(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-26
(45)【発行日】2025-03-06
(54)【発明の名称】電極および蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 4/02 20060101AFI20250227BHJP
H01M 4/80 20060101ALI20250227BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20250227BHJP
【FI】
H01M4/02 Z
H01M4/80 C
H01M4/13
(21)【出願番号】P 2021009068
(22)【出願日】2021-01-22
【審査請求日】2023-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】田名網 潔
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊充
(72)【発明者】
【氏名】磯谷 祐二
(72)【発明者】
【氏名】奥野 一樹
(72)【発明者】
【氏名】細江 晃久
(72)【発明者】
【氏名】竹林 浩
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/111657(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/02
H01M 4/80
H01M 4/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、電極合材と、電極タブと、を有し、
前記集電体は、領域Aと、前記領域Aよりも空隙率が小さい領域Bと、を有する金属多孔質体であり、
前記領域Aの空隙に、前記電極合材が充填されており、
前記領域Bに、前記電極タブが固定されており、
前記領域Aは、領域A1と、前記領域A1よりも空隙率が小さい領域A2と、を有し、
前記領域A2は、前記領域A1よりも前記電極タブからの距離が大き
く、
前記領域Bは、前記電極タブが固定される領域B1と、前記電極タブが固定されない領域B2と、を有し、
前記領域B1の空隙率は、前記領域B2の空隙率以下であるとともに、前記領域Aの空隙率よりも小さい、電極。
【請求項2】
前記領域Aは、前記領域A2と、前記領域Bと、を接続する領域A3をさらに有し、
前記領域A3の空隙率は、前記領域A1の空隙率よりも小さい、請求項
1に記載の電極。
【請求項3】
前記領域A1の空隙率、前記領域A2の空隙率、前記領域A3の空隙率、前記領域B1の空隙率および前記領域B2の空隙率をそれぞれε
A1、ε
A2、ε
A3、ε
B1およびε
B2とすると、式
ε
A1>ε
A3≧ε
A2>ε
B2≧ε
B1
を満たす、請求項2に記載の電極。
【請求項4】
前記集電体は、略直方体である、請求項1乃至
3のいずれか一項に記載の電極。
【請求項5】
請求項1乃至
4のいずれか一項に記載の電極を有する、蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極および蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高エネルギー密度を有する蓄電デバイスとして、リチウムイオン二次電池が幅広く普及している。リチウムイオン二次電池は、例えば、正極と負極との間にセパレータが存在し、電解液が充填されている構造を有する。また、電解液の代わりに、無機固体電解質を用いた全固体電池も知られている。
【0003】
このようなリチウムイオン二次電池は、用途によって様々な要求があり、例えば、自動車等を用途とする場合には、体積エネルギー密度をさらに向上させる要請がある。これに対しては、電極活物質の充填密度を大きくする方法が挙げられる。
【0004】
電極活物質の充填密度を大きくする方法としては、正極および負極を構成する集電体として、発泡金属を用いることが提案されている(特許文献1および2参照)。発泡金属は、細孔径が均一な網目構造を有し、表面積が大きい。このため、発泡金属の空隙に、電極活物質を含む電極合材を充填することで、電極の単位面積あたりの電極活物質量を増加させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平7-099058号公報
【文献】特開平8-329954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、発泡金属の電極合材が導入されていない集電部は、集電箔に対して、金属量が極めて少なくなり、電子抵抗が増加するという課題がある。特に、大電流を流す場合は、集電部からの電子の供給が不足し、大幅に電子抵抗が増加する。さらに、溶着部や集電部の強度が不足し、破断などが起きやすく、耐久性が低下するという課題がある。
