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特許7640987金属有機構造体に包接される化学種の放出方法ならびに高分子ゲルおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-26
(45)【発行日】2025-03-06
(54)【発明の名称】金属有機構造体に包接される化学種の放出方法ならびに高分子ゲルおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/22 20060101AFI20250227BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20250227BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20250227BHJP
   C08F 8/30 20060101ALI20250227BHJP
   C08F 20/06 20060101ALI20250227BHJP
   C08J 3/075 20060101ALI20250227BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20250227BHJP
【FI】
B01J20/22 Z
B01J20/34 Z
B01J20/30
C08F8/30
C08F20/06
C08J3/075 CEY
C08J7/00 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020200945
(22)【出願日】2020-12-03
(65)【公開番号】P2022088853
(43)【公開日】2022-06-15
【審査請求日】2023-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】100136319
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 宏修
(74)【代理人】
【識別番号】100148275
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142745
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 世子
(74)【代理人】
【識別番号】100143498
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 健
(72)【発明者】
【氏名】宮田 隆志
(72)【発明者】
【氏名】河村 暁文
(72)【発明者】
【氏名】椿本 恵大
【審査官】瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/012373(WO,A1)
【文献】特開昭55-027028(JP,A)
【文献】特表2015-529550(JP,A)
【文献】特開2012-246438(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/22
B01J 20/34
B01J 20/30
C08F 8/30
C08F 20/06
C08J 3/075
C08J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学種を包接する金属有機構造体を架橋点とする高分子ゲルに対して機械的外力(ただし、減圧による外力負荷は除く。)を加えることによって前記金属有機構造体の外部に前記化学種を放出させる方法。
【請求項2】
金属有機構造体を架橋点として共有結合しており、
前記金属有機構造体は、化学種を包接しており、
機械的外力(ただし、減圧による外力負荷は除く。)を加えることにより、前記金属有機構造体の外部に前記化学種を放出させる高分子ゲル。
【請求項3】
金属有機構造体に複数の第1官能基を導入して第1官能基含有金属有機構造体を調製する官能基導入工程と、
前記第1官能基含有金属有機構造体へ化学種を包摂させて化学種包摂第1官能基含有金属有機構造体を調製する化学種包摂工程と、
前記化学種包摂第1官能基含有金属有機構造体の前記第1官能基と反応可能な複数の第2官能基を有する高分子の前記第2官能基と、前記第1官能基とを反応させて共有結合させることにより高分子ゲルを得るゲル化工程と
