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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-26
(45)【発行日】2025-03-06
(54)【発明の名称】線引き具
(51)【国際特許分類】
   B25H 7/04 20060101AFI20250227BHJP
【FI】
B25H7/04 L
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021049831
(22)【出願日】2021-03-24
(65)【公開番号】P2022148231
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2024-03-21
(73)【特許権者】
【識別番号】500026485
【氏名又は名称】株式会社ミロク
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(72)【発明者】
【氏名】付 強
(72)【発明者】
【氏名】臼井 博之
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第208409845(CN,U)
【文献】特開2008-036790(JP,A)
【文献】特開2006-123104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25H 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸繰出口と糸巻収納部とインク室とを有するケースと、
前記糸巻収納部に収められた糸巻と、
前記糸巻に巻きつけられ、前記インク室と前記糸繰出口とを通って前記ケースの外に引き出され、先端に止着具が取り付けられる糸と、
前記インク室に収められ前記糸にインクを付着させるインク付着用浸透材と、
前記糸の引き出しまたは巻取りのときに前記インク付着用浸透材の後に前記糸と接することで前記糸に付着したインクのインク量を減らすインク低減浸透材と、
を備え
前記インク付着用浸透材と前記インク低減浸透材とが備える浸透材の性質は、親水性と水分保持性と保水性能と吸水性と毛細管現象の強さとのうち一つの性質を含み、
二種類の前記浸透材のうち、前記一つの性質が相対的に低いものを前記インク付着用浸透材とし、前記一つの性質が相対的に高いものを前記インク低減浸透材として互いに異なる性質を持たせ、前記二種類の浸透材の性質の差異によって、前記インク付着用浸透材で前記糸に付着させたインクの一部を前記インク低減浸透材が取り去るようにした、
線引き具。
【請求項2】
糸繰出口と糸巻収納部とインク室とを有するケースと、
前記糸巻収納部に収められた糸巻と、
前記糸巻に巻きつけられ、前記インク室と前記糸繰出口とを通って前記ケースの外に引き出され、先端に止着具が取り付けられる糸と、
前記インク室に収められ、前記糸にインクを付着させるインク付着用浸透材と、
前記糸の引き出しまたは巻取りのときに前記インク付着用浸透材の後に前記糸と接することで、前記糸に付着したインクのインク量を減らすインク低減浸透材と、
を備え、
前記インク付着用浸透材と前記インク低減浸透材との組み合わせは、
互いに材料の異なる複数のスポンジのうち、相対的に低水分保持力のスポンジを前記インク付着用浸透材とし、且つ相対的に高水分保持高吸水力のスポンジを前記インク低減浸透材とする第一の組み合わせと、
互いに気孔構造が異なり且つ同じ材料の複数のスポンジのうち、相対的に低水分保持力のスポンジを前記インク付着用浸透材とし、且つ相対的に高水分保持高吸水力のスポンジを前記インク低減浸透材とする第二の組み合わせと、
互いに材料の異なる複数の繊維材のうち、相対的に低水分保持力の繊維材を前記インク付着用浸透材とし、且つ相対的に高水分保持高吸水力の繊維材を前記インク低減浸透材とする第三の組み合わせと、
スポンジと繊維材とのうち、相対的に低水分保持力のスポンジを前記インク付着用浸透材とし、且つ相対的に高水分保持高吸水力の繊維材を前記インク低減浸透材とする第四の組み合わせと、
スポンジと繊維材とのうち、相対的に低水分保持力の繊維材を前記インク付着用浸透材とし、且つ相対的に高水分保持高吸水力のスポンジを前記インク低減浸透材とする第五の組み合わせと、
のうちいずれか一つの組み合わせを含むようにして、前記インク付着用浸透材と前記インク低減浸透材とに互いに異なる性質を持たせ、前記二種類の浸透材の性質の差異によって、前記インク付着用浸透材で前記糸に付着させたインクの一部を前記インク低減浸透材が取り去るようにした、
線引き具。
【請求項3】
前記インク室に、前記インク付着用浸透材と前記インク低減浸透材とを並べて設けた、
請求項1に記載の線引き具。
【請求項4】
