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特許7641025神経損傷及び関連障害を治療するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-26
(45)【発行日】2025-03-06
(54)【発明の名称】神経損傷及び関連障害を治療するための方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/48 20060101AFI20250227BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20250227BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20250227BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20250227BHJP
【FI】
A61K38/48 ZNA
A61P25/00
A61P25/02
A61P25/28
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022542323
(86)(22)【出願日】2021-01-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-17
(86)【国際出願番号】 CN2021072505
(87)【国際公開番号】W WO2021143906
(87)【国際公開日】2021-07-22
【審査請求日】2022-09-05
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2020/072747
(32)【優先日】2020-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】518217305
【氏名又は名称】タレンゲン インターナショナル リミテッド
【氏名又は名称原語表記】TALENGEN INTERNATIONAL LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110003007
【氏名又は名称】弁理士法人謝国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】李季男
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-500423(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101886066(CN,A)
【文献】XIA, Y., et al.,Tissue plasminogen activator promotes white matter integrity and functional recovery in a murine model of traumatic brain injury,PNAS,2018年,Vol.115, No.39,pp.E9230-E9238,www.pnas.org/cgi/doi/10.1073/pnas.1810693115
【文献】KARAGYAUR, M., et al.,Non-viral transfer of BDNF and uPA stimulates peripheral nerve regeneration,Biomedicine & Pharmacotherapy,2015年,Vol.74,pp.63-70,http://dx.doi.org/10.1016/j.biopha.2015.07.002
【文献】CHEN, N., et al.,Subacute intranasal administration of tissue plasminogen activator improves stroke recovery by inducing axonal remodeling in mice,Experimental Neurology,2018年,Vol.304,pp.82-89,https://doi.org/10.1016/j.expneurol.2018.03.001
【文献】YEPES, M.,The Plasminogen Activation System Promotes Neurorepair in the Ischemic Brain,Current Drug Targets,2019年,Vol.20, No.9,pp.953-959,DOI:10.2174/1389450120666181211144550
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 38/00-38/58
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスミノーゲンを含む、神経損傷を治療するための医薬組成物であって、前記プラスミノーゲンが、配列番号2で示される配列と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、かつプラスミノーゲンのタンパク質分解活性を有し、前記神経損傷は、圧迫性脊髄神経損傷または麻痺である、医薬組成物。
【請求項2】
前記プラスミノーゲンが、脊髄ニューロフィラメントタンパク質の発現及び神経線維の再生を促進する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記プラスミノーゲンが、さらに感覚神経機能の回復または運動神経機能の回復を促進する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記プラスミノーゲンが、さらに痛覚回復を促進する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記プラスミノーゲンが、さらにシナプトフィジンの発現を促進する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記プラスミノーゲンが、さらに損傷した神経細胞ニッスル小体レベルの回復を促進する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記プラスミノーゲンが、配列番号2に記載のプラスミノーゲンの保存的置換変異体である、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記プラスミノーゲンが、配列番号14で示されるプラスミノーゲン活性フラグメントと少なくとも90%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つプラスミノーゲンのタンパク質加水分解活性を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麻痺など、神経損傷及び関連障害を治療するための方法に関し、この方法は、損傷した神経を修復し、臨床症状及び徴候を改善するために、被験者に有効量のプラスミノーゲン活性化経路の成分またはプラスミノーゲンなどの関連化合物を投与することを含む。
【背景技術】
【0002】
神経系は、中枢神経系(脳、脊髄)と末梢神経系(末梢神経組織)を含む。神経系の損傷は、(1)外傷による脳神経組織の損傷や脊髄損傷など、損傷部位の神経組織に直接に損傷を与える物理的損傷、(2)脳卒中または脳塞栓症によって引き起こされる脳神経組織の損傷など、神経系の一部の一時的または永続的な虚血または低酸素症、(3)がんの治療に使用される化学物質などの神経毒への曝露、(4)糖尿病や腎機能障害による末梢神経損傷などの慢性代謝性疾患など、さまざまな要因によって引き起こされる。
【0003】
脊髄神経損傷とは、外傷や疾患により脊髄神経の構造及び機能が破壊または障害された病態の総称である。例えば、脊髄外傷、脊椎圧迫骨折、横断性脊髄炎、脊髄腫瘍、椎骨結核、脊髄空洞症などは、脊髄損傷を引き起こし、麻痺を引き起こす可能性がある。頸椎拡大以上の横病変による対麻痺は高度対麻痺であり、第三胸椎以下の脊髄損傷による対麻痺は両下肢対麻痺である。脊髄損傷の急性期では、損傷したレベルより下の両側の手足が感覚、運動、及び反射を失い、膀胱及び肛門括約筋の機能が失われ、脊髄ショックを引き起こす。現在、脊髄損傷を含む神経損傷に対する理想的な治療法はない。
【発明の概要】
【0004】
本発明は研究によって、プラスミノーゲンが明らかに神経損傷の修復を促進し、損傷した神経ミエリンの再生を促進し、関連する症状を改善できることを発見した。
【0005】
本発明は下記のことに係る。
【0006】
1、プラスミノーゲン活性化経路の成分、プラスミノーゲンを直接活性化し得るか、またはプラスミノーゲン活性化経路の上流成分を活性化することによって間接的にプラスミノーゲンを活性化し得る化合物、プラスミノーゲンまたはプラスミンの活性を模倣する化合物、プラスミノーゲンまたはプラスミノーゲン活性化剤の発現をアップレギュレートすることができる化合物、プラスミノーゲン類縁体、プラスミン類縁体、tPAまたはuPA類縁体及び線維素溶解阻害剤の拮抗剤から選択される1つ以上の治療有効量の化合物を被験者に投与することを含む、神経損傷を治療する方法。
【0007】
2、前記プラスミノーゲン活性化経路の成分が、プラスミノーゲン、組換えヒトプラスミノーゲン、Lys-プラスミノーゲン、Glu-プラスミノーゲン、プラスミン、プラスミノーゲンとプラスミンの1つ以上のkringleドメイン及びプロテアーゼドメインを含むプラスミノーゲン及びプラスミン変異体並びに類縁体、ミニプラスミノーゲン(mini-plasminogen)、ミニプラスミン(mini-plasmin)、マイクロプラスミノーゲン(micro-plasminogen)、マイクロプラスミン(micro-plasmin)、delta-プラスミノーゲン、delta-プラスミン(delta-plasmin)、プラスミノーゲン活性化剤、tPA、及びuPAから選択されるものである、請求項1に記載の方法。
【0008】
3、前記線維素溶解阻害剤の拮抗剤が、PAI-1、補体C1阻害剤、α2抗プラスミンまたはα2マクログロブリンの阻害剤、例えば、抗体である、請求項1に記載の方法。
【0009】
4、前記神経損傷が、脊髄神経損傷、特に圧迫性脊髄神経損傷を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【0010】
一部の実施形態では、前記神経損傷は、中枢神経損傷(例えば、脊髄神経損傷)または末梢神経損傷である。
【0011】
5、前記脊髄神経損傷が、脊椎圧迫骨折、横断性脊髄炎、脊髄腫瘍、脊椎結核または脊髄空洞症による脊髄神経損傷を含む、請求項4に記載の方法。
【0012】
6、神経損傷に関連する障害を治療することによるものを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【0013】
7、前記神経損傷の関連障害が麻痺を含む、請求項6記載の方法。
【0014】
8、前記麻痺が高度対麻痺または両下肢の対麻痺である、請求項7に記載の方法。
【0015】
9、前記化合物が損傷した神経の修復を促進する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【0016】
10、前記化合物が神経ミエリンの再生を促進する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【0017】
11、前記化合物が、脊髄ニューロフィラメントタンパク質の発現を促進する、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【0018】
12、前記化合物が感覚神経機能の回復を促進する、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【0019】
13、前記化合物が痛覚回復を促進する、請求項12に記載の方法。
【0020】
14、前記化合物がプラスミノーゲンである、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【0021】
いくつかの実施形態では、本願は、神経ミエリンの再生を促進すること、脊髄ニューロフィラメントタンパク質の発現及び神経線維の再生を促進すること、感覚神経機能の回復または運動神経機能の回復を促進すること、痛覚回復を促進すること、シナプトフィジンの発現を促進すること、及び損傷した神経細胞ニッスル小体レベルの回復を促進することからなる群から選択されるプラスミノーゲンの1つ以上の活性または機能に関する。
【0022】
15、一部の実施形態では、前記プラスミノーゲンは、配列2と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、且つ依然としてプラスミノーゲン活性(例えば、タンパク質加水分解活性またはリジン結合活性)を有する。
【0023】
16、一部の実施形態では、前記プラスミノーゲンは、プラスミノーゲン活性フラグメントを含み、且つ依然としてプラスミノーゲン活性(例えば、タンパク質加水分解活性またはリジン結合活性)を有するタンパク質である。一部の実施形態では、前記プラスミノーゲン活性はフラグメントは、配列14に示されるプラスミノーゲン活性フラグメントと少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、または配列番号14に示されるプラスミノーゲン活性フラグメントと100%のアミノ酸配列同一性を有する、
【0024】
17、前記プラスミノーゲンがGlu-プラスミノーゲン、Lys-プラスミノーゲン、ミニプラスミノーゲン、マイクロプラスミノーゲン、delta-プラスミノーゲンまたはそれらの、プラスミノーゲン活性(例えば、タンパク質加水分解活性またはリジン結合活性)を保持した変異体から選択されるものである、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【0025】
