(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-27
(45)【発行日】2025-03-07
(54)【発明の名称】電気化学素子用セパレータ
(51)【国際特許分類】
H01M 50/426 20210101AFI20250228BHJP
H01M 50/451 20210101ALI20250228BHJP
H01M 50/454 20210101ALI20250228BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20250228BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20250228BHJP
H01M 50/44 20210101ALI20250228BHJP
H01M 50/446 20210101ALI20250228BHJP
H01G 11/52 20130101ALI20250228BHJP
H01M 10/0566 20100101ALN20250228BHJP
【FI】
H01M50/426
H01M50/451
H01M50/454
H01M50/434
H01M50/443 M
H01M50/44
H01M50/446
H01G11/52
H01M10/0566
(21)【出願番号】P 2020203379
(22)【出願日】2020-12-08
【審査請求日】2023-10-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】長 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】若元 佑太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】多羅尾 隆
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/017354(WO,A1)
【文献】特開2011-165660(JP,A)
【文献】特開2000-340217(JP,A)
【文献】特開2000-311684(JP,A)
【文献】特開2016-178083(JP,A)
【文献】特開2016-111001(JP,A)
【文献】特開2004-253380(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-50/497
H01G 11/52
H01M 10/0566
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維構造体と無機粒子、ならびに、前記繊維構造体における一方の主面に前記無機粒子を担持しているバインダ成分とを備える、電気化学素子用セパレータであって、
前記繊維構造体における前記一方の主面の比表面積は、前記繊維構造体におけるもう一方の主面の比表面積よりも小さく、
前記バインダ成分が
ポリフッ化ビニリデン系樹脂を含んでおり、
前記一方の主面側に存在する前記樹脂の量が、前記もう一方の主面側に存在する前記樹脂の量よりも多い、
電気化学素子用セパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学素子用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気化学素子には熱安定性に富むと共に、電気出力特性に優れるよう電極間の電気抵抗が低いという特性が求められている。
【0003】
この要望を満たす電気化学素子を提供可能な電気化学素子用セパレータを実現するため、本願出願人はこれまで、電気化学素子用セパレータにおける孔径分布の最適化に着目して検討を行った。具体例として、国際公開WO2019/017354(特許文献1)では、パルプ状繊維を含有する第一繊維層部分と、別の第二繊維層部分を備える積層構造を採用することによって、孔径分布を最適化した電気化学素子用セパレータを提案するに至った。なお、特許文献1の実施例6~8においては、熱安定性の向上も目的として、第二繊維層部分側にポリアクリル酸樹脂バインダで無機粒子を担持してなる、電気化学素子用セパレータを調製した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2019/017354(特許請求の範囲、実施例、0087など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本願出願人が検討を続けた結果、特許文献1が開示するような従来技術にかかる電気化学素子用セパレータは、なおも通イオン特性に劣り内部抵抗が高いことがあり、電気出力特性に優れる電気化学素子を提供できないことがあった。
【0006】
この問題の発生原因を検討したところ、次の現象が発生しているためだと考えられた。上述した従来技術にかかる電気化学素子用セパレータにおいて、第一繊維層部分は繊維径の細いパルプ状繊維が存在しているため比表面積が大きく、電解液を保持し易い構造を有している。それに比べ第二繊維層部分は比表面積が小さく、電解液を保持し難い構造を有している。そのため、このような構造を有する第一繊維層部分と第二繊維層部分を備えた繊維構造体からなる電気化学素子用セパレータを用いて電気化学素子を調製した場合、当該繊維構造体における比表面積の小さい主面側(第二繊維層部分)に存在する電解液が、比表面積の大きい主面側(第一繊維層部分)へ引き寄せられる傾向がある。
【0007】
その結果、当該繊維構造体における比表面積の小さい主面側に存在する電解液の量が低下することで、電気化学素子用セパレータに電解液の偏りが発生すると考えられる。そのため、従来技術にかかる電気化学素子用セパレータを用いる限り、意図した通イオン特性が発揮されず内部抵抗が高くなり、電気出力特性に優れる電気化学素子を提供することが困難であると考えられた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
「繊維構造体と無機粒子、ならびに、前記繊維構造体における一方の主面に前記無機粒子を担持しているバインダ成分とを備える、電気化学素子用セパレータであって、
前記繊維構造体における前記一方の主面の比表面積は、前記繊維構造体におけるもう一方の主面の比表面積よりも小さく、
前記バインダ成分がポリフッ化ビニリデン系樹脂を含んでおり、
前記一方の主面側に存在する前記樹脂の量が、前記もう一方の主面側に存在する前記樹脂の量よりも多い、
電気化学素子用セパレータ。」
である。
【発明の効果】
