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特許7641090容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料、容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料の製造方法および退色抑制方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-26
(45)【発行日】2025-03-06
(54)【発明の名称】容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料、容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料の製造方法および退色抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/52 20060101AFI20250227BHJP
   A23L 2/02 20060101ALI20250227BHJP
【FI】
A23L2/52 101
A23L2/02 A
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020067813
(22)【出願日】2020-04-03
(65)【公開番号】P2021159056
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-03-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.株式会社伊藤園のウェブサイトでの発表 URL:http://www.itoen.co.jp/ URL:http://www.itoen.co.jp/news/detail/id=25427 発表日:令和1年11月7日 2.販売 販売した場所:全国 公開者:株式会社伊藤園 販売開始日:令和1年11月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】591014972
【氏名又は名称】株式会社 伊藤園
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100201606
【弁理士】
【氏名又は名称】田岡 洋
(72)【発明者】
【氏名】菅原 大奨
(72)【発明者】
【氏名】川崎 真澄
(72)【発明者】
【氏名】後藤 史明
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】再公表特許第2010/110328(JP,A1)
【文献】特開昭60-221066(JP,A)
【文献】特開2016-096797(JP,A)
【文献】特開2007-228867(JP,A)
【文献】特開2017-108713(JP,A)
【文献】特開2014-168401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
PubMed
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FSTA/AGRICOLA/BIOSIS/BIOTECHNO/CABA/CAplus/SCISEARCH/TOXCENTER(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アントシアニン含有果汁含有飲料であって、
エンジュ由来の抽出物と、
アントシアニン含有混濁果汁と、
を含む、容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料。
【請求項2】
アスコルビン酸の含有量が60ppm以下である、請求項1に記載の容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料。
【請求項3】
アントシアニンの含有量が0.5~10ppmである、請求項1または2に記載の容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料。
【請求項4】
透過率が93.0~99.5である、請求項1~のいずれか1項に記載の容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料。
【請求項5】
前記エンジュ由来の抽出物の含有量が0.005~0.1質量%である、請求項1~のいずれか1項に記載の容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料。
【請求項6】
前記アントシアニン含有混濁果汁の含有量が0.1~5質量%である、請求項1~のいずれか1項に記載の容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料。
【請求項7】
前記アントシアニン含有果汁の含有量が0.1~10質量%である、請求項1~のいずれか1項に記載の容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料。
【請求項8】
pHが2.0~5.0である、請求項1~のいずれか1項に記載の容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料。
【請求項9】
糖度が2.0~15.0である、請求項1~のいずれか1項に記載の容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料。
【請求項10】
酸度が0.05~0.5である、請求項1~のいずれか1項に記載の容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料。
【請求項11】
糖酸比が4~300である、請求項1~10のいずれか1項に記載の容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料。
【請求項12】
ポリフェノールの含有量が5.0~40.0ppmである、請求項1~11のいずれか1項に記載の容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料。
【請求項13】
前記ポリフェノールの含有量に対するアントシアニンの含有量の比率が0.05~0.3である、請求項12に記載の容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料。
【請求項14】
容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料の製造方法であって、
エンジュ由来の抽出物と、アントシアニン含有混濁果汁と、を配合する工程を含む、容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料の製造方法。
【請求項15】
容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料の退色抑制方法であって、
