(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-26
(45)【発行日】2025-03-06
(54)【発明の名称】リチウム水溶液の精製方法
(51)【国際特許分類】
C01D 15/02 20060101AFI20250227BHJP
B01J 39/05 20170101ALI20250227BHJP
B01J 39/18 20170101ALI20250227BHJP
B01J 49/06 20170101ALI20250227BHJP
B01J 49/53 20170101ALI20250227BHJP
C02F 1/42 20230101ALI20250227BHJP
C22B 3/24 20060101ALI20250227BHJP
C22B 26/12 20060101ALI20250227BHJP
【FI】
C01D15/02
B01J39/05
B01J39/18
B01J49/06
B01J49/53
C02F1/42 B
C22B3/24 101
C22B26/12
(21)【出願番号】P 2021116130
(22)【出願日】2021-07-14
【審査請求日】2024-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】横田 治雄
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-116746(JP,A)
【文献】特開平10-029816(JP,A)
【文献】特表2013-519627(JP,A)
【文献】特開昭50-103164(JP,A)
【文献】特開2013-017935(JP,A)
【文献】特開2017-205703(JP,A)
【文献】特開2009-279519(JP,A)
【文献】特開2018-034095(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01D 1/00 - 17/00
B01J 39/00 - 49/90
C02F 1/42
C22B 1/00 - 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理液であるリチウムおよびリチウム以外の金属を含有するリチウム水溶液中の前記リチウム以外の金属を、リチウムイオン形の強酸性陽イオン交換樹脂を用いて除去する精製工程と、前記リチウム以外の金属を捕捉した前記強酸性陽イオン交換樹脂をリチウムイオン形に再生する再生工程と、を有するリチウム水溶液の精製方法であって、前記再生工程において、再生剤としてリチウム濃度が0.1~1.5eq/Lであるリチウム水溶液を用いることを特徴とするリチウム水溶液の精製方法。
【請求項2】
前記再生剤のリチウム濃度が0.1~0.3eq/Lである、請求項1に記載のリチウム水溶液の精製方法。
【請求項3】
前記再生剤が水酸化リチウム水溶液である、請求項1または2に記載のリチウム水溶液の精製方法。
【請求項4】
前記被処理液が水酸化リチウム水溶液である、請求項1~3のいずれか一項に記載のリチウム水溶液の精製方法。
【請求項5】
前記強酸性陽イオン交換樹脂の架橋度が8~12%である、請求項1~4のいずれか一項に記載のリチウム水溶液の精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム水溶液の精製方法に関する。より詳細には、リチウム水溶液の精製に用いたリチウムイオン形の強酸性陽イオン交換樹脂の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムは、陶器やガラスの添加剤、光学ガラス、電池(一次電池および二次電池)材料等として利用されている。リチウムの主な用途は陶器やガラス用途であるが、近年では、二次電池用途での需要が増加している。二次電池の正極材としては、主に水酸化リチウムが用いられるが、高性能の電池を得るために、高純度の水酸化リチウムが望まれている。
【0003】
水酸化リチウム水溶液中のリチウム以外の金属の含有量を低減する方法として、特許文献1には、リチウムイオン形(以下、「Li形」とも称する)に変換した強酸性陽イオン交換樹脂を用いて、水酸化リチウム水溶液中のカルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属と、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属を低減・除去する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1は、リチウム以外の金属を捕捉した強酸性陽イオン交換樹脂のLi形への再生方法については開示していない。強酸性陽イオン交換樹脂におけるリチウム(Li)の選択性は低く、同じアルカリ金属であるナトリウム(Na)やカリウム(K)よりも低い。そのため、リチウム水溶液中に含まれるナトリウム等のリチウム以外の金属を、Li形の強酸性陽イオン交換樹脂により除去することは比較的容易である。一方で、ナトリウム等のリチウム以外の金属を捕捉した強酸性陽イオン交換樹脂を再生して、Li形に戻すためには多大な再生剤が必要という問題があった。
