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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-26
(45)【発行日】2025-03-06
(54)【発明の名称】胆管癌のマーカーとしてのTIMP1
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/574 20060101AFI20250227BHJP
【FI】
G01N33/574 A ZNA
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023526202
(86)(22)【出願日】2020-10-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-01
(86)【国際出願番号】 EP2020079508
(87)【国際公開番号】W WO2022089710
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100157923
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴喰 寿孝
(72)【発明者】
【氏名】ダイヤニ,ファーシッド
(72)【発明者】
【氏名】マンク,アニカ
(72)【発明者】
【氏名】モーゲンスターン,デービッド
(72)【発明者】
【氏名】ロルニー,ビンツェント
(72)【発明者】
【氏名】スウィアテク-デ・ランゲ,マグダレーナ
【審査官】草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/219195(WO,A1)
【文献】ALI TUZUN INCE、他8名,Serum and biliary MMP-9 and TIMP-1 concentrations in the diagnosis of cholangiocarcinoma,Int J Clin Exp Med.,2015年02月18日,Vol.8,No.2,Pages.2734-2740,PMID: 25932227
【文献】WEN-JING ZHANG、他2名,MMP-2, MMP-9, TIMP-1, and TIMP-2 in the Peripheral Blood of Patients with Differentiated Thyroid Carcinoma,Cancer Manag Res.,2019年12月23日,Vol.11,Pages.10675-10681, doi: 10.2147/CMAR.S233776,PMID: 31920377
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者試料における胆管癌を評定するのを補助するためのin vitro方法であって、
a)前記患者試料中の組織メタロプロテアーゼ阻害物質1(TIMP1)のレベルを決定することであって、前記患者試料が、個体からの血清、血漿及び全血試料からなる群から選択される、前記患者試料中のTIMP1のレベルを決定することと、
b)工程(a)で決定されたTIMP1の前記レベルをTIMP1の基準レベルと比較することと、
c)工程(a)で決定された前記レベルをTIMP1の前記基準レベルと比較することによって前記患者試料における胆管癌を評定するのを補助するための、工程(b)での比較の結果を提供することであって、TIMP1の前記基準レベルと比較したTIMP1のレベルの上昇が、前記患者試料における胆管癌を示す、前記患者試料における胆管癌を評定するのを補助するための、工程(b)での比較の結果を提供することと
を含む、方法。
【請求項2】
工程(a)が、in vitroで、前記個体からの前記血清、血漿又は全血試料の一部を、TIMP1に対して特異的結合親和性を有する抗体又はその断片と接触させることであって、それにより、前記抗体又はその断片と、前記患者試料中に存在するTIMP1との間に複合体を形成し、前記抗体が、検出可能な標識を有する、接触させることと、
前記接触させる工程で形成された前記複合体を、前記複合体を含まない抗体又はその断片から分離することと、
前記接触させる工程で形成された前記複合体を含む前記抗体又はその断片の前記検出可能な標識からのシグナルを定量することであって、前記シグナルが、前記個体の前記患者試料中に存在するTIMP1の量に比例し、それにより、前記個体の前記試料中のTIMP1のレベルが、定量された前記シグナルに基づいて算出される、前記検出可能な標識からのシグナルを定量することと、を含み、且つ/又は
工程(b)が、前記定量する工程で決定された前記個体の前記患者試料内のTIMP1の前記算出されたレベル値を、TIMP1の基準レベルと比較することを含み、且つ/又は
工程(c)が、前記算出されたTIMP1のレベル値がTIMP1の前記基準レベルより大きい場合に、前記個体における胆管癌の評定を補助するための情報を提供することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗体又はその断片が免疫化動物から単離され、前記動物がマウス、ウサギ、ヒツジ、ニワトリ、ヤギ及びモルモットからなる群から選択される、請求項に記載の方法。
【請求項4】
工程(a)がサンドイッチ型イムノアッセイを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記工程(c)が、コンピューティングデバイスによって実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
患者試料における胆管癌を評定するのを補助するためのin vitro方法であって、
(a’)前記患者試料中の組織メタロプロテアーゼ阻害物質1(TIMP1)のレベルを決定することであって、前記患者試料が、個体からの血清、血漿及び全血試料からなる群から選択される、前記患者試料中のTIMP1のレベルを決定することと、
(b’)前記患者試料における胆管癌に対するマトリックスメタロプロテアーゼ-2(MMP2)のレベルを決定することと、
(c’)工程(a’)及び工程(b’)の前記決定結果を比較し、胆管癌を評定することを補助するための比較の結果を提供することであって、当該比較の結果は、工程(a’)で決定されたTIMP1の前記レベルをTIMP1の基準レベルと比較し、工程(b’)で決定されたMMP2の前記レベルをMMP2の基準レベルと比較することにより得られる、胆管癌を評定することを補助するための比較の結果を提供すること
を含む、方法。
【請求項7】
患者試料における胆管癌を評定するのを補助するためのin vitro方法であって、
(a’)前記患者試料中の組織メタロプロテアーゼ阻害物質1(TIMP1)のレベルを決定することであって、前記患者試料が、個体からの血清、血漿及び全血試料からなる群から選択される、前記患者試料中のTIMP1のレベルを決定することと、
(b’)前記患者試料における胆管癌に対するマトリックスメタロプロテアーゼ-2(MMP2)のレベルを決定することと、
(c’)工程(a’)及び工程(b’)の前記決定結果を比較し、胆管癌を評定することを補助するための比較の結果を提供することであって、工程(b’)で決定されたMMP2の前記レベル及び工程(a’)で決定されたTIMP1の前記レベルを統計的方法論に含めて、前記患者試料が胆管癌を有するか、又は胆管癌を発症するリスクがあるかどうかを示す出力値を生成することを含む、胆管癌を評定することを補助するための比較の結果を提供することと
を含む、方法。
【請求項8】
工程(a’)が、in vitroで、前記個体からの前記血清、血漿又は全血試料の一部を、TIMP1に対して特異的結合親和性を有する抗体又はその断片と接触させることであって、それにより、前記抗体又はその断片と、前記患者試料中に存在するTIMP1との間に複合体を形成し、前記抗体が、検出可能な標識を有する、接触させることと、
前記接触させる工程で形成された前記複合体を、前記複合体を含まない抗体又はその断片から分離することと、
前記接触させる工程で形成された前記複合体を含む前記抗体又はその断片の前記検出可能な標識からのシグナルを定量することであって、前記シグナルが、前記個体の前記患者試料中に存在するTIMP1の量に比例し、それにより、前記個体の前記試料中のTIMP1のレベルが、定量された前記シグナルに基づいて算出される、前記検出可能な標識からのシグナルを定量することと、を含み、且つ/又は
工程(b’)が、in vitroで、前記個体からの前記血清、血漿又は全血試料の一部を、MMP2に対して特異的結合親和性を有する抗体又はその断片と接触させることであって、それにより、前記抗体又はその断片と、前記患者試料中に存在するMMP2との間に複合体を形成し、前記抗体が、検出可能な標識を有する、接触させることと、
前記接触させる工程で形成された前記複合体を、前記複合体を含まない抗体又はその断片から分離することと、
前記接触させる工程で形成された前記複合体を含む前記抗体又はその断片の前記検出可能な標識からのシグナルを定量することであって、前記シグナルが、前記個体の前記患者試料中に存在するMMP2の量に比例し、それにより、前記個体の前記試料中のMMP2のレベルが、定量された前記シグナルに基づいて算出される、前記検出可能な標識からのシグナルを定量することと、を含む、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記工程(a’)及び前記工程(b’)のそれぞれが、サンドイッチ型イムノアッセイを含む、請求項6または7に記載の方法。
【請求項10】
前記工程(c’)が、コンピューティングデバイスによって実行される、請求項6または7に記載の方法。
【請求項11】
胆管癌と肝細胞癌とを鑑別するのを補助するための方法としての、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
肝硬変、慢性ウイルス性肝炎、アルコール過剰、非アルコール性脂肪性肝炎、糖尿病、肥満、肝胆道吸虫(hepatobiliary flukes)、原発性硬化性胆管炎(PSC)、胆道嚢胞、肝結石症、毒素、原発性胆汁性肝硬変(PBC)、原発性ヘモクロマトーシス及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるリスク管理対象と、胆管癌とを鑑別するのを補助するための方法としての請求項1に記載の方法。
【請求項13】
請求項1~5のいずれか一項又は請求項~12のいずれか一項に記載の方法を実施するためのキットであって、工程(a)又は工程(a’)で決定されたTIMP1の前記レベルを判断するために必要とされる試薬を含む、キット。
【請求項14】
請求項13に記載のキットであって、工程(b’)で決定されたMMP2の前記レベルを判断するために必要とされる試薬を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、患者試料における胆管癌を評定するためのin vitro方法、及び当該方法を実施するためのキットに関する。さらに、本発明は、胆管癌のin vitro評定における、それぞれ、マーカー分子としてのTIMP1、並びにTIMP1及びMMP2を含むマーカー組み合わせの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
胆管癌(CCA又はCCCと略す)は、胆管の上皮から生じる非常に致死的な悪性胆道腫瘍である。CCAは、全胃腸腫瘍の約3%を占め、肝細胞癌(HCCと略す)に次いで2番目に多い原発性肝腫瘍である。その解剖学的起源に基づいて、CCAは、肝内(iCCAと略す)、肺門周囲(pCCAと略す)、又は遠位(dCCAと略す)CCAとして分類される(Rimola J.et al.,Hepatology,2009,50(3):791-798)。CCA、特にiCCAの発生率は増加しているようであり、西洋では100,000人年当たり2.1人と高く、タイ北東部で最も高いことが知られている(100,000あたり80超;Martha M.Kirstein,Arndt Vogel,Epidemiology and Risk Factors of Cholangiocarcinoma,Visc Med 2016;32:395-400)。
【0003】
CCAは、肝硬変、慢性ウイルス性肝炎、アルコール過剰、糖尿病及び肥満を含むHCCと同様の危険因子を有する。CCAについての更に十分に確立された危険因子は、慢性胆管炎症、例えば肝胆道吸虫(hepatobiliary flukes)、原発性硬化性胆管炎(PSCと略す)、胆道嚢胞、肝結石症及び毒素に関連する(Bridgewater J.et al.,J Hepatol.2014,6:1268-893,8-14;Khan S.A.et al.,Consensus document.Gut.,2002,51 Suppl 6:VI1-9;Khan S.A.et al.,Gut.2012,61(12):1657-1669;Alvaro D.et al.,Dig Liver Dis.,2010,42:831-838;Benavides M.et al.,Clin Transl Oncol.,2015,17:982-987;Benson III A.B.et al.,J Natl Compr Canc Netw.,2009,7:350-391;Cai J.Q.et al.,J Huazhong Univ Sci Technolog Med Sci.,2014,34:469-475;Rerknimitr R.et al.,J Gastroenterol Hepatol.,2013,28:593-607)。
【0004】
CCA診断は複雑であることが多く、良性構造と悪性構造を区別し、CCAを他の原発性肝腫瘍、主にHCC及び複合HCC-CCAと鑑別し、腫瘍を病期分類及びグレード分類するために、複数の診断様式の使用を必要とする。CCA、特にiCCAとHCCとの間の鑑別は、手術計画及び予後評定に不可欠である。画像化方法は、動的コンピュータ断層撮影スキャンのように、胆管癌に特徴的な遅延相での不均一な造影剤取り込み及び造影剤流出の非存在に基づいてHCCとCCAとを鑑別することができる(Rimola J.et al.,Hepatology 2009,50(3):791-798)。しかしながら、肝内胆管癌のこれらの古典的な特徴は、全てのCCA症例に普遍的に存在するわけではない(Iavarone M.et al.,J Hepatol.,2013,58:1188-93;Kim S.H.et al.,J Comput Assist Tomogr.,2012,36:704-09)。
