(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-26
(45)【発行日】2025-03-06
(54)【発明の名称】CAR細胞上の非天然NKG2D受容体に、結合した異種分子を選択的に送達する改変非天然NKG2Dリガンド
(51)【国際特許分類】
C07K 14/705 20060101AFI20250227BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20250227BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20250227BHJP
C07K 14/16 20060101ALN20250227BHJP
C12N 15/49 20060101ALN20250227BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20250227BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20250227BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20250227BHJP
C07K 16/10 20060101ALN20250227BHJP
【FI】
C07K14/705
C12N5/10 ZNA
C12N5/0783
C07K14/16
C12N15/49
C12N15/12
C12N15/13
C12N15/62 Z
C07K16/10
(21)【出願番号】P 2021543465
(86)(22)【出願日】2020-01-28
(86)【国際出願番号】 US2020015341
(87)【国際公開番号】W WO2020159941
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2023-01-19
(32)【優先日】2019-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518455871
【氏名又は名称】サイフォス、バイオサイエンシズ、インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】XYPHOS BIOSCIENCES INC.
(73)【特許権者】
【識別番号】517352418
【氏名又は名称】ザ ジェイ. デビッド グラッドストーン インスティテューツ、 ア テスタメンタリー トラスト エスタブリッシュド アンダー ザ ウィル オブ ジェイ. デビッド グラッドストーン
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】キム、カマン
(72)【発明者】
【氏名】キリーン、ナイジェル
(72)【発明者】
【氏名】ヘルツィヒ、エイタン
(72)【発明者】
【氏名】グリーン、ワーナー
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-529757(JP,A)
【文献】国際公開第2019/000620(WO,A1)
【文献】特表2018-527014(JP,A)
【文献】特表2016-526913(JP,A)
【文献】特表平05-507491(JP,A)
【文献】特表平04-506220(JP,A)
【文献】特表2015-508782(JP,A)
【文献】特表2018-515603(JP,A)
【文献】特表2017-501986(JP,A)
【文献】特表2015-534982(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0210786(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
C12N 1/00- 7/08
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS (STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
改変非天然NKG2D受容体への改変非天然リガンドであって、
前記リガンドが、
(a)(i)配列番号63のアミノ酸配列又はその変異体(変異体は154位にTを;155位にM、K、W、L又はTを;156位にL又はMを;157位にE、T、S、Q、Y又はRを;158位にL、V、I又はTを;及び/又は159位にW又はIを有する)、又は(ii)配列番号65のアミノ酸配列又はその変異体(変異体は155位にD、W、R、Y又はLを;156位にL又はMを;157位にI、Y、V又はLを;158位にR、L又はTを;及び/又は159位にR、I、W又はKを有する)を含み、(b)HIVに感染した細胞の表面上に存在するHIVタンパク質に選択的に結合す
る異種分子
に結合し、
前記異種分子が、配列番号169及び配列番号170からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むエピトープ配列に選択的に結合し、
その結合している異種分子を有する前記改変リガンドが、CAR細胞の改変非天然NKG2D受容体に選択的に結合して、HIV感染細胞の破壊を引き起こすことができる、改変非天然リガンド。
【請求項2】
配列番号68、69、70、71、又は72
で表されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の改変非天然リガンド。
【請求項3】
前記改変非天然リガンドが、配列番号54及び154からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む非天然NKG2D受容体に結合する、請求項1に記載の改変非天然NKG2Dリガンド。
【請求項4】
HIV感染細胞の表面上の異なるエピトープ、タンパク質、又は他の分子に結合する異なる別個の異種分子を有する複数の改変非天然リガンドに結合している、請求項1に記載の改変非天然リガンドに結合したCAR細胞。
【請求項5】
前記CAR細胞が、配列番号54及び配列番号154からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む改変非天然NKG2D受容体を含み、
前記CAR細胞が、さらに、HIVタンパク質に結合しない異種分子又は原子が結合している配列番号68~72からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む改変非天然リガンドに結合する、請求項
4に記載のCAR細胞。
【請求項6】
HIVタンパク質に結合しない前記異種分子又は原子が、CAR細胞の機能を調節する、請求項
4又は
5に記載のCAR細胞。
【請求項7】
前記機能がHIVに感染していない細胞の増殖、分化、除去、イメージング、免疫抑制の拮抗、ホーミング及び細胞溶解からなる群から選択される機能である、請求項
6に記載のCAR細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、一般に、遺伝子操作を受けた哺乳類細胞上の改変非天然NKG2D受容体で構成されるキメラ抗原受容体(CAR)に選択的に送達される、特異的標的結合特性を有するポリペプチド、例えば抗体又は抗体の断片が結合したNKG2Dリガンドの改変非天然α1-α2ドメインに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトを含む多くの哺乳類における免疫グロブリン(Ig)としても知られている抗体(Ab)(
図1)は、細菌及びウイルス等の異物を特定し、中和するために免疫系によって使用される、大きなY字型のタンパク質である(Charles Janeway(2001).Immunobiology.(5th ed.),Chapter 3.Garland Publishing.ISBN0-8153-3642-X.(NCBI Bookshelfを介した電子フルテキスト)。抗体は、抗原と呼ばれる異物標的の固有の部分を認識する。抗体の「Y」の2本のアームの各先端は、抗原結合部位、すなわち、パラトープ(錠に類似の構造)を含み、これは抗原のある特定のエピトープ(同様に鍵に類似)に特異的であるので、これら2つの構造は互いに正確に結合することができる。この結合機序を使用して、抗体は、免疫系の他の部分によって攻撃するために微生物又は感染細胞にタグを付けることができたり、例えば微生物の侵入及び生存に不可欠な微生物の部分をブロックすることによってその標的を直接中和することができたりする。抗体の産生は、体液性又は「適応」免疫系の主な機能である。抗体は、形質細胞によって分泌される。自然界における抗体は、細胞から分泌される可溶性形態及びYの「ステム」を介してB細胞の表面に結合している膜結合形態の2つの物理的形態で存在し得る。
【0003】
抗体は、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する糖タンパク質であり、典型的には、それぞれ2本の大きな重鎖及び2本の小さな軽鎖を有する基本構造単位で構成されている。幾つかの異なる種類の抗体の重鎖、及びどの重鎖を保有しているかに基づいて異なるアイソタイプに分類される幾つかの異なる種類の抗体が存在する。哺乳類では、5つの異なる抗体アイソタイプが知られている(Market E,Papavasiliou FN(October 2003).”V(D)J recombination and the evolution of the adaptive immune system”.PLoS Biol.1(1):E16.doi:10.1371/journal.pbio.0000016.PMC212695.PMID14551913)。全ての抗体の一般的な構造は非常に類似しているが、Y字型タンパク質の各アームの先端における小さな領域は非常に変化に富んでいるので、わずかに異なる先端構造、すなわち、抗原結合部位を有する数百万の抗体が存在することが可能になる。この領域は、超可変領域又は可変領域として知られている。これら天然バリアントはそれぞれ、異なる抗原に結合することができる。このように抗体の多様性が非常に高いことから、免疫系が、同様に多種多様な抗原に適応し、認識することが可能になる(Hozumi N,Tonegawa S(1976).”Evidence for somatic rearrangement of immunoglobulin genes coding for variable and constant regions”.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.73(10):3628-3632.doi:10.1073/pnas.73.10.3628.PMC431171.PMID 824647.)
【0004】
天然「Y」字型Ig分子は、4本のポリペプチド鎖;ジスルフィド結合によって連結された2本の同一重鎖及び2本の同一軽鎖からなる。各重鎖は、2つの主な領域、定常領域(CH)及び可変領域(VH)を有する。定常領域は、同じアイソタイプの全ての抗体において本質的に同一であるが、異なるアイソタイプの抗体では異なる。また、軽鎖は、2つの連続したドメイン:より小さな定常領域(CL)及び可変領域(VL)を有する(Woof J,Burton D(2004).”Human antibody-Fc receptor interactions illuminated by crystal structures.”Nat Rev Immunol 4(2):89-99.doi:10.1038/nri1266.PMID15040582)。
【0005】
抗体の幾つかの部分は、同じ機能を有する。例えば、Yの2本のアームはそれぞれ、抗原に結合し、したがって、特定の異物を認識することができる部位を有する。抗体のこの領域は、Fv(可変断片)領域と呼ばれる。これは、抗体の重鎖からの1つの可変領域(VH)及び軽鎖からの1つの可変領域(VL)で構成されている(Hochman J,Inbar D,Givol D(1973).An active antibody fragment(Fv)composed of the variable portions of heavy and light chains.Biochemistry 12(6):1130-1135.doi:10.1021/bi00730a018.PMID4569769)。パラトープは、Fvの一端を形作っており、抗原に結合するための領域である。これは、VL及びVHにそれぞれ3つずつあるβ鎖の可変ループで構成されており、抗原への結合に関与している。これら6つのループは、相補性決定領域(CDR)と称される(North B,Lehmann A,Dunbrack RL(2010).“A new clustering of antibody CDR loop conformations”.J Mol Biol 406(2):228-256.doi:10.1016/j.jmb.2010.10.030.PMC3065967.PMID21035459)。
【0006】
特異的抗原結合機能を保有する有用なポリペプチドは、抗体の可変領域のCDRに由来し得る。これら2つの抗体可変ドメイン、それぞれ3つのCDRを有する軽鎖(VL)の1つ及び重鎖(VH)からの1つは、10~約25アミノ酸の単一の短いリンカーペプチドを使用していずれかの順序でタンデムに融合させて、重鎖可変ドメイン及び軽鎖可変ドメインのそれぞれ1つを含む線状一本鎖可変断片(scFv)ポリペプチドを作製することができる(Bird,R.E.,Hardman,K.D.,Jacobson,J.W.,Johnson,S.,Kaufman,B.M.,Lee,S.M.,Lee,T.,Pope,S.H.,Riordan,G.S.,and Whitlow,M.(1988)Single-chain antigen-binding proteins,Science 242,423-426;Huston,J.S.,Levinson,D,Mudgett-Hunter,M,Tai,M-S,Novotny,J,Margolies,M.N.,Ridge,R.,Bruccoleri,RE.,Haber,E.,Crea,R.,and Opperman,H.(1988).Protein engineering of antibody binding sites:Recovery of specific activity in an anti-digoxin single-chain Fv analogue produced in Escherichia coli.PNAS 85:5879-5883)。
【0007】
リンカーは、通常、柔軟性のためにグリシンリッチであり、加えて、溶解性のためにセリン、スレオニン、又は荷電アミノ酸リッチであり、そして、VHのN末端をVLのC末端に連結させることができ、逆もまた同様である。このタンパク質は、定常領域が除去され、単一リンカーが導入されているにもかかわらず、元の免疫グロブリンの特異性を保持している。このフォーマットにより、組換えDNA技術の当業者であれば、親タンパク質にscFvの抗原結合特性を付与するために、親タンパク質のN末端又はC末端に線状scFvを遺伝学的に融合させることが可能になる。他にも多数の多価及びタンデムscFv領域の配置が提案又は作製されているが、重要なことは、下記の通り、全てが少なくとも2つの空間的に離れた末端を有していることである(Le Gall,F.;Kipriyanov,SM;Moldenhauer,G;Little,M(1999).”Di-,tri- and tetrameric single chain Fv antibody fragments against human CD19:effect of valency on cell binding”.FEBS Letters 453(1):164-168.doi:10.1016/S0014-5793(99)00713-9.PMID10403395)。
【発明の概要】
【0008】
本開示は、異種ポリペプチド、幾つかの実施形態では抗体又は抗体の断片に結合するNKG2Dリガンドの改変α1-α2ドメインに関する。改変リガンドは、同種の非天然NKG2D受容体に選択的に結合し、これは、次に、その同種改変リガンドに選択的に結合する。非天然NKG2D受容体は、免疫系の細胞の表面上で発現し、そのエフェクター細胞の表面上にキメラ受容体を作製することができる。また、リガンドに結合する異種分子は、標的細胞の表面上の特定の分子に結合し、それによって、免疫エフェクター細胞を標的細胞に送達することもできる。このようなエフェクター細胞としては、リンパ球、B細胞、形質細胞、単球、マクロファージ、及び樹状細胞が挙げられる。
【0009】
幾つかの実施形態では、本開示は、改変非天然NKG2D受容体のための改変非天然リガンドであって、該リガンドが、HIVに感染した細胞の表面上に存在するHIVタンパク質に選択的に結合する、結合している異種分子を有し、その異種分子を有する該改変リガンドが、CAR細胞の改変非天然NKG2D受容体に選択的に結合して、HIV感染細胞の破壊を引き起こすことができる、改変非天然リガンドに関する。
【0010】
更なる実施形態では、異種分子が選択的に結合するHIVタンパク質は、HIVエンベロープタンパク質である。
【0011】
更に別の実施形態では、異種分子が選択的に結合するエンベロープタンパク質のエピトープは、配列番号169又は配列番号170を含む。
【0012】
本開示の幾つかの実施形態では、改変非天然リガンドは、配列番号68、69、70、71、又は72を含む。
【0013】
更なる実施形態では、改変非天然NKG2D受容体は、配列番号54又は154を含む。
【0014】
本開示の幾つかの実施形態では、HIVタンパク質は、潜伏HIV感染細胞におけるHIVタンパク質の発現を誘発することが知られている機序又は剤、すなわち、潜伏感染再活性化剤によってショックを与えられた又は活性化されたHIV感染細胞で発現する。
【0015】
本開示の幾つかの実施形態では、CAR細胞には、異なる別個の異種分子がHIV感染細胞の表面上の異なるエピトープ、タンパク質、又は他の分子に結合している複数の改変非天然リガンドが結合している。
【0016】
本開示の幾つかの実施形態では、配列番号54又は154を含む改変非天然NKG2D受容体がCAR細胞上に存在し、該改変NKG2D受容体は、HIVタンパク質に結合しない異種分子又は原子が結合している、配列番号68、69、70、71、又は72で構成される改変非天然リガンドに結合する。
【0017】
更なる実施形態では、異種分子又は原子は、CAR細胞の機能を調節する。なお更なる実施形態では、細胞機能としては、HIVに感染していない細胞の増殖、分化、除去、イメージング、免疫抑制の拮抗、ホーミング、又は細胞溶解が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
特許又は出願ファイルは、カラーで描かれた少なくとも1枚の図面を含む。このカラー図面(複数可)付き特許又は特許出願公開のコピーは、請求して必要な手数料を支払えば特許庁によって提供される。
【
図1】そのY字型構造及び構造要素を示す、典型的な哺乳類抗体の図。
【
図2】典型的なCARの解剖学的形態(Gill & June,2015,前喝)。
【