【0006】
したがって、本発明は、リチウム水溶液中のリチウム以外の金属を、リチウムイオン形の強酸性陽イオン交換樹脂を用いて除去するにあたり、該リチウム以外の金属を捕捉した強酸性陽イオン交換樹脂のリチウムイオン形への再生を効率良く行う方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題に鑑みて、本発明者らが鋭意検討した結果、再生剤として、リチウム濃度が0.1~1.5eq/Lの範囲内であるリチウム水溶液を用いることにより、ナトリウム等のリチウム以外の金属を捕捉した強酸性陽イオン交換樹脂を効率良くLi形へ再生できることを見出した。
【0008】
本発明は、被処理液であるリチウムおよびリチウム以外の金属を含有するリチウム水溶液中の前記リチウム以外の金属を、リチウムイオン形の強酸性陽イオン交換樹脂を用いて除去する精製工程と、前記リチウム以外の金属を捕捉した前記強酸性陽イオン交換樹脂をリチウムイオン形に再生する再生工程と、を有するリチウム水溶液の精製方法であって、前記再生工程において、再生剤としてリチウム濃度が0.1~1.5eq/Lであるリチウム水溶液を用いることを特徴とするリチウム水溶液の精製方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、リチウム水溶液中のリチウム以外の金属を、リチウムイオン形の強酸性陽イオン交換樹脂を用いて除去するにあたり、該リチウム以外の金属を捕捉した強酸性陽イオン交換樹脂のリチウムイオン形への再生を効率良く行う方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<リチウム水溶液の精製方法>
本発明に係るリチウム水溶液の精製方法は、被処理液であるリチウムおよびリチウム以外の金属を含有するリチウム水溶液中のリチウム以外の金属を、リチウムイオン形の強酸性陽イオン交換樹脂を用いて除去する精製工程と、リチウム以外の金属を捕捉した前記強酸性陽イオン交換樹脂をリチウムイオン形に再生する再生工程と、を有する。そして、該再生工程において、再生剤としてリチウム濃度が0.1~1.5eq/Lであるリチウム水溶液を用いることを特徴とする。以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
[精製工程]
精製工程では、被処理液であるリチウム水溶液中のリチウム以外の金属をリチウムイオン形の強酸性陽イオン交換樹脂を用いて低減・除去し、精製された処理液を得る。
【0012】
(被処理液)
被処理液であるリチウムおよびリチウム以外の金属を含有するリチウム水溶液は特に限定されないが、例えば、不純物としてリチウム以外の金属を含有する、水酸化リチウム水溶液、塩化リチウム水溶液、炭酸リチウム水溶液および硫酸リチウム水溶液等を挙げることができる。これらの中でも、需要の観点から、二次電池用正極材の原料として用いられる水酸化リチウム水溶液が好ましい。また、被処理液は、後述する再生剤と同じ種類のリチウム水溶液であることが好ましい。
【0013】
(金属)
被処理液であるリチウム水溶液に不純物として含まれるリチウム以外の金属としては、リチウム以外のアルカリ金属(ナトリウム、カリウム等)およびアルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウム等)等が挙げられる。これらの中でも、本発明に係るリチウム水溶液の精製方法は、特に、リチウム水溶液中のナトリウム、カリウムの除去に好ましく用いられる。被処理液であるリチウム水溶液中には、例えば、リチウム以外の金属が50~1000mg/L含まれている。
【0014】
(強酸性陽イオン交換樹脂)
本発明においては、リチウム水溶液中のリチウム以外の金属を除去するために、金属除去性能の観点から、Li形の強酸性陽イオン交換樹脂を用いる。強酸性陽イオン交換樹脂の種類は限定されるものではなく、母材の構造がゲル型であるもの、ポーラス型であるもの、マクロポーラス型であるもののいずれも用いることができる。ただし、総交換容量の観点から、ゲル型の強酸性陽イオン交換樹脂が好ましい。強酸性陽イオン交換樹脂の調和平均径は、特に限定されず、例えば、500~800μmであることができる。また、強酸性陽イオン交換樹脂の架橋度は特に限定されるものではないが、再生効率の観点からは、8~12%の架橋度を有することが好ましい。架橋度が8%以上であれば、樹脂由来の有機物の溶出を抑制することができる。また、架橋度が12%以下であれば、再生効率の低下を抑制することができる。
