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  • 特許-耐放射線劣化性無機酸化物フレーク 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-26
(45)【発行日】2025-03-06
(54)【発明の名称】耐放射線劣化性無機酸化物フレーク
(51)【国際特許分類】
   C03C 12/00 20060101AFI20250227BHJP
   C03C 3/062 20060101ALI20250227BHJP
   C03C 3/087 20060101ALI20250227BHJP
   C03B 37/005 20060101ALI20250227BHJP
   G21C 13/08 20060101ALI20250227BHJP
【FI】
C03C12/00
C03C3/062
C03C3/087
C03B37/005
G21C13/08
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022555412
(86)(22)【出願日】2021-09-30
(86)【国際出願番号】 JP2021036084
(87)【国際公開番号】W WO2022075169
(87)【国際公開日】2022-04-14
【審査請求日】2024-09-03
(31)【優先権主張番号】P 2020169452
(32)【優先日】2020-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518050171
【氏名又は名称】新日本繊維株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100171974
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 弘昭
(72)【発明者】
【氏名】深澤 裕
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2004/076372(WO,A1)
【文献】特開昭60-231440(JP,A)
【文献】特開平10-167754(JP,A)
【文献】国際公開第2020/218356(WO,A1)
【文献】特開2022-163187(JP,A)
【文献】PEREZ Maximina Romeo et al.,"Magnetic properties of glasses with high iron oxide content",Materials Research Bulletin,2001年,vol.36,pp.1513-1520
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 - 14/00
C03B 37/005
C08K 3/00 - 13/08
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO2,Al2O3,CaO,及びFe2O3を主成分とする無機酸化物フレークであって、
酸化物換算による前記無機酸化物フレーク中の、
i)SiO2及びAl2O3の合計は40質量%以上70質量%以下であり、
ii) Al2O3 /(SiO2+Al2O3)(質量比)は0.15~0.40の範囲であり、
iii)Fe2O3は16質量%以上25質量%以下であり、
iv)CaOは5質量%以上30質量%以下である、放射線被照射部用の無機酸化物フレーク。
【請求項2】
熱可塑性樹脂又は熱可塑性ゴムに、請求項1の無機酸化物フレークを配合した組成物。
【請求項3】
熱硬化樹脂又は硬化性ゴムに、請求項1の無機酸化物フレークを配合した組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の組成物よりなるライニング材。
【請求項5】
シリカ源、アルミナ源、酸化カルシウム源、及び酸化鉄源の混合物を溶融する工程を含む無機酸化物フレークの製造方法であって、
酸化物換算による前記混合物中の、