図3】NKG2Dに対する親和性を強化するための、MICAのα1-α2ドメインの構造特異的変異誘発。57箇所の特定のアミノ酸部位が広範囲に変異誘発されたNKG2D結合面が濃い灰色で着色されている、MICAのα1-α2ドメイン(PDB 1HYR)の構造。
【
図4】天然NKG2Dホモダイマー内のチロシン残基Y152及びY199。
【
図5】MICA及びULBP1~6からのα1-α2ドメインのタンパク質配列アラインメント。ULBP2(60アミノ酸)及びULBP3(36アミノ酸)におけるNNK変異誘発のために、灰色でハイライトされているアミノ酸を選択した。黒色でハイライトされている残基は、選択のための鍵となる位置として同定され、NKG2Dとの結合親和性を調節する変異として同定された(表6及び7)。
【
図6】Y152A NKG2D-Fcへの結合について選択された非天然α1-α2ドメインに対するR3抗体融合体のELISA結果。(A)R3 HC25抗体融合体は、Y152A NKG2Dに対して選択的ではない。(B)R3 HC25.17(配列番号73)抗体融合体は、天然NKG2D-Fcに比べてY152A NKG2Dに対して選択的である。(C)R3 HC.U2RW抗体融合体は、天然NKG2D-Fcに比べてY152A NKG2Dに対して選択的ではない。(D)R3 HC.U2S3(配列番号74)抗体融合体は、天然NKG2D-Fcに比べてY152A NKG2Dに対して選択的である。
【
図7】異なる濃度の特異的にHIVを標的とするMicAbodyを有するCAR-T細胞によるHIVに感染した初代CD4 T細胞の殺傷についてのエフェクター:標的(E:T)細胞比の評価。Bal-GFP R5ウイルスに感染した初代扁桃腺由来細胞100万個(約10%感染;1×10
4個の感染細胞)を、異なる濃度の4つの異なる広域中和HIV MicAbodyの存在下で、1×10
5個の形質導入されていないCD8(0:1)、又は1×10
4個(1:1)若しくは2×10
5個(20:1)のCAR-T細胞と共にインキュベートした。24時間後に細胞を染色し、フローサイトメトリーによって評価した。細胞を、GFPを発現しているか又は発現していない単一細胞/生/CD3+/CD8-細胞をゲーティングした。3回の試験を平均した結果を示す。
【
図8】特異的HIV MicAbodyと組み合わせたCAR-TによるR5ウイルスに感染した初代CD4細胞の特異的殺傷。Bal-GFP R5ウイルスに感染した初代扁桃腺由来細胞100万個(約1×10
4個の感染細胞)を、異なる濃度のHIV特異的MicAbody又はB細胞特異的CD20を標的とするMicAbody又はHER2を標的とするMicAbody(Her2)の存在下で、1×10
5個のCAR-T細胞と共にインキュベートした。24時間後に細胞を染色し、フローサイトメトリーによって分析した。細胞を単一細胞/生/CD3+/CD8-及びGFP+又はGFP-のいずれかでゲーティングした。4回の試験を平均した結果を示す。
【
図9】特異的HIV MicAbodyと組み合わせたCAR-TによるF4 transmitted/founderウイルスに感染した初代CD4細胞の特異的殺傷。F4-GFP(T/F)ウイルスに感染した初代扁桃腺由来細胞100万個(約1×10
4個の感染細胞)を、異なる濃度の4つの別個のHIV特異的MicAbody、CD20を標的とするMicAbody(Ritux)、又はHER2を標的とするMicAbody(Her2)の存在下で、1×10
5個のconvertibleCAR-T細胞と共にインキュベートした。24時間後に細胞を染色し、続いて、フローサイトメトリーを行った。細胞を単一細胞/生/CD3+/CD8-及びGFP+又はGFP-のいずれかでゲーティングした。
【
図10】HIVに慢性的に感染し、ARTを受けている非ウイルス血症患者からの再活性化した潜伏感染リザーバ細胞のCAR-T及びMicAbodyによる殺傷。CD4+T細胞を、ARTを受けている既知のHIV感染患者から回収したPBMCからノータッチネガティブセレクションによって単離し、100nM 酢酸ミリスチン酸ホルボール(PMA)+1uM イオノマイシンで72時間再活性化した。次いで、細胞を2回洗浄し、MIXと表記された、0.1nM又は1nMの等濃度のHIV bNAbベースのMicAbody(3BNC60、3BNC117、PGT121、及び10-1074)の混合物の存在下で、convertibleCAR-T細胞又は形質導入されていないCD8 T細胞と共に48時間インキュベートした。次いで、細胞を遠心分離し、細胞ペレットからRNAを抽出した。細胞に結合しているHIV RNAをddPCRによって測定した。
【発明を実施するための形態】
【0019】
免疫系のナチュラルキラー(NK)細胞、単球-マクロファージ系列の細胞、及び特定の(CD8+αβ及びγδ)T細胞は、新生物細胞及びウイルス感染細胞に対する第一選択の先天的防御としてヒト及び他の哺乳類において重要な役割を果たしている(Cerwenka,A.,and L.L.Lanier.2001.NK cells,viruses and cancer.Nat.Rev.Immunol.1:41-49)。NK細胞及び特定のT細胞は、標的細胞の認識及び病的細胞に対する先天的防御の活性化に関与する突起ホモ二量体表面免疫受容体であるNKG2Dをその表面に提示する(Lanier,LL,1998.NK cell receptors. Ann.Rev.Immunol.16:359-393;Houchins JP et al.1991.DNA sequence analysis of NKG2,a family of related cDNA clones encoding type II integral membrane proteins on human NK cells.J.Exp.Med.173:1017-1020;Bauer,S et al.,1999. Activation of NK cells and T cells by NKG2D,a receptor for stress-inducible MICA. Science 285:727-730)。ヒトNKG2D分子は、84%の配列が主要組織適合性複合体(MHC)クラスI鎖関連糖タンパク質(MIC)の多型類似体である単量体のMICA及びMICBと同一又は相同である、その同種リガンドに結合するC型レクチン様細胞外ドメインを保有する(Weis et al.1998.The C-type lectin superfamily of the immune system.Immunol.Rev.163:19-34;Bahram et al.1994.A second lineage of mammalian MHC class I genes.PNAS 91:6259-6263;Bahram et al.1996a.Nucleotide sequence of the human MHC class I MICA gene.Immunogenetics 44:80-81;Bahram and Spies TA.1996.Nucleotide sequence of human MHC class I MICB cDNA.Immunogenetics 43:230-233)。MICタンパク質の非病的な発現は、一般に、腸管上皮、ケラチノサイト、内皮細胞、及び単球に限られるが、増殖、酸化、ウイルス感染、及びヒートショック等の多くの種類の細胞ストレスに応答して、これらMICタンパク質の異常な表面発現が生じ、該細胞を病的なものであると特徴付ける(Groh et al.1996.Cell stress-regulated human MHC class I gene expressed in GI epithelium.PNAS 93:12445-12450;Groh et al.1998.Recognition of stress-induced MHC molecules by intestinal γδT cells.Science 279:1737-1740;Zwirner et al.1999.Differential expression of MICA by endothelial cells,fibroblasts,keratinocytes and monocytes.Human Immunol.60:323-330)。また、MICタンパク質の病的な発現は、幾つかの自己免疫疾患に関与していると考えられる(Ravetch,JV and Lanier LL.2000.Immune Inhibitory Receptors.Science 290:84-89;Burgess,SJ.2008.Immunol.Res.40:18-34)。多型のMICAやMICB等のNKG2Dリガンドの差次的な制御は、健常細胞を望ましくない攻撃から保護しつつ、広範囲にわたる緊急事態の合図を同定し、応答する手段を免疫系に提供するために重要である(Stephens HA,(2001)MICA and MICB genes:can the enigma of their polymorphism be resolved? Trends Immunol.22:378-85;Spies,T.2008.Regulation of NKG2D ligands:a purposeful but delicate affair.Nature Immunol.9:1013-1015)。
【0020】
ウイルス感染は、MICタンパク質発現の一般的な誘導因子であり、NK細胞又はT細胞の攻撃対象としてウイルス感染細胞を同定する(Groh et al.1998;Groh et al.2001.Co-stimulation of CD8+ αβT-cells by NKG2D via engagement by MIC induced on virus-infected cells.Nat.Immunol.2:255-260;Cerwenka,A.,and L.L.Lanier.2001)。実際、その宿主細胞に対するこのような攻撃から逃れるために、サイトメガロウイルス及び他のウイルスは、自然免疫系の報復を回避するために、感染した細胞の表面上でMICタンパク質が発現するのを防ぐ機序を進化させてきた(Lodoen,M.,K.Ogasawara,J.A.Hamerman,H.Arase,J.P.Houchins,E.S.Mocarski,and L.L.Lanier.2003. NKG2D-mediated NK cell protection against cytomegalovirus is impaired by gp40 modulation of RAE-1 molecules. J.Exp.Med.197:1245-1253;Stern-Ginossar et al.,(2007)Host immune system gene targeting by viral miRNA.Science 317:376-381;Stern-Ginossar et al.,(2008)Human microRNAs regulate stress-induced immune responses mediated by the receptor NKG2D.Nature Immunology 9:1065-73;Slavuljica,I A Busche,M Babic ,M Mitrovic,I Gasparovic,D Cekinovic,E Markova Car,EP Pugel,A Cikovic,VJ Lisnic,WJ Britt,U Koszinowski,M Messerle,A Krmpotic and S Jonjic.2010.Recombinant mouse cytomegalovirus expressing a ligand for the NKG2D receptor is attenuated and has improved vaccine properties.J.Clin.Invest.120:4532-4545)。
【0021】
そのストレスにもかかわらず、肺がん及び膠芽腫脳腫瘍のもの等の多くの悪性細胞もMICタンパク質の発現を逃れ、その結果、特に高悪性度になる場合があるが、それは自然免疫系を過度に回避するためである(Busche,A et al.2006,NK cell mediated rejection of experimental human lung cancer by genetic over expression of MHC class I chain-related gene A.Human Gene Therapy 17:135-146;Doubrovina,ES,MM Doubrovin,E Vider,RB Sisson,RJ O’Reilly,B Dupont,and YM Vyas,2003.Evasion from NK Cell Immunity by MHC Class I Chain-Related Molecules Expressing Colon Adenocarcinoma(2003)J.Immunology 6891-99;Friese,M.et al.2003.MICA/NKG2D-mediated immunogene therapy of experimental gliomas.Cancer Research 63:8996-9006;Fuertes,MB, MV Girart,LL Molinero,CI Domaica,LE Rossi,MM Barrio,J Mordoh,GA Rabinovich and NW Zwirner.(2008)Intracellular Retention of the NKG2D Ligand MHC Class I Chain-Related Gene A in Human Melanomas Confers Immune Privilege and Prevents NK Cell-Mediated Cytotoxicity.J.Immunology,180:4606 -4614)。
【0022】
NKG2Dに結合したヒトMICAの高分解能構造は解析されており、MICAのα3ドメインがNKG2Dと直接相互作用しないことが実証されている(Li et al.2001.Complex structure of the activating immunoreceptor NKG2D and its MHC class I-like ligand MICA.Nature Immunol.2:443-451;Protein Data Bank accession code 1HYR)。MICAのα3ドメインは、MICBのそれと同様に、短く柔軟なリンカーペプチドによってα1-α2プラットフォームドメインに接続されており、それ自体が該プラットフォームとMIC発現細胞の表面との間の「スペーサー」として天然では配置されている。ヒトのMICA及びMICBのα3ドメインの三次元構造はほぼ同一であり(94個のC-ααにおいて二乗平均平方根距離が1Å未満)、機能的に互換性がある(Holmes et al.2001.Structural Studies of Allelic Diversity of the MHC Class I Homolog MICB,a Stress-Inducible Ligand for the Activating Immunoreceptor NKG2D.J Immunol.169:1395-1400)。
【0023】
天然α1-α2ドメインよりも高い親和性で天然ヒトNKG2D受容体に結合するように改変されたNKG2Dリガンドの特定の非天然α1-α2ドメインが記載されている(Candice S.E.Lengyel,Lindsey J.Willis,Patrick Mann,David Baker,Tanja Kortemme,Roland K.Strong and Benjamin J.McFarland.Mutations Designed to Destabilize the Receptor-Bound Conformation Increase MICA-NKG2D Association Rate and Affinity.Journal of Biological Chemistry Vol.282,no.42,pp.30658-30666,2007;Samuel H.Henager,Melissa A.Hale,Nicholas J.Maurice,Erin C.Dunnington,Carter J.Swanson,Megan J.Peterson,Joseph J.Ban,David J.Culpepper,Luke D.Davies,Lisa K.Sanders,and Benjamin J.McFarland.Combining different design strategies for rational affinity maturation of the MICA-NKG2D interface.Protein Science 2012 VOL 21:1396-1402。本明細書では、本発明者らは、結果的にNKG2Dリガンドの天然α1-α2ドメインへの結合が損なわれるか又は失われる部位でそれ自体が変異している、非天然NKG2D受容体と結合するように改変されたNKG2Dリガンドの非天然α1-α2ドメインについて説明する(David J.Culpepper,Michael K.Maddox,Andrew B.Caldwell,and Benjamin J.McFarland.Systematic mutation and thermodynamic analysis of central tyrosine pairs in polyspecific NKG2D receptor interactions.Mol Immunol.2011 January;48(4):516-523;米国特許出願第14/562,534号;米国特許仮出願第62/088,456号))。本発明は、特異的に改変された非天然α1-α2ドメインで構成され、キメラ抗原受容体(CAR)に結合する異種ペプチド又はポリペプチドを含むがこれらに限定されない異種分子を特異的に標的とする二重特異性分子であって、該CARの受容体が、天然α1-α2ドメインよりも高い親和性で改変α1-α2ドメインに結合する非天然NKG2D受容体外部ドメインで構成されている二重特異性分子を作製する。次に、このようなCARで構成された免疫系の遺伝子操作された細胞、例えば、B細胞、T細胞、NK細胞、及びマクロファージは、下記の通り、現行のCAR-T及びCAR-NK細胞治療薬の既知の重篤な全身毒性及び抗原回避を含む問題点の多くを克服することができる(Kalos M,Levine,BL,Porter,DL,Katz,S,Grupp,SA,Bagg,A and June,C..T Cells with chimeric antigen receptors have potent antitumor effects and can establish memory in patients with advanced leukemia.Sci Transl Med 2011;3:95ra73;Morgan RA,Yang JC,Kitano M,Dudley ME,Laurencot CM,Rosenberg SA.Case report of a serious adverse event following the administration of T cells transduced with a chimeric antigen receptor recognizing ERBB2.Mol Ther 2010,18:843-851;Gill and June 2015)。
