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特許7641488軟磁性部材及びその製造方法、軟磁性部材用合金板材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-27
(45)【発行日】2025-03-07
(54)【発明の名称】軟磁性部材及びその製造方法、軟磁性部材用合金板材
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20250228BHJP
   C22C 38/10 20060101ALI20250228BHJP
   C22C 38/52 20060101ALI20250228BHJP
   C21D 6/00 20060101ALI20250228BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20250228BHJP
   C21D 9/46 20060101ALN20250228BHJP
【FI】
C22C38/00 303S
C22C38/10
C22C38/52
C21D6/00 C
H01F1/147
C21D9/46 P
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020117770
(22)【出願日】2020-07-08
(65)【公開番号】P2022022832
(43)【公開日】2022-02-07
【審査請求日】2023-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 誉将
(72)【発明者】
【氏名】草深 佑介
(72)【発明者】
【氏名】古庄 千紘
(72)【発明者】
【氏名】小柳 禎彦
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-075721(JP,A)
【文献】特開昭62-093342(JP,A)
【文献】特開2007-169760(JP,A)
【文献】特開昭61-253348(JP,A)
【文献】特表2018-529021(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0184790(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
Co:5.00%~25.00%、
Si:0.10%~2.00%、
Al:0.10%~2.00%、
(但し、Si及びAlの合計量が1.00%~3.00%)
で、残部Fe及び不可避的不純物からなる合金組成を有する板状の合金板材であって、冷間加工により与えられた加工歪みを開放させた再結晶組織を有することを特徴とするFe-Co系軟磁性部材用合金板材
【請求項2】
Si及びAlの合計量が1.00%~1.96%であることを特徴とする請求項1記載のFe-Co系軟磁性部材用合金板材。
【請求項3】
前記合金組成において、質量%で、
C:0.020%以下、
Mn:0.10%以下、
P:0.010%以下、
S:0.005%以下、
Cu:0.05%以下、
Ni:0.10%以下、
Cr:0.10%以下、
Mo:0.10%以下、
Ti:0.010%以下、
O:0.005%以下、
N:0.005%以下、
で含み得ることを特徴とする請求項1又は2に記載のFe-Co系軟磁性部材用合金板材
【請求項4】
均結晶粒径を200μm以下に調整されていることを特徴とする請求項3記載のFe-Co系軟磁性部材用合金板材
【請求項5】
質量%で、
Co:5.00%~25.00%、
Si:0.10%~2.00%、
Al:0.10%~2.00%、
(但し、Si及びAlの合計量が1.00%~3.00%)
で、残部Fe及び不可避的不純物からなる合金組成を有し、平均結晶粒径を40μm以上、1.5T及び1kHzでのコアロスを150W/kg以下に磁気調整処理されていることを特徴とするFe-Co系軟磁性部材。
【請求項6】
前記合金組成において、質量%で、
C:0.020%以下、
Mn:0.10%以下、
P:0.010%以下、
S:0.005%以下、
Cu:0.05%以下、
Ni:0.10%以下、
Cr:0.10%以下、
Mo:0.10%以下、
Ti:0.010%以下、
O:0.005%以下、
N:0.005%以下、
で含み得ることを特徴とする請求項5記載のFe-Co系軟磁性部材。
【請求項7】
加工歪みを開放させた再結晶組織を有することを特徴とする請求項5又は6に記載のFe-Co系軟磁性部材。
【請求項8】
Fe-Co系軟磁性部材の製造方法であって、
質量%で、