【0005】
今日まで、CCAの特異的診断に利用可能な特異的な血液検査はない。炭水化物抗原CA19-9及びCA-125、並びに癌胎児性抗原CEAは、疑わしいCCAに対して最も広く使用されているマーカーであるが、それらの診断能力は非常に限られている。CA19-9は、膵臓癌、結腸直腸癌、及び胃癌、並びにPSC(原発性硬化性胆管炎)及び閉塞性黄疸等の非悪性症状で上昇する。さらに、ルイス抗原を欠く患者(一般集団の10%)はCA19-9を産生することができず、したがって試験から利益を得ない。CCA患者におけるCA19-9の感受性及び特異性は、それぞれ40%~70%及び50%~80%の範囲であり、陽性予測値は16%~40%である。CEAはCCA患者の20~30%で上昇するが、CA-125はおよそ40%~50%で上昇し、これは正確な診断には不十分である(Alsaleh M.et al.,Int J Gen Med.,2018,12:13-23;Khan S.A.et al.,Gut.,2002,51 Suppl 6:VI1-9;Patel A.H.et al.,Am J Gastroenterol,2000,95:204-207;Hultcrantz R.et al.,J Hepatol,1999,30:669-673)。これらの制限は主要な国際ガイドラインによって認識されており、CEA及びCA19-9測定は、胆管癌管理における支持的なツールとしてのみ推奨されるが、診断ツールとしては推奨されない(Khan S.A.et al.,Consensus document.Gut.,2002,51 Suppl 6:VI1-9;Khan S.A.et al.,Gut.2012,61(12):1657-1669;Alvaro D.et al.,Dig Liver Dis.,2010,42:831-838;Benavides M.et al.,Clin Transl Oncol.,2015,17:982-987;Benson III A.B.et al.,J Natl Compr Canc Netw.,2009,7:350-391;Cai J.Q.et al.,J Huazhong Univ Sci Technolog Med Sci.,2014,34:469-475;Rerknimitr R.et al.,J Gastroenterol Hepatol.,2013,28:593-607)。
【0006】
したがって、CCAのより具体的な診断及び層別化のための新規バイオマーカーの同定は、肝内胆管癌の診断及び管理のための現在のEASLガイドラインによって満たされていない医療ニーズの1つとして認識されている(Bridgewater J.,J Hepatol.,2014,6:1268-89)。
【0007】
上記のように、胆管癌の診断及び鑑別診断のための現在の方法はいずれも、大きな欠点を有する。
【0008】
超音波:超音波検査(USと略す)は、胆石を除外するために信頼性があるが、操作者に依存し、疑わしいCCAを調査するためには単独では不十分である。USは小さな腫瘍を見逃す可能性があり、腫瘍の範囲を正確に定義することができない(Khan S.A.et al.,Gut.,2002,51 Suppl 6:VI 1-9;Khan S.A.et al.,Gut.2012,61(12):1657-1669)。日本のガイドライン及び2002年版のBSGガイドラインのみが、診断アルゴリズムに含まれる初期検査にUSを推奨した(Khan S.A.et al.,Gut.,2002,51 Suppl 6:VI 1-9;Khan S.A.et al.,Gut.,2012,61(12):1657-1669)。
【0009】
造影増強超音波(CEUSと略す)は、ベースライン超音波と比較して、肝内胆管癌(iCCA)とHCCとの鑑別において診断性能を有意に改善するが、その性能は、Chen L.D.et al.,Eur Radiol.,2010,20(3):743-53報告されているように、リーダ依存性が強く、AUCが0.650から0.933まで変動する。さらに、小型ICCの診断におけるCEUSの有用性は知られていない。
【0010】
高分解能/スパイラルコンピュータ断層撮影法(CTと略す):造影CTは、CCA検出に対してUSよりも高い感受性(最大80%)を有し、肝内腫瘤病変、拡張した肝内管、限局性リンパ節腫脹及び肝外転移の良好な視野を提供する。しかしながら、HCC(Sun H.and Song T.Drug Discov Ther.,2015,9:310-318)とは異なり、CT又は磁気共鳴画像法(MRIと略す)の放射線学的基準はCCAの診断に不感である。したがって、CCAの確定診断には病理診断が必要である。さらに、CT/MRIは、小さな病変を見逃す可能性がある(Chen L.D.et al.,Eur Radiol.,2010,20(3):743-53;Hanninen E.L.et al.,Acta Radiol.,2005,46:462-470)。
【0011】
血清腫瘍マーカー:炭水化物抗原CA19-9及びCA-125、並びに癌発生抗原CEAは、最も使用されている血清腫瘍マーカーである。それらの血液腫瘍マーカーはいずれも、他の良性疾患との有意な重複及び早期疾患に対する低い感受性を有し、診断へのそれらの使用を制限する。iCCAに対するCA19-9の感受性及び特異性は、それぞれわずか62%及び63%である。CEAの診断性能は、CCA患者の20~30%でしか上昇しないため、更に低く、これに対してCA-125はおよそ40%~50%上昇し、これは正確な診断には不十分である(Alsaleh M.et al.,Int J Gen Med.,2018,12:13-23;Khan S.A.et al.,Gut.,2002,51 Suppl 6:VI1-9;Patel A.H.et al.,Am J Gastroenterol,2000,95:204-207;Hultcrantz R.et al.,J Hepatol,1999,30:669-673)。
【0012】
全血、血清又は血漿は、臨床ルーチンにおいて患者試料の最も広く使用されている供給源である。信頼できるCCA検出に役立つか又は早期予後情報を提供する早期CCAマーカーの同定は、この疾患の診断及び管理に大いに役立つ方法につながる可能性がある。
【0013】
したがって、CCAのin vitro評定を改善するための緊急の臨床的必要性が存在する。CCAの初期段階で診断された患者では、疾患のより進行した段階で診断された患者と比較して、胆管損傷の可逆性の可能性がはるかに高いため、CCAの早期診断を改善することが特に重要である。
【0014】
CCAの症候を上記の他の呼吸器疾患の症状から確実に区別するため、疾患重症度、疾患進行及び薬剤に対する応答の変化を予測するために、CCA疾患状態の信頼できる直接的な指標を同定することが当技術分野で強く必要とされている。
【0015】
本発明の目的は、例えばCCAを有する疑いのある個人を同定するための、CCA評定の簡単で費用効率の高い手順を提供することである。特に、本発明の目的は、患者試料における胆管癌を評定するためのin vitro方法及び当該方法を実施するためのキットを提供することである。さらに、本発明の目的は、胆管癌のin vitro評定における、それぞれ、マーカー分子としてのTIMP1、並びにTIMP1及びMMP2を含むマーカー組み合わせの使用に関する。
【0016】
この目的又はこれらの目的は、独立請求項の主題によって解決される。更なる実施形態は、従属請求項に従う。
【発明の概要】
【0017】
発明の概要
組織メタロプロテアーゼ阻害物質1(TIMP1)の使用は、現在知られているCCAの評定に利用可能な方法の問題のいくつかを少なくとも部分的に克服することができることがここで見出された。
【0018】
驚くべきことに、患者試料中のTIMP1のレベルを決定する工程を含むin vitro方法がCCAの評定を可能にすることが本発明において見出された。これに関連して、TIMP1の基準レベルと比較した、個体から得られたそのような試料中の当該TIMP1のレベルの上昇が、CCAの存在を示すことが見出された。
【0019】
第1の態様では、本発明は、患者試料における胆管癌を評定するためのin vitro方法であって、
a)患者試料中の組織メタロプロテアーゼ阻害物質1(TIMP1)のレベルを決定することであって、患者試料が、個体からの血清、血漿及び全血試料からなる群から選択される、患者試料中のTIMP1のレベルを決定することと、
b)工程(a)で決定されたTIMP1のレベルをTIMP1の基準レベルと比較することと、
c)工程(a)で決定されたレベルをTIMP1の基準レベルと比較することによって患者試料における胆管癌を評定することであって、TIMP1の基準レベルと比較したTIMP1のレベルの増加が、患者試料における胆管癌を示す、患者試料における胆管癌を評定することと、を含む方法に関する。
【0020】
第2の態様では、本発明は、TIMP1の基準レベルを上回るTIMP1のレベルが胆管癌を示す、個体の血清、血漿又は全血試料における胆管癌のin vitro評定におけるマーカー分子としてのTIMP1の使用に関する。
【0021】
第3の態様では、本発明は、TIMP1及びMMP2のレベルが胆管癌を示す、個体の血清、血漿又は全血試料における胆管癌のin vitro評定におけるTIMP1及びMMP2を含むマーカー組み合わせの使用に関する。本発明の第3の態様によれば、TIPM1及びMMP2のレベルは、特に、検出されたTIMP1及びMMP2のレベル又はTIMP1及びMMP2の検出を意味することができる。
【0022】
第4の態様では、本発明は、患者試料における胆管癌を評定するためのin vitro方法であって、
(a’)患者試料中の組織メタロプロテアーゼ阻害物質1(TIMP1)のレベルを決定することであって、患者試料が、個体からの血清、血漿及び全血試料からなる群から選択される、患者試料中のTIMP1のレベルを決定することと、
(b’)患者試料における胆管癌に対するマトリックスメタロプロテアーゼ-2(MMP2)のレベルを決定することと、
(c’)工程(a’)及び工程(b’)の決定結果を比較することによって胆管癌を評定することであって、TIMP1及びMMP2のレベルがCCAを示す、胆管癌を評定することと、を含む方法に関する。本発明の第4の態様によれば、TIPM1及びMMP2のレベルは、特に、検出されたTIMP1及びMMP2のレベル又はTIMP1及びMMP2の検出を意味することができる。
【0023】
第5の態様では、本発明は、工程(a)又は工程(a’)で決定されたTIMP1のレベルを判断し、任意に、工程(b’)で決定されたMMP2のレベルを判断するために必要とされる試薬を含む、当該方法の少なくとも1つを実施するためのキットに関する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、55例のCCA(CCC)試料、219例のHCC試料及び632例のリスク管理対象試料により決定されたTIMP1レベル値(ng/ml単位の濃度値)のボックスプロット分布を示す。
図2図2は、AUCが0.939である、CCA対リスク管理対象試料の受信者操作特性(のプロットROCプロット、単変量解析)、及びAUCが0.715である、CCA対HCC試料の受信者操作特性のプロット(ROCプロット)を示す図である。X軸:1-特異性(偽陽性);Y軸:感受性(真陽性)。
図3図3は、55例のCCA(CCC)試料、並びに851例のHCC及びリスク管理対象試料により決定されたTIMP1レベル値(ng/ml単位の濃度値)のボックスプロット分布を示す。
図4図4は、AUCが0.881である、HCC+リスク管理対象からCCAを鑑別する際のTIMP1の受信者操作特性のプロット(ROCプロット、単変量解析)を示す図である。X軸:1-特異性(偽陽性);Y軸:感受性(真陽性)。
図5図5は、55例のCCA(CCC)試料及び219例のHCC試料によるマーカー組み合わせTIMP1とMMP2の多変量スコアのボックスプロット分布を示す。
図6図6は、AUCが0.922である、HCCからCCAを鑑別する際のマーカー組み合わせTIMP1とMMP2の受信者操作特性のプロット(ROCプロット、多変量解析)を示す。X軸:1-特異性(偽陽性);Y軸:感受性(真陽性)。
図7図7は、55例のCCA(CCC)試料及び632例のリスク管理対象試料によるマーカー組み合わせTIMP1とMMP2の多変量スコアのボックスプロット分布を示す。
図8図8は、AUCが0.977である、リスク管理対象からCCAを鑑別する際のマーカー組み合わせTIMP1とMMP2の受信者操作特性のプロット(ROCプロット、多変量解析)。X軸:1-特異性(偽陽性);Y軸:感受性(真陽性)。
図9図9は、55例のCCA(CCC)試料及び851例のHCC+リスク管理対象試料によるマーカー組み合わせTIMP1とMMP2の多変量スコアのボックスプロット分布を示す。
図10図10は、AUCが0.957である、HCC+リスク管理対象からCCAを鑑別する際のマーカー組み合わせTIMP1とMMP2の受信者操作特性のプロット(ROCプロット、多変量解析)。X軸:1-特異性(偽陽性);Y軸:感受性(真陽性)。
【発明を実施するための形態】
【0025】
発明の詳細な説明
本発明を以下に詳細に説明する前に、本発明は、本明細書に記載の特定の実施形態及び例に限定されず、これらは変化し得ることを理解されたい。本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とし、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することを意図しないことも理解されるべきである。別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、当該技術分野の当業者によって一般的に理解されている意味と同じ意味を有する。
【0026】