【0024】
遺伝子導入技術を用いてT細胞、NK細胞、及びマクロファージを改変して、新規抗原特異性を付与する抗体の結合ドメインを直接かつ安定的にその表面上で発現させることができる(Saar Gill & Carl H.June.Going viral:chimeric antigen receptor T-cell therapy for hematological malignancies.Immunological Reviews 2015.Vol.263:68-89;Wolfgang Glienke,Ruth Esser,Christoph Priesner,Julia D.Suerth,Axel Schambach,Winfried S.Wels,Manuel Grez,Stephan Kloess,Lubomir Arseniev and Ulrike Koehl.2015.Advantages and applications of CAR-expressing natural killer cells.Front.Pharmacol.doi:10.3389/fphar.2015.00021)。CAR-T細胞は、特異的抗体の抗原認識ドメインを、内因性T細胞受容体(TCR)からのシグナルの主要な伝達物質であるCD3-ζ鎖の細胞内ドメインと組み合わせて、CD27、CD28、ICOS、4-1BB、又はOX40等の共刺激分子と共に単一のキメラタンパク質にするこのアプローチの用途である、
図2。このように構築されたCARは、内因性T細胞受容体と同様であるが、主要組織適合性複合体(MHC)に依存しない方法で、標的とする抗原に結合した際にT細胞の活性化を惹起することができる。
【0025】
本明細書で使用するとき、「可溶性MICタンパク質」、「可溶性MICA」、及び「可溶性MICB」とは、MICタンパク質のα3ドメインの有無にかかわらずα1-α2ドメインを含有するが、膜結合モチーフ、膜貫通ドメイン、又は細胞内ドメインは含まないMICタンパク質を指す。NKG2DリガンドであるULBP1~6は、天然ではα3ドメインを保有していない(Cerwenka A,Lanier LL.2004.NKG2D ligands:unconventional MHC class I-like molecules exploited by viruses and cancer.Tissue Antigens 61(5):335-43.doi:10.1034/j.1399-0039.2003.00070.x.PMID12753652)。NKG2Dリガンドの「α1-α2ドメイン」とは、NKG2D受容体に結合するリガンドのタンパク質ドメインを指す。
【0026】
幾つかの実施形態では、本発明の非天然NKG2Dリガンドタンパク質のα1-α2ドメインは、NKG2Dリガンドのネイティブ又は天然のα1-α2ドメイン、配列番号1~19と少なくとも80%同一又は相同である。他の実施形態では、改変α1-α2ドメインは、NKG2Dリガンドのネイティブ又は天然のα1-α2ドメインと85%同一である。更に他の実施形態では、改変α1-α2ドメインは、天然NKG2Dリガンドタンパク質のネイティブ又は天然のα1-α2ドメインと90%同一であり、非天然NKG2Dに結合する。
【0027】
可溶性MICタンパク質のα1-α2プラットフォームドメインは、哺乳類の細胞間又は血管内の空間で拡散可能である。好ましくは、本発明の非天然MICタンパク質のα1-α2プラットフォームドメインは、ヒトMICA又はMICBタンパク質のネイティブ又は天然のα1-α2ドメインと少なくとも80%同一又は相同であり、天然NKG2Dに結合するか、又は特定の例では、改変非天然NKG2D受容体に結合する。幾つかの実施形態では、α1-α2プラットフォームドメインは、ヒトMICA、ヒトMICB、又はヒトULBP1~6タンパク質のネイティブ又は天然のα1-α2プラットフォームドメインと85%同一であり、天然NKG2D又は改変非天然NKG2Dに結合する。他の実施形態では、α1-α2プラットフォームドメインは、ヒトMICA、ヒトMICB、又はヒトULBP1~6タンパク質のネイティブ又は天然のα1-α2プラットフォームドメインと90%、95%、96%、97%、98%、又は99%同一であり、天然NKG2D受容体又は改変非天然NKG2D受容体に結合する。
【0028】
幾つかの実施形態では、可溶性MICタンパク質の精製を支援するために、α1-α2ドメイン又は別の可溶性MICタンパク質のN末端又はC末端に異種ペプチドタグを融合させてもよい。タグ配列は、ポリヒスチジン、myc-ペプチド、又はFLAGタグ等のペプチドを含む。このようなタグは、当業者に公知の方法によってMIC分子の単離後に除去することができる。
【0029】
本発明の他の実施形態では、NKG2Dリガンドのα1-α2ドメインに特定の変異を加えて、それ自体が天然NKG2Dリガンドに対してより低い親和性を有するように遺伝子操作されている非天然NKG2D受容体に結合する非天然α1-α2ドメインを作製することができる。これは、例えば、遺伝子操作を通して行うことができる。このように改変された非天然NKG2D受容体を用いて、免疫系のNK細胞、T細胞、マクロファージ、又は幹細胞の表面上に、本発明の非天然α1-α2ドメインで構成される分子に優先的に結合し、そして、それによって活性化され得る非天然NKG2Dベースのキメラ抗原受容体(CAR)を作製することができる。非天然NKG2D受容体とその本発明の同種非天然NKG2Dリガンドとのこれら対は、下記の通り、現行のCAR-T細胞及びCAR-NK細胞と比較して、がん及びウイルス感染症を治療するために重要な安全性、有効性、及び製造上の利点をもたらすであろう。
【0030】
CARによるT細胞の遺伝子操作は、がんに対する養子T細胞療法の有望なアプローチとして浮上してきており、多くの異なる分子を標的とするCARが、悪性腫瘍の治療薬としてCAR-T細胞で試験されている(Porter DL,Levine BL,Kalos M,,Bagg A,June CH.Chimeric antigen receptor-modified T cells in chronic lymphoid leukemia.N Engl J Med.365:725-733.)。CD19特異的キメラ抗原受容体を発現するT細胞の養子移入を受けた何百人もの患者において顕著な臨床的有効性が観察されているが、特定の抗原を標的とするCARのカスタム遺伝子操作、患者からの自己T細胞の単離、個別化されたCARを発現させるための自己T細胞の遺伝学的操作、インビトロにおける改変細胞の増殖、及び品質の制御、その生成のプロセスは、全て煩雑かつ高価であった。現在、これは、豊富な専門知識及び資源を有する大規模な学術センターの状況でのみ実現可能である(Gill & June,2015)。
【0031】
自己CAR-T細胞がドナー患者に再注入されると、そのインビボにおける増殖を制御することはできず---「リビング・セラピー」、有効性との用量応答関係は存在しない(Gill & June,2015)。更に、抗原喪失回避を通してCAR T細胞からの腫瘍回避が生じ得(Stephan A.Grupp,M.D.,Ph.D.,Michael Kalos,Ph.D.,David Barrett,M.D.,Ph.D.,Richard Aplenc,M.D.,Ph.D.,David L.Porter,M.D.,Susan R.Rheingold,M.D.,David T.Teachey,M.D.,Anne Chew,Ph.D.,Bernd Hauck,Ph.D.,J.Fraser Wright,Ph.D.,Michael C.Milone,M.D.,Ph.D.,Bruce L.Levine,Ph.D.,and Carl H.June,M.D.Chimeric Antigen Receptor-Modified T Cells for Acute Lymphoid Leukemia.N Engl J Med 2013;368:1509-1518)、この回避経路は、異なって標的化されるCAR-T細胞による連続治療によって又は2つ以上の特異性を有するCARを含有するT細胞製品を最初に注入することによって最も容易に対処することができるが、製造プロセス及び品質管理が更に複雑になる。
【0032】
一本鎖抗体結合ドメイン(scFv)を用いて腫瘍を標的とするCAR-T細胞に加えて、NKG2D受容体のリガンド結合ドメインを用いるCAR-T細胞が動物で、そして最近ではヒトでも研究されている(Sentman CL,Meehan KR.NKG2D CARs as cell therapy for cancer.Cancer J.2014 Mar-Apr;20(2):156-9.doi:10.1097/PPO.0000000000000029;Manfred Lehner,Gabriel Gotz,Julia Proff,Niels Schaft,Jan Dorrie,Florian Full,Armin Ensser,Yves A.Muller,Adelheid Cerwenka,Hinrich Abken,Ornella Parolini,Peter F.Ambros,Heinrich Kovar,Wolfgang Holter.Redirecting T Cells to Ewing’s Sarcoma Family of Tumors by a Chimeric NKG2D Receptor Expressed by Lentiviral Transduction or mRNA Transfection Research Article | published 15 Feb 2012 | PLOS ONE 10.1371/journal.pone.0031210;www.clinicaltrials.gov NCT02203825)。NKG2Dリガンドの発現は、腫瘍細胞及びウイルスに感染した細胞等のストレスを受けた細胞の表面上で増加することから、この天然NKG2Dリガンドのファミリーは、ウイルス感染症及びがん免疫療法の標的として大きな関心を集めている(Spear P,Wu MR,Sentman ML,Sentman CL.NKG2D ligands as therapeutic targets.Cancer Immun.2013 May 1;13:8.;Song DG,Ye Q,Santoro S,Fang C,Best A,Powell DJ Jr.,Chimeric NKG2D CAR-expressing T cell-mediated attack of human ovarian cancer is enhanced by histone deacetylase inhibition.Hum Gene Ther.2013 Mar;24(3):295-305)。あるNKG2D CARは、完全長NKG2D受容体とCD3ζとの融合体(NKG2Dζ)であり;別のNKG2D CARは、CD28からの膜貫通ドメイン及び細胞内ドメインとCD3ζのシグナル伝達ドメインとで構成される第2世代CARスカフォールドに逆の配向で融合したNKG2Dの外部ドメインのみを有していた(NKG2D28ζ)。NKG2Dの活性化はDAP10の存在に依存しているため、DAP10をNKG2Dζと共発現させたCAR-T細胞も構築した(NKG2Dζ10)。上記NKG2D CARのいずれかを発現するT細胞は、NKG2Dリガンドの刺激に応答して
【0033】
【0034】
及びTNFαを産生し、NKG2Dリガンドを発現している腫瘍標的をインビトロで効率的に殺傷した(Heather VanSeggelen,Joanne A.Hammill,Anna Dvorkin-Gheva,Daniela G.M.Tantalo,Jacek M.Kwiecien,Galina F.Denisova,Brian Rabinovich,Yonghong Wan,Jonathan L.Bramson,T cells engineered with chimeric antigen receptors targeting NKG2D ligands display lethal toxicity in mice,Molecular Therapy accepted article preview online 30 June 2015;doi:10.1038/mt.2015.119)。また、NKG2D-DAP10-CD3ζをベースにしたCARを発現させることによって、広範囲の腫瘍サブタイプに対するNK細胞の細胞傷害能を顕著に強化することもできた(Yu-Hsiang Chang,John Connolly,Noriko Shimasaki,Kousaku Mimura,Koji Kono,and Dario Campana.Chimeric Receptor with NKG2D Specificity Enhances Natural Killer Cell Activation and Killing of Tumor Cells.Cancer Res;73(6)March 15,2013)。
【0035】
しかし、同系マウス宿主に注入した後、天然NKG2D受容体の天然リガンドに結合し、それによって活性化されるこれらCAR-Tコンストラクトでは重度の毒性が生じた。NKG2DベースのCAR-T細胞で処理した担癌マウス及び非担癌マウスでは、未処理の対照マウスと比較して、体調不良、猫背の姿勢、努力呼吸、及び深部体温の低下を含む毒性の徴候が観察された。NKG2D CAR-T細胞の毒性の重篤度は様々であり、NKG2Dζ10は重度に毒性であり、NKG2D28ζは中等度の毒性を示し、NKG2Dζは許容可能であった。NKG2D CARのいずれかを発現するT細胞を養子移入する前にマウスが化学療法を受けた場合、毒性の臨床症状及び死亡率が悪化した(VanSeggelen et al.2015)。化学療法及び放射線は、それを行わなければ健常な組織においてNKG2Dリガンドを誘導することが知られている(Xiulong Xu,Geetha S Rao,Veronika Groh,Thomas Spies,Paolo Gattuso,Howard L Kaufman,Janet Plate and Richard A Prinz. Major histocompatibility complex class I-related chain A/B(MICA/B)expression in tumor tissue and serum of pancreatic cancer:Role of uric acid accumulation in gemcitabine-induced MICA/B expression.BMC Cancer 2011,11:194 doi:10.1186/1471-2407-11-194;Gannage M,Buzyn A,Bogiatzi SI,Lambert M,Soumelis V,Dal Cortivo L,Cavazzana-Calvo M,Brousse N,Caillat-Zucman Induction of NKG2D ligands by gamma radiation and tumor necrosis factor-alpha may participate in the tissue damage during acute graft-versus-host disease.Transplantation.2008 Mar 27;85(6):911-5.doi:10.1097/TP.0b013e31816691ef.)。更なる特性評価により、この毒性は全身サイトカインストーム及び肺内の致死レベルの炎症と同時に発生することが明らかになった。これらデータは、標的免疫療法のために天然NKG2Dリガンドを使用する際には細心の注意を払わなければならないと警告し、強い活性化作用を有するCARのT細胞発現を強化することは、インビボでは有害である場合があることを示す(VanSeggelen et al.2015)。
【0036】
天然NKG2Dリガンドには結合しない又はわずかにしか結合しない非天然NKG2D受容体の外部ドメインで構成されたCAR-T細胞、CAR-NK細胞、及びマクロファージは、上記の形態の活性化を受けないため、天然NKG2D受容体をベースとするCARを発現する細胞ほど毒素原性が高くない。更に、細胞上の非天然NKG2D受容体の外部ドメインは、可溶性フォーマットの天然NKG2Dリガンドによる又は骨髄系由来サプレッサー細胞(MDSC)におけるダウンレギュレーションを受けない(Deng W,Gowen BG,Zhang L,Wang L,Lau S,Iannello A,Xu J,Rovis TL,Xiong N,Raulet DH,2015.Antitumor immunity.A shed NKG2D ligand that promotes natural killer cell activation and tumor rejection.Science.2015 Apr 3;348(6230):136-9.doi:10.1126/science.1258867.Epub 2015 Mar 5)。しかし、非天然NKG2D受容体の外部ドメインを有するこのようなCAR細胞が、本発明の同種非天然α1-α2ドメイン及びその意図する標的を見つけ、結合しているその異種ターゲティングモチーフを有する二重特異性分子と会合すると、CARが活性化し、CAR細胞のエフェクター機能が発現する。CAR-T細胞、CAR-NK細胞、及びCAR-マクロファージ細胞のエフェクター機能は、標的となる細胞の生存率又は機能を低下させたり、損なわせたりすることができる。標的となる細胞としては、悪性細胞、腫瘍の免疫抑制細胞、自己免疫疾患の原因となる細胞、例えばHIV、肝炎ウイルス、HTLV-1、CMV、EBV、及び他のヘルペスウイルスであるがこれらに限定されないウイルスに感染した細胞を挙げることができる。
【0037】
非天然NKG2D受容体外部ドメインで構成されるCAR-T又はCAR-NK細胞は、同種非天然α1-α2ドメインで構成される会合した二重特異性分子の存在下を除いて活性化されないので、投与される二重特異性分子によってその活性化を制御することができ、該分子は、バイオ医薬品として、当技術分野において周知である薬物動態及び薬力学を示す。有害事象が発生した場合、医師は、現在行われているように、注入したCAR細胞を破壊するための誘導性自殺機序を展開する必要はなく、投与する二重特異性分子の投与レジメンを単に変更するだけでよい(Monica Casucci and Attilio Bondanza.Suicide Gene Therapy to Increase the Safety of Chimeric Antigen Receptor-Redirected T Lymphocytes.J Cancer.2011;2:378-382)。更に、異なる特異的ターゲティングモチーフを有するこのような二重特異性分子を同時に又は逐次投与して、複数の異なる自己CAR細胞を作製、増殖、及び注入する必要なく、標的抗原が失われた結果として腫瘍細胞又はウイルス感染細胞の抵抗性及び回避の発生に対処するのを支援することができる(Gill & June,2015)。全てのCARの構築は、全てのCAR細胞に対して同一であってよく、ターゲティング特異性は、単に生成された本発明の二重特異性分子のターゲティングモチーフによって決定されるので、製造プロセスが簡略化され、より安価になる。
