IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 竹本油脂株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-27
(45)【発行日】2025-03-07
(54)【発明の名称】不織布用処理剤及び繊維
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/292 20060101AFI20250228BHJP
   D06M 11/71 20060101ALI20250228BHJP
   D06M 13/144 20060101ALI20250228BHJP
【FI】
D06M13/292
D06M11/71
D06M13/144
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024103952
(22)【出願日】2024-06-27
【審査請求日】2024-06-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】是恒 佳秀
(72)【発明者】
【氏名】藤井 裕子
【審査官】山下 航永
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2023/042667(WO,A1)
【文献】特許第7432804(JP,B2)
【文献】特許第7365090(JP,B1)
【文献】国際公開第2022/138688(WO,A1)
【文献】特開2021-046647(JP,A)
【文献】国際公開第2023/149326(WO,A1)
【文献】特開昭53-103099(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 10/00 - 23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のリン酸化合物(P)、及び下記のアルコール(A)を含有し、前記リン酸化合物(P)、及び前記アルコール(A)の含有割合の合計を100質量%とすると、前記リン酸化合物(P)を70質量%以上98.7質量%以下、及び前記アルコール(A)を1.3質量%以上30質量%以下の割合で含有し、前記リン酸化合物(P)と前記アルコール(A)以外の化合物の含有比率が10質量%以下である不織布用処理剤であって、
下記のリン酸エステル(Pa)、及び下記の無機リン酸(Pi)のそれぞれに帰属されるP核NMR積分値NPa、NPiの比率(NPi/NPa)が0.6以上であり、
前記不織布用処理剤の酸価が0.5mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であることを特徴とする不織布用処理剤。
リン酸化合物(P):下記の式(1)に示されるリン酸エステル(Pa)、下記の式(2)に示されるリン酸エステル(Pb)、及び無機リン酸(Pi)を含有し、更に任意選択で下記の式(3)に示されるリン酸エステル(Pc)、及び下記の式(4)に示されるリン酸エステル(Pd)から選ばれる少なくとも一つを含有し、前記リン酸エステル(Pa)、前記リン酸エステル(Pb)、前記リン酸エステル(Pc)、前記リン酸エステル(Pd)、及び前記無機リン酸(Pi)に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記無機リン酸(Pi)に帰属されるP核NMR積分比率が55%以下であり、前記リン酸エステル(Pa)に帰属されるP核NMR積分比率が5%以上であるリン酸化合物。
【化1】
(式(1)中において、
:炭素数3以上5以下の炭化水素基。
O:炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基。
n1:0以上3以下の整数。
,M:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、アンモニウム、又は有機アミン。)
【化2】
(式(2)中において、
,R:炭素数3以上5以下の炭化水素基。
O,AO:炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基。
n2,n3:0以上3以下の整数。
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、アンモニウム、又は有機アミン。)
【化3】
(式(3)中において、
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、アンモニウム、有機アミン、又は-(AO)n5
,R:炭素数3以上5以下の炭化水素基。
O,AO:炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基。
n4,n5:0以上3以下の整数。
,M:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、アンモニウム、又は有機アミン。)
【化4】
(式(4)中において、
,R,R:炭素数3以上5以下の炭化水素基。
O,AO,AO:炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基。
n6,n7,n8:0以上3以下の整数。)
アルコール(A):炭素数3以上6以下の1~3価アルコール。
【請求項2】
前記リン酸エステル(Pa)、前記リン酸エステル(Pb)、前記リン酸エステル(Pc)、前記リン酸エステル(Pd)、及び前記無機リン酸(Pi)に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記無機リン酸(Pi)に帰属されるP核NMR積分比率が25%以上である請求項1に記載の不織布用処理剤。
【請求項3】
前記リン酸エステル(Pa)、前記リン酸エステル(Pb)、前記リン酸エステル(Pc)、前記リン酸エステル(Pd)、及び前記無機リン酸(Pi)に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステル(Pc)に帰属されるP核NMR積分比率が15%以上である請求項1に記載の不織布用処理剤。
【請求項4】
前記リン酸エステル(Pa)、前記リン酸エステル(Pb)、前記リン酸エステル(Pc)、前記リン酸エステル(Pd)、及び前記無機リン酸(Pi)に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステル(Pa)に帰属されるP核NMR積分比率が20%未満である請求項1に記載の不織布用処理剤。
【請求項5】
前記リン酸化合物(P)、及び前記アルコール(A)の含有割合の合計を100質量%とすると、前記リン酸化合物(P)を80質量%以上97質量%以下、及び前記アルコール(A)を3質量%以上20質量%以下の割合で含有する請求項1に記載の不織布用処理剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の不織布用処理剤が付着していることを特徴とする繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化安定性等を向上できる撥水性を付与するための不織布用処理剤及びそれが付与された繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、不織布の原料繊維として、合成繊維が用いられている。例えば、不織布は、ポリオレフィン等の熱可塑性樹脂で構成された合成繊維を用いて製造される。不織布に用いられる原料繊維に対して又は不織布に対して処理剤を塗布することにより、撥水性等の機能が付与される。撥水性等の機能が付与された不織布は、衛材分野、医療分野、農業分野、土木分野等、幅広い分野で活用されている。
