(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-27
(45)【発行日】2025-03-07
(54)【発明の名称】フィブリン分解酵素プラスミンの改善された高度に強力な特異的ヒトKunitzインヒビター
(51)【国際特許分類】
A61K 38/16 20060101AFI20250228BHJP
C12N 15/15 20060101ALI20250228BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20250228BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20250228BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20250228BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20250228BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20250228BHJP
C07K 14/81 20060101ALI20250228BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20250228BHJP
A61L 15/32 20060101ALI20250228BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20250228BHJP
【FI】
A61K38/16
C12N15/15 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/21
C12N1/19
C12N5/10
C07K14/81
A61P7/04
A61L15/32 100
A61K9/70
(21)【出願番号】P 2023515756
(86)(22)【出願日】2021-09-07
(86)【国際出願番号】 US2021049284
(87)【国際公開番号】W WO2022055882
(87)【国際公開日】2022-03-17
【審査請求日】2023-05-08
(32)【優先日】2020-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】バジャジ, エス. ポール
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-514459(JP,A)
【文献】特表2009-521935(JP,A)
【文献】J Pharmacol Exp Ther.,2009年,Vol.331, No.3,pp.940-945,10.1124/jpet.109.161034
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61P 7/00- 7/12
C07K 14/00-19/00
C12N 15/00-15/90
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列:NAEICLLPLDTGPCKARLLRYYYDRYTQSCRQFLYGGCEGNANNFYTWEACDDACWRIEK(配列番号1)
からなるポリペプチド;および薬学的に受容可能な賦形剤、
を含む医薬組成物。
【請求項2】
前記薬学的に受容可能な賦形剤は、保存剤、張度調整剤、洗浄剤、ヒドロゲル、粘度調整剤、またはpH調整剤のうちの少なくとも1種から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物は、静脈内注射または注入における使用のために選択された薬学的に受容可能な賦形剤を含む薬学的に受容可能な組成物を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ポリペプチドのプラスミン阻害定数(Ki)は、37℃において、少なくとも2日間、4日間または1週間、0.1mg/mL ウシ血清アルブミン(BSA)および2mM カルシウムを含むトリス緩衝生理食塩水(TBS)中での前記組成物のインキュベーション後に、10%未満変化する、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
ポリペプチド配列:NAEICLLPLDTGPCKARLLRYYYDRYTQSCRQFLYGGCEGNANNFYTWEACDDACWRIEK(配列番号1)をコードするポリヌクレオチドを含む組成物。
【請求項6】
前記ポリヌクレオチドは、配列:AACGCGGAGATCTGTCTCCTGCCCCTAGACACCGGACCCTGCAAAGCCAGACTTCTCCGTTACTACTACGACAGGTACACGCAGAGCTGCCGCCAGTTCCTGTACGGGGGCTGCGAGGGCAACGCCAACAATTTCTACACCTGGGAGGCTTGCGACGATGCTTGCTGGAGGATAGAAAAA(配列番号2)
を含む、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記ポリヌクレオチドは、細胞において前記ポリペプチドを発現させるための1またはこれより多くの調節配列を含むベクターの中に配置される、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
請求項7に記載のベクターを含む細胞。
【請求項9】
前記細胞は、細菌細胞、酵母細胞、昆虫細胞または哺乳動物細胞である、請求項7に記載の細胞。
【請求項10】
プラスミンの少なくとも1種の活性を阻害する方法における使用のための請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物であって、前記方法は、プラスミンと、プラスミンの少なくとも1種の活性を阻害するために十分な量の前記組成物を接触させることを包含する組成物。
【請求項11】
前記方法は、線維素溶解が阻害されるように、線維素溶解を阻害するために十分な量の前記組成物を患者に投与することによって、前記患者における線維素溶解を阻害することを包含する、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
被験体において出血を阻害するための、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
前記出血は、外傷性傷害から生じる、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記外傷性傷害は、外傷性脳傷害である、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記出血は、手術から生じる、請求項12に記載の組成物。
【請求項16】
前記出血は、心臓手術を受けておりかつ血液喪失の低減の必要性のある患者におけるものであり、前記組成物は、前記手術の前、最中、または後に投与されるものであることを特徴とする、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記心臓手術は、心肺バイパス手術である、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記出血は、外傷性出血性ショックのための処置を受けている患者におけるものである、請求項12に記載の組成物。
【請求項19】
前記組成物は、マトリクス中に配置される、請求項10~18のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項20】
前記マトリクスは、パッチまたは圧迫包帯である、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
配列NAEICLLPLDTGPCKARLLRYYYDRYTQSCRQFLYGGCEGNANNFYTWEACDDACWRIEK(配列番号1)
からなる、天然に存在しない単離されたポリペプチド。
【請求項22】
前記ポリペプチドは、ヒト組織因子経路インヒビタータイプ2のKD1の二重変異Y11T/L17Rのみを有する60残基のポリペプチドバリアントと比較した場合、プラスミンを阻害するにあたって少なくとも3倍大きい効力を有する、請求項21に記載の天然に存在しない単離されたポリペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法第119条(e)の下で、2020年9月10日に出願された同時係属中の米国仮特許出願第63/076,516号および2020年11月12日に出願された同時係属中の米国仮特許出願第63/112,840号(これらの出願は、それらの全体において本明細書に参考として援用される)の利益を主張する。
【0002】
政府支援の研究および開発の下でなされた発明の権利に関する陳述
本発明は、National Institutes of Healthによって授与された助成金番号HL141850の下で政府支援を得て行われた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0003】
技術分野
本発明の分野は、プラスミンの作用を阻害し得るポリペプチド剤に関する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
線維素溶解は、正常な生理学的状況下でクロット形成およびその過剰な成長の程度を調節する生理学的プロセスである。しかし、外傷または手術、虚血および再灌流の後には、血液は、大きな非内皮表面(例えば、過剰な線維素溶解を生じる心肺バイパス(CPB)回路)と接触する。この過剰な線維素溶解は、凝固障害、出血、および炎症応答に寄与する。これらの環境下では、このプロセスの重要なメディエーターであるプラスミンを阻害する抗線維素溶解剤は、出血、同種異系血液投与、および有害な臨床転帰を低減するために、医療従事者によって使用される。
【0005】
使用されている抗線維素溶解剤は、アプロチニン、トラネキサム酸(TXA)およびε-アミノカプロン酸(EACA)である。アプロチニンは、2008年に、主に腎機能障害およびアナフィラキシーが原因で患者におけるその有害作用に起因して、市場から取り除かれた(1)。意義深いことには、アプロチニンは、そのリスク-ベネフィットプロフィールの理由から、欧州およびカナダにおいて使用制限付きで再導入されている(2)。しかし、アプロチニンの禁止は、米国では解かれていない。現在使用されるリジンアナログであるTXAおよびEACAは、アプロチニンほど有効ではなく、発作(seizure)および腎機能障害をも引き起こす(3,4)。Montrealの心臓手術グループの近年の論文(5)は、4ユニットより多くの赤血球の輸血が、TXAをほぼ100%使用しているにもかかわらず、2012年~2015年の間に彼らの施設において心臓手術をした患者の全体のほぼ1/4において発生したことを示した。このことから、著者らは、効率的な血液節約剤(blood-sparing agent)の必要性がなおあると結論づけた。所望の生成物は、リスクに対するベネフィットの最良のバランスを有する、線維素溶解および炎症に関するプロテアーゼ阻害プロフィールを明確に示さなければならない(6)。
【0006】
近年、プラスミンを阻害する2つの生成物、すなわち、エカランチド(Ecallantide)およびMDCO-2010が、フェーズII臨床試験までの心臓バイパス手術の試験を完了した。しかし、各生成物は、フェーズIII心臓バイパス手術治験において満足のいく有効性および安全性プロフィールを提供できず、両方の治験は、早々に終了した(7,8)。これは、エカランチドおよびMDCO-2010がカリクレインの強力なインヒビターであることに関連し得る。さらに、MDCO-2010はまた、凝固性プロテアーゼである第Xa因子を阻害する。別の生成物、Textilinin-1(ヘビ毒由来のKunitzタイプセリンプロテアーゼインヒビター)は、早期開発段階にある(9)。この場合に、Kunitzドメインは、アプロチニンKunitzドメイン(これは、ウシ肺に由来する)と比較した場合、ヘビ毒に由来する。従って、アプロチニンに類似して、ヘビ毒Kunitzドメインは、ヒトにおいてアナフィラキシー応答を生じると予測される。アプロチニンに伴う問題およびこの技術分野において当業者がインビボでの使用のためにより適した抗線維素溶解剤を同定しようとする進行中の努力は、この認識される問題が解決することなく長期間当該分野に存在し、このニーズが、当業者によって認識された根強いものであることを示す。
【0007】
抗線維素溶解剤としての使用が探索されている作用物質の一群としては、ヒトKunitzタイプインヒビターポリペプチドのバリアントが挙げられる(例えば、米国特許第8,993,719号および米国特許公開20080026998を参照のこと)。しかし、これらのヒトKunitzタイプインヒビターポリペプチドは、種々のポリペプチドとインビボで相互作用し得る(プラスミンおよびセリンプロテアーゼ(例えば、カリクレイン)を含む)ことから、このようなポリペプチドの複雑な薬物動態は、このようなバリアントポリペプチドにインビボでの治療剤としての使用のために最適化された機能的特性を提供するアミノ酸残基の一団(constellation)を有するヒトKunitzタイプインヒビターバリアントポリペプチドを見出すにあたって困難を引き起こす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第8,993,719号明細書
【文献】米国特許出願公開第2008/0026998号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の要旨
本明細書で開示されるように、ヒト組織因子経路インヒビタータイプ2のKunitzドメイン1(KD1)の新たな天然に存在しないポリペプチドバリアントが作製され、非常に望ましい薬物動態プロフィールを有することが発見された。例えば、本開示のポリペプチドは、従来利用されていたが問題のある抗線維素溶解剤であるアプロチニンより良好な、プラスミンの活性を阻害する能力を含む薬物動態プロフィールを有する。さらに、アプロチニンで観察されるプラスミン阻害活性より優れたこの新たなポリペプチドバリアントのプラスミン阻害活性に加えて、本明細書で開示されるポリペプチドバリアントは、アプロチニンおよび関連分子で観察されるある特定の有害副作用をさらに回避する。このことの1つの例証において、本明細書で開示されるポリペプチドバリアントは、他の凝固セリンプロテアーゼ(例えば、カリクレイン)に対して最小の阻害活性を示すことが観察される。
【0010】
本明細書で開示される60残基のポリペプチドバリアントは、リジン残基を含むC末端構造を含むアミノ酸残基の特有の一団を含む。特定の理論によっても作用機序によっても拘束されないが、このC末端構造は、フィブリンクロットへのプラスミノゲン結合を阻害する様式において、そのクリングルドメインを介して、プラスミンまたはプラスミノゲンへの上記60残基のポリペプチドバリアントの結合を促進するようである。本明細書で開示されるポリペプチドバリアントはまた、15位におけるリジンアミノ酸置換を含む3つのアミノ酸変異(「KD1Y11T/R15K/L17R-KT」)の群を含む。驚くべきことに、このY11T/R15K/L17R三重変異体は、二重変異Y11T/L17Rのみを有する60残基のポリペプチドバリアントと比較した場合に、プラスミンを阻害するにあたって、4~5倍さらに強力であることが観察される。特定の理論によっても作用機序によっても拘束されないが、15位におけるリジンアミノ酸置換を有するこの三重変異体は、このバリアントポリペプチドの、プラスミンにおける残基Asp189およびSer190との相互作用を促進することによって機能するようである。予測外なことには、この60残基のY11T/R15K/L17R三重変異ポリペプチドは、二重変異Y11T/L17Rのみを有する相当の60残基のポリペプチドバリアントと比較する場合、カリクレイン、第XIa因子および第VIIa因子/組織因子の少なくとも10倍弱い阻害をさらに示す。従って、本明細書で開示される60残基のバリアントポリペプチドは、例えば、この技術において類似の阻害性分子と関連するある特定の副作用を同時に回避しながら、プラスミンを強く阻害する能力を含む、非常に望ましい薬物動態/材料プロフィールを示す。
【0011】
本明細書で開示される発明は、多くの実施形態を有する。本発明の実施形態は、例えば、配列:NAEICLLPLDTGPCKARLLRYYYDRYTQSCRQFLYGGCE GNANNFYTWEACDDACWRIEK(配列番号1)を含むポリペプチドおよび/または単離された天然に存在しないポリペプチド(配列番号1)を含む組成物を含む。代表的には、このような組成物はまた、さらなる剤、例えば、薬学的に受容可能なキャリア(例えば、保存剤、張度調整剤、洗浄剤、ヒドロゲル、粘度調整剤、pH調整剤など)を含む。このような実施形態は、例えば、静脈内注射または注入における使用のために選択された薬学的に受容可能な賦形剤を含む医薬組成物を含む。
【0012】
本発明の別の実施形態は、ポリペプチド配列:NAEICLLPLDTGPCKARLLR YYYDRYTQSCRQFLYGGCEGNANNFYTWEACDDACWRIEK(配列番号1)をコードするポリヌクレオチドを含む組成物である。本明細書で開示される発明の作業実施形態において、このポリヌクレオチドは、配列:AACGCGGAGATCTGTCTCCTGCCCCTAGACACCGGACCCTGCAAAGCCAGACTTCTCCGTTACTACTACGACAGGTACACGCAGAGCTGCCGCCAGTTCCTGTACGGGGGCTGCGAGGGCAACGCCAACAATTTCTACACCTGGGAGGCTTGCGACGATGCTTGCTGGAGGATAGAAAAA(配列番号2)を含む。この技術における当業者は、この具体的配列が、ヒトにおいて本明細書で開示されるKunitzドメイン1インヒビターポリペプチドを生成するために使用されるコドンを含むが、これらのポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列が、上記ポリペプチドを発現するために使用されるシステムに応じて変動し得る(すなわち、細菌、酵母および昆虫細胞では異なるコドンが使用され得る)ことを理解する。代表的には、このようなポリヌクレオチドは、細胞において上記ポリペプチドを発現するために、1またはこれより多くの調節配列を含むベクター中に配置される。本発明の実施形態はまた、このようなベクターを含む細胞(例えば、細菌、酵母、昆虫または哺乳動物細胞)を含む。
【0013】
以下で考察されるように、本発明の実施形態はまた、本明細書で開示されるポリペプチドを使用する方法を含む。本発明のこのような実施形態は、例えば、プラスミンの少なくとも1種の活性を阻害する方法であって、上記方法は、プラスミンと、有効量の本明細書で開示されるポリペプチドとを接触させることを包含する方法を含む。本発明の関連する実施形態は、患者における線維素溶解を阻害する方法であって、上記方法は、線維素溶解が阻害されるように、線維素溶解を阻害するために十分な量の本明細書で開示されるポリペプチドを、上記患者に投与することを包含する方法を含む。本発明の他の例証的な実施形態は、プラスミン活性の阻害の必要性のある被験体を処置するための方法であって、上記方法は、被験体に、有効量の本明細書で開示されるポリペプチドを投与することを包含する方法を含む。本発明の他の例証的な実施形態は、手術の必要性のある被験体を処置するための方法であって、上記方法は、有効量の本明細書で開示されるポリペプチドを、手術の前、最中、および/または後に、上記被験体に投与することを包含する方法を含む。本発明の他の例証的な実施形態は、がんまたは前がん状態に罹患した被験体を処置するための方法であって、上記方法は、被験体に、有効量の本明細書で開示されるポリペプチドを投与することを包含する方法を含む。本発明の他の例証的な実施形態は、アプロチニンによって処置可能な状態に関して、被験体を処置する方法であって、上記方法は、上記被験体に、有効量の本明細書で開示されるポリペプチドを投与することを包含する方法を含む。
【0014】
本発明の1つの例証的な実施形態は、被験体において出血を阻害するための方法であって、上記方法は、被験体に、有効量の本明細書で開示されるポリペプチドを投与することを包含する方法である。本発明のある特定の実施形態において、上記出血は、手術(例えば、心臓手術、または肝移植のような臓器移植手術)または外傷性傷害(例えば、外傷性脳傷害、銃創、事故など)から生じる。本発明のいくつかの実施形態は、配列番号1に示されるポリペプチドが中に配置されているパッチまたは包帯などを含む。この文脈において、本発明の別の実施形態は、被験体においてプラスミンの少なくとも1種の活性を阻害する方法であって、上記被験体における出血している組織と、配列番号1に示されるポリペプチドが中に配置されているこのようなパッチなどとを、これらのポリペプチドが上記被験体においてプラスミンの少なくとも1種の活性を阻害し得るように接触させることによる方法である。
【0015】
本発明の他の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明から当業者に明らかになる。しかし、詳細な説明および具体例が、本発明のいくつかの実施形態を示すと同時に、限定ではなく例証するために与えられていることは、理解されるべきである。本発明の範囲内の多くの変更および改変は、その趣旨から逸脱することなく行われ得、本発明は、全てのこのような改変を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1。精製KD1
Y11T/R15K/L17R-K
TのSDS-PAGEゲル電気泳動からのデータ。レーン1、タンパク質マーカー;レーン2、還元KD1
Y11T/R15K/L17R-K
T;レーン3、非還元KD1
Y11T/R15K/L17R-K
T。
【0017】
【
図2】
図2。プラスミン、FXIa、カリクレイン(KLK)、FVIIa/sTFおよびFXaでのKD1
Y11T/R15KL17R-K
Tの平衡阻害定数(Ki)からのデータ。
【化1】
略語:Pm、プラスミン;BPTI、ウシ膵臓トリプシンインヒビター(アプロチニン、トラジロール);KD1TM、KD1
Y11T/R15KL17R-K
T;KLK、カリクレイン;FXIa、第XIa因子、FVIIa/sTF、第VIIa因子/可溶性組織因子;FXa、第Xa因子。