前記インク室を通る前記糸の引き出し方向にみた寸法を長さ寸法としたときに、前記インク付着用浸透材の長さ寸法は、前記インク低減浸透材の長さ寸法よりも大きい請求項のいずれか1項に記載の線引き具。
【請求項5】
前記インク低減浸透材は、前記インク付着用浸透材よりも前記糸繰出口の側に配置された請求項1~のいずれか1項に記載の線引き具。
【請求項6】
前記インク付着用浸透材よりも前記糸繰出口と反対側にもう一つの前記インク低減浸透材を配置し、前記糸の巻取りのときに前記インク付着用浸透材の後に前記もう一つのインク低減浸透材に前記糸が接するようにした、
請求項5に記載の線引き具。
【請求項7】
前記糸繰出口は、挿通穴を持ち、
前記挿通穴は、前記止着具の止着針よりも直径が小さいか、又は前記止着針と嵌り合う程度の直径を持ち、
前記糸繰出口が前記止着具の柄の先端を収納することで、前記止着針が前記挿通穴を塞ぐ
請求項1~6のいずれか1項に記載の線引き具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、線引き具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特開2015-213971号公報に記載されるように、墨汁を用いて墨打ち作業を行うための墨つぼが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-213971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
墨つぼは、インクとして墨汁を用いた線引き具といえる。墨汁に限らず、顔料インクを使って墨出しを行うニーズが生じつつある。このニーズを察知した本願発明者が鋭意研究を進めたところ、既存の墨つぼで顔料インクの使用の際に不都合が生じることが見いだされた。
【0005】
本開示は、顔料インクの使用に適した線引き具を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
線引き具の一態様は、糸繰出口と糸巻収納部とインク室とを有するケースと、前記糸巻収納部に収められた糸巻と、前記糸巻に巻きつけられ、前記インク室と前記糸繰出口とを通って前記ケースの外に引き出され、先端に止着具が取り付けられる糸と、前記インク室に収められ前記糸にインクを付着させるインク付着用浸透材と、前記糸の引き出しまたは巻取りのときに前記インク付着用浸透材の後に前記糸と接することで前記糸に付着したインクのインク量を減らすインク低減浸透材と、を備える。
一つの態様として、前記インク付着用浸透材と前記インク低減浸透材とが備える浸透材の性質は、親水性と水分保持性と保水性能と吸水性と毛細管現象の強さとのうち一つの性質を含み、二種類の前記浸透材のうち、前記一つの性質が相対的に低いものを前記インク付着用浸透材とし、前記一つの性質が相対的に高いものを前記インク低減浸透材として互いに異なる性質を持たせ、前記二種類の浸透材の性質の差異によって、前記インク付着用浸透材で前記糸に付着させたインクの一部を前記インク低減浸透材が取り去るようにした。
別の一つの態様として、前記インク付着用浸透材と前記インク低減浸透材との組み合わせは、互いに材料の異なる複数のスポンジのうち、相対的に低水分保持力のスポンジを前記インク付着用浸透材とし、且つ相対的に高水分保持高吸水力のスポンジを前記インク低減浸透材とする第一の組み合わせと、互いに気孔構造が異なり且つ同じ材料の複数のスポンジのうち、相対的に低水分保持力のスポンジを前記インク付着用浸透材とし、且つ相対的に高水分保持高吸水力のスポンジを前記インク低減浸透材とする第二の組み合わせと、互いに材料の異なる複数の繊維材のうち、相対的に低水分保持力の繊維材を前記インク付着用浸透材とし、且つ相対的に高水分保持高吸水力の繊維材を前記インク低減浸透材とする第三の組み合わせと、スポンジと繊維材とのうち、相対的に低水分保持力のスポンジを前記インク付着用浸透材とし、且つ相対的に高水分保持高吸水力の繊維材を前記インク低減浸透材とする第四の組み合わせと、スポンジと繊維材とのうち、相対的に低水分保持力の繊維材を前記インク付着用浸透材とし、且つ相対的に高水分保持高吸水力のスポンジを前記インク低減浸透材とする第五の組み合わせと、のうちいずれか一つの組み合わせを含むようにして、前記インク付着用浸透材と前記インク低減浸透材とに互いに異なる性質を持たせ、前記二種類の浸透材の性質の差異によって、前記インク付着用浸透材で前記糸に付着させたインクの一部を前記インク低減浸透材が取り去るようにした。
【発明の効果】
【0007】
インク低減手段が糸に付着したインクの量を適量に低減するので、顔料インクの使用に適した線引き具が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】線引き具の構成を表す斜視図である。