いくつかの文献が本明細書中で引用されている。本明細書に引用されている各文献(全ての特許、特許出願、科学出版物、製造者の仕様書、説明書等を含む)は、上記であろうと以下であろうと、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。このように組み込まれた参照の定義又は教示と、本明細書に引用された定義又は教示との間に矛盾がある場合には、本明細書の本文が優先する。
【0027】
以下、本発明の各要素について説明する。これらの要素は特定の実施形態と共に列挙されているが、これらは任意の方法及び任意の数で組み合わせて追加の実施形態を作成することができることを理解されたい。種々の説明された実施例及び好ましい実施形態は、本発明を明示的に説明された実施形態のみに限定するように解釈されるべきではない。この記載は、明示的に記載された実施形態を任意の数の開示及び/又は好ましい要素と組み合わせる実施形態を支持し、かつ包含するものと理解されるべきである。さらに、本出願に記載されている全ての要素の任意の順列及び組み合わせは、文脈が別段の意味を示さない限り、本出願の説明によって開示されていると考えるべきである。
【0028】
定義
「含む(comprise)」という単語、並びに「含む(comprises)」及び「含むこと(comprising)」のような変形は、記載された整数若しくは工程又は整数若しくは工程のグループの包含を意味するが、いかなる他の整数若しくは工程又は整数若しくは工程のグループの除外を意味しないことが理解されよう。
【0029】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、別途内容が明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。
【0030】
「in vitro方法」という用語は、この方法が生物の外部で、好ましくは体液、単離された組織、器官又は細胞に対して行われることを示すために使用される。
【0031】
「胆管癌(CCA)の評定」という用語は、本発明による方法が、例えば医師を含む医療専門家が、個体が疾患CCAを有するか、又は疾患CCAを発症するリスクがあるかを評定するのを補助することを示すために使用される。
【0032】
「基準レベルを上回るTIMP1のレベル」は、個体が疾患CCAを有すること、又は個体が疾患CCAを発症する若しくは疾患CCAの経過を予後判断するリスクがあることを示す。本明細書で使用される場合、「基準レベル」又は基準試料という用語は、試料又は目的の試料のレベルと実質的に同一の方法で分析され、その情報が目的の試料の情報と比較される試料又は試料のレベルを指す。それにより、基準レベル又は基準試料は、目的の試料から得られた情報の評価を可能にする標準を提供する。基準レベル又は基準試料は、健康又は正常な組織、器官又は個体に由来し得、それによって組織、器官又は個体の健康状態の標準を提供する。正常な基準試料又は正常な基準レベルの状態と目的の試料の状態との間の差は、疾患発症のリスク又はそのような疾患若しくは障害の存在若しくは更なる進行を示し得る。基準試料基準レベルは、異常な又は罹患した組織、器官、又は個体に由来することができ、それにより、組織、器官、又は個体の健康状態の標準を提供し得る。異常な基準試料又は異常な基準レベルの状態と目的の試料の状態との間の差は、疾患発症のリスクの低下又はそのような疾患若しくは障害の欠如若しくは改善を示し得る。
【0033】
指標の「上昇」又は「増加」レベルという用語は、基準又は基準試料中のそのような指標のレベルと比較して、試料中のそのような指標のレベルが高いことを指す。例えば、所与の疾患に罹患している1個体の流体試料中で、当該疾患に罹患していない個体の同じ流体試料中よりも高い量で検出可能なタンパク質は、上昇したレベルを有する。
【0034】
本明細書で使用される場合、「バイオマーカー」又は「マーカー」又は「生化学的マーカー」又は「マーカー分子」という用語は、患者の試験試料を分析するための標的として使用される分子を指す。一実施形態では、そのような分子標的の例は、タンパク質又はポリペプチドである。本発明においてマーカーとして使用されるタンパク質又はポリペプチドは、当該タンパク質の天然に存在するフラグメント、特に免疫学的に検出可能な断片を含むと考えられる。免疫学的に検出可能な断片は、好ましくは、当該マーカーポリペプチドの少なくとも6、7、8、10、12、15又は20個の連続したアミノ酸を含む。当業者は、細胞によって放出されるか又は細胞外マトリックス中に存在するタンパク質が、例えば炎症中に損傷され得、分解されるか又はそのような断片に切断され得ることを認識するであろう。特定のマーカーは不活性形態で合成され、その後タンパク質分解によって活性化され得る。当業者が理解するように、タンパク質又はその断片も複合体の一部として存在し得る。そのような複合体はまた、本発明の意味においてマーカーとして使用され得る。加えて、又は代替において、マーカーポリペプチドは翻訳後修飾を保有し得る。とりわけ翻訳後修飾の例は、グリコシル化、アシル化、及び/又はリン酸化である。本明細書で使用される場合、「バイオマーカー」又は「マーカー」という用語は、一般に、遺伝子、タンパク質、炭水化物構造、又は糖脂質、代謝産物、mRNA、miRNA、タンパク質、DNA(cDNA又はゲノムDNA)、DNAコピー数を含む分子、又はエピジェネティックな変化、例えばDNAメチル化の増加、減少若しくは変化(例えば、シトシンメチル化、又はCpGメチル化、非CpGメチル化);ヒストン修飾(例えば、(脱)アセチル化、(脱)メチル化、(脱)リン酸化、ユビキチン化、SUMO化、ADP-リボシル化);ヌクレオソームの配置の変化を指し、哺乳動物の組織又は細胞の中又は上でのそれらの発現又は存在を標準的な方法(又は本明細書に開示される方法)によって検出することができ、処置レジメンに対する哺乳動物の細胞又は組織の感受性の予測、診断及び/又は予後診断とすることができる。
【0035】
本明細書で使用される場合、「試料」又は「患者試料」という用語は、in vitroでの評価を目的として得られた生物学的試料を指す。本発明の方法において、試料又は患者試料は、好ましくは、任意の体液を含み得る。試験試料には、血液、血清、血漿、尿、唾液及び滑液が含まれる。好ましい試料は、全血、血清又は血漿である。当業者が理解するように、任意のそのような評定はin vitroで行われる。患者試料はその後廃棄される。患者試料は、本発明のin vitro方法にのみ使用され、患者試料の材料は、患者の体内に戻されない。
【0036】
本明細書における「患者」又は「対象」という用語は、疾患CCAの1つ以上の徴候、症候、又は他の指標を経験しているか又は経験したことがある処置に適格な任意の単一のヒト対象である。対象として含まれることが意図されるのは、いかなる疾患の臨床徴候も示さない臨床研究試験に関与する任意の対象、又は疫学的研究に関与する対象、又は対照として一度使用された対象である。
【0037】
「個体」は哺乳動物である。哺乳動物としては、家畜動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ及びウマ)、霊長類(例えば、ヒト及び非ヒト霊長類、例えば、サル)、ウサギ及びげっ歯類(例えば、マウス及びラット)が挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、個体は、ヒトである。
【0038】
本明細書で使用される場合、バイオマーカーのレベルを「判断する」という用語は、バイオマーカーの定量化、例えば、本明細書の他の箇所に記載される適切な検出方法を使用して、試料中のバイオマーカーのレベルを決定又は測定することを指す。
【0039】
特定の実施形態では、本明細書の「基準レベル」という用語は、所定の値を指す。これに関連して、「レベル」又は「レベル値」は、絶対量、相対量又は濃度、並びにそれらと相関するか又はそれらから導出され得る任意の値又はパラメータを包含する。当業者は、基準レベルが予め決定され、例えば特異性及び/又は感受性に関して日常的な要件を満たすように設定されることを理解するであろう。これらの要件は、例えば、規制機関ごとに異なり得る。例えば、アッセイの感受性又は特異性は、それぞれ、ある特定の限界、例えば、80%、90%、95%、又は98%にそれぞれ設定されなければならない場合がある。これらの要件はまた、正の予測値又は負の予測値に関して定義されても良い。それにもかかわらず、本発明で与えられる教示に基づいて、当業者がそれらの要件を満たす基準レベルに到達することは常に可能である。一実施形態では、基準レベルは、健康な個体からの基準試料で決定される。一実施形態における基準レベルは、患者が属する疾患実体からの基準試料において予め決定されている。特定の実施形態では、基準レベルは、例えば、調査する疾患における値の分布全体の25%と75%の間の任意の割合に設定され得る。他の実施形態では、基準レベルは、例えば、調査される疾患実体からの基準試料中の値の全体分布から決定される中央値、3分位数又は4分位数に設定することができる。一実施形態では、基準レベルは、調査する疾患における値の分布全体から決定して、中央値に設定される。基準レベルは、年齢、性別又は亜集団等の様々な生理学的パラメータ、並びにバイオマーカーTIMP1、及び任意に本明細書で言及されるTIMP1とMMP2との組み合わせの決定に使用される手段に応じて異なり得る。一実施形態では、基準試料は、本発明の方法に供される個体又は患者からの試料と本質的に同じタイプの細胞、組織、器官又は体液源に由来し、例えば、本発明によれば、個体におけるバイオマーカーTIMP1及び任意にMMP2のレベルを決定するための試料として血液が使用される場合、基準レベルはまた、血液又はその一部において決定される。
【0040】
特定の実施形態では、「基準レベルを上回る、又は基準レベルと比較して増加したレベルのバイオマーカー」という用語は、基準レベルを上回る個体若しくは患者からの試料中のバイオマーカーのレベル、又は基準レベルと比較して、本明細書に記載の方法によって決定される、5%、10%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、100%以上の全体的な増加を指す。特定の実施形態では、増加という用語は、個体又は患者からの試料中のバイオマーカーレベルの増加を指し、増加は、例えば、基準試料から予め決定された基準レベルと比較して、少なくとも約1.5倍、1.75倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、15倍、20倍、25倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、75倍、80倍、90倍又は100倍高い。
【0041】
特定の実施形態では、本明細書の「減少」又は「~を下回る」という用語は、基準レベル未満の個体又は患者からの試料中のバイオマーカーのレベル、又は基準レベルと比較して、本明細書に記載の方法によって決定される、5%、10%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%以上の全体的な減少を指す。特定の実施形態では、個体又は患者からの試料中のバイオマーカーレベルの減少という用語、レベルの減少は、例えば、基準試料から予め決定された基準レベルと比較して、最大で約0.9倍、0.8倍、0.7倍、0.6倍、0.5倍、0.4倍、0.3倍、0.2倍、0.1倍、0.05倍又は0.01倍以下である。
【0042】
「胆管癌を示す」又は「個体がCCAを有することを示す」という用語は、バイオマーカーTIMP1のレベル、及び任意にTIMP1とMMP2との組み合わせが非常に有益であるが、エラーなしに診断するものではないことを示すために使用される。疾患CCAを有する患者の全て(100%)において、バイオマーカーTIMP1のレベルが基準レベルを上回っているわけではなく、全ての健康な個体において、バイオマーカーTIMP1のレベルが基準レベルを下回っているわけではない。当業者が理解するように、多くの疾患において、生化学的マーカーは100%の特異性及び同時に100%の感受性を有さない。そのような場合、例えば、疾患CCAにおけるバイオマーカーTIMP1及び任意にMMP2との組み合わせのレベルに関して、評定は、一定の可能性で、例えば所与の特異性レベル又は所与の感受性レベルで行われる。当業者は、特異性、感受性、陽性予測値、陰性予測値、基準値又は総誤差を計算するために使用される数学的/統計的方法に完全に精通している。これらのパラメータのいずれかを計算し、疾患CCAの存在又は非存在の指標を得るために使用することができる。
【0043】
本明細書で使用される場合、「比較」という用語は、個体又は患者からの試料中のバイオマーカーのレベルを、本明細書の他の箇所で指定されるバイオマーカーの基準レベルと比較することを指す。本明細書で使用する場合の比較することは、通常、対応するパラメータ又は値の比較を指し、例えば、絶対量は基準の絶対量と比較されるのに対し、濃度は基準の濃度と比較され、又は試料中のバイオマーカーから得られた強度シグナルは基準試料から得られた同じ種類の強度シグナルと比較されることを理解されたい。比較は、手動又はコンピュータ支援により実行することができる。したがって、比較は、コンピューティングデバイス(例えば、本明細書に開示されるシステム)によって実行することができる。個体又は患者からの試料中のバイオマーカーの測定又は検出されたレベルの値及び基準レベルは、例えば、互いに比較することができ、当該比較は、比較のためのアルゴリズムを実行するコンピュータプログラムによって自動的に実行することができる。当該評価を実施するコンピュータプログラムは、適切な出力形式で、所望の評定を提供する。コンピュータを利用した比較のために、決定された量の値は、コンピュータプログラムにより、データベースに保存されている適切な基準に相当する値と比較されてもよい。コンピュータプログラムは、比較の結果を更に評価してもよく、すなわち、適切な出力形式で所望の評定を自動的に提供してもよい。コンピュータを利用した比較のために、決定された量の値は、コンピュータプログラムにより、データベースに保存されている適切な基準に相当する値と比較されてもよい。コンピュータプログラムは、比較結果を更に評価してもよく、すなわち、好適なアウトプット様式で所望の評定を自動的に提供してもよい。