【0009】
本願出願人が検討した結果、「繊維構造体と無機粒子、ならびに、前記繊維構造体における一方の主面に前記無機粒子を担持しているバインダ成分とを備える、電気化学素子用セパレータであって、前記繊維構造体における前記一方の主面の比表面積は、前記繊維構造体におけるもう一方の主面の比表面積よりも小さい」電気化学素子用セパレータにおいて、本発明の構成を満足することによって、上述の問題を解決できることを見出した。この理由として、以下の効果が発揮されているためだと考えられる。
【0010】
ゲル電解質を構成可能な樹脂は、燃料電池の電解質膜を構成可能な樹脂など、電気化学素子を調製する際に使用される周知の電解液を吸収し保持できる樹脂である。そのため、電気化学素子用セパレータを構成する繊維構造体における、比表面積の小さい主面側に前記樹脂を含むバインダ成分が存在することで、当該比表面積の小さい主面側に存在する電解液が前記樹脂へ吸収され保持され、当該比表面積の小さい主面側に存在する電解液が比表面積の大きい主面側へ引き寄せられるのを防止できると考えられる。
【0011】
また、電気化学素子用セパレータを構成する繊維構造体における、比表面積の小さい主面側に存在する前記樹脂の量が、比表面積の大きい主面側に存在する前記樹脂の量よりも多いことで、比表面積の小さい主面側に電解液を吸収し保持できる前記樹脂が多量に存在した状態にある。そのため、より効果的に、当該比表面積の小さい主面側に存在する電解液が比表面積の大きい主面側へ引き寄せられるのを防止できると考えられる。
【0012】
以上から、本発明によって、電気化学素子用セパレータを構成する繊維構造体における、比表面積の小さい主面側に存在する電解液の量が低下するのを防止できる。その結果、電気化学素子用セパレータに生じ得る電解液の偏りを低減化して、より電気出力特性に優れる電気化学素子を実現可能な電気化学素子用セパレータを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明では、例えば以下の構成など、各種構成を適宜選択できる。なお、本発明で説明する各種測定は特に記載や規定のない限り、大気下である常圧25℃温度条件下で測定を行った。そして、本発明で説明する各種測定結果は特に記載や規定のない限り、求める値よりも一桁小さな値まで測定で求め、当該一桁小さな値を四捨五入することで求める値を算出した。具体例として、小数第一位までが求める値である場合、測定によって小数第二位まで値を求め、得られた小数第二位の値を四捨五入することで小数第一位までの値を算出し、この値を求める値とした。また、本発明で例示する各上限値および各下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0014】
本発明に係る電気化学素子用セパレータにおいて、繊維構造体は電気化学素子用セパレータの主骨格を成す役割を担う。繊維構造体は、例えば、繊維ウェブや不織布、あるいは、織物や編物などシート状の布帛であることができる。特に、繊維構造体が繊維ウェブあるいは不織布であると、空隙率や開孔径が均一的であることによって、より電気出力特性に優れる電気化学素子を実現可能な、電気化学素子用セパレータを提供でき好ましい。
【0015】
繊維構造体はこれら一種類の布帛のみから構成されていても、複数および/または複数種類の布帛が積層することで構成されていてもよい。なお、積層態様は適宜選択でき、ただ重ね合わされているだけの態様、布帛同士の層間が接着剤で一体化している態様、各布帛の構成繊維同士が層間を超え絡合することで一体化している態様、布帛の構成繊維が熱溶融することで繊維間接着がなされ布帛同士の層間が一体化している態様、布帛同士の層間が超音波接着などにより一体化している態様などであることができる。
【0016】
繊維構造体の構成繊維(以降、構成繊維と略すことがある)は、例えば、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、炭化水素の一部をニトリル基またはフッ素或いは塩素といったハロゲンで置換した構造のポリオレフィン系樹脂など)、スチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエーテル系樹脂(例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル樹脂など)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、二トリル基を有する樹脂(例えば、ポリアクリロニトリルなど)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスルホン系樹脂(例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、フッ素系樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、セルロース系樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アクリル系樹脂(例えば、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルなどを共重合したポリアクリロニトリル系樹脂、アクリロニトリルと塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合したモダアクリル系樹脂など)など、公知の樹脂を用いて構成できる。なお、これらの樹脂は、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わず、また樹脂がブロック共重合体やランダム共重合体でも構わず、また樹脂の立体構造や結晶性の有無がいかなるものでも、特に限定されるものではない。更には、多成分の樹脂を混ぜ合わせたものでも良い。
【0017】
構成繊維は、一種類の樹脂から構成されてなるものでも、複数種類の樹脂から構成されてなるものでも構わない。複数種類の樹脂から構成されてなる繊維として、一般的に複合繊維と称される、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、オレンジ型、バイメタル型などの態様であることができる。
【0018】
繊維構造体が熱融着性繊維を含んでいる場合には、構成繊維同士を熱融着することによって強度と形態安定性を向上できる。このような熱融着性繊維は、全融着型の熱融着性繊維であっても良く、上述した複合繊維のような態様の一部融着型の熱融着性繊維であっても良い。熱融着性繊維において熱融着性を発揮する成分(樹脂)として、例えば、低融点ポリオレフィン系樹脂や低融点ポリエステル系樹脂を含む熱融着性繊維などを適宜選択して使用することができる。