i)SiO2及びAl2O3の合計は40質量%以上70質量%以下であり、
ii) Al2O3 /(SiO2+Al2O3)(質量比)は0.15~0.40の範囲であり、
iii)Fe 2 O 3 は16質量%以上25質量%以下であり、
iv)CaOは5質量%以上30質量%以下である、放射線被照射部用の無機酸化物フレークの製造方法。
【請求項6】
シリカ源又はアルミナ源はフライアッシュである、請求項5に記載の無機酸化物フレークの製造方法。
【請求項7】
酸化鉄源は銅スラグである、請求項5に記載の無機酸化物フレークの製造方法。
【請求項8】
酸化カルシウム源は鉄鋼スラグである、請求項5に記載の無機酸化物フレークの製造方法。
【請求項9】
シリカ源又はアルミナ源は、玄武岩又は安山岩である、請求項5に記載の無機酸化物フレークの製造方法。
【請求項10】
SiO2,Al2O3,CaO,及びFe2O3を成分として含む無機酸化物フレークの放射線被照射部への使用であって、
酸化物換算による前記無機酸化物フレーク中の、
i)SiO2及びAl2O3の合計は40質量%以上70質量%以下であり、
ii) Al2O3 /(SiO2+Al2O3)(質量比)は0.15~0.40の範囲であり、
iii)Fe2O3は16質量%以上25質量%以下であり、
iv)CaOは5質量%以上30質量%以下である、無機酸化物フレークの放射線被照射部への使用。
【請求項11】
前記放射線被照射部は、
a)原子炉建屋、原子炉格納容器、原子炉施設内配管、廃炉処理用ロボット
b)宇宙基地建屋、宇宙ステーション、人工衛星、惑星探査衛星、宇宙服
c)粒子線利用の医療装置、のいずれかを構成する部材である、請求項10に記載の、無機酸化物フレークの放射線被照射部への使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な無機酸化物フレークに関する。さらに詳しくは、耐放射線劣化性に優れた無機酸化物フレークに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスフレークは、今日、工業用材料として広く利用されている。
例えば、ライニング材を構成する熱硬化性樹脂にガラスフレークを配合すると、ライニング塗膜層の内部への腐食物質の浸透が抑制されるため、ライニング材の防食性能が著しく向上する。このため、ガラスフレークは重防食ライニング材の副原料として欠かせないものである。
この他、ガラスフレークはガラス繊維と同様に熱可塑性樹脂の強化材や充てん材として用いられる。ガラス繊維強化樹脂は成型品の機械強度や熱収縮に異方性が生じやすいのに対し、ガラスフレーク強化樹脂の成型品はそのような異方性が小さく、寸法精度に優れる。このため、精密機器用材料の副原料としてもガラスフレークは欠かせない。
近年では、化学耐久性の改善されたガラスフレーク(例えば、国際特許公開 WO 2010/024283 A1(特許文献1)、対応米国特許公開 US 2011/0151261 A1(特許文献2))、可
視光吸収性能を高めたガラスフレーク(例えば、国際特許公開 WO 2004/076372 A1(特許文献3)、対応米国特許公開 US 2006/0048679 A1(特許文献4))など、使用目的に応
じ、特性を改善したガラスフレークが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際特許公開 WO 2010/024283 A1
【文献】米国特許公開 US 2011/0151261 A1
【文献】国際特許公開 WO 2004/076372 A1
【文献】米国特許公開 US 2006/0048679 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ガラスフレークは基材がガラスであるため、放射線に暴露されると劣化するという欠点を有する。ガラスフレークの耐放射線劣化性が向上すれば、原子力発電設備や宇宙機器など、長期にわたり放射線に曝露される設備、機器、部品、部材への使用が可能になり、用途がさらに広まると思われる。