Co:5.00%~25.00%、
Si:0.10%~2.00%、
Al:0.10%~2.00%、
(但し、Si及びAlの合計量が1.00%~3.00%)
で、残部Fe及び不可避的不純物からなる合金組成を有する合金からなるとともに平均結晶粒径を200μm以下に調整した合金素材を用意し、冷間加工し、加熱して磁気調整処理を与えて平均結晶粒径を40μm以上の再結晶組織とするとともに、1.5T及び1kHzでのコアロスを150W/kg以下とすることを特徴とするFe-Co系軟磁性部材の製造方法。
【請求項9】
質量%で、
C:0.020%以下、
Mn:0.10%以下、
P:0.010%以下、
S:0.005%以下、
Cu:0.05%以下、
Ni:0.10%以下、
Cr:0.10%以下、
Mo:0.10%以下、
Ti:0.010%以下、
O:0.005%以下、
N:0.005%以下、
であることを特徴とする請求項記載のFe-Co系軟磁性部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Si及びAlを含むFe-Co系軟磁性部材用合金と、軟磁性部材、その中間体、及びそれらの製造方法と、に関する。
【背景技術】
【0002】
FeとSiの合金からなる電磁鋼板では、透磁率(μ)を高く、損失(Pcm)を低く、且つ、飽和磁束密度(Bs)を高くした磁気特性を得られることから、モータコア材に広く用いられている。一方、近年のモータにおける高出力化、小型化などへの要求から、より高い飽和磁束密度を得られる、FeにCoを添加した軟磁性合金が開発されている。例えば、飽和磁束密度(Bs)と透磁率(μ)とのバランスに優れたFe-49Co-2V材、通称「パーメンジュール」が知られている。一方で、Coは、Siなどと比較して非常に高価な元素であることから、Co量を抑制した軟磁性合金も提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、変圧器のコアなどの磁性部品を形成するためのSi及びAlを含むFe-Co系軟磁性合金が開示されている。Co含有量を35%未満とした場合には、Co量に対応させてSi及びAlを与えるとしている。かかる合金を冷間圧延及び焼鈍処理(熱処理)を複数回与えてシート又はストリップを得るが、Coの添加量の上限は、この焼鈍処理の間に、規則-不規則の変態を急速且つ急激に生じることのないように決定されるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2018-529021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したように、Coは、非常に高価な元素であり、これを多く含む前記したような電磁鋼板はコスト面に課題を有している。更に、多量のCoを含むことによって、脆化相(規則相)が生成し、加工や焼鈍条件を適正に管理して冷間加工性を確保しないと、所定製品への成形加工ができないといった製造性の課題も有している。
【0006】
本発明は、以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、FeへのCoの添加量を調整するとともにその他元素の添加により、冷間加工性を損なうことなく製造性に優れ、軟磁性部材としての磁気特性を満たす、特に、損失を低く抑え得るようにSi及びAlを添加されたFe-Co系軟磁性部材用合金と、軟磁性部材、その中間体、及びその製造方法と、を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるFe-Co系軟磁性部材用合金は、質量%で、Co:5.00%~25.00%、Si:0.10%~2.00%、Al:0.10%~2.00%、(但し、Si及びAlの合計量が1.00%~3.00%)で、残部Fe及び不可避的不純物からなる合金組成を有することを特徴とする。
【0008】
かかる特徴によれば、軟磁性部材として必要とされる磁気特性を満たすとともに、冷間加工性に優れて高い製造性を確保できるのである。
【0009】
上記した発明において、前記合金組成において、質量%で、C:0.020%以下、Mn:0.10%以下、P:0.010%以下、S:0.005%以下、Cu:0.05%以下、Ni:0.10%以下、Cr:0.10%以下、Mo:0.10%以下、Ti:0.010%以下、O:0.005%以下、N:0.005%以下、で含み得ることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、製造安定性を確保し、軟磁性部材として必要とされる磁気特性を満たすとともに、冷間加工性に優れて高い製造性を確保できるのである。