図2】線引き具本体を糸繰出口側から視た正面図である。
図3図2のA-A線に沿う線引き具本体の断面図である。
図4】インク低減手段の変形例を表す図である。
図5】インク低減手段の変形例を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、線引き具100の構成を表す斜視図である。線引き具100は、線引き具本体1と、止着具6と、これらの間を結ぶ糸3とを備える。止着具6は「カルコ」とも称される。線引き具本体1は、各種構造を内蔵したケース11を備える。ケース11は、糸巻収納部11Aとインク室部11Bと糸繰出口11Dとを有する。糸巻収納部11Aの上面には、蓋としての糸巻カバー12が設けられる。糸巻カバー12を開くことで糸巻収納部11Aの内部空間を開放できる。糸巻収納部11Aの内部に、糸巻2(図3参照)が収められる。
【0010】
糸3は、糸巻2に巻きつけられる。糸巻2には、付勢機構が設けられている。一例として、糸巻収納部11Aの一側に、糸巻2のばね芯と係合可能なばねチャージャが取り付けられてもよい。このばねチャージャは、例えばワンウェイクラッチ機構およびその解除機構などからなる公知の構造を備えてもよい。このばねチャージャで、糸巻2に内蔵された渦巻きばねの付勢力を任意に調整してもよい。糸3は、インク室部11Bのインク室(図3参照)と糸繰出口11Dとを通ってケース11の外部に引き出される。糸3の先端には、止着具6が取り付けられる。
【0011】
インク室部11Bは、内側にインク室が設けられた部位である。インク室部11Bの上面には、蓋としてのインク室部カバー13が設けられる。インク室部カバー13、を開くことで内部のインク室を開放できる。
【0012】
図1に示すように、ケース11の外部へ導出される糸3の先端には、止着具6が繋着されている。止着具6は、一例として合成樹脂等で構築した中空の柄61と、一例として金属製の止着針62とを備える。図1の例において、通常は止着針62が不図示の針付勢用ばねによって柄61の中に収納されてもよい。使用の際には、手指で柄61をつまみ線引き具本体1から引き離す。このとき、糸3が張っている(つまりテンションがかかっている)ことで止着針62が突出した状態となっている。糸3の張りを緩めると、止着針62は止着具6の内部へ収納される。押片63(止着具フタ)を押さえると、糸3が緩んでも止着針62が突出した状態を保つことができる。このような止着針62の収納/突出のための具体的構造に限定はない。ケース11における糸繰出口11Dは、一例として漏斗状に設けられる(図3参照)。柄61の先端61aは、この糸繰出口11Dに嵌合状態に保持可能な形状に形成される。
【0013】
図2は、線引き具本体1の糸繰出口11D側から視た正面図である。図3は、図2のA-A線に沿う線引き具本体1の断面図である。実施の形態の線引き具本体1は、特徴の一つとして、インク付着用浸透材4Aとインク低減手段4Bとを備える。
【0014】
図3に示すように、インク室部11Bのインク室には、インク付着用浸透材4Aが収められる。インク付着用浸透材4Aは、インク浸透材であって、内部に各種インクを浸透させる性質を持つ。一例として、インク付着用浸透材4Aは、相対的に水分保持力が低いウレタン系スポンジであってもよい。インク付着用浸透材4Aは、一例として、インク室部11Bのインク室に収まる程度の大きさの直方体スポンジ片からなる部材である。実施の形態では、各種インクのうち顔料インクが線引き用のインクとして用いられている。よって、インク付着用浸透材4Aは、顔料インクを含浸している。使用に際して、予めインク室部11B内のインク付着用浸透材4Aに、顔料インクを十分に含浸させておく。インク室部カバー13を開いてインク室部11B内に顔料インクを注入することができる。
【0015】
図3に示すように、実施の形態では、インク室部11Bのインク室におけるインク付着用浸透材4Aの隣に、インク低減手段4Bとしてインク低減浸透材4Bが設けられる。インク低減浸透材4Bは、インク浸透材であって、糸3に付着したインク量を低減させる用途で設けられる。一例として、インク低減浸透材4Bは、相対的に水分保持力が高いセルローススポンジであってもよい。インク低減浸透材4Bは、インク室部11Bのインク室にインク付着用浸透材4Aとともに収まる程度の大きさを持つ。インク低減浸透材4Bには様々な構造バリエーションがある。インク低減浸透材4Bは、例えば薄い層を成すスポンジ片や繊維材などの浸透材でもよい。あるいは、インク低減浸透材4Bは、インク付着用浸透材4Aの表面(糸繰出口11D側の面)に直接形成や貼り合わせ等により積層された浸透材の層であってもよい。インク浸透材の具体的構造および変形例は後ほど詳しく説明する。
【0016】
