(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-26
(45)【発行日】2025-03-06
(54)【発明の名称】銅含有層の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/18 20060101AFI20250227BHJP
H01L 21/285 20060101ALI20250227BHJP
【FI】
C23C16/18
H01L21/285 C
(21)【出願番号】P 2021563868
(86)(22)【出願日】2020-12-01
(86)【国際出願番号】 JP2020044618
(87)【国際公開番号】W WO2021117540
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2023-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2019224367
(32)【優先日】2019-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100209495
【氏名又は名称】佐藤 さおり
(72)【発明者】
【氏名】西田 章浩
(72)【発明者】
【氏名】山下 敦史
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-532993(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0330473(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/18
H01L 21/285
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工程1:還元剤を用いて基板の表
面を還元する工程と、
工程2:
下記構造式で表される銅化合物を含有する薄膜形成用原料を用い、工程1で還元された表面上に、プラズマ原子層堆積法により銅含有層を形成する工程と
を有
し、
【化1】
前記還元剤が、水素、アンモニア、ヒドラジン、モノシラン、ジシラン、ジボラン、トリメチルアルミニウム、ジエチル亜鉛及びこれらのプラズマからなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記基板が、金属基板であるか又は表面に金属膜が形成された基板であり、
前記銅含有層の厚みが、20nm以下であり、
前記工程1を20℃~400℃の範囲で行い、
前記工程2において、前記基板の温度を20℃~40℃とすることを特徴とする銅含有層の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気抵抗率の低い銅含有層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体は、金属配線回路の配線の幅や配線間の間隔を狭くすることで、単位面積当たりの素子数が増加すると共に、素子間の距離が短くなり、駆動電圧を下げることができる。その結果、高集積化した半導体は、高速動作や低消費電力動作を実現できる。この半導体を利用することで、電子機器は小型化・軽量化と機能や性能の向上、低消費電力化及び低価格化が可能になる。しかし、配線の幅を狭くすると、単位長さ当たりの抵抗及び電流密度の増加に伴うエレクトロマイグレーションが発生して半導体が故障する可能性が高まる。そのため、エレクトロマイグレーションに影響されにくい銅を導電材料に用いた半導体の製造が増えている。
【0003】
銅を導電材料に用いた半導体としては、例えば、特許文献1には、原子層堆積(ALD)法を用いて形成した窒化タンタル層の上に、物理気相堆積(PVD)法を用いてタンタル層を形成させ、さらに、タンタル層の上に、PVD法を用いて銅を形成させたものが提案されている。非特許文献1には、シリカ、チタン窒化物、タンタル等の基板に対して、銅錯体を用い、プラズマALD法を用いて形成させた銅の金属膜は、電気抵抗率が低いことが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】"Trends in Copper Precursor Development for CVD and ALD Applications", ECS Journal of Solid State Science and Technology, 4(1), N3188-N3197, (2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