【0019】
これらの構成繊維は、略円形の繊維や楕円形の繊維以外にも異形断面繊維を含んでいてもよい。なお、異形断面繊維として、中空形状、三角形形状などの多角形形状、Y字形状などのアルファベット文字型形状、不定形形状、多葉形状、アスタリスク形状などの記号型形状、あるいはこれらの形状が複数結合した形状などの繊維断面を有する繊維であってもよい。
【0020】
また、構成繊維として、機械的剪断力などによって1本の繊維から無数の微細繊維(フィブリル)が発生したパルプ状繊維を含んでいてもよい。パルプ状繊維は表面積が大きいため、当該パルプ状繊維を含む布帛は緻密な構造となり易い。その結果、パルプ状繊維を構成繊維に含む繊維構造体は開孔径が均一的かつ緻密になることで、より電気出力特性に優れる電気化学素子を実現可能な、電気化学素子用セパレータを提供でき好ましい。
【0021】
パルプ状繊維の濾水度は適宜調整できるが、濾水度が小さいほど繊維構造体が緻密となり、より電気出力特性に優れる電気化学素子を実現可能な、電気化学素子用セパレータを提供できる傾向がある。そのため、パルプ状繊維の濾水度は500mlCSF以下であるのが好ましく、400mlCSF以下であるのが好ましく、300mlCSF以下であるのが好ましい。一方、パルプ状繊維の濾水度の下限値は適宜選択するが、0.1mlCSF以上であるのが現実的である。なお、本発明において「濾水度」は、JIS P8121 カナダ標準ろ水度試験機により測定した値をいう。
【0022】
パルプ状繊維は上述した公知の樹脂を備えた繊維であることができるが、低水分率の電気化学素子用セパレータを提供し易いことから、アラミド樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル樹脂、液晶ポリエステル樹脂などのパルプ状繊維であるのが好ましい。更に、高い強度を有することで短絡し難く耐熱性に富む電気化学素子用セパレータを提供し易いことから、構成繊維としてアラミド樹脂のパルプ状繊維を含有しているのが好ましい。なお、繊維構造体はパルプ状繊維を一種類含有するものであっても、複数種類のパルプ状繊維を含有するものであってもよい。
【0023】
なお、パルプ状繊維以外のフィブリルが発生していない構成繊維(以降、ステープル繊維と称することがある)の繊度は特に限定するものではないが、開孔径が均一的かつ緻密な電気化学素子用セパレータを実現できるよう、5d以下であるのが好ましく、2d以下であるのが好ましく、1d以下であるのが好ましい。一方、繊度の下限値は適宜選択するが、0.01d以上であるのが現実的である。
【0024】
構成繊維の繊維長は特に限定するものではないが、開孔径が均一的かつ緻密な電気化学素子用セパレータを実現できるよう、短繊維と称する20mm以下であるのが好ましく、15mm以下であるのが好ましく、10mm以下であるのが好ましい。一方、繊維長の下限値は適宜選択するが、0.5mm以上であるのが現実的である。なお、「繊維長」は、JIS L1015(2010)、8.4.1c)直接法(C法)に則って測定した値をいう。
【0025】
構成繊維は、例えば、溶融紡糸法、乾式紡糸法、湿式紡糸法、直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法など)、複合繊維から一種類以上の樹脂成分を除去することで繊維径が細い繊維を抽出する方法、繊維を叩解して分割された繊維を得る方法など公知の方法により得ることができる。
【0026】
繊維ウェブや不織布は、例えば、上述の繊維をカード装置やエアレイ装置などに供することで繊維を絡み合わせる乾式法、繊維を溶媒に分散させシート状に抄き繊維を絡み合わせる湿式法、直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法、紡糸原液と気体流を平行に吐出して紡糸する方法(例えば、特開2009‐287138号公報に開示の方法)など)を用いて繊維の紡糸を行うと共にこれを捕集する方法、などによって調製できる。
【0027】
調製した繊維ウェブの構成繊維を絡合および/または一体化させて不織布を調製できる。構成繊維同士を絡合および/または一体化させる方法として、例えば、ニードルや水流によって絡合する方法、繊維ウェブを加熱処理へ供するなどして接着剤あるいは接着繊維によって構成繊維同士を接着一体化あるいは溶融一体化させる方法などを挙げることができる。なお、加熱処理の方法は適宜選択できるが、例えば、ロールにより加熱または加熱加圧する方法、オーブンドライヤー、遠赤外線ヒーター、乾熱乾燥機、熱風乾燥機などの加熱機へ供し加熱する方法、無圧下で赤外線を照射して含まれている樹脂を加熱する方法などを用いることができる。
【0028】
しかし、接着剤により繊維構造体の開孔が意図せず閉塞するのを防止できるよう、繊維接着によって構成繊維同士が接着してなる繊維構造体であるのが好ましい。繊維接着した構成繊維を備える繊維構造体を調製するため、構成繊維に接着繊維を含むのが好ましい。接着繊維の具体例として、高融点樹脂と低融点樹脂の芯鞘繊維やサイドバイサイド繊維などの複合繊維、あるいは、他の繊維の融点や軟化点よりも低い温度で融解あるいは軟化する樹脂のみで構成された未延伸繊維などを採用することができる。接着繊維により構成繊維が接着されることで、強度が向上することにより短絡し難い電気化学素子用セパレータを提供でき好ましい。
布帛が織物や編物である場合、上述のようにして調製した繊維を織るあるいは編むことで、織物や編物を調製できる。
【0029】
なお、繊維ウェブ以外にも不織布あるいは織物や編物など布帛を、上述した構成繊維同士を絡合および/または一体化させる方法へ供しても良い。
【0030】
開孔径が均一的かつ緻密になることで、より電気出力特性に優れる電気化学素子を実現可能な、電気化学素子用セパレータを提供し易いことから、本発明にかかる繊維構造体として、特に、パルプ状繊維を含み構成された第一繊維層部分と、ステープル繊維を第二繊維層部分の構成繊維の50質量%より多く含み構成された第二繊維層部分とが積層してなる、積層構造の不織布であるのが好ましい。
【0031】
なお、上述した構成を備える繊維構造体であると、繊維構造体における第二繊維層部分が露出している主面の比表面積が、第一繊維層部分が露出している主面の比表面積よりも小さくなり易い。そのため、当該構成を備える繊維構造体は、本発明にかかる繊維構造体となり易い。