【0018】
【
図3】
図3Aおよび3B。ヒト血漿中の線維素溶解に対するKD1
Y11T/R1
5KL17R-K
T(A)またはBPTI(B)の効果を試験するデータ。トロンビン(IIa)をヒト血漿に添加して、クロット形成(これは、OD405における増加と関連付けられる)を開始した(黒;白抜きの丸;IIa、ゼロtPA)。3μM KD1
Y11T/R15KL17R-K
TまたはBPTIの添加は、クロット形成に影響を及ぼさない(褐色の曲線;IIa、3μM KD1TM(パネルA)またはBPTI(パネルB))。tPAの添加は、プラスミノゲンをプラスミンへと変換し、このことは、約12分以内にフィブリンクロットを完全に溶解し、OD405における最初の増加、続いて、減少によって示される(黒;塗りつぶしの丸;IIa、tPA)。KD1
Y11T/R15K/L17R-K
TまたはBPTIの添加は、用量依存性様式において線維素溶解を阻害する- KD1
Y11T/R15K/L17R-K
T(A)またはBPTI(B)は以下のとおり:0.5μM(青)、1μM(赤)、2μM(緑)、3μM(マゼンタ)。略語:tPA、組織プラスミノゲンアクチベーター;KD1TM、KD1
Y11T/R15K/L17R-K
T;BPTI、ウシ膵臓トリプシンインヒビター(アプロチニン/トラジロール)。
【0019】
【
図4】
図4。HUVEC生存率の試験からのデータ。HUVECを、処理しなかったか、または示された濃度における抗線維素溶解薬:KD1TM、BPTI、EACA、もしくはTXAで24時間にわたって処理した。細胞を、細胞透過性の非毒性かつ弱い蛍光青色指示染料であるレサズリンとともにインキュベートした(alamarBlue生存率アッセイ)。蛍光強度は、相対的細胞数に比例する。エラーバーは、平均の標準誤差(SEM)を表す。各抗線維素溶解剤で処理した細胞の生存率は、処理しなかった細胞とは有意差がないことが見出された(p>0.05)。略語: KD1TM, KD1
Y11T/R15K/L17R-K
T;BPTI、ウシ膵臓トリプシンインヒビター、EACA、εアミノカプロン酸、TXA、トラネキサム酸。
【0020】
【
図5】
図5。線維芽細胞生存率の試験からのデータ。線維芽細胞を、処理しなかったか、または示された濃度における以下の抗線維素溶解薬:KD1TM、BPTI、EACA、もしくはTXAで24時間にわたって処理した。細胞を、細胞透過性の非毒性かつ弱い蛍光青色指示染料であるレサズリンとともにインキュベートした(alamarBlue生存率アッセイ)。蛍光強度は、相対的細胞数に比例する。エラーバーは、平均の標準誤差(SEM)を表す。各抗線維素溶解剤で処理した細胞の生存率は、処理しなかった細胞とは有意差がないことが見出された(p>0.05)。略語:上記の
図4と同じ。
【0021】
【
図6A】
図6Aおよび6B。HUVEC(A)およびヒト線維芽細胞(B)のアポトーシスの試験からのデータ。HUVECまたは線維芽細胞を、処理しなかったか、または以下の抗線維素溶解剤:30μM KD1TM、30μM BPTI、60mM EACA、30mM TXAもしくは0.05μM タキソール(陽性コントロール)で24時間にわたって処理した。発光(相対的光単位(RLU)として示される)は、カスパーゼ-3/7活性に比例する。エラーバーは、平均の標準誤差(SEM)を表す。略語:KD1TM, KD1
Y11T/R15K/L17R-K
T;BPTI、ウシ膵臓トリプシンインヒビター、EACA、εアミノカプロン酸、TXA、トラネキサム酸;HUVEC、ヒト臍帯静脈内皮細胞。
【
図6B】
図6Aおよび6B。HUVEC(A)およびヒト線維芽細胞(B)のアポトーシスの試験からのデータ。HUVECまたは線維芽細胞を、処理しなかったか、または以下の抗線維素溶解剤:30μM KD1TM、30μM BPTI、60mM EACA、30mM TXAもしくは0.05μM タキソール(陽性コントロール)で24時間にわたって処理した。発光(相対的光単位(RLU)として示される)は、カスパーゼ-3/7活性に比例する。エラーバーは、平均の標準誤差(SEM)を表す。略語:KD1TM, KD1
Y11T/R15K/L17R-K
T;BPTI、ウシ膵臓トリプシンインヒビター、EACA、εアミノカプロン酸、TXA、トラネキサム酸;HUVEC、ヒト臍帯静脈内皮細胞。
【0022】
【
図7】
図7。HUVEC細胞傷害の試験からのデータ。HUVECを、処理しなかったか、または以下の抗線維素溶解剤:30μM KD1TM、30μM BPTI、60mM EACA、30mM TXAもしくは陽性コントロールとしての0.05μM タキソールで24時間にわたって処理した(上のパネル)。FITC:CellTox green色素は、膜の完全性が障害された場合に、DNAに結合する。蛍光シグナル(棒グラフにおいて定量、下のパネル)は、細胞傷害に比例する。DAPI:核染色は、全ての核に結合する。略語:FITC, フルオレセインイソチオシアネート;DAPI、4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール;HUVEC、ヒト臍帯静脈内皮細胞;KD1TM、KD1
Y11T/R15K/L17R-K
T;BPTI、ウシ膵臓トリプシンインヒビター、EACA、εアミノカプロン酸、TXA、トラネキサム酸。
【0023】
【
図8】
図8。線維芽細胞の細胞傷害の試験からのデータ。線維芽細胞を、処理しなかったか、または以下の抗線維素溶解剤:30μM KD1TM、30μM BPTI、60mM EACA、30mM TXAもしくは陽性コントロールとしての0.05μM タキソールおよび溶解緩衝液で24時間にわたって処理した(上のパネル)。FITC:CellTox green色素は、膜の完全性が障害された場合に、DNAに結合する。蛍光シグナル(棒グラフにおいて定量、下のパネル)は、細胞傷害に比例する。DAPI:核染色、は、全ての核に結合する。略語:FITC、フルオレセインイソチオシアネート;DAPI、4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール;KD1TM、KD1
Y11T/R15K/L17R-K
T;BPTI、ウシ膵臓トリプシンインヒビター、EACA、εアミノカプロン酸、TXA、トラネキサム酸。
【0024】
【
図9A】
図9A~9B。ヒト組織因子経路インヒビターのKunitzドメイン1(KD1)のモデル化された複合体。
図9Aは、プラスミンとのKD1
Y11T/R15K/L17R-K
T相互作用のモデル化された複合体を示す。(A)KD1
Y11T/R15K/L17R-K
Tとプラスミンプロテアーゼドメインとのモデル化された相互作用。プラスミンプロテアーゼドメインの静電的表面およびKD1
Y11T/R15K/L17R-K
Tの漫画表示(淡緑色)が示される。プラスミンとのKD1
Y11T/R15K/L17R-K
T相互作用のP1(Lys15)、P5(Thr11)およびP2’(Arg17)残基は、棒の表示で示される。静電的表面では、青は正電荷を表し、赤は負電荷を表し、白は中性の電荷を表す。(B)KD1
Y11T/R15K/L17R-K
Tとプラスミンクリングルドメインとのモデル化された相互作用。プラスミノゲンクリングルドメイン1の静電的表面およびKD1
Y11T/R15K/L17R-K
Tの漫画表示(淡緑色)が示される。水素結合およびクリングルドメインとKD1
Y11T/R15K/L17R-K
Tとの間の塩橋(破線として示される)を形成する残基は、棒の表示で示される。炭素原子は、クリングルドメインに関しては緑で、およびKD1
Y11T/R15K/L17R-K
Tに関しては淡緑色で示される。(A)にあるように、酸素原子は赤で示され、窒素原子は青で示される。KD1
Y11T/R15K/L17R-K
T残基は、接尾辞I(suffix I)で表示される。静電的表面では、青は正電荷を表し、赤は負電荷を表し、白は中性の電荷を表す。
図9Bは、プラスミンとのKD1-Y11T/L17R-K
T相互作用のモデル化された複合体を示す。(A)KD1-Y11T/L17R-K
Tとプラスミンプロテアーゼドメインとのモデル化された相互作用。プラスミンプロテアーゼドメインの静電的表面およびKD1-Y11T/L17R-K
Tの漫画表示(黄色)を示す。プラスミンとのKD1-Y11T/L17R-K
T相互作用のP1(Arg15)、P5(Thr11)およびP2’(Arg17)残基は、棒の表示で示される。静電的表面では、青は正電荷を表し、赤は負電荷を表し、白は中性の電荷を表す。(B)KD1-Y11T/L17R-K
Tとプラスミンクリングルドメインとのモデル化された相互作用。プラスミノゲンクリングルドメイン1の静電的表面およびKD1-Y11T/L17R-K
Tの漫画表示(黄色)を示す。水素結合およびクリングルドメインとKD1-Y11T/L17R-K
Tとの間の塩橋(破線で示される)を形成する残基は、棒の表示で示される。炭素原子は、クリングルドメインに関しては緑で、およびKD1-Y11T/L17R-K
Tに関しては黄色で示される。(A)にあるように、酸素原子は赤で示され、窒素原子は青で示される。KD1-Y11T/L17R-K
T残基は、接尾辞Iで表示される。静電的表面では、青は正電荷を表し、赤は負電荷を表し、白は中性の電荷を表す。
【
図9B】
図9A~9B。ヒト組織因子経路インヒビターのKunitzドメイン1(KD1)のモデル化された複合体。
図9Aは、プラスミンとのKD1
Y11T/R15K/L17R-K
T相互作用のモデル化された複合体を示す。(A)KD1
Y11T/R15K/L17R-K
Tとプラスミンプロテアーゼドメインとのモデル化された相互作用。プラスミンプロテアーゼドメインの静電的表面およびKD1
Y11T/R15K/L17R-K
Tの漫画表示(淡緑色)が示される。プラスミンとのKD1
Y11T/R15K/L17R-K
T相互作用のP1(Lys15)、P5(Thr11)およびP2’(Arg17)残基は、棒の表示で示される。静電的表面では、青は正電荷を表し、赤は負電荷を表し、白は中性の電荷を表す。(B)KD1
Y11T/R15K/L17R-K
Tとプラスミンクリングルドメインとのモデル化された相互作用。プラスミノゲンクリングルドメイン1の静電的表面およびKD1
Y11T/R15K/L17R-K
Tの漫画表示(淡緑色)が示される。水素結合およびクリングルドメインとKD1
Y11T/R15K/L17R-K
Tとの間の塩橋(破線として示される)を形成する残基は、棒の表示で示される。炭素原子は、クリングルドメインに関しては緑で、およびKD1
Y11T/R15K/L17R-K
Tに関しては淡緑色で示される。(A)にあるように、酸素原子は赤で示され、窒素原子は青で示される。KD1
Y11T/R15K/L17R-K
T残基は、接尾辞I(suffix I)で表示される。静電的表面では、青は正電荷を表し、赤は負電荷を表し、白は中性の電荷を表す。
図9Bは、プラスミンとのKD1-Y11T/L17R-K
T相互作用のモデル化された複合体を示す。(A)KD1-Y11T/L17R-K
Tとプラスミンプロテアーゼドメインとのモデル化された相互作用。プラスミンプロテアーゼドメインの静電的表面およびKD1-Y11T/L17R-K
Tの漫画表示(黄色)を示す。プラスミンとのKD1-Y11T/L17R-K
T相互作用のP1(Arg15)、P5(Thr11)およびP2’(Arg17)残基は、棒の表示で示される。静電的表面では、青は正電荷を表し、赤は負電荷を表し、白は中性の電荷を表す。(B)KD1-Y11T/L17R-K
Tとプラスミンクリングルドメインとのモデル化された相互作用。プラスミノゲンクリングルドメイン1の静電的表面およびKD1-Y11T/L17R-K
Tの漫画表示(黄色)を示す。水素結合およびクリングルドメインとKD1-Y11T/L17R-K
Tとの間の塩橋(破線で示される)を形成する残基は、棒の表示で示される。炭素原子は、クリングルドメインに関しては緑で、およびKD1-Y11T/L17R-K
Tに関しては黄色で示される。(A)にあるように、酸素原子は赤で示され、窒素原子は青で示される。KD1-Y11T/L17R-K
T残基は、接尾辞Iで表示される。静電的表面では、青は正電荷を表し、赤は負電荷を表し、白は中性の電荷を表す。
【0025】
【
図10】
図10。KD1ポリペプチドの配列。ヒトTFPI-2 KD1単一変異体(KD1-L17R-K
T)のE.coliにおいて発現された配列(配列番号4)、ならびに二重変異体(KD1-Y11T/L17R-K
T)のE.coli(配列番号5)およびPichia pastoris(配列番号6)において発現された配列。下向きの矢印は、Hisタグを除去するために導入されたエンテロキナーゼ切断部位を示す。変異した残基、Tyr11ThrおよびLeu17Argはまた、印が付けられている。残基1は、BPTI-Kunitzドメイン番号付けに従って番号付けされており、TFPI-2 Kunitzドメイン1配列においてアミノ酸10に相当する。
【0026】
【
図11】
図11。TFPI-2 KD1単一変異体および二重変異体のSDS-PAGE分析の試験からのデータ。レーン1、分子量(MW)マーカー;レーン2、還元E.coli KD1-L17R-K
T;レーン3、還元E.coli KD1-Y11T/L17R-K
T;レーン4、還元P.pastoris KD1-Y11T/L17R-K
T;レーン5、非還元E.coli KD1-L17R-K
T;レーン6、非還元E.coli KD1-Y11T/L17R-K
T;レーン7、非還元P.pastoris KD1-Y11T/L17R-K
T。5μgのタンパク質を、各レーンに載せた。KD1SM、KD1-L17R-K
T;およびKD1DM、KD1-Y11T/L17R-K
T。
【0027】
【
図12】
図12Aおよび12B。12(A)E.coli発現KD1-WT(IIa切断部位、32)、E.coli発現KD1-L17R-K
T、エンテロキナーゼ切断部位を有するKD1-Y11T/L17R-K
T、P.pastoris発現KD1-Y11T/L17R-K
Tおよびアプロチニンと、プラスミンとの平衡解離定数(K
i)の決定の試験からのデータ。酵素活性を、漸増インヒビター濃度でのパーセント分別活性(阻害された率/阻害されなかった率)として表す。阻害定数(K
i)を、実験の節において概説されるとおりの式1および2を使用して決定した。データは、3回の実験の平均を表す。使用したプラスミンの濃度は、3nMであった。12(B)FVIIa/sTF、pKLKおよびFXIaでのKD1-Y11T/L17R-K
Tの阻害プロフィール。FVIIa/sTFの濃度は、20nMであったのに対して、pKLKおよびFXIaは、各々1nMであった。行った三連の実験において、KD1-Y11T/L17R-K
Tの3μM濃度までは、阻害は観察されなかった。
【0028】
【
図13】
図13Aおよび13B。SPRによって測定される場合の、KD1-Y11T/L17R-K
TとDIP-δプラスミンおよびtPAとの相互作用の試験からのデータ。(A)KD1-Y11T/L17R-K
TへのDIP-δプラスミン結合。DIP-δプラスミンを、アミンカップリング法によってCM5チップに連結し、結合したタンパク質に関して734応答単位(RU)の固定レベルを達成した。5種の濃度(0.1μM、0.3μM、0.5μM、0.75μMおよび1μM)のKD1-Y11T/L17R-K
Tを使用し、6分間の会合時間および10分間の解離時間(流速10μL/分)を使用した。詳細を、実験の節に提供する。(B)KD1-Y11T/L17R-K
TへのtPA結合。tPAをCM5チップに連結し、結合したタンパク質に関して1182 RUの固定レベルを達成した。5種の濃度のKD1-Y11T/L17R-K
T(0.1μM、0.3μM、0.75μM、1μMおよび2μM)を使用した。分析物の会合および解離プロトコールは、パネル(A)におけるものと同じであった。パネルAおよびパネルBにおける実験を二連で行った。次いで、各データセットを使用して、kon値、koff値およびK
d値を計算し、本文中に提供される平均±SD値を得た。
【0029】
【
図14】
図14A~14C。ヒトNPPにおける線維素溶解に対するKD1-L17R-K
T、KD1-Y11T/L17R-K
Tおよびアプロチニンの効果の試験からのデータ。
【化2】
【0030】
【
図15】
図15A~15D。血漿クロット溶解アッセイにおいて使用される種々の濃度でのKD1-L17R-K
T、KD1-Y11T/L17R-K
Tおよびアプロチニンに関する線維素溶解中点の比較の試験からのデータ。棒グラフが表され、示された濃度のKD1-L17R-K
T、KD1-Y11T/L17R-K
Tおよびアプロチニンでの線維素溶解中点に達するまでの時間(分)を示す。使用される各インヒビターの濃度は、各パネルに関して示される。全ての実験を、三連で行い、平均±SD値を示す。注:バーのない
*は、列挙される全ての他の作用物質からの有意差を表す。
*は、p<0.05を示す。
【0031】
【
図16】
図16A~16G。KD1-WT、KD1-L17R-K
T、KD1-Y11T/L17R-K
T、アプロチニンおよびEACAの用量応答分析を図示するトロンボエラストグラムからのデータ。全ての実験は、クエン酸加全血(300μl)、1.5μM プラスミンおよび10mM CaCl
2を含んだ。抗線維素溶解剤を、上記血液に最初に添加し、次いで、これに、1.5μM プラスミンおよび10mM CaCl
2を添加した。クロット形成および溶解を、180分間モニターした。コントロール実験を、いかなる抗線維素溶解剤もなしに、プラスミンの存在下または非存在下で行った。(A)クロット形成および線維素溶解のプラスミン効果。クエン酸加全血(300μl)に、種々の濃度のプラスミン(0~3μM)および10mM CaCl
2を添加した。クロット形成および溶解を、180分間モニターした。1.5μM プラスミンを使用するクロット形成および線維素溶解に対するKD1-WT、KD1-L17R-K
T、KD1-Y11T/L17R-K
Tおよびアプロチニンの1μM(B)、2μM(C)、3μM(D)、4μM(E)、5μM(F)および7.5μM(G)の効果。(G)1.5μM プラスミンを使用するクロット形成および線維素溶解に対する200μM~3000μM EACAの効果。Pm、プラスミン;NHB、正常ヒト血液。
【0032】
【
図17】
図17A~17F。種々の濃度のKD1-WT、KD1-L17R-K
T、KD1-Y11T/L17R-K
T、アプロチニンおよびEACAについてのTEG実験からの最大振幅(MA)の比較の試験からのデータ。棒グラフは、種々の濃度のKD1-WT、KD1-L17R-K
T、KD1-Y11T/L17R-K
T、アプロチニンおよびEACA-A、1μM;B、2μM, C、3μM;D、5μM D、E、7.5μMおよびF、EACAで達成されたMAを表す。全ての実験を、二連で行い、平均±SD値を表す。注:バーのない
*は、列挙される全ての他の作用物質からの有意差を表す。
*は、p<0.05を示す。
【0033】
【
図18】
図18A~18F。種々の濃度のKD1-WT、KD1-L17R-K
T、KD1-Y11T/L17R-K
T、アプロチニンおよびEACAについての剪断弾性率強度(G、TEG実験)の比較の試験からのデータ。棒グラフは、種々の濃度のKD1-WT、KD1-L17R-K
T、KD1-Y11T/L17R-K
T、アプロチニンおよびEACA-A、1μM;B、2μM, C、3μM;D、5μM D、E、7.5μMおよびF、EACAで達成された「G」を表す。全ての実験を、二連で行い、平均±SD値を表す。注:バーのない
*は、列挙される全ての他の作用物質からの有意差を表す。
*は、p<0.05を示す。
【0034】
【
図19】
図19A~19D。種々の濃度のKD1-WT、KD1-L17R-K
T、KD1-Y11T/L17R-K
TおよびアプロチニンについてのLY60%(TEG実験)の比較の試験からのデータ。60分間でのパーセント溶解を示す棒グラフを示す。全ての実験を、二連で行い、平均±SD値を表す。注:バーのない
*は、列挙される全ての他の作用物質からの有意差を表す。
*は、p<0.05を示す。
【0035】
【
図20】
図20。KD1TMの用量応答分析を図示するトロンボエラストグラム。全ての実験は、クエン酸加全血(300μL)、0.15μM トロンビンおよび10mM CaCl2を含んだ。KD1TMを上記血液に先ず添加し、次いで、これに0.15μM トロンビン、2nM tPAおよび10mM CaCl2を添加した。クロット形成および溶解を、180分間モニターした。コントロール実験を、KD1TMなしに、2nM tPAの存在下または非存在下で行った(曲線1および曲線2)。0.15μM α-トロンビンおよび2nM tPAでのクロット形成および線維素溶解に対するKD1TM効果(曲線3、2μMおよび曲線4、4μM)。
【発明を実施するための形態】
【0036】
発明の詳細な説明
実施形態の説明において、その一部を形成しかつ本発明が実施され得る具体的実施形態の例証によって示される添付の図面に対して言及がなされ得る。他の実施形態が利用され得、構造的変更が本発明の範囲から逸脱することなく行われ得ることは、理解されるべきである。別段定義されなければ、本明細書で使用される技術、表記法および他の化学的用語または用語法の全ての用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解される意味を有することが意図される。場合によっては、一般に理解される意味を有する用語は、明瞭性のためにおよび/または容易な参照のために本明細書で定義され、本明細書中でのこのような定義の包含は、必ずしも、当該分野で一般に理解されるものを超える実質的違いを表すと解釈されるべきではない。本明細書で記載または言及される技術および手順の局面のうちの多くは、当業者によって十分に理解され、かつ一般に使用される。以下の本文は、本発明の種々の実施形態を考察する。
【0037】