基板が金属である場合、銅化合物を用い、ALD法により厚みが20nm以下の銅の薄膜を形成しようとすると、基板の金属表面で銅が結合しやすいため、銅の粗大粒子が生成して薄膜の構造が不均一になり、薄膜の電気抵抗率が増大する課題があった。銅錯体を用い、プラズマALD法により銅の薄膜を形成した場合、不純物が少なく、電気抵抗率の比較的低い薄膜を製造することが可能である。しかし、半導体の微細化に伴い、銅含有層の電気抵抗率を更に低下させることが求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、検討を重ねた結果、特定の工程を経て製造された銅含有層が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、工程1:還元剤を用いて基板の表面(但し、表面が珪酸化合物である基板を除く)を還元する工程と、工程2:銅化合物を含有する薄膜形成用原料を用い、工程1で還元された表面上に、プラズマ原子層堆積法により銅含有層を形成する工程とを有することを特徴とする銅含有層の製造方法である。
【0009】
本発明の銅含有層の製造方法において、銅含有層の厚みが、20nm以下であることが好ましい。
【0010】
本発明の銅含有層の製造方法において、還元剤が、水素、アンモニア、ヒドラジン、モノシラン、ジシラン、ジボラン、トリメチルアルミニウム、ジエチル亜鉛及びこれらのプラズマからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0011】
本発明の銅含有層の製造方法において、基板が、金属基板であるか又は表面に金属膜が形成された基板であることが好ましい。
【0012】
本発明の銅含有層の製造方法において、銅化合物が、下記一般式(1)で表される銅化合物であることが好ましい。
【0013】
【0014】
式中、R1、R2、R5及びR6は、各々独立して、水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基又はハロゲン原子を表し、R3、R4、R7及びR8は、各々独立して、炭素原子数1~4のアルキル基又はハロゲン原子を表す。
【0015】
本発明の製造方法において、20℃~400℃の範囲で、工程1を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電気抵抗率の低い銅含有層を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の製造方法に用いられるプラズマALD装置の一例を示す概略図である。
【
図2】本発明の製造方法に用いられるプラズマALD装置の別の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の銅含有層の製造方法(以下、「本発明の製造方法」と称する。)について説明する。
本発明の製造方法は、還元剤を用いて、基板を還元する工程1と、工程1後に、銅化合物を含有する薄膜形成用原料を用い、プラズマALD法を用いて基板上に銅含有層を形成する工程2を有することを特徴とする。本発明の製造方法には、反応性ガスに対してプラズマ処理を行うことのできる周知のプラズマALD装置を用いることができる。具体的なプラズマALD装置の例としては、
図1に示されるような、原料容器中の薄膜形成用原料を加熱及び/又は減圧することにより気化させて蒸気とし、その蒸気を、必要に応じてキャリアガスと共に、成膜チャンバーに供給することのできる装置や、
図2に示されるように、薄膜形成用原料を液体又は溶液の状態で気化室まで輸送し、気化室で加熱及び/又は減圧することにより気化させて蒸気とし、その蒸気を成膜チャンバーに供給することのできる装置が挙げられる。なお、
図1及び
図2に示されるような成膜チャンバーを備えた枚葉式装置に限らず、バッチ炉を用いた多数枚同時処理可能な装置を用いることもできる。
【0019】
まず、本発明の製造方法の工程1について説明する。
本発明の製造方法において、工程1は、必要に応じて基板に熱を加え、還元剤を基板の表面に接触させて基板の表面を還元処理するプロセスである。工程1は、プラズマALD装置で行うことが好ましく、プラズマALD装置で工程1及び工程2を連続して行うことが好ましい。
【0020】
本発明の製造方法に用いられる基板は、表面が珪酸化合物である基板以外であればよく、例えば、アルミニウム、銀、金、鉛、バナジウム、マンガン、マグネシウム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、クロム、パラジウム、モリブデン、タングステン、プラチナ、チタン、ジルコニウム及び亜鉛からなる群から選択される金属、もしくは、真鍮、青銅、鋼鉄、ステンレス鋼、アルミニウム合金、マグネシウム合金、チタン合金などの合金等が挙げられる。表面が珪酸化合物である基板は、本発明の効果が得られないので除外されるが、珪酸化合物の表面に金属膜を形成した基板は、本発明の製造方法に用いることができる。金属膜を形成する方法としては、金属化合物を用い、AVD法又はCVD法により基板の表面に金属膜を形成する方法が挙げられる。金属化合物としては、後述する「他のプリカーサ」が挙げられる。
【0021】
基板の形状としては、板状、球状、繊維状、鱗片状が挙げられる。基板表面は、平面であってもよく、トレンチ構造等の三次元構造となっていてもよい。
【0022】
(基板の還元処理)