【0044】
「工程(a)で決定されたレベルをTIMP1の基準レベルと比較する工程」という表現は、いずれにせよ当業者に明らかなことを更に説明するために使用されているにすぎない。基準試料は、内部又は外部の対照試料であり得る。一実施形態では、内部基準試料を使用して、すなわち、試験試料並びに同じ対象から採取した1つ以上の他の試料(複数可)で、マーカーレベル(複数可)を評定して、当該マーカー(複数可)のレベル(複数可)に変化があるかどうかを判断する。別の実施形態では、外部基準試料が使用される。外部の基準試料については、個体に由来する試料中のマーカーの存在又は量を、所与の症状に罹患していることが知られている、若しくはそのリスクがあることが知られている個体;又は所与の症状がないことが知られている個体(すなわち「正常な個体」)中のマーカーの存在又は量と比較する。例えば、患者試料中のマーカーレベルを、CCAにおける疾患の特定の経過に関連することが知られているレベルと比較することができる。通常、試料のマーカーレベルは、診断と直接的又は間接的に相関し、マーカーレベルは、例えば、個体がCCAのリスクがあるかどうかを判断するために使用される。あるいは、試料のマーカーレベルは、例えば、CCA患者における治療に対する応答に関連することが知られているマーカーレベルと比較することができる。意図する診断用途に応じて、適切な基準試料が選択され、その中にマーカーの対照値又は基準値が設定される。一実施形態におけるそのような基準試料は、年齢が一致し、交絡疾患がない基準集団から得られることが当業者によって理解されるであろう。当業者にも明らかなように、基準試料で設定された絶対マーカー値は、使用されるアッセイに依存する。好ましくは、適切な基準集団からの十分に特徴付けられた100人の個体からの試料を使用して、基準値を確立する。また好ましい基準集団は、20、30、50、200、500又は1000個の個体からなるように選択され得る。健康な個体は、対照又は基準値を確立するための好ましい基準集団を表す。
【0045】
本明細書で使用される場合、「評定を提供する」という語句は、患者の試料中のTIMP1及び任意にMMP2のレベル又は存在に関して生成された情報又はデータを使用して、患者のCCAを評定することを指す。情報又はデータは、文書、音声、又は電子のいかなる形態であってもよい。いくつかの実施形態では、生成された情報又はデータを使用することは、通信、提示、報告、記憶、送信、移行、供給、発信、施行、又はこれらの組み合わせを含む。いくつかの実施形態では、通信、提示、報告、記憶、送信、移行、供給、発信、施行、又はこれらの組み合わせは、コンピュータデバイス、分析器ユニット、又はこれらの組み合わせによって行われる。いくつかの更なる実施形態では、通信、提示、報告、記憶、送信、移行、供給、発信、施行、又はこれらの組み合わせは、研究員又は医療専門家によって行われる。いくつかの実施形態では、情報又はデータは、TIMP1のレベルの評定を含み、任意にMMP2と組み合わせて、それぞれTIMP1及びMMP2の確立された基準レベルまでの評価を含む。いくつかの実施形態では、情報又はデータは、TIMP1及び任意にMMP2が試料中に存在する又は存在しないという指示を含む。いくつかの実施形態では、情報又はデータは、患者がCCAで評定されたという指示を含む。
【0046】
「抗体及びその断片」という用語は、本明細書では最も広い意味で使用され、限定されるものではないが、それらが所望の抗原結合活性を呈する限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及び抗体断片を含めた、様々な抗体構造を包含する。特に、抗体は、本明細書では「結合剤」として使用される。「結合剤」という用語は、対応する標的バイオマーカーTIMP1及び/又はMMP2分子に特異的に結合する結合部分を含む分子を指す。「結合剤」の例は、核酸プローブ、核酸プライマー、DNA分子、RNA分子、アプタマー、抗体、抗体断片、ペプチド、ペプチド核酸(PNA)又は化学物質である。したがって、抗体又はその断片は、それぞれTIMP1及びMMP2に対する特異的結合親和性を有する。
【0047】
「特異的な結合」又は「を特異的に結合する」という用語は、結合対の分子が、別の分子に有意に結合しない条件下で、互いへの結合を呈する結合反応を指す。
【0048】
「特異的結合」又は「特異的に結合する」という用語は、抗体又は結合剤としてのタンパク質又はペプチドに言及する場合、結合剤が少なくとも10-7Mの親和性で対応する標的分子に結合する結合反応を指す。「特異的な結合」又は「特異的に結合する」という用語は、その標的分子に対して、好ましくは少なくとも10-8M、又は更により好ましくは少なくとも10-9Mの親和性を指す。「特異的な」又は「特異的に」という用語は、試料中に存在するその他の分子が、標的分子に特異的な結合剤に、有意に結合しないことを示すために使用される。好ましくは、標的分子以外の分子への結合レベルは、標的分子に対する親和性のわずか10%以下、より好ましくはわずか5%以下の結合親和性をもたらす。
【0049】
「特異的結合」又は「特異的に結合する」という用語は、結合剤としての核酸に言及する場合、結合剤又はプローブが目的の標的配列に正確に又は実質的に相補的なハイブリダイズ領域を含むハイブリダイゼーション反応を指す。十分にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で結合剤又はプローブを使用して実施されるハイブリダイゼーションアッセイは、特定の標的配列の選択的検出を可能にする。ハイブリダイズ領域は、好ましくは約10~約35ヌクレオチド長、より好ましくは約15~約35ヌクレオチド長である。当技術分野で周知のハイブリダイゼーション安定性に影響を及ぼす修飾塩基又は塩基類縁体の使用は、同等の安定性を有するより短い又はより長いプローブの使用を可能にし得る。結合剤又はプローブは、完全にハイブリダイズ領域からなることができるか、又はプローブの検出若しくは固定化を可能にするが、ハイブリダイズ領域のハイブリダイゼーション特性を有意に変化させない追加の特徴を含むことができる。
【0050】
「特異的結合」又は「特異的に結合する」という用語は、結合剤としての核酸アプタマーに言及する場合、核酸アプタマーが低nM~pM範囲の親和性で対応する標的分子に結合する結合反応を指す。
【0051】
「検出可能な標識」という用語は、抗体の検出を助けるための抗体への特異的タグの結合である。多数の標識(色素とも称する)が利用可能であり、これらは概して、以下の区分に分類することができ、区分は全てまとまっており、及びその各々が本開示による実施形態を表している:
【0052】
(a)蛍光色素
蛍光色素は、例えば、Briggs et al“Synthesis of Functionalized Fluorescent Dyes and Their Coupling to Amines and Amino Acids,”J.Chem.Soc.,Perkin-Trans.1(1997)1051-1058)によって記載されている。
【0053】
蛍光標識又は蛍光体には、希土類キレート(ユーロピウムキレート)、フルオレセイン型標識(FITC、5-カルボキシフルオロセイン、6-カルボキシフルオロセインを含む)、ローダミン型標識(TAMRAを含む)、ダンシル、リサミン、シアニン、フィコエリトリン、テキサスレッド、及びこれらの類縁体が含まれる。蛍光標識は、本明細書に開示される技術を使用して、標的分子内に含まれるアルデヒド基に結合させることができる。蛍光色素及び蛍光標識試薬には、Invitrogen/Molecular Probes(Eugene,Oregon,USA)及びPierce Biotechnology,Inc.(Rockford,Ill.)から市販されるものが含まれる。
【0054】
(b)発光色素
発光色素又は標識は、化学発光色素及び電気化学発光色素に更に下位分類することができる。
【0055】
化学発光標識の異なるクラスには、ルミノール、アクリジニウム化合物、セレンテラジン及び類縁体、ジオキセタン、ペルオキシシュウ酸及びペルオキシシュウ酸誘導体に基づく系が含まれる。免疫診断手順のためには、主にアクリジニウム系標識が使用される(詳細な概要は、Dodeigne C.et al.,Talanta51(2000)415-439において付与されている)。
【0056】
電気化学発光標識として使用される主な関連性のある標識は、それぞれルテニウム及びイリジウム系の電気化学発光錯体である。電気化学発光(ECL)は、高感度で選択的な方法として分析用途に非常に有用であることが証明された。ECLは、化学発光分析の分析上の利点(背景光信号の非存在)を、電極電位を適用することによる反応制御の容易さと組み合わせている。概して、ルテニウム錯体、特に液相又は液固界面においてTPA(トリプロピルアミン)を用いて再生する [Ru(Bpy)2+(約620nmで光子を放出)がECL標識として使用される。近年、イリジウム系ECL標識も記載されている(国際公開第2012/107419号A1)。
【0057】
(c)放射性標識は、H、11C、14C、18F、32P、35S、64Cu、68Gn、86Y、89Zr、99TC、111In、123I、124I、125I、131I、133Xe、177Lu、211At又は131Bi等の放射性同位体(放射性核種)を利用する。
【0058】
(d)イメージング及び治療目的のための標識として適切な金属キレート錯体は当技術分野でよく知られている(米国特許出願公開第2010/0111856号;米国特許第5,342,606号;米国特許第5,428,155号;米国特許第5,316,757号;米国特許第5,480,990号;米国特許第5,462,725号;米国特許第5,428,139号;米国特許第5,385,893号;米国特許第5,739,294号;米国特許第5,750,660号;米国特許第5,834,456号;Hnatowich et al,J.Immunol.Methods 65(1983)147-157;Meares et al,Anal.Biochem.142(1984)68-78;Mirzadeh et al,Bioconjugate Chem.1(1990)59-65;Meares et al,J.Cancer(1990),Suppl.10:21-26;Izard et al,Bioconjugate Chem.3(1992)346-350;Nikula et al,Nucl.Med.Biol.22(1995)387-90;Camera et al,Nucl.Med.Biol.20(1993)955-62;Kukis et al,J.Nucl.Med.39(1998)2105-2110;Verel et al.,J.Nucl.Med.44(2003)1663-1670;Camera et al,J.Nucl.Med.21(1994)640-646;Ruegg et al,Cancer Res.50(1990)4221-4226;Verel et al,J.Nucl.Med.44(2003)1663-1670;Lee et al,Cancer Res.61(2001)4474-4482;Mitchell,et al,J.Nucl.Med.44(2003)1105-1112;Kobayashi et al Bioconjugate Chem.10(1999)103-111;Miederer et al,J.Nucl.Med.45(2004)129-137;DeNardo et al,Clinical Cancer Research 4(1998)2483-90;Blend et al,Cancer Biotherapy&Radiopharmaceuticals18(2003)355-363;Nikula et al J.Nucl.Med.40(1999)166-76;Kobayashi et al,J.Nucl.Med.39(1998)829-36;Mardirossian et al,Nucl.Med.Biol.20(1993)65-74;Roselli et al,Cancer Biotherapy&Radiopharmaceuticals,14(1999)209-20)。
【0059】
本明細書における「抗体又はそのフラグメントの検出可能な標識からのシグナル」という用語は、試料中の抗体又はその断片の検出可能な標識から得られる強度シグナルの意味で使用される。シグナルは、コンピュータ支援で決定することができる。シグナルは、コンピューティングデバイスによって実行することができる。
【0060】
「算出された定量化シグナル」という用語は、ここでは及び以下では、標準及びルーチンとして、TIMP1及び任意にMMP2が検量線を介して定量及び/又は測定されることを意味する。
【0061】
抗体に関連する「単離」という用語は、その自然環境の成分から分離されているものである。いくつかの態様では、抗体は、例えば、電気泳動(例えば、SDS-PAGE、等電点(IEF)、キャピラリー電気泳動)又はクロマトグラフィー(例えば、イオン交換又は逆相HPLC)法によって決定される場合、純度が95%又は99%より高くなるまで精製される。抗体純度を評定する方法の総説については、例えば、Flatmanら、J.Chromatogr.B848:79~87(2007)を参照されたい。
【0062】
TIMP1(メタロプロテアーゼ組織阻害剤-1)は、間質コラゲナーゼMMP1、又はストロメリシン若しくはゼラチナーゼB等のメタロプロテアーゼを阻害する、分子量28.5kDaの184アミノ酸シアロ糖タンパク質(例えば、Murphy et al Biochem J.1981,195,167-170を参照)である。本発明の理解において、TIMP-1という用語は、メタロプロテアーゼのタンパク質分解活性を阻害するヒトTIMP1と有意な構造相同性を有するタンパク質を包含する。ヒトTIMP1の存在は、TIMP1のエピトープを特異的に検出する抗体を使用することによって検出することができる。TIMP1はまた、対応するmRNA等の関連核酸の検出によって決定され得る。本発明の意味におけるTIMP1は、配列番号1で示される配列又はその相同配列によって特徴付けることができる。特に、相同配列は、少なくとも60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%のアミノ酸配列同一性を有する。