18、前記プラスミノーゲンが、天然または合成のヒト全長プラスミノーゲン、または依然としてプラスミノーゲン活性(例えば、タンパク質加水分解活性、リジン結合活性)を保持した変異体若しくはフラグメントである、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【0026】
本願の上記いずれか1つの実施形態において、前記プラスミノゲンが配列2、6、8、10または12と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、且つ依然としてプラスミノーゲン活性(例えば、タンパク質加水分解活性またはリジン結合活性)を有し得る。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは、配列2、6、8、10または12に基づいて、1~100、1~90、1~80、1~70、1~60、1~50、1~45、1~40、1~35、1~30、1~25、1~20、1~15、1~10、1~5、1~4、1~3、1~2、1個のアミノ酸を追加、削除、及び/または置換され、かつ依然としてプラスミノーゲン活性(例えば、タンパク質加水分解活性またはリジン結合活性)、例えば、タンパク質加水分解活性を有するタンパク質である。一部の実施形態では、前記プラスミノーゲンは、配列2、6、8、10または12に示されるアミノ酸配列を含むまたは有する。
【0027】
一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンはプラスミノーゲンフラグメントを含み、且つ依然としてプラスミノーゲン活性、例えば、タンパク質加水分解活性、またはリジン結合活性、あるいはタンパク質加水分解活性及びリジン結合活性を有するタンパク質である。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは、Glu-プラスミノーゲン、Lys-プラスミノーゲン、ミニプラスミノーゲン、マイクロプラスミノーゲン、δ-プラスミノーゲンまたはそれらのプラスミノーゲン活性(例えば、タンパク質加水分解活性またはリジン結合活性)を保持した変異体である。上記実施形態において、前記プラスミノーゲンは、天然または合成のヒトプラスミノーゲン、または依然プラスミノーゲン活性(例えば、タンパク質加水分解活性またはリジン結合活性)を保持した変異体若しくはフラグメントである。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは、霊長類動物またはげっ歯類動物に由来するヒトプラスミノーゲンのオルソログ、または依然プラスミノーゲン活性を保持した変異体若しくはフラグメントである。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンのアミノ酸は配列2、6、8、10または12に示される。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンはヒト天然プラスミノーゲンである。
【0028】
一部の実施形態において、前記被験者はヒトである。一部の実施形態において、前記被験者はプラスミノーゲンが不足、または欠乏している。一部の実施形態において、前記不足または欠乏は、先天的、継発的及び/または局所的である。
【0029】
いくつかの実施形態では、前記医薬組成物は、薬学的に許容される担体と、前述の方法で使用するプラスミノーゲンとを含む。いくつかの実施形態では、前記キットは、(i)前述の方法で使用するプラスミノーゲン、及び(ii)前記プラスミノーゲンを前記被験者に送達するための部材(means)を含む、予防または治療キットであり得る。いくつかの実施形態では、前記部材は注射器またはバイアルである。いくつかの実施形態では、前記キットは、前述の方法のいずれかを実施するために前記プラスミノーゲンを前記被験者に投与することを指示するためのラベルまたはプロトコルをさらに含む。
【0030】
いくつかの実施形態では、前記製品は、ラベルを含む容器と、(i)前述の方法で使用するためのプラスミノーゲンまたはプラスミノーゲンを含む医薬組成物とを含み、前記ラベルは、前述の方法のいずれかを実施するために前記プラスミノーゲンまたは組成物を前記被験者に投与することを指示する。
【0031】
いくつかの実施形態では、前記キットまたは製品は、他の薬剤を含む1つまたは複数の追加の部材または容器をさらに含む。
【0032】
前記方法の一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは全身または局所にて投与され、好ましくは、静脈内、筋肉内、皮下または髄腔内投与によってプラスミノーゲンを投与することで治療する。前記方法のいくつかの実施形態では、前記プラスミノーゲンは、適切なポリペプチド担体または安定剤と組み合わせて投与される。前記方法の一部の実施形態において、前記プラスミノゲンは毎日0.0001~2000mg/kg、0.001~800mg/kg、0.01~600mg/kg、0.1~400mg/kg、1~200mg/kg、1~100mg/kg、10~100mg/kg(体重1キロあたりで計算)または0.0001~2000mg/cm、0.001~800mg/cm、0.01~600mg/cm、0.1~400mg/cm、1~200mg/cm、1~100mg/cm、10~100mg/cm(体表面積平方センチメートルあたりで計算)の用量で投与し、好ましくは一回以上繰り返し、好ましくは少なくとも毎日投与する。
【0033】
本発明は、本発明の実施形態に属する技術的特徴のすべての組み合わせを明確にカバーし、これらの組み合わせ後の技術構成は、上記の技術構成が別個に明確に開示されたのと同様に、本出願において明確に開示された。さらに、本発明はまた、各実施形態とそれらの要素との間の組み合わせを明確にカバーし、組み合わせ後の技術構成は、本明細書に明確に開示されている。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1図1A~Cは、脊髄圧迫損傷モデルマウスに7日間プラスミノーゲンを投与した後の脊髄のH&E染色の代表的な図である。Aは偽手術群、Bは溶媒PBS投与対照群、Cはプラスミノーゲン投与群である。その結果、偽手術群のニューロンと神経線維がいずれも正常な形状であり、細胞質が赤に染色されたことを示し、溶媒PBS投与対照群及びプラスミノーゲン投与群で正常神経及び損傷神経の接合部を採取したところ、溶媒PBS投与対照群では接合部に大きな損傷空洞(三角印)が見られたに対して、プラスミノーゲン投与群の損傷部位の神経修復度は、溶媒PBS投与対照群よりも有意に良好であり、明らかな空洞は見られなかった。これは、プラスミノーゲンが脊髄圧迫損傷モデルマウスの脊髄損傷神経の修復を明らかに促進できることを示している。
図2図2A~Cは、脊髄圧迫損傷モデルマウスに7日間プラスミノーゲンを投与した後の脊髄のLFB染色の代表的な図である。Aは偽手術群、Bは溶媒PBS投与対照群、Cはプラスミノーゲン投与群である。その結果、偽手術群(図2A)の神経ミエリンの構造は完全かつ連続的であり、溶媒PBS投与対照群(図2B)の神経ミエリンは、明らかにより大きな崩壊領域を示し(矢印でマーク)、青色が薄く、ミエリンが壊れていた。溶媒PBS対照群と比較して、プラスミノーゲン投与群(図2C)のミエリン構造は有意に完全であり、青色が濃くなった。これは、プラスミノーゲンが脊髄圧迫損傷モデルマウスのミエリンの再生を促進できることを示している。
図3図3A~Cは、脊髄圧迫損傷モデルマウスに7日間プラスミノーゲンを投与した後の脊髄ニューロフィラメントタンパク質(NFP)染色の代表的な図である。Aは偽手術群、Bは溶媒PBS投与対照群、Cはプラスミノーゲン投与群である。その結果、プラスミノーゲン投与群のNFPの発現(矢印でマーク)は、溶媒PBS投与対照群よりも有意に高く、NFPの発現は偽手術群マウスにより近かった。これは、プラスミノーゲンがNFPの発現を促進し、脊髄圧迫損傷モデルマウスの脊髄神経線維の再生を促進できることを示している。
図4図4A~Bは、脊髄圧迫損傷モデルPlg-/-マウスに7日間プラスミノーゲンを投与した後の脊髄のH&E染色の代表的な図である。Aは溶媒PBS投与対照群、Bはプラスミノーゲン投与群である。その結果、溶媒PBS投与対照群及びプラスミノーゲン投与群で正常神経及び損傷神経の接合部を採取したところ、両者の正常なニューロン及び神経線維構造が損傷部位で消失し、修復された線維に置き換えられ、細胞質が薄く染色され、炎症細胞が浸潤していることが見える。溶媒PBS投与対照群では接合部に大きな損傷空洞(三角印)が見られたに対して、プラスミノーゲン投与群の損傷部位の修復度は、溶媒PBS投与対照群よりも有意に良好であり、明らかな空洞は見られず、炎症細胞の浸潤も有意に減少した。これは、プラスミノーゲンが脊髄圧迫損傷モデルPlg-/-マウスの脊髄損傷の修復を明らかに促進できることを示している。
図5図5A~Bは、脊髄圧迫損傷モデルPlg-/-マウスに7日間プラスミノーゲンを投与した後の脊髄のLFB染色の代表的な図である。Aは溶媒PBS投与対照群、Bはプラスミノーゲン投与群である。その結果、溶媒PBS投与対照群の神経ミエリンは、明らかにより大きな崩壊領域を示し(三角形でマーク)、青色が薄く、ミエリンが壊れていた(矢印でマーク)。それと比較して、プラスミノーゲン投与群のミエリン構造は明らかに完全かつ連続的であり、青色が濃くなった。これは、プラスミノーゲンが脊髄圧迫神経損傷モデルPlg-/-マウスのミエリン損傷の修復を促進できることを示している。
図6図6は、脊髄圧迫損傷モデルC57マウスに6日間プラスミノーゲンを投与した後のVon-frey機械的疼痛閾値テスト結果を示す図である。その結果、偽手術群のマウスと比較して、溶媒投与群のマウスの機械的閾値が有意に増加した。これは、脊髄圧迫モデルの確立後、マウスが痛覚を失ったことを示している。投与群A(1mg)と投与群B(0.5mg)マウスの疼痛閾値は溶媒群よりも有意に低く、その差は統計的に有意であった(*はP<0.05、**はP<0.01を表す)。これらの結果は、プラスミノーゲンが脊髄圧迫モデルマウスの痛覚回復を促進できることを示している。
図7図7A~Dは、プラスミノーゲン投与28日後、脊髄横断モデルマウスの脊髄NFPの免疫組織化学染色の結果を示す図である。Aは偽手術群、Bは溶媒PBS投与対照群(溶媒群ともいう、以下同じ)、Cはプラスミノーゲン投与群(投与群ともいう、以下同じ)、Dは平均光学密度の定量分析の結果である。その結果、偽手術群のマウスの脊髄が一定レベルのNFPを発現し(矢印でマーク)、溶媒群マウスのモデリング部位の脊髄におけるNFPの発現が偽手術群のマウスよりも有意に低く、投与群マウスのモデリング部位の脊髄におけるNFPの発現が溶媒群の発現よりも有意に高く、しかもその差は統計的に有意であった(*はP<0.05を表す)。これは、プラスミノーゲンが、脊髄横断モデルマウスの脊髄におけるNFPの発現を促進できることを示している。
図8図8は、脊髄横断モデルマウスのBMSスコアの結果を示す図である。その結果、偽手術群のマウスのBMSスコアは9点であり、溶媒群のマウスのBMSスコアは6.75±1.92点であり、偽手術群のマウスよりも有意に低かった。投与群のマウスのBMSスコアは8.29±0.39点であり、溶媒群のマウスより有意に高く、しかもその差は統計的に有意であった(*はP<0.05、***はP<0.001を表す)。これは、プラスミノーゲンは、対麻痺モデルマウスの後肢運動機能の回復を促進できることを示している。
図9図9は、プラスミノーゲン投与6時間後の脊髄横断モデルマウスの損傷脊髄におけるプラスミノーゲンmRNA RT-PCR検出結果を示す図である。その結果、ブランク対照群のマウスの脊髄には一定のレベルのプラスミノーゲンmRNAがあり、投与群のマウスの脊髄のプラスミノーゲンmRNAのレベルは溶媒群よりも有意に高く、しかもその差が統計的にほぼ有意であった(P=0.051)。これは、プラスミノーゲンが、対麻痺モデルマウスの脊髄におけるプラスミノーゲン遺伝子の転写を促進できることを示している。
図10図10A~Dは、プラスミノーゲン投与28日後の、脊髄横断モデルマウスにおける脊髄シナプトフィジンの免疫組織化学染色の結果を示す図である。Aは偽手術群、Bは溶媒群、Cは投与群、Dは平均光学密度の定量分析の結果である。その結果、偽手術群のマウスの脊髄が一定レベルのシナプトフィジンを発現し(矢印でマーク)、溶媒群のマウスのモデリング部位の脊髄におけるシナプトフィジンのレベルが偽手術群マウスよりも有意に低く、2つの群間の統計的差は非常に有意であった(***はP<0.001を表す)。投与群のマウスのモデリング部位の脊髄におけるシナプトフィジンのレベルは溶媒群よりも有意に高く、その差は統計学的に有意であった(*はP<0.05を意味する)。これは、プラスミノーゲンが、対麻痺モデルマウスの損傷した脊髄におけるシナプトフィジンの発現を促進し、脊髄損傷の修復を促進できること示している。
図11図11A~Dは、プラスミノーゲン投与28日後の、脊髄横断モデルマウスにおける脊髄のニッスル染色の結果を示す図である。その結果、偽手術群のマウスの脊髄には一定レベルのニッスル小体があり(矢印でマーク)、溶媒群のマウスのモデリング部位の脊髄のニッスル小体のレベルは偽手術群マウスよりも有意に高く、2つの群の統計的差は極めて有意であった(***はP<0.001を表す)。投与群のマウスのモデリング部位の脊髄におけるニッスル小体のレベルは溶媒群のそれよりも有意に低く、しかも統計的差は極めて有意であった(**はP<0.01を表す)。これは、プラスミノーゲンが、対麻痺モデルマウスの損傷した脊髄のニッスル小体レベルの回復を促進し、脊髄損傷の修復を促進できることを示している。