そこで、本発明者は、ガラスフレークに代わる、耐放射線劣化性に優れる新規な無機酸化物フレークの開発に取り組んだ。
【課題を解決するための手段】
【0005】
その結果、本発明者は、無機酸化物からなるフレークにおいて、そのフレーク中の、SiO2及びAl2O3の合計含量が特定範囲にあり、SiO2とAl2O3の合計に占めるAl2O3の比率が特
定範囲にあり、さらに、Fe2O3とCaOの各々の含量が特定範囲にあるものが、耐放射線劣化性に優れるフレークとなることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、SiO2,Al2O3,CaO,及びFe2O3を主成分として含む無機酸化物フ
レークであって、
酸化物換算での上記無機酸化物フレーク中の、
i)SiO2とAl2O3の合計が40質量%以上70質量%以下であり、
ii) SiO2とAl2O3の合計に占めるAl2O3の割合(質量比)が0.15~0.40の範囲であり、
iii)Fe2O3は16質量%以上25質量%以下であり、
iv)CaOは5質量%以上30質量%以下である、ことを特徴とするものである。
本発明の無機酸化物フレークは、耐放射線劣化性に優れるため、放射線被照射部を構成する材料の強化材又は充填材に適している。
本発明は他の態様として、フライアッシュ、銅スラグ、鉄鋼スラグなどの産業廃棄物を原料とする耐放射線劣化性に優れる無機酸化物フレークの製造方法を提供するものである。
以後の説明にて、上記i)~iv)を、「組成に係る本発明の4要件」と略記することがあ
る。
【0006】
本発明の無機酸化物フレークは、原料となる各種無機酸化物の配合物を溶融し、その溶融物をフレーク化して得られる。ここで、原料配合物(以下、単に配合物と略称することがある)の成分比と、その溶融物より得られるフレークの成分比に実質的な差は見られない。よって、原料配合物の成分比をもってフレークの成分比とすることができる。
本発明の無機酸化物フレークは、フレーク中のSiO2,Al2O3,Fe2O3,及びCaOの割合が
、上記範囲に収まるよう、原料を配合したのち、その配合物を溶融して得られる。以後、原料配合物の溶融物を単に溶融物と称することがある。
【0007】
本発明の無機酸化物フレーク中のSiO2及びAl2O3の合計の含有量は40質量%以上70
質量%以下である。なお、以下の説明にて、SiO2をS成分と略称し、SiO2の含有量を[S]と表示する場合がある。同様に、Al2O3をA成分と略称し、Al2O3の含有量を[A]と表示する場合が有る。[S]及び[A]の合計が、上記範囲外、すなわち40質量%未満、又は70質量%超のいずれの場合にも、配合物の溶融温度が高くなり過ぎるか、溶融物の粘度が高くなるか又は逆に低くなり過ぎ、フレーク化しにくくなる。
【0008】
本発明の無機酸化物フレークにおいて、SiO2とAl2O3の合計に占めるAl2O3の割合([A]/([A]+[S]))(質量比)は0.15~0.40の範囲であることが必要である。SiO2とAl2O3の合計に占めるAl2O3の割合が、0.15未満、又は0.40超のいずれの場合も、配合物を溶融するのが困難であるか、又は溶融物をフレーク化するのが困難となる。
【0009】
本発明の無機酸化物フレークにおいて、Fe2O3の含有量は16質量%以上であることが
必要である。Fe2O3の含有量が16質量%未満であると、当該フレークの耐放射線劣化性
が劣る。他方その含有量が25質量%を超えると、溶融物の粘性が低すぎ、溶融物をフレーク化するのが困難となる。よって、無機酸化物フレークのFe2O3の含有量は25質量%
以下とすることが好ましい。
以後、Fe2O3をF成分と略称し、Fe2O3の含有量を[F]と表示することがある。
【0010】
本発明の無機酸化物フレークにおいて、CaOの含有量は5質量%以上30質量%以下で
あることが好ましい。CaOの含有量が5質量%未満であると、配合物の溶融開始温度が高
くなってしまい、無機酸化物フレーク製造に要するエネルギーが増大し好ましくない。CaOの含有量は、好ましくは10質量%以上である。他方、CaOの含有量が30質量%超であると溶融物の粘性が低すぎ、フレーク化するのが困難となる。以後、CaOをC成分と略称