【0063】
ゼラチナーゼAとも呼ばれるマトリックスメタロプロテアーゼ-2(MMP2)は、不活性な72kDの前駆体として合成される66kDaの亜鉛結合プロテアーゼ及びカルシウム結合プロテアーゼである。MMP2は、血管平滑筋細胞、肥満細胞、マクロファージ由来泡沫細胞、Tリンパ球、及び内皮細胞を含む様々な細胞によって合成される(Johnson,J.L.et al.,Arterioscler.Thromb.Vasc.Biol.18:1707~1715,1998)。MMP2は、通常、その生理学的調節因子であるTIMP2と複合体を形成した血漿中に見出される(Murawaki,Y.et al.,J.Hepatol.30:1090-1098,1999)。MMP2の正常な血漿濃度は約550ng/ml未満(8nM)である。MMP2発現は、アテローム硬化性病変内の血管平滑筋細胞において上昇し、プラーク不安定性の場合には血流中に放出され得る(Kai,H.et al.,J.Am.Coll.Gardiol.32:368-372.1998)。さらに、MMP2は、プラークの不安定性及び破裂の原因として関与している(Shah,P.K.et al.,Circulation 92:1565-1569,1995)。血清MMP2濃度は、安定狭心症、不安定狭心症、及びAMIを有する入院患者で上昇しており、上昇は、安定狭心症よりも不安定狭心症及びAMIで有意に大きかった(Kai,H.et al.,J.Am.Coll.Cardiol.32:368-372,1998)。トレッドミル運動試験後の安定狭心症を有する個体における血清MMP2濃度に変化はなかった(Kai,H.et al.,J.Am.Coll.Cardiol.32:368-372,1998)。血清及び血漿MMP2は、胃癌、肝細胞癌、肝硬変、尿路上皮癌、関節リウマチ及び肺癌の患者において上昇している(Murawaki,Y.,et al.,J.Hepatol.30:1090-1098,1999;Endo,K.,et al.,Anticancer Res.17:2253-2258,1997;Gohji,K.et al.,Cancer 78:2379-2387,1996;Gruber,B.L.et al.,Clin.Immunol.Immunopathol.78:161-171,1996;Garbisa,S.et al.,Cancer Res.52:4548-4549,1992)。さらに、MMP2は、血小板凝集中に血小板サイトゾルから細胞外空間にも翻訳され得る(Sawicki,G.et al.,Thromb.Haemost.80:836-839,1998)。MMP2は、不安定狭心症及びAMIを有する個体の血清中で入院時に上昇し、最大レベルは1.5μg/ml(25nM)に近づいた(Kai,H.et al.,J.Am.Coll.Cardiol.32:368-372,1998)。血清MMP-2濃度は、不安定狭心症及びAMIの両方において発症後1~3日でピークに達し、1週間後に正常に戻り始めた(Kai,H.et al.,J.Am.Coll.Cardiol.32:368-372,1998)。
【0064】
本発明の意味におけるMMP2は、配列番号2で示される配列又はその相同配列によって特徴付けることができる。特に、相同配列は、少なくとも60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%のアミノ酸配列同一性を有する。
【0065】
測定されたCA19-9(炭水化物抗原19-9)値は、モノクローナル抗体1116-NS-19-9の使用によって定義される。血清中の1116-NS-19-9反応性決定基は、主に、多数のCA19-9エピトープを含有するムチン様タンパク質上に発現される(Magnani J.L.,Arch.Biochem.Biophys.426(2004)122-131)。集団の3~7%は、ルイスa陰性/b陰性の血液型構成を有し、反応性決定基CA19-9でムチンを発現することができない。このことは、所見を解釈する際に考慮されなければならない。CA19-9含有ムチンは、胎児の胃、腸及び膵臓の上皮で発現される。肝臓、肺及び膵臓における成体組織でも低濃度で見出されることがある(Stieber,P.and Fateh-Moghadam,A.,Boeringer Mannheim,Cat.No.1536869(engl),1320947(dtsch).ISBN 3-926725-07-9 dtsch/engl,Juergen Hartmann Verlag,Marloffstein-Rathsberg(1993);Herlyn,M.,et al..,J.Clin.Immunol.2(1982)135-140)。
【0066】
CEA(癌胎児性抗原)は、およそ45~60%の可変炭水化物成分を有する単量体糖タンパク質(分子量およそ180.000ダルトン)である(Gold P.and Freedman S.O.,J.Exp Med 121(1965)439-462)。CEAは、AFPと同様に、胚性及び胎児期に産生される癌胎児性抗原の群に属する。CEA遺伝子ファミリーは、2つのサブグループの約17個の活性遺伝子からなる。第1の群は、CEA及び非特異的交差反応性抗原(NCA)を含有し、第2の群は妊娠特異的糖タンパク質(PSG)を含む。CEAは、主に胎児の消化管及び胎児血清に見られる。これはまた、健康な成人の腸組織、膵臓組織及び肝臓組織にわずかな量で生じる。CEAの形成は生後抑制されるため、健常成人では血清CEA値を測定することは困難である。高いCEA濃度は、結腸直腸腺癌の症例で頻繁に見られる(Stieber,P.and Fateh-Moghadam,A.(上記))。腸、膵臓、肝臓及び肺の良性疾患(例えば、肝硬変、慢性肝炎、膵炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、気腫)の20~50%で、わずかから中程度のCEA上昇(稀に>10ng/mL)が起こる(Stieber P.,and Fateh-Moghadam A.(上記))。喫煙者はまた、上昇したCEA値を有する。CEA測定の主な適応症は、結腸直腸癌患者の治療管理及びフォローアップである。CEAの測定は、一般集団における癌スクリーニングには推奨されない。正常範囲内のCEA濃度は、悪性疾患の存在の可能性を排除しない。Roche Diagnosticsによって製造されたアッセイにおける抗体は、CEAと反応し、(ほとんど全てのCEA検出方法と同様に)胎便抗原(NCA2)と反応する。NCAlとの交差反応性は0.7%である(Hammarstrom S.,et al.,Cancer Res.49(1989)4852-4858;and Bormer O.P.,Tumor Biol.12(1991)9-15)。
【0067】
実施形態
第1の態様では、本発明は、患者試料における胆管癌を評定するためのin vitro方法であって、
a)患者試料中の組織メタロプロテアーゼ阻害物質1(TIMP1)のレベルを決定することであって、患者試料が、個体からの血清、血漿及び全血試料からなる群から選択される、患者試料中のTIMP1のレベルを決定することと、
b)工程(a)で決定されたTIMP1のレベルをTIMP1の基準レベルと比較することと、
c)工程(a)で決定されたレベルをTIMP1の基準レベルと比較することによって患者試料における胆管癌を評定することであって、TIMP1の基準レベルと比較したTIMP1のレベルの増加が、患者試料における胆管癌を示す、患者試料における胆管癌を評定することと、を含む方法に関する。
【0068】
本発明の発明者らは、驚くべきことに、マーカーTIMP1がCCAの評定に有用であることを実証することができた。CCAの様々な段階を分類することの不確実性に起因して、TIMP1が、将来におけるCCAを有する患者の評定における極めて重要な基準の1つになり得ることは十分にあり得る。本発明の方法は、CCAの評定に適している。正常対照と比較した試料中のTIMP1のレベル、例えば濃度の増加は、CCAを示すことが分かった。
【0069】
本発明の第1の態様の実施形態では、本方法は、決定する工程(a)、比較する工程(b)及びCCAを評定する工程(c)を含む。特に、本方法は以下の順序で行われる:工程(a)、続いて工程(b)、続いて工程(c)。
【0070】
本発明の第1の態様の実施形態では、患者試料中の組織メタロプロテアーゼ阻害物質1(TIMP1)のレベルが決定される。患者試料は、個体からの血清、血漿及び全血試料からなる群から選択される。特に、患者試料は血清である。本明細書で使用される「血清」という用語は、凝固した血液から分離することができる血液の透明な液体部分である。本明細書で使用される「血漿」という用語は、血球を含む血液の透明液体部分である。血清は血漿とは異なり、正常な凝固していない血液の液体部分は、赤血球及び白血球並びに血小板を含む。血清と血漿との差を生じさせるのは血餅である。本明細書で使用される場合「全血」という用語は、血液の全ての成分、例えば白血球及び赤血球、血小板、並びに血漿を含む。TIMP1の基準レベルと比較したTIMP1のレベルの増加は、患者試料における胆管癌を示す。
【0071】
本発明の第1の態様の実施形態では、患者試料中のTIMP1のレベルがサンドイッチ型イムノアッセイによって決定される(工程(a))。サンドイッチ型イムノアッセイは、当業者に公知である。そのようなアッセイでは、第1の特異的結合剤を使用して一方の面でTIMP1を捕捉し、第2の特異的結合剤(直接的又は間接的に検出可能であると標識されている)を他方の面で使用する。サンドイッチ型アッセイフォーマットで使用される特異的結合剤は、TIMP1に対して特異的に向けられた抗体であり得る。一方では、検出は、異なる捕捉及び標識抗体、すなわちTIMP1上の異なるエピトープを認識する抗体を使用することによって行われ得る。一方、TIMP1の同じエピトープに対する捕捉標識抗体を用いてサンドイッチ型アッセイを行うこともできる。この実施形態では、二量体型及び多量体型のTIMP1のみが検出され得る。一実施形態では、TIMP1に対する抗体を定性的(TIMP1が存在する又は存在しない)又は定量的(TIMP1の量を決定する)イムノアッセイで使用する。特に、患者試料中のTIMP1のレベルをElecsysアッセイによって決定する。Elecsysアッセイは当業者に公知であり、したがってこの時点では詳細に説明しない。
【0072】
本発明の第1の態様の実施形態では、患者試料中のTIMP1のレベルが、競合免疫アッセイ又は酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって決定される。
【0073】
TIMP1の決定のため、個体から得られた試料を、結合剤TIMP1複合体の形成に適切な条件下で、TIMP1に対する特異的結合剤とin vitroでインキュベートする。当業者は、いかなる発明的努力もなく、そのような適切なインキュベーション条件を容易に特定することができるため、そのような条件を明示する必要はない。結合剤TIMP1複合体の量を決定し、CCAの評定に使用する。当業者であれば理解するように、特異的結合剤TIMP 1複合体の量を決定するための多くの方法が存在し、全てが関連する教科書(例えば、Tijssen,P.(上記)又はDiamandis,E.P.,and Christopoulos,T.K.(eds.),Immunoassay,Academic Press,Boston(1996)を参照)に詳細に記載されている。
【0074】
イムノアッセイは当業者に周知である。そのようなアッセイを実施するための方法並びに実際の適用及び手順は、関連する教科書に要約されている。関連する教科書の例は、Tijssen,P.,Preparation of enzyme-antibody or other enzyme-macromolecule conjugates,In:Practice and theory of enzyme immunoassaysの221~278頁、Burdon,R.H.and v.Knippenberg,P.H.(eds.),Elsevier,Amsterdam(1990)、及び様々な巻のColowick,S.P.,and Caplan,N.O.,(eds.),Methods in Enzymology,Academic Press(免疫学的検出方法を扱い、特に、70、73、74、84、92及び121巻)である。
【0075】
本発明の第1の態様の実施形態では、マーカーTIMP1は、特異的結合剤の使用によって液体試料からin vitroで特異的に決定される。
【0076】
本発明の第1の態様の実施形態では、特異的結合剤は、例えば、TIMP1の受容体、TIMP1に結合するレクチン、TIMP1に対する抗体、TIMP1に対するペプチド体、二重特異性二重結合剤又は二重特異性抗体フォーマットである。特異的結合剤は、その対応する標的分子に対して少なくとも10l/molの親和性を有する。特異的結合剤は、その標的分子に対して10l/molの親和性を有することが好ましく、10l/molの親和性を有することも好ましい。
【0077】
当業者は、特異的という用語が、試料中に存在する他の生体分子が配列番号1のTIMP1に特異的な結合剤に有意に結合しないことを示すために使用されることを理解するであろう。好ましくは、標的分子以外の生体分子への結合レベルは、標的分子に対する親和性の最大でもわずか10%以下、わずか5%以下、わずか2%以下、又はわずか1%以下である結合親和性をそれぞれもたらす。好ましい特異的結合剤は、親和性及び特異性について上記の最小基準の両方を満たす。特異的結合剤の例は、ペプチド、ペプチド模倣物、アプタマー、スパイゲルマー、ダルピン、アンキリンリピートタンパク質、Kunitz型ドメイン、抗体、単一ドメイン抗体(Hey T.et al.,Trends Biotechnol.23(2005)514-30 522を参照)、及び抗体の一価断片である。
【0078】