本発明の製造方法において、基板の表面を還元する工程1は、例えば、基板として、金属基板又は表面に金属膜が形成された基板を用いる場合、還元剤(ガス)を基板の表面に接触させて金属を還元する。具体的には、基板をプラズマALD装置の成膜チャンバー内に設置し、還元剤(ガス)を成膜チャンバーに導入して基板の表面を還元すればよい。このとき、基板を加熱してもよいし、成膜チャンバーを加熱して熱を加えてもよい。工程1は、20℃~400℃の範囲内の温度で行うことが好ましい。温度が20℃未満であると、その温度に対応できる装置が見当たらず、一方、温度が400℃を超えると、基板が熱によるダメージに耐えられない場合がある。
【0023】
還元剤としては、例えば、水素、一酸化炭素、硫化水素、二酸化硫黄、アンモニア、ヒドラジン、モノシラン、ジシラン、ジボラン、トリメチルアルミニウム(TMA)、ジエチル亜鉛(ZnEt2)等が挙げられ、これらに対してプラズマ処理したものも用いることができる。本発明の製造方法においては、還元剤は、水素、アンモニア、ヒドラジン、モノシラン、ジシラン、ジボラン、トリメチルアルミニウム、ジエチル亜鉛及びこれらのプラズマからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましく、基板へのダメージや膜汚染の影響が少なく、成膜温度を低くすることができるという観点から、水素プラズマを用いることがより好ましい。還元剤を成膜チャンバーに導入する方法としては、例えば、成膜チャンバー内を減圧すればよい。
【0024】
還元剤に対してプラズマ処理する方法としては、例えば、コイル電極から放出されたプラズマを還元剤に照射する方法が挙げられる。なお、プラズマには、コイル電極に印加された高周波電圧による静電界から生じる容量結合プラズマと、コイル電極に流れる高周波電流により発生する誘導電界による誘導結合プラズマが挙げられるが、これらのプラズマは、基板から離れた状態でプラズマを発生させることが可能であり、プラズマによる基板へのダメージを抑制することができる。
【0025】
還元剤に対してプラズマを照射するときのプラズマ励起周波数は13.56MHz、プラズマ出力は、1W~600Wであることが好ましく、20W~200Wであることがより好ましい。20W未満の出力では、本発明の効果が得られない場合があり、一方、200Wを超える出力は、基板に与えるダメージが大きい場合がある。
【0026】
(排気行程)
基板の還元処理後、成膜チャンバーから還元剤(ガス)を排気することが好ましい。この際、還元剤(ガス)が成膜チャンバーから完全に排気されるのが理想であるが、必ずしも完全に排気する必要はない。排気方法としては、例えば、ヘリウム、窒素、アルゴン等の不活性ガスにより成膜チャンバー内をパージする方法、成膜チャンバー内を減圧することで排気する方法、これらを組み合わせた方法等が挙げられる。減圧する場合の減圧度は、0.01Pa~300Paの範囲が好ましく、0.01Pa~100Paの範囲がより好ましい。
【0027】
次に、本発明の製造方法の工程2について説明する。
工程2では、銅化合物を含有する薄膜形成用原料を用い、工程1で還元された表面上に、プラズマALD法により銅含有層を形成するプロセスである。具体的には、工程2は、銅化合物を含有する薄膜形成用原料を気化させて得られる蒸気及び必要に応じて用いられる他のプリカーサの蒸気(以下、「原料ガス」と称する)を、成膜チャンバーに導入する工程(原料ガス導入工程)と、基板の表面に、原料ガス中の銅化合物を堆積させて前駆体層を形成する工程(前駆体層形成工程)と、未反応の原料ガスを排気する工程(排気工程)と、反応性ガスのプラズマを成膜チャンバーに導入し、前駆体層と反応性ガスのプラズマとを反応させて基板の表面に銅含有層を形成する工程(銅含有層形成工程)とを含む。これら各工程について以下に詳述する。
【0028】
(原料ガス導入工程)
薄膜形成用原料を気化させて蒸気(原料ガス)とする工程は、原料容器内で行ってもよいし、薄膜形成用原料を気化室に導入して、気化室で行ってもよい。
【0029】
原料ガス導入工程において、原料ガスを成膜チャンバーへ導入するときの輸送供給方法の具体例としては、
図1に示すように、貯蔵容器(以下、「原料容器」と称する)中で薄膜形成用原料を加熱及び/又は減圧することにより気化させて得られる原料ガスを、必要に応じてアルゴン、窒素、ヘリウム等のキャリアガスと共に、基板が設置された成膜チャンバー内(以下、「堆積反応部」と称する)内へと導入する気体輸送法、及び
図2に示すように、薄膜形成用原料を液体又は溶液の状態で気化室まで輸送し、気化室で加熱及び/又は減圧することにより気化させて得られる原料ガスを、堆積反応部へと導入する液体輸送法がある。
気体輸送法の場合、銅化合物そのものを薄膜形成用原料とすることができる。液体輸送法の場合、銅化合物そのもの又は銅化合物を有機溶剤に溶解した溶液を薄膜形成用原料とすることができる。薄膜形成用原料は求核性試薬等を更に含んでいてもよい。
【0030】
また、原料ガスを堆積反応部へ導入する方法としては、シングルソース法及びカクテルソース法があるが、いずれの方法を用いてもよい。また、いずれの方法においても、薄膜形成用原料は20℃~200℃で気化させることが好ましい。また、原料容器内又は気化室内で薄膜形成用原料を気化させて蒸気とする場合の原料容器内の圧力及び気化室内の圧力は、1Pa~10,000Paの範囲内であることが好ましい。