を備える、高分子ゲルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属有機構造体に包接される化学種の放出方法に関する。また、本発明は、金属有機構造体を架橋点として共有結合する高分子ゲル、特に、化学種を包接する金属有機構造体を架橋点として共有結合する高分子ゲルに関する。さらに、本発明は、そのような高分子ゲルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガスやイオン等の吸脱着剤として金属有機構造体(多孔性配位高分子とも称されている。)が注目されている。そして、このような金属有機構造体の性能を維持しつつ成形することができる複合体が過去に提案されている(例えば、以下に示す特許文献1等参照)。
【0003】
ところで、ガスを吸着する金属有機構造体からガスを脱着させる方法として、通常、金属有機構造体の雰囲気圧力を吸着時の圧力よりも低下させる方法(以下「減圧脱着法」と称する場合がある。)がある。しかし、このような減圧脱着法を適用することができる金属有機構造体の応用分野は極めて少ない。
【0004】
このような状況に鑑みて、金属有機構造体に光を照射したり熱を加えたりすることによって金属有機構造体からガスやイオン等が放出されるように金属有機構造体を設計して、その応用分野を広げる試みがなされている(例えば、以下に示す非特許文献1および非特許文献2等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2015/012373号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Matthew.R.H. et al., ”Dynamic photo-switching in metal-organic frameworks as a route to low-energy carbon dioxide capture and release”, Angew. Chem. Int. Ed., 2013 Mar. 25, 52(13), 3695-3698
【文献】Sada, K. et al., ”Metal-organic framework tethering PNIPAM for ON-OFF controlled release in solution”,Chem. Commun., 2015, 51, 8614-8617
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、金属有機構造体によるガス等の吸脱着技術の応用分野をさらに広げることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1局面に係る方法では、化学種を包接する金属有機構造体を架橋点とする高分子ゲルに対して機械的外力を加えることによって金属有機構造体の外部に化学種を放出させる。なお、金属有機構造体は、多孔性配位高分子とも称される。また、ここにいう包接との用語は、含有や、吸着、貯蔵等の用語と同義であることに留意されたい。また、ここにいう機械的外力は、圧縮力、引張力、せん断力等、金属構造体に歪みを与え得る力であればいずれの力であってもよい。また、ここにいう化学種は、例えば、イオン、原子、原子団、分子、化合物である。なお、イオンには、原子イオンのみならず分子イオンも含まれ得る。
【0009】
上述のように高分子ゲルに機械的外力を加えることによって高分子ゲルの架橋点に位置する金属有機構造体の外部に化学種を放出させる方法は、本願発明者が知る限り、今まで提案されたことはない。このため、この方法は、金属有機構造体による化学種の吸脱着技術の応用分野をさらに広げることができる。
【0010】
本発明の第2局面に係る高分子ゲルは、架橋点として金属有機構造体を共有結合している。
【0011】
本願発明者らは、このような高分子ゲルに対して機械的外力を加えることによって金属有機構造体の外部に化学種を放出させることができるとの知見を得た。本願発明者が知る限り、このような知見は示されたことがない。このため、このような高分子ゲルは、金属有機構造体による化学種の吸脱着技術の応用分野をさらに広げることができる。
【0012】
本発明の第3局面に係る高分子ゲルは第2局面に係る高分子ゲルであって、金属有機構造体は化学種を包接する。
【0013】
このため、高分子ゲルに対して機械的外力を加えることによって化学種を放出することができる。
【0014】
本発明の第4局面に係る高分子ゲルの製造方法は、官能基導入工程およびゲル化工程を備える。官能基導入工程では、金属有機構造体に複数の第1官能基を導入されて第1官能基含有金属有機構造体が調製される。なお、第1官能基の導入は、金属有機構造体中の有機配位子に共有結合可能な官能基を有する第1官能基含有化合物を用いて行われるのが望ましい。ゲル化工程では、第1官能基と反応可能な複数の第2官能基を有する高分子の第2官能基と、第1官能基とが反応させられて共有結合させられることにより高分子ゲルが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】Zn(AzDC)(BPE)0.5の二酸化炭素吸脱着の圧力依存性を示すグラフである。
