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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-27
(45)【発行日】2025-03-07
(54)【発明の名称】成形木炭の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10L 5/10 20060101AFI20250228BHJP
   C10B 53/02 20060101ALI20250228BHJP
【FI】
C10L5/10
C10B53/02
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2024183288
(22)【出願日】2024-10-18
【審査請求日】2024-10-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505238175
【氏名又は名称】穴織カーボン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089004
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100176326
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 美穂
(72)【発明者】
【氏名】加藤 直
(72)【発明者】
【氏名】塩崎 智広
(72)【発明者】
【氏名】パン ティ フォン ガト
(72)【発明者】
【氏名】曽我部 敏明
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-335092(JP,A)
【文献】特開2014-227420(JP,A)
【文献】特公昭50-013281(JP,B1)
【文献】特開昭62-135594(JP,A)
【文献】特開昭62-151494(JP,A)
【文献】特開平06-128575(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛粉末と木粉を含む骨材100質量部のうち前記黒鉛粉末が30~50質量部である骨材と、カルボキシメチルセルロース又はでんぷんを含む結合剤であって前記骨材100質量部に対して3~15質量部の結合剤とを混合した混合物を形成する混合工程と、
前記混合物に水を加えながら110~200℃で捏合して捏合物を形成する捏合工程と、
前記捏合物を所定の形状の成形物にする成形工程を有することを特徴とする成形木炭の製造方法。
【請求項2】
前記成形物を非酸化性雰囲気で700~1000℃で熱処理する熱処理工程を有することを特徴とする請求項1に記載の成形木炭の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒鉛粉末を含む成形木炭及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木炭は、燃焼時に発生する煙、炎、臭いなどが少なく、赤外線(近赤外線、遠赤外線)を含む輻射熱の作用によって食材の表面に焦げ目を作ってうまみ成分を閉じ込めることができる。また、木炭の燃焼時には水分が発生しないので、食材の表面がパリッとした焼き上がりなる。このように木炭は、調理に好ましい特長を有するので、調理用の固形燃料として広く利用されている。
【0003】
例えば備長炭のような燃焼性能が優れた木炭は、木材を高温で乾留(炭素化)処理して炭素以外の成分を極力除去するので製造コストがかかり、高価になる。それ故、備長炭に代わる木炭として例えばオガ炭などが市販されているが、備長炭と同程度の燃焼性能は得られていない。
【0004】
ここで、例えば調理用の木炭には、発熱量が大きいことやある程度燃焼時間が長いことが求められている。特に一般家庭やキャンプなどで用いられる木炭は、これらに加えて着火が容易であることを含む高い燃焼性能が求められている。
【0005】
