(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-27
(45)【発行日】2025-03-07
(54)【発明の名称】回転電機の制御装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H02P 21/14 20160101AFI20250228BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20250228BHJP
H02P 25/22 20060101ALI20250228BHJP
H02P 21/22 20160101ALI20250228BHJP
【FI】
H02P21/14
H02M7/48 E
H02P25/22
H02P21/22
(21)【出願番号】P 2021147819
(22)【出願日】2021-09-10
【審査請求日】2024-07-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】今井 幸司
(72)【発明者】
【氏名】青木 康明
(72)【発明者】
【氏名】道木 慎二
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 昭義
【審査官】加藤 啓
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-197779(JP,A)
【文献】特開2021-040423(JP,A)
【文献】特開2007-306705(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/14
H02M 7/48
H02P 25/22
H02P 21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機(10)と、
前記回転電機に電気的に接続された複数の電力変換回路(20A~20C)と、
前記各電力変換回路の入力側に設けられ、前記各電力変換回路に共通のコンデンサ(22)と、を備えるシステムに適用され、前記各電力変換回路のスイッチング制御を行う回転電機の制御装置(40)において、
前記回転電機に印加する指令電圧ベクトル(VtrA~VtrC)に基づいて、規定周期(Ts/2,Ts)における前記各電力変換回路のスイッチングパターンを設定する設定部と、
前記各電力変換回路のうち一部の電力変換回路を算出対象回路(20A)とし、前記算出対象回路のスイッチングパターンを対象パターン(VtA)とする場合、前記設定部により設定された前記対象パターンを構成する各電圧ベクトルのうち、一部の電圧ベクトルの切り替えタイミングの候補タイミングを複数設定し、前記各候補タイミングを設定する場合における前記コンデンサのリップル電流を評価するための評価関数を算出する関数算出部と、
算出された前記各評価関数に基づいて、前記規定周期における前記対象パターンを決定する決定部と、
前記各電力変換回路のうち前記算出対象回路以外の電力変換回路を非対象回路(20B,20C)とし、前記非対象回路のスイッチングパターンを基準パターンとする場合、前記規定周期における前記非対象回路のスイッチングパターンを、前記設定部により設定された前記基準パターンにするように前記非対象回路のスイッチング制御を行い、前記規定周期における前記算出対象回路のスイッチングパターンを、前記決定部により決定された前記対象パターンにするように前記算出対象回路のスイッチング制御を行うスイッチ制御部と、を備え、
前記関数算出部は、前記基準パターンを構成する電圧ベクトルの切り替えタイミングに対応するタイミングを前記候補タイミングに設定する、回転電機の制御装置。
【請求項2】
前記関数算出部は、前記基準パターンを構成する各電圧ベクトルの切り替えタイミングの中から前記候補タイミングを設定する、請求項1に記載の回転電機の制御装置。
【請求項3】
前記算出対象回路に流れる電流を取得する電流取得部を備え、
前記関数算出部は、前記電流取得部により取得された電流と、該電流の平均値との偏差を算出し、算出した前記偏差の前記規定周期における累積値又は該累積値の相関値を前記評価関数として算出する、請求項1又は2に記載の回転電機の制御装置。
【請求項4】
前記関数算出部は、複数の前記候補タイミングの中に、前記回転電機に印加する電圧ベクトルを前記指令電圧ベクトルにできなくなる候補タイミングがある場合、前記指令電圧ベクトルにできなくなる候補タイミングに対応する前記評価関数の算出を実行しない、請求項1~3のいずれか1項に記載の回転電機の制御装置。
【請求項5】
前記決定部は、前記各候補タイミングに対応する前記評価関数のうち、前記リップル電流を最も小さくできる評価関数に対応する前記候補タイミングを選択して前記対象パターンを決定する、請求項1~4のいずれか1項に記載の回転電機の制御装置。
【請求項6】
前記関数算出部は、
前記各候補タイミングの中から前記評価関数の算出に用いる候補タイミングを順次選択して前記評価関数を算出し、
前記各候補タイミング全てに対応する前記評価関数の算出が完了する前において、今回算出した前記評価関数の値が、これまで算出した前記評価関数の最小値よりも大きいと判定した場合、前記評価関数の算出を中止する、請求項5に記載の回転電機の制御装置。
【請求項7】
前記設定部は、前記規定周期において、前記指令電圧ベクトルを挟む2つの有効電圧ベクトルと、1つ以上の無効電圧ベクトルとの組み合わせからなるスイッチングパターンを設定する、請求項1~6のいずれか1項に記載の回転電機の制御装置。
【請求項8】
前記設定部は、前記規定周期において、前記指令電圧ベクトルを挟んでかつ60度の位相差を有する2つの有効電圧ベクトルと、2つの無効電圧ベクトルとの組み合わせからなるスイッチングパターンを設定し、
前記関数算出部は、前記規定周期において最初に出現する電圧ベクトルの出力終了タイミングを探索対象として、前記候補タイミングを設定する、請求項7に記載の回転電機の制御装置。
【請求項9】
前記設定部は、前記規定周期において、前記指令電圧ベクトルを挟んでかつ120度の位相差を有する2つの有効電圧ベクトルと、2つの無効電圧ベクトルとの組み合わせからなるスイッチングパターンを設定し、
前記関数算出部は、前記規定周期において最初に出現する無効電圧ベクトルの出力終了タイミングを探索対象として、前記候補タイミングを設定する、請求項7に記載の回転電機の制御装置。
【請求項10】
前記設定部は、前記規定周期において、前記指令電圧ベクトルを挟んでかつ120度の位相差を有する2つの有効電圧ベクトルと、1つの無効電圧ベクトルとの組み合わせからなるスイッチングパターンを設定し、
前記関数算出部は、前記規定周期において最初に出現する無効電圧ベクトルの出力終了タイミングを探索対象として、前記候補タイミングを設定する、請求項7に記載の回転電機の制御装置。
【請求項11】
前記設定部は、前記規定周期において、前記指令電圧ベクトルを挟む3つ以上の有効電圧ベクトルの組み合わせからなるスイッチングパターンを設定し、
前記関数算出部は、前記規定周期において最初に出現する有効電圧ベクトルの出力終了タイミングを探索対象として、前記候補タイミングを設定する、請求項1~6のいずれか1項に記載の回転電機の制御装置。
【請求項12】
前記設定部は、前記規定周期において、前記指令電圧ベクトルを挟んでかつ60度の位相差を有する2つの有効電圧ベクトルと、前記指令電圧ベクトルを挟んでかつ120度の位相差を有する2つの有効電圧ベクトルのうち前記60度の位相差を有する2つの有効電圧ベクトルとは異なる1つの有効電圧ベクトルとの組み合わせからなるスイッチングパターンを設定し、
前記関数算出部は、前記規定周期において最初に出現する有効電圧ベクトルの出力終了タイミングを前記候補タイミングに設定する、請求項11に記載の回転電機の制御装置。
【請求項13】
回転電機(10)と、
前記回転電機に電気的に接続された複数の電力変換回路(20A~20C)と、
前記各電力変換回路の入力側に設けられ、前記各電力変換回路に共通のコンデンサ(22)と、
コンピュータ(40a)と、を備えるシステムに適用されるプログラムにおいて、
前記コンピュータを、
前記回転電機に印加する指令電圧ベクトル(VtrA~VtrC)に基づいて、規定周期(Ts/2,Ts)における前記各電力変換回路のスイッチングパターンを設定する設定部と、
前記各電力変換回路のうち一部の電力変換回路を算出対象回路(20A)とし、前記算出対象回路のスイッチングパターンを対象パターン(VtA)とする場合、前記設定部により設定された前記対象パターンを構成する各電圧ベクトルのうち、一部の電圧ベクトルの切り替えタイミングの候補タイミングを複数設定し、前記各候補タイミングを設定する場合における前記コンデンサのリップル電流を評価するための評価関数を算出する関数算出部と、
算出された前記各評価関数に基づいて、前記規定周期における前記対象パターンを決定する決定部と、
前記各電力変換回路のうち前記算出対象回路以外の電力変換回路を非対象回路(20B,20C)とし、前記非対象回路のスイッチングパターンを基準パターンとする場合、前記規定周期における前記非対象回路のスイッチングパターンを、前記設定部により設定された前記基準パターンにするように前記非対象回路のスイッチング制御を行い、前記規定周期における前記算出対象回路のスイッチングパターンを、前記決定部により決定された前記対象パターンにするように前記算出対象回路のスイッチング制御を行うスイッチ制御部と、して機能させ、
前記関数算出部は、前記基準パターンを構成する電圧ベクトルの切り替えタイミングに対応するタイミングを前記候補タイミングに設定する、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機の制御装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に記載されているように、回転電機と、回転電機に電気的に接続された電力変換回路と、電力変換回路の入力側に設けられたコンデンサとを備えるシステムが知られている。このシステムは、回転電機の制御量を指令値に制御するために電力変換回路のスイッチング制御を行う制御装置を備えている。
【0003】
コンデンサに流れるリップル電流を低減するために、制御装置は、モデル予測制御(MPC)に基づいて、次回の制御周期において採用するスイッチングパターンを決定する。詳しくは、制御装置は、制御周期を複数に分割した各予測周期において電力変換回路のスイッチング状態を複数通りに設定する。これにより、スイッチング状態の組み合わせとしてのスイッチングパターンが複数通りに設定される。
