(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-26
(45)【発行日】2025-03-06
(54)【発明の名称】プラズマ元素分析方法および装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20250227BHJP
G01N 21/73 20060101ALI20250227BHJP
H01J 49/10 20060101ALI20250227BHJP
H01J 49/04 20060101ALI20250227BHJP
【FI】
G01N27/62 D
G01N27/62 F
G01N27/62 V
G01N21/73
H01J49/10 500
H01J49/04 630
(21)【出願番号】P 2024022379
(22)【出願日】2024-02-16
【審査請求日】2024-07-26
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1)JASIS2023、幕張メッセ国際展示場、令和5年9月6日 2)アジレント・テクノロジー株式会社にてトヨタ自動車株式会社に対して説明、令和5年5月17日 3)アジレント・テクノロジー株式会社にて株式会社ニコンに対して説明、令和5年4月17日-18日 4)アジレント・テクノロジー株式会社にて古河電気工業株式会社からの試料を測定(令和5年4月24日-27日)し、その後報告、令和5年5月24日 5)アジレント・テクノロジー株式会社にて三井金属鉱業株式会社に対して説明、令和5年10月5日-6日 6)アジレント・テクノロジー株式会社にて三菱重工業株式会社に対して説明、令和6年1月22日-23日 7)アジレント・テクノロジー株式会社にて株式会社大阪ソーダからの試料を測定(令和5年3月13日-14日)し、その後報告、令和5年4月6日 8)アジレント・テクノロジー株式会社にて株式会社大同分析リサーチに対して説明、令和5年9月20日 9)アジレント・テクノロジー株式会社にて日産化学株式会社に対して説明、令和6年1月25日-26日 10)アジレント・テクノロジー株式会社にて日本軽金属株式会社に対して説明、令和5年9月14日 11)アジレント・テクノロジー株式会社にて富士フイルム株式会社に対して説明、令和6年1月17日-18日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】399117121
【氏名又は名称】アジレント・テクノロジーズ・インク
【氏名又は名称原語表記】AGILENT TECHNOLOGIES, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100082946
【氏名又は名称】大西 昭広
(74)【代理人】
【識別番号】100195693
【氏名又は名称】細井 玲
(72)【発明者】
【氏名】西山 徹男
(72)【発明者】
【氏名】杉山 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】大森 美音子
(72)【発明者】
【氏名】藤原 正英
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-097265(JP,A)
【文献】特開2015-127684(JP,A)
【文献】特開2007-298392(JP,A)
【文献】特開2017-215317(JP,A)
【文献】特表2022-500631(JP,A)
【文献】国際公開第2023/248273(WO,A1)
【文献】特開2008-008867(JP,A)
【文献】特開2022-014165(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109580763(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108469464(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
G01N 21/62 - G01N 21/74
H01J 49/00 - H01J 49/48
G01N 33/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体標準を使わずに固体試料の構成元素を定量するためのプラズマ元素分析方法であって、
溶液標準を
ネブライザによって微粒子化してプラズマに導入し、励起・イオン化して分光分析または質量分析し、前記溶液標準に含まれる元素についての検量線データを作成し、
密閉構造のセル内に置かれた固体試料をレーザーアブレーションによって微粒子化し、これをセルに供給されたガスにより
ネブライザによって微粒子化された補助液体と共にプラズマに導入し、励起・イオン化して分光分析または質量分析し、固体試料に含まれる元素について元素分析データを作成し、
前記元素分析データと前記検量線データから前記固体試料中の測定元素の濃度を取得し、
前記取得された測定元素の濃度の合計を100%に規格化することによって、前記測定元素の濃度を補正して定量することを含
み、
前記溶液標準および前記補助液体が1またはより多くの種類の内標準元素を含み、前記測定元素の定量時に内標準元素による補正を行う、分析方法。
【請求項2】
固体標準を使わずに固体試料の構成元素を定量するためのプラズマ元素分析方法であって、
溶液標準をネブライザによって微粒子化してプラズマに導入し、励起・イオン化して分光分析または質量分析し、前記溶液標準に含まれる元素についての検量線データを作成し、