エンジュ由来の抽出物と、アントシアニン含有混濁果汁と、を配合する工程を含む、容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料の退色抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料およびその製造方法に関するものである。また、本発明は、当該容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料の退色抑制方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
近年、飲料に関する嗜好の多様化や健康志向の高まりから、単に嗜好を満たすのみならず、健康の維持に対し一定の効果が期待される機能を持った、種々の容器詰飲料が多数上市されている。その中でも、アントシアニンを含有した果汁含有飲料が年代や性別を問わず広く消費者に受け入れられている。現代社会では、パソコンやスマートフォンの普及から眼精疲労が大きな社会問題となっており、この眼精疲労に有効な成分としてアントシアニンが注目されているからである。
【0003】
他方で、最近は、容器詰果汁含有飲料のマーケットにおける消費者のニーズが、高果汁含有飲料から低果汁含有飲料へシフトしている。このニーズに呼応して、液色が透明に近く且つ低果汁である、いわゆるニアウォーターのジャンルに属する容器詰低果汁含有飲料が販売されており、アントシアニンを含有する容器詰低果汁含有飲料に対するニーズも高まっている。
【0004】
ところで、これらの容器詰低果汁含有飲料は、果汁率が低いことから、果汁感や甘味と酸味のバランスといった、果汁の自然な味わいが十分に感じられないという問題が一般的に知られている。このような問題を解決するために、例えば特許文献1に記載されている、低果汁含有飲料の果汁感を向上させるための技術が公開されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-079607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
容器詰果汁含有飲料、特にアントシアニン含有果汁含有飲料は、視覚的に果汁感を得るために液色が重要であるが、退色しやすいという問題がある。中でも、容器詰低果汁含有飲料は液色が薄いことから、光が透過しやすいため劣化による退色が進みやすいといった問題があった。容器詰飲料は販売される際に照明下で保存されることが多く、特に近年は、LEDライトの普及により従来よりも多くの光量が容器詰低果汁含有飲料に当たるため、光劣化による退色が避けられない状況にある。
【0007】
そこで、本発明は、アントシアニン含有果汁の自然な味わいを十分に有しながら、内容液の光への曝露や経時による劣化に起因する退色を抑制した容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料およびその製造方法、並びに容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料における退色抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記問題を解決すべく研究を行った結果、マメ科植物由来の抽出物と、アントシアニン含有混濁果汁と、を含む容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料が、アントシアニン含有果汁の自然な味わいを十分に有しながら、内容液の光への曝露や経時による劣化に起因する退色が抑制されたものとなることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
具体的には、本発明は以下のとおりである。
〔1〕 アントシアニン含有果汁含有飲料であって、
マメ科植物由来の抽出物と、
アントシアニン含有混濁果汁と、
を含む、容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料。
〔2〕 アスコルビン酸の含有量が60ppm以下である、〔1〕に記載の容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料。
〔3〕 前記マメ科植物が、エンジュ、ダイズより成る群より選ばれる1種以上のマメ科植物である、〔1〕または〔2〕に記載の容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料。
〔4〕 アントシアニンの含有量が0.5~10ppmである、〔1〕~〔3〕に記載の容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料。
〔5〕 透過率が93.0~99.5である、〔1〕~〔4〕に記載の容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料。
〔6〕 前記マメ科植物由来の抽出物の含有量が0.005~0.1質量%である、〔1〕~〔5〕に記載の容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料。
〔7〕 前記アントシアニン含有混濁果汁の含有量が0.1~5質量%である、〔1〕~〔6〕に記載の容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料。
〔8〕 前記アントシアニン含有果汁の含有量が0.1~10質量%である、〔1〕~〔7〕に記載の容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料。
〔9〕 pHが2.0~5.0である、〔1〕~〔8〕に記載の容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料。
〔10〕 糖度が2.0~15.0である、〔1〕~〔9〕に記載の容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料。
〔11〕 酸度が0.05~0.5である、〔1〕~〔10〕に記載の容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料。
〔12〕 糖酸比が4~300である、〔1〕~〔11〕に記載の容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料。
〔13〕 ポリフェノールの含有量が5.0~40.0ppmである、〔1〕~〔12〕に記載の容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料。
〔14〕 前記ポリフェノールの含有量に対するアントシアニンの含有量の比率が0.05~0.3である、〔13〕に記載の容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料。
〔15〕 容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料の製造方法であって、