【0003】
例えば、従来、特許文献1に開示の繊維用処理剤が知られている。特許文献1は、所定のリン酸エステルを含有するとともに、酸価を0.5~680mgKOH/gに規定した撥水繊維用処理剤について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第7025594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、従来の撥水性を付与するための不織布用処理剤は、乳化安定性が低下するのみならず、繊維に対する不織布用処理剤の濡れ性が低下するという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、所定のリン酸化合物(P)及びアルコール(A)を含有する不織布用処理剤において、不織布用処理剤の酸価を所定範囲に規定した構成がまさしく好適であることを見出した。
【0007】
上記課題を解決する各態様を記載する。
態様1の不織布用処理剤は、下記のリン酸化合物(P)、及び下記のアルコール(A)を含有し、前記リン酸化合物(P)、及び前記アルコール(A)の含有割合の合計を100質量%とすると、前記リン酸化合物(P)を70質量%以上98.7質量%以下、及び前記アルコール(A)を1.3質量%以上30質量%以下の割合で含有し、前記リン酸化合物(P)と前記アルコール(A)以外の化合物の含有比率が10質量%以下である不織布用処理剤であって、下記のリン酸エステル(Pa)、及び下記の無機リン酸(Pi)のそれぞれに帰属されるP核NMR積分値NPa、NPiの比率(NPi/NPa)が0.6以上であり、前記不織布用処理剤の酸価が0.5mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であることを特徴とする。
【0008】
リン酸化合物(P):下記の式(1)に示されるリン酸エステル(Pa)、下記の式(2)に示されるリン酸エステル(Pb)、及び無機リン酸(Pi)を含有し、更に任意選択で下記の式(3)に示されるリン酸エステル(Pc)、及び下記の式(4)に示されるリン酸エステル(Pd)から選ばれる少なくとも一つを含有し、前記リン酸エステル(Pa)、前記リン酸エステル(Pb)、前記リン酸エステル(Pc)、前記リン酸エステル(Pd)、及び前記無機リン酸(Pi)に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記無機リン酸(Pi)に帰属されるP核NMR積分比率が55%以下であり、前記リン酸エステル(Pa)に帰属されるP核NMR積分比率が5%以上であるリン酸化合物。
【0009】
【化1】
(式(1)中において、
:炭素数3以上5以下の炭化水素基。
O:炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基。
n1:0以上3以下の整数。
,M:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、アンモニウム、又は有機アミン。)
【0010】
【化2】
(式(2)中において、
,R:炭素数3以上5以下の炭化水素基。
O,AO:炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基。
n2,n3:0以上3以下の整数。
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、アンモニウム、又は有機アミン。)
【0011】
【化3】
(式(3)中において、
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、アンモニウム、有機アミン、又は-(AO)n5
,R:炭素数3以上5以下の炭化水素基。
O,AO:炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基。
n4,n5:0以上3以下の整数。
,M:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、アンモニウム、又は有機アミン。)
【0012】
【化4】
(式(4)中において、
,R,R:炭素数3以上5以下の炭化水素基。
O,AO,AO:炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基。
n6,n7,n8:0以上3以下の整数。)
アルコール(A):炭素数3以上6以下の1~3価アルコール。
【0013】
態様2は、態様1に記載の不織布用処理剤において、前記リン酸エステル(Pa)、前記リン酸エステル(Pb)、前記リン酸エステル(Pc)、前記リン酸エステル(Pd)、及び前記無機リン酸(Pi)に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記無機リン酸(Pi)に帰属されるP核NMR積分比率が25%以上である。
【0014】
態様3は、態様1又は2に記載の不織布用処理剤において、前記リン酸エステル(Pa)、前記リン酸エステル(Pb)、前記リン酸エステル(Pc)、前記リン酸エステル(Pd)、及び前記無機リン酸(Pi)に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステル(Pc)に帰属されるP核NMR積分比率が15%以上である。
【0015】
態様4は、態様1~3のいずれか一態様に記載の不織布用処理剤において、前記リン酸エステル(Pa)、前記リン酸エステル(Pb)、前記リン酸エステル(Pc)、前記リン酸エステル(Pd)、及び前記無機リン酸(Pi)に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステル(Pa)に帰属されるP核NMR積分比率が20%未満である。
【0016】
態様5は、態様1~4のいずれか一態様に記載の不織布用処理剤において、前記リン酸化合物(P)、及び前記アルコール(A)の含有割合の合計を100質量%とすると、前記リン酸化合物(P)を80質量%以上97質量%以下、及び前記アルコール(A)を3質量%以上20質量%以下の割合で含有する。
【0017】
態様6の繊維は、態様1~5のいずれか一態様に記載の不織布用処理剤が付着していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、撥水性を付与するための不織布用処理剤において、乳化安定性を向上できるとともに、繊維に対する不織布用処理剤の濡れ性を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第1実施形態>
