IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社フジタの特許一覧

<>
  • 特許-吸着材とその製造方法 図1
  • 特許-吸着材とその製造方法 図2
  • 特許-吸着材とその製造方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-26
(45)【発行日】2025-03-06
(54)【発明の名称】吸着材とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/20 20060101AFI20250227BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20250227BHJP
【FI】
B01J20/20 D
B01J20/30
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021038614
(22)【出願日】2021-03-10
(65)【公開番号】P2022138628
(43)【公開日】2022-09-26
【審査請求日】2023-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】倉澤 響
(72)【発明者】
【氏名】横山 茂輝
(72)【発明者】
【氏名】松澤 大起
(72)【発明者】
【氏名】袋 昭太
【審査官】瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/169015(WO,A1)
【文献】特開2001-314756(JP,A)
【文献】国際公開第2021/187130(WO,A1)
【文献】特開昭59-052528(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/20
B01J 20/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質炭化物、バインダ、および鉄粉を含むコア、ならびに
前記コアの少なくとも一部を覆うコーティング層を有し、
前記コーティング層は、無機化合物を含み、
前記コアは、アルカリ金属とアルカリ土類金属から選択される金属の化合物をさらに含み、
前記化合物は、前記金属の塩化物、酸化物、水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、および炭酸水素塩から選択され、
前記多孔質炭化物の含有率は、20質量%以上80質量%以下であり、
前記バインダの含有率は、5質量%以上50質量%以下であり、
前記鉄粉の含有率は、5質量%以上35質量%以下である、
前記金属の含有率は、1質量%以上10質量%以下であり、
直径に対する長さが0.5以上5以下、前記直径が1mm以上20mm以下のペレット形状を有する、吸着材。
【請求項2】
前記コーティング層は、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、酸化ケイ素、鉄粉、石膏、セメントから選択される材料を含む、請求項1に記載の吸着材。
【請求項3】
炭素の含有率は10質量%以上80質量%以下であり、
鉄の含有率は5質量%以上35質量%以下であり、
前記金属の含有率は1質量%以上30質量%以下である、請求項に記載の吸着材。
【請求項4】
鉄化合物をさらに含む、請求項1に記載の吸着材。
【請求項5】
前記鉄化合物は、2価および3価の酸化鉄および2価および3価の水酸化鉄から選択される、請求項に記載の吸着材。
【請求項6】
前記バインダは、糖蜜、廃糖蜜、澱粉、デキストリン、コーンスターチ、米糠、ポリビニルアルコール、酢酸ビニルとエチレンの共重合体若しくはそのケン化体、パルプ廃液、リグニンスルホン酸塩、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、フェノール樹脂、タールピッチ石膏、セメント、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、焼石膏、およびケイ酸ナトリウムから選択される、請求項1に記載の吸着材。
【請求項7】
多孔質炭化物をバインダと鉄粉と混合してコアを調製すること、
前記コアを、直径に対する長さが0.5以上5以下、前記直径が1mm以上20mm以下のペレット形状に造粒すること、および
前記コアの少なくとも一部を覆うコーティング層を形成することを含み、
前記コーティング層は、無機化合物を含
前記コアは、アルカリ金属とアルカリ土類金属から選択される金属の化合物をさらに含み、
前記化合物は、前記金属の塩化物、酸化物、水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、および炭酸水素塩から選択され、
前記多孔質炭化物の含有率は、20質量%以上80質量%以下であり、
前記バインダの含有率は、5質量%以上50質量%以下であり、
前記鉄粉の含有率は、5質量%以上35質量%以下である、
前記金属の含有率は、1質量%以上10質量%以下である、吸着材の製造方法。
【請求項8】
