(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-26
(45)【発行日】2025-03-06
(54)【発明の名称】ステントグラフトおよびステントグラフトの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61F 2/07 20130101AFI20250227BHJP
A61F 2/915 20130101ALI20250227BHJP
【FI】
A61F2/07
A61F2/915
(21)【出願番号】P 2023537006
(86)(22)【出願日】2020-12-17
(86)【国際出願番号】 EP2020086716
(87)【国際公開番号】W WO2022128094
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-12-04
(73)【特許権者】
【識別番号】510294003
【氏名又は名称】アンジオメト・ゲーエムベーハー・ウント・コンパニー・メディツィンテクニク・カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100172041
【氏名又は名称】小畑 統照
(72)【発明者】
【氏名】クロット,カトリン
(72)【発明者】
【氏名】フォーゲル,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】サパー,ウルフギャング
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-167277(JP,A)
【文献】特開2007-185366(JP,A)
【文献】特表2014-525813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/07
A61F 2/915
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
- ベースステント(12)であって、第1および第2の長手方向端部、ならびに前記ベースステント(12)を貫通して長手方向に延在する管腔(16)を有するベースステント(12)と、
- 前記ベースステント(12)を裏打ちするために設けられた被覆材(14)と
を備えるステントグラフトであって、
形状接続を形成するために、前記ベースステント(12)が前記被覆材(14)によって少なくとも部分的に浸透される粗面化された表面を有し、
前記粗面化された表面が、止まり穴である微小空洞を備える、
ステントグラフト。
【請求項2】
前記被覆材(14)が、前記ベースステント(12)の外側を覆うことなく前記ベースステント(12)の内側に設けられる、請求項1に記載のステントグラフト。
【請求項3】
前記被覆材(14)が、前記ベースステント(12)の内側を覆うことなく前記ベースステント(12)の外側に設けられる、請求項1に記載のステントグラフト。
【請求項4】
前記被覆材(14)が、前記ベースステント(12)の全長に沿って延在するチューブを形成する、請求項1から3のいずれか一項に記載のステントグラフト。
【請求項5】
前記粗面化された表面がサンドブラストによって粗面化された、請求項1から4のいずれか一項に記載のステントグラフト。
【請求項6】
前記ステントグラフトが前記ベースステント(12)を貫通する穴(18)を備える、請求項1から5のいずれか一項に記載のステントグラフト。
【請求項7】
ステントグラフトの製造方法であって、
- ベースステント(12)を供給するステップであって、前記ベースステント(12)が、第1および第2の長手方向端部と、前記ベースステント(12)を貫通して長手方向に延在する管腔(16)とを有し、前記ベースステント(12)が、前記管腔(16)に面する粗面を有し、前記粗面が、止まり穴である微小空洞を備える、ベースステント(12)を供給するステップと、
- 前記ベースステント(12)の内側に管状の被覆材(14)を配置し、前記被覆材(14)を少なくとも部分的に前記粗面中に浸透させて、形状接続を形成するステップと
を含む、ステントグラフトの製造方法。
【請求項8】
ベースステント(12)を供給する前記ステップが、前記被覆材(14)によって浸透されるべ
き表面を粗面化するステップを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
粗面化する前記ステップが、粗面化されるべき前記表面を微小研削、プレス成形および/またはサンドブラストするステップを含む、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