マメ科植物由来の抽出物と、アントシアニン含有混濁果汁と、を配合する工程を含む、容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料の製造方法。
〔16〕 容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料の退色抑制方法であって、
マメ科植物由来の抽出物と、アントシアニン含有混濁果汁と、を配合する工程を含む、容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料の退色抑制方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料は、アントシアニン含有果汁の自然な味わいを有し、且つ内容液の光への曝露や経時による劣化に起因する退色を抑制されたものとなる。また、本発明の製造方法によれば、アントシアニン含有果汁の自然な味わいを有し、且つ内容液の光への曝露や経時による劣化に起因する退色が抑制された容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料を製造することができる。また、本発明の退色抑制方法は、容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料の内容液の光への曝露や経時による劣化に起因した退色を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料〕
本発明の一実施形態に係る容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料は、マメ科植物由来の抽出物と、アントシアニン含有混濁果汁と、を含むものである。
【0012】
ここで本明細書において、容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料とは、アントシアニン含有果汁を含んだ飲料が容器に充填された製品のことを言う。本実施形態に係る容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料は、好ましくは非アルコール性飲料であり、さらに好ましくは非炭酸飲料である。
【0013】
(アントシアニン)
本実施形態においてアントシアニンとは、ポリフェノールの一種である一群の化合物群であって、アントシアニジンをアグリコンとする配糖体の総称である。アントシアニンとしては、デルフィニジン-3-グルコシド、シアニジン-3-グルコシド、ペチュニジン-3-グルコシド、ペオニジン-3-グルコシド及びマルビジン-3-グルコシド等が挙げられる。アントシアニンは、ブドウ(特に、赤ブドウ)、カシス、ベリー類などの果実や野菜に豊富に含まれており、抗酸化作用等の生理活性を有するほか、光を吸収し呈色する性質を有するため色素としても用いられる。本実施形態に係る容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料においては、アントシアニン化合物単体を配合しても良く、又はアントシアニンを含有する組成物(例えば、アントシアニン色素や、アントシアニンを含有する果汁及び/又は野菜汁等)を配合しても良いが、製品の性格上、天然物を用いることが望ましい。
【0014】
本実施形態に係る容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料において、アントシアニンの含有量は0.5ppm以上であることが好ましく、0.7ppm以上であることがより好ましく、1.0ppm以上であることがさらに好ましく、1.5ppm以上であることが特に好ましい。上記範囲となるようにアントシアニン含有果汁を含有することで、消費者の視覚に果汁感を訴える外観を持った容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料を得やすくなる。
また、本実施形態に係る容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料において、アントシアニンの含有量は10ppm以下であることが好ましく、7.0ppm以下であることがより好ましく、5.0ppm以下であることがさらに好ましく、4.0ppm以下であることが特に好ましい。上記範囲となるようにアントシアニン含有果汁を含有することで、酸味が強すぎず甘味とバランスが良い容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料を得やすくなる。
【0015】
なお、アントシアニン量の測定は、一般的な手法を用いることができ、例えば果汁含有飲料の乾燥物を2%塩酸-メタノール溶液で抽出し、分光光度計を用いてアントシアニン量を測定できる。
【0016】
(アントシアニン含有混濁果汁)
本実施形態に係る容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料は、アントシアニン含有混濁果汁を含有する。アントシアニン含有混濁果汁とは、アントシアニンを含有する果汁の清澄化処理していないものをいい、果実に由来する混濁成分や不溶成分などの固形物を含んだ果汁である。
混濁果汁を含有させることで容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料の退色、特に光による退色を効果的に抑制することができる。また、混濁果汁は味がよく、容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料の味を自然な味わいとすることができる。果汁感、濃厚感、ボディ感、奥行き等の味わいを高めたいのであれば、混濁果汁の比率を高めにすることも可能である。
【0017】
アントシアニン含有混濁果汁は、ブドウ(特に、赤ブドウ)、ザクロ、カシス、エルダーベリー、アロニア及びブルーベリー等の果実から得られる果汁が挙げられ、これらの果汁を2種以上配合してもよい。2種以上の果汁を配合する場合、甘味と酸味のバランス、アントシアニン量、ポリフェノール量および最終製品の色調等を調整しやすくなる。これら果実は「甘味と酸味のバランス」及び「アントシアニン含有量」が本実施形態に係る容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料に適している。なお、本明細書において「アントシアニン含有果汁の自然な味わい」とは、上記の果汁の自然な味わいを意味し、例えば、「果汁の持つ甘みと酸味のバランス」や「果汁のフレッシュ感」等を含む。
【0018】
アントシアニンを含有する果汁は、上記果実を搾汁、破砕、磨砕などして得ることができる。また、上記果汁としては、果実の搾汁液(ストレート果汁)、搾汁液を濃縮した濃縮果汁、濃縮果汁をさらに希釈した還元果汁、搾汁液に酵素処理等を施すことで清澄化した透明果汁、エキス、ピューレ等が挙げられる。
【0019】
アントシアニン含有混濁果汁の透過率はストレート果汁で、上限が20以下であることが好ましく、15以下であることがさらに好ましく、10以下であることが特に好ましい。透過率の測定方法は後述するものに従う。