以下、本発明の不織布用処理剤(以下、単に処理剤ともいう)を具体化した第1実施形態を説明する。本実施形態の処理剤は、下記のリン酸化合物(P)、及び下記のアルコール(A)を含有する。
【0020】
(リン酸化合物(P))
本実施形態において供されるリン酸化合物(P)としては、下記の式(1)に示されるリン酸エステル(Pa)、下記の式(2)に示されるリン酸エステル(Pb)、及び無機リン酸(Pi)を含有し、更に任意選択で下記の式(3)に示されるリン酸エステル(Pc)、及び下記の式(4)に示されるリン酸エステル(Pd)から選ばれる少なくとも一つを含有する。
【0021】
リン酸エステル(Pa)は、下記の式(1)に示される化合物である。
【0022】
【化5】
(式(1)中において、
:炭素数3以上5以下の炭化水素基。
O:炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基。
n1:0以上3以下の整数。
,M:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、アンモニウム、又は有機アミン。)
なお、アルカリ土類金属は、2価のため、アルカリ土類金属(1/2)は、M又はMにおいて1/2モル付加されることを示す(以下、同様)。
【0023】
これらのリン酸エステル(Pa)は、一種類を単独で使用してもよいし、又は二種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
基を構成する炭素数3以上5以下の炭化水素基としては、例えば飽和炭化水素基であるアルキル基、不飽和炭化水素基であるアルケニル基等が挙げられる。炭化水素基としては、直鎖状であっても、分岐鎖構造を有してもよい。
【0024】
を構成するアルキル基の具体例としては、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、イソブチル基、イソペンチル基が挙げられる。
を構成するアルケニル基の具体例としては、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、イソブテニル基、イソペンテニル基が挙げられる。
【0025】
Oを構成するアルキレンオキシ基の具体例としては、エチレンオキサイドから得られるエチレンオキシ基、プロピレンオキサイドから得られるプロピレンオキシ基、ブチレンオキサイドから得られるブチレンオキシ基が挙げられる。アルキレンオキサイドは、一種類のアルキレンオキサイドを単独で使用してもよいし、又は二種以上のアルキレンオキサイドを適宜組み合わせて使用してもよい。
【0026】
アルカリ金属の具体例としては、例えばナトリウム、カリウム、リチウム等が挙げられる。アルカリ土類金属の具体例としては、例えばマグネシウム、カルシウム等が挙げられる。
【0027】
有機アミンの具体例としては、例えば、(1)メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、N-N-ジイソプロピルエチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、2-メチルブチルアミン、トリブチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ジメチルラウリルアミン等の脂肪族アミン、(2)アニリン、N-メチルベンジルアミン、ピリジン、モルホリン、ピペラジン、これらの誘導体等の芳香族アミン類又は複素環アミン、(3)モノエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジブチルエタノールアミン、ブチルジエタノールアミン、オクチルジエタノールアミン、ラウリルジエタノールアミン等のアルカノールアミン、(4)3-アミノプロペン等のアリールアミン、(5)ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル、ポリオキシエチレンステリルアミノエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルアミノエーテル等が挙げられる。
【0028】
,Mは、同一であっても異なっていてもよい。
リン酸エステル(Pb)は、下記の式(2)に示される化合物である。
【0029】
【化6】
(式(2)中において、
,R:炭素数3以上5以下の炭化水素基。
O,AO:炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基。
n2,n3:0以上3以下の整数。
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、アンモニウム、又は有機アミン。)
これらのリン酸エステル(Pb)は、一種類を単独で使用してもよいし、又は二種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0030】
又はRを構成する炭素数3以上5以下の炭化水素基としては、式(1)のRを構成する炭素数3以上5以下の炭化水素基として例示したものが挙げられる。
O又はAOを構成するアルキレンオキシ基としては、式(1)のAOを構成するアルキレンオキシ基として例示したものが挙げられる。
【0031】
を構成するアルカリ金属、アルカリ土類金属、又は有機アミンとしては、式(1)のM,Mを構成するアルカリ金属、アルカリ土類金属、又は有機アミンとして例示したものが挙げられる。
【0032】
とR、及びAOとAOは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
リン酸エステル(Pc)は、下記の式(3)に示される化合物である。
【0033】
【化7】
(式(3)中において、
:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、アンモニウム、有機アミン、又は-(AO)n5
,R:炭素数3以上5以下の炭化水素基。
O,AO:炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基。
n4,n5:0以上3以下の整数。
,M:水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2)、アンモニウム、又は有機アミン。)
これらのリン酸エステル(Pc)は、一種類を単独で使用してもよいし、又は二種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0034】
を構成するアルカリ金属、アルカリ土類金属、又は有機アミンとしては、式(1)のM,Mを構成するアルカリ金属、アルカリ土類金属、又は有機アミンとして例示したものが挙げられる。
【0035】
又はRを構成する炭素数3以上5以下の炭化水素基としては、式(1)のRを構成する炭素数3以上5以下の炭化水素基として例示したものが挙げられる。
O又はAOを構成するアルキレンオキシ基としては、式(1)のAOを構成するアルキレンオキシ基として例示したものが挙げられる。
【0036】
又はMを構成するアルカリ金属、アルカリ土類金属、又は有機アミンとしては、式(1)のM,Mを構成するアルカリ金属、アルカリ土類金属、又は有機アミンとして例示したものが挙げられる。
