(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-26
(45)【発行日】2025-03-06
(54)【発明の名称】滴定システム及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/78 20060101AFI20250227BHJP
G01N 31/16 20060101ALI20250227BHJP
【FI】
G01N21/78 Z
G01N31/16 A
(21)【出願番号】P 2024569202
(86)(22)【出願日】2024-07-02
(86)【国際出願番号】 JP2024023976
【審査請求日】2024-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2023110285
(32)【優先日】2023-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503366841
【氏名又は名称】株式会社アイカムス・ラボ
(73)【特許権者】
【識別番号】520006148
【氏名又は名称】株式会社アイ・モーションテクノロジー
(73)【特許権者】
【識別番号】519273762
【氏名又は名称】シオノギファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142734
【氏名又は名称】安 裕 希
(72)【発明者】
【氏名】岡田 靖
(72)【発明者】
【氏名】中村 毅
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 一成
(72)【発明者】
【氏名】相田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】猿田 一平
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第2835995(CN,Y)
【文献】中国特許出願公開第110763674(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109696375(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第113514601(CN,A)
【文献】特表2003-504627(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/75 - G01N 21/83
G01N 31/00 - G01N 31/22
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物質を含む試料液が収容されたフラスコを撮影可能に設置され、前記試料液を撮影して画像信号を出力するように構成されたカメラと、
前記カメラから出力された画像信号に基づいて、前記試料液が写った画像を表す画像データを生成するように構成された画像生成部と、
滴定指示薬が添加された標準液と被験物質との組み合わせに応じて、当量点を判定する際に判定対象とする色値の種類と、該色値の種類に応じた判定基準とを含む複数のパラメータセットを記憶するように構成された記憶部と、
外部からなされる操作に応じた入力信号を受け付けるように構成された操作入力部と、
前記複数のパラメータセットの中から、前記操作入力部により受け付けられた入力信号に応じたパラメータセットを前記記憶部から読み出し、該パラメータセットに基づいて判定対象とする色値の種類及び判定基準を設定するように構成された設定部と、
前記画像生成部により生成された画像内の試料液が写った領域における画素値を取得するように構成された画素値取得部と、
前記画素値取得部により取得された画素値に基づいて、前記設定部により設定された種類の色値を取得するように構成された色値取得部と、
前記設定部により設定された判定基準に基づいて、前記色値取得部により取得された色値を評価するように構成された判定部と、
を備える滴定システム。
【請求項2】
前記設定部は、判定対象として複数種類の色値を設定し、判定基準として該複数種類の色値の相対関係を設定するように構成されている、請求項1に記載の滴定システム。
【請求項3】
前記設定部は、判定対象として1種類の色値を設定し、判定基準として該1種類の色値の閾値を設定するように構成されている、請求項1に記載の滴定システム。
【請求項4】
前記設定部は、判定対象として1種類の色値を設定し、判定基準として該1種類の色値の変化の態様を設定するように構成されている、請求項1に記載の滴定システム。
【請求項5】
前記設定部は、さらに、前記操作入力部により受け付けられた入力信号に応じて、設定した色値の種類及び判定基準を変更するように構成されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の滴定システム。
【請求項6】
前記操作入力部により受け付けられた入力信号に応じて、前記画像内の特定の領域を観察領域として指定するように構成された領域指定部をさらに備え、
前記画素値取得部は、前記観察領域における画素値を取得するように構成されている、請求項1~
4のいずれか1項に記載の滴定システム。
【請求項7】
前記記憶部は、前記画素値取得部により取得された画素値と、前記色値取得部により取得された色値とを含む測定ファイルをさらに記憶するように構成されていると共に、前記測定ファイルのハッシュ値をさらに記憶するように構成されている、請求項1~
4のいずれか1項に記載の滴定システム。
【請求項8】
外部からなされる操作に応じた入力信号を受け付ける操作入力部と、記憶部とを有するコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記記憶部は、滴定指示薬が添加された標準液と被験物質との組み合わせに応じて、当量点を判定する際に判定対象とする色値の種類と、該色値の種類に応じた判定基準とを含む複数のパラメータセットを記憶し、
被検物質を含む試料液が収容されたフラスコを撮影可能に設置され、前記試料液を撮影して画像信号を出力するように構成されたカメラから出力された画像信号に基づいて、前記試料液が写った画像を表す画像データを生成する画像生成ステップと、