【0032】
なお、ここいう主面とは、布帛や繊維構造体における広い面を指す。本発明では、具体的には繊維構造体における一方の広い面を一方の主面と称し、繊維構造体における前記主面と反対側に存在する主面をもう一方の主面と称する。
【0033】
第一繊維層部分の構成繊維(例えば、パルプ状繊維)の一部が、第二繊維層部分に入り込んでなる繊維構造体であると、両層が強固に一体化することで第一繊維層部分が第二繊維層部分によって効果的に補強されており、より短絡し難い電気化学素子を提供可能な電気化学素子用セパレータを提供でき好ましい。
【0034】
なお、第一繊維層部分および第二繊維層部分を備える繊維構造体における厚さ方向の断面を観察した際に、第一繊維層部分の構成繊維の一部が第二繊維層部分内に存在する場合(例えば、第一繊維層部分の構成繊維(例えば、パルプ状繊維)が、第一繊維層部分と第二繊維層部分の境界を超え、第一繊維層部分から第二繊維層部分へ侵入し存在している場合など)には、第一繊維層部分の構成繊維の一部が、第二繊維層部分に入り込んでなる繊維構造体であると判断できる。
【0035】
特に、第一繊維層部分の構成繊維(例えば、パルプ状繊維)の一部が、繊維構造体における第二繊維層部分側の主面上に露出するまで深く入り込んでいると、より短絡し難い電気化学素子を提供可能な電気化学素子用セパレータを提供でき好ましい。
【0036】
また、第一繊維層部分が構成繊維にパルプ状繊維を備えている場合、第一繊維層部分は他の構成繊維としてステープル繊維の短繊維を備えているのが好ましい。パルプ状繊維とステープル繊維の短繊維が絡み合った構造をしていることによって、構成繊維としてパルプ状繊維のみを備える構造よりも、強度が向上すると共にステープル繊維の短繊維の存在によって電極との積層や巻回時に電極表面から突出した部位が電気化学素子用セパレータを貫通するのを防止でき、短絡し難い電気化学素子を提供可能な電気化学素子用セパレータとなり好ましい。
【0037】
第一繊維層部分がパルプ状繊維を含んでいる場合、第一繊維層部分の構成繊維に占めるパルプ状繊維の質量百分率が多いほど、第一繊維層部分が緻密となり、よりハイレート放電に優れるなど電気出力特性に優れる電気化学素子を実現可能な、電気化学素子用セパレータを提供できる傾向がある。そのため、第一繊維層部分の構成繊維に占めるパルプ状繊維の質量百分率は10質量%以上であるのが好ましく、20質量%以上であるのがより好ましく、50質量%以上であるのがさらに好ましい。また、上限値は適宜調整するものであるが100質量%以下であって、95質量%以下であることができ、90質量%以下であることができる。
【0038】
繊維構造体の目付は適宜選択するが、1~50g/m2であることができ、2~40g/m2であることができ、3~30g/m2であることができる。
【0039】
繊維構造体の厚さは適宜選択するが、厚さが薄いことで内部抵抗が低い電気化学素子を提供可能な電気化学素子用セパレータとなるよう、厚さは150μm以下であるのが好ましく、100μm以下であるのが好ましく、50μm以下であるのが好ましい。一方、厚さが薄過ぎると強度が低下して、電気化学素子用セパレータに亀裂が生じ易くなる恐れがあることから、厚さは5μm以上であるのが現実的である。なお、本発明における「厚さ」は、JIS B7502:1994に規定されている外側マイクロメーター(0~25mm)を用いた5N荷重時の測定を、無作為に選んだ10点について行い、その算術平均値をいう。
【0040】
本発明にかかる繊維構造体では、一方の主面の比表面積が、もう一方の主面の比表面積よりも小さいものである。なお、本発明における「比表面積」とは、測定対象となる主面を有する測定対象物を真空中、温度70℃で4時間処理した後、室温冷却して1×10-3Torrまで真空引きした後、測定対象物における当該主面を構成する部分から採取した約0.5gの試料をガス吸着測定装置[日本ベル(株)製、BELSORP28A]へ供し、BET法により測定した値である。なお、吸着ガスとして、クリプトンを用いる。
【0041】
具体的には、繊維構造体の一方の主面から採取した試料の比表面積を測定することで、繊維構造体における一方の主面の比表面積を求め、繊維構造体のもう一方の主面から採取した試料の比表面積を測定することで、繊維構造体におけるもう一方の主面の比表面積を求める。
【0042】
また、パルプ状繊維はステープル繊維と比べ表面積が大きい繊維である。そのため、繊維構造体における一方の主面を構成する繊維組成に占めるパルプ状繊維の割合(繊維の本数や重量の割合など)が、もう一方の主面を構成する繊維組成に占めるパルプ状繊維の割合(繊維の本数や重量の割合など)よりも少ない場合、当該繊維構造体における一方の主面の比表面積は、もう一方の主面の比表面積よりも小さいものとなる。
【0043】
なお、繊維構造体における一方の主面の繊維組成と、もう一方の主面の繊維組成は、繊維構造体の両主面を撮影した電子顕微鏡写真を用いて、確認し比較できる。
【0044】
本発明に係る電気化学素子用セパレータにおいて、無機粒子は電気化学素子用セパレータの熱安定性を向上する役割を担う。更に、繊維構造体における無機粒子が存在している側の開孔径を均一的かつ緻密にできると共に、無機粒子間に電解液(および電解液を吸収し保持したゲル電解質を構成可能な樹脂)を存在させることができる。つまり、繊維構造体における無機粒子が存在している側に存在できる、電解液の量を多くする役目をも担う。そのため、無機粒子を備えた電気化学素子用セパレータを用いることで、より電気出力特性に優れる電気化学素子を実現可能である。
【0045】
本発明の電気化学素子用セパレータを構成する無機粒子の種類は、適宜選択できる。例えば、酸化鉄、SiO2(シリカ)、Al2O3(アルミナ)、アルミナ‐シリカ複合酸化物、TiO2、SnO2、BaTiO2、ZrO2、スズ‐インジウム酸化物(ITO)、チタン酸リチウム(LTO)などの酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの窒化物;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウムなどの難溶性のイオン結晶;シリコン、ダイヤモンドなどの共有結合性結晶;タルク、モンモリロナイトなどの粘土;ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカなどの鉱物資源由来物質またはそれらの人造物、および金属酸化物など無機成分の酸化物などを例示することができる。また、国際公開第2009/066916号(特表2011‐503828号)にも開示されているように、電気化学的に酸化及び還元反応をする電極活物質粒子(例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、炭素質材料、チタン酸リチウム(LTO)、シリコン(Si)及び錫(Sn)、またはこれらのうちの混合物からなる群より選択された、アノード活物質粒子など)を採用してもよい。