前記コーティング層は、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、酸化ケイ素、鉄粉、石膏、セメントから選択される材料を含む、請求項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記バインダは、糖蜜、廃糖蜜、澱粉、デキストリン、コーンスターチ、米糠、ポリビニルアルコール、酢酸ビニルとエチレンの共重合体若しくはそのケン化体、パルプ廃液、リグニンスルホン酸塩、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、フェノール樹脂、タールピッチ石膏、セメント、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、焼石膏、およびケイ酸ナトリウムから選択される、請求項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態の一つは、吸着材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマスから調製された炭素を基本材料として有する多孔質炭化物に鉄を担持させた吸着材は、リン酸に由来するリン酸イオンを吸着することが可能であることから、河川や湖沼、海などの水域における水質改善に利用できることが知られている。また、リン酸イオンを吸着した吸着材は肥料としても利用することができるため、リン酸吸着後の吸着材を土壌へ散布することで、植物によって固定化された二酸化炭素を有効に活用しつつ、二酸化炭素を土壌へ貯留することが可能となる。したがってバイオマスから得られる吸着材は、大気中の温室効果ガスを固定化するための炭素貯留において中心的な役割を担っている(特許文献1、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-75706号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】柴田晃、「地域振興のためのバイオマス簡易炭化と炭素貯留野菜COOL VEGETM」、高温学会誌、2011年3月、第37巻、第2号、p.37-42
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の実施形態の一つは、吸着材とその製造方法を提供することを課題の一つとする。あるいは、本発明の実施形態の一つは、水質改善に利用可能であり、発火性が低く、安全に取り扱い可能な吸着材とその製造方法を提供することを課題の一つとする。あるいは、本発明の実施形態の一つは、水質改善に利用可能であり、水中での形状を長期間維持することができる吸着材とその製造方法を提供することを課題の一つとする。あるいは、本発明の実施形態の一つは、大気中の二酸化炭素固定を介して炭素を貯留するためのシステムを提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態の一つは、吸着材である。この吸着材は、多孔質炭化物、バインダ、および鉄粉を含むコア、ならびにコアの少なくとも一部を覆うコーティング層を有する。
【0007】
本発明の実施形態の一つは、吸着材の製造方法である。この製造方法は、多孔質炭化物をバインダと鉄粉と混合して混合物を調製すること、および混合物の少なくとも一部を覆うコーティング層を形成することを含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態により、長期間に亘って河川や湖沼、海などの水域の水質改善に対する有効性を示し、かつ安全性の高い吸着材、およびその製造方法を提供することができる。また、植物の育成に対して効果を有する肥料を低コストで製造することが可能となる。さらに、大気中の二酸化炭素を炭素という形で地中に貯留し、温室効果の抑制に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態の一つに係る吸着材の模式的斜視図と端面図。
図2】本発明の実施形態の一つに係る吸着材の製造方法を示すフローチャート。
図3】本発明の実施形態の一つである二酸化炭素貯留システムを示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の各実施形態について、図面などを参照しつつ説明する。ただし、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0011】
図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状などについて模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。
【0012】
本明細書および請求項において、「ある構造体が他の構造体から露出するという」という表現は、ある構造体の一部が他の構造体によって覆われていない態様を意味し、この他の構造体によって覆われていない部分は、さらに別の構造体によって覆われる態様も含む。
【0013】
<第1実施形態>
本実施形態では、本発明の実施形態の一つに係る吸着材100とその製造方法について述べる。
1.吸着材
1-1.構造
吸着材100の模式的斜視図を図1(A)に、長さ方向に垂直な端面の模式図を図1(B)に示す。これらの図に示されるように、吸着材100はコア102とコア102を覆うコーティング層104を基本的な構成として備える。
【0014】
吸着材100の形状は任意であり、板状や球状でもよく、あるいは図1(A)に示すように所謂ペレット状でもよい。ペレット状の場合、図1(B)に示すように、吸着材100の形状は円柱でもよく、図示しないが楕円柱、三角柱や四角柱、五角柱、六角柱などの端面が多角形の柱状(角柱)でもよい。また、吸着材100は、一部が欠損した円柱、楕円柱、角柱の形状を備えてもよい。
【0015】