【0020】
本実施形態に係る容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料において、アントシアニン含有混濁果汁の含有量は0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.3質量%以上であることがさらに好ましく、0.5質量%以上であることが特に好ましい。上記範囲となるように、アントシアニン含有混濁果汁を含有することで、アントシアニン含有果汁のフレッシュ感や甘味と酸味の良いバランスを保ちながら、退色が抑制された容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料を得やすくなる。
また、本実施形態に係る容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料において、アントシアニン含有混濁果汁の含有量は5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましく、2.5質量%以下であることが特に好ましい。上記範囲となるように、アントシアニン含有混濁果汁を含有することで、甘味と酸味のバランスが良い、すっきりとした味わいの容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料を得やすくなる。
なお、本実施形態において、果汁として濃縮果汁、濃縮エキス又は抽出物を使用した場合は、ストレート換算した値を含有量とする。
【0021】
(アントシアニン含有果汁)
アントシアニン含有果汁とは、アントシアニンを含む果実の果汁、果実抽出物あるいはそれらを濃縮したエキス等の加工物のことをいうが、好ましくは果汁及び/又は濃縮果汁である。果汁及び/又は濃縮果汁を配合することによって、より自然な香味および色調を得やすくなる。
【0022】
アントシアニン含有果汁におけるアントシアニンの含有量は、ストレート果汁に換算して10ppm以上であることが好ましく、20ppm以上であることがさらに好ましく、40ppm以上であることが特に好ましい。上記範囲となるようにアントシアニンを含有することで、アントシアニン特有の色調を得やすくなる。
また、アントシアニン含有果汁におけるアントシアニンの含有量の上限は特に制限されないが、1000ppm以下であることが好ましい。上記範囲となるようにアントシアニンを含有することで、容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料の香味と液色の調整が容易になる。
【0023】
アントシアニン含有果汁は、アントシアニン含有透明果汁と、前述のアントシアニン含有混濁果汁と、の双方を含み得る。ここで、アントシアニン含有透明果汁とは、アントシアニン含有果実の搾汁を清澄化処理した果汁をいい、半透明果汁もこれに含まれる。アントシアニン含有透明果汁は液色が鮮やかなため、容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料における液色を優れたものにできる。清澄化処理の方法としては、精密濾過法、酵素処理法、限外濾過法などを挙げることできる。
【0024】
アントシアニン含有果汁は、前述したアントシアニン含有混濁果汁と同様の果実から得られた果汁が挙げられる。アントシアニン含有透明果汁を用いる場合は、アントシアニン含有透明果汁は、前述のアントシアニン含有混濁果汁と同じ果実から得た果汁でもよいし、違う果実から得た果汁を選択してもよい。
【0025】
本実施形態に係る容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料において、アントシアニン含有果汁の含有量は0.1質量%以上であることが好ましく、0.4質量%以上であることがさらに好ましく、1.0質量%以上であることが特に好ましい。上記範囲となるようにアントシアニン含有果汁を含有することで、果実のフレッシュ感を持った容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料を得やすくなる。
また、本実施形態に係る容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料において、アントシアニン含有果汁の含有量は10質量%以下であることが好ましく、8.0質量%以下であることがより好ましく、6.0質量%以下であることがさらに好ましく、2.5質量%以下であることが特に好ましい。上記範囲となるようにアントシアニン含有果汁を含有することで、甘味と酸味のバランスが良い、すっきりとした味わいの容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料を得やすくなる。なお、アントシアニン含有果汁の含有量が上記の上限値以下の場合、従来は液色が退色しやすいという問題があったが、本実施形態によれば、退色が抑制された飲料とすることができる。
【0026】
(アントシアニン含有混濁果汁とアントシアニン含有果汁との比率)
本実施形態に係る容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料において、アントシアニン含有混濁果汁とアントシアニン含有果汁との比率(アントシアニン含有混濁果汁/アントシアニン含有果汁)は8%以上であることが好ましく、30%以上であることがさらに好ましく、50%以上であることが特に好ましい。上記範囲となるようにアントシアニン含有果汁を含有することで、甘味と酸味のバランスが良く且つ十分な果実感を持った容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料を得やすくなる。また、上記範囲となるようにアントシアニン含有果汁を含有することで、光に曝露されることによる退色をより効率的に抑制することができる。
上限は限定されず、例えば100%でもよいが、95%以下だと好ましい場合がある。上限を上記範囲とすることで容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料の香味を調整しやすくなる。
【0027】
(マメ科植物由来の抽出物)
本実施形態の容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料は、マメ科植物由来の抽出物を含有する。抽出物とは、マメ科植物を抽出、搾汁、酵素処理等をした結果得られるものであって、エキス或いはピューレなどを含むものであり、市販品を使用しても良い。
マメ科植物由来の抽出物を含有することで、容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料の退色、特に経時による退色を抑制することができる。
【0028】