【発明の詳細な説明】
【0035】
線維素溶解系(Fibrinolytic system)は、線溶系とも呼ばれ、線維素溶解(線溶)の過程に関与する一連の化学物質からなる系であり、主にプラスミノーゲン、プラスミン、プラスミノーゲン活性化因子、及び線維素溶解阻害剤を含む。プラスミノーゲン活性化因子には、組織型プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)、及びウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子(u-PA)が含まれる。t-PAはセリンプロテアーゼであり、血管内皮細胞によって合成される。t-PAはプラスミノーゲンを活性化し、このプロセスは主にフィブリンで行われる。ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子(u-PA)は、尿細管上皮細胞と血管内皮細胞によって産生され、補因子としてフィブリンを必要とすることなくプラスミノーゲンを直接活性化することができる。プラスミノーゲン(PLG)は肝臓で合成される。血液が凝固すると、PLGはフィブリンネットに大量に吸着され、t-PAまたはu-PAの作用によりプラスミンに活性化されて線維素溶解を促進する。プラスミナーゼ(PL)はセリンプロテアーゼであり、フィブリンとフィブリノーゲンを分解し、様々な凝固因子V、VIII、X、VII、XI、IIなどを加水分解し、プラスミノーゲンをプラスミンに変換し、補体を加水分解するなどの作用がある。線維素溶解阻害剤には、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤(PAI)、及びα2-抗チプラスミン(α2-AP)が含まれる。PAIには主にPAI-1とPAI-2の2つの形態があり、t-PAに1:1の比率で特異的に結合し、それによってそれを不活性化すると同時にPLGを活性化することができる。α2-APは肝臓で合成され、PLと1:1の比率で結合して複合体を形成し、それによってPL活性を阻害する。FXIIIはα2-APをフィブリンと共有結合させ、それによってPLに対するフィブリンの感受性を弱める。インビボでの線維素溶解系の活性を阻害する物質としては、PAI-1、補体C1阻害剤、α2抗プラスミン、及びα2-マクログロブリンが挙げられる。
【0036】
本明細書で使用される「プラスミノーゲン活性化経路の成分」という用語は、
1、プラスミノーゲン、Lys-プラスミノーゲン、Glu-プラスミノーゲン、マイクロプラスミノーゲン(micro-plasminogen)、delta-プラスミノーゲン、それらの変異体または類縁体;
2、プラスミン及びそれらの変異体または類縁体;及び
3、プラスミノーゲン活性化剤、例えば、tPA及びuPA、ならびにtPAまたはuPAの1つ以上のドメイン(1つ以上のkringleドメイン及びタンパク質加水分解ドメインなど)を含むtPAまたはuPA変異体及び類縁体をカバーする。
【0037】
上記プラスミノーゲン、プラスミン、tPA及びuPAの「変異体」は、すべての天然に存在するヒトの遺伝的変異体及びこれらのタンパク質の他の哺乳動物型、並びに、例えば、1~100、1~90、1~80、1~70、1~60、1~50、1~45、1~40、1~35、1~30、1~25、1~20、1~15、1~10、1~5、1~4、1~3、1~2、1個のアミノ酸を追加、削除、及び/または置換されてかつ依然としてプラスミノーゲン活性、プラスミン活性、tPAまたはuPA活性を有するタンパク質を含む。例えば、プラスミノーゲン活性、プラスミン活性、tPAまたはuPAの「変異体」は、例えば、1~100、1~90、1~80、1~70、1~60、1~50、1~45、1~40、1~35、1~30、1~25、1~20、1~15、1~10、1~5、1~4、1~3、1~2、1個の保存的アミノ酸によって置換されて得られるこれらのタンパク質の突然変異体を含む。
【0038】
本発明の「プラスミノゲン変異体」は、配列2、6、8、10または12と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、且つ依然としてプラスミノーゲン活性(例えば、タンパク質加水分解活性、またはリジン結合活性、またはタンパク質分解活性及びリジン結合活性)を有するタンパク質をカバーする。例えば、本発明の「プラスミノーゲン変異体」は、配列2、6、8、10または12に基づいて、1~100、1~90、1~80、1~70、1~60、1~50、1~45、1~40、1~35、1~30、1~25、1~20、1~15、1~10、1~5、1~4、1~3、1~2、1個のアミノ酸を追加、削除、及び/または置換し、且つ依然としてプラスミノーゲン活性(例えば、タンパク質加水分解活性、またはリジン結合活性、またはタンパク質分解活性及びリジン結合活性)を有するタンパク質であり得る。具体的には、本発明のプラスミノーゲン変異体は、すべての天然に存在するヒトの遺伝的変異体及びこれらのタンパク質の他の哺乳動物型、並びに、例えば、1~100、1~90、1~80、1~70、1~60、1~50、1~45、1~40、1~35、1~30、1~25、1~20、1~15、1~10、1~5、1~4、1~3、1~2、1個のアミノ酸を保存的置換によって得られるこれらのタンパク質の突然変異体を含む。
【0039】
本発明のプラスミノーゲンは、霊長類動物またはげっ歯類動物に由来するヒトプラスミノーゲンのオルソログ、または依然プラスミノーゲン活性(例えば、タンパク質加水分解活性、またはリジン結合活性、またはタンパク質分解活性及びリジン結合活性)を保持した変異体、例えば、配列2、6、8、10または12に示されるプラスミノーゲン、例えば、配列2に示されるヒト天然プラスミノーゲンであり得る。
【0040】
上記プラスミノーゲン、プラスミン、tPA及びuPAの「類縁体」はそれぞれ、プラスミノーゲン、プラスミン、tPAまたはuPAと実質的に同様の効果を提供する化合物を含む。
【0041】
上記プラスミノーゲン、プラスミン、tPA及びuPAの「変異体」及び「類縁体」は、1つ以上のドメイン(例えば、1つ以上のkringleドメイン及びタンパク質加水分解ドメイン)を含むプラスミノーゲン、プラスミン、tPA及びuPAの「変異体」及び「類縁体」をカバーする。例えば、プラスミノーゲンの「変異体」及び「類縁体」は、1つ以上のプラスミノーゲンドメイン(例えば、1つ以上のkringleドメイン及びタンパク質加水分解ドメイン)を含むプラスミノーゲン変異体及び類縁体、例えば、ミニプラスミノーゲン(mini-plasminogen)をカバーする。プラスミンの「変異体」及び「類縁体」は、1つ以上のプラスミンドメイン(例えば、1つまたは複数のkringleドメイン及びタンパク質加水分解ドメイン)を含むミニプラスミン(mini-plasmin)やδ-プラスミン(delta-plasmin)などのプラスミンの「変異体」及び「類縁体」をカバーする。
【0042】
上記プラスミノーゲン、プラスミン、tPAまたはuPAの「変異体」または「類縁体」がそれぞれプラスミノーゲン、プラスミン、tPAまたはuPAの活性を有するかどうか、またはそれらがプラスミノーゲン、プラスミン、tPAまたはuPAと実質的に同様の効果をそれぞれ提供するかどうかは、当技術分野で知られている方法、例えば、酵素記録法(enzymography)、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)及びFACS(蛍光活性化細胞ソーティング法)を使用して、活性化されたプラスミン活性のレベルによって測定できる。例えば、Ny,A.,Leonardsson,G.,Hagglund,A.C,Hagglof,P.,Ploplis,V.A.,Carmeliet,P. and Ny,T. (1999). Ovulation inplasminogen-deficient mice. Endocrinology 140,5030-5035;Silverstein RL, Leung LL, Harpel PC, Nachman RL (November 1984). “Complex formation of platelet thrombospondin with plasminogen. Modulation of activation by tissue activator”. J. Clin. Invest. 74 (5): 1625-33;Gravanis I, Tsirka SE (February 2008). “Tissue-type plasminogen activator as a therapeutic target in stroke”. Expert Opinion on Therapeutic Targets. 12 (2): 159-70;Geiger M, Huber K, Wojta J, Stingl L, Espana F, Griffin JH, Binder BR (Aug 1989). “Complex formation between urokinase and plasma protein C inhibitor in vitro and in vivo”. Blood. 74 (2): 722-8から選ばれる文献に記載されている方法を参照して測定することができる。
【0043】
本発明の一部の実施形態において、本発明の「プラスミノーゲン活性化経路の成分」はプラスミノーゲンであり、Glu-プラスミノーゲン、Lys-プラスミノーゲン、ミニプラスミノーゲン、マイクロプラスミノーゲン、δ-プラスミノーゲンまたはそれらのプラスミノーゲン活性(例えば、タンパク質加水分解活性、またはリジン結合活性、またはタンパク質分解活性及びリジン結合活性)を保持した変異体である。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは、天然または合成のヒトプラスミノーゲン、または依然プラスミノーゲン活性を保持した保存的突然変異体若しくはそのフラグメントである。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは、霊長類動物またはげっ歯類動物に由来するヒトプラスミノーゲンのオルソログ、または依然プラスミノーゲン活性を保持した保存的突然変異体若しくはそのフラグメントである。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンのアミノ酸は配列2、6、8、10または12に示される。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンはヒト天然プラスミノーゲンである。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは配列2に示されるヒト天然プラスミノーゲンである。
【0044】
「プラスミノーゲンを直接活性化できる、若しくはプラスミノーゲン活性化経路の上流成分を活性化することによってプラスミノーゲンを間接に活性化できる化合物」とは、プラスミノーゲンを直接活性化できる、若しくはプラスミノーゲン活性化経路の上流成分を活性化することによってプラスミノーゲンを間接に活性化できる任意の化合物を指し、例えば、tPA、uPA、ストレプトキナーゼ、サルプラーゼ、アルテプラーゼ、レテプラーゼ、テネクテプラーゼ、アニストレプラーゼ、モンテプラーゼ、ラノテプラーゼ、パミテプラーゼ、及びスタフィロキナーゼが挙げられる。
【0045】
本発明の「線維素溶解阻害剤の拮抗薬」は、線維素溶解阻害剤の作用に拮抗し、その作用を弱め、遮断し、阻止する化合物である。前記線維素溶解阻害剤は、例えば、PAI-1、補体C1阻害剤、α2-抗プラスミン、及びα2-マクログロブリンである。前記拮抗剤は、PAI-1、補体C1阻害剤、α2-抗プラスミンもしくはα2-マクログロブリンの抗体、または、例えばPAI-1、補体C1阻害剤、α2-抗プラスミンもしくはα2-マクログロブリンの発現を遮断またはダウンレギュレートするアンチセンスRNAもしくはミニRNA、または、PAI-1、補体C1阻害剤、α2-抗プラスミンまたはα2-マクログロブリンの結合部位を占めるが、PAI-1、補体C1阻害剤、α2-抗プラスミンまたはα2-マクログロブリンの機能を持たない化合物、または、PAI-1、補体C1阻害剤、α2-抗プラスミンもしくはα2-マクログロブリンの結合ドメイン及び/または活性ドメインをブロックする化合物である。
【0046】
プラスミンはプラスミノゲン活性化系(PA系)の重要な成分である。それは広スペクトルのプロテアーゼであり、細胞外マトリックス(ECM)の幾つかの成分を加水分解することができ、これらの成分はフィブリン、ゼラチン、フィブロネクチン、ラミニン及びプロテオグリカンを含む。また、プラスミンは一部のプロマトリックスメタロプロテアーゼ(pro-MMP)を活性化させて活性のあるマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)にすることができる。そのためプラスミンは細胞外タンパク加水分解作用の一つの重要な上流調節因子である。プラスミンはプラスミノゲンが二種類の生理性のPAs:組織型プラスミノゲン活性化剤(tPA)またはウロキナーゼプラスミノゲン活性化剤(uPA)をタンパク質加水分解することで形成されるものである。プラスミノゲンは血漿及び他の体液中において、相対的レベルが比較的高く、従来的にはPA系の調節は主にPAの合成及び活性レベルよって実現されると考えられている。PA系成分の合成は異なる要素によって厳格な調節を受け、例えばホルモン、成長因子及びサイトカインである。また、この他に、プラスミンとPAsの特定の生理的阻害剤が存在する。プラスミンの主な阻害剤はα2-抗プラスミン(α2-antiplasmin)である。PAsの活性は、uPAとtPAのプラスミノーゲン活性化剤阻害剤-1(PAI-1)に同時に阻害され、uPAを主に阻害するプラスミノーゲン活性化剤阻害剤-2(PAI-2)によって調節される。一部の細胞表面には直接加水分解する活性のあるuPA特異性細胞表面受容体(uPAR)がある。