本開示のポリペプチドのような抗線維素溶解剤は、大きな手術手順および外傷(例えば、心臓手術、整形外科手術、肝臓手術、神経外科手術および産科)の間の出血および輸血を低減するにあたって有用である。本明細書で開示されるように、以下の配列:NAEICLLPLDTGPCKARLLRYYYDRYTQSCRQFLYGGCEGNANNFYTWEACDDACWRIEK(配列番号1)を有するヒト組織因子経路インヒビタータイプ2のKunitzドメイン1(KD1)の新たなポリペプチドバリアントが作製され、インビボでの使用のために非常に望ましい薬物動態プロフィールを有することが発見された。本明細書で開示されるこの60残基のポリペプチドバリアントは、リジン残基を含むC末端構造を含むアミノ酸残基の特有の一団を含む。本明細書で開示されるポリペプチドバリアントは、15位におけるリジンアミノ酸置換を含む3つのアミノ酸変異の群をさらに含む(「KD1Y11T/R15K/L17R」)。驚くべきことに、このY11T/R15K/L17R三重変異体は、二重変異Y11T/L17Rのみを有する60残基のポリペプチドバリアントと比較した場合に、プラスミンを阻害するにあたって4~5倍さらに強力であることが観察される。驚くべきことに、この60残基のY11T/R15K/L17R三重変異ポリペプチドは、二重変異Y11T/L17Rのみを有する相当の60残基のポリペプチドバリアントと比較した場合に、カリクレイン、第XIa因子および第VIIa因子/組織因子に対して少なくとも10倍弱い阻害をさらに示す。従って、本明細書で開示される60残基のバリアントポリペプチドは、例えば、この技術において類似の阻害性分子(例えば、アプロチニン)と関連するある特定の副作用を同時に回避しながら、プラスミンを強く阻害する能力を含む、非常に所望の薬物動態/材料プロフィールを示す。よって、本明細書で開示される60残基のバリアントポリペプチドは、認識され、根強く残っておりかつ他者によって解決されていない長年にわたるニーズを満たす。
【0038】
本明細書で開示される発明は、多くの実施形態を有する。本発明の実施形態は、例えば、以下の配列:NAEICLLPLDTGPCKARLLRYYYDRYTQSCRQFLYGGCEGNANNFYTWEACDDACWRIEK(配列番号1)を含む(またはそれから本質的になる)ポリペプチドを含む組成物を含む。代表的には、このような組成物はまた、さらなる剤、例えば、薬学的に受容可能なキャリア(例えば、保存剤、張度調整剤、洗浄剤、ヒドロゲル、粘度調整剤、pH調整剤など)を含む。本発明のこのような実施形態は、例えば:NAEICLLPLDTGPCKARLLRYYYDRYTQSCRQFLYGGCEGNANNFYTWEACDDACWRIEK(配列番号1)によって表される60アミノ酸のタンパク質配列;および静脈内注射または注入に適した薬学的に受容可能な賦形剤を含む薬学的に受容可能な組成物を含む。このような薬学的に受容可能な賦形剤は、その分野で周知であり、薬学的に受容可能なキャリア、希釈剤、および他の賦形剤の徹底的な考察は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Mack Pub. Co., N.J. 最新版)に示される。
【0039】
さらに、本明細書で開示されるヒト組織因子経路インヒビタータイプ2のKunitzドメイン1(KD1)のポリペプチドバリアントは、望ましいかつ予測外の安定性プロフィールをさらに示す。例えば、本発明のある特定の実施形態において、本明細書で開示される60残基のポリペプチドバリアントは、組成物の中に配置され、ここで上記ポリペプチドのプラスミン阻害定数(Ki)は、このポリペプチド組成物が、0.1mg/mL ウシ血清アルブミン(BSA)および2mM カルシウムを含むトリス緩衝生理食塩水(TBS)中で少なくとも2日間、4日間または1週間にわたって37℃においてインキュベートされる場合に、10%未満(または5%未満)変化する。例えば、以下の実施例2の表7を参照のこと。
【0040】
本発明の実施形態は、パッチまたは圧迫包帯材料などの基材内にさらに配置される本明細書で開示されるポリペプチド組成物を含む。当該分野で公知であるように、このようなパッチまたは圧迫包帯材料は、出血している創傷の止血をもたらすために使用され得る。上記基材は、本発明の文脈において、創傷処置に関して医療分野において従来から使用されるように、医療用圧迫包帯、パッチ、スポンジ、パッド、スワブ、包帯などの任意のタイプを含むことが理解される。上記基材は、例えば、吸収性の織布または不織布のテキスタイル製品の形態にあるように、綿および/またはセルロースベースの材料(ビスコースまたはレーヨン)から作製され得る。この文脈において、本発明の1つのこのような実施形態は、本明細書で開示される60アミノ酸のポリペプチド(配列番号1に示されるとおり)がパッチ、スポンジ、パッド、スワブ、包帯などのマトリクス内に配置されているパッチ、スポンジ、パッド、スワブ、包帯などである。代表的な実施形態において、上記パッチなどは、インビボでの位置(例えば、傷害部位)に配置されるように設計され、上記60アミノ酸のポリペプチドは、このポリペプチドがパッチなどのマトリクスから離れて、上記パッチが配置されている部位の周辺組織へと拡散し得るように、上記パッチ内に配置される。例証的なパッチおよび同様の材料および本発明のこのような実施形態とともに使用するために適合され得る方法は、例えば、米国特許公開番号20020049471、同第20110071498および同第20210038758(これらの内容は、参考として援用される)に開示される。
【0041】
本発明の別の実施形態は、上記ポリペプチド配列:NAEICLLPLDTGPCKARLLR YYYDRYTQSCRQFLYGGCEGNANNFYTWEACDDACWRIEK(配列番号1)をコードするポリヌクレオチドを含む組成物である。本明細書で開示される発明の作業実施形態において、このポリヌクレオチドは、配列:AACGCGGAGATCTGTCTCCTGCCCCTAGACACCGGACCCTGCAAAGCCAGACTTCTCCGTTACTACTACGACAGGTACACGCAGAGCTGCCGCCAGTTCCTGTACGGGGGCTGCGAGGGCAACGCCAACAATTTCTACACCTGGGAGGCTTGCGACGATGCTTGCTGGAGGATAGAAAAA(配列番号2)を含む。この技術の当業者は、この具体的配列が、ヒトにおいて本明細書で開示されるKunitzドメイン1インヒビターポリペプチドを生成するために使用されるコドンを含む一方で、これらのポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列が、上記ポリペプチドを発現するために使用されるシステムに応じて変動し得る(すなわち、細菌、酵母および昆虫細胞では、異なるコドンが使用され得る)ことを理解する。代表的には、このようなポリヌクレオチドは、細胞において上記ポリペプチドを発現するために、1またはこれより多くの調節配列を含むベクターの中に配置される。本発明の実施形態はまた、このようなベクターを含む細胞(例えば、細菌、酵母、昆虫または哺乳動物細胞)を含む。
【0042】
本発明の実施形態はまた、本明細書で開示されるポリペプチドを使用する方法を含む。本発明のこのような実施形態は、例えば、患者における線維素溶解を阻害する方法であって、上記方法は、上記患者に、線維素溶解が阻害されるように、線維素溶解を阻害するために十分な量の本明細書で開示されるポリペプチドを投与することを包含する方法を含む。本発明の関連する実施形態は、プラスミンの少なくとも1種の活性を阻害する方法であって、上記方法は、プラスミンと有効量の本明細書で開示されるポリペプチドとを接触させることを包含する方法を含む。本発明の他の例証的な実施形態は、アプロチニンによって処置可能な状態に関して被験体を処置する方法であって、上記方法は、上記被験体に、有効量の本明細書で開示されるポリペプチドを投与することを包含する方法を含む。本発明の他の例証的な実施形態は、プラスミン活性の阻害の必要性のある被験体を処置するための方法であって、上記方法は、被験体に、有効量の本明細書で開示されるポリペプチドを投与することを包含する方法を含む。本発明の他の例証的な実施形態は、手術の必要性のある被験体を処置するための方法であって、上記方法は、有効量の本明細書で開示されるポリペプチドを、手術の前、最中、および/または後に、上記被験体に投与することを包含する方法を含む。本発明の他の例証的な実施形態は、がんまたは前がん状態に罹患した被験体を処置するための方法であって、上記方法は、被験体に、有効量の本明細書で開示されるポリペプチドを投与することを包含する方法を含む。本発明の1つのこのような例証的な実施形態は、がん転移に苦しむ被験体を処置するための方法であって、上記方法は、被験体に、有効量の本明細書で開示されるポリペプチドを投与することを包含する方法を含む。
【0043】
本発明の関連する実施形態は、被験体において出血を阻害するための方法であって、上記方法は、被験体に、有効量の本明細書で開示されるポリペプチドを投与することを包含する方法を含む。本発明のある特定の実施形態において、上記出血は、裂傷(例えば、肝臓裂傷)から、手術(例えば、肝移植のような臓器)または外傷外傷性傷害(例えば、外傷性脳傷害、銃創、事故など)から生じる。本発明のこれらの方法の特定のものにおいて、上記ポリペプチドは、60アミノ酸のポリペプチドが中に配置されたパッチにおいて、インビボでの位置に送達される。この文脈において、本発明の別の実施形態は、被験体において出血を阻害するための方法であって、この方法は、上記60アミノ酸のポリペプチドが上記パッチマトリクスから離れてかつインビボ環境(例えば、出血している組織)へと拡散し得るように、上記パッチと出血している組織とを接触させることを包含する方法である。例えば、例えば、過剰な出血に苦しんでいる患者を処置する方法であって、上記方法は、治療上有効な量の本開示のポリペプチドを、上記患者に投与することを包含する方法が、本明細書で提供される。他の実施形態において、例えば、脳卒中(例えば、急性脳卒中)、脳卒中によって引き起こされる脳虚血、血腫、浮腫、低酸素/無酸素脳傷害または外傷性脳傷害に苦しんでいる患者を処置する方法であって、上記方法は、治療上有効な量の本開示のポリペプチドを上記患者に投与することを包含する方法が、本明細書で提供される。
【0044】
本発明の1つの例証的な実施形態は、心臓手術を受けておりかつ血液喪失の低減の必要性のある患者を処置する方法であって、上記方法は、治療上有効な量の、以下:NAEICLLPLDTGPCKARLLRYYYDRYTQSCRQFLYGGCEGNANNFYTWEACDDACWRIEK 配列番号1)によって表される60アミノ酸のタンパク質配列;および静脈内注射または注入に適した薬学的に受容可能な賦形剤を含む薬学的に受容可能な組成物を、手術の前、最中、および/または後に、投与することを包含する方法である。本発明のある特定の実施形態において、上記心臓手術は、心肺バイパス手術である。本発明の別の実施形態は、外傷性出血性ショックにある患者を処置する方法であって、上記方法は、治療上有効な量の、(配列番号1)によって表される60アミノ酸のタンパク質配列;および静脈内注射または注入に適した薬学的に受容可能な賦形剤を含む薬学的に受容可能な組成物を、手術の前、最中、および/または後に、投与することを包含する方法である。さらに、rHuKD1-TMの強力なプラスミン阻害特性(および抗凝固特性がない)が原因で、上記組成物は、この状態を処置するために過去にどのようにアプロチニンを使用したかに類似する様式で、血友病を予防的に処置するために使用され得る。さらに、本明細書で開示されるポリペプチドは、アプロチニンを超える利点をさらに有する。この中の1つの例では、アプロチニン(これは、ウシ由来である)の使用で起こることが観察されたアナフィラキシー応答が原因で、アプロチニンは、このような治療レジメンにおいて長期間使用され得ない。
【0045】
本発明の実施形態は、本明細書で開示されるヒト組織因子経路インヒビタータイプ2のKunitzドメイン1(KD1)の60アミノ酸のポリペプチドバリアントを投与するための方法を含む。例えば、本発明の実施形態は、治療方法において(例えば、患者においてプラスミンの少なくとも1種の活性を阻害する方法において)、患者体重1gに対して約1μgの上記ポリペプチドバリアントから、患者体重の各グラムに対して上記ポリペプチドバリアントの各グラムに対して約10μgの上記ポリペプチドバリアント(例えば、患者体重の各グラムに対して上記ポリペプチドバリアントの各グラムに対して約2~約8μgの上記ポリペプチドバリアント、患者体重の各グラムに対して上記ポリペプチドバリアントの各グラムに対して約4μgの上記ポリペプチドバリアントなど)である、この60アミノ酸のポリペプチドバリアントの用量を投与することを包含する。さらに、本発明の実施形態は、急性および/または慢性の医学的状態を処置するために具体的に設計された投与(dosing)/投与(administration)方法を含む。例えば、本発明のある特定の実施形態において、60アミノ酸のポリペプチドバリアントは、手術/傷害の直後に(例えば、手術/傷害後48時間未満、24時間未満、12時間未満または4時間未満で)上記ポリペプチドバリアントを投与するように選択された方法において使用される。本発明のいくつかの実施形態において、上記60アミノ酸のポリペプチドバリアントは、手術/傷害後の長期間後に(例えば、手術/傷害後少なくとも2日間、4日間、7日間、14日間または21日間)、このポリペプチドバリアントを投与するように選択された方法において使用される。
【0046】
上記ポリペプチドおよび関連する方法の詳細な局面および実施形態は、以下の例において開示される。本発明のさらなる局面および実施形態は、以下の節において考察される。
【0047】
本発明の局面および実施形態
本明細書で開示される発明の文脈において、用語「ポリペプチド」、タンパク質」および「ペプチド」ならびに「糖タンパク質」とは、交換可能に使用され、いかなる特定の長さにも限定されないアミノ酸のポリマーを意味する。この用語は、ミリスチル化、硫酸化、グリコシル化、リン酸化、ホルミル化、およびシグナル配列の付加または欠失のような改変を排除しない。用語「ポリペプチド」または「タンパク質」は、アミノ酸の1またはこれより多くの鎖であって、ここで各鎖が、ペプチド結合によって共有結合的に連結されたアミノ酸を含み、上記ポリペプチドまたはタンパク質が、ペプチド結合によって非共有結合的におよび/または共有結合的に一緒に連結された複数の鎖を含み得、天然のタンパク質、すなわち、天然に存在するおよび具体的には非組換え細胞、または遺伝的に操作されたかもしくは組換え細胞によって生成されるタンパク質の配列を有し、天然のタンパク質のアミノ酸配列を有する分子、または天然の配列の1もしくはこれより多くのアミノ酸の欠失、付加および/もしくは置換を有する分子を含み得るものを意味する。従って、「ポリペプチド」または「タンパク質」は、1つの(「モノマー」といわれる)または複数の(「マルチマー」といわれる)アミノ酸鎖を含み得る。用語「ペプチド」、「ポリペプチド」および「タンパク質」は、本開示の免疫調節ポリペプチド、または免疫調節ポリペプチドの1もしくはこれより多くのアミノ酸の欠失、付加、および/もしくは置換を有する配列を具体的に包含する。
【0048】
用語「単離された」とは、物質がその本来の環境(例えば、その物質が天然に存在している場合にその天然の環境)から除去されていることを意味する。例えば、生きている動物に存在する天然に存在するポリペプチドまたは核酸は、単離されていないが、その同じポリペプチドまたは核酸は、その天然のシステムにおいて同時に存在する物質のうちのいくつかまたは全てから分離されていれば、単離されている。このような核酸は、ベクターの一部であり得る、および/またはこのような核酸もしくはポリペプチドは、組成物(例えば、細胞溶解物)の一部であり得、このようなベクターまたは組成物がその核酸またはポリペプチドにとっての天然の環境の一部ではないという点において、なお単離されている。用語「遺伝子」とは、ポリペプチド鎖の生成に関与するDNAのセグメントを意味する;それは、コード領域の前および後ろにある領域「リーダーおよびトレーラー」、ならびに個々のコードセグメント(エキソン)の間に介在配列(イントロン)を含む。
【0049】
本明細書で言及される用語「単離されたタンパク質」および「単離されたポリペプチド」とは、主題のタンパク質またはポリペプチドが、(1)これが代表的には天然において一緒に見出されるであろう少なくともいくつかの他のタンパク質またはポリペプチドを含まないこと、(2)同じ供給源に由来する、例えば、同じ種に由来する他のタンパク質またはポリペプチドを本質的に含まないこと、(3)異なる種に由来する細胞によって発現されること、(4)上記「単離されたタンパク質」または「単離されたポリペプチド」が天然において関連付けられているポリヌクレオチド、脂質、炭水化物、または他の物質の少なくとも約50%から分離されていること、(5)上記「単離されたタンパク質」または「単離されたポリペプチド」が天然において関連付けられ得るタンパク質またはポリペプチドの一部と(共有結合的または非共有結合的な相互作用によって)関連付けられていないこと、(6)上記「単離されたタンパク質」または「単離されたポリペプチド」が天然において関連付けられていないポリペプチドと(共有結合的または非共有結合的な相互作用によって)作動可能に関連付けられること、あるいは(7)天然に存在しないことを意味する。このような単離されたタンパク質またはポリペプチドは、ゲノムDNA、cDNA、mRNAまたは他のRNAによってコードされ得るか、または人工的なペプチドおよびタンパク質合成に関して多くの周知の化学反応のうちのいずれかによる合成起源のものであり得るか、またはこれらの任意の組み合わせであり得る。ある特定の実施形態において、上記単離されたタンパク質またはポリペプチドは、その使用(治療、診断、予防、研究または他のもの)に干渉するであろう天然の環境において見出されるタンパク質もしくはポリペプチドまたは他の夾雑物を実質的に含まない。
【0050】
ある特定の実施形態は、本明細書で記載されるプラスミン阻害ポリペプチドをコードする核酸分子に関する。所望の核酸および/またはポリペプチドの生成のための方法は、当該分野で周知である。例えば、核酸および/またはポリペプチドは、細胞から単離されてもよいし、化学合成によって新規に合成されてもよい。このような核酸またはポリペプチドは、ベクターに導入され得、宿主細胞へと形質転換され得る。宿主細胞は、プロモーターを誘導する、形質転換体を選択する、または適切な配列を増幅するための必要な補充物または添加物を加えた標準的な栄養培地中で培養され得る。
【0051】
さらに、プラスミン阻害ポリペプチドのコードポリヌクレオチドまたはポリペプチドバリアントは、それぞれ、天然のもの(例えば、野生型、または優勢なもしくは天然に存在するアレル形態)に対して、1もしくはこれより多くのヌクレオチドまたはアミノ酸の置換、付加、欠失、および/または挿入を含み得る。いくつかの実施形態において、バリアントは、N末端のL-アミノ酸がD-アミノ酸で置き換えられている分子を含み、ある特定の他の実施形態では、1またはこれより多くの他のアミノ酸(例えば、N末端に位置していない)が、さらにまたは代わりに、D-アミノ酸で置き換えられ得る。ある特定の実施形態において、バリアントは、N末端αアミノ酸がβアミノ酸またはγアミノ酸で置き換えられる分子を含む。バリアントは、好ましくは、プラスミン阻害ポリペプチド配列のまたはこのようなポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列の一部と、少なくとも約75%、78%、80%、85%、87%、88%または89%同一性、および好ましくは少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一性を示す。パーセント同一性は、上記ポリペプチドまたはポリヌクレオチドバリアントの配列と、全長のポリヌクレオチドまたはポリペプチドの相当する部分とを比較することによって、容易に決定され得る。配列比較のためのいくつかの技術は、当業者に周知のコンピューターアルゴリズム(例えば、AlignまたはBLASTアルゴリズム(Altschul, J. Mol. Biol. 219:555-565, 1991;Henikoff and Henikoff, PNAS USA 89:10915-10919, 1992))を使用することを含む。デフォルトパラメーターが使用され得る。
【0052】
さらに、本明細書で開示されるプラスミン阻害ポリペプチドバリアントは、さらなる分子または作用物質(例えば、画像化剤、粒子、ポリマー、またはある特定のインビボでの位置へのポリペプチド送達を容易にするものを含む他の作用物質(例えば、抗体、ペプチドなど)に連結され得る。本発明のこのような実施形態は、さらなる分子または作用物質に連結される配列:NAEICLLPLDTGPCKARLLRYYYDRYTQSCRQFLYGGCEGNANNFYTWEACDDACWRIEK(配列番号1)を含む(またはそれから本質的になる)ヒト組織因子経路インヒビタータイプ2のKunitzドメイン1(KD1)のポリペプチドバリアントを含む。この中の1つの例において、本発明の実施形態は、CNSへのポリペプチド送達を容易にするために、この様式で改変され得る(例えば、Behzadら, (2019), Expert Opinion on Drug Delivery, 16:6, 583-605;Salamehら, Adv Pharmacol. 2014;71:277-99;および米国特許公開番号20200230218、同第20060189515、同第20150174267および同第20160213760(これらの内容は、参考として援用される)を参照のこと)。
【0053】
用語「作動可能に連結される」とは、この用語が適用される構成成分が、これら構成成分が適切な条件下でそれらの本質的な機能を行うことを可能にする関係性にあることを意味する。例えば、タンパク質コード配列に「作動可能に連結された」転写制御配列は、そのタンパク質コード配列の発現が、上記制御配列の転写活性と適合する条件下で達成されるように、そのタンパク質コード配列にライゲーションされる。
【0054】
用語「制御配列」とは、本明細書で使用される場合、これらがライゲーションされるかまたは作動可能に連結されるコード配列の発現、プロセシングまたは細胞内局在化に影響を及ぼし得るポリヌクレオチド配列をいう。このような制御配列の性質は、宿主生物に依存し得る。特定の実施形態において、原核生物のための転写制御配列としては、プロモーター、リボソーム結合部位、および転写終結配列が挙げられ得る。他の特定の実施形態において、真核生物のための転写制御配列としては、転写因子のための1または複数の認識部位を含むプロモーター、転写エンハンサー配列、転写終結配列およびポリアデニル化配列が挙げられ得る。ある特定の実施形態において、「制御配列」は、リーダー配列および/または融合パートナー配列が挙げられ得る。
【0055】
