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  • 特許-印刷可能な物体を製造するための方法 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-26
(45)【発行日】2025-03-06
(54)【発明の名称】印刷可能な物体を製造するための方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/40 20170101AFI20250227BHJP
   B29C 64/112 20170101ALI20250227BHJP
   B29C 64/393 20170101ALI20250227BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20250227BHJP
   B33Y 50/02 20150101ALI20250227BHJP
   B29C 64/129 20170101ALI20250227BHJP
   B29C 64/277 20170101ALI20250227BHJP
【FI】
B29C64/40
B29C64/112
B29C64/393
B33Y10/00
B33Y50/02
B29C64/129
B29C64/277
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2023555462
(86)(22)【出願日】2022-11-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-18
(86)【国際出願番号】 EP2022083848
(87)【国際公開番号】W WO2023217404
(87)【国際公開日】2023-11-16
【審査請求日】2024-01-12
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2022/062888
(32)【優先日】2022-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】523344094
【氏名又は名称】レイヨ・3ディー・バイオテック・オサケユフティオ
【氏名又は名称原語表記】Rayo 3D Biotech Oy
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100184343
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100197561
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 三喜男
(72)【発明者】
【氏名】ヴァリットゥ,ペッカ
【審査官】松林 芳輝
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第212603423(CN,U)
【文献】米国特許出願公開第2019/0291350(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0169968(US,A1)
【文献】国際公開第2020/008788(WO,A1)
【文献】特開2015-189930(JP,A)
【文献】特表2017-533585(JP,A)
【文献】特開2018-051970(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0275746(US,A1)
【文献】国際公開第2021/041372(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B29C 67/00-67/08
B29C 67/24-69/02
B29C 73/00-73/34
B29D 1/00-29/10
B29D 33/00
B29D 99/00
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷可能な物体を製造するための方法であって、
印刷材料を、可動である印刷チップを有する印刷要素を使用して、印刷ウェルに含まれ、液体またはゲルであり、重合開始剤を含んでいる支持材料へと噴射することと、
印刷の最中に追加の支持材料を前記印刷ウェルへと供給することと、
前記重合開始剤の活性化を生じさせる光をもたらす少なくとも1つの発光源を使用して、前記噴射した印刷材料を硬化させることと
を含み、
前記活性化させた重合開始剤は、前記印刷材料の重合を開始させ、前記硬化は、前記印刷材料の噴射と同時に開始および実行される、方法。
【請求項2】
前記活性化させた重合開始剤は、前記支持材料内のフリーラジカルの形成を生じさせ、前記フリーラジカルは、前記印刷材料の反応基を活性化させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記支持材料は、第1の層および第2の層を備え、前記方法は、前記印刷材料を前記支持材料の前記第1の層へと噴射することを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の層は、前記第2の層と比べてガスの濃度が高く、フリーラジカルの濃度が高く、表面エネルギーが高い、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記支持材料を前記印刷ウェルの底部または壁ならびに/あるいは前記支持材料の上へと供給すること
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記追加の支持材料を、前記追加の支持材料が前記印刷ウェルに進入する前にチューブ内で活性化させること