【0038】
多くのウイルスは、自然免疫監視システム、特にNKG2D依存性成分による宿主細胞の殺傷を回避するための機序を進化させてきた。例えば、アデノウイルス、巨細胞封入体ウイルス(CMV)、ヘルペスウイルス、HIV、ヒトT細胞リンパ腫ウイルス-1(HTLV-1)、及びパピローマウイルスは、いずれも1つ以上の機序を保有している。このようなウイルスは、感染した宿主細胞の表面上でウイルス抗原を発現させることができ、そのエピトープは、抗体、抗体の断片、又は他の分子ターゲティングモチーフが結合するためのウイルス特異的分子標的として機能し得る。これら細胞表面に露出している分子標的は、ウイルス感染の拡大を防いだり、ウイルス感染細胞を排除することによってウイルス感染を治療したりするための抗体又は養子細胞療法(ACT)の標的として魅力的である。
【0039】
HIV-1の潜伏感染は、急性感染の初期に確立され、主にメモリーCD4+T細胞内でみられる。このリザーバは、ほとんど転写されていないが、抗原若しくはサイトカインの刺激によって宿主細胞が再活性化されたとき又は抗レトロウイルス療法(ART)が中断されたときに、感染性のウイルスを十分に生成することができる。潜伏感染HIVリザーバは、CD4+T細胞の98%超が存在しているリンパ組織に主にみられる。ARTはウイルスの複製を抑制することができるが、潜伏感染リザーバを根絶することはできない(Ruelas,D.S.and W.C.Greene,An integrated overview of HIV-1 latency.Cell,2013.155(3):p.519-29.)。潜伏HIV-1を一掃するための試みは、当初、サイトカイン又はT細胞受容体活性化剤を用いて潜伏プロウイルスを再活性化することに重点的に取り組んでいた。しかし、これら戦略の結果、重度の副作用が生じ、有効性は低かった。その代わり、いわゆる「ショック・アンド・キル」戦略は、HIV-1の転写を誘導することができる化合物である潜伏感染反転剤(LRA)を投与することを通して、転写されていないプロウイルスを再活性化させることを含む(Cary,D.C.,K.Fujinaga,and B.M.Peterlin,Molecular mechanisms of HIV latency.J Clin Invest,2016.126(2):p.448-54.)。潜伏ウイルスを再活性化すると、活性化した細胞の表面上でHIVエンベロープ糖タンパク質であるgp160が発現し、gp120及びgp41に加工される。gp120のドメインV1、V2、V3、C1、C2、及びNセグメントは、中和抗体、そして、本発明に記載の通りのCAR-T細胞でHIV感染細胞を攻撃するための魅力的な標的を与える。
【0040】
潜伏感染細胞を再活性化した後、これら細胞はウイルスを産生し(これはARTの投与により停止される)、そして、これら細胞はウイルスの細胞変性作用によるアポトーシスによって死滅し、それによって、潜伏リザーバのサイズが減少すると予測された。この仮説を検証すると、再活性化された細胞は死滅せず、潜伏リザーバのサイズも縮小しないことが示された(Shan L,Deng K,Shroff NS,Durand CM,Rabi SA,Yang HC,Zhang H,Margolick JB,Blankson JN,Siliciano RF,Stimulation of HIV-1-specific cytolytic T lymphocytes facilitates elimination of latent viral reservoir after virus reactivation.Immunity.2012;36(3)p.491-501.)。リザーバの再活性後も2つの主な問題が存在する。第1は、CTLによる殺傷に対して抵抗性を有するウイルスの出現に関する(Deng K,Pertea M,Rongvaux A,Wang L,Durand CM,Ghiaur G,Lai J,McHugh HL,Hao H,Zhang H,,JB,Gurer C,Murphy AJ,Valenzuela DM,Yancopoulos GD,Deeks SG,Strowig T,Kumar P,Siliciano JD, Salzberg SL,Flavell RA,Shan L,Siliciano RF Broad CTL response is required to clear latent HIV-1 due to dominance of escape mutations.Nature.2015 Jan 15;517(7534)p.381-5.)。これは、感染の最初の6カ月間にART治療を受けなかった慢性感染個体(慢性感染個体の大多数)に共通する問題である。第2の問題は、CTLがHIV関連の慢性炎症に曝露されて、CTLが疲弊することに起因する(Cella M,Presti R,Vermi W,Lavender K,Turnbull E,Ochsenbauer-Jambor C,Kappes JC,Ferrari G,Kessels L,Williams I;CHAVI Clinical Core B,McMichael AJ,Haynes BF,Borrow P,Colonna M;NIAID Center for HIV/AIDS Vaccine Immunology.Loss of DNAM-1 contributes to CD8+ T-cell exhaustion in chronic HIV-1 infection.Eur J Immunol.2010 Apr;40(4):p.949-54.)。ウイルス抵抗性及び細胞疲弊の問題を回避する、再活性化したリザーバ細胞を死滅させるための新たなアプローチが必要であると考えられる。本発明者らは、再活性化したリザーバ細胞を殺傷するためにCTLを標的とする広域中和HIV抗体を利用する、convertible CAR-T細胞の構築を提案する。
【0041】
このように、本発明は、ACTのこれら現行の認識されている課題の多くを克服すると同時に、CAR-T細胞、CAR-NK細胞、及び/又はマクロファージを用いて癌又はウイルス感染を管理する、この注目に値する非常に有望な免疫学的アプローチの多様性及び実用性を拡大する。
【0042】
本明細書で使用するとき、「ペプチド」、「ポリペプチド」、及び「タンパク質」は互換的に使用され;「異種分子」、「異種ペプチド」、「異種配列」、又は「異種原子」は、それぞれ、天然では又は通常は対象となる分子と物理的に結合した状態ではみられない分子、ペプチド、核酸若しくはアミノ酸の配列、又は原子である。本明細書で使用するとき、「非天然」及び「改変」は互換的に使用される。本明細書で使用するとき、「天然」及び「ネイティブ」は互換的に使用され、「NKG2D」及び「NKG2D受容体」は互換的に使用される。用語「抗体」とは、本明細書では最も広い意味で用いられ、そして、具体的には、所望の生物活性を示す限り、モノクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及び抗体断片を網羅する。「抗体断片」は、好ましくはその抗原結合領域を含む、インタクトな抗体の一部を含む。抗体断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、及びFv断片;ダイアボディ;線状抗体;一本鎖抗体分子;及び抗体断片(複数可)から形成される多特異性抗体が挙げられる。
【0043】
「含む(including)」、「含有する」、又は「特徴とする」と互換的に使用される用語「含む(comprising)」は、包括的又はオープンエンドな言語であり、そして、追加の列挙されていない要素又は方法工程を除外するものではない。語句「からなる」は、特許請求の範囲で指定されていない任意の要素、工程、又は成分を除外する。語句「から本質的になる」は、特許請求の範囲の範囲を、指定の材料又は工程、及び請求される発明の基本的かつ新規な特徴に重大な影響を与えることのないものに限定する。本開示は、これら各語句の範囲に対応する本発明の組成物及び方法の実施形態を企図する。このように、列挙された要素又は工程を含む組成物又は方法は、該組成物又は方法がこれらの要素又は工程から本質的になる又はからなる特定の実施形態を企図する。
【0044】
本明細書に引用されている全ての参照文献は、既に明確に組み込まれていているかどうかにかかわらず、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書で使用するとき、用語「a」、「an」、及び「any」は、それぞれ単数形及び複数形の両方を含むことを意図する。
【0045】
ここまで本発明を十分に説明してきたが、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、また過度の実験を行うことなく、広範囲の等価なパラメータ、濃度、及び条件内でそれを実施できることが当業者には理解されるであろう。本発明をその具体的な実施形態に関連して説明してきたが、更なる変更が可能であることが理解されるであろう。本出願は、一般的には本発明の原理に従って本発明のあらゆる変形、使用、又は適応を網羅することを意図しており、本発明が属する技術分野における公知の又は慣習的な実施の範囲内であり、かつ本明細書に記載された本質的な特徴に適用することができる場合、本開示からの逸脱を含むものである。
【実施例】
【0046】
実施例1(NKG2Dリガンドの改変α1-α2ドメイン。)これらは、ヒトNKG2D受容体への結合親和性を著しく強化するように改変されたNKG2DLにポリペプチドを結合させる実施例である。MICタンパク質のα1-α2ドメインは、NKG2D受容体に対するNKG2DLである。この親和性は、NK細胞を生理学的に活性化し、「標的細胞」の二次元原形質膜表面に不可逆的に繋留されたネイティブな完全長MICタンパク質を発現している細胞の溶解を刺激するのに十分である(Bauer S,Groh V,Wu J,Steinle A,Phillips JH,Lanier LL,Spies T.,Science.1999 Jul 30;285(5428):727-9.)。しかし、本発明の遺伝子操作された可溶性MICタンパク質は、標的細胞の表面上の特異的標的抗原に可逆的に結合するので、遺伝子操作された可溶性MICタンパク質のNKG2Dへの結合親和性は、NK細胞と標的抗原を発現している細胞との間に形成される可溶性MIC依存性複合体の安定性に直接影響を与える。特に、NKG2Dからの改変sMICAの解離速度又はオフレートが実質的に遅くなることによってsMICAとNKG2Dとの間の親和性が増大する場合、標的細胞に結合している可溶性MIC分子の密度が低いほど、NK細胞をベースとする殺傷効果がより大きくなると予測される。本発明以前には、可溶性MICタンパク質の殺傷活性を変化させたり、結合オフレートを著しく低下させてMICタンパク質のNKG2Dへの親和性を強化したりするいかなるα1-α2変異も同定されていなかった。コンピュータによる設計の試みにより、野生型MICAのα1-α2ドメインにおける3つの変異:N69W、K152E、及びK154D(WED-MICA)を組み合わせると、結合していないMICAの安定性に影響を与え、それによって、そのNKG2Dへの会合速度又は結合のオンレートに影響を与えることにより、NKG2Dの結合親和性に中程度の影響を与え得ることが示された(Lengyel CS,Willis LJ,Mann P,Baker D,Kortemme T,Strong RK,McFarland BJ.J Biol Chem.2007 Oct 19;282(42):30658-66.Epub 2007 Aug 8);その後、公開されている構造記述に従って、理論的にNKG2Dと接触するMICAの22個のアミノ酸位置を反復計算によって走査する、同じグループによる広範なコンピュータによる設計研究により(Li P,Morris DL,Willcox BE,Steinle A,Spies T,Strong RK.,Nat Immunol.2001 May;2(5):443-451)、先に設計された3つの変更と組み合わせたとき、MICAを更に合理的、反復的にコンピュータで設計すると、合計7つの複合変異によってNKG2Dに対する親和性が弱(Kd約2.5μM)から中程度に緊密(Kd=51nM)に定性的に変化することが実験的に示された(Henager,Samuel H.,Melissa A.Hale,Nicholas J.Maurice,Erin C.Dunnington,Carter J.Swanson,Megan J.Peterson,Joseph J.Ban,David J.Culpepper,Luke D.Davies,Lisa K.Sanders,and Benjamin J.McFarland,2102,Combining different design strategies for rational affinity maturation of the MICA-NKG2D interface.Protein Science 21:1396-1402)。対照的に、本発明に記載の実験的アプローチでは、Lengyelら(Lengyel CS,Willis LJ,Mann P,Baker D,Kortemme T,Strong RK,McFarland BJ.,J Biol Chem.2007 Oct 19;282(42):30658-66.Epub 2007 Aug 8)の3つのWED変化によって安定化されたMICAから開始して、MICAのα1-α2ドメインとNKG2Dとの間のオフレートを減速させるMICAのアミノ酸改変を実験的に選択した。
【0047】
この実施例は、オフレート結合キネティクスに影響を与えるα1-α2ドメイン内の選択されたアミノ酸位置に特定の変異を導入することを通して可溶性MICタンパク質のNKG2D結合親和性を改変し、それにより、本発明の非天然の標的となるMIC分子のNK細胞を介した殺傷活性を変化させることに関する。
【0048】
遺伝子操作してNKG2Dに対する親和性が変化した可溶性非天然α1-α2ドメインを作製するために、α1-α2ドメインにおける57残基を広範な変異誘発のために選択した(
図12)。α1-α2ドメインをコードしており、57個のアミノ酸位置のそれぞれにNNK変異原性コドンを含有する合成DNAライブラリを合成し、M13ファージのpIIIマイナーコートタンパク質への融合体として個別にクローニングし、変異誘発されたα1-α2バリアントをディスプレイしているファージ粒子を、標準的な方法論に従ってSS320大腸菌(E.coli)細胞で産生させた(Andris-Widhopf,J.,Steinberger,P.,Fuller,R.,Rader,C.,and Barbas,C.F.,3rd.(2011)Generation of human Fab antibody libraries:PCR amplification and assembly of light- and heavy-chain coding sequences,Cold Spring Harbor protocols 2011)。α1-α2ファージライブラリを、標的抗原として組み換えビオチン化NKG2Dを用いて結合親和性の増大について選別し、遅い解離速度又はオフレートについて濃縮された高親和性バリアントを選択するために、意図的に延長した結合、延長した洗浄、及びファージクローンの溶出の反復ラウンドを繰り返した。特定のアミノ酸変異のセットは、α1-α2の6つの位置において高頻度で発生しており、NKG2Dの結合親和性の強化された好ましいアミノ酸置換として選択した(
図3、表1)。
【0049】
【0050】
特定の発見された変異の異なる組み合わせを含む4つの代表的なバリアント15、16、17、18のα1-α2ドメインをコードしているDNAポリヌクレオチド(配列番号21~24)を合成した(表2)。
【0051】
【0052】
上記例のNKG2DLに対して、リンカーペプチドを用いてこれら4つの改変α1-α2 NKG2DLのそれぞれにポリペプチド等の異種分子を直接結合させた。異種分子が結合している改変NKG2DLからなる4つのHisタグ付きタンパク質(配列番号25~28)を昆虫細胞で発現させ、精製して、NKG2D結合親和性及びキネティック結合パラメータを特性評価した。競合結合ELISAを用いて、4つの改変α1-α2バリアントの相対的NKG2D結合親和性を求めた。maxisorp ELISAプレートの全てのウェルに可溶性野生型(WT)NKG2DL、sMICAタンパク質をコーティングして、ヒトNKG2D-Fc試薬の結合パートナーを提供した。ELISAウェルに4つのα1-α2バリアント並びにWT及びWED-α1-α2ドメイン(配列番号20)の溶液を滴定(titrate)し、プレートにコーティングされたWT sMICAに対する2nMヒトNKG2D-Fcの結合を競合的に阻害させた。プレート上のWT NKG2DLに結合しているヒトNKG2D-Fcの濃度を、抗Fc-HRP抗体を用いて検出した。
図13、パネルAは、バリアント16、17、及び18が0.7、0.6、0.5nMのIC
50値を呈するのに対し、バリアント15は1.7nMのIC
50値を呈し、いずれもNKG2Dに対する結合がWT NKG2DLに比べてそれぞれ27倍、32倍、38倍、及び11倍と著しく優れており、更に、WED-MICAよりも実質的に優れていることを示す(表3)。
【0053】
【0054】
重要なことに、相対的なIC50の差は、マウスNKG2D-Fcに対するより優れた結合にも変換され、前臨床薬物開発において重要な特性である、ヒト及び非ヒトのNKG2D受容体にまたがって可溶性改変α1-α2ドメインの結合を改善する能力を示した。
【0055】
親和性の変化についての動力学的基礎を理解するために、表面コーティングされたビオチン化ヒトNKG2Dに対するα1-α2バリアントNKG2DLの結合についてのオンレート及びオフレートの両方を、各100nMの改変α1-α2タンパク質でバイオレイヤー干渉法(Octet)を用いて測定した。IC50 ELISAの結果と一致して、バリアント16、17、及び18はそれぞれオフレートの著しい低下(WTに対して18倍)を示し、これが親和性の増大(WT a1-a2に対して約30倍;表3)の主な原因である。バリアント15は、16、17、及び18と同様に遅いオフレートを示したが、オンレートは低下し、その結果、WTよりも強いが、バリアント16、17、及び18よりも弱い親和性を示した。バリアント15(配列番号25)とバリアント16(配列番号26)との間の唯一の違いはK125N対K125Lであったので、125位における変異はオンレートを明らかに変化させたが、オフレートの低下はH161R変異に起因していた。したがって、オフレートの著しい低下を通してNKG2Dに対するα1-α2親和性を高めるために、選択されたNKG2DL変異のセット(表1)を使用したが、特定の置換はオンレートも変化させ、その結果、下記の通りのNK細胞介在性殺傷アッセイにおいて差動的な活性を有することが本発明で示された様々な漸増的な親和性の増加が得られた。