【0047】
プラスミノゲンは単一鎖の糖タンパクであり、791個のアミノ酸からなり、分子量は約92kDaである。プラスミノゲンは主に肝臓で合成され、大量に細胞外液に存在している。血漿中に含まれるプラスミノゲンの含有量は約2μMである。そのためプラスミノゲンは組織及び体液中のタンパク質加水分解活性の大きな潜在的な由来である。プラスミノゲンには二種類の分子の形が存在する:グルタミン酸-プラスミノゲン(Glu-plasminogen)及びリジン-プラスミノゲン(Lys-plasminogen)である。天然的に分泌され及び分解していない形のプラスミノゲンは一つのアミノ基末端(N-末端)グルタミン酸を有し、そのためグルタミン酸-プラスミノゲンと称される。しかし、プラスミンが存在する場合、グルタミン酸-プラスミノゲンはLys76-Lys77においてリジン-プラスミノゲンに加水分解される。グルタミン酸-プラスミノゲンと比較して、リジン-プラスミノゲンはフィブリンとより高い親和力を有し、さらにより高い速度でPAによって活性化されることができる。この二種類の形のプラスミノゲンのArg560-Val561ペプチド結合はuPAまたはtPAによって切断され、これによりジスルフィド結合によって接続された二重鎖プロテアーゼプラスミンの形成をもたらす。プラスミノゲンのアミノ基末端部分は五つの相同三環を含み、即ちいわゆるkringlesであり、カルボキシル基末端部分はプロテアーゼドメインを含む。一部のKringlesはプラスミノゲンとフィブリン及びその阻害剤α2-APの特異的相互作用を介在するリジン結合部位を含む。最も新しく発見されたのは38kDaのフィブリンプラスミノゲンフラグメントであり、kringlel-4を含み、血管生成の有効的な阻害剤である。このフラグメントはアンギオスタチン(Angiostatin)と命名され、幾つかのプロテアーゼ加水分解プラスミノゲンから生成される。
【0048】
プラスミンの主な基質はフィブリンであり、フィブリンの溶解は病理性血栓の形成を予防するキーポイントである。プラスミンはさらにECMの幾つかの成分に対する基質特異性を有し、これらはラミニン、フィブロネクチン、プロテオグリカン及びゼラチンを含み、これはプラスミンがECM再建において重要な作用を有することを示している。間接的に、プラスミンはさらにMMP-1、MMP-2、MMP-3及びMMP-9を含むいくつかのプロテアーゼ前駆体を活性プロテアーゼに変換することによりECMのその他の成分を分解する。そのため、以下のように提唱する人がいる。プラスミンは細胞外タンパク加水分解の重要な上流調節因子である。また、プラスミンはいくつかの潜在的な形の成長因子を活性化させる能力を有する。体外において、プラスミンはさらに補体系の成分を加水分解させて走化性の補体フラグメントを放出することができる。
【0049】
「プラスミン」は血液中に存在する非常に重要な酵素であり、フィブリン凝塊をフィブリン分解生成物及びD-二量体に加水分解する。
【0050】
「プラスミノーゲン」はプラスミンの酵素前駆体の形であり、swiss prot中の配列に基づいて、シグナルペプチドを含む天然ヒト由来プラスミノーゲンのアミノ酸配列(配列4)として計算によれば810個のアミノ酸からなり、分子量は約90kDであり、主に肝臓において合成され且つ血液中で循環できる糖タンパク質であり、該アミノ酸配列をコードするcDNA配列は配列3に示される通りである。フルサイズのプラスミノーゲンは七つのドメインを含む:C末端に位置するセリンプロテアーゼドメイン、N末端に位置するPan Apple(PAp)ドメイン及び5つのKringleドメイン(Kringle1-5)を含む。swiss prot中の配列を参照すれば、そのシグナルペプチドは残基Met1-Gly19を含み、Papは残基Glu20-Val98を含み、Kringle1は残基Cys103-Cys181を含み、Kringle2は残基Glu184-Cys262を含み、Kringle3は残基Cys275-Cys352を含み、Kringle4は残基Cys377-Cys454を含み、Kringle5は残基Cys481-Cys560を含む。NCBIデータによれば、セリンプロテアーゼドメインは残基Val581-Arg804を含む。
【0051】
Glu-プラスミノーゲンは人の天然のフルサイズのプラスミノーゲンであり、791個のアミノ酸からなる(19個のアミノ酸からなるシグナルペプチドを含まない)。該配列をコードするcDNA配列は配列1に示される通りであり、そのアミノ酸配列は配列2に示される通りである。体内において、さらにGlu-プラスミノーゲンの第76-77位のアミノ酸の位置で加水分解することにより形成されたLys-プラスミノーゲンが存在し、例えば配列6に示されるものであり、該アミノ酸配列をコードするcDNA配列は配列5が示す通りである。Delta-プラスミノーゲン(δ-plasminogen)はフルサイズのプラスミノーゲンにKringle2-Kringle5構造の欠損が生じているフラグメントであり、Kringle1及びセリンプロテアーゼドメインしか含有せず(プロテアーゼドメイン(protease domain、PD)とも呼ばれる)、δ-プラスミノーゲンのアミノ酸配列(配列8)を報告している文献があり、該アミノ酸配列をコードするcDNA配列は例えば配列7である。ミニプラスミノーゲン(Mini-plasminogen)はKringle5及びセリンプロテアーゼドメインからなり、残基Val443-Asn791(シグナルペプチドを含まないGlu-プラスミノーゲン配列のGlu残基を開始アミノ酸とする)について文献が報告しており、そのアミノ酸配列は配列10に示される通りであり、該アミノ酸配列をコードするcDNA配列は配列9が示す通りである。しかしマイクロプラスミノーゲン(Micro-plasminogen)はセリンプロテアーゼドメインのみ含有し、そのアミノ酸配列は残基Ala543-Asn791(シグナルペプチドを含まないGlu-プラスミノーゲン配列のGlu残基は開始アミノ酸である)と文献が報告し、特許文献CN102154253Aはその配列が残基Lys531-Asn791を含むと開示し(シグナルペプチドを含まないGlu-プラスミノーゲン配列のGlu残基を開始アミノ酸とする)、本特許出願において、マイクロプラスミノーゲンの配列は特許文献CN102154253Aを参照でき、そのアミノ酸配列は配列12に示される通りであり、該アミノ酸配列をコードするcDNA配列は配列11に示される通りである。
【0052】
全長プラスミノーゲンの構造は、Aisinaらの論文にも記載されている(Aisina R B,Mukhametova L I.Structure and function of plasminogen/plasmin system[J].Russian Journal of Bioorganic Chemistry,2014,40(6):590-605)。Aisinaらの前記文章によれば、プラスミノーゲンにはKringle 1、2、3、4、5ドメインとセリンプロテアーゼドメイン(プロテアーゼドメイン(protease domain、PD)とも呼ばれる)が含まれ、Kringlesは、プラスミノーゲンが低分子量及び高分子量のリガンドに結合する役割を担っており、その結果、プラスミノーゲンがよりオープンな構成に変換され、より活性化しやすくなり、プロテアーゼドメイン(PD)は、残基Val562-Asn791であり、tPAとUPAはプラスミノーゲンのArg561-Val562位活性化結合を特異的に切断し、それによってプラスミノーゲンがプラスミンを形成できる。
【0053】
本発明の「プラスミン」と「フィブリンプラスミン」、「繊維タンパクプラスミン」は互いに置き換えて使用でき、その意味は同じである。「プラスミノーゲン」と「フィブリンプラスミノーゲン」、「繊維タンパクプラスミノーゲン」は互いに置き換えて使用でき、その意味は同じである。
【0054】
本願において、前記プラスミノーゲンの「欠乏」とは、被験者体内のプラスミノーゲンの含有量または活性が正常な人より低く、前記被験者の正常な生理学的機能に影響を及ぼすのに十分に低いことをいう。前記プラスミノーゲンの「欠乏」の意味は、被験者体内のプラスミノーゲンの含有量または活性が正常な人より明らかに低く、活性または発現が極微量であり、外部供給によってのみ正常な生理学的機能を維持できることである。
【0055】
当業者は以下のように理解できる。本発明のプラスミノーゲンのすべての技術構成はプラスミンに適用でき、そのため、本発明に記載の技術構成はプラスミノーゲン及びプラスミンをカバーするものである。循環プロセスにおいて、プラスミノーゲンは閉鎖した非活性コンフォメーションであるが、血栓または細胞表面に結合した際、プラスミノーゲン活性化剤(plasminogen activator,PA)の介在下において、開放性のコンフォメーションを有する活性プラスミンとなる。活性を有するプラスミンはさらにフィブリン凝塊をフィブリン分解生成物及びD-二量体に加水分解させ、これにより血栓を溶解させる。そのうちプラスミノーゲンのPApドメインはプラスミノーゲンを非活性閉鎖コンフォメーションにする重要なエピトープであり、しかしKRドメインは受容体及び基質上のリジン残基と結合できるものである。プラスミノーゲン活性化剤としての酵素は、既に複数種類知られ、組織プラスミノーゲン活性化剤(tPA)、ウロキナーゼプラスミノーゲン活性化剤(uPA)、カリクレイン及び凝結因子XII(ハーゲマン因子)などを含む。
【0056】
「プラスミノーゲン活性フラグメント」とは、基質のターゲット配列中のリジンに結合する活性(リジン結合活性)フラグメント、またはタンパク質加水分解機能を発揮する活性(タンパク質加水分解活性)フラグメント、またはタンパク質加水分解活性とリジン結合活性との両方を有するフラグメントを指す。本発明のプラスミノーゲンに関する技術構成は、プラスミノーゲンをプラスミノーゲンの活性フラグメントで置き換える技術構成を包含する。いくつかの実施形態では、本発明のプラスミノーゲン活性フラグメントは、プラスミノーゲンのセリンプロテアーゼドメインを含むか、またはプラスミノーゲンのセリンプロテアーゼドメインからなり、好ましくは、本発明のプラスミノーゲン活性フラグメントは、配列14を含むか、または配列14と少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、または配列14と少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%の同一性を有するアミノ酸配列からなる。一部の実施形態において、本発明のプラスミノーゲン活性フラグメントは、Kringle 1、Kringle 2、Kringle 3、Kringle 4、及びKringle 5から選択される1つ以上のドメインを含むか、またはKringle 1、Kringle 2、Kringle 3、Kringle 4、及びKringle 5から選択される1つ以上のドメインからなる。いくつかの実施形態では、本発明のプラスミノーゲンは、上記のプラスミノーゲンの活性フラグメントを含むタンパク質を含む。
【0057】
現在、血液中のプラスミノーゲン及びその活性測定方法は組織プラスミノーゲン活性化剤の活性に対する測定(t-PAA)、血漿組織プラスミノーゲン活性化剤抗原に対する測定(t-PAAg)、血漿組織プラスミノーゲン活性に対する測定(plgA)、血漿組織プラスミノーゲン抗原に対する測定(plgAg)、血漿組織プラスミノーゲン活性化剤の阻害物活性に対する測定、血漿組織プラスミノーゲン活性化剤の阻害物抗原に対する測定、血漿プラスミン-抗プラスミン複合物に対する測定(PAP)を含む。最もよく見られる測定方法は発色基質法である:測定対象(被験者)の血漿中にストレプトキナーゼ(SK)と発光基質を添加し、測定対象の血漿中のPLGはSKの作用下においてPLMとなり、後者は発光基質に作用し、それから分光光度計で測定し、吸光度の増加はプラスミノーゲンの活性と正比例の関係となる。この他にも免疫化学法、ゲル電気泳動法、免疫比濁法、放射免疫拡散法などを用いて血液中のプラスミノーゲン活性に対して測定を行うことができる。
【0058】
「オルソログ(ortholog)」とは異なる種どうしのホモログであり、タンパク質の相同物もDNAの相同物も含む。それは具体的に異なる種どうしの同じ祖先の遺伝子から進化して得られるタンパク質または遺伝子を言う。本発明のプラスミノーゲンはヒト天然プラスミノーゲンを含み、さらには異なる種に由来する、プラスミノーゲン活性を有するプラスミノーゲンオルソログを含む。
【0059】
「保存的置換バリアント」とはそのうちの一つの指定されたアミノ酸残基が改変されたがタンパク質または酵素の全体のコンフォメーション及び機能を変えないものであり、これは類似の特性(例えば酸性、アルカリ性、疎水性など)のアミノ酸で親タンパク質中のアミノ酸配列中のアミノ酸を置換するものを含むがこれらに限られない。類似の性質を有するアミノ酸は知られている通りである。例えば、アルギニン、ヒスチジン及びリジンは親水性のアルカリ性アミノ酸であり且つ互いに置き換えることができる。同じように、イソロイシンは疎水アミノ酸であり、ロイシン、メチオニンまたはバリンによって置換されることができる。そのため、機能の類似する二つのタンパク質またはアミノ酸配列の類似性は異なる可能性もある。例えば、MEGALIGNアルゴリズムに基づいて70%~99%の類似性(同一性)を有する。「保存的置換バリアント」はさらにBLASTまたはFASTAアルゴリズムに基づいて60%以上のアミノ酸同一性を有するポリペプチドまたは酵素を含み、75%以上に達すればさらによく、最も好ましくは85%以上に達し、さらには90%以上に達するのが最も好ましく、さらに天然または親タンパク質または酵素と比較して同じまたは基本的に類似する性質または機能を有する。