【0046】
本発明の電気化学素子用セパレータを構成する無機粒子の、一次粒子の平均粒子径(D50)は、無機粒子の種類、電気化学素子用セパレータに求める性能や特性によって適宜調整するが、10μm以下であることができ、8μm以下であることができ、5μm以下であることができ、下限値は適宜調整するが50nm以上であるのが現実的である。なお、「一次粒子の平均粒子径(D50)」とは、大塚電子(株)製FPRA1000(測定範囲3nm~5000nm)により、動的光散乱法で3分間の連続測定を行い、散乱強度から得られた粒子径測定データから求めた値をいう。より具体的には、粒子径測定を5回行い、その測定して得られた粒子径測定データを粒子径分布幅が狭い順番に並べ、3番目に粒子径分布幅が狭い値を示した粒子径測定データにおける、粒子の累積値50%点の粒子径を一次粒子の平均粒子径(以降、D50と略して称することがある)とする。なお、測定に使用する測定液は温度25℃に調整し、25℃の純水を散乱強度のブランクとして用いる。なお、測定対象となる粒子の製造メーカーや商社などにより粒子径がウェブページやカタログなどに記載されている場合には、該粒子径を一次粒子の平均粒子径(D50)とみなすことができる。
【0047】
繊維構造体に担持されている無機粒子の質量は特に限定されるべきものではないが、0.1g/m2以上であることができ、0.5g/m2以上であることができ、1g/m2以上であることができる。一方、担持質量の上限値は適宜調整できるが、20g/m2以下であるのが現実的である。
【0048】
上述のような無機粒子が担持された繊維構造体を備える電気化学素子用セパレータは、最大孔径および最小孔径が小さいと共に、狭い孔径分布を有するものとなる傾向がある。そのため、より電気出力特性に優れる電気化学素子を実現可能な、電気化学素子用セパレータを提供できる。
【0049】
本発明に係る電気化学素子用セパレータにおいて、バインダ成分は繊維構造体の主面に無機粒子を担持する役割を担う。なお、バインダ成分によって担持されている無機粒子は、繊維構造体における一方の主面上のみに存在している態様のみに限定されず、加えて主面および繊維構造体を構成する繊維同士がなす空隙にバインダ成分を介し無機粒子が存在する態様であっても良い。
【0050】
また、繊維構造体における一方の主面に加え、繊維構造体におけるもう一方の主面にも、バインダ成分によって無機粒子が担持されていても良い。
【0051】
本発明にかかるバインダ成分は、ゲル電解質を構成可能な樹脂を含んでいる。本発明でいう「ゲル電解質を構成可能な樹脂」とは当該樹脂の特徴を表現したものであり、燃料電池の電解質膜を構成可能な樹脂など、電気化学素子を調製する際に使用される周知の電解液を、吸収し保持できる樹脂を指す。ゲル電解質を構成可能な樹脂の種類は適宜選択可能であるが、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリエチレンオキサイド系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリメタクリル酸メチル系樹脂を例示できる。
【0052】
本発明でいうポリフッ化ビニリデン系樹脂とは、構造中に‐(CH2CF2)‐構造を備えるポリマーを指す。なお、当該構造が連続して構成されているホモポリマーであっても、他の構造と共重合してなる共重合体であってもよい。以降、ポリフッ化ビニリデン系樹脂をPVDFと称することがある。PVDFとして、例えばPVDF‐HFP(HFP構造との共重合体樹脂)、PVDF‐CTFE(CTFE構造との共重合体樹脂)、PVDFのホモポリマーなどを採用できる。
【0053】
PVDFの分子量は適宜選択でき、分子量が38万よりも高いPVDFを採用でき、分子量が57万以上のPVDFを採用でき、分子量が75万以上のPVDFを採用できる。本発明でいう分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィーに基づき測定した値である。なお、カタログや論文などに採用する樹脂の分子量が記載されている場合には、その分子量を当該樹脂の分子量とみなす。
【0054】
PVDFは、例えばポリエチレンオキサイド系樹脂よりも軟化温度が高いなど、耐熱性に優れている。そのため、バインダ成分がPVDFを含んでいることで、熱安定性に富むと共に短絡し難い電気化学素子を提供可能な電気化学素子用セパレータを提供できる。また、電気化学素子用セパレータの製造工程において加熱雰囲気下にあっても、意図せず軟化や溶融し難いことで、主面にPVDFが被膜状に存在し難い。そのため、電気化学素子用セパレータの通気度が低下するのを防止して、より電気出力特性に優れる電気化学素子を実現可能な、電気化学素子用セパレータを提供できる。
なお、バインダ成分に含まれるPVDFの種類は、一種類あるいは複数種類であってもよい。
【0055】
本発明でいうポリエチレンオキサイド系樹脂(以降、PEOと省略することがある)とは、構造中に‐(CH2CH2O)‐構造を備えるポリマーを指す。なお、当該構造が連続して構成されているホモポリマーであっても、他の構造と共重合してなる共重合体であってもよい。PEOの分子量は適宜選択でき、分子量が38万よりも高いPEOを採用でき、分子量が57万以上のPEOを採用でき、分子量が75万以上のPEOを採用できる。
【0056】
本発明でいうポリアクリロニトリル系樹脂とは、構造中に‐(CH2CHCN)‐構造を備えるポリマーを指す。なお、当該構造が連続して構成されているホモポリマーであっても、他の構造と共重合してなる共重合体であってもよい。ポリアクリロニトリル系樹脂の分子量は適宜選択でき、分子量が38万よりも高いポリアクリロニトリル系樹脂を採用でき、分子量が57万以上のポリアクリロニトリル系樹脂を採用でき、分子量が75万以上のポリアクリロニトリル系樹脂を採用できる。
【0057】