【0010】
また、本発明によるFe-Co系軟磁性部材用合金素材は、Fe-Co系軟磁性部材用合金素材であって、上記した合金組成を有し、平均結晶粒径を200μm以下に調整されていることを特徴とする。
【0011】
かかる特徴によれば、軟磁性部材として必要とされる磁気特性を満たすとともに、冷間加工性に優れて高い製造性を確保できるのである。
【0012】
また、本発明によるFe-Co系軟磁性部材用プリフォーム材は、加熱による磁気調整処理を与えられて軟磁性部材を与えるFe-Co系軟磁性部材用プリフォーム材であって、上記した合金組成を有し、冷間加工された冷間加工組織を備えることを特徴とする。
【0013】
かかる特徴によれば、加熱による磁気調整処理を行うことで、再結晶組織を得て軟磁性部材に必要とされる磁気特性を簡便に得ることができるのである。
【0014】
また、本発明によるFe-Co系軟磁性部材は、上記した合金組成を有し、平均結晶粒径を40μm以上、1.5T及び1kHzでのコアロスを150W/kg以下に磁気処理されていることを特徴とする。
【0015】
かかる特徴によれば、製造性に優れるとともに、軟磁性部材に必要とされる高い磁気特性を有するのである。
【0016】
上記した発明において、加工歪みを開放させた再結晶組織を有することを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、製造性に優れるとともに、軟磁性部材に必要とされる高い磁気特性を有するのである。
【0017】
また、本発明によるFe-Co系軟磁性部材用プリフォーム材の製造方法は、加熱による磁気調整処理を与えられて軟磁性部材を与えるFe-Co系軟磁性部材用プリフォーム材の製造方法であって、質量%で、Co:5.00%~25.00%、Si:0.10%~2.00%、Al:0.10%~2.00%、(但し、Si及びAlの合計量が1.00%~3.00%)で、残部Fe及び不可避的不純物からなる合金組成を有する合金からなり、平均結晶粒径を200μm以下に調整した合金素材を用意し、冷間加工して冷間加工組織とすることを特徴とする。
【0018】
かかる特徴によれば、加熱による磁気調整処理を行うことで、軟磁性部材に必要とされる磁気特性を簡便に得るためのプリフォーム材を高い製造性をもって得ることができる。
【0019】
上記した発明において、質量%で、C:0.020%以下、Mn:0.10%以下、P:0.010%以下、S:0.005%以下、Cu:0.05%以下、Ni:0.10%以下、Cr:0.10%以下、Mo:0.10%以下、Ti:0.010%以下、O:0.005%以下、N:0.005%以下、であることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、軟磁性部材用を簡便に得るためのプリフォーム材を高い製造安定性をもって得ることができる。
【0020】
また、本発明によるFe-Co系軟磁性部材の製造方法は、Fe-Co系軟磁性部材の製造方法であって、質量%で、Co:5.00%~25.00%、Si:0.10%~2.00%、Al:0.10%~2.00%、(但し、Si及びAlの合計量が1.00%~3.00%)で、残部Fe及び不可避的不純物からなる合金組成を有する合金からなるとともにとともに平均結晶粒径を200μm以下に調整した合金素材を用意し、冷間加工し、加熱して磁気調整処理を与えて平均結晶粒径を40μm以上の再結晶組織とするとともに、1.5T及び1kHzでのコアロスを150W/kg以下とすることを特徴とする。
【0021】
かかる特徴によれば、冷間加工により導入された加工歪みとその熱処理による再結晶化によって得られる再結晶組織によって、軟磁性部材として必要とされる磁気特性を満たす部材を高い製造性をもって得ることができるのである。
【0022】
上記した発明において、質量%で、C:0.020%以下、Mn:0.10%以下、P:0.010%以下、S:0.005%以下、Cu:0.05%以下、Ni:0.10%以下、Cr:0.10%以下、Mo:0.10%以下、Ti:0.010%以下、O:0.005%以下、N:0.005%以下、であることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、軟磁性部材として必要とされる磁気特性を満たす部材を高い製造安定性をもって得ることができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明による軟磁性部材の製造方法の例を示すフロー図である。
図2】製造試験に用いた合金の成分組成の一覧表である。