【0007】
本発明は、電子抵抗を減少させるとともに、耐久性を向上させることが可能な電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、電極において、集電体と、電極合材と、電極タブと、を有し、前記集電体は、領域Aと、前記領域Aよりも空隙率が小さい領域Bと、を有する金属多孔質体であり、前記領域Aの空隙に、前記電極合材が充填されており、前記領域Bに、前記電極タブが固定されており、前記領域Aは、領域A1と、前記領域A1よりも空隙率が小さい領域A2と、を有し、前記領域A2は、前記領域A1よりも前記電極タブからの距離が大きい。
【0009】
前記領域Bは、前記電極タブが固定される領域B1と、前記電極タブが固定されない領域B2と、を有し、前記領域B1の空隙率は、前記領域Aの空隙率よりも小さくてもよい。
【0010】
前記領域Aは、前記領域A2と、前記領域Bと、を接続する領域A3をさらに有し、前記領域A3の空隙率は、前記領域A1の空隙率よりも小さくてもよい。
【0011】
前記領域Aは、前記領域A2と、前記領域Bと、を接続する領域A3をさらに有し、前記領域A1の空隙率、前記領域A2の空隙率、前記領域A3の空隙率、前記領域B1の空隙率および前記領域B2の空隙率をそれぞれεA1、εA2、εA3、εB1およびεB2とすると、式
εA1>εA3≧εA2>εB2≧εB1
を満たしていてもよい。
【0012】
前記集電体は、略直方体であってもよい。
【0013】
本発明の他の一態様は、蓄電デバイスにおいて、上記の電極を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電子抵抗を減少させるとともに、耐久性を向上させることが可能な電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】
図1の電極に対応する集電体を示す図である。
【
図3】
図1の電極に対応する集電体の他の例を示す図である。
【
図4】実施例1、比較例1のリチウムイオン二次電池の初期セル抵抗の評価結果を示す図である。
【
図5】実施例1、比較例1のリチウムイオン二次電池のCレート特性の評価結果を示す図である。
【
図6】実施例1、比較例1のリチウムイオン二次電池の容量維持率の評価結果を示す図である。
【
図7】実施例1、比較例1のリチウムイオン二次電池の電子抵抗(0.1S)の抵抗変化率の評価結果を示す図である。
【
図8】実施例1、比較例1のリチウムイオン二次電池の反応抵抗(1S)の抵抗変化率の評価結果を示す図である。
【
図9】実施例1、比較例1のリチウムイオン二次電池のイオン拡散抵抗(10S)の抵抗変化率の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
【0017】
<電極>
図1に、本実施形態の電極の一例を示す。また、
図2に、
図1の電極に対応する集電体を示す。
【0018】
電極10は、集電体11と、電極合材12と、電極タブ13と、を有する。集電体11は、領域Aと、領域Aよりも空隙率が小さい領域Bと、を有する金属多孔質体である(
図2参照)。電極10は、集電体11の領域Aの空隙に、電極合材12が充填されており、集電体11の領域Bに、電極タブ13が固定されている。集電体11の領域Aは、領域A1と、領域A1よりも空隙率が小さい領域A2と、を有し、領域A2は、領域A1よりも電極タブからの距離が大きい。
【0019】
電極10は、集電体11の領域Bの空隙率が、集電体11の領域Aの空隙率よりも小さいため、電極合材12と、電極タブ13の間の電子伝導性が向上し、その結果、電子抵抗が減少する。さらに、領域Bの強度が向上し、電極10の破断や亀裂が抑制されるため、耐久性が向上する。
【0020】
また、電極10は、集電体11の領域A2の空隙率が、集電体11の領域A1の空隙率よりも小さいため、領域A2の末端への電子伝導性が向上し、その結果、電子抵抗が減少する。このことは、電極10を大型化、長尺化する場合に、特に有利である。
【0021】
集電体11の領域Aの空隙率は、85%以上99%以下であることが好ましく、90%以上98%以下であることがさらに好ましい。
【0022】
集電体11の領域Bの空隙率は、1%以上50%以下であることが好ましく、1%以上10%以下であることがさらに好ましい。
【0023】
集電体11の領域A1の空隙率は、93%以上99%以下であることが好ましく、95%以上98%以下であることがさらに好ましい。