本発明でいうポリメタクリル酸メチル系樹脂とは、構造中に‐(CH2C(COOCH3)CH3)‐構造を備えるポリマーを指す。なお、当該構造が連続して構成されているホモポリマーであっても、他の構造と共重合してなる共重合体であってもよい。ポリメタクリル酸メチル系樹脂の分子量は適宜選択でき、分子量が38万よりも高いポリメタクリル酸メチル系樹脂を採用でき、分子量が57万以上のポリメタクリル酸メチル系樹脂を採用でき、分子量が75万以上のポリメタクリル酸メチル系樹脂を採用できる。
【0058】
バインダ成分に含まれるゲル電解質を構成可能な樹脂の種類は、一種類あるいは複数種類であってもよい。しかし、電解液を吸収し保持する機能に優れることから、ゲル電解質を構成可能な樹脂としてPVDFおよび/またはPEOを採用するのが好ましく、更に耐熱性に優れていることから、ゲル電解質を構成可能な樹脂としてPVDFを採用するのがより好ましい。特に、ゲル電解質を構成可能な樹脂としてPVDFのみを採用するのが好ましい。
【0059】
バインダ成分に含まれるゲル電解質を構成可能な樹脂の割合は適宜調整できるが、後述する、比表面積の小さい主面側に存在する電解液の量が低下するのを防止でき、よりハイレート放電に優れるなど電気出力特性に優れる電気化学素子を実現可能な、電気化学素子用セパレータを提供できるという効果が効果的に発揮されるように、バインダ成分はゲル電解質を構成可能な樹脂のみで構成されているのが好ましい。繊維構造体に無機粒子を担持するバインダ成分の質量は適宜調整するが、0.001~20g/m2であることができ、0.005~15g/m2であることができ、0.01~10g/m2であることができる。
【0060】
なお、繊維構造体における一方の主面へ、ゲル電解質を構成可能な樹脂を含んだバインダ成分を付与することで、バインダ成分を付与した主面側に存在する前記樹脂の量が、もう一方の主面側に存在する前記樹脂の量よりも多い、繊維構造体を備えた電気化学素子用セパレータを調製できる。また、繊維構造体における一方の主面側に存在する前記樹脂の量と、もう一方の主面側に存在する前記樹脂の量は、繊維構造体の両主面を撮影した電子顕微鏡写真を用いて、確認し比較できる。
【0061】
電気化学素子用セパレータの、例えば、厚さや目付ならびに空隙率などの諸構成は、ハイレート放電に優れるなど電気出力特性に優れる電気化学素子を実現可能となるよう適宜調整する。目付は、5~50g/m2であることができ、8~45g/m2であることができ、10~40g/m2であることができる。また、厚さは、8~100μmであることができ、9~60μmでことができ、10~30μmであることができる。また、空隙率は、20%以上であることができ、30%以上であることができ、40%以上であることができる。
【0062】
なお、本発明でいう「空隙率(P)」(単位:%)は次の式から得られる値をいう。
P=100‐(Fr1+Fr2+・・+Frn)
ここで、Frnは電気化学素子用セパレータを構成する各種成分nの充填率(単位:%)を示し、次の式から得られる値をいう。
Frn={(M×Prn)/(T×SGn)}×100
ここで、Mは電気化学素子用セパレータの目付(単位:g/cm2)、Tは電気化学素子用セパレータの厚さ(単位:cm)、Prnは電気化学素子用セパレータが有する各種成分nの存在質量比率、SGnは各種成分nの比重(単位:g/cm3)をそれぞれ意味する。
【0063】
次に、本発明に係る電気化学素子用セパレータの製造方法について、一製造例を挙げ説明する。なお、上述した項目と構成を同じくする点については説明を省略する。
【0064】
電気化学素子用セパレータの製造方法は適宜選択することができるが、一例として、
(1)構成繊維にステープル繊維の短繊維を含む布帛を用意する工程、
(2)前記布帛の一方の主面上に、パルプ状繊維を含んだ抄紙液を抄き上げることで、前記布帛へパルプ状繊維の一部を入り込ませ、前記布帛の一方の主面上にパルプ状繊維を含む第一繊維層部分を形成する工程、
(3)前記布帛の一方の主面上に前記第一繊維層部分を備えた積層体から、前記抄紙液の分散媒を除去して、繊維構造体を調製する工程、
(4)前記繊維構造体における比表面積が小さい方の主面(布帛由来の主面)に、ゲル電解質を構成可能な樹脂を含んだバインダ成分と無機粒子とを含んだ分散液を付与する工程、
(5)前記分散液を付与した前記繊維構造体から、前記分散液の分散媒を除去する工程、
を備える電気化学素子用セパレータの製造方法を用いることができる。
【0065】
工程(2)において、パルプ状繊維を含んだ抄紙液の分散媒は水など周知のものから適宜選択できるものであり、分散剤および/または活性剤が入った分散媒を使用できる。抄紙液を布帛の一方の主面上に流し込み抄き上げるが、その際、布帛のもう一方の主面側にサクション装置を設けることで、分散媒を吸引除去してもよい。
【0066】
工程(3)において、積層体から分散媒を除去する方法は適宜選択するが、例えば、積層体から分散媒を吸引あるいは吹き飛ばすことで除去する方法、前述した加熱機へ供することで積層体から分散媒を除去する方法、室温環境下や減圧環境下に放置することで積層体から分散媒を除去する方法、フェルトなど吸水性を有する布帛に分散媒を吸収させることで積層体から分散媒を除去する方法などを用いることができる。なお、積層体が接着剤や接着繊維などの接着成分を備えている場合、本工程において加熱機へ供することで接着成分を溶融させ、繊維同士を接着してもよい。
【0067】
工程(4)において、分散液の分散媒は水など周知のものから適宜選択できる。また、分散液中におけるバインダ成分の存在態様は適宜選択できるが、分散媒に溶解している態様であっても、粒子状の形状をなし分散媒中で分散している態様であってもよい。繊維構造体における比表面積が小さい主面へ分散液を付与する方法は適宜選択でき、当該主面に分散液をスプレーする方法、グラビアロールを用いたキスコータ法などの塗工方法を用いて当該主面に分散液を塗工する方法などを採用できる。
【0068】
工程(5)において、積層体から分散媒を除去する方法は適宜選択でき工程(3)で述べた方法を採用できる。特に、前述した加熱機へ供する方法を採用すると共に当該加熱機による加熱処理によってバインダ成分を軟化や融解あるいは架橋させることで、バインダ成分により繊維構造体における一方の主面に無機粒子を担持できる。この時の加熱温度は適宜調整するが、80℃以上であることができる。なお、加熱温度の上限値は適宜調整するが、構成繊維などが意図せず融解あるいは軟化するのを防止できるよう、150℃以下であるのが望ましい。
【0069】
このようにして調製した電気化学素子用セパレータをそのまま用いて電気化学素子を調製できるが、必要であれば、電気化学素子用セパレータに別途補強層などの部材を設けて電気化学素子を調製してもよい。