本発明において開示されるような成果のために、様々な供給源からの抗体が使用される場合がある。抗体を得るための標準的なプロトコルも、現代の代替方法と同様に使用することができる。抗体を生成するための代替方法は、とりわけ、免疫化のためのASCの臨床的に関連するエピトープを表す合成又は組換えペプチドの使用を含む。あるいは、DNAワクチン接種としても公知のDNA免疫化が使用され得る。明らかに、異なる種、例えばウサギ、ヒツジ、ヤギ、ラット又はモルモット由来のモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体を使用することができる。モノクローナル抗体は、一定の特性で必要とされる任意の量で産生することができるので、臨床ルーチンのためのアッセイの開発における理想的なツールである。
【0079】
本発明の第1の態様の特定の好ましい実施形態では、特異的結合剤は抗体又はその断片である。断片は、好ましくは一価抗体断片、好ましくはモノクローナル抗体由来の一価断片である。
【0080】
当業者がここで理解するように、TIMP1はマーカーとして同定されており、これはCCAの評定に有用である。様々な免疫診断手順を使用して、本発明の成果に匹敵するデータを得ることができる。
【0081】
本発明の第1の態様の実施形態では、工程(a)は、in vitroで、個体からの血清、血漿又は全血試料の一部を、TIMP1に対して特異的結合親和性を有する抗体又はその断片と接触させることであって、それにより、抗体又はその断片と、患者試料中に存在するTIMP1との間に複合体を形成し、抗体が、検出可能な標識を有する、接触させることと、
接触させる当該工程で形成された複合体を、複合体を含まない抗体又はその断片から分離することと、
接触させる当該工程で形成された複合体を含む抗体又はその断片の検出可能な標識からのシグナルを定量することであって、シグナルが、個体の患者試料中に存在するTIMP1の量に比例し、それにより、個体の試料中のTIMP1のレベルが、算出された定量化シグナルに基づく、検出可能な標識からのシグナルを定量することとを含む。
【0082】
本発明の第1の態様の実施形態では、工程(b)は、定量する当該工程で決定された個体の患者試料内のTIMP1の算出されたレベル値を、TIMP1の基準レベルと比較することを含む。
【0083】
本発明の第1の態様の実施形態では、工程(c)は、算出されたTIMP1のレベル値がTIMP1の基準レベルより大きい場合に、個体における胆管癌の評定を提供することを含む。
【0084】
本発明の第1の態様の実施形態では、上記の最後の3段落で述べた工程(a)~工程(c)を互いに組み合わせることができる。
【0085】
本発明の第1の態様の実施形態では、抗体又はその断片は非哺乳動物抗体である。抗体又はその断片はヒトから単離されない。
【0086】
本発明の第1の態様の実施形態では、特異的結合剤は、好ましくは、TIMP1に特異的に結合する抗体である。
【0087】
本発明の第1の態様の実施形態では、当該抗体又はその断片は免疫化動物から単離され、動物はマウス、ウサギ、ヒツジ、ニワトリ、ヤギ及びモルモットからなる群から選択される。
【0088】
本発明の第1の態様の実施形態では、TIMP1、特に可溶性形態のTIMP1は、適切な試料中でin vitroで決定される。好ましくは、試料は、ヒト対象、例えばCCA及び/又はHHC患者及び/又はCCAのリスクがある人及び/又はCCAを有すると疑われる人及び/又はHHCのリスクがある人及び/又はHHCを有すると疑われる人に由来する。
【0089】
本発明の第1の態様の実施形態では、試料は、リスク管理対象のヒト対象から得られる。本明細書で言及される「リスク管理対象」は、肝硬変、慢性ウイルス性肝炎、アルコール過剰、非アルコール性脂肪性肝炎、糖尿病、肥満、肝胆道吸虫(hepatobiliary flukes)、原発性硬化性胆管炎(PSC)、胆道嚢胞、肝結石症、毒素、原発性胆汁性肝硬変(PBC)、原発性ヘモクロマトーシス及びそれらの組み合わせからなる群から選択される肝疾患又は肝損傷を意味する。
【0090】
本発明の第1の態様の実施形態では、試料は、リスク管理対象のヒト対象から得られる。リスク管理対象は、肝硬変、慢性ウイルス性肝炎、アルコール過剰、非アルコール性脂肪性肝炎、糖尿病、肥満、肝胆道吸虫(hepatobiliary flukes)、原発性硬化性胆管炎(PSC)、胆道嚢胞、肝結石症、毒素、原発性胆汁性肝硬変(PBC)、原発性ヘモクロマトーシス及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。特に、試料は、総胆管結石症と診断されていないヒト対象から得られる。
【0091】
本発明の第1の実施形態では、本方法は、肝硬変、慢性ウイルス性肝炎、アルコール過剰、非アルコール性脂肪性肝炎、糖尿病、肥満、肝胆道吸虫(hepatobiliary flukes)、原発性硬化性胆管炎(PSC)、胆道嚢胞、肝結石症、毒素、原発性胆汁性肝硬変(PBC)、原発性ヘモクロマトーシス及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるリスク管理対象と、胆管癌とを鑑別するために使用される。
【0092】
本発明の第1の態様の実施形態では、本方法は、肝細胞癌から胆管癌を鑑別するために使用される。
【0093】
本発明の第1の態様の実施形態では、対照群又は対照集団で決定されるTIMP1の値を使用して基準範囲を確立する。好ましい実施形態では、TIMP1のレベルは、決定された値が基準範囲の90%パーセンタイルを上回る場合に上昇しているとみなされる。更に好ましい実施形態では、TIMP1のレベルは、決定された値が基準範囲の95%パーセンタイル、96%パーセンタイル、97%パーセンタイル又は97.5%パーセンタイルを上回る場合に上昇しているとみなされる。
【0094】
本発明の第1の態様の実施形態では、特定の状況で既に確認されたCCAを有する患者から提供された試料を陽性対照試料として使用し、好ましくは調査する試料と並行してアッセイすることができる。このような設定において、陽性対照試料中のマーカーTIMP1についての陽性結果は、試験手順が技術レベルで機能したことを示す。
【0095】
本発明の第1の態様の実施形態では、患者試料は、個体から得られる液体又は体液試料、及びそのような試料中のTIMP1のin vitro決定に基づく。本明細書で使用される「個体」は、単一のヒト又は非ヒト生物を指す。したがって、本明細書に記載の方法及び組成物は、ヒト及び獣医学の疾患の両方に適用可能である。好ましくは、個体、対照又は患者はヒトである。
【0096】
本発明の方法(複数可)による工程(a)の測定結果がTIMP1の基準レベルと比較されることは当業者に公知である。そのような基準レベルは、陰性基準試料、陽性基準試料、又はこれらのタイプの1つ以上の対照を含む混合基準試料を使用して決定することができる。陰性基準試料は、好ましくは、健康な個体又はCCAの診断を受けていない個体からの試料を含む。陽性基準試料は、好ましくは、CCAの診断を有する対象からの試料を含む。本発明の第1の態様の実施形態では、陽性基準試料又は陰性基準試料は、総胆管結石症と診断されていない患者から得られる。
【0097】
本発明の第1の態様の実施形態では、基準試料は、特に、in vitroでの評価のために見かけ上健康な個体又はCCAを発症するリスクがある個体の基準群から提供された生物学的試料である。本明細書で使用される場合、「基準値」という用語は、CCAに罹患していない、又はCCAを発症するリスクがある個体の見かけ上健康な個体又は個体の参照群において確立された値を指す。
【0098】
本発明の第1の態様の実施形態では、当該工程(c)はコンピューティングデバイスによって実行される。
【0099】
第2の態様では、本発明は、TIMP1の基準レベルを上回るTIMP1のレベルが胆管癌を示す、個体の血清、血漿又は全血試料における胆管癌のin vitro評定におけるマーカー分子としてのTIMP1の使用に関する。本発明の第1の態様及び/又は他の態様について上述した全ての実施形態は、本発明の第2の態様に適用され、逆もまた同様である。
【0100】
第3の態様では、本発明は、TIMP1及びMMP2のレベルが胆管癌を示す、個体の血清、血漿又は全血試料における胆管癌のin vitro評定におけるTIMP1及びMMP2を含むマーカー組み合わせの使用に関する。本発明の第1及び/又は第2の態様及び/又は他の態様について上述した全ての実施形態は、本発明の第3の態様に適用され、逆もまた同様である。
【0101】
本発明の第3の態様の実施形態では、マーカーの組み合わせはTIMP1及びMMP2からなる。これは、CCAを評定するための他のマーカーが存在しないことを意味し得る。
【0102】
第4の態様では、本発明は、患者試料における胆管癌を評定するためのin vitro方法であって、
(a’)患者試料中の組織メタロプロテアーゼ阻害物質1(TIMP1)のレベルを決定することであって、患者試料が、個体からの血清、血漿及び全血試料からなる群から選択される、患者試料中のTIMP1のレベルを決定することと、
(b’)患者試料における胆管癌に対するマトリックスメタロプロテアーゼ-2(MMP2)のレベルを決定することと、
(c’)工程(a’)及び工程(b’)の決定結果を比較することによって胆管癌を評定することであって、TIMP1及びMMP2のレベルがCCAを示す、胆管癌を評定することと、を含む方法に関する。
【0103】
本発明の第1、第2、第3及び/又は他の態様について上述した全ての実施形態は、本発明の第4の態様に適用され、逆もまた同様である。
【0104】
好ましくは、工程(a)について述べた実施形態は、工程(a’)に適用される。
【0105】
本発明の第4の態様の実施形態では、工程(c’)は、工程(a’)及び工程(b’)の決定結果を比較することによって胆管癌を評定することであって、TIMP1及びMMP2の検出されたレベルがCCAを示す胆管癌を評定することを含む。
【0106】
本発明の第4の態様の実施形態では、工程(a’)は、in vitroで、個体からの血清、血漿又は全血試料の一部を、TIMP1に対して特異的結合親和性を有する抗体又はその断片と接触させることであって、それにより、抗体又はその断片と、患者試料中に存在するTIMP1との間に複合体を形成し、抗体が、検出可能な標識を有する、接触させることと、
接触させる当該工程で形成された複合体を、複合体を含まない抗体又はその断片から分離することと、
接触させる当該工程で形成された複合体を含む抗体又はその断片の検出可能な標識からのシグナルを定量することであって、シグナルが、個体の患者試料中に存在するTIMP1の量に比例し、それにより、個体の試料中のTIMP1のレベルが、算出された定量化シグナルに基づく、検出可能な標識からのシグナルを定量することとを含む。
【0107】
本発明の第4の態様の実施形態では、工程(b’)は、in vitroで、個体からの血清、血漿又は全血試料の一部を、MMP2に対して特異的結合親和性を有する抗体又はその断片と接触させることであって、それにより、抗体又はその断片と、患者試料中に存在するMMP2との間に複合体を形成し、抗体が、検出可能な標識を有する、接触させることと、
接触させる当該工程で形成された複合体を、複合体を含まない抗体又はその断片から分離することと、
接触させる当該工程で形成された複合体を含む抗体又はその断片の検出可能な標識からのシグナルを定量することであって、シグナルが、個体の患者試料中に存在するMMP2の量に比例し、それにより、個体の試料中のMMP2のレベルが、算出された定量化シグナルに基づく、検出可能な標識からのシグナルを定量することとを含む。
【0108】
本発明の第4の態様の実施形態では、上記の最後の2段落で述べた工程(a’)及び工程(b’)を互いに組み合わせることができる。
【0109】
本発明の第4の態様の実施形態では、工程(c’)は、工程(b’)で決定されたMMP2のレベル及び工程(a’)で決定されたTIMP1のレベルを統計的方法論に含めて、患者試料が胆管癌を有するか、又は胆管癌を発症するリスクがあるかどうかを示す出力値を生成することを含む。
【0110】
本発明の第4の態様の実施形態では、使用される統計的方法論は、例えばロジスティック回帰である。
【0111】
本発明の第4の態様の実施形態では、多変量スコアが計算される。
【0112】
例えばDA(すなわち、直線、二次、正規化判別分析)、カーネル法(すなわち、SVM)、ノンパラメトリック法(すなわち、k近傍法)、PLS(部分最小二乗法)、樹木法(すなわち、論理回帰、CART、ランダムフォレスト法、ブースティング法)から選択される他の方法も使用することができる。
【0113】
本発明に従って使用される適用された統計的方法の結果の性能は、それらの受信者動作特性(ROC)によって最もよく説明することができる。ROC曲線は、検査の感受性(真陽性の数)及び特異性(真陰性の数)の両方に対処する。したがって、所与のバイオマーカー又はバイオマーカーの組み合わせに対する感受性及び特異性の値は、試験の性能の指標である。例えば、バイオマーカーの組み合わせが80%の感受性及び特異性値を有する場合、100人の罹患患者のうち80人が、バイオマーカーの特定の組み合わせの存在を疾患に対して陽性であると決定することから正確に特定されるが、疾患を有さない100人の患者のうち80人は、疾患に対して正確に検査陰性となる。
【0114】
ロジスティック回帰等の適切な統計的分類モデルは、臨床的変数の有無にかかわらず、バイオマーカーの組み合わせについて導き出すことができる。さらに、ロジスティック回帰方程式は、患者の年齢及び性別等の他の(臨床的)変数も含むように拡張することができる。前述と同様に、ROC曲線を使用して、ロジスティック回帰モデルによる患者と対照との間の識別の性能にアクセスすることができる。ロジスティック回帰式は、そのような場合に使用される一般的な統計的手順であり、本発明との関連で好ましいが、決定木又は機械学習手順等の他の数学的又は統計的方法も使用することができる。
【0115】
実験室試験の診断精度を定量化するための1つの便利な目標は、その性能を単一の数で表すことである。最も一般的な大域的尺度は、ROCプロットの曲線下面積(AUC)である。ROC曲線下面積は、知覚された測定値が症状の正確な識別を可能にする確率の尺度である。値は、典型的には、1.0(2つの群の試験値の完全な分離)~0.5(試験値の2つの群の間の明らかな分布差はない)の範囲である。面積は、対角線に最も近い点又は90%特異性での感受性等のプロットの特定の部分のみに依存するのではなく、プロット全体に依存する。これは、ROCプロットが完全なものにどれだけ近いかの定量的な記述表現である(面積=1.0)。本発明に関連して、2つの異なる症状は、患者がCCAのような癌を有するか否かであり得る。