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記追加の支持材料の活性化は、UV光を使用して実行され、あるいは熱を使用することによって実行され、あるいはマイクロ波を使用することによって実行される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記支持材料は、ニュートンまたは非ニュートン流体またはゲルまたは粘性液体またはヒドロゲルと添加剤とを含む混合物であり、前記支持材料は、前記発光源によって硬化することがない、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記噴射は、層ごとのやり方で実行され、前記硬化は、前記噴射された層の重合による互いの付着を生じさせる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記硬化は、複数の発光源を使用することを含み、前記複数の発光源は、2つ以上の方向からの光放射を提供する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記印刷材料は、重合性モノマーまたはコモノマー系を含む1つ以上の官能性反応基の生分解性または生体安定性の樹脂または樹脂複合材料であり、前記樹脂または樹脂複合材料の重合を可能にする化合物を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記支持材料は、アゾ開始剤を有するヒドロゲルであり、UV光を用いた前記支持材料の活性化は、ラジカルが保護ガスの形成と同時に形成される化学反応を生じさせる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つの発光源は、重合光を印刷の最中に継続的にもたらし、あるいは印刷の始まり、最中、および/または後にパルスにてもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記硬化は、複数の発光源を使用し、前記複数の発光源は、複数の波長における光放射を提供する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
3D印刷装置を備えるシステムであって、
請求項1に記載の方法を実行するための手段
を備えるシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、付加製造を使用して製造される物体の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
3D印刷などの最新の技術を、ティッシュエンジニアリング足場(tissue engineering scaffold)、埋め込み式であり、あるいは経口で届けられる薬物放出ドシエ(drug releasing dossier)、柔組織および硬組織置換再構築物の製造において利用する必要がある。多くの技術の中でも、ティッシュエンジニアリングおよび付加製造(AM)技術が、近年において、使用の指示まで生体安定性、生分解性、または部分的に生分解性のいずれかである硬組織再構築装置およびティッシュエンジニアリング足場の製造に関して試験されている。足場のいくつかの基準として、例えば、生体適合性、適切な機械的強度、生分解性または生体安定性、および充分な多孔性が挙げられる。足場の生体適合性を、ホスト組織に対して局所的および全身的な毒性作用がなく、分子シグナル伝達系を含む正常な細胞活動を支持できることと定義することができる。さらに、硬組織置換装置または生体安定性足場は、長期的に生理学的機能の負荷に耐えるべきである。埋め込み用の構築物および歯科用構築物の場合、要件として、例えば、非毒性、非アレルギー性、抗菌性、充分な強度、耐摩耗性、ならびに表面テクスチャ(インプラント)および光沢(歯科用構築物)を挙げることができる。
【発明の概要】
【0003】
本発明のさまざまな実施形態に関して求められる保護の範囲は、独立請求項によって示される。本明細書に記載されるが、独立請求項の範囲には含まれない例示的な実施形態および特徴がある場合、それらは、本発明のさまざまな実施形態の理解に有用な例として解釈されるべきである。
【0004】
第1の態様によれば、印刷可能な物体を製造するための方法が存在し、本方法は、可動である1つ以上の印刷ヘッドを有する印刷要素を使用して印刷材料を支持材料へと噴射することを含み、支持材料は、印刷材料の硬化の促進に適する一方で、支持材料の重合は引き起こさないフリーラジカル重合開始剤である開始剤を含み、本方法は、印刷材料の重合および支持材料内の開始剤の活性化を引き起こす光をもたらす少なくとも1つの発光源を使用して、印刷プロセスのステップにおいて、支持材料を活性化させ、噴射された印刷材料を硬化させることを含む。支持材料は、支持材料に含まれる開始剤系であるとも理解できる開始添加剤、換言すれば開始剤を含むことに留意されたい。
【0005】
第1の態様による例示的な実施形態において、本方法は、x-y-z方向に移動する噴射チップ(injection tip)または印刷表面プラットフォーム(printing surface platform)を有する押出3Dプリンタを使用する樹脂噴射バイオ印刷を含むことができ、物体のための材料を生体適合性ヒドロゲル支持体へと層ごとのやり方で噴射すると同時に硬化させる。
【0006】
第1の態様による例示的な実施形態においては、支持材料の量が増やされ、すなわち、印刷を支持材料内で生じさせることができるように、印刷ヘッドが垂直(y方向)に移動する間に、支持材料を含む印刷ウェルが充てんされる。
【0007】
第1の態様による例示的な実施形態において、印刷ヘッドの垂直移動の最中に印刷ウェルを充てんする支持材料は、支持材料のウェルへと注がれる前に、UV放射、マイクロ波、またはチューブの加熱によって活性化される。
【0008】
第1の態様による例示的な実施形態において、支持材料として、生体適合性かつ非固体の支持用かつフリーラジカル重合または前面重合の酸素阻害の除去用の支持材料が存在し、そのような支持材料へと印刷材料が噴射され、噴射された材料の重合反応によって印刷層が互いに付着するようなやり方で重合する。
【0009】
第1の態様による例示的な実施形態において、支持材料中に、噴射可能な材料の硬化の促進に適するが、支持材料の硬化は引き起こさないフリーラジカル重合または前面重合開始剤からなる添加剤が存在する。
【0010】
第1の態様による例示的な実施形態において、支持材料は、印刷材料の重合が、印刷される物体への酸素抑制表面層の形成を伴って生じることを保証するための保護用ガスを含む。保護用ガスは、保護ガスと呼ばれることもある。
【0011】