し、CaOの含有量を[C]と表示することがある。
【0011】
本発明の無機酸化物フレークを得るに際しては、SiO2,Al2O3,Fe2O3,及びCaOの割合
が、上記範囲に収まるのであれば、原料に制約はない。
したがって、SiO2,Al2O3,Fe2O3,及びCaOの各々単独の化合物を調合して出発原料と
しても良いが、SiO2含量に富むシリカ源、Al2O3含量に富むアルミナ源、Fe2O3含量に富む酸化鉄源、CaO含量に富む酸化カルシム源を配合したものを出発原料とするのがコストの
点で好ましい。
シリカ源としては、非晶質シリカ、珪砂、フュームドシリカ、火山灰を挙げることができるが、これらに限定されない。
アルミナ源としては、アルミナのほか、ムライトその他の鉱石が挙げられるが、これらに限定されない。
シリカとアルミナの双方を豊富に含むシリカアルミナ源として、カオリナイト、モンモリロナイト、長石、ゼオライトが挙げられるがこれらに限定されない。
酸化鉄源としては、酸化鉄、水酸化鉄、鉄鉱石が挙げられるが、これらに限定されない。
酸化カルシウム源としては、炭酸カルシウムのほか、方解石、ドロマイトその他の鉱石が挙げられるが、これらに限定されない。
【0012】
以上の他、火力発電廃棄物や金属精錬廃棄物も、シリカ源、アルミナ源、酸化鉄源、または酸化カルシウム源の一つとして有効利用できる。
上記火力発電廃棄物として、フライアッシュやクリンカアッシュを使用できる。フライアッシュやクリンカアッシュは、SiO2,Al2O3を豊富に含んでいるため、シリカアルミナ
源として好適である。
もっとも、フライアッシュ、クリンカアッシュは、Fe2O3含量が少ないため、それのみ
にて本発明の無機酸化物フレークを得ることが困難である。しかし、適量の酸化鉄源を追加配合することにより、低コストで本発明の無機酸化物フレークを得ることができる。なお、石炭ガス化複合発電(IGCC, Integrated coal Gasification Combined Cycle)の廃
棄物として産生される石炭ガス化スラグ(CGS:Coal Gasification Slag)も、フライア
ッシュとほぼ同等の化学組成であるため、シリカアルミナ源となり得る。石炭ガス化スラグは、顆粒状であるため、ハンドリング性に優れる利点がある。
先に挙げた金属精錬廃棄物としては、鉄鋼スラグや銅スラグを挙げることができる。
鉄鋼スラグはCaO含量が高いため、酸化カルシウム源として使用できる。鉄鋼スラグに
は高炉スラグ、転炉スラグ、還元スラグが含まれる。
銅スラグは、Fe2O3含量が高いため、酸化鉄源として使用できる。
したがい、適宜、シリカアルミナ源としてフライアッシュ、クリンカアッシュ、又は石炭ガス化スラグを用い、酸化鉄源として銅スラグを用い、酸化カルシウム源として鉄鋼スラグを使用できる。
好ましい態様においては、シリカアルミナ源、酸化鉄源、及び酸化カルシウム源の大部分をこのような火力発電廃棄物や金属精錬廃棄物などの産業廃棄物で賄うことができる。
このほか、玄武岩、安山岩に代表される火山岩もシリカアルミナ源として利用できる。
【0013】
本発明の無機酸化物フレークは、原料中に含まれる不可避的な不純物の混入を排除するものではない。そのような不純物として、MgO, Na2O, K2O, TiO2, CrO2などを例示できる。
【0014】
本発明の無機酸化物フレークは、非晶性に富むので、結晶相/非晶質相界面の剥離に起因する強度低下がほとんどなく、高強度の無機酸化物フレークが得られる。
ここで、非晶性の尺度たる非晶化度はX線回折(XRD)スペクトラムにより、下記数式(1)にて算出される。
非晶化度(%)=〔Ia/(Ic+Ia)〕×100 (1)
(数式(1)中、Icは前記無機材料についてX線回折分析を行ったときの結晶質ピーク
の散乱強度の積分値の和であり、Iaは非晶質ハローの散乱強度の積分値の和である。)
本発明の無機酸化物フレークの非晶化度は、その組成にもよるが、通常90%以上の値を示す。非晶化度は高い場合には95%以上にも達し、最も高い場合には、フレークは実質的に非晶質相のみからなるものとなる。ここで、実質的に非晶質相のみからなるとは、X線回折スペクトラムには非晶質ハローのみが認められ、結晶相のピークが認められない