【0060】
「分離された」プラスミノーゲンとは天然環境から分離及び/または回収されたプラスミノーゲンタンパク質である。いくつかの実施形態において、前記プラスミノーゲンは(1)90%を超える、95%を超える、または98%を超える純度(重量で計算した場合)になるまで精製し、例えばLowry法によって決まるもので、例えば99%(重量で計算した場合)を超えるまで精製する、(2)少なくともスピニングカップ配列分析装置によりN末端または内部アミノ酸配列の少なくとも15個の残基が得られる程度になる精製する、または(3)同質性になるまで精製する。該同質性はクマシーブリリアントブルーまたは銀染色により還元性または非還元性条件下のドデシル硫酸ナトリウムーポリアクリルアミノゲル電気泳動(SDS-PAGE)によって決まるものである。分離されたプラスミノーゲンはバイオエンジニアリング技術により組み換え細胞から製造され、さらに少なくとも一つの精製ステップで分離されたプラスミノーゲンを含む。
【0061】
用語の「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」は本明細書において互いに置き換えて使用でき、いかなる長さのアミノ酸の重合体を指し、遺伝的にコードされた及び非遺伝的にコードされたアミノ酸、化学的または生化学的に修飾されまたは派生したアミノ酸、及び修飾されたペプチド主鎖を有するポリペプチドを含む。該用語は融合タンパク質を含み、異種性アミノ酸配列を有する融合タンパク質を含むがこれに限られず、異種性と同種性由来のリーダー配列(N端メチオニン残基を有するあるいは有しない)を含む融合物;等々である。
【0062】
参照ペプチド配列の「アミノ酸配列同一性パーセンテージ(%)」の定義は、必要に応じてギャップを導入することで最大のパーセンテージ配列の同一性を実現した後、如何なる保存的な置換も配列同一性の一部として見なさない場合、候補配列中における参照ポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同じアミノ酸残基のパーセンテージである。パーセンテージのアミノ酸配列の同一性を測定することを目的とした比較は本分野の技術範囲における複数種類の方式によって実現でき、例えば公衆が入手できるコンピュータソフトウエア、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGNまたはMegalign(DNASTAR)ソフトウエアによって実現できる。当業者は配列をアライメントするための適切なパラメータを決めることができ、該パラメータが比較対象の配列のフルサイズに対して最大比較の要求を実現するための如何なるアルゴリズムも含む。しかし、本発明の目的のために、アミノ酸配列の同一性パーセンテージは配列比較コンピュータソフトウエアALIGN-2により得られるものである。
【0063】
ALIGN-2を用いることによりアミノ酸配列を比較する場合、所定のアミノ酸配列Aの所定のアミノ酸配列Bに対するアミノ酸配列同一性%(または所定のアミノ酸配列Bに対して、と、またはについてのあるアミノ酸配列と同一性を有する又は含む所定のアミノ酸配列Aともいう)は以下のように計算される:
分数X/Y×100
【0064】
ここで、Xは配列アライメントプログラムALIGN-2において該プログラムのA及びBのアライメントにおいて同一でマッチングすると評価したアミノ酸残基の数であり、且つYはBにおけるアミノ酸残基の総数である。以下のように理解するべきである:アミノ酸配列Aの長さとアミノ酸配列Bの長さが等しくない場合、AのBに対するアミノ酸配列の同一性%は、BのAに対するアミノ酸配列同一性%とは異なる。特に断りのない限り、本文中において使用するすべてのアミノ酸配列同一性値%は前記の段落に記載の通りであり、ALIGN-2コンピュータプログラムによって得られるものである。
【0065】
本文において使用されているように、用語の「治療」及び「処理」は期待される薬理及び/または生理的効果が得られることを言う。前記効果は疾患またはその症状を完全または一部予防すること、及び/または疾患及び/またはその症状を一部または完全に治癒するものとすることができる。さらに以下を含む:(a)疾患が被験者の体内で発生することを予防し、前記被験者は疾患の要因を持っているが、該疾患を有すると診断されていない状況であること;(b)疾患を抑制し、その形成を阻害すること;及び(c)疾患及び/またはその症状を減軽し、即ち疾患及び/またはその症状を減退させること。
【0066】
用語の「個体」、「被験者」及び「患者」は本明細書中において互いに置き換えて使用でき、哺乳動物を指し、ネズミ(ラット、マウス)、ヒト以外の霊長類、ヒト、イヌ、ネコ、有蹄動物(例えばウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ)などを含むがこれらに限られない。
【0067】
「治療上有効量」または「有効量」とは、哺乳動物またはその他の被験者に投与して疾患の治療に用いられる際に疾患の前記予防及び/または治療を実現できるプラスミノーゲンの量である。「治療上有効量」は使用するプラスミノーゲン、治療しようとする被験者の疾患及び/または症状の重症度及び年齢、体重などに従って変化するものである。
【0068】
本発明のプラスミノーゲンの調製
プラスミノーゲンは治療の用途に用いられるために、自然界から分離及び精製されるものでもよく、標準的な化学ペプチド合成技術によって合成することでもよい。化学的手法によりポリペプチドを合成する際、液相または固相で合成を行うことができる。固相ポリペプチド合成(SPPS)(配列のC末端アミノ酸を不溶性支持体に附着させ、順番に配列中の残りのアミノ酸を添加する)はプラスミノーゲンの化学的合成に適したものである。各種形式のSPPS、例えばFmoc及びBocは、プラスミノーゲンの合成に用いることができる。固相合成に用いられる技術は以下に記載されている:Barany及びSolid-Phase Peptide Synthesis;3-284ページ、The Peptides:Analysis,Synthesis,Biology.第二巻:Special Methods in Peptide Synthesis,Part A.,Merrifield,tら J.Am.Chem.Soc.,85:2149-2156(1963);Stewartら,Solid Phase Peptide Synthesis,2nd ed.Pierce Chem.Co.,Rockford,Ill.(1984);及びGanesan A.2006 Mini Rev.Med Chem.6:3-10及びCamarero JAら 2005 Protein Pept Lett.12:723-8。簡単に言えば、その上にペプチド鎖が構築されている機能性ユニットにより不溶性の多孔ビーズを処理する。カップリング/脱保護の繰り返し循環後に、附着した固相の遊離N末端アミンとN保護を受けている単一のアミノ酸ユニットをカップリングさせる。それから、該ユニットを脱保護し、他のアミノ酸と接続する新しいN末端アミンを露出させる。ペプチドを固相上に固定したままにし、それからそれを切除する。
【0069】
標準的な組み換え方法により本発明のプラスミノーゲンを生産する。例えば、プラスミノーゲンをコードする核酸を発現ベクター中に挿入し、それと発現ベクター中の制御配列を操作可能に接続させる。発現制御配列はプロモーター(例えば天然に関連されているプロモーター、または異種由来のプロモーター)、シグナル配列、エンハンサーエレメント及び転写終了配列を含むが、これらに限られない。発現の制御はベクター中の真核プロモーターシステムとすることができ、前記ベクターは真核宿主細胞(例えばCOSまたはCHO細胞)を形質転換またはトランスフェクションさせる。一旦ベクターを適切な宿主に導入すれば、ヌクレオチド配列の高レベル発現及びプラスミノーゲンの収集及び精製に適した条件下において宿主を維持する。
【0070】
適切な発現ベクターは通常宿主体内において附加体または宿主染色体DNAの整合部分として複製される。通常、発現ベクターは選択マーカー(例えばアンピシリン耐性、ハイグロマイシン耐性、テトラサイクリン耐性、カナマイシン耐性またはネオマイシン耐性)を含み、インビトロで所望のDNA配列によって形質転換されたそれらの細胞に対して測定を行うことに有用である。
【0071】
大腸菌(Escherichia coli)はターゲット抗体をコードするポリヌクレオチドをクローンする原核宿主細胞の例である。その他の使用に適した微生物宿主は桿菌を含み、例えばバチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)及びその他の腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、例えばサルモネラ属(Salmonella)、セラチア属(Serratia)、及び各種シュードモナス属(Pseudomonas)種である。これらの原核宿主において、発現ベクターを生成でき、通常は宿主細胞と相容する発現制御配列(例えば複製開始点)を含むものである。また、多くの公知のプロモーターが存在し、例えば乳糖プロモーターシステム、トリプトファン(trp)プロモーターシステム、β-ラクタマーゼプロモーターシステム、またはファージλ由来のプロモーターシステムである。プロモーターは一般的に発現を制御し、必要に応じて遺伝子配列を制御する場合に、転写及び翻訳を起動するために、さらにリボソームの結合位置配列を有してもよい。
【0072】
その他の微生物、例えば酵母も発現に用いることができる。酵母(例えばサッカロミセス(S.cerevisiae))及びピキア(Pichia)が適した酵母宿主細胞の例であり、そのうちの適切な担体は必要に応じて発現制御配列(例えばプロモーター)、複製開始点、終止配列など含む。典型的なプロモーターは3-ホスホグリセリン酸キナーゼ及びその他の糖分解酵素を含む。誘導型酵母プロモーターには特にアルコール脱水素酵素、イソチトクロムC、及び麦芽糖とガラクトースの利用のための酵素のプロモーターを含む。
【0073】
微生物以外に、哺乳動物細胞(例えばインビトロ細胞培養物中において培養された哺乳動物細胞)も本発明の抗-Tau抗体(例えばかかる抗-Tau抗体をコードするポリヌクレオチド)の発現及び生成に用いることができる。例えばWinnacker,From Genes to Clones,VCH Publishers,N.Y.,N.Y.(1987)参照。適した哺乳動物宿主細胞はCHO細胞系、各種Cos細胞系、HeLa細胞、骨髄腫細胞系、及び形質転換されたB細胞またはハイブリドーマを含む。これらの細胞に用いられる発現ベクターは発現制御配列、例えば複製開始点、プロモーター、及びエンハンサー(Queenら,Immunol.Rev.89:49(1986))、及び必要とされる加工情報サイト、例えばリボソームの結合サイト、RNAの切断サイト、ポリアデノシン酸化サイト、及び転写ターミネーター配列を含むことができる。適切な発現制御配列の例はウサギ免疫グロブリン遺伝子、SV40、アデノウイルス、ウシ乳頭腫ウィルス、サイトメガロウイルスなど由来のプロモーターである。Coら、J.Immunol.148:1149(1992)を参照する。
【0074】
一旦(化学または組み換え的に)合成されれば、本分野の標準的な手順、例えば硫酸アンモニウム沈殿、アフィニテイカラム、カラムクロマトグラフィー、高速液相クロマトグラフィー(HPLC)、ゲル電気泳動などにより本発明に記載のプラスミノーゲンを精製することができる。該プラスミノーゲンは基本的に純粋なものであり、例えば少なくとも約80%から85%の純度で、少なくとも約85%~90%の純度で、少なくとも約90%~95%の純度で、または98%~99%の純度またはさらに純度が高いものであり、例えば汚染物を含まず、前記汚染物は例えば細胞砕片、目的抗体以外の大分子などである。
【0075】
薬物配合剤
所望の純度のプラスミノーゲンと必要に応じた薬用担体、賦形剤、または安定化剤(Remington’s Pharmaceutical Sciences,第16版,Osol,A.ed.(1980))を混合して凍結乾燥製剤または水溶液を形成して治療用の配合剤を得る。許容可能な担体、賦形剤、安定化剤は所要の用量及び濃度下において被験者に対して毒性がなく、さらに例えばリン酸塩、クエン酸塩及びその他の有機酸などの緩衝剤を含む。抗酸化剤はアスコルビン酸和メチオニンを含む;防腐剤(例えばオクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;塩化ヘキサメチレンジアミン;塩化ベンザルコニウム(benzalkonium chloride)、ベンゼトニウムクロリド;フェノール、ブタノールまたはベンジルアルコール;アルキルパラヒドロキシ安息香酸エステル、例えばメチルまたはプロピルパラヒドロキシ安息香酸エステル;ピロカテコール;レソルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;m-クレゾール);低分子量ポリペプチド(少なくとも10個の残基を有するもの);タンパク質例えば血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリン;親水性重合体、例えばポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えばグリシン、グルタミン、アスパラギン酸、ヒスチジン、アルギニンまたはリシンである;単糖、二糖及びその他の炭水化物はグルコース、マンノース、またはデキストリンを含む;キレート剤は例えばEDTAである;糖類は例えばショ糖、マンニトール、フコースまたはソルビトールである;塩形成対イオン、例えばナトリウム;金属複合体(例えば亜鉛-タンパク複合体);及び/または非イオン界面活性化剤、例えばTWEENTM、PLURONICSTMまたはポリエチレングリコール(PEG)である。好ましい凍結乾燥された抗VEGF抗体製剤は、WO97/04801に記載されており、参照により本明細書に組み込まれる。