第1の態様による例示的な実施形態において、保護用ガスは、形成されたフリーラジカルを酸化物に対して保護し、したがって形成されたフリーラジカルの寿命を延ばす。
【0012】
第1の態様による例示的な実施形態において、保護用ガスは、フリーラジカル形成のための支持材料中の添加剤の活性化の際に形成される。
【0013】
第1の態様による例示的な実施形態において、印刷は、保護用ガスおよび重合加速フリーラジカルの量が最大である支持材料の表面層において行われる。
【0014】
第1の態様による例示的な実施形態において、印刷材料は、支持材料と比べて低い密度、同じ密度、または高い密度を有し、密度の差(Δρ)まで、印刷材料は、支持材料の温度における表面エネルギーおよびアルキメデスの原理の効果を考慮して、印刷可能な材料を支持するために表面張力の影響を助けるために、支持材料内またはその表面上に注がれる。
【0015】
第1の態様による例示的な実施形態において、支持材料のゲル状組成は、液体分子とゲル化剤分子との間の分子間力によってその表面エネルギーおよび粘度を増加させ、これは印刷可能な材料に対する支持を増加させる。
【0016】
一般に、支持材料は、表面張力の増加によって支持体を得るためのゲルまたは液体であってよい。
【0017】
第1の態様による例示的な実施形態において、支持材料のラジカル重合開始剤添加剤を、重合性の噴射された材料と同一または他の波長の光によって、マイクロ波によって、あるいは温度の上昇によって活性化させることができる。
【0018】
第1の態様による例示的な実施形態において、印刷可能な物体へと移される支持材料中のコロイド粒子、生物学的に活性な分子、抗菌成分、薬物、化合物、フィラー、または細胞の添加剤が存在する。
【0019】
第1の態様による例示的な実施形態において、支持材料は、印刷可能な材料の開始剤系の開始剤の助けによって、印刷可能な材料の即時の硬化を保証し、これにより、印刷可能な物体は、印刷表面プラットフォームに対するいくつかの支持を有することなく複雑な形状を有することができる。
【0020】
第1の態様による例示的な実施形態において、本方法を、少なくとも部分的に、温度または超音波を介して印刷材料の粘度ならびに随意によるフィラーおよび他の添加剤の分散を制御する印刷材料用のチャンバおよび噴射チップを有するロボキャスティング3Dプリンタまたはポリジェットプリンタを使用して実行することができる。
【0021】
第1の態様による例示的な実施形態において、本方法は、コンピュータプログラムを使用して、印刷速度、印刷層の厚さ、印刷材料の粘度およびフィラーの分散、重合光の波長、印刷プロセスにおける出力、支持材料を活性化された新たな支持材料で充てんする速度、および印刷プロセス中の支持材料の変化を制御することを含む。
【0022】
第1の態様による例示的な実施形態において、印刷可能な物体は、最初に、印刷される材料の最初の接触によって支持材料ウェルの底部または壁に固定される。これに加え、あるいは代えて、印刷可能な物体を、印刷プロセスの最中にウェルの壁および/または底部に固定してもよい。
【0023】
第1の態様による例示的な実施形態において、本方法は、重合を促進するため、および印刷された材料の光開始重合を引き起こすために、支持材料中の開始剤を活性化させ、印刷材料の支持材料への噴射の最中または後に印刷材料の固化および噴射された材料層の互いの付着を生じさせるための光重合を可能にするための1つ以上の発光ユニットを備えるシステムによって実行される。
【0024】
第1の態様による例示的な実施形態において、重合の開始および伝播のための光放射は、1つ以上の波長の連続的またはパルス状であり、1つ以上の方向からもたらされる。
【0025】
第1の態様による例示的な実施形態において、支持材料は、非固体材料、高粘度液体、またはゲルであり、印刷された物体の内部または表面あるいは両方に付着することができる固体、半固体、分子、イオン、または細胞添加剤を有しても、有さなくてもよい。
【0026】
第1の態様による例示的な実施形態において、支持材料は、重合の酸素阻害の傾向があるときはいつでも、印刷された材料を周囲酸素から保護する。
【0027】
第1の態様による例示的な実施形態において、支持材料は、成長因子などの生物学的活性の化合物、抗菌化合物、薬物、生物活性フィラー、細胞、または印刷可能なセンサを、印刷可能な物体の内側部分の表面へと移す。
【0028】
第1の態様による例示的な実施形態において、印刷された物体は、支持材料の材料、化合物、および系から形成された圧力、温度、pH、抗体、および他の免疫系監視用のスマートセンサを含む。
【0029】
第1の態様による例示的な実施形態において、支持材料および印刷材料を印刷プロセスの最中に変更して、印刷される物体に、印刷される材料、化合物、および支持材料から印刷される物体へと移される材料に関する層状構造を持たせることを可能にできる。
【0030】
第2の態様によれば、第1の態様による方法を実行するように構成されたロボキャスティング装置を備えるシステムが存在する。
【0031】
第3の態様によれば、第1の態様による方法を実行するための手段であるポリジェットプリンタ装置を備えるシステムが存在する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1A】ロボキャスティングシステムおよび支持材料を示している。
図1B】支持材料中の保護用ガスの形成、支持材料の発泡表面への集中、および印刷ヘッドの垂直y軸移動の最中にさらなる支持材料を追加するための機構を示している。
図2】印刷された物体へと移される添加剤を含む支持材料を示している。
図3】インプラントとして使用することができる印刷可能な物体の製造を示している。
図4】インプラントとして使用することができる印刷可能な物体の製造を示している。
図5】良好な重合の例示的な結果に関するグラフを示している。
図6】印刷された物体の表面硬度を示している。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下の実施形態は例示である。本明細書は、本文のいくつかの箇所において「或る(an)」、「1つの(one)」、または「いくつかの(some)」実施形態に言及するかもしれないが、これは、必ずしも、各々の言及が同じ実施形態を指すことを意味せず、特定の特徴がただ1つの実施形態にのみに当てはまることを意味しない。異なる実施形態の個々の特徴を組み合わせて、他の実施形態をもたらすことも可能である。