密閉構造のセル内に置かれた固体試料をレーザーアブレーションによって微粒子化し、これをセルに供給されたガスによりネブライザによって微粒子化された補助液体と共にプラズマに導入し、励起・イオン化して分光分析または質量分析し、固体試料に含まれる元素について元素分析データを作成し、
前記元素分析データと前記検量線データから前記固体試料中の測定元素の濃度を取得し、
前記取得された測定元素の濃度の合計を100%に規格化することによって、前記測定元素の濃度を補正して定量することを含み、
前記測定元素が他の元素との化合物であり、前記測定元素の濃度に前記化合物の既知の構成から計算される係数を乗じて規格化を行う
、分析方法。
【請求項3】
前記溶液標準に含まれない前記固体試料中の測定元素についての検量線データが半定量係数と前記溶液標準に含まれる測定元素の検量線データに基づいて作成される、請求項1
または2の分析方法。
【請求項4】
前記微粒子化した溶液標準は、前記レーザーアブレーションした固体試料微粒子と共にプラズマに導入されて前記検量線データが作成される、請求項1
または2の分析方法。
【請求項5】
前記ネブライザによって微粒子化された補助液体はレーザーアブレーションによって微粒子化された固体試料とスプレーチャンバ内またはスプレーチャンバ後部で混合される、請求項1
または2の分析方法。
【請求項6】
前記レーザーはフェムト秒レーザーである、請求項1
または2の分析方法。
【請求項7】
前記プラズマ元素分析はICP-OESまたはICP-MSである、請求項1
または2の分析方法。
【請求項8】
固体標準を使わずに固体試料の構成元素を定量するためのプラズマ元素分析装置であって、
試料導入部から導入される試料をプラズマで励起・イオン化して元素分析を行う分光分析部あるいは質量分析部を含み、
前記試料導入部が、固体試料をレーザーアブレーションにより微粒子化してキャリアガスと共にプラズマへと導入する密閉構造のセルと、溶液標準および補助液体を個別に微粒子化してプラズマへと導入するネブライザとを含
み、
前記分光分析部あるいは質量分析部は、
ネブライザにより微粒子化してプラズマに導入された溶液標準に含まれる元素について検量線データを作成し、
レーザーアブレーションによって微粒子化された後、ネブライザにより微粒子化された補助液体と合流してプラズマに導入された固体試料に含まれる元素を励起・イオン化して元素分析データを作成し、
前記元素分析データと前記検量線データから前記固体試料中の測定元素の濃度を取得し、
前記取得された測定元素の濃度の合計を100%に規格化することによって、前記測定元素の濃度を補正して定量し、
前記溶液標準および前記補助液体が1またはより多くの種類の内標準元素を含み、前記測定元素の定量時に内標準元素による補正を行う、分析装置。
【請求項9】
固体標準を使わずに固体試料の構成元素を定量するためのプラズマ元素分析装置であって、
試料導入部から導入される試料をプラズマで励起・イオン化して元素分析を行う分光分析部あるいは質量分析部を含み、
前記試料導入部が、固体試料をレーザーアブレーションにより微粒子化してキャリアガスと共にプラズマへと導入する密閉構造のセルと、溶液標準および補助液体を個別に微粒子化してプラズマへと導入するネブライザとを含み、
前記分光分析部あるいは質量分析部は、
ネブライザにより微粒子化してプラズマに導入された溶液標準に含まれる元素について検量線データを作成し、
レーザーアブレーションによって微粒子化された後、ネブライザにより微粒子化された補助液体と合流してプラズマに導入された固体試料に含まれる元素を励起・イオン化して元素分析データを作成し、
前記元素分析データと前記検量線データから前記固体試料中の測定元素の濃度を取得し、
前記取得された測定元素の濃度の合計を100%に規格化することによって、前記測定元素の濃度を補正して定量し、
前記測定元素が他の元素との化合物であり、前記測定元素の濃度に前記化合物の既知の構成から計算される係数を乗じて規格化を行う、分析装置。
【請求項10】
前記分光分析部あるいは質量分析部は、
前記溶液標準に含まれない前記固体試料中の測定元素についての検量線データを半定量係数と前記溶液標準に含まれる測定元素の検量線データに基づいて作成
する、請求項
8または9の分析装置。
【請求項11】
前記ネブライザはスプレーチャンバを有し、前記試料導入部は前記レーザーアブレーションにより微粒子化された前記固体試料を前記ネブライザにより微粒子化された前記補助液体と前記スプレーチャンバ内または前記スプレーチャンバの後部で混合する、請求項
8または9の分析装置。
【請求項12】
前記分光分析部あるいは質量分析部は、前記微粒子化した溶液標準を前記レーザーアブレーションした固体試料微粒子と共にプラズマに導入して前記検量線データを作成する、請求項
8または9の分析装置。
【請求項13】
前記試料導入部は、前記レーザーアブレーションに際して設定されたレーザビーム走査回数毎に走査範囲を狭め、試料の深さ方向の定量分析に対する走査範囲エッジからの影響を排除する、請求項
8または9の分析装置。
【請求項14】
前記試料導入部は、前記レーザーアブレーションに際して設定されたレーザビーム走査回数毎に走査範囲を狭め、前記分光分析部あるいは質量分析部は試料の深さ方向に共通した走査範囲のデータのみを取り出し解析する、請求項
8または9の分析装置。
【請求項15】
前記試料導入部は、前記レーザーアブレーションに際して設定されたレーザビーム走査回数毎にレーザーの焦点高さを変化させ、常に同じビーム径で深さ方向分析を行う、請求項
