(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-26
(45)【発行日】2025-03-06
(54)【発明の名称】免疫チェックポイント阻害剤によるがん治療効果の予測方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/686 20180101AFI20250227BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20250227BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20250227BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20250227BHJP
A61K 39/395 20060101ALN20250227BHJP
A61P 35/00 20060101ALN20250227BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z
C12Q1/6851 Z ZNA
G01N33/50 K
C12N15/12
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2020153858
(22)【出願日】2020-09-14
【審査請求日】2023-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松島 綱治
(72)【発明者】
【氏名】上羽 悟史
(72)【発明者】
【氏名】七野 成之
(72)【発明者】
【氏名】青木 寛泰
(72)【発明者】
【氏名】中村 能章
【審査官】松村 真里
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/189383(WO,A1)
【文献】Journal of clinical oncology,2018年,Vol.36, No.15, suppl,e15007
【文献】Clin Cancer Res.,2020年03月15日,Vol.26, No.6,p.1327-1337
【文献】Int. J. Mol. Sci.,2020年03月30日,Vol.21, No.7,Article number: 2378, p.1-19
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫チェックポイント阻害剤によるがん治療効果の予測を補助する方法であって、
治療効果予測の対象となる免疫チェックポイント阻害剤による治療を開始する前のがん患者より採取された腫瘍組織検体と末梢血検体とを用いて、腫瘍組織中の腫瘍浸潤T細胞のT細胞受容体(TCR)レパトア及び末梢血中のCD8陽性T細胞のTCRレパトアの情報をそれぞれ取得する工程;
腫瘍浸潤T細胞のTCRレパトア及び末梢血CD8陽性T細胞のTCRレパトアを比較し、両者に共通して検出されるT細胞クローンを重複クローンとして同定する工程;及び
末梢血CD8陽性T細胞のTCRレパトア中で重複クローンが占める総頻度を算出する工程
を含み、前記重複クローンの総頻度が所定のカットオフ値以上である場合、前記がん患者において前記免疫チェックポイント阻害剤によりがん治療効果が得られるという予測が補助される、方法。
【請求項2】
免疫チェックポイント阻害剤がPD-1阻害剤である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
PD-1阻害剤が、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、又は抗PD-L2抗体である、請求項
2記載の方法。
【請求項4】
前記重複クローンの総頻度が下記の式で算出され、カットオフ値が7%~12%の範囲内に設定される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
末梢血CD8陽性T細胞のTCRレパトア中の重複クローンの総頻度(%)
=[末梢血中の重複クローンに属するCD8陽性T細胞数]/[末梢血中のCD8陽性T細胞数]×100
【請求項5】
前記腫瘍組織中の腫瘍浸潤T細胞のTCRレパトアは、CD8陽性ではないT細胞も含む腫瘍浸潤T細胞のTCRレパトア、又は、腫瘍浸潤CD8陽性T細胞のTCRレパトアである、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫チェックポイント阻害剤によるがん治療効果の予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗CTLA-4抗体Ipilimumabや抗PD-1抗体Nivolumabなどの免疫チェックポイント阻害剤(ICB)が従来の放射線化学療法を上回る治療成績を示すことが高い証明レベルで次々と報告され、がん免疫治療が標準的治療法として飛躍する新時代へ突入した。とりわけ、腫瘍局所で疲弊状態に陥った腫瘍特異的T細胞の再活性化を促すPD-1/PD-L1阻害剤は、我が国においてもメラノーマや非小細胞肺がんなど9種のがんにおいて承認済みであり、また食道癌などにおいても有効性が示され、処方件数は年々増加している。
【0003】
しかしながら、PD-1/PD-L1阻害剤の奏効率は承認されたがん種においても多くの場合2-3割に留まる(非特許文献1)一方、一部の患者では重篤な免疫関連有害事象(immune-related Adverse Events; irAE)が生じ(非特許文献2)、さらに最近では1-2割の患者で治療開始後に腫瘍が急速に増大する (Hyper Progressive Disease; HPD)等の課題も顕在化してきた(非特許文献3)。PD-1/PD-L1阻害剤の適応がん種や処方件数の増加が続く今日、有効症例、irAE、HPD等の症例を治療前もしくは治療後早期に捉えるバイオマーカーの同定、患者層別化手法の開発が喫緊の課題である。
【0004】
PD-1/PD-L1阻害剤の治療応答を予測・診断する手法として、腫瘍の免疫感受性または宿主の免疫状態を評価する幾つかのアプローチが期待されている。前者に関しては、マイクロサテライト不安定性(MSI:Microsatellite Instability)が確立している一方、Tumor-Mutation Burden (TMB)や腫瘍局所におけるPD-L1の発現などについては、事前予測での有用性は確立していない。宿主の免疫状態を評価する免疫モニタリングとして、フローサイトメトリーによる免疫表現型解析などが試みられているが、その多くが腫瘍抗原への特異性を反映しない非特異的な免疫細胞サブセットの評価に留まるため、事前予測および治療応答評価いずれにおいても有用性は確立していない。
【0005】
T細胞受容体(TCR)レパトア解析は、T細胞の抗原特異性を規定する多様なTCRのコレクションを決定することを通じて、抗原特異性に基づいて個体内のT細胞応答を評価することを目指す、新しい免疫モニタリング手法の一つである(非特許文献4)。腫瘍免疫分野では、一部の臨床研究において免疫チェックポイント阻害剤の治療効果や有害事象が、治療前の末梢血および腫瘍局所のTCRレパトアや、それらの治療に伴う変動と相関することが報告されている (非特許文献5、6)。しかしながら、これらの先行研究では解析に用いた末梢血検体についてCD4/CD8 T細胞の分離をしていないなどの問題があり、TCRレパトア情報と治療効果の相関はバイオマーカーとして確立するに十分な強さを示していない。
【0006】
これまでに本願発明者らのグループは、腫瘍生検検体からCD4陽性T細胞やCD8陽性T細胞を分離することなく核酸を抽出した場合でも、同一患者の末梢血又は腫瘍所属リンパ節のCD4陽性TCRレパトアおよびCD8陽性TCRレパトアをリファレンスとして未分画腫瘍TCRレパトアのアノテーションを行ない、腫瘍浸潤CD4陽性T細胞および腫瘍浸潤CD8陽性T細胞のレパトアを解析できることを見出すとともに、治療前後での腫瘍浸潤T細胞レパトアの対比によりがん治療処置の有効性を判定できることを見出してきた(特許文献1)。しかしながら、特許文献1で報告した方法は、既に受けている治療処置の有効性を判定する方法であり、がん治療処置が奏功するかどうかを事前に予測できる方法ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Ribas A et al., Science, 2018, vol. 359, pp. 1350-1355.