【0034】
良好な物理的特性を有し、3D印刷としても理解され得る付加製造(AM)およびバイオ印刷に使用されている材料の1つのグループは、樹脂系の材料および複合材料である。これらの材料は、いくつかの種類のAM技術によって処理することもできる。しかしながら、複雑な形状の物体および良好な生体適合性を必要とする物体を製造するためには、AM技術にはいくつかの限界が存在する。さらに、生物学的に活性な物質をAMで作成される物体に移すためには、現在のAM技術には限界が存在する。
【0035】
ティッシュエンジニアリング足場、薬物デリバリ媒体、細胞カプセル化のバイオ印刷において役割を有する別の材料群は、ヒドロゲルである。ヒドロゲルは、水に溶解しない架橋親水性ポリマー系である。ヒドロゲルは、広範囲の生物医学の用途に適した物理化学的特性を有する。ヒドロゲルは、高度に粘性の性質が天然の軟組織に似ているため、軟組織増強における生体適合材料としても使用される。さらに、ヒドロゲルに生物学的に活性な物質および細胞を充てんすることができる。しかしながら、それらの機械的特性は、硬組織の修復および置換の用途には弱いかもしれない。
【0036】
ティッシュエンジニアリング足場、インプラント、埋め込み式であり、あるいは経口で届けられる薬物放出ドシエ、歯科用構築物、さらには生細胞構築物を製造するために使用されるいくつかの3D印刷技術、装置、および樹脂が利用可能である。例えば、インプラントおよび歯科修復物に使用することができる生体安定性熱硬化性モノマー系が、単官能性または多官能性のアクリレートまたはメタクリレートモノマーおよびフィラー複合材料に基づく一方で、生分解性樹脂系の材料が、ティッシュエンジニアリング足場および薬物放出ドシエに好ましい。印刷された物体から放出される薬物の例は、抗炎症薬および抗生物質である。モノマーは、フリーラジカル重合、カチオン重合、カチオン光重合、または前面重合による重合において硬化するが、これらの重合は、例えば周囲酸素として理解することができる酸素によって阻害される反応である。完全な硬化、すなわち内側部分から表面までのモノマーのモノマー変換と呼ばれる硬化度(DC)を得るために、硬化プロセスにおいて酸素は存在すべきではない。周囲酸素の悪影響を、例えば、物体の最終的な硬化が行われる前に酸素保護バリアを使用することによって妨げることができる。モノマーの高いDCは、良好な機械的特性、良好な生体適合性、および高い表面光沢などの利点の達成を、歯科用構築物などにおいて所望される場合に助けることができる。光硬化の酸素の阻害効果を防止するために、他の方法も使用することができる。これらは、物体を真空チャンバ内または不活性ガス(チッ素、二酸化炭素、アルゴン、ヘリウム)の無酸素雰囲気中で硬化させることである。
【0037】
光造形法にて液体ベースのAMプロセスを使用して物体、すなわち印刷可能な物体を製造する場合、光硬化樹脂を、液体槽から層ごとのやり方で硬化させることができる。印刷材料を気体、例えば空気中で固体表面に噴射し、所望の波長および照射パワーの光で層ごとのやり方で硬化させることも可能であり得る。AMプロセスに関し、押出印刷システムであるポリジェット印刷システムまたはロボキャスティングシステムなどのシステムを、AMプロセスに使用することができる。例えば、ロボキャスティングシステムは、細胞のバイオ印刷を含むAMプロセスで使用される直接インク印刷および他の押出ベースのAM印刷技術に類似し得る。印刷材料である噴射可能な材料のための支持材料が存在しない場合、印刷可能な物体を、固体表面を得るために、いくつかの支持スタブなどの他の手段を使用して支持することができる。印刷材料のレオロジー特性に応じて、隣接するスタブ間の距離を決定することができる。スタブは、その後に物体が最終化されるときに除去されてもよい。さらに、いくつかの例では、スタブを使用すると、製造される物体の寸法精度が低下する可能性がある。別の例として、ポリジェット3D印刷において、別個の支持材料を印刷材料と同時に印刷することができる。その場合、支持材料は、印刷可能な物体の一体の一部分となり、後に除去される必要がある。ポリジェット支持材料を除去した後に、印刷された物体は、周囲空気中で生じた印刷プロセスに起因して、粘着性で重合が阻害され、光沢がなく、生体適合性のない表面を有する。
【0038】
いくつかの支持スタブを使用した気体中での材料の印刷の代替の方法は、支持材料中に印刷材料を噴射することである。支持材料は、液体、コロイド、ゲル、または半固体材料であってよい。この方法を用いるシステムを、例えば、細胞、支持マトリックス、栄養剤の混合物のバイオインクを堆積および硬化させて組織様構築物を生成するために使用することができる。バイオインクを、例えば、印刷バイオインクを支持する生体適合性ゲルであるゲルポロキサマーへと印刷することができる。しかしながら、ポロキサマーゲルおよび他のゲルが、ロボキャスティング技術での熱硬化性のモノマーまたは複合材料からなる印刷材料による3D印刷のための支持材料として使用される場合、ゲルが印刷層の表面を汚染する可能性があり、したがって、重合によって印刷層が互いに付着することがなく、印刷可能な物体に弱い構造が生じる可能性がある。さらに、ゲル内でのロボキャスティングシステムの印刷チップの移動が、ゲル自体の移動も引き起こし、印刷可能な物体の寸法精度を低下させる可能性がある。また、印刷チップからの材料の印刷圧力が、重合の開始前に支持ゲル内に広がる可能性もある。
【0039】
したがって、層間の良好な付着を可能にし、酸素阻害層を排除し、噴射可能な材料の硬化の即時開始および高精度な印刷可能な物体のための噴射可能な材料の支持を提供する熱硬化性樹脂ロボキャスティング押出噴射技術によって良好に重合した印刷可能な物体を製造するためのシステムおよび/または方法を有することが有益であろう。支持材料を介して印刷プロセスの最中に印刷可能な物体に細胞、化合物、およびフィラーなどの添加剤として理解することができる成分を添加する可能性も、望まれる特性であり得る。
【0040】