マメ科植物としては、エンジュ、ダイズ、カンゾウ、エンドウ、インゲンマメ、ヒヨコマメ、ソラマメ、ルイボスなどが挙げられるが、エンジュの抽出物およびダイズの抽出物は、他のマメ科植物の抽出物と比べ、抽出物自体の味やにおいが少なく、容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料の香味に与える影響が少ないことから、エンジュ、ダイズが好ましい。また、エンジュの抽出物は果実のフレッシュ感に寄与するため、エンジュが特に好ましい。また、マメ科植物の部位としては、花、蕾、葉、根、茎などが挙げられるが、花、蕾が好ましい。
【0029】
本実施形態に係る容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料において、マメ科植物由来の抽出物の含有量は0.005質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、0.013質量%以上であることがさらに好ましく、0.015質量%以上であることが特に好ましい。上記範囲となるようにマメ科植物由来の抽出物を含有することで、容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料の退色を効率的に抑制することができる。
また、本実施形態に係る容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料において、マメ科植物由来の抽出物の含有量は0.1質量%以下であることが好ましく、0.07質量%以下であることがさらに好ましく、0.05質量%以下であることが特に好ましい。上記範囲となるようにマメ科植物由来の抽出物を含有することで、アントシアニン含有果汁の自然な味わいを損なわずに、甘味と酸味のバランスが良い容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料を得やすくなる。
【0030】
(アスコルビン酸)
本実施形態におけるアスコルビン酸(ビタミンC)とは、L-アスコルビン酸のほか、ナトリウム、カリウムやカルシウムとの塩、脂肪酸とのエステル体、糖等とのエーテル体といったL-アスコルビン酸の誘導体などが含まれる。
【0031】
本実施形態に係る容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料において、マメ科植物由来のアスコルビン酸の含有量は60ppm以下であることが好ましく、20ppm以下であることがさらに好ましく、15ppm以下であることが特に好ましい。アスコルビン酸の含有量が当該範囲であれば、アントシアニン含有果汁の自然な味わいを保つことが容易になる。また、アスコルビン酸の含有量が20ppm以下であれば、長時間、強度の強い光に曝露されても、果実のフレッシュ感を持った味を保つことが容易になる。ここで、アスコルビン酸の含有量は、例えば、食品衛生検査指針に収載の高速液体クロマトグラフ法により総アスコルビン酸量として測定することができ、アスコルビン酸塩または誘導体の場合はL-アスコルビン酸量に換算した値である。
容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料がアスコルビン酸を含有する場合は、果汁由来のものであることが好ましい。
【0032】
(ポリフェノール)
本実施形態においてポリフェノールとは、植物に由来する物質(フィトケミカル:phytochemical)の1種であり、1分子中にフェノール性水酸基を2つ以上有する化合物の総称である。ポリフェノールには、大別して分子量が1,000以下の単量体ポリフェノールと、単量体ポリフェノールが2つ以上結合した重合ポリフェノールが存在する。重合ポリフェノールは一般にタンニンとも称される。代表的な単量体ポリフェノールとしては、フラボノイド類(フラボノイド類には、フラボン、フラバノール、アントシアニジン、イソフラボノイド、ネオフラボノイド等を基本骨格とする化合物が含まれる)、クロロゲン酸、没食子酸、エラグ酸などがある。一方、重合ポリフェノールは単量体ポリフェノールが2個以上結合した化合物であり、ポリフェノール同士が炭素-炭素結合により重合した縮合型タンニンと、糖等由来の水酸基とのエステル結合により重合した加水分解型タンニンとに大別され、それぞれ代表的なポリフェノールとして縮合型タンニンとしてはプロアントシアニジン類、加水分解型タンニンとしてはガロタンニン、エラグタンニンが挙げられる。各ポリフェノールは単体以外にも、当該ポリフェノールの生理活性機能を失わない範囲であれば、例えば、重合体、配糖体等の所定の化合物状態であっても良い。ポリフェノールは重合度や結合位置で様々な種類のものが存在するが、極めて強い抗酸化作用を示す。
【0033】
本実施形態に係る容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料は、ポリフェノールの含有量が5.0ppm以上であることが好ましく、6.0ppm以上であることがさらに好ましく、7.0ppm以上であることが特に好ましい。ポリフェノールの含有量を上記範囲とすることで、容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料にポリフェノールによる呈味や濃度感を十分に与えることができる。
また、本実施形態に係る容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料は、ポリフェノールの含有量が40.0ppm以下であることが好ましく、35.0ppm以下であることがさらに好ましく、30.0ppm以下であることが特に好ましい。ポリフェノールの含有量を上記範囲とすることで、雑味が口に残らなくなるため、後味の良さを得やすくなる。
ポリフェノールは当業者に公知の手法により算出及び/又は測定することができる。例えば、タンニン酸を標準物質としてフォーリン・デニス法を用いて求める方法が挙げられる。
【0034】
(アントシアニン含有量とポリフェノール含有量との比率)
本実施形態に係る容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料におけるアントシアニン含有量とポリフェノール含有量との比率(アントシアニン含有量/ポリフェノール含有量)は0.05以上であることが好ましく、0.08以上であることがさらに好ましく、0.10以上であることが特に好ましい。上記範囲とすることで、アントシアニン含有果汁が本来有する自然な果実感、色調が得られやすくなり、さらには、経時劣化による退色や劣化臭を抑制しやすくなる。
また、本実施形態に係る容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料におけるアントシアニン含有量とポリフェノール含有量との比率(アントシアニン含有量/ポリフェノール含有量)は0.3以下であることが好ましく、0.25以下であることがさらに好ましく、0.2以下であることが特に好ましい。上記範囲とすることで、アントシアニン含有果汁由来の適度な酸味が得られやすくなり、容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料で求められている自然な果実感、色調を得られやすくなる。
なお、アントシアニン含有量とポリフェノール含有量との比率は、アントシアニン含有量をポリフェノール含有量で除して得られる。
【0035】
(その他の果汁)