【文献】Postow MA et al., N Engl J Med, 2018, vol 378, pp. 158-168.
【文献】Sasaki A et al., Gastric Cancer, 2019, vol. 22, pp. 793-802.
【文献】D. Schrama et al., Semin Immunopathol., 2017, vol.39, no.3, pp.255-268
【文献】E. Cha et al., Sci Transl Med., 2014, vol.6, no.238, pp.238ra70
【文献】E. Yusko et al., Cancer Immunol Res., 2019, vol.7, no.3, 458-465
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、免疫チェックポイント阻害剤の有効症例を治療開始前に捉えることができる新規な手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、免疫チェックポイント阻害剤による治療を開始する前のがん患者から採取した末梢血検体及び腫瘍組織検体より、末梢血CD8陽性T細胞のTCRレパトア及び腫瘍浸潤T細胞のTCRレパトアの情報を取得し、両者に共通して検出されるT細胞クローンを「末梢血-腫瘍重複クローン」として同定し、当該治療前の末梢血検体中に存在する末梢血-腫瘍重複クローンの総頻度を算出することにより、免疫チェックポイント阻害剤によりがん治療効果が得られるかどうかを予測できることを見出し、本願発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、免疫チェックポイント阻害剤によるがん治療効果の予測を補助する方法であって、治療効果予測の対象となる免疫チェックポイント阻害剤による治療を開始する前のがん患者より採取された腫瘍組織検体と末梢血検体とを用いて、腫瘍組織中の腫瘍浸潤T細胞のT細胞受容体(TCR)レパトア及び末梢血中のCD8陽性T細胞のTCRレパトアの情報をそれぞれ取得する工程;腫瘍浸潤T細胞のTCRレパトア及び末梢血CD8陽性T細胞のTCRレパトアを比較し、両者に共通して検出されるT細胞クローンを重複クローンとして同定する工程;及び末梢血CD8陽性T細胞のTCRレパトア中で重複クローンが占める総頻度を算出する工程を含み、前記重複クローンの総頻度が所定のカットオフ値以上である場合、前記がん患者において前記免疫チェックポイント阻害剤によりがん治療効果が得られるという予測が補助される、方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、免疫チェックポイント阻害剤による治療を開始する前のがん患者から採取した腫瘍組織検体及び末梢血検体の解析により、そのがん患者において当該免疫チェックポイント阻害剤によりがん治療効果が得られるかどうかを、当該免疫チェックポイント阻害剤の投与前に予測することができる。がん治療効果が得られると予測される患者に対して、当該免疫チェックポイント阻害剤による治療を開始することとし、がん治療効果が得られると予測されなかった患者に対しては別の治療方法を選択することにより、免疫チェックポイント阻害剤の治療効果が得られずirAE、HPD等の有害作用のみ生じてしまうリスクを最大限回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】TCRレパトア解析のためのTCR可変領域ライブラリー調製方法の概略である。
【
図2】8症例における治療開始後の腫瘍径変化率を横軸に、治療開始前の末梢血CD8陽性T細胞レパトア中の重複クローンの総頻度を縦軸にとり、各患者をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の方法は、免疫チェックポイント阻害剤によるがん治療効果の予測を補助する方法であり、以下の工程を含む。
(TCRレパトア情報取得工程)免疫チェックポイント阻害剤による治療を開始する前のがん患者より採取された腫瘍組織検体と末梢血検体とを用いて、腫瘍組織中の腫瘍浸潤T細胞のT細胞受容体(TCR)レパトア及び末梢血中のCD8陽性T細胞のTCRレパトアの情報をそれぞれ取得する工程。
(重複クローン同定工程)腫瘍浸潤T細胞のTCRレパトア及び末梢血CD8陽性T細胞のTCRレパトアを比較し、両者に共通して検出されるT細胞クローンを重複クローンとして同定する工程。
(重複クローン総頻度算出工程)末梢血CD8陽性T細胞のTCRレパトア中で重複クローンが占める総頻度を算出する工程。
重複クローン総頻度算出工程により算出された重複クローンの総頻度が所定のカットオフ値以上である場合に、そのがん患者において、免疫チェックポイント阻害剤によりがん治療効果が得られるという予測が補助される。
【0015】
本発明において、免疫チェックポイント阻害剤とは、抑制性の免疫チェックポイント受容体又はそのリガンドの機能を阻害することでT細胞の活性化を促進する物質、より具体的には、抑制性免疫チェックポイント受容体とそのリガンドとの結合を阻害することにより、該受容体の活性化を阻害する物質であり、「抑制性の免疫チェックポイント受容体又はそのリガンドに対するアンタゴニスト」と言い換えることもできる。
【0016】
免疫チェックポイント阻害剤には、受容体側に結合して該受容体へのリガンドの結合を妨害することにより、該受容体の活性化を阻害する物質、及び、リガンド側に結合して該リガンドの受容体への結合を妨害することにより、該受容体の活性化を阻害する物質が包含され、例えば、抑制性の免疫チェックポイント受容体に結合するアンタゴニスト性抗体、抑制性の免疫チェックポイントリガンドに結合して受容体への結合を妨害する抗体、及び、抑制性の免疫チェックポイントリガンドに基づいて設計された、受容体を活性化しない可溶性のポリペプチドが包含される。