一例として、インク付着用浸透材4Aおよびインク低減浸透材4Bそれぞれには、スリット(切り込み)が設けられている。各々のスリットは、一例として、インク付着用浸透材4Aおよびインク低減浸透材4Bの中心軸線を起点として外径方向(例えばインク室部カバー13の側つまり線引具本体1の上方)にひろがる。図3の例では、インク付着用浸透材4Aおよびインク低減浸透材4Bの各々の上方半分にのみスリットが設けられ、各々の下方半分はつながっている。糸3が、このスリットを通じてインク付着用浸透材4Aおよびインク低減浸透材4Bの内部に挿通される。なお、図3のA-A断面は、このスリットを通る仮想平面で線引き具本体1を切断したものである。このため、インク付着用浸透材4Aとインク低減浸透材4Bとの下方半分にのみ、切断面を意味する斜線ハッチングが付されている。
【0017】
顔料インクによる墨打ち作業を「線引き作業」とも称する。線引き作業においては、例えばまず止着具6を、その止着針62を相手材の表面における墨打ちの一方の起点に刺して止着する。その後、線引き具本体1を線引きの他方の起点へ向けて移動させると、糸巻2の回転を伴いながら、糸3が線引き具本体1の移動距離分だけ引き出されて行く。線引き作業時に糸3が引き出されるときに、糸3がインク付着用浸透材4Aのスリット内を移動する。この移動の過程で、糸3がインク付着用浸透材4Aに摺接することによって、顔料インクが糸3に付着する。このとき、糸巻2に内蔵された渦巻きばねは、糸巻本体の回転に伴って蓄勢される。
【0018】
インク低減手段4Bとしてのインク低減浸透材4Bは、糸3の引き出しまたは巻取りのときに、インク付着用浸透材4Aよりも後に糸3と摺接する。インク低減浸透材4Bと糸3との接触により、糸3に付着した顔料インクを適量に減らすことができる。
【0019】
ケース11を線引きの他方の起点まで移動させたら、線引き具本体1の糸押止突起136に設けた糸掛溝137に糸3を掛けて、糸3を相手材の表面に押止する。糸3を、止着具6との間に適当な張力で張設する。糸3を相手材の表面に向けて指ではじいて打ち付ける。適量の顔料インクを付着させた糸3を用いて、直線状のインク線を転写することができる。
【0020】
線引き作業終了後は、相手材に止着した止着具6へ向けて線引き具本体1を移動させる。糸3の引き出し過程で蓄勢された渦巻きばねの弛緩動作によって、糸巻2が巻取り方向へ回転する。糸3は糸巻2に自動的に巻き取られる。最後に止着具6を相手材から引き抜けば、糸3が更に巻き取られて、止着具6の柄61の先端61aが糸繰出口11Dに嵌合状態に係止される。
【0021】
インク低減手段4Bによって、糸3に付着したインク量を適量に低減することができる。例えば図3の例で、もし仮に、引き出された糸3のインク付着量が多くなりすぎていると、線引き作業によって得られる線が不鮮明となりやすい。この点、実施の形態ではインク低減手段4Bがインク付着量を適量に調整するので、糸3に顔料インクが付きすぎる性質に起因する悪影響を抑制できる。顔料インクの使用に適した新規な線引き具100が提供される。
【0022】
実施の形態では、一例として、図3に例示するように、インク低減浸透材4Bが、インク室内においてインク付着用浸透材4Aの隣に配置されている。インク室の限られたスペースを活用してインク低減浸透材4B(つまりインク低減手段4B)を設置できるので、線引き具100を小型化できる。
【0023】
インク付着用浸透材4Aは、各種インクを含むことのできる任意の浸透材である。また、インク低減浸透材4B(つまりインク低減手段4B)に使用可能な構成は、糸3に付着したインクを減らすことのできる任意の浸透材である。一例として、実施の形態では、インク付着用浸透材4Aとインク低減浸透材4Bとが両方とも「インク浸透材」である。実施の形態のインク浸透材は、各種インクを吸水したり各種インクを糸3から拭ったりすることのできる任意のインク浸透材である。
【0024】
実施の形態のインク浸透材は、「樹脂スポンジ等の合成樹脂多孔質体」であってもよい。合成樹脂多孔質体は、具体的には、ウレタン系スポンジでもよく、セルロース系スポンジでもよく、ポリビニルアルコール系スポンジ(PVAスポンジともいう)でもよい。
【0025】
ウレタン系スポンジは、原料であるポリウレタンなどの合成樹脂を発泡成形させてスポンジ状に加工したものである。ウレタン系スポンジの種類には、発泡度合い等に応じて軟質、半硬質および硬質のウレタンフォームがある。軟質ウレタンフォームは、中の気泡が繋がっており、柔らかく復元性を持つもので、クッション材や洗浄スポンジで使用される。硬質ウレタンフォームは、中の気泡が繋がっておらず独立していて、弾力があり、水分を通しにくい性質を持つので防水パッキンなどに使用される。半硬質ウレタンフォームは軟質と硬質との中間の性質を持つ。
【0026】