【0116】
本発明の第4の態様の実施形態では、上記の最後の3段落で述べた工程(a’)、工程(b’)、及び工程(c’)を互いに組み合わせることができる。
【0117】
本発明の第4の態様の実施形態では、工程(a’)及び工程(b’)のそれぞれが、サンドイッチ型イムノアッセイを含む。
【0118】
本発明の第4の態様の実施形態では、当該工程(c’)はコンピューティングデバイスによって実行される。
【0119】
本発明の第4の態様の実施形態では、試料は、リスク管理対象のヒト対象から得られる。リスク管理対象は、肝硬変、慢性ウイルス性肝炎、アルコール過剰、非アルコール性脂肪性肝炎、糖尿病、肥満、肝胆道吸虫(hepatobiliary flukes)、原発性硬化性胆管炎(PSC)、胆道嚢胞、肝結石症、毒素、原発性胆汁性肝硬変(PBC)、原発性ヘモクロマトーシス及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。特に、試料は、総胆管結石症と診断されていないヒト対象から得られる。
【0120】
本発明の第4の実施形態では、本方法は、肝硬変、慢性ウイルス性肝炎、アルコール過剰、非アルコール性脂肪性肝炎、糖尿病、肥満、肝胆道吸虫(hepatobiliary flukes)、原発性硬化性胆管炎(PSC)、胆道嚢胞、肝結石症、毒素、原発性胆汁性肝硬変(PBC)、原発性ヘモクロマトーシス及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるリスク管理対象と、胆管癌とを鑑別するために使用される。
【0121】
本発明の第4の態様の実施形態では、本方法は、肝細胞癌から胆管癌を鑑別するために使用される。
【0122】
本発明の第4の態様の実施形態では、特異的結合剤は、好ましくは、MMP2に特異的に結合する抗体である。
【0123】
第5の態様では、本発明は、工程(a)又は工程(a’)で決定されたTIMP1のレベルを判断し、任意に、工程(b’)で決定されたMMP2のレベルを判断するために必要とされる試薬を含む、本発明の第1の態様及び/又は第4の態様による方法を実施するためのキットに関する。本発明の第1、第2、第3、第4及び/又は他の態様について上述した全ての実施形態は、本発明の第5の態様に適用され、逆もまた同様である。
【0124】
本発明の第5の態様の実施形態では、キットは、TIMP1のレベルを特異的に決定するために必要な試薬(複数可)と、CCAマーカーの組み合わせで一緒に使用されるマーカーMMP2を決定又は測定するために必要な試薬(複数可)とを含む。当該キットは、一実施形態では、TIMP1に特異的に結合する抗体又はその断片を含む。更なる実施形態では、当該キット内の当該抗体断片は、Fab、Fab’、F(ab’)2、及びFvからなる群から選択される。一実施形態では、本発明は、配列番号1のTIMP1配列に含まれる少なくとも2つの重複しないエピトープに特異的に結合する少なくとも2つの抗体又はその断片を含むキットに関する。好ましくは、本発明によるキットに含まれる少なくとも2つの抗体又はその断片はモノクローナル抗体である。当該キットは、一実施形態では、抗体又はその断片が固定化されたバイオチップを更に含む。
【0125】
本発明の第5の態様の実施形態では、TIMP1及び/又はMMP2に対する試薬は、本明細書に開示されるプローブ(例えば、抗体)、対照、緩衝液、試薬(例えば、コンジュゲート及び/又は基質)、説明書等の1以上の構成要素の組み合わせである。
【0126】
特定の例示的な実施形態は以下の通りである。
【0127】
1.患者試料における胆管癌を評定するためのin vitro方法であって、
a)前記患者試料中の組織メタロプロテアーゼ阻害物質1(TIMP1)のレベルを決定することであって、前記患者試料が、個体からの血清、血漿及び全血試料からなる群から選択される、前記患者試料中のTIMP1のレベルを決定することと、
b)工程(a)で決定されたTIMP1の前記レベルをTIMP1の基準レベルと比較することと、
c)工程(a)で決定された前記レベルをTIMP1の前記基準レベルと比較することによって前記患者試料における胆管癌を評定することであって、TIMP1の前記基準レベルと比較したTIMP1のレベルの増加が、前記患者試料における胆管癌を示す、前記患者試料における胆管癌を評定することと、
を含む、方法。
【0128】
2.工程(a)が、in vitroで、前記個体からの前記血清、血漿又は全血試料の一部を、TIMP1に対して特異的結合親和性を有する抗体又はその断片と接触させることであって、それにより、前記抗体又はその断片と、前記患者試料中に存在するTIMP1との間に複合体を形成し、前記抗体が、検出可能な標識を有する、接触させることと、
前記接触させる工程で形成された前記複合体を、前記複合体を含まない抗体又はその断片から分離することと、
前記接触させる工程で形成された前記複合体を含む前記抗体又はその断片の前記検出可能な標識からのシグナルを定量することであって、前記シグナルが、前記個体の前記患者試料中に存在するTIMP1の量に比例し、それにより、前記個体の前記試料中のTIMP1のレベルが、算出された前記定量化シグナルに基づく、前記検出可能な標識からのシグナルを定量することと、を含み、且つ/又は
工程(b)が、前記定量する工程で決定された前記個体の前記患者試料内のTIMP1の前記算出されたレベル値を、TIMP1の基準レベルと比較することを含み、且つ/又は
工程(c)が、前記算出されたTIMP1のレベル値がTIMP1の前記基準レベルより大きい場合に、前記個体における胆管癌の評定を提供することを含む、実施形態1に記載の方法。
【0129】
3.前記抗体又はその断片が免疫化動物から単離され、前記動物がマウス、ウサギ、ヒツジ、ニワトリ、ヤギ及びモルモットからなる群から選択される、実施形態1又は2に記載の方法。
【0130】
4.工程(a)がサンドイッチ型イムノアッセイを含む、実施形態1~3のいずれか1つに記載の方法。
【0131】
5.前記工程(c)が、コンピューティングデバイスによって実行される、実施形態1~4のいずれか1つに記載の方法。
【0132】
6.TIMP1の基準レベルを上回るTIMP1のレベルが胆管癌を示す、個体の血清、血漿又は全血試料における胆管癌のin vitro評定におけるマーカー分子としてのTIMP1の使用。
【0133】
7.TIMP1及びMMP2の前記レベルが胆管癌を示す、個体の血清、血漿又は全血試料における胆管癌のin vitro評定におけるTIMP1及びMMP2を含むマーカー組み合わせの使用。
【0134】
8.患者試料における胆管癌を評定するためのin vitro方法であって、
(a’)前記患者試料中の組織メタロプロテアーゼ阻害物質1(TIMP1)のレベルを決定することであって、前記患者試料が、個体からの血清、血漿及び全血試料からなる群から選択される、前記患者試料中のTIMP1のレベルを決定することと、
(b’)前記患者試料における胆管癌に対するマトリックスメタロプロテアーゼ-2(MMP2)のレベルを決定することと、
(c’)工程(a’)及び工程(b’)の前記決定結果を比較することによって胆管癌を評定することであって、TIMP1及びMMP2の前記レベルがCCAを示す、胆管癌を評定することと、
を含む、方法。
【0135】
9.工程(a’)が、in vitroで、前記個体からの前記血清、血漿又は全血試料の一部を、TIMP1に対して特異的結合親和性を有する抗体又はその断片と接触させることであって、それにより、前記抗体又はその断片と、前記患者試料中に存在するTIMP1との間に複合体を形成し、前記抗体が、検出可能な標識を有する、接触させることと、
前記接触させる工程で形成された前記複合体を、前記複合体を含まない抗体又はその断片から分離することと、
前記接触させる工程で形成された前記複合体を含む前記抗体又はその断片の前記検出可能な標識からのシグナルを定量することであって、前記シグナルが、前記個体の前記患者試料中に存在するTIMP1の量に比例し、それにより、前記個体の前記試料中のTIMP1のレベルが、算出された前記定量化シグナルに基づく、前記検出可能な標識からのシグナルを定量することと、を含み、且つ/又は
工程(b’)が、in vitroで、前記個体からの前記血清、血漿又は全血試料の一部を、MMP2に対して特異的結合親和性を有する抗体又はその断片と接触させることであって、それにより、前記抗体又はその断片と、前記患者試料中に存在するMMP2との間に複合体を形成し、前記抗体が、検出可能な標識を有する、接触させることと、
前記接触させる工程で形成された前記複合体を、前記複合体を含まない抗体又はその断片から分離することと、
前記接触させる工程で形成された前記複合体を含む前記抗体又はその断片の前記検出可能な標識からのシグナルを定量することであって、前記シグナルが、前記個体の前記患者試料中に存在するMMP2の量に比例し、それにより、前記個体の前記試料中のMMP2のレベルが、算出された前記定量化シグナルに基づく、前記検出可能な標識からのシグナルを定量することと、を含む、実施形態8に記載の方法。
【0136】
10.工程(C’)が、
工程(b’)で決定されたMMP2の前記レベル及び工程(a’)で決定されたTIMP1の前記レベルを統計的方法論に含めて、前記患者試料が胆管癌を有するか、又は胆管癌を発症するリスクがあるかどうかを示す出力値を生成することを含む、実施形態8又は9に記載の方法。
【0137】
11.工程(a’)及び工程(b’)のそれぞれがサンドイッチ型イムノアッセイを含む、実施形態8~10のいずれか1つに記載の方法。
【0138】
12.前記工程(c’)が、コンピューティングデバイスによって実行される、実施形態8~11のいずれか1つに記載の方法。
【0139】
13.胆管癌と肝細胞癌とを鑑別するための、実施形態1~5のいずれか一項又は実施形態8~12のいずれか一項に記載の方法。
【0140】
14.肝硬変、慢性ウイルス性肝炎、アルコール過剰、非アルコール性脂肪性肝炎、糖尿病、肥満、肝胆道吸虫(hepatobiliary flukes)、原発性硬化性胆管炎(PSC)、胆道嚢胞、肝結石症、毒素、原発性胆汁性肝硬変(PBC)、原発性ヘモクロマトーシス及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるリスク管理対象と、胆管癌とを鑑別するための、実施形態1~5のいずれか1つ、又は実施形態8~12のいずれか1つに記載の方法。
【0141】
15.実施形態1~5のいずれか一項又は実施形態8~12のいずれか一項に記載の方法を実施するためのキットであって、工程(a)又は工程(a’)で決定されたTIMP1の前記レベルを判断し、任意に、工程(b’)で決定されたMMP2の前記レベルを判断するために必要とされる試薬を含む、キット。
【0142】
これらの実施形態は、例示を意図しており、本発明の範囲を限定することを意図していない。
【0143】
以下の実施例、配列表及び図面は、本発明の理解を助けるために提供されており、本発明の真の範囲は、添付の特許請求の範囲に記載されている。本発明の要旨から逸脱することなく、記載された手順に変更を加えることができることが理解される。
【0144】
本明細書で引用された全ての参考文献は、その全体の開示内容及び本明細書で具体的に言及された開示内容に関して、参照により本明細書で組み込まれる。
【0145】
配列の説明
配列番号1は、TIMP1のアミノ酸配列を示す。
(配列表;Uniprot P01033、バージョン214)。
【0146】
配列番号2は、MMP2のアミノ酸配列を示す。
(配列表;Uniprot P08253、バージョン235)。
【実施例
【0147】
本発明は、以下の実施例によって単に例示されるものである。該実施例は、いかなる場合でも、本発明の範囲を制限する様式で解釈されないものとする。
【0148】
実施例1
研究集団:
胆管癌の診断のためのバイオマーカーCEA、CA19-9、TIMP-1及びMMP2の臨床性能を、以下から構成される試料パネルで評価した:
-55例のCCA試料:20例は肝内、11例は肝門部周囲、24例は情報なし。
-219例のHCC試料。
-CCA及びHCCを発症するリスクがある患者を代表する632例の対照(肝硬変、慢性ウイルス性肝炎、アルコール性及び非アルコール性脂肪性肝炎)。
【0149】
血液/血清の収集:
血清試料を以下の機関によって収集した:Maharaj Nakorn Chiang Mai病院、タイ国チェンマイ;Siriraj病院、タイ国バンコク;Songklanagarind病院、タイ国ソンクラー、ハートヤイ;Srinagarind病院、タイ国コーンケーン;;NCT Universitatsklinikum Heidelberg(ドイツ国ハイデルベルク)及びVall d’Hebron大学病院(スペイン国バルセロナ)。この研究は、「ヘルシンキ宣言」の原則に完全に一致し、独立倫理委員会(IEC)の承認を得て行われた。血清試料を、適切な標準操作手順(SOP)に従って処置前(外科手術、経皮エタノール注射(PEI)、化学療法、放射線療法)に収集し、分析まで<-70℃で保存した。凍結融解の繰り返しは避けた。
【0150】
血清試料調製:
血清試料を血清チューブに吸い取り、室温で少なくとも60分間~最大120分間凝固させた。遠心分離(10分、2000g)後、上清を1mlアリコートに分け、-70°Cで凍結した。測定前に、試料を解凍し、プロトタイプアッセイ及び基準アッセイに適したより小さな量に再等分し、凍結させた。分析の直前に試料を解凍した。したがって、パネル内の各試料は、測定前に2回の凍結解凍サイクルのみを有した。
【0151】
実施例2
Roche Elecsys(登録商標)腫瘍マーカーの検出のためのアッセイ:
腫瘍マーカーCEA及びCA19-9について、Elecsys(登録商標)キットを入手した。これらのマーカーを全て、Roche Elecsys(登録商標)in vitro診断で測定した。全てのアッセイを製造者の説明書(Roche Diagnostics GmbH(ドイツ国マンハイム)に従って実施した。機器によって測定された濃度を使用して、表1及び5に示すAUCデータを計算/生成した。