【0037】
とR、AOとAO、及びMとMは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
リン酸エステル(Pd)は、下記の式(4)に示される化合物である。
【0038】
【化8】
(式(4)中において、
,R,R:炭素数3以上5以下の炭化水素基。
O,AO,AO:炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基。
n6,n7,n8:0以上3以下の整数。)
これらのリン酸エステル(Pd)は、一種類を単独で使用してもよいし、又は二種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0039】
,R,又はRを構成する炭素数3以上5以下の炭化水素基としては、式(1)のRを構成する炭素数3以上5以下の炭化水素基として例示したものが挙げられる。
O,AO,又はAOを構成するアルキレンオキシ基としては、式(1)のAOを構成するアルキレンオキシ基として例示したものが挙げられる。
【0040】
とRとR、及びAOとAOとAOは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
無機リン酸(Pi)としては、塩を形成していないオルトリン酸、ピロリン酸、五酸化二リン酸等の塩を形成していない無機リン酸であっても、無機リン酸塩であってもよい。無機リン酸塩の具体例としては、例えばリン酸三カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カルシウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カルシウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カルシウム、ピロリン酸カリウム、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カルシウム等が挙げられる。
【0041】
これらの無機リン酸(Pi)は、一種類を単独で使用してもよいし、又は二種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
リン酸エステル(Pa)、及び無機リン酸(Pi)のそれぞれに帰属されるP核NMR積分値をNPa、NPiとして表した際、NPaに対するNPiの比率(NPi/NPa)の下限は、0.6以上、好ましくは1.0以上である。かかる比率が0.6以上の場合、処理剤の乳化安定性を向上できる。また、処理剤が付与された繊維のカード通過性を向上できる。また、P核NMR積分値NPaに対するNPiの比率(NPi/NPa)の上限は、好ましくは4.0以下である。かかる比率が4.0以下の場合、処理剤が付与された繊維のカード通過性を向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0042】
なお、P核NMR積分値は、リン酸化合物(P)をアルカリ過中和前処理した際のP核NMR測定において、前記リン酸エステル(Pa)、前記リン酸エステル(Pb)、前記リン酸エステル(Pc)、前記リン酸エステル(Pd)、及び無機リン酸(Pi)に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%として求められる。
【0043】
上記「アルカリ過中和前処理」とは、リン酸化合物(P)に対して過剰量のアルカリを添加する前処理を意味する。なお、アルカリの具体例としては、特に限定されず、例えば有機アミン、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物等が挙げられる。また、リン酸化合物(P)を合成する場合に使用したアルカリと同じであってもよく、異なっていてもよい。有機アミンの具体例としては、上述したリン酸化合物(P)を構成する有機アミンで例示したものが挙げられる。アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0044】
31P-NMRの測定において、この「アルカリ過中和前処理」を行うことで、リン酸エステル(Pa)、リン酸エステル(Pb)、リン酸エステル(Pc)、リン酸エステル(Pd)、及び無機リン酸(Pi)に帰属されるピークを明瞭に分けることができ、下記数式(1)~数式(5)による各化合物に帰属されるP核積分比率の計算が可能となる。
【0045】
リン酸エステル(Pa)に帰属されるP核NMR積分比率は、下記の数式(1)で示される。リン酸エステル(Pb)に帰属されるP核NMR積分比率は、下記の数式(2)で示される。リン酸エステル(Pc)に帰属されるP核NMR積分比率は、下記の数式(3)で示される。リン酸エステル(Pd)に帰属されるP核NMR積分比率は、下記の数式(4)で示される。無機リン酸(Pi)に帰属されるP核NMR積分比率は、下記の数式(5)で示される。
【0046】
【数1】
(数式(1)において、
Pa(%):リン酸エステル(Pa)に帰属されるP核NMR積分比率、
Pa:リン酸エステル(Pa)に帰属されるP核NMR積分値、
Pb:リン酸エステル(Pb)に帰属されるP核NMR積分値、
Pc:リン酸エステル(Pc)に帰属されるP核NMR積分値、
Pd:リン酸エステル(Pd)に帰属されるP核NMR積分値、
Pi:無機リン酸(Pi)に帰属されるP核NMR積分値。)
【0047】
【数2】
(数式(2)において、
Pb(%):リン酸エステル(Pb)に帰属されるP核NMR積分比率、
Pa:リン酸エステル(Pa)に帰属されるP核NMR積分値、
Pb:リン酸エステル(Pb)に帰属されるP核NMR積分値、
Pc:リン酸エステル(Pc)に帰属されるP核NMR積分値、
Pd:リン酸エステル(Pd)に帰属されるP核NMR積分値、
Pi:無機リン酸(Pi)に帰属されるP核NMR積分値。)
【0048】
【数3】
(数式(3)において、
Pc(%):リン酸エステル(Pc)に帰属されるP核NMR積分比率、
Pa:リン酸エステル(Pa)に帰属されるP核NMR積分値、
Pb:リン酸エステル(Pb)に帰属されるP核NMR積分値、
Pc:リン酸エステル(Pc)に帰属されるP核NMR積分値、
Pd:リン酸エステル(Pd)に帰属されるP核NMR積分値、
Pi:無機リン酸(Pi)に帰属されるP核NMR積分値。)
【0049】
【数4】
(数式(4)において、
Pd(%):リン酸エステル(Pd)に帰属されるP核NMR積分比率、
Pa:リン酸エステル(Pa)に帰属されるP核NMR積分値、
Pb:リン酸エステル(Pb)に帰属されるP核NMR積分値、
Pc:リン酸エステル(Pc)に帰属されるP核NMR積分値、
Pd:リン酸エステル(Pd)に帰属されるP核NMR積分値、
Pi:無機リン酸(Pi)に帰属されるP核NMR積分値。)
【0050】
【数5】
(数式(5)において、
Pi(%):無機リン酸(Pi)に帰属されるP核NMR積分比率、
Pa:リン酸エステル(Pa)に帰属されるP核NMR積分値、
Pb:リン酸エステル(Pb)に帰属されるP核NMR積分値、
Pc:リン酸エステル(Pc)に帰属されるP核NMR積分値、