粗面化する前記ステップが、粗面化されるべき前記表面にレーザーを照射するステップを含む、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記粗面が前記ベースステント(12)を貫通する貫通孔(18)を備える、請求項7から10のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はステントグラフトおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステントグラフト(stent graft)、すなわち被覆ステントは、血管内修復術、および経頸静脈性肝内門脈大循環シャント(TIPS:transjugular intrahepatic portosystemic shunt)の設置など、他の術式の範囲の医療で頻繁に使用される。閉塞した血管や制限された血管を開いた状態に保つためによく使用され、血液が容易に浸透する壁を有する非被覆ステントと比べると、ステントグラフトは、それ自体が管状の導管であり、血管の血液を導通させる機能をある程度代替することができる。
【0003】
典型的なステントグラフトは3つの層から成る。まずベースステントがあり、これはステントグラフトの構造保全を与え、ステントグラフトの形状を規定するステントである。このようなベースステントは、ニチノールのような自己拡張性材料で作られ得、患者の体温まで温められることにより、体内に埋め込まれると送達構成に拡張する。ベースステントは、それ自体がバルーン拡張可能であり、ステント内に挿入され、次いで膨らまされるバルーンによって、ステントの最終的送達構成まで拡張され得る可能性もある。
【0004】
先行技術では、ステントグラフトは、その内側およびその外側を生体適合性のある裏打ち材料(例えば、ePTFE(expanded polytetrafluoroethylene)またはFEP(fluorinated ethylene propylene))でできた被覆層で覆われていることが多い。この被覆材は、ベースステントが形成した骨格を血液導管として機能し得る管状構造にする。
【0005】
このようなステントグラフトで共通する課題は、ステントグラフトの可撓性を改善し、その送達形状を小さくしたいということである。端的に言えば、可撓性が高ければ、蛇行している可能性のある血管にステントグラフトを埋め込むのに有利である。送達形状を小さくすると、狭い血管にステントグラフトを送達することが容易になり、血管の損傷や患者の不快感が軽減される。先行技術のデバイスでは、これら2つの目的は、外側の被覆層を単一の完全な層としてではなく、ベースステントの外表面の周りにらせん状に巻かれたリボンバンドとして構築するか、または両方の層の厚さをある程度薄くすることによって達成されてきたが、いずれも加工時に不利な点を伴うものであった。それに応じて、外壁の有効肉厚が減少するので、ステントグラフトはより柔軟で、送達形状が小さくなる。しかしながら、このようなステントグラフトでは、被覆材がステントグラフトに確実に取り付けられていることを保証する必要がある。さらに、ベースステントの内側と外側の両方に被覆層が設けられた構造は、接合部での摩耗、腐食、疲労につながり得る。
【0006】
被覆材のベースステントへの接着性を高めることも一般的な関心事である。被覆材がベースステントに確実に取り付けられていることを保証することが重要である。保証できない場合、そのステントグラフトは埋め込みに適さず、廃棄されなければならない。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、先に述べた1つまたは複数の問題を解決または軽減することを目的とし、特に、被覆材のベースステントへの密着性を改善するとともに、可撓性を改善し、送達形状を小さくすることも可能にするステントグラフトを提供することを目的とする。本発明は、このような利点を有するステントグラフトの製造方法を提供することも目的とする。
【0008】
本発明は、請求項1および請求項7によって定義される。実施形態は、従属請求項に定義される。
本発明によれば、ステントグラフトはベースステントを備える。このベースステントは自己拡張型ベースステントまたはバルーン拡張型ベースステントであり得、第1および第2の長手方向端部を有する。管腔がベースステントの第1の長手方向端部と第2の長手方向端部との間を長手方向に延在し、したがって全体としてベースステントは管状である。
【0009】
被覆材はベースステントを裏打ちするように設けられる。この被覆材は、ベースステントを、そこを流れる血液を導通させるように機能し得るステントグラフトに変える。被覆材はベースステントに固定されて、ベースステントと被覆材とは1つの機械的ユニットとして扱われ得る。
【0010】
本発明によれば、ベースステントは、被覆材によって少なくとも部分的に浸透されて形状接続(positive fit)を形成する粗面化された表面を有する。すなわち、ベースステントの素材によって形成された凹部および/または突起が存在し、この凹部および/または突起と被覆材が係合し、被覆材をベースステント上に保持するのに役立つ。このような粗面化された表面を有することが、被覆材のベースステントへの接着性の改善になる。粗面化された表面とは、表面が平滑でなく、したがって、その中に被覆材が浸透することが可能になるような形をした構造で構造化されていることを意味する。粗面化された表面は、ベースステントのすべての部分、すなわちストラットとコネクタの両方に設けられ得る。