前記複数のパラメータセットの中から、前記操作入力部により受け付けられた入力信号に応じたパラメータセットを前記記憶部から読み出し、該パラメータセットに基づいて判定対象とする色値の種類及び判定基準を設定する設定ステップと、
前記画像生成ステップにおいて生成された画像内の試料液が写った領域における画素値を取得する画素値取得ステップと、
前記画素値取得ステップにおいて取得された画素値に基づいて、前記設定ステップにおいて設定された種類の色値を取得する色値取得ステップと、
前記設定ステップにおいて設定された判定基準に基づいて、前記色値取得ステップにおいて取得された色値を評価する判定ステップと、
を前記コンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滴定システム及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
滴定法として、滴定指示薬を添加した標準液を試料液に滴下し、溶液の色を観察する方法(比色法)や、電極を設置した試料液に標準液を滴下しながら電位差を測定する方法(電位差滴定法。例えば特許文献1参照)が知られている。また、カメラの映像情報に基づいて指示薬の発色状態の変化を検出する自動滴定装置も提案されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-101724号公報
【文献】特開平6-58882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
目視による比色法においては、作業者の負担が大きいことに加えて、作業者によって当量点の判断にばらつきが生じるおそれがある。一方、電位差滴定法においては、滴定を行う度に電極を洗浄しなければならず、滴定に要する一連の作業が煩雑になる。
【0005】
また、特許文献2においては、滴定指示薬と同系色または補色の光源によって試料液を照射する、又は、光源に滴定指示薬と同系色または補色のフィルタを設けることにより、試料液の明度の変化が著しく現れることをもって、滴定の終点を検出することとしている。しかしながら、比色法による滴定においては様々な種類の指示薬が用いられるため、指示薬の種類に応じて光源やフィルタを変更する構成では、汎用性のある滴定システムを実現することは困難である。
【0006】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、精度良く当量点を判定することができ、且つ、汎用性のある滴定システム及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様である滴定システムは、被検物質を含む試料液が収容されたフラスコを撮影可能に設置され、前記試料液を撮影して画像信号を出力するように構成されたカメラと、前記カメラから出力された画像信号に基づいて、前記試料液が写った画像を表す画像データを生成するように構成された画像生成部と、滴定指示薬が添加された標準液と被験物質との組み合わせに応じて、当量点を判定する際に判定対象とする色値の種類と、該色値の種類に応じた判定基準とを含む複数のパラメータセットを記憶するように構成された記憶部と、外部からなされる操作に応じた入力信号を受け付けるように構成された操作入力部と、前記複数のパラメータセットの中から、前記操作入力部により受け付けられた入力信号に応じたパラメータセットを前記記憶部から読み出し、該パラメータセットに基づいて判定対象とする色値の種類及び判定基準を設定するように構成された設定部と、前記画像生成部により生成された画像内の試料液が写った領域における画素値を取得するように構成された画素値取得部と、前記画素値取得部により取得された画素値に基づいて、前記設定部により設定された種類の色値を取得するように構成された色値取得部と、前記設定部により設定された判定基準に基づいて、前記色値取得部により取得された色値を評価するように構成された判定部と、を備える。
【0008】
上記滴定システムにおいて、前記設定部は、判定対象として複数種類の色値を設定し、判定基準として該複数種類の色値の相対関係を設定するように構成されても良い。
【0009】
上記滴定システムにおいて、前記設定部は、判定対象として1種類の色値を設定し、判定基準として該1種類の色値の閾値を設定するように構成されても良い。
【0010】
上記滴定システムにおいて、前記設定部は、判定対象として1種類の色値を設定し、判定基準として該1種類の色値の変化の態様を設定するように構成されていても良い。
【0011】
上記滴定システムにおいて、前記設定部は、さらに、前記操作入力部により受け付けられた入力信号に応じて、設定した色値の種類及び判定基準を変更するように構成されても良い。
【0012】
上記滴定システムは、前記操作入力部により受け付けられた入力信号に応じて、前記画像内の特定の領域を観察領域として指定するように構成された領域指定部をさらに備え、前記画素値取得部は、前記観察領域における画素値を取得するように構成されても良い。
【0013】
上記滴定システムにおいて、前記記憶部は、前記画素値取得部により取得された画素値と、前記色値取得部により取得された色値とを含む測定ファイルをさらに記憶するように構成されていると共に、前記測定ファイルのハッシュ値をさらに記憶するように構成されていても良い。
【0014】
本発明の別の態様であるプログラムは、外部からなされる操作に応じた入力信号を受け付ける操作入力部と、記憶部とを有するコンピュータに実行させるプログラムであって、前記記憶部は、滴定指示薬が添加された標準液と被験物質との組み合わせに応じて、当量点を判定する際に判定対象とする色値の種類と、該色値の種類に応じた判定基準とを含む複数のパラメータセットを記憶し、被検物質を含む試料液が収容されたフラスコを撮影可能に設置され、前記試料液を撮影して画像信号を出力するように構成されたカメラから出力された画像信号に基づいて、前記試料液が写った画像を表す画像データを生成する画像生成ステップと、前記複数のパラメータセットの中から、前記操作入力部により受け付けられた入力信号に応じたパラメータセットを前記記憶部から読み出し、該パラメータセットに基づいて判定対象とする色値の種類及び判定基準を設定する設定ステップと、前記画像生成ステップにおいて生成された画像内の試料液が写った領域における画素値を取得する画素値取得ステップと、前記画素値取得ステップにおいて取得された画素値に基づいて、前記設定ステップにおいて設定された種類の色値を取得する色値取得ステップと、前記設定ステップにおいて設定された判定基準に基づいて、前記色値取得ステップにおいて取得された色値を評価する判定ステップと、を前記コンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、精度良く当量点を判定することができ、且つ、汎用性のある滴定システムを実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る滴定システムの外観を示す模式図である。