【0024】
集電体11の領域A2の空隙率は、90%以上97%以下であることが好ましく、90%以上93%以下であることがさらに好ましい。
【0025】
集電体11の領域Bは、電極タブ13が固定される領域B1と、電極タブ13が固定されない領域B2と、を有するが、領域B1の空隙率は、領域Aの空隙率よりも小さくてもよい。これにより、電極合材12と、電極タブ13の間の電子伝導性がさらに向上する。
【0026】
本明細書および特許請求の範囲において、電極タブが固定される領域B1とは、電極タブが固定されている集電体を電極タブが固定されている側から上面視した場合に、電極タブが存在している領域であり、電極タブが実際に形成されていない領域も含む。また、電極タブが固定されない領域B2とは、上記と同様に上面視した場合に、電極タブが存在していない領域である。
【0027】
集電体11の領域B1の空隙率は、1%以上50%以下であることが好ましく、1%以上10%以下であることがさらに好ましい。
【0028】
集電体11の領域B2の空隙率は、5%以上50%以下であることが好ましく、5%以上20%以下であることがさらに好ましい。
【0029】
集電体11の領域Aは、集電体11の領域A2と、集電体11の領域Bと、を接続する領域A3をさらに有し、領域A3の空隙率は、領域A1の空隙率よりも小さくてもよい(
図3参照)。これにより、領域A2の末端への電子伝導性がさらに向上し、その結果、電子抵抗がさらに減少する。
【0030】
集電体11の領域Aが、領域A3をさらに有する場合、集電体11の領域A1の空隙率、領域A2の空隙率、領域A3の空隙率、領域B1の空隙率および領域B2の空隙率をそれぞれεA1、εA2、εA3、εB1およびεB2とすると、式
εA1>εA3≧εA2>εB2≧εB1
を満たしていてもよい。これにより、領域A2の末端への電子伝導性がさらに向上し、その結果、電子抵抗がさらに減少する。
【0031】
集電体11の領域A3の空隙率は、90%以上%98以下であることが好ましく、93%以上95%以下であることがさらに好ましい。
【0032】
集電体11は、例えば、電極合材12を充填する前後に、金属多孔質体を適宜プレスして、領域A(A1、A2、A3)および領域B(B1、B2)を形成することにより、得られる。
【0033】
集電体11の形状としては、特に限定されないが、略直方体等が挙げられる。
【0034】
本明細書および特許請求の範囲において、略直方体は、面取りされている直方体を含む。
【0035】
ここで、面取りは、C面取りおよびR面取りのいずれであってもよい。
【0036】
[金属多孔質体]
金属多孔質体としては、空隙に電極合材を充填することが可能な金属の多孔質体であれば、特に限定されないが、例えば、発泡金属等が挙げられる。
【0037】
発泡金属は、網目構造を有し、表面積が大きい。発泡金属を集電体として用いることにより、発泡金属の空隙に、電極合材を充填することができ、電極の単位面積あたりの電極活物質量を増加させることができ、二次電池の体積エネルギー密度を向上させることができる。また、電極合材の固定化が容易となるため、電極合材の塗工に用いるスラリーを増粘しなくても、電極合材の厚膜を形成することできる。また、スラリーの増粘に必要な結着剤を低減することができる。したがって、金属箔を集電体として用いる場合と比較して、抵抗が低い電極合材の厚膜を形成することができる。このため、電極の単位面積当たりの容量を増加させることができ、その結果、二次電池の高容量化に貢献することができる。
【0038】
金属多孔質体を構成する金属としては、例えば、ニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼、チタン、銅、銀、ニッケル-クロム合金等が挙げられる。これらの中では、正極集電体を構成する金属多孔質体としては、発泡アルミニウムが好ましく、負極集電体を構成する金属多孔質体としては、発泡銅や発泡ニッケルが好ましい。
【0039】
[電極合材]
電極合材は、電極活物質を含み、その他の成分をさらに含んでいてもよい。
【0040】
その他の成分としては、例えば、固体電解質、導電助剤、結着剤等が挙げられる。
【0041】
正極合材に含まれる正極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能であれば、特に限定されないが、例えば、LiCoO2、Li(Ni5/10Co2/10Mn3/10)O2、Li(Ni6/10Co2/10Mn2/10)O2、Li(Ni8/10Co1/10Mn1/10)O2、Li(Ni0.8Co0.15Al0.05)O2、Li(Ni1/6Co4/6Mn1/6)O2、Li(Ni1/3Co1/3Mn1/3)O2、LiCoO4、LiMn2O4、LiNiO2、LiFePO4、硫化リチウム、硫黄等が挙げられる。