吸着材100が円柱の場合、その直径Dは1mm以上20mm以下、2mm以上11mm以下、または3mm以上8mm以下であってもよい。あるいは、吸着材100の端面の面積は、0.8mm以上300mm以下であってもよい。吸着材100のアスペクト比、すなわち、直径Dに対する長さLの比(L/D)も任意であり、例えば0.5以上5以下とすることができる。具体的には、長さLは1mm以上20mm以下、3mm以上15mm、または6mm以上12mm以下とすることができる。
【0016】
コア102は、吸着材100の機能を発現するための構成であり、多孔質炭化物を基本骨格として備える。一方、コーティング層104はコア102に物理的強度を付与するとともに、着火性を低減することで吸着材100の安全性向上に寄与する構成である。コーティング層104は、コア102の表面全体を覆うように設けてもよく、あるいは図1(C)に示すように、コアの102の表面の一部を覆い、コア102の表面の他の部分がコーティング層104から露出するように設けてもよい。
【0017】
1-2.コア
コア102は、多孔質炭化物と共に、その表面や細孔に担持された鉄(0価の鉄)、ならびにバインダを含む。担持された鉄により、水中に存在するリン酸やそのイオンがリン酸鉄となり、多孔質炭化物に吸着される。このため、この吸着材100は、河川や湖沼、海などの水域の水質を効果的に改善するための吸着材として利用することができる。吸着材100は、鉄化合物を含んでもよく、さらにアルカリ金属とアルカリ土類金属から選択される金属の化合物を含んでもよい。また、吸着材100はさらに、水を他の成分として含んでもよい。
【0018】
(1)多孔質炭化物
多孔質炭化物は、有機物を原料として用い、有機物を低酸素濃度の条件下加熱・炭化することで製造される炭化物である。有機物としては、バイオマスが例示される。バイオマスに由来する多孔質炭化物としては、木炭、竹炭、白炭、黒炭、オガ炭、ヤシ殻炭、もみ殻炭などが挙げられる。後述するように、バイオマスを多孔質炭化物の原料として用いることで、大気中の二酸化炭素を貯留するためのシステムを構築することができるとともに、吸着材100の水中崩壊を防ぐための反応サイトとして働くアルカリ金属やアルカリ土類金属のイオンを提供することができる。
【0019】
炭化は、窒素ガス若しくはアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気下、無酸素雰囲気下、低酸素雰囲気下、還元雰囲気下、または減圧雰囲気下において有機物を加熱することによって行われる。炭化を減圧雰囲気下で行う場合、10Pa以上10Pa以下の低真空状態、10-1Pa以上10Pa以下の中真空状態、10-5Pa以上10-1Pa以下の高真空状態、または10-5Pa以下の超高真空状態で行うことができる。炭化を低酸素雰囲気下で行う場合、酸素濃度は0.01%以上3%以下または0.1%以上2%以下で行うことができる。炭化における加熱温度は、400℃以上1200℃以下、500℃以上1100℃以下、600℃以上1000℃以下、または600℃以上900℃以下とすればよい。加熱時間は10分以上10日以下、または10分以上5時間以下とすればよい。
【0020】
炭化は、内燃式または外熱式の炭化炉を用いて行われる。炭化炉としては、バッチ式の密閉型の炭窯炉や連続式のロータリーキルン、揺動式炭化炉、スクリュー炉などが挙げられる。バイオマスの炭化によって乾留ガスが発生するとともに、バイオマスの構造に起因する孔と、乾留ガスの脱離によって形成される細孔が複雑に混ざり合った、様々な形状と大きさを有する細孔が形成された多孔質炭化物が生成する。乾留ガスには主に水素や一酸化炭素、メタンやプロパン、ブタンなどに代表されるアルカンなどの可燃性、または還元力を有するガスが含まれる。乾留ガスは高温(700℃から1300℃)の状態で取り出されるため、その熱エネルギーや可燃性をエネルギー源として発電や温水の供給などに利用することができる。
【0021】
ここで、バイオマスとは有機物の一種である、生体由来の物質とその代謝物を指す。例えば木に由来する材料がバイオマスとして挙げられる。具体的には、板状や柱状の木材、間伐材、剪定廃材、建築廃木材、粉末状のおがくず、パーティクルボートなどの木製成形品が挙げられる。木の種類に制約はなく、スギやヒノキ、竹でもよい。あるいは籾殻、バガス、トウモロコシの軸や葉などの農業廃棄物、藁や麦わら、乾草などの農業副産物もバイオマスの一例として挙げられる。あるいは麻や亜麻、綿、サイザル麻、アバカ、ヤシ毛などの繊維の原料となる植物が挙げられる。あるいは海藻などの藻類でもよい。あるいは、食品残渣や、動物の糞尿から得られるサイレージなどが挙げられる。
【0022】
多孔質炭化物の大きさや形状は特に限定されないが、平均粒径が1μm以上50mm以下または1μm以上1mm以下であってもよい。この範囲に平均粒径を有することで、後述する混合、混練工程において、多孔質炭化物と鉄粉を均一に混合することができる。
【0023】
内部に形成される細孔に起因し、多孔質炭化物は大きな比表面積を有する。具体的には、多孔質炭化物の比表面積は、100m/g以上900m/g以下であり、100m/g以上800m/g以下、または150m/g以上400m/g以下以下である。比表面積は、水銀圧入法やBJH法またはHK法に例示されるガス吸着法などを用いて測定される。
【0024】
(2)鉄と鉄化合物