【0031】
薄膜形成用原料に含まれる銅化合物は、銅の薄膜を形成することができればよく、銅化合物の構造は特に限定されない。ただし、銅化合物の分子量が1,000を超えると、融点が高くなりすぎて薄膜形成用原料としての利用が困難になる場合がある。銅化合物の分子量は、800未満であることが好ましく、200~600であることがより好ましい。また、薄膜形成用原料を用いて薄膜を製造する装置の配管内の輸送性を確保するために、銅化合物の融点は50℃以下であることが好ましく、常温で液体であることがより好ましい。
【0032】
本発明の製造方法において、用いることができる銅化合物の具体例としては、下記化合物1~化合物32が挙げられるが、本発明はこれらの化合物によって限定されるものではない。なお、下記化合物において、「Me」は「メチル基」を表し、「Et」は「エチル基」を表し、「iPr」は「イソプロピル基」を表し、「nPr」は「n-プロピル基」を表し、「tBu」は「tert-ブチル基」を表し、「sBu」は「sec-ブチル基」を表し、「nBu」は「n-ブチル基」を表し、「SiMe3」は「トリメチルシリル基」を表す。
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
特に、下記一般式(1)で表される銅化合物が高い蒸気圧を示し、熱安定性に優れるので、本発明の製造方法において好ましく用いることができる。
【0042】
【0043】
(式(1)中、R1、R2、R5及びR6は、各々独立して、水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基又はハロゲン原子を表し、R3、R4、R7及びR8は、各々独立して、炭素原子数1~4のアルキル基又はハロゲン原子を表す。)
【0044】
上記一般式(1)中のR1~R8で表される炭素原子数1~4のアルキル基は、直鎖であってもよく分岐を有するものであってもよい。炭素原子数1~4のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソブチル基等が挙げられる。炭素原子数が4を超えるアルキル基は、融点が高くなって薄膜形成用原料として用いることができない場合がある。アルキル基の炭素原子数は1~3であることが好ましい。上記一般式(1)で表される銅化合物の中でも、R1及びR5がメチル基であり且つR2及びR6が水素原子である銅化合物が好ましく、R1及びR5がメチル基であり、R2及びR6が水素原子であり且つR3、R4、R7及びR8が、メチル基、エチル基及びイソプロピル基からなる群から選択される銅化合物がより好ましい。
【0045】
上記一般式(1)における、R1~R8で表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、塩素原子が好ましい。
【0046】
上記一般式(1)で表される銅化合物の具体例として、上記の化合物5~化合物16等が挙げられるが、これらの銅化合物によって本発明の製造方法を限定するものではない。
【0047】
上記の銅化合物の製造方法は特に制限されることはなく、当該銅化合物は周知の反応を応用して製造される。例えば、特開2015-218117号公報に記載されている製造方法で得ることができる。
【0048】
薄膜形成用原料は、銅化合物を含有し、薄膜のプリカーサとして用いることができるものであればよく、その組成は目的とする薄膜の種類によって異なる。例えば、金属として銅のみを含有する薄膜を製造する場合、薄膜形成用原料は、銅以外の金属化合物及び半金属化合物を非含有である。一方、銅と、銅以外の金属及び/又は半金属とを含む薄膜を製造する場合、薄膜形成用原料は、銅化合物に加えて、所望の金属を含む化合物及び/又は半金属を含む化合物(以下、「他のプリカーサ」と称する)を含有することができる。
【0049】
また、複数のプリカーサを用いる多成分系のALD法において、上記銅化合物と共に用いることができる他のプリカーサとしては、特に制限を受けず、ALD法のための薄膜形成用原料に用いられる周知一般のプリカーサを用いることができる。
【0050】
上記他のプリカーサとしては、例えば、アルコール化合物、グリコール化合物、β-ジケトン化合物、シクロペンタジエン化合物、有機アミン化合物等の有機配位子として用いられる化合物からなる群から選択される一種類又は二種類以上と、金属とからなる化合物が挙げられる。また、プリカーサの金属種としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、タングステン、マンガン、鉄、オスミウム、ルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銀、金、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ゲルマニウム、スズ、鉛、アンチモン、ビスマス、ラジウム、スカンジウム、ルテニウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム又はルテチウムが挙げられる。