【0070】
また、繊維構造体あるいは電気化学素子用セパレータは、電解液の保持性を付与又は向上させるために、親水化処理工程へ供してもよい。この親水化処理工程としては、例えば、スルホン化処理、フッ素ガス処理、ビニルモノマーのグラフト重合処理、界面活性剤処理、放電処理、あるいは親水性樹脂付与処理などを挙げることができる。
【0071】
さらに、電気化学素子用セパレータを、使用する電気化学素子の形状に合わせて形状を打ち抜く、巻回形状を取り得るように加工するなどの、各種二次工程へ供してもよい。
【実施例】
【0072】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。また、各種測定方法は以下の通り行った。
【0073】
(引張強度と引張伸度の測定方法)
電気化学素子用セパレータから、機械方向(製造時の流れ方向)と長さ方向が一致するようにして、試験片(形状:長方形、長さ:200mm、幅:50mm)を採取した。そして、採取した試験片を、定速伸長型引張試験機(オリエンテック社製、テンシロン、初期つかみ間隔:100mm、引張速度:300mm/分)へ供し、試料片が破断するまで引っ張った時の強度から引張強度(N/50mm)を求めた。
【0074】
また、試料片が破断するまで引っ張った時の、測定された試験片の最大荷重時のつかみ間隔(mm)の長さを以下の数式へ代入することで、試験片の引張伸度(%)を算出した。
【0075】
a={(b‐c)/c}×100
a:引張伸度(%)
b:最大荷重時のつかみ間隔(mm)
c:初期つかみ間隔(100mm)
【0076】
(ガーレ値の測定方法)
電気化学素子用セパレータから試験片を採取し、「JIS P8117:2009(紙及び板紙‐透気度及び透気抵抗度試験方法(中間領域)‐ガーレ法)a)ガーレ試験機法」において規定されている方法へ供することで、ガーレ値(sec/100cc)を算出した。
なお、一般的にこのガーレ値が低い電気化学素子用セパレータであるほど、通イオン特性に優れ内部抵抗が低いことで、電気出力特性に優れるリチウムイオン二次電池を提供可能な電気化学素子用セパレータであることを意味する。
【0077】
(12C放電容量の測定方法)
(1)正極の作成
コバルト酸リチウム粉末87質量部とアセチレンブラック6質量部、及びポリフッ化ビニリデン7質量部を、N‐メチル‐ピロリドンに溶解させ、ポリフッ化ビニリデン濃度が13質量%の正極剤ペーストを作製した。次いで、このペーストを厚さ20μmのアルミ箔に塗布し、乾燥した後にプレスして、厚さ90μmの正極を作製した。
(2)負極の作成
負極活物質として天然黒鉛粉末90質量部とポリフッ化ビニリデン10質量部を、N‐メチル‐ピロリドンに溶解させ、ポリフッ化ビニリデン濃度が13質量%の負極剤ペーストを作製した。このペーストを厚さ15μmの銅箔上に塗布し、乾燥した後にプレスして、厚さ70μmの負極を作製した。
(3)非水系電解液の用意
非水系電解液として、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合溶媒(比率=50質量%:50質量%)に、LiPF6を溶解させた1mol/L溶液(キシダ化学(株)製)を用意した。
(4)リチウムイオン二次電池の作製
コイン型セルに負極(直径:12mm)、電気化学素子用セパレータ(直径:16mm、無機粒子塗布側が正極と対面する)、正極(直径:12mm)の順に積層した後、非水電解液を注液し、リチウムイオン二次電池をそれぞれ作製した。なお、正極と負極の質量比率は1:1.1とした。上述のようにして、電気化学素子用セパレータを用いて、各リチウムイオン二次電池を各々3個ずつ作製した。
作製した各リチウムイオン二次電池のそれぞれの容量をCと表した場合に、0.2Cで表される充電速度で4.2Vまで充電した後、15分間放置し、その後、放電速度12Cにおいて電圧が3.0Vになるまで放電した。この時の、各リチウムイオン二次電池の放電速度12Cにおける放電容量を測定した。この測定を、各3個のリチウムイオン二次電池において行ない、得られた各値の算術平均値を算出し放電容量(mAh)を求めた。
なお、この放電容量が高い電気化学素子用セパレータであるほど、電気出力特性に優れるリチウムイオン二次電池を提供可能な電気化学素子用セパレータであることを意味する。
【0078】
(繊維構造体1~2の調製)
ポリエチレンテレフタレート短繊維(繊維長:3mm、繊度:0.2d)を湿式抄造してなる繊維ウェブを、表面温度を180℃に調整したヒートロールへ供することで加熱加圧して、ポリエチレンテレフタレート短繊維を結晶化させると共に、融解させることなくポリエチレンテレフタレート短繊維同士を繊維接着させて、湿式不織布(厚さ:10μm、目付:5.5g/m2)を調製した。
次いで、ポリエチレンテレフタレート短繊維(繊維長:3mm、繊度:0.2d)とアラミド樹脂のパルプ状繊維(濾水度:50mlCSF)を、ポリエチレンテレフタレート短繊維:アラミド樹脂のパルプ状繊維=20質量%:80質量%の比率で含んだ抄紙液を調製した。
そして、湿式不織布の一方の主面上に抄紙液を抄き上げた後、湿式不織布における抄紙液を抄き上げた側と反対側の主面から抄紙液に含まれる分散媒をサクションして除去することで、湿式不織布の一方の主面上に、ポリエチレンテレフタレート短繊維とアラミド樹脂のパルプ状繊維が混合してなる繊維堆積層を備えた積層ウェブを調製した。
続いて、積層ウェブを温度145℃の雰囲気下に曝すことで熱処理し、積層ウェブから残留する分散媒を除去し乾燥させた。その後、表面温度を180℃に調整したヒートロールを用いて加熱加圧して、ポリエチレンテレフタレート短繊維を結晶化させると共に、融解させることなくポリエチレンテレフタレート短繊維同士およびポリエチレンテレフタレート短繊維とアラミド樹脂のパルプ状繊維を繊維接着させて、繊維構造体1(厚さ:18μm、目付:10.5g/m2)を調製した。
【0079】
また、湿式不織布の一方の主面上に抄き上げる抄紙液を少なくしたこと以外は同様にして、繊維構造体2(厚さ:20μm、目付:8.5g/m2)を調製した。
【0080】
なお、上述のようにして調製した各繊維構造体は、いずれも、繊維堆積層を構成する短繊維および/またはパルプ状繊維の一部が、湿式不織布由来の繊維層が露出している主面(主面A)上に露出するまで、湿式不織布由来の繊維層へ深く入り込んでいる態様であった。そして、各繊維構造体では、湿式不織布における抄紙液を抄き上げた側と反対側の主面(主面A)の比表面積は、繊維構造体におけるもう一方の主面の比表面積よりも小さいものであった。