8または9の分析装置。
【請求項16】
前記プラズマ元素分析はICP-OESまたはICP-MSである、請求項
8または9の分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体試料の構成元素を定量するためのプラズマ元素分析方法および分析装置に関し、特にレーザーアブレーション(LA)とプラズマイオン源(ICP)を組み合わせて用いる元素分析に関し、より詳しくはレーザーアブレーションを用いる高周波誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)または高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES)に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマイオン源を用いた分析方法として、例えば質量分析法であるICP-MSは、無機元素、特に微量の金属を分析するために有用であり、半導体、地質及び環境産業を含む多くの分野で広く利用されている。ICP-MSによれば、周期律表の大半の元素について実質的に同時に多元素分析を行うことが可能であり、また元素濃度の定量を10億分の1(ppb)或いは1兆分の1(ppt)という優れた感度レベルで行うことができる。
【0003】
また同様にプラズマイオン源を用いた分析方法であるICP発光分析法は、比較的元素濃度の高い多数のサンプルを高速で分析するのに適しており、プラズマに導入されて発光された元素固有のスペクトルをグレーチングで分解し、その発光強度から、多数の元素を迅速に測定することが可能である。
【0004】
プラズマイオン源を用いた分析方法は固体試料の分析にも有用であり、固体試料を測定するときは、酸分解などの前処理を行って溶液導入することができる。しかし酸分解には時間がかかると共に危険性も伴い、また試料が酸で汚染される可能性もある。さらに固体試料全体を酸分解することになるため、局所分析などには適していない。これに対してレーザーアブレーション(LA)を試料導入装置として用いる場合は固体試料を直接導入することが可能であり、局所分析にも適する利点がある。こうした見地から、LA-ICP-MSやLA-ICP-OESが従来から地球科学分野などにおいて使用されてきている。
【0005】
例えば特許文献1には、LA-ICP-MS装置によって、従来測定困難だった炭素などの元素を測定し、その元素を多く含む測定試料の測定結果を補正することにより、測定試料中の測定元素を精度良く定量分析する技術が記載されている。
【0006】
また特許文献2には、LA部の固体試料のレーザーアブレーションによるICP信号強度と、この固体試料に含まれる元素を既知量含む標準液体試料をETV法により加熱気化した試料のICP信号強度に基づき、固体標準試料を用いずに定量分析する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-347473号公報
【文献】特開2018-136190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
LAによる試料導入を用いると、ICP-MSやICP-OESで固体試料を酸で前処理せずに迅速に分析できるだけでなく、固体試料中の局所分析やイメージング分析も可能になる。レーザーアブレーションは典型的には、レーザー光が透過可能な窓を有するセル内に試料を置き、そこにキャリアガスを流した状態でレーザーを照射することによって行われる。レーザーは試料表面に焦点を合わせて照射され、照射によって発生する試料の微粒子(エアロゾル)がプラズマに導入され、イオン化されて元素分析される。
【0009】
これまでレーザーアブレーションを利用して固体の定量分析を行う場合、標準物質としてはガラス標準物質や鉄鋼標準物質などが用いられている。例えば特許文献1においては、測定対象の試料と同一組成の測定対象元素を既知の濃度で含む標準物質を確保する必要がある。しかしながらこうした標準物質は含まれている元素種や濃度が限定されており、それらが分析対象と一致しない場合は使用が困難である。また、分析対象とマトリックスが相違する場合は元素のイオン化効率に差が生じて信号強度が異なり、試料中の元素濃度を正確に測定できない場合がある。
【0010】
従って各種鉄鋼材料やSiO2主成分のガラス材のように標準試料が人手できる材質に対しては定量分析が可能であるが、化学組成が近い材質の標準試料が人手困難な場合は正確な定量分析は困難であり、適用範囲は限定的である。特許文献2においては固体標準試料を用いずにLA-ICP-MSで定量分析することを提案しているが、最初に固体試料に含まれる元素を特定し、次いでその元素濃度が既知であるマトリックスマッチングした液体標準試料を準備することが必要である。
【0011】
よって、固体の標準試料を必要とせずに、簡便な仕方で固体試料を定量分析可能な、レーザーアブレーションとプラズマイオン源を用いた分析法による測定を行う方法および装置を提供することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の1つの実施形態によれば、固体試料の構成元素を定量するためのプラズマ元素分析方法が提供される。この方法は、溶液標準を例えばネブライザによって微粒子化してプラズマに導入し、励起および/またはイオン化して分光分析または質量分析し、溶液標準に含まれる元素について検量線データを作成する。測定する固体試料は密閉構造のセル内に置かれ、レーザーアブレーションによって微粒子化され、セルに供給されたガスにより、例えばネブライザによって微粒子化された補助液体と共にプラズマに導入され、励起および/またはイオン化されて質量分析され、固体試料に含まれる元素について元素分析データが作成される。