図3】製造試験で得られた軟磁性部材の特性の一覧表である。
図4】実施例6の(a)焼鈍後、(b)冷間加工後及び(c)磁気調整処理後の断面組織写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明による1つの実施例としての軟磁性部材、その中間体である軟磁性部材用合金素材及び軟磁性部材用プリフォーム材、及びそれらの製造方法と、軟磁性部材用合金について図1を用いて説明する。
【0025】
図1に示すように、軟磁性部材の製造方法においては、まず、所定の成分組成を有する軟磁性部材用合金を溶解し、鋳造する(S1)。
【0026】
ここで、軟磁性部材用合金は、Fe-Co系合金であり、その合金組成としては、質量%で、Co:5.00%~25.00%、Si:0.10%~2.00%、Al:0.10%~2.00%、を含有する。但し、かかる合金組成においては、Si及びAlの合計量が1.00%~3.00%との条件を満たすものである。
【0027】
このように、FeへのCoの添加量を調整するとともにその他元素の添加をした合金組成とすることで、冷間加工性を損なうことなく最終的に得られる軟磁性部材において、必要とされる軟磁気特性を高いレベルで得られる。
【0028】
なお、かかるFe-Co系合金においては、α/α+γ変態点を950℃以上とするように成分調整されることが好ましい。当該変態点を高くすることで、後述する磁気調整処理(磁気焼鈍、熱処理:S5)を行っても、反強磁性相であるγ相の残存を抑制し、軟磁性部材としての優れた磁気特性を得ることが容易となる。
【0029】
また、かかる合金組成において、質量%で、C:0.020%以下、Mn:0.10%以下、P:0.010%以下、S:0.005%以下、Cu:0.05%以下、Ni:0.10%以下、Cr:0.10%以下、Mo:0.10%以下、Ti:0.010%以下、O:0.005%以下、N:0.005%以下、を含み得る。これらは、可能な限り低減させることが望ましい不純物であり、上記した軟磁性部材としての磁気特性等の性質に影響を与えない範囲での含有が許容されるが、これを規定した製造工程によって、品質を安定させ、製造安定性を高めることになるのである。
【0030】
鋳造された軟磁性部材用合金は、次に、熱間加工される(S2)。ここでは分塊、熱間鍛造及び/又は熱間圧延によって例えばビレットなどの後述する合金素材の形状とする。熱間加工において、少なくとも最後に歪みを与える工程での加熱温度はα/α+γ変態点よりも低い温度であることが好ましく、例えば、900℃以下とすることが好ましい。これにより、熱間加工中の結晶粒の成長を抑制しておいて、後述する焼鈍(S3)後に得られる軟磁性部材用合金素材において、平均結晶粒径を200μm以下とし得る。このように熱間加工において結晶粒径を比較的小さく維持しておくことで、後述する冷間加工(S4)における割れも防止し得る。なお、熱間加工における最後に歪みを与える工程以外での加熱温度も、α/α+γ変態点よりも低い温度であると結晶粒径を小さく維持する観点で好ましいが、鍛造設備への負荷を考慮してこれよりも高い温度としてもよい。
【0031】
続いて、加工歪みを取り除くよう焼鈍を行い(S3)、平均結晶粒径を200μm以下に調整して、軟磁性部材用の合金素材を得る。ここでは、過剰な粒成長を防止するよう、例えば、700~900℃の範囲内の温度で加熱保持すると好ましい。熱間加工(S2)での加工歪みにもよるが、再結晶を生じ得て、これによっても結晶粒を小さくして粒成長を抑制し得る。ここで得られる合金素材は、例えば、厚さ1.0~10.0mmの板材とし得る。
【0032】
焼鈍を行って用意された合金素材に冷間加工を施し(S4)、加工歪みを与えた軟磁性部材用プリフォーム材を得る。ここでは、後述する磁気調整処理(磁気焼鈍、熱処理:S5)において、再結晶化させて結晶粒を微細化するための加工歪みを前もって付与する。冷間加工としては、冷間圧延や冷間引抜きなどの公知の加工方法を用い得る。また、冷間加工を1パスで行うことができない場合、複数パスで加工することができる。この場合、冷間加工をし易くするように、中間焼鈍を間に行ってもよい。中間焼鈍では、冷間加工の阻害となる加工歪みを除去するとともに過剰な粒成長を防止するよう、600~900℃の範囲内の温度で行う。これにより冷間加工された冷間加工組織を有する軟磁性部材用プリフォーム材を得ることができる。軟磁性部材用プリフォーム材は、例えば、厚さ0.01~0.9mmの板状体とし得る。
【0033】