後述するように、鉄は鉄粉として多孔質炭化物と混合され、担持される。鉄粉の形状に制約はない。例えば平均円形度が50以上100以下、70以上95以下または80以上90以下の鉄粉を用いてもよい。ここで平均円形度とは、鉄粉に含まれる各鉄粒子の形状を表すパラメータの一つであり、鉄粉を顕微鏡観察して得られる画像を解析し、複数の鉄粒子について円形度を求め、それを平均した値である。円形度としては、例えば顕微鏡像中の各鉄粒子の投影面の周囲長で投影面の面積と等しい面積の円の周囲長を除した値を用いることができる。あるいは、投影面を内接する円の面積で投影面の面積を除した値を円形度として採用してもよい。
【0025】
鉄粉の平均粒径にも制約はなく、例えば20μm以上500μm以下または50μm以上200μm以下の範囲に平均粒径を有する鉄粉でもよい。ここで、鉄粉の平均粒径とは、鉄粉を顕微鏡観察して得られる画像を解析し、複数の鉄粒子について粒径を求め、それを平均した値である。各鉄粒子の粒径としては、例えば顕微鏡像中の各鉄粒子の投影面を内接する円の直径または正方形の一辺の長さを採用することができる。
【0026】
鉄粉には微量の他の元素が含まれていてもい。他の元素としては、炭素や酸素、硫黄、リン、マンガン、ケイ素、バナジウム、銅、チタンなどが挙げられる。したがって、鉄粉の純度は、90.0%以上99.9%以下または95.0%以上99.0%以下でもよい。
【0027】
なお、鉄粉の一部は酸化された状態、すなわち鉄化合物として多孔質炭化物上に担持されてもよい。鉄化合物としては、酸化鉄や水酸化鉄が挙げられる。鉄化合物に含まれる鉄は、2価、3価、あるいは2価と3価の原子価が混合した混合原子価の状態で存在してもよい。したがって、鉄化合物が水酸化鉄の場合には、水酸化第一鉄でも水酸化第二鉄でもよい。鉄化合物が酸化鉄の場合には、ウスタイト(FeO)、ヘマタイト若しくはマグへマイト(Fe)、またはマグネタイト(Fe)でもよい。
【0028】
(3)バインダ
バインダは、後述する混練工程において多孔質炭化物と鉄粉を効率よく分散させ、鉄や鉄化合物を多孔質炭化物と一体化させるために用いられる。バインダの種類に制約はないが、有機系バインダおよび/または無機系バインダを用いることができる。有機系バインダとしては、例えば糖蜜、廃糖蜜、澱粉、デキストリン、コーンスターチ、米糠、ポリビニルアルコール、酢酸ビニルとエチレンの共重合体若しくはそのケン化体、パルプ廃液、リグニンスルホン酸塩、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、フェノール樹脂、およびタールピッチなどから選択される一つまたは複数が挙げられる。中でも糖蜜は安価で有害成分が少なく、固形成分が多いため、糖蜜を用いることで吸着材100の成形が容易となる。無機系バインダとしては、例えばセメント、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、石膏(硫酸カルシウム)や石膏を加熱・脱水して得られる焼石膏、ケイ酸ナトリウム等が例示される。
【0029】
(4)アルカリ金属とアルカリ土類金属の化合物
アルカリ金属とアルカリ土類金属から選択される金属の化合物としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウム、マグネシウム、およびカルシウムのハロゲン化物、酸化物、水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩が挙げられる。これらの化合物は、吸着材100の製造時に添加してもよいが、多孔質炭化物の原料としてバイオマスを用いる場合、バイオマスに含まれるアルカリ金属やアルカリ土類金属の化合物であってもよい。
【0030】
アルカリ金属やアルカリ土類金属の化合物が炭酸塩または炭酸水素塩の場合、例えば多孔質炭化物に含まれる、または多孔質炭化物に添加したアルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、塩化物、酸化物、硫酸塩、または硝酸塩と二酸化炭素との反応(以下、炭酸化)によって得られる炭酸塩や炭酸水素塩でもよい。
【0031】
(5)組成比
上述した構成の組成比は適宜調整することができる。例えば、吸着材100における多孔質炭化物の含有率は、20質量%以上80質量%以下、40質量%以上80質量%以下、または60質量%以上80質量%以下の範囲で調整すればよい。鉄粉の含有率は、5質量%以上35質量%以下、5質量%以上25質量%以下、または5質量%以上20質量%以下の範囲で調整すればよい。バインダの含有率は、5質量%以上50質量%以下、15質量%以上50質量%以下、または20質量%以上50質量%以下の範囲で調整すればよい。アルカリ金属とアルカリ土類金属の含有率の和は、1質量%以上30質量%以下、1質量%以上15質量%以下、または1質量%以上10質量%以下の範囲で調整すればよい。
【0032】
あるいは、吸着材100における炭素の含有率は、10質量%以上80質量%以下の範囲から調整してもよい。吸着材100における鉄(すなわち、0価の鉄と鉄イオンを含む鉄元素)の含有率は、5質量%以上35質量%以下の範囲から調整してもよい。また、アルカリ金属とアルカリ土類金属の含有率の和は、1質量%以上30質量%以下の範囲から調整してもよい。
【0033】
吸着材100中の多孔質炭化物の含有率の測定では、まず、原料段階にある多孔質炭化物の炭素含有率を測定する。例えば燃焼・赤外線吸収法を利用し、JIS H1617、JIS Z2615、およびASTM E1941に準拠した方法を採用すればよい。具体的には、原料段階にある多孔質炭化物を燃焼炉において酸素気流下で燃焼させて二酸化炭素を生成する。生成した二酸化炭素を酸素ガスを用いて赤外線分析計に導入し、その吸収を検出器で測定することで二酸化炭素の濃度を決定する。この二酸化炭素の濃度から原料段階にある多孔質炭化物の炭素の質量が多孔質炭化物の質量として定量される。その後、原料段階にある多孔質炭化物、この多孔質炭化物と混合されるバインダ、鉄粉、水などの他の原料の質量から多孔質炭化物の含有率を決定すればよい。鉄粉とバインダの含有率も、吸着材100の製造工程で使用される鉄粉、バインダ、多孔質炭化物、水などの質量から算出すればよい。