用語「ポリヌクレオチド」とは、本明細書で言及される場合、1本鎖または2本鎖の核酸ポリマーを意味する。ある特定の実施形態において、上記ポリヌクレオチドを構成するヌクレオチドは、リボヌクレオチドもしくはデオキシリボヌクレオチドまたはヌクレオチドのいずれかのタイプの改変された形態であり得る。このような改変としては、塩基改変(例えば、ブロモウリジン)、リボース改変(例えば、アラビノシドおよび2’,3’-ジデオキシリボース)およびヌクレオチド間結合改変(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロセレノエート、ホスホロジセレノエート、ホスホロアニロチオエート、ホスホルアニラダート(phoshoraniladate)およびホスホロアミデート)が挙げられ得る。用語「ポリヌクレオチド」は、具体的には、DNAの1本鎖形態および2本鎖形態を含む。
【0056】
用語「天然に存在するヌクレオチド」とは、デオキシリボヌクレオチドおよびリボヌクレオチドを含む。用語「改変されたヌクレオチド」とは、改変または置換された糖基などを有するヌクレオチドを含む。用語「オリゴヌクレオチド連結(oligonucleotide linkage)」とは、オリゴヌクレオチド連結(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロセレノエート、ホスホロジセレノエート、ホスホロアニロチオエート、ホスホルアニラダート、ホスホロアミデートなど)を含む。例えば、LaPlancheら, 1986, Nucl. Acids Res., 14:9081;Stecら, 1984, J. Am. Chem. Soc., 106:6077;Steinら, 1988, Nucl. Acids Res., 16:3209;Zonら, 1991, Anti-Cancer Drug Design, 6:539;Zonら, 1991, Oligonucleotides And Analogues:A Practical Approach, pp. 87-108 (F. Eckstein,編), Oxford University Press, Oxford England;Stecら, 米国特許第5,151,510号;Uhlmann and Peyman, 1990, Chemical Reviews, 90:543(これらの開示は、任意の目的のために本明細書によって参考として援用される)を参照のこと。オリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドの検出またはそのハイブリダイゼーションを可能にするために、検出可能な標識を含み得る。
【0057】
用語「ベクター」とは、宿主細胞にコード情報を移入するために使用される任意の分子(例えば、核酸、プラスミド、またはウイルス)に言及するために使用される。用語「発現ベクター」とは、宿主細胞の形質転換に適し、挿入された異種核酸配列の発現を指示および/または制御する核酸配列を含むベクターを指す。発現は、転写、翻訳、およびRNAスプライシング(イントロンが存在すれば)のようなプロセスを含むが、これらに限定されない。
【0058】
当業者によって理解されるように、ポリヌクレオチドは、ゲノム配列、ゲノム外のプラスミドにコードされた配列およびより小さな操作された遺伝子セグメントを含み得る。これらは、タンパク質、ポリペプチド、ペプチドなどを発現するかまたは発現するように適合させることができる。このようなセグメントは、当然のことながら単離されてもよいし、当業者によって合成して改変されていてもよい。
【0059】
同様に当業者によって認識されるように、ポリヌクレオチドは、一本鎖(コードまたはアンチセンス)または2本鎖であってもよく、DNA(ゲノム、cDNAまたは合成)またはRNA分子であってもよい。RNA分子は、HnRNA分子(これは、イントロンを含み、1対1の様式でDNA分子に対応する)およびmRNA分子(これは、イントロンを含まない)を含み得る。さらなるコード配列または非コード配列は、本開示に従うポリヌクレオチド内に存在し得るが、必要ではなく、ポリヌクレオチドは、他の分子および/または支持材に連結され得るが、必要ではない。ポリヌクレオチドは、天然の配列を含んでいてもよいし、このような配列のバリアントまたは誘導体をコードする配列を含んでいてもよい。
【0060】
従って、これらおよび関連の実施形態によれば、本開示はまた、本明細書で記載されるプラスミン阻害ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。ある特定の実施形態において、本明細書で記載されるとおりのプラスミン阻害ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列のうちのいくらかまたは全てを含むポリヌクレオチドおよびこのようなポリヌクレオチドの相補体が提供される。
【0061】
他の関連する実施形態において、ポリヌクレオチドバリアントは、本明細書で記載されるプラスミン阻害ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列と実質的な同一性を有し得る。例えば、ポリヌクレオチドは、本明細書で記載される方法(例えば、以下で記載されるように、標準的パラメーターを使用するBLAST分析)を使用して、参照ポリヌクレオチド配列(例えば、本明細書で開示されるアミノ酸配列を有するプラスミン阻害ポリペプチドをコードする配列)と比較して、少なくとも70%の配列同一性、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%もしくはこれより高い配列同一性を含むポリヌクレオチドであり得る。当業者は、これらの値が、コドン縮重、アミノ酸類似性、リーディングフレーム配置を考慮に入れることによって、2つのヌクレオチド配列によってコードされるタンパク質の相当する同一性を決定するために適切に調整され得ることを認識する。
【0062】
代表的には、ポリヌクレオチドバリアントは、好ましくは上記バリアントポリヌクレオチドによってコードされるプラスミン阻害ポリペプチドのプラスミンに対する結合親和性が、本明細書で具体的に示されるアミノ酸配列を有するプラスミン阻害ポリペプチドの該結合親和性に対して実質的に減少しないように、1またはこれより多くの置換、付加、欠失および/または挿入を含む。
【0063】
ある特定の関連する実施形態によれば、本明細書で記載されるとおりの1またはこれより多くの構築物を含む組換え宿主細胞;プラスミン阻害ポリペプチドまたはそのバリアントをコードする核酸;およびそのコードされた生成物を生成する方法であって、上記方法は、その生成物のためのコード核酸からの発現を含む方法が、提供される。発現は、便利なことには、適切な条件下で、上記核酸を含む組換え宿主細胞を培養することによって達成され得る。発現による生成後に、プラスミン阻害ポリペプチドが任意の適切な技術を使用して単離および/または精製され得、次いで、所望されるとおりに使用され得る。
【0064】
クローニングおよび種々の異なる宿主細胞におけるポリペプチドの発現のためのシステムは、周知である。適切な宿主細胞としては、細菌、哺乳動物細胞、酵母およびバキュロウイルスシステムが挙げられる。異種ポリペプチドの発現のために当該分野で利用可能な哺乳動物細胞株としては、チャイニーズハムスター卵巣細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎臓細胞、NSOマウスメラノーマ細胞および多くの他のものが挙げられる。一般的な好ましい細菌宿主は、E.coliである。
【0065】
E.coliのような原核生物細胞でのペプチドの発現は、当該分野で十分に確立されている。総説に関しては、例えば、Pluckthun, A. Bio/Technology 9:545-551 (1991)を参照のこと。培養での真核生物における発現はまた、組換えポリペプチドの生成のための選択肢として当業者に利用可能である。近年の総説、例えば、参考文献 (1993) Curr. Opinion Biotech. 4:573-576;Trillら (1995) Curr. Opinion Biotech 6:553-560を参照のこと。酵母、例えば、Pichia pastorisにおけるペプチドの発現はまた、当該分野で周知である(例えば、米国特許公開番号20180142038、同第20190241645および同第20190119692を参照のこと)。
【0066】
適切な調節配列(プロモーター配列、ターミネーター配列、ポリアデニル化配列、エンハンサー配列、マーカー遺伝子および適切な場合には他の配列を含む)を含む適切なベクターが、選択または構築され得る。ベクターは、プラスミド、ウイルス、例えば、ファージ、または適切な場合にはファージミドであり得る。さらなる詳細については、例えば、Molecular Cloning:a Laboratory Manual:第2版, Sambrookら, 1989, Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照のこと。例えば、核酸構築物の調製、変異誘発、配列決定、細胞へのDNAの導入および遺伝子発現における核酸の操作のための多くの公知の技術およびプロトコール、ならびにタンパク質の分析は、Current Protocols in Molecular Biology, 第2版, Ausubelら編, John Wiley & Sons, 1992、またはその後の最新版に詳細に記載される。
【0067】
用語「宿主細胞」は、本明細書で記載される免疫調節ポリペプチドのうちの1またはこれより多くのものをコードする核酸配列が導入されたか、または導入することが可能な、かつ目的の選択された遺伝子(例えば、任意の本明細書で記載されるプラスミン阻害ポリペプチドをコードする遺伝子)をさらに発現するかまたは発現することが可能な細胞に言及するために使用される。上記用語は、親細胞の子孫であって、その子孫が、その元の親と形態または遺伝的構成において同一であろうとなかろうと、その選択された遺伝子が存在している限りにおいて、その親細胞の子孫を含む。よって、このような核酸を宿主細胞に導入することを包含する方法がまた、企図される。導入は、任意の利用可能な技術を使用し得る。真核生物細胞に関しては、適切な技術としては、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE-Dextran、エレクトロポレーション、リポソーム媒介性トランスフェクションおよびレトロウイルスもしくは他のウイルス(例えば、ワクシニア)を使用する形質導入、または昆虫細胞に関しては、バキュロウイルスが挙げられ得る。細菌細胞に関しては、適切な技術としては、塩化カルシウム形質転換、エレクトロポレーションおよびバクテリオファージを使用するトランスフェクションが挙げられ得る。上記導入は、上記核酸からの発現を引き起こすかもしくは可能にすることによって、例えば、宿主細胞を、上記遺伝子の発現のための条件下で培養することによって、追跡され得る。1つの実施形態において、上記核酸は、宿主細胞のゲノム(例えば、染色体)へと組み込まれる。組み込みは、標準的な技術に従って、ゲノムとの組換えを促進する配列を含めることによって促進され得る。
【0068】
本発明はまた、ある特定の実施形態において、特定のポリペプチド(例えば、本明細書で記載されるとおりのプラスミン阻害ポリペプチド)を発現するために、発現システムにおいて上述のとおりの構築物を使用することを包含する方法を提供する。用語「形質導入」は、一方の細菌からもう一方の細菌への、通常は、ファージによる遺伝子の移入に言及するために使用される。「形質導入」はまた、レトロウイルスによる真核生物細胞配列の達成および移入に言及する。用語「トランスフェクション」は、細胞による外来のまたは外因性のDNAの取り込みに言及するために使用され、細胞は、その外因性DNAが細胞膜の中に導入されている場合に「トランスフェクトされ」ている。多くのトランスフェクション技術が当該分野で周知であり、本明細書で開示される。例えば、Grahamら, 1973, Virology 52:456;Sambrookら, 2001, Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratories;Davisら, 1986, Basic Methods In Molecular Biology, Elsevier;and Chuら, 1981, Gene 13:197を参照のこと。このような技術は、1またはこれより多くの外因性DNA部分を適切な宿主細胞へと導入するために使用され得る。
【0069】
用語「形質転換」とは、本明細書で使用される場合、細胞の遺伝的特性の変化に言及し、細胞は、新たなDNAを含むように改変されている場合に形質転換されている。例えば、細胞は、その天然の状態から遺伝的に改変されている場合に形質転換されている。トランスフェクションまたは形質導入後に、その形質転換するDNAは、細胞の染色体へと物理的に組み込むことによってその細胞のDNAと組換わっていてもよいし、複製されることなくエピソームエレメントとして一過性に維持されてもよいし、プラスミドとして独立して複製してもよい。細胞は、上記DNAが細胞の分裂に伴って複製される場合に安定して形質転換されているとみなされる。用語「天然に存在する」または「天然の(native)」とは、核酸分子、ポリペプチド、宿主細胞などのような生物学的材料に関連して使用される場合、天然に見出されかつヒトによって操作されていない材料に言及する。同様に、「天然に存在しない」または「非天然の(non-native)」とは、本明細書で使用される場合、天然において見出されないか、またはヒトによって構造的に改変されているかもしくは合成されている材料に言及する。
【0070】
本発明はまた、ある特定の実施形態において、本明細書で開示されるプラスミン阻害ポリペプチドを含む医薬組成物に関する。1つの実施形態において、上記医薬組成物は、動物、好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒトに投与される場合、薬学的に受容可能な賦形剤、キャリアまたは希釈剤中に、およびプラスミンの少なくとも1種の活性を阻害するために有効な量でプラスミン阻害ポリペプチドを含む。他の実施形態において、上記医薬組成物は、薬学的に受容可能な賦形剤、キャリアまたは希釈剤中に、およびプラスミン活性の阻害の必要性のある被験体を処置するために有効な量で、例えば、上記被験体に、有効量の本明細書で開示されるプラスミン阻害ポリペプチドを投与することを包含する方法において、プラスミン阻害ポリペプチドを含む。
【0071】
プラスミンの阻害の必要性に関する疾患、障害、および処置の例としては、手術、外傷性傷害(例えば、外傷性脳傷害)、ならびに他の状態および状況(例えば、腫瘍形成、血管新生、骨のリモデリング、血友病、冠動脈バイパス移植術(CABG)など)が挙げられるが、これらに限定されない。他の文脈において出血を制御するための、例えば、抗線維素溶解組成物としておよびプラスミン過量、あるいはtPA、またはプラスミンもしくは他の関連プロテアーゼの活性を直接的にもしくは間接的に促進し得る他の血液学的に活性な物質の過量に対する解毒薬として、本明細書で記載されるプラスミン阻害ポリペプチドを含む医薬組成物の使用がまた、企図される。
【0072】
純粋形態または適切な医薬組成物でのプラスミン阻害ポリペプチドの投与は、類似の有用性に役立つための薬剤の許容された投与様式のうちのいずれかを介して行われ得る。上記医薬組成物は、プラスミン阻害ポリペプチドと、適切な薬学的に受容可能なキャリア、希釈剤または賦形剤とを組み合わせることによって調製され得、固体、半固体、液体もしくは気体形態(例えば、錠剤、カプセル剤、粉剤・散剤(powder)、粒剤、軟膏剤、液剤、坐剤、注射剤、吸入剤、ゲル剤、マイクロスフェア剤、およびエアロゾル剤)にある調製物へと製剤化され得る。このような医薬組成物を投与する代表的な経路としては、経口、局所、経皮、吸入、非経口、舌下、直腸、膣、鼻内、腹腔内、静脈内、動脈内、経皮、舌下、皮下、筋肉内、直腸、経頬、鼻内、リポソーム、吸入を介して、眼内、カテーテルを介して(例えば、血管形成術におけるように)、局所送達を介して、皮下、脂肪内、関節内または髄腔内が挙げられるが、これらに限定されない。用語、非経口とは、本明細書で使用される場合、皮下注射、静脈内、筋肉内、胸骨内の注射または注入技術を含む。医薬組成物は、その中に含まれる有効成分が患者への上記組成物の投与の際に生体利用可能であることを可能にするように製剤化される。被験体または患者に投与される組成物は、1またはこれより多くの投与単位の形態をとり、ここで例えば、錠剤は、単一投与単位であり得、エアロゾルの形態にある本発明の化合物の容器は、複数の投与単位を保持し得る。このような剤形の実際の調製方法は、当業者に公知であり、または明らかである;例えば、The Science and Practice of Pharmacy, 第20版(Philadelphia College of Pharmacy and Science, 2000)を参照のこと。投与されるべき組成物は、いずれにしても、本教示に従って目的の疾患または状態の処置のための治療上有効な量のプラスミン阻害ポリペプチドを含む。
【0073】
本明細書で有用な医薬組成物はまた、それ自体が上記組成物を受容する個体に有害な抗体の生成を誘導せず、過度の毒性なしに投与され得る任意の医薬品を含む薬学的に受容可能なキャリア(任意の適切な希釈剤または賦形剤を含む)を含む。薬学的に受容可能なキャリアとしては、水、生理食塩水、グリセロールおよびエタノールなどのような液体が挙げられるが、これらに限定されない。薬学的に受容可能なキャリア、希釈剤、および他の賦形剤の徹底的な考察は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Mack Pub. Co., N.J. 最新版)に示される。
【0074】
上記医薬組成物は、液体、例えば、エリキシル剤、シロップ剤、液剤、乳剤または懸濁剤の形態にあり得る。上記液体は、2つの例としては、経口投与のためのまたは注射による送達のためのものであり得る。経口投与に関して意図される場合、好ましい組成物は、本発明の化合物に加えて、甘味剤、保存剤、色素/着色料および香味増強剤のうちの1またはこれより多くのものを含む。注射によって投与されることが意図される組成物では、界面活性剤、保存剤、湿潤剤、分散剤、懸濁化剤、バッファー、安定化剤および等張剤のうちの1またはこれより多くのものが、含まれ得る。
【0075】
上記液体の医薬組成物は、それらが液剤、懸濁剤または他の同様の形態であろうが、以下の補助剤のうちの1またはこれより多くのものを含み得る:滅菌希釈剤(例えば、注射用水、塩類溶液、好ましくは生理食塩水、リンゲル液、等張性塩化ナトリウム、不揮発性油(例えば、溶媒または懸濁媒体として働き得る合成モノグリセリドもしくはジグリセリド)、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の溶媒);抗細菌剤(例えば、ベンジルアルコールまたはメチルパラベン);抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウム);キレート剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸);バッファー(例えば、アセテート、シトレートまたはホスフェート)および等張性の調整のための剤(例えば、塩化ナトリウムまたはデキストロース)。非経口調製物は、ガラスまたはプラスチック製のアンプル、使い捨てシリンジまたは複数用量バイアル中に封入され得る。生理食塩水は、好ましい補助剤である。注射用の医薬組成物は、好ましくは無菌である。
【0076】
非経口または他の投与のいずれかのために意図された液体の医薬組成物は、適切な投与量が得られるように、プラスミン阻害ポリペプチドのある量を含むべきである。代表的には、この量は、上記組成物中のプラスミン阻害ポリペプチドのうちの少なくとも0.01%である。この量は、上記組成物の重量の0.1~約70%の間であるように変動され得る。本発明に従うある特定の例証的な医薬組成物および調製物は、非経口投与単位が0.01~10重量%の間のプラスミン阻害ポリペプチドを含むように調製される。
【0077】
上記プラスミン阻害ポリペプチドは、治療上有効な量で投与され、その量は、特異的ポリペプチドの活性;プラスミン阻害ポリペプチドの代謝安定性および作用の長さ;患者の年齢、体重、全般的な健康状態、性別、および食事;投与の様式および時間;排泄速度;薬物の組み合わせ;特定の障害または状態の重篤度;ならびに治療を受けている被験体を含む種々の要因に応じて変動する。一般に、治療上有効な日用量は、(70Kgの哺乳動物につき)約1mg/Kg(すなわち、70mg)~約10mg/Kg(すなわち、7.0g)である;好ましくは、治療上有効な用量は、(70Kgの哺乳動物につき)約2mg/Kg~約8mg/Kgである;より好ましくは、治療上有効な用量は、約4mg/Kgである。
【0078】
本明細書で提供される有効な用量の範囲は、限定であることを意図されるのではなく、好ましい用量範囲を表す。しかし、最も好ましい投与量は、関連分野の当業者によって理解および決定可能であるように、個々の被験体に合わせて調整される(例えば、Berkowetら,編, The Merck Manual, 第16版, Merck and Co., Rahway, N.J., 1992;Goodmanら,編, Goodman and Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics, 第10版, Pergamon Press, Inc., Elmsford, N.Y., (2001);Avery’s Drug Treatment:Principles and Practice of Clinical Pharmacology and Therapeutics, 第3版, ADIS Press, LTD., Williams and Wilkins, Baltimore, Md. (1987), Ebadi, Pharmacology, Little, Brown and Co., Boston, (1985);Osolciら,編, Remington’s Pharmaceutical Sciences, 第18版, Mack Publishing Co., Easton, Pa. (1990);Katzung, Basic and Clinical Pharmacology, Appleton and Lange, Norwalk, Conn. (1992))を参照のこと。
【0079】