【0017】
免疫チェックポイントとは、免疫系が自己の体を攻撃しないための免疫逃避機構である。T細胞上には免疫チェックポイント受容体が存在し、がん細胞や抗原提示細胞上に発現しているリガンドと相互作用する。T細胞はMHC分子上に提示された抗原を認識して活性化し、免疫反応を起こすが、並行して生じる免疫チェックポイント受容体-リガンドの相互作用によりT細胞の活性化が調節を受ける。免疫チェックポイント受容体には共刺激性のものと抑制性のものがあり、両者のバランスによってT細胞の活性化及び免疫反応が調節を受けている。
【0018】
がん細胞は、抑制性の免疫チェックポイント受容体に対するリガンドを発現し、該受容体を利用して細胞傷害性T細胞による破壊から逃避している。従って、抑制性の受容体又はそのリガンドに対するアンタゴニストを投与することで、がん細胞による免疫チェックポイント機構の利用を妨害し、CD8+T細胞によるがん細胞の殺傷を促進することができる。免疫チェックポイント阻害剤は、このメカニズムにより抗がん効果を発揮する医薬であり、様々なものが知られている。
【0019】
免疫チェックポイント阻害剤が標的とする抑制性の免疫チェックポイント受容体及びそのリガンドの具体例を挙げると、受容体としてはPD-1、CTLA-4、LAG-3、TIM-3、BTLA、KIR等を挙げることができ、リガンドとしてはPD-L1(PD-1のリガンド)、PD-L2(PD-1のリガンド)、GAL9(TIM-3のリガンド)、HVEM(BTLAのリガンド)等を挙げることができる。
【0020】
従って、免疫チェックポイント阻害剤という語には、PD-1阻害剤、CTLA-4阻害剤、LAG-3阻害剤、TIM-3阻害剤、BTLA阻害剤、及びKIR阻害剤が包含される。このように受容体名を明示した場合も、免疫チェックポイント阻害剤という語についての上記の説明が当てはまる。「PD-1阻害剤」という語には、受容体であるPD-1、又はそのリガンドであるPD-L1若しくはPD-L2に結合して、PD-1とPD-L1/PD-L2との結合を妨害することにより、PD-1の活性化を阻害する物質が包含され、例えば、PD-1に結合するアンタゴニスト性抗体、PD-L1又はPD-L2に結合して、PD-1とPD-L1又はPD-L2との結合を妨害する抗体、及び、PD-L1又はPD-L2に基づいて設計された、PD-1を活性化せずにPD-1に結合する可溶性のポリペプチドが包含される。CTLA-4阻害剤、LAG-3阻害剤、TIM-3阻害剤、BTLA阻害剤、及びKIR阻害剤という語も同様である。
【0021】
各阻害剤の具体例を挙げると、PD-1阻害剤の具体例としては抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、及び抗PD-L2抗体を、CTLA-4阻害剤の具体例としては抗CTLA-4抗体を、LAG-3阻害剤の具体例としては抗LAG-3抗体を、TIM-3抗体の具体例としては抗TIM-3抗体及び抗GAL9抗体を、BTLA阻害剤の具体例としては抗BTLA抗体及び抗HVEM抗体を、KIR阻害剤としては抗KIR抗体を、それぞれ挙げることができる。
【0022】
免疫チェックポイント阻害剤の具体例を公知の医薬品等の例と共に例示すると、抗PD-1抗体[例えば、ニボルマブ(オプジーボ(登録商標))、Cemiplimab(REGN-2810)、ペムブロリズマブ(KEYTRUDA(登録商標)、MK-3475)、Spartalizumab(PDR-001)、Tislelizumab(BGB-A317)、AMP-514(MEDI0680)、Dostarlimab(ANB011、TSR-042)、Toripalimab(JS001)、Camrelizumab(SHR-1210)、Genolimzumab(CBT-501)、Sintilimab(IBI308)、STI-A1110、ENUM 388D4、ENUM 244C8、GLS010、MGA012、AGEN2034、CS1003、HLX10、BAT-1306、AK105、AK103、BI 754091、LZM009、CMAB819、Sym021、GB226、SSI-361、JY034、HX008、ABBV181、BCD-100、PF-06801591、CX-188およびJNJ-63723283など]、抗PD-L1抗体[例えば、アテゾリズマブ(テセントリク(登録商標)、RG7446、MPDL3280A)、アベルマブ(BAVENCIO(登録商標)、PF-06834635、MSB0010718C)、デュルバルマブ(イミフィンジ(登録商標)、MEDI4736)、BMS-936559、STI-1010、STI-1011、STI-1014、KN035、LY3300054、HLX20、SHR-1316、CS1001(WBP3155)、MSB2311、BGB-A333、KL-A167、CK-301、AK106、AK104、ZKAB001、FAZ053、CBT-502(TQB2450)、JS003およびCX-072など]、抗PD-L2抗体[例えば、rHIgM12B7]、抗CTLA-4抗体[例えば、Ipilimumab(YERVOY(登録商標))、Tremelimumab、AGEN-1884]、抗TIM-3抗体[例えば、MBG453]、抗LAG-3抗体[例えば、BMS-986016、LAG525]、抗KIR抗体[例えば、Lirilumab]、PD-L1融合タンパク質、PD-L2融合タンパク質[例えば、AMP-224]、PD-1拮抗剤[例えば、AUNP-12、BMS-M1~BMS-M10の各化合物、BMS-1、BMS-2、BMS-3、BMS-8、BMS-37、BMS-200、BMS-202、BMS-230、BMS-242、BMS-1001、BMS-1166、Incyte-1~Incyte-6の各化合物、CAMC-1~CAMC-4、RG_1およびDPPA-1など]、PD-L1/VISTA拮抗剤[例えば、CA-170など]、PD-L1/TIM3拮抗剤[例えば、CA-327など]等が挙げられる。また、上記既知の抗体の重鎖および軽鎖相補性決定領域(CDRs)または可変領域(VR)を含む抗体も免疫チェックポイント制御剤の一態様である。例えば、抗PD-1抗体の更なる一態様としては、ニボルマブの重鎖および軽鎖相補性決定領域(CDRs)または可変領域(VR)を含む抗体が挙げられる。