【0152】
実施例3
ヒト血清又は血漿試料中のTIMP1のレベルを、任意にMMP2のレベルと組み合わせて測定するためのELISA:
TIMP-1の測定のため、R&D Systems Inc.(米国ミネアポリス)から市販されているMTP ELISAを使用した(Quantikine(登録商標)ELISA、Human TIMP-1 Immunoassay、カタログ番号DTM100、STM100、PDTM100)。簡潔には、このアッセイは、定量的サンドイッチ酵素免疫アッセイ技術を使用する。ヒトTIMP-1に特異的なモノクローナル抗体をマイクロプレート上にプレコートした。標準及び試料をウェルにピペットで入れ、存在する任意のTIMP-1を固定化抗体によって結合させる。未結合物質を洗い流した後、ヒトTIMP-1に特異的な酵素結合ポリクローナル抗体をウェルに添加する。結合していない抗体-酵素試薬を除去するための洗浄後、基質溶液をウェルに添加し、最初の工程で結合したTIMP-1の量に比例して発色させる。発色を停止し、色の強度を測定する。
【0153】
MMP2の測定のため、R&D Systems Inc.(米国ミネアポリス)から市販されているMTP ELISAを使用した(Quantikine(登録商標)ELISA、Total MMP-2 Immunoassay、カタログ番号MMP200、SMMP200、PMMP200)。簡潔には、このアッセイは、定量的サンドイッチ酵素免疫アッセイ技術を使用する。総MMP-2に特異的なモノクローナル抗体をマイクロプレート上にプレコートした。標準及び試料をウェルにピペットで入れ、存在する任意のMMP-2を固定化抗体によって結合させる。未結合物質を洗い流した後、MMP-2に特異的な酵素結合ポリクローナル抗体をウェルに添加する。結合していない抗体-酵素試薬を除去するための洗浄後、基質溶液をウェルに添加し、最初の工程で結合したMMP-2の量に比例して発色させる。発色を停止し、色の強度を測定する。
【0154】
実施例4
単変量及び多変量解析を実施して、以下の最良の鑑別のためのバイオマーカー/バイオマーカーパネルを同定した:
・HCCからCCA
・リスク管理対象からCCA
・HCC+リスク管理対象からCCA
【0155】
単変量解析
TIMP1の性能を、その絶対測定値に基づいて評価する。罹患した患者及び罹患していない含まれた患者からの全ての測定値を閾値として使用して、この特定の値での感受性及び特異性を計算することができる。これらの感受性及び特異性の組み合わせに基づいて、ROC曲線を描くことができ、AUC(ROC曲線下面積)を計算することができる。
【0156】
多変量解析
マーカーTIMP1とMMP2の組み合わせを評価する。好ましくは、マーカーの組み合わせTIMP1及びMMP2のマーカーについて測定された値は数学的に組み合わされ、組み合わされた値は、根底にある診断問題と相関する。マーカー値は、任意の適切な技術水準の数学的方法によって組み合わせることができる。
【0157】
好ましくは、本発明のマーカーの組み合わせを、例えばCCAの非存在又は存在と相関させるのに使用される方法は、一般化線形モデル(すなわち、ロジスティック回帰)である。しかしながら、例えばDA(すなわち、直線、二次、正規化判別分析)、カーネル法(すなわち、SVM)、ノンパラメトリック法(すなわち、k近傍法)、PLS(部分最小二乗法)、樹木法(すなわち、論理回帰、CART、ランダムフォレスト法、ブースティング法)から選択される他の方法も使用することができる。
【0158】
これらの統計的方法に関する詳細は、以下の参考文献に見出される:Ruczinski,I.,et al,J.of Computational and Graphical Statistics,12(2003)475-511;Friedman,J.H.,J.of the American Statistical Association 84(1989)165-175;Hastie,Trevor,Tibshirani,Robert,Friedman,Jerome,The Elements of Statistical Learning,Springer Series in Statistics(2001);Breiman,L.,Friedman,J.H.,Olshen,R.A.,Stone,C.J.(1984)Classification and regression trees,California:Wadsworth;Breiman,L.,Random Forests,Machine Learning,45(2001)5-32;Pepe,M.S.,The Statistical Evaluation of Medical Tests for Classification and Prediction,Oxford Statistical Science Series 28(2003);及びDuda,R.O.,Hart,P.E.,Stork,D.G.,Pattern Classification,Wiley Interscience,2nd Edition(2001)。
【0159】
本発明の好ましい実施形態は、生物学的マーカーの基礎となる組み合わせのカットオフを使用し、状態Aを状態Bから、例えば疾患を健康から区別することである。このタイプの分析では、マーカーはもはや独立しておらず、マーカーパネル又はマーカーの組み合わせを形成する。
【0160】
診断方法の精度は、その受信者動作特性(ROC)によって最もよく説明される(特に、Zweig,M.H.,and Campbell,G.,Clin.Chem.39(1993)561-577を参照)。ROCグラフは、観察されたデータの全範囲にわたって決定閾値を継続的に変動させることにより生じる、全ての感受性/特異性のペアのプロットである。
【0161】
臨床検査の臨床性能は、その診断精度、又は対象を臨床的に関連するサブグループに正しく分類する能力に依存する。診断精度は、調査された対象の2つの異なる症状を正しく区別する検査の能力を測定する。そのような症状は、例えば、健康及び疾患、又は良性対悪性疾患である。
【0162】
いずれの場合も、ROCプロットは、判断閾値の全範囲について感受性対1特異性をプロットすることによって、2つの分布間の重複を示す。y軸上は、感受性、又は真陽性率である[(真陽性の試験結果の数)/(真陽性の数+偽陰性の試験結果の数)として定義される]。これは、疾患又は症状の存在下での陽性とも呼ばれている。y軸は、影響を受ける下位群からのみ計算される。x軸上は、偽陽性率又は1-特異性である[(偽陽性結果の数)/(真陰性の数+偽陽性結果の数)として定義される]。x軸は、特異性の指標であり、影響を受けない下位群からのみ計算される。真陽性率及び偽陽性率は、2つの異なる下位群からの検査結果を使用することによって完全に別個に計算されるため、ROCプロットは試料中の疾患の有病率とは無関係である。ROCプロット上の各点は、特定の決定閾値に相当する感受性/1-特異性の対を表す。完全な区別のある(結果の2つの分布に重なりがない)検査は、左上隅を通過するROCプロットを有しており、真陽性率は1.0、又は100%(完全な感受性)であり、偽陽性率は0(完全な特異性)となる。区別のない(2つの群についての結果の分布が同一である)検査についての理論上のプロットは、左下隅から右上隅への45°の対角線となる。ほとんどのプロットは、これらの2つの極値の間に収まる。(ROCプロットが45°対角線を完全に下回って収まる場合、これは、「陽性率」についての基準を「より高い」から「より低い」に入れ替え、逆もまた同様にすることによって、容易に修正される。)定性的には、プロットが左上隅に近いほど、試験全体の精度が高くなる。
【0163】
臨床検査の診断精度を定量化する1つの好ましい方法は、その性能を単一の数で表すことである。そのような全体的なパラメータは、例えば、いわゆる「合計誤差」又は代替的に「曲線下面積=AUC」である。最も一般的な大域的尺度は、ROCプロットの下の面積である。慣例により、この面積は常に>0.5(そうでない場合、決定規則を逆にしてそのようにすることができる)である。値は、1.0(2つの群の試験値の完全な分離)~0.5(試験値の2つの群の間の明らかな分布差はない)の範囲である。面積は、対角線に最も近い点又は90%特異性での感受性等のプロットの特定の部分のみに依存するのではなく、プロット全体に依存する。これは、ROCプロットが完全なものにどれだけ近いかの定量的な記述表現である(面積=1.0)。
【0164】
対数変換されたTIMP1及びMMP2を独立変数とし、診断を従属変数とする2値ロジスティック回帰モデルを用いる。対数変換では、両方の変数がlog10(TIMP1+0.1)及びlog10(MMP2+0.1)によって別々に変換されることを意味する。ロジスティック回帰モデルの予測、この場合は対数オッズ(対数スケールでの確率)が多変量スコアとして使用される。多変量スコアは、単一の閾値ごとに感受性及び特異性を導出することができる連続共変量として扱われる。
【0165】
実施例5:ヒトCCA対HCC、CCA対リスク管理対象、及びCCA対リスク管理対象+HCCをそれぞれ鑑別するためのマーカーとしてのTIMP1:
CCA試料中のTIMP1の血清濃度を、HCC試料及びリスク管理対象試料と比較して評価する。リスク管理試料は、CCA及びHCC(肝硬変、慢性ウイルス性肝炎、アルコール性及び非アルコール性脂肪性肝炎、8例の胆汁性肝硬変及び4例のPSC)の発症のリスクがある患者を表す。
【0166】
図1は、55例のCCA(CCC)試料、219例のHCC試料及び632例のリスク管理対象試料によるTIMP1のマーカーレベル値(ng/ml単位のTIMP1の濃度値)の分布のボックスプロットを示す。
【0167】
図2は、AUCが0.939である、CCA対リスク管理対象試料の受信者操作特性のプロット(ROCプロット、単変異体分析)を示す。さらに、図2は、AUCが0.715である、CCA対HCC試料の受信者操作特性のプロット(ROCプロット)を示す。
【0168】
図3は、55例のCCA(CCC)試料、並びに851例のリスク管理対象を含むHCC試料により決定されたTIMP1レベル値(ng/ml単位のTIMP1濃度値)の分布のボックスプロットを示す。
【0169】
図4は、AUCが0.881である、CCAをHCC+リスク管理対象から鑑別する際のTIMP1の受信者操作特性のプロット(ROCプロット、単変異体分析)を示す。
【0170】
単変量モデルでは、TIMP1の臨床成績は、基準マーカーCA19-9及びCEAのそれぞれに関して有意に良好である。CCA患者の血清又は血漿中のTIMP1レベル又は濃度は、HCC患者と比較して有意に増加する。CCA患者と、CCA及びHCCの発症のリスクがある患者(肝硬変、慢性ウイルス性肝炎、アルコール性及び非アルコール性脂肪性肝炎)からなる対照群との間で、TIMP1の濃度の更に良好な鑑別が観察される。
【0171】
CCAの診断のためのTIMP-1の臨床性能は、基準マーカーCA19-9及びCEAの臨床性能を上回る(表1を参照):
a)CCA対HCCの鑑別診断の場合:TIMP-1 AUC 0.715、CA19-9 AUC 0.672、CEA AUC 0.615。
b)CCA対肝硬変、慢性ウイルス性肝炎、アルコール性及び非アルコール性脂肪性肝炎を含むリスク管理対象の診断の場合:TIMP-1 AUC 0.939、CA19-9 AUC 0.784、CEA AUC 0.485。
c)CCA対HCC及びリスク管理対象の診断の場合:TIMP-1 AUC 0.881、CA 19-9 AUC 0.755、CEA AUC 0.518。
【表1】
【0172】
本発明者らは、驚くべきことに、この新規な血液バイオマーカーTIMP1がCCAの非侵襲的診断に対して高感受性かつ特異的であることを見出した。メタロプロテアーゼ阻害剤1 TIMP-1(Uniprot P 01033)は、胆管癌との関連では以前に評定されていない。
【0173】
実施例6
マーカーの組み合わせ:ヒトCCA対HCC、CCA対リスク管理対象、及びCCA対リスク管理対象+HCCをそれぞれ鑑別するためのマーカーの組み合わせとしてのTIMP1及びMMP2:
多変量解析では、分析に含まれた2つのバイオマーカーの各組み合わせのAUCに基づいて、TIMP-1とMMP2の組み合わせを他の全てのマーカーの組み合わせよりも優れた最良のモデルとして選択した。
【0174】
図5は、55例のCCA(CCC)試料及び219例のHCC試料によるTIMP1及びMMP2に基づく多変量スコアの分布のボックスプロットを示す。
【0175】
図6は、AUCが0.922である、HCCからCCAを鑑別する際のマーカー組み合わせTIMP1とMMP2の受信者操作特性のプロット(ROCプロット、多変量解析)を示す。
【0176】
図7は、55例のCCA(CCC)試料及び632例のリスク管理対象試料によるTIMP1及びMMP2に基づく多変量スコアの分布のボックスプロットを示す。
【0177】
図8は、AUCが0.977である、リスク管理対象からCCAを鑑別する際のマーカー組み合わせTIMP1とMMP2の受信者操作特性のプロット(ROCプロット、多変量解析)のを示す。
【0178】
図9は、55例のCCA(CCC)試料及び851例のリスク管理対象試料によるマーカー組み合わせTIMP1とMMP2の多変量スコアの分布のボックスプロットを示す。
【0179】
図10は、AUCが0.957である、CCA対HCC+リスク管理対象の鑑別の際のマーカー組み合わせTIMP1とMMP2の受信者操作特性のプロット(ROCプロット、多変量解析)を示す。
【0180】
CCAの診断のためのTIMP-1マーカーとMMP2マーカーとの組み合わせの臨床性能:
a)CCA対HCCの鑑別診断のため:AUC0.922。
b)CCA対肝硬変、慢性ウイルス性肝炎、アルコール性及び非アルコール性脂肪性肝炎を含むリスク管理対象の診断のため:AUC0.977。
c)CCA対HCC及びリスク管理対象の診断のため:AUC0.957。
【0181】
決定されたAUC値を表5に要約する。
【表2】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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