得られた軟磁性部材用プリフォーム材を加熱して磁気調整処理を行う(磁気焼鈍:S5)。この磁気調整処理は結晶粒を整粗粒化させてコアロスを低減するための磁気焼鈍であり、α/α+γ変態点に近い高温で行うことが好ましい。例えば、真空又はアンモニア分解ガス等の非酸化性雰囲気下において、850~950℃の範囲内の温度で保持する。これによって、合金組織を整粗粒化させて、平均結晶粒径を40μm以上とする組織を得て、優れたコアロスを有する軟磁性部材を得ることができる。
【0034】
以上のようにして、軟磁性部材用合金の熱間加工(S2)後の焼鈍(S3)によって軟磁性部材用合金素材を得て、さらにその冷間加工(S4)によって軟磁性部材用プリフォーム材を得て、磁気調整処理(S5)後に加工歪みの開放による再結晶組織を有する軟磁性部材を得ることができる。特に、Coの含有量を調整することなどで冷間加工性を損なわず、軟磁性部材として必要とされる軟磁気特性を高いレベルで得られるのである。
【0035】
[製造試験]
次に、軟磁性部材を実際に製造した試験結果について、図2及び図3を用いて説明する。
【0036】
図2に示すように、まず、実施例1~7、比較例1~15それぞれに示す成分組成の合金を真空誘導炉にて溶解し、3.6t鋼塊に鋳造した。得られた鋼塊を分塊し、1100℃に加熱して熱間鍛造し、次いで900℃(実施例7のみ970℃)に加熱して熱間圧延し、厚さ3.5mmの板状のコイルを製造した。さらに、スケール除去を行い、窒素雰囲気において750℃の温度で6時間保持する焼鈍を行った。さらに冷間圧延、中間焼鈍、冷間圧延の順で冷間加工を施し、厚さ0.2mmの板状の軟磁性部材用プリフォーム材を得た。その後、アンモニア分解ガス雰囲気において850℃又は950℃の温度で2時間保持する磁気調整処理(磁気焼鈍)を行い、軟磁性部材を得た。
【0037】
図3に示すように、最終的に得られた試験材(軟磁性部材)から切り出した試験片についての飽和磁化(Js)及びコアロス、平均結晶粒径を測定した。平均結晶粒径については、さらに焼鈍(S3)後(冷間加工前)の試験材の一部から切り出した試験片についても測定した。また、冷間加工(S4)での加工性についても評価した。なお、α/α+γ変態点について、分析された合金組成(図1の化学成分を参照)に基づき、状態図計算ソフトThermo-Calc 2020a及び合金データベースFE6を用いて求めて記録した。変態点の目標値は950℃以上とした。
【0038】
飽和磁化(Js)については、0.2mm厚さの板状の試験片についてVSM(振動試料型磁力計)を用いて、磁界の強さHm=2000kA/mのときの磁化の値として記録した。飽和磁化(Js)の目標値は2.05T以上とした。
【0039】
コアロスについては、外径28mm、内径20mm、厚さ1mmの円環状の積層コアを0.2mm厚さの板状の試験片を5枚重ねて製作し、100ターンの一次捲線と100ターンの二次捲線を設けた。公知のコアロス測定装置を用い、一次捲線を1.5T、1kHzの正弦波による交流磁界で励磁したときの積層コアの損失Pcmを二次捲線に発生する信号に基づいて測定し、記録した。この条件でのコアロスの目標値は、150W/kg以下とした。
【0040】
平均結晶粒径については、上記したように焼鈍(S3)後の試験材及び最終的に得られた磁気調整処理(S5)後の試験材の両者について測定した。平均結晶粒径は、切り出した試験片について、光学顕微鏡で25倍又は50倍の倍率で5視野について組織を観察し、求積法にて求めた。
【0041】
焼鈍(S3)後については、平均結晶粒径が150μm以下であれば良好として「〇」を、150μm超~200μm以下であれば可として「△」を、200μm超であれば不良として「×」をそれぞれ記録した。また、磁気調整処理(S5)後(磁気焼鈍後)については、平均結晶粒径が40μm以上を良好として「〇」を、40μm未満であれば不良として「×」をそれぞれ記録した。
【0042】
また、冷間加工(S4)での加工性の評価については、冷間加工後の試験材の外観によって以下のように判定した。すなわち、割れの発生しなかったものについては良好として「〇」を、一部に割れを発生したが製品形状とし得たものを可として「△」を、全面に割れを発生し、製品形状とし得なかったものを不良として「×」をそれぞれ記録した。
【0043】
図3に示すように、実施例1~7において、α/α+γ変態点については950℃以上、飽和磁化(Js)については2.05T以上、コアロスについては150W/kg以下と目標値を満たした。平均結晶粒径及び加工性については、実施例1~6において「良好」であり、実施例7については焼鈍後の平均結晶粒径及び加工性について「可」であった。実施例7については、焼鈍後の平均結晶粒径が比較的大きかったが、熱間圧延の温度を高くした影響であると考えられる。
【0044】