【0034】
なお、上述した方法では、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、塩化物、酸化物、硫酸塩、または硝酸塩と二酸化炭素との反応率や、この反応による吸着材100の質量変化を考慮していない。また、製造工程における鉄の酸化による鉄化合物の生成も考慮していない。しかしながら、これらの反応に起因する質量変化は無視できる範囲であるため、上記方法による測定結果の信頼性は十分に高いと言える。
【0035】
アルカリ金属とアルカリ土類金属から選択される金属の含有率の和は、吸着材100に対して例えば誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES)または誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)を適用することで測定することができる。ICP-OESでは、アルゴンプラズマを発光光源として使用し、霧状にした溶液試料をプラズマに導入することで、アルカリ金属とアルカリ土類金属固有のスペクトルを分光させて測定波長および発光強度から、アルカリ金属とアルカリ土類金属を定量することができる。ICP-MSは、アルゴンプラズマをイオン源として用い、試料に含まれる元素をイオン化し、イオンを質量電荷比に基づいて分離し検出する方法である。検出されたイオンの質量電荷比から元素を特定することができるとともに、検出されたイオンをカウントすることによりアルカリ金属とアルカリ土類金属を定量することができる。
【0036】
一方、吸着材100における炭素の含有率は、吸着材100に対して上記燃焼・赤外線吸収法を適用することで求めることができる。なお、吸着材100における炭素の含有率は、主に多孔質炭化物中、バインダ、およびアルカリ金属とアルカリ土類金属から選択される金属の炭酸塩と炭酸水素塩に由来する炭素の含有率である。鉄の含有率、およびアルカリ金属とアルカリ土類金属の含有率の和も、ICP-OESまたはICP-MSを吸着材100に適用することで測定可能である。
【0037】
1-3.コーティング層
コーティング層104は、コア102の全体または一部を覆う。コーティング層104は、例えばケイ酸ナトリウムやケイ酸カルシウム、酸化ケイ素などの無機化合物、あるいは樹脂を含む。無機化合物として、鉄粉や石膏(硫酸カルシウム)、セメントを用いてもよい。樹脂としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリ乳酸、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリエステルなどが挙げられる。好ましくは、自然環境に対する負荷が低い無機化合物が用いられる。コーティング層104は、例えば10μm以上1mm以下、50μm以上500μm以下、または100μm以上300μm以下の厚さを有することができる。
【0038】
コーティング層104は単一の層で構成されていてもよく、異なる材料を含む複数の層を積層させてコーティング層104を構成してもよい。
【0039】
コーティング層104の形成は、コーティング層104の原料が液体の場合には、コア102に対してコーティング層104の原料をスプレーコーティング、またはディップコーティングなどによって塗布することによって形成すればよい。液体の原料としては、ケイ酸ナトリウムやケイ酸カリウムの水溶液、テトラメトキシシランやテトラエトキシシランなどのテトラアルコキシシランのアルコール溶液などが挙げられる。テトラアルコキシシランを原料として用いる場合、テトラアルコキシシランは大気中の水によって速やかに加水分解を受けて縮合し、酸化ケイ素の被膜を形成する。コーティング層104が樹脂を含む場合には、原料となるモノマーまたはオリゴマーを塗布し、その後加熱または光照射を行って重合または架橋させることでコーティング層104を形成することができる。あるいは、原料となるポリマーの溶液を塗布し、その後溶媒を留去させてコーティング層104を形成してもよい。
【0040】
コーティング層104の原料が固体の場合には、コア102に水やアルコールを吹きかけ、その状態でコーティング層104の原料と接触させることでコーティング層104を形成してもよい。
【0041】
コーティング層104をコア102の表面を覆うことで、吸着材100に物理的強度が付与される。このため、河川や湖、海などの水域の水質改善のために吸着材100を水中に長期間設置しても、吸着材100が水によって浸食を受けて崩壊することが防止され、長期間に亘って吸着材として機能することができる。
【0042】
また、コーティング層104を上述した厚さの範囲で形成することで、被処理水はコーティング層104内を拡散してコア102と接触することができる。また、コア102の表面の一部が露出するように表面を部分的に被覆することで、被処理水が直接コア102と接触することができる。このため、コーティング層104を設けてもコア102の吸着材としての機能を損なうことが無い。
【0043】