【
図2】
図1に示す装置本体の外観を示す模式図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る滴定システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図4】滴定メソッドファイルに格納される情報を例示する模式図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る滴定システムの動作を示すフローチャートである。
【
図8】測定ファイル作成画面を例示する模式図である。
【
図10】
図6の滴定処理を示すフローチャートである。
【
図14】測定ファイル選択画面を例示する模式図である。
【
図16】グラフ・画像表示画面を例示する模式図である。
【
図17】メソッド編集画面を例示する模式図である。
【
図18】検証実験における測定データを示すグラフ(CMYK色空間)である。
【
図19】検証実験における測定データを示すグラフ(CMY色空間)である。
【
図20】検証実験における測定データを示すグラフ(RGB色空間)である。
【
図21】検証実験における測定データを示すグラフ(HSV色空間)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態に係る滴定システム及びプログラムについて、図面を参照しながら説明する。なお、これらの実施の形態によって本発明が限定されるものではない。また、各図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。
【0018】
以下の説明において参照する図面は、本発明の内容を理解し得る程度に形状、大きさ、及び位置関係を概略的に示しているに過ぎない。即ち、本発明は各図で例示された形状、大きさ、及び位置関係のみに限定されるものではない。また、図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0019】
<滴定システムの構成>
図1は、本発明の実施形態に係る滴定システムの外観を示す模式図である。
図1に示す滴定システム1は、滴定指示薬(以下、単に指示液とも記す)が添加された標準液5aを、被験物質を含む試料液4aに滴下することにより生じる該試料液の色の変化を検出するシステムであり、装置本体2と、装置本体2と有線又は無線通信可能に接続される情報処理装置3とを備える。
【0020】
図2は、装置本体2の外観を示す模式図である。
図2に示すように、装置本体2には、カメラ10及び光源20が内蔵されている。カメラ10は、試料液4aが収容されたフラスコ4を撮影可能となるように設置されている。光源20は、例えば、白色の面発光LEDライトであり、フラスコ4を照明する。本実施形態において、光源20は、カメラ10の上方からフラスコ4を上斜め方向から照明するように設置されている。
【0021】
装置本体2には、フラスコ4を載置するためのステージ7が設置されるステージ設置部2aが設けられている、このステージ設置部2aに所定の高さのステージ7を設置し、ステージ7の上にフラスコ4を載置することにより、カメラ10の視野にフラスコ4の少なくとも一部を収めることができる。
【0022】
ステージ7としては、撹拌機(マグネティックスターラー)が内蔵されたステージを用いても良い。攪拌子をフラスコ4内に投入し、撹拌機を作動させることにより、フラスコ内において試料液4a及び標準液5aを攪拌し、素早く均一な反応を生じさせることができる。また、ステージ設置部2a又はステージ7に、電動ビュレット5をフラスコ4の上方に保持するための支持部6を設けても良い。
【0023】
電動ビュレット5は、情報処理装置3の制御の下で、標準液5aを滴下する。もちろん、電動ビュレット5の代わりに、手動ビュレットを用いても良い。
【0024】
装置本体2には、背面板8が嵌め込まれる溝状の背面板設置部2bが設けられている。フラスコ4から見てカメラ10及び光源20の反対側に背面板8を配置することにより、外乱光がカメラ10に入射することを防止することができる。
なお、カメラ10及び光源20を装置本体2に内蔵せず、これらの機器を別々に設置しても良い。
【0025】
図3は、滴定システム1の概略構成を示すブロック図である。
図3に示すように、滴定システム1は、試料液4aを撮影して画像信号を出力するように構成されたカメラ10と、カメラ10から出力された画像信号を取り込み、各種処理を実行することにより、滴定における当量点の判定を行うように構成された情報処理装置3とを備える。
【0026】
カメラ10は、CCD(Charge Coupled Device)又はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の撮像素子を有し、所定のフレームレートでの動画撮影が可能な撮影装置である。撮像素子は、カメラ10に入射し、光学系により結像させられた光(被写体像)を受光面において受光し、光電変換を行うことにより電気信号を生成する。カメラ10は、この電気信号に対し、増幅、A/D変換等の所定の信号処理を施すことにより画像信号を生成して出力する。
【0027】
情報処理装置3は、外部インタフェース(I/F)110と、記憶部120と、演算部130とを備える。また、情報処理装置3は、表示部30及び操作入力部40を備えても良い。
【0028】
表示部30は、例えば、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等の表示デバイスである。操作入力部40は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、入力ボタン等の入力デバイスであり、ユーザによりなされた操作に応じた信号を演算部130に入力する。
【0029】