例えば、図4(a)に示すように、実施例6の焼鈍(S3)後の断面組織写真では方向性のほとんどない組織が観察された。平均結晶粒径は150μm以下となる100μmであった。また、図4(b)に示すように、実施例6の冷間加工(S4)後の断面組織写真では、紙面左右方向に延びた結晶粒が観察され、冷間加工された冷間加工組織を有することが判った。また、図4(c)に示すように、実施例6の磁気調整処理(S5)後の断面組織写真では、結晶粒界を直線的にした組織が観察され、加工歪みを開放した再結晶組織を有することが判った。実施例6の磁気調整処理(S5)後の平均結晶粒径は40μm以上となる50μmであった。
【0045】
以上のように、実施例1~7によれば、コアロスを低く抑えるなど軟磁性部材として必要とされる磁気特性を得ることができた。
【0046】
一方、比較例1~4は、実施例1と同様にCoを5質量%程度含有するものである。比較例1は、変態点を低くし、磁気焼鈍後(磁気調整処理(S5)後)の平均結晶粒径が小さかった。その結果、コアロスを大とし、軟磁性部材として必要とされる磁気特性を得られなかった。SiもAlも含有しなかったためと考えられる。比較例2は、同様に、変態点を低くし、磁気焼鈍後の平均結晶粒径が小さかった。その結果、コアロスを大とし、軟磁性部材として必要とされる磁気特性を得られなかった。Alを含有しなかったためと考えられる。比較例3では、変態点を950℃以上としたものの、コアロスが大きく、軟磁性部材として必要とされる磁気特性を得られなかった。Siを含有しなかったためと考えられる。比較例4は、軟磁性部材として必要とされる磁気特性を得られたものの、加工性を不良とした。Si及びAlの両者とも含有するが、Siの含有量が多すぎたものと考えられる。
【0047】
比較例5~8は、実施例2と同様にCoを10質量%程度含有するものである。比較例5~7はCoの含有量は異なるものの、それぞれ比較例1~3と同様であった。Si及びAlの含有についても同様と考えられる。比較例8は、比較例4と同様に、軟磁性部材として必要とされる磁気特性を得られたものの、加工性を不良とした。Alの含有量が多すぎたものと考えられる。
【0048】
比較例9~14は、実施例3~6と同様にCoを18質量%程度含有するものである。比較例9~11はCoの含有量は異なるものの、それぞれ比較例1~3と同様であった。比較例12は、コアロスが大きくなってしまった。Si及びAlの合計量が少なかったためと考えられる。比較例13は、コアロスが小さかったものの、加工性は不良であった。Si及びAlの合計量が多すぎるとともに、Si単独での含有量も多く、一方で、Al単独での含有量が少なかったためと考えられる。比較例14は、加工性を不良とした。Si及びAlの合計量が多すぎるとともにSi単独での含有量も多かったためと考えられる。
【0049】
比較例15は、Co27.2質量%と実施例よりも多く含有したものである。変態点が低く、磁気焼鈍後の平均結晶粒径を不良とした。その結果、コアロスが大きく、また、加工性も不良であった。Coの含有量が多く、素材を脆化させてしまったものと考えられる。
【0050】
ところで、上記した実施例を含む軟磁性部材を与え得るFe-Co系合金の組成範囲は以下のように定められる。まず、必須添加元素について説明する。
【0051】
Coは、軟磁性部材として必要とされる磁気特性を確保する上で、特に、高い飽和磁束密度Bsを得る上で必須となる元素である。一方で、Coを過剰に含有させると、Fe-Co系規則相を生成して素材を著しく脆化させてしまうとともに、非常に高価な原料であるためにコストの増大を招く。これらを考慮して、Coは、質量%で、5.00%~25.00%の範囲内である。
【0052】
Siは、素材の電気抵抗を高めるとともに、軟磁性材料において重要とされる低い結晶磁気異方性定数及び低い磁歪定数を確保し、高周波領域での使用における鉄損Pcmを大幅に低減させ得る。一方で、Siを過剰に含有させると、飽和磁束密度Bsの低下や素材の脆化を招く。これらを考慮して、Siは、質量%で、0.10%~2.00%の範囲内、好ましくは1.00%~2.00%の範囲内である。
【0053】
Alは、素材の電気抵抗を高めるとともに、軟磁性材料において重要とされる低い結晶磁気異方性定数を確保し、高周波領域での使用における鉄損Pcmを低下させ得る。一方で、Alを過剰に含有させると、飽和磁束密度Bsの低下や素材の脆化を招く。これらを考慮して、Alは、質量%で、0.10%~2.00%の範囲内、好ましくは0.20%~0.50%の範囲内である。
【0054】