【0081】
(分散液1~4の調製)
純水中にシリカ粒子(D50:450nm)を加え、ディスパータイプの攪拌翼を用いて混合した。そして、混合後に粒子形状のバインダ成分を加えて攪拌を続け、分散液1~4(液温:25℃、固形分濃度:27質量%)を調製した。
分散液中の固形分質量の組成は以下の通りであった。
分散液1・・・シリカ粒子:97質量部、ポリアクリル酸樹脂:3質量部
分散液2・・・シリカ粒子:97質量部、PVDF:3質量部
分散液3・・・シリカ粒子:92質量部、PVDF:8質量部
分散液4・・・シリカ粒子:92質量部、PEO:8質量部
なお、各バインダ成分の詳細は以下の通りであった。
・ポリアクリル酸樹脂:ゲル電解質を構成可能な樹脂ではない。
・PVDF:ポリフッ化ビニリデンとアクリルの共重合体、ゲル電解質を構成可能な樹脂である。
・PEO:ポリエチレンオキサイドのホモポリマー、ゲル電解質を構成可能な樹脂である。
【0082】
(比較例1)
繊維構造体1における主面Aに、グラビアロールを用いて分散液1を付与した。その後、乾燥機へ供することで分散液の分散媒を除去すると共に、バインダ成分によって繊維構造体における一方の主面にシリカ粒子を担持させ、電気化学素子用セパレータを調製した。
【0083】
(実施例1)
分散液2を用いたこと以外は、比較例1と同様にして、バインダ成分によって繊維構造体における一方の主面にシリカ粒子が担持してなる、電気化学素子用セパレータを調製した。
【0084】
(実施例2~3)
付与する分散液の量を少なくしたこと以外は、実施例1と同様にして、バインダ成分によって繊維構造体における一方の主面にシリカ粒子が担持してなる、電気化学素子用セパレータを調製した。
【0085】
なお、調製したいずれの電気化学素子用セパレータにおいても、繊維構造体における一方の主面側(主面A側)に存在するシリカ粒子とバインダ成分の量が、もう一方の主面側に存在するシリカ粒子とバインダ成分の量よりも多いものであった。
【0086】
上述のようにして調製した電気化学素子用セパレータの各種物性を測定し、表1にまとめた。なお、備えていない構成については表中に「‐」を記載した。
【0087】
【0088】
比較例1と実施例1とを比較した結果から、バインダ成分にゲル電解質を構成可能な樹脂を採用することによって、12C放電容量に富む電気化学を実現できることが判明した。また、調製した実施例1~3の電気化学素子用セパレータはいずれも、12C放電容量に富む電気化学を実現できることが判明した。
【0089】
(実施例4~7)
繊維構造体2における主面Aに、グラビアロールを用いて分散液2を付与した。その後、乾燥機へ供することで分散液の分散媒を除去すると共に、バインダ成分によって繊維構造体における一方の主面にシリカ粒子を担持させ、電気化学素子用セパレータを調製した。
なお、各実施例においては付与する分散液の量を変更した。
【0090】
調製したいずれの電気化学素子用セパレータにおいても、繊維構造体における一方の主面側(主面A側)に存在するシリカ粒子とバインダ成分の量が、もう一方の主面側に存在するシリカ粒子とバインダ成分の量よりも多いものであった。
【0091】
上述のようにして調製した電気化学素子用セパレータの各種物性を測定し、表2にまとめた。なお、備えていない構成については表中に「‐」を記載した。
【0092】
【0093】
調製した実施例4~7の電気化学素子用セパレータはいずれも、12C放電容量に富む電気化学を実現できることが判明した。
【0094】
(実施例8)
繊維構造体2における主面Aに、グラビアロールを用いて分散液3を付与した。その後、乾燥機へ供することで分散液の分散媒を除去すると共に、バインダ成分によって繊維構造体における一方の主面にシリカ粒子を担持させ、電気化学素子用セパレータを調製した。
【0095】
(実施例9)
繊維構造体2における主面Aに、グラビアロールを用いて分散液4を付与した。その後、乾燥機へ供することで分散液の分散媒を除去すると共に、バインダ成分によって繊維構造体における一方の主面にシリカ粒子を担持させ、電気化学素子用セパレータを調製した。
【0096】
(実施例10)
繊維構造体1における主面Aに、グラビアロールを用いて分散液4を付与した。その後、乾燥機へ供することで分散液の分散媒を除去すると共に、バインダ成分によって繊維構造体における一方の主面にシリカ粒子を担持させ、電気化学素子用セパレータを調製した。
【0097】
調製したいずれの電気化学素子用セパレータにおいても、繊維構造体における一方の主面側(主面A側)に存在するシリカ粒子とバインダ成分の量が、もう一方の主面側に存在するシリカ粒子とバインダ成分の量よりも多いものであった。
【0098】
上述のようにして調製した電気化学素子用セパレータの各種物性を測定し、表3にまとめた。なお、備えていない構成については表中に「‐」を記載した。
【0099】
【0100】
調 製した実施例8~10の電気化学素子用セパレータはいずれも、12C放電容量に富む電気化学を実現できることが判明した。
【0101】
しかし、実施例8~10で調製した電気化学素子用セパレータにおける、分散液を付与した側の主面(主面A由来の主面)を確認したところ、実施例9(加えて、実施例10)では当該主面にPEOが被膜状に存在していた。一方、実施例8では当該主面にPVDFは被膜状に存在するものではなかった。そのため、実施例9の電気化学素子用セパレータは、実施例8の電気化学素子用セパレータよりもガーレ値が劣り、12C放電容量を低下させる原因になったと考えられた。
この問題が発生した理由として、PEOは耐熱性に劣り加熱雰囲気下で意図せず軟化あるいは溶融して、被膜状に変形したためだと考えられる。この点から、バインダ成分として耐熱性に富むPVDFを採用することで、より12C放電容量に富むなど電気出力特性に優れる電気化学を実現できることが判明した。
【0102】
以上から、本発明にかかる電気化学素子用セパレータによって、電気出力特性に優れる電気化学素子を提供できることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の電気化学素子用セパレータは、例えば、一次電池(たとえばリチウム電池、マンガン電池、マグネシウム電池など)、および二次電池(例えば、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、亜鉛電池、レドックスフロー電池など)、キャパシタ、燃料電池などの電気化学素子用の、電極間を隔離する電気化学素子用セパレータとして水系、非水系問わずに使用できる。