【0013】
1つの実施形態では、補助液体は溶液標準とマトリクスマッチしている。検量線データの作成と元素分析データの作成は、どちらを先に行ってもよい。元素分析データと検量線データからは固体試料中の測定元素の濃度が取得され、この測定元素の濃度を補正して定量が行われる。
【0014】
固体試料中には、溶液標準に含まれていない測定元素が含まれている場合がある。本発明の1つの実施形態では、このような測定元素についての検量線データを、その測定元素の半定量係数と、溶液標準に含まれる測定元素の検量線データに基づいて作成してよい。半定量係数は、濃度既知の複数の元素を含む標準溶液を測定することで全元素に対して作成可能であり、各元素の相対感度を表している。予め得られている半定量係数と溶液標準に含まれる測定試料の検量線データをもとにして、溶液標準に含まれていない測定元素についての検量線データを作成できる。
【0015】
本発明の別の実施形態によれば、固体試料の構成元素を定量するためのプラズマ元素分析装置が提供される。この装置は、試料導入部から導入される試料をプラズマで励起および/またはイオン化して元素分析を行う分析部、例えば分光分析部または質量分析部を含んでいる。試料導入部は、固体試料をレーザーアブレーションにより微粒子化してプラズマへと導入する密閉構造のセルと、溶液標準または補助液体を個別に微粒子化してプラズマへと導入するネブライザとを含むことができる。
【0016】
本発明のさらなる実施形態によれば、分析装置は、上記した本発明による分析方法を実施してよい。すなわち分析装置は、ネブライザにより微粒子化してプラズマに導入された溶液標準に含まれる元素について検量線データを分析部において作成することができる。固体試料中に溶液標準に含まれていない測定元素が含まれている場合には、分析装置は任意選択的に、このような測定元素についての検量線データを、その測定元素の半定量係数と、溶液標準に含まれる測定元素の検量線データに基づいて作成してよい。
【0017】
固体試料はレーザーアブレーションによって微粒子化された後、ネブライザにより微粒子化された補助液体と合流してプラズマに導入され、励起および/またはイオン化されて、元素分析データが作成される。検量線データの作成と元素分析データの作成は、どちらを先に行ってもよい。分析装置はさらに、分析部において元素分析データと検量線データから固体試料中の測定元素の濃度を取得し、測定元素の濃度を補正して定量することができる。
【0018】
測定元素の濃度の補正は、取得された測定元素の濃度の合計を分析装置によって規格化することによって行われてよく、例えば規格化は100%規格化である。すなわち、検量線データと元素分析データから取得された測定測定元素の濃度を加算すると、結果は通常100質量%と異なるが、この場合に合計を100%に規格化することにより、固体試料の構成元素の構成割合をより適切に表示することができる。
【0019】
しかし固体試料の主成分の構成が分かっている場合は、分析部は主成分以外の量に規格化してよく、その場合は例えば30%、50%、70%といった規格化になる。例えば測定元素の濃度和が既知のN%である場合、規格化はN%規格化であってよい。また測定元素が他の元素との化合物である場合は、得られた測定元素の濃度に当該化合物の既知の構成(化学式)から計算される係数を乗じて規格化を行ってよい。
【0020】
補助液体は前記溶液標準とマトリクスマッチしていてよく、例えば1質量%や3質量%といった同じ濃度の希硝酸であってよい。上述のように補助液体はエアロゾル化され、レーザーアブレーションされた固体試料の微粒子と共にプラズマに導入される。すなわち固体試料の微粒子は湿潤状態でプラズマに導入されることになるが、このように補助液体をプラズマ中に用いた場合(ウェットプラズマ)、元素分析の感度は数倍高くなることが見出されている。
【0021】
ネブライザによって微粒子化された補助液体はレーザーアブレーションによって微粒子化された固体試料とスプレーチャンバ内で混合されてよく、それによって粒径の大きな固体試料が脱落される効果がある。スプレーチャンバ内での混合は、スプレーチャンバの後部で行われてよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、固体の標準試料を必要とせず、またマトリックスマッチングした標準物質も必要とせずに、固体試料中の元素の種類および濃度を高い精度でプラズマ元素分析することのできる分析方法および装置が提供される。これは特に、レーザーアブレーションおよびプラズマイオン源を用いた分析方法および装置、例えばLA-ICP-MSまたはLA-ICP-OESの方法および装置である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は本発明の1つの例示的な実施形態によるLA-ICP-MS(レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析装置)の概略図である。
【
図2】
図2は本発明の1つの例示的な実施形態によるレーザーアブレーション(LA)部の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<定量分析装置>