【0051】
上記の他のプリカーサの有機配位子として用いられるアルコール化合物としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、sec-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、ペンチルアルコール、イソペンチルアルコール、tert-ペンチルアルコール等のアルキルアルコール類;2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-ブトキシエタノール、2-(2-メトキシエトキシ)エタノール、2-メトキシ-1-メチルエタノール、2-メトキシ-1,1-ジメチルエタノール、2-エトキシ-1,1-ジメチルエタノール、2-イソプロポキシ-1,1-ジメチルエタノール、2-ブトキシ-1,1-ジメチルエタノール、2-(2-メトキシエトキシ)-1,1-ジメチルエタノール、2-プロポキシ-1,1-ジエチルエタノール、2-sec-ブトキシ-1,1-ジエチルエタノール、3-メトキシ-1,1-ジメチルプロパノール等のエーテルアルコール類;ジメチルアミノエタノール、エチルメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、ジメチルアミノ-2-ペンタノール、エチルメチルアミノ-2-ペンタノール、ジメチルアミノ-2-メチル-2-ペンタノール、エチルメチルアミノ-2-メチル-2-ペンタノール、ジエチルアミノ-2-メチル-2-ペンタノール等のジアルキルアミノアルコール類等が挙げられる。
【0052】
上記の他のプリカーサの有機配位子として用いられるグリコール化合物としては、例えば、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、2,4-ヘキサンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、2,4-ブタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-ブタンジオール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、2,4-ペンタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,4-ヘキサンジオール、2,4-ジメチル-2,4-ペンタンジオール等が挙げられる。
【0053】
上記の他のプリカーサの有機配位子として用いられるβ-ジケトン化合物としては、例えば、アセチルアセトン、ヘキサン-2,4-ジオン、5-メチルヘキサン-2,4-ジオン、ヘプタン-2,4-ジオン、2-メチルヘプタン-3,5-ジオン、5-メチルヘプタン-2,4-ジオン、6-メチルヘプタン-2,4-ジオン、2,2-ジメチルヘプタン-3,5-ジオン、2,6-ジメチルヘプタン-3,5-ジオン、2,2,6-トリメチルヘプタン-3,5-ジオン、2,2,6,6-テトラメチルヘプタン-3,5-ジオン、オクタン-2,4-ジオン、2,2,6-トリメチルオクタン-3,5-ジオン、2,6-ジメチルオクタン-3,5-ジオン、2,9-ジメチルノナン-4,6-ジオン、2-メチル-6-エチルデカン-3,5-ジオン、2,2-ジメチル-6-エチルデカン-3,5-ジオン等のアルキル置換β-ジケトン類;1,1,1-トリフルオロペンタン-2,4-ジオン、1,1,1-トリフルオロ-5,5-ジメチルヘキサン-2,4-ジオン、1,1,1,5,5,5-ヘキサフルオロペンタン-2,4-ジオン、1,3-ジパーフルオロヘキシルプロパン-1,3-ジオン等のフッ素置換アルキルβ-ジケトン類;1,1,5,5-テトラメチル-1-メトキシヘキサン-2,4-ジオン、2,2,6,6-テトラメチル-1-メトキシヘプタン-3,5-ジオン、2,2,6,6-テトラメチル-1-(2-メトキシエトキシ)ヘプタン-3,5-ジオン等のエーテル置換β-ジケトン類等が挙げられる。
【0054】
上記の他のプリカーサの有機配位子として用いられるシクロペンタジエン化合物としては、例えば、シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエン、エチルシクロペンタジエン、プロピルシクロペンタジエン、イソプロピルシクロペンタジエン、ブチルシクロペンタジエン、第2ブチルシクロペンタジエン、イソブチルシクロペンタジエン、tert-ブチルシクロペンタジエン、ジメチルシクロペンタジエン、テトラメチルシクロペンタジエン等が挙げられる。
【0055】
上記の有機配位子として用いられる有機アミン化合物としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、sec-ブチルアミン、tert-ブチルアミン、イソブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルメチルアミン、プロピルメチルアミン、イソプロピルメチルアミン等が挙げられる。