吸着材100のリン酸吸着能は、例えばバッチ試験により行うことができる。バッチ試験は、被吸着材であるリン酸を含む溶液のリン酸濃度と、リン酸を吸着した後の上澄みのリン酸濃度の差からリン酸の吸着量を算出する方法である。リン酸濃度の決定は、例えばモリブデン青法やバナドモリブデン酸アンモニウム吸光度法などを用いて行うことができる。前者では、採取した一定量の試料にペルオキソ二硫酸カリウム溶液を加えて加熱し、さらにモリブデン酸アンモニウムとビス[(+)-タルトラト]二アンチモン(III)酸二カリウム三水和物の混合溶液を加え、モリブドリン酸を生成する。このモリブドリン酸にL-アスコルビン酸溶液を加えてモリブデン青(モリブデンの水和混合原子価酸化物)を生成する。紫外・可視分光光度計を用いてモリブデン青の吸収(例えば880nmにおける吸収)を測定することで、水溶性リン酸が定量される。後者では、採取した一定量の試料に硝酸(1+1)を加えて加熱し、非オルトりん酸をオルトりん酸イオンに加水分解させる。その後、バナジン(V)酸アンモニウム、七モリブデン酸六アンモニウムおよび硝酸を加えてりんバナドモリブデン酸塩を生成する。紫外・可視分光光度計を用いてりんバナドモリブデン酸塩の吸収(例えば420nmにおける吸収)を測定することで、リン酸が定量される。
【0044】
2.製造方法
以下、吸着材100の製造方法の一例を説明する。図2に吸着材100の製造方法を示すフローチャートを示す。
【0045】
2-1.混合、混練
図2に示すように、まず、原料となる多孔質炭化物、バインダ、鉄(鉄粉)を混合し、その後練り込む(混練)。多孔質炭化物としては、上述したように、バイオマスの炭化で得られる炭化物を用いることが好ましい。多孔質炭化物、バインダ、鉄粉の量は、上述した範囲の組成比が得られるように適宜調整される。多孔質炭化物は、予め破砕や分級を行ってその粒径を調整してもよい。多孔質炭化物の粒径は鉄粉の粒径よりも大きい場合が多いため、鉄粉の粒径と略同じになるように多孔質炭化物を破砕してもよい。
【0046】
混合または混練を行う際、必要に応じて多孔質炭化物、バインダ、鉄に水が加えられる。水を添加することで、粉塵の発生を防止することができるとともに、多孔質炭化物と鉄粉をより均一に混合することができる。
【0047】
これらの原料の混合・混練においては、混練機を用いることができる。混練機としては、例えば、単軸スクリュー混練機、二軸スクリュー混練機、ミキシングロール、ニーダ、またはバンバリーミキサなどを用いることができる。また、混合と混練の両者の機能を有する混練機を用いてもよい。この場合、混練機に多孔質炭化物、鉄粉、およびバインダを投入し、その後混合・混練する。あるいは、混合と混練を連続して行ってもよい。例えば、混練機に多孔質炭化物および鉄粉を投入して混合し、引き続き、混練機にバインダを投入して混練する。バインダは一度に加えてもよく、断続的に加えてもよく、連続的に加えてもよい。多孔質炭化物および鉄粉を混合した後にバインダを加えて混練することで、多孔質炭化物と鉄粉の凝集を防ぎ、発泡を抑制することができる。
【0048】
混練温度は任意に設定することができ、例えば0℃以上50℃以下、または10℃以上40℃以下とすればよい。混練時間も原料の混合比や量、バインダの種類、混練機の容量などを考慮して適宜設定すればよく、例えば1秒以上1時間以下、1分以上30分以下、または1分以上15分以下の範囲から設定すればよい。
【0049】
以上の工程により、多孔質炭化物、バインダ、および鉄粉が混合されたペースト状の混合物をコア102として得ることができる。なお、この工程において、鉄粉の一部が酸化されることがあり、その結果、混合物は2価および/または3価の鉄を含む化合物(Fe(II)、Fe(III))を含む。鉄化合物としては、上述したように、水酸化鉄や酸化鉄が例示される。また、混合・混練の際、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の化合物を添加してもよい。
【0050】
2-2.造粒
任意の工程として、混合物を造粒し、ペレット状などの一定の形状に成形してもよい。混合物の成形は造粒機を用いて行うことができる。造粒機としては、圧縮型造粒機、押出型造粒機、ロール型造粒機、ブレード型造粒機、溶融型造粒機、または噴霧型造粒機などが例示される。
【0051】
押出型造粒機を用いる場合には、造粒機に装着されたダイスから所定の形状に成形されたペースト状混合物が押し出される。押し出された混合物は、所定の長さで切断され、押出方向が高さ方向となるペレット状に成形される。押出型造粒機における混合物の押出速度と切断速度(回転切断方式であれば、カッターの回転速度)を調整することで、混合物の長さ(ペレットの長さL)を調整することができる。また、ダイスの開口径を調整することで、混合物の径(端面形状が円形の場合は直径D)を調整することができる。このため、押出型造粒機を用いることにより、大きさが制御されたペレット状(例えば、略円柱状)の混合物を得ることができる。ペレットの大きさは、例えば上述した範囲の直径Dと長さLを有するように調整される。
【0052】
以上の工程により、コア102が形成される。
【0053】
2-3.コーティング層の形成
次に、コア102表面にコーティング層104を形成する。具体的には、上述したコーティング層104の液体の原料をコア102の表面にスプレーコーティングまたはディップコーティングによって塗布する。その後、原料中に含まれる溶媒を留去すればよい。スプレーコーティングの場合には、例えばコア102をパン型の造粒機上で回転させながら原料をスプレーすればよい。コーティング層104の厚さは、原料の濃度や塗布回数などによって適宜調整することができる。
【0054】