本実施形態に係る容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料は、アントシアニン含有果汁以外の果実成分を含有してもよい。果実成分とは、好ましくは透明果汁であり、成熟した果実を搾汁して得られる果汁、エキスあるいは、ピューレなどを含むものであり、市販品を使用しても良い。本発明で使用する果汁の種類は1つ又は複数の混合でもよく、果汁の原料となる果実の種類としては、本発明の効果が発揮される限りにおいて特に限定されることなく、例えば、イチゴ、キウイフルーツ、リンゴ、パイナップル、グアバ、バナナ、マンゴー、ビワ、カムカム、アセロラ、プルーン、パパイヤ、パッションフルーツ、ナシ、ライチ、メロン、西洋ナシ、ウメ、ベリー類および柑橘類果実類(オレンジ、温州ミカン、レモン、グレープフルーツ、ライム、マンダリン、ユズ、シークワーサー、タンジェリン、テンプルオレンジ、タンジェロ、カラマンシー等)等が挙げられる。
【0036】
(甘味付与剤)
甘味付与剤としては、糖類または甘味料を使用することができ、糖類としては、例えば、ショ糖、果糖、ブドウ糖、果糖ブドウ糖液糖、還元麦芽糖等が挙げられる。甘味料としては、例えば、砂糖、異性化糖、キシリトール、パラチノース、エリスリトール等のほか、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ネオテーム、ステビア抽出物、サッカリン、スクラロース等の高甘味度甘味料が挙げられる。また、ソルビトール等の糖アルコールを含んでいてもよいし、シュガーレスバルク甘味料、バルク砂糖甘味料等を含んでいてもよい。これらの糖類または甘味料は、目的に応じて単独で、又は複数を組み合わせて使用することが出来る。
【0037】
(その他の成分)
本実施形態に係る容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料には、処方上添加して良い成分として、酸化防止剤、各種エステル類、有機酸類、有機酸塩類、無機酸類、無機酸塩類、無機塩類、乳化剤、保存料、調味料、酸味料、香料、果汁エキス類、野菜エキス類、花蜜エキス類、pH調整剤、品質安定剤等の添加剤があげられる。これらを単独、又は併用して配合してもよい。
【0038】
(着色料)
本実施形態に係る容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料においては、果汁由来成分をコントロールすることで果汁由来の自然な液色および風味を有し、経時劣化を抑制することを目的とするため、着色料を添加しないことが好ましい。本実施形態において着色料とは、色を付加する食品添加物および天然添加物を意味する。つまり、天然由来であっても、アントシアニン化合物単体(例えば、アントシアニン色素)等の着色を目的とした添加物は配合されないことが好ましい。
【0039】
(容器)
本実施形態に係る容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料は、容器に充填された形で提供されること、すなわち容器詰飲料であることが好ましい。この場合において、使用される容器は特に限定されず、PETボトル、プラスチックフィルムと複合された紙容器、瓶等の通常用いられる飲料用容器であればよい。なお、従来のアントシアニン含有果汁含有飲料は、飲料用容器が透明である場合、光への曝露で液色が退色しやすかったが、本実施形態に係る容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料は、光への曝露に起因する液色の退色が抑制されているため、透明の飲料用容器(例えば、PETボトル等)を用いてもよい。なお、本実施形態に係る容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料が容器に充填された容器詰飲料として提供される場合、通常は希釈せずにそのまま飲用できるものであるが、これに限定されるものではない。
【0040】
(水)
本実施形態に適した水としては、例えば、天然水、市水、井水、イオン交換水、脱気水等が挙げられるが、これらのうちイオン交換水または脱気水を用いるのが好ましく、特に脱気水を用いるのが好ましい。脱気水を用いることで、果汁含有飲料の加温による品質の劣化や液色の褐変等の色調変化をより効果的に抑制することができる。なお、脱気水を用いる場合、飲用に適した水の一部または全てを脱気水とすることができる。
【0041】
(pH)
本実施形態に係る容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料のpHの下限は2.0以上であることが好ましく、2.2以上であることがさらに好ましく、2.5以上であることが特に好ましい。また、pHの上限は5.0以下であることが好ましく、4.3以下であることがさらに好ましく、4.0以下であることが特に好ましい。pHを上記範囲とすることで、アントシアニン含有果汁が持つ自然な酸味を得やすくなる。
【0042】
(糖度(Brix))
本実施形態に係る容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料の糖度(Brix)は2.0以上であることが好ましく、4.0以上であることがさらに好ましく、6.0以上であることが特に好ましい。糖度を上記範囲とすることで、アントシアニン含有果汁が持つ自然な甘さを得やすくなる。
また、本実施形態に係る容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料の糖度(Brix)は15.0以下であることが好ましく、13.0以下であることがさらに好ましく、10.0以下であることが特に好ましい。糖度を上記範囲とすることで、甘すぎず、すっきりとした飲み心地の容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料を得やすくなる。
なお、容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料のBrixは、常法に従って屈折糖度計にて測定することができる。
【0043】
(酸度)
本実施形態に係る容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料の酸度の下限は0.05以上であることが好ましく、0.07以上であることがさらに好ましく、0.1以上であることが特に好ましい。また、酸度の上限は0.5以下であることが好ましく、0.4以下であることがさらに好ましく、0.3以下であることが特に好ましい。酸度を上記範囲とすることで、適した鮮度感および酸味を得やすくなる。
なお、酸度の測定方法は、当業者に公知の手法により算出及び/又は測定することができる。例えば、市販の自動滴定装置を用い、電位差滴定法に基づいて算出することができる。
【0044】
(糖酸比)
本実施形態に係る容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料の糖酸比の下限は4以上であることが好ましく、10以上であることがさらに好ましく、20以上であることが特に好ましい。また、糖酸比の上限は300以下であることが好ましく、200以下であることがさらに好ましく、150以下であることが特に好ましい。糖酸比を上記範囲とすることで、甘味と酸味のバランスが良くなる。