なお、Si及びAlは、上記した磁気異方性等の磁気特性を確保するためその合計の含有量に下限値があり、一方で、その合計量が過剰であると飽和磁束密度Bsの低下や素材の脆化を招く。これらを考慮して、Si及びAlの合計量は、質量%で、1.00%~3.00%の範囲内、好ましくは1.40%~3.00%の範囲内であり、より好ましくは1.90%~3.00%の範囲内である。
【0055】
次に、不純物であるが製造安定性を確保する上で含有を許容される元素について説明する。
【0056】
Cは、その存在状態によらず磁気特性に悪影響を与えるため、可能な限り低減することが望ましい。しかし、製造上、不可避的に混入したCを完全に除去することは困難である。そこで、軟磁性部材としての磁気特性に影響を与えない範囲を考慮して、その許容される含有量は、質量%で、0.020%以下である。
【0057】
Mnは、Sと結合することで硫化物を形成し、磁気特性を悪化させるため、可能な限り低減することが望ましい。しかし、製造上、不可避的に混入したMnを完全に除去することは困難である。そこで、軟磁性部材としての磁気特性に影響を与えない範囲を考慮して、その許容される含有量は、質量%で、0.10%以下である。
【0058】
Pは、その存在状態によらず磁気特性に悪影響を与えるため、可能な限り低減することが望ましい。しかし、製造上、不可避的に混入しPを完全に除去することは困難である。そこで、軟磁性部材としての磁気特性に影響を与えない範囲を考慮して、その許容される含有量は、質量%で、0.010%以下である。
【0059】
Sは、Mnと結合することで流下物を形成し、磁気特性を悪化させるため、可能な限り低減することが望ましい。しかし、製造上、不可避的に混入したSを完全に除去することは困難である。そこで、軟磁性部材としての磁気特性に影響を与えない範囲を考慮して、その許容される含有量は、質量%で、0.005%以下である。
【0060】
Cuは、その存在状態によらず磁気特性に悪影響を与えるため、可能な限り低減することが望ましい。しかし、製造上、不可避的に混入したCuを完全に除去することは困難である。そこで、軟磁性部材としての磁気特性に影響を与えない範囲を考慮して、その許容される含有量は、質量%で、0.05%以下である。
【0061】
Niは、磁性を有する元素であるが、上記した実施例の軟磁性部材においては磁気特性を劣化させるため、可能な限り低減することが望ましい。しかし、製造上、不可避的に混入したNiを除去することは困難である。そこで、軟磁性部材としての磁気特性に影響を与えない範囲を考慮して、その許容される含有量は、質量%で、0.10%以下である。
【0062】
Crは、その存在状態によらず磁気特性に悪影響を与えるため、可能な限り低減することが望ましい。しかし、製造上、不可避的に混入したCrを完全に除去することは困難である。そこで、軟磁性部材としての磁気特性に影響を与えない範囲を考慮して、その許容される含有量は、質量%で、0.10%以下である。
【0063】
Moは、その存在状態によらず磁気特性に悪影響を与えるため、可能な限り低減することが望ましい。しかし、製造上、不可避的に混入したMoを完全に除去することは困難である。そこで、軟磁性部材としての磁気特性に影響を与えない範囲を考慮して、その許容される含有量は、質量%で、0.10%以下である。
【0064】
Tiは、CやNと結合することで炭化物や窒化物を形成し、磁気特性を悪化させるため、可能な限り低減することが望ましい。しかし、製造上、不可避的に混入したTiを完全に除去することは困難である。そこで、軟磁性部材としての磁気特性に影響を与えない範囲を考慮して、その許容される含有量は、質量%で、0.010%以下である。
【0065】
Oは、種々の元素と高温でも安定な酸化物系介在物を形成し、磁気特性を悪化させるため、可能な限り低減することが望ましい。しかし、製造上、不可避的に混入したOを完全に除去することは困難である。そこで、軟磁性部材としての磁気特性に影響を与えない範囲を考慮して、その許容される含有量は、質量%で、0.005%以下である。
【0066】
Nは、AlやTiと結合することで窒化物を形成し、磁気特性を悪化させるため、可能な限り低減することが望ましい。しかし、製造上、不可避的に混入したNを完全に除去することは困難である。そこで、軟磁性部材としての磁気特性に影響を与えない範囲を考慮して、その許容される含有量は、質量%で、0.005%以下である。
【0067】
以上、本発明の代表的な実施例を説明したが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、種々の代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。

図1
図2
図3
図4