各処置のために必要とされる合計用量は、所望であれば、1日、または1週間もしくは1ヶ月の過程にわたって複数用量によってまたは単一用量で投与され得る。概して、処置は、プラスミン阻害ポリペプチドの最適用量未満である、より小さな投与量で開始される。その後、上記投与量を、その環境下での最適な効果に達するまで少しずつ増加させる。上記プラスミン阻害ポリペプチドは、単独で、あるいは他の診断剤および/または病態に対する、もしくはその病態の他の症状に対する他の医薬と併せて投与され得る。上記プラスミン阻害ポリペプチドの投与のレシピエントは、任意の脊椎動物(例えば、哺乳動物)であり得る。哺乳動物の中で、好ましいレシピエントは、以下の目の哺乳動物である:霊長目(ヒト、類人猿およびサルを含む)、偶蹄目(ウマ、ヤギ、ウシ、ヒツジ、ブタを含む)、齧歯目(マウス、ラット、ウサギ、およびハムスターを含む)、および食肉目(ネコ、およびイヌを含む)。鳥類の中では、好ましいレシピエントは、シチメンチョウ、ニワトリおよび同じ目のうちの他のメンバーである。最も好ましいレシピエントは、ヒトである。
【0080】
上記医薬組成物は、パッチのようなマトリクス中に配置されるように製剤化され得る。これは、上記プラスミン阻害ポリペプチドが、その後上記マトリクス/パッチから、およびインビボ環境へと放出されるように、インビボで配置され得る。このような組成物は、例えば、裏材、活性化合物レザバ、制御膜、ライナーおよび接触型接着剤を含み得る。経皮パッチは、所望されるとおりの本発明のプラスミン阻害ポリペプチドの連続的な拍動性のまたは要求に応じた送達を提供するために使用され得る。例証的なパッチ材料および本発明のこのような実施形態とともに使用するために適合させることができる方法は、例えば、米国特許公開番号20020049471、同第20110071498および同第20210038758において開示される。
【0081】
上記プラスミン阻害ポリペプチドは、当該分野で公知の手順を使用することによって、患者への投与後に有効成分の迅速な放出、徐放または遅延された放出を提供するように製剤化され得る。放出制御薬物送達システムは、ポリマーコーティングされたレザバまたは薬物-ポリマーマトリクス製剤を含む浸透圧ポンプシステムおよび溶解システム(dissolutional system)を含む。放出制御システムの例は、米国特許第3,845,770号および同第4,326,525号、ならびにP. J. Kuzmaら, Regional Anesthesia 22 (6):543-551(1997)(これらは全て、本明細書に参考として援用される)に示される。
【0082】
最も適した経路は、処置されている状態の性質および重篤度に依存する。当業者はまた、投与方法(例えば、経口、静脈内、吸入、皮下、直腸など)、剤形、適切な薬学的賦形剤およびプラスミン活性の阻害の必要性のある被験体への上記プラスミン阻害ポリペプチドの送達に関連する他の事項の決定に精通している。
【0083】
種々の企図される実施形態によれば、プラスミン活性の阻害の必要性のある被験体は、がん(例えば、肺、乳房、前立腺もしくは結腸がん、または別のがんのような固形腫瘍)、血友病、関節リウマチもしくは全身性炎症反応症候群(SIRS)を有していても、有するリスクにあると疑われてもよいし、あるいは上記被験体は、血管新生、骨のリモデリングまたは冠状動脈バイパス移植術(CABG)を受ける必要性があってもよいし、受けたことがあってもよい。上記被験体は、手術を受けている最中であってもよいし、最近(例えば、1時間、2時間、4時間、6時間、8時間、10時間、12時間もしくは24時間以内に、または1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日もしくは10日以内に)手術(例えば、心臓血管手術、腫瘍手術、泌尿生殖器手術、形成外科手術、胸部手術、形成外科手術、外傷手術、腹部手術、移植手術、神経手術または耳鼻咽喉手術)を受けたことがあってもよい。
【0084】
関連分野の当業者は、本明細書で記載される医薬組成物の投与を適合させ得る任意の数の診断上の、外科上のおよび他の臨床上の基準に精通している。例えば、Humarら, Atlas of Organ Transplantation, 2006, Springer;Kuoら, Comprehensive Atlas of Transplantation, 2004 Lippincott, Williams & Wilkins;Gruessnerら, Living Donor Organ Transplantation, 2007 McGraw-Hill Professional;Antinら, Manual of Stem Cell and Bone Marrow Transplantation, 2009 Cambridge University Press;Wingardら (Ed.), Hematopoietic Stem Cell Transplantation:A Handbook for Clinicians, 2009 American Association of Blood Banks;Sabiston, Textbook of Surgery, 2012 Saunders & Co.;Mulholland, Greenfield’s Surgery, 2010 Lippincott, Williams & Wilkins;Schwartz’s Principles of Surgery, 2009 McGraw-Hill;Lawrence, Essentials of General Surgery 2012 Lippincott, Williams & Wilkinsを参照のこと。
【0085】
上記本文の参考文献
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【実施例】
【0086】
実施例1:ヒト組織因子経路インヒビタータイプ2ドメイン1のプラスミン特異的Kunitz-インヒビター(C末端のIEKを有する60残基のY11T/L17R二重変異体)の増強された抗線維素溶解有効性
現在の抗線維素溶解剤は、プラスミン活性部位を阻害することによって(例えば、アプロチニン)またはプラスミノゲン/組織プラスミノゲンアクチベーター(tPA)がフィブリンクロットに結合することを防止することによって(例えば、ε-アミノカプロン酸およびトラネキサム酸)、血液喪失を低減する;しかし、それらは、有害な副作用を有する。ここで、本発明者らは、プラスミンおよびプラスミノゲン活性化を阻害し得るヒト組織因子経路インヒビタータイプ2の60残基のKunitzドメイン1(KD1)変異体を発現させた。単一(KD1-L17R-KT)および二重変異体(KD1-Y11T/L17R-KT)を、Escherichia coliにおいてHisタグ化構築物(各々、エンテロキナーゼ切断部位を有する)として発現させた。KD1-Y11T/L17R-KTを、Pichia pastorisにおいても発現させた。KD1-Y11T/L17R-KTは、アプロチニンに匹敵してプラスミンを阻害し、プラスミノゲン/プラスミンおよびtPAのクリングルドメインに、それぞれ、約50nMおよび約35nMのKdで結合する。重要なことには、アプロチニンと比較して、上記KD1-L17R-KTおよびKD1-Y11T/L17R-KTは、カリクレインを阻害しない。さらに、KD1-Y11T/L17R-KTの抗線維素溶解潜在能は、血漿クロット溶解アッセイにおいてKD1-L17R-KTより良好であり、アプロチニンに類似である。トロンボエラストグラフィー実験において、KD1-Y11T/L17R-KTは、用量依存性様式において線維素溶解を阻害し、より高濃度においてアプロチニンに匹敵する。さらに、KD1-Y11T/L17R-KTは、初代ヒト内皮細胞または線維芽細胞において細胞傷害を誘導しない。本発明者らは、KD1-Y11T/L17R-KTが、プラスミンの最も強力な公知のインヒビターであるアプロチニンに匹敵し、Pichiaを使用して大量に生成され得ることを結論づける。
【0087】
1.緒言
重度の外傷においておよび大手術(例えば、心臓手術)の手順の間に、線維素溶解系は、過剰に活性化され、大量出血を生じる(1~3)。過剰な出血は、戦場、事故および病院の状況において重大な死亡リスクおよびコストをもたらす。制御されない出血は、外傷において防止可能な死亡の原因第1位であり、しばしば、手術中に大量輸血の必要性を引き起こす(4,5)。線維素溶解薬は、線維素溶解を阻害することによって、およびそれによってフィブリン分解生成物を阻害することによって、輸血の必要条件を低減する(6,7)。アプロチニン(ウシ膵臓トリプシンインヒビター、BPTI)は、プラスミン活性部位の強力なインヒビターであり、心臓手術および四肢外傷の間の血液喪失を低減するための有力な抗線維素溶解剤であった(8)。しかし、その使用は、重篤な副作用(例えば、腎臓損傷、心筋梗塞、および脳卒中)に関連付けられた(9~10)。さらに、アプロチニンは、ウシ由来のものであるので、そのアナフィラキシーの可能性が大きな懸念事項である(11)。これらの理由から、アプロチニンは、2008年に臨床市場から一時的に除去された(12)。現在承認されている治療剤であるトラネキサム酸(TXA)およびε-アミノカプロン酸(EACA)は、リジンアナログであり、これらは、フィブリンクロットへのプラスミノゲンおよび組織プラスミノゲンアクチベーター(tPA)の結合を防止する(13,14)。結果として、プラスミノゲンからプラスミンへの局所的な活性化が妨げられ、線維素溶解が防止される。しかし、EACAおよびTXAは、血液喪失を低減するにあたってアプロチニンほど有効ではない(15)。さらに、アプロチニンのように、それらはまた、腎不全を引き起こし(16)、近年の証拠から、TXAが、およびより低い程度にはEACAが、発作の重大な発生率と関連することが示される(16,17)。従って、アプロチニンおよびリジンアナログの有害作用を欠いている改善された抗線維素溶解剤が、必要とされる。
【0088】
いくつかの活性部位プラスミンインヒビターが文献において報告されている(18~25)が、それらの大部分の開発段階は、未知である。Textilinin-1(Q8008)、Pseudonaja textilisに由来するKunitzドメインプラスミン活性部位インヒビター(19,26)は、前臨床開発段階にある。Q8008は、アプロチニンより10~15倍弱い親和性でプラスミンを阻害するが、それは、カリクレインもわずかに阻害する(19,26)。マウス尾部出血モデルでは、Q8008は、血液喪失を低減するにあたってアプロチニンと同程度有効であることが報告された(26)。しかし、Q8008は、ヘビ毒に由来することから、アプロチニンに関して観察されるものと同様に、ヒトにおいてアナフィラキシー応答を引き起こし得る。さらに、ヒマワリトリプシンインヒビター-1の足場を使用して、0.05nM Kiを有するプラスミンの非常に強力な環状ペプチド活性部位インヒビターが設計され、薬物開発の候補であることが提唱されている(25)。さらに、周術期出血を低減することが提唱されたアロステリック合成線維素溶解インヒビターが存在するが、それらは、非常に早期の開発段階にある(27,28)。さらに、非常に強力なプラスミンインヒビター(DX-1000)は、抗線維素溶解剤としての代わりに、行腫瘍剤として開発されている(29)。
【0089】
顕著なことには、アプロチニンが2008年に禁止されたとき、薬理学的薬剤、エカランチド(ecallantide)(DX-88)(これは、カリクレインおよびプラスミンの両方を阻害する)を、臨床評価した(30)。この試験は、エカランチドアームにおいて観察された死亡率の増加に起因して早々に終了した。別の薬剤、MDCO2010(これは、プラスミン、第Xa因子(F)、FXIaおよび活性化プロテインC(APC)を阻害する)をまた、臨床評価した(31)。この試験は、処置群において重篤な有害事象の数の増加に起因して、同様に早々に終了した。安全性の問題の原因およびその薬物使用に対する潜在的な関連は、さらに調査中である。
【0090】
本実施例では、本発明者らは、抗線維素溶解剤(これは、アプロチニンに匹敵する効力でプラスミンを阻害するが、カリクレインの非常に弱いインヒビターである)を記載する。上記薬剤を、ヒト組織因子経路インヒビタータイプ2(TFPI-2)のKunitzドメイン1(KD1)を足場として使用して設計した。新たな60残基のプラスミンインヒビター、KD1-Y11T/L17R-KTは、C末端IEKVPKを有する先の異種単一変異体KD1-L17R(KD1-L17R-KCOOHと称される)と比較して、異なるC末端リジンで1個のさらなる変異(IEKT)を有する(32)。上記KD1-Y11T/L17R-KTは、現在の単一変異体KD1-L17R-KTより良好にプラスミンを阻害し、プラスミンに加えて、それはまた、プラスミノゲンおよびtPAのクリングルドメインに、35~50nMの解離定数で結合する。アプロチニン(33)の最低のHammersmithレジメンである血漿中2μMの治療用量において、KD1-Y11T/L17R-KTは、従って、プラスミン活性部位を阻害することによって、ならびにフィブリンクロットへのプラスミノゲンおよびtPAの結合を遮断することによって線維素溶解を効果的に阻害することが予測される。従って、KD1-Y11T/L17R-KTは、臨床状況においてアプロチニンに置き換わる有望な候補であるようである。アプロチニンとKD1-Y11T/L17R-KTとを比較する実験の詳細は、本明細書で示される。さらに、モデル化を使用して、Tyr11からThrの変異およびTFPI-2 KD1インヒビター足場におけるC末端のIEKの効果を評価した。上記変異体の増強された抗線維素溶解活性を詳述するためにこのようなモデル化から獲得した構造的情報が、考察される。
【0091】
2. 実験の節
2.1. 材料
Escherichia coli(E.coli)株BL21(DE3)、pLysSおよびpET28a発現ベクターを、Novagen Inc.(Madison, WI)から得た。Amicon遠心分離フィルターデバイス(3000 Mrカットオフ)を、Millipore(Bedford, MA)から購入した。QSepharose FF、Superdex 200、およびHis-Trap HPカラムを、Amersham Biosciencesから得た。ジイソプロピルフルオロホスフェート(DFP)を、Calbiochem(San Diego, CA)から得た。TXA、EACA、カナマイシンおよびイソプロピルチオガラクトピラノシド(IPTG)を、Sigma(St.Louis, MO)から得た。Caspase-Glo 3/7 AssayキットおよびCellToxTM Green Cytotoxicity Assayキットを、Promega(Madison, WI)から得た。精製ヒトFXIa、トロンビン(IIa)およびプラスミンを、Hematologic Technologies Inc(Essex Junction, VT)から購入した。血漿カリクレイン(pKLK)を、Enzyme Research Laboratories(South Bend, IN)から得た。アルテプラーゼ(tPA)を、Genentech(South San Francisco, CA)から購入した。組換えエンテロキナーゼを、Novogen, EMD Chemicals(San Diego CA)から得た。プールされた正常血漿(NPP)を、George King Bio-Medical Inc.(Overland Park, Kansas)から購入した。δプラスミン(プロテアーゼドメインおよび第1のクリングルドメインを含む組換えプラスミン)を、Victor Marder博士(University of California, Los Angeles, CA)から得た。タキソールは、Zhenfeng Duan博士(University of California, Los Angeles, CA)から快く提供された。アプロチニン(BPTI)は、ZymoGenetics(Seattle, WA)から受容し、ヒト第VIIa因子(FVIIa)を、以前に記載されるように調製した(34)。可溶性組織因子(sTF、残基1~219)を、Tom Girard(Washington University, St. Louis, Missouri)から得た。プラスミン基質S-2251(H-D-Val-Leu-Lys-p-ニトロアニリド)、pKLK、およびFXIa基質S-2366(ピロGlu-Pro-Arg-p-ニトロアニリド)、およびFVIIa基質S-2288(H-DIle-Pro-Arg-p-ニトロアニリド)を、Diapharma Inc(West Chester, OH)から得た。新鮮な正常ヒトクエン酸加血液を、Nebraska Medical Center(Omaha)から購入した。部分トロンボプラスチン時間(PT)および活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)は、各血液ドナーについて正常であった。
【0092】
2.2. E.coliにおけるKD1-L17R-K
TおよびKD1-Y11T/L17R-K
Tの発現および精製
KD1-L17R-K
TおよびC末端IEKを有するKD1-Y11T/L17R-K
TのcDNA配列をクローニングし、E.coli株BL21(DE3) pLysSにおいてT7プロモーターシステムを使用して、アミノ末端His6タグ化融合タンパク質として過剰発現させた。pET28aに由来し、His6リーダー配列、続いて、エンテロキナーゼ切断部位、KD1-L17R-K
TまたはKD1-Y11T/L17R-K
TをコードするcDNAを含む組換えプラスミドは、標準的手順に従って調製した(35)。発現される構築物の配列を、
図10に示す。上記His6タグ化KD1-L17R-K
TおよびKD1-Y11T/L17R-K
Tを、15mg/リットルのカナマイシンを含むLuriaブロス中で成長させ、対数増殖期中期(A600 約0.9)に1mM IPTGで37℃で5~6時間誘導したE.coliにおいて発現させた。上記His6タグ化KD1-L17R-K
TおよびKD1-Y11T/L17R-K
Tを、ニッケル負荷(nickel-charged)His-Trapカラムを使用して封入体から精製した。上記His-Trap精製タンパク質を、還元型および酸化型グルタチオン系を使用して再折りたたみし、以前に記載されたようにQ-Sepharose FFカラムを使用してさらに精製した(32,36)。
【0093】
2.3. KD1-Y11T/L17R-K
Tクローン構築およびPichia pastorisにおける発現
Pichia pastoris株X-33および分泌発現ベクターpPICZαAを、Invitrogen(San Diego, CA)から購入した。アミノ酸配列(
図10)に対応するKD1-Y11T/L17R-K
T cDNAを、IDT(Coralville, IA)が合成した。上記cDNAを、PCRによって増幅し、その生成物を線状化して、pPICZαAのXhoIおよびNotI制限部位へとサブクローニングした。さらなるベクター増幅を、DH5αコンピテント細胞において行った。抽出したcDNAを、Bio-Rad Gene Pulserエレクトロポレーターを用いたエレクトロポレーションを介してP.pastoris X-33へと導入した。形質転換体を、500μg ゼオシン/mLを補充したYPDプレート上にプレーティングした。コロニーを、BMM培地中でのKD1-Y11T/L17R-K
T発現に関してSDS-PAGEによって評価した。発酵接種用振盪フラスコを、緩衝化最小グリセロール培地(BMGY) pH 6.0を使用して調製した。第1に、KD1-Y11T/L17R-K
Tを発現する単一のコロニーを、50mLへと12時間にわたって接種し、得られた培養物のうちの0.5mLを、300mL BMGY pH 6.0へと20時間にわたって移した。次いで、後者を、3L Basal Salts Medium(BSM) pH 5.0を含む15L NLF BioEngineering Bioreactor(Wald, Switzerland)へと接種した。タンパク質発現をメタノールで誘導し、48時間、30℃、pH 5.0および40% 溶存酸素において行った。発酵ブロスを、7200rpm、4℃において遠心分離した。KD1-Y11T/L17R-K
Tを含む上清を集め、さらに処理するまで-30℃で貯蔵した。
【0094】
2.4. Pichia pastorisからのKD1-Y11T/L17R-KT精製
発酵上清のうちの100mLを、pH 8.5へと調整し、室温において1500 RFCで5分間遠心分離した。次いで、その上清を集め、pH 3.0に調整し、0.5mL Triton(登録商標)X-100と30分間混合した。尿素を4Mの最終濃度まで添加し、2.5時間、室温においてインキュベートした。インキュベーション後、上記溶液を、12mSの最終導電率へと希釈した。120cm/時間の一定の流速でBiocad Visionワークステーションを使用して精製を行った。サンプルを、50mM リン酸緩衝液 pH 2.8(洗浄緩衝液)で予め平衡化したSP-Sepharose(GE Healthcare Bio-Sciences Pittsburgh, PA)カラムに載せた。次いで、そのカラムを、2カラム容積の洗浄緩衝液で洗浄し、タンパク質を、1.0M NaClを含む50mM リン酸緩衝液 pH 2.8で溶離した。KD1-Y11T/L17R-KTを含む画分をプールし、L-アルギニンを0.5Mに、およびマンニトールを7%になるように補充した。室温で1時間インキュベートした後、それを、3.5kDa MWカットオフ膜透析チューブ(Spectrum. NJ)を使用して、10mM リン酸緩衝液 pH 8.0に対して透析した。
【0095】
2.5. SDS-PAGE
SDS-PAGEを、Laemmle緩衝液システムを使用して行った(37)。使用したアクリルアミド濃度は15%であり、ゲルを、Coomassie Brilliant Blue色素で染色した。
【0096】
2.6. プロテアーゼ阻害アッセイ
全ての反応を、0.1mg ウシ血清アルブミン/ml(TBS/BSA)および2mM Ca2+(TBS/BSA/Ca2+, pH 7.5)を含むTBS, pH 7.5(100mM NaClを含む50mM Tris-HCl, pH 7.5)中で行った。各酵素(プラスミン、pKLK、FXIaまたはFVIIa/sTF)を、種々の濃度(10-1~2×103nM)のKD1-WT、KD1-L17R-K
T、KD1-Y11T/L17R-K