【0076】
本発明の配合剤は治療を必要とする具体的な症状の必要とする一種類以上の活性化合物を含有してもよく、好ましくは活性が相補的で互いに副作用を有しないものである。例えば、血圧降下薬、抗不整脈薬、糖尿病治療薬などである。
【0077】
本発明のプラスミノーゲンは例えば凝集技術または界面重合によって作られるマイクロカプセル中に内包ことができ、例えば、膠質薬物輸送系(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン剤、ナノ粒子及びナノカプセル)中に入れまたは粗エマルジョン状液中のヒドロキシメチルセルロースまたはゲルーマイクロカプセル及びポリ―(メタアクリル酸メチル)マイクロカプセル中に入れることができる。これらの技術はRemington′s Pharmaceutical Sciences 16th edition,Osol,A.Ed.(1980)に開示されている。
【0078】
体内に投与することに用いられる本発明のプラスミノーゲンは必ず無菌である必要がある。これは凍結乾燥及び再度配合する前または後に除菌濾過膜で濾過することで容易に実現できる。
【0079】
本発明のプラスミノーゲンは緩衝製剤を調製できる。緩衝製剤の適切な実例は一定の形状を有し且つ糖タンパクを含む固体の疎水性重合体の半透過マトリックスを含み、例えば膜またはマイクロカプセルである。徐放性マトリックスの実例はポリエステル、水性ゲル(例えばポリ(2-ヒドロキシエチル-メタアクリル酸エステル)(Langerら,J.Biomed.Mater.Res.,15:167-277(1981);Langer,Chem.Tech.,12:98-105(1982))またはポリ(ビニールアルコール)、ポリラクチド(米国特許3773919,EP 58,481)、L-グルタミン酸とエチル-L-グルタミン酸の共重合体(Sidman,ら,Biopolymers 22:547(1983)),分解できないエチレン-ビニルアセテート(ethylene-vinyl acetate)(Langer,ら,出所は前記と同じ)、または分解可能な乳酸-ヒドロキシ酢酸共重合体、例えばLupron DepotTM(乳酸-ヒドロキシ酢酸共重合体及びリュープロレリン(leuprolide)酢酸エステルからなる注射可能なミクロスフェア体)、及びポリD-(-)-3-ヒドロキシ酪酸を含む。重合体、例えばエチレン-酢酸エチル及び乳酸-ヒドロキシ酢酸は、持続的に分子を100日間以上放出することができ、しかしいくつかの水性ゲルがタンパク質を放出する時間は比較的短い。関連のメカニズムに応じてタンパク質を安定化させる合理的なストラテジーにより設計できる。例えば、凝集のメカニズムが硫化ジスルフィド結合の交換によって分子間S-S結合を形成するであれば、メルカプト基残基を修飾することにより、酸性溶液中から凍結乾燥させ、湿度を制御し、適切な添加剤を用いて、及び特定の重合体基質組成物を開発することで安定化を実現できる。
【0080】
投与及び使用量
異なる方式、例えば静脈内、腹膜内、皮下、頭蓋骨内、髄腔内、動脈内(例えば頸動脈)、筋肉内により本発明の薬物組成物の投与を実現できる。
【0081】
胃腸外での投与に用いられる製造物は無菌水性または非水性溶液、懸濁液及び乳剤を含む。非水性溶媒の例はプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、例えばオリーブオイルのような植物油、及び注射可能な有機エステル、例えばオレイン酸エチルである。水性担体は水、アルコール性/水性溶液、乳剤または懸濁液を含み、食塩水及び緩衝媒介を含む。胃腸外媒介物は塩化ナトリウム溶液、リンガ―デキストロース、デキストロース及び塩化ナトリウム、または固定油である。静脈内媒介物は液体及び栄養補充物、電気分解補充物などを含む。されには防腐剤及びその他の添加剤、例えば抗微生物製剤、抗酸化剤、キレート剤、不活性ガスなども存在してもよい。
【0082】
医療関係者は各種臨床的要素により用量案を決めることができる。例えば医学分野で公知のように、任意の患者の用量は複数の要素によって決められ、これらの要素は患者の体型、体表面積、年齢、投与される具体的な化合物、性別、投与回数及び経路、全体の健康度、及び同時に投与するその他の薬物を含む。本発明が含有するプラスミノーゲンの薬物組成物の用量の範囲は例えば被験者体重に対して毎日約0.0001~2000mg/kgであり、または約0.001~500mg/kg(例えば0.02mg/kg,0.25mg/kg,0.5mg/kg,0.75mg/kg,10mg/kg,50mg/kgなど)とすることができる。例えば、用量は1mg/kg体重または50mg/kg体重または1-50mg/kgの範囲とすることができ、または少なくとも1mg/kgである。この例示性の範囲より高いまたは低い用量もカバーされ、特に前記の要素を考慮した場合である。前記範囲中の中間用量も本発明の範囲内に含まれるものである。被験者は毎日、隔日、毎週または経験分析によって決められた任意のスケジュール表に従ってに従ってこのような用量を投与できる。例示的な用量のスケジュール表は連続数日1-10mg/kg投与することである。本発明の薬物の投与過程において治療効果及び安全性をリアルタイムに評価する必要がある。
【0083】
製品または薬物キット
本発明の一つの実施形態は製品または薬物キットに係るものであり、糖尿病に起因する心血管疾患及び関連疾患を治療するための本発明のプラスミノーゲンまたはプラスミンを含有する。前記製品は好ましくは一つの容器、ラベルまたはプロトコルを含む。適切な容器はボトル、小瓶、注射器などである。容器は各種材料例えばガラスまたはプラスチックから作られることができる。前記容器は組成物を含有し、前記組成物は本発明の疾患または症状を有効に治療し且つ無菌の入口を有する(例えば前記容器は静脈輸液用パックまたはバイアルであり、皮下注射針によって貫通される栓を含む)。前記組成物中の少なくとも一種類の活性化剤がプラスミノーゲン/プラスミンである。前記容器上にあるまたは添付されているラベルは前記組成物を本発明の糖尿病に起因する心血管疾患及び関連疾患の治療に用いられると説明するものである。前記製品はさらに薬用緩衝液を含有する第二容器を含み、前記薬用緩衝液は例えばリン酸塩緩衝の食塩水、リンガー溶液及びグルコース溶液を含む。さらには商業及び使用者の角度から見ると必要とされるその他の物質、即ちその他の緩衝液、希釈剤、濾過物、針及び注射器を含むことができる。また、前記製品は使用説明を有するプロトコルを含み、これは例えば前記組成物の使用者にプラスミノーゲン組成物及び疾患の治療に伴うその他の薬物を患者に投与することを指示するものである。
【実施例
【0084】
以下の実施例で使用されるヒトプラスミノーゲンは、ヒトドナーの血漿に由来し、以下の文書:KennethC Robbins,Louis Summaria,David Elwyn et al.Further Studies on the Purification and Characterization of Human Plasminogen and Plasmin.Journal of Biological Chemistry,1965,240(1):541-550;Summaria L,Spitz F,Arzadon L et al.Isolation and characterization of the affinity chromatography forms of human Glu- and Lys-plasminogens and plasmins.J Biol Chem.1976 Jun 25;251(12):3693-9;HAGAN JJ,ABLONDI FB,DE RENZO EC.Purification and biochemical properties of human plasminogen.J Biol Chem.1960 Apr;235:1005-10に記載された方法に基づき、プロセスを最適化し、ヒトドナー血漿から精製して得られた。ここでヒトプラスミノーゲン単体は98%を上回った。
【実施例1】
【0085】
実施例1は、プラスミノーゲンが脊髄圧迫損傷モデルマウスの神経損傷の修復を促進することに関するものである。
8週齢のC57メスマウス15匹を取り、体重を量ってからマウスをランダムに偽手術群、溶媒PBS投与群、プラスミノーゲン投与群の3つの群に分け、各群で5匹とした。ペントバルビタールナトリウム溶液(50mg/kg)の腹腔内注射により全てのマウスを麻酔し、背中の正中皮膚を切開し、背中のT7-T9筋肉を分離し、T7-T9椎弓板を除去した。溶媒PBS投与対照群及びプラスミノーゲン投与群に対して、微小血管クリップ(3.5×1.0mm、RWD)をT8脊髄に1分間クランプした。偽手術群に対して、硬膜損傷を避けるために椎弓板のみを除去した。すべてのマウスを手術直後に縫合し、トルフェジン(Tolfedine)(0.1mg/kg)及びペニシリンカリウム(40,000単位/kg)を筋肉内注射し、蘇るまで加熱パッドの上に置いた。手術中の感染を防ぐために、術後、マウスの自然排尿まで手作業で排尿を補助した[1]。術後30分より投与を開始し、プラスミノーゲン投与群マウスに1mg/0.1ml/匹/日でプラスミノーゲンを尾静脈注射により投与し、溶媒PBS対照群マウスに同量のPBSを同様に投与し、偽手術群のマウスには投与を行わなかった。投与し始めた日を1日目とし、投与周期は7日間とした。投与の8日目に、マウスを解剖し、脊髄T7-T9セグメントを4%パラホルムアルデヒドで固定した。固定後の組織サンプルをアルコール勾配で脱水させ、キシレンで透徹化処理した後にパラフィンで包埋した。脊髄組織の横断切片の厚みは4μmであり、切片を脱パラフィンさせ、さらに再水和ししてヘマトキシリン及びエオシンで染色(HE染色)させ、1%塩酸エタノールで分別させ、アンモニア水でブルーイングさせ、さらにアルコール勾配で脱水させて封入させ、切片を光学顕微鏡下で200倍にて観察した。
その結果、偽手術群(図1A)のニューロンと神経線維が正常な形状であり、細胞質が赤に染色されたことを示し、溶媒PBS投与対照群(図1B)及びプラスミノーゲン投与群で正常神経及び損傷神経の接合部を採取したところ、溶媒PBS投与対照群では接合部に大きな損傷空洞(三角印)が見られたに対して、プラスミノーゲン投与群(図1C)の損傷部位の神経修復度は、溶媒PBS投与対照群よりも有意に良好であり、明らかな空洞は見られなかった。これは、プラスミノーゲンが脊髄圧迫損傷モデルマウスの脊髄損傷神経の修復を明らかに促進できることを示している。
【実施例2】
【0086】
実施例2は、プラスミノーゲンが神経ミエリンの再生を促進することに関するものである。
8週齢のC57メスマウス15匹を取り、体重を量ってからマウスをランダムに偽手術群、溶媒PBS投与群、プラスミノーゲン投与群の3つの群に分け、各群で5匹とした。ペントバルビタールナトリウム溶液(50mg/kg)の腹腔内注射により全てのマウスを麻酔し、背中の正中皮膚を切開し、背中のT7-T9筋肉を分離し、T7-T9椎弓板を除去した。溶媒PBS投与対照群及びプラスミノーゲン投与群に対して、微小血管クリップ(3.5×1.0mm、RWD)をT8脊髄に1分間クランプした。偽手術群に対して、硬膜損傷を避けるために椎弓板のみを除去した。すべてのマウスを手術直後に縫合し、トルフェジン(Tolfedine)(0.1mg/kg)及びペニシリンカリウム(40,000単位/kg)を筋肉内注射し、蘇るまで加熱パッドの上に置いた。手術中の感染を防ぐために、術後、マウスの自然排尿まで手作業で排尿を補助した[1]。術後30分より投与を開始し、プラスミノーゲン投与群マウスに1mg/0.1ml/匹/日でプラスミノーゲンを尾静脈注射により投与し、溶媒PBS対照群マウスに同量のPBSを同様に投与し、偽手術群のマウスには投与を行わなかった。投与し始めた日を1日目とし、投与周期は7日間とした。投与の8日目に、マウスを解剖し、脊髄T7-T9セグメントを4%パラホルムアルデヒドで固定した。固定後の組織サンプルをアルコール勾配で脱水させ、キシレンで透徹化処理した後にパラフィンで包埋した。脊髄組織の横断切片の厚みは4μmであり、切片を脱パラフィンさせ、さらに浸水してミエリン染色液でLFB染色を行った。アルコール勾配で脱水させ、キシレンで透徹化処理した後に中性ゴムに封入させた。光学顕微鏡で観察し、写真を撮った。
LFB(loxol fast blue)染色は、ファストブルー染色法によってミエリンを染色する。青色の度合いは、ミエリンの量が多いことを表す。LFB染色は、皮質脊髄路の局在、ミエリン病変、損傷及び再生修復の形態学的観察を研究するための効果的な方法である[2,3]
その結果、偽手術群(図2A)の神経ミエリンの構造は完全かつ連続的であり、溶媒PBS投与対照群(図2B)の神経ミエリンは、明らかにより大きな崩壊領域を示し(矢印でマーク)、青色が薄く、ミエリンが壊れていた。溶媒PBS対照群と比較して、プラスミノーゲン投与群(図2C)のミエリン構造は有意に完全であり、青色が濃くなった。これは、プラスミノーゲンが脊髄圧迫損傷モデルマウスのミエリンの再生を促進できることを示している。
【実施例3】
【0087】
実施例3は、プラスミノーゲンがニューロフィラメントタンパク質の発現を促進することに関するものである。