セルロース系スポンジは、実質的に100%天然素材からなることや、セルロースが親水基(OH基)を有することから化学的に水分になじみやすいという性質があること等から、優れた吸水能力を有する。すなわち、親水基を有することにより水になじみやすく、また、微小気泡による毛細管現象によって自己吸水性を持ち、素早く水を吸うことができる。特に、連続気泡のため、ほぼ全ての気泡に水分を取り込むことができ一般に自重の20~30倍の吸水力を有する。吸水した水分を適度に保持し、流れ落ちることが少ないなどの特徴もある。
【0027】
PVAスポンジは、連続気孔を有する立体網目構造の親水性を有する樹脂スポンジの一つである。PVAスポンジは、吸水性および保水性に富み、且つ耐薬品性および耐摩耗性に優れた特徴を有する。もちろん、PVAスポンジ以外のポリビニル系樹脂連続気孔体その他の樹脂スポンジを用いてもよい。
【0028】
実施の形態のインク浸透材は、「繊維材」でもよい。繊維材は、例えば、天然繊維または化学繊維からなる布帛のいずれでもよい。繊維材の一例は、例えば絡まりあった繊維塊でもよく、例えば織物、編物、不織布、フェルト、脱脂綿、あるいは化粧用コットンでもよい。繊維材は、各種インクの浸透保持作用に優れたセルロースの繊維からなってもよい。繊維材の素材は、他にも例えばレーヨンやポリノジック、キュプラ(登録商標)、あるいはテンセルでもよいし、化学繊維、例えばポリエステル、ナイロン、あるいはアクリルでもよい。
【0029】
実施の形態では、一例として図3にも示すように、同一のインク室内に互いに異なる性質を持つ複数のインク浸透材(インク付着用浸透材4Aおよびインク低減浸透材4B)を並べたうえで、それらのインク浸透材の性質の差異によって糸3のインク付着量を適量に減らしている。実施の形態では、これら二つの浸透材の並びは、糸3が進退する方向(糸道方向ともいう)に沿う直列配置である。
【0030】
複数のインク浸透材に性質の差異をつけるためには、いくつかの方法がある。既に述べたようにインク浸透材には様々な選択肢があるが、インク量の調節にインク浸透材の性質の差異を利用するために、下記に述べる構成が採用されてもよい。
【0031】
性質の差異をつける第一の方法は、複数のインク浸透材を互いに「同種材」とするものであって、材料と構造の少なくとも一方を相違させるものである。一例として、複数のインク浸透材を両方とも合成樹脂多孔体(より具体的には樹脂スポンジ)としつつ、両浸透材の樹脂材料を相違させてもよい。このとき、インク付着用浸透材4Aは水分保持力が低い「低水分保持スポンジ」であってもよく、その一方で、インク低減浸透材4Bはインク付着用浸透材4Aと比べて水分の保持力が高くしかも吸水性が良い「高水分保持高吸水スポンジ」であってもよい。このようにすることで、インク付着用浸透材4Aで顔料インクを糸3に付着しやすくしつつ、インク低減浸透材4Bが付きすぎた顔料インクを糸3から吸い取ることができる。
【0032】
上記第一の方法の例と合致するように、インク付着用浸透材4Aをウレタン系スポンジとし、インク低減浸透材4Bをセルロース系スポンジとしてもよい。ウレタン系スポンジとセルロース系スポンジとの組み合わせは、低コストと調達容易性という実用性の面でも利点がある。低水分保持スポンジは、一例として発泡ポリウレタンフォーム等の各種の任意のウレタン系スポンジを用いてもよい。高水分保持高吸水スポンジは、セルロース系スポンジの代わりにPVAスポンジでもよい。
【0033】
性質の差異をつける第二の方法は、上記の第一の方法と同様に「同種材」とするものであって、複数のインク浸透材を互いに同じ材料の浸透材としたうえで、複数のインク浸透材の気孔構造を互いに相違させてもよい。気孔構造は、吸水性に影響を及ぼす構造的なパラメータのことであり、例えば平均気孔径や気孔率などを含む。インク浸透材が連続気孔を有する立体網目構造を持つ場合、気孔構造パラメータは、例えば毛細管現象に基づく吸水性の差を決める要因の一つとなる。この毛細管現象に基づく吸水性の差を利用するために、同一樹脂材料で且つ互いに気孔率等が相違する二つの樹脂スポンジが用いられてもよい。
【0034】
性質の差異をつける第三の方法は、上記の第一および第二の方法と同様に「同種材」とするものであって、複数のインク浸透材を両方とも繊維材としてもよい。「低水分保持型の繊維材」は、一例として樹脂繊維でもよく、具体的にはペンキ塗装などにも用いられるアクリル繊維でもよい。低水分保持型の繊維材の他の例として、綿あるいは化粧用コットンその他各種用途のコットンでもよい。「高水分保持高吸水型の繊維材」は、一例としてフェルトでもよい。
【0035】
性質の差異をつける第四の方法は、複数のインク浸透材を互いに「異種材」とするものである。異種材とする態様の一例は、一つのインク浸透材を前述した合成樹脂多孔質体とし、他のインク浸透材を前述した繊維材とするものである。例えば、インク付着用浸透材4Aには前述した低水分保持スポンジ(一例としてウレタン系スポンジ)が用いられ、インク低減浸透材4Bには前述した高水分保持高吸水力を持つ繊維材(一例としてフェルトなど)が用いられてもよい。また、インク付着用浸透材4Aとして、前述した低水分保持型の繊維材が用いられてもよく、その場合に、インク低減浸透材4Bには前述した高水分保持高吸水スポンジが用いられてもよい。