Tまたはアプロチニン(BPTI)とともに1時間、室温において96ウェルマイクロタイタープレート(総容積100μl/ウェル)の中でインキュベートした。次いで、各酵素に適した合成基質(5μl)を、最終濃度 1K
Mになるまで添加し、残存アミド分解活性を、Vmaxキネティックマイクロプレートリーダー(Molecular Devices)で測定した。阻害定数K
i
*を、非線形回帰データ分析プログラムGrafitを使用して決定した。アプロチニン、KD1-WT、KD1-L17R-K
TおよびKD1-Y11T/L17R-K
Tのデータを、強結合インヒビターに関する式(式1)で分析した(ここでviおよびv0は、それぞれ、阻害率および非阻害率であり、(I)
0および(E)
0は、それぞれ、インヒビターおよび酵素の全濃度である(38,39))。
【数1】
K
i値は、式2を使用して、Beith(38)に従う基質の効果に関して補正することによって得た(ここで(S)は、基質濃度であり、K
Mは、各酵素に対して特異的である)。
【数2】
【0097】
2.7. DIP-δプラスミンの調製
活性部位を遮断したδプラスミンを、δプラスミンを室温において20分間、等容積の1M Tris-HCl, pH 8.0および1M DFP(最終濃度は1mM DFP)で処理し、続いて、氷上で数時間インキュベートすることによって生成した。さらに等容積の1M Tris-HCl, pH 8.0および1M DFP(最終濃度は2mM)を添加し、その反応物を、室温において20分間、次いで、一晩4℃においてインキュベートした。DFPで阻害したδプラスミン(DIP-δプラスミン)を、150mM NaClを含む20mM HEPES pH 7.5に対して透析し、S-2251合成基質加水分解を使用して残存活性に関してアッセイした。その残存活性に基づくと、δプラスミンのうちの>99%が不活化された。DIP-δプラスミンは、SDS-PAGEを使用して分析した場合、タンパク質分解がないことを明らかにした。
【0098】
2.8. 表面プラズモン共鳴(SPR)を使用するtPAおよびDIP-δプラスミンへのKD1-Y11T/L17R-KT結合
結合試験を、25℃においてBiacore T100フローバイオセンサー(Biacore, Uppsala, Sweden)で行った。DIP-δプラスミン(SDS-PAGEを使用して約98% 純度)またはtPA(SDS-PAGEを使用して>98% 純度)を、アミンカップリング化学反応を使用して、カルボキシメチル-デキストランフローセル(CM5センサーチップ, GE Healthcare)に固定した。フローセル表面を、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドおよびN-ヒドロキシスルホスクシンイミドの混合物で5分間(流速10μl/分)活性化し、その後、タンパク質(10mM 酢酸ナトリウム, pH 5.5中20μg/ml)を、表面上に注入した。反応しなかった部位を、1M エタノールアミンで5分間ブロッキングした。分析物、KD1-Y11T/L17R-KT(100~2000nM)を、HBS-P緩衝液(20mM HEPES, pH 7.4、100mM NaCl、0.005%(v/v) P20)中、10μl/分で6分間、フローセルを通して灌流した。タンパク質なしのHBS-P緩衝液に交換した後、分析物解離を、10分間モニターした。フローセルを、20mM EACAを含むHBS-Pで再生した。データを、カップリングしたタンパク質なしのフローセルを通して注入した分析物で得られたシグナルを差し引くことによって、非特異的結合に関して補正した。結合を、1:1結合モデルを使用してBIAevaluationソフトウェア(Biacore)で分析した。Kd値を、導出された解離(kd)および会合(ka)速度定数の商から計算した。
【0099】
2.9. 線維素溶解(クロット溶解)アッセイ
SperzelおよびHuetterの方法(40)に、先に概説したとおりの軽微な改変(32,41)を加えてそれに従った。簡潔には、IIaを使用して、NPPにおけるフィブリン形成を開始し、形成されたクロットの溶解(線維素溶解)を、tPAの同時の添加によって誘導した。クロット形成および溶解を、405nmでの光学密度を測定するMolecular Devicesマイクロプレートリーダー(SPECTRAmax 190)でモニターした。簡潔には、10μLの各試験化合物(KD1-L17R-KT、KD1-Y11T/L17R-KT、アプロチニン)または食塩水コントロールを、240μLのNPPに添加した。次いで、この混合物のうちの225μLを、25mM CaCl2を含むTBS/BSA中の25μL IIaおよびtPAに添加した。250μL 最終容積中では、IIaの濃度は0.15μg/mlであり、tPAの濃度は1μg/mlであった。対照条件(ゼロtPAおよびゼロ試験化合物)下では、OD405は直ぐに増加した。これは、凝固に続いて、極めて遅い減少が、線維素溶解を表すことを示す。凝固は5分後にほぼ完了したことから、tPAによって誘導される線維素溶解は、60分間までOD405の相対的減少として評価された。KD1-L17R-KTを、0.5μMから5μMまでの最終濃度で試験した一方で、KD1-Y11T/L17R-KTおよびアプロチニンを、0.5μMから3μMまでの最終濃度で試験した。
【0100】
2.10. トロンボエラストグラフィー
線維素溶解に対する異なる濃度のKD1-WT、KD1-L17R-KT、KD1-Y11T/L17R-KT、アプロチニンまたはEACAの効果を、TEG 5000 Thrombelastograph(Haemonetics Corp, Braintree, MA)を使用して、トロンボエラストグラフィー(TEG)で評価した。各クロット形成/溶解アッセイは、最終容積を360μLにするために、300μlのクエン酸加全血;プラスミン(1.5μM 最終濃度)、CaCl2(10mM 最終濃度)およびリンゲル溶液中の種々の濃度の各抗線維素溶解剤を含んだ。プラスミンおよびCaCl2を最後に添加して、同時の凝固および線維素溶解を開始した。1.5μM プラスミン濃度を、クロット強度および溶解に対するプラスミン効果に基づいて選択した。各実験を、180分間行って、LY60値を確立した。トロンボエラストグラフを各日で較正し、各インヒビター濃度を二連で試験した。TEG Analytical Software(バージョン4.2.2; Haemonetics Corporation, Braintree, MA)を使用して、凝固開始までの時間(R)、最大クロット強度(最大振幅(MA)(これは、剪断弾性率強度、Gに直接関連した))、およびMAの60分間後のパーセント溶解(LY60)(42)を計算した。
【0101】
2.11. 細胞傷害性アッセイ
2.11.1. 細胞および培養条件
初代ヒトプール臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を、ATCCから得た。その細胞を、Endothelial Cell Growth Kit-BBE(ATCC)およびペニシリン-ストレプトマイシン-アンホテリシンB(ATCC)を補充したVascular Cell Basal Medium(ATCC)中で維持した。初代ヒト真皮線維芽細胞を、LONZAから得、成長因子カクテル、ウシ胎仔血清および抗生物質(FGMTM-2 SingleQuotsTM, LONZA)を補充したFibroblast Basal Medium(FBMTM, LONZA)中で維持した。全ての細胞を、加湿5% CO2雰囲気中、37℃において維持し、それらがいったん80%コンフルエンスに達した後に継代した。全ての実験を、対数成長期にある細胞で行った。
【0102】
2.11.2. 抗線維素溶解剤(KD1-Y11T/L17R-KT、アプロチニン、EACAおよびTXA)
抗線維素溶解剤のストック溶液を、リン酸緩衝液中で調製した。毒性試験のために、細胞を、3,500 細胞/cm2において96ウェルまたは24ウェルの細胞培養プレートへと播種し、細胞が80%コンフルエンスにいったん達してから実験に使用した。細胞を、抗線維素溶解剤で24時間、以下の濃度-アプロチニンおよびKD1-Y11T/L17R-KTは0.1μM、1μM、10μMおよび30μMにおいて;EACAは1mM、5mM、20mM、および60mMにおいて、ならびにTXAは0.2mM、2mM、10mMおよび30mMにおいて処理した。
【0103】
2.11.3. レサズリン還元アッセイ
レサズリン還元アッセイ(Fisher Scientific)を使用して、初代ヒト内皮細胞および皮膚線維芽細胞に対する抗線維素溶解剤の潜在的細胞傷害を評価した。サンプルを溶解するために使用したリン酸緩衝液は、陰性コントロールとして含めた。上記アッセイは、生細胞によって高度に蛍光性のレゾルフィンへの非蛍光色素レサズリンの還元に基づく。蛍光シグナルは、非生細胞が上記色素を還元できず、蛍光シグナルを生じないことから、生細胞の数に比例する。簡潔には、96ウェル細胞培養プレート中の細胞を、異なる濃度の抗線維素溶解化合物で処理した(上で記載されるとおり)。24時間後に、レサズリン試薬を各ウェルに添加し、プレートを37℃において4時間インキュベートした。蛍光を、励起波長544nmおよび発光波長590nmを使用して、FLUOstar Omega Microplate Reader(BMG Labtech)によって測定した。各アッセイを、各々3個の反復物について二連で行った。生存率を、非処理細胞との比較に基づいて評価した。
【0104】
2.11.4. カスパーゼ3/7アッセイ
細胞のアポトーシスに対する抗線維素溶解剤の影響を、Caspase-Glo 3/7 Assayキット(Promega)を使用して検出した。カスパーゼ3および7を、アポトーシスを受けている細胞において活性化する。上記アッセイは、カスパーゼ3および7のための発光基質を提供する。酵素活性は発光をもたらし、発光は、存在するカスパーゼ活性の量に比例する。細胞を、96ウェルプレートに播種し、抗線維素溶解剤またはリン酸緩衝液(溶媒コントロール)で処理した。タキソールを陽性コントロールとして含めた。処理の24時間後に、カスパーゼ試薬を各ウェルに添加し、混合し、1時間、室温においてインキュベートした。FLUOstar Omega Microplate Reader(BMG Labtech)を使用して発光を測定した。
【0105】
2.11.5. 細胞毒性アッセイ
細胞毒性および細胞死を、CellToxTM Green Cytotoxicity Assay(Promega)で評価した。このアッセイは、細胞死の結果として起こる膜完全性の変化を測定する。このシステムにおいて使用した色素は、生細胞からは排除されるが、障害された細胞中のDNAに結合し、蛍光シグナルを生じる。本発明者らは、4種の濃度(上で記載されるとおり)において濃度1種につき三連で、24ウェルプレートにおいて24時間の曝露後に抗線維素溶解剤で処理したHUVECおよび初代線維芽細胞において細胞死を測定した。Hoechst(Thermo Fisher Scientific)を使用して、全ての核を染色した。細胞の画像を、倒立顕微鏡(Nicon; Edipse T2000 TE)を使用して捕捉した。緑色蛍光細胞(FITCフィルター)およびHoechst染色細胞(DAPIフィルター)を、Image Jソフトウェアを使用して計数した。蛍光細胞を、全細胞のパーセンテージとして示した。
【0106】
2.12. 統計法
一元配置分散分析(ANOVA)を使用して、血漿クロット溶解アッセイにおいて、線維素溶解を阻害するにあたって抗線維素溶解剤(KD1-WT、KD1-L17R-KT、KD1-Y11T/L17R-KT、アプロチニン)の効果を比較した。任意の2つの手段を比較するためのp値を、事後検定を使用して計算し、Tukeyの調整を使用して多重比較のために調整した。TEGデータに関しては、LeveneのF検定から、等分散性が満たされないことが明らかにされた。よって、WelchのF検定を使用し、Games-Howell事後手順を行って、平均MAおよび平均LY60%レベルのどの対が有意に異なるかを決定した。細胞毒性アッセイに関しては、集めたデータセットを、ANOVAによって分析し、個々の群を、スチューデントのt検定を使用して比較した。全ての実験を2または3回反復したところ、類似の結果を得た。定量値を、図の凡例に示されるように、平均±標準偏差(SD)または平均の標準誤差(SEM)として表す。p値が0.05以下で統計的に有意であるとみなした。全ての統計分析を、SPSS V27(IBM Corp., Armonk, NY, USA)を使用して行った。
【0107】
2.13. 分子モデリング
δ-プラスミン(43)、プラスミノゲンクリングルドメイン1(14)および野生型KD1(36)の結晶構造をテンプレートとして使用して、KD1-Y11T/L17R-KTと、δ-プラスミンとのおよびプラスミンクリングルドメイン1との複合体をモデル化した。これらの複合体をモデル化するためのプロトコールは、以前に記載されている(41,44)。C末端残基は野生型KD1結晶構造では無秩序であることから、本発明者らは、MODELLERプログラム(45)を使用して、KD1-Y11T/L17R-KT分子のこの部分を構築した。この構築モデルを、AMBERプログラム(46)を使用して、10 kcal.mol-1.Å-2のハーモニックな拘束で1000ステップの最小化に供することによってさらに精密にした。
【0108】
3. 結果
3.1. E.coliにおけるKD1-L17R-K
TおよびKD1-Y11T/L17R-K
Tの発現および精製
60残基のHis6タグ化KD1-L17R-K
TおよびKD1-Y11T/L17R-K
Tを、エンテロキナーゼ切断部位とともにE.coli株BL21(DE3) pLysSにおいて発現させた(
図10)。これらの構築物は、以前に発現されたC末端においてIEKVPKを有するKD1-L17R(KD1-L17R-K
COOHと称される)と比較した場合、N末端において9残基短くかつIEK
Tで終わるC末端において3残基短い(
図10)(41)。上記融合タンパク質を再折りたたみし、Q-Sepharose FFカラムを使用して精製した。その精製KD1変異体タンパク質を、エンテロキナーゼとともにインキュベートして、His6タグを除去した;しかし、切断は、酵素:基質が1:50比では不成功であった。不成功のHis6タグ除去の理由は、アプロチニンによるエンテロキナーゼの阻害に関して記載されるものに類似するKD1変異体によるエンテロキナーゼの阻害に起因し得る(47)。精製KD1-L17R-K
TおよびKD1-Y11T/L17R-K
T(各々、エンテロキナーゼ切断部位およびNH2末端においてHis6タグを含む)のSDS-PAGE分析を、
図10に示す。
【0109】
3.2. P.pastorisにおけるKD1-Y11T/L17R-K
Tの発現および精製
His6タグは、E.coli発現変異体においてエンテロキナーゼによって除去できなかったことから、本発明者らは、P.pastorisを使用して60残基の二重変異体KD1-Y11T/L17R-K
Tを発現させ、実験の節に記載されるように均一になるまで精製した。およそ50mgのKD1-Y11T/L17R-K
Tを、100mlの培養培地から精製した。精製したP.pastoris KD1-Y11T/L17R-K
TのSDS-PAGE分析を、
図11に示す。P.pastoris発現KD1-Y11T/L17R-K
Tが、His6タグおよびエンテロキナーゼ切断配列を含む対応するE.coli発現KD1-Y11T/L17R-K
Tと比較した場合に、わずかにMWが低いことに注意すること(
図11)。
【0110】
3.3. KD1-L17R-K
TおよびKD1-Y11T/L17R-K
Tの阻害プロフィール
IIa切断部位を含む野生型KD1(KD1-WT)は、プラスミンをK
i 6.0±0.5nMで阻害した(32,
図12A)。エンテロキナーゼ切断部位を含むIEK C末端を有するKD1-L17R-K
Tは、切断部位を含むVPK C末端を有する以前に記載されたKD1-L17R-K
COOHに類似して、プラスミンをK
i 0.9±0.1nMで阻害した(41)。E.coliおよびP.pastorisの両方発現KD1-Y11T/L17R-K
Tは、アプロチニン(K
i 0.49±0.1)と同様の親和性でプラスミンを阻害した(K
i 0.59±0.1)(
図12A)。各インヒビターによるプラスミン阻害についてのK
i値を、表1に提供する。従って、エンテロキナーゼ切断配列およびHis6タグは、阻害活性に影響を及ぼさない。さらに、KD1-L17R-K
COOH(32,41)に類似して、KD1-Y11T/L17R-K
T(本実施例)は、FVIIa/sTF、FXIaおよびpKLKを、Ki>3μMで弱く阻害した(
図12B)。
【表1】
【0111】
3.4. DIP-δプラスミンおよびtPAへのKD1-Y11T/L17R-K
T結合
本発明者らは、SPRを使用して、固定したDIP-δプラスミン(
図13A)およびtPA(
図13B)へのKD1-Y11T/L17R-K
Tの結合を試験した。KD1-Y11T/L17R-K
TへのDIP-δプラスミンの結合に関するk
onは、1.49±0.3×10
3 M
-1s
-1であった;k
offは、7.13±0.9×10
-5 s
-1であり、K
dは、47.6±7nMであった。KD1-Y11T/L17R-K
TへのtPAの結合に関するk
onは、2.91±0.4×10
3 M
-1s
-1であった;k
offは、1.05±0.7×10
-4 s
-1であり、K
dは、35.4±5nMであった。
【0112】
3.5. 線維素溶解(クロット溶解)アッセイ
これらの実験を行って、tPA誘導性血漿クロット線維素溶解を阻害することにおけるKD1-L17R-K
T、KD1-Y11T/L17R-K
T、およびアプロチニンの有効性を比較した。NPPへのIIaの添加は、フィブリン形成を引き起こし、これは、OD405の増加によって反映される(曲線IIa、ゼロtPA、
図14A~C)。tPAを同時に添加すると、最初のクロット形成、続いて、プラスミノゲンからプラスミンへのtPA媒介性の変換によって誘導されるフィブリンの溶解が引き起こされる(曲線IIa、tPA;
図14A~C);線維素溶解の中点は、線維素溶解インヒビターの非存在下では、各場合において6~7分間の間であった。全3種の薬剤は、線維素溶解を用量依存性様式で阻害した。使用したインヒビターの各濃度での最大OD405、60分でのOD405および線維素溶解中点に達するまでの時間を、表2に提供する。最大OD405は、上記インヒビター間で、および使用したインヒビターの濃度間で異ならなかった。最大OD405は、形成したフィブリンクロットのIIa誘導性強度を反映する、そのフィブリンクロット形成は、その後の溶解がクロット部位においてtPAで生成されたプラスミンによって始まる前に、迅速に達成された。従って、使用した各インヒビターの異なる濃度での最大OD405が類似であることは、予期される。さらに、線維素溶解の程度を示す60分でのOD405は、各インヒビターに関して低濃度において比較的類似であった;しかし、それは、より高濃度においてアプロチニンと比較した場合、KD1-L17R-K
Tに関してはより低減され、KD1-Y11T/L17R-K
Tに関しては中程度に低減された(
図14, 表2)。
【0113】
重要なことには、KD1-L17R-K
Tは、線維素溶解中点を、0.5μMでは約7分から約10分へ、1μMでは約13分へ、1.5μMでは約17分へ、3μMでは約31分へ、4μMでは約43分へ、および5μMでは約55分へとそれぞれ増加させた(
図14A, 表2)。KD1-Y11T/L17R-K
Tは、線維素溶解中点を、0.5μMでは約7分から約12分へ、1μMでは約28分へ、1.5μMでは約43分へ、および2μMと3μMでは>60分へと、それぞれ増加させた(
図14B, 表2)。アプロチニンは、線維素溶解の中点を、0.5μMでは約7分から約13分へと、1μMでは約40分へと、および1.5μMと>1.5μM濃度では>60分へと、それぞれ増加させた(
図14C, 表2)。累積的に、
図15において表される統計分析は、KD1-Y11T/L17R-K
Tが、KD1-L17R-K
Tと比較した場合に、線維素溶解中点を増加させるにあたってより有効であり、アプロチニンは、KD1-Y11T/L17R-K
Tよりわずかに有効であったことを明らかにする。
【0114】
3.6. トロンボエラストグラフィー
トロンボエラストグラフィー実験を行って、CaCl
2の添加によって全血で形成されるクロットのプラスミン誘導性溶解に対するKD1-WT(31)、KD1-L17R-K
T、KD1-Y11T/L17R-K
T、アプロチニンおよびEACAの効果を評価した。これらのデータを、
図16に示し、表3にまとめる。
図16Aは、CaCl
2で開始されたクロット形成に対するプラスミンの種々の濃度でのTEGトレースを示す。プラスミンの非存在下では、達成された平均最大振幅(MA)は、約4620 dyn/cm2の剪断弾性率強度Gで約47mmであり、60分間でクロット溶解は検出されなかった(LY60<0.1%)。1.5μM プラスミンでは、到達したMAは、約401dyn/cm2のG値で約7mmであり、100% クロット溶解が30分分以内に起こった(表3)。>1.5μM プラスミンでは、クロット形成は観察されなかった。
図16B~Fは、1.5μM プラスミンの存在下でのクロット形成および溶解に対するKD1-WT、KD1-L17R-K
T、KD1-Y11T/L17R-K
Tおよびアプロチニンの種々の濃度(1μM~7.5μM)での平均TEGのトレースを図示する。そのデータは、試験した全ての抗線維素溶解薬が、クロットの硬さ(MA)、剪断強度(G)を改善し、濃度依存性様式で線維素溶解を阻害したことを示す(表3)。顕著なことには、5μM(Hammersmithレジメンの高用量に対応し、アプロチニンに関して確立された臨床投与レジメンである)(33)のインヒビター濃度では、KD1-Y11T/L17R-K
Tは、クロット強度MAを、約80%(37.5mm)へと、およびGを約65%(約3004 dyn/cm2)へと改善したのに対して、アプロチニンは、MAを約69%(32.9mm)へと、およびGを約53%(約2453 dyn/cm2)へと改善した。しかし、約12%のLY60は、アプロチニンでの0.2%と比較して、KD1-Y11T/L17R-K
Tで観察された。7.5μM濃度では、KD1-Y11T/L17R-K