8週齢のC57メスマウス15匹を取り、体重を量ってからマウスをランダムに偽手術群、溶媒PBS投与群、プラスミノーゲン投与群の3つの群に分け、各群で5匹とした。ペントバルビタールナトリウム溶液(50mg/kg)の腹腔内注射により全てのマウスを麻酔し、背中の正中皮膚を切開し、背中のT7-T9筋肉を分離し、T7-T9椎弓板を除去した。溶媒PBS投与対照群及びプラスミノーゲン投与群に対して、微小血管クリップ(3.5×1.0mm、RWD)をT8脊髄に1分間クランプした。偽手術群に対して、硬膜損傷を避けるために椎弓板のみを除去した。すべてのマウスを手術直後に縫合し、トルフェジン(Tolfedine)(0.1mg/kg)及びペニシリンカリウム(40,000単位/kg)を筋肉内注射し、蘇るまで加熱パッドの上に置いた。手術中の感染を防ぐために、術後、マウスの自然排尿まで手作業で排尿を補助した。術後30分より投与を開始し、プラスミノーゲン投与群マウスに1mg/0.1ml/匹/日でプラスミノーゲンを尾静脈注射により投与し、溶媒PBS対照群マウスに同量のPBSを同様に投与し、偽手術群のマウスには投与を行わなかった。投与し始めた日を1日目とし、投与周期は7日間とした。投与の8日目に、マウスを解剖し、脊髄T7-T9を4%パラホルムアルデヒドで固定した。固定後の組織サンプルをアルコール勾配で脱水させ、キシレンで透徹化処理した後にパラフィンで包埋した。脊髄組織の横断切片の厚みは3μmであり、切片を脱パラフィンさせ再水和してから1回水で洗った。クエン酸で30分間修復し、室温で10分間冷却した後、水でやさしくすすいだ。3%過酸化水素水で15分間インキュベーションし、PAPマーカーで組織を丸で囲んだ。10%のヒツジ血清液(Vector laboratories,Inc.,USA)で1時間ブロッキングした。時間になった後、ヒツジ血清液を廃棄した。ウサギ抗神経フィラメントタンパク質(NFP)抗体(Abeam、ab207176)を加えて4℃で一晩インキュベーションした後、PBSで2回洗い、毎回5分間であった。ヤギ抗ウサギIgG(HRP)抗体(Abcam)の二次抗体を室温で1時間インキュベーションし、PBSで2回洗い、毎回5分間であった。DABキット(Vector laboratories,Inc.,USA)で呈色させ、水で3回洗浄した後にヘマトキシリンで30秒複染色して、流水で5分間ブルーイングさせし、PBSで1回洗浄した。勾配で脱水させて透徹にして封入させ、切片を光学顕微鏡下で200倍にて観察した。
ニューロフィラメントタンパク質(Neurofilament protein、NFP)は、神経細胞軸索の中間フィラメントを構成するタンパク質である。その機能は、神経線維を容易に伸ばして破損を防ぐ弾力性を提供することであり、これは、細胞骨格の維持、細胞形態の安定化、及び軸索輸送において非常に重要である[4]
その結果、プラスミノーゲン投与群(図3C)のNFPの発現(矢印でマーク)は、溶媒PBS投与対照群(図3B)よりも有意に高く、NFPの発現は偽手術群マウス(図3A)により近かった。これは、プラスミノーゲンがNFPの発現を促進し、脊髄圧迫損傷モデルマウスの脊髄神経線維の再生を促進できることを示している。
【実施例4】
【0088】
実施例4は、プラスミノーゲンが神経損傷の修復を促進することに関するものである。
8週齢のPlg-/-メスマウス10匹を取り、体重を量ってからマウスをランダムに溶媒PBS投与群とプラスミノーゲン投与群の2つの群に分け、各群で5匹とした。ペントバルビタールナトリウム溶液(50mg/kg)の腹腔内注射により全てのマウスを麻酔し、背中の正中皮膚を切開し、背中のT7-T9筋肉を分離し、T7-T9椎弓板を除去した。溶媒PBS投与対照群及びプラスミノーゲン投与群に対して、微小血管クリップ(3.5×1.0mm、RWD)をT8脊髄に1分間クランプした。すべてのマウスを手術直後に縫合し、トルフェジン(Tolfedine)(0.1mg/kg)及びペニシリンカリウム(40,000単位/kg)を筋肉内注射し、蘇るまで加熱パッドの上に置いた。手術中の感染を防ぐために、術後、マウスの自然排尿まで手作業で排尿を補助した[1]。術後30分より投与を開始し、プラスミノーゲン投与群マウスに1mg/0.1ml/匹/日でプラスミノーゲンを尾静脈注射により投与し、溶媒PBS対照群マウスに同量のPBSを同様に投与した。投与し始めた日を1日目とし、投与周期は7日間とした。投与の8日目に、マウスを解剖し、脊髄T7-T9セグメントを4%パラホルムアルデヒドで固定した。固定後の組織サンプルをアルコール勾配で脱水させ、キシレンで透徹化処理した後にパラフィンで包埋した。脊髄組織の横断切片の厚みは4μmであり、切片を脱パラフィンさせ、さらに再水和してヘマトキシリン及びエオシンで染色(H&E染色)させ、1%塩酸エタノールで分別させ、アンモニア水でブルーイングさせ、さらにアルコール勾配で脱水させて封入させ、切片を光学顕微鏡下で200倍にて観察した。
その結果、偽手術群(図4A)のニューロンと神経線維が正常な形状であり、細胞質が赤に染色されたことを示し、溶媒PBS投与対照群(図4B)及びプラスミノーゲン投与群(図4C)で正常神経及び損傷神経の接合部を採取したところ、両者の正常なニューロン及び神経線維構造が損傷部位で消失し、修復された線維に置き換えられ、細胞質が薄く染色され、炎症細胞が浸潤していることが見える。溶媒PBS投与対照群では接合部に大きな損傷空洞(三角印)が見られたに対して、プラスミノーゲン投与群の損傷部位の修復度は、溶媒PBS投与対照群よりも有意に良好であり、明らかな空洞は見られず、炎症細胞の浸潤も有意に減少した。これは、プラスミノーゲンが脊髄圧迫損傷モデルPlg-/-マウスの脊髄損傷の修復を明らかに促進できることを示している。
【実施例5】
【0089】
実施例5は、プラスミノーゲンがPlg-/-マウス脊髄圧迫損傷モデルマウスにおいて神経ミエリンの再生を促進することに関するものである。
8週齢のPlg-/-メスマウス10匹を取り、体重を量ってからマウスをランダムに溶媒PBS投与群とプラスミノーゲン投与群の2つの群に分け、各群で5匹とした。ペントバルビタールナトリウム溶液(50mg/kg)の腹腔内注射により全てのマウスを麻酔し、背中の正中皮膚を切開し、背中のT7-T9筋肉を分離し、T7-T9椎弓板を除去した。溶媒PBS投与対照群及びプラスミノーゲン投与群に対して、微小血管クリップ(3.5×1.0mm、RWD)をT8脊髄に1分間クランプした。すべてのマウスを手術直後に縫合し、トルフェジン(Tolfedine)(0.1mg/kg)及びペニシリンカリウム(40,000単位/kg)を筋肉内注射し、蘇るまで加熱パッドの上に置いた。手術中の感染を防ぐために、術後、マウスの自然排尿まで手作業で排尿を補助した[1]。術後30分より投与を開始し、プラスミノーゲン投与群マウスに1mg/0.1ml/匹/日でプラスミノーゲンを尾静脈注射により投与し、溶媒PBS対照群マウスに同量のPBSを同様に投与した。投与し始めた日を1日目とし、投与周期は7日間とした。投与の8日目に、マウスを解剖し、脊髄T7-T9セグメントを4%パラホルムアルデヒドで固定した。固定後の組織サンプルをアルコール勾配で脱水させ、キシレンで透徹化処理した後にパラフィンで包埋した。脊髄組織の横断切片の厚みは4μmであり、切片を脱パラフィンさせ、さらに再水和してミエリン染色液でLFB染色を行った。アルコール勾配で脱水させ、キシレンで透徹化処理した後に中性ゴムに封入させた。光学顕微鏡で観察し、写真を撮った。
その結果、溶媒PBS投与対照群(図5A)の神経ミエリンは、明らかにより大きな崩壊領域を示し(三角形でマーク)、青色が薄く、ミエリンが壊れていた(矢印でマーク)。それと比較して、プラスミノーゲン投与群(図5B)のミエリン構造は明らかに完全かつ連続的であり、青色が濃くなった。これは、プラスミノーゲンが脊髄圧迫神経損傷モデルPlg-/-マウスのミエリンの再生を大幅に促進できることを示している。
【実施例6】
【0090】
実施例6は、プラスミノーゲンが脊髄圧迫損傷モデルマウスの痛覚回復を促進することに関するものである。
7週齢のC57BL/6Jメスマウス38匹を取り、モデリングの1日前に体重を量り、体重の結果に応じてマウスをランダムに偽手術群とモデル群の2つの群に分け、偽手術群で7匹、モデリング群で31匹とした。ペントバルビタールナトリウム溶液(50mg/kg)の腹腔内注射により全てのマウスを麻酔し、背中の正中皮膚を切開し、背中のT5-T8筋肉を分離し、T6-T7椎弓板を除去した。モデル群に対して、微小血管クリップ(30g、Kent Scientific Corporation)をT6-T7脊髄に1分間クランプした。鉗子は、その先端が椎弓板の上部に位置して90°の角度を形成するように椎骨チャネルに挿入する必要がある[5]。偽手術群に対して、硬膜損傷を避けるために椎弓板のみを除去した。すべてのマウスを手術直後に縫合し、トルフェジン(Tolfedine)(0.1mg/kg)及びペニシリンカリウム(40,000単位/kg)を筋肉内注射し、蘇るまで加熱パッドの上に置いた。手術中の感染を防ぐために、術後、マウスの自然排尿まで手作業で排尿を補助し、7日間観察を続けた。手術の7日後、すべてのマウスに対して体重及びBMSスコアを行い(2人が別々に盲検法で採点した)[5]、体重及びBMSスコアに応じて、投与群A、投与群B、溶媒対照群の3つの群にランダムに分けて投与を開始し、投与を開始した日を1日目とした。投与群Aのマウスに1mg/100μl/匹でプラスミノーゲン溶液を尾静脈注射により投与し、投与群Bのマウスに0.5mg/100μl/匹でプラスミノーゲン溶液を尾静脈注射により投与し、溶媒対照群マウスに100μl/匹で溶媒溶液を尾静脈注射により投与し、投与を6日間継続した。7日目に、マウスの左足に対してVon-frey機械的圧痛試験を行った。
その結果、偽手術群のマウスと比較して、溶媒投与群のマウスの機械的閾値が有意に増加した。これは、脊髄圧迫損傷モデルの確立後、マウスが痛覚を失ったことを示している。投与群A(1mg)と投与群B(0.5mg)マウスの疼痛閾値は溶媒群よりも有意に低く、その差は統計的に有意であった(*はP<0.05、**はP<0.01を表す)(図6)。これらの結果は、プラスミノーゲンが脊髄圧迫損傷モデルマウスの痛覚回復を促進できることを示している。
【実施例7】
【0091】
実施例7は、プラスミノーゲンが対麻痺モデルマウスの脊髄におけるニューロフィラメントタンパク質の発現を促進することに関するものである。
8~10週齢のC57メスマウス32匹を取り、モデリング前に体重を量り、体重の結果に応じてすべてのマウスをランダムに2つの群に分け、偽手術群で8匹、モデル群で24匹とした。術前にモデル群のマウスをZoletil 50の軽い麻酔下でマウスの背中の毛を除去した後、マウスを呼吸麻酔で完全に麻酔し、2.5%イソフルランをオンにした呼吸麻酔器に腹臥位で配置した。皮膚と筋肉を外科的に切開し、T9とT10セグメントを露出させ、椎弓板を除去し、脊髄を露出させた後、T9とT10の間の脊髄の右半分を冠状面に沿って切断して半切断損傷を作成し、完了後に創傷を縫合した。偽手術群のマウスは、同様に麻酔をかけた後、椎弓切除を行い、直接縫合した。すべてのマウスを蘇るまで加熱パッドの上に置いた。術後ケアは、鎮痛剤トルフェジン(Tolfedine)及びペニシリンカリウム(40,000単位/kg)を毎日注射し、合計4日間注射したことを含む。マウスが食物と水を摂取できるようにし、マウスの膀胱の随意排尿機能が回復するまで排尿を補助した[6]。手術モデリングが完了してから1週間後、術後のマウスをオープンフィールド行動試験に供して採点し、試験結果に従って、モデル群のマウスを溶媒群と投与群の2つの群にランダムに分け、各群で12匹のマウスとし、偽手術群マウスには群分けをしなかった。群分けが完了した後、溶媒群及び偽手術群マウスに0.1ml/匹/日で溶媒を尾静脈注射により投与し、投与群マウスに1mg/匹/日でプラスミノーゲンを尾静脈注射により投与した。投与し始めた日を1日目とし、28日間投与を継続した。29日目にマウスを殺処分し、モデリング部位の脊髄を取り、4%パラホルムアルデヒドで固定した。固定後の組織サンプルをアルコール勾配で脱水させ、キシレンで透徹化処理した後にパラフィンで包埋した。組織の切片の厚みは3μmであり、切片を脱パラフィンさせ再水和してから1回水洗った。クエン酸で30分間修復し、室温で10分間冷却した後、水でやさしくすすいだ。3%過酸化水素水で15分間インキュベーションし、PAPマーカーで組織を丸で囲んだ。10%のヒツジ血清液(Vector laboratories,Inc.,USA)で1時間ブロッキングした。時間になった後、ヒツジ血清液を廃棄した。ウサギ抗神経フィラメントタンパク質(NFP)抗体(Abeam、ab207176)を加えて4℃で一晩インキュベーションした後、PBSで2回洗い、毎回5分間であった。ヤギ抗ウサギIgG(HRP)抗体(Abcam)の二次抗体を室温で1時間インキュベーションし、PBSで2回洗い、毎回5分間であった。DABキット(Vector laboratories,Inc.,USA)で呈色させ、水で3回洗浄した後にヘマトキシリンで30秒複染色して、流水で5分間ブルーイングさせ、PBSで1回洗浄した。勾配で脱水させて透徹にして封入させ、切片を光学顕微鏡下で400倍にて観察した。
その結果、偽手術群のマウス(図7A)の脊髄が一定レベルのNFPを発現し(矢印でマーク)、溶媒群マウス(図7B)のモデリング部位の脊髄におけるNFPの発現が偽手術群のマウスよりも有意に低く、投与群マウス(図7C)のモデリング部位の脊髄におけるNFPの発現が溶媒群の発現よりも有意に高く、しかもその差は統計的に有意であった(*はP<0.05を表す)(図7D)。これは、プラスミノーゲンが、脊髄横断モデルマウスの脊髄におけるNFPの発現を促進できることを示している。
【実施例8】
【0092】
実施例8は、プラスミノーゲンが対麻痺モデルマウスの後肢運動機能を改善することに関するものである。