【0056】
FGFR3を発現している標的細胞のNK細胞介在性溶解をリダイレクトするα1-α2親和性バリアントの能力は、カルセイン放出アッセイにおいてインビトロで実証された。ヒトナチュラルキラー(NK)細胞株NKLを、FGFR3を異所的に発現しているカルセイン負荷P815標的細胞と共培養し、可溶性改変MICタンパク質を用いて滴定した。
図15の結果は、FGFR3特異的可溶性MICバリアントの殺傷活性が、遺伝子操作されたα1-α2親和性と相関していることを示した。具体的には、バリアント16、17、及び18は、0.78nMのWTに比べて約15倍高い殺傷力を示した。WED-MICA(配列番号20)は、WTよりもほんのわずかに優れていた。したがって、本発明では、ヒトNKG2Dに結合している可溶性MICタンパク質のオフレートを低下させることによってNKG2Dの結合親和性を増大させ、その結果、予測通り殺傷能が増大したα1-α2ドメイン内のアミノ酸置換について説明する。オフレートを低下させるのではなくオンレートを上昇させることによってWT MICAよりも幾分高いNKG2Dに対する親和性を呈したWED-MICAは、標的細胞の殺傷の大きな改善は示さなかった。更に、WED-MICAはWT MICAよりも実質的に低いマウスNKG2Dに対する結合を示したが、15、16、17、及び18のバリアントはそれぞれ、ヒト及びマウスの両方のNKG2Dに対してより高い親和性を示した。
【0057】
これらα1-α2 NKG2DL親和性バリアント15、16、17、及び18は、結合しているポリペプチドのNKG2D受容体に対する結合親和性を高め、それによって、NK細胞介在性の標的細胞の溶解を強化した。
【0058】
実施例2.(NKG2Dリガンドの非天然α1-α2ドメイン及びそれが結合する同種非天然NKG2D受容体)
MICA及び他のNKG2Dリガンドのα1-α2ドメインは、既知の特定の部位でNKG2D受容体に結合し(Li et al 2001;Benjamin J.McFarland,Tanja Kortemme,Shuyuarn F.Yu,David Baker,and Roland K.Strong.Symmetry Recognizing Asymmetry:Analysis of the Interactions between the C-Type Lectin-like Immunoreceptor NKG2D and MHC Class I-like Ligands.Structure,Vol.11,411-422,April,2003)、そして、NKG2D受容体を有する免疫細胞の活性化を駆動し、その結果、MICA又は他のリガンドをディスプレイしている標的細胞を殺傷する。ファージディスプレイを用いて、NKG2Dとの結合に関与している可能性が高い57個の特定の部位で広範な変異誘発を行うことによって、MICAの非天然α1-α2ドメインを遺伝子操作した(
図16)。α1-α2ドメインをコードしており、57個のアミノ酸位置のそれぞれにNNK変異原性コドンを含有する合成DNAライブラリを合成し、M13ファージのpIIIマイナーコートタンパク質への融合体として個別にクローニングし、変異誘発されたα1-α2バリアントをディスプレイしているファージ粒子を、標準的な方法論に従ってSS320大腸菌細胞で産生させた(Andris-Widhopf,J.,Steinberger,P.,Fuller,R.,Rader,C.,and Barbas,C.F.,3
rd,2011.Generation of human Fab antibody libraries:PCR amplification and assembly of light- and heavy-chain coding sequences,Cold Spring Harbor protocols 2011)。α1-α2ファージライブラリを、標的抗原として組み換えビオチン化NKG2Dを用いて結合親和性の増大について選別し、遅い解離速度又はオフレートについて濃縮された高親和性バリアントを選択するために、意図的に延長した結合、延長した洗浄、及びファージクローンの溶出の反復ラウンドを繰り返した。α1-α2ドメインの9つの位置における特定のアミノ酸変異のセットを、NKG2D結合親和性の強化されたアミノ酸置換の好ましい部位として選択した。本発明者らは、特定の変異の異なる組み合わせを含む8つの代表的なバリアント(配列番号29~36)のα1-α2ドメインをコードしているDNAポリヌクレオチドを合成した(表4)。
【0059】
【0060】
8つのバリアントのα1-α2ドメインをコードしているDNAポリヌクレオチドを、PCRプライマー(配列番号37~38)を用いて増幅した。Blp1及びSap1制限酵素を用いて、それぞれをHisタグ付きα1-α2-α3-Fv融合発現コンストラクト(配列番号39)にサブクローニングして、天然(wt)α1-α2配列をコードしている配列を変異型α1-α2配列に置き換えた。9つの融合タンパク質(配列番号40~48)を293細胞(Expi293(商標)発現系、Life Technologies,Thermo Fisher,Inc)で発現させ、Ni-アフィニティクロマトグラフィ(HisTrap HP,GE Healthcare Life Sciences)を用いてアフィニティ精製した。
【0061】
NKG2D受容体タンパク質を構築するために、野生型受容体の細胞外ドメイン(「外部ドメイン」)をコードしているDNA(配列番号49)を合成し、PCRプライマー(配列番号50~51)並びにXbaI及びBamHI部位を用いて、合成DNAをN末端His-avitag発現ベクター(配列番号78)にクローニングした。His-avitag-天然NKG2D(配列番号52)を293細胞で一過的に発現させ、Ni-アフィニティクロマトグラフィを用いて精製した。精製後、BirAを用いてNKG2Dタンパク質を部位特異的にビオチン化して、avitag配列にビオチン基を結合させた(BirA biotin-protein ligase standard reaction kit,Avidity,LLC,Aurora,CO.)。
【0062】
天然NKG2Dに対する天然及び8つのバリアントのα1-α2ドメインのキネティック結合パラメータを特性評価し、比較するために、各100nMのα1-α2-α3-Fv融合タンパク質で、バイオレイヤー干渉法(Octet)を用いて、表面コーティングされたビオチン化天然NKG2D外部ドメインへの結合を測定した。結果を表5に提示する。
【0063】
【0064】
表5に示すように、配列番号42~48の異種ポリペプチドα3-Fvへの融合体としての選択されたα1-α2ドメイン変異は、オフレートを著しく低下させることを通して天然NKG2Dに対するα1-α2ドメインの親和性を増大させた。オフレートは、wt(配列番号40)及び既述のMICwed α1-α2ドメインバリアント(配列番号41)よりも20倍から100倍超遅くなった。
【0065】
本発明のこの実施例では、以下に記載する通り、α1-α2-α3-Fv融合体として天然NKG2D(表2;配列番号43)に対する親和性が高く、それからのオフレートが非常に遅い非天然α1-α2ドメイン(DSM25、配列番号31、表4)が、天然NKG2Dリガンドへの結合を消失させる特定の変異を含む非天然NKG2D受容体に対して緊密な結合親和性を示すことを更に実証した。NKG2Dの外部ドメイン(配列番号49及び
図4)の73位及び120位と等価なヒトNKG2Dのチロシン152及びチロシン199における変異が、天然リガンドであるMICAへの結合を消失させることは、他の研究者によって実証されている(David J.Culpepper,Michael K.Maddox1,Andrew B.Caldwell,and Benjamin J.McFarland.Systematic mutation and thermodynamic analysis of central tyrosine pairs in polyspecific NKG2D receptor interactions.Mol Immunol.2011 January;48(4):516-523)。
【0066】
非天然NKG2D受容体タンパク質を構築するために、PCRプライマー(配列番号50~51)を用いて、天然NKG2Dの外部ドメインをコードしているDNA(配列番号49)をクローニングし、それをN末端His-avitag発現ベクター配列番号52に挿入してHis-avitag-NKG2D(配列番号53)を作製した。天然NKG2D外部ドメインのDNAコンストラクトに対して部位特異的変異誘発を実施して、Y152A、Y199A、又はY152A+Y199Aの変異を導入し、ヒトNKG2Dの3つの非天然バリアントを作製した(それぞれ配列番号54~56)。天然NKG2D及びHis-avitagを有する3つの非天然NKG2D変異体を293細胞で一過的に発現させ、Ni-アフィニティクロマトグラフィを用いて精製した。精製後、BirAを用いてNKG2Dタンパク質を部位特異的にビオチン化して、avitag配列にビオチン基を結合させた(BirA biotin-protein ligase standard reaction kit,Avidity,LLC,Aurora,CO.)。
【0067】
α3-Fc異種ポリペプチドとMICwedのα1-α2ドメイン(配列番号29)及びDSM25のα1-α2ドメイン(配列番号31)との融合体を生成するために、α1-α2ドメインをコードしているDNAポリヌクレオチドを、PCRプライマー(配列番号37~38)を用いて増幅した。XbaI及びNcoI制限酵素を用いて、それぞれをα1-α2-α3-Fc融合発現コンストラクト(配列番号57)にサブクローニングして、天然(wt)α1-α2配列をコードしている配列を変異型α1-α2配列に置き換えた。MICA-Fc(配列番号58)、MICwed-Fc(配列番号59)、及びMICv25-Fc(配列番号60)の3つの融合タンパク質を293細胞(Expi293(商標)Expression System,Life Technologies,Thermo Fisher,Inc)で発現させ、プロテインAアフィニティクロマトグラフィ(カタログ番号20334、Pierce Biotechnology,Rockford,IL)を用いてアフィニティ精製した。
【0068】
上記3つのFc融合タンパク質の精製に加えて、NKG2Dリガンド-Fc融合タンパク質MICB-Fc、ULBP1-Fc、ULBP2-Fc、ULBP3-Fc、及びULBP4-FcをR&D Systems,Inc.(Minneapolis,MN)から購入した。異なるα1-α2ドメイン-Fc融合体の天然及び非天然の両NKG2D外部ドメインタンパク質への結合を、プレートベースのELISA法を用いて分析した。天然及び非天然のα1-α2ドメイン-Fc融合体の全てを、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中2μg/mLのコーティング濃度を用いて、Maxisorp 96ウェルプレートの別々のウェルに4℃で一晩コーティングした。プレートを20~22℃においてPBS/0.05% Tween20で3回洗浄し、0.5%ウシ血清アルブミンで2時間ブロックした。ビオチン化された天然及び非天然のNKG2D受容体タンパク質を、プレートに結合しているNKG2Dリガンドに対して20~22℃で2時間滴定し、20~22℃においてPBS/0.05% Tween20で3回洗浄した後、結合しているNKG2Dタンパク質をストレプトアビジン-HRP二次検出工程を用いて検出し、1-Step Ultra TMB Elisaで発色させた。NKG2Dの外部ドメインの天然形態(配列番号49)は、試験した全てのα1-α2ドメイン-Fc融合体に結合することができた。非天然MIC-v25α1-α2ドメインリガンドは、最も高い親和性(EC
50=14nM)で結合し、これは、MICwedよりも8倍、試験した全ての天然α1-α2ドメインリガンドよりも100倍超高かった。天然及び非天然のα1-α2ドメインの両方を含む全てのリガンドは、Y199A(配列番号55;
図18、パネルB)及びY152A+Y199A(配列番号56)二重変異体NKG2D受容体への結合を失った。しかし、試験した全ての天然及び非天然のα1-α2ドメインリガンドのうち、MICv25-Fc(配列番号60)の非天然α1-α2ドメイン(配列番号31)のみが、Y152A変異体NKG2D外部ドメイン(配列番号54)への結合を保持しており、EC50は50nMであった。
【0069】
天然のNKG2Dの結合特異性は、高親和性の非天然リガンドに対する選好性を示すが、特定の健常組織及び多くのストレスを受けた組織に存在する天然NKG2Dリガンドへの強力な結合は、現行のNKG2D CARアプローチを使用した場合、極めて高い毒性のリスクを生じさせる(VanSeggelen et al.2015)。Y152A非天然NKG2D受容体は、オフレートが顕著に低下するように遺伝子操作された高親和性非天然α1-α2ドメインで構成されるタンパク質のみに特異的に結合した。この原型的な例は、非天然α1-α2ドメインの非天然NKG2D受容体に結合する能力を強調するものであり、したがって、NKG2Dリガンドの本発明の非天然α1-α2ドメインを含む二重特異性タンパク質を用いた非天然NKG2D CARの選択的制御を提供した。
【0070】
実施例3(NKG2Dリガンドの改変α1-α2ドメイン)。
この実施形態は、ULBPタンパク質のα1-α2ドメインを遺伝子操作することを通して得られる追加のα1-α2NKG2DL親和性バリアントに関する。ULBPタンパク質は、NKG2D受容体に結合することができるNKG2Dリガンドであるα1-α2ドメインを含有する(Cerwenka A,Lanier LL(2004).NKG2D ligands:unconventional MHC class I-like molecules exploited by viruses and cancer.Tissue Antigens 61(5):335-43.doi:10.1034/j.1399-0039.2003.00070.x.PMID12753652)。このNKG2D結合の親和性は、NK細胞を生理学的に活性化し、「標的細胞」の二次元原形質膜表面に天然にかつ不可逆的に繋留されたネイティブな完全長ULBPタンパク質を発現している細胞の溶解を刺激するのに十分である(Cerwenka A,Lanier LL(2004).NKG2D ligands:unconventional MHC class I-like molecules exploited by viruses and cancer.Tissue Antigens 61(5):335-43.doi:10.1034/j.1399-0039.2003.00070.x.PMID12753652)。しかし、本発明の特定の実施形態における異種ポリペプチドに融合している遺伝子操作された可溶性α1-α2ドメインは、標的細胞の表面上の特異的標的抗原に可逆的に結合するので、遺伝子操作されたULBPα1-α2ドメインのNKG2Dに対する結合親和性は、遺伝子操作された可溶性MICタンパク質によって既に示されている通り、NK細胞と標的抗原を発現している細胞との間に形成される人工シナプスの安定性に直接影響を与える(実施例21-2)。NKG2Dリガンドとしての遺伝子操作された非天然α1-α2ドメインのレパートリーを多様化するために、NKG2D結合親和性をファージディスプレイに基づいて遺伝子操作するための基質又は出発点としてULBPタンパク質を用いた。ULBPとMICAとの間で構造的な相同性が観察されているにもかかわらず(Radaev,S.,Rostro,B.,Brooks,AG.,Colonna,M.,Sun,PD.(2001)Conformational plasticity revealed by the cocrystal structure of NKG2D and its class I MHC-like Ligand ULBP3.Immunity 15,1039-49.)、MICAに対するULBPα1-α2ドメインの配列相同性は<50%であった。したがって、本発明者らは、NKG2D結合親和性を改善するULBPα1-α2ドメインにおけるコドン位置を同定しようとした。
【0071】
ULBPタンパク質からの可溶性非天然α1-α2ドメインを遺伝子操作するために、ファージディスプレイ及び高親和性NKG2D結合を有する変異体の選択のためにULBP2及びULBP3を選択した。ULBP2のα1-α2ドメイン(配列番号61)における60個のアミノ酸位置及びULBP3のα1-α2ドメイン(配列番号62)における36個のアミノ酸位置を、広範な変異誘発のために選択した。更に、ポリペプチドが結合しているNKG2Dリガンドの安定性及び機能を増大させることに加えてファージパニングプロセスを改善するために、ULBP2(配列番号61)におけるC8S及びULBP3(配列番号62)におけるC103Sにおいてシステインからセリンへの保存的変異を行い、対になっていない遊離システイン排除した。これらシステインがセリンに改変されたα1-α2ドメインをコードしており、選択されたアミノ酸位置のそれぞれにNNK変異原性コドンを含有する合成DNAライブラリを合成し、M13ファージのpIIIマイナーコートタンパク質への融合体として個別にクローニングし、変異誘発されたα1-α2ULBP2又はULBP3バリアントをディスプレイしているファージ粒子を、標準的な方法論に従ってSS320大腸菌細胞で産生させた(Andris-Widhopf,J.,Steinberger,P.,Fuller,R.,Rader,C.,and Barbas,C.F.,3rd.(2011).Generation of human Fab antibody libraries:PCR amplification and assembly of light- and heavy-chain coding sequences,Cold Spring Harbor protocols 2011)。α1-α2ファージディスプレイライブラリを、標的タンパク質としてヒトNKG2D-Fcを用いてNKG2Dへの結合親和性の増大について選別し、遅い解離速度又はオフレートについて濃縮された高親和性バリアントを選択するために、意図的に延長した結合、延長した洗浄、及びファージクローンの溶出の反復ラウンドを繰り返した。ULBP2では、α1-α2におけるR80位、V151位、V152位、A153位に特定のアミノ酸変異が高頻度でみられ、NKG2D結合親和性の強化された好ましいアミノ酸置換として同定された(
図19、パネルA;及び表6)。
【0072】
【0073】
ULBP3では、ULBP2と比べて異なる箇所において高頻度で特定のアミノ酸変異がみられた。ULBP3のα1-α2ドメインにおけるR162位及びK165位は、NKG2D結合親和性が強化された好ましいアミノ酸置換として同定された特定の変異を含んでいた(表7)。ULBP2及びULBP3に由来するこれら改変非天然α1-α2ドメインは、単一のタンパク質として又は異種のペプチド若しくはポリペプチドとの融合体として、複数の治療フォーマットでNKG2D結合を強化するために使用することができる。