Pd:リン酸エステル(Pd)に帰属されるP核NMR積分値、
Pi:無機リン酸(Pi)に帰属されるP核NMR積分値。)
処理剤中において、上記式(5)に示されるリン酸エステル(Pa)、リン酸エステル(Pb)、リン酸エステル(Pc)、リン酸エステル(Pd)、及び無機リン酸(Pi)に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、無機リン酸(Pi)に帰属されるP核NMR積分比率(NPi(%))の下限は、25%以上であることが好ましい。かかる範囲に規定されることにより、処理剤の乳化安定性をより向上できる。また、上記式(5)に示される無機リン酸(Pi)に帰属されるP核NMR積分比率(NPi(%))の上限は、50%以下であることが好ましい。かかる範囲に規定されることにより、処理剤が付与された繊維のカード通過性を向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。また、本発明では、上記式(5)に示される無機リン酸(Pi)に帰属されるP核NMR積分比率(N Pi (%))の上限は、55%以下である。
【0051】
処理剤中において、上記式(3)に示されるリン酸エステル(Pa)、リン酸エステル(Pb)、リン酸エステル(Pc)、リン酸エステル(Pd)、及び無機リン酸(Pi)に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、リン酸エステル(Pc)に帰属されるP核NMR積分比率(NPc(%))の下限は、15%以上であることが好ましい。かかる範囲に規定されることにより、処理剤が付与された繊維のカード通過性を向上できる。また、上記式(3)に示されるリン酸エステル(Pc)に帰属されるP核NMR積分比率(NPc(%))の上限は、45%以下であることが好ましい。かかる範囲に規定されることにより、処理剤の乳化安定性をより向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0052】
処理剤中において、上記式(1)に示されるリン酸エステル(Pa)、リン酸エステル(Pb)、リン酸エステル(Pc)、リン酸エステル(Pd)、及び無機リン酸(Pi)に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、リン酸エステル(Pa)に帰属されるP核NMR積分比率(NPa(%))の下限は、5%以上である。かかる範囲に規定されることにより、本発明の効果をより向上できる。また、上記式(1)に示されるリン酸エステル(Pa)に帰属されるP核NMR積分比率(NPa(%))の上限は、20%未満であることが好ましい。かかる範囲に規定されることにより、処理剤が付与された繊維の撥水性をより向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0053】
処理剤中において、上記式(2)に示されるリン酸エステル(Pa)、リン酸エステル(Pb)、リン酸エステル(Pc)、リン酸エステル(Pd)、及び無機リン酸(Pi)に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、リン酸エステル(Pb)に帰属されるP核NMR積分比率(NPb(%))の下限は、10%以上であることが好ましい。かかる範囲に規定されることにより、本発明の効果をより向上できる。また、上記式(2)に示されるリン酸エステル(Pb)に帰属されるP核NMR積分比率(NPb(%))の上限は、45%未満であることが好ましい。かかる範囲に規定されることにより、本発明の効果をより向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0054】
リン酸化合物(P)は、原料アルコールとして炭素数3以上5以下の脂肪族アルコールに、例えば五酸化二燐を反応させてリン酸エステルを得た後、必要によりリン酸エステルを水酸化カリウム等のアルカリで中和又は過中和することにより得られる。前記の合成方法の場合、リン酸エステル化合物は通常、リン酸エステルPa、リン酸エステルPb、リン酸エステルPc、及び無機リン酸Piとなる。また、リン酸エステルPa、リン酸エステルPb、リン酸エステルPc、及び無機リン酸Piをそれぞれ合成したものを混合して調製してもよい。
【0055】
処理剤中のリン酸化合物(P)の含有割合の下限は、適宜設定されるが、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上である。かかる含有割合が70質量%以上の場合、処理剤が付与された繊維のカード通過性を向上できる。かかるリン酸化合物(P)の含有割合の上限は、適宜設定されるが、好ましくは99質量%以下、より好ましくは97質量%以下である。かかる含有割合が99質量%以下の場合、繊維に対する処理剤の濡れ性を向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0056】
(アルコール(A))
本実施形態において供されるアルコール(A)は、炭素数3以上6以下の1~3価アルコールである。アルコール(A)としては、飽和脂肪族アルコールであってもよく、不飽和脂肪族アルコール、芳香族系アルコールであってもよい。アルコール(A)を構成する炭化水素基としては、直鎖状であっても、分岐鎖構造を有してもよい。また、第1級アルコールであっても、第2級アルコールであってもよい。
【0057】
1価アルコールの具体例としては、例えば、(1)プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノールの直鎖アルキルアルコール、(2)イソブタノール、イソペンタノール、イソヘキサノールの分岐アルキルアルコール、(3)プロペノール、ブテノール、ペンテノール、ヘキセノールの直鎖アルケニルアルコール、(4)イソブテノール、イソペンテノール、イソヘキセノールの分岐アルケニルアルコール、(5)シクロペンタノール、シクロヘキサノール等の環状アルキルアルコール、(6)フェノール等の芳香族系アルコール等が挙げられる。
【0058】
2価アルコールの具体例としては、例えば1,3-ブタンジオール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等が挙げられる。
【0059】
3価アルコールの具体例としては、例えばグリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,3-ブタントリオール、1,2,4-ブタントリオール、2-メチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、1,2,3-ペンタトリオール、1,2,4-ペンタトリオール等が挙げられる。
【0060】
これらアルコール(A)は、一種類を単独で使用してもよいし、又は二種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