コーティング層104の原料が固体の場合には、例えばパン型の造粒機に成形したペレット状のコア102を投入し、コア102を回転しながら水やアルコールを吹きかける。その後、原料を投入してコア102の表面にコーティング層104の原料を付着させる。その後、コア102と原料を接着するために用いられた水やアルコールを留去することでコーティング層104が形成される。
【0055】
以上の工程により、吸着材100が作製される。
【0056】
2-4.二酸化炭素処理
任意の構成として、二酸化炭素処理を行ってもよい。具体的には、原料の混合・混練時、成形後、またはコーティング層の形成後、二酸化炭素を含むガスで処理する。この処理は、例えば、原料の混合・混練時に二酸化炭素を含むガスを混練機に導入することで行ってもよく、あるいは成形後またはコーティング層の形成後の吸着材100に二酸化炭素を含むガスを接触させてもよい。ガスとしては、二酸化炭素濃度、または二酸化炭素と他のガスを含む混合ガスが用いられる。他のガスとしては、窒素、酸素、空気、アルゴンなどの希ガス、水(水蒸気)が挙げられる。ガス中の二酸化炭素濃度も任意に設定でき、例えば1体積%以上100体積%以下、1体積%以上50体積%以下、または1体積%以上20体積%以下の範囲から適宜設定すればよい。この処理における温度は、例えば0℃以上80℃以下または0℃以上50℃以下で行うことができ、典型的には室温(25℃またはその前後)である。なお、この処理により、多孔質炭化物中に含まれる、あるいは上述した混合・混練の際に添加したアルカリ金属やアルカリ土類金属の化合物の全てまたは一部が炭酸塩または炭酸水素塩へ変化する。
【0057】
二酸化炭素を含むガスの供給源の一例としては、二酸化炭素を含むガスのボンベやタンクなどが挙げられる。あるいは、二酸化炭素を大量に排出する施設(化学プラント、ゴミ焼却施設、火力発電所、その他各種工場など)からの排出ガス、または排出ガスに対して脱塵、脱硫、脱硝などを行うことで得られる精製された二酸化炭素を利用してもよい。二酸化炭素を大量に排出する施設が吸着材100の製造現場に近い場合、これらの施設が二酸化炭素を含むガスの供給源として機能するので、二酸化炭素を運搬するためのコストが削減され、運搬に伴う二酸化炭素の二次的な排出が防止される。
【0058】
2-5.乾燥(養生)
さらに任意の工程として、成形後の混合物、あるいはコーティング層104形成後の吸着材100を乾燥してもよい。乾燥温度と時間も、混合物または吸着材100の量や含まれる水の量に応じて適宜選択される。例えば30℃以上400℃未満、50℃以上300℃以下、100℃以上300℃以下の範囲から乾燥温度を選択すればよい。乾燥時の湿度は、20%以上95%以下、または50%以上90%以下でもよい。乾燥時間も1分以上1週間以下、1時間以上3日以下、または3時間以上1日以下の範囲から適宜選択される。乾燥の際の雰囲気も、例えば空気、窒素、アルゴンなどの希ガス、あるいはこれらの混合でもよい。なお、上述した二酸化炭素処理が乾燥工程を兼ねてもよい。すなわち、二酸化炭素を含むガスで処理することでコア102に含まれる水の量を低減させてもよい。
【0059】
なお、本発明の実施形態の一つに係る吸着材100の製造では、高温での焼成を行わなくてもよい。すなわち、バインダを炭化するに必要な温度(例えば400℃以上)での加熱を行わなくてもよい。このため、焼成に要する時間やエネルギーが不要となるため、より低コストで吸着材100を提供することができる。
【0060】
上述したように、本発明の実施形態の一つに係る吸着材100の製造方法では、多孔質炭化物、バインダ、および鉄を含むコア102がコーティング層104によって覆われる。このため、コーティング層104によって物理的強度が向上し、水中での吸着材100の崩壊を防止することができる。さらに、可燃物である多孔質炭化物の発火性も大幅に低下するため、吸着材100を安全性の高い非危険物として取り扱うことができる。また、実施例で示すように、コーティング層104を形成しても、吸着材100は十分なリン酸吸着能を示す。したがって、本発明の実施形態の一つに係る吸着材100は、高いリン酸吸着能と安全性を兼ね備えた吸着材であると言える。
【0061】
<第2実施形態>
本実施形態では、第1実施形態で述べた吸着材100を介して大気中の二酸化炭素の削減に寄与するシステムについて、図3を用いて説明する。
【0062】
第1実施形態で述べたように、本発明の実施形態の一つに係る吸着材100の製造では、バイオマスから得られる多孔質炭化物を原料の一つとして用いることができる。この時、バイオマスの炭化によって得られる乾留ガスを可燃性ガスとして用いることで、発電や温水の製造などを行うことができる(図3、(1))。このことは、本吸着材100の製造時に発生するエネルギーや副生成物が有効利用されることを意味している。
【0063】
得られる多孔質炭化物は、鉄粉とバインダと混合・混練されて吸着材100のコア102を与え、さらにコア102がコーティング層104によってコートされ、吸着材100が得られる(図3、(2))。鉄や鉄化合物が担持された炭化物は水中の汚染物質、特にリン酸などのリン含有化合物を効果的に吸着する。したがって、この吸着材100を河川、湖沼、海などの水域に設置することで、水質改善を行うことができる(図3、(3))。
【0064】