【0056】
上記の他のプリカーサは、当該技術分野において公知のものであり、その製造方法も公知である。製造方法の一例を挙げれば、例えば、有機配位子としてアルコール化合物を用いた場合、先に述べた金属の無機塩又はその水和物と、該アルコール化合物のアルカリ金属アルコキシドとを反応させることによって、プリカーサを製造することができる。ここで、金属の無機塩又はその水和物としては、例えば、金属のハロゲン化物、硝酸塩等を挙げることができ、アルカリ金属アルコキシドとしては、例えば、ナトリウムアルコキシド、リチウムアルコキシド、カリウムアルコキシド等を挙げることができる。
【0057】
上述したような多成分系のALD法においては、薄膜形成用原料を各成分独立で気化、供給する方法(以下、「シングルソース法」と称する)と、多成分原料を予め所望の組成で混合した混合原料を気化、供給する方法(以下、「カクテルソース法」と称する)が挙げられる。
【0058】
シングルソース法の場合、上記の他のプリカーサとしては、熱及び/又は酸化分解の挙動が銅化合物と類似している化合物が好ましい。カクテルソース法の場合、上記の他のプリカーサとしては、熱及び/又は酸化分解の挙動が銅化合物と類似していることに加え、混合時に化学反応等による変質を起こさないものが好ましい。
【0059】
また、多成分系のALD法におけるカクテルソース法の場合、銅化合物と他のプリカーサとの混合物又若しくは該混合物を有機溶剤に溶解した混合溶液を薄膜形成用原料とすることができる。
【0060】
上記の有機溶剤としては、特に制限を受けることはなく周知一般の有機溶剤を用いることができる。該有機溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等の酢酸エステル類;テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルペンチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン類;ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等の炭化水素類;1-シアノプロパン、1-シアノブタン、1-シアノヘキサン、シアノシクロヘキサン、シアノベンゼン、1,3-ジシアノプロパン、1,4-ジシアノブタン、1,6-ジシアノヘキサン、1,4-ジシアノシクロヘキサン、1,4-ジシアノベンゼン等のシアノ基を有する炭化水素類;ピリジン、ルチジン等が挙げられる。これらの有機溶剤は、溶質の溶解性、使用温度と沸点、引火点の関係等により、単独で用いてもよいし、又は二種類以上を混合して用いてもよい。
【0061】
本発明の製造方法で用いる薄膜形成用原料が、上記の混合溶液である場合、薄膜形成用原料中におけるプリカーサ全体の量が0.01モル/リットル~2.0モル/リットルとなるように調製することが好ましく、0.05モル/リットル~1.0モル/リットルとなるように調製することがより好ましい。
【0062】
プリカーサ全体の量とは、薄膜形成用原料が、銅化合物以外の金属化合物及び半金属化合物を非含有である場合、銅化合物の量であり、薄膜形成用原料が他のプリカーサを含有する場合、銅化合物及び他のプリカーサの合計量を表す。
【0063】
本発明の製造方法で用いる薄膜形成用原料は、必要に応じて、銅化合物及び他のプリカーサの安定性を向上させるため、求核性試薬を含有してもよい。該求核性試薬としては、例えば、グライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のエチレングリコールエーテル類、18-クラウン-6、ジシクロヘキシル-18-クラウン-6、24-クラウン-8、ジシクロヘキシル-24-クラウン-8、ジベンゾ-24-クラウン-8等のクラウンエーテル類、エチレンジアミン、N,N’-テトラメチルエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、1,1,4,7,7-ペンタメチルジエチレントリアミン、1,1,4,7,10,10-ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、トリエトキシトリエチレンアミン等のポリアミン類、サイクラム、サイクレン等の環状ポリアミン類、ピリジン、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、N-メチルピロリジン、N-メチルピペリジン、N-メチルモルホリン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4-ジオキサン、オキサゾール、チアゾール、オキサチオラン等の複素環化合物類、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸-2-メトキシエチル等のβ-ケトエステル類又はアセチルアセトン、2,4-ヘキサンジオン、2,4-ヘプタンジオン、3,5-ヘプタンジオン、ジピバロイルメタン等のβ-ジケトン類が挙げられる。求核性試薬の量は、プリカーサ全体の量1モルに対して0.1モル~10モルの範囲が好ましく、1モル~4モルの範囲がより好ましい。