8~10週齢のC57メスマウス42匹を取り、モデリング前に体重を量り、体重の結果に応じてすべてのマウスをランダムに2つの群に分け、偽手術群で14匹、モデル群で28匹とした。実験用マウスを取り、前麻酔後に背中の毛を除去した後、マウスを呼吸麻酔で完全に麻酔し、2.5%イソフルランをオンにした呼吸麻酔器に腹臥位で配置した。皮膚と筋肉を外科的に切開し、T9とT10セグメントを露出させ、椎弓板を除去し、脊髄を露出させた後、T9とT10の間の脊髄の右半分を冠状面に沿って切断して半切断損傷を作成し、完了後に創傷を縫合した。偽手術群のマウスは、同様に麻酔をかけた後、皮膚と筋肉を外科的に切開し、T9とT10セグメントを露出させ、直接縫合した。鎮痛剤トルフェジン(Tolfedine)及びペニシリンカリウム(200,000単位/kg、80,000単位/ml)を手術前、術後24時間、72時間に投与した。術後、すべてのマウスを加熱パッドの上に置き、首を水平に保ち、マウスが蘇るまで首を曲げないようにする必要がある。術後ケアとしては、正常な動物の場合、1日あたり約40~80ml/kgの液体が必要であり、麻酔から覚めたマウスが飲食できない場合は、体液を補充するために生理食塩水を腹腔内に注射する必要がある。また、マウスの膀胱の随意排尿機能が回復するまで排尿を補助した[6]。手術の当日に傷が糞、尿、トイレ砂で汚染されることを防ぐために、きれいなワイプをPCボックス内のトイレ砂の上に置く必要がある。手術モデリングが完了してから3日後、術後のマウスをオープンフィールド行動試験に供して採点し、試験結果に従って、モデル群の28匹のマウスを溶媒群と投与群の2つの群にランダムに分け、各群で14匹のマウスとし、偽手術群マウスには群分けをしなかった。群分けが完了した後、溶媒群及び偽手術群マウスに0.1ml/匹/日で溶媒を尾静脈注射により投与し、投与群マウスに1mg/匹/日でプラスミノーゲンを尾静脈注射により投与した。投与し始めた日を1日目とし、7日間投与を継続した。8日目に、表1に従ってBasso Mouse Scale(BMS)テストを実施した。
BMSスコアは、脊髄損傷マウスの後肢機能の変化を評価するために特別に使用され、メイン及びサブスコアリングシステムを含む。メインスコアは、マウスの後肢足首関節の可動性、協調性、足の姿勢、体幹の安定性、及び尾の姿勢を観察してスコアリングすることであり、サブスコアは、協調性や安定性などに基づくメインスコアの補足補正である[7]
その結果、偽手術群のマウスのBMSスコアは9点であり、溶媒群のマウスのBMSスコアは6.75±1.92点であり、偽手術群のマウスよりも有意に低かった。投与群のマウスのBMSスコアは8.29±0.39点であり、溶媒群のマウスより有意に高く、しかもその差は統計的に有意であった(*はP<0.05、***はP<0.001を表す)(図8)。これは、プラスミノーゲンが、対麻痺モデルマウスの後肢運動機能の回復を促進できることを示している。
【実施例9】
【0093】
実施例9は、プラスミノーゲンが対麻痺モデルマウスにおける脊髄プラスミノーゲン遺伝子の転写を促進することに関するものである。
8週齢のC57メスマウス15匹を取り、モデリング前に体重を量り、体重の結果に応じてすべてのマウスをランダムに2つの群に分け、ブランク対照群で5匹、モデル群で10匹とした。実験用マウスを取り、前麻酔後に背中の毛を除去した後、マウスを呼吸麻酔で完全に麻酔し、2.5%イソフルランをオンにした呼吸麻酔器に腹臥位で配置した。皮膚と筋肉を外科的に切開し、T9とT10セグメントを露出させ、椎弓板を除去し、脊髄を露出させた後、T9とT10の間の脊髄の右半分を冠状面に沿って切断して半切断損傷を作成し、完了後に創傷を縫合した。ブランク対照群のマウスは、同様に麻酔をかけた後、皮膚と筋肉を外科的に切開し、T9とT10セグメントを露出させ、直接縫合した[6]。鎮痛剤トルフェジン(Tolfedine)及びペニシリンカリウム(200,000単位/kg、80,000単位/ml)を手術前、術後24時間、72時間に投与した。術後、すべてのマウスを加熱パッドの上に置き、首を水平に保ち、マウスが蘇るまで首を曲げないようにする必要がある。術後ケアとしては、正常な動物の場合、1日あたり約40~80ml/kgの液体が必要であり、麻酔から覚めたマウスが飲食できない場合は、体液を補充するために生理食塩水を腹腔内に注射する必要がある。また、マウスの膀胱の随意排尿機能が回復するまで排尿を補助した。手術の当日に傷が糞、尿、トイレ砂で汚染されるのを防ぐために、きれいなワイプをPCボックス内のトイレ砂の上に置く必要がある。手術モデリングが完了してから3日後、術後のマウスをオープンフィールド行動試験に供して採点し、試験結果に従って、モデル群の10匹のマウスを溶媒群と投与群の2つの群にランダムに分け、各群で5匹のマウスとし、偽手術群マウスには群分けをしなかった。群分けが完了した後、すべての実験マウスに50mg/kg/日で、投与群にプラスミノーゲン溶液(10mg/ml)を尾静脈注射により投与し、ブランク対照群及び溶媒群に溶媒を尾静脈注射により投与した。投与の6時間後にマウスを殺処分し、モデリング部位から脊髄ホモジネートを採取した後、Plg遺伝子転写mRNAのRT-PCR検出を行い、CT値を記録した。プライマー情報を以下の表1に示す。200ngの全RNA中のPlg遺伝子転写mRNAのCT値を算出した。
CT値:蛍光シグナルが設定されたしきい値に達したときに、各PCR反応チューブが通過するサイクル数を示す。各テンプレートのCT値とテンプレートの初期コピー数の対数の間には線形関係があり、初期コピー数が大きいほどCT値が小さくなることが研究により示されている。逆もまた同様である。
その結果、ブランク対照群のマウスの脊髄には一定のレベルのPlg mRNAがあり、投与群のマウスの脊髄のPlg mRNAのレベルは溶媒群よりも有意に高く、しかもその差が統計的にほぼ有意であった(P=0.051)(図9)。これは、プラスミノーゲンが、対麻痺モデルマウスの脊髄におけるプラスミノーゲン遺伝子の転写を促進できることを示している。
【実施例10】
【0094】
実施例10は、プラスミノーゲンが対麻痺モデルマウスの損傷脊髄におけるシナプトフィジンの発現を促進することに関するものである。
8~10週齢のC57メスマウス42匹を取り、モデリング前に体重を量り、体重の結果に応じてすべてのマウスをランダムに2つの群に分け、偽手術群で14匹、モデル群で28匹とした。実験用マウスを取り、前麻酔後に背中の毛を除去した後、マウスを呼吸麻酔で完全に麻酔し、2.5%イソフルランをオンにした呼吸麻酔器に腹臥位で配置した。皮膚と筋肉を外科的に切開し、T9とT10セグメントを露出させ、椎弓板を除去し、脊髄を露出させた後、T9とT10の間の脊髄の右半分を冠状面に沿って切断して半切断損傷を作成し、完了後に創傷を縫合した。偽手術群のマウスは、同様に麻酔をかけた後、皮膚と筋肉を外科的に切開し、T9とT10セグメントを露出させ、直接縫合した。鎮痛剤トルフェジン(Tolfedine)及びペニシリンカリウム(200,000単位/kg、80,000単位/ml)を手術前、術後24時間、72時間に投与した。術後、すべてのマウスを加熱パッドの上に置き、首を水平に保ち、マウスが蘇るまで首を曲げないようにする必要がある。術後ケアとしては、正常な動物の場合、1日あたり約40~80ml/kgの液体が必要であり、麻酔から覚めたマウスが飲食できない場合は、体液を補充するために生理食塩水を腹腔内に注射する必要がある。また、マウスの膀胱の随意排尿機能が回復するまで排尿を補助した[6]。手術の当日に傷が糞、尿、トイレ砂で汚染されるのを防ぐために、きれいなワイプをPCボックス内のトイレ砂の上に置く必要がある。手術モデリングが完了してから3日後、術後のマウスをオープンフィールド行動試験に供して採点し、試験結果に従って、モデル群の28匹のマウスを溶媒群と投与群の2つの群にランダムに分け、各群で14匹のマウスとし、偽手術群マウスには群分けをしなかった。群分けが完了した後、溶媒群及び偽手術群マウスに0.1ml/匹/日で溶媒を尾静脈注射により投与し、投与群マウスに1mg/0.1ml/匹/日でプラスミノーゲンを尾静脈注射により投与した。投与し始めた日を1日目とし、28日間投与を継続した。30日目にマウスを殺処分し、損傷した脊髄を10%ホルムアルデヒド溶液で固定した。固定後の組織サンプルをアルコール勾配で脱水させ、キシレンで透徹化処理した後にパラフィンで包埋した。組織の切片の厚みは3μmであり、切片を脱パラフィンさせ再水和してから1回水洗った。クエン酸で30分間修復し、室温で10分間冷却した後、水でやさしくすすいだ。3%過酸化水素水で15分間インキュベーションし、PAPマーカーで組織を丸で囲んだ。10%のヒツジ血清液(Vector laboratories,Inc.,USA)で1時間ブロッキングした。時間になった後、ヒツジ血清液を廃棄した。ウサギ抗シナプトフィジン抗体(武漢三鷹、10842-1-AP)を加えて4℃で一晩インキュベーションした後、PBSで2回洗い、毎回5分間であった。ヤギ抗ウサギIgG(HRP)抗体(Abcam)の二次抗体を室温で1時間インキュベーションし、PBSで2回洗い、毎回5分間であった。DABキット(Vector laboratories,Inc.,USA)で呈色させ、水で3回洗浄した後にヘマトキシリンで30秒複染色して、流水で5分間ブルーイングさせし、PBSで1回洗浄した。勾配で脱水させて透徹にして封入させ、切片を光学顕微鏡下で200倍にて観察した。
シナプトフィジン(synaptophysin)は、SYP、major synaptic vesicle protein p38とも呼ばれ、シナプス小胞の膜上に位置する分子量38KDaのカルシウム結合タンパク質であり、シナプスの構造と機能に密接に関連している膜タンパク質である。体内のすべての神経終末に広く存在し、シナプス前小胞の膜に特異的に分布し、カルシウムイオン依存性神経伝達物質の放出とシナプス小胞の循環に関与し、シナプス形成及びシナプスリモデリングの重要なマーカーと考えられている[8]
その結果、偽手術群のマウス(図10A)の脊髄が一定レベルのシナプトフィジンを発現し(矢印でマーク)、溶媒群のマウス(図10B)のモデリング部位の脊髄におけるシナプトフィジンのレベルが偽手術群マウスよりも有意に低く、2つの群間の統計的差は非常に有意であった(***はP<0.001を表す)。投与群のマウス(図10C)のモデリング部位の脊髄におけるシナプトフィジンのレベルは溶媒群よりも有意に高く、その差は統計学的に有意であった(*はP<0.05を意味する)(図10D)。これは、プラスミノーゲンが、対麻痺モデルマウスの損傷した脊髄におけるシナプトフィジンの発現を促進し、脊髄損傷の修復を促進できること示している。
【実施例11】
【0095】
実施例11は、プラスミノーゲンが対麻痺モデルマウスにおいて損傷した脊髄ニューロンの機能回復を促進することに関するものである。
8~10週齢のC57メスマウス42匹を取り、モデリング前に体重を量り、体重の結果に応じてすべてのマウスをランダムに2つの群に分け、偽手術群で14匹、モデル群で28匹とした。実験用マウスを取り、前麻酔後に背中の毛を除去した後、マウスを呼吸麻酔で完全に麻酔し、2.5%イソフルランをオンにした呼吸麻酔器に腹臥位で配置した。皮膚と筋肉を外科的に切開し、T9とT10セグメントを露出させ、椎弓板を除去し、脊髄を露出させた後、T9とT10の間の脊髄の右半分を冠状面に沿って切断して半切断損傷を作成し、完了後に創傷を縫合した。偽手術群のマウスは、同様に麻酔をかけた後、皮膚と筋肉を外科的に切開し、T9とT10セグメントを露出させ、直接縫合した。鎮痛剤トルフェジン(Tolfedine)及びペニシリンカリウム(200,000単位/kg、80,000単位/ml)を手術前、術後24時間、72時間に投与した。術後、すべてのマウスを加熱パッドの上に置き、首を水平に保ち、マウスが蘇るまで首を曲げないようにする必要がある。術後ケアとしては、正常な動物の場合、1日あたり約40~80ml/kgの液体が必要であり、麻酔から覚めたマウスが飲食できない場合は、体液を補充するために生理食塩水を腹腔内に注射する必要がある。また、マウスの膀胱の随意排尿機能が回復するまで排尿を補助した[6]。手術の当日に傷が糞、尿、トイレ砂で汚染されるのを防ぐために、きれいなワイプをPCボックス内のトイレ砂の上に置く必要がある。手術モデリングが完了してから3日後、術後のマウスをオープンフィールド行動試験に供して採点し、試験結果に従って、モデル群の28匹のマウスを溶媒群と投与群の2つの群にランダムに分け、各群で14匹のマウスとし、偽手術群マウスには群分けをしなかった。群分けが完了した後、溶媒群及び偽手術群マウスに0.1ml/匹/日で溶媒を尾静脈注射により投与し、投与群マウスに1mg/匹/日でプラスミノーゲンを尾静脈注射により投与した。投与し始めた日を1日目とし、28日間投与を継続した。固定した線条体組織をアルコール勾配で脱水させ、キシレンで透徹化処理した後にパラフィンで包埋した。組織の切片の厚みは3μmであり、切片を脱パラフィンさせてから再水和し、0.4%タールバイオレット溶液(pH=3)で染色した。アルコール勾配で脱水させ、キシレンで透徹化処理した後に中性ゴムに封入させた。切片を光学顕微鏡で400倍にて観察し、写真を撮った。
ニッスル小体は、クロマチンとも呼ばれ、神経細胞特有の構造であり、粗面小胞体と遊離リボソームが多数平行に並んで分布して構成され、タンパク質を合成する機能を持ち、その数と分布はニューロンの機能状態と密接に関連しており、神経活動のマーカーと見なされている[9]
その結果、偽手術群のマウス(図11A)の脊髄には一定レベルのニッスル小体があり(矢印でマーク)、溶媒群のマウス(図11B)のモデリング部位の脊髄のニッスル小体のレベルは偽手術群マウスよりも有意に高く、2つの群の統計的差は極めて有意であった(***はP<0.001を表す)。投与群のマウス(図11C)のモデリング部位の脊髄におけるニッスル小体のレベルは溶媒群のそれよりも有意に低く、しかも統計的差は極めて有意であった(**はP<0.01を表す)(図11D)。これは、プラスミノーゲンが、対麻痺モデルマウスの損傷した脊髄のニッスル小体レベルの回復を促進し、脊髄損傷の修復を促進できることを示している。

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