【0004】
制御装置は、スイッチングパターンを複数通りに設定する場合において、制御量と指令値との偏差、及びコンデンサに流れる電流とを入力パラメータとする評価関数を算出する。制御装置は、設定した各スイッチングパターンに対応する評価関数のうち、値が最も小さい評価関数に対応するスイッチングパターンを、次回の制御周期において採用するスイッチングパターンとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】“Capacitor current reducing control of the inverters for the dual winding motor”, IECON 2015- 41st Annual Conference of the IEEE Industrial Electronics Society, 2015, pp. 000499-000504
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
回転電機を駆動制御するシステムとして、回転電機に電気的に接続された複数の電力変換回路と、各電力変換回路の入力側に設けられ、各電力変換回路に共通のコンデンサとを備えるシステムも知られている。複数の電力変換回路を備えるシステムにモデル予測制御が適用される場合、各電力変換回路についてスイッチングパターンを複数通りに設定する必要がある。その結果、モデル予測制御において探索対象となるスイッチングパターンの候補が増加し、制御装置の計算量が増加する懸念がある。特に、予測周期が短く設定される場合には、計算量の増加が顕著になる懸念がある。
【0008】
なお、計算量の増加を抑制するために、予測周期を長めに設定することも考えられる。ただし、この場合、離散化誤差が大きくなり、コンデンサのリップル電流を低減できる最適なスイッチングパターンを設定することができなくなる懸念がある。
【0009】
本発明は、計算量を削減しつつ、コンデンサのリップル電流を低減できる回転電機の制御装置及びプログラムを提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、回転電機と、
前記回転電機に電気的に接続された複数の電力変換回路と、
前記各電力変換回路の入力側に設けられ、前記各電力変換回路に共通のコンデンサと、を備えるシステムに適用され、前記各電力変換回路のスイッチング制御を行う回転電機の制御装置において、
前記回転電機に印加する指令電圧ベクトルに基づいて、規定周期における前記各電力変換回路のスイッチングパターンを設定する設定部と、
前記各電力変換回路のうち一部の電力変換回路を算出対象回路とし、前記算出対象回路のスイッチングパターンを対象パターンとする場合、前記設定部により設定された前記対象パターンを構成する各電圧ベクトルのうち、一部の電圧ベクトルの切り替えタイミングの候補タイミングを複数設定し、前記各候補タイミングを設定する場合における前記コンデンサのリップル電流を評価するための評価関数を算出する関数算出部と、
算出された前記各評価関数に基づいて、前記規定周期における前記対象パターンを決定する決定部と、
前記各電力変換回路のうち前記算出対象回路以外の電力変換回路を非対象回路とし、前記非対象回路のスイッチングパターンを基準パターンとする場合、前記規定周期における前記非対象回路のスイッチングパターンを、前記設定部により設定された前記基準パターンにするように前記非対象回路のスイッチング制御を行い、前記規定周期における前記算出対象回路のスイッチングパターンを、前記決定部により決定された前記対象パターンにするように前記算出対象回路のスイッチング制御を行うスイッチ制御部と、を備え、
前記関数算出部は、前記基準パターンを構成する電圧ベクトルの切り替えタイミングに対応するタイミングを前記候補タイミングに設定する。
【0011】
本発明では、設定部により算出対象回路の対象パターンが設定され、対象パターンを構成する一部の電圧ベクトルの切り替えタイミングを探索対象として、候補タイミングが複数設定される。そして、各候補タイミングが設定される場合におけるコンデンサのリップル電流を評価するための評価関数が算出される。各候補タイミングに対応して算出された評価関数に基づいて、規定周期における対象パターンが決定される。
【0012】
ここで、本発明では、各電力変換回路のうち非対象回路における基準パターンを構成する電圧ベクトルの切り替えタイミングに対応するタイミングが、算出対象回路における上記候補タイミングとして設定される。このため、探索対象となる候補タイミングの数を減らすことができる。これにより、計算量を削減しつつ、コンデンサのリップル電流を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態に係る制御システムの全体構成図。
【
図4】電圧ベクトル及び各相のスイッチング状態等の関係を示す図。
【
図5】スイッチングパターンを構成する電圧ベクトルの一例を示す図。
【
図6】第1,第2インバータのスイッチングパターンを示す図。
【
図7】第0電圧ベクトルの終了タイミングをモデル予測制御の探索対象として、複数の候補タイミングが設定されることを示す図。
【
図8】モデル予測制御により決定された第1インバータのスイッチングパターン等を示す図。
【
図9】第7電圧ベクトルの終了タイミングをモデル予測制御の探索対象として、複数の候補タイミングが設定されることを示す図。
【
図10】モデル予測制御により決定された第1インバータのスイッチングパターン等を示す図。
【
図11】第1インバータ電流、第2インバータ電流及びインバータ和電流の推移を示すタイムチャート。
【
図12】モデル予測制御に基づく回転電機のトルク制御の手順を示すフローチャート。
【
図13】評価関数算出処理の手順を示すフローチャート。
【
図14】サブルーチンAの手順を示すフローチャート。
【
図15】サブルーチンBの手順を示すフローチャート。
【
図16】第1実施形態の変形例に係る、モデル予測制御により決定された第1インバータのスイッチングパターン等を示す図。
【
図17】第1実施形態の変形例に係る、モデル予測制御により決定された第1インバータのスイッチングパターン等を示す図。
【
図18】第2実施形態に係る評価関数算出処理の手順を示すフローチャート。
【
図19】サブルーチンAの手順を示すフローチャート。
【
図20】サブルーチンBの手順を示すフローチャート。
【
図21】第3実施形態に係るスイッチングパターンを構成する電圧ベクトルの一例を示す図。
【
図22】第0電圧ベクトルの終了タイミングをモデル予測制御の探索対象として、複数の候補タイミングが設定されることを示す図。
【
図23】モデル予測制御により決定された第1インバータのスイッチングパターン等を示す図。
【
図24】第7電圧ベクトルの終了タイミングをモデル予測制御の探索対象として、複数の候補タイミングが設定されることを示す図。
【
図25】モデル予測制御により決定された第1インバータのスイッチングパターン等を示す図。
【
図26】第4実施形態に係るスイッチングパターンを構成する電圧ベクトルの一例を示す図。
【
図27】第0電圧ベクトルの終了タイミングをモデル予測制御の探索対象として、複数の候補タイミングが設定されることを示す図。
【
図28】モデル予測制御により決定された第1インバータのスイッチングパターン等を示す図。
【
図29】第7電圧ベクトルの終了タイミングをモデル予測制御の探索対象として、複数の候補タイミングが設定されることを示す図。
【
図30】モデル予測制御により決定された第1インバータのスイッチングパターン等を示す図。
【
図31】第5実施形態に係るスイッチングパターンを構成する電圧ベクトルの一例を示す図。
【
図32】第7電圧ベクトルの終了タイミングをモデル予測制御の探索対象として、複数の候補タイミングが設定されることを示す図。
【
図33】モデル予測制御により決定された第1インバータのスイッチングパターン等を示す図。
【
図34】第6実施形態に係るスイッチングパターンを構成する電圧ベクトルの一例を示す図。
【
図35】第1電圧ベクトルの終了タイミングをモデル予測制御の探索対象として、複数の候補タイミングが設定されることを示す図。
【
図36】モデル予測制御により決定された第1インバータのスイッチングパターン等を示す図。
【
図37】第7実施形態に係る制御システムの全体構成図。
【
図38】第0電圧ベクトルの終了タイミングをモデル予測制御の探索対象として、複数の候補タイミングが設定されることを示す図。
【
図39】モデル予測制御により決定された第1インバータのスイッチングパターン等を示す図。
【
図40】第7電圧ベクトルの終了タイミングをモデル予測制御の探索対象として、複数の候補タイミングが設定されることを示す図。
【
図41】モデル予測制御により決定された第1インバータのスイッチングパターン等を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<第1実施形態>
以下、本発明に係る制御装置を具体化した第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本実施形態の制御装置は、車両に搭載された制御システムを構成する。
【0015】
図1に示すように、制御システムは、回転電機10を備えている。回転電機10は、3相2重巻線を有する永久磁石界磁型の同期機である。本実施形態の回転電機10は、永久磁石式の同期機である。回転電機10は、車両の走行動力源となり、駆動輪と動力伝達が可能なロータ12と、ステータ13とを備えている。ロータ12は、界磁極となる永久磁石を備えている。ステータ13には、2つの電機子巻線群である第1巻線群10A及び第2巻線群10Bが設けられている。第1,第2巻線群10A,10Bに対して、ロータ12が共通化されている。第1,第2巻線群10A,10Bのそれぞれは、異なる中性点を有する3相巻線からなる。第1巻線群10Aは、電気角で互いに120度ずつずれたU,V,W相巻線UA,VA,WAを有し、第2巻線群10Bは、電気角で互いに120度ずつずれたU,V,W相巻線UB,VB,WBを有している。なお、本実施形態では、第1巻線群10Aと第2巻線群10Bとが同じ構成とされている。具体的には、第1巻線群10Aを構成するU,V,W相巻線UA,VA,WAそれぞれの巻数と、第2巻線群10Bを構成するU,V,W相巻線UB,VB,WBそれぞれの巻数とが等しい。
【0016】
ちなみに、第1巻線群10Aと第2巻線群10Bとの位相差Δθは、例えば、電気角で0度であってもよいし、電気角で30度であってもよい。