図1に示す、本発明の1つの例示的な形態による定量分析装置であるLA-ICP-MSは、測定する固体試料をレーザーアブレーションによって微粒子化すなわちエアロゾル化し、この微粒子化された試料を誘導結合プラズマ(ICP)に導入して励起および/またはイオン化する。本発明の1つの実施形態においては、セルのチャンバ内に配置された固体試料に対してレーザーアブレーションを行うLA部10と、ネブライザを含む液体導入部12が試料導入部15に接続されている。LA部は密閉構造であり、チャンバ内部には後述のようにキャリアガスが導入され、ICP-MS装置、より具体的にはICP-MS装置のイオン化部20に対して接続されている。
【0025】
図2に示すように、LA部10は、分析対象の固体試料101がチャンバ内に配置される試料セル102を有し、レーザー発振器103、およびX軸方向およびY軸方向のガルバノミラー104,105を主として備えているレーザー照射機構が設けられる。試料セル102はステージ106上に設置されており、このステージ106は例えば2軸のゴニオ機構(図示せず)によって3次元的に傾斜を補正することにより、試料表面の水平出しが可能である。試料セル102をステージ106に設置した後、アブレーションの位置設定は例えばAF機能の付いた同軸カメラ(図示せず)で試料表面を観察しながら行うことができる。こうした設定は、例えば専用のタブレット端末から行ってよい。
【0026】
このようなLA部10において、レーザー発振器103から所定の波長で出射されたレーザー光は、X軸方向およびY軸方向のガルバノミラー104,105で反射され、集光用のfθレンズ107を通り、分析対象の固体試料101の表面へと照射される。アブレーション用レーザーとしては、例えば213nmまたは266nmのNd:YAGレーザーや、193nmのエキシマレーザーなどを用いることができるが、好ましくはフェムト秒(fs)のパルス幅のレーザーが用いられる。短波長レーザーを用いることで試料エアロゾルを小さくすることができ、プラズマ内でのイオン化を促進し元素分別を抑制できると共に、プラズマ温度の低下によるマトリックス効果増大やスパイク状の信号も抑制できる。
【0027】
またフェムト秒レーザーのような極短パルスレーザーを用いることにより、高い熱伝導性を有する試料を加熱および融解せずに分析することが可能となる。特に金属や合金などの融点が低く、熱伝導性のある物質について、バルク物質の元素組成をより正しく反映した粒子を得ることができる。
【0028】
試料セル102には、ヘリウムやアルゴンなどの希ガスよりなるキャリアガスを導入する導入管108と、試料セル102の外部へと導出する導出管109とが接続されている。導出管109は試料導入部15において、ICP-MS装置のイオン化部20へと接続されている。したがって導入管108によって試料セル102内へと導入されたキャリアガスは、レーザー光の照射によって気化された固体試料101と共に、導出管109を通ってイオン化部20へと導かれる。
【0029】
1つの具体的な実施形態において、レーザー発振器103から出射される超短パルス(フェムト秒)の深紫外レーザー(FHG:4倍波)はX軸方向およびY軸方向のガルバノミラー104、105によって反射され、fθレンズ107で集光されて、固体試料101のアブレーションが行われる。アブレーションによって固体試料101は瞬時に加熱され気化されるが、その後再凝集(再凝縮)し、微粒子となる。こうして発生された微粒子(エアロゾル)は数百ナノメートルのサイズになり、導入管108から試料セル102に供給されるヘリウムやアルゴンのキャリアガスで導出管109から試料導入部15に運ばれる。なおイオン化部20への輸送効率を高めるために、ここでアルゴンを混合することができる(
図2の矢印参照)。
【0030】
本発明の例示的な実施形態において、試料導入部15には液体試料を導入するためのバイアル151が、ポンプ152およびネブライザ153を介して接続されている。ネブライザ153は液体試料をエアロゾルに変換するものであり、またエアロゾル化された試料から大きな液滴を除去するためのスプレーチャンバ154を含んでいてよい。ネブライザ153から延びる試料供給導管は、試料導入部15においてLA部10の試料セル102から延びる導出管109と合流して、イオン化部20へと導かれることができる。スプレーチャンバ154に噴霧された微細な霧状の試料はチャンバ内で粒径選別され、その一部がイオン化部20のプラズマへ導かれる。残りはドレインから排出されてよい。
【0031】
ネブライザ153は、液体試料をエアロゾル化するために、ガス源からのアルゴン他の不活性ガスを利用することができる。この不活性ガスは、イオン化部20でプラズマを形成するために利用されるガスと同じであることができる。ポンプ152はペリスタルティックポンプやシリンジポンプなどであってよい。バイアル151は、本発明の実施形態に従って溶液標準または硝酸水溶液などの補助液体を含むことができるが、他にも様々なチューニング液、較正液、リンス液などを含むことができる。また、様々なバイアルを切り換えるように構成された自動装置を含むことができる。
【0032】
固体試料101からレーザーアブレーションにより生成された微粒子またはエアロゾル、バイアル151からポンプ152で吸い上げられネブライザ153で霧化された溶液標準または補助液体のエアロゾル、および/またはこれらの両者は、試料導入部15からイオン化部20に導入され、以下で述べるようにプラズマ内で分解され、原子化され、イオン化され、その後質量分析計によって分析される。
【0033】