例えば特許文献1には、炭素質が80%以上の炭化物からなる原料となる炭の粉末に、人造黒鉛粉5~25%を混合して燃料用成形木炭を製造することが開示されている。人造黒鉛粉の添加は、発熱量及び燃焼時間の向上と、成形木炭のかさ密度向上の効果が期待できるため、成形木炭の密度をコントロールすることによって、例えば燃焼性能を備長炭に近づける、容易に着火できる等、様々な特性を成形木炭に付与可能になるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-306925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、原料となる炭を得るために、炭の原料である針葉樹、オガ屑、樹皮等々の有機物を400~700℃前後で乾留する必要がある。また、成形においては、バインダー(結合剤)として木酢タールとポリビニルアルコールを用いることが開示されている。しかし、着火を容易にするために、成形木炭の表面にカリウムやカルシウムを付着させる必要があるという課題があった。また、人造黒鉛粉の含有量が最大25%であるため、燃焼性能の向上は限定的であった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、容易に着火できる燃焼性能を向上させた成形木炭の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項の発明の成形木炭の製造方法は、黒鉛粉末と木粉を含む骨材100質量部のうち前記黒鉛粉末が30~50質量部である骨材と、カルボキシメチルセルロース又はでんぷんを含む結合剤であって前記骨材100質量部に対して3~15質量部の結合剤とを混合した混合物を形成する混合工程と、前記混合物に水を加えながら110~200℃で捏合して捏合物を形成する捏合工程と、前記捏合物を所定の形状の成形物にする成形工程を有することを特徴としている。
【0014】
上記構成によれば、カルボキシメチルセルロース又はでんぷんを含む結合剤によって、黒鉛粉末と木粉を含む骨材同士を結合して、堅牢な成形木炭を形成することができる。この成形木炭は黒鉛粉末よりも発火温度が低い木粉を含んでいるので、容易に着火することができる。その上、骨材における黒鉛粉末の割合が大きいので、発熱量及び燃焼時間を向上させて燃焼性能を向上させることができる。
【0015】
請求項の発明の成形木炭の製造方法は、請求項の発明において、前記成形物を非酸化性雰囲気で700~1000℃で熱処理する熱処理工程を有することを特徴としている。
上記構成によれば、熱処理によって成形木炭の固定炭素量が増加するので、発熱量を向上させて燃焼性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の成形木炭の製造方法によれば、形成した成形木炭に容易に着火でき、成形木炭の燃焼性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施例1に係る成形木炭である。
図2】本発明の成形木炭の形成工程を示す図である。
図3】(a)は実施例1のTG曲線を示す図表であり、(b)は実施例1のDTA曲線を示す図表である。
図4】(a)は実施例2のTG曲線を示す図表であり、(b)は実施例2のDTA曲線を示す図表である。
図5】(a)は比較例1のTG曲線を示す図表であり、(b)は比較例1のDTA曲線を示す図表である。
図6】(a)は比較例2のTG曲線を示す図表であり、(b)は比較例2のDTA曲線を示す図表である。
図7】(a)は比較例3のTG曲線を示す図表であり、(b)は比較例3のDTA曲線を示す図表である。
図8】実施例1,2及び比較例1~3の燃焼温度推移を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
図1に示す成形木炭は、黒鉛粉末と木粉を含む粉状の骨材同士を、結合剤によって結合し、成形したものである。黒鉛粉末には、人造黒鉛の粉末や、例えば鱗状黒鉛や土壌黒鉛等の天然黒鉛の粉末を用いることができる。人造黒鉛の粉末は、人造黒鉛ブロックから黒鉛製品を削り出す際に発生する削り粉であり、通常は廃棄される。この様な削り粉を用いることにより、廃棄物又は副産物を安価に有効利用することができる。
【0020】
木粉としては、例えば廃棄する木材を粉砕したものや、原木から木材を切り出す際や木材を加工する際に発生するオガ粉を用いることができる。スギ、ヒノキ、ツガなど針葉樹は木材として広く利用されており、これら針葉樹の木粉は容易に入手可能である。木粉を含む成形木炭は、燃焼する際に木粉にした樹木特有の香りが発生するので、樹木の種類を選定することによって発生する香りを好みに合わせることも可能である。尚、例えばサクラのような広葉樹の木粉でもよく、樹木の種類は特に限定されない。