ロボキャスティングシステムに含まれるロボキャスティング装置の例示的な実施形態を、印刷材料のためのチャンバを有する少なくとも1つの印刷ヘッドと、印刷材料の重合が生じる支持材料へと印刷材料を噴射するように構成された噴射チップまたは印刷表面プラットフォームと、圧力、温度、および粘度の噴射パラメータ、支持材料内のx-y-z方向の噴射チップまたは印刷表面プラットフォームの移動の速度、支持材料内の印刷材料を重合させ、支持材料内の開始剤系を活性化させる発光ユニットまたはマイクロ波放射装置、ならびに印刷チャンバ内の加熱-冷却ユニットおよび超音波放射ユニットを制御し、印刷プロセス中に支持材料の量を制御し、支持材料を追加または変更するコンピュータ制御ユニットとを備える装置と理解することができる。そのようなロボキャスティング装置を、さまざまな物体、例えばティッシュエンジニアリング足場、硬組織および軟組織の修復および置換のための外科用インプラント、ならびに歯科用構築物に使用することができる物体を印刷するために利用することができる。例えば、いくつかの実施形態において、ロボキャスティング装置は噴射チップを有し、噴射チップは、チャンバの底部から先端部までの長さが、物体が印刷される支持材料の深さよりも大きく、約1.50mmから約100.0mmまでさまざまであってよいが、例えば印刷される物体に応じて他の長さを使用することもできる。さらに、いくつかの例示的な実施形態において、支持材料は、支持材料の深さが印刷される物体のサイズに基づいて決定されるように容器に含まれてよい。例えば、支持材料の深さは、印刷される物体の高さを約1.0mm以上超えてよい。
【0041】
図1Aが、上述のロボキャスティング装置などのロボキャスティング装置を備えるシステムの例示的な実施形態を示している。したがって、システムを、ロボキャスティングシステムと理解することができる。この例示的な実施形態において、印刷要素と呼ばれるロボキャスティング装置の一部分が存在し、これは、方向x、y、およびz 105に移動するように構成された噴射チップ130を備え、移動は、移動を制御するように構成されたコンピュータ命令を含むコンピュータ制御ユニットである制御ユニットによって制御されてよい。さらに、印刷要素は、樹脂または樹脂複合材料の印刷材料を含んでよいチャンバ170を備える。印刷材料の粘度を、チャンバ170の熱電素子120によって制御することができる。熱電素子は、印刷要素に含まれてよく、チャンバ170に取り付けられてよく、あるいはチャンバ170に隣接してもよい。すなわち、熱電素子120が印刷材料の粘度を制御する。樹脂または樹脂複合材料のフィラーの分散を、超音波ユニット110からの超音波によって制御することができる。支持材料140内を移動する噴射チップ130は、磨かれた鋼からなってよく、印刷移動の最中の支持材料におけるチップの摩擦を減らすために、随意によりポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))などの材料でコーティングされてよい。噴射チップ130は、この例示的な実施形態において、噴射チップ130の先端部において印刷樹脂を硬化させる上部発光源の直接の硬化光透過を妨げる遮光板190をさらに有する。これにより、印刷樹脂の硬化による噴射チップの詰まりが解消される。遮光板190は、影領域を制御し、すなわち噴射可能な樹脂が重合を開始する噴射チップからの距離を制御するために、垂直方向に調整可能であってもよい。したがって、一般に、遮光板190は、噴射チップ130の先端部の印刷材料の硬化が防止されるように、噴射チップ130に配置される。支持材料は、印刷チップが支持材料へと印刷材料を印刷することができるように、任意の適切な容器に含まれてよい。容器に含まれた支持材料を、支持材料ウェル180と理解することができる。なお、容器は、印刷ウェルと呼ばれることもある。ウェルの壁は、硬化光の透過のために、半透明でUV保護されていない。噴射チップの内径は、例えばジメタクリレート樹脂複合材料の場合の0.20mmなど、0.01~10.0mmの間であってよい。例えば、チャンバの底部から先端部までの噴射チップの長さ1002は、例えば、1.50mm~100.0mmであってよく、支持材料の深さ1004よりも1.0mm大きくてよい。支持材料の深さ1004は、例えば、印刷される物体の高さ1006よりも少なくとも1.0mm大きくてよい。
【0042】
印刷材料は、重合性モノマーまたはコモノマー系を含むいくつかの官能性反応基のうちの1つからなる生分解性または生体安定性の樹脂または樹脂複合材料であってよく、樹脂または樹脂複合材料の付加重合または縮合重合:フリーラジカル重合、イオン重合、開環重合、または前面重合を可能にする化合物を有する。重合後に、樹脂は、任意の種類の熱可塑性、熱硬化性、コポリマー、ブレンド、または相互貫入ポリマーネットワーク(IPN)のいずれかであってよい。印刷材料が粒子状または不連続繊維フィラーとの樹脂複合材料である場合、フィラーは、噴射チップの内径よりも小さい。
【0043】
チャンバ170内に含まれる印刷材料は、噴射チップ130を通って支持材料ウェル180の底部へと噴射され、その後に、噴射チップ130ならびに/あるいは支持材料ウェル180の側面または底部に配置された1つ以上の発光源150によって光で硬化させられる。側面または底部の発光源は、開始剤を活性化して支持材料中にフリーラジカルを形成するために使用される。発光源の発光の波長は、互いに異なっていてもよい。重合光を、発光源150によって、印刷プロセスの開始時、最中、または後に、連続的またはパルス状に発光させることができる。
【0044】