別の構成として、LA部10からの微粒子またはエアロゾルはスプレーチャンバ154に導入し、ネブライザ153から導入されたエアロゾルと混合されるようにしてもよい。すなわち試料導入部15における、ネブライザ153から延びる試料供給導管と、LA部10の試料セル102から延びる導出管109との合流は、スプレーチャンバ154において行われてよい。特にこのとき、両者がスプレーチャンバ154の後部で混合されるように構成してよい。これらの構成は、LA部10から導入される微粒子のうち、粒径の大きなものをドレインから排出することを可能にする利点がある。
【0034】
固体および/または液体の試料は、レーザーアブレーションまたはネブライザによるエアロゾル化を経て、試料導入部15からイオン化部20に導入され、その試料に含まれていた元素はイオン化部20で高周波電磁誘導によって生成された高温のプラズマによって分解されてイオン化される。イオン化部20は通常、プラズマを発生させるプラズマトーチを備え、プラズマトーチの先端付近には、サンプリングコーン及びスキマーコーンを含む差動排気系を構成するインターフェース部25が位置する。イオン化部20で生成されたイオンはインターフェース部25でサンプリングされ、イオンレンズ部30で収束されてイオンビームを形成した後、選択された質量電荷比(m/z)のイオンのみを通過させるため、典型的には四重極マスフィルターから構成される質量分離部35に入射される。
【0035】
質量分離部35は、四重極マスフィルターを構成する4つの平行なロッド電極のうちの相対する2つのロッド電極の極性を同じ(一方の相対する2つのロッド電極の極性と他方の相対する2つのロッド電極の極性とは逆)にして、所定の直流電圧と所定の高周波交流電圧を重ね合わせた電圧を印加することによって、特定の質量電荷比のイオンのみを通過させて検出器42に到達させることができるようになっている。これらのロッド電極に印加される直流電圧と高周波交流電圧の比を変えることにより、質量分解能を調整することが可能である。これらの質量電荷比の設定や質量分解能の設定は、例えば質量分析装置の外部コンピューティング装置70を介するオペレータの所望の入力設定に応答して、システムコントロール部60によって設定されてよい。
【0036】
次いでイオンビームは、検出器42を内部に持つ高真空のチャンバに導入される。検出器42は、典型的には二次電子増倍管から構成され、質量分離部35で分離された所定の質量電荷比のイオンの単位時間あたり到達数に対応する電気信号を出力する。二次電子増倍管から出力された電気信号は、パルスカウンタ44及びアナログ電流測定部46に送られ、電気信号のパルス頻度に応じたパルスカウント値、電気信号のアナログ電流値が、それぞれ、パルスカウンタ44、アナログ電流測定部46によって計測される。検出器42、パルスカウンタ44、及びアナログ電流測定部46は、イオン測定部40を構成する。
【0037】
イオンレンズ部30中のイオンレンズは、イオンレンズ電圧駆動部55から電圧が印加されるように構成されている。イオンレンズは、電界を利用してイオンの軌道を変える作用を有する電界型レンズ群から構成されており、その電極に印加される電圧が変わると、それに応じてイオン透過率が変わるように構成されている。そのため、システムコントロール部60によってイオンレンズ電圧駆動部55を制御して、イオンレンズの電極に印加される電圧を適宜変更することによって、イオンレンズのイオン透過率を増減させることが可能である。通常の測定時には、イオンレンズへの印加電圧は、イオン強度の測定対象とされる分析元素の同位体のイオンの透過率が最大になるような、所定の電圧に設定される。
【0038】
システムコントロール部60は、
図1中の各ブロックの動作を制御し、演算処理部65は、質量電荷比(m/z)毎に、測定されたアナログ電流値を1秒間当たりのイオンカウント数(cps)に換算するなどのデータ処理を行う。質量分析装置とPC(パーソナルコンピューター)などの外部のコンピューティング装置70とをネットワークなどを介して接続して、イオン強度の測定値(イオンカウント数)などのデータをコンピューティング装置70に転送して、測定対象とされる分析元素の同位体のイオンのイオン強度を求める演算処理やユーザーとの入出力処理を行うこともできる。
【0039】
なお分析がICP-OESのような発光分光分析である場合には、周知のようにプラズマで励起および/またはイオン化された元素はスペクトルとして放射され、回折格子によって線スペクトルに分解されて検出器に導かれ、例えば光電子増倍管によって発光強度がカウントされる。
【0040】
<定量分析方法>
上記したような定量分析装置を用いた本発明の1つの実施形態によれば、溶液標準が微粒子化してプラズマに導入され、この溶液標準に含まれる元素の少なくとも任意の1つについての検量線データが作成される。検量線データは溶液標準に含まれる元素の一部または全部について作成してよい。また検量線はそれぞれの元素について標準溶液の少なくとも1つの濃度を用いて作成してよい。検量線データの作成は、例えば演算処理部65および/またはコンピューティング装置70によって行われてよい。また上述のように、固体試料中の測定元素に溶液標準に含まれていないものがある場合は、半定量係数を用いて検量線データを作成してよい。
【0041】
溶液標準としては、混合元素数が多い標準液を使用することができる。こうした標準液は種々のものが市販されており、マトリックスとしては硝酸、塩酸、硫酸などが使用されている。例えば米国SPEX社から、認証値の濃度の種々の元素を含む標準液が市販されており、例えばXSTC-622のように35種の元素を含む標準液を使用可能である。検量線の作成に際しては濃度を適宜希釈することができ、また溶液標準は1種類以上を用いてもよい。