【0015】
Li形の強酸性陽イオン交換樹脂としては、例えば水素イオン形(以下、「H形」とも称する)の強酸性陽イオン交換樹脂を、公知の方法によってLi形に変換したものを用いることができる。H形の強酸性陽イオン交換樹脂としては、例えば、アンバーライト(登録商標)HPR1024 H、HPR1200 H、HPR1006NNC H(いずれも商品名、デュポン社製)、アンバージェット(登録商標)1020、1024、1060(いずれも商品名、デュポン社製)、ダイヤイオン(登録商標)SK104H、SK1BH、PK208LH、PK212LH、PK216H、PK216LH、PK228LH、UBK08H、UBK10H(いずれも商品名、三菱ケミカル株式会社製)、オルライト(登録商標)DS-1、DS-4(いずれも商品名、オルガノ株式会社製)、C100、C100E、C120E、C100x10、C100x12、C150、C160、SGC650(いずれも商品名、ピュロライト株式会社製)、レバチット(登録商標)モノプラスS108H、(いずれも商品名、ランクセス社製)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
精製工程においては、Li形の強酸性陽イオン交換樹脂が充填された容器に被処理液を通液させることにより、被処理液中のリチウム以外の金属を強酸性陽イオン交換樹脂に捕捉することができる。通液方法としては、従来知られている方法を適宜採用することができる。ここで、本発明において、容器とは、吸着塔のような「塔」や「槽」等のイオン交換樹脂を充填可能であり、被処理液を精製することが可能なものをすべて含む意味であり、限定されるものではない。具体的には、例えば、上部に流入孔を有し、下端部に流出孔を有するカラムに強酸性陽イオン交換樹脂を充填し、被処理液を、適宜ポンプを利用して連続的に通過させる方式(カラム方式)や、強酸性陽イオン交換樹脂を充填した容器に被処理液を通液して、適当な時間接触させ、上澄み液を除去する方式(バッチ方式)が挙げられる。カラム方式を採用する場合、カラムの大きさは、イオン交換樹脂の性能や使用量等に応じて適宜決定すればよい。効率よく精製を行う観点から、例えば、カラムの高さ(L)と直径(D)との比(L/D)を0.5~70、被処理液の空間速度(SV、通液速度)を0.1~50(L/L-樹脂/時間)とすることが好ましい。なお、SV(Space velocity)は、単位時間・単位樹脂体積当たりの通液流量を意味する。また、樹脂量に対する被処理液の流量倍数を表す通液倍量は適宜調整すればよいが、例えば、1~100(L/L-樹脂)とすることができる。被処理液の通液により、容器の一端から、リチウム以外の金属の含有量が低減・除去された処理液が流出してくるため、該処理液を貯留槽等に回収する。被処理液を通液した後は、必要に応じて、純水または超純水を用いて、カラム出口水が中性または低導電率になるまで、被処理液を押し出し、洗い流す。
【0017】
[再生工程]
再生工程は、前記精製工程において、リチウム以外の金属を捕捉した強酸性陽イオン交換樹脂を、再生剤を用いてLi形に再生する工程である。
【0018】
(再生剤)
本発明に係る再生工程においては、再生効率の観点から、再生剤として、リチウム濃度が0.1~1.5eq/Lであるリチウム水溶液を用いる。該リチウム濃度は、再生効率の観点から、0.1~1.0eq/Lが好ましく、0.1~0.5eq/Lがより好ましく、0.1~0.3eq/Lが特に好ましい。リチウム濃度が0.1eq/Lよりも低い場合、再生に必要となるリチウム水溶液の量が非常に多くなることが懸念される。なお、リチウム濃度が上記範囲外となる場合に、再生効率が低下する理由は明らかではないが、リチウムイオンの解離度や浸透圧が高くなることによる樹脂の収縮等が関係しているものと推測している。なお、リチウム水溶液中のリチウム等の金属濃度は、原子吸光光度計を用いて分析することができる。
【0019】
再生剤として用いるリチウム水溶液としては、水酸化リチウム水溶液、塩化リチウム水溶液、炭酸リチウム水溶液、硫酸リチウム水溶液等が挙げられる。再生剤は、前記被処理液と同じ種類のリチウム水溶液であることが好ましい。すなわち、前記被処理液が水酸化リチウム水溶液である場合は、再生剤も水酸化リチウム水溶液であることが好ましい。
【0020】
再生剤に用いるリチウム水溶液は、再生時のコンタミネーションを抑制する観点から、高純度のリチウム水溶液であることが好ましい。具体的には、例えばナトリウム濃度が1mg/L以下であるリチウム水溶液が好適に用いられる。