【0017】
制御システムは、第1,第2巻線群10A,10Bに対応した第1,第2インバータ20A,20Bと、直流電源21と、平滑コンデンサ22とを備えている。第1,第2インバータ20A,20Bは、入力される直流電圧を交流電圧に変換して出力する電力変換回路に相当する。第1インバータ20A及び第2インバータ20Bのそれぞれには、共通の直流電源21が接続されている。本実施形態において、直流電源21は、蓄電池である。
【0018】
第1インバータ20Aは、第1U,V,W相上アームスイッチSuAH,SvAH,SwAHと、第1U,V,W相下アームスイッチSuAL,SvAL,SwALとの直列接続体を備えている。U,V,W相における上記直列接続体の接続点には、第1巻線群10Aを構成するU,V,W相巻線UA,VA,WAが接続されている。本実施形態において、各スイッチSuAH~SwALは、NチャネルMOSFETであり、ボディダイオードを備えている。
【0019】
第2インバータ20Bは、第1インバータ20Aと同様に、第2U,V,W相上アームスイッチSuBH,SvBH,SwBHと、第2U,V,W相下アームスイッチSuBL,SvBL,SwBLとの直列接続体を備えている。U,V,W相における上記直列接続体の接続点には、第2巻線群10Bを構成するU,V,W相巻線UB,VB,WBが接続されている。本実施形態において、各スイッチSuBH~SwBLは、NチャネルMOSFETであり、ボディダイオードを備えている。
【0020】
なお、各インバータ20A,20Bが備えるスイッチは、NチャネルMOSFETに限らず、例えばIGBTであってもよい。この場合、スイッチにフリーホイールダイオードが逆並列接続されていればよい。
【0021】
第1インバータ20Aにおいて各上アームスイッチSuAH,SvAH,SwAHの高電位側端子であるドレインには、第1高電位側経路LHAを介して、平滑コンデンサ22の第1端が接続されている。第1インバータ20Aにおいて各下アームスイッチSuAL,SvAL,SwALの低電位側端子であるソースには、第1低電位側経路LLAを介して、平滑コンデンサ22の第2端が接続されている。平滑コンデンサ22の第2端には、直流電源21の負極端子が接続されている。平滑コンデンサ22の第1端には、直流電源21の正極端子が接続されている。
【0022】
第2インバータ20Bにおいて各上アームスイッチSuBH,SvBH,SwBHのドレインには、第2高電位側経路LHBを介して、第1高電位側経路LHAの途中部分が接続されている。第2インバータ20Bにおいて各下アームスイッチSuBL,SvBL,SwBLのソースには、第2低電位側経路LLBを介して、第1低電位側経路LLAの途中部分が接続されている。つまり、本実施形態では、各インバータ20A,20Bで平滑コンデンサ22が共通化されている。
【0023】
制御システムは、電圧検出部30、第1電流検出部31A、第2電流検出部31B及び角度検出部32を備えている。電圧検出部30は、平滑コンデンサ22の端子電圧を電源電圧VDCとして検出する。角度検出部32は、回転電機10の回転角(電気角)を検出する。角度検出部32は、例えばレゾルバである。上記各検出部30,31A,31B,32の検出値は、制御システムが備える制御装置40に入力される。
【0024】
制御装置40は、第1,第2電流検出部31A,31Bの検出値に基づいて、第1巻線群10Aに流れる3相の電流と、第2巻線群10Bに流れる3相の電流とを取得する。例えば、第1電流検出部31Aは、第1インバータ20Aと第1巻線群10Aとを電気的に接続する導電部材(例えばバスバー)に流れる電流を検出対象とし、第1巻線群10Aに流れる3相電流のうち少なくとも2相分の電流を検出する。また、例えば、第1電流検出部31Aは、第1高電位側経路LHAのうち第2高電位側経路LHBとの接続点よりも第1インバータ20A側に流れる電流を検出する。この場合、制御装置40は、第1電流検出部31Aの検出値と、
図4に示す第1インバータ20Aのスイッチング状態及び相電流の関係とに基づいて、第1巻線群10Aに流れる相電流を取得する。なお、第2電流検出部31Bについても同様である。
【0025】
制御装置40は、マイコン40aを主体として構成され、マイコン40aは、CPUを備えている。マイコン40aが提供する機能は、実体的なメモリ装置に記録されたソフトウェアおよびそれを実行するコンピュータ、ソフトウェアのみ、ハードウェアのみ、あるいはそれらの組合せによって提供することができる。例えば、マイコン40aがハードウェアである電子回路によって提供される場合、それは多数の論理回路を含むデジタル回路、又はアナログ回路によって提供することができる。例えば、マイコン40aは、自身が備える記憶部としての非遷移的実体的記録媒体(non-transitory tangible storage medium)に格納されたプログラムを実行する。プログラムには、例えば、
図2及び
図12~
図15等に示す処理のプログラムが含まれる。プログラムが実行されることにより、プログラムに対応する方法が実行される。記憶部は、例えば不揮発性メモリである。なお、記憶部に記憶されるプログラムは、OTA(Over The Air)等、インターネット等のネットワークを介して更新可能である。
【0026】
制御装置40は、回転電機10の制御量を指令値に制御すべく、入力された検出値に基づいて、第1,第2インバータ20A,20Bの各スイッチをオンオフする駆動信号を生成する。駆動信号がスイッチのゲートに入力されることにより、スイッチがオンオフされる。各相において、上アームスイッチと下アームスイッチとは、デッドタイムを挟みつつ交互にオンされる。本実施形態の制御量はトルクである。
図2を用いて、制御装置40により実行される回転電機10のトルク制御について説明する。
【0027】
指令電流設定部41は、指令トルクTrq*に基づいて、第1インバータ20Aに対応する第1d,q軸指令電流IdA*,IqA*と、第2インバータ20Bに対応する第2d,q軸指令電流IdB*,IqB*とを設定する。各指令電流IdA*,IqA*,IdB*,IqB*は、例えば、最小電流最大トルク制御(MTPA)により算出されればよい。
【0028】
第1変換部42Aは、第1電流検出部31Aの検出値と、角度検出部32により検出された電気角θeとに基づいて、3相固定座標系における第1巻線群10AのU,V,W相電流を、2相回転座標系(dq座標系)における第1d軸電流IdAr及び第1q軸電流IqArに変換する。
【0029】
第1電流制御部43Aは、第1d軸電流IdArを第1d軸指令電流IdA*にフィードバック制御するための操作量として、第1d軸指令電圧VdA*を算出する。第1電流制御部43Aは、第1q軸電流IqArを第1q軸指令電流IqA*にフィードバック制御するための操作量として、第1q軸指令電圧VqA*を算出する。なお、第1電流制御部43Aで用いられるフィードバック制御は、例えば比例積分制御である。
【0030】
第2変換部42Bは、第2電流検出部31Bの検出値と電気角θeとに基づいて、3相固定座標系における第2巻線群10BのU,V,W相電流を、dq座標系における第2d軸電流IdBr及び第2q軸電流IqBrに変換する。
【0031】
第2電流制御部43Bは、第2d軸電流IdBrを第2d軸指令電流IdB*にフィードバック制御するための操作量として、第2d軸指令電圧VdB*を算出する。第2電流制御部43Bは、第2q軸電流IqBrを第2q軸指令電流IqB*にフィードバック制御するための操作量として、第2q軸指令電圧VqB*を算出する。なお、第2電流制御部43Bで用いられるフィードバック制御は、例えば比例積分制御である。
【0032】
モデル予測制御部(以下、予測制御部44)は、算出された各値VdA*,VqA*,IdAr,IqAr,VdB*,VqB*,IdBr,IqBr、及び電気角θe等に基づいて、第1インバータ20Aから第1巻線群10Aに印加する電圧ベクトルを実現するための第1インバータ20Aのスイッチングパターンと、第2インバータ20Bから第2巻線群10Bに印加する電圧ベクトルを実現するための第2インバータ20Bのスイッチングパターンとを決定する。予測制御部44は、次回の規定周期における平滑コンデンサ22の電流リップルが小さくなるように、今回の規定周期において、次回の規定周期における第1,第2インバータ20A,20Bのスイッチングパターンを決定する。
【0033】
スイッチングパターンは、
図3及び
図4に示す電圧ベクトルの組み合わせからなる。
図4において、「H」は上アームスイッチがオンされていることを示し、「L」は下アームスイッチがオンされていることを示す。第1~第6電圧ベクトルV1~V6は有効電圧ベクトル(非零電圧ベクトル)であり、第0,第7電圧ベクトルV0,V7は無効電圧ベクトル(零電圧ベクトル)である。以降、第1インバータ20Aに対応する電圧ベクトルの符号に添え字Aを付し、第2インバータ20Bに対応する電圧ベクトルの符号に添え字Bを付すことがある。
【0034】
図4の「Iinv」は、インバータに流れる電流である。本実施形態では、
図1に示すように、第1高電位側経路LHAのうち第1低電位側経路LLAとの接続点よりも第1インバータ20A側を流れる電流を第1インバータ電流IinvAと称す。また、第2高電位側経路LHBに流れる電流を第2インバータ電流IinvBと称す。各インバータ電流IinvA,IinvBは、平滑コンデンサ22側からインバータ側へと向かう方向に流れる場合の符号を正とする。また、第1インバータ電流IinvA及び第2インバータ電流IinvBの加算値をインバータ和電流Isumと称す。インバータ和電流Isumは、平滑コンデンサ22側からインバータ側へと向かう方向に流れる場合の符号を正とする。
【0035】
図4のインバータ電流Iinvについて、第1インバータ20Aを例にして説明する。第1インバータ20Aから出力される電圧ベクトルが第0,第7電圧ベクトルV0,V7の場合、第1インバータ電流IinvAは0になる。第1インバータ20Aから出力される電圧ベクトルが第1電圧ベクトルV1の場合、第1インバータ電流IinvAは、第1巻線群10AのU相電流と等しくなる。第1インバータ20Aから出力される電圧ベクトルが第4電圧ベクトルV4の場合、第1インバータ電流IinvAは、第1巻線群10AのU相電流と大きさが等しく、かつ、U相電流の流れる向きと逆向きの電流となる。V,W相の有効電圧ベクトルと第1インバータ電流IinvAとの関係も、U相と同様である。
【0036】