【0036】
以上述べたように、互いに性質の異なる同種材または異種材を適切に選定することで、インク付着用浸透材4Aが顔料インクを糸3に確実に付着させ、その一方で、糸3に付着した顔料インクの一部をインク低減浸透材4Bが取り去ることができる。これにより、糸3に付きすぎた顔料インクを、インク低減浸透材4Bで適量に低減することができる。上記の浸透材選定例のいくつかは「親水性の差」を利用しており、これは例えば樹脂材料の親水基の有無によりもたらされる。相対的に親水性が高いものをインク低減浸透材4Bに適用してもよい。上記の浸透材選定例のいくつかは「水分保持性の差」、「保水性能の差」あるいは「吸水性の差」を利用しており、こういった性質の差は、微小気泡サイズとその毛細管現象の強さの差異、自己吸水性の強さの差異、および連続気泡構造の有無などの違いによりもたらされる。水分保持性、保水性能あるいは吸水性が相対的に高いものをインク低減浸透材4Bに適用することで、糸3に付着しすぎた顔料インクの一部をインク低減浸透材4Bで取り除いてもよい。
【0037】
実施の形態では、図3に例示するように、インク低減手段4Bがインク付着用浸透材4Aよりも糸繰出口11Dの側に配置されている。これにより顔料インクの使用時に鮮明な線を打つことができる。すなわち、インク付着用浸透材4Aに顔料インクを含ませる使い方をした場合、糸3に付着するインク量が多くなりがちであり、これをインク付着用浸透材4Aの素材や構造の調節で制御するのは難しいという独特の課題が見いだされた。実施の形態では、インク付着用浸透材4Aで付着しすぎたインク量を低減することができる。糸3に付いた余分な顔料インクがインク低減手段4Bで漉されることで、最適な付きが得られる。これにより鮮明な線を打つことができる。
【0038】
実施の形態では、インク室を通る糸3の引き出し方向にみた長さ寸法にも工夫がある。一例として、インク付着用浸透材4Aの長さ寸法L1は、インク低減浸透材4Bの長さ寸法L2よりも大きくされている(L1>L2)。インク低減の機能を確保しつつ、相対的に大きな寸法のインク付着用浸透材4Aを実装できる。インク付着用浸透材4Aが十分な量の顔料インクを含むことができるので、インク補充頻度を減らすこともできる。一例として、L1は20mm程度かそれ以上でもよく、L2は5mm程度かそれ以下でもよく、これらの比率は任意に調整してもよい。なお、インク付着用浸透材4Aとインク低減浸透材4Bとが層構造を成すという見方をした場合、寸法L1、L2は「厚さ寸法L1、L2」と称されてもよい。
【0039】
実施の形態の線引き具本体1は、乾燥に強い超密閉型構造を採用したという特徴も有する。この超密閉型構造の一つとして、実施の形態では、糸繰出口11Dが持つ挿通穴11Gに工夫がある。一例として、糸繰出口11Dはケース11の内部へ向かって先細りとなるテーパ部11F(図3参照)を持ち、このテーパ部11Fを経て挿通穴11Gが内部へ伸びている。この挿通穴11Gの直径が、止着具6の止着針62の直径よりも小さくされてもよい。変形例として、挿通穴11Gの直径が、止着針62と嵌り合う程度の直径とされてもよい。嵌り合う程度の直径は、止着針62の太さと略同じ程度の直径であり、止着針62を受け入れつつ過剰な隙間(クリアランス)が生じないように設定される。糸繰出口11Dが止着具6の柄61の先端61aを収納することで、止着針62が挿通穴11Gを塞ぐことができるので、密閉性が得られる。
【0040】
この超密閉型構造の他の一つとして、図3の断面図に示すように、シール手段S1~S3が設けられている。シール手段S1~S3それぞれは、一例として、例えばゴム弾性部材や弾性合成樹脂部材からなるパッキンであって、より具体的にはOリング等のシールリングであってもよい。挿通穴11Gを止着針62で塞ぐ密閉構造に加えて、このシール手段S1~S3を設けることで、ケース11の密閉性能を飛躍的に高めることができる。
【0041】
図4は、インク低減手段4Bの変形例を表す図である。変形例として、インク低減手段4Bは、インク付着用浸透材4Aよりも糸巻2の側に配置されてもよい。この変形例によっても、インク低減手段4Bによって糸3に付着しすぎたインク量を低減することができる。もし仮に巻取りのときに糸3のインク付着量が多すぎると、糸巻2の側に入り込む顔料インクが多くなりやすい。実施の形態ではシール手段S1~S3によって密閉性を高めているものの、多くの顔料インクが糸巻2のほうへ取り込まれることで顔料インクがケース11外部へ漏れやすくなることは避けたい。この点、本変形例ではそのような顔料インク特有の問題(糸3に顔料インクが付きすぎる性質に起因する悪影響)を、インク低減手段4Bで抑制できる。顔料インクの使用に適した新規な線引き具100が提供される。
