血、赤血球減少による貧血、又は死亡の1つ又は複数であり得る。本発明の組成物の被験体への投与により、これらの1つ又は複数の副作用が軽減される。また、一つの実施態様において、本発明の組成物の被験体への投与により、放射線への曝露後の被験体の生存可能性が増大するのが好ましい。さらに他の一つの実施形態においては、被験体が受ける放射線量は、放射線防護の非存在下で被験体にとって致死的であり得、本発明の組成物の被験体への投与により、より高い放射線量に対して被験体を防護することができる。
【0041】
また、本発明の組成物の投与により、被曝被験体が長期にわたる慢性放射線曝露の結果としてがんを発症する可能性の低減をもたらすことができる。
【0042】
被験体は任意の動物であり得る。被験体は、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトである。
【0043】
放射線は電離放射線を含み得る。電離放射線は、原子を電離させるのに十分に高エネルギーである。放射線は例えば、γ放射線、エックス線放射線、制動放射線、紫外放射線及び微粒子放射線(例えば、α放射線及びβ放射線)の1つ又は複数であり得る。放射線源は医療用アイソトープであってもよい。好ましくは、電離放射線はγ放射線、α放射線又はβ放射線である。好ましくは、放射線は人為的な放射線源によるものである。例えば、放射線源は、疾患の治療(ラジオセラピー等)に用いられる放射線療法、医療用撮像装置(CTスキャナー等)からの放射線、放射線手術(例えば定位放射線手術)、核兵器、若しくは発電所若しくは潜水艦内の原子炉等の原子炉に用いられる放射線、又は例えば民間飛行若しくは軍事飛行、若しくは宇宙飛行中に受ける高空放射線(high-altitude radiation)であり得る。一つの実施態様では、高空放射線は、20000フィートを超える高度で受ける天然電離放射線である。放射線源はテロ攻撃に起因する場合もある。このため、人為的な放射線源は、天然放射性同位体に由来するが人為的な療法、電源又は装置に適用されるものを含み得る。
【0044】
本発明の組成物は、被験体の放射線への曝露に関連する1つ又は複数の副作用を軽減及び/又は予防するために使用でき、組成物中には、被験体の放射線への曝露に関連する1つ又は複数の副作用を軽減及び/又は予防するのに有効な量の硫酸化ヒアルロン酸あるいは硫酸化ヒアルロン酸及び線維芽細胞成長因子が含まれる。一つの実施態様において、被験体は10mGy以上、20mGy以上、50mGy以上、100mGy以上、500mGy以上、1Gy以上、1.5Gy以上、2Gy以上、5Gy以上、7.5Gy以上、10Gy以上又は10Gy超の単回放射線曝露を受けたことがある、受けている、又は受ける予定である。ヒトでは、1回に5Gy以上の高エネルギー放射線への全身曝露は、通常は14日以内に死亡を招く。
【0045】
一つの実施態様において、本発明の組成物は、1つ又は複数の抗生物質とともに被験体に投与することを含む。本発明の組成物とともに被験体に投与される抗生物質は、特に制限がなく、現在使用されている抗生物質を適宜選択して用いることができる。抗生物質の種類は、患者の状態その他を考慮し、医師により適宜選択される。
【0046】
本発明の他の一つの態様は、血液凝固能の維持(例えば、止血)が必要とされる患部に使用されための増殖因子を有効成分として含有し、さらに増殖因子を保護するために硫酸化ヒアルロン酸を含有する組成物である。硫酸化ヒアルロン酸は、増殖因子の保護作用を有し、ヘパリンに比べて血液抗凝固作用が極めて低いので、血液凝固能の維持(例えば止血)が必要とされる患部への適用に適している。増殖因子は、血管新生、創傷治癒などの効果を持ち、創傷治療や歯周病治療のための治療剤として使用又は開発がなされている。従って、血液凝固能の維持(例えば止血)が必要とされる患部に使用されための増殖因子及び硫酸化ヒアルロン酸を含む本発明の組成物の好ましい用途は、創傷治療、歯周病治療、PRP育毛療法など、細胞増殖を伴う効果が期待されかつ血液凝固に対して阻害効果を示さないことが望まれる治療対象を含む。