【0023】
本発明の方法が対象とする免疫チェックポイント阻害剤の典型例としては、上記に例示したような公知の医薬品が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、上記に定義した「免疫チェックポイント阻害剤」に該当する限り、抗がん剤として今後開発される様々な薬剤が包含される。
【0024】
本発明で使用する腫瘍組織検体及び末梢血検体は、治療効果予測の対象となる免疫チェックポイント阻害剤による治療を開始する前のがん患者から採取した検体である。当該がん患者は、免疫チェックポイント阻害剤以外のがん療法を経験していてもよく、また、本発明の方法により治療効果を予測したい免疫チェックポイント阻害剤とは別の免疫チェックポイント阻害剤の投与を受けたことがある患者であってもよい。例えば、CTLA-4阻害剤の投与を過去に経験しているがPD-1阻害剤の投与を受けたことがないがん患者に対し、PD-1阻害剤の治療効果を予測するために本発明の方法を適用することができる。がん患者は、哺乳動物であれば特に限定されないが、典型的にはヒトのがん患者である。
【0025】
腫瘍組織検体及び末梢血検体は、同一のがん患者から同時期に採取されたものを用いる。「同時期に」とは、数日以内、典型的には同日中を意味する。腫瘍組織検体としては、医療機関においてがん患者より採取された腫瘍生検検体を用いればよい。末梢血検体は、医療機関で採血したものを用いればよい。
【0026】
がんの種類は、固形がんであれば特に限定されない。下記実施例には、食道がん、結腸・直腸がん(大腸がん)、胃がんを有する患者の解析結果が記載されているが、これらの消化器がんに限定されず、食道腺がん、食道胃接合部がん、小腸がん、肝臓がん、胆道がん(例えば、胆嚢がん、胆管がん、乳頭部がん)、膵臓がん等の他の消化器がんに加え、悪性黒色腫、肺がん(例えば、小細胞肺がん、並びに肺腺がん、肺扁平上皮がん及び大細胞肺がん等の非小細胞肺がん)、舌がん、頭頸部がん、腎細胞がん(例えば、淡明細胞がん、乳頭状腎細胞がん、嫌色素性細胞がん、集合管がん)、乳がん、卵巣がん、漿液性卵巣がん、卵巣明細胞腺がん、鼻咽頭がん、子宮がん(例えば、子宮頸がん、子宮内膜がんおよび子宮体がん)、肛門がん(例えば、肛門管がん)、尿路上皮がん(例えば、膀胱がん、上部尿路がん、尿管がん、腎盂がんおよび尿道がん)、前立腺がん、卵管がん、原発性腹膜がん、胸膜中皮腫、皮膚がん(例えば、ブドウ膜悪性黒色腫およびメルケル細胞がん)、精巣がん(胚細胞腫瘍)、膣がん、外陰部がん、陰茎がん、内分泌系がん、甲状腺がん、副甲状腺がん、副腎がん、脊椎腫瘍、脳腫瘍、神経膠芽腫、神経膠肉腫、扁平上皮がん、骨・軟部肉腫(例えば、ユーイング肉腫、小児横紋筋肉腫および子宮体部平滑筋肉腫)およびカポジ肉腫)を含む種々の固形がんが本発明の対象となる。
【0027】
A. TCRレパトア情報取得工程
TCRレパトア情報取得工程では、上記の腫瘍組織検体のT細胞受容体(TCR)レパトア解析を行ない、腫瘍組織中の腫瘍浸潤T細胞のTCRレパトア(以下、「腫瘍TCRレパトア」という)の情報を取得するとともに、上記の末梢血検体のTCRレパトア解析を行ない、末梢血中のCD8陽性T細胞のTCRレパトア(以下、「末梢血CD8陽性TCRレパトア」という)の情報を取得する。
【0028】
末梢血CD8陽性TCRレパトアは、末梢血検体から市販のキット等を用いて常法によりCD8陽性T細胞を分離回収してmRNAサンプルを調製し、このmRNAサンプルを用いてTCR可変領域ライブラリーを調製してレパトア解析を行なえばよい。
【0029】
腫瘍TCRレパトアは、CD8陽性ではないT細胞(例えばCD4陽性T細胞)も含む腫瘍浸潤T細胞のTCRレパトアであってもよいし、腫瘍浸潤CD8陽性T細胞のTCRレパトアであってもよい。本発明では、これらのどちらでも腫瘍TCRレパトアとして使用できる。また、対象とする患者が複数のがん病巣(例えば、原発巣と1又は2以上の転移巣、あるいは2以上の再発巣)を有しており、複数の異なる腫瘍組織検体が同一患者から得られる場合もあるが、この場合には、複数の腫瘍組織検体の全てを解析してもよい。複数の腫瘍組織検体のそれぞれについてTCR可変領域ライブラリーを調製し、レファレンス配列と照合し、機能的なTCR配列を抽出して取得した各腫瘍組織のT細胞クローンの情報をプールしたものを、その患者の腫瘍TCRレパトアとして用いることができる。
【0030】
腫瘍TCRレパトアとして、CD8陽性ではないT細胞も含む腫瘍浸潤T細胞のTCRレパトアを利用する場合、腫瘍組織検体から細胞を分画せずに調製したmRNAサンプルを用いてTCR可変領域ライブラリーを調製し、レパトア解析を行なえばよいが、腫瘍組織検体からCD8陽性又はCD4陽性のT細胞(CD4/8 T細胞)を分離回収して調製したmRNAサンプルを用いてもよい。細胞の分離はセルソーターを用いて常法により行なうことができる。
【0031】
腫瘍TCRレパトアとして、腫瘍浸潤CD8陽性T細胞のTCRレパトアを利用する場合、セルソーターを用いた常法により腫瘍組織検体からCD8陽性T細胞を分離回収してmRNAサンプルを調製し、このCD8陽性T細胞のmRNAサンプルを用いてTCR可変領域ライブラリーを作製してレパトア解析を行なってもよいし、あるいは、WO 2019/189383に記載されたレパトア解析方法に従い、腫瘍組織検体から細胞を分画せずに調製したmRNAサンプルよりTCR可変領域ライブラリーを調製してレパトア解析を行ない、未分画腫瘍TCRレパトアの情報を得た後、末梢血CD8陽性TCRレパトアをリファレンスとして未分画腫瘍TCRレパトアのアノテーションを行ない、腫瘍浸潤CD8陽性T細胞レパトアの情報を取得してもよい。もっとも、本発明では、未分画腫瘍TCRレパトアの情報をそのまま腫瘍TCRレパトアとして利用できるので、末梢血CD8陽性TCRレパトアをリファレンスとした未分画腫瘍TCRレパトアのアノテーションは省略した方が簡便である。