処理剤中のアルコール(A)の含有割合の下限は、適宜設定されるが、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上である。かかる含有割合が1質量%以上の場合、繊維に対する処理剤の濡れ性を向上できる。かかるアルコール(A)の含有割合の上限は、適宜設定されるが、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。かかる含有割合が30質量%以下の場合、処理剤が付与された繊維のカード通過性を向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0061】
処理剤中において、リン酸化合物(P)及びアルコール(A)の含有割合の合計を100質量%とすると、リン酸化合物(P)を80質量%以上97質量%以下、及びアルコール(A)を3質量%以上20質量%以下の割合で含有することが好ましい。かかる範囲に規定することにより、本発明の効果をより向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。また、本発明では、処理剤中においてリン酸化合物(P)及びアルコール(A)の含有割合の合計を100質量%とすると、リン酸化合物(P)を70質量%以上98.7質量%以下、及びアルコール(A)を1.3質量%以上30質量%以下の割合で含有する。
【0062】
(酸価)
処理剤の酸価の下限は、0.5mgKOH/g以上、好ましくは10mgKOH/g以上である。酸価の下限が0.5mgKOH/g以上の場合、本発明の効果をより向上できる。処理剤の酸価の上限は、100mgKOH/g以下である。酸価の下限が100mgKOH/g以下の場合、特に処理剤の乳化安定性を向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0063】
なお、処理剤の酸価(KOHmg/g)は、以下の式により表される。
処理剤をイオン交換水に溶解させて、試料溶液を作製した。作製した試料溶液を公知の電位差測定装置にセットして、0.1mol/Lの水酸化カリウムメタノール標準溶液で滴定した。下記の式を用いて、処理剤の酸価を算出した。
【0064】
処理剤の酸価(KOHmg/g)=(R×f×56.11×0.1)/S
f:0.1mol/Lの水酸化カリウムメタノール標準溶液のファクター
S:試料採取量(g、固形分換算量)
R:変曲点までの0.1mol/Lの水酸化カリウムメタノール標準溶液の使用量(mL)
また、処理剤が水等の溶媒と混合されている場合、混合物の酸価から混合物中の処理剤の含有割合を除することで、処理剤の酸価を算出することも可能である。混合物中の処理剤の含有割合は、混合物を加熱処理して溶媒を除去した際の混合物の質量減少量から算出できる。
【0065】
(溶媒)
本実施形態の処理剤は、必要により溶媒を配合してもよい。溶媒としては、水、有機溶媒が挙げられる。有機溶媒の具体例としては、エタノール、プロパノール等の低級アルコール等、ヘキサン、ノルマルパラフィン等の低極性溶媒が挙げられる。これらの溶媒は、1種類を単独で使用してもよいし、又は2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。これらの中で、各成分の分散性又は溶解性に優れ、ハンドリング性に優れる観点から水が好ましい。
【0066】
(用途)
本実施形態の処理剤は、不織布の用途に適用される。本実施形態の処理剤が表面に付着している処理済み不織布を得ることができれば、不織布製造前の繊維表面に処理剤を付着させてもよく、不織布製造後の繊維表面に処理剤を付着させてもよい。
【0067】
繊維の種類は、特に限定されず、例えば短繊維、長繊維等が挙げられる。短繊維及び長繊維のいずれの繊維用途としても適用できる。短繊維は、一般にステープルと呼ばれるものが該当し、一般にフィラメントと呼ばれる長繊維を含まないものとする。また、短繊維の長さは、本技術分野において短繊維に該当するものであれば特に限定されないが、例えば100mm以下、好ましくは30mm以上70mm以下である。繊維は、以下の合成繊維より構成されてもよい。
【0068】
合成繊維の具体例としては、(1)ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリブテン繊維等のポリオレフィン系繊維、(2)ポリエチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリエチレンテレフタラート・イソフタラート、ポリエーテルポリエステル等のポリエステル系繊維、(3)ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、(4)複合繊維のうち、芯鞘構造の複合繊維であって芯、鞘部のいずれか又は両者がポリオレフィン系繊維である複合繊維、例えば鞘部がポリエチレン繊維であるポリエチレン/ポリプロピレン複合繊維、ポリエチレン/ポリエステル複合繊維、若しくはサイドバイサイド構造を有するポリエチレン/ポリプロピレン複合繊維、ポリエチレン/ポリエステル複合繊維等が挙げられる。これらの中でも、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリブテン繊維等のポリオレフィン系繊維、芯鞘構造の複合繊維であって芯、鞘部のいずれか又は両者がポリオレフィン系繊維である複合繊維、例えば鞘部がポリエチレン繊維であるポリエチレン/ポリプロピレン複合繊維、ポリエチレン/ポリエステル複合繊維、若しくはサイドバイサイド構造を有するポリエチレン/ポリプロピレン複合繊維、ポリエチレン/ポリエステル複合繊維等のポリオレフィン系合成繊維であることが好ましい。ここで、ポリオレフィン系合成繊維とは、オレフィンやアルケンをモノマーとして合成された合成繊維を意味するものとする。
【0069】
不織布の種類としては、特に限定されないが、例えばスパンボンド等が挙げられる。また、スパンボンド法以外のウェブ形成方式としては、例えば、原料繊維が短繊維の場合において、カード方式やエアレイド方式等の乾式法や、抄紙方式等の湿式法が挙げられる。また、原料繊維が長繊維の場合において、メルトブローン法やフラッシュ紡糸法が挙げられる。また、繊維間結合方式としては、ケミカルボンド法、サーマルボンド法、ニードルパンチ法、スパンレース法、スティッチボンド法等が挙げられる。
【0070】
(本実施形態の効果)
第1実施形態の処理剤の効果について説明する。
(1-1)上記第1実施形態の処理剤では、上述したリン酸化合物(P)及びアルコール(A)を含み、酸価を0.5mgKOH/g以上100mgKOH/g以下の範囲に構成した。したがって、撥水性を付与するための処理剤において、処理剤の乳化安定性を向上できる。特に、硬水に対する乳化安定性を向上できる。
【0071】
また、撥水性を有する繊維の撥水機能を維持することができる。それにより、かかる繊維より得られた不織布の機能性を維持できる。
また、撥水性を付与するための不織布用処理剤において、繊維に対する処理剤の濡れ性を向上できる。それにより、処理剤を繊維に対して均一に付与できる。
【0072】
また、処理剤が付与された繊維をカードに通過させて不織布を得る場合、カード通過性を向上できる。それにより、均一性に優れた不織布が得られる。
(1-2)上記式(5)に示される無機リン酸(Pi)に帰属されるP核NMR積分比率(NPi(%))が25%以上である場合、したがって、処理剤の乳化安定性をより向上できる。
【0073】