【0074】
【0075】
実施例4(抗体ペプチドに融合したULBPの改変α1-α2ドメインによる結合及び細胞溶解)
以下の実施例は、ヒト及びマウスのNKG2D受容体への結合親和性を著しく強化するように改変されたNKG2DLに対する抗体ポリペプチドの結合に関する。各ULBPタンパク質のα1-α2ドメインは、NKG2D受容体の天然のリガンド、すなわちNKG2DLである。抗体は、2本の大きな重鎖及び2本の小さな軽鎖で構成された安定性の高い糖タンパク質である(
図1)。当技術分野では、NKG2D受容体に対してネイティブなULBPドメインよりも緊密に結合する非天然ULBPα1-α2ドメインを用いて免疫細胞を直接活性化することができるIgG抗体のフォーマットは存在していなかった。更に、ULBPα1-α2ドメインは、MICAα1-α2ドメインと比べて異なるインビボでの特性を有し得る抗体融合体を構築するための代替NKG2DLを提供する。例えば、抗体融合体内のMICAα1-α2ドメインに対するインビボ抗薬物抗体応答は、ULBPとMICAα1-α2ドメインとの間の配列相同性が低いことから、改変ULBPα1-α2ドメインとは反応せず、干渉もしない可能性が高い(
図5)。この実施例は、遺伝子操作されたULBPα1-α2NKG2Dリガンド(表6及び7)とIgG分子の重鎖との融合体が、天然ULBPα1-α2NKG2Dリガンドと比べてNKG2Dの結合及び標的細胞の殺傷を強化することを示す。このことは、改変α1-α2ドメインを異種のタンパク質又はペプチドに融合させることの有用性を更に実証するものである。
【0076】
遺伝子操作されたα1-α2ドメインの抗体への融合体を生成するために、ULBP2のC8S改変α1-α2ドメイン(配列番号61)のバリアントR80W及びV151D(それぞれ配列番号63及び64)、並びにULBP3のC103S改変α1-α2ドメイン(配列番号62)のバリアントR162G(配列番号65)をコードしているDNA配列を合成し、Her2特異的抗体からの重鎖配列へのC末端融合体としてクローニングした(Carter,P.,Presta,L.,Gorman,CM.,Ridgway,JB.,Henner,D.,Wong,WL.,Rowland,AM.,Kotts,C.,Carver,ME.,Shepard,HM.(1992)Proc Natl Acad Sci 15,4285-9.)。得られた融合体を哺乳類発現ベクターpD2509にクローニングし、対合したフルIgG抗体として親抗体の軽鎖と共に発現させた。製造業者のプロトコル(Life Technologies)に従ってExpi293発現系を用いてHEK293細胞で一過性に発現させ、標準的なプロテインAアフィニティクロマトグラフィを用いて精製した。ULBP2及びULBP3のα1-α2抗体重鎖融合体に対して実施した結合ELISAは、改変ULBP2融合体(HC_R80W及びHC_V151D)及びUBLP3融合体(HC_R162G)が、同じ重鎖に融合するそれぞれの天然α1-α2ドメインと比べてヒトNKG2Dに対してより高い親和性で結合することを示した。
【0077】
改変ULBP抗体融合体の標的細胞殺傷特性を特徴付けるために、ヒトナチュラルキラー(NK)細胞株NKLを、Her2を発現しているカルセイン負荷SKBR3標的細胞と共培養し、遺伝子操作された抗体融合タンパク質を用いて滴定した。結果は、Her2特異的な非天然ULBP2及び非天然ULBP3のα1-α2抗体融合体の細胞溶解(殺傷)活性の強化は、その遺伝子操作されたα1-α2ドメインのNKG2Dに対する親和性の強化を反映していることを示した。具体的には、ULBP2バリアント融合体HC_R80W及びHC_V151D、並びにULBP3バリアント融合体HC_R162Gは、ネイティブα1-α2ドメインのいずれかを含有する抗体融合体よりも有効にSKBR3細胞を殺傷した。これらデータは、改変α1-α2バリアント-抗体融合体が、IgG分子がNKG2Dに緊密に結合し、抗原特異的細胞溶解を指示することを可能にするための普遍的なプラットフォームであることを示した。
【0078】
実施例5(Y152A非天然NKG2Dに選択的に結合する直交性非天然α1-α2ドメインの構築)
毒性を軽減し、腫瘍に対する有効性を改善するために、CAR-T細胞療法を選択的に制御するための手段が強く求められている(Gill and June,前喝)。以前、後に治療用モノクローナル抗体のFcドメインを通して会合することができるCD16の外部ドメインを用いてCARを開発する試みが行われ、これにより、CAR-Tターゲティングを抗体ベースで制御することが可能になった(Chang et al.,前喝.しかし、CD16ベースのCAR-T細胞は、血液及び組織中の全ての内因性抗体分子を認識することができ、これら細胞を制御するために使用される治療用抗体は、NK細胞上の内因性CD16受容体の干渉を受けることになる。これら両特徴は、それぞれ腫瘍外毒性及び薬物動態の不良に関連する問題を引き起こす。
【0079】
これら問題に対処するために、本発明者らは、遺伝子操作を行って、実施例2で示した通り、全ての天然NKG2Dリガンドに結合せず、高親和性非天然α1-α2ドメインの結合を通して制御することができる非天然NKG2D CAR-T細胞を得た。非天然α1-α2ドメインが、非天然NKG2Dに対して高い親和性を保持し、天然NKG2Dドメインへの結合を回避することが更に必要である。したがって、天然NKG2Dよりも非天然NKG2D受容体に対して強い選択性を示す遺伝子操作されたα1-α2ドメインは、非天然NKG2D CAR受容体、又は非天然α1-α2ドメインが選択的に会合することができる非天然NKG2D外部ドメインに融合した任意の受容体若しくはタンパク質を選択的に制御するための理想的なシステムを表す。
【0080】
本発明者らは、ファージディスプレイを用いて、遺伝子操作によりY152A NKG2D受容体に選択的に結合する直交性非天然α1-α2ドメインを得た。出発点として、天然NKG2Dに対して高い親和性を有する3つの非天然α1-α2ドメインを、更なる変異誘発及びファージディスプレイによるスクリーニングのための親ドメインとして選択した。個々のα1-α2ドメインバリアントであるDSM25、ULBP2 R80W、及びULBP3 R162G(配列番号31、63、及び65)について合成DNAライブラリを作製し、それによって、結合状態においてNKG2D受容体のY152位に近接近して位置するアミノ酸残基のコドンをNNKコドンに置き換えた。DSM25ライブラリは、残基71~75及び155~159におけるNNK位置からなり、ULBP2 R80Wライブラリは154~159位にNNKコドンを有し、ULBP3 R162Gライブラリは155~159位にNNKコドンを有していた。ライブラリを、M13ファージのpIIIマイナーコートタンパク質への融合体としてクローニングし、変異誘発されたα1-α2ドメインバリアントをディスプレイしているファージ粒子を、標準的な方法論に従ってSS320大腸菌細胞で産生させた(Andris-Widhopf,J.,Steinberger,P.,Fuller,R.,Rader,C.,and Barbas,C.F.,3rd.(2011).Generation of human Fab antibody libraries:PCR amplification and assembly of light- and heavy-chain coding sequences,Cold Spring Harbor protocols 2011)。α1-α2ファージディスプレイライブラリを、ビオチン化されていない天然NKG2D-Fc競合タンパク質の存在下で、ビオチン化されたY152A NKG2D-Fcタンパク質に結合しているファージクローンを選択的に捕捉することにより、非天然Y152A NKG2D受容体に対する高い結合親和性について選別した。ビオチン化されていない天然NKG2D-Fcの濃度を増大させながら複数ラウンドの競合選択を繰り返すことによって、選択的クローンを濃縮した。
【0081】
4ラウンドの選択後、ファージクローンの配列を決定して、NNK変異原性領域内の特定の変異を同定した。表8、9、及び10は、Y152A NKG2Dの選択的スクリーニングから得られた各α1-α2ドメインについて優勢であることが判明した、選択されたアミノ酸残基を示す。
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
ファージクローンが適切な選択的結合をディスプレイしたことを確認するために、個々のクローン:MICA25.17、MICA25.18、ULBP2.S1、ULBP2.S2、ULBP2.S3、ULBP3.S1、及びULBP3.S2(それぞれ、配列番号66、67、68、69、70、71、及び72)についてファージを生成し、結合ELISAにおいてY152A又は天然NKG2Dに対して滴定した。
図23、パネルA~Cは、7つのファージクローン全てが、天然又は野生型のNKG2Dに比べて非天然Y152A NKG2Dに対して10倍を超える選択的結合を示すことを実証した。
【0086】
Y152A選択的なα1-α2ドメインバリアントが、抗体融合体の枠内で特異的結合特性を保持していることを確認するために、既に記載されているFGFR3特異的抗体の重鎖へのC末端融合体としてMICA25.17及びULBP2.S3をクローニングした(Qing et al,2009.前喝;それぞれ配列番号73及び74)。得られた融合体を哺乳類発現ベクターpD2509にクローニングし、対合したフルIgG抗体として親抗体の軽鎖と共に発現させた(R3 HC25.17及びR3 HC.U2S3)。製造業者のプロトコル(Life Technologies)に従ってExpi293発現系を用いてHEK293細胞で一過性に発現させ、標準的なプロテイン-Aアフィニティクロマトグラフィを用いて精製した。R3 HC25.17及びR3 HC.U2S3 α1-α2抗体重鎖融合体の非天然Y152A NKG2D及び天然NKG2Dへの結合を測定したELISAでは、天然のNKG2Dと比べてY152A NKG2Dに対する結合親和性が著しく高いことが実証された(
図6、パネルB及びD)。対照的に、DSM25及びULBP2 R80Wに対する抗体融合体は、天然NKG2D-Fcに対する優先的な結合を示した(
図6、パネルA及びC)。まとめると、これらデータは、非天然NKG2D受容体に対して高い親和性結合を保有し、天然NKG2D受容体に対する結合親和性が著しく低下している非天然直交性α1-α2ドメインの発明を実証した。更に、直交性α1-α2ドメインの抗体ポリペプチドへの融合体は、その選択的結合特性を保持しており、例えばCAR-T細胞の枠内で非天然NKG2D受容体を新しい抗原にリダイレクトするために使用することができる。
【0087】
実施例6(非天然NKG2D外部ドメインを有するCAR-T細胞のターゲティング及び殺傷活性は、ターゲティング抗体に融合した直交性α1-α2ドメインを用いて制御される)。
非天然NKG2D外部ドメインを配備するキメラ受容体を用いて構築されたCAR-T細胞の選択的制御を実証するために、それぞれのNKG2D外部ドメインをCARのCD8ヒンジ領域(
図2)に融合させた4-1BB/CD3zeta CARコンストラクト(Campana特許第8,399,645号)を用いて、先行研究に基づいて天然NKG2D又は非天然Y152A NKG2D外部ドメインのいずれかを有するCARを構築した。これらコンストラクトをレンチウイルスベクターにクローニングし、レンチウイルス形質導入を用いて初代ヒトCD8陽性T細胞で発現させた。得られた天然NKG2D CAR-T細胞は、標的細胞で発現している天然MICAリガンドを認識することと一致して、インビトロで特異的な細胞殺傷活性を示した。具体的には、結果は、天然NKG2D CAR-T細胞は天然MICAリガンドを発現しているP1細胞を殺傷したが、非天然Y152A NKG2D CAR-T細胞は能力が著しく失われ、MICAを発現しているP1細胞の殺傷が大きく減少したことを示した。更に、直交性α1-α2抗体重鎖融合体であるR3 HC25.17及びR3 HC.U2S3は、非天然Y152A CAR-T細胞を選択的に活性化して、FGFR3を発現しているP1標的細胞を殺傷したが、天然NKG2D CAR-T細胞の殺傷活性をリダイレクトすることはできなかった。これは、非天然Y152A NKG2Dに対して選択的ではなく、天然及び非天然のCAR-T細胞を活性化してP1標的細胞を殺傷したR3 HC25及びR3 HC.U2R80W α1-α2抗体重鎖融合体とは対照的であった。これらデータは、非天然Y152A NKG2Dに選択的に結合するように遺伝子操作された非天然直交性α1-α2ドメインが、天然NKG2D受容体を回避しながら、非天然Y152A NKG2D CAR-T細胞を特異的に活性化することを示した。
【0088】
実施例7(Y152A/Y199F非天然NKG2Dに選択的に結合する直交性非天然α1-α2ドメインの構築)
NKG2Dの外部ドメイン(配列番号49)の73位及び120位と等価なヒトNKG2Dのチロシン152又はチロシン199における変異が、天然リガンドであるMICAへの結合を大きく減少させることができることは、他の研究者によって実証されている(David J.Culpepper,Michael K.Maddox,Andrew B.Caldwell,and Benjamin J.McFarland.Systematic mutation and thermodynamic analysis of central tyrosine pairs in polyspecific NKG2D receptor interactions.Mol Immunol.2011 January;48(4):516-523)。本発明者らは、いずれかのチロシン残基の変異はNKG2Dのその天然リガンドへの結合能力に大きな影響を与えたが、チロシン152(Y152)及びチロシン199(Y199)の両方が同時に変異すると、全てのネイティブリガンドと会合する受容体の能力が実質的になくなると考えた。したがって、本発明者らは、任意の天然のリガンドと会合することができない単一及び二重の変異体バリアントを両方同定する目的で、Y152及びY199の個々の及び組み合わせの置換を探索し、その生化学的な挙動に関して特性評価した。うまく発現し、組み立てられたバリアントは、特に興味深いものであったが、それは、これらが、分析のためにより容易に生成することができた不活性リガンドであることを意味したためである。
【0089】
天然NKG2D(野生型)の外部ドメイン(NKG2D.wt、配列番号49)及び候補となる非天然NKG2Dバリアントの外部ドメイン(配列番号75~92)(「遺伝子操作されたNKG2D」又は「eNKG2D」とも呼ばれる)を、短い第Xa因子が認識可能なIle-Glu-Gly-Argリンカー(配列番号93)を介して、ヒトIgG1 Fc(Fabドメインを含まない)のC末端に融合体としてクローニングし、互換的にFc-NKG2D.wt又はNKG2D.wt及びFc-eNKG2D又はeNKG2D(配列番号94~112)と称する。MHCIシグナル配列(配列番号113及び114)、リンカー付きヒトIgG1 Fc(配列番号115)、及びNKG2D外部ドメインバリアント(配列番号116~124)に対応するgBlocks(登録商標)DNA断片(Integrated DNA Technologies,San Diego,CA)を合成し、pD2610-V12(ATUM,Newark,CA)に挿入した。Y152、Y199における置換、又はY152/Y199変異の組み合わせ(表1)を探索するDNAコンストラクトをExpi293(商標)細胞(ThermoFisher Scientific,Waltham,MA)で一過性に発現させ、分泌されたタンパク質をプロテインAアフィニティクロマトグラフィ(カタログ番号20334、Pierce Biotechnology,Rockford,IL)によって精製した。溶出した物質を、Akta Pur Superdexカラムにおいてサイズ排除クロマトグラフィ(SEC)によって特性評価し、そして、アッセイに含める前に、正しく組み立てられた、サイズが適切な物質を分画し、凝集体ピークから単離した。
【0090】
精製したNKG2D.Y199A-Fc融合体をSECで特性評価したところ、主に凝集した物質の組成が明らかになった(
図2)。これに比べて、天然Fc-NKG2D融合体及びFc-NKG2D.Y152A融合体の両物質は、より迅速に移動する凝集体と容易に見分けられる別個の非凝集ピークによって区別された。Y199A変異の凝集に対する影響は、Y152A/Y199Aの二重変異体Fc-NKG2D融合バリアントにおいても明らかであり、これは、それがタンパク質のミスフォールディングに対して最も重要な影響を有していたことを示す(
図2)。したがって、NKG2DバリアントにY152変異の任意の組み合わせと共にY199Aを含めるこの態様は、その後の遺伝子操作の試みに必要な材料を生成する上での課題となり、また、組み立て及び細胞表面における提示についても懸念が生じた。その結果、組み合わせてよりロバストな分子を得ることができる、Y152及びY199における他の置換を探索することを試みた。eNKG2D組み合わせY152及びY199変異体候補をFc融合体として検討し、(表1)に詳細を示した。更に、精製し、発現させたFc-eNKG2D融合体候補を全てSECによってプロファイリングしたところ、それらのクロマトグラムから、様々なレベルの凝集体形成が明らかになった(
図2及び3、表1)。残基152におけるアラニン、セリン、スレオニン、及びバリンで探索した単一アミノ酸置換のうちのいずれもFc-NKG2D分子の組み立てに影響を与えなかったが、Y152-ロイシン(Y152L)からは高度に凝集した物質が生じた。アラニンと同様に、グルタミン酸もアスパラギン酸も199位において許容できなかったが、フェニルアラニンは、凝集体形成をほんのわずかに増加させた。探索した変異の組み合わせのうち、Y152A/Y199F、Y152S/Y199F、Y152T/Y199F、及びY152F/Y199Fは、所望の二量体形成に悪影響を及ぼさなかったが、他の組み合わせでは凝集が増加した。
【0091】
実施例8:(非天然NKG2Dリガンドバリアントを有する抗体ベースの二重特異性分子「MicAbody」の作製)。)