なお、糖酸比は、上記の糖度(Brix)値を、上記の酸度で除して得られる。
【0045】
(透過率)
本実施形態に係る容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料の透過率は99.5以下であることが好ましく、98.8以下であることがより好ましく、98.5以下であることが更に好ましく、98.0以下であることが特に好ましい。透過率を上記範囲となるようにすることで、容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料の液色の退色が抑制されやすくなる。
また、本実施形態に係る容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料の透過率は93.0以上であることが好ましく、93.5以上であることがさらに好ましく、94.0以上であることが特に好ましい。透過率を上記範囲となるようにすることで、低果汁含有飲料特有の透明感を得やすくなる。
透過率の測定方法は、「紫外可視分光光度計UV-1800(島津製作所)」を用いて波長660nmの透過率を測定した。
【0046】
〔容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料の製造方法〕
本実施形態に係る容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料は、アントシアニン含有果汁、マメ科植物由来の抽出物およびアントシアニン含有混濁果汁を所定量含有させる以外、従来公知の方法により製造することができる。
【0047】
例えば、所定の硬度を有する天然水や、イオン交換水等を原料水として用い、アントシアニン含有果汁と、マメ科植物由来の抽出物と、アントシアニン含有混濁果汁と、さらに必要に応じて、果糖ブドウ糖液糖などの他の成分とを添加して攪拌し、必要に応じてpHの調整を行い、飲料原液を調製する。
【0048】
飲料原液を調製した後に、均質化して、容器に充填する。容器へ充填する工程は、当業界で公知の手法により行うことができる。例えば、プレート式ヒーターやチューブ式ヒーター等の加熱殺菌装置を用い、80~150℃の温度下に10~120秒間保持する等して加熱殺菌を行い、その後、常法に従って容器に充填する。
このようにして容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料を得ることができる。
【0049】
以上説明した実施形態は、本実施形態の理解を容易にするために記載されたものであって、本実施形態を限定するために記載されたものではない。従って、上記実施形態に開示された各要素は、本実施形態の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例
【0050】
以下、試験例、製造例等を示すことにより本実施形態をさらに詳細に説明するが、本実施形態は下記の試験例、製造例等に何ら限定されるものではない。
【0051】
<試験例>
後述する市販の各原料を使用し試作品を作製した。果糖ブドウ糖液糖(果糖55%以上、ブドウ糖37%以上、日本食品化工社製)、赤ブドウ透明果汁(濃縮果汁、糖度55%、日本果実加工社製)、赤ブドウ混濁果汁(糖度11%、日本果実加工社製)、リンゴ混濁果汁(濃縮果汁、糖度55%、オーストリアジュース社製)、エンジュエキス(エンジュHJK-4507、東洋精糖社製)、及びアスコルビン酸(扶桑化学工業社製)を表1及び表2の配合に基づいて添加し、天然水でメスアップした。
【0052】
これらのサンプルを95℃加熱殺菌後、直ちに500mLのPET容器にホットパック充填し、試験区1~12を得た。下記方法により評価した結果を合わせて表1及び2に示す。なお、果汁とは果実を洗浄後加熱処理し、種を除去した後遠心分離を行い得られた果汁を適宜濾過や濃縮等の処理を行ったものであり、濃縮果汁または濃縮エキスの配合量については、ストレート換算した値を記載する。
【0053】
また、表1及び2に示すとおりの配合割合にて調整した試験区1~12におけるpH、糖度(Bx)、酸度、糖酸比、アスコルビン酸含有量、アントシアニンが乳量、ポリフェノール含有量および透過率を下記方法により分析、評価した結果を合わせて表1及び2に示す。
【0054】
なお、表中の「赤ブドウ果汁(質量%)」は「赤ブドウ混濁果汁(質量%)」と「赤ブドウ透明果汁(質量%)」の和を意味する。また、「赤ブドウ果汁(質量%)」、「赤ブドウ透明果汁(質量%)」、「赤ブドウ混濁果汁(質量%)」及び「リンゴ混濁果汁(質量%)」はストレート換算値である。
【0055】
本試験において分析する成分の分析方法は以下のとおりである。
【0056】
<pH>
堀場製作所F-52型・卓上pHメーターにて品温20℃にて測定した。
【0057】
<糖度>
光学屈折率計(アタゴ社製、Digital Refractometers、RX5000α-Bev)を用いて、糖度を測定した。
【0058】
<酸度>
自動滴定装置(平沼産業株式会社製、COM-1750)を用い、0.1mol/L水酸化ナトリウム標準液を使用した電位差滴定法に基づいて、クエン酸換算で算出した。
【0059】
<アスコルビン酸含有量>
サンプルを2%メタリン酸溶液で抽出し、高速液体クロマトグラフ法にて測定した総アスコルビン酸量値をアスコルビン酸含有量(ppm)として用いた。
【0060】
<アントシアニン含有量>
サンプルを2%塩酸-メタノール溶液で抽出し、比色法にて測定した値をアントシアニンの含有量(ppm)として用いた。
【0061】
<ポリフェノール含有量>
タンニン酸を標準物質としてフォーリン・デニス法を用いて求められる量をポリフェノール含有量とした。
<透過率>
透過率は、「紫外可視分光光度計UV-1800(島津製作所)」を用いて、波長660nm、光路長1cmの条件で測定した。
【0062】
表1及び表2に従い調整、分析した試験区1~12について、以下のとおり官能評価を行った。
【0063】
〔官能評価〕
上記試験例で得られた各容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料について、飲料の開発を担当する訓練された4人のパネラーによる官能評価試験を行った。結果を表1及び表2に示す。
【0064】
「甘味と酸味のバランス」及び「果実のフレッシュ感」の項目については試験区1~12を製造直後に5℃に冷却して飲用し、評価を行った。
【0065】
「加温後の液色」の項目については試験区1~12を製造後、45℃、暗室の環境下にて2週間保持した後に5℃に冷却して飲用し、評価を行った。
【0066】
「光照射後の液色」の項目については試験区1~12を製造後、25℃、10000ルクスの環境下にて2週間保持した後に5℃に冷却して飲用し、評価を行った。
【0067】
各評価項目は下記の基準に従って評価した。パネラー4人の最も多かった評価を表1及び2に示す。