外部インタフェース110は、情報処理装置3に接続されたカメラ10や電動ビュレット5等の外部機器との間において、制御信号の出力や画像信号の入力など各種信号の入出力を行うインタフェースである。外部インタフェース110は、USB(Universal Serial Bus)、ブルートゥース(登録商標)、WiFi(Wireless Fidelity)、その他各種の通信規格を採用することができる。
【0030】
記憶部120は、例えば、ROM、RAM等の半導体メモリやディスクドライブなどのコンピュータ読取可能な記憶媒体を用いて構成される。記憶部120は、オペレーティングシステムプログラムやドライバプログラムの他、演算部130に所定の動作を実行させるためのプログラムや、該プログラムの実行中に使用される各種データ及びパラメータ等を記憶する。詳細には、記憶部120は、カメラ10により撮影された画像に基づいて当量点を判定する滴定プログラム等を記憶するプログラム記憶部121と、当量点の判定において用いられる複数のパラメータセットを記憶するパラメータ記憶部122と、滴定システム1において行われた滴定処理ごとに作成される測定ファイルを記憶する測定ファイル記憶部123と、ユーザ情報記憶部124とを含む。
【0031】
パラメータ記憶部122には、滴定メソッドごとに作成される複数の滴定メソッドファイルが記憶されている。滴定メソッドファイルは、滴定システム1が滴定処理を実行する際のパラメータを格納するファイルであり、フェノールフタレイン(PP)を用いた塩基性滴定メソッド、メチルオレンジ(MO)を用いた酸性滴定メソッドなどの滴定メソッドごとに作成される。パラメータ記憶部122には、初期設定として、基本的な滴定メソッドに関する複数の滴定メソッドファイルが予め記憶されている。
【0032】
図4は、滴定メソッドファイルに格納される情報を例示する模式図である。各滴定メソッドファイルには、メソッドのタイトル、滴定対象(試料液)、標準液、指示液、初期添加量、最大滴下量、1回当たりの滴下量、滴下インターバル、滴下終了条件、判定条件等が格納されている。このうちの判定条件は、滴定指示薬が添加された標準液と被験物質との組み合わせに応じて、当量点を判定する際に判定対象とする色値の種類と、該色値の種類に応じた判定基準とを含む。
【0033】
詳細には、判定対象が1種類の色値の場合、判定基準は、該色値の閾値と、閾値に対する条件(閾値以上、閾値以下等)とを含んでも良い。また、判定対象が1種類の色値の場合、判定基準は、該色値の変化の態様が設定されていても良い。例えば、色値の一次微分(変化率)が急激に変化する、一次微分の符号が変化する、二次微分の符号が変化する、といった判定基準が例示される。或いは、判定対象が複数種類の色値の場合、判定基準は、これらの色値の相対関係(例えば、2種類の色値の大小関係、比率、比率の変化など)を含んでも良い。さらに、判定基準は、測定により取得された色値のうち判定に使用される値(以下、選択値と記す)を含んでも良い。選択値としては、例えば1回ごとの測定値、複数回の測定値の移動平均等が挙げられる。
【0034】
具体的には、本実施形態における当量点の判定において使用可能な色値としては、RGB色空間におけるR値、G値、B値、CMYK色空間におけるC値、CMYK色空間におけるM値、CMYK色空間におけるY値、K値、CMY色空間におけるC値、M値、Y値、HSV色空間におけるH値、S値、V値、HLS色空間におけるH値、L値、S値が挙げられる。これらの各色値を用いる場合、予め設定された閾値との比較により当量点を判定することができる。
【0035】
また、当量点の判定に使用可能な複数種類の色値の組み合わせとしては、CMYK色空間におけるC値とM値、C値とY値、C値とK値、M値とY値、M値とK値、Y値とK値の各組み合わせが挙げられる。これらの組み合わせを用いる場合、2種類の色値の相対関係により当量点を判定することができる。
【0036】
このような判定対象の色値の種類及び判定基準の典型的な例は、滴定システム1に予め記憶された滴定メソッドファイルに格納されている。これに対し、ユーザは、色値の種類及び判定基準を任意のものに変更することができる。つまり、ユーザは、予め記憶されている滴定メソッドファイルに対し、色値の種類及び判定基準を含む種々の項目に任意の変更を加え、ファイル名を付けて保存することにより、所望の滴定メソッドを作成することができる。
【0037】
測定ファイル記憶部123に記憶される測定ファイルには、滴定タイトル、滴定対象の試料のロット番号、サンプル番号、保存ファイル名等を含むファイル情報と、滴定処理において用いられた滴定メソッドと、標準液のカメラ10により撮影された画像の画像データと、画像内の観察領域における画素値及び該画素値を変換した色値を含む測定データとが格納される。測定データとしては、情報処理装置3において設定されている全ての色空間における色値を格納することとしても良いし、一部の色空間における色値のみを格納することとしても良い。前者の場合、測定ファイルを読み出し、ユーザ所望の色空間における色値を表示させようとする場合に、処理を高速化できるという利点がある。
【0038】
ユーザ情報記憶部124は、情報処理装置3を使用するユーザに関する情報(ユーザ情報)を記憶する。ユーザ情報には、ユーザアカウント、パスワード等のログイン情報、氏名、所属、メールアドレス、データへのアクセス権限等が含まれる。
【0039】
演算部130は、CPU(Central Processing Unit)又はGPU(Graphics Processing Unit)等のハードウェアを用いて構成され、プログラム記憶部121に記憶されている各種プログラムを読み込んで実行することにより、情報処理装置3の各部へのデータ転送や指示を行い、情報処理装置3の動作を統括的に制御する。また、演算部130は、滴定プログラムを読み込むことにより、カメラ10により撮影された画像に基づいて当量点を判定する一連の滴定処理を実行する。演算部130が滴定プログラムを読み込むことにより実現される機能部には、撮影制御部131と、滴下制御部132と、表示制御部133と、設定部134と、画像生成部135と、領域指定部136と、画素値取得部137と、色値取得部138と、判定部139と、データ管理部140と、ユーザ情報管理部141が含まれる。
【0040】
撮影制御部131は、カメラ10に対する撮影の開始及び終了を制御すると共に、所定の撮影フレームレートで撮影を実行するようにカメラ10の動作を制御する。
【0041】