それ自体は重合しない支持材料は、印刷材料が、例えばマイクロ波または前面重合機構によって、1つ以上の発光源150によって生成された硬化光によって重合を開始するまで、噴射チップ130を使用して噴射された噴射可能材料を支持するニュートンまたは非ニュートン流体またはゲルまたは粘性液体であってよい。噴射チップのヘッドを硬化光の放射がないように保つべき場合、すなわちヘッドの詰まりを排除すべき場合、遮光板が、噴射チップ部の中心軸132から上部発光源の距離までの正しい高さに調整される。噴射チップの詰まりを、例えばエタノール-メチルヒドロキノン( )阻害剤の混合物に噴射チップを浸漬し、エタノールを蒸発させて、噴射チップの表面に阻害剤のコーティングを残すことによって妨げることもできる。支持材料が、例えば、印刷材料を支持する非イオン性ポリアクリルアミド(PAM)((CNO))-水ヒドロゲル(PAH)またはメチルセルロース-水ヒドロゲル(MEH)のゲルである場合、これらは、印刷層の互いの接着を可能にし、印刷された物体160の表面における酸素阻害層の形成を排除または妨害するという利点を有する。PAHにおいて、水は、ヒドロゲル結合によって架橋ポリマーPAM間に結合する。PAHは、安定、非毒性、非アレルギー性、非吸収性、かつ非生分解性であり、したがって、生物医学および歯科構築物の3D印刷のための支持材料としての使用にとくに適する。メチルセルロース-水ヒドロゲル(MEH)の別のヒドロゲル支持材料は、生体適合性ヒドロゲルであり、バイオおよび医療機器の3D印刷にやはり適する。支持材料は、ヒドロゲルと、エマルジョン流体小胞、セルロースミクロフィブリル、セルロースナノ結晶、カリウム塩、キトサン、アルギネート、ポリビニルアルコール、デンプン、ゼラチン、タンパク質、または無機フィラーなどの添加剤とを含有する混合物であってもよい。添加剤の密度は、支持材料の密度と比べて低くても、同じでも、あるいは高くてもよく、これが、支持材料中の添加剤の分布および垂直位置に影響を及ぼす。支持材料は、フィラーの均一な分配のために使用前に混合することができ、あるいはフィラーを、支持材料の表面に落下または移動させてもよい。これにより、印刷された物体におけるフィラーの均一な配置または勾配配置が可能になる。
【0045】
支持材料内での噴射チップの移動は、せん断力に起因する支持材料の或る程度の流れを引き起こす可能性がある。これは、印刷可能な物体に不正確さを引き起こす可能性がある。また、支持材料へと噴射されている印刷材料の噴射圧力が高いと、印刷材料が支持材料内で広がり、やはり印刷可能な物体の寸法精度が低下する可能性がある。したがって、印刷材料の表面からの硬化または材料全体の硬化(前面重合)が、印刷材料が噴射チップから支持材料へと放出された直後に生じることが望ましい。ひとたび支持材料に接触したときの印刷材料の即時の硬化を確実にするために、支持材料は、印刷材料の反応基を活性化させるためのフリーラジカル重合開始剤である開始剤を含んでよい。メタクリレート系の噴射可能な樹脂材料のための支持材料中の開始剤は、例えば、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩([=NC(CHC(=NH)NH・2HCl)(アゾ[AZO]塩化物)、あるいは2,2’-アゾビス(2-メチルブチルロニトリル)、2-ヒドロキシ-1-(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-2-メチル-1-プロパノン、モノアシルフォスフィンオキサイド、ビスアシルフォスフィンオキサイド、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニルケトン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-1-ブタノン、2-メチル-4’-(メチルチオ)-2-モルホリノプロピオフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、エオシン-Y、エリスロシン、リボフラビン(B2)、またはカンファーキノン、などの他の水溶性フリーラジカル重合開始剤であってよい。
【0046】
330~380(吸収極大375nm)ナノメートル波長のUV照射での活性化による2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩のアルキルラジカルへの化学反応は、支持ヒドロゲル材料へのチッ素ガス形成を誘導する。支持材料中のチッ素ガスは、ヒドロゲル支持材料へと拡散する酸素によるフリーラジカル重合の阻害に対して保護ガスとして挙動し、フリーラジカルを酸化から保護し、その寿命を延ばす。生細胞および組織を有する支持材料への印刷プロセスにおいては、細胞が印刷された物体へと移されるまで支持材料内で生存するための局所酸素リザーバの供給源が存在し得る。
【0047】
開始剤の生体適合性は、開始剤化合物、開始剤の濃度、および硬化光への曝露に関係する。典型的には、UV波長(350~390nm)の硬化光が3D印刷に使用される。歯科用樹脂複合材料を光によって硬化させる場合、青色光の波長(460~470nm)が使用され、細胞および組織に対する有害な影響が少ない。したがって、生物医学および歯科の構築物のための噴射可能材料の硬化プロセスにおいて、UV光の代わりに青色光を使用することが有益である。また、印刷材料中の細胞をUV放射の影響から保護するために、支持材料の活性化が、印刷材料の噴射が行われる前に行われる。生細胞は、UV保護流体小胞によって保護される。
【0048】
分かりやすくするために、本開示において、PAMがPAHにおいて使用される場合、PAMはすでに硬化しており、PAH支持材料のさらなる反応は生じないように意図されていることに留意されたい。AZO塩化物などの開始剤の意図は、印刷材料がヒドロゲル材料を支持する支持材料と接触したときに、印刷材料のフリーラジカル重合を促進、加速、および支持することである。
【0049】
PAHに関する水中のPAMの濃度は、0.1~20.0重量%の間であってよく、例えば3.0重量%であってよい。水中のメチルセルロース(MEH)の濃度は、0.1~30重量%の間であってよく、例えば5.0重量%であってよい。噴射可能なメタクリレート樹脂の硬化の速度を向上および加速させるために、支持材料は、支持材料の開始剤(AZO塩化物)と矛盾しない活性剤化合物をさらに含んでもよい。活性剤の例は、2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレート(HC=CHCOCHCHN(CH)である。支持材料(PAH)中の開始剤(AZO塩化物)の濃度は、0.2~8.0重量%の間であってよく、例えば4.0重量%であってよい。支持材料は、グリセロールゲル、またはビスフェノール-A-グリシジルジメタクリレート(bisGMA)、ウレタンジメタクリレート(UDMA)、ビスフェノール-A-エチルメタクリレート(bisEMA)の高粘度モノマー、あるいは印刷装置の発光源150からの光によって重合することがない任意の他のモノマーまたはコモノマー系であってもよい。
【0050】