【0047】
本発明の上記態様で用いることができる上記増殖因子は、例えば、線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝臓増殖因子(HGF)、ヘパリン結合性上皮成長因子(HBEGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、ミッドカイン、サイトカイン(好ましくはIL-6)、及び骨形成因子(BMP)を挙げることができ、好ましくは、FGF、HGF、HBEGF、又はVEGF、より好ましくはFGFである。
【0048】
かかる実施態様における本発明の硫酸化ヒアルロン酸は、上記した入手先又は方法を用いて調製でき、硫酸化ヒアルロン酸の硫酸化度(硫酸基数/2糖単位)は、約1.3以上、好ましくは約1.5以上、より好ましくは約1.8以上、さらに好ましくは約3.0以上である。
【0049】
硫酸化ヒアルロン酸あるいは硫酸化ヒアルロン酸及び線維芽細胞成長因子などの増殖因子を含む本発明の組成物は、医薬品、医薬部外品、化粧品に用いることができる。製剤形態は種々のものを選択でき、例えば、化粧水、クリーム、乳液、ローション、ファンデーション、パック、打粉、軟膏、パップ剤、ペースト剤、プラスター剤、エッセンス、散剤、丸剤、錠剤、注射剤、坐剤、乳剤、カプセル剤、顆粒剤、液剤(チンキ剤、流エキス剤、酒精剤、懸濁剤、リモナーデ剤等を含む)等が挙げられる。また、口腔用としては、例えば、練歯磨き、洗口液、トローチ等が挙げられる。
【0050】
本発明の組成物には、硫酸化ヒアルロン酸又は線維芽細胞成長因子などの増殖因子の効果を損なわない範囲内において、医薬品、医薬部外品、化粧品に用いられる他の成分を含有することもできる。他の成分としては、固体、液体、半固体でも良く、例えば、研磨剤、発泡剤、湿潤剤、保湿剤、結合剤、他の薬効成分等を含有することができる。さらに、ビタミン、ミネラル、アミノ酸等の他に、乳糖、デンプン、セルロース、マルチトール、デキストリン等の賦形剤、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の界面活性剤、ゼラチン、プルラン、シェラック、ツェイン等の被膜剤、小麦胚芽油、米胚芽油、サフラワー油等の油脂類、ミツロウ、米糠ロウ、カルナウバロウ等のワックス類、ショ糖、ブドウ糖、果糖、ステビア、サッカリン、スクラロース等の甘味料、並びにクエン酸、リンゴ酸、グルコン酸等の酸味料等を適宜含有することができる。
【実施例
【0051】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
実施例1:硫酸化ヒアルロン酸の調製
硫酸化ヒアルロン酸は、ヒアルロン酸を硫酸化することにより調製した。ヒアルロン酸の硫酸化は、既知の硫酸化反応を用い、条件を適宜調整することにより、種々の硫酸化度のものを製造した。硫酸化に用いたヒアルロン酸は、分子量が10万のものを用いた。
硫酸化ヒアルロン酸の調製は、まず少量レベル(用いたヒアルロン酸量、1g)で、次いで、スケールアップしたレベル(用いたヒアルロン酸量、20g)で行った。
調製した硫酸化ヒアルロン酸について硫酸化度を確認した。結果を以下の表に示す。「S含量(比濁法)」は、Dogson-Priceの比濁法により測定した結果であり、「S含量(重量法)」は、JIS JB. 2.17.3 硫酸塩-重量法に準じた方法を用いて測定した結果である。また、「硫酸化度」は、導入される硫酸基の数を、2糖単位当たりの平均個数で表したものである。