ヒトIgG1に融合した非天然MicAバリアントを作製するために、例えば、MICwed(配列番号7)及びMIC25(配列番号31)のα1-α2ドメインをコードしているDNAポリヌクレオチドを、C末端カッパ軽鎖に融合させるためのAPTSSSGGGGSリンカー(配列番号135)又はヒトIgG1のC末端重鎖に融合させるためのGGGSリンカー(配列番号136)のいずれかをコードしているポリヌクレオチドも導入されたプライマーを用いてPCR増幅した。更に、全てのFcγR受容体への結合を減少させる2つの変異D265A/N297A(Kabat付番)を重鎖のCH2ドメインに導入して、抗体依存性細胞傷害(ADCC)機能を排除した(Shields et al.,2001 JBC,276:6591-6604]。GPI連結を有しない野生型ULBP2(ULBP2.wt)のα1-α2ドメイン(配列番号61)をコードしているポリヌクレオチドも同様にクローニングし、リンカーをコードしているDNAポリヌクレオチド及びIgG1の重鎖又は軽鎖に融合させた。これら二重特異性抗体は、単数形では「MicAbody(商標)」、複数形では「MicAbodies」と呼ばれ、融合したα1-α2ドメインについて二価となる。eNKG2Dの遺伝子操作を探求する目的でMicAbodyを生成するために使用した抗体の例としては、限定されるものではないが、トラスツズマブ(配列番号137及び138)及びリツキシマブ(配列番号139及び140)が挙げられ、その後それぞれ「トラスツズマブ-MicAbody」及び「リツキシマブ-MicAbody」と命名された。融合コンストラクトを、Gibsonクローニング(New England Biolabs Inc,Ipswich,MA)を介してpD2610-V12(ATUM,Newark,CA)に個々に挿入した。特定の抗原を認識する所与の抗体については、重鎖をコードしているプラスミドと、天然又は非天然のNKG2Dリガンドに融合している軽鎖をコードしているプラスミドとを、Expi293(商標)細胞(ThermoFisher Scientific,Waltham,MA)で一過性に発現させるためにコトランスフェクトした。あるいは、天然又は非天然のNKG2Dリガンドと融合した重鎖をコードしているプラスミドと、軽鎖のプラスミドとをコトランスフェクトした。分泌された二重特異性抗体を、プロテインAアフィニティクロマトグラフィ(カタログ番号20334、Pierce Biotechnology,Rockford,IL)によって精製し、溶出した物質をAkta Pur Superdexカラムにおけるサイズ排除クロマトグラフィ(SEC)によって特性評価し、必要に応じて分画を実施した。更に、精製したサンプルに対してSDS-PAGE分析を行って、融合した重鎖及び融合した軽鎖の種の予測分子量を確認した。
【0092】
実施例9:(天然NKG2D結合リガンドにも、野生型NKG2Dへの結合が強化された非天然リガンドにも結合することができない改変NK2GDバリアントの同定)
α1-α2バリアントの、天然(野生型)NKG2D及び非天然eNKG2Dタンパク質の細胞外ドメインに対する結合親和性を、プレートベースのELISA法を用いて分析した。SEC分画された天然Fc-NKG2D及び非天然Fc-eNKG2Dの融合体をそれぞれ、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中1μg/mLのコーティング濃度を用いて、Nunc Maxisorp 96ウェルプレート(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA)の別々のウェルに4℃で一晩コーティングした。プレートを20~22℃においてPBS/0.05%Tween-20(PBS-T)で3回洗浄し、20~22℃において2時間PBS中0.5%ウシ血清アルブミン(PBS-B)でブロッキングした。PBS/0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)/0.05%Tween-20(PBS-BT)中で20~22℃において60分間、プレートに結合している天然又は非天然のFc-NKG2D融合体に対してMicAbodyを滴定し、20~22℃においてPBS-Tで3回洗浄し、PBS-BT中のHRPコンジュゲート抗ヒトカッパ(Abcam,Cambridge MA)を用いて、結合した二重特異性タンパク質を検出し、1-Step(商標)Ultra TMB ELISA基質溶液(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA)で発色させた。ULBP2.wtリツキシマブ-MicAbody(配列番号139及び141)の結合は、野生型NKG2Dと後者への結合が減少したeNKG2Dバリアントとを識別し、リガンドバリアントであるMICwed(配列番号20及び78)及びMIC25(配列番号138及び80)は、リガンド結合が消失したeNKG2Dバリアントの同定においてよりストリンジェントであった。3つの二重特異性リガンド全てに対する各eNKG2Dバリアントの結合挙動から、野生型及びバリアントのリガンドの結合を最も大きく減少させるNKG2D改変の組み合わせが明らかになり、リード不活性NKG2Dバリアントの選択が可能となった。
【0093】
また、ForteBio Octetシステム(全てForteBio LLC,Fremont,CA)を用いたバイオレイヤー干渉法(BLI)を用いて、eNKG2Dバリアントのリガンドへの結合に関する追加の生物物理学的分析を行った。これら実験のために、ヒトNKG2DリガンドであるMICA-Fc、MICB-Fc、ULBP1-Fc、ULBP2-Fc、ULBP3-Fc、及びULBP4-FcをR&D Systems,Inc.(Minneapolis,MN)から購入した。MicAbodyフォーマットにおけるリガンドを、抗ヒトIgG Fc捕捉(AHC)バイオセンサチップに捕捉した。ベースラインが確立された後、チップを300nM~0.41nMの範囲の滴定系列のFc-eNKG2D融合タンパク質に曝露し、会合/解離のキネティクスをモニタリングした。全ての工程をPBS-BT中で実行した。続いて、Fc-eNKG2D融合タンパク質をAHCチップに捕捉し、MicAbodyを滴定して結合キネティクスを特性評価した。
【0094】
天然NKG2DのMICwed又はMIC25のいずれかへの結合によって定義される最大応答を求めるために、天然Fc-NKG2D融合体をAHCバイオセンサに捕捉し、20nMのトラスツズマブ-MICwed MicAbody又は20nMのトラスツズマブ-MIC25 MicAbodyを2分間インキュベートした後、30秒間解離キネティクスを観察した。次いで、捕捉剤としてFc-eNKG2D融合受容体を用いて同じ条件下で結合分析を行い、Fc-NKG2D.wtによって確立された最大結合応答の百分率として各eNKG2Dの結合レベルをランク付けした(表2)。MICwedについては、Y199Fを除く全ての単一変異体Fc-eNKG2Dバリアントの応答が50%まで低下した。Y199Fは、100%の結合応答を維持していた。しかし、二重変異体Fc-eNKG2Dバリアントは全て、MICwedへの結合が完全に消失した。MIC25については、全ての単一変異体Fc-eNKG2Dバリアント及びY152V/Y199Fは、野生型Fc-NKG2Dの結合に比べて100%の結合応答を維持していた。しかし、Y152A/Y199F、Y152S/Y199F、及びY152T/Y199Fを含む二重変異体Fc-eNKG2Dバリアントのうちの幾つかでは、結合が50%まで低下した。
【0095】
捕捉剤としてFc-eNKG2D融合体を用いるELISAアッセイを、ULBP2.wt、MICwed、MIC25 MicAbodyで実施し、300nMから出発して滴定した。可能な場合、GraphPad Prismを用いてEC50値を算出した(表11)。
【0096】
【0097】
天然NKG2Dは、それぞれKds値が1.4、0.007、及び0.005nMと算出された親和性でULBP2、MICwed、及びMIC25ベースのMicAbodyに結合した。ULBP2及びMICwed MicAbodyの全ての単一変異体eNKG2D候補との親和性は低下したが、MIC25のeNKG2D候補への結合は保持された。しかし、二重変異体eNKG2D候補は全て、Micabodyフォーマットにおいて、3つのリガンド-ULBP2、MICwed、MIC25の全てへの結合がなくなったか又は著しく減少した。
【0098】
eNKG2DバリアントであるeNKG2D5(Y152A/Y199F)、eNKG2D7(Y152S/Y199F)、eNKG2D8(Y152T/Y199F)、及びeNKG2D9(Y152V/Y199F)は、Octet分析及びELISAの両方によって、ULBP2、MICwed、及びMIC25ベースのMicAbodyへの結合が減少又は消失していた(表2及び3)。更に、eNKG2D5、7、及び8は凝集の量が最も少なく、293T発現時のタンパク質の組み立てがよりロバストであることが示唆された(表1)。Octet AHCチップに捕捉されたMicAbodyとしての野生型リガンドへの結合について、eNKG2D5(配列番号102)をより詳細に検討した。単一変異体Fc-NKG2D.Y152A(配列番号95)は、天然(配列番号94)NKG2Dと比べて、全ての天然リガンドへの結合が減少していた(
図5)。eNKG2D5(Y152A/Y199F)の結合についての応答曲線は、Y152AのeNKG2Dと比べて更により低下した。eNKG2D5(Y152A/Y199F、以下「AF」又は「NKG2D.AF」と称する)を、同種選択的直交性非天然リガンドを遺伝子操作するためのリードNKG2Dバリアントとして選択した。
【0099】
実施例10:(非天然NKG2D.AF外部ドメインに選択的に結合する直交性非天然α1-α2ドメインの構築)。
ファージディスプレイを用いて、遺伝子操作によりNKG2D.AF(配列番号102)受容体に選択的に結合する直交性非天然α1-α2ドメインを得た。出発点として、天然野生型NKG2D(NKG2D.wt)外部ドメインに対して高い親和性を有する非天然ULBP2.R80Wα1-α2ドメイン(
図1B;配列番号142)を、更なる変異誘発及びファージディスプレイによるスクリーニングのための親ドメインとして選択した。ジスルフィド結合の可能性を排除するために更にC8S変異を有するULBP2.R80W(配列番号108)のα1-α2ドメインについて、合成DNAライブラリを作製した。結合状態において天然NKG2D受容体のY152位及びY199位に近接近して位置するリガンドのアミノ酸残基のコドンをNNKコドンに置き換えた;ライブラリは154~159位のNNKコドンからなっていた。ライブラリを、M13ファージのpIIIマイナーコートタンパク質への融合体としてクローニングし、変異誘発されたα1-α2ドメインバリアントをディスプレイしているファージ粒子を、標準的な方法論に従ってSS320大腸菌細胞で産生させた(Andris-Widhopf,J.,Steinberger,P.,Fuller,R.,Rader,C.,and Barbas,C.F.,3rd.(2011)。これらα1-α2ファージディスプレイライブラリを、ビオチン化されていない天然Fc-NKG2D.wt競合タンパク質の存在下で、ビオチン化されたFc-NKG2D.AFタンパク質に結合しているファージクローンを選択的に捕捉することにより、非天然NKG2D.AF受容体に対する高い結合親和性について選別した。ビオチン化されていない天然Fc-NKG2Dの濃度を増大させながら複数ラウンドの競合選択を繰り返すことによって、選択的なクローンを濃縮した。
【0100】
4ラウンドの選択後、ファージクローンを96ウェルフォーマットで個別に配列し、スポットELISAを実施して、NKG2D.wtに比べてプレートに結合している非天然NKG2D.AFへの優先的な異なる結合を確認した。結合しているファージを、ビオチン化したM13ファージコートタンパク質モノクローナル抗体E1(ThermoFisher Scientific,Waltham,MA)、ストレプトアビジン-HRP検出(R&D Systems,Minneapolis,MN)、及び1-Step Ultra TMB ELISA development(ThermoFisher Scientific,Waltham,MA)を用いて検出した。NKG2D.AFに結合しているファージのNKG2D.wtに結合しているファージに対する比として、各クローンのスポットELISAシグナルを表した。14以上の比を有するファージの配列を決定して、NNK変異誘発領域内の特定の変異を同定した。同じ配列を表す複数のクローンが同定された場合、ELISAシグナルの比をプロットし、データポイントのクラスタリングによってファージクローンの一貫性を確認した(データは示さない)。
【0101】
ELISAで同定されたバリアントのうちの30個を個々の単培養で増殖させて、ファージの高力価マイクロバッチを作製した。精製されたファージ濃度をOD268=0.5に対して正規化し、次いで、プレートに結合しているFc-NKG2D.AF又はFc-NKG2D.wtに対して1:3希釈系列に供し、ファージの検出及びELISAの発色を上記の通り実施した。このようにアッセイした30個のバリアントは全て、一貫してNKG2D.AFへの選択的結合を示し、アッセイしたファージの最高濃度でさえもNKG2D.wtにはほとんど又は全く結合しなかった。また、選択されたファージは、NKG2D.AFとNKG2D.wtとの間で最大半量結合を達成するために、ファージ濃度の2log以上のシフトを示した。
【0102】
NKG2D.AF選択的なα1-α2ドメイン変異体が、抗体融合の状況で特異的結合特性を保持していることを確認するために、21個のバリアント(表5;例えば、配列番号143~150)を、リツキシマブ抗体の軽鎖へのAPTSSSGGGGSリンカーを用いたC末端融合体としてクローニングした。得られた融合体を、Gibsonクローニング(New England Biolabs Inc.,Ipswich,MA)を介して哺乳類発現ベクターpD2610-V12(ATUM,Newark,CA)にクローニングし、対合したフルIgG抗体として親抗体の重鎖と共に共発現させた。製造業者のプロトコルに従ってExpi293(商標)細胞(ThermoFisher Scientific,Waltham,MA)で一過的に発現させ、標準的なプロテインAアフィニティクロマトグラフィ(カタログ番号20334、Pierce Biotechnology,Rockford,IL)を用いて精製した。各バリアントULBP2 α1-α2抗体融合体の非天然Fc-NKG2D.AF及び天然Fc-NKG2D.wtへの結合を測定するELISAによって、天然NKG2D.wtと比べてNKG2D.AFに対する結合親和性が著しく高いことが実証された(表12)。
【0103】
【0104】
まとめると、これらデータは、非天然NKG2D.AF受容体に対して高い結合親和性を保有し、天然NKG2D受容体に対する結合親和性が著しく低下している非天然直交性α1-α2ドメインの発明を実証した。更に、これら直交性α1-α2ドメインの抗体ポリペプチドへの融合体は、その選択的結合特性を保持しており、例えばキメラ抗原受容体(CAR)T細胞の状況において非天然NKG2D.AF受容体を特定の抗原に向けてリダイレクトするために使用した。
【0105】
実施例11:(一方又は他方に選択的に結合することによって非天然NKG2D受容体バリアント間を識別することができる非天然NKG2Dリガンドの同定)
NKG2D.Y152Aに選択的に結合する直交性非天然α1-α2ドメイン(以降、NKG2D.YA、受容体と称するを遺伝子操作するためのファージディスプレイを、上述の通り、出発点として非天然ULBP2.R80Wα1-α2ドメイン(配列番号142)を用いて実施した。α1-α2ファージディスプレイライブラリを、ビオチン化されていない天然Fc-NKG2D.wt(配列番号94)競合タンパク質の存在下で、ビオチン化されたFc-NKG2D.YA(配列番号95)タンパク質に結合しているファージクローンを選択的に捕捉することにより、非天然Fc-NKG2D.YA受容体に対する高い結合親和性についてパニングした。更なるファージクローンの検証研究の結果、Fc-NKG2D.wtに比べてFc-NKG2D.YAに優先的に結合するバリアントが同定された(表13)。
【0106】
【0107】
例えば、ULBP2.S3(配列番号151)は、ELISA及びOctet分析(単量体Hisタグ付き及び二重特異性抗体融合フォーマットの両方)により、天然NKG2D.wtに比べて非天然NKG2D.YAへの選択的な結合を一貫して示した。これは、非天然NKG2D受容体に対して高親和性結合を有する非天然直交性α1-α2ドメインの本発明の異なる形態(この場合、実施例2のNKG2D.AFとは対照的にNKG2D.YA)を表していた。更に、直交性α1-α2ドメインの抗体ポリペプチドへの融合体は、その選択的結合特性を保持しており、抗体等の融合した異種ペプチドによって決定される特定の分子に向けて非天然NKG2D受容体を選択的にリダイレクトするために使用した。
【0108】
NKG2D.YAに選択的に結合する非天然α1-α2ドメイン(ULBP2.S3、配列番号151)及びNKG2D.AFに選択的に結合する非天然α1-α2ドメインが、これらの2つの非天然受容体バリアントを識別できるかどうかを判定するために、滴定ELISAを実施した。NKG2D.AFに結合している選択されたα1-α2バリアントの21個全てについて、NKG2D.AFへの結合をNKG2D.YAへの結合に対して直接比較した。これらのうちの4つは、NKG2D.wtに結合できない、NKG2D.AFに対して強い親和性がある、及びNKG2D.AFに比べてNKG2D.YAへの結合が著しく少ない(15~20倍)又は結合しないという特性を示した。これら4つの非天然ULBP2α1-α2バリアントであるULBP2.C、ULBP2.R、ULBP2.AA、及びULBP2.AB(配列番号143、145、147、及び149)を、NetMHC4.0サーバー(9merペプチド分析を用いた全てのHLAスーパータイプ代表に対するペプチド-MHCクラスIの結合を検索するため;http://www.cbs.dtu.dk/services/NetMHC/)及びNetMHCII2.3サーバー(15merペプチド分析を用いたHLA-DR、HLA-DQ、HLA-DPハプロタイプに対するペプチド-MHCクラスIIの結合を検索するため;http://www.cbs.dtu.dk/services/NetMHCII/)(これらはいずれもTechnical University of Denmarkによって開発されたアルゴリズムである(http://www.bioinformatics.dtu.dk/;Andreatta M and Nielsen M,Gapped sequence alignment using artificial neural networks:application to the MHC class I system,2016 Bioinformatics,32:511,PMID:26515819;Jensen KK,Andreatta M,Marcatili P,Buus S,Greenbaum JA,Yan Z,Sette A,Peters B,and Nielsen M,Improved methods for predicting peptide binding affinity to MHC class I molecules,2018 Immunology,PMID:29315598))を用いて、野生型ULBP2ペプチド配列(配列番号61)と比べた予測免疫原性プロファイルの変化についても調べた。ULBP2.C、ULBP2.R、及びULBP2.ABに組み込まれた変異は、予測免疫原性を増大させなかったが、ULPB2.AAの免疫原性は、幾つかのハプロタイプでわずかに増大した(