【0032】
腫瘍TCRレパトア及び末梢血CD8陽性TCRレパトアの解析では、TCRの可変領域のうち、少なくともCDR3領域を含む領域の配列を解析する。可変領域は、α鎖の可変領域でもよいし、β鎖の可変領域でもよいし、両者の可変領域でもよい。すなわち、本発明においては、α鎖可変領域の少なくともCDR3領域、β鎖可変領域の少なくともCDR3領域、あるいはこれらの両者を解析すればよい。なお、本発明において、可変領域という語は、α鎖の場合はVJ領域、β鎖の場合はVDJ領域と同じ意味を有する。解析対象とする「少なくともCDR3領域を含む領域」の好ましい具体例として、α鎖のCDR3領域、V領域、及びJ領域を含む領域、並びに/又はβ鎖のCDR3領域、V領域、D領域、及びJ領域を含む領域を挙げることができる。後述するように、ポリCまたはポリGテーリングを行い、第2鎖合成用プライマーの3'末端にG又はCの相補的ホモポリマー部分を持たせ、該相補的ホモポリマー部分の上流に分子バーコードを導入した場合、次世代シーケンサーは当該ホモポリマー配列を乗り越えてシーケンスができるので、TCRレパトワのPCRやシーケンスにより生じたエラーを補正できるという利点が得られる。
【0033】
以下、TCR可変領域ライブラリーの調製からTCRレパトア情報の取得までのステップについて説明する。
【0034】
1.腫瘍TCR可変領域ライブラリーの調製
1-1.未分画腫瘍TCR可変領域ライブラリーの調製
未分画の腫瘍組織から調製したmRNAには、腫瘍細胞等のT細胞以外の細胞で発現しているmRNAも多く含まれ、TCR以外の様々なアミノ酸配列をコードするcDNAが合成されることになるが、(1)ddNTP存在下でのターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ反応によりホモポリマーテイル付加を行なうことによる、副産物の生成抑制、(2)TCR cDNA増幅ステップにおける、5'末端に特異結合分子を結合させた定常領域特異的プライマーの使用、等の工夫により、T細胞由来mRNAの含有率が低い未分画腫瘍mRNAサンプルからもTCR可変領域ライブラリーを調製することができる。以下、未分画腫瘍TCR可変領域ライブラリーの調製を、適宜
図1を参照しながら説明する。
【0035】
未分画の腫瘍組織検体からのmRNAサンプルの調製は、total RNAを抽出してからmRNAの抽出を行ってもよいし、検体からtotal RNAの抽出を経ず直接的にmRNAを抽出してもよい。mRNAを抽出する一般的な手法の一例として、オリゴdT部分を有するmRNA捕捉用核酸をビーズ等の固相支持体上に固定化したものを用いる方法が挙げられ、本発明においても固相支持体を用いた方法を好ましく用いることができる。使用する固相支持体は、ビーズでもよいし、スライドグラスやウェルプレート等のプレートでもよいが、ビーズを好ましく用いることができる。ビーズは非磁性体、磁性体のいずれでもよいが、取扱いがより容易な磁性ビーズが特に好ましい。
【0036】
mRNA捕捉用核酸は、通常、支持体側に適当なアダプター配列(第1のアダプター、
図1のAdaptor 1)を有している。mRNAを捕捉した支持体を分離回収後、支持体上にmRNAが捕捉された状態でcDNAを逆転写させる。逆転写反応後、mRNAをRNaseで分解させた後、又はmRNA分解と同時に、cDNAの3'末端へのホモポリマーテイル付加反応を行なう。
【0037】
ホモポリマーテイル付加反応では、ddNTP存在下で、ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)による反応を行なう。使用するddNTPとしては、ddATP, ddCTP, ddGTP, ddTTPのいずれも用いることが可能であるが、ホモポリマーテイルを形成する基質と塩基鎖を揃えることが望ましく、第2鎖合成反応に必要な最低ホモポリマーテイル長、第2鎖合成に用いるプライマーの3'末端相補的ホモポリマー部分の必要長を抑えられることから、ddCTP+dCTPによるポリCテイル付加、又はddGTP+dGTPによるポリGテイル付加が望ましい。
図1には、ポリCテイル付加の例を示した。TdTによるホモポリマー付加反応効率を大幅に増加させる2価カチオンとしては、コバルトまたはマンガンのいずれも用いることができる。ddNTPの添加量は、dNTP(dATP、dTTP、dCTP、又はdGTP)に対する比率でddNTP:dNTP=1:10~1:100程度であればよく、例えば1:10~1:80、1:10~1:60、1:10~1:40、1:15~1:80、1:15~1:60、又は1:15~1:40の比率で用いることができる。ddNTP添加により、確率論的にddNTPが取り込まれてホモポリマー伸長反応が停止するので、TdTによる反応時間延長の許容量が大幅に増大する。そのため、TdT反応液にRNaseHを添加し、mRNA分解反応とホモポリマーテイル付加反応を同時に行なうことも可能になる。
【0038】