図2】実施例1に係る高分子ゲルの粘弾性挙動を示すグラフである。
図3】実施例1で行われた高分子ゲルの二酸化炭素放出実験の内容を示す模式図である。
図4】実施例1に係る高分子ゲルに重りを載置させた際にZn(AzDC)(BPE)0.5由来単位から放出される二酸化炭素量を示すグラフである。
図5】実施例1で行われた高分子ゲルの別の二酸化炭素放出実験の内容を示す模式図である。
図6】実施例1に係る高分子ゲル、および、比較例1に係る高分子ゲルそれぞれを圧縮した際の圧縮回数に対するベーシックレッド水溶液の吸光度変化量を示すグラフである。
図7】実施例1に係る高分子ゲル、および、比較例1に係る高分子ゲルそれぞれをベーシックレッド5水溶液中で圧縮した際の圧縮応力に対するベーシックレッド5水溶液のpH変化量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<金属有機構造体に包接される化学種の放出方法>
本発明の実施の形態に係る方法は、化学種を包接する金属有機構造体を架橋点とする高分子ゲルに対して機械的外力を加えることによって金属有機構造体の外部に化学種を放出させる方法である。
【0017】
なお、ここにいう「包接」との用語は、含有や、吸着、貯蔵等の用語と同義であることに留意されたい。
【0018】
また、ここにいう「機械的外力」は、圧縮力、引張力、せん断力等、高分子鎖を介して金属構造体に歪みを与え得る力であればいずれの力であってもよい。
【0019】
また、ここにいう「化学種」とは、例えば、イオン、原子、原子団、分子、化合物である。なお、イオンには、原子イオンのみならず分子イオンも含まれ得る。また、ここにいう「化学種」は、常圧において気体状態をとるものであってもよいし、液体状態をとるものであってもよいし、固体状態をとるものであってもよい。ただし、化学種が液体状態や固体状態をとるものである場合、その化学種は、高分子ゲルを構成する液体に溶解することが好ましい。化学種が気体である場合、その化学種としては、特に限定されないが、例えば、一酸化炭素、二酸化炭素、酸素、窒素、亜酸化窒素、アンモニア、水素、アルシン、一酸化窒素、塩化水素、塩素、ゲルマン、五フッ化リン、三塩化ホウ素、三フッ化窒素、三フッ化ホウ素、三フッ化リン、ジクロロシラン、ジボラン、シラン、スチビン、セレン化水素、テルル化水素、二酸化窒素、ホスフィン、四フッ化ケイ素、硫化水素、六フッ化硫黄などの無機気体、フルオロカーボン類、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなどの希ガス、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどのアルカン、エチレン、プロピレン、ブテン類、ペンテン類、ヘキセン類などのアルケン、アセチレンなどのアルキン、ベンゼン、トルエン、キシレン類などの芳香族化合物、シクロアルカン、ハロゲン化アルキル、エーテル、アルコール、アミン、エポキシ化合物、カルボニル化合物等が挙げられる。
【0020】
<高分子ゲルの構造>
なお、金属有機構造体は、多孔性配位高分子とも称される。本発明の実施の形態において利用可能な金属有機構造体は、化学種を包接する機能、および、(高分子ゲル中の高分子鎖を介する)変形によって化学種を放出する機能を有するものであれば特に限定されない。ところで、金属有機構造体は、金属イオンおよび有機配位子から形成される。なお、本発明の実施の形態において、有機配位子には、金属有機構造体へ官能基を導入するための官能基が存在する。
【0021】
ここで、金属イオンとしては、例えば、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Sc3+、Y3+、Ti4+、Zr4+、Hf4+、V4+、V3+、V2+、Nb3+、Ta3+、Cr3+、Mo3+、W3+、Mn3+、Mn2+、Re3+、Re2+、Fe3+、Fe2+、Ru3+、Ru2+、Os3+、Os2+、Co3+、Co2+、Rh2+、Rh、Ir2+、Ir、Ni2+、Ni、Pd2+、Pd、Pt2+、Pt、Cu2+、Cu、Ag、Au、Zn2+、Cd2+、Hg2+、Al3+、Ga3+、In3+、Tl3+、Si4+、Si2+、Ge4+、Ge2+、Sn4+、Sn2+、Pb4+、Pb2+、As5+、As3+、As、Sb5+、Sb3+、Sb、Bi5+、Bi3+、Bi等が挙げられる。
【0022】