図8及び9)。ULBP2.RのNKG2D.AFに対する特異性及びその予測可能な免疫原性の欠如の結果として、その結合挙動をULBP2.S3(NKG2D.YAに選択される非天然直交性リガンド)、ULBP2.R80W(野生型NKG2Dへの親和性が強化された非天然リガンド)、及び野生型ULBP2(ULBP2.wt)と直接比較するための更なるELISA分析のために、ULBP2.Rを選択した。4つのリツキシマブ-MicAbody試薬(それぞれULBP2.R、ULBP2.S3、ULBP2.R80W、及びULBP2.wtの重鎖及び軽鎖として配列番号139及び151、139及び152、153及び140、並びに139及び141)の結合を、野生型NKG2D(NKG2D.wt)並びに2つの不活性非天然変異体NKG2D.YA及びNKG2D.AFに対してアッセイした。データは、MicAbodyとしてのNKG2D.YAに選択されるバリアントULBP2.S3は、NKG2D.YAに高い親和性で結合するが、NKG2D.AFにも天然NKG2Dにも会合しないことを示した。更に、MicAbodyフォーマットのNKG2D.AFに選択されるバリアントULBP2.Rは、NKG2D.AFに高い親和性で結合したが、NKG2D.YAにも天然NKG2Dにも会合しなかった。これら結果は、NKG2D-MICリガンド軸の探索の、そして、新規選択性的非天然NKG2D受容体とそのそれぞれの同種非天然MICリガンド結合パートナーとの固有の対の開発のための、途方もない可能性を示した。
【0109】
実施例12:(非天然NKG2D.AF外部ドメインを発現しているCAR-T細胞のターゲティング及び殺傷活性は、異種ターゲティングポリペプチドに融合した直交性α1-α2ドメインによって制御される)
毒性を軽減し、腫瘍に対する有効性を改善するために、CAR-T細胞療法を選択的に制御するための手段が強く求められている(Gill and June,前喝)。以前、後に治療用モノクローナル抗体のFcドメインを通して会合することができるCD16の外部ドメインを用いてCARを開発する試みが行われ、これにより、CAR-Tターゲティングを抗体ベースで制御することが可能になった(Chang et al.,前喝)。しかし、CD16ベースのCAR-T細胞は、血液及び組織中のほぼ全ての内因性抗体分子を認識することができ、これら細胞を制御するために使用される治療用抗体は、NK細胞、PMN、単球、及びマクロファージ上の内因性CD16受容体からの競合を受けることになる。これら両特徴は、それぞれ腫瘍外毒性及び薬物動態の不良の問題の原因となる。
【0110】
天然NKG2Dリガンドは、特定の健常組織及び多くのストレスを受けた組織に存在するため、現行のNKG2D CARアプローチを使用すると、極めて高い毒性のリスクが生じる(VanSeggelen et al.2015)。Y152A非天然NKG2D受容体は、NKG2Dリガンドの本発明の非天然α1-α2ドメインで構成される二重特異性タンパク質を用いて非天然NKG2D CARの活性を選択的に制御することができる手段の一例を構成している、NKG2Dリガンドの非天然α1-α2ドメインに特異的に結合した。
【0111】
本発明者らは、全ての天然NKG2Dリガンド又は既に記載されているY152A改変NKG2Dに対して直交性かつ同種の非天然α1-α2ドメイン(NKG2D.YA)には結合しない、NKG2Dの改変Y152A/Y199F(「AF」)外部ドメインで構成される受容体でCAR-T細胞を遺伝子操作した。本発明の同種非天然α1-α2ドメインは、非天然NKG2D.AF外部ドメインに対して高い親和性で結合し、天然NKG2D外部ドメイン及びNKG2D.YA外部ドメインへの結合は回避した。したがって、天然NKG2D及び非天然NKG2D.YAよりも非天然NKG2D.AF外部ドメインに対して強い選択性を示す遺伝子操作されたα1-α2ドメインは、非天然NKG2D CAR受容体、又は本発明の非天然α1-α2ドメインが選択的に会合することができる非天然NKG2D外部ドメインに融合した任意の受容体若しくはタンパク質を選択的に制御するための理想的なシステムを表す。本発明は、更に、それぞれが明確に異なる細胞内ドメインによりシグナル伝達を行う2つの特徴的なCAR(一方はNKG2D.YAで構成され、他方はNKG2D.AFで構成される)を単一細胞で発現させることができる。これら特徴的なCARは、それぞれの同種の直交性MicAbody又は別の非抗体融合ポリペプチドへの細胞外曝露による、細胞の活性の独立した二重の制御を有する。
【0112】
非天然NKG2D.AF外部ドメインを配備するキメラ受容体を用いて構築されたCAR-T細胞の選択的制御を実証するために、それぞれのNKG2D外部ドメインをCARのCD8ヒンジ領域に融合させた4-1BB/CD3zeta CARコンストラクト(Campana特許第8,399,645号)を用いて、先行研究に基づいて天然NKG2D.wt(配列番号49)、非天然NKG2D.YA(配列番号54)、又は非天然NKG2D.AF(配列番号154)の外部ドメインのいずれかを有するCAR(配列番号155、157、159)を構築した。これらコンストラクト(配列番号156、158、160)をレンチウイルスベクターにクローニングし、レンチウイルス形質導入を用いて初代ヒトCD8陽性T細胞で発現させた。HeLa細胞は、その表面上において、構成的にアップレギュレートされている濃度のMICA、MICB、ULBP3、及びULBP2/5/6を含むMICリガンドを有する(これを確認するために使用した抗体は、これら3つのULBPを区別することができない;Human ULBP-2/5/6 Antibody,R&D Systems,Minneapolis,MN)。また、HeLa細胞をトランスフェクトして、天然ULBP1又はNKG2D.AFに選択されるバリアントULBP2.Rのいずれかを表面上で過剰発現させ、これら細胞をインビトロ殺傷アッセイの標的として使用した。HeLa標的細胞にカルセインを予め負荷し、漸増するエフェクター対標的比(E:T)で5時間、NKG2D.wt-CAR、NKG2D.YA-CAR、又はNKG2D.AF-CAR CD8細胞に曝露した後、上清に放出されたカルセインの量を定量し、洗剤処理時に放出された全カルセインに対して正規化した。高レベルのMICリガンドがHeLa細胞の表面上で天然に発現することから、CARとして天然NKG2D(NKG2D.wt)を発現しているCD8細胞は、この過剰発現した天然リガンドを介してHeLa細胞と会合し、細胞溶解作用を発揮した。しかし、NKG2D.YA-CAR及びNKG2D.AF-CARの両方を形質導入したCD8細胞は、E:T比が高くても天然HeLa細胞をほとんど溶解しないことが実証され、形質導入されていないCD8 T細胞と同等の活性レベルを示した。ULBP1をHeLa細胞の表面で過剰発現させると、NKG2D.wt-CAR CD8 T細胞だけがHeLa細胞を著しく溶解した。NKG2D.YA-CAR細胞では、E:T比が高い場合にいくらかの追加の殺傷がみられたが、NKG2D.AF-CAR細胞ではそれがみられないことから、二重変異Y152A/Y199Fは単一のY152A変異よりも更にNKG2Dを不活化することが示される。NKG2D.AF選択的な非天然ULBP2.Rを過剰発現しているHeLa細胞では、NKG2D.wt-CAR細胞は、(内因性MICリガンドの認識により)溶解を指示するが、NKG2D.AF-CAR細胞は、受容体とその選択的リガンドとの会合と一致して著しいレベルの溶解を指示した。
【0113】
適切な同種のターゲティングMicAbodyにしかNKG2D.YA-CAR細胞又はNKG2D.AF-CAR細胞の溶解を指示することができないことを実証するために、非天然ULBP2.S3又はULBP2.R直交性リガンドのいずれかに連結したリツキシマブベースのMicAbodyと組み合わせて、Ramos細胞を細胞溶解の標的として使用した。リツキシマブ-ULBP2.S3 MicAbodyは、NKG2D.YA-CAR CD8細胞の細胞殺傷活性を指示することはできたが、NKG2D.AF-CAR細胞は指示できず、一方、リツキシマブ-ULBP2.R MicAbodyは、NKG2D.AF-CAR細胞の活性を指示することはできたが、NKG2D.YA-CAR細胞は指示できなかった。このことは、更に、好ましいパートナーとして遺伝子操作されたその同種の非天然NKG2Dバリアントに対する2つの非天然ULBP2バリアントの選択性を実証する。MicAbodyの抗体部分の特異性を実証するために、リツキシマブ-ULBP2.R、トラスツズマブ-ULPB2.R(配列番号95及び133、それぞれ重鎖及び軽鎖)、又は等モルの2つの組み合わせのいずれかと共にMicAbodyの飽和総濃度でインキュベーションすることによって予め武装させたNKG2D.AF-CAR CD8細胞を用いて、インビトロ殺傷アッセイを実施した。結合していないMicAbodyを洗浄によって除去した後、カルセインを予め負荷したRamos細胞(CD20を発現、リツキシマブの標的)又はCT26-Her2(ヒトHer2を発現するようにトランスフェクトされたマウス細胞株)にCD8細胞を適用した。2つの異なるE:T比で2時間インキュベートした後、放出されたカルセインの量を定量した。リツキシマブ-MicAbodyで細胞を予め武装させた場合、Ramos細胞のみが溶解したが、トラスツズマブ-MicAbodyはCT26-Her2細胞のみに対して細胞溶解活性を指示した。しかし、NKG2D.AF-CAR CD8細胞にリツキシマブ-及びトラスツズマブ-ULBP2.R MicAbodyの両方を同時に予め武装させたところ、両標的細胞株が溶解したことから、これらCAR細胞は、受容体とリガンドとの間の遺伝子操作された選択的で特権的なパートナーにより、容易に多重化され、それによって、異なる腫瘍標的に同時に会合するように指示されることが実証された。
【0114】
実施例13:(生産的にHIVを感染させたヒト扁桃腺CD4 T細胞の殺傷)健常ドナーのPBMCからCD8+T細胞を単離し、抗CD3/CD28ビーズによって活性化し、不活性NKG2D、CD8ヒンジ及び膜貫通ドメイン、共刺激性4-1BBドメイン、及び
【0115】
【0116】
で構成されるCARを形質導入した。このCAR-T細胞は、ConvertibleCAR細胞と称される。これらConvertibleCAR-T細胞は、ConvertibleCARの不活性NKG2D受容体に対して同種である改変非天然リガンドと融合した広域中和HIV抗体に間接的に結合することしかできなかった。ネガティブコントロールとして、同じドナーからの形質導入されていないCD8 T細胞も並行して調製した。3BNC60、3BNC117、PGT121、及び10-1074の広域中和抗体の配列に基づいて、4つのHIV特異的なMicAbodyを作製した(配列番号の161及び162(3BNC60)、それぞれMicAbodyの重鎖及び軽鎖;163及び164(3BNC117)、それぞれMicAbodyの重鎖及び軽鎖;165及び166(PGT121)、それぞれMicAbodyの重鎖及び軽鎖;167及び168(10-1074)、それぞれMicAbodyの重鎖及び軽鎖)。これらMicAbodyは、HIV gp160エンベロープ分子の特定のエピトープに結合する。3BNC60及び3BNC117によって結合される標的となるエピトープは、配列番号169であり、PGF12及び10-1074によって結合される標的となるエピトープは、配列番号170である(Deng K,Pertea M,Rongvaux A,Wang L,Durand CM,Ghiaur G,Lai J,McHugh HL,Hao H,Zhang H,,JB,Gurer C,Murphy AJ,Valenzuela DM,Yancopoulos GD,Deeks SG,Strowig T,Kumar P,Siliciano JD, Salzberg SL,Flavell RA,Shan L,Siliciano RF Broad CTL response is required to clear latent HIV-1 due to dominance of escape mutations.Nature.2015 Jan 15;517(7534)p.381-5.)。ネガティブコントロールとしてCD20又はHER2を標的とするMicAbodyも開発した。
【0117】
4人の健常ドナー由来のヒト扁桃腺細胞を加工して、ヒトリンパ球凝集培養物(HLAC)を作製した。R5指向性HIV-1及びGFPレポーター遺伝子に対応するDNAを事前にトランスフェクトしておいた293T細胞に、HLAC細胞を重ね合わせた。24時間後、HLAC細胞を除去し、更に4日間HIV感染を拡散させ続けた。次に、GFP陽性感染HLAC細胞を、形質導入されていないCD8 T細胞又は指定のMicAbodyで武装させたConvertibleCAR-T細胞に曝露し、更なるウイルスの拡散を防ぐために5μMサキナビルの存在下で48時間培養した。次いで、遠心分離によって細胞を回収し、洗浄し、染色して、LSRIIフローサイトメーターを用いて感染細胞及び非感染細胞における生存率を評価した。
【0118】
異なる濃度の特異的にHIVを標的とするMicAbodyを用いたCAR-T細胞による、HIVに感染した初代CD4 T細胞の殺傷についてのエフェクター:標的(E:T)細胞比の評価。上記の通り、Bal-GFP R5ウイルスに感染した初代扁桃腺由来細胞100万個(約10%感染、1×10
4個の感染細胞)を、異なる濃度の4つの異なる広域中和HIV MicAbodyの存在下で、1×10
5個の形質導入されていないCD8(0:1)、又は1×10
4個(1:1)若しくは2×10
5個(20:1)のCAR-T細胞と共にインキュベートした。24時間後に細胞を染色し、フローサイトメトリーによって評価した。細胞を、GFPを発現しているか又は発現していない単一細胞/生/CD3+/CD8-細胞でゲーティングした。3回の試験を平均した結果を
図7に示す。これら研究では、HIV特異的MicAbody及びConvertibleCAR-T細胞を組み合わせることで、R5 HIVウイルスに感染した扁桃腺細胞が特異的に殺傷された。殺傷に最適なエフェクター:標的比は1:1~10:1の範囲であり、非感染細胞の生存率は低下しなかった。殺傷は、感染細胞、すなわち、GFPを発現している細胞に高度に限定されていた。同じ培養物中に存在するGFP-細胞は、細胞数がほとんど又は全く減少しなかった(
図B及びC;GFP+対GFP-)。更に、同じドナーの形質導入されていないCD8 T細胞又はHIVを標的としないMicAbody(例えば、CD20を標的とするMicAbody又はHer2を標的とするMicAbody)を使用した場合、非感染細胞の殺傷は生じず、感染細胞の殺傷も生じなかった。
【0119】
特異的HIV MicAbodyと組み合わせたCAR-Tによる、R5ウイルスに感染した初代CD4細胞の特異的殺傷。Bal-GFP R5ウイルスに感染した初代扁桃腺由来細胞100万個(約1×10
4個の感染細胞)を、異なる濃度のHIV特異的MicAbody又はB細胞特異的なCD20を標的とするMicAbody又はHER2を標的とするMicAbody(Her2)の存在下で1×10
5個のCAR-T細胞と共にインキュベートした。24時間後に細胞を染色し、フローサイトメトリーによって分析した。細胞を単一細胞/生/CD3+/CD8-及びGFP+又はGFP-のいずれかでゲーティングした。4回の試験を平均した結果を
図8に示す。
【0120】
特異的HIV MicAbodyと組み合わせたCAR-Tによる、F4 transmitted/founderウイルスに感染した初代CD4細胞の特異的殺傷。F4-GFP(T/F)ウイルスに感染した初代扁桃腺由来細胞100万個(約1×10
4個の感染細胞)を、異なる濃度の4つの別個のHIV特異的MicAbody、CD20を標的とするMicAbody(Ritux)、又はHER2を標的とするMicAbody(Her2)の存在下で、1×10
5個のconvertibleCAR-T細胞と共にインキュベートした。24時間後に細胞を染色し、続いて、フローサイトメトリーを行った。細胞を単一細胞/生/CD3+/CD8-及びGFP+又はGFP-のいずれかでゲーティングした。結果を
図9に示す。R5ウイルスに感染した細胞又はヒトからヒトへの水平感染に成功したウイルス株であるF4transmitted/founderHIVウイルスに感染した細胞では、有効な殺傷が確認された。
【0121】
実施例14(慢性的にHIVに感染し、ARTを受けている非ウイルス血症患者からの再活性化した潜伏感染リザーバ細胞のCAR-T及びMicAbodyによる殺傷)
連続フロー遠心分離白血球除去に続いて、フィコール-ハイパック勾配における細胞の密度遠心法によって、ARTを受けている6名の非ウイルス血症HIV陽性個体から末梢血単核細胞(PBMC)を得た。その後、休止CD4+Tリンパ球を「ノータッチ」陰性抗体枯渇によって単離した。細胞を、10%ウシ胎児血清及びペニシリン/ストレプトマイシンを補給したRPMI培地で培養した。1,000万個の休止CD4+リンパ球を、80nM PMA+1uMイオノマイシンで72時間刺激した。再活性化後、5μMサキナビルの存在下で、CAR-T又は異なるMicAbodyを有する同じドナーの形質導入されていないCD8細胞と共に細胞を48時間インキュベートした。300gで10分間遠心分離を行うことによって、細胞を回収した。次いで、細胞ペレットを溶解させ、RNeasyキット(Qiagen)を用いてRNAを抽出した。Superscript III One-Step RT-PCRシステムを用いてcDNAを作製し、同時にウイルスのmRNAを前もって増幅させた(すなわち、10サイクルの予増幅)後、ドロップレットデジタルPCR(ddPCR)により分析及び定量を行った。ARTを受けている既知のHIV感染患者から回収したPBMCからノータッチネガティブセレクションによってCD4+T細胞を単離し、100nM酢酸ミリスチン酸ホルボール(PMA)+1uMイオノマイシンで72時間再活性化した。次いで、細胞を2回洗浄し、図中MIXと表記されている等濃度のHIV bNAbベースのMicAbody(3BNC60、3BNC117、PGT121、及び10-1074)の混合物0.1nM又は1nMの存在下で、convertibleCAR-T細胞又は形質導入されていないCD8 T細胞と共に48時間インキュベートした。次いで、細胞を遠心分離し、細胞ペレットからRNAを抽出した。細胞に会合しているHIV RNAをddPCRによって測定した。結果を
図10に示す。ARTを受けている非ウイルス血症感染個体(n=6)からの再活性化された潜伏リザーバ細胞(PMA+イオノマイシンで3日間)のこの実施例の研究では、CAR-T細胞が、同じドナーの形質導入されていないCD8 T細胞+MicAbodyの混合物と比較して、これら再活性化されたリザーバ細胞の数を約50%有効に減少させることができることが観察された。誘導因子及びエフェクター細胞の存在下及び非存在下で、細胞に会合しているHIV RNAをddPCRで定量することにより、誘導性リザーバサイズを評価した。実施例13及び14のこれら知見は、まとめると、広域中和ヒトIgG1抗体で構築された同種MicAbodyを加えたConvertibleCAR-T細胞が、潜伏HIV-1リザーバ内の再活性化に成功したHIV感染細胞を排除するための新規の効率的で高度に選択的な殺傷戦略として使用できることのエクスビボにおける概念実証を提供する。
【配列表】