滴下制御部132は、電動ビュレット5の動作を制御する。詳細には、滴下制御部132は、電動ビュレット5における滴下開始及び滴下終了、1回あたりの滴下量、滴下インターバル等を制御する。
表示制御部133は、表示部30に所定の滴定画面を表示させる。
【0042】
設定部134は、複数の滴定メソッドの中から、操作入力部40により受け付けられた入力信号に応じた滴定メソッドを選択し、選択された滴定メソッドの滴定メソッドファイル(パラメータセット)をパラメータ記憶部122から読み出す。そして、設定部134は、該滴定メソッドファイルに格納された情報に基づいて、当量点の判定における判定条件を初期設定する。また、設定部134は、操作入力部40により受け付けられた入力信号に応じて、初期設定した判定条件を、ユーザが指定した判定条件に変更する。
【0043】
画像生成部135は、カメラ10から出力された画像信号に基づいて、試料液が写った画像を表す画像データを生成する。
【0044】
領域指定部136は、操作入力部40により受け付けられた入力信号に応じて、試料液が写った画像内の特定の領域を観察領域として指定する。
【0045】
画素値取得部137は、画像生成部135により生成された画像内の試料液が写った領域における画素値を取得する。即ち、画素値取得部137は、画像内の観察領域における画素値を取得する。
【0046】
色値取得部138は、画素値取得部137により取得された画素値に基づいて、設定部134により設定された種類の色値を取得する。詳細には、色値取得部138は、観察領域に関する画像データからR値、G値、B値を取得し、これらR値、G値、B値及び所定の演算式を用いて、色値を算出する。
【0047】
判定部139は、設定部134により設定された判定条件に基づいて、色値取得部138により取得された色値を評価する。そして、色値が判定基準を満たした際に、当量点に至ったものと判定する。
【0048】
データ管理部140は、測定ファイル記憶部123に格納される各種データを管理する。例えば、データ管理部140は、滴定処理が行われるごとに、測定ファイルを作成して測定ファイル記憶部123に記憶させる、操作入力部40に対する操作に応じて、測定ファイル記憶部123に記憶されている測定ファイルを検索して読み出す、といった処理を実行する。
【0049】
ここで、データ管理部140は、新たに測定ファイルを保存する際、オリジナルの測定ファイルに加え、オリジナルの測定ファイルをハッシュ化したハッシュ値を測定ファイル記憶部123に記憶させても良い。この場合、データ管理部140は、保存された測定ファイルを読み出して表示する際に、読み出し対象の測定ファイルをハッシュ化し、そのハッシュ値とオリジナルの測定ファイルのハッシュ値と比較しても良い。それにより、万が一、測定ファイルが改ざんされていた場合であっても、改ざん後の測定ファイルのハッシュ値と、オリジナルの測定ファイルをハッシュ値とを比較することにより、改ざんされた事実及び改ざんされた箇所を特定することが可能となる。
【0050】
ユーザ情報管理部141は、操作入力部40から入力された情報に基づいて、ユーザ情報記憶部124に記憶されるユーザ情報を管理すると共に、パスワードの暗号化、ユーザの認証、データへのアクセス権限の管理等を実行する。
【0051】
なお、パスワードについては、ユーザ情報管理部141は、パスワードをハッシュ化したハッシュ値のみをユーザ情報記憶部124に記憶させても良い。この場合、万が一、情報処理装置3からログイン情報が漏洩したとしても、ハッシュ値から元のパスワードを復元することはできないため、第三者による情報処理装置3への不正アクセスを防ぐことが可能となる。また、ユーザ情報管理部141は、パスワードをハッシュ化する際、ソルト(ハッシュ化する前のパスワードに付与される任意の文字列)及びペッパー(ハッシュ化する前のパスワードに付与される固定の文字列)を用いても良い。この場合、データ管理部140は、ペッパーを、ユーザ情報とは異なる階層に記憶させるか、情報処理装置3と有線又は無線通信で接続される別の記憶装置に記憶させることとしても良い。
【0052】
<滴定システムの動作>
まず、情報処理装置3は、アクセスしてきたユーザに対し、ユーザアカウント及びパスワードの入力を要求し、認証を行う。認証に成功すると、滴定システム1は、滴定に関する以下の動作を開始する。
【0053】
図5は、本発明の実施形態に係る滴定システムの動作を示すフローチャートである。
まず、滴定システム1は、カメラ10に撮影を開始させる(ステップS10)。それにより、カメラ10から順次出力される画像信号に基づいて、情報処理装置3において画像が生成される。
【0054】
図6は、カメラ10が撮影を開始することにより表示部30に表示されるカメラ観察画面を例示する模式図である。カメラ観察画面A1には、カメラ10により撮影された画像が表示される画像表示領域a11と、画像内に表示された枠a12と、枠a12のサイズを示すサイズ表示領域a13と、枠a12内における画素値(RGB色空間におけるR値、G値、B値)が表示される画素値表示領域a14と、画素値を各種色空間(CMYK色空間、CMY色空間、HSV色空間、HLS色空間)における色値に変換した値が表示される色値表示領域a15と、更新ボタンa16と、終了ボタンa17とが設けられている。画素値としては、枠a12内に位置する各画素の画素値の平均値や中央値などの統計値が表示されることとしても良い。ユーザは、操作入力部40を用いて、画像表示領域a11における枠a12の位置及びサイズを変更することができる。
【0055】
続いて、滴定システム1は、観察領域を指定する(ステップS11)。ここで、滴定システム1は、更新ボタンa16を押下する操作(例えば、クリック操作やタップ操作。以下同様)がなされると、画素値表示領域a14及び色値表示領域a15における値を更新する。ユーザは、更新された値を確認しながら、枠a12の位置及びサイズを調整することができる。さらに、滴定システム1は、終了ボタンa17が押下されると、枠a12によって囲まれた領域を、一連の滴定処理における観察領域として指定する。
【0056】
続いて、滴定システム1は、パラメータの設定を行う(ステップS12)。