次いで、3'側にホモポリマーテイルに相補的なホモポリマー部分を有し、5'側に第2のアダプター配列を有する第2鎖合成用プライマーを用いて、cDNAの相補DNA鎖を合成する(第2鎖合成)。cDNAに付加したホモポリマーテイルがポリC又はポリGである場合、第2鎖合成用プライマーにおける3'相補的ホモポリマー部分の鎖長は9塩基が好ましいが、6塩基以上のその他の長さ(例えば6~20塩基程度)でも良い。ホモポリマーテイルがポリA又はポリTの場合には、3'相補的ホモポリマー部分の鎖長は通常15~30塩基程度、例えば18~25塩基程度である。また、相補的ホモポリマー部分の3'末端には、1~2塩基程度のアンカー配列が付加されていてもよい。アンカー配列を付加することで、TdTによりcDNAに付加されたホモポリマーテイルの開始点に第2鎖合成用プライマーがアニーリングする確率を高めることができる。アンカー配列は、相補的ホモポリマー部分がポリGの場合はHまたはHN (H = A, T又はC; N = any base (A, T, C又はG))、ポリCの場合はDまたはDN(D = A, T又はG; N = any base (A, T, C又はG))、ポリAの場合はBまたはBN(B = T, G又はC; N = any base (A, T, C又はG))、ポリTの場合はVまたはVN(V = A, G又はC; N = any base (A, T, C又はG))を用いることができる。
【0039】
第2鎖合成用プライマーは、相補的ホモポリマー部分と第2のアダプター配列との間に、ランダムな塩基で構成される分子バーコードを含んでいてよい。この態様の第2鎖合成用プライマーは、5'側から[第2のアダプター]-[分子バーコード]-[相補的ホモポリマー]の順序に各部分が連結した構造を有する。分子バーコードの鎖長は特に限定されないが、典型的には12塩基~30塩基程度である。分子バーコードは、シークエンスエラーに耐性を持たせるため、ランダム塩基配列中に特定の固定配列が挿入された構成にしてもよい。分子バーコードの典型例として、3種類または4種類の混合塩基を含む、12~30塩基程度の鎖長の分子バーコードを挙げることができる。
【0040】
第2鎖合成後、高正確性酵素によるPCRにより核酸増幅反応を行ない、支持体上のcDNAからTCRのV(D)J全長(可変領域)を含む配列を増幅する(TCR cDNA増幅)。このステップでは、第2のアダプターに設定したプライマーと、TCR定常領域に設定したTCR定常領域特異的プライマーを用いてPCRを行なう。TCR cDNA増幅に先立ち、第1及び第2のアダプターに設定したプライマーセットを用いて支持体上のcDNAを網羅的に増幅(全cDNA増幅)し、全cDNA増幅産物を鋳型としてTCR cDNA増幅を行なってもよいが、ddNTPを用いたTdT反応によるホモポリマーテイル付加を行なうことで副産物の生成が抑制されるので、全cDNA増幅のステップは省略可能である。
【0041】
TCR定常領域特異的プライマーは、解析対象がβ鎖である場合にはβ定常領域に設定すればよく、解析対象がα鎖である場合にはα鎖定常領域に設定すればよい。α鎖及びβ鎖の両方を解析対象とする場合には、α鎖定常領域に設定したプライマーとβ鎖定常領域に設定したプライマーを混合し、第2のアダプター配列のプライマーとセットで用いればよい。
【0042】
TCR cDNAの増幅ステップは、nested PCRにより行なうことが好ましい。第2のアダプター配列からなるプライマーと組み合わせるプライマーは、nested PCRの1回目(
図1でいう1st PCR)と2回目(
図1でいう2nd PCR)のいずれも、定常領域内に設定した定常領域特異的プライマーを用いればよい。なお、このように、一方のプライマーが1回目と2回目で同一である場合、semi-nested PCRと呼ぶことがある。アダプターに設定したプライマーと定常領域特異的プライマーのセットを用いることで、PCRバイアスをかけることなくTCRのcDNAを増幅することができる。後のステップで配列解析対象にシークエンス用のアダプター配列を付加する便宜のため、この増幅ステップにおける最後のPCR(
図1では2nd PCR)では、定常領域特異的プライマーの5'末端にビオチン等の特異結合分子を結合させたものを用いることが好ましい。
【0043】
TCR cDNAを増幅した後、使用するシークエンサーに適した鎖長に断片化した後、シークエンシングのためのアダプター配列(第3及び第4のアダプター)を付加したDNA断片を調製する。例えば、TCR cDNA断片を適当なDNA切断酵素で250 bp程度に断片化してサイズを調整し、断片の突出末端を平滑化・修飾し、第3のアダプター(
図1のAdaptor P1)を付加する。2nd PCRにおいて、定常領域に設定したプライマーの5'末端にビオチン等の特異結合分子を結合させたものを用いた場合、定常領域配列を含む断片の定常領域側末端には特異結合分子が存在するためにAdaptor P1が付加されず、一方で、定常領域配列を含まない断片は特異結合分子が結合していないため、その両末端にAdaptor P1が付加される。
【0044】
次いで、第3のアダプターを標的とするプライマー(
図1のP1 primer)と、DNA断片上の定常領域を標的とするプライマー(
図1のA-BC-TRC primer)とを用いてPCRを行なう。この際、両末端にAdaptor P1が付加された断片は、PCRの過程でDNA分子内でself-annealingを起こすため、PCRによって増幅されず、したがって定常領域配列を含む断片のみが選択的に増幅される。後者の定常領域を標的とするプライマーは、5'末端に第4のアダプター(
図1のlonA)を有する。第4のアダプターと定常領域を標的とする配列との間に、所望の配列(例えば、ライブラリーがどの組織試料に由来するかを識別するためのバーコード等)を持たせてもよい。以上により、両末端にシークエンシングのためのアダプターが付加されたTCR可変領域ライブラリーを得ることができる。
【0045】
1-2.腫瘍浸潤CD8陽性T細胞からのTCR可変領域ライブラリーの調製