また、有機配位子としては、例えば、金属イオンと配位可能な複数の官能基を有する芳香族化合物、脂肪族化合物、脂環式化合物、ヘテロ芳香族化合物、ヘテロ環式化合物等が挙げられる。なお、有機配位子として、金属イオンと配位可能な1つの官能基を有する芳香族化合物、脂肪族化合物、脂環式化合物、ヘテロ芳香族化合物、ヘテロ環式化合物を、上述の金属イオンと配位可能な複数の官能基を有する芳香族化合物、脂肪族化合物、脂環式化合物、ヘテロ芳香族化合物、ヘテロ環式化合物等と併用してもよい。また、有機配位子において、金属イオンに配位可能な官能基は、1つの芳香族化合物、脂肪族化合物、脂環式化合物、ヘテロ芳香族化合物、ヘテロ環式化合物に対して1~5個存在するのが好ましく、好ましくは2~4個存在するのがより好ましく、2~3個存在するのがさらに好ましい。このような官能基としては、グリシジル基、カルボキシル基、無水カルボン酸基、水酸基、チオール基、ジチオカルボキシル基、スルフィニル基、スルホニル基、スルホ基、ニトロ基、スルフィド基、ジスルフィド基、アミノ基、一級アミノ基、二級アミノ基、Si(OH)、Ge(OH)、Sn(OH)、Si(SH)、Ge(SH)、Sn(SH)、リン酸基、AsOH、AsOH、P(SH)、As(SH)、CH(SH)、C(SH)、CH(NH、C(NH、CH(OH)、C(OH)、CH(CN)、C(CN)、CH(RSH)、C(RSH)、CH(RNH、C(RNH、CH(ROH)、C(ROH)、CH(RCN)、C(RCN)、芳香環を構成する窒素原子等が挙げられる。なお、上記化学式中、RはC~Cのアルキル基又はアリール基を示す。また、芳香環を構成する窒素原子とは、ピリジン、ピリミジン、ピリダジン、ピラジン、トリアジン、イミダゾール、チアゾール、オキサゾール、フェナントロリン、キノリン、イソキノリン、ナフチリジン、プリン、ビピリジン、テルピリジンなどの環内窒素原子を意味する。また、有機配位子に含まれる官能基としては、特に限定されないが、例えば、アルケニル基や、アルキニル基、アミノ基、カルボキシル基、グリシジル基、イソシアネート基、水酸基、チオール基等が挙げられる。
【0023】
高分子ゲル中の高分子鎖を構成する単量体(モノマー)は、ハイドロゲル等のゲル体を合成し得ると共に、金属有機構造体に導入される官能基と反応し得る単量体であれば特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウム、(メタ)アクリル酸リチウム、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸ナトリウム、ビニル安息香酸カリウム、ビニル安息香酸リチウム、ビニル酢酸、ビニル酢酸ナトリウム、ビニル酢酸カリウム、ビニル酢酸リチウム、ビニルスルホン酸、ビニルスルホン酸ナトリウム、ビニルスルホン酸カリウム、ビニルスルホン酸リチウム、p-スチレンスルホン酸、p-スチレンスルホン酸ナトリウム、p-スチレンスルホン酸カリウム、p-スチレンスルホン酸リチウム、アリルスルホン酸、アリルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸カリウム、アリルスルホン酸リチウム、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸ナトリウム、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸カリウム、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸リチウム、(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。なお、ビニル酢酸系の単量体が用いられる場合、その重合反応後に鹸化が行われてもよい。また、上述の単量体は、単独で用いられてもよいし、組み合わせて用いられてもよい。また、本発明の主旨を損なうことがない範囲で他の単量体を共重合させてもかまわない。
【0024】
また、高分子ゲルを構成する液体としては、特に限定されないが、水や有機溶媒等が挙げられる。また、同液体には、本発明の主旨を損なわない範囲で塩等の溶質が溶解していてもかまわない。
【0025】
また、高分子ゲル中の高分子に対する金属有機構造体の量は、高分子がゲル化すると共に目的量の化学種を放出するのに必要な量であればよいが、5重量%以上であることが好ましく、10重量%以上であることがより好ましく、20重量%以上であることがさらに好ましく、30重量%以上であることが特に好ましい。
【0026】
<高分子ゲルの製造方法>