図7は、パラメータの設定に際して表示部30に表示されるメソッド選択画面を例示する模式図である。メソッド選択画面A2には、メソッド選択領域a21と、メソッド詳細情報表示領域a23と、OKボタンa24とが設けられている。メソッド選択領域a21には、パラメータ記憶部122に記憶されている複数の滴定メソッドファイルのタイトルが表示される。また、メソッド詳細情報表示領域a23には、メソッド選択領域a21においてカーソルa22が合わせられたメソッドに関する情報、即ち、選択中の滴定メソッドの名称、滴定対象、標準液、指示液等の情報が表示される。滴定システム1は、OKボタンa24が押下されると、選択中の滴定メソッドに対応する滴定メソッドファイル(パラメータセット)を記憶部120から読み出し、パラメータの初期設定を行う。以下においては、一例として、
図4に示す塩基性滴定メソッド(PP)におけるパラメータが設定されたものとする。
【0057】
続いて、滴定システム1は、測定ファイルを作成する(ステップS13)。
図8は、測定ファイルの作成画面を例示する模式図である。測定ファイル作成画面A3には、滴定メソッド表示欄a31と、滴定タイトル、滴定対象の試料のロット番号、サンプル番号、保存ファイル名等のファイル情報入力欄a32と、既存のファイル名が表示されるファイル名表示領域a33と、OKボタンa34とが設けられている。滴定タイトルは、今回実行する滴定処理を表す名称であり、ユーザが任意に決定することができる。ユーザは、ファイル情報の入力欄a32に必要情報を任意に入力することにより、新たな測定ファイルを作成することができる。また、ファイル名表示領域a33に表示されたファイル名のいずれかにカーソルを合わせることにより、当該ファイルにおけるファイル情報がファイル情報入力欄a32に反映されることとし、ユーザは、入力欄a32に表示された情報を任意に修正することにより、新たなファイルを作成しても良い。滴定システム1は、ファイル情報入力欄a32に必要な情報が入力された状態で、OKボタンa34が押下されると、滴定メソッド表示欄a31に表示された滴定メソッドに関する新規の測定ファイルを作成する。
【0058】
続いて、滴定システム1は、滴定を実行する(ステップS14)。
図9は、メソッド確認画面を例示する模式図である。メソッド確認画面A4には、滴定メソッド及び滴定タイトルの表示領域a41と、確認メッセージの表示領域a42と、OKボタンa43とが設けられている。滴定システム1は、OKボタンa43が押下されると、滴定処理を開始する。なお、フラスコ4が載置されているステージ7に撹拌機が内蔵されている場合、この際に、撹拌機を始動させても良い。撹拌機は、滴定システム1の制御の下で始動されても良いし、ユーザが手動でスイッチをオンすることにより始動されても良い。
【0059】
図10は、
図5の滴定処理を示すフローチャートである。滴定システム1は、まず、滴定メソッドファイルに格納された初期添加量に基づいて電動ビュレット5を制御することにより、標準液を初期添加する(ステップS140)。なお、初期添加量が設定されていない場合には、ステップS140は省略しても良い。
【0060】
図11は、初期添加中に表示部30に表示される滴定画面を例示する模式図である。滴定画面A5には、測定ファイルのファイル情報の表示領域a50と、滴定メソッドファイルに基づいて設定されたパラメータが表示されるパラメータ表示領域a51と、標準液の滴下量や滴定経過時間が表示される滴定状態表示領域a52と、当量点の判定に用いられる色値の現在の値が表示される色値表示領域a53と、グラフ表示される色空間の選択領域a54と、色値のグラフ表示領域a55と、画像表示領域a56と、開始ボタンa57と、終了ボタンa58と、コメント領域a59とが設けられている。グラフ表示領域a55には、初期設定された色値を含む色空間(例えば、CMYK色空間)における各色値がグラフ表示される。ユーザは、色空間の選択領域a54を操作することで、グラフ表示領域a55に、他の色空間(例えば、RGB色空間、CMYK色空間、CMY色空間、HSV色空間、HLS色空間)における色値を表示させることができる。
【0061】
滴定システム1は、初期添加の終了後、開始ボタンa57が押下されると、標準液の滴下を開始する(ステップS141)。
図12は、標準液の滴下開始後に表示部30に表示される滴定画面を例示する模式図である。滴下開始後の滴定画面A5には、一時停止ボタンa60が表示される。ユーザは、必要に応じて一時停止ボタンa60を押下することで、滴定を中断させることができる。また、終了ボタンa58を押下することで、滴定を強制終了させることができる。さらに、ユーザは、コメント領域a59に随時コメントを記入することができる。
【0062】
滴定システム1は、標準液の滴下インターバルに同期して、観察領域における画素値を取得する(ステップS142)。詳細には、滴定システム1は、画像内において指定された観察領域(ステップS11参照)を構成する画素の画素値(R値、B値、G値)を取得し、これらの画素値の平均値や中央値などの統計値を算出する。
【0063】
続いて、滴定システム1は、取得した画素値に基づいて、当量点の判定に用いられる色値を取得する(ステップS143)。例えば、当量点の判定にCMYK色空間におけるM値が用いられる場合、滴定システム1は、ステップS142において取得されたR値、G値、B値と所定の変換式を用いて、M値を算出する。
【0064】
続いて、滴定システム1は、取得された色値が判定基準を満たすか否かを判定する(ステップS144)。例えば、判定基準として、「閾値:0.1、選択値:移動平均(5ポイント)、条件:閾値以下」が設定されている場合、滴定システム1は、今回の滴下前の4回分について取得された色値と、今回取得された色値との平均値を算出し、この平均値が閾値0.1以下であるか否かを判定する。
【0065】
色値が判定基準を満たしていない場合(ステップS145:No)、処理はステップS142に戻る。一方、色値が判定基準を満たした場合(即ち、当量点に至った場合、ステップS145:Yes)、滴定システム1は、標準液の滴下を終了させ(ステップS146)、その後、処理はメインルーチンに戻る。
図13は、標準液の滴下終了時に表示部30に表示される滴定画面を例示する模式図である。
図13に示す滴定画面A5には、開始ボタンa57が再び表示されている。なお、滴定システム1は、色値が判定基準を満たしたと判断した段階で、標準液の滴下を停止させるが、開始ボタンa57が押下されると、再び滴下を開始することとしても良い。即ち、ユーザの判断により、滴下を再開させることができる。また、滴定メソッドファイルにおいて特定の滴下終了条件が設定されている場合、滴定システム1は、その滴下終了条件に従って滴下終了を制御する。