ことをいう。
【0015】
本発明の無機酸化物フレークの耐放射線劣化性は、その無機酸化物フレークの放射線照射前後のビッカース硬度を比較することにより知ることが出来る。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、耐放射線劣化性に優れる無機酸化物フレークが創出される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】フレーク化試験の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、試験例にて本発明の内容を具体的に説明する。
なお、以下の試験例(実施例、比較例)においては、シリカ源、アルミナ源、シリカアルミナ源、酸化鉄源、酸化カルシウム源として、下記を使用する。
<シリカ源>
・二酸化ケイ素:試薬(以下、SiO2(試薬)の表記を用いることがある)
<アルミナ源>
・酸化アルミニウム:試薬(以下、Al2O3(試薬)の表記を用いることがある)
<シリカアルミナ源>
・フライアッシュRM1:質量100分率にて、Fe2O3:9%, SiO2:62%, Al2O3:18%, CaO:3%を含有するフライアッシュ
<酸化鉄源>
・酸化鉄(III):試薬(以下、Fe2O3(試薬)の表記を用いることがある)
・銅スラグRM2:質量100分率にて、Fe2O3:9%, SiO2:62%, Al2O3:18%, CaO:3%を含有する銅スラグ
<酸化カルシウム源>
・酸化カルシウム:試薬(以下、CaO(試薬)の表記を用いることがある)
・鉄鋼スラグRM3:質量100分率にて、Fe2O3:1%, SiO2:19%, Al2O3:17%, CaO:55%
を含有する鉄鋼スラグ
なお、上記の銅スラグ、鉄鋼スラグ、及びフライアッシュの成分分析は蛍光X線分析法
に拠る。
【0019】
<粉末原料の調整>
以下の試験例では、シリカ源、アルミナ源、酸化鉄源、酸化カルシウム源の各々を微粉砕し、SiO2,Al2O3,Fe2O3,及びCaOが所定の割合となるよう配合し、試験に供する。
【0020】
<フレーク化試験>
配合物は、以下の手順にて、フレーク化試験(フレーク加工性の評価)に供する。試験の概略を図1に示す。
以下のステップ1から4の手順に従い、配合物を溶融し、その溶融物のフレーク化を試みる。
ステップ1:フレークの原料となる無機酸化物配合物(fp)の約60グラムを、径(D1)が20mmの坩堝(1)に仕込む。別途、径(D2)が10mmのタンマン管(2)を準備しておく。タンマン管(2)は底部に口径(Φ)が2mmの開口部(21)を備えている(図1上段)。
ステップ2:配合物(fp)を仕込んだ坩堝(1)を電気炉(3)にて加熱する(図1中段左)。電気炉は所定の昇温プログラムにより昇温される。炉内温度の最高到達温度は1350℃に設定してある。坩堝(1)内部及び溶融物(fm)の温度は炉内温度よりほぼ50℃低い温度で追随するあらかじめ確認してある。
ステップ3:昇温後の坩堝(1)を電気炉(3)より直ちに取り出し、坩堝(1)の上部よりタンマン管(2)を下方へ押し下げる。坩堝(1)内の無機酸化物溶融物(fm)は開
口部(21)を通ってタンマン管(2)の内部に入ってくる(図1中段右)。
ステップ4:次いで、溶融物(fm)を貯えたタンマン管(2)の口部(22)より、約10MPaの圧力にて空気を吹き込む(図1下段左)。溶融物(fm)が適度の粘性を備えるとき、溶融物は膨らみ、中空薄膜のバルーン(fb)を形成する(図1下段右)。バルーンを粉砕してフレークが得られる。
上記手順によるフレーク化試験の結果に基づき、フレーク加工性を以下のA,B,及びCにランク付けする。
<フレーク加工性の評価>
A:ステップ1よりステップ4を経て、バルーンが形成される。
B:ステップ1よりステップ3に至るものの、溶融物の粘度が低いため、ステップ4にてバルーンが形成されない。