【0042】
負極合材に含まれる負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵および放出することが可能であれば、特に限定されないが、例えば、金属リチウム、リチウム合金、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物、Si、SiO、炭素材料等が挙げられる。
【0043】
炭素材料としては、例えば、人工黒鉛、天然黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等が挙げられる。
【0044】
[電極タブ]
電極タブとしては、特に限定されず、公知の電極タブを適用することができる。
【0045】
<電極の製造方法>
本実施形態の電極の製造方法は、特に限定されず、本技術分野における通常の方法を適用することができる。
【0046】
集電体の領域Aの空隙に電極合材を充填する方法としては、特に限定されないが、例えば、プランジャー式ダイコーターを用いて、圧力をかけて電極合材を含むスラリーを集電体の領域Aの空隙に充填する方法等が挙げられる。
【0047】
集電体の領域Aの空隙に電極合材を充填する他の方法としては、集電体の電極合材を導入する側の面と、その反対側の面との間に圧力差を生じさせ、圧力差により、集電体の領域Aの空隙に電極合材を浸透させて充填する方法が挙げられる。この場合、導入される電極合材の性状は、特に限定されず、電極合材の粉体であってもよいし、電極合材を含むスラリー等の液体であってもよい。
【0048】
集電体の領域Aの空隙に電極合材を充填した後は、本技術分野における通常の方法を適用することができる。例えば、領域Aに電極合材が充填された集電体を乾燥させた後に、プレスし、電極タブを溶着して、電極を得る。このとき、プレスにより、集電体の空隙率および電極合材の密度を調整することができる。
【0049】
なお、領域Aに電極合材が充填された集電体をプレスする場合は、プレスにより、集電体が一定に圧縮されるため、集電体の各領域における空隙率の大小関係は、変化しない。
【0050】
<蓄電デバイス>
本実施形態の蓄電デバイスは、本実施形態の電極を有する。
【0051】
蓄電デバイスとしては、例えば、リチウムイオン二次電池等の二次電池、キャパシタ等が挙げられる。
【0052】
リチウムイオン二次電池は、液体の電解質を備える電池であってもよいし、固体またはゲル状の電解質を備える電池であってもよい。また、固体またはゲル状の電解質は、有機系であってもよいし、無機系であってもよい。
【0053】
本実施形態の電極は、正極のみに適用してもよいし、負極のみに適用してもよいし、正極および負極の両方に適用してもよい。
【0054】
なお、本実施形態の電極をリチウムイオン二次電池に適用する場合、負極活物質の電子伝導性が高いことから、本実施形態の電極を正極に適用する場合に、特に有利である。
【0055】
[リチウムイオン二次電池]
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、正極と負極との間に位置するセパレータまたは固体電解質層と、を備える。本実施形態のリチウムイオン二次電池においては、正極および負極の少なくとも一方が、本実施形態の電極となっている。
【0056】
本実施形態のリチウムイオン二次電池において、本実施形態の電極が適用されない正極または負極は、特に限定されず、リチウムイオン二次電池の正極または負極として機能するものであればよい。
【0057】
本実施形態のリチウムイオン二次電池においては、電極を構成することが可能な材料から2種類の材料を選択し、2種類の材料の充放電電位を比較して、貴な電位を示す材料を正極に、卑な電位を示す材料を負極に適用して、任意の電池を構成することができる。
【0058】
本実施形態のリチウムイオン二次電池がセパレータを備える場合には、セパレータは、正極と負極との間に位置する。
【0059】
セパレータとしては、特に限定されず、リチウムイオン二次電池に適用することが可能な公知のセパレータを用いることができる。
【0060】
本実施形態のリチウムイオン二次電池が固体電解質層を備える場合には、固体電解質層は、正極と負極との間に位置する。
【0061】
固体電解質層に含まれる固体電解質は、特に限定されず、正極と負極との間で、リチウムイオンを伝導することが可能な材料であればよい。
【0062】
固体電解質としては、例えば、酸化物系電解質、硫化物系電解質等が挙げられる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