Tおよびアプロチニンの両方が、類似のMA(約83%および約80%)およびG(約70%および約65%)、ならびにLY60(各々0.2%)を有した。EACAはまた、MA、GおよびLY60を用量依存性様式で改善した(
図16G)。しかし、EACAの3mM濃度(臨床状況において使用した用量)では、それは、MAおよびGをそれぞれ、約67%および約50%まで改善したに過ぎなかった。累積的に、TEGデータは、EACAが、MAおよびGを回復させるにあたって、KD1-Y11T/L17R-K
Tまたはアプロチニンほど有効ではないことを示す。さらに、KD1-WTおよびKD1-L17R-K
Tはまた、KD1-Y11T/L17R-K
Tまたはアプロチニンほど有効ではなかった。重要なことには、より高濃度(≧7.5μM)では、KD1-Y11T/L17R-K
Tは、MAおよびGを回復させ、ならびにアプロチニンと同様に線維素溶解を阻害した。
【0115】
TEG実験においてKD1-WT、KD1-L17R-K
T、KD1-Y11T/L17R-K
Tおよびアプロチニンによる最大振幅(MA)、剪断弾性率強度(G)およびLY60の濃度依存性増強に対して行った多重比較分析を、
図17~19に示す。1μM インヒビター濃度では、MAは、KD1-WTを除いてコントロールと各Kunitzインヒビター間で有意に異ならなかった(
図17A)。2μMまたは3μMのインヒビター濃度では、アプロチニンによるMA増強は、KD1-WT、KD1-L17R-K
TおよびKD1-Y11T/L17R-K
Tと比較した場合に、統計的に有意であった(p<0.05)(
図17B~C)。3μMを上回ると、MAの増強は、KD1-L17R-K
T、KD1-Y11T/L17R-K
Tおよびアプロチニンに関して統計的に異ならなかった;しかし、それはKD1-WTに対しては有意に低かった(
図17D~E)。EACAに関しては、スチューデントのt検定を行って、コントロールと試験した各EACA濃度との間でMAを比較した(
図17F)。500μM、1000μMまたは3000μM EACA濃度では、MA増強は、コントロールと比較した場合に、統計的に有意であった。
【0116】
顕著なことには、3μMまで、アプロチニンは、KD1に基づくインヒビターと比較して、Gを有意に増強した(
図18A~C)。驚くべきことに、5μMおよび7.5μMのインヒビター濃度では、KD1-Y11T/L17R-K
TによるGの増強は、他のインヒビターと比較した場合に、有意により高かった(
図18D~E)。KD1-Y11T/L17R-K
T 対 アプロチニンに関してクロット剪断強度Gにおいてこの観察された改善はおそらく、KD1-Y11T/L17R-K
Tによる阻害が本質的にないことに対して、アプロチニンによるFXIaおよびカリクレイン阻害に起因し得る。さらに、選択された濃度での各インヒビターに関するLY60の多重比較分析を、
図19に示す。1μMまたは5μMでは、アプロチニンは、各KD1インヒビターと比較した場合に、線維素溶解を防止するにあたって有意により良好であったのに対して、KD1-WTは、試験した全ての濃度において各インヒビターより劣っていた。2μMまたは3μMでは、KD1-Y11T/L17R-K
Tおよびアプロチニンは、KD1-L17R-K
Tより優れ、7.5μM濃度では、いかなるインヒビターでもLY60は観察されなかった。全体的に、アプロチニンおよびKD1-Y11T/L17R-K
Tは、TEG実験において線維素溶解を阻害するにあたって、他のインヒビターより優れているようである。
【0117】
3.7. 細胞毒性試験
ここで、本発明者らは、アプロチニンならびに現在使用される抗線維素溶解剤であるEACAおよびTXAと比較したKD1-Y11T/L17R-KTの潜在的毒性に関する洞察を獲得したかった。患者を、大手術を受けている間に代表的には静脈内注射を介して、または外傷の状況においては外用を介して、抗線維素溶解剤で処置する。本発明者らはそのようにして、内皮細胞および皮膚線維芽細胞における細胞傷害を試験した;上記細胞は、KD1-Y11T/L17R-KTの治療用量に曝される可能性が最も高い。ヒト、ラットおよびイヌにおけるTXAの血漿半減期は、約120分である(48)。その2種のKD1バリアントホモログ(アプロチニンおよびエカランチド)の半減期各々はまた、ヒトにおいて約120分である(49,50)のに対して、マウス、ラットまたはイヌにおけるアプロチニンの半減期は、約70分である(51)。各KD1バリアントの半減期は公知でないが、短いと思われるので、計画して決定する。抗線維素溶解剤の各々のインビボでの半減期は短いことから、注入は通常、手術の継続時間全体にわたって連続的である。従って、処置継続時間を24時間に設定し、選択した用量範囲は、試験した試薬の各々について臨床用量の約3倍と同等のものを含む。
【0118】
KD1-Y11T/L17R-K
Tまたはアプロチニンで24時間処理したHUVECのレサズリンアッセイは、0.1μM~30μMの全用量範囲にわたって、リン酸緩衝液コントロールで処理した細胞と比較して、細胞生存率において有意な変化を何ら生じなかった(Vadivelら, J Clin Med. 2020 Nov 17;9(11):3684. doi:10.3390/jcm9113684における
図11A)。同じ結果が、EACA(用量範囲は1~60mM)およびTXA(用量範囲は0.2~30mM)での処理後に得られた。細胞生存率は、初代ヒト皮膚線維芽細胞において等しく変化しなかった(Vadivelら, J Clin Med. 2020 Nov 17;9(11):3684. doi:10.3390/jcm9113684における
図11B)。これは、試験した抗線維素溶解剤のいずれも、処理の24時間の継続時間内に測定可能な細胞傷害を引き起こさなかったことを示す。
【0119】
生存率は、細胞傷害のエンドポイントである。従って、本発明者らは、カスパーゼ活性化から生じるアポトーシスの誘導を試験した。カスパーゼ3/7アッセイを、抗線維素溶解剤での処理後にHUVEC細胞において行った(Vadivelら, J Clin Med. 2020 Nov 17;9(11):3684. doi:10.3390/jcm9113684における
図11C)。カスパーゼ3/7活性は、上記細胞をTXAの2種の高い方の濃度(10mMおよび30mM)で処理した場合に有意に増加し、EACA(20mMおよび60mM)での曝露後により低い程度に増加した。TXAおよびEACAとは対照的に、KD1-Y11T/L17R-K
Tおよびアプロチニンは、全ての濃度でベースラインを上回るカスパーゼ活性を誘導しなかった。タキソールを、陽性コントロールとして含めた。抗線維素溶解薬のいずれも、全ての用量にわたって、初代線維芽細胞においてベースラインを上回ってカスパーゼ活性を増加させなかった。
【0120】
異なるアッセイを使用して上記の結果を確認するために、本発明者らは、HUVEC細胞および初代線維芽細胞においてCellTox green細胞傷害性アッセイを行った。The CellTox green色素はDNAに結合し、膜完全性が障害されている場合にのみ蛍光染色を生じる。内皮細胞(Vadivelら, J Clin Med. 2020 Nov 17;9(11):3684. doi:10.3390/jcm9113684における
図11D)においても線維芽細胞(Vadivelら, J Clin Med. 2020 Nov 17;9(11):3684. doi:10.3390/jcm9113684における
図11E)においても、KD1-Y11T/L17R-K
Tの最高用量(30μM)で処理した24時間後に、蛍光細胞のパーセンテージの有意な増加は検出されなかった。細胞の細胞傷害はまた、細胞(HUVECまたは線維芽細胞)を試験した他の抗線維素溶解剤で処理した場合に、ベースラインを有意に上回って増加しなかった。簡潔にするために、アプロチニン、TXAおよびEACAについてのデータは示していない。
【0121】
まとめると、0.1~30μM KD1-Y11T/L17R-KTまたはアプロチニンでのHUVEC細胞および初代ヒト線維芽細胞の24時間の処理は、生存率を減少させず、アポトーシスを誘導せず、細胞傷害のいかなる徴候をも示さなかった。しかし、TXAおよびEACAは、カスパーゼ3/7活性における増加から推定されるように、HUVEC細胞においてより高濃度でアポトーシス(細胞死)を誘導した。
【0122】
4. 考察
以前に、構造情報およびS2’-サブサイト特異性に基づいて、本発明者らは、TFPI-2 KD1から73残基のKunitzドメインプラスミンインヒビターを設計した(32)。KD1-WTは、匹敵する親和性でプラスミン、ならびにpKLK、FXIaおよびFVIIa/TFを阻害するのに対して、KD1-L17Rは、プラスミンのみを阻害する。残基17(BPTI番号付け)におけるLeuからArgへの変化は、KD1-L17Rをプラスミンに対して特異的にし、pKLKおよびFXIa阻害を劇的に低減した。現在の60残基のKD1-L17R-KTと比較した場合、以前に発現させたKD1-L17Rは、N末端において13個のさらなる残基(TFPI-2配列から9個およびIIa切断部位から4個)、およびコアKunitzドメインから離れたC末端において4個の残基(VPKV)を有した。これらのさらなる残基は、KD1-L17R機能に干渉しないが、それらは可撓性でありかつKD1-WTの結晶構造から推測されるように無秩序であり得る(36)。従って、新たな60残基のKD1-L17R-KT変異体を発現させ、その阻害プロフィールを特徴づけた。60残基のKD1-L17R-KTの活性部位阻害プロフィールのいずれも、以前に発現させた73残基のKD1-L17Rから変化しないことから、KD1-L17R-KTは、血液喪失の低減において非常に有効であり、試験した2種のマウス出血モデル(肝臓裂傷および尾部切断)においてアプロチニンに匹敵し得ることが推測される(32,41,52)。
【0123】
73残基のKD1-L17Rは、C末端においてIEKVPKVを有し、バリンは、IIaとの長時間のインキュベーションによって除去され得る(41)。C末端におけるVal残基の除去による、C末端リジンが生じ、これは、KD1-L17Rを、プラスミン活性部位およびプラスミノゲン活性化を阻害することによって、線維素溶解の二重反応性インヒビターにする(41)。さらに、IIaとの長時間インキュベーションは、異なるN末端残基を有するKD1-L17Rの不均一な集団を生じた(41)。プラスミンおよびKD1-L17Rのモデル化された複合体の構造分析から、残基Tyr11からThrへの変化が、プラスミン阻害にとって有益であることが示された。KD1-Y11T/L17R-K
Tにおけるスレオニンは、プラスミンの残基Q192とさらなる水素結合を作る(
図9A)。興味深いことには、73残基のKD1-L17Rは、C末端セグメント(IEKVPKV)において2個のリジン残基を含み、それらのうちのいずれかは、C末端残基として働き得る。さらに、C末端IEK配列を有する60残基のKD1-L17R-K
Tのモデル化は、それがプラスミノゲンおよびtPAのクリングルドメインとの相互作用を増強することを示す(
図9AおよびB)。特定の理論によっても作用機序によっても拘束されないが、VPK配列と比較した場合、IEK配列は、KunitzドメインのArg57およびGlu59と、プラスミンクリングル残基Glu151およびArg153とからそれぞれ生じる2個のさらなる相互作用を有すると考えられる(
図9B)。同様の相互作用は、tPAのクリングルドメインでも同様に起こると推定される。
【0124】
新たにE.coli発現KD1-L17R-K
TおよびC末端IEK配列を有するKD1-Y11T/L17R-K
Tはともに、His6タグおよびエンテロキナーゼ切断配列を含む;しかし、これらのさらなる残基は、エンテロキナーゼによって除去できなかった。73残基のKD1-L17R構築物と同様に、さらなる残基の存在は、KD1-L17R-K
TおよびKD1-Y11T/L17R-K
T変異体の阻害特性に影響を及ぼさなかった。従って、60残基のKD1-Y11T/L17R-K
Tを、P.pastorisにおいて発現させた。推測されるように、KD1-Y11T/L17R-K
Tは、KD1-L17R-K
Tと比較して、増加した親和性(0.59nM 対 0.9nM)でプラスミンを阻害した。さらに、IEK C末端を有する60残基のKD1-Y11T/L17R-K
Tは、C末端VPKを有するKD1-L17R-K
COOH(250nM~300nM)と比較した場合、増加した親和性(35nM~50nM)でtPAおよびプラスミンのクリングルドメインに結合する(
図13)(41)。プラスミン活性部位阻害における中程度の増加ならびにプラスミノゲンおよびtPAのクリングルドメインに対する有意に改善された親和性は、血漿クロット溶解アッセイにおけるKD1-Y11T/L17R-K
Tによる線維素溶解の強い阻害(
図14B)およびTEG実験におけるMA、GおよびLY60の回復(
図16B~F)において反映された。
【0125】
P.pastorisにおいて作製したKD1二重変異体(KD1-Y11T/L17R-K
T)は、ヒト起源の小型で、均一な、および効果的な特異的プラスミンインヒビターである。KD1-Y11T/L17R-K
Tの特性は、プラスミン阻害アッセイ、血漿クロット溶解アッセイおよびTEG実験においてアプロチニンに匹敵する。さらに、KD1-Y11T/L17R-K
Tは、pKLK、FXIaおよびFVIIa/sTFを阻害しない。さらに、KD1-Y11T/L17R-K
Tは、初代内皮細胞または皮膚線維芽細胞においていかなる測定可能な細胞傷害をも誘導しなかった。しかし、TXAおよびEACAは、より高濃度ではこれらの細胞においてアポトーシスを引き起こし、これらの抗線維素溶解薬の腎クリアランスの間に達成される可能性があった。これらの結果は、サル腎臓において腎毒性も発作もいかなる検出可能な組織病理的変化をも誘導しなかったKD1-L17R-K
COOH(C末端VPK)単一変異体と一致する(32)。アプロチニンの場合には、その酸性の性質およびpKLK阻害によって、腎臓活動の変化が生じ、これは、腎損傷をもたらす(32, 53)。現在の抗線維素溶解薬、EACAおよびTXAは、グリシンレセプターを阻害することによって、発作を引き起こす(54)。リジンアナログは、アプロチニンほど有効ではないことから、より高用量のEACAおよびTXAは、これらの薬剤が糸球体濾過によるクリアランスの間に非常に高濃度に達するので、腎不全のリスクを増加させる(55,56)。本開示において見出されるKD1Y11T/L17R-K
Tデータは、励みになる;しかし、それは、臨床試験について考慮され得る前に、適切な動物出血モデルにおいて評価される必要がある。
【表2】
【表3】
【0126】
実施例1参考文献
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【0127】
実施例2:予測されない機能的プロフィールを有する60残基のKD1-Y11T/R15K/L17R三重変異体(rHUKD1-TM)を含む新たなプラスミン特異的Kunitzインヒビターポリペプチド
先に試験した抗線維素溶解ポリペプチドバリアントは、ヒト組織因子経路インヒビタータイプ2のKunitzドメイン1(KD1)の単一変異体および二重変異体(KD1L17R、KD1Y11T/L17R)を含む(例えば、米国特許第7,585,842号ならびに米国特許公開番号20080026998および同第20140288を参照のこと)。これらは、2種のマウス傷害モデル(肝臓裂傷および尾部切断モデル)において血液喪失を防止するにあたって成功した。しかし、これらのポリペプチドバリアントの効力は、例えば、それらが、組織プラスミノゲンアクチベーターとの長期間のインキュベーションにわたる血漿クロット溶解アッセイにおいて、アプロチニンでの類似の試験と比較した場合に幾分低減した活性を示すという点において、制限を有する。
【0128】
血漿クロット溶解アッセイにおいてこのようなバリアントの効力を増加させようとする試みにおいて、ヒト組織因子経路インヒビタータイプ2バリアントのさらなるKunitzドメイン1(KD1)を作製し、試験した。これらの試験の一部として、アミノ酸変異の特有の一団を有する短縮型三重変異体(KD1
Y11T/R15K/L17R)を開発した。このバリアントは、以下を含む:NAEICLLPLDTGPCKARLLRYYYDRYTQSCRQFLYGGCEGNANNFYTWEACDDACWRIEK(配列番号1)。
以下は、単一、二重および三重KD1変異体の配列比較およびそれらの特性を提供する。
【化3】
【0129】
本明細書で開示されるKD1三重変異体(配列NH
2-1NAEI
…IEK60-COOHを有する60残基(BPTI番号付け))を、Pichiaにおいて発現させ、精製したところ、分子量が7.1KDaであることが明らかにされた(
図1)。上で注記されるように、このバリアントは、カリクレインを含む他の凝固セリンプロテアーゼを阻害するという有害作用なしに、アプロチニンに類似するプラスミンの強力なインヒビター(
図2)であることが見出された(
図2)。従って、広い特異性のプロテアーゼインヒビターであるアプロチニンと比較して、本明細書で開示されるKD1三重変異体は、ヒト起源のものであり、プラスミンを阻害することについて非常に特異的である。
【0130】
以下の表4~6で示されるデータは、ある特定の予測外の薬物動態特性および本明細書で開示されるヒト組織因子経路インヒビタータイプ2のKunitzドメイン1(KD1)の60残基の三重変異体ポリペプチドバリアントの予測外の特性の組み合わせを例証する。
【表4】
各インヒビターに関するK
i値を、強結合式を使用して計算した。KD1TMによるカリクレイン阻害は、18nMのK
iを有するアプロチニンと比較して、25μMまで観察されない。アプロチニンによるカリクレイン阻害は、腎損傷に関連付けられる。リジンアナログであるトラネキサム酸(TXA)およびε-アミノカプロン酸(EACA)は、異なる機序を通じて機能し、プラスミン活性部位または他のプロテアーゼを阻害しない。
【0131】
表5および表6: tPAおよびプラスミノゲンのクリングルドメインへのヒトTFPI-2 KD1変異体結合
表面プラズモン共鳴実験から得られる結合定数。
【表5】
【表6】
【0132】
例えば、表4~6に提供されるデータおよび
図9の模式図において示されるように、ヒト組織因子経路インヒビタータイプ2のKunitzドメイン1(KD1)のこの60残基の三重変異体ポリペプチドバリアントは、非常に望ましい薬物動態プロフィールを有することが発見された。このプロフィールは、アプロチニン(従来利用されたが、問題のある抗線維素溶解剤)と比較した場合に、プラスミンの活性を阻害するより大きな能力を含む。さらに、この新たなポリペプチドバリアントのプラスミン阻害活性は、アプロチニンのプラスミン阻害活性と比較してより有利である一方で、本明細書で開示されるポリペプチドバリアントは、アプロチニンおよび関連分子で観察されるある特定の有害な副作用をさらに回避する。この中の1つの例証では、本明細書で開示されるポリペプチドバリアントは、他の凝固セリンプロテアーゼ(例えば、カリクレイン、第XIa因子および第VIIa因子/組織因子)に対して最小限の阻害活性を示すことが観察される。
【0133】
上で注記されるように、本明細書で開示される60残基のポリペプチドバリアントは、C末端リジン構造/部分を含むアミノ酸残基の特有の一団を含む。特定の理論によっても作用機序によっても拘束されないが、このC末端構造は、フィブリンクロットへのプラスミノゲン結合を阻害する様式で、そのクリングルドメインを介して、プラスミンまたはプラスミノゲンへの60残基のポリペプチドバリアントの結合を促進することによって機能するようである。本明細書で開示されるポリペプチドバリアントは、15位におけるリジンアミノ酸置換を含む3個のアミノ酸変異の群(「KD1
Y11T/R15K/L17R」)をさらに含む。驚くべきことに、C末端リジンを含むこのY11T/R15K/L17R三重変異体は、二重変異Y11T/L17Rのみを有するコントロールの60残基のポリペプチドバリアントと比較した場合に、プラスミンを阻害するにあたって4~5倍さらに強力であることが観察される(例えば、
図2および表4~6に示されるデータを参照のこと)。特定の理論によっても作用機序によっても拘束されないが、15位におけるリジンアミノ酸置換を有するこの三重変異体は、このバリアントポリペプチドの、プラスミンにおける残基Asp189およびSer190との相互作用を促進することによって機能するようである。
【0134】
予測外なことには、この60残基のY11T/R15K/L17R三重変異体ポリペプチドは、二重変異Y11T/L17Rのみを有するコントロールの60残基のポリペプチドバリアントと比較した場合、カリクレイン、第XIa因子および第VIIa因子/組織因子の少なくとも10倍弱い阻害をさらに示し、その機能的プロフィールは、望ましくない副作用(例えば、アプロチニンで観察されるもの)を制限する。野生型ヒト組織因子経路インヒビタータイプ2分子の15位(BPTI番号付け)におけるArg残基は、第XIa因子およびカリクレインを阻害することにとって重要である。しかし、第XIa因子およびカリクレインは、190位においてアラニン残基を有することから、本明細書で開示されるKunitzドメイン1ポリペプチドインヒビターの15位におけるリジンは、明らかに、第XIa因子およびカリクレインにおけるAla190と相互作用できない。結論として、この位置においてリジンを有するこれら60残基のポリペプチドは、第XIa因子およびカリクレイン活性の極めて弱いインヒビターである。
【0135】
上で注記した理由から、本明細書で開示される60残基のバリアントポリペプチドは、例えば、この技術において類似の阻害性分子と関連するある特定の副作用を同時に回避しながら、プラスミンに強く結合する能力を含む、驚くべきかつ非常に望ましい薬物動態/材料プロフィールを示す。このような機能的特性は、これらのポリペプチドをインビボでの治療剤としての使用に最適化されたものにする。本明細書で開示されるポリペプチドはさらに、いくつかの他の所望の特性を有する。例えば、60残基のバリアントポリペプチドは、組織プラスミノゲンアクチベーター(tPA)に結合し、フィブリンクロットへのその結合を阻害し、それによって、凝固の部位におけるプラスミノゲン活性化を弱めることが示される。
【0136】
60残基のバリアントポリペプチドのさらなる局面は、以下の説で考察される。
【0137】
KD1
Y11T/R15K/L17R-K
Tとの相互作用のモデル化
図9Aにおいて、プラスミンとのKD1
Y11T/R15K/L17R-K
T相互作用のモデル化された複合体が示される。サブパート(A)は、KD1