腫瘍組織検体からCD8陽性T細胞を分離回収してmRNAサンプルを調製し、TCR可変領域ライブラリーを調製する場合、mRNAサンプル中のTCR mRNA含有率が高い。そのため、(1)ddNTP存在下でのターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ反応によりホモポリマーテイル付加を行なうことによる、副産物の生成抑制、(2)TCR cDNA増幅ステップにおける、5'末端に特異結合分子を結合させた定常領域特異的プライマーの使用、等の工夫は不要であり、これらの工夫を含まない旧来の方法により腫瘍浸潤CD8陽性TCR可変領域ライブラリーを調製することができる。もっとも、腫瘍浸潤CD8陽性TCR可変領域ライブラリーを調製する場合でも、これらの工夫を採用し、1.と同様の方法でライブラリーを調製して差し支えない。
【0046】
2.末梢血CD8陽性T細胞からのTCR可変領域ライブラリーの調製
末梢血検体については、CD8陽性T細胞を分離回収してTCR可変領域ライブラリーを調製する必要があるので、上記1-2.と同様のことがいえる。(1)、(2)の工夫を含まない旧来の方法により、末梢血CD8陽性TCR可変領域ライブラリーを調製してもよいし、これらの工夫を採用し1.と同様の方法でライブラリーを調製してもよい。
【0047】
3.TCR可変領域ライブラリーの配列データの取得
TCR可変領域ライブラリーのシークエンシングは、一般に次世代シークエンサーと呼ばれるシークエンサーを用いて実施すればよい。次世代シークエンサーの具体例としては、サーモフィッシャーサイエンティフィック社のIon Protonシステム、同社のIon S5/Ion S5 XLシステム、イルミナ社のMiSeqシステム等が挙げられる。
【0048】
4.機能的TCR配列の抽出
シークエンシングにより得られた全リードより、機能的なTCR配列を有するリードを抽出する。抽出方法は特に限定されないが、例えば次のようにして抽出することができる。まず、全リードを公知のTCRデータベース(例えばIMGT library (http://www.imgt.org/)など)と照合し、配列の同一性からTCR配列を有すると考えられるリードをTCR配列検出リードとして抽出する。次いで、TCR配列検出リードを解析し、可変領域の配列(β鎖の場合はVDJ配列、α鎖の場合はVJ配列)を同定できたリードを可変領域同定リードとして抽出する。この解析は、MiXCR (https://milaboratory.com/software/mixcr/)を用いて実施できる。次いで、可変領域同定リードの中から、終止コドンを含まないリードを機能的TCR配列同定リードとして抽出する。
【0049】
5.レパトア解析によるT細胞クローンの配列情報の取得
抽出した機能的TCR配列同定リードの配列情報を用いて、レパトア構造(クローンの種類、各クローンの存在頻度)を解析し、未分画腫瘍内T細胞クローン、及び第2の検体中のCD4陽性T細胞クローン又はCD8陽性T細胞クローンの配列情報を取得する。この解析は、種々の公知の解析ソフトを用いて実施できる。
【0050】
B. 重複クローン同定工程
重複クローン同定工程では、腫瘍内T細胞クローン(未分画腫瘍内T細胞クローン、又は腫瘍浸潤CD8陽性T細胞クローン)の配列情報を、末梢血CD8陽性T細胞クローンの配列情報と照合する。末梢血CD8陽性T細胞クローンの一部は、腫瘍内T細胞クローンと同一のTCR配列を有する。この同一のTCR配列を有するクローンを、末梢血-腫瘍重複CD8陽性T細胞クローン(以下、「重複クローン」)として同定する。
【0051】
C. 重複クローン総頻度算出工程
重複クローンを同定後、末梢血CD8陽性TCRレパトア中で重複クローンが占める総頻度を算出する。総頻度は、以下の式で算出することができる。
末梢血CD8陽性T細胞のTCRレパトア中の重複クローンの総頻度(%)
=[末梢血中の重複クローンに属するCD8陽性T細胞数]/[末梢血中のCD8陽性T細胞数]×100
【0052】
算出された治療前末梢血中の重複クローン総頻度が所定のカットオフ値以上であった場合に、当該がん患者は免疫チェックポイント阻害剤に応答性である、すなわち、免疫チェックポイント阻害剤によりがん治療効果(腫瘍の縮小、生存率の向上など)が得られる、と予測することができ、所定のカットオフ値未満であった場合に、当該がん患者は免疫チェックポイント阻害剤に非応答性である、すなわち、免疫チェックポイントによるがん治療効果が得られない、と予測することができる。カットオフ値は、7%~12%の範囲内、例えば8~11.5%、又は8.5~11.5%の範囲内に設定することができる。免疫チェックポイント阻害剤によりがん治療効果が得られると予測される患者に対し、免疫チェックポイント阻害剤による治療を開始することとし、治療効果が得られると予測されなかった患者に対しては別の治療方法を選択することにより、免疫チェックポイント阻害剤の治療効果が得られずirAE、HPD等の有害作用のみ生じてしまうリスクを最大限回避することができる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0054】
<方法>
8例の進行期消化器癌患者 (食道癌4例、大腸癌3例、胃癌1例) について、抗PD-1抗体投与前後で末梢T細胞と腫瘍生検サンプルを回収し、そのTCRレパトアを解析した。末梢血T細胞については、抗PD-1抗体投与開始前に採血した後、磁気ビーズを用いてCD8陽性T細胞を精製したサンプルを使用した。腫瘍生検については、抗PD-1抗体投与開始前に回収されたものを使用した。
【0055】
TCRレパトア解析のためのライブラリー調製は、WO 2019/189383に記載の手法を一部改変する形で行った。ライブラリー調製方法の概略を
図1に示す。末梢血検体から分離精製したCD8陽性T細胞の溶解液及び未分画の腫瘍生検組織のTotal RNAからのPolyA配列を持つRNAの回収と、逆転写、および逆転写産物に対する人工的なアダプター配列(