【0011】
実施形態では、被覆材はベースステントの外側を覆うことなく、ベースステントの内側にのみ設けられる。製造中に少量の被覆材がベースステントの外側に押し出されることは排除できないが、ベースステントの外側の大部分は覆われない。被覆材がベースステントの内側にのみ設けられる場合、このような配置をすることは、ステントグラフトの可撓性とステントグラフトの送達形状の両方を改善する。これは、ステントグラフトの断面積が小さくなり、それが(曲げ剛性が小さくなるので)可撓性を改善すると同時に断面積も小さくし、送達形状を改善するからである。
【0012】
同様に、他の実施形態では、被覆材はベースステントの内側を覆うことなく、ベースステントの外側にのみ設けられる。この場合も、製造中に少量の被覆材がステントの内側に押し出されることは排除できないが、ベースステントの内側の大部分は覆われない。この場合も、このような構成が可撓性と送達形状を改善する。さらに、被覆材がベースステントの内側にのみ設けられる構成と比較すると、一般的に被覆材を接着するための微小空洞を内側ではなくベースステントの外側に設ける方が容易になるため、このようなステントグラフトは製造が容易である。例えば、微小空洞を作るには、ベースステントを内側からではなく外側からサンドブラストする方が容易で、同じことはレーザーの使用など微小空洞を作る他の方法にも当てはまる(ベースステントの外側表面に照射する方が容易である)。
【0013】
実施形態では、被覆材はチューブを形成し、実施形態の中にはこのチューブがベースステントの全長に沿って延在するものもある。ベースステントの全長に沿ってチューブが延在するため、ベースステントの一部が露出することはない。すなわち、ベースステントには、血流を妨げ得る覆われていない部分がない。したがって、ベースステントの使用可能長さは極限まで大きくされる。
【0014】
実施形態では、粗面化された表面はサンドブラストによって粗面化されている。このような粗面は、ベースステントを接着することに関して特に有利である。このような方法の導入も比較的容易である。
【0015】
実施形態では、粗面化された表面は微小空洞を備える。これらの微小空洞は、被覆材を接着することに関して特に優れている。このような微小空洞は、配置された構成要素の厚さよりも大幅に小さい長さスケールの表面の細孔または穴であると理解され得る。例えば、そのような凹凸の長さスケール(直径)は、その厚さの50%未満、好ましくはその厚さの20%未満であり得る。いくつかの実施形態では、これらの微小空洞は止まり穴である。止まり穴を設けることによって、被覆材はベースステントの全体に浸透する必要がなくなり、(穴に流れ込む被覆材の量が制限されるので)ベースステントに流れ込む位置で被覆材が弱くなることが回避される。
【0016】
実施形態では、ステントグラフトはベースステント材料の全体を貫通する穴を備える。このような貫通孔、すなわちベースステントの内側から外側に延在する穴は、被覆材がベースステントを完全に浸透して他方の表面に達することを可能にする。これは、被覆材がこれらの穴を通って流れることにより、ベースステントに対する被覆材の特に強力な接着となり、リベット効果が得られる。このような貫通孔は止まり穴と組み合わせることもできる(すなわち、ベースステントの穴の一部を止まり穴とし、他の穴を貫通孔とすることができる)。
【0017】
本発明の別の態様では、ステントグラフトの製造方法が提供される。その方法によれば、第1および第2の長手方向端部と、それを貫通して長手方向に延在する管腔とを有するベースステントが提供される。そのステントは管腔に面した粗面を有する。
【0018】
続いて管状の被覆材がステント上に配置される。管状の被覆材は、ステント内側にスライドさせて挿入することができるが、ステント上にもスライドさせることができ、したがって被覆材がベースステントの内側の管腔、または、少なくとも理論的にはベースステントの外周も裏打ちすることができる。その後、形状接続を形成するように、管状被覆材を少なくとも部分的に粗面中に浸透させ、それにより被覆材をベースステントに固定する。被覆材を浸透させるために、被覆材を微小空洞内に押し込むように被覆材に圧力がかけられる。例えば、被覆材周囲にリボンを堅く巻いて圧力をかけてもよいし、膨張可能なバルーンをベースステントの管腔中に導入し、その位置で膨らましてもよい。被覆材が温められると軟化するものである場合、被覆材が軟化する温度以上に温めることも一般的に望ましい。ePTFEのような被覆材では、その融点327℃をわずかに上回る約335℃の温度が良好な結果をもたらすことが分かっている。この方法により、ベースステントに対する被覆材の接着性が改善されたステントグラフトが提供される。被覆材がベースステントの内側のみまたは外側のみに設けられている場合、製造されたステントグラフトの送達形状と可撓性も改善される。