本発明の実施の形態に係る高分子ゲルは、例えば、官能基導入工程およびゲル化工程を経て製造され得る。官能基導入工程では、金属有機構造体に複数の第1官能基を導入して第1官能基含有金属有機構造体が調製される。ゲル化工程では、第1官能基と反応可能な複数の第2官能基を有する高分子の第2官能基と、第1官能基とが反応させられて共有結合させられることによって高分子ゲルが得られる。なお、複数の第2官能基を有する高分子は、ホモポリマーであってもよいし、コポリマーであってもかまわない。
【0027】
なお、第1官能基がアミノ基や水酸基である場合、第2官能基は例えばカルボキシル基等であり、第1官能基がカルボキシル基である場合、第2官能基は例えばアミノ基や水酸基である。
【0028】
また、高分子ゲルの他の製造方法では、ゲル化工程において、第1官能基と重合反応可能な第2官能基を有する単量体と、第1官能基を有する金属有機構造体とを重合させることによって高分子ゲルが得られてもかまわない。
【0029】
以下、実施例および比較例を示して本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されることはない。
【実施例1】
【0030】
1.MOF架橋高分子ゲルの合成
(1)金属有機構造体の合成
0.279g(0.936mmol)の硝酸亜鉛六水和物(Zn(NO)・6HO)、0.253g(0.936mmol)のアゾベンゼン-4,4’-ジカルボン酸(以下「AzDC」と表記する場合がある。)、および、0.085g(0.466mmol)の1,2-ビス(4-ピリジル)エチレン(以下「BPE」と表記する場合がある。)を100mLのジメチルホルムアミド(以下「DMF」と表記する場合がある。)に溶解させた後に、その溶液を100℃に加熱しながら11時間撹拌することによってブロック状の赤色の結晶を得た。得られた赤色の結晶を100mLのDMFおよび100mLのヘキサンで洗浄した後にその洗浄後の赤色の結晶を減圧留去することにより目的の金属有機構造体であるZn(AzDC)(BPE)0.5を得た。なお、この合成スキームは以下の化学反応式(A)に示される通りである。
【0031】
【化1】
【0032】
(2)金属有機構造体へのアミノ基の導入
20mLの超純水に5.8mg(0.075mmol)のアミノエタンチオールを溶解させた。そして、そのアミノエタンチオール水溶液に100mgのZn(AzDC)(BPE)0.5を加えた後に、その液を1時間撹拌した。その後、セルロース透析膜(分画分子量1000)を用いてその液を超純水で3日間透析した。なお、この際、透析外部溶液を9回交換した。透析終了後、その液から溶媒を減圧留去し、凍結乾燥して目的のZn(AzDC)(BPE)0.5-NHを合成した。なお、この合成スキームは以下の化学反応式(B)に示される通りである。
【0033】
【化2】
【0034】
(3)ポリメタクリル酸の合成
アルミナカラムで重合禁止剤を取り除いたメタクリル酸5g(58.1mmol)と、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン)二塩酸塩(富士フィルム和光純薬株式会社製の水溶性アゾ重合開始剤VA-044)94mg(0.29mmol)を、脱気した超純水5mLに溶解させた。そして、窒素雰囲気下、その水溶液を60℃で1時間振とうさせることによって白色の固体を得た。得られた白色の固体を40mLの超純水に溶解させた。その後、セルロース透析膜(分画分子量3500Da)を用いてその水溶液を超純水で1日間透析した。なお、この際、透析外部溶液を3回交換した。透析終了後、その水溶液を凍結乾燥して目的のポリメタクリル酸を得た。なお、この合成スキームは以下の化学反応式(C)に示される通りである。
【0035】
【化3】
【0036】
(4)金属有機構造体への二酸化炭素の包接
Zn(AzDC)(BPE)0.5-NHを真空乾燥してZn(AzDC)(BPE)0.5内部の気体および溶液を取り除いた後、Zn(AzDC)(BPE)0.5-NHに二酸化炭素を供給してZn(AzDC)(BPE)0.5に二酸化炭素を包接させた。
【0037】
(5)MOF架橋高分子ゲルの合成
50mg(0.581mmol)のポリメタクリル酸(以下「PMAc」と表記する場合がある。)を400μLの超純水に溶解させた後、そのPMAc水溶液のpHを固形の水酸化ナトリウムでpH7~8に調整した。次に、そのpH調整済みのPMAc水溶液に対して、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(以下「EDC」と表記する場合がある。)22.27mg(0.1162mmol)を50μLの超純水に溶解させたEDC水溶液、および、N-ヒドロキシコハク酸イミド(以下「NHS」と表記する場合がある。)13.37mg(0.1162mmol)を50μLの超純水に溶解させたNHS水溶液を加えた。次いで、EDC水溶液およびNHS水溶液を加えたPMAc水溶液に対して、20mgのZn(AzDC)(BPE)0.5-NH(二酸化炭素包接済みのもの)を加え、それがその水溶液中に十分に分散するまで撹拌した後、その分散液を静置して目的のMOF架橋高分子ゲルを得た。なお、この合成スキームは以下の化学反応式(D)に示される通りである。