【0021】
結合剤としては、カルボキシメチルセルロースが好ましく、でんぷんを使用することもできる。また、カルボキシメチルセルロースとでんぷんを混合したものを結合剤としてもよい。これらは食品添加物として利用可能なグレードのものがあり、燃焼時に有害な成分が発生せず、食品の加熱に対して安全に利用可能である。
【0022】
成形木炭は、骨材100質量部のうちの30~50質量部が黒鉛粉末である。炭素以外の成分を殆ど含まない黒鉛粉末の割合が大きいので、成形木炭の燃焼性能(発熱量、燃焼時間等)が向上する。また、この成形木炭には木粉が含まれているため、着火が容易になる。
【0023】
次に、図2に基づいて成形木炭の形成工程について説明する。最初の混合工程は、骨材である黒鉛粉末と木粉と、粉末状の結合剤を所定の割合で混合する。骨材100質量部については、黒鉛粉末を30~50質量部として残りを木粉とすればよい。結合剤は、この骨材100質量部に対して3~15質量部の割合で混合すればよい。混合は、例えば撹拌棒を用いて手動で行ってもよく、例えばV型混合機やダブルコーン型混合機を用いてもよい。黒鉛粉末と木粉と結合剤が均一に混ざるように十分に混合できれば、混合手段は特に限定されない。
【0024】
捏合工程は、混合工程で混合された混合物を、水を加えながら捏合して、骨材同士を結合剤によって結合させる。捏合は市販の混捏機を用いて行い、例えばスクリューの回転により混合物に摩擦力を与えながら適宜水を加えて捏合して、捏合物を形成する。この捏合のときの温度は、骨材及び結合剤の種類にもよるが、110~200℃が好ましく、より好ましくは120~170℃程度である。
【0025】
成形工程では、捏合工程で形成された捏合物を市販の圧縮成形機を用いて成形する。捏合物は、例えば圧縮成形機のノズルから押し出されながら回転刃によって適当な長さに切断された成形物になり、この成形物が成形木炭である。成形木炭の形状は特に限定されないが、成形し易く且つ取り扱いが容易となるように、直径が20~40mm、長さが20~100mmの円柱状とすることができる。
【0026】
こうして形成された成形物(成形木炭)は、熱処理工程で熱処理をして木粉及び結合剤を炭素化してもよい。この熱処理は、非酸化性雰囲気(還元性雰囲気又は窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気)で行い、その熱処理温度を700~1000℃とすることが好ましい。尚、熱処理によって燃焼時に木粉から出る香りは無くなるが、燃焼時に出る水分等が減少し、固定炭素量が増え、燃焼性能が向上する。
【0027】
次に、本発明の実施例1,2の成形木炭について説明する。
スギなどの針葉樹のオガ粉を木粉として、この木粉62質量部(31kg)と、人造黒鉛の切削によって得られた黒鉛粉末38質量部(19kg)を骨材として用いた。また、結合剤として、市販のカルボキシメチルセルロースを、骨材100質量部に対して5質量部(2.5kg)を用いた。
【0028】
混合工程では、金属製の容器内で上記の骨材と結合剤を金属製の撹拌棒を用いて均一に混合した。捏合工程では、スクリュー式の混捏機を用いて、骨材と結合剤の混合物に水を適宜加えながら約150℃で捏合した。成形工程では、市販の圧縮成形機を用いて、捏合工程で捏合した捏合物を内径30mmの円筒ノズルから押し出して円柱状に成形しながら、回転刃で30~100mm程度の長さに切断した。
【0029】
実施例1は、成形された成形物そのままの成形木炭であり、かさ密度は0.83g/cmであった。実施例2は、成形物に含まれている木粉及び結合剤を熱処理工程で炭素化した成形木炭であり、かさ密度は0.73g/cmであった。熱処理工程では、市販の縦型管状炉を用いて、窒素雰囲気で920℃、10分の熱処理を行った。
【0030】
これら実施例1,2の成形木炭と、市販品(比較例1~3)について、JIS M 8812準拠の工業分析(水分、灰分、揮発分、固定炭素の測定)、JIS M 8814準拠の発熱量の測定、及び示差熱天秤による測定を行った。発熱量の測定には、カロリーメターC5000 2/12(IKA製)を用いた。
【0031】