【0064】
本発明の製造方法において、薄膜形成用原料には、これを構成する成分以外の不純物金属元素分、不純物塩素などの不純物ハロゲン分、及び不純物有機分が極力含まれないようにすることが望ましい。不純物金属元素分は、元素毎では100ppb以下が好ましく、10ppb以下がより好ましく、総量では、1ppm以下が好ましく、100ppb以下がより好ましい。特に、LSIのゲート絶縁膜、ゲート膜、バリア層として用いる場合は、得られる薄膜の電気的特性に影響のあるアルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素の含有量を少なくすることが必要である。不純物ハロゲン分は、100ppm以下が好ましく、10ppm以下がより好ましく、1ppm以下がさらに好ましい。不純物有機分は、総量で500ppm以下が好ましく、50ppm以下がより好ましく、10ppm以下がさらに好ましい。また、水分は、薄膜形成用原料中や、薄膜形成中でのパーティクル発生の原因となるので、プリカーサ、有機溶剤及び求核性試薬については、それぞれの水分の低減のために、使用の際にあらかじめできる限り水分を取り除いた方がよい。プリカーサ、有機溶剤及び求核性試薬それぞれの水分量は、10ppm以下が好ましく、1ppm以下がより好ましい。
【0065】
また、本発明の製造方法において、薄膜形成用原料には、形成される薄膜のパーティクル汚染を低減又は防止するために、パーティクルが極力含まれないようにするのが好ましい。具体的には、液相での光散乱式液中粒子検出器によるパーティクル測定において、0.3μmより大きい粒子の数が液相1ml中に100個以下であることが好ましく、0.2μmより大きい粒子の数が液相1ml中に100個以下であることがより好ましい。
【0066】
(前駆体層形成工程)
前駆体層形成工程では、堆積反応部に設置された基板に対し、原料ガスを導入して、原料ガス中の銅化合物を基板の表面に堆積させ、基板上に前駆体層を形成する。このとき基板を加熱するか、又は堆積反応部を加熱して熱を加えてもよい。前駆体層を形成する条件としては、特に限定されず、例えば、反応温度(基板温度)、反応圧力、堆積速度等を薄膜形成用原料の種類に応じて適宜決めることができる。反応温度については、薄膜形成用原料が充分に反応する温度である20℃以上が好ましく、20℃~400℃がより好ましく、反応性ガスのプラズマに合わせたALDウィンドウ内で使用される。膜厚は、所望の膜厚が得られるようにサイクルの回数でコントロールされる。反応圧力は1Pa~10,000Paが好ましく、10Pa~1,000Paがより好ましい。
【0067】
なお、薄膜形成用原料が、銅化合物以外の他のプリカーサを含む場合は、銅化合物と共に他のプリカーサも基板の表面に堆積される。
【0068】
(排気工程)
前駆体層形成工程後、基板の表面に堆積しなかった原料ガスを堆積反応部から排気する。原料ガスが堆積反応部から完全に排気されるのが理想的であるが、必ずしも完全に排気される必要はない。排気方法としては、例えば、ヘリウム、窒素、アルゴン等の不活性ガスにより堆積反応部内をパージする方法、堆積反応部内を減圧することで排気する方法、これらを組み合わせた方法等が挙げられる。減圧する場合の減圧度は、0.01Pa~300Paの範囲が好ましく、0.01Pa~100Paの範囲がより好ましい。
【0069】
(銅含有層形成工程)
排気工程後、堆積反応部に反応性ガスのプラズマを導入して、反応性ガスのプラズマの作用又は反応性ガスのプラズマの作用と熱の作用とにより、反応性ガスのプラズマを、前駆体層、すなわち基板の表面に堆積させた銅化合物と反応させることで銅含有層が形成される。反応性ガスを予めプラズマ処理してから堆積反応部に導入してもよいし、堆積反応部内で反応性ガスをプラズマ処理してもよい。反応性ガスのプラズマは、反応性ガスにプラズマを照射することによって生成させることができる。プラズマ処理の条件は、工程1における還元剤に対して行うプラズマ処理と同じであってもよい。
【0070】
反応性ガスは、それをプラズマ処理したものが前駆体層と反応するものであればよく、例えば、水素、酸素、オゾン、二酸化窒素、一酸化窒素、水蒸気、過酸化水素、ギ酸、酢酸、無水酢酸等の酸化性ガス、水素等の還元性ガス、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、アルキレンジアミン等の有機アミン化合物、ヒドラジン、アンモニア等の窒化性ガスが挙げられる。反応性ガスは、単独で用いてもよいし、二種類以上を混合して用いてもよい。本発明の製造方法においては、反応性ガスのプラズマとして、水素プラズマを用いると発明効果が顕著であるので好ましい。
【0071】
前駆体層と反応性ガスのプラズマとの反応において、熱を用いて作用させる場合の温度は、室温~400℃の範囲が好ましく、20℃~400℃の範囲がより好ましい。前駆体層と反応性ガスのプラズマとの反応を低温で行うと得られる銅含有層に不純物の炭素が残留するのを抑制できるので、20℃~200℃の範囲が好ましく、20℃~150℃の範囲がより好ましい。工程2を行う際の堆積反応部における圧力は1Pa~10,000Paが好ましく、10Pa~2,000Paがより好ましい。