図1のAdaptor 2)の付加は、先行研究 (Shichino S, Ueha S, Hashimoto S, Otsuji M, Abe J, Tsukui T, et al. Transcriptome network analysis identifies protective role of the LXR/SREBP-1c axis in murine pulmonary fibrosis. JCI Insight. 2019;4.) に示された手法を一部改変する形で行った。磁性ビーズ上で合成したcDNAには、CoCl
2を含む反応液中で、ddCTPをddCTP:dCTP=1:20の量で使用してターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼによる反応を行ない、cDNAの末端にポリCテイルを付加した。第2鎖合成には、3'相補的ホモポリマー部分の鎖長が9塩基であるtrP1-9Gを用いた。続いて、人工的なアダプター配列(
図1のAdaptor 2)に設定したプライマー(trP1)と、TCRの定常領域(C領域)に対する共通プライマー(1st PCRはTrac_ex及びTrbc_ex, 2nd PCRはTrac_in-Bio及びTrbc_in-Bioをそれぞれ組み合わせて、TCR C領域に対する共通プライマーとして使用)を用いたPCR反応を行うことで、TCRα鎖及びβ鎖のCDR3領域を含む可変領域を増幅した。増幅後、精製されたTCR遺伝子産物は、酵素処理によって断片化された後、シークエンス用のアダプター配列(P1 Adaptor-1 & P1 Adaptor-2,
図1のAdaptor P1)が付加された。これら遺伝子産物の断片化とアダプター配列の付加は、NEBNext FS DNA Library Prep Kit (New England Biolabs, #E7805)を用いて行った。シークエンス用アダプター配列付加後のTCR遺伝子産物に対し、再度PCR反応(プライマー; trP1 & IonA-BC-Trbc,
図1の3rd PCR)を行うことで、シークエンス時にサンプルを区別するためのバーコード配列(BC)を付加した。以上のような手順によって作成されたTCRライブラリは、Ion Genestudio S5 Sequencer (Thermo Fisher Scientific, # A27759, #A27766, # A38194) を用いてシークエンスされた。使用したプライマー、アダプター等の配列を下記表1に示す。
【0056】
【0057】
シークエンスによって得られたTCR配列情報は、MiXCR (Bolotin DA, Poslavsky S, Mitrophanov I, Shugay M, Mamedov IZ, Putintseva E V., et al. MiXCR: Software for comprehensive adaptive immunity profiling. Nat Methods. 2015;12:380-1.) というアルゴリズムを用いてV, D, J領域の標準配列(レファレンス配列)と照合(アライメント)された後、共通のV領域、J領域、CDR3ヌクレオチド配列で定義されるT細胞クローンへと統合(アセンブリ)された。
【0058】
このようにして得られたTCRレパトアの解析にはVDJtools-1.2.1 (Shugay M, Bagaev D V., Turchaninova MA, Bolotin DA, Britanova O V., Putintseva E V., et al. VDJtools: Unifying Post-analysis of T Cell Receptor Repertoires. PLoS Comput Biol. 2015;11:1-16.)というプログラムを用いた。同一患者において複数の生検組織が得られた場合、各生検組織中で検出されたT細胞クローンをプールすることによって得られたTCRレパトアを、その患者の「腫瘍TCRレパトア」と定義した。この操作には、上記VDJtoolsの“PoolSamples”という機能を用いた。
【0059】
同一患者の末梢血CD8陽性T細胞のTCRレパトアと腫瘍TCRレパトアとの間で共通して検出されたT細胞クローンを「末梢血-腫瘍重複クローン(以下、重複クローン)」として同定した。末梢血中に存在する重複クローンの総量が、抗PD-1抗体投与による治療効果を反映すると仮定し、末梢血CD8陽性T細胞レパトア中で、重複クローンが占める総頻度を下記の式により計算した。
末梢血CD8陽性T細胞のTCRレパトア中の重複クローンの総頻度(%)
=[末梢血中の重複クローンに属するCD8陽性T細胞数]/[末梢血中のCD8陽性T細胞数]×100
【0060】
<結果>
抗PD-1抗体投与後、8例中2例でPR(partial response、部分奏効)、3例でSD(stable disease、安定)、3例でPD(progress disease、進行)を認めた。また、各症例における、治療開始前後の腫瘍径変化率は下記表2のようになった。治療開始後の腫瘍径変化率を横軸、治療開始前の末梢血CD8陽性T細胞レパトア中の重複クローンの総頻度を縦軸にとり、各患者をプロットすると
図2のようになり、両者の間に相関関係が認められた。治療開始前の末梢血CD8陽性T細胞レパトア中の重複クローンの総頻度10%付近にカットオフ値を設定すると、カットオフ値以上であった4症例中3例では治療開始後に腫瘍径の縮小が認められていた一方、カットオフ値未満であった4症例はいずれも腫瘍径が増大ないしは腫瘍径の縮小が10%未満であった。この結果は、PD-1阻害療法による治療を開始する前のがん患者の末梢血の重複クローン総頻度に基づいて、PD-1阻害療法によりがん治療効果が得られるかどうかを予測できることを示している。具体的には、重複クローンの総頻度のカットオフ値を概ね7~12%程度の範囲内、例えば8~11.5%、又は8.5~11.5%の範囲内に設定することで、重複クローン総頻度がカットオフ値以上の患者をPD-1阻害療法による治療効果が得られる可能性が高い患者として同定できる。
【0061】
【配列表】