生物学的に活性な化合物、薬物、および細胞などの添加剤を、印刷された物体に移されるように支持材料に加えることも可能である。生物学的に活性な材料の例は、流体小胞、ナノまたはマイクロメートル規模のバイオセラミックまたは生物活性ガラス粒子、骨形態形成成長因子、ペプチド、およびRGDである。また、細胞および組織の再生ならびに印刷材料の重合に最も適するようにpHを最適化するために、支持材料において、pH制御化合物を添加剤として使用してもよい。pH制御化合物の例は、イオン交換反応のためのイオンの迅速な溶解および放出によってpHを上昇させるゾル-ゲル生物活性ガラスである。印刷可能な物体が、印刷の完了後に、生物学的に活性な物質または細胞をティッシュエンジニアリング環境またはその場の組織に放出することを目的とする場合、印刷可能な物体は、ポリエステル、ポリ(乳酸)、ポリ(カプロラクトン)、またはポリ(グリコリド)、これらのコポリマー、IPN、ブレンド、あるいはこれらの複合材料、または架橋性ヒドロゲルなどの生分解性ポリマーで作られる。この種の用途に使用される印刷可能な物体のポリマーは、栄養素、酸素、および代謝産物に対する高い透過性を保証する多孔質である。さらに、支持材料は、生分解性かつ環境に優しいヒドロゲルであることが好ましい。生分解性ヒドロゲルは、多糖類(例えば、キトサン)およびタンパク質(例えば、コラーゲン)などの天然ベースのヒドロゲル、またはポリ(乳酸)(PLA)、ポリ(グリコール酸)(PGA)、およびポリプロピレンフマレート(PPF)などの合成物質である。
【0051】
この例示的な実施形態における印刷された物体160は、歯科インプラント、軟組織置換インプラント、ステント、または歯科修復物(充てん材、歯冠、固定式の部分義歯、取り外し可能な義歯、歯列矯正装置、咬合スプリント、外科ガイド、歯科モデル)などのティッシュエンジニアリング足場または骨固定インプラントである。印刷された物体160は、支持材料へと印刷される技術的物体など、任意の他の物体であってもよい。
【0052】
図1Bが、図1Aに示した例示的な実施形態の変形例である別の例示的な実施形態を示している。印刷装置そのものは、図1Bの例示的な実施形態と同じであるが、この例示的な実施形態においては、支持材料1010が印刷中にチャンバに加えられる。この目的のために、物体160の印刷中にチャンバの底部に支持材料1010を加えることを可能にする噴射チューブ1020が存在する。これに加え、あるいは代えて、支持材料の表面の上部に支持材料1010を加えることを可能にする別の噴射チューブ1025がさらに存在してもよい。この例示的な実施形態において、支持材料1010は、随意により材料ウェルの側面および/または底部に位置する発光源150からもたらされるUV放射で活性化されるAZO開始剤を有するヒドロゲル材料である。放射は、アルキルラジカルがチッ素(N)ガスの形成と同時に形成される化学反応を開始させる。チッ素は、印刷材料の酸素によるフリーラジカル重合阻害の発生を排除するための支持材料中の保護ガスである。チッ素ガスの気泡が上方に移動しており、保護用ガスの量が最も多く、アルキルラジカルの濃度が最も高い泡状の表面が支持材料上に存在する。したがって、発泡層1015と理解することができる支持材料内の上部層が存在し得る。
【0053】
支持材料中に添加剤が存在する場合、上方へのチッ素ガスによる流体の流れは、添加剤も支持材料の表面に移動させる。印刷材料が支持材料の発泡層に到達すると、印刷材料は、少なくともその表面から即座に重合および固化する。この固化は、印刷層の下方にいかなる固体支持材料も必要とせずに材料を印刷することを可能にする。印刷中の物体を常に発泡層の内部に保つために、より多くの支持材料をチューブを介して印刷ウェルへと流すことによって、支持材料の量が増やされる。チューブは、少なくとも部分的に半透明であり、チューブの端部のために流出する前の新たな支持材料の追加のUV活性化の発生を可能にする。より多くの支持材料を流すことを、追加の支持材料を提供することと理解できることに留意されたい。ウェル内の支持材料の量の増加、すなわち深さの増加は、印刷可能材料を発泡層の内部に保ち、発泡層が存在しない場合には支持材料の表面層上に保つために、印刷ヘッドの垂直移動と同期される。支持材料の量の増加は、ウェルの底部または支持材料の表面に対して行うことができる。増やされた支持材料は、活性化を伴わなくても、UVまたは温度によって活性化されてもよい。
【0054】
ひとたび印刷の所定の段階に到達し、あるいは物体全体が印刷されると、400~480nmの波長の硬化光が、物体を印刷ウェル(容器)から除去する前に、物体の重合を開始させる。その後に、印刷された物体は、水中で洗浄され、さらに処理される。印刷プロセスを、滅菌された医療装置を容易に製造するために、滅菌された印刷装置において滅菌された印刷および支持材料によって行うことができる。
【0055】
図2が、損傷した長骨260の骨欠損に対して製造された印刷可能な物体215の例示的な実施形態を示している。損傷した長骨260を、コンピュータ断層撮影(CT)を使用してスキャンしておくことができる。欠損のCTスキャンに基づいて、印刷される物体のデジタルモデルをコンピュータソフトウェアを使用して生成することができ、デジタルモデルを印刷装置への入力として使用して、印刷装置で受け取った入力に基づいて物体を印刷することができる。この例示的な実施形態において、印刷装置は、方向205に移動するように制御することができる印刷チップを含む印刷要素200を備えた図1において説明したようなロボキャスティング印刷装置である。印刷可能な物体は、この例示的な実施形態においては生分解性支持材料である支持材料210を含む容器へと印刷される。この例示的な実施形態において、印刷可能な物体は、CTスキャンに基づいて得られた印刷命令を含む入力を受け取った後に、間葉系幹細胞(MSC)270を含む生分解性キトサン足場に印刷される。支持材料は、この例示的な実施形態において、細胞に必要な成分を含む細胞培養培地としても機能する。印刷材料280は、この例示的な実施形態において、重合性メタクリル基を有するポリ(乳酸)(PLA)またはポリ(カプロラクトン)(PCL)の可視青色光重合性樹脂である。MSCは、印刷可能な物体215の印刷中に印刷材料の層290の間の空間に捕捉される。硬化後、細胞を有する足場をさらに培養し、あるいは欠損部位220に直接移植して、骨の成長を促進する。追加の固定プレートを使用して、治癒する骨を安定させることができる。