【0053】
【表1】
以下、低硫酸化ヒアルロン酸をHA-LSと、高硫酸化ヒアルロン酸をHA-HSと略す。
【0054】
本発明で用いる硫酸化ヒアルロン酸は、比較的高い硫酸化度を有するものであり、従来報告されていない高い硫酸化度を有する。本明細書では、比較的高い硫酸化度を有するが、その中でも硫酸化度が低いものを低硫酸化ヒアルロン酸、具体的には、硫酸化度(硫酸基数/2単糖)が約1.9程度のものを低硫酸化ヒアルロン酸、硫酸化度が高いものを高硫酸化ヒアルロン酸、具体的には、硫酸化度(硫酸基数/2単糖)が3.0以上のものを高硫酸化ヒアルロン酸とよぶ。上記表に示されている、高硫酸化ヒアルロン酸は、硫酸基に置換可能な水酸基の殆どが硫酸化されていることを示している。
【0055】
実施例2:硫酸化ヒアルロン酸と混合した線維芽細胞成長因子の生物利用性
線維芽細胞成長因子と混合した硫酸化ヒアルロン酸の生物利用性を以下のようにして確認した。C2C12細胞(マウス横紋筋由来線維芽細胞)を、10%ウシ血清を含むDMEM培地で培養したのち,培地を完全無血清培地(DMEM/Ham's F10 培地の1:1混合,EGF:50 ng/mL, bFGF: 5 ng/mL, 1μM Dexamethasone、0.12IU/mL インスリン、0.5%BSA)を使用して細胞をフィブロネクチンコートしたディッシュに7,000cell/mLで播種し、さらにヘパリンもしくは硫酸化ヒアルロン酸を加え3日培養した。その後、細胞増殖を、クリスタルバイオレット法を用いて測定した。硫酸化ヒアルロン酸は完全無血清培地に、2μg/mLとなるように添加し、対照として、何も添加しない培地、及びヘパリンを添加した培地(2μg/mL)を用いた。C2C12細胞の無血清培養にはbFGFとヘパリンの添加が有効であるので、良好な細胞増殖を示した場合、FGFの生物活性が利用されていると判断できる。結果を図2に示す。図に示されるように、HA-LSの添加でヘパリン同様の顕著な細胞増殖が確認できた。
【0056】
実施例3:硫酸化ヒアルロン酸による線維芽細胞成長因子の保護-1
線維芽細胞成長因子に対する硫酸化ヒアルロン酸の保護作用を以下のようにして確認した。線維芽細胞成長因子と硫酸化ヒアルロン酸をPBS、pH7.4中で混合し、混合物をインキュベーター中にて、37℃で、1日又は3日間静置し、その後、電気泳動により分解されていない線維芽細胞成長因子の残存を確認した。
線維芽細胞成長因子は、FGF2(bFGF)、FGF1(aFGF)、及びFGF7(KGF)を用い、それぞれ最終濃度が0.1mg/mLとなるように培地に添加した。硫酸化ヒアルロン酸は、実施例1で調製した、低硫酸化ヒアルロン酸(HA-LS)、高硫酸化ヒアルロン酸(HA-HS)を用い、それぞれ最終濃度が0.1mg/mLとなるように混合した。対照として、何も添加しない培地、硫酸化していないヒアルロン酸(HA)を最終濃度が0.1mg/mLとなるように添加した。結果を図3~5に示す。図3がFGF2(bFGF)、図4がFGF1(aFGF)、図5がFGF7(KGF)の結果であり、電気泳動後のFGFのバンド強度を示してある。なお、FGF1及びFGF7については、培地に添加した直後のもの(FGFのみ添加、0時間)を調製し一緒に電気泳動を行った。
その結果、硫酸化ヒアルロン酸により、FGF2、FGF1、及びFGF7の分解が顕著に抑えられていることが判った。これにより、硫酸化ヒアルロン酸による線維芽細胞成長因子の保護効果が確認できた。
【0057】
実施例4:硫酸化ヒアルロン酸の皮膚に対する影響