【0019】
実施形態では、ベースステントを供給するステップは、管腔に面する表面を意図的に粗面化するステップを含む。すなわち、以前は滑らかだったステントが粗面化される。被覆材の浸透性の改善をもたらす粗面化の方法を選択することができるので、これは接着性を改善することができる。注意すべき点として、粗面化するステップは、既に粗面である既製のベースステントにも用いられ得るので、粗面化前のベースステントの表面が滑らかであることを意味しない。
【0020】
実施形態では、粗面化のステップは、管腔に面する表面を微小研削、プレス成形および/またはサンドブラストする、1つまたは複数のステップを含む。このようなステップが特に優れた粗面化された表面をもたらす。
【0021】
実施形態では、粗面化のステップは、粗面化されるべき表面にレーザーを照射するステップを含む。このようなレーザーを用いれば、非常によく制御された仕方で表面を粗面化することができる。それにより、その表面をどのように粗面化するかについて十分な制御性を有し得るので、結果として得られる接着特性を正確に調整することができる。
【0022】
実施形態では、粗面は、被覆材が少なくとも部分的に浸透する止まり穴を備える。このような止まり穴は、それらの中に浸透し得る被覆材の量を制限する。これは、それらの穴で被覆材が過度に弱くなることを防ぐ。
【0023】
実施形態では、粗面は、ベースステントの管腔側から反管腔側までベースステントの材料全体を貫通する穴を備える。前述したように、このような構成を用いて接着性を改善する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施形態によるステントグラフトを示す。
【
図2】本発明の一実施形態によるステントグラフトの製造方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本発明の実施形態によるステントグラフトを斜視図で示す。ステントグラフト10は、ジグザグ形のストラット15でできた3つのリング13を有するベースステント12を備える。これらのリング13はコネクタ17によって接続される。ベースステント12の内側には、ステントグラフト10の管腔16を裏打ちする内側被覆14が設けられる。
【0026】
図面から分かるように、ベースステント12は、ベースステント12の管腔側の面からベースステント12の反管腔側の面まで放射状に延在するように配置され、被覆材14によって少なくとも部分的に浸透される貫通孔18をさらに備える。ePTFEであり得る被覆材は、シンタリング中にそれらの穴の中に流れ込み、その結果、ステントグラフト12と被覆材14との間に接着および機械的グリップをもたらす。貫通孔18は、コネクタ17とリング13のストラット15の両方に設けられる。
【0027】
図2は、
図1に示されたステントグラフト10を製造する方法をフローチャートで示す。
ステップS10において、ベースステント12が供給される。
続いてステップS12において、このベースステント12が粗面化される。この粗面化は、あらかじめ研磨(このようなステントの標準的な表面処理)されたベースステントよりも大きな粗さを加える微小研削を用いて実行され得る。ステントを切断する前に、多孔性のニチノール素材を使用するのも一選択肢であろう。他の方法は、ベースステントの表面をサンドブラスト処理するか、またはプレス加工など他の機械的表面処理技術を用いることになろう。あるいは、レーザー微小空洞が作られても、レーザーを用いて止まり穴を生じさせてもよい。
図1に示されるように、ベースステント12を管腔側から反管腔側まで完全に貫く貫通孔18を作ることもできる。微小研削を使用し、かつ多孔性ニチノール材料を使用する場合、ステップS10およびS12は単一のステップとすることができ、したがって、十分に多孔性であるベースステント12の供給の他に別段の粗面化するステップは必要ない。
【0028】
続く、被覆材14を配置するステップS14において、被覆材14はベースステント上に配置される。被覆材は、ベースステント12の管腔16中に配置されても、ベースステントを取り囲むように配置されてもよい。
【0029】
最後に、先行技術で行われているものと同様のシンタリングプロセスを経て、被覆材14はベースステント12に接着される(ステップS16)。そのステップでは、実施形態において、被覆材14のグリップ力を高めるために、ePTFEなどの被覆材14を粗面化された表面に、および存在する場合はベースステント表面の穴に流入させるように、十分に高い圧力を用いることができる。これは機械的固定を改善し、貫通孔がある場合には、被覆材がその貫通孔18を通って反対側の表面上に流れ込み、その結果、被覆材がベースステントに特に強力に機械的に固定されるようになる。この接着ステップは、その他の点は従来技術のステントグラフト製造プロセスで行われる接着工程と同様である。