【0072】
(排気行程)
銅含有層形成工程後、必要に応じて、未反応の反応性ガスのプラズマ及び副生ガスを堆積反応部から排気する。この際、反応性ガス及び副生ガスが堆積反応部から完全に排気されるのが理想的であるが、必ずしも完全に排気される必要はない。排気方法及び減圧する場合の減圧度は、上述した前駆体層形成工程後の排気行程と同様である。
【0073】
本発明の製造方法の工程2において、「原料ガス導入工程」、「前駆体層形成工程」、「排気工程」、「銅含有層形成工程」及び「排気行程」からなる一連の操作による堆積を1サイクルとし、このサイクルを必要な膜厚の薄膜が得られるまで複数回繰り返すことで、所望の膜厚を有する銅含有層を製造することができる。
【0074】
銅含有層の堆積速度は、薄膜形成用原料の供給条件(気化温度、気化圧力)、薄膜形成用原料と反応ガスのプラズマとの反応温度、反応圧力によりコントロールすることができる。堆積速度が大きいと得られる銅含有層の特性が悪化する場合があり、小さいと生産性に問題を生じる場合があるので、0.01nm/分~100nm/分が好ましく、0.05nm/分~50nm/分がより好ましい。
【0075】
また、銅含有層を形成後、より良好な電気特性を得るために不活性雰囲気下、酸化性雰囲気下又は還元性雰囲気下でアニール処理を行ってもよく、段差埋め込みが必要な場合には、リフロー工程を設けてもよい。この場合の温度は、200℃~1,000℃が好ましく、250℃~500℃がより好ましい。
【0076】
本発明の製造方法によって得られた銅含有層の厚みは、20nm以下であることが好ましく、10nm以下であることが本発明の効果が顕著になるのでより好ましい。また、本発明の製造方法によって得られた銅含有層は、少なくとも1nmの厚みを有することが好ましい。
【0077】
本発明は、電気抵抗率が小さい銅を含有する薄膜を提供するものであり、このような薄膜は、他のプリカーサ、反応性ガス及び製造条件を適宜選択することにより、メタル、酸化物セラミックス、窒化物セラミックス、ガラス基板を被覆することができる。本発明の製造方法を用いて製造した薄膜は、電気的特性が優れるため、DRAM素子などのメモリー素子の電極材料、抵抗膜、ハードディスクの記録層に用いられる反磁性膜及び固体高分子形系燃料電池の触媒材料等の製造に好適である。
【実施例】
【0078】
以下、実施例等を用いて本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例等によって制限を受けるものではない。
【0079】
(1)銅化合物
下記の銅化合物をプリカーサとして用いて評価した。
【0080】
【0081】
(2)基板
下記基板A~Cを、本発明の製造方法に用いて評価した。
基板A:PVD法を用いてシリカ基板上にルテニウム金属膜(厚み20nm)を形成したもの
基板B:PVD法を用いて基板A上にコバルト金属膜(厚み15nm)を形成したもの
基板C:シリカ基板
【0082】
本発明の製造方法で得られた銅含有層に対して、下記の方法で評価した。
【0083】
[1]二乗平均平方根(RMS)
銅含有層の厚み方向の断面について、FE-SEMを用いてRMS(nm)を計測した。RMSは、銅含有層の厚みの均一さを表す指標であり、RMSが小さいほど銅含有層の厚みが均一であると言える。RMSは、平均線から測定曲線までの偏差の二乗を平均した平方根であり、下記式(2)で表される。
【0084】
【0085】
式(2)において、Lは基準長さであり、Zは平均線から測定曲線までの高さを表す。
【0086】
[2]電気抵抗率
銅含有層の電気抵抗率(μΩcm)について、4端子法を用い測定を行った。
【0087】
[3]厚み
銅含有層の厚み(nm)について、X線反射率法による膜厚測定を行った。
【0088】
(実施例1~8、比較例1~5)
先ず、工程1として、表1に記載の温度になるように基板表面を加熱してから、水素ガスに対して、RF出力:100W、照射時間:20秒の条件でプラズマ処理して得られた水素プラズマを、基板に20秒間接触させて基板の表面を還元した。基板は、基板A~Cの中から選択して用いた。次に、工程2として、表2に記載の条件1又は2で、プラズマALD法により基板の表面に銅含有層を形成した。得られた銅含有層の評価結果を表1に示す。なお、比較例5は、基板に対する工程1を実施しない以外は、実施例1と同様にして銅含有層を形成した。
【0089】
【0090】
【0091】
比較例1~4の結果より、表面が珪酸化合物である基板(基板C)を用いた場合、均一な厚みの銅含有層を形成することができなかった。また、実施例2及び比較例5の結果より、水素プラズマで基板表面を還元させてからプラズマALD法により銅含有層を形成した場合は、基板表面を還元せずにプラズマALD法により銅含有層を形成した場合と比べて、銅含有層のRMS及び電気抵抗率が低下することが確認できた。
【0092】
以上より、本発明の製造方法によれば、均一な厚みを有し且つ電気抵抗率の低い銅含有層を形成することができる。