化学物質に関する安全性についてのガイドラインであるOECDテストガイドライン439に収載された方法に従い、以下のようにして、硫酸化ヒアルロン酸の皮膚細胞に対する安全性を確認した。ヒト3次元培養表皮LabCyte EPI-MODEL(ジャパンティッシュエンジニアリング社)を用い、製造者の取扱い説明書に従い、表皮細胞に対する硫酸化ヒアルロン酸の影響を確認した。対照として、水(ネガティブコントロール)、及びSDS(ポジティブコントロール)を用いた。結果を図6に示す。生細胞率(%) は以下の式により求めた。生細胞率(%) = 被験物質の測定値平均 / 陰性対照の測定平均値 × 100
安全性の評価基準としては、50%以上の生細胞率が確認されれば安全性が担保される。試験は2回行った、結果は、いずれの硫酸化ヒアルロン酸を添加した場合でも生存率100%付近という結果であり、安全性(非刺激性)を認めることが出来た。
【0058】
実施例5:血液凝固に対する硫酸化ヒアルロン酸の影響
硫酸化ヒアルロン酸の抗血液凝固活性を以下のようにして確認した。
(1)血液凝固時間測定
血液凝固時間の測定は、Lee-White testsの変法により実施した(Sutton GC, Circulation, 2, 271-277, 1950.参照)。すなわち、ヘパリン、ヒアルロン酸、低硫酸化ヒアルロン酸(HA-LS)、高硫酸化ヒアルロン酸(HA-HS)をそれぞれ入れた2mLポリプロピレンチューブに、BALB/cもしくはC57BL/6マウスの新鮮な全血を100μLずつ分注し、ヒートブロックで37℃加熱した。各糖鎖の最終濃度は1、10、100もしくは1000μg/mLとした。ネガティブコントロールのチューブを2本用意し、その1本を30秒おきに静かに傾けて完全に凝固するまで継続した。完全に凝固したのを確認した後、すべてのチューブを同様に傾け、凝固するまでの時間を決定した。測定は3時間まで継続した。結果を図7に示す。左図は、各濃度における血液凝固時間を示しており、右図は、10μg/mLで添加した時の血液凝固時間を示している。ヘパリンが1μg/mLで血液凝固時間の延長を示し、10μg/mLでは血液凝固が3時間以上認められなかった。一方、高硫酸化ヒアルロン酸(HA-HS)では100μg/mL、低硫酸化ヒアルロン酸(HA-LS)では1000μg/mLで血液凝固が3時間以上認められなかった。ヒアルロン酸(HA)では1000μg/mLでも血液はすみやかに凝固した。各糖鎖を10μg/mL加えた場合は、ヘパリンでは血液凝固が認められず抗凝固能が示されたが、高硫酸化ヒアルロン酸(HA-HS)、低硫酸化ヒアルロン酸(HA-LS)、ヒアルロン酸(HA)では血液は凝固した。
【0059】
(2)アンチトロンビン活性測定
ベリクローム アンチトロンビンIII オートB(Sysmex, Kobe, Japan)を用いて、アンチトロンビンの活性を測定した。すなわち、過剰量のトロンビンに対して、アンチトロンビン供給源としてヒト血漿を加え、反応後の残存トロンビン量を、発色性合成基質を用いて測定し、アンチトロンビン活性を推定した。付属のトロンビンを緩衝液に、基質を蒸留水にそれぞれ溶解し、トロンビン溶液と基質溶液をそれぞれ作成した。蒸留水で希釈した糖鎖10μLに血液凝固試験用標準ヒト血漿1.4μLを加えた。そこに37℃のトロンビン溶液84.6μLを加えてよく混和し、37℃3分反応させた。それに37℃の基質14μLを加えて素早くかくはんし、30秒以内に405nmにおける初期吸光度を測定後、120秒後吸光度を測定した。一方、トロンビン溶液を希釈して同様に測定して検量線を作成し、吸光度より残存トロンビン量を算出した。結果を図8に示す。各濃度の糖鎖存在下におけるヒト血漿中のアンチトロンビン活性を残存トロンビン量により示した。ヘパリンは濃度が増加するに従って、残存トロンビン量が低下し、ヒト血漿中アンチトロンビン活性が増加していった。