予測制御部44は、第2d,q軸指令電圧VdB*,VqB*により定まるdq座標系における第2指令電圧ベクトルVtrBに基づいて、規定周期におけるスイッチングパターンを決定する。本実施形態では、
図5に示すように、6つの有効電圧ベクトルのうち、第2指令電圧ベクトルVtrBを挟んで、かつ、60度の位相差を有する2つの有効電圧ベクトルと、2つの無効電圧ベクトルV0,V7との組み合わせからなるスイッチングパターンを決定する。
図5には、第2指令電圧ベクトルVtrBを挟む2つの有効電圧ベクトルとして、第1,第2電圧ベクトルV1,V2が選択される例を示した。本実施形態では、以降、第2インバータ20B(「非対象回路」に相当)において、第1,第2電圧ベクトルV1,V2及び第0,第7電圧ベクトルV0,V7が選択される場合を例にして説明する。
【0037】
図6(b)に、第2インバータ20Bのスイッチングパターン(「基準パターン」に相当)を示す。なお、
図6(b)には、2規定周期におけるスイッチングパターンを示す。2規定周期が、各インバータ20A,20Bを構成する各スイッチの1スイッチング周期に相当する。キャリア信号が用いられる場合、1スイッチング周期は、キャリア信号の1周期である。ちなみに、規定周期は、例えば、1スイッチング周期よりも長い周期に設定されてもよい。
【0038】
1つの規定周期の長さをTs/2とし、60度の位相差を有する2つの有効電圧ベクトルの規定周期における合計出力期間を「TE1+TE2」とする。予測制御部44は、2つの無効電圧ベクトルV0,V7の規定周期における合計出力期間Tzを「Ts/2-(TE1+TE2)」に設定する。
【0039】
予測制御部44は、第2インバータ20Bのスイッチングパターンを、上述した方法で決定したスイッチングパターンにするように、第2インバータ20Bを構成する各スイッチSuBH~SwBLのスイッチング制御を行う。
【0040】
予測制御部44は、第1d,q軸指令電圧VdA*,VqA*により定まるdq座標系における第1指令電圧ベクトルVtrAに基づいて、規定周期におけるスイッチングパターン(「対象パターン」に相当)を決定する。本実施形態では、第2インバータ20Bの場合と同様に、第1指令電圧ベクトルVtrAを挟んで、かつ、60度の位相差を有する2つの有効電圧ベクトルと、2つの無効電圧ベクトルV0,V7との組み合わせからなるスイッチングパターンを決定する(
図5参照)。
図6(a)に、第1インバータ20Aのスイッチングパターンを示す。本実施形態では、以降、第1インバータ20A(「算出対象回路」に相当)において、第1,第2電圧ベクトルV1,V2及び第0,第7電圧ベクトルV0,V7が選択される場合を例にして説明する。
【0041】
図6に示すように、各インバータ20A,20BのスイッチングパターンVtA,VtBは、第1インバータ20Aの無効電圧ベクトルと、第2インバータ20Bの無効電圧ベクトルとが交互に出現するスイッチングパターンになっている。具体的には、第1,第2インバータ20A,20BのスイッチングパターンVtA,VtBの開始タイミングは、1/2規定周期ずつずれている。これは、平滑コンデンサ22の電流リップルを低減するためである。電流リップルは、例えば、規定周期において平滑コンデンサ22に流れる電流の最大値と最小値との差で定量化される値である。
【0042】
予測制御部44は、電流リップルをさらに低減するために、各規定周期において最初に出現する無効電圧ベクトルの終了タイミングtxをモデル予測制御により探索する。換言すれば、予測制御部44は、最初に出現する無効電圧ベクトルの出力期間を探索する。
図6(a)を参照して説明すると、予測制御部44は、1つ目の規定周期において、最初に出現する第0電圧ベクトルV0Aの出力期間T0を探索し、2つ目の規定周期において、最初に出現する第7電圧ベクトルV7Aの出力期間を探索する。
【0043】
予測制御部44は、電流リップルを低減できる終了タイミングtxの探索を完了すると、第1指令電圧ベクトルVtrAに基づいて設定した第1,第2電圧ベクトルV1A,V2Aの出力期間T1,T2を変更せずに、第1,第2電圧ベクトルV1A,V2Aを第0電圧ベクトルV0Aの次に配置する。予測制御部44は、第2電圧ベクトルV2Aの次に第7電圧ベクトルV7Aを配置する。予測制御部44は、規定周期において最後に出現する第7電圧ベクトルV7Aの出力期間T7を「Ts/2-(T0+T1+T2)」に設定する。
【0044】
予測制御部44は、第1インバータ20Aのスイッチングパターンを、上述した方法で決定したスイッチングパターンにするように、第1インバータ20Aを構成する各スイッチSuAH~SwALのスイッチング制御を行う。
【0045】
図6~
図10を用いて、予測制御部44により実行される無効電圧ベクトルの終了タイミングtxの探索処理について更に説明する。
【0046】
まず、
図6~
図8を用いて、
図6に示した1つ目の規定周期(0~Ts/2)における探索処理について説明する。
【0047】
図6(a)に示したように、1つ目の規定周期における第1インバータ20Aのスイッチングパターンにおいて、電圧ベクトルの第1最大切り替わり回数SAmaxは3回である。
【0048】
一方、1つ目の規定周期における第2インバータ20Bのスイッチングパターンにおいて、電圧ベクトルの第2最大切り替わり回数SBmaxは下式(eq1)で表される。
【0049】
【数1】
Toddは、0からTs/2までの期間のうち、奇数の有効電圧ベクトル(第1電圧ベクトルV1B)の合計出力期間を示す。Tevenは、0からTs/2までの期間のうち、偶数の有効電圧ベクトル(第2電圧ベクトルV2B)の合計出力期間を示す。
図7及び
図8に示すのは、SBmax=4の例である。
【0050】
図7に示すように、予測制御部44は、第2インバータ20BのスイッチングパターンVtBを構成する電圧ベクトルの4つの切り替えタイミングtB[1],tB[2],tB[3],tB[4]の中から、第0電圧ベクトルV0Aの終了タイミングtxの候補タイミングを選択する。
【0051】
本実施形態において、予測制御部44は、第1指令電圧ベクトルVtrAに基づいて設定した第0,第7電圧ベクトルV0A,V7Aの合計出力期間「T0+T7」を、終了タイミングtxの調整前後で同じ期間に維持できる切り替えタイミングを終了タイミングtxの候補タイミングとして選択する。つまり、予測制御部44は、
図6(a)に示す第0,第7電圧ベクトルV0A,V7Aの合計出力期間「T0+T7」よりも、第0電圧ベクトルV0Aの出力期間が長くなる切り替えタイミングを、終了タイミングtxの候補タイミングから除外する除外処理を行う。これは、第1巻線群10Aに印加される電圧ベクトルを第1指令電圧ベクトルVtrAにできなくなることを回避するためである。
図7に示す例では、4つの切り替えタイミングtB[1],tB[2],tB[3],tB[4]のうち、第3,第4切り替えタイミングtB[3],tB[4]が、第0電圧ベクトルV0Aの終了タイミングtxの候補タイミングから除外される。これにより、第3,第4切り替えタイミングtB[3],tB[4]に対応する評価関数Jcrの算出処理が省略され、制御装置40における計算量を削減することができる。
【0052】
予測制御部44は、終了タイミングtxを第1切り替えタイミングtB[1]に設定した場合におけるスイッチングパターンVtAを決定し、このスイッチングパターンVtAを採用した場合における評価関数Jcrを算出する。評価関数Jcrは、平滑コンデンサ22のリップル電流を評価するための関数であり、値が小さいほど、リップル電流が小さいことを示す。評価関数Jcrの算出方法については、後に詳述する。
【0053】
予測制御部44は、終了タイミングtxを第2切り替えタイミングtB[2]に設定した場合におけるスイッチングパターンVtAを決定し、このスイッチングパターンVtAを採用した場合における評価関数Jcrを算出する。
【0054】
予測制御部44は、2つの評価関数Jcrのうち、値が小さい方の評価関数に対応するスイッチングパターンVtAを、第1インバータ20Aのスイッチングパターンに決定する。
図8には、第1切り替えタイミングtB[1]が、第1インバータ20Aの第0電圧ベクトルV0Aの終了タイミングtA[1]とされる例を示す。
図8(a)の第1電圧ベクトルV1Aの出力期間(tA[1]~tA[2])は、
図6(a)のT1と同じ長さであり、
図8(a)の第2電圧ベクトルV2Aの出力期間(tA[2]~tA[3])は、
図6(a)のT2と同じ長さである。また、
図8(a)の第0,第7電圧ベクトルV0A,V7Aの合計出力期間は、
図6(a)の第0,第7電圧ベクトルV0A,V7Aの合計出力期間と同じ長さである。
【0055】
続いて、
図6、
図9及び
図10を用いて、
図6に示した2つ目の規定周期(Ts/2~Ts)における探索処理について説明する。
【0056】
図6(a)に示したように、2つ目の規定周期における第1インバータ20Aのスイッチングパターンにおいて、電圧ベクトルの第1最大切り替わり回数SAmaxは3回である。
【0057】
一方、2つ目の規定周期における第2インバータ20Bのスイッチングパターンにおいて、電圧ベクトルの第2最大切り替わり回数SBmaxは下式(eq2)で表される。
【0058】
【数2】
Toddは、Ts/2からTsまでの期間のうち、奇数の有効電圧ベクトル(第1電圧ベクトルV1B)の合計出力期間を示す。Tevenは、Ts/2からTsまでの期間のうち、偶数の有効電圧ベクトル(第2電圧ベクトルV2B)の合計出力期間を示す。
図9及び
図10に示すのは、SBmax=2の例である。
【0059】
図9に示すように、予測制御部44は、第2インバータ20BのスイッチングパターンVtBを構成する電圧ベクトルの2つの切り替えタイミングtB[1],tB[2]の中から、第7電圧ベクトルV7Aの終了タイミングtxの候補タイミングを選択する。
【0060】
予測制御部44は、上述した除外処理を行うことにより、第2切り替えタイミングtB[2]を候補タイミングから除外し、第1切り替えタイミングtB[1]を候補タイミングtxとして選択する。
【0061】
予測制御部44は、終了タイミングtxを第1切り替えタイミングtB[1]に設定した場合におけるスイッチングパターンVtAを決定し、このスイッチングパターンVtAを採用した場合における評価関数Jcrを算出する。ちなみに、候補タイミングtxが1つしかない場合、予測制御部44は、評価関数Jcrを算出することなく、1つしかない候補タイミングを採用した第2インバータ20Bのスイッチングパターンを決定してもよい。
図10には、第1切り替えタイミングtB[1]が、第1インバータ20Aの第7電圧ベクトルV7Aの終了タイミングtA[1]とされる例を示す。