【0068】
=甘味と酸味のバランス=
陽性対照:赤ブドウ透明果汁1.0%、果糖ブドウ糖液糖11.5%、天然水87.4%、ビタミンC0.005%、の割合で配合したサンプルを作製し、加熱殺菌せずに、充填をした後に5℃に冷却して飲用した。
陰性対照:赤ブドウ透明果汁1.0%、果糖ブドウ糖液糖11.5%、天然水87.4%、ビタミンC0.005%、の割合で配合したサンプルを作製し、試験例と同様に加熱殺菌及び充填をした後に5℃に冷却して飲用した。
4:酸味と甘味のバランスが非常に良好(陽性対照と比べ遜色ない)。
3:酸味と甘味のどちらかがわずかに強く感じられるが、良好(陽性対照より劣るが、陰性対照より優れている)。
2:酸味と甘味のどちらかが強く感じられる。やや問題あり(陰性対照と同等)。
1:酸味と甘味のどちらかが非常に強く感じられ、後味に酸味又は甘味が残る。問題あり(陰性対照より劣る)。
【0069】
=果実のフレッシュ感=
陽性対照:赤ブドウ透明果汁1.0%、果糖ブドウ糖液糖11.5%、天然水87.5%、ビタミンC0.005%、の割合で配合したサンプルを作製し、加熱殺菌せずに、充填した後に5℃に冷却して飲用した。
陰性対照:赤ブドウ透明果汁1.0%、果糖ブドウ糖液糖11.5%、天然水87.5%、ビタミンC0.005%、の割合で配合したサンプルを作製し、試験例と同様に加熱殺菌及び充填をした後に5℃に冷却して飲用した。
4:強く感じる(陽性対照と比べ遜色ない)。
3:感じる(陽性対照より弱く、陰性対照より強い)。
2:わずかに感じる(陰性対照と同等)。
1:感じない(陰性対照より弱い)。
【0070】
=加温後の液色=
比較対照:赤ブドウ透明果汁1.0%、果糖ブドウ糖液糖11.5%、天然水87.5%、ビタミンC0.005%、の割合で配合したサンプルを作製し、5℃、暗室の環境下にて2週間保持した後に5℃の状態で飲用した。
4:比較対照のサンプルと同等の赤色の液色を有する。非常に良好。
3:比較対照のサンプルと比較すると赤色が若干薄くなっているが、液色が明るく、良好。
2:比較対照のサンプルと比較すると赤色が薄くなっており、液色が暗く、あまりよくない。
1:比較対照のサンプルと比較すると赤色が顕著に薄くなっており、黄色がかった液色を有する。問題あり。
【0071】
=光照射後の液色=
比較対照:赤ブドウ透明果汁1.0%、果糖ブドウ糖液糖11.5%、天然水87.5%、ビタミンC0.005%、の割合で配合したサンプルを作製し、25℃、暗室の環境下にて2週間保持した後に5℃に冷却して飲用した。
4:比較対照のサンプルと同等の赤色の液色を有する。非常に良好。
3:比較対照のサンプルと比較すると赤色が若干薄くなっているが、液色が明るく、良好。
2:比較対照のサンプルと比較すると赤色が薄くなっており、液色が暗く、あまりよくない。
1:比較対照のサンプルと比較すると赤色が顕著に薄くなっており、黄色がかった液色を有する。問題あり。
【0072】
なお、表2については、「加温後の果実のフレッシュ感」と「光照射後の果実のフレッシュ感」の2項目についても追加的に評価を行った。これらの評価項目は下記の基準に従って評価し、パネラー4人の最も多かった評価を表2に示す。
【0073】
「加温後の果実のフレッシュ感」の項目については試験区1~12を製造後、45℃、暗室の環境下にて2週間保持した後に5℃に冷却して飲用し、評価を行った。
【0074】
「光照射後の果実のフレッシュ感」の項目については試験区1~12を製造後、25℃、10000ルクスの環境下にて2週間保持した後に5℃に冷却して飲用し、評価を行った。
【0075】
=加温後の果実のフレッシュ感=
比較対照:赤ブドウ透明果汁1.0%、果糖ブドウ糖液糖11.5%、天然水87.5%、ビタミンC0.005%、の割合で配合したサンプルを作製し、5℃、暗室の環境下にて2週間保持した後に5℃の状態で飲用した。
3:比較対照のサンプルと比べ、同等の果実のフレッシュ感を感じられる。非常に良好。
2:比較対照のサンプルと比べ、果実のフレッシュ感はやや劣るが、十分に感じられる。良好。
1:比較対照のサンプルと比べ、果実のフレッシュ感が感じられない。問題あり。
【0076】
=光照射後の果実のフレッシュ感=
比較対照:赤ブドウ透明果汁1.0%、果糖ブドウ糖液糖11.5%、天然水87.5%、ビタミンC0.005%、の割合で配合したサンプルを作製し、25℃、暗室の環境下にて2週間保持した後に5℃に冷却して飲用した。
3:比較対照のサンプルと比べ、同等の果実のフレッシュ感を感じられる。非常に良好。
2:比較対照のサンプルと比べ、果実のフレッシュ感はやや劣るが、十分に感じられる。良好。
1:比較対照のサンプルと比べ、果実のフレッシュ感が感じられない。問題あり。
【0077】
また、官能評価試験の結果をもとに、各評価項目の合計として総合点を算出し、次の基準で総合評価を行った。結果を表1及び表2に示す。
【0078】
=表1の総合評価=
◎:総合点が14以上
○:総合点が12以上14未満
△:総合点が10以上12未満
×:総合点が10未満
【0079】
=表2の総合評価=
◎:総合点が20以上
○:総合点が15以上20未満
△:総合点が10以上15未満
×:総合点が10未満
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
(結果・考察)
表1及び表2において、赤ブドウ混濁果汁、エンジュエキスを含む試験区1~3及び7~12においては、「甘味と酸味のバランス」、「果実のフレッシュ感」、「加温後の液色」及び「光照射後の液色」の4つの項目において良好な結果を示していることがわかる。
【0083】
対して、赤ブドウ混濁果汁を含まない試験区4においては、上記4つの項目のいずれも評価が低いという結果になった。これは赤ブドウ混濁果汁が、上記4項目を改善する役割を果たしていることを示す。
【0084】
また、エンジュエキスを含まない試験区5では、「甘味と酸味のバランス」以外の項目の評価が低く、特に、「加温後の液色」の評価が低かった。この結果からエンジュエキスは、容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料において、液色を維持する効果を有していることがわかる。
【0085】
次に、赤ブドウ混濁果汁の代わりにリンゴ混濁果汁を用いた試験区6では、上記4つの項目のいずれも評価が低いという結果になり、特に光照射後の液色の項目の評価が低かった。この結果から、赤ブドウ混濁果汁と、エンジュエキスと、の組み合わせが上記4項目を改善する役割を担っていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明によれば、アントシアニン含有果汁の甘みと酸味のバランスや果実のフレッシュ感といった自然な味わいを十分に有しながら、内容液の経時や光への曝露による退色を抑制した容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料およびその製造方法を提供することができる。また、容器詰アントシアニン含有果汁含有飲料の退色抑制方法も併せて提供することができる。本発明は特に低果汁の飲料に好適である。