【0038】
【化4】
【0039】
2.Zn(AzDC)(BPE)0.5およびMOF架橋高分子ゲルの物性評価
(1)Zn(AzDC)(BPE)0.5の二酸化炭素吸脱着挙動の確認
高圧ガス吸着量測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製のBELSORP HP)を用いてZn(AzDC)(BPE)0.5の二酸化炭素吸脱着挙動を確認した。具体的には、250mgのZn(AzDC)(BPE)0.5を真空乾燥した後、吸着温度を298Kとすると共に飽和蒸気圧量を6444.8kPaとし,二酸化炭素で0kPaから220kPaまで圧力を変化させながらZn(AzDC)(BPE)0.5の二酸化炭素吸着量(mg/g)を測定した。
【0040】
図1に示されるように、Zn(AzDC)(BPE)0.5は、圧力が上昇するほど二酸化炭素(CO)の吸着量が増加し、圧力が低下するほど二酸化炭素の吸着量が低下することが明らかとなった。すなわち、Zn(AzDC)(BPE)0.5は、圧力が上昇するほど二酸化炭素(CO)を吸着し、圧力が低下するほど二酸化炭素を放出する。なお、図1から明らかなように、圧力低下時の二酸化炭素吸着量が圧力上昇時の二酸化炭素吸着量を僅かに上回っているが、二酸化炭素の吸脱着はほぼ可逆的と言える。
【0041】
(2)高分子ゲルの粘弾性評価
アントンパール社製のModular Compact Rheometerを用いてMOF架橋高分子ゲルの粘弾性特性を測定した。具体的には、上述のMOF架橋高分子ゲルの合成方法を用いてサンプル管の底側にMOF架橋高分子ゲルを合成した後に、そのMOF架橋高分子ゲルをサンプル管から取り出し、そのMOF架橋高分子ゲルを8mmのパラレルプレートの大きさに合わせて切り抜いて試料片を作製した。そして、パラレルプレートと共に試料片をModular Compact Rheometerにセットして、測定温度25℃の条件でその粘弾性特性測定した。
【0042】
図2に示されるように、本実施に係るMOF架橋高分子ゲルの粘弾性特性を測定したところ損失弾性率より貯蔵弾性率が上回った。したがって、このMOF架橋高分子ゲルは十分にゲル化していることが判明した。
【0043】
(3)Zn(AzDC)(BPE)0.5の二酸化炭素放出量に及ぼすMOF架橋高分子ゲルへの圧縮負荷の影響
上述のMOF架橋高分子ゲルの合成方法を用いて3つのサンプル管それぞれの底側にMOF架橋高分子ゲルを合成した後に、それらのサンプル管それぞれに同濃度の水酸化バリウム水溶液を加えた。次に、一つのサンプル管に100gの重りを入れ、もう一つのサンプル管に200gの重りを入れ(図3参照)、残りのサンプル管には重りを入れなかった。重りの投入から30秒後に3本全てのサンプル管で水酸化バリウム水溶液に対して塩酸でpH滴定を行って二酸化炭素放出量を求めた(水酸化バリウム水溶液に二酸化炭素が溶け込んだ場合、Ba(OH)+CO→BaCO↓+HOで示される中和反応が起きて、同水溶液中のヒドロキシイオン(OH)が2つ消費される。ここでは、このヒドロキシイオンの消費量を求めることによって二酸化炭素放出量を求めている。)。その結果をグラフ化したところ図4に示されるグラフが得られた。図4のグラフから明らかな通り、本実施例に係るMOF架橋高分子ゲルに対して圧縮荷重が負荷される程、MOF架橋高分子ゲル中のZn(AzDC)(BPE)0.5由来単位から放出される二酸化炭素量が多くなることが判明した。なお、重りを入れなかった系でも二酸化炭素の存在が認められているが、これは空気中の二酸化炭素が水酸化バリウム水溶液に溶け込んだためと思われる。
【0044】
(比較例1)
1.高分子ゲルの合成
(1)ポリメタクリル酸の合成
実施例1の「1.高分子ゲルの合成」の「(3)ポリメタクリル酸の合成」の欄に記載した方法と同一の方法でポリメタクリル酸を得た。
【0045】
(2)高分子ゲルの合成
75mg(0.872mmol)のPMAcを400μLの超純水に溶解させた後、そのPMAc水溶液に対して16μL(0.261mmol)のエチレンジアミン、および、50.15mg(0.2615mmol)のEDCを50μLの超純水に溶解させたEDC水溶液を加え、そのPMAc水溶液を撹拌した後、そのPMAc水溶液を静置して目的の高分子ゲルを得た。
【0046】
(実施例1に係るMOF架橋高分子ゲルと比較例1に係る高分子ゲルの物性比較)
1.圧縮荷重負荷時の二酸化炭素放出挙動