【0042】
この点について
図1を参照すると、標準液は例えば比抵抗18.0MΩ以上の超純水で希釈し、幾つかの異なる元素濃度においてバイアル151に入れ、接液したポンプ152でネブライザ153から試料導入部145を介してイオン化部20のプラズマ中に導入してICP-MSで質量分析を行い、各濃度と信号強度との関係に基づき検量線を作成する。LA-ICP-MSのように固体試料を直接に使用する分析用途においては、多くの場合にマトリックス元素を含む試料中のすべての元素が測定されることから、検量線の作成は、できるだけ多くの元素について行うことが好ましい。したがって標準液を適宜組み合わせて試料中のすべての元素を網羅するように混合したものを溶液標準として使用することができる。
【0043】
本発明においては、内標準法を使用することもできる。内標準法を使用する場合は検量線の作成時に溶液標準に対して内標準元素を所定濃度で添加し、試料測定時にはネブライザから導入される補助液体に対して内標準元素を所定濃度で添加する。内標準元素は1つではなく複数を添加することができ、それによってマスバイアスに影響を与えるマトリクス効果も補正できる利点がある。内標準元素による補正は、測定元素の定量時に行ってよい。
【0044】
次いで、測定する固体試料をレーザーアブレーションによって微粒子化し、任意選択的に補助液体と共にプラズマに導入し、イオン化して元素分析データを作成する。レーザーアブレーションによる微粒子化に際しては
図2に示すように、分析対象の固体試料101が適宜の大きさでステージ106上に搭載された試料セル102内に配置される。図示しない同軸カメラで水平出しなどの位置設定を行った後、レーザー照射器103からガルバノミラーを介してレーザーが照射され、固体試料101が微粒子化される。照射はライン状、ラスター状、シングルポイント状など、用途に応じた適切なパターンで行うことができる。
【0045】
微粒子化された固体試料101は、ヘリウムなどのキャリアガスにより試料セル102から試料導入部15を経由してICP-MSのイオン化部20に導入される。このときバイアル151からは同時に補助液体がネブライザ153によって導入されてよい。補助液体としては、溶液標準のマトリックスと同じものを使用することができる。1つの非限定的な例において、補助液体は1~5質量%濃度の希硝酸である。このようにレーザーアブレーションされた微粒子エアロゾルを補助液体と共にイオン化部20に導入することにより、補助液体を用いない場合よりもICP-MSの検出感度を増大させることができる。
【0046】
このとき前述のように、LA部10からの微粒子またはエアロゾルはスプレーチャンバ154に導入し、ネブライザ153から導入されたエアロゾルとスプレーチャンバ154内で、特にスプレーチャンバ154の後部で混合されるように構成してよい。これにより、LA部10から導入される微粒子のうち、粒径の大きなものをドレインから排出することが可能になる。
【0047】
このようにして分析された固体試料101の元素の信号強度は、例えば演算処理部65により質量電荷比(m/z)毎に1秒あたりのイオンカウント数(cps)に換算され、元素分析データが得られる。この元素分析データと、上記で作成された検量線データから、分析対象の固体試料101中の元素の濃度(含有量)が取得される。これは例えば演算処理部65および/または外部コンピューティング装置70において、元素分析データによって示された分析対象の固体試料中の元素の信号強度に対応する濃度を検量線データから読み取ることによって行うことができる。
【0048】
本発明においては、標準添加法を使用することもできる。この場合は溶液標準を微粒子化してプラズマに導入して溶液標準に含まれる元素についての検量線データを作成するに際して、測定する固体試料をレーザーアブレーションによって微粒子化し、溶液標準と共にプラズマに導入することができる。得られた検量線データと、測定する固体試料をレーザーアブレーションし補助液体と共にプラズマに導入して得られた元素分析データの信号強度差から各元素の濃度を計算することができる。得られた各元素の濃度を100%に規格化して、正しい濃度を求めることができる。
【0049】
さらに本発明の1つの実施形態によれば、このようにして取得された測定元素の濃度が補正され、規格化される。LA-ICP-MSにおいては、固体試料101のすべての元素の測定が可能であり、上記のように多くの元素について作成された検量線データを用いることによって、固体試料101を構成する殆ど全ての成分元素について含有量データを取得することができる。このように本発明においては固体試料の殆ど全ての構成成分元素を測定しているため、測定した全元素濃度の合計を例えば100%に補正することができ、これによってアブレーション量の変動を補正することが可能になる。すなわち固体試料101からレーザーアブレーションされる量は材質(例えば鉄鋼サンプルと樹脂サンプル)や表面状態(例えば平面サンプルと凹凸サンプル)によって変動しうるが、本発明においては測定した元素のすべての濃度の合計値に対する相対値に補正することにより、アブレーション効率のあらゆる違いを自動的に補正し、分析を簡素化することができる。
【0050】
本発明の1つの実施形態によれば、検量線データの作成に用いられる溶液標準に含まれる元素の種類は固体試料を構成する成分元素の少なくとも7割を含み、好ましくは少なくとも8割を含み、より好ましくは少なくとも9割を含み、さらに好ましくは少なくとも9割5分を含み、最も好ましくは10割を含む。検量線データが固体試料のできるだけ多くの構成成分元素について作成されることにより、規格化を行った後に固体試料中の元素を精度よく定量することができる。