(1-3)上記式(3)に示されるリン酸エステル(Pc)に帰属されるP核NMR積分比率(NPc(%))が15%以上である場合、処理剤が付与された繊維のカード通過性を向上できる。
【0074】
(1-4)上記式(1)に示される前記リン酸エステル(Pa)に帰属されるP核NMR積分比率(NPa(%))が20%未満である場合、処理剤が付与された繊維の撥水性をより向上できる。
【0075】
<第2実施形態>
本発明に係る繊維を具体化した第2実施形態について説明する。本実施形態の繊維は、第1実施形態の処理剤が表面に付着している処理済み繊維である。処理剤が繊維の表面に付着することにより改質繊維が得られる。繊維の用途及び種類としては、第1実施形態において挙げたものと同様である。
【0076】
(処理剤の付着処理)
第1実施形態の処理剤を繊維に付着させる割合に特に制限はないが、溶媒を含まない処理剤として繊維に対し0.1質量%以上2質量%以下となるように付着させることが好ましく、0.2質量%以上1.2質量%以下となるように付着させることがより好ましい。
【0077】
処理剤が使用される場合、第1実施形態の処理剤、及び水等の溶媒を含有する処理剤含有組成物又はさらに溶媒で希釈した希釈液が用いられる。処理剤を繊維に付着させる方法としては、例えば、公知の方法、例えば浸漬法、スプレー法、ローラー法、計量ポンプを用いたガイド給油法等によって付着させる方法を適用できる。また、処理剤を不織布に付着させる工程としては、例えば浸漬法、噴霧法、ロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター等が挙げられる。
【0078】
(本実施形態の効果)
第2実施形態の繊維の効果について説明する。第2実施形態では、上記実施形態の効果に加えて、以下の効果を有する。
【0079】
(2-1)本実施形態の繊維では、第1実施形態の処理剤が付着している。したがって、繊維に撥水性が付与された不織布が得られる。よって、それらの機能向上が求められる衛材分野、医療分野、土木分野等の用途に好適に適用することができる。
【0080】
また、処理剤が付与された繊維は、カード通過性が向上している。そのため、均一性に優れた不織布が得られる。また、繊維に対する処理剤の濡れ性が向上している。そのため、処理剤が繊維に対して均一に付与された不織布が得られる。
【0081】
(変更例)
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
【0082】
・上記実施形態の各処理剤、組成物、又は希釈液には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、各処理剤等の品質保持のため、その他の成分として、溶媒、安定化剤、制電剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、pH調整剤等の通常処理剤等に用いられる成分がさらに配合されてもよい。なお、溶媒以外の通常処理剤等に用いられるその他の成分は、本発明の効能を効率的に発揮する観点から各処理剤中において10質量%以下が好ましい。また、その他の成分を上述した各処理剤とは別剤として保存してもよい。
本発明においては、前記リン酸化合物(P)と前記アルコール(A)以外の化合物の含有比率が10質量%以下である。
【実施例
【0083】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0084】
試験区分1(処理剤の調製)
(実施例1)
実施例1の処理剤は、リン酸化合物(P)として下記表1に示されるリン酸化合物(P-1)を92.5部、アルコール(A)として1-プロパノール(A-1)7.5部を容器に投入し、よく混合することにより、実施例1の処理剤を調製した。
【0085】
(実施例2~25、比較例1~6)
実施例2~25、比較例1~6の各処理剤は、表1に示される各成分を使用し、実施例1と同様の方法にて調製した。
【0086】
各例の処理剤中におけるリン酸化合物(P)の種類と含有量、及びアルコール(A)の種類と含有量は、表1の「リン酸化合物(P)」欄、及び「アルコール(A)」欄にそれぞれ示すとおりである。
【0087】
なお、処理剤の酸価は、実施形態欄の「酸価」欄に記載の方法で測定した。各例の処理剤の酸価は、表1の「酸価」欄に示すとおりである。
【0088】
【表1】
表1に記載するリン酸化合物(P)、アルコール(A)の詳細は以下のとおりである。
【0089】
(リン酸化合物(P))
下記表2に示されるリン化合物(P-1)~(P-12)、(rP-1)~(rP-4)を使用した。
【0090】
【表2】
表2に示される「種類」欄において、式(1)~(4)に示されるリン酸エステル(Pa)、リン酸エステル(Pb)、リン酸エステル(Pc)、及びリン酸エステル(Pd)を構成する置換基、塩の種類を示す。
【0091】
リン酸エステル(Pa)、リン酸エステル(Pb)、リン酸エステル(Pc)、リン酸エステル(Pd)、及び無機リン酸(Pi)に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%とした場合におけるリン酸エステル(Pa)、リン酸エステル(Pb)、リン酸エステル(Pc)、リン酸エステル(Pd)、及び無機リン酸(Pi)に帰属されるP核積分比率(%)を、それぞれ「P核NMR積分比率」欄に示す。なお、表2中の「EO」はエチレンオキシ基を示す。
【0092】
リン酸化合物(P)の酸価を「酸価」欄に示す。なお、酸価は、実施形態欄の「酸価」欄に記載の方法で測定した。
リン酸エステル(Pa)、及び無機リン酸(Pi)のそれぞれに帰属されるP核NMR積分値NPaに対するNPiの比率(NPi/NPa)を「NPi/NPa」欄に示す。P核NMR測定方法を以下に示す。
【0093】
・P核NMR測定方法
各リン酸化合物(P)にKOHを加えてpHを12以上とすることにより前処理した。溶媒は、重水を用いた。31P-NMR(VALIAN社製の商品名MERCURY plus NMR Spectrometor System、300MHz、以下同じ)を用いた。
【0094】
得られたシグナルのうち、4ppm~10ppmに現れるシグナルの積分値が無機リン酸(Pi)中のP原子に対応する。
3ppm~7ppmに現れるシグナルの積分値がリン酸エステル(Pa)中のP原子に対応する。
【0095】
-1ppm~4ppmに現れるシグナルの積分値がリン酸エステル(Pb)中のP原子に対応する。
0ppm~-3ppmに現れるシグナルの積分値がリン酸エステル(Pd)中のP原子に対応する。
【0096】
-1ppm~-15ppmに現れるシグナルの積分値がリン酸エステル(Pc)中のP原子に対応する。
ただし、上記の値で範囲が重複してシグナルが検出されている場合、低磁場側から順に無機リン酸(Pi)、リン酸エステル(Pa)、リン酸エステル(Pb)、リン酸エステル(Pd)、リン酸エステル(Pc)に対応するP原子由来のシグナルが検出される。
【0097】
(アルコール(A))
A-1:1-プロパノール
A-2:プロピレングリコール
A-3:グリセリン
A-4:1-ブタノール
A-5:2-メチル-1-プロパノール
A-6:1,3-ブタンジオール
A-7:1-ペンタノール