測定用の角柱型セルにベーシックレッド5[吸光度:0.500以上(10mg/L,pH6.4,523.0-527.0nm)(乾燥物換算)]の水溶液(45.4μM,3mL)を注ぎ入れ、その角柱型セルを分光高度計(島津製作所製のUV-1800)にセットしてベーシックレッド5水溶液の527nmにおける吸光度を計測した。次に、実施例1および比較例1それぞれで示した高分子ゲルの合成方法を用いて、圧縮変形試験用の2つの角柱型セルそれぞれの底側に高分子ゲルを形成した後、各角柱型セルの上から先ほど吸光度を計測したベーシックレッド5水溶液を注ぎ入れた。そして、図5に示されるように、その角柱型セルの上からガラス棒を挿入してそのガラス棒で高分子ゲルを圧縮変形させた(1回目の圧縮変形)。その後、角柱型セルからガラス棒を引き抜き、ベーシックレッド5水溶液を測定用の角柱型セルに注ぎ入れ,上述の分光高度計にセットしてベーシックレッド5水溶液の527nmにおける吸光度を計測し、最初に計測した吸光度との差分を求めて吸光度変化量とした。
【0047】
次に、各高分子ゲルに対して上記と同じ操作を行った後(2回目の圧縮変形)、上記と同様に角柱型セルを分光高度計にセットしてベーシックレッド5水溶液の527nmにおける吸光度を計測し、1回目の圧縮変形時に計測した吸光度との差分を求めて吸光度変化量とした。
【0048】
次いで、各高分子ゲルに対して上記と同じ操作を行った後(3回目の圧縮変形)、上記と同様に角柱型セルを分光高度計にセットしてベーシックレッド5水溶液の527nmにおける吸光度を計測し、2回目の圧縮変形時に計測した吸光度との差分を求めて吸光度変化量とした。
【0049】
実施例1に係るMOF架橋高分子ゲルおよび比較例1に係る高分子ゲルにつき圧縮回数に対するベーシックレッド5水溶液の吸光度変化量をヒストグラム化したものを図6に示した。図6から明らかな通り、比較例1に係る高分子ゲルについては圧縮回数に関わらずベーシックレッド5水溶液の吸光度変化量はほぼ一定であったが、実施例1に係るMOF架橋高分子ゲルについては圧縮回数が増えるほどベーシックレッド5水溶液の吸光度変化量が増加した。これは、比較例1に係る高分子ゲルを圧縮してもその内部から何も放出されないが、実施例1に係るMOF架橋高分子ゲルを圧縮するとその内部から二酸化炭素が放出されることを示している(二酸化炭素がベーシックレッド5水溶液に溶解することによってpHが低下し、ベーシックレッド5水溶液の赤みが増してベーシックレッド5水溶液の吸光度が上昇したものと推察される。)。
【0050】
2.二酸化炭素放出量に及ぼす圧縮応力の影響
ロードセル付きの圧縮試験機にシャーレをセットし、その上に実施例1で作成したMOF架橋高分子ゲルを置いた。その後、MOF架橋高分子ゲルが浸るようにシャーレにベーシックレッド5水溶液(45.4μM,500μL)を加え、そのベーシックレッド5水溶液にpHメーターの電極を接触させた。pHメーターに示されるpH値がある程度安定した後、MOF架橋高分子ゲルに圧縮応力を徐々に加えながらそのpH値を測定した。また、比較例1で作成した高分子ゲルに対しても同様の測定を行った。その結果を図7に示す。図7から明らかな通り、比較例1に係る高分子ゲルについては圧縮応力が10Paに至るまではpH変化量が急増するが10Paを超えたところからpHの変化量が急減して微増する状態となり、圧縮応力が50Paを超えるとpH変化量は極僅かに増えるかほぼ一定となった。その一方、実施例1に係るMOF架橋高分子ゲルについては圧縮応力が10Paに至るまではpH変化量が急増し、その後も圧縮応力が高くなればなるほど増加幅は小さくなっていくが堅調に増加し続けた。また、図7から明らかな通り、圧縮応力が10Paに至るまでは、いずれの高分子ゲルについてもそのpH変化量は変わらないが、圧縮応力が10Paを超えると、圧縮応力が高くなればなる程、両者のpH変化量の差が開いていく。なお、これは、比較例1に係る高分子ゲルを圧縮してもその内部から何も放出されないが、実施例1に係るMOF架橋高分子ゲルを圧縮するとその内部から二酸化炭素が放出されることを示している(比較例1に係る高分子ゲルにおいて圧縮応力が10Paを超えるまでpHの変化がみられるが、これは高分子ゲル中のカルボン酸のプロトン放出によるものと推察される。)
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明に係る金属有機構造体に包接される化学種の放出方法は、今まで提案されたことがない新規な方法であって、例えば、関節部位等の可動部位を治療するための薬剤の放出や、化学種放出に起因して動作する分子アクチュエータ、二種以上の化学種の分離材料、細胞挙動の制御等に応用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7