【0051】
また本発明の1つの実施形態によれば、主成分の構成が分かっている試料、例えば所定の主成分元素が30%や50%である試料については、これらの主成分元素は測定せず、測定した元素濃度の合計を70%や50%に規格化補正してもよい。こうした場合の例としては、主成分元素がフッ化物(CaFなど)、窒化物(GaNなど)、酸化物(CaOなど)のようにICP-MSで測定できない元素との化合物の場合、Al、Co、Ni等の比率のわかっている合金を全主成分測定することができない場合、および例えばプラスチックの分析でCの質量%が他の分析法でわかっている場合のように一部の主成分の濃度が判明している場合がある。なおCaF、GaN、CaOなどの場合には、CaやGaを測定し、既知の構成(化学式)に基づき化合物補正を行ってから100%規格化の補正を行ってもよい。
【0052】
固体試料の深さ方向のプロファイルを取る場合、同じ範囲を続けて層状にレーザーで走査(スキャン)していると、アブレーションにより固体試料に形成されたエッジの影響により、正確に各層の分析を行うことができない。本発明の1つの実施形態によれば、深くなるにつれて走査範囲を狭くすることができる。すなわち試料導入部は、例えばレーザーアブレーションに際して設定されたレーザービーム走査回数毎に走査範囲を狭めるようにレーザー光学系を制御して、固体試料の深さ方向の定量分析に対する走査範囲エッジの影響を排除することができる。
【0053】
また別の制御形態として、試料導入部は、例えばレーザーアブレーションに際して設定されたレーザービーム走査回数毎に走査範囲を狭めるようにレーザー光学系を制御して、分析部は固体試料の深さ方向に共通した位置における走査範囲のデータのみを取り出して解析することができる。
【0054】
さらにまた別の制御形態として、試料導入部は、例えばレーザーアブレーションに際して設定されたレーザービーム走査回数毎に固体試料に対するレーザーの焦点高さ変化させるようにレーザー光学系を制御して、常に同じビーム径で深さ方向の分析を行うことができる。
【0055】
本発明ではまた分析や補正をサポートするためのソフトウェアを用いることができる。こうしたソフトウェアの例にはアジレント・テクノロジー社のMassHunterがある。
【実施例】
【0056】
以下の実施例においては、LA-ICP-MSを
図1に示すように構成した。レーザーアブレーション(LA)部10としては、西進商事(株)のレーザーアブレーション装置であるレーザーブレンダー雷神αを用いた。LA部10のステージ106上の試料セル102には、最大で50mm×25mmの固体試料101を配置できる。試料セル102の上部には、レーザー光が透過可能な窓が設けられており、固体試料表面にガルバノミラーを介して4倍波(1/4波長)フェムト秒レーザーを照射可能な構成である。試料セルには、キャリアガスとしてHeが供給される導入管108および試料導入部15につながる導出管109の接続口が設けられている。
【0057】
誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)としては、アジレント・テクノロジー社製のAgilent8900トリプル四重極ICP-MSを用いた。試料導入部15においては、ネブライザから延びる樹脂製チューブに三つ又ジョイントを接続し、LA部10からの導出管109と接続した。
【0058】
最初に溶液標準として米国SPEX社製のXSTC-622(1%硝酸)に必要な元素標準を追加的に添加したものを用いて、検量線データを作成した。内標準元素としてY、RhおよびTiを添加した。分析対象の固体試料としては、3つの異なる金属固体認証標準物質である、CRM-191-2(ダイナモ鋼)、BAM-310(98.5%Al)、およびERM-EB385(純銅)を用いた。またレーザーアブレーションされる微粒子エアロゾルと共にプラズマ中に導入される補助液体としては、同じ内標準元素を添加し、溶液標準とマトリクスマッチした1%希硝酸を用いて、レーザーアブレーションした固体試料をウェットプラズマにより質量分析した。得られた元素分析データと検量線データとから固体試料中の元素の含有量データを取得し、全元素ノードの合計を100%に補正した。結果を表1に示す。
【0059】
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の分析方法および装置は、固体標準物質を用いることなしに種々の固体表面、例えば純金属や合金の固体表面の元素分析を高精度に行うことが望まれる用途に有用である。
【符号の説明】
【0061】
10 レーザーアブレーション(LA)部
15 試料導入部
20 イオン化部
101 固体試料
102 試料セル
103 レーザー発振器
104,105 ガルバノミラー
106 ステージ
153 ネブライザ
154 スプレーチャンバ
【要約】
【課題】固体標準を必要としないレーザーアブレーションおよびプラズマイオン源を用いた分析方法および装置の提供。
【解決手段】プラズマ元素分析方法および装置は、溶液標準をネブライザにより微粒子化してプラズマに導入し、前記溶液標準に含まれる元素についての検量線データを作成し、測定する固体試料をレーザーアブレーションによって微粒子化し、ネブライザからの補助液体と共にプラズマに導入し、イオン化して元素分析データを作成し、前記元素分析データと前記検量線データから前記固体試料中の測定元素の濃度を取得し、前記測定元素の濃度を補正して定量する。
【選択図】
図1