一方、低硫酸化ヒアルロン酸(HA-LS)とヒアルロン酸(HA)は、10μg/mL以上の濃度では、ヘパリンに対して有意に残存トロンビン量が多く、ヒト血漿中アンチトロンビン活性は低かった。高硫酸化ヒアルロン酸(HA-HS)は、低濃度では残存トロンビン量が低めで、ヘパリンとの有意差が示されなかったが、濃度増加による残存トロンビン量の低下は認められず、むしろ1000μg/mLで残存トロンビン量が著しく増加し、ヒト血漿中アンチトロンビン活性は減少していた。硫酸化ヒアルロン酸及びヒアルロン酸はいずれも抗トロンビン活性増強効果を示さなかった。
【0060】
実施例6:小腸クリプト再生に対する硫酸化ヒアルロン酸の効果
(1)クリプトアッセイ
体重が24gから28gまでの8週齢のBALB/cマウスを使って、空腸におけるクリプト数を測定して腸管の再生を評価した(Winthers HRら、Int J Radiat Biol Relat Stud Phys Chem Med, 17, 261-267, 1970.参照)。10μgのFGF1と、ヘパリン、ヒアルロン酸(HA)、低硫酸化ヒアルロン酸(HA-LS)、高硫酸化ヒアルロン酸(HA-HS)をそれぞれ5μg/mLもしくは50μg/mLになるように添加した0.5mL生理食塩水を作成し、マウス腹腔内注射した。投与は、γ線10Gy全身照射の24時間前か24時間後に行い、照射3.5日後に解剖した。空腸組織は10%中性緩衝ホルマリンで固定し、パラフィン包埋後、腸管横断面で薄切しHE染色を行った。顕微鏡下10細胞以上からなるクリプト数を生きているクリプトとしてカウントし、全周のクリプト数を10ヶ所決定し平均した。各照射群のクリプト数平均値を、非照射生理食塩水投与コントロール群のクリプト数平均値で割って標準化した。
【0061】
γ線10Gyのマウス全身照射の24時間前に、高硫酸化ヒアルロン酸(HA-HS)のみ投与しクリプトアッセイを行った。濃度は0μg/mL、5μg/mL、50μg/mLになるように高硫酸化ヒアルロン酸(HA-HS)を生理食塩水0.5mLに希釈し、マウス腹腔内注射した(0μg/マウス、2.5μg/マウス、25μg/マウス)。結果を図9に示す。非照射群マウスでは、高硫酸化ヒアルロン酸(HA-HS)投与でも空腸クリプト数に変化は認められなかった。照射するとクリプト数に著しい減少が認められるが、2.5μg投与群では有意にクリプト数の増加が認められ、25μg投与群よりもクリプト再生効果が高かった。この結果より、高硫酸化ヒアルロン酸単独でもクリプト再生効果があることが確認された。以後、クリプトアッセイは5μg/mL(2.5μg/マウス)の糖鎖で行うこととした。
【0062】
(2)照射前投与によるクリプトアッセイ
10μgFGF1と、5μg/mL糖鎖からなる0.5mL生理食塩水を作成し、γ線10Gy全身照射の24時間前にマウス腹腔内注射し、クリプトアッセイを行った。結果を図10に示す。FGF1の投与はクリプト数の増加を示し、小腸の放射線障害からの再生を促進した。一方、ヘパリンも同様にクリプト数の増加を認め、FGF1とヘパリンの併用は、最もクリプト数を増加させた。一方、高硫酸化ヒアルロン酸(HA-HS)は、クリプト数の増加に関してヘパリン同様の効果を示し、FGF1との併用効果も有意に示された。ヒアルロン酸(HA)もクリプト数を増加させたが、FGF1との併用効果は全く認められなかった。低硫酸化ヒアルロン酸(HA-LS)は、高硫酸化ヒアルロン酸(HA-HS)と同様の傾向を示した。
【0063】
(3)照射後投与によるクリプトアッセイ