【0042】
図5は、インク低減手段4Bの変形例を表す図である。変形例として、インク付着用浸透材4Aからみて糸繰出口11Dの側と糸巻2の側との両方に、インク低減手段4Bが配置されてもよい。これにより、糸3の引き出しと巻き取りの両方の動作において、糸3のインク付着量を適量に制御できる利点がある。
【0043】
なお、糸繰出口11Dと糸巻収納部11Aとインク室部11B内のインク室とは、同一直線上に直列配置されてもよいが、これに限定されず、それらの相対的な位置関係に限定はない。糸3の引き出し経路はケース11の内部構造に応じて任意に決められる。糸3は、糸巻2と糸繰出口11Dとの間を、一直線にのびるか、あるいは任意の屈曲を経てのびることができる。糸巻2から糸繰出口11Dに至る任意の位置に、インク室を設けてもよい。よってケース11の全体形状および内部構造を任意に変形してもよい。
【0044】
なお、インク低減手段4Bは、インク付着用浸透材4Aと同一のインク室に設けられてもよいが、これに限定されない。ケース11の内部におけるインク低減手段4Bの具体的位置に限定はない。糸巻2からインク室に至る任意の位置や、インク室から糸繰出口11Dに至る任意の位置に、インク低減手段4Bを設けてもよく、そのための設置スペースをケース11に設けてもよい。
【0045】
なお、上記実施の形態において線引き用のインクとして使用する「各種インク」は、墨汁と顔料インクとのうち任意の一つでもよく、あるいは二種以上のインクを混ぜたものでもよい。実施の形態の各種インクは、例えば墨汁と顔料インクとを所定比率で混合させた混合液でもよく、複数種類の顔料インクを所定比率で混合させた混合液でもよい。混合の所定比率は、均等でもよく、任意の主成分を半分以上含ませてもよい。あるいは、実施の形態の各種インクは、墨汁または顔料インクあるいはこれらの混合液に対して、さらに他の添加液、添加剤あるいは薄め液などを混合させたものでもよい。この各種インクは、他の水性塗料などの着色液でもよい。実施の形態の線引き具100は、各種インクから顔料インクを使用するのに適した改良構造を持つものの、各種インクとして墨汁や各種の水性塗料を用いることも可能である。顔料インクおよび墨汁等の両方に同一のハードウェアで対応できる優れた特徴がある。インク付着用浸透材4Aおよびインク低減手段4Bそれぞれがインク室から着脱交換可能となるように、ケース11が構築されてもよい。
【0046】
糸3の素材に限定はない。糸3は、例えばナイロンの撚り糸、あるいはナイロンとアラミド繊維の撚り糸でもよい。他の例として、糸3は、ポリエステルの撚り糸、ナイロン単糸を芯に入れたナイロン編糸、あるいは絹糸等でもよい。
【0047】
実施の形態では、一例として図3にも示すように、同一のインク室内に互いに異なる性質を持つ複数のインク浸透材(インク付着用浸透材4Aおよびインク低減浸透材4B)を並べたうえで、それらのインク浸透材の性質の差異によって糸3のインク付着量を適量に調整している。しかしながら、本開示はこの構造に限られない。変形例として、ケース11の内部において複数のインク浸透材を離間配置させてもよく、その場合には両浸透材の間に仕切り等を設けて別室に区画してもよい。この場合、複数のインク浸透材が互いに同種材質、同一材料および同一構造であってもよい。
【0048】
本開示において、複数のインク浸透材を「並べた構成」は、インク浸透機能を持つ複数の個別部材を並べて配置した構成でもよく、あるいは「隣り合って並ぶ複数のインク浸透材が一体化つまり一部品として提供される構成」であってもよい。すなわち、変形例の一つとして、異なるインク浸透材が重ねられて一体化した層状一体構造であってもよい。層状一体構造は、発泡工程等の製造段階において異なるインク浸透材が層状に一体成形された構造でもよく、一つのインク浸透材に他のインク浸透材を貼り合わせ等で接合させることで層状に一体化した構造でもよい。具体的には、例えば、図3の例で言えば、スポンジであるインク付着用浸透材4Aの表面(糸繰出口11D側の面)に、他のスポンジ層または繊維材層であるインク低減浸透剤4Bが積層されてもよい。台所用スポンジとして層状スポンジ構造や、スポンジ表面にナイロン不織布を貼り合わせた構造などが市販されており、これらと同様の製造方法を上記変形例の製造に用いてもよい。他の変形例として、同一材料の一つのインク浸透材に、性質の異なる複数の部位が形成されてもよい。例えば、全体として同じ樹脂材料のスポンジが、気孔率等の異なる複数の部位または層を有してもよい。同一材料の一つのスポンジにおいて、第一部位が所定の気孔率等の第一性質を持ち、この第一部位の隣に並ぶ第二部位が当該第一性質と異なる第二性質を持つものであってもよい。このような場合、一つのスポンジのなかの第一部位が第一インク浸透材に相当し第二部位が第二インク浸透材に相当する。なお、上記変形例では、複数のインク浸透材が層をなすという表現で説明を行っているが、図3のインク付着用浸透材4Aとインク低減浸透材4Bとの間に、両者の中間の性質を持つ他のインク浸透材の層が挿入されていてもよい(この場合はいわば段階的な三層構造となる)。同様に、四層、五層など任意の層数にしてもよく、インク付着用浸透材4Aとインク低減浸透材4Bとの間に多数の層を設けて全体としてグラデーション的な性質分布を与えてもよい。