吸着材100に吸着されるリン酸は、種々の植物の生長を促進する養分の代表的な成分である。このため、リン酸を吸着した吸着材100は肥料として使用することができる。例えば水質改善処理に供した吸着材100をそのままの形で、または解砕・分級を行った後に農地に散布する(図3、(4))。あるいは、硫酸カルシウムなどの肥料助剤や他の肥料成分を混合した後に散布してもよい。添加される肥料成分としては窒素、カリウム、カルシウム、マグネシウム、マンガン、ケイ酸、ホウ素から選ばれる一つ、あるいは複数が挙げられ、具体的な材料として油粕、発香鶏糞、魚粉、骨粉、米ぬか、バットグアノ、ポカシ肥、草木灰、石灰、化成肥料などが例示される。
【0065】
散布された吸着材100は、吸着したリン酸を徐放し、リン酸は植物の生長のために利用される。この時、植物は大気中の二酸化炭素を炭素源として光合成に利用し、生長する(図3、(5))。植物はその後、食材や材料など、様々な態様で利用される。利用後の植物は、再度バイオマスとして多孔質炭化物の製造に利用することが可能である(図2、(6))。
【0066】
このように、本発明の実施形態を適用することで、バイオマスから多孔質炭化物の生成、吸着材100の製造、水質改善と肥料の製造、肥料を利用する植物の生長とバイオマスの再生という一連のサイクルが確立される。このサイクルにおいては、植物が固定化した大気中の二酸化炭素は、リン酸吸着機能を発現する鉄や鉄化合物の担持体として利用されるとともに、炭素という形で地中に貯留される。したがって、このサイクルは大気中の二酸化炭素を地中に還元して貯留するシステムであり、大気中の二酸化炭素の削減に寄与するものである。
【実施例
【0067】
本実施例では、本発明の実施形態の一つに係る吸着材100の作製、および吸着材100を評価した結果について述べる。
【0068】
1.吸着材の作製
1-1.実施例1
原料となる多孔性炭化物として、不定形状の木炭(木質バイオマスガス化発電廃炭)を用いた。この45gの木炭に、300μm以上600μm以下の範囲に粒径を有する鉄粒子の割合が24質量%、75以上300μm未満の範囲に粒径を有する鉄粒子の割合が56質量%、1μm以上75μm未満の範囲に粒径を有する鉄粒子の割合が20質量%の鉄粉を加え、スパーテルで1分間混合した。この混合物に室温で、7gの糖蜜(固形分70%)と焼石膏と40mLの水とを加えて混合し、粉体混合物を得た。
【0069】
次に、得られた粉体混合物を造粒機に投入し、直径6mm、高さ9mmのペレット形状に成形し、コア102を得た。
【0070】
その後、得られたコア102をパン型の造粒機に投入し、コア102を回転しながらコア102に重量に対して200%の量のケイ酸ナトリウム3号を水で75%に希釈した水溶液をスプレーした。その後空気下20℃で24時間乾燥(養生)させて吸着材100を得た。
【0071】
1-2.実施例2から4
バインダの種類やコーティング層104の材料、乾燥温度と時間などを変化させ、実施例1と同様に実施例2から4の吸着材100を作製した。詳細な条件は表1に示すとおりである。なお、実施例2と3では、アルゴンに替わって二酸化炭素を用い、湿度80%の条件下で乾燥(養生)を行うことで炭酸化を行った。
【0072】
【表1】
【0073】
1-3.比較例
比較例として、実施例1と同様の方法で吸着材を作製した。ただし、コーティング層104を形成しなかった。
【0074】
2.評価
2-1.リン吸着能と形状安定性
バッチ法を用いて、実施例の吸着材100のリン酸の吸着量を評価した。200mg/Lのリン酸溶液50mLに0.1gの実施例1から実施例4のいずれかの吸着材を加え、23℃、100rpmの条件で平衡濃度に達するまで水平に振盪した後、ろ過した。ろ液のリン濃度をモリブデン青吸光光度法で定量した。結果を表1に示す。表1に示すように、いずれの実施例の吸着材100もリン酸を吸着する能力を示すことが確認された。
【0075】
また、いずれの実施例においても、吸着材はリン酸吸着能評価後のリン酸溶液中でほぼ初期の形状を維持することが確認された。一方、比較例の吸着材は水中で崩壊した。このことから、コア102/コーティング層104の構造を有する吸着材100は水による浸食を受ける速度が小さく、水中において高い形状安定性を示すことが理解される。
2-2.小ガス炎着火性試験
実施例1から4で得られた吸着材に対し、小ガス炎着火性試験を行った。具体的には、磁製耐熱板上に吸着材1.5gを配置し、ガスバーナーを用いて着火を試みた。ガスバーナーの炎の長さは約70mm、炎と吸着材の接触面積は1~2cm、炎と吸着材の接触は約30°、炎と吸着材の接触時間は10秒とした。この操作を10回繰り返した。その結果、いずれの吸着材も着火しないことを確認した。
【0076】
これらの結果は、吸着材100はコーティング層104を有することで、リン酸吸着能が阻害されることなく水中での形状安定性と非着火性を併せ持つことを示している。したがって、本発明の実施形態の一つを適用することで、水質改善において長期にわたって高い効果を示し、かつ、非危険物として安全に取り扱うことが可能な吸着材を提供することができる。
【0077】
本発明の実施形態として上述した各実施形態は、相互に矛盾しない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。各実施形態を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0078】
上述した各実施形態によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、または、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと理解される。
【符号の説明】
【0079】
100:吸着材、102:コア、104:コーティング層
図1
図2
図3