【0064】
[正極の作製]
(金属多孔質体の加工)
金属多孔質体として、縦30mm、横40mm、高さ1mm、空隙率97%、セル数46個/インチ、孔径0.5mm、比表面積5000m2/m3の略直方体の発泡アルミニウムを準備した。
【0065】
発泡アルミニウムの電極タブが固定される側の端部に発泡アルミニウムを1枚重ねプレスし、領域Bの空隙率を5%に調整した。また、発泡アルミニウムの電極タブが固定されない側の端部をプレスし、領域A2の空隙率を95%に調整し、金属多孔質体の加工物を得た。
【0066】
金属多孔質体の加工物の空隙率は、次の方法で算出した。まず、金属多孔質体の加工物の各領域をφ16mmの円形に打ち抜いた試料の厚みを計測し、試料の体積を算出した。次に、試料の質量を測定し、試料の密度を算出した。最後に、金属多孔質体を構成する金属の真密度に対する試料の密度の比率を算出し、試料の空隙率とした。
【0067】
(正極合材スラリーの作製)
正極活物質として、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2を準備した。
【0068】
正極活物質94質量%と、導電助剤としての、カーボンブラック4質量%と、結着剤としての、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)2質量%と、を混合した後、得られた混合物を適量のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に分散させて、正極合材スラリーを作製した。
【0069】
(正極合材の充填)
プランジャー式ダイコーターを用いて、塗工量90mg/cm2となるように、正極合材スラリーを金属多孔質体の加工物に塗布した後、真空条件下、120℃で12時間乾燥させた。次に、正極合材が充填された金属多孔質体の加工物を圧力15tonでロールプレスし、正極合材が充填された正極集電体とした。次に、正極合材が充填された正極集電体の領域Bに電極タブを溶着し、正極を作製した。得られた正極を構成する電極合材は、目付が90mg/cm2、密度が3.2g/cm3であった。作製した正極は、3cm×4cmに打ち抜き加工して用いた。
【0070】
[負極の作製]
(負極合材スラリーの作製)
天然黒鉛96.5質量%と、導電助剤としての、カーボンブラック1質量%と、結着剤としての、スチレンブタジエンゴム(SBR)1.5質量%と、増粘剤としての、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)1質量%と、を混合した後、得られた混合物を適量の蒸留水に分散させて、負極合材スラリーを作製した。
【0071】
(負極合材層の形成)
負極集電体として、厚み8μmの銅箔を準備した。
ダイコーターを用いて、塗工量45mg/cm2となるように、負極合材スラリーを集電体に塗布した後、真空条件下、120℃で12時間乾燥させた。次に、負極合材層が形成された集電体を、圧力10tonでロールプレスし、負極を作製した。得られた負極を構成する電極合材層は、目付が45mg/cm2、密度が1.5g/cm3であった。作製した負極は、3cm×4cmに打ち抜き加工して用いた。
【0072】
[リチウムイオン二次電池の作製]
セパレータとして、厚さ25μmのポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレンの3層積層体となった微多孔膜を準備し、3cm×4cmに打ち抜き加工して用いた。
【0073】
二次電池用アルミニウムラミネートを熱シールして袋状に加工した後、加工物の中に、正極と負極との間にセパレータを配置した積層体を挿入し、ラミネートセルを作製した。
【0074】
電解液として、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートを、体積比3:4:3で混合した溶媒に、1.2molのLiPF6を溶解した溶液を準備した。
【0075】
ラミネートセルに電解液を注入して、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0076】
<比較例1>
正極の作製時に、金属多孔質体を加工せずに、そのまま用いた以外は、実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0077】
<リチウムイオン二次電池の初期特性の評価>
実施例1および比較例1のリチウムイオン二次電池に対して、以下の初期特性の評価を実施した。
【0078】
[初期放電容量]