【0049】
以上のように、インク付着用浸透材4Aとインク低減手段4B(インク低減浸透材4B)との構成には、多種多様な変形例が想定される。配置構成や材質等にかかわらず、糸3に付きすぎたインクをインク低減手段4Bで低減すれば一定の効果が得られるので、豊富なバリエーションが想定されるからである。
【0050】
寸法L1、L2の大小関係は、実施の形態に例示したL1>L2に限られない。L1=L2でもよく、L1<L2でもよい。
【0051】
昨今の工法とインクとの関係について説明する。昨今における工法の変化で、親墨ではなく子墨(作業線)だけ打つ職人が増加している。現場で子墨を打つ相手材も、石膏ボード、コンクリート、あるいは鉄骨等の部材があり、多様化している。このような多様な相手材に墨汁で線を打つ場合に、「弾く」、「乾きが遅い」、「滲む」、あるいは「視認性が低い」等の問題が生じやすい。
【0052】
本開示では顔料インクには成分等について限定はないが、上記の問題への対策として、実施の形態では以下の観点で顔料インクが選定されてもよい。従来の墨汁は墨打ち対象が滑らかで摩擦が小さい表面の相手材の場合、弾けてしまうことがあり、水拭きで簡単に消すこともできない欠点がある。また、相手材の色によって鮮明に発色することができないといった欠点がある。そこで、実施の形態にかかる顔料インクとして、墨打ち対象の相手材の表面が滑らかで摩擦が小さい場合でも、弾かず鮮明な線が打てる性質を持つものが選定されてもよい。不要になった線や修正したい線を水拭きで簡単に消すことができる顔料インクが選定されてもよい。墨汁が滲むコンクリート面でも滲みにくく、墨汁の乾きが遅いLGS(軽量鉄骨)等の金属製部材に打ってもすぐに乾く顔料インクが選定されてもよい。相手材の色に合わせて、鮮明に発色する視認性が高いインク色を持つ顔料インクが選択されてもよい。相手材とインク色の組合せは、下記のようなものでもよい。相手材がパネコート(表面をウレタン塗装したコンパネ)である場合、顔料インク色はバイオレットでもよい。相手材が石膏ボードである場合、ホワイトでもよい。相手材が床遮音マットである場合、ピンクでもよい。相手材がLGS(軽量鉄骨)である場合、オレンジでもよい。相手材が鉄骨である場合、イエローでもよい。相手材がコンクリートである場合、グリーンでもよい。このようなかたちで任意のインク色のインクを線引き具本体1のインク室に投入してもよい。
【0053】
実施の形態における線引き具100のハードウェア構造の特徴をまとめると、一つの特徴は乾燥対策である。線引き具100は親墨用と子墨用とのいずれにも使用可能であるが、もし線引き具100を子墨用にした場合には使用頻度が低くなりやすい。使用頻度が低いと、次回使用時まで間隔が空くことで内部のインクが乾燥する事態を招きやすい。この点、実施の形態では、隙間を可能な限りゴムパッキン等で密閉したことで、乾燥に強い超密閉型ハードを提供している。具体的には、図3のようにシール手段S1~S3を設けることで、糸巻2の軸方向両端にシールリング(具体的にはOリング)による密閉を施している。特にシール手段S1は糸巻カバー12の開閉構造に付随するわずかな隙間をも密閉できる。さらに、止着針62が挿通穴11Gを塞ぐ構造とすることで、糸繰出口11Dを確実に密閉できる。これにより乾燥を抑制できるので、使用間隔が空いたときでもインクの乾燥を防ぐことができる。
【0054】
実施の形態の他の一つの特徴は、インク室に異なる性質のインク浸透材を配置し、それらの性質の差異を利用してインク量を調整する構造である。インク浸透材(スポンジ等)内で顔料インクが分離すると、糸3への付きが悪くなりやすい。この点、保水力等の性質が異なる複数のインク浸透材(スポンジ等)を、糸の進退方向(引き出し/巻取り方向)に直列に並べている。顔料インクが分離し難くダマにならない(付き過ぎない)ようにし、顔料インクを糸3に適量に付けることができる。
【符号の説明】
【0055】
1 線引き具本体
2 糸巻
3 糸
4A インク付着用浸透材
4B インク低減浸透材(インク低減手段)
6 止着具(カルコ)
11 ケース
11A 糸巻収納部
11B インク室部
11D 糸繰出口
11F テーパ部
11G 挿通穴
12 糸巻カバー
13 インク室部カバー
61 柄
61a 先端
62 止着針
63 押片
100 線引き具
136 糸押止突起
137 糸掛溝
S1~S3 シール手段
図1
図2
図3
図4
図5