【0021】
再生工程においては、リチウム以外の金属を捕捉した強酸性陽イオン交換樹脂が充填された容器に再生剤を通液することにより、再生を行う。通液方法としては、上記精製工程において述べた方法と同様の方法が挙げられる。なお、リチウム以外の金属を捕捉した強酸性陽イオン交換樹脂を充填する容器としては、上記精製工程において用いた容器をそのまま用いることができる。カラム方式を採用する場合、樹脂量に対する再生剤の流量倍数を表す通液倍量は、例えば、0.5~150(L/L-樹脂)とすることができる。なお、再生剤の通液倍量は、再生剤のリチウム濃度や再生効率等に応じて、適宜調整することができる。再生剤の空間速度(SV、通液速度)は、例えば、1~50(L/L-樹脂/時間)とすることができる。なお、通液速度は、再生剤の通液倍量等に応じて、適宜調整することができる。また、単位樹脂体積当たりの再生剤に含まれるリチウムの量(再生レベル)は適宜調整すればよいが、例えば、2~10eq/L-樹脂とすることができる。再生剤を通液した後は、必要に応じて、純水または超純水を用いて、カラム出口水が中性または低導電率になるまで、再生剤を押し出し、洗い流す。
【0022】
以上のようにしてLi形に再生された強酸性陽イオン交換樹脂は、精製工程において用いるLi形の強酸性陽イオン交換樹脂として再利用することができる。
【0023】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0024】
[実施例1]
(精製工程)
内径1.9cm、高さ100cmのアクリル製カラムに、強酸性陽イオン交換樹脂としであるアンバーライト HPR1024 H(商品名、デュポン社製、調和平均径:0.60~0.70mm、架橋度:12%)のLi形変換品を130mL充填した。このカラムへ、被処理液として、ナトリウムを含有する水酸化リチウム水溶液(リチウム濃度:11500mg/L、ナトリウム濃度:60mg/L、pH:12)を以下の条件にて通液し、処理液を得た。
<通液(精製)>
通液量(倍量):1300mL(10L/L-樹脂)
通液流量(速度):650mL/hr(SV=5L/L-樹脂/hr)
<通液後押出>
通液(精製)時と同じ速度で純水を1L/L-樹脂通水
【0025】
(再生工程)
続いて、上記カラム内のナトリウム捕捉後の強酸性陽イオン交換樹脂に対し、再生剤として、リチウム濃度:0.1eq/Lの高純度水酸化リチウム水溶液(ナトリウム濃度:1mg/L未満)を以下の条件で通液した。
<通液(再生)>
通液量(倍量):3900mL(30L/L-樹脂)
再生レベル:3.0eq/L-樹脂
通液速度:1950mL/hr(15L/L-樹脂/hr)
<再生後押出>
通液(再生)時と同じ速度で純水を1L/L-樹脂通水
【0026】
(分析)
精製工程後の処理液および再生工程でカラム出口から排出された再生・押出廃液のナトリウム濃度を原子吸光光度計(商品名:ZA3300、株式会社日立ハイテクサイエンス製)により分析した。その結果、精製工程における通液(精製)によるナトリウム捕捉量は29.9mg、すなわち、230mg/L-樹脂(ナトリウム除去率:38%)であった。また、再生工程におけるナトリウム脱離率は64%であった。ただし、ナトリウム脱離率は、下式より算出される。
ナトリウム脱離率(%)=(再生・押出廃液中のナトリウム含有量/精製工程における通液(精製)によるナトリウム捕捉量)×100
【0027】
[実施例2、3および比較例1、2]
再生条件をそれぞれ表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様に精製工程および再生工程を行った。なお、再生剤として用いた高純度水酸化リチウム水溶液のナトリウム濃度は、いずれも1mg/L未満であった。また、再生レベルが実施例1と等しくなるように、再生剤の通液量を調整した。通液流量が各例によって異なるが、これは、再生にかかる時間を考慮して、適宜調整したものであり、再生効率に影響を与えるものではない。
また、実施例1と同様にナトリウム脱離率を算出した。結果を表1に示す。なお、精製工程における通液(精製)によるナトリウム捕捉量は、全ての実施例および比較例において、実施例1と同様、230mg/L-樹脂(ナトリウム除去率:38%)であった。
【0028】
【0029】
表1に示すように、リチウム濃度が0.1~1.5eq/Lである再生剤を用いた実施例1~3においては、50%以上のナトリウム脱離率が得られた。一方で、リチウム濃度が上記範囲外である再生剤を用いた比較例1および2においては、ナトリウム脱離率が50%未満であった。なお、比較例1のように、再生剤のリチウム濃度が非常に低い場合には、再生に必要な通液量が多くなり、多量の水が必要となるという懸念もある。