C:ステップ2に至るも配合物(fp)の溶融が始まらないか、又は溶融物の粘度が高いため、ステップ3において開口部(21)よりタンマン管(2)の内部に溶融物が入ってこない。
【0021】
[先行試験]
一連の試験に先立ち、以下の先行試験をした。
シリカ源、アルミナ源、酸化鉄源、酸化カルシウム源を適宜配合したのち、SiO2,Al2O3,Fe2O3,CaO含量の異なる試料4種を調合し、その溶融固化物を得た。試料3,4は
、先に述べた本発明の要件のすべてを満たしているが、試料1,2は、Fe2O3含量に関す
る要件iii)を欠くものである(表1)。
得られた溶融固化物の試料につき、コバルト60を線源にガンマ線照射量50kGyの条件にて放射線照射試験を行い、照射前後のマイクロビッカース硬度を測定し、放射線照射後の試料の強度保持率を求めた。
結果を表1に示す。この結果は、試料中の酸化鉄(Fe2O3)含量が15%以上になると放
射線照射後の強度保持率が著しく高くなることを強く示すものである。
【0022】
【表1】
【0023】
[実施例1]
フライアッシュRM1に、SiO2(試薬)、Al2O3(試薬)、Fe2O3(試薬)、CaO(試薬
)の適量を配合した。配合物中の、SiO2、Al2O3、Fe2O3、及びCaOの含量は、酸化物換算
にて、[S]+[A]:42質量%、[A]/([S]+[A]):0.20、[F]:19質量%、[C]:17質量%である。
フレーク化試験の結果、膜厚が約800nmのバルーンが得られた。バルーンを粉砕してフレークを得た。
X線回折(XRD)スペクトラムの解析より、フレークは実質的に非晶質であると判明した。
次いで、フレークの試料を、電子線を線源として線量100GGyの放射線を照射した。
放射線照射前及び放射線照射後のフレーク試料について、JIS Z 2244に準拠してビッカース硬度を測定し、放射線照射後の強度保持率を算出した。結果、フレークの放射線照射後の強度保持率は90%であり、耐放射線劣化性に優れていた(表2)。
【0024】
[実施例2~8]
SiO2(試薬)、Al2O3(試薬)、Fe2O3(試薬)、CaO(試薬)の配合量を変えることに
より、酸化物換算による、SiO2及びAl2O3の合計(質量%)、SiO2及びAl2O3の合計に占めるAl2O3の割合(質量比)、Fe2O3量(質量%)、CaO量(質量%)を変えた原料配合物を
各種調製し、実施例1と同様のフレーク化試験を行った(表2)。
結果、いずれの配合物についても、その溶融物は実施例1と同様の中空薄膜バルーンを形成し、良好なフレーク加工性を示した。
また、X線回折(XRD)スペクトラムを解析した結果、いずれのフレーク試料も実質的に非晶質であると判明した。
次いで、実施例1と同様に、各々のフレーク試料を放射線照射試験に供し、放射線照射後の強度保持率を求めた。結果、強度保持率はいずれも90%以上であり、フレークは耐放射線劣化性に優れていた(表2)。
【0025】
【表2】
【0026】
表2より、「組成に係る本発明の4要件」を満たす配合物のすべてからフレークが得られ、かつ、どのフレークも耐放射線劣化性に優れることが明らかである。
【0027】
[比較例1~8]
SiO2(試薬)、Al2O3(試薬)、Fe2O3(試薬)、CaO(試薬)の配合量を変えた、酸
化物換算による、SiO2及びAl2O3の合計(質量%)、SiO2及びAl2O3の合計に占めるAl2O3
の割合(質量比)、Fe2O3量(質量%)、CaO量(質量%)を変えた原料配合物を調製し、実施例1と同様の試験を試みた。
結果を表3に示す。
【0028】
【表3】
【0029】
表3より、「組成に係る本発明の4要件」のうち、いずれかを欠くと、フレーク化が困難であるか、得られたフレークの耐放射線劣化性が劣っていることが分かる。
すなわち、[S]+[A]の値が要件i)の下限に満たないと溶融物の粘性が低すぎる結果、フレークを形成し得ない(比較例1)。他方、[S]+[A]の値が要件i)の上限を超えると溶融物の粘性が高すぎるため、フレークの形成が困難である(比較例2)。
[A]/([S]+[A])の値が要件ii)の下限に満たないと溶融物の粘性が低すぎ