rA-1:1-ヘキサデカノール
試験区分2(処理剤の5%希釈液の調製)
各例の処理剤を、約60℃に加温したイオン交換水に撹拌下で加え、完全に溶解させることで、各例の処理剤の5%希釈液を調製した。
【0098】
試験区分3(濡れ性の評価)
上記で得られた処理剤の5%希釈液を室温のイオン交換水に撹拌下で加え、1%希釈液を調製した。処理剤の付与されていないポリプロピレン不織布に各例の処理剤の1%エマルション(水溶液)を5μL滴下し、完全に浸透するまでの時間を記録した。結果を表1の「濡れ性」欄に示す。
【0099】
・濡れ性の評価基準
3(良好):60秒未満で浸透
2(可):60秒以上120秒未満
1(不良):120秒以上
試験区分4(撥水性の評価)
上記で得られた処理剤の5%希釈液をイオン交換水でさらに希釈し、0.4%希釈液を調製した。調製した処理剤の0.4%水溶液を製綿工程で得られた繊度2.2dtexで繊維長38mmの鞘部がポリエチレンであり、芯部がポリエステルである複合繊維(PE/PET)に、処理剤としての付着量が0.4%となるようにスプレー給油法で付着させた。
【0100】
80℃の熱風乾燥機で1時間乾燥し、処理剤を付着させた処理済みPE/PET繊維を得た。乾燥後の短繊維20gを、温度25℃、湿度40%の条件下で、公知のミニチュアローラーカード機に供してウェブを形成した。このウェブに対して、約140℃の熱風を10秒間吹き付けて熱風処理を行い、繊維同士を結合させて目付25g/mの不織布を作製した。撥水性の評価は、JIS L 1092 7.1.1A法(低水圧法)による静水圧法に準拠して行った。ハイドロテスターとして、スイス・テクステスト社製(FX3000-III)を使用した試験環境は、温度20±2℃、湿度65±2%で行った。作製した不織布(約150mm×約150mm)を5枚採取し、不織布の表側に水が当たるようにハイドロテスターに取り付けた。10cm/分の速さで水位を上昇させ、不織布の裏側に3滴目の水滴が現れた時の表示値(cmw.c.)を読み取った。この試験を5回行い、5回の平均値を算出した。耐水圧が高いほど撥水性が良いことを示す。結果を表1の「撥水性」欄に示す。
【0101】
・撥水性の評価基準
3(良好):耐水圧が5.0cmw.c.以上
2(可):耐水圧が3.0cmw.c.以上5.0cmw.c.未満
1(不良):耐水圧が3.0cmw.c.未満
試験区分5(カード通過性の評価)
上述した給油済みのPE/PET繊維30gを用いて、25℃×40%RHの雰囲気下で小型ローラーカードを通した。カード通過性を、紡出されるカードウェブの均一性として以下の基準で評価した。結果を表1の「カード通過性」欄に示す。
【0102】
・カード通過性の評価基準
3(良好):ウェブの厚みが均一であり、見た目が非常に良好である場合
2(可):ウェブに若干の厚みが不均一な部分が見られるが、問題にならない場合
1(不良):ウェブの厚みが不均一である場合
試験区分6(乳化安定性の評価)
処理剤1部と硬水99部を均一混合して、1%硬水希釈液を調製した。硬水は、25℃で測定した際の電気伝導度が130μS/cmの水を使用した。調製した1%硬水希釈液を25℃、24時間静置した。静置後の処理剤の1%硬水希釈液の外観で乳化安定性を評価した。結果を表1の「乳化安定性」欄に示す。
【0103】
・乳化安定性の評価基準
3(良好):析出粒子が全く観察されない場合
2(可):析出粒子がわずかに観察される場合
1(不良):析出粒子が観察され、分散、又は沈殿している場合
上記表の結果から、本発明によれば、撥水性を付与するための処理剤において、乳化安定性を向上できるとともに、繊維に対する処理剤の濡れ性を向上できる。また、処理剤が付与された繊維のカード通過性を向上できる。
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について以下に追記する。
態様1の不織布用処理剤は、下記のリン酸化合物(P)、及び下記のアルコール(A)を含有する不織布用処理剤であって、下記のリン酸エステル(Pa)、及び下記の無機リン酸(Pi)のそれぞれに帰属されるP核NMR積分値N Pa 、N Pi の比率(N Pi /N Pa )が0.6以上であり、前記不織布用処理剤の酸価が0.5mgKOH/g以上100mgKOH/g以下であることを特徴とする。
リン酸化合物(P):上記の式(1)に示されるリン酸エステル(Pa)、上記の式(2)に示されるリン酸エステル(Pb)、及び無機リン酸(Pi)を含有し、更に任意選択で上記の式(3)に示されるリン酸エステル(Pc)、及び上記の式(4)に示されるリン酸エステル(Pd)から選ばれる少なくとも一つを含有するリン酸化合物。
アルコール(A):炭素数3以上6以下の1~3価アルコール。
態様2は、態様1に記載の不織布用処理剤において、前記リン酸エステル(Pa)、前記リン酸エステル(Pb)、前記リン酸エステル(Pc)、前記リン酸エステル(Pd)、及び前記無機リン酸(Pi)に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記無機リン酸(Pi)に帰属されるP核NMR積分比率が25%以上である。
態様3は、態様1又は2に記載の不織布用処理剤において、前記リン酸エステル(Pa)、前記リン酸エステル(Pb)、前記リン酸エステル(Pc)、前記リン酸エステル(Pd)、及び前記無機リン酸(Pi)に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステル(Pc)に帰属されるP核NMR積分比率が15%以上である。
態様4は、態様1~3のいずれか一態様に記載の不織布用処理剤において、前記リン酸エステル(Pa)、前記リン酸エステル(Pb)、前記リン酸エステル(Pc)、前記リン酸エステル(Pd)、及び前記無機リン酸(Pi)に帰属されるP核NMR積分比率の合計を100%としたとき、前記リン酸エステル(Pa)に帰属されるP核NMR積分比率が20%未満である。
態様5は、態様1~4のいずれか一態様に記載の不織布用処理剤において、前記リン酸化合物(P)、及び前記アルコール(A)の含有割合の合計を100質量%とすると、前記リン酸化合物(P)を80質量%以上97質量%以下、及び前記アルコール(A)を3質量%以上20質量%以下の割合で含有する。
態様6の繊維は、態様1~5のいずれか一態様に記載の不織布用処理剤が付着していることを特徴とする。
【要約】
【課題】撥水性を付与するための不織布用処理剤において、乳化安定性を向上できるとともに、繊維に対する不織布用処理剤の濡れ性を向上できる不織布用処理剤、及びそれを用いた繊維を提供する。
【解決手段】本発明の不織布用処理剤は、下記のリン酸化合物(P)、及び下記のアルコール(A)を含有する不織布用処理剤であって、下記のリン酸エステル(Pa)、及び下記の無機リン酸(Pi)のそれぞれに帰属されるP核NMR積分値NPa、NPiの比率(NPi/NPa)が0.6以上であり、前記不織布用処理剤の酸価が0.5mgKOH/g以上100mgKOH/g以下である。
リン酸化合物(P)は、所定の式に示されるリン酸エステル(Pa)、リン酸エステル(Pb)、無機リン酸(Pi)等を含有するリン酸化合物である。
アルコール(A)は、炭素数3以上6以下の1~3価アルコールである。
【選択図】なし