示差熱天秤TG-DTA7200(SII Nanotechnology Inc.製)を使用して、30~800℃の温度範囲において10℃/分の昇温速度で、空気雰囲気で熱重量示差熱分析(TG-DTA:Thermo Gravity―Differential Thermal Analysis)を行った。TG曲線では、低温領域における試料の燃焼前の水分及び揮発分の気化による質量減少と、試料の燃焼開始後の燃焼による大きな質量減少が観察される。また、DTA曲線では、試料の燃焼による発熱ピークが観察される。
【0032】
表1に、実施例1,2と比較例1~3の工業分析結果(水分、灰分、揮発分、固定炭素)、発熱量、発火温度を示す。発火温度は、図3図7の実施例1,2と比較例1~3についてのTG曲線において、燃焼前の温度領域における質量変化の直線部分の延長線と、燃焼による質量変化の初期の直線部分の延長線との交点を発火点とし、そのときの温度を発火温度とした。比較例1は紀州備長炭(かさ密度1.03g/cm)、比較例2はオガ炭(かさ密度1.06g/cm)、比較例3はマレーシア林野庁マングローブ使用の木炭(かさ密度0.87g/cm)であり、何れも容易に入手可能な市販品である。
【0033】
【表1】
【0034】
実施例1の成形木炭は、炭素化されていない木粉と結合剤を含むため、揮発分が26.9質量%と大きく、発火温度が260℃であった。これは、実施例2、比較例1~3と比べて発火温度が低く、着火が容易であるという特徴を示すものと考えられる。また、DTA曲線において3つの発熱ピークが見られ(図3参照)、低温側の2つのピークは、木粉と結合剤によるもの、最も高温側の発熱ピークは黒鉛粉末によるものと考えられる。
【0035】
実施例2の成形木炭は、発火温度及び発熱量が比較例1の備長炭と略同等あった。また、比較例1と比べて、実施例2は揮発分が7.5質量%と大きいため着火し易いと考えられる。また、DTA曲線において2つの発熱ピークが見られ(図4参照)、低温側の発熱ピークは炭素化された木粉と結合剤によるもの、高温側の発熱ピークは黒鉛粉末によるものと考えられる。尚、参考例1~3では、DTA曲線における発熱ピークは何れも1つであった(図5図6図7参照)。
【0036】
次に、実施例1,2及び比較例1~3を夫々燃料とした燃焼実験を行った。ここでは、市販のコンロ(和平フレイズ株式会社製 飛騨コンロ14cm)に約140[g]の燃料を入れ、ガスバーナーで着火して燃焼させた。図8に実施例1,2と比較例1~3の燃焼温度の推移を示す。燃焼温度は、着火直後(0分)から30分経過するまで5分経過毎に、燃料の表面5箇所の温度を測定し、そのうち最も高い温度をその時点での温度とした。燃焼温度の測定には、放射温度計(株式会社カスタム製 型番IR-309)を用いた。
【0037】
実施例1は、特に送風を必要とせずに3分程度で着火し、燃焼後には灰が非常に少なかった。実施例2は、特に送風を必要とせずに3分程度で着火し、実施例1よりも高温で燃焼し、燃焼後には灰が非常に少なかった。
【0038】
比較例1は、送風なしでの着火が困難であり、送風機で送風しながら着火した場合に5分程度で着火した。着火後は、実施例2よりも高温で安定的に燃焼し、燃焼後には実施例1,2と比較して灰が多く残った。比較例2は、送風を必要とせずに3分程度で着火し、実施例1と同程度の温度で燃焼し、燃焼後には実施例1,2と比較して灰が多く残った。比較例3は、送風を必要とせずに3分程度で着火し、燃焼時の温度は大きく変動し、燃焼後には実施例1,2と比較して灰が多く残った。
【0039】
実施例1は、着火性が良く、木粉にした樹木の種類に応じた香りを出すことが可能であり、比較例2と同等の温度で燃焼すると共に、灰が非常に少ないので後片付けが容易である。実施例2は、比較例1にはわずかに及ばないが発熱量が大きく、燃焼時の温度が高く、着火性も良好であり、灰が非常に少ないので後片付けが容易である。
【0040】
その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、上記実施形態に種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態を包含するものである。
【要約】
【課題】容易に着火できる燃焼性能を向上させた成形木炭及びその成形木炭の製造方法を提供すること。
【解決手段】黒鉛粉末と木粉を含む骨材と、カルボキシメチルセルロース又はでんぷんを含む結合剤とで成形木炭を構成する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8