る結果、フレークを形成し得ない(比較例3)。[A]/([S]+[A])の値が要件ii)の上限を超えると溶融物の粘性が高すぎるため、フレークの形成が困難となる(比較
例4)。
[F]の値が要件iii)の下限に満たない場合、耐放射線劣化性が劣る(比較例5)。なお、比較例5の試料の放射線照射後の強度保持率は60%である。[F]の値が要件iii)
の上限を超えると、溶融物の粘性が低すぎる結果、フレークを形成し得ない(比較例6
)。
[C]の値が要件iv)の下限に満たない場合、溶融物の粘性が低すぎる結果、フレーク
を形成し得ない(比較例7)。[C]の値が要件iv)の上限を超えると溶融物の粘性が高
すぎるため、フレークを形成し得ない(比較例8)。
【0030】
[実施例9]
本実施例にて、産業廃棄物たるフライアッシュ、銅スラグ、及び鉄鋼スラグを原料とする、耐放射線劣化性に優れる無機酸化物フレークの製造例を示す。
シリカアルミナ源としてフライアッシュRM1を50質量部、酸化鉄源として銅スラグRM2を30質量部、酸化カルシウム源として鉄鋼スラグRM3を20質量部配合した。配合物中の、SiO2、Al2O3、Fe2O3、及びCaOの含量は、酸化物換算にて、[S]+[A]
:59質量%、[A]/([S]+[A]):0.23、[F]:21質量%、[C]:13質量%である。
当該原料配合物を実施例1と同様の試験に供した。結果、フレーク加工性のランクはA、放射線照射後の強度保持率は87%であった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の無機酸化物フレークは、樹脂やゴムの、強化材又は充填剤として好適である。樹脂として、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂として、ポリプロピレン、ABS樹脂、AS樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリアミド、ポリアミドイミド、
ポリケトンが挙げられるがこれらに限定されない。ゴムとして熱可塑性ゴムが挙げられる。
また、本発明の無機酸化物フレークは、ライニング材や塗料の、防食性の改良のための副原料として好適に使用できる。ライニング材や塗料の基材としてはビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂や硬化性ゴムが挙げられるがこれらに限定されない。
本発明の無機酸化物フレークを配合した上記の樹脂、ゴム、又は塗材は、耐放射線劣化性に優れる。そのため、放射線被照射部を構成する材料として好適である。放射線被照射部の代表例として、原子力、宇宙航空、医療の各分野の設備・機器・部材を例示できる。
原子力分野の設備・機器・部材として、
・原子力発電用の設備・機器・部材、
・ウラン鉱石の採掘・処理用の設備・機器・部材、
・核燃料の二次加工処理(同燃料の転換・濃縮・再転換・成形加工・MOX製造を含む)用の設備・機器・部材、
・使用済み核燃料の貯蔵・処理・再処理用の設備・機器・部材、
・放射線廃棄物の貯蔵・処理・処分用の設備・機器・部材、
・ウラン鉱石、核燃料二次加工品、使用済み核燃料、又は放射線廃棄物の輸送機器・部材、
・その他の核関連の設備・機器・部材、が挙げられる。
上記原子力発電用の設備・機器・部材のより具体的な例としては、原子炉建屋(研究炉及び試験炉を含む)、原子炉格納容器、原子炉施設内配管、廃炉処理用ロボットが挙げられる。
宇宙航空分野の設備・機器・部材として、
・宇宙基地建屋、宇宙ステーション、人工衛星、惑星探査衛星、宇宙服などが挙げられる。
医療分野の設備・機器・部材としては、
・粒子線利用の医療装置、を挙げることができる。
以上の使用例は本発明の無機酸化物フレークの有用性を示す目的で例示するものであり、本発明の範囲を制約するものではない。
【符号の説明】
【0032】
1 坩堝
2 タンマン管
21 開口部
22 口部
3 電気炉
D1 坩堝の径
H1 坩堝の高さ
D2 タンマン管の径
H2 タンマン管の高さ
Φ 開口部の径
fp 原料配合物、無機酸化物配合物
fm 溶融物、無機酸化物溶融物
fb バルーン
P 負荷圧

図1