【0062】
続いて、
図11を用いて、予測制御部44により実行される評価関数Jcrの算出処理について説明する。
図11には、第1インバータ電流IinvA、第2インバータ電流IinvB及びインバータ和電流Isumの推移を示す。
【0063】
本実施形態では、候補タイミングtxが、第2インバータ20Bの電圧ベクトルの切り替わりタイミングと一致する。ただし、本実施形態の変形例として、候補タイミングtxが電圧ベクトルの切り替わりタイミングからずれた構成を採用することもできる。候補タイミングtxが切り替わりタイミングと一致する構成、及び候補タイミングtxが切り替わりタイミングからずれた構成それぞれにおける評価関数Jcrの算出方法を説明するために、
図11には、候補タイミングtxが切り替わりタイミングからずれた場合の推移を示す。
【0064】
規定周期(0~Ts/2)における平滑コンデンサ22に流れる電流の実効値Icrmsは、下式(eq3)で表される。コンデンサ電流の実効値Icrmsは、平滑コンデンサ22の電流リップルの相関値である。下式(eq3)において、Isrmsは、規定周期(0~Ts/2)におけるインバータ和電流Isumの実効値を示す。Isaveは、規定周期(0~Ts/2)におけるインバータ和電流Isumの平均値(以下、和電流平均値)を示す。インバータ和電流Isumの実効値Isrmsは、下式(eq4)で表される。
【0065】
【0066】
【数4】
上式(eq4),(eq5)によれば、コンデンサ電流の実効値Icrmsは、インバータ和電流Isumと、和電流平均値Isaveとの偏差を1つの規定周期において時間積分した値で評価できる。予測制御部44は、下式(eq5)を用いて、評価関数Jcrを算出する。評価関数Jcrは、偏差の規定周期における累積値の相関値である。また、評価関数Jcrは、インバータ和電流Isumが、直流目標値としての和電流平均値Isaveに近づくほど小さくなる。コンデンサ電流の実効値Icrmsをインバータ電流に基づいて評価できるため、例えば、コンデンサ電流を算出するための上記特許文献1に記載されたフィルタ回路モデルが不要になる。これにより、制御装置40に実装される処理内容の簡素化することができる。
【0067】
【数5】
Smaxは、第1,第2インバータ20A,20Bの規定周期における電圧ベクトルの合計切り替わり回数である。
図11を参照して説明すると、ts[0],ts[1],ts[2],…,ts[7],ts[8]が切り替わりタイミングであり、合計切り替わり回数Smaxは8である。ここで、ts[0]は1つの規定周期の開始タイミング(0)であり、ts[8]は1つの規定周期の終了タイミング(Ts/2)である。また、上式(eq5)において、「Δts=ts[s+1]-ts[s]」である。
【0068】
本実施形態において、予測制御部44は、和電流平均値Isaveを、下式(eq6)を用いて算出する。下式(eq6)において、mAは、第1インバータ20Aの出力電圧の第1変調率を示し、mBは、第2インバータ20Bの出力電圧の第2変調率を示す。IAは、第1インバータ20Aの出力相電流の最大値を示し、IBは、第2インバータ20Bの出力相電流の最大値を示す。φAは、第1インバータ20Aの出力相電圧に対する第1インバータ20Aの出力相電流の位相差(すなわち、力率)を示す。φBは、第2インバータ20Bの出力相電圧に対する第1インバータ20Aの出力相電流の位相差を示す。
【0069】
【数6】
予測制御部44は、例えば、電圧検出部30により検出された電源電圧VDC、及び第1d,q軸電圧VdA*,VqA*に基づいて第1変調率mAを算出し、電源電圧VDC、及び第2d,q軸電圧VdB*,VqB*に基づいて第2変調率mBを算出すればよい。また、予測制御部44は、第1d,q軸指令電流IdA*,IqA*又は第1d,q軸電流IdAr,IqArと電気角θeとに基づいて相電流最大値IAを算出し、第2d,q軸指令電流IdB*,IqB*又は第1d,q軸電流IdBr,IqBrと電気角θeとに基づいて相電流最大値IBを算出すればよい。また、予測制御部44は、第1d,q軸電圧VdA*,VqA*及び第1d,q軸指令電流IdA*,IqA*に基づいて位相差φAを算出し、第21d,q軸電圧VdB*,VqB*及び第2d,q軸指令電流IdB*,IqB*に基づいて位相差φBを算出すればよい。
【0070】
予測制御部44は、上式(eq5の)各Δtsにおけるインバータ和電流Isumを算出するために、各Δtsにおける第1,第2インバータ電流IinvA,IinvBを予測する。この予測方法は、例えば上記特許文献1に記載の電流予測方法が用いられればよい。第1インバータ電流IinvAを例にして説明すると、予測制御部44は、第1電流検出部31Aの検出値に基づいて把握されるts[0]の第1インバータ電流IinvA[0]と、ts[0],ts[1]における電圧ベクトルと、モータモデルとに基づいて、ts[0]よりも未来のts[1]の第1インバータ電流IinvA[1]を予測する。そして、予測制御部44は、ts[1]の第1インバータ電流IinvA[1]と、ts[1],ts[2]における電圧ベクトルと、モータモデルとに基づいて、ts[1]よりも未来のts[2]の第1インバータ電流IinvA[2]を予測する。これを繰り返すことにより、予測制御部44は、1つの規定周期(0~Ts/2)における各Δtsにおける第1インバータ電流IinvAを予測する。予測制御部44は、予測した各Δtsにおける第1,第2インバータ電流IinvA,IinvBに基づいて、各Δtsにおけるインバータ和電流Isumを算出する。なお、予測,算出処理により各電流IinvA,IinvB,Isumを取得する処理が「電流取得部」に相当する。
【0071】
なお、各Δtsにおける第1,第2インバータ電流IinvA,IinvBは、上述した方法に代えて、例えば以下の方法により予測されてもよい。予測制御部44は、第1,第2電流検出部31A,31Bの検出値に基づいて把握される相電流を取得し、取得した相電流の位相をずらすことにより、未来の各Δtsにおける第1,第2インバータ電流IinvA,IinvBを予測する。これにより、モータモデルを用いることなく、電流予測を行うことができる。
【0072】
図12~
図15を用いて、予測制御部44により実行される回転電機10のトルク制御の手順について説明する。この制御処理は、例えば所定の処理周期で繰り返し実行される。処理周期は、Ts/4よりも十分短い。また、候補タイミングtxが切り替わりタイミングと一致する構成、及び候補タイミングtxが切り替わりタイミングからずれた構成それぞれにおけるトルク制御を説明するために、
図12~
図15には、候補タイミングtxが切り替わりタイミングからずれた構成を考慮した処理手順を示す。
【0073】
ステップS10では、第1インバータ20Aの規定周期におけるスイッチングパターンを選択する。詳しくは、第1d,q軸指令電圧VdA*,VqA*により定まる第1指令電圧ベクトルVtrAを挟んで、かつ、60度の位相差を有する2つの有効電圧ベクトルと、2つの無効電圧ベクトルV0A,V7Aとの組み合わせからなるスイッチングパターンを選択する。
【0074】
ステップS11では、第2インバータ20Bの規定周期におけるスイッチングパターンを決定する。詳しくは、第2d,q軸指令電圧VdB*,VqB*により定まる第2指令電圧ベクトルVtrBを挟んで、かつ、60度の位相差を有する2つの有効電圧ベクトルと、2つの無効電圧ベクトルV0B,V7Bとの組み合わせからなるスイッチングパターンを決定する。なお、ステップS10,S11の処理が「設定部」に相当する。
【0075】
ステップS12~S19では、評価関数Jcrの値が最も小さくなるような、規定周期の最初に出現する第1インバータ20Aの無効電圧ベクトルの出力期間を探索する。
【0076】
詳しくは、ステップS12では、無効電圧ベクトルの出力期間の終了タイミングtxの候補タイミングを決定する。この際、上述した除外処理により、候補タイミングの数が絞られる。
【0077】
ステップS13では、評価関数最小値Jcminを初期化する。初期化された値は、評価関数Jcrの値として想定される最大値よりも十分大きな値にされていればよい。
【0078】
ステップS14では、ステップS12で決定した候補タイミングの中から1つを選択し、第1インバータ20Aの規定周期におけるスイッチングパターンを設定する。
【0079】
ステップS15では、評価関数算出処理を行う。この処理の詳細は、後に詳述する。
【0080】
ステップS16では、ステップS15において算出した評価関数Jcrが、評価関数最小値Jcminよりも小さいか否かを判定する。
【0081】
ステップS16において評価関数Jcrが評価関数最小値Jcminよりも小さいと判定した場合には、ステップS17に進み、今回の処理周期で算出した評価関数Jcrを評価関数最小値Jcminとし、評価関数最小値Jcminを更新する。その後、ステップS18に進む。
【0082】
ステップS17の処理が完了した場合、又はステップS16において否定判定した場合には、ステップS18に進み、ステップS12で決定した候補タイミング全てに対する評価関数Jcrの算出が完了したか否かを判定する。なお、ステップS12~S18の処理が「関数算出部」に相当する。
【0083】
ステップS18において完了していないと判定した場合には、ステップS14に戻る。一方、ステップS18において完了したと判定した場合には、ステップS19に進む。ステップS19では、候補タイミングと紐づけられた評価関数Jcrのうち、最小の評価関数に紐づけられた候補タイミングを採用する。そして、採用した候補タイミングが無効電圧ベクトルの出力終了タイミングとなるスイッチングパターンを、第1インバータ20Aのスイッチングパターンとして決定する。なお、ステップS19の処理が「決定部」に相当する。
【0084】
ステップS20では、第1インバータ20Aのスイッチングパターンを、ステップS19で決定したスイッチングパターンにするように、第1インバータ20Aを構成する各スイッチSuAH~SwALのスイッチング制御を行う。また、第2インバータ20Bのスイッチングパターンを、ステップS11で決定したスイッチングパターンにするように、第2インバータ20Bを構成する各スイッチSuBH~SwBLのスイッチング制御を行う。なお、ステップS20の処理が「スイッチ制御部」に相当する。
【0085】
図13を用いて、ステップS15の評価関数算出処理について説明する。なお、この処理の説明において、
図11のタイムチャートを参照されたい。
【0086】