【0066】
再び
図5を参照すると、滴定の終了後、滴定システム1は、滴定の結果を保存する(ステップS15)。詳細には、滴下開始から滴下終了までの間に標準液が滴下されるごとに取得された各空間における色値のデータが、画像データと共に測定ファイルに格納され、測定ファイル記憶部123に記憶される。この際、測定ファイルをハッシュ化したハッシュ値も測定ファイル記憶部123に記憶しても良い。その後、滴定システム1における滴定処理は終了する。
【0067】
<滴定結果の解析>
滴定システム1においては、ユーザは、保存された測定ファイルを用いて、事後的に滴定結果を解析することもできる。
図14は、測定ファイル選択画面を例示する模式図である。ファイル選択画面A6には、検索項目の選択領域a61と、検索により抽出された滴定タイトルの表示領域a62と、データ選択領域a63と、詳細情報表示領域a64と、OKボタンa65とが設けられている。
【0068】
測定ファイルの検索は、滴定タイトルのほか、滴定メソッド、ユーザ名(作業者)、作業日、ロット番号、サンプル番号、コメントによっても行うことができる。データ選択領域a63には、表示領域a62においてカーソルa66が合わせられた滴定タイトルに関する測定ファイル名の一覧が表示される。詳細情報表示領域a64には、データ選択領域a63においてカーソルa67が合わせられた測定ファイルに関する詳細情報が表示される。データ選択領域a63において測定ファイル名が選択されている状態でOKボタンa65が押下されると、滴定システム1は、選択された測定ファイルを測定ファイル記憶部123から読み出し、表示部30に表示する。
【0069】
この際、滴定システム1は、選択された測定ファイルをハッシュ化し、そのハッシュ値と、測定ファイル記憶部123に記憶されているオリジナルの測定ファイルのハッシュ値とを比較することとしても良い。その結果、両ハッシュ値の間に差異が生じている場合、滴定システム1は、測定ファイルが改ざんされた可能性がある旨の警告を表示部30に表示しても良い。
【0070】
図15は、滴定解析画面を例示する模式図である。滴定解析画面A7には、測定ファイル記憶部123から読み出された測定ファイルにおける滴定メソッド、ファイル名、各種パラメータ等が表示される詳細情報表示領域a71と、測定データ表示領域a72と、グラフ・画像表示ボタンa73と、再解析ボタンa74と、解析方法選択領域a75と、保存ボタンa76とが設けられている。測定データ表示領域a72には、滴定処理時に取得された画素値及び判定条件として設定された色値の他、滴定システム1において取得可能な各種色値を表示されることとしても良い。
【0071】
解析方法選択領域a75においては、ユーザの操作により、当量点を判定する際の色値、閾値、選択値、条件を選択できるようになっている。滴定システム1は、解析方法選択領域a75が操作され、再解析ボタンa74が押下されると、変更後の判定条件で当量点を再解析する。また、滴定システム1は、保存ボタンa76が押下されると、変更された内容を含む新規ファイルを保存する。
【0072】
また、滴定システム1は、グラフ・画像表示ボタンa73が押下されると、
図16に例示するグラフ・画像表示画面A8を表示部30に表示する。グラフ・画像表示画面A8には、カメラ10により撮影された画像が表示される画像表示領域a80と、色値のグラフが表示されるグラフ表示領域a81と、色値選択領域a82と、グラフ更新ボタンa83とが設けられている。
【0073】
ユーザは、色値選択領域a82に表示された各種色空間における色値のチェックボックスをチェックすることにより、当量点の判定に用いられる色値の種類を選択することができる。いずかのチェックボックスがチェックされた状態で、グラフ更新ボタンa83が押下されると、滴定システム1は、グラフ表示領域a81にチェックされた色値のグラフを表示する。
【0074】
画像表示領域a80には、観察領域を表す枠a84が表示されている。ユーザは、操作入力部40を用いて、この枠a84の位置及びサイズを変更することができる。滴定システム1は、枠a84が変更された際に、変更後の枠a84における各画素の画素値を取得し、測定データ表示領域a72(
図15参照)における色値を再計算することとしても良い。
【0075】
<滴定メソッドの編集>
滴定システム1において、ユーザは、既存の滴定メソッドを編集することにより、新たな滴定メソッドを作成することができる。
図17は、メソッド編集画面を例示する模式図である。メソッド編集画面A9には、メソッド名入力欄a91と、メソッド編集領域a92と、解析方法編集領域a93と、新規保存ボタンa94とが設けられている。
【0076】
滴定システム1は、メソッド名入力欄a91に滴定メソッドの名称が入力されると、該当する滴定メソッドファイルをパラメータ記憶部122から読み出し、滴定対象(試料液)、標準液、指示液の他、最大滴下量、初期添加量、滴定終了設定、1回の滴下量、滴下インターバル等のパラメータをメソッド編集領域a92に表示すると共に、当量点の判定条件(色値の種類、選択値、閾値、条件)を解析方法編集領域a93に表示する。ユーザは、メソッド編集領域a92及び解析方法編集領域a93に表示された内容を変更することができる。内容を変更する手段としては、各項目に設けられたドロップダウンリストから所望の内容を選択する方式であっても良いし、任意の内容をテキスト入力する方式であっても良い。滴定システム1は、新規保存ボタンa94が押下されると、編集後の滴定メソッドの内容を格納した新たな滴定メソッドファイルを作成し、パラメータ記憶部122に記憶させる。これにより、
図7に例示するメソッド選択画面A2に、新たに作成された滴定メソッドファイルのファイル名が表示されるようになる。
【0077】
以上説明したように、本実施形態によれば、滴定指示薬が添加された標準液と被験物質との組み合わせに応じて適切な色値及び判定基準により当量点を判定することができ、精度の良い滴定を行うことが可能となる。また、滴定指示薬が添加された標準液と被験物質との組み合わせに応じて、複数のパラメータセットを予め記憶部に記憶させておくので、汎用性のある滴定システムを実現することが可能となる。
【0078】