【0056】
図3が、印刷可能な物体を支持材料へと印刷する例示的な実施形態を示している。印刷可能な物体は、支持材料へと物体を印刷し、次いで直ちに硬化させる方法が好適である任意の物体であってよい。あくまでも例示の目的で、この例示的な実施形態において、印刷可能な物体315は、コーンビームコンピュータトモグラム画像およびコンピュータトモグラム画像に基づいて形成されたstlファイルに基づく解剖学的に形成された一体型インプラントである。この例示的な実施形態において、図1の例示的な実施形態によるロボキャスティングシステムが利用され、したがって、方向205に移動するように制御することができる印刷チップを備える印刷要素200が存在する。抽出されるべき歯根のスキャンされた解剖学的構造が、この例示的な実施形態においてはインプラント315である3D印刷可能物体に変換される。印刷された物体315の表面は、骨との結合のための表面積を増加させることによって骨へのインプラントの付着を強化する印刷層310のトポグラフィを有する。インプラント315を3D印刷し、追加の発光源250で最終的に硬化させた後に、印刷ウェルから抽出された最終的な印刷可能な物体315である最終的な物体320は、オートクレーブ、熱風、臨界点二酸化炭素、または過酸化水素プラズマで滅菌され、抽出ソケットに埋め込まれ、物体330がこれに取り付けられる。したがって、この例示的な実施形態においては、ロボキャスティングシステムを利用し、ソースモデル360に基づくstlファイルを使用して印刷命令を得ることで、ソースモデル360に基づいて印刷可能な物体315を得ることができる。
【0057】
一般に、硬化を、例えば初期硬化および最終硬化を使用して複数の機会において実行してもよいことに留意されたい。また、より多くの硬化段階が存在してもよく、各々の硬化機会において発光源の一部のみが使用されても、あるいはすべてが使用されてもよいことに留意されたい。したがって、異なる硬化機会において、発光源の異なる組み合わせを使用することができる。
【0058】
いくつかの例示的な実施形態において、印刷可能な物体がロボキャスティングシステムを使用して印刷され、印刷材料が開始剤を含む支持材料へと印刷される場合、印刷ウェルの底部への印刷可能な物体の初期安定化を、支持材料ウェルの下方に配置された1つ以上の発光源を備えてよいより弱い硬化発光源によって行うことができる。印刷時に、印刷材料を、最初に、支持材料ウェルの上方に配置された発光源であってよい上部硬化発光源で重合させることができる。照射パワーは、例えば、100mW/cmなどの低い照射パワーであってよい。印刷材料、したがって印刷可能な物体の最終的な硬化を、すべての硬化発光源を用いて行うことができ、いくつかの例示的な実施形態においては、すべての硬化発光源は、印刷ウェルの側面に配置された発光源も含んでよい。
【0059】
図4が、図1に示した例示的な実施形態によるロボキャスティングシステムが利用され、したがって方向405に移動する印刷要素400が存在する別の例示的な実施形態を示している。この例示的な実施形態において、ロボキャスティングシステムを利用し、コーンビームコンピュータトモグラム画像および形成されたSTL、OBJ、PLY、IGES、またはSTEPファイルに基づいて、解剖学的に形成されたインプラントである印刷された物体440が得られる。印刷材料が支持材料へと噴射され、支持材料は、この例示的な実施形態において、この例示的な実施形態においては0.01~1000マイクロメートルの粒径の生物活性ガラス、リン酸三カルシウム、ヒドロキシルアパタイト、炭酸アパタイト、炭酸カルシウム、またはこれらの組み合わせからなってよい生物活性粒子410である添加剤を2~80%の体積分率で支持材料に対して含む。得られた画像が、この例示的な実施形態においては上述のようなインプラントである印刷可能な物体320を印刷するための入力として使用され、印刷可能な物体420の表面は、骨との結合のための表面積を増やすこと、および重合中に印刷材料に結合する生物活性粒子430の助けを借りることによって、骨などの標的環境へのインプラントの付着を強化する印刷層425のトポグラフィを有する。3D印刷および追加の発光源450による最終的な硬化の後に、支持材料ウェルから抽出された最終的な印刷可能な物体である物体440は、オートクレーブ、熱風、臨界点二酸化炭素、または過酸化水素プラズマで滅菌され、抽出ソケットに埋め込まれ、目的の物体440に取り付けられる。
【0060】
図5が、印刷がポリアクリルアミド-水ゲルにおいて行われた場合の印刷層の互いの良好な重合に関する例示的な結果に関するグラフを示している。印刷された材料の均質性を、支持材料中で水平方向または垂直方向に印刷された、印刷された物体の研削研磨表面の表面微小硬度(ビッカース表面硬度数、VHN)として測定した。小さい標準偏差が、表面が印刷層の境界面を含む表面全体にわたって充分に重合していることを実証している。図5において、x軸510は、ランダムに選択された測定領域であってよい測定領域を示し、y軸520は、VHNを示している。
【0061】
図6が、例示的な結果の別のグラフを示している。このグラフにおいて、y軸620は、VHNを示し、x軸610は、測定領域を示している。印刷されたジメタクリレート系樹脂複合材料の表面硬度、および印刷材料を支持材料に接触させて重合させたときに印刷可能な物体の表面上に酸素阻害層がないことが、バー1に示されている。バー2として示される物体の研削および研磨された内部の表面硬度と比較した。
【0062】
以上、本発明を添付の図面による実施例を参照して説明したが、本発明がそれらに限定されず、添付の特許請求の範囲の技術的範囲においていくつかのやり方で変更が可能であることは明らかである。したがって、すべての単語および表現は、広義に解釈されるべきであり、実施形態を限定することではなく、例示することを意図している。技術が進歩するにつれて、本発明の考え方をさまざまなやり方で実施できることは、当業者にとって明らかであろう。さらに、記載された実施形態を、必須ではないが、さまざまなやり方で他の実施形態と組み合わせてよいことが、当業者には明らかである。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6