ステップS30では、第1カウンタSA、第2カウンタSB、順序パラメータS、及び評価関数Jcrを初期値(0)にする。
【0087】
ステップS31では、初期状態の算出処理を行う。例えば、上述した各Δtsにおける第1,第2インバータ電流IinvA,IinvB、及び上述した各Δtsにおけるインバータ和電流Isum等を算出する処理を行う。
【0088】
ステップS32では、第1カウンタSAが第1最大切り替わり回数SAmax以下であるとの第1条件、及び第2カウンタSBが第2最大切り替わり回数SBmax以下であるとの第2条件の双方が成立しているか否かを判定する。
図11に示す例では、第1最大切り替わり回数SAmaxは4であり、第2最大切り替わり回数SBmaxは5である。
【0089】
ステップS32において肯定判定した場合には、ステップS33に進み、第1インバータ20Aの電圧ベクトルの切り替わりタイミングtA[SA]が、第2インバータ20Bの電圧ベクトルの切り替わりタイミングtB[SB]よりも前のタイミング、又は第2インバータ20Bの電圧ベクトルの切り替わりタイミングtB[SB]と同じタイミングであるか否かを判定する。
【0090】
ステップS33において肯定判定した場合には、ステップS34のサブルーチンAに進み、ステップS33において否定判定した場合には、ステップS35のサブルーチンBに進む。ステップS34又はS35の処理の完了後、ステップS32に移行する。
【0091】
【0092】
ステップS50では、第1,第2インバータ20A,20Bの電圧ベクトルの切り替えタイミングを示すts[S]を、第1インバータ20Aの電圧ベクトルの切り替わりタイミングtA[SA]にする。なお、[]内のSは、上述した順序パラメータである。
【0093】
ステップS51では、第1インバータ電流IinvA[SA]と第2インバータ電流IinvB[SB-1]とを加算することにより、インバータ和電流Isum[S]を算出する。
【0094】
ステップS52では、切り替わりタイミングts[S]から、1ステップ前の切り替わりタイミングts[S-1]を差し引くことにより、時間間隔Δts[S]を算出する。
【0095】
ステップS53では、インバータ和電流Isum[S-1]から和電流平均値Isaveを差し引した値を2乗する。そして、2乗した値に、ステップS52の時間間隔Δtsを乗算することにより、1区間分(ts[S]-ts[S-1])における、和電流平均値Isaveとインバータ和電流Isum[S-1]とで区画された領域の面積を算出する。この面積は、
図11を参照すると、例えば、ts[1]~ts[2]の1区間においてハッチングにて示された領域の面積である。この面積を、前回までに算出した評価関数Jcrに加算することにより、評価関数Jcrを更新する。
【0096】
ステップS54では、第1カウンタSA及び順序パラメータSを1インクリメントする。
【0097】
【0098】
ステップS60では、第1,第2インバータ20A,20Bの電圧ベクトルの切り替えタイミングを示すts[s]を、第2インバータ20Bの電圧ベクトルの切り替わりタイミングtB[SB]にする。
【0099】
ステップS61では、第1インバータ電流IinvA[SA-1]と第2インバータ電流IinvB[SB]とを加算することにより、インバータ和電流Isum[S]を算出する。
【0100】
ステップS62では、切り替わりタイミングts[S]から、1ステップ前の切り替わりタイミングts[S-1]を差し引くことにより、時間間隔Δts[S]を算出する。
【0101】
ステップS63では、インバータ和電流Isum[S-1]から和電流平均値Isaveを差し引した値を2乗する。そして、2乗した値に、ステップS62の時間間隔Δtsを乗算することにより、1区間分(ts[S]-ts[S-1])における、和電流平均値Isaveとインバータ和電流Isum[S-1]とで区画された領域の面積を算出する。この面積を、前回までに算出した評価関数Jcrに加算することにより、評価関数Jcrを更新する。
【0102】
ステップS64では、第2カウンタSB及び順序パラメータSを1インクリメントする。
【0103】
先の
図13に説明に戻り、ステップS32において、第1カウンタSAが第1最大切り替わり回数SAmaxよりも大きいと判定した場合、又は第2カウンタSBが第2最大切り替わり回数SBmaxよりも大きいと判定した場合には、ステップS36に進む。
【0104】
ステップS36では、第1カウンタSAが第1最大切り替わり回数SAmax以下であるか否かを判定する。ステップS36において第1カウンタSAが第1最大切り替わり回数SAmaxよりも大きいと判定されるまで、ステップS37においてサブルーチンAを実行する。サブルーチンAは、
図14に示す処理である。
【0105】
ステップS36の後、ステップS38では、第2カウンタSBが第2最大切り替わり回数SBmax以下であるか否かを判定する。ステップS38において第2カウンタSBが第2最大切り替わり回数SBmaxよりも大きいと判定されるまで、ステップS39においてサブルーチンBを実行する。サブルーチンBは、
図15に示す処理である。
【0106】
以上説明したように、本実施形態では、第1インバータ20Aのスイッチングパターンにおいて、規定周期の最初に出現する無効電圧ベクトルの終了タイミングが探索される。この探索処理により、複数の候補タイミングの中から、評価関数Jcrを最も小さくする候補タイミングが終了タイミングとして選択される。この際、第2インバータ20Bの各電圧ベクトルの切り替えタイミングが、候補タイミングとして選択される。このため、探索対象となる候補タイミングの数を減らすことができる。これにより、制御装置40の計算量を削減しつつ、平滑コンデンサ22のリップル電流を低減することができる。
【0107】
除外処理により、第1インバータ20Aの出力電圧ベクトルを第1指令電圧ベクトルVtrAにできなくなる候補タイミングが除外される。その結果、候補タイミングを絞ることができ、算出すべき評価関数Jcrの数を削減できる。これにより、制御装置40の計算量をより好適に削減することができる。
【0108】
<第1実施形態の変形例>
図16,
図17に示すように、予測制御部44は、電圧ベクトルの切り替えに第1,第2キャリア信号SigA,SigB(三角波信号)を用いてもよい。第1キャリア信号SigAは、第1インバータ20Aの電圧ベクトルの切り替えに用いられ、第2キャリア信号SigBは、第2インバータ20Bの電圧ベクトルの切り替えに用いられる。第1キャリア信号SigAに対して第2キャリア信号SigBの位相が1/2規定周期ずれている。これは、第1,第2インバータ20A,20BのスイッチングパターンVtA,VtBの開始タイミングを1/2規定周期ずらすためである。なお、Cmaxは、各キャリア信号SigA,SigBの最大値を示し、Cminは、各キャリア信号SigA,SigBの最小値を示す。
【0109】
<第2実施形態>
以下、第2実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、
図18~
図20に示す評価関数算出処理において、計算量をより削減する工夫がなされている。
図18~
図20は、先の
図13~
図15に対応している。なお、
図18~
図20において、
図13~
図15に示した処理と同一の処理については、便宜上、同一の符号を付している。
【0110】
図18に、評価関数算出処理の手順を示す。なお、本実施形態では、ステップS30において、フラグFを0に初期化する。
【0111】
ステップS34又はS35の完了後、ステップS41に進み、フラグFが1であるか否かを判定する。フラグFは、0によって評価関数Jcrの算出を継続することを示し、1によって評価関数Jcrの算出を中止することを示す。
【0112】
ステップS41においてフラグFが1であると判定した場合には、
図18に示す処理を一旦終了し、
図12のステップS18に進む。一方、ステップS41においてフラグFが0であると判定した場合には、ステップS32に進む。本実施形態では、フラグFが0のままステップS40の処理が完了した場合、
図12のステップS16に進む。
【0113】
図19に、
図18に示すステップS34のサブルーチンAの処理手順を示す。
【0114】
ステップS53の処理の完了後、ステップS55に進み、ステップS53で算出した評価関数Jcrが、評価関数最小値Jcmin以下であるか否かを判定する。ステップS55において評価関数Jcrが評価関数最小値Jcmin以下であると判定した場合には、ステップS54を経由して、
図18のステップS41に進む。
【0115】
一方、ステップS55において評価関数Jcrが評価関数最小値Jcminよりも大きいと判定した場合には、ステップS56に進み、フラグFを1に切り替える。その後、
図18のステップS41に進む。
【0116】
図20に、
図18に示すステップS35のサブルーチンBの処理手順を示す。
【0117】
ステップS63の処理の完了後、ステップS65に進み、ステップS63で算出した評価関数Jcrが、評価関数最小値Jcmin以下であるか否かを判定する。ステップS65において評価関数Jcrが評価関数最小値Jcmin以下であると判定した場合には、ステップS64を経由して、
図18のステップS41に進む。
【0118】
一方、ステップS65において評価関数Jcrが評価関数最小値Jcminよりも大きいと判定した場合には、ステップS66に進み、フラグFを1に切り替える。その後、
図18のステップS41に進む。
【0119】
なお、
図18のステップS37のサブルーチンAは、先の
図14のサブルーチンAと同じである。また、
図18のステップS39のサブルーチンBは、先の
図15のサブルーチンBと同じである。
【0120】
以上説明した本実施形態によれば、評価関数算出処理において、平滑コンデンサ22のリップル電流の低減効果が小さい候補タイミングに対応する評価関数Jcrの算出を途中で打ち切ることができる。これにより、制御装置40の計算量をいっそう好適に削減することができる。
【0121】
<第3実施形態>
以下、第3実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、
図21に示すように、予測制御部44は、6つの有効電圧ベクトルのうち、第1指令電圧ベクトルVtrAを挟んで、かつ、60度の位相差を有する2つの有効電圧ベクトルと、他の1つの有効電圧ベクトルと、2つの無効電圧ベクトルV0,V7との組み合わせからなるスイッチングパターンを決定する。他の1つの有効電圧ベクトルは、第1指令電圧ベクトルVtrAを挟んで、かつ、120度の位相差を有する2つの2つの有効電圧ベクトルのうち、上記60度の位相差を有する有効電圧ベクトルとは異なる電圧ベクトルである。
図21には、3つの有効電圧ベクトルとして、第1,第2,第6電圧ベクトルV1,V2,V6が選択される例を示した。本実施形態では、以降、第1インバータ20Aにおいて、第1,第2,第6電圧ベクトルV1,V2,V6及び第0,第7電圧ベクトルV0,V7が選択される場合を例にして説明する。
【0122】
予測制御部44は、第1インバータ20Aの場合と同様に、第2指令電圧ベクトルVtrBを挟む3つの有効電圧ベクトルと、2つの無効電圧ベクトルV0,V7との組み合わせからなるスイッチングパターンを決定する。本実施形態では、以降、第2インバータ20Bにおいて、第1,第2,第6電圧ベクトルV1,V2,V6及び第0,第7電圧ベクトルV0,V7が選択される場合を例にして説明する。
【0123】
図22~
図25を用いて、予測制御部44により実行される無効電圧ベクトルの終了タイミングtxの探索処理について説明する。
【0124】
まず、
図22,
図23を用いて、1つ目の規定周期(0~Ts/2)における探索処理について説明する。
【0125】
図23(a)に示すように、1つ目の規定周期における第1インバータ20Aのスイッチングパターンにおいて、電圧ベクトルの第1最大切り替わり回数SAmaxは4回である。
【0126】
一方、1つ目の規定周期における第2インバータ20Bのスイッチングパターンにおいて、電圧ベクトルの第2最大切り替わり回数SBmaxは下式(eq7)で表される。
【0127】
【数7】
TzBは、0からTs/2までの期間のうち、第2インバータ20Bの無効電圧ベクトルの合計出力期間を示す。T1Bは、0からTs/2までの期間のうち、第2インバータ20Bの第1電圧ベクトルV1Bの合計出力期間を示す。T2Bは、0からTs/2までの期間のうち、第2インバータ20Bの第2電圧ベクトルV2Bの合計出力期間を示す。
図22及び
図23に示すのは、SBmax=6の例である。
【0128】
図22に示すように、予測制御部44は、第2インバータ20BのスイッチングパターンVtBを構成する電圧ベクトルの6つの切り替えタイミングtB[1]~tB[6]の中から、第0電圧ベクトルV0Aの終了タイミングtxの候補タイミングを選択する。予測制御部44は、上述した除外処理を行ってもよい。
【0129】
図23には、第1切り替えタイミングtB[1]が、第1インバータ20Aの第0電圧ベクトルV0Aの終了タイミングtA[1]とされる例を示す。
【0130】
続いて、
図24,
図25を用いて、2つ目の規定周期(Ts/2~Ts)における探索処理について説明する。
【0131】
図25(a)に示すように、2つ目の規定周期における第1インバータ20Aのスイッチングパターンにおいて、電圧ベクトルの第1最大切り替わり回数SAmaxは4回である。
【0132】
一方、2つ目の規定周期における第2インバータ20Bのスイッチングパターンにおいて、電圧ベクトルの第2最大切り替わり回数SBmaxは上式(eq7)で表される。
図24及び
図25に示すのは、SBmax=2の例である。
【0133】
図24に示すように、予測制御部44は、第2インバータ20BのスイッチングパターンVtBを構成する電圧ベクトルの2つの切り替えタイミングtB[1],tB[2]の中から、第7電圧ベクトルV7Aの終了タイミングtxの候補タイミングを選択する。予測制御部44は、上述した除外処理を行ってもよい。
【0134】
図25には、第1切り替えタイミングtB[1]が、第1インバータ20Aの第7電圧ベクトルV7Aの終了タイミングtA[1]とされる例を示す。
【0135】
以上説明した本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0136】
<第4実施形態>
以下、第4実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、
図26に示すように、予測制御部44は、6つの有効電圧ベクトルのうち、第1指令電圧ベクトルVtrAを挟んで、かつ、120度の位相差を有する2つの有効電圧ベクトルと、2つの無効電圧ベクトルV0,V7との組み合わせからなるスイッチングパターンを決定する。この決定方法は、例えば、変調率が低い場合に用いられる。
図26には、2つの有効電圧ベクトルとして、第2,第6電圧ベクトルV2,V6が選択される例を示した。本実施形態では、以降、第1インバータ20Aにおいて、第2,第6電圧ベクトルV2,V6及び第0,第7電圧ベクトルV0,V7が選択される場合を例にして説明する。
【0137】
予測制御部44は、第1インバータ20Aの場合と同様に、第2指令電圧ベクトルVtrBを挟む2つの有効電圧ベクトルと、2つの無効電圧ベクトルV0,V7との組み合わせからなるスイッチングパターンを決定する。本実施形態では、以降、第2インバータ20Bにおいて、第2,第6電圧ベクトルV2,V6及び第0,第7電圧ベクトルV0,V7が選択される場合を例にして説明する。
【0138】
図27~
図30を用いて、予測制御部44により実行される無効電圧ベクトルの終了タイミングtxの探索処理について説明する。
【0139】
まず、
図27,
図28を用いて、1つ目の規定周期(0~Ts/2)における探索処理について説明する。
【0140】
図28(a)に示すように、1つ目の規定周期における第1インバータ20Aのスイッチングパターンにおいて、電圧ベクトルの第1最大切り替わり回数SAmaxは3回である。
【0141】
一方、1つ目の規定周期における第2インバータ20Bのスイッチングパターンにおいて、電圧ベクトルの第2最大切り替わり回数SBmaxは下式(eq8)で表される。
【0142】
【数8】
T6Bは、0からTs/2までの期間のうち、第2インバータ20Bの第6電圧ベクトルV6Bの合計出力期間を示す。
図27及び
図28に示すのは、SBmax=4の例である。
【0143】
図27に示すように、予測制御部44は、第2インバータ20BのスイッチングパターンVtBを構成する電圧ベクトルの4つの切り替えタイミングtB[1]~tB[4]の中から、第0電圧ベクトルV0Aの終了タイミングtxの候補タイミングを選択する。予測制御部44は、上述した除外処理を行ってもよい。
【0144】
図28には、第1切り替えタイミングtB[1]が、第1インバータ20Aの第0電圧ベクトルV0Aの終了タイミングtA[1]とされる例を示す。
【0145】
続いて、
図29,
図30を用いて、2つ目の規定周期(Ts/2~Ts)における探索処理について説明する。
【0146】
図30(a)に示すように、2つ目の規定周期における第1インバータ20Aのスイッチングパターンにおいて、電圧ベクトルの第1最大切り替わり回数SAmaxは3回である。
【0147】
一方、2つ目の規定周期における第2インバータ20Bのスイッチングパターンにおいて、電圧ベクトルの第2最大切り替わり回数SBmaxは上式(eq8)で表される。
図29及び
図30に示すのは、SBmax=2の例である。
【0148】
図29に示すように、予測制御部44は、第2インバータ20BのスイッチングパターンVtBを構成する電圧ベクトルの2つの切り替えタイミングtB[1],tB[2]の中から、第7電圧ベクトルV7Aの終了タイミングtxの候補タイミングを選択する。予測制御部44は、上述した除外処理を行ってもよい。
【0149】
図30には、第1切り替えタイミングtB[1]が、第1インバータ20Aの第7電圧ベクトルV7Aの終了タイミングtA[1]とされる例を示す。
【0150】
以上説明した本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0151】
<第5実施形態>
以下、第5実施形態について、第4実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、
図31に示すように、予測制御部44は、120度の位相差を有する2つの有効電圧ベクトルと、1つの無効電圧ベクトルとの組み合わせからなるスイッチングパターンを決定する。無効電圧ベクトルの数が1つ減らされることにより、インバータの規定周期におけるスイッチング回数を削減できる。
図31には、2つの有効電圧ベクトルとして、第2,第6電圧ベクトルV2,V6が選択され、1つ無効電圧ベクトルとして、第7電圧ベクトルV7が選択される例を示した。本実施形態では、以降、第1インバータ20Aにおいて、第2,第6電圧ベクトルV2,V6及び第7電圧ベクトルV7が選択される場合を例にして説明する。
【0152】
予測制御部44は、第1インバータ20Aの場合と同様に、120度の位相差を有する2つの有効電圧ベクトルと、1つの無効電圧ベクトルとの組み合わせからなる第2インバータ20Bのスイッチングパターンを決定する。本実施形態では、以降、第2インバータ20Bにおいて、第2,第6電圧ベクトルV2,V6及び第7電圧ベクトルV7が選択される場合を例にして説明する。
【0153】
図32,
図33を用いて、予測制御部44により実行される無効電圧ベクトルの終了タイミングtxの探索処理について説明する。本実施形態では、規定周期の長さが、1スイッチング周期に相当するTsとされている。
【0154】
図33(a)に示すように、規定周期(0~Ts)における第1インバータ20Aのスイッチングパターンにおいて、電圧ベクトルの第1最大切り替わり回数SAmaxは4回である。また、規定周期における第2インバータ20Bのスイッチングパターンにおいて、電圧ベクトルの第2最大切り替わり回数SBmaxは4回である。
【0155】
図32に示すように、予測制御部44は、第2インバータ20BのスイッチングパターンVtBを構成する電圧ベクトルの4つの切り替えタイミングtB[1]~tB[4]の中から、第7電圧ベクトルV7Aの終了タイミングtxの候補タイミングを選択する。予測制御部44は、上述した除外処理を行ってもよい。
【0156】
図33には、第1切り替えタイミングtB[1]が、第1インバータ20Aの第7電圧ベクトルV7Aの終了タイミングtA[1]とされる例を示す。
【0157】
以上説明した本実施形態によれば、インバータのスイッチング回数を削減しつつ、平滑コンデンサ22のリップル電流を低減することができる。
することができる。
【0158】
<第6実施形態>
以下、第6実施形態について、第3実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、
図34に示すように、予測制御部44は、第3実施形態で説明した3つの有効電圧ベクトルの組み合わせからなるスイッチングパターンを決定する。スイッチングパターンには、無効電圧ベクトルが含まれない。
図34には、3つの有効電圧ベクトルとして、第1,第2,第6電圧ベクトルV1,V2,V6が選択される例を示した。本実施形態では、以降、第1インバータ20Aにおいて、第1,第2,第6電圧ベクトルV1,V2,V6が選択される場合を例にして説明する。
【0159】
予測制御部44は、第1インバータ20Aの場合と同様に、3つの有効電圧ベクトルの組み合わせからなる第2インバータ20Bのスイッチングパターンを決定する。本実施形態では、以降、第2インバータ20Bにおいて、第1,第2,第6電圧ベクトルV1,V2,V6が選択される場合を例にして説明する。
【0160】
本実施形態では、規定周期の長さが、1スイッチング周期に相当するTsとされている。また、予測制御部44は、規定周期の最初に出現する有効電圧ベクトル(第1電圧ベクトルV1A)の終了タイミングtxを探索対象とする。
図35,
図36を用いて、予測制御部44により実行される第1電圧ベクトルV1Aの終了タイミングtxの探索処理について説明する。
【0161】
図36(a)に示すように、規定周期(0~Ts)における第1インバータ20Aのスイッチングパターンにおいて、電圧ベクトルの第1最大切り替わり回数SAmaxは4回である。また、規定周期における第2インバータ20Bのスイッチングパターンにおいて、電圧ベクトルの第2最大切り替わり回数SBmaxは4回である。
【0162】
図35に示すように、予測制御部44は、第2インバータ20BのスイッチングパターンVtBを構成する電圧ベクトルの4つの切り替えタイミングtB[1]~tB[4]の中から、第1電圧ベクトルV1Aの終了タイミングtxの候補タイミングを選択する。予測制御部44は、上述した除外処理を行ってもよい。
【0163】
予測制御部44は、電流リップルを低減できる終了タイミングtxの探索を完了すると、第1指令電圧ベクトルVtrAに基づいて設定した第2,第6,第2電圧ベクトルV2A,V6A,V2Aそれぞれの出力期間を変更せずに、第2,第6,第2電圧ベクトルV2A,V6A,V2Aを第1電圧ベクトルV1Aの次に配置する。予測制御部44は、第2,第6,第2電圧ベクトルV2A,V6A,V2Aの並びの次に、第1電圧ベクトルV1Aを配置する。予測制御部44は、規定周期において最後に出現する第1電圧ベクトルV1Aの出力期間を、「Ts-TK」に設定する。TKは、規定周期の最初に出現する第1電圧ベクトルV1Aの出力期間と、第2,第6,第2電圧ベクトルV2A,V6A,V2Aの合計出力期間との加算値である。
図36には、第1切り替えタイミングtB[1]が、第1インバータ20Aの第1電圧ベクトルV1Aの終了タイミングtA[1]とされる例を示す。
【0164】
以上説明した本実施形態のように、有効電圧ベクトルの終了タイミングを探索する処理によっても、平滑コンデンサ22のリップル電流を低減することができる。
【0165】
<第7実施形態>
以下、第7実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、
図37に示すように、回転電機10は、第3巻線群10Cを更に備えている。
図37において、先の
図1に示した構成と同一の構成については、便宜上、同一の符号を付している。
【0166】
制御システムは、第3巻線群10Cに電気的に接続された第3インバータ20Cを備えている。第3インバータ20Cの構成は、第1,第2インバータ20A,20Bの構成と同様である。
【0167】
第3インバータ20Cにおいて各相の上アームスイッチのドレインには、第3高電位側経路LHCを介して、第2高電位側経路LHBの途中部分が接続されている。第3インバータ20Cにおいて各相の下アームスイッチのソースには、第3低電位側経路LLCを介して、第2低電位側経路LLBの途中部分が接続されている。つまり、本実施形態では、各インバータ20A~20Cで平滑コンデンサ22が共通化されている。
【0168】
制御システムは、第3電流検出部を備えている。制御装置40は、第1,第2電流検出部31A,31Bの場合と同様に、第3電流検出部の検出値に基づいて、第3巻線群10Cに流れる3相の電流を取得する。
【0169】
制御装置40は、回転電機10のトルクを指令トルクTrq*に制御すべく、入力された検出値に基づいて、第1~第3インバータ20A~20Cの各スイッチをオンオフする駆動信号を生成する。
【0170】
なお、
図37において、第3高電位側経路LHCに流れる電流を第3インバータ電流IinvCと称す。第3インバータ電流IinvCは、平滑コンデンサ22側から第3インバータ20C側へと向かう方向に流れる場合の符号を正とする。また、第1~第3インバータ電流IinvA~IinvCの加算値をインバータ和電流Isumと称す。
【0171】
予測制御部44は、第1実施形態と同様に、第1~第3インバータ20A~20Cについて、第1~第3指令電圧ベクトルVtrA~VtrCを算出する。そして、予測制御部44は、各インバータ20A~20Cについて、6つの有効電圧ベクトルのうち、指令電圧ベクトルVtrを挟んで、かつ、60度の位相差を有する2つの有効電圧ベクトルと、2つの無効電圧ベクトルV0,V7との組み合わせからなるスイッチングパターンを決定する。本実施形態では、以降、各インバータ20A~20Cにおいて、第1,第2電圧ベクトルV1,V2及び第0,第7電圧ベクトルV0,V7が選択される場合を例にして説明する。
【0172】
第1,第2,第3インバータ20A,20B,20CのスイッチングパターンVtA,VtB,VtCの開始タイミングは、1/3規定周期ずつずれている。これは、平滑コンデンサ22の電流リップルを低減するためである。
【0173】
図38~
図41を用いて、予測制御部44により実行される無効電圧ベクトルの終了タイミングtxの探索処理について説明する。
【0174】
まず、
図38,
図39を用いて、1つ目の規定周期(0~Ts/2)における探索処理について説明する。
【0175】
図39(a)に示すように、1つ目の規定周期における第1,第2インバータ20A,20Bのスイッチングパターンにおいて、第1,第2最大切り替わり回数SAmax,SBmaxは3回である。また、1つ目の規定周期における第3インバータ20Cのスイッチングパターンにおいて、電圧ベクトルの第3最大切り替わり回数SCmaxは3回である。
【0176】
図38に示すように、予測制御部44は、第2インバータ20BのスイッチングパターンVtBを構成する電圧ベクトルの3つの切り替えタイミングtB[1]~tB[3]、及び第3インバータ20CのスイッチングパターンVtCを構成する電圧ベクトルの3つの切り替えタイミングtC[1]~tC[3]の中から、第1インバータ20Aの第0電圧ベクトルV0Aの終了タイミングtxの候補タイミングを選択する。予測制御部44は、上述した除外処理を行ってもよい。
【0177】
なお、候補タイミングは、第2インバータ20Bの切り替えタイミングtB[1]~tB[3]のグループ、又は第3インバータ20Cの切り替えタイミングtC[1]~tC[3]のグループのどちらかから選択されてもよい。
【0178】
図39には、第2インバータ20Bの第2切り替えタイミングtB[2]が、第1インバータ20Aの第0電圧ベクトルV0Aの終了タイミングtA[1]とされる例を示す。
【0179】
続いて、
図40,
図41を用いて、2つ目の規定周期(Ts/2~Ts)における探索処理について説明する。
【0180】
図41に示すように、2つ目の規定周期における各最大切り替わり回数SAmax,SBmax,SCmaxは3回である。
【0181】
図40に示すように、予測制御部44は、第2インバータ20BのスイッチングパターンVtBを構成する電圧ベクトルの3つの切り替えタイミングtB[1]~tB[3]、及び第3インバータ20CのスイッチングパターンVtCを構成する電圧ベクトルの3つの切り替えタイミングtC[1]~tC[3]の中から、第1インバータ20Aの第7電圧ベクトルV7Aの終了タイミングtxの候補タイミングを選択する。予測制御部44は、上述した除外処理を行ってもよい。
【0182】
なお、候補タイミングは、第2インバータ20Bの切り替えタイミングtB[1]~tB[3]のグループ、又は第3インバータ20Cの切り替えタイミングtC[1]~tC[3]のグループのどちらかから選択されてもよい。
【0183】
図41には、第2インバータ20Bの第2切り替えタイミングtB[2]が、第1インバータ20Aの第7電圧ベクトルV7Aの終了タイミングtA[1]とされる例を示す。
【0184】
<その他の実施形態>
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0185】
・評価関数Jcrは、上式(eq5)に示す関数に代えて、例えば下式(eq9)に示すように、インバータ和電流Isumと和電流平均値Isaveとの偏差の絶対値により規定される関数であってもよい。
【0186】
【0187】
・探索対象となる電圧ベクトルの終了のタイミングの候補タイミングが、第2インバータ20Bのスイッチングパターンを構成する各電圧ベクトルの切り替えタイミングからずれていてもよい。
【0188】
・インバータと同数の回転電機が制御システムに備えられていてもよい。例えば、
図1に示す制御システムにおいて、第1インバータ20Aが第1回転電機に電気的に接続され、第2インバータ20Bが第2回転電機に電気的に接続される。
【0189】
・インバータの数は、4つ以上であってもよい。インバータの数をNとする場合、各インバータのスイッチングパターンの開始タイミングは、例えば、1/N規定周期ずつずれていてもよい。
【0190】
・インバータの相数は3相に限らず、4相以上の相数(例えば5相)であってもよい。
【0191】
・回転電機は、例えば、車両の駆動輪に一体に設けられるインホイールモータであってもよいし、車両の車体に備えられるオンボードモータであってもよい。また、回転電機及びインバータが変速機と一体化されていてもよい。
【0192】
・制御システムの適用対象としては、車両に限らず、例えば、航空機、船舶又は鉄道車両であってもよい。また、制御システムの適用対象としては、車両等の移動体に限らず、ロボット(例えば産業用ロボット)、発電機又はエレベータであってもよい。
【0193】
・本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0194】
10…回転電機、20A,20B…第1,第2インバータ、22…平滑コンデンサ、40…制御装置。