また、本実施形態によれば、各滴定メソッドにおいて、滴定指示薬が添加された標準液と被験物質との組み合わせに応じて、当量点を判定するための適切な色値及び判定基準が予め初期設定されているので、滴定に不慣れなユーザであっても、容易且つ精度良く当量点を判定することが可能となる。
【0079】
また、本実施形態によれば、ユーザは、初期設定された色値の種類及び判定基準を、操作入力部に対する操作により変更することができるので、所望の色値の種類及び判定により当量点の判定を行うことができる。
【0080】
また、本実施形態によれば、操作入力部により受け付けられた入力信号に応じて、画像内の特定の領域を観察領域として指定することができるので、ユーザの判断により、適切な観察領域を設定することが可能となる。
【0081】
また、本実施形態によれば、滴定の測定データを格納したオリジナルの測定ファイルに加え、測定ファイルのハッシュ値を記憶するので、オリジナルの測定ファイルが改ざんされた場合にはその事実及び改ざんされた箇所を特定することが可能となる。
【0082】
(検証実験)
本実施形態に係る滴定システム1において、日本酒のアミノ酸度を測定するための滴定試験を実施した。測定方法としては、酒類総合研究所(National Research Institute of Brewing)標準分析法3-6アミノ酸B)エタノール添加法によるアミノ酸度の測定(参考:https://www.nta.go.jp/taxes/sake/sonota/sokuteihoho/pdf/10.pdf)に従った。
【0083】
ここで、エタノール添加法によるアミノ酸度の測定は、以下のように実施される。
サンプル溶液:日本酒(清酒)
指示薬:フェノールフタレイン指示薬(フェノールフタレイン0.5gをエタノール50mLに溶解)
標準液:0.1mol/L(N/10)水酸化ナトリウム溶液
エタノール:エタノール(99.5)(特級)(JIS K8101:2006の規定による)
【0084】
工程1:サンプル10mLにフェノールフタレイン指示薬数滴を加える。
工程2:工程1の溶液にN/10水酸化ナトリウム溶液を、淡桃色を呈するまで加えることにより中和する。
工程3:工程2の溶液にエタノール25mL加え、無色に戻す。
工程4:工程3の溶液にN/10水酸化ナトリウム溶液を、再度淡桃色を呈するまで加え、滴定する。そして、終点における滴定値“a”を求める。
工程5:力価Fを用いて、a×F(小数点以下2桁を四捨五入)をアミノ酸度とする。
【0085】
上記工程4においては、標準液(N/10水酸化ナトリウム溶液)を50μLずつ加えた。そして、滴定システム1により測定データを取得しつつ、目視により終点の判定を行った。目視による終点の滴定量は、1.05mLであった。この滴定量に対する各種色空間における色値の変化を検証した。
【0086】
図18~
図21は、検証実験における測定データを示すグラフある。
図18~
図21において、横軸は、エタノール添加(工程3)以降の標準液の滴下量を示す。縦軸については、
図18は、CMYK色空間における色値、
図19は、CMY色空間における色値、
図20はRGB色空間における色値、
図21は、HSV色空間における色値をそれぞれ示す。
【0087】
CMYK色空間の場合(
図18参照)、終点(1.05μL)に至っても各色値に大きな変化は見られなかった。これは、この実験においては、標準液を滴下した際に濁りが生じることにより、各色値の変化が緩慢になってしまったためと考えられる。これに対し、CMY色空間の場合には(
図19参照)、終点近傍においてM値に急峻な変化が見られた。終点に至ったときのM値は0.525であった。
【0088】
RGB色空間の場合(
図20参照)、終点に至る前においては、R値,G値,B値のいずれも下降傾向にあったが、終点に至ったタイミングで、R値が上昇に転じた。一方、HSV色空間の場合(
図21参照)、終点に至ったタイミングでは、H値、S値、V値のいずれにおいても大きな変化はなく、終点(1.05μL)の次の1滴を滴下したタイミングで、H値が急激に下降した。
【0089】
以上の実験結果より、エタノール添加法によるアミノ酸度の測定においては、CMY色空間において終点を判定することが適切であることがわかった。即ち、CMY色空間においては、終点近傍においてM値が急峻になるので、M値の閾値(例えば0.525)を設定しておくことにより、標準液を滴下するごとに、閾値を超えたか否かを明確に判定することができる。
【0090】
本発明は、以上説明した実施形態及び変形例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、他の様々な形で実施することができる。例えば、実施形態及び変形例に示した全構成要素からいくつかの構成要素を除外して形成しても良いし、上記実施形態及び変形例に示した構成要素を適宜組み合わせて形成しても良い。
【符号の説明】
【0091】
1…滴定システム、2…装置本体、2a…ステージ設置部、2b…背面板設置部、3…情報処理装置、4…フラスコ、4a…試料液、5…電動ビュレット、5a…標準液、6…支持部、7…ステージ、8…背面板、10…カメラ、20…光源、30…表示部、40…操作入力部、110…外部インタフェース、120…記憶部、121…プログラム記憶部、122…パラメータ記憶部、123…測定ファイル記憶部、124…ユーザ情報記憶部、130…演算部、131…撮影制御部、132…滴下制御部、133…表示制御部、134…設定部、135…画像生成部、136…領域指定部、137…画素値取得部、138…色値取得部、139…判定部、140…データ管理部、141…ユーザ情報管理部
【要約】
精度良く当量点を判定することができ、且つ、汎用性のある滴定システム等を提供する。滴定システムは、試料液が収容されたフラスコを撮影可能に設置されたカメラと、カメラから出力された画像信号に基づいて、試料液が写った画像を表す画像データを生成する画像生成部と、当量点を判定する際に判定対象とする色値の種類と、該色値の種類に応じた判定基準とを含む複数のパラメータセットを記憶する記憶部と操作入力部と、複数のパラメータセットの中から、操作入力部により受け付けられた入力信号に応じたパラメータセットを記憶部から読み出し、該パラメータセットに基づいて判定対象とする色値の種類及び判定基準を設定する設定部と、画像内の試料液が写った領域における画素値を取得する画素値取得部と、画素値取得部により取得された画素値に基づいて色値を取得する色値取得部と、判定基準に基づいて該色値を評価する判定部とを備える。