10μgFGF1と、5μg/mL糖鎖からなる0.5mL生理食塩水を作成し、γ線10Gy全身照射の24時間後にマウス腹腔内注射し、クリプトアッセイを行った。結果を図11に示す。FGF1の投与はクリプト数の増加を示し、小腸の放射線障害からの再生を促進した。一方、ヘパリン単独ではクリプト数の増加を認めず、FGF1との併用では生理食塩水群に対して有意にクリプト数を増加させているが、FGF1単独群との比較では有意差を認めなった。一方、低硫酸化ヒアルロン酸(HA-LS)と高硫酸化ヒアルロン酸(HA-HS)は単独でも有意にクリプト数を増加させた。しかしながら、FGF1との併用効果は全く認められず、FGF1単独投与群と糖鎖とFGF1併用群にクリプト数の有意差は認められなかった。
【0064】
実施例7:アポトーシスに対する硫酸化ヒアルロン酸の効果
体重が24gから28gまでの8週齢のBALB/cマウスを使って、放射線誘導性アポトーシスをTerminal deoxynucleotidyl transferase-mediated deoxyuridine triphosphate nick end labeling(TUNEL)アッセイで評価した(Gavrieli Y ら、Cell Biol., 119, 493-501, 1992.参照)。10μgのFGF1と、各5μg/mLのヘパリン、ヒアルロン酸(HA)、低硫酸化ヒアルロン酸(HA-LS)、高硫酸化ヒアルロン酸(HA-HS)をそれぞれ添加した0.5mL生理食塩水を作成し、マウス腹腔内注射した。投与は、γ線12Gy全身照射の24時間前に行い、照射24時間後に解剖した。空腸組織は10%中性緩衝ホルマリンで固定し、パラフィン包埋後、腸管横断面で薄切し、ApopTag Plus Peroxidase In Situ Apoptosis Detection Kit (Chemicon, Temecula, CA, USA)を使って染色した。組織切片を脱パラフィン後、20μg/mL プロテイナーゼK及び3%過酸化水素PBSで処理し、付属バッファーで平衡化後、terminal deoxynucleotidyl transferase(TdT)enzymeを反応させて、DNA鎖切断箇所の3’-OH末端をジゴキシゲニンでラベルした。この組織切片にペルオキシダーゼ標識抗ジゴキシゲニン抗体を室温30分反応させ、DABで発色させた。このTUNEL陽性細胞数を各クリプトで決定し、10クリプト以上10視野で測定し平均値を算出した。
【0065】
空腸における放射線誘導性アポトーシスを、空腸クリプトにおけるTUNEL陽性細胞数を測定することで評価した。FGF1及び糖鎖は照射24時間前に投与し、照射後24時間後に評価した。結果を図12に示す。FGF1とヘパリンはそれぞれ単独でTUNEL陽性細胞数を減少させ抗アポトーシス効果を示した。併用による効果も認められるが、FGF1単独群とは有意差を示さなかった。一方、高硫酸化ヒアルロン酸もヘパリン同様の抗アポトーシス効果を示し、しかもその併用効果はFGF1単独群と比べて有意差が示され、ヘパリンよりも効果が高かった。低硫酸化ヒアルロン酸はヘパリンとほぼ同程度の抗アポトーシス効果を示したが、ヒアルロン酸は抗アポトーシス効果を全く示さなかった。
【0066】
上記の詳細な記載は、本発明の目的及び対象を単に説明するものであり、添付の特許請求の範囲を限定するものではない。添付の特許請求の範囲から離れることなしに、記載された実施態様に対しての、種々の変更及び置換は、本明細書に記載された教示より当業者にとって明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の組成物は、放射線防護剤、創傷治療剤、発毛促進剤、又は歯周病治療剤という硫酸化ヒアルロン酸の新たな用途を提供するものである。
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