リチウムイオン二次電池を測定温度(25℃)で3時間放置した後、0.33Cで4.2Vまで定電流充電を実施し、続けて4.2Vの電圧で定電圧充電を5時間実施した。次に、リチウムイオン二次電池を30分間放置した後、0.33Cの放電レートで2.5Vまで放電を実施して、放電容量を測定した。得られた放電容量を、初期放電容量とした。
【0079】
[初期セル抵抗]
初期放電容量を測定した後のリチウムイオン二次電池を充電レベル(SOC(State of Charge))50%に調整した。次に、電流値0.2Cとして、10秒間放電し、放電が終了してから10秒後の電圧を測定した。次に、リチウムイオン二次電池を10分間放置した後、補充電を実施して、SOCを50%に復帰させ、リチウムイオン二次電池を10分間放置した。次に、上記の操作を、0.5C、1C、1.5C、2C、2.5Cの各Cレートで実施し、横軸を電流値、縦軸を電圧として、プロットした。プロットから得られた近似直線の傾きを、リチウムイオン二次電池の初期セル抵抗とした。
【0080】
図4に、実施例1、比較例1のリチウムイオン二次電池の初期セル抵抗の評価結果を示す。
【0081】
図4から、実施例1のリチウムイオン二次電池は、比較例1のリチウムイオン二次電池よりも、初期セル抵抗(特に、電子抵抗)が小さいことがわかる。
【0082】
[Cレート特性]
初期放電容量を測定した後のリチウムイオン二次電池を測定温度(25℃)で3時間放置した後、0.33Cで4.2Vまで定電流充電を実施し、続けて4.2Vの電圧で定電圧充電を5時間実施した。次に、リチウムイオン二次電池を30分間放置した後、0.5Cの放電レート(Cレート)で2.5Vまで放電を実施して、初期放電容量を測定した。
【0083】
上記の操作を、0.33C、1C、1.5C、2C、2.5Cの各Cレートで実施し、各Cレートにおける初期放電容量を、0.33Cにおける初期放電容量を100%とした際の容量維持率に変換し、Cレート特性とした。
【0084】
図5に、実施例1、比較例1のリチウムイオン二次電池のCレート特性の評価結果を示す。
【0085】
図5から、実施例1のリチウムイオン二次電池は、比較例1のリチウムイオン二次電池よりも、容量維持率が大きいことがわかる。
【0086】
<リチウムイオン二次電池の耐久後特性の評価>
実施例1および比較例1のリチウムイオン二次電池に対して、以下の耐久後特性の評価を実施した。
【0087】
[耐久後放電容量]
45℃の恒温槽において、リチウムイオン二次電池を0.6Cで4.2Vまで定電流充電を実施し、続けて4.2Vの電圧で定電圧充電を5時間または0.1Cの電流値になるまで充電を実施した。次に、リチウムイオン二次電池を30分間放置した後、0.6Cの放電レートで2.5Vまで定電流放電を実施し、30分間放置する操作を100サイクル繰り返した。次に、25℃の恒温槽において、2.5Vまで放電した後の状態で、リチウムイオン二次電池を24時間放置した後、初期放電容量と同様にして、耐久後放電容量を測定した。100サイクル毎に、この操作を繰り返し、500サイクルまで、耐久後放電容量を測定した。
【0088】
[耐久後セル抵抗]
耐久後放電容量の測定における500サイクルが終了した後、充電レベル(SOC(State of Charge))50%に調整し、初期セル抵抗と同様にして、耐久後セル抵抗を求めた。
【0089】
[容量維持率]
初期放電容量に対する100サイクル毎の耐久後放電容量の比を求め、それぞれのサイクルにおける容量維持率とした。
【0090】
図6に、実施例1、比較例1のリチウムイオン二次電池の容量維持率の評価結果を示す。
【0091】
図6から、実施例1のリチウムイオン二次電池は、比較例1のリチウムイオン二次電池よりも、200~500サイクルにおける容量維持率が大きいことがわかる。
【0092】
[抵抗変化率]
初期セル抵抗に対する耐久後セル抵抗の比を求め、抵抗変化率とした。
【0093】
図7に、実施例1、比較例1のリチウムイオン二次電池の電子抵抗(0.1S)の抵抗変化率の評価結果を示す。
【0094】
図8に、実施例1、比較例1のリチウムイオン二次電池の反応抵抗(1S)の抵抗変化率の評価結果を示す。
【0095】
図9に、実施例1、比較例1のリチウムイオン二次電池のイオン拡散抵抗(10S)の抵抗変化率の評価結果を示す。
【0096】
図7~9から、実施例1のリチウムイオン二次電池は、比較例1のリチウムイオン二次電池よりも、500サイクルにおける電子抵抗(0.1S)およびイオン拡散抵抗(10S)の抵抗変化率が小さいことがわかる。
【0097】
以上のことから、実施例1の正極は、比較例1の正極よりも、耐久性が高いことがわかる。
【符号の説明】
【0098】
10 電極
11 集電体
12 電極合材
13 電極タブ