Y11T/R15K/L17R-K
Tとプラスミンプロテアーゼドメインとのモデル化された相互作用を示す。プラスミンプロテアーゼドメインの静電的表面およびKD1
Y11T/R15K/L17R-K
Tの漫画表示(淡緑色)が記載される。プラスミンとのKD1
Y11T/R15K/L17R-K
T相互作用のP1(Lys15)、P5(Thr11)およびP2’(Arg17)残基は、棒の表示で示される。静電的表面では、青は正電荷を表し、赤は負電荷を表し、白は中性の電荷を表す。サブパート(B)は、KD1
Y11T/R15K/L17R-K
Tとプラスミンクリングルドメインとのモデル化された相互作用を示す。プラスミノゲンクリングルドメイン1の静電的表面およびKD1
Y11T/R15K/L17R-K
Tの漫画表示(淡緑色)が記載される。クリングルドメインとKD1
Y11T/R15K/L17R-K
Tとの間の水素結合および塩橋(破線として示される)を形成する残基は、棒の表示で示される。炭素原子は、クリングルドメインに関しては緑で、およびKD1
Y11T/R15K/L17R-K
Tに関しては黄色で示される。サブパート(A)にあるように、酸素原子は赤で示され、窒素原子は青で示される。KD1
Y11T/R15K/L17R-K
T残基は、接尾辞Iで表示される。静電的表面では、青は正電荷を表し、赤は負電荷を表し、白は中性の電荷を表す。
【0138】
プラスミンにおける残基190 Serは、rHuKD1-TM(KD1Y11T/R15K/L17R-KT)におけるリジン15と相互作用し、これはカリクレインまたは第XIa因子におけるAla 190には可能でないことに注意すること。従って、プラスミン活性部位親和性は、プラスミンに関しては増加し、カリクレインおよび第XIa因子に関しては減少する。さらに、特定の理論によっても作用機序によっても拘束されないが、KD1Y11T/R15K/L17R-KTポリペプチドバリアントにおけるIEK C末端は、プラスミンと、VPK C末端配列を有するポリペプチドより大きな相互作用を有するので、プラスミンクリングルドメインに対してより高い親和性を有するようである。さらに、類似のKD1Y11T/R15K/L17R-KTポリペプチドバリアント相互作用は、組織プラスミノゲンアクチベーターのクリングルドメインで起こる。
【0139】
図9Aは、IEK C末端モチーフが、VPK C末端モチーフを有するポリペプチドと比較した場合に、プラスミンクリングルドメインにより良好に結合する理由を含め、KD1
Y11T/R15K/L17R-K
Tポリペプチドバリアントで観察されるプラスミン阻害のレベルに関する情報を提供する。この発見は、15位において(24位と同じ)ArgからLys、および米国特許公開20080026998に開示されるVPKV末端配列を有する73残基の長さ(トロンビン切断からプラス4-残基)のkunizドメイン先行技術構築物に対する試験によって裏付けられる。この先行技術構築物は、上記ポリペプチドのC末端においてLysアミノ酸を有さず、プラスミンクリングルドメインに結合しない。さらに、この特異的な73残基の先行技術分子のN末端における9個の残基およびC末端における4個の残基は、溶媒露出しており、非常に無秩序であり、このことは、この先行技術変異体の結合能力の局面を損ない得る。対照的に、本発明の三重変異体構築物は、C末端 IEKを有する60残基の長さ((KD1
Y11t/R15K/L17R-K
T)であり、クリングルドメインに非常に高い親和性(約40nM)で結合することが観察される。さらに、以下の節で考察されるように、本明細書で開示されるヒト組織因子経路インヒビタータイプ2のKunitzドメイン1(KD1)のポリペプチドバリアント(配列番号1)は、非常に望ましい安定性プロフィールを示す。
【0140】
安定性試験
本明細書で開示されるヒト組織因子経路インヒビタータイプ2のKunitzドメイン1(KD1)のポリペプチドバリアントは、予測外のかつ望ましい安定性プロフィールを示す。例えば、本発明のある特定の実施形態において、本明細書で開示される60残基のポリペプチドバリアントは、組成物の中に配置され、ここでこのポリペプチド組成物が、0.1mg/mL ウシ血清アルブミン(BSA)および2mM カルシウムを含むトリス緩衝食塩水(TBS)中で、37℃において少なくとも1週間インキュベートされる場合に、上記ポリペプチドのプラスミン阻害定数(Ki)は、10%未満(または5%未満)変化する。
【0141】
安定性試験において、KD1
Y11T/R15K/L17R-K
Tサンプル(0.59mg/ml)を、4℃、室温、および37℃において1週間維持し、そのプラスミン阻害を、各日に試験した。rHuKD1-TMは安定であり、そのプラスミン阻害特性は変化しないようである。アプロチニンに類似するrHuKD1-TM変異体は、緩慢強結合プラスミンインヒビターである。反応を、TBS/BSAおよび2mM カルシウム中で行った。ヒトプラスミンを、種々の濃度のrHuKD1-TMとともに1時間、室温において96ウェルマイクロタイタープレートの中でインキュベートした。次いで、プラスミンのための合成基質を、最終濃度 1K
Mへと添加し、残存アミド分解活性を、キネティックマイクロプレートリーダー(Molecular Devices)において測定した。以下の表7において、見かけ上の阻害定数、K
i
*を、非線形回帰データ分析プログラムを使用して決定した。データを、強結合インヒビターに関する式を使用して分析し、K
i値を、基質濃度の効果に関して補正することによって得る。
【表7】
【0142】
KD1
Y11T/R15KL17R-K
T(rHuKD1-TM)およびアプロチニンによるプラスミンの阻害についての平衡解離定数(K
i)
rHuKD1-TMおよびアプロチニンによるプラスミンの阻害についての平衡解離定数(K
i)を、緩慢強結合阻害式(10,11)を使用して計算した。プラスミンへのrHuKD1-TMの結合のK
i値は、アプロチニンに関する400~500ピコモル濃度と比較して、異なる実験において50~150ピコモル濃度の範囲に及んだ(
図2)。さらに、C末端の60-リジンは、プラスミノゲン/プラスミンおよび組織プラスミノゲンアクチベーター(tPA)のクリングルドメインへのrHuKD1-TMの結合を可能にし、それらがフィブリンクロットへ結合することを阻害するはずである。rHuKD1-TMのこの特性は、プラスミンによる線維素溶解をさらに阻害する。従って、rHuKD1-TM(KD1
Y11T/R15K/L17R-K
T)は、線維素溶解を阻害することに関して非常に強力かつ特有の作用物質である。
【0143】
KD1二重変異体(Y11T/L17R)におけるArg15からLysへの変化は、プラスミンのS1部位Asp189と効果的に相互作用し、これは、トリプシンとアプロチニンとの構造において定義されるように、プラスミンのSer190とrHuKD1-TMのLys15との相互作用を含む(12)。Lys15のこのような相互作用は、カリクレインまたは第XIa因子および第Xa因子(これは、Serの代わりにAla190を有する(13,14))とでは可能でない。結果として、KD1
Y11T/R15K/L17R-K
Tは、これら3種の酵素を極めてわずかに阻害し(
図2)、これは患者における使用にとって望ましい結果である。しかし、第VIIa因子はSer190を有し、単一変異体または二重変異体に類似して、三重変異体によってわずかに阻害される(
図2)。
【0144】
ヒト正常プール血漿における線維素溶解に対するrHuKD1-TMおよびアプロチニンの効果
実験を行って、tPA誘導性血漿クロット線維素溶解を阻害する三重変異体 KD1
Y11T/R15K/L17R-K
Tおよびアプロチニンの有効性を比較した。これらのデータを、三重変異体に関しては
図3Aに、アプロチニンに関しては
図3Bに示す。ヒト正常プール血漿(NPP)へのトロンビン(IIa)の添加は、フィブリン形成を引き起こしたが、これは、OD405の増加によって反映される(黒の曲線、
図3Aおよび3B)。tPAを同時に添加すると、最初にクロット形成が、続いて、プラスミノゲンからプラスミンへのtPA媒介性変換によって誘導されるフィブリンの溶解が引き起こされる(黒丸を伴う黒の曲線、
図3Aおよび3B); 線維素溶解の中点は、各場合において約8分であった。両方の抗線維素溶解剤が、用量依存性様式において線維素溶解を阻害した。KD1
Y11T/R15K/L17R-K
T(三重変異体)およびアプロチニンの両方が、0.5μMにおいて線維素溶解中点を約15分へと増加させ、3μMでは、両方のインヒビターが、tPA誘導性線維素溶解を完全に防止した(
図3Aおよび3Bにおけるマゼンタの曲線)。重要なことには、tPAの非存在下での3μMの各インヒビターの添加は、クロット形成に対しても線維素溶解に対しても効果を有しなかった(褐色の曲線、
図3Aおよび3B)。従って、KD1
Y11T/R15K/L17R-K
Tおよびアプロチニンの両方が、長期間にわたってtPA誘導性血漿クロット溶解を防止するにあたって本質的に等しい。
【0145】
抗線維素溶解剤による初代細胞生存率に対する効果
各抗線維素溶解剤、rHuKD1-TM、アプロチニン、EACAおよびTXAの効果を、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)および皮膚線維芽細胞の生存率に対して試験した。そのデータを、HUVECに関しては
図4に、皮膚線維芽細胞に関しては
図5に示す。試験した抗線維素溶解剤はいずれも、試験した2種の細胞タイプに関して24時間以内に生存率に対して検出可能な効果を有しなかった。生細胞は、サイトゾル内に還元環境を維持することに注意のこと。生細胞は、基質レサズリンを蛍光性のレソフリン(resofurin)へと還元し、蛍光は、細胞数に正比例する。基質レサズリンは、細胞状態にかかわらず細胞透過性である(細胞に入る)。従って、このアッセイは、いかなる細胞アポトーシスも壊死も検出しない。
【0146】
抗線維素溶解剤による細胞アポトーシスに対する効果
アポトーシスは、ときおり「細胞自殺」と称され、細胞の自己破壊の正常なプログラムされたプロセスである。アポトーシスの間に、細胞は縮小し、その隣り合うものから引き離される。カスパーゼ3および7は、細胞がアポトーシスを受けているときにのみ活性化されるプロテアーゼである。ここで使用されるアッセイでは、特定の基質が、カスパーゼ3およびカスパーゼ7によって、ルシフェラーゼの基質へと変換される。次いで、ルシフェラーゼは、発光シグナルを生じる。発光は、カスパーゼ活性に正比例する。アポトーシスの間に、細胞の膜完全性は、無傷のまま維持される。使用されるこのアッセイにおいて、EACAおよびTXAは、HUVECにおいてはカスパーゼ活性の有意な増加を誘導するが、線維芽細胞では誘導しない(
図6)。従って、EACAおよびTXAは、インビボで血管を内張りする内皮細胞においてプログラム細胞死を誘導できた。rHuKD1-TMおよびアプロチニン(BPTI)は、いずれの細胞、HUVECまたは皮膚線維芽細胞においても、使用した条件下ではアポトーシスを誘導しなかった(
図6)。
【0147】
抗線維素溶解剤による細胞毒性に対する効果
ここで使用した細胞毒性グリーンアッセイ(cell toxicity green assay)は、細胞傷害の結果として起こる膜完全性における変化を測定する。シアニン色素は、無傷な膜を通して細胞に入ることはできない。膜完全性が障害される場合、その色素は細胞に入り、DNAを染色し、蛍光シグナルをもたらす。従って、観察される蛍光は、細胞傷害に比例する。使用されるアッセイにおいて、TXAは、HUVECおよび皮膚線維芽細胞の両方において毒性を誘導した(
図7および8)のに対して、EACAによっては、皮膚線維芽細胞においてのみ有意な毒性が観察された。rHuKD1-TMおよびアプロチニン(トラジロール、BPTI)は、試験した条件下でこれらの細胞において毒性を誘導しなかった。
【0148】
トロンボエラストグラフィー実験
線維素溶解に対するKD1-Y11T/R15K/L17R-K
COOH(KD1TM)の異なる濃度の効果を、TEG 5000 Thrombelastograph(Haemonetics Corp, Braintree, MA, USA)を使用して、トロンボエラストグラフィー(TEG)で評価した。各クロット形成/溶解アッセイは、最終容積を360μLにするために、TBS/BSA(50mM Tris-HCl、100mM NaCl、0.1mg ウシ血清アルブミン/mLを含む)中に300μLのクエン酸加全血、トロンビン(0.15μM, 最終濃度)、tPA(2nM, 最終濃度)、CaCl
2(10mM, 最終濃度)および種々の濃度のKD1TMを含んだ。トロンビン、tPAおよびCaCl
2を最後に添加して、同時のクロット形成および線維素溶解を開始した。tPAの濃度を、プラスミンの生成からほぼ完全なクロット溶解が90分にわたって生じるように選択し、プラスミンインヒビターの効果がモニターされることを可能にした。各実験を、最大振幅がLY60値を確立するように達した後に、少なくとも60分間行った。TEG Analytical Software(バージョン4.2.3; Haemonetics Corporation, Braintree, MA, USA)を使用して、凝固開始までの時間(R)、最大クロット強度(最大振幅(MA)(これは剪断弾性率強度、Gに正比例した)、およびMA60分後のパーセント溶解(LY60)を計算した。トロンボエラストグラフィー実験を行って、トロンビンおよびCaCl
2の添加によって全血中で形成されるクロットのtPA誘導性溶解に対するKD1TMの効果を評価した。これらのデータを
図20に示し、表8にまとめる。
図20は、tPAで開始されるクロット溶解に対する異なる濃度のKD1TMにおけるTEGトレースを示す。tPAの非存在下では、達成された最大振幅(MA)は、4174dyn/cm
2の剪断弾性率強度Gで45.5分であり、180分ではクロット溶解は検出できなかった(LY60<0.1%)(曲線1)。曲線2は、2nM tPAの存在下でインヒビターなしのクロット形成および溶解に対するTEGトレースを図示する。曲線3および4は、2nM tPAの存在下でのクロット形成および溶解に対するKD1TMの異なる濃度(2μMおよび4μM)でのTEGトレースを図示する。データは、KD1TMが、クロットの硬さ(MA)および剪断強度(G)を改善し、濃度依存性様式で線維素溶解を阻害したことを示す(表8)。顕著なことには、4μMでは、KD1TMは、クロット強度MAを98%(44.2mm)へと、Gを96%(4011 dyn/cm
2)へと改善した(曲線4)。さらに、コントロール(LY30、34.6%、曲線2)と比較した場合、LY30は観察されなかった。同様に、コントロール(LY60 65%)と比較した場合に、LY60のわずか3.7%または1.7%が、KD1TMの2μMおよび4μM濃度で観察された。重要なことには、TEGデータは、KD1TMが、tPAで誘導される線維素溶解において、MAおよびGを効果的に回復させることを示す。
【表8】
【0149】
本明細書で提供される開示は、以下を含む多くの結論をもたらす:
KD1Y11T/R15K/L17R-KT(rHuKD1-TM)は、KD1-L17R-KCOOH(KD1SM)およびKD1Y11T/L17R-KT(KD1DM)より優れ、プラスミンの活性部位を阻害するにあたってアプロチニン(トラジロール)に等価である。rHuKD1-TMは、NAEICで始まり、C末端IEKを有する60残基のKunitzドメインである(BPTI番号付け)。さらに、それは、以前の単一変異体(KD1-L17R-KCOOH)のようにN末端においてさらなる9残基を有さない。上記単一変異体はまた、IEKVPKで終了するC末端において3個のさらなる残基を有する。上記単一変異体の欠点は、2個の疎水性残基、ValおよびProがその可溶性を低減させることである。rHuKD1-TMは、高度に可溶性である。rHuKD1-TMはまた、プラスミンを阻害することおよび血漿クロット溶解アッセイにおいて、KD1SMおよびKD1DMより優れ、長期インキュベーション期間にわたってアプロチニンに匹敵する。さらに、単一変異体(KD1SM)および二重変異体(KD1DM)と比較して、三重変異体(rHuKD1-TM)は、カリクレイン、第XIa因子、第Xa因子および第VIIa因子/組織因子の非常に弱いインヒビターである。
【0150】
集中的な試験(例えば、
図4~8)は、rHuKD1-TMが、HUVECまたは線維芽細胞およびおそらく他の細胞に対しても損傷を引き起こさないことを示す。EACAおよびTXA(これらは、腎臓を介して除去される)はおそらく、腎臓において高濃度に存在し得、細胞損傷を引き起こし得る。これは、TXAおよびEACAの観察される副作用としての腎不全についての理由であり得る。
【0151】
上に開示されるように、rHuKD1-TM(配列番号1)は、プラスミンの優れたインヒビターであると同時に、カリクレインおよび第XIa因子の極めて弱いインヒビターである(そして抗凝固活性を有しない)ことが発見された。これは、ウシ起源でありかつカリクレインの阻害が原因で腎損傷を引き起こすアプロチニンとは対照的である。さらに、2種のインヒビターは、カリクレイン(7,8)を非常に強く阻害し、フェーズIIIの心臓バイパス手術治験に失敗した。従って、rHuKD1-TMによるカリクレインおよび第XIa因子の極めて弱い阻害は、本開示のポリペプチドの非常に都合の良い特性である。よって、本明細書で開示される60残基のバリアントポリペプチドは、認識され、根強く残っておりかつ他者によって解決されていない長年にわたるニーズを満たす驚くべき材料特性の一団を有することが発見された。
【0152】
本明細書で言及される全ての刊行物(例えば、上記に数字で列挙されているもの、米国特許第8,993,719号、米国特許公開番号20040126856、同第20040110688、同第20080026998、同第20090018069および同第20140288000、ならびにVadivelら, J Clin Med. 2020 Nov 17;9(11):3684. doi: 10.3390/jcm9113684)は、引用された刊行物に関連して局面、方法および/または材料を開示および記載するために本明細書に参考として援用される。
特定の実施形態では、例えば、以下が提供される:
(項目1)
配列:NAEICLLPLDTGPCKARLLRYYYDRYTQSCRQFLYGGCEGNANNFYTWEACDDACWRIEK(配列番号1)を有するポリペプチド;および薬学的に受容可能な賦形剤、
を含む医薬組成物。
(項目2)
前記薬学的に受容可能な賦形剤は、保存剤、張度調整剤、洗浄剤、ヒドロゲル、粘度調整剤、またはpH調整剤のうちの少なくとも1種から選択される、項目1に記載の組成物。
(項目3)
前記組成物は、静脈内注射または注入における使用のために選択された薬学的に受容可能な賦形剤を含む薬学的に受容可能な組成物を含む、項目2に記載の組成物。
(項目4)
前記ポリペプチドのプラスミン阻害定数(Ki)は、37℃において、少なくとも2日間、4日間または1週間、0.1mg/mL ウシ血清アルブミン(BSA)および2mM カルシウムを含むトリス緩衝生理食塩水(TBS)中での前記組成物のインキュベーション後に、10%未満変化する、項目1~3のいずれか1項に記載の組成物。
(項目5)
ポリペプチド配列:NAEICLLPLDTGPCKARLLRYYYDRYTQSCRQFLYGGCEGNANNFYTWEACDDACWRIEK(配列番号1)をコードするポリヌクレオチドを含む組成物。
(項目6)
前記ポリヌクレオチドは、配列:AACGCGGAGATCTGTCTCCTGCCCCTAGACACCGGACCCTGCAAAGCCAGACTTCTCCGTTACTACTACGACAGGTACACGCAGAGCTGCCGCCAGTTCCTGTACGGGGGCTGCGAGGGCAACGCCAACAATTTCTACACCTGGGAGGCTTGCGACGATGCTTGCTGGAGGATAGAAAAA(配列番号2)
を含む、項目5に記載の組成物。
(項目7)
前記ポリヌクレオチドは、細胞において前記ポリペプチドを発現させるための1またはこれより多くの調節配列を含むベクターの中に配置される、項目6に記載の組成物。
(項目8)
項目7に記載のベクターを含む細胞。
(項目9)
前記細胞は、細菌細胞、酵母細胞、昆虫細胞または哺乳動物細胞である、項目7に記載の細胞。
(項目10)
プラスミンの少なくとも1種の活性を阻害するための方法であって、前記方法は、プラスミンと、プラスミンの少なくとも1種の活性を阻害するために十分な量の項目1~4のいずれか1項に記載の組成物を接触させることを包含する方法。
(項目11)
前記方法は、線維素溶解が阻害されるように、線維素溶解を阻害するために十分な量の前記組成物を患者に投与することによって、前記患者における線維素溶解を阻害することを包含する、項目10に記載の方法。
(項目12)
被験体において出血を阻害するための方法であって、前記方法は、出血が阻害されるように、項目1~4のいずれか1項に記載の組成物の有効量を被験体に投与することを包含する方法。
(項目13)
前記出血は、外傷性傷害から生じる、項目12に記載の方法。
(項目14)
前記外傷性傷害は、外傷性脳傷害である、項目13に記載の方法。
(項目15)
前記出血は、手術から生じる、項目12に記載の方法。
(項目16)
前記出血は、心臓手術を受けておりかつ血液喪失の低減の必要性のある患者におけるものであり、前記方法は、治療上有効な量の前記組成物を、前記手術の前、最中、または後に投与することを包含する、項目15に記載の方法。
(項目17)
前記心臓手術は、心肺バイパス手術である、項目16に記載の方法。
(項目18)
前記出血は、外傷性出血性ショックのための処置を受けている患者におけるものである、項目12に記載の方法。
(項目19)
前記組成物は、マトリクス中に配置される、項目10~18のいずれか1項に記載の方法。
(項目20)
前記マトリクスは、パッチまたは圧迫包帯である、項目19に記載の方法。
(項目21)
配列NAEICLLPLDTGPCKARLLRYYYDRYTQSCRQFLYGGCEGNANNFYTWEACDDACWRIEK(配列番号1)を有する、天然に存在しない単離されたポリペプチド。
(項目22)
前記ポリペプチドは、ヒト組織因子経路インヒビタータイプ2のKD1の二重変異Y11T/L17Rのみを有する60残基のポリペプチドバリアントと比較した場合、プラスミンを阻害するにあたって少なくとも3倍大きい効力を有する、項目21に記載の天